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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】分子の細胞内送達のための複合体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20240826BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240826BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240826BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240826BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240826BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240826BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240826BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240826BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240826BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240826BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240826BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240826BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240826BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20240826BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240826BHJP
   C12N 9/50 20060101ALN20240826BHJP
   C07K 14/11 20060101ALN20240826BHJP
   C07K 14/16 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P1/16
A61P9/10
A61P29/00
A61P25/28
A61K48/00
A61K47/64
A61K47/69
C12N15/113 Z
C12N9/50
C07K14/11
C07K14/16
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2022501316
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 CN2020101424
(87)【国際公開番号】W WO2021004539
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】201910624609.9
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】504458976
【氏名又は名称】厦▲門▼大学
(73)【特許権者】
【識別番号】520479892
【氏名又は名称】厦門万泰滄海生物技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】XIAMEN INNOVAX BIOTECH CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葛 勝 祥
(72)【発明者】
【氏名】于 思 遠
(72)【発明者】
【氏名】楊 ▲ハン▼
(72)【発明者】
【氏名】潘 海 峰
(72)【発明者】
【氏名】任 書 玲
(72)【発明者】
【氏名】李 廷 棟
(72)【発明者】
【氏名】郭 清 順
(72)【発明者】
【氏名】熊 君 輝
(72)【発明者】
【氏名】張 軍
(72)【発明者】
【氏名】夏 寧 邵
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第101481422(CN,B)
【文献】国際公開第2016/050934(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/143026(WO,A1)
【文献】特表2005-527210(JP,A)
【文献】Adv. Mater., 2018, Vol.30, 1705383
【文献】Journal of Controlled Release, 2011, Vol.151, pp.220-228
【文献】PLOS ONE, 2013, Vol.8, No.7, e70108
【文献】BMC Cancer,2011年,11:61
【文献】Antimicrobial Agents and Chemotherapy,2016年,Vol.60, No.11,pp.6532-6539
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
C07K 19/00
C12N 15/63
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12P 21/02
A61P 1/16
A61P 9/10
A61P 29/00
A61P 25/28
A61K 48/00
A61K 47/64
A61K 47/69
A61K 38/46
C12N 15/113
C12N 9/50
C07K 14/11
C07K 14/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞透過性ペプチド、pH感受性融合ペプチド、およびプロテアーゼ認識配列を含む融合タンパク質であって、
前記プロテアーゼ認識配列がフーリン認識配列及びカテプシンL認識配列を含む、融合タンパク質。
【請求項2】
前記フーリン認識配列がR-X-X-R(配列番号1)、R-R-X-X-R(配列番号2)、配列番号3に示す配列又は配列番号4に示す配列を含み、Xが任意のアミノ酸であり、XがKまたはRである、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記カテプシンL認識配列が、配列番号6に示す配列を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記プロテアーゼ認識配列が配列番号4に示す配列および配列番号6に示す配列を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記pH感受性融合ペプチドがHA2、INF7、KALA、GALA、メリチン、およびこれらの任意の組合せから選択される、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記pH感受性融合ペプチドがINF7又は配列番号8に示す配列を含む、請求項5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記細胞透過性ペプチドが、ペネトラチン、Tat由来ペプチド、Rev(34-50)、VP22、トランスポータン、Pep-1、Pep-7、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記細胞透過性ペプチドが、Tat(48-60)若しくはTat(47-57)を含む、又は、配列番号10に示す配列を含む、請求項7に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記融合タンパク質が、N末端からC末端へと、前記pH感受性融合ペプチド、前記細胞透過性ペプチド、および前記プロテアーゼ認識配列を含むか、または前記融合タンパク質が、N末端からC末端へと、前記細胞透過性ペプチド、前記pH感受性融合ペプチド、および前記プロテアーゼ認識配列を含み、かつ
前記プロテアーゼ認識配列が、N末端からC末端へと、前記フーリン認識配列および前記カテプシンL認識配列を含むか、またはN末端からC末端へと、前記カテプシンL認識配列および前記フーリン認識配列を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
前記融合タンパク質が、配列番号12から14のいずれか1つに示す配列を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
前記融合タンパク質が特異的結合配列をさらに含み、前記特異的結合配列は、別の分子がそれに特異的に結合するのを可能にする、請求項1から10のいずれか1項に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
(i)前記特異的結合配列が、その相補ペプチドとヘテロ二量体を形成することができるロイシンジッパーペプチドを含むか、
(ii)前記特異的結合配列がロイシンジッパーNZまたはCZを含むか、
(iii)前記特異的結合配列が配列番号49または50に示す配列を含むか、あるいは
(iv)前記特異的結合配列が前記プロテアーゼ認識配列のC末端に位置する、請求項11に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の融合タンパク質と、カーゴ分子とを含む複合体。
【請求項14】
(i)前記カーゴ分子が、核酸、ペプチドまたはタンパク質、炭水化物、脂質、化学化合物、およびこれらの任意の混合物からなる群から選択されるか、
(ii)前記カーゴ分子が、検出可能な標識を含むか、あるいは
(iii)前記カーゴ分子がエピトープタグ、レポーター遺伝子配列、および/または核移行シグナル(NLS)配列を含む、請求項13に記載の複合体。
【請求項15】
(i)前記融合タンパク質が前記カーゴ分子と融合しており、前記カーゴ分子がペプチドまたはタンパク質であるか、
(ii)前記融合タンパク質が前記カーゴ分子に化学的にカップリングしているか、
(iii)前記融合タンパク質が前記カーゴ分子に非共有結合的に接続しているか、あるいは
(iv)前記融合タンパク質と前記カーゴ分子が、静電相互作用によってコンジュゲートしている、請求項13に記載の複合体。
【請求項16】
前記融合タンパク質が請求項11又は12に記載の融合タンパク質であり、前記カーゴ分子が、前記融合タンパク質中の前記特異的結合配列に特異的に結合することができるドメインを含む、請求項13に記載の複合体。
【請求項17】
前記融合タンパク質中の前記特異的結合配列がロイシンジッパーペプチドを含み、前記カーゴ分子が、前記ロイシンジッパーペプチドの相補ペプチドを含み、それにより、前記ロイシンジッパーペプチドと前記相補ペプチドがヘテロ二量体を形成することができる、請求項16に記載の複合体。
【請求項18】
請求項1から12のいずれか1項に記載の融合タンパク質と、カーゴ分子とを含む組成物。
【請求項19】
請求項11又は12に記載の融合タンパク質を含み、前記カーゴ分子が、前記融合タンパク質中の前記特異的結合配列に特異的に結合することができるドメインを含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記融合タンパク質中の前記特異的結合配列がロイシンジッパーペプチドを含み、前記カーゴ分子が、前記ロイシンジッパーペプチドの相補ペプチドを含み、それにより、前記ロイシンジッパーペプチドと前記相補ペプチドがヘテロ二量体を形成することができる、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
請求項1から12のいずれか1項に記載の融合タンパク質、または、
前記融合タンパク質及びカーゴ分子を含む複合体若しくは組成物であって、前記カーゴ分子がペプチド又はタンパク質である、複合体若しくは組成物、
をコードするヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子。
【請求項22】
請求項21に記載の単離された核酸分子を含む、ベクター。
【請求項23】
請求項21に記載の単離された核酸分子または請求項22に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項24】
請求項1から12のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項13から17のいずれか1項に記載の複合体、請求項18から20のいずれか1項に記載の組成物、請求項21に記載の単離された核酸分子、請求項22に記載のベクター、または請求項23に記載の宿主細胞と、薬学的に許容される担体および/または添加剤とを含む医薬組成物。
【請求項25】
請求項13から17のいずれか1項に記載の複合体を含み、前記カーゴ分子が医薬活性剤または検出可能な標識である、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
医薬の製造における、請求項1から12のいずれか1項に記載の融合タンパク質、または前記融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子、ベクター、もしくは宿主細胞の使用。
【請求項27】
疾患を治療するための医薬の製造における、請求項13から17のいずれか1項に記載の複合体、または請求項18から20のいずれか1項に記載の組成物の使用であって、前記複合体または前記組成物中に含有される前記カーゴ分子が、前記疾患を治療することができる、使用。
【請求項28】
前記疾患がプログラム細胞壊死に関連する疾患であり、前記カーゴ分子がプロテインホスファターゼ1Bを含み、
プログラム細胞壊死に関連する前記疾患が、肝損傷、炎症性疾患、虚血-再灌流傷害、および/または神経変性疾患を含む、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
請求項1から12のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項13から17のいずれか1項に記載の複合体、請求項18から20のいずれか1項に記載の組成物、請求項21に記載の単離された核酸分子、請求項22に記載のベクター、または請求項23に記載の宿主細胞を含むキットであって、
トランスフェクションおよび/または細胞内送達のための説明書をさらに含む、キット。
【請求項30】
請求項1から12のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項13から17のいずれか1項に記載の複合体、または請求項18から20のいずれか1項に記載の組成物の、インビトロにおける又は非ヒト細胞に対する送達剤としての使用。
【請求項31】
細胞にカーゴ分子を送達するための方法であって、前記細胞を、インビトロで、請求項13から17のいずれか1項に記載の複合体と接触させるステップを含み、前記複合体が前記カーゴ分子を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、分子生物学の分野に関し、より詳細には、カーゴ分子の細胞内送達のための融合タンパク質および複合体に関する。
【0002】
発明の背景
選択的浸透性のある障壁である細胞膜は、細胞の生存および機能に必須である。小分子は、細胞の天然のプロセスまたは脂質二重層における直接的な拡散を介して細胞膜を通り抜けることができるが、ほとんどの場合、原形質膜を通る細胞内カーゴ、例えば外因性の活性生体高分子の有効な通路は、依然として、細胞輸送プロセスにおける大きな問題である。したがって、生きている細胞への細胞内カーゴの輸送効率を効果的に改善することができる分子輸送ツールは、生物医学および他の分野におけるその適用において極めて重要である。
【0003】
細胞透過性ペプチド(CPP)は、現在、細胞取り込みのプロセスを達成するのに使用される最も一般的で有効な担体のうちの1つである。細胞透過性ペプチドは、典型的には5から30個のアミノ酸を含有し、化学架橋結合、融合体発現、または非共有結合性の結合によって、生体高分子を、細胞膜を通して細胞内に運ぶことができる。これまでに、天然タンパク質由来または人工合成のCPPが何百も報告され、細胞内カーゴの細胞内送達に使用されており、それらの化学的性質によって3つのカテゴリーに分けられることができる。(1)陽イオン性CPP、これは、アルギニン残基およびリジン残基が豊富であり、生理的pHで強い正電荷を有する。(2)両親媒性CPP、これは、極性領域と無極性領域を含み、その配列全体に分布するリジンおよびアルギニンに加えて、バリン、ロイシン、イソロイシン、およびアラニンなどの疎水性残基も豊富である。(3)疎水性CPP、これは、主に無極性アミノ酸を含む。CPPは、その強い正電荷または疎水性基を介して、細胞膜表面上の負電荷または疎水性脂質二重層と相互作用する。小分子を運ぶときには、CPPは、エネルギーを消耗しない様式で、細胞膜を横切り直接的に移動するができ、生体高分子を運ぶときには、CPPは、基本的には、エネルギー依存的なエンドサイトーシスによって細胞に入る。CPP媒介の細胞侵入における用量が低いこと、輸送時間が短いこと、用量が制御可能であること、操作がシンプルなこと、毒性および副作用が小さいことなどの利点により、CPPは、現在、ポリペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、プラスミド、リポソームおよび金属イオン、小分子蛍光、ナノ粒子などを輸送するのに、インビトロおよびインビボで、広く用いられている。
【0004】
CPPは、生体高分子を輸送する上での利点を多く有するが、いくつかの限界がまだある。そのうち、解決すべき第1の問題は、その膜横断送達効率が低いことである。現在、細胞内カーゴが細胞内に輸送されるとき、CPPは、細胞膜表面と相互作用し、次いで、エンドサイトーシスを介して細胞に入ると一般に考えられている。細胞エンドサイトーシスは、そのエンドサイトーシスの機序により、マクロピノサイトーシス、クラスリン媒介エンドサイトーシス、カベオラ/脂質ラフト媒介エンドサイトーシス、およびクラスリン/カベオラ非依存性エンドサイトーシスという4つの主要なタイプに分けることができる。これらの様々なタイプのエンドサイトーシスのすべては、最終的にエンドソームを生み出し、初期エンドソームから後期エンドソームへの成熟には、エンドソーム内pHの漸減が伴い、最終的にエンドソームはリソソームと融合する。リソソームに入る前に、細胞内カーゴがエンドソームから脱出して細胞質に入る必要がある。そうでなければ、細胞内カーゴは、最終的にリソソームに入り、分解され、機能できない。エンドソームからの脱出に成功できるのは、CPPによって運ばれる生体高分子のわずか1%であり、CPPによって運ばれる生体高分子のほとんどは、最終的にリソソームに移され、分解されることが、研究により示されている。したがって、細胞内カーゴの脱出は、CPPの細胞内送達プロセスにおける鍵となる制限因子であり、その効率が全体的な送達効率を決定する。
【0005】
エンドソームからの脱出効率を改善するための主な戦略は、その内容物(送達されることになっている細胞内カーゴを含む)が細胞質に放出されるように、成熟および酸性化のプロセス中にエンドソーム膜の完全性を崩すことである。クロロキン、メチルアミン、および塩化アンモニウムなどの緩衝剤を系に添加して、エンドソームの貫通および破裂を物理的に促進することができると報告されているが、その強い細胞毒性が、その臨床用途の障害となっている。現在、最も有効な方法は、ウイルス、細菌、動物、植物またはヒトに由来するpH感受性融合ペプチドを用いることである。pH感受性融合ペプチドは、疎水性アミノ酸をある割合で含有し、その立体構造が低pHで激変する。CPP媒介エンドサイトーシスの後にエンドソームが成熟および酸性化するプロセス中に、ひとたびpH値が臨界点まで低下したならば、CPPにカップリングしたpH感受性融合ペプチドが立体構造変化を行い、エンドソーム膜の脂質二重層に結合し、それによって、リン脂質二重層膜の完全性を大きく乱し、それに孔を形成するか、エンドソーム膜を溶解させ、細胞質に送達されることになっている生体高分子を最終的に放出する。現在、最も一般的に用いられているpH感受性融合ペプチドは、インフルエンザウイルス赤血球凝集素抗原(以下HA2と称する)のステム領域からのペプチド、およびHA2をベースにして人工的に改変されており、それより低い毒性および良好な膜破壊作用を有するINF7であり、これらは両方とも、エンドソームから輸送されることになっているタンパク質分子の脱出効率を、それらをCPPおよびタンパク質分子と融合させた後に改善することができる。しかし、pH感受性融合ペプチドと融合したCPPに媒介された高分子細胞内送達におけるエンドソームからの脱出効率が実際に改善されている一方で、輸送されることになっている高分子のかなりの部分が依然としてエンドソーム内に残っている(例えば、輸送されることになっている高分子として蛍光タンパク質を用いた場合、明らかな点状の分布を見ることができる)。
【0006】
したがって、輸送されることになっている生体高分子の、エンドソームからの効率的な放出を達成する新しい送達系を開発する必要性が依然としてある。
【0007】
概要
多くの実験を行い、探究を繰り返した後、本願の発明者らは、驚くべきことに、送達担体として、pH感受性ペプチドと特定のプロテアーゼ認識配列の組合せを用いることによって、エンドソームからのカーゴ分子の放出を有意に改善することができ、それによって、カーゴ分子の細胞質送達効率が大幅に向上し、カーゴ分子が、それらの対応する生物学的機能を十分に発揮できることを見出した。これらの新知見に基づき、本発明者らは、高効率の細胞質送達を達成できる担体システムを開発した。
【0008】
融合タンパク質
したがって、本発明の第1の態様は、細胞透過性ペプチド、pH感受性融合ペプチド、およびプロテアーゼ認識配列を含み、プロテアーゼがフーリンプロテアーゼ(furin protease)および/またはリソソームシステインプロテアーゼから選択される、融合タンパク質を提供する。
【0009】
一部の実施形態では、フーリン認識配列が、以下の配列:R-X-X-R(配列番号1)を含むか、それからなり、配列中、Xは任意のアミノ酸であり、XはKまたはRであり、↓は切断部位を示す。
【0010】
あるいくつかの実施形態では、フーリン認識配列が以下の配列:R-R-X-X-R(配列番号2)を含むか、それからなる。
【0011】
あるいくつかの実施形態では、Xは、アラニン(A)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、グリシン(G)、アスパラギン酸(N)、ロイシン(L)、リジン(K)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、およびバリン(V)から選択される。
【0012】
あるいくつかの実施形態では、フーリン認識配列が以下の配列:RRHKR(配列番号3)を含むか、それからなる。
【0013】
あるいくつかの実施形態では、フーリン認識配列は以下の配列:QSVASSRRHKRFAGV(配列番号4)を含むか、それからなる。
【0014】
あるいくつかの実施形態では、リソソームシステインプロテアーゼが、カテプシンB、カテプシンC、カテプシンX、カテプシンS、カテプシンL、カテプシンD、またはカテプシンHから選択される。
【0015】
あるいくつかの実施形態では、リソソームシステインプロテアーゼがカテプシンLである。
【0016】
あるいくつかの実施形態では、カテプシンL認識配列は以下の配列:NNTHDLVGDVRLAGV(配列番号6)を含むか、それからなる。
【0017】
あるいくつかの実施形態では、プロテアーゼ認識配列がフーリン認識配列およびカテプシンL認識配列を含む。あるいくつかの実施形態では、プロテアーゼ認識配列が単鎖ポリペプチドであり、単鎖ポリペプチドが、N末端からC末端へと、フーリン認識配列およびカテプシンL認識配列を含むか、またはN末端からC末端へと、カテプシンL認識配列およびフーリン認識配列を含む。
【0018】
あるいくつかの実施形態では、プロテアーゼ認識配列がRRHKR(配列番号3)およびNNTHDLVGDVRLAGV(配列番号6)を含む。あるいくつかの実施形態では、プロテアーゼ認識配列が配列番号4および配列番号6を含む。
【0019】
本発明において、「pH感受性融合ペプチド」(pH-sensitive fusogenic peptide)および「pH感受性ペプチド」という用語は、互換的に使用され、エンドソーム膜との融合を促進するように、酸性条件(例えば、pH<6.5)下で立体構造変化を行うことができる一種のポリペプチドを指す。pH感受性ペプチドが細胞によって飲食(エンドサイトーシス)された後、エンドソームが成熟および酸性化するプロセス中に、ひとたびpHが臨界点に低下すれば、そのようなペプチドは、立体構造変化を行い、エンドソーム膜の脂質二重層と結合し、その結果、リン脂質二重層膜の完全性が大きく乱されるか、小さな孔を形成するか、エンドソーム膜の溶解を引き起こし、それによって、輸送された生体高分子を細胞質に放出する。そのようなポリペプチドは、当技術分野でよく知られており、例えば、Varkouhi、Amir K.ら、Journal of Controlled Release 151巻3号(2011):220~228ページ;Erazo-Oliveras A、Muthukrishnan N、Baker Rら、Pharmaceuticals、2012、5巻11号、1177~1209ページに記載されており、これらをすべて参照により本明細書に組み込む。
【0020】
本発明の融合タンパク質で使用することができるpH感受性ペプチドは、以下のタンパク質またはポリペプチドから選択するか、以下のタンパク質またはポリペプチドから得ることができる。
ウイルスタンパク質源由来:HA2(インフルエンザウイルス)およびその変異体KALA(GALA);ペントンベース(アデノウイルスまたはライノウイルス)、gp41(HIV)、L2(パピローマウイルス)、エンベロープタンパク質(ウエストナイルウイルス);
細菌タンパク質源由来:リステリオリジンO(LLO)、肺炎球菌ニューモリシン(PLO)、連鎖球菌ストレプトリジンO(SLO)、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素A、滋賀毒素、コレラ毒素;
植物タンパク質源由来:リシン、サポリン、ゲロニン;
ヒト/動物タンパク源由来:ヒトカルシトニン、線維芽細胞成長因子受容体、メリチン;
人工合成ペプチド:(R-Ahx-R)(4)AhxB、ペネトラチン(pAntp)、EB1、ウシプリオンタンパク質(bPrPp)、スイートアローペプチド(SAP)、ポリ(L-ヒスチジン)、プロリンリッチペプチド(プロリンリッチ)。
【0021】
あるいくつかの実施形態では、pH感受性融合ペプチドが、インフルエンザウイルスHA2(配列番号38)またはその変異体、メリチン(配列番号41)、およびこれらの任意の組合せから選択される。あるいくつかの実施形態では、インフルエンザウイルスHA2の変異体が、INF7(配列番号8)、KALA(配列番号39)、またはGALA(配列番号40)から選択される。
【0022】
あるいくつかの実施形態では、pH感受性融合ペプチドがINF7を含む。あるいくつかの実施形態では、pH感受性融合ペプチドが、以下の配列:配列番号8を含むか、それからなる。
【0023】
本発明において、「細胞透過性ペプチド(CPP)」という用語は、「タンパク質移行ドメイン(PTD)、「トロイの木馬ペプチド」、または「伝達ペプチド」などとも呼ばれており、様々な分子(例えば、タンパク質または核酸を含めた様々な高分子)の細胞取り込みを促進することができるポリペプチドを指す。そのようなポリペプチドは、当技術分野でよく知られており、例えば、Stewart KMら、Org Biomol Chem.2008 Jul 7、6巻13号、2242~55ページおよび中国特許出願:CN101490081A(これらをすべて参照により本明細書に組み込む)に記載されているか、当技術分野で知られている方法、例えば、米国特許出願:US2008/0234183に記載の方法によって得ることができ、これらは参照により本明細書に完全に組み込まれている。
【0024】
本発明の融合タンパク質で使用することができるCPPは、限定されるものではないが、以下のものを含む。陽イオンタイプ:ペネトラチン、HIV-TAT-47-57、34-50 HIV-1 Rev、FHVコート-35-49、オリゴアルギニン(R9-R12)、CCMV Gag-7-25、S413-PV、VP22、BP16、DPV3、DPV6、FAHコート、プロタミン1、ヒトcJun、Engrailed-2、Islet-1、HoxA-13、TP10など;両親媒性タイプ:トランスポータン、トランスポータン10、Pep-1、MPGα、MPGβ、CADY、Pepfect6、Pepfect14、Pepfect15、NickFect、Hel、sC18、pVEC、ARF(1-22)、YTA2、PAR1(パルミトイル-SFLLRN)、F2Pal10(パルミトイル-SFLLRN)、BprPp(1-30)、hLFペプチド(19-40)、ブフォリン2、クロタミン、アズリンp18、hCTペプチド(18-32)、S413-PVrevなど;疎水性タイプ:カポジ肉腫線維芽細胞成長因子、メガネカイマン(Caiiman crocodilus)のIg軽鎖のシグナル配列、インテグリンβ3断片、Grb2-SH2ドメイン、HIV-1 gp41(1-23)、HBV移行モチーフ、精子-卵融合タンパク質(89-111)、ヒトカルシトニン(9-32)、Pep-7、C105Y、K-FGFなど。
【0025】
加えて、本発明の融合タンパク質で使用されるCPPは、そのポリペプチド配列が、分子の細胞取り込みを促進するその生物活性を依然として保持している限り、上述のポリペプチド配列のいずれかと比較して、約60%、70%、80%、90%、95%、99%、または100%の配列同一性を有するポリペプチド配列から選択することもできる。
【0026】
あるいくつかの実施形態では、細胞透過性ペプチドが、ペネトラチン(配列番号42)、Tat由来ペプチド、Rev(34-50)(配列番号44)、VP22(配列番号45)、トランスポータン(配列番号46)、Pep-1(配列番号47)、Pep-7(配列番号48)、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される。あるいくつかの実施形態では、Tat由来ペプチドがTat(48-60)(配列番号10)またはTat(47-57)(配列番号43)から選択される。
【0027】
あるいくつかの実施形態では、細胞透過性ペプチドが、Tat(48-60)などのTat由来ペプチドを含む。あるいくつかの実施形態では、細胞透過性ペプチドが、以下の配列:配列番号10を含むか、それからなる。
【0028】
一部の実施形態では、本発明の融合タンパク質が、N末端からC末端へと、pH感受性融合ペプチド、細胞透過性ペプチド、およびプロテアーゼ認識配列を含む。あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質が、N末端からC末端へと、pH感受性融合ペプチド、細胞透過性ペプチド、フーリン認識配列、およびカテプシンL認識配列を含む。あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質が、N末端からC末端へと、pH感受性融合ペプチド、細胞透過性ペプチド、カテプシンL認識配列、およびフーリン認識配列を含む。
【0029】
他の実施形態では、本発明の融合タンパク質が、N末端からC末端へと、細胞透過性ペプチド、pH感受性融合ペプチド、およびプロテアーゼ認識配列を含む。あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質が、N末端からC末端へと、細胞透過性ペプチド、pH感受性融合ペプチド、フーリン認識配列、およびカテプシンL認識配列を含む。あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質が、N末端からC末端へと、細胞透過性ペプチド、pH感受性融合ペプチド、カテプシンL認識配列、およびフーリン認識配列を含む。
【0030】
あるいくつかの例示の実施形態では、融合タンパク質が、配列番号12~14から選択される配列を含むか、配列番号12~14のいずれか1つに示す配列からなる。
【0031】
あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質が、そのN末端にタンパク質タグをさらに含んでいてもよい。一部の実施形態では、タンパク質タグが可溶化効果を有する。あるいくつかの実施形態では、タンパク質タグがTrxA、SUMO、NusA、MBP、GSTから選択される。
【0032】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の融合タンパク質を基礎にして特異的結合配列をさらに含む融合タンパク質であって、特異的結合配列が、追加の分子(例えばポリペプチド、タンパク質、または核酸(例えば、DNA)など)がそれに特異的に結合するのを可能にする、融合タンパク質も提供する。本明細書で使用する場合、「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、ヘテロ二量体を形成する、2個の分子の間のランダムではない結合反応、例えば、抗体(またはその抗原結合性断片)とそれが向けられた抗原(またはエピトープ)の間の反応など、または2つのアミノ酸配列(例えば、2つの逆平行ロイシンジッパードメイン)間の反応を指す。
【0033】
あるいくつかの実施形態では、特異的結合配列がロイシンジッパーペプチドを含み、ロイシンジッパーペプチドがその相補ペプチドとヘテロ二量体を形成することができる。あるいくつかの実施形態では、特異的結合配列がロイシンジッパーNZまたはCZを含む。ロイシンジッパーNZとCZは、互いに相補ペプチドであり、この二者の間には強い相互作用があり、それにより、逆平行ロイシンジッパーNZおよびCZは、ヘテロ二量体を形成することができることが当技術分野で知られている。あるいくつかの実施形態では、ロイシンジッパーNZが、配列番号49に示す配列を含む。あるいくつかの実施形態では、ロイシンジッパーCZが、配列番号50に示す配列を含む。
【0034】
一部の実施形態では、特異的結合配列が、配列番号49に示す配列を含む。他の実施形態では、特異的結合配列が、配列番号50に示す配列を含む。
【0035】
あるいくつかの実施形態では、特異的結合配列がプロテアーゼ認識配列のC末端に位置する。あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質がそのC末端に特異的結合配列を含む。
【0036】
あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質がそのN末端にタンパク質タグをさらに含むことができる。一部の実施形態では、タンパク質タグが可溶化効果を有する。あるいくつかの実施形態では、タンパク質タグがTrxA、SUMO、NusA、MBP、GSTから選択される。
【0037】
融合タンパク質の調製
本発明の融合タンパク質が、当技術分野で知られている様々な方法、例えば、遺伝子操作方法(組換え技術)または化学合成方法(例えば、Fmoc固相法)によって、調製することができる。本発明の融合タンパク質が、その生成方法によって限定されない。
【0038】
したがって、別の態様では、本発明が、本発明の第1または第2の態様の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子を提供する。
【0039】
別の態様では、本発明が、上述の単離された核酸分子を含むベクター(例えば、クローニングベクターまたは発現ベクターなど)を提供する。あるいくつかの実施形態では、ベクターが、例えば、プラスミド、コスミド、ファージなどである。
【0040】
別の態様では、本発明が、上述の単離された核酸分子またはベクターを含む宿主細胞を提供する。そのような宿主細胞は、限定されるものではないが、大腸菌細胞などの原核細胞、ならびに酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、および動物細胞(例えば、哺乳動物細胞、例えばマウス細胞、ヒト細胞など)などの真核細胞を含む。
【0041】
別の態様では、本発明の第1または第2の態様の融合タンパク質を調製するための方法であって、融合タンパク質の発現を可能にする条件下で上述の宿主細胞を培養するステップと、培養された宿主細胞の培養物から融合タンパク質を回収するステップとを含む方法が提供される。
【0042】
複合体
別の態様では、本発明が、本発明の第1または第2の態様の融合タンパク質およびカーゴ分子(カーゴ)を含む複合体を提供する。カーゴ分子はいかなる分子でもよい。
【0043】
あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が、核酸、ペプチドまたはタンパク質、炭水化物、脂質、化学化合物、およびこれらの任意の混合物からなる群から選択される。
【0044】
あるいくつかの実施形態では、核酸が、DNA分子、RNA分子、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマー、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0045】
あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が10000Da未満、例えば、5000Da未満、3000Da未満、または1000Da未満の分子量を有する。
【0046】
一部の実施形態では、カーゴ分子が、検出可能な標識、例えば、酵素、放射性核種、蛍光色素、化学発光物質、またはビオチンなどを含む。
【0047】
あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子がエピトープタグ、レポーター遺伝子配列、および/または核移行シグナル(NLS)配列を含む。あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子がペプチドまたはタンパク質である。
【0048】
カーゴ分子で使用することができるエピトープタグが、当業者にはよく知られており、その例が、限定されるものではないが、以下のもの:His、V5、FLAG、HA、Myc、VSV-G、Trxなどを含み、当業者は所望の目的に応じて適切なエピトープタグを選択する方法(例えば、精製、検出、または追跡)を知っている。あるいくつかの例示の実施形態では、カーゴ分子がHisタグを含む。
【0049】
カーゴ分子で使用することができるレポーター遺伝子配列が、当業者によく知られており、その例が、限定されるものではないが、GST、HRP、CAT、GFP、HcRed、DsRed、CFP、YFP、BFPなどを含む。
【0050】
カーゴ分子で使用することができる核移行シグナル(NLS)配列は、当業者によく知られており、その例は、限定されるものではないが、SV40ウイルスラージT抗原のNLSを含む。あるいくつかの例示の実施形態では、NLS配列が配列番号15で示される。
【0051】
一部の実施形態では、本発明の融合タンパク質がカーゴ分子と融合しており、カーゴ分子がペプチドまたはタンパク質である。あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質が、第1の態様で定義されている通りである。
【0052】
あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が融合タンパク質のN末端またはC末端に融合している。あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が融合タンパク質のC末端に融合している。
【0053】
一部の実施形態では、本発明の複合体が単鎖ポリペプチドを含み、単鎖ポリペプチドが、N末端からC末端へと、pH感受性融合ペプチド、細胞透過性ペプチド、プロテアーゼ認識配列、およびカーゴ分子を含む。あるいくつかの実施形態では、単鎖ポリペプチドが、N末端からC末端へと、pH感受性融合ペプチド、細胞透過性ペプチド、フーリン認識配列、カテプシンL認識配列、およびカーゴ分子を含む。あるいくつかの実施形態では、単鎖ポリペプチドが、N末端からC末端へと、pH感受性融合ペプチド、細胞透過性ペプチド、カテプシンL認識配列、フーリン認識配列、およびカーゴ分子を含む。
【0054】
他の実施形態では、本発明の複合体が単鎖ポリペプチドを含み、単鎖ポリペプチドが、N末端からC末端へと、細胞透過性ペプチド、pH感受性融合ペプチド、プロテアーゼ認識配列、およびカーゴ分子を含む。あるいくつかの実施形態では、単鎖ポリペプチドが、N末端からC末端へと、細胞透過性ペプチド、pH感受性融合ペプチド、フーリン認識配列、カテプシンL認識配列、およびカーゴ分子を含む。あるいくつかの実施形態では、単鎖ポリペプチドが、N末端からC末端へと、細胞透過性ペプチド、pH感受性融合ペプチド、カテプシンL認識配列、フーリン認識配列、およびカーゴ分子を含む。
【0055】
あるいくつかの例示の実施形態では、カーゴ分子が、Znフィンガータンパク質(例えば、ZFP9)、プロテインホスファターゼ(例えば、Ppm1b)、またはCasエフェクタータンパク質(例えば、Cas9)である。「Casエフェクタータンパク質」という表現は、CRISPR-Casシステムのエフェクタータンパク質を指す。あるいくつかの例示の実施形態では、Znフィンガータンパク質またはCasエフェクタータンパク質がNLS配列を含む。
【0056】
他の実施形態では、本発明の融合タンパク質がカーゴ分子に化学的にカップリングしている。「化学的にカップリングしている」という用語は、融合タンパク質で含有されている反応性基と、カーゴ分子に含有されている反応性基の間の化学反応で得られる結合であって、反応後、2つの部分が共有結合によって連結される、結合を指す。上記の化学反応(カップリング反応)の前に、別個の反応において、融合タンパク質、カーゴ分子、または両方を、それらがそれぞれ化学物質カップリングに必要な反応性基を含有することができるように、リンカー分子で修飾することができる。融合タンパク質またはカーゴ分子を修飾するのに使用されるリンカー分子の選択は、使用されるカップリング戦略に依存する。あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質が、第1の態様で定義されている通りである。
【0057】
あるいくつかの実施形態では、共有結合がジスルフィド結合、リン酸ジエステル結合、ホスホロチオエート結合、アミド結合、アミン結合、チオエーテル結合、エーテル結合、エステル結合、または炭素-炭素結合である。
【0058】
あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が融合タンパク質のN末端またはC末端にカップリングしている。あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が、融合タンパク質のC末端にカップリングしている。
【0059】
あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が核酸である。
他の実施形態では、本発明の融合タンパク質がカーゴ分子と非共有結合的に接続している。
【0060】
あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質が、静電相互作用を介してカーゴ分子とコンジュゲートしている。あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が核酸である。
【0061】
一部の実施形態では、融合タンパク質が、第2の態様で定義されている通りであり、融合タンパク質が、それが含有する特異的結合配列を介して、カーゴ分子と非共有結合的に接続している。そのような実施形態では、カーゴ分子が、融合タンパク質中の特異的結合配列に特異的に結合することができるドメインを含む。
【0062】
一部の実施形態では、融合タンパク質中の特異的結合配列に特異的に結合することができるドメインがアミノ酸配列である。
【0063】
あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子がペプチドまたはタンパク質である。一部の実施形態では、カーゴ分子が、融合タンパク質中の特異的結合配列に特異的に結合することができるアミノ酸配列を、そのN末端に含む。
【0064】
あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質中の特異的結合配列がロイシンジッパーペプチドを含み、カーゴ分子が、ロイシンジッパーの相補ペプチドを含み、それにより、ロイシンジッパーペプチドと相補ペプチドがヘテロ二量体を形成することができる。
【0065】
あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質中の特異的結合配列がロイシンジッパーNZ(例えば、配列番号49に示すもの)を含み、カーゴ分子がロイシンジッパーCZ(例えば、配列番号50に示すもの)を含む。
【0066】
あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質中の特異的結合配列がロイシンジッパーCZ(例えば、配列番号50に示すもの)を含み、カーゴ分子がロイシンジッパーNZ(例えば、配列番号49に示すもの)を含む。
【0067】
複合体の調製
本発明の複合体は、当技術分野で知られている様々な方法、例えば、遺伝子操作方法(組換え技術)または化学合成方法(例えば、Fmoc固相法)によって、調製することができる。本発明の複合体は、それが生成される方法によって限定されない。
【0068】
一部の実施形態では、複合体が、共に融合している融合タンパク質およびカーゴ分子を含む場合、本発明の複合体を遺伝子操作組み換え技術によって得ることができる。例えば、複合体をコードしているDNA分子を化学合成またはPCR増幅によって得ることができる。得られるDNA分子を発現ベクターに挿入し、次いで、宿主細胞をトランスフェクションすることができる。次いで、トランスフェクションされた宿主細胞を特定の条件下で培養することができ、このようにして、本発明の複合体を発現させることができる。
【0069】
したがって、別の態様では、本発明は、上述の複合体をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子を提供する。
【0070】
別の態様では、本発明は、上述の単離された核酸分子を含むベクター(例えば、クローニングベクターまたは発現ベクター)を提供する。あるいくつかの実施形態では、ベクターが、例えば、プラスミド、コスミド、ファージなどである。
【0071】
別の態様では、本発明は、上述の単離された核酸分子またはベクターを含む宿主細胞を提供する。そのような宿主細胞は、限定されるものではないが、大腸菌細胞などの原核細胞、ならびに酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、および動物細胞(例えば、哺乳動物細胞、例えばマウス細胞、ヒト細胞など)などの真核細胞を含む。
【0072】
別の態様では、上述の複合体を調製するための方法であって、複合体の発現を可能にする条件下で上述の宿主細胞を培養するステップと、培養された宿主細胞の培養物から複合体を回収するステップとを含む方法が提供される。
【0073】
他の実施形態では、複合体が、化学的にカップリングしている融合タンパク質およびカーゴ分子を含む場合、本発明の複合体は、以下の例示の方法によって得ることができる。すなわち、融合タンパク質をカーゴ分子と、融合タンパク質およびカーゴ分子に含有されている反応性基が化学反応を行って、それにより、2つの部分が共有結合によって接続されることを可能にする条件下で混合することである。一部の実施形態では、この方法がさらに以下を含む。すなわち、融合タンパク質、カーゴ分子、または両方を、それらの各々が上記の化学反応に必要な反応性基を含有するようにリンカー分子で修飾することである。あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が核酸である。
【0074】
他の実施形態では、複合体が、静電相互作用によってコンジュゲートしている融合タンパク質およびカーゴ分子を含む場合、本発明の複合体は、以下の例示の方法によって得ることができる。すなわち、(1)本発明の融合タンパク質をカーゴ分子と混合して、混合物を形成させること;および(2)融合タンパク質とカーゴ分子が複合体を形成するように混合物をインキュベートすることである。あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が核酸である。
【0075】
他の実施形態では、複合体が、共有結合ではない特異的な結合によって接続されている融合タンパク質およびカーゴ分子を含む場合、本発明の複合体は、以下の例示の方法によって得ることができる。すなわち、(1)本発明の第2の態様の融合タンパク質を、融合タンパク質中の特異的結合配列と特異的に結合するドメインを含むカーゴ分子と混合すること、および(2)融合タンパク質とカーゴ分子が複合体を形成するように混合物をインキュベートすることである。あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子がポリペプチドまたはタンパク質である。
【0076】
組成物
本発明の融合タンパク質を、非共有結合性の相互作用を介してカーゴ分子と接続させることができる場合、融合タンパク質とカーゴ分子を混合することによって送達複合体を得ることができる。したがって、別の態様では、本発明は、本発明の融合タンパク質およびカーゴ分子を含む組成物(composition)も提供する。
【0077】
あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が、核酸、ペプチドまたはタンパク質、炭水化物、脂質、化学化合物、およびこれらの任意の混合物からなる群から選択される。あるいくつかの実施形態では、核酸が、DNA分子、RNA分子、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマー、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0078】
あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子が核酸から選択される。
あるいくつかの実施形態では、カーゴ分子がポリペプチドまたはタンパク質である。
【0079】
あるいくつかの実施形態では、融合タンパク質が、第2の態様で定義されている通りである。カーゴ分子は、融合タンパク質中の特異的結合配列に特異的に結合することができるドメインを含む。
【0080】
用途および方法
本発明の融合タンパク質は、カーゴ分子をエンドソームから効率的に放出することができ、ひとたびカーゴ分子が細胞質で利用可能になれば、カーゴ分子はそれに関係するいかなる役割も果たすことができる。したがって、本発明の融合タンパク質は、細胞内送達剤として使用することができ、研究ならびに治療および診断用途でさらに用いることができる。
【0081】
したがって、別の態様では、本発明は、本発明の融合タンパク質、複合体、組成物、単離された核酸分子、ベクター、または宿主細胞と、薬学的に許容される担体および/または添加剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0082】
あるいくつかの実施形態では、複合体または組成物に含有されているカーゴ分子が医薬活性剤である。
【0083】
あるいくつかの実施形態では、複合体または組成物に含有されているカーゴ分子が検出可能な標識である。標識は、診断、薬物処分(例えば、吸収、分布、代謝、排泄)の研究、治療または薬物の有効性もしくは副作用の研究などに使用することができる。
【0084】
別の態様では、本発明は、医薬の製造における、本発明の融合タンパク質、または融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、ベクター、もしくは宿主細胞の、送達剤(例えば、細胞内送達剤および/またはトランスフェクション剤)としての使用にも関する。
【0085】
別の態様では、本発明は、疾患を治療するための医薬の製造における、本発明の複合体、または組成物、または複合体もしくは組成物をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子、ベクター、もしくは宿主細胞の使用であって、複合体または組成物に含有されているカーゴ分子が疾患を治療することができる、使用にも関する。
【0086】
あるいくつかの実施形態では、疾患が、プログラム細胞死に関連する疾患であり、カーゴ分子がプロテインホスファターゼ1Bを含む。あるいくつかの実施形態では、プログラム細胞死に関連する疾患が、肝損傷(例えば、薬物性肝損傷)、炎症性疾患、虚血-再灌流傷害、および/または神経変性疾患を含む。
【0087】
本発明の融合タンパク質、複合体もしくは組成物、または医薬組成物は、医学分野で知られているいかなる形態であってもよく、例えば、それは、錠剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、ゲル剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、トローチ剤、坐剤、注射剤(注射液、凍結乾燥粉末剤を含む)、吸入剤、スプレー剤、および他の形態であってもよい。好ましい剤形は、意図されている投与様式および治療用途に依存する。
【0088】
本発明の融合タンパク質、複合体もしくは組成物、または医薬組成物は、限定されるものではないが、経口、直腸、非経口、または局所投与を含めた、当技術分野で知られているいかなる適した方法によって投与してもよい。
【0089】
投与の例示の経路は、経口投与である。経口投与用の液体剤形には、薬学的に許容される乳剤、マイクロエマルジョン剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤などが含まれる。活性成分に加えて、液体剤形は、当技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えば、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジメチルホルムアミド、油(例えば、綿実油、ピーナッツ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにこれらの任意の混合物などを含んでもよい。経口投与用の液体剤形は、不活性希釈剤に加えて、補助剤、例えば、湿潤剤、乳化・懸濁剤、甘味料、香料、および芳香剤なども含んでもよい。経口投与用の固体剤形には、カプセル剤、錠剤、丸剤、トローチ剤、散剤、顆粒剤などが含まれる。固体剤形は、活性成分に加えて、薬学的に許容される不活性添加剤または担体、例えば、賦形剤(例えば、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、デンプン、結晶セルロース、ガラクトース、クロスポビドン、および硫酸カルシウム);結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、およびアラビアゴム);湿潤剤(例えば、セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセリン);崩壊剤(例えば、寒天、炭酸カルシウム、デンプン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム);潤滑剤(例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム);およびこれらの任意の混合物などを含んでもよい。
【0090】
本発明の融合タンパク質、複合体もしくは組成物または医薬組成物は、非経口経路によって投与してもよい。
【0091】
したがって、投与の別の例示の経路は、非経口投与、例えば、皮下注射、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射、胸骨内注射、および注入である。非経口投与用の剤形は、注射液、注射用の無菌粉末剤、または注射用の濃縮液を含めた、注射製剤であってもよい。注射剤形は、活性成分に加えて、薬学的に許容される担体、例えば、無菌水、リンゲル液、および生理食塩水などを含んでもよく、薬物の特性にしたがって、適切な添加剤、例えば、抗酸化剤、緩衝剤、および静菌剤なども添加してもよい。
【0092】
投与の別の例示の経路は、局所投与、例えば、経皮投与(例えば、経皮吸収型貼付剤またはイオン泳動装置による投与)、眼内投与、または鼻腔内もしくは吸入投与などである。経皮投与用の剤形は、局所ゲル、スプレー剤、軟膏剤、およびクリーム剤でありうる。局所剤形は、活性成分に加えて、皮膚または他の作用区域を通した活性化合物の吸収または浸透を増強する成分を含んでもよい。
【0093】
投与の別の例示の経路は、直腸投与である。直腸投与用の剤形は、坐剤でありうる。
加えて、薬品分野で知られている他の担体材料および投与方法も使用することができる。本発明の融合タンパク質、複合体もしくは組成物、または医薬組成物は、製剤および投与のための有効な方法など、いかなる既知の製剤プロセスで調製してもよい。
【0094】
別の態様では、本発明は、本発明の融合タンパク質、複合体、組成物、単離された核酸分子、ベクター、または宿主細胞を含むキットを提供する。あるいくつかの実施形態では、キットは、トランスフェクションおよび/または細胞内送達のための説明書をさらに含む。あるいくつかの実施形態では、キットは、カーゴ分子(例えば、核酸、ペプチドまたはタンパク質、炭水化物、脂質、化学化合物、およびこれらの任意の混合物)のトランスフェクションおよび/または細胞内送達のために使用される。あるいくつかの実施形態では、細胞が哺乳動物細胞、例えばヒト細胞など、である。
【0095】
別の態様では、本発明は、本発明の融合タンパク質、複合体、組成物、単離された核酸分子、ベクター、または宿主細胞の、送達試薬(例えば、トランスフェクション試薬または細胞内送達試薬)としての使用にも関する。あるいくつかの実施形態では、送達剤は、カーゴ分子(例えば、核酸、ペプチドまたはタンパク質、炭水化物、脂質、化学化合物、およびこれらの任意の混合物)の細胞内送達のために使用される。あるいくつかの実施形態では、細胞が哺乳動物細胞(例えばヒト細胞)である。
【0096】
別の態様では、本発明は、細胞に分子を送達するための方法であって、細胞を本発明の複合体と接触させることを含み、複合体が分子を含む方法を提供する。
あるいくつかの実施形態では、細胞を複合体と接触させることがインビボで行われる。
あるいくつかの実施形態では、細胞を複合体と接触させることがエクスビボで行われる。
あるいくつかの実施形態では、細胞を複合体と接触させることがインビトロで行われる。
あるいくつかの実施形態では、細胞が真核細胞、例えば哺乳動物細胞など、例えばヒト細胞など、である。
【0097】
用語の定義
本発明において、他に明記しない限り、本明細書で使用される科学用語および技術用語は、当業者が通常に理解する意味を有する。また、ここで用いられる細胞培養、生化学、核酸化学、免疫学の実験手順はすべて、当該分野で広く用いられている常套的な工程である。同時に、本発明をよりよく理解する目的で、関連用語の定義および説明を以下に示す。
【0098】
本明細書で使用する場合、「単離された」という用語は、人工の手段で天然の状態から取得されていることを指す。ある「単離された」物質またはコンポーネントが天然に存在する場合、それは、その物質が位置する自然環境が変化しているか、その物質が自然環境から分離されているか、その両方が起こっているということでありうる。例えば、生きている動物に天然に存在する、ある単離されていないポリヌクレオチドまたはポリペプチドについて、この天然の状態から単離された高純度の同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、「単離された」と呼ばれる。「単離された」という用語は、人工または合成の物質の存在を除外しないし、それは、物質の活性に影響を及ぼさない他の不純物質の存在を除外しない。
【0099】
本明細書で使用する場合、「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドをその中に挿入することができる核酸送達ビヒクルを指す。挿入されているポリヌクレオチドによってコードされているタンパク質をベクターが発現することができる場合、ベクターは、発現ベクターと呼ばれる。形質転換、形質導入、またはトランスフェクションを介して、ベクターが保持する遺伝物質エレメントが宿主細胞内で発現できるように、ベクターを宿主細胞に導入することができる。ベクターは、当業者にはよく知られており、限定されるものではないが、プラスミド;ファージミド;コスミド;人工の染色体、例えば、酵母人工染色体(YAC)、バクテリア人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC)など;ファージ、例えば、ラムダファージまたはM13ファージなど、および動物ウイルスを含む。ベクターとして使用することができる動物ウイルスは、限定されるものではないが、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポーバウイルス(例えばSV40)を含む。ベクターは、限定されるものではないが、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択エレメント、およびレポーター遺伝子を含めた、発現を制御する様々なエレメントを含有することができる。加えて、ベクターは、複製起点も含有してもよい。
【0100】
本明細書で使用する場合、「宿主細胞」という用語は、限定されるものではないが、原核細胞、例えば、大腸菌もしくは枯草菌など、真菌細胞、例えば、酵母細胞もしくはアスペルギルス属など、昆虫細胞、例えば、S2ショウジョウバエ細胞もしくはSf9など、または動物細胞、例えば、線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞、もしくはヒト細胞など、を含めた、ベクターを導入することができる細胞を指す。
【0101】
本明細書で使用する場合、「同一性」という用語は、2つのポリペプチドの間または2つの核酸の間の一致の程度を指す。比較用の2つの配列が、ある部位で、同じ単量体サブユニットの塩基またはアミノ酸を有する(例えば、2つのDNA分子の各々が、ある部位にアデニンを有するか、2つのポリペプチドの各々が、ある部位にリジンを有する)場合、2つの分子はその部位で同一である。2つの配列間のパーセント同一性は、2つの配列によって共有されている同一な部位の数を比較用の部位の総数で割った数×100という関数である。例えば、2つの配列の10部位のうち、6部位が一致している場合、これらの2つの配列は、60%の同一性を有する。例えば、DNA配列:CTGACTとCAGGTTは、50%の同一性(6部位のうち、3部位が一致している)を共有している。一般に、2つの配列の比較は、最大の同一性を生成するように行われる。そのような整列化は、Needlemanら(J.Mol.Biol.48巻、443~453ページ、1970)の方法に基づくAlignプログラム(DNAstar,Inc.)などのコンピュータープログラムを用いて行うことができる。2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているE.MeyersおよびW.Miller(Comput.Appl.Biosci.、4巻、11~17ページ(1988))のアルゴリズムを用い、PAM120重み付き残基表、ギャップ長ペナルティー12、およびギャップペナルティー4を用いても決定することもできる。加えて、2つのアミノ酸配列間の同一性の百分率は、Blossum 62マトリックスまたはPAM250マトリックス、ならびに16、14、12、10、8、6、または4のギャップ重みおよび1、2、3、4、5、または6の長さ重みを用いて、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)中のGAPプログラムに組み込まれているNeedlemanおよびWunsch(J.Mol.Biol.48巻、444~453ページ(1970))のアルゴリズムで決定することができる。
【0102】
本明細書に含まれる20種の従来のアミノ酸は、慣習的な様式で表現されている。例えば、参照により本明細書に組み込まれているImmunology-A Synthesis(第2版、E.S.GolubおよびD.R.Gren編、Sinauer Associates、Sunderland、Mass.(1991))参照。本発明において、「ポリペプチド」および「タンパク質」というは、同じ意味を有し、互換的に用いることができる。また、本発明において、アミノ酸は、通常、当技術分野でよく知られている1文字および3文字省略形で表される。例えば、アラニンは、AまたはAlaで表すことができる。
【0103】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される担体および/または添加剤」という用語は、対象および活性成分と薬理的および/または生理的に適合性である担体および/または添加剤を指し、これらは、当技術分野でよく知られており(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Gennaro AR編、第19版、Pennsylvania:Mack Publishing Company、1995参照)、限定されるものではないが、pH調整剤、界面活性剤、イオン強度増強剤、浸透圧を維持するための薬剤、吸収を遅らせるための薬剤、希釈剤、アジュバント、保存料、安定剤などを含む。例えば、pH調整剤は、限定されるものではないが、リン酸緩衝剤を含む。界面活性剤は、限定されるものではないが、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、例えば、Tween-80など、を含む。イオン強度増強剤は、限定されるものではないが、塩化ナトリウムを含む。浸透圧を維持するための薬剤は、限定されるものではないが、糖、NaClなどを含む。吸収を遅らせるための薬剤は、限定されるものではないが、モノステアリン酸およびゼラチンを含む。希釈剤は、限定されるものではないが、水、水性緩衝剤(例えば、緩衝生理食塩水)、アルコールおよびポリオール(例えば、グリセロール)などを含む。アジュバントは、限定されるものではないが、アルミニウムアジュバント(例えば、水酸化アンモニウム)、フロイントアジュバント(例えば、完全フロイントアジュバント)などを含む。保存料は、限定されるものではないが、様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、チメロサール、2-フェノキシエタノール、パラベン、トリクロロ-tert-ブタノール、フェノール、ソルビン酸などを含む。安定剤は、当業者が一般的に理解する意味を有し、薬物中の活性成分の所望の活性(例えば、PSD-95ユビキチン化の阻害活性)を安定化することができ、限定されるものではないが、グルタミン酸ナトリウム、ゼラチン、SPGA、サッカライド(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、スクロース、ラクトース、デキストラン、またはグルコース)、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、グリシン)、タンパク質(例えば、乾燥乳清、アルブミン、またはカゼイン)またはその分解産物(例えば、ラクトアルブミン加水分解物)などを含む。
【0104】
本明細書で使用する場合、「治療」という用語は、有益であるか所望の臨床結果を得るために行われる方法を指す。本発明の目的では、有益であるか所望の臨床結果は、限定されるものではないが、検出可能であるか検出可能でないかを問わず、症状を軽減すること、疾患の範囲を狭めること、病状を安定化する(すなわち悪化させない)こと、疾患の進行を遅延させるか緩徐にすること、および症状を寛解させること(部分的または完全に)を含む。加えて、「治療」は、(治療を受けない場合に)期待される生存時間と比べた生存期間の延長も指すことがある。
【0105】
本明細書で使用する場合、「対象」という用語は、哺乳動物、例えば、霊長類哺乳動物など、例えば、ヒトなど、を指す。
【0106】
本発明の有益な効果
本発明の送達系は、カーゴ分子がその対応する生物学的機能を完全に発揮することができるように、エンドソームからのカーゴ分子の放出を有意に改善し、それによって、カーゴ分子の細胞質送達効率を大幅に向上させることができる。したがって、本発明の送達系は、細胞の生物学的機序および経路に影響を与える有効な手段を提供し、研究、治療、診断などの多くの分野で用いることができ、広範な用途の見通しおよび臨床価値を有する。
【0107】
本発明の実施形態について、添付の図面および例とともに以下に詳細に記載する。しかし、当業者ならば、以下の図面および例は、本発明を説明することのみに用いられており、本発明の範囲を限定しないことを理解するであろう。添付の図面および好ましい実施形態の以下の詳細な説明によれば、本発明の様々な目的および有利な態様は、当業者は明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0108】
図1】実施例1におけるエンドソームからの脱出効率を検出するためのスプリットGFPシステムの原理の概略図である。
図2】実施例1における送達系-GFPβ1-10タンパク質複合体の構造の概略図である。
図3】実施例1における送達系-GFPβ1-10複合体のSDS-PAGEの結果を示す図である。
図4】実施例1における送達系-GFPβ1-10複合体のSDS-PAGEの結果を示す図である。
図5】実施例1におけるGFPβ1-10による形質導入のための送達系のフローサイトメトリー分析の結果を示す図である。
図6】実施例1におけるGFPβ1-10による形質導入のための送達系の蛍光顕微鏡観察の結果を示す図である。
図7】実施例1におけるGFPβ1-10の形質導入のための、酵素切断部位に変異を含有する送達系のフローサイトメトリー分析の結果を示す図である。
図8】実施例1における送達系による形質導入の後における、細胞内の切断されたGFPβ1-10および切断されていない/完全なGFPβ1-10の相対比率ならびにそれらの細胞内残留時間のウエスタンブロット検出結果を示す図である。
図9】実施例1における酵素切断部位に変異を含有している送達系による形質導入の後における、細胞内の切断されたGFPβ1-10および切断されていない/完全なGFPβ1-10の相対比率のウエスタンブロット検出結果を示す図である。
図10】実施例1における酵素切断部位に変異を含有しているが、pH感受性ペプチドを含有していない送達系による形質導入のフローサイトメトリー分析の結果を示す図である。
図11】実施例1における酵素切断部位に変異を含有しているが、pH感受性ペプチドを含有していない送達系による形質導入の後における、細胞内の切断されたGFPβ1-10および切断されていない/完全なGFPβ1-10の相対比率のウエスタンブロット検出結果を示す図である。
図12】実施例2における送達系-ZFP9複合体の構造の概略図を示す図である。
図13】実施例2における送達系-ZFP9複合体のSDS-PAGEの結果を示す図である。
図14】実施例2におけるZFP9結合部位を含有する真核生物発現プラスミドのマップを示す図である。
図15】実施例2における送達系によるZFP9の形質導入のフローサイトメトリー分析の結果を示す図である。
図16】実施例2における送達系によるZFP9の形質導入のフローサイトメトリー分析の結果を示す図である。
図17】実施例3における送達系-Ppm1b複合体の構造の概略図を示す図である。
図18】実施例3における送達系-Ppm1b複合体のSDS-PAGEの結果を示す図である。
図19】実施例3におけるTNF-αで誘発された細胞壊死の比率に対する送達系-Ppm1b複合体の効果のフローサイトメトリー分析の結果を示す図である。
図20】実施例4における送達系-Cas9複合体の構造の概略図を示す図である。
図21】実施例4における送達系-Cas9複合体のSDS-PAGEの結果を示す図である。
図22】実施例4におけるHEK293T-RFPレポーター細胞の使用による、CRISPR/Cas9の編集効率の検出の原理の概略図を示す図である。
図23】実施例4におけるRFPレポーターレンチウイルスプラスミドのマップを示す図である。
図24】実施例4における送達系-Cas9複合体の遺伝子編集効率のフローサイトメトリー分析の結果を示す図である。
図25】実施例5におけるアダプター方法をベースにした送達系の原理を示す図である。
図26】実施例5におけるアダプター方法をベースにした送達系のための組換えタンパク質のクローン設計を示す図である。
図27】実施例5におけるアダプター方法をベースにした送達系のための組換えタンパク質の精製結果を示す図である。
図28】実施例5におけるスプリットGFPエンドソーム脱出システムによるアダプターベースの送達系の送達効果の評価結果を示す図である。
【0109】
配列情報
本発明に関連する一部の配列の情報を下記の表1に示す。
【表1】


【実施例
【0110】
実施例
これより以下の実施例を参照して、本発明を記述するが、実施例は、本発明を限定するのではなく、本発明を説明することを目的としている。
【0111】
他に明記しない限り、本発明で使用される分子生物学の実験法およびイムノアッセイの方法は、基本的に、J.Sambrookら、Molecular Cloning:Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989、およびFM Ausubelら、Compiled Molecular Biology Experiment Guide、第3版、John Wiley&Sons,Inc.、1995に記載の方法を参照して行った。制限酵素は、製品の製造業者が推奨する条件で用いた。当業者は、実施例は、例示により本発明を記述するものであり、本発明によって保護しようとする範囲の限定を意図するものではないことを承知している。
【0112】
以下の実施例に含まれる主な試薬の供給源は、以下の通りである。
クローニングおよび構築に必要とされた材料は、以下の通りだった。DNAポリメラーゼ(TaKaRa、R040A)、DNA回収キット(TianGen、DP214-03)、プラスミドミニキット(TianGen、DP103-03)、プラスミドラージスケールキット(QIAGEN、12663)、5チューブのGibson Assemblyプレミックス(NEB、E2611L)、DNAマーカー(ThmeroFisher、SM0331)、アガロース(Biowest、BW-R0100)、
【0113】
大規模タンパク質発現に必要とされた材料は、以下の通りだった。ペプトン(BiSIGMA-ALDRICH、T7293-1KG)、イースト粉末(OXOID、LP0021B)、塩化ナトリウム(Xilong Chemical、10011012AR)、IPTG(Inalco、1758-1400)、
【0114】
タンパク質精製に必要とされた媒体は、以下の通りだった:SP SEPHAROSE FAST FLOW(GE Healthcare、17-0729-01)、NI SEPHAROSE(GE Healthcare、17-5268-02)、
【0115】
タンパク質の精製と保存に必要とされた試薬は、以下の通りだった。グリセロール/グリセロール/C(SIGMA-ALDRICH、G5516)、KCl(Xilong Chemical Industry、1002007)、NaHPO・12HO(Xilong Chemical Industry、1001067AR)(KHPO(Xilong Chemical Industry、1002048AR500)、イミダゾール(SIGMA-ALDRICH、V900153)、Trisベース(Seebio、183995)、グルコース(Xilong Chemical Industry、1064008AR500)、BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific、23227);
細胞培養に必要とされた試薬:FBS(GIBCO、10099-133)、DMEM(GIBCO、11965092)、トリプシン(AMRESCO、0458);
レンチウイルスのパッケージングおよび感染に必要とされた試薬:レンチウイルスパッケージングプラスミド:pCMV-VSV-G(Addgene、8454)、pRSV-Rev(Addgene、12253)、pMDLg/pRRE(Addgene、12251);X-tremeGENEトランスフェクション試薬(Roche、06366244001)、ピューロマイシン(InvivoGen、ant-pr-5)、ブラストサイジン(InvivoGen、ant-bl-5b)、ポリブレン(Santa Cruz、sc-134220);
実験で使用されたGFPβ1-10、ZFP9、Ppm1b、dsRed、mCherry、およびHistone-H3に関係するプラスミドは、すべては、Biotechによって合成された。Cas9配列増幅用のプラスミドpCasKP-hph(Addgene、117232);
他の試薬:TNF-α(Novoprotein、CF09)(PI(ThmeroFisher、P3566))
【0116】
細胞系:HEK-293T(ヒト腎上皮細胞)、L929(マウス線維芽細胞)。これらは、ATCCから購入した。
【0117】
実施例1:送達系のエンドソーム脱出効率のスプリットGFPシステムベースの評価
スプリットGFPシステムでは、GFPの11個のβ-プリーツシートが大きな断片(β1-10)と小さな断片(β11)に分割され、両者が蛍光活性を失うが、それらが遭遇すると、両者が自発的に結合し、GFPの蛍光性能を回復することができる。これをベースにして、本発明者らは、ヒストンβ11を安定的に発現するHEK293T細胞を構築し、カーゴである核移行シグナル(NLS)付きGFPβ1-10および評価される細胞内送達系を融合タンパク質として発現させ、安定細胞系の形質導入に用いた。送達系によってGFPβ1-10を形質導入したとき、それは、エンドソームからの脱出に成功し、細胞質または核に入った後にのみ、GFPβ11に結合し、完全なGFPを生むことができ、それにより、エンドソーム脱出効率をGFPの比率および相対蛍光強度によって評価することができた(図1)。
【0118】
1.1送達系-GFPβ1-10タンパク質複合体発現ベクターの構築
TAT(配列番号10)、INF7(配列番号8)、プロテアーゼ切断部位(表2)、および核移行シグナル(NLS)を含有するカーゴ分子GFPβ1-10(配列番号23)の組換えタンパク質発現ベクターの構築を行った。各組換えタンパク質の構造の概略図を図2に示し、C末端からN末端までのコンポーネントおよびそのアミノ酸配列を下記の表3に示す。構築方法は以下の通りだった。まず、送達系中のTAT、INF7、N、Na、Nb、Nc、Nd、Ne、Nf、変異体N、変異体Ne、およびカーゴ分子GFPβ1-10の核酸配列をPCR増幅によって得た。これらのパーツを複数ラウンドのPCRによって接続し、PCRの最終ラウンドで、フォワードプライマーにより、NdeI制限部位とpET21b(+)中の対応するNdeI制限部位の上流のオーバーラップとを断片の5’末端に導入し、リバースプライマーにより、BamHI制限部位とpET-21b(+)中の対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップとを断片の3’末端に導入した。pET-21b(+)プラスミドをNdeIおよびBamHIで二重消化した。GIBSON assemblyによって、オーバーラップのある挿入断片を、消化されたベクターpET-21b(+)に連結した。
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
1.2 送達システム-GFPβ1-10複合体の発現および精製:
1.1に記載の発現プラスミドで大腸菌発現株BL21(DE3)を形質転換した。形質転換後のプレートから単一コロニーを採取し、アンピシリン抵抗性を含有する5mlのLB液体培地中に播種し、終夜培養し、次いで、終夜培養された細菌培養物1mlを、アンピシリン抵抗性を含有する500mlのLB液体培地中に移し、続いて、細菌培養物のOD600が約0.6になるまで、37℃、180rpmで培養し、次いで、誘導物質であるIPTGを、最終濃度0.2mMになるまで添加し、続いて、25℃で8時間誘導を行った。誘導の後、細菌細胞を、4℃、7000gで10分間の遠心分離の後、収集した。次いで、タンパク質精製用の平衡緩衝剤(グリセロール50ml、NaCl 8g、KCl 0.201g、NaHPO 1.44g、KHPO 0.24gが1Lの再蒸留水中に溶解している)10mlに細菌細胞を再懸濁し、超音波で破砕した。次いで、遠心分離によって上清を採取し、タンパク質精製システムのポリヒスチジンタグ付きタンパク質用のタンパク質精製カラム上にロードした。そして、所望のタンパク質を、タンパク質精製システム用の溶離緩衝剤(グリセロール50ml、NaCl 8g、KCl 0.201g、NaHPO 1.44g、KHPO 0.24g、イミダゾール17gが1Lの再蒸留水中に溶解している)で溶出させた。タンパク質濃度は、分光光度計またはBCAタンパク質アッセイキットで測定することができた。精製した各融合タンパク質を分注し、-20℃で保存した。各タンパク質のSDS-PAGEの結果を図3~4に示した。
【0122】
1.3 HEK293T-GFPβ11細胞系の構築
1.3.1 GFPβ11細胞系用のレンチウイルスプラスミドの構築:
ヒストンH3(配列番号25)のコード配列は、PCR増幅によって取得し、GFPβ11(配列番号26)のコード配列は比較的短く、フォワードプライマー中に直接的に設計した。これらのコンポーネントを複数ラウンドのPCRによって連結し、PCRの最終ラウンドで、フォワードプライマーにより、HindIII制限部位とレンチベクター上の対応するHindIII制限部位の上流のオーバーラップとを断片の5’末端に導入し、リバースプライマーにより、BamHI制限部位とレンチベクター上の対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップとを断片の3’末端に導入した。このレンチプラスミドをHind IIIおよびBamH Iで二重消化した。GIBSON assemblyによって、オーバーラップのある挿入断片を、消化されたレンチベクターに連結した。
【0123】
1.3.2 細胞系のレンチウイルスパッケージング、感染、および抵抗性スクリーニング:
HEK-293T細胞を6ウェルプレートに播種し、終夜培養し、プラスミドトランスフェクション前に、ウェルあたりの細胞数が確実に約2×10/mlとなるようにした。トランスフェクション前に、細胞を無血清DMEM培地に移した。レンチ組換え体プラスミド1.5μg、pMDLプラスミド0.75μg、pVSV-Gプラスミド0.45μg、pREV0.3μg(質量比率5:3:2:1)を無血清DMEM300μlに添加し、緩徐に吹き込み撹拌した。X-tremeGENEトランスフェクション試薬9μl(1:3)を添加し、緩徐に吹き込み撹拌し、15分間室温で静置した。細胞上清を滴下により添加し、8時間後に、培地を10%FBSを含有するDMEMに変えることによって培養を続けた。60時間後に、培養上清を、以降の感染用に採取した。
【0124】
HEK-293T細胞を12ウェルプレートに播種し、終夜培養し、レンチウイルス感染前に、ウェルあたりの細胞数が確実に約2×10/ml(50%密度)となるようにした。最初の細胞培養上清を捨て、続いて、レンチウイルス(moi=3)300μlおよび10%FBS DMEM700μlを添加し、ポリブレンを10μg/mlの濃度で添加した。細胞プレートを無菌条件下で2500rpmで30分間遠心処理し、培養を続けた。
【0125】
48時間のレンチウイルス感染後、細胞を1/3の比率で継代し、抵抗性スクリーニングのために、ピューロマイシンを2.5μg/mlの濃度で添加した。スクリーニングで得られた陽性細胞をクローニングし、HEK-293T-Hitone-GFPβ11モノクローナル細胞系を得た。
【0126】
1.4 スプリットGFPシステムによる送達系-GFPβ1-10複合体のエンドソーム脱出効率の検出
1.3で得られたHEK-293T-Hitone-GFPβ11細胞系を12ウェルプレートに播種し、終夜培養し、タンパク質処置前に、ウェルあたりの細胞数が確実に約5×10/mlとなるようにした。無血清DMEM培地で細胞を3回すすいだ後、1.2で得られた5μM送達系-GFPβ1-10複合体100μlを無血清培地中に添加し、インキュベーションを3時間行った。細胞表面に吸着しており、まだ細胞内に飲食されていなかったタンパク質を除去するために、ヘパリン溶液を用いて3回洗浄を行い、培地を10%FBS DMEM培地に変えた後、培養を続けた。蛍光顕微鏡での観察および緑色蛍光タンパク質の発現のフローサイトメトリー分析を12hに行った。
【0127】
フローサイトメトリー分析の結果を図5に示した。結果は、TATをベースにしてpH感受性ペプチドINF7を導入した場合に細胞の平均蛍光強度が増したことを示した。このことは、pH感受性ペプチドがエンドソーム膜を破る効果を有することを証明した。特に、TAT-INF7をベースにして、CTSLまたはフーリン切断部位を導入した場合に、細胞蛍光強度がさらに増し、中でも、CTSL切断部位Nおよびフーリン切断部位Neが最も著しい効果を示した。蛍光顕微鏡観察を図6に示した。この結果は、上記2箇所の切断部位の組合せ(TINNe-GFPβ1-10)によって、エンドソーム脱出効率をさらに著しく改善することができたことを示した。
【0128】
変異を含有する送達系-カーゴ分子複合体を得るために、NまたはNe切断部位内の重要部位に変異を導入した。ここで,変異体Nは、配列番号21に示す配列を有し、変異体Neは、配列番号22に示す配列を有した。変異体送達系-カーゴ分子複合体(Mut)と変異カーゴ分子複合体(WT)なしの送達系の間でトランスフェクション効率を比較した。結果を図7に示した。切断部位の重要なアミノ酸が変異していると、それが単一の切断部位のみであったか、2つの切断部位の組合せであったかにかかわらず、エンドソーム脱出効率を増強する効果が失われた。上記の結果は、CTSLおよびフーリン切断部位が、実際にエンドソームからのカーゴの脱出効率を有意に改善できたことを示した。
【0129】
細胞表面に吸着し、まだ細胞内に飲食されていなかったタンパク質を除去するために、ヘパリン溶液で3回洗浄した後で、形質導入の開始後、様々な時点で細胞を採取した。タンパク質を抽出するために細胞を溶解させ、SDS-PAGE電気泳動を行い、次いで、細胞内タンパク質の切断および残留を分析するために、GFPβ1-10を認識するモノクローナル抗体(Abcam、ab32146)を用いて、ウエスタンブロット検出を行った。結果を図8に示した。6時間の前の各時点では、検出された細胞内タンパク質の総量が、様々な群の細胞間で同程度であった。これは、pH感受性ペプチドおよび切断部位は、カーゴのエンドサイトーシス効率を上げなかったことを示している。切断部位を含有するタンパク質(TIN-、TINe-、TINNe-)の切断は、30分以内に始まり、3時間後にはもはや、切断されたタンパク質の量が増加していなかった。ここで、単一切断部位を有するタンパク質の約40%が切断されており、一方、2つの切断部位を有するタンパク質の約70%が切断されていた。それ以降、切断部位のないタンパク質(T-、TI-)および切断部位が切断されなかったインタクトなタンパク質は、リソソームに導入され、迅速に分解し始め、対応するバンドは、12hにはほとんど消えていた。一方、切断後にTAT-INF7から分離されたタンパク質は、残ったままであり、TINNe群が最も残っていた。上記の結果は、フローサイトメトリーの結果と一致していた。すなわち、酵素切断の効率が高いほど、より多くの分解されていないGFPβ1-10-NLSが細胞内に残り、GFPβ1-10-NLSが核に入り、GFPβ11と会合した後に、より多くのインタクトなGFPが形成され、緑色蛍光強度が、より高くなる。
【0130】
さらに、3時間の細胞の形質導入の後、NまたはNe切断部位に変異を含有する上記の送達系-カーゴ分子複合体の切断を分析するために、ウエスタンブロットを行った。結果を図9に示した。変異体送達系-カーゴ分子複合体(TINm-、TINNem-とTINNem-)の細胞内切断は達成できなかった。したがって、図7に示されているフローサイトメトリー結果とあわせて、変異体送達系-カーゴ分子複合体の送達効率が低い理由は、切断およびその後の脱出が達成できなかったことであったと理解することができた。CTSLおよびフーリン切断部位が送達系で重要な役割を果たしていることも、さらに確認された。
【0131】
加えて、pH感受性ペプチドコンポーネントを欠いた送達系-複合体(TNNe-GFPβ1-10-NLS)の送達効率もフローサイトメトリーによって検出した。その結果を図10に示した。本発明者らは、形質導入の12時間後の平均蛍光強度が、基本的にT-GFPβ1-10-NLSのものと同じだったことを見出した。これは、切断部位があったとしても、pH感受性ペプチドがないと、効率的な送達を達成できなかったことを示している。そして、ウエスタンブロットによって、送達系-複合体の細胞内切断効率には、pH感受性ペプチドの有無が影響しなかったことが見出された(図11)。上記の結果をあわせて、本発明者らは、送達系におけるpH感受性ペプチドと特異的切断部位の共存のみが、最終的な高効率送達を達成できたことを確認した。
【0132】
実施例2:Znフィンガータンパク質ZFPの形質導入における送達系の適用
2.1 送達系-Znフィンガータンパク質ZFP9複合体用の発現ベクターの構築
TAT、INF7、プロテアーゼ切断部位、および核移行シグナル(NLS)を保持するカーゴ分子ZFP9(配列番号27)を含有する組換えタンパク質の発現ベクターを構築した。各組換えタンパク質の構造の概略図を図12に示し、コンポーネントのアミノ酸配列を下記の表4に示した。構築方法は以下の通りだった。まず、送達系中のTAT、INF7、プロテアーゼ切断部位、およびカーゴ分子ZFP9をコードする核酸配列をPCR増幅によって得た。これらのパーツを、複数ラウンドのPCRによって接続し、PCRの最終ラウンドで、フォワードプライマーにより、NdeI制限部位とpET21b(+)中の対応するNdeI制限部位の上流のオーバーラップとを断片の5’末端に導入し、リバースプライマーにより、BamHI制限部位とpET-21b(+)中の対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップとを断片の3’末端に導入した。pET-21b(+)プラスミドをNdeIおよびBamHIで二重消化した。GIBSON assemblyによって、オーバーラップのある挿入断片を、消化されたベクターpET-21b(+)に連結した。
【0133】
【表4】
【0134】
2.2 送達系-ZFP9複合体の発現および精製
2.1に記載の発現プラスミドで大腸菌発現株BL21(DE3)を形質転換した。形質転換後のプレートから単一コロニーを採取し、アンピシリン抵抗性を含有する5mlのLB液体培地中に播種し、終夜培養し、次いで、終夜培養された細菌培養物1mlを、アンピシリン抵抗性を含有する500mlのLB液体培地中に移し、続いて、細菌培養物のOD600が約0.6になるまで、37℃、180rpmで培養し、次いで、誘導物質であるIPTGを、最終濃度0.2mMになるまで添加し、続いて、25℃で8時間誘導を行った。誘導の後、細菌細胞を、4℃、7000gで10分間の遠心分離の後、収集し、細菌細胞の一部は、タンパク質の誘導発現を検出するために採取した。次いで、細菌細胞をタンパク質精製用の平衡緩衝剤(グリセロール50ml、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン3.6342gが1Lの再蒸留水中に溶解しており、pHが8.0に調整されている)10mlで再懸濁し、超音波で破砕した。次いで、遠心分離によって上清を採取し、AKTAタンパク質精製システムのスルホプロピル(SP)陽イオン交換カラムにロードした。次いで、様々な比率の平衡緩衝剤および高塩濃度溶出剤(グリセロール50ml、NaCl 116.88g、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン3.6342gが1Lの再蒸留水中に溶解しており、pHが8.0に調整されている)による勾配溶出によって所望のタンパク質を得たタンパク質濃度は、分光光度計またはBCAタンパク質アッセイキットで測定することができた。精製した各融合タンパク質を分注し、-20℃で保存した。各タンパク質のSDS-PAGEの結果を図13に示した。
【0135】
2.3 ZFP9結合部位を含有する真核生物発現プラスミドの構築
青色蛍光タンパク質(BFP)のコード配列およびZFP9結合部位を含有する発現ベクターを構築し、その構造概略図を図14に示した。青色蛍光タンパク質(配列番号29)のコード配列およびZFP9結合部位(6×結合部位)の配列(配列番号30)をPCR増幅によって得た。これら2つのパートを2ラウンドのPCRによって連結し、PCRの第2ラウンドで、フォワードプライマーにより、HindIII制限部位とpTT5ベクター上の対応するHindIII制限部位の上流のオーバーラップとを断片の5’末端に導入し、リバースプライマーにより、BamHI制限部位とpTT5ベクター上の対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップとを断片の3’末端に導入した。pTT5プラスミドをHind IIIおよびBamH Iで二重消化した。pTT5-BFP-6BSプラスミドを得るために、GIBSON assemblyによって、オーバーラップのある挿入断片を、消化されたpTT5ベクターに連結した。
【0136】
2.4 送達系によりZnフィンガータンパク質ZFP9を形質導入する送達効率の検出
HEK293T細胞を12ウェルプレートに播種し、終夜培養し、タンパク質処置の前に、ウェルあたりの細胞数が確実に約5×10/mlとなるようにした。2.2で得られた送達系-ZFP9複合体(ZFP9、T-ZFP9、TI-ZFP9、TINNe-ZFP9)100μL/5μMおよび2.3で得られたpTT5-BFP-6BSプラスミド5μgを、37℃で30分間、共にインキュベートし、複合体を完全に形成させた。X-tremeGENEトランスフェクション試薬(Roche)を陽性対照(プラスミド5μgおよびトランスフェクション試薬15μlを混合し、無血清条件下で細胞をトランスフェクションするのに用い、8時間後に、培地を10%FBSを含有するDMEMに変えることによって培養を続けた)として用いた。細胞を、無血清DMEM培地で3回ゆすぎ、次いで、複合体を添加し、3時間インキュベートした。細胞表面に吸着し、まだ細胞内に飲食されていなかったタンパク質を除去するために、ヘパリン溶液を用いて3回洗浄を行った。次いで、培地を10%FBS DMEM培地に変えた後、培養を続けた。培地を変えた後の12h、24h、36h、および48hに、青色蛍光タンパク質発現のフローサイトメトリー分析を行った。
【0137】
フローサイトメトリー分析の結果を図15~16に示した。ZFP9に結合したプラスミドは、それが核に入ったときのみ、転写プロセスを完了することができた。したがって、ZFP9がエンドソームから脱出したときのみ、それは、結合しているプラスミドを運んで核に入ることができ、このようにして、転写プロセスにより、青色蛍光タンパク質の発現を開始させることができた。T-ZFP9と比較して、pH感受性ペプチドINF7(TI-ZFP9)の導入は、青色蛍光比率を約10%増やすことができた(p=0.035)が、それは依然として低レベルであった。すなわち、ほとんどの複合体は、脱出して、核に入ることができなかった。一方、系にプロテアーゼ切断部位をさらに導入すること(TINNE-ZFP9)によって、青色蛍光細胞の割合を有意に上昇させることができ、Rocheのトランスフェクション試薬X-tremeGENEのものと等しい、約65%(p=0.018)に48hに達した。CTSLならびにフーリン特異的切断部位NおよびNeの導入は、ZFP9/pTT5-BFP-6BS複合体を保持している送達系が細胞に入るエンドサイトーシスプロセス中に、保持されているZFP9の脱出プロセスを有意に促進し、より多くの複合体が核に入り転写を完了することができ、次いでBFP蛍光を発現したと理解することができた。
【0138】
実施例3:プロテインホスファターゼPpm1bの形質導入における送達系の適用
TNF-αは、細胞表面受容体に結合して、RIP3リン酸化を誘導し、多タンパク質複合体のネクロソームを形成し、ネクロソーム内のリン酸化RIP3がMlklを動員し、リン酸化し、細胞が壊死プログラムに入る。このプロセスにおいて、細胞内プロテインホスファターゼ1B(Ppm1b)は、RIP3を脱リン酸化ことによって、プログラム細胞壊死(ネクロトーシス)を阻害することができる。プログラム細胞壊死は、炎症性疾患、虚血-再灌流傷害、神経変性疾患、および他の疾患の発生と密接な関係があると判明しているという事実に鑑み、Ppm1bタンパク質は、プログラム細胞壊死に関係する上記の疾患の治療における大きな可能性を示している。
【0139】
3.1 送達系-Ppm1bタンパク質複合体用の発現ベクターの構築
TAT、INF7、プロテアーゼ切断部位、およびカーゴ分子Ppm1b(配列番号31)を含有する組換えタンパク質用の発現ベクターを構築した。各組換えタンパク質の構造図を図17に示し、各コンポーネントのアミノ酸配列を下記の表6に示した。構築方法は以下の通りだった。TAT、INF7、プロテアーゼ切断部位、およびPpm1bの核酸配列をPCR増幅によって得た。これらのパーツを、複数ラウンドのPCRによって接続し、PCRの最終ラウンドで、フォワードプライマーにより、NdeI制限部位とpET-21b(+)中の対応するNdeI制限部位の上流のオーバーラップとを断片の5’末端に導入し、リバースプライマーにより、BamHI制限部位とpET-21b(+)中の対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップとを断片の3’末端に導入した。pET-21b(+)プラスミドをNdeIおよびBamHIで二重消化した。GIBSON assemblyによって、オーバーラップのある挿入断片を、消化されたベクターpET-21b(+)に連結した。
【0140】
【表5】

3.2 送達系-Ppm1b複合体の発現および精製
3.1に記載の発現プラスミドで大腸菌発現株BL21(DE3)を形質転換した。形質転換後のプレートから単一コロニーを採取し、アンピシリン抵抗性を含有する5mlのLB液体培地中に播種し、終夜培養し、次いで、終夜培養された細菌培養物1mlを、アンピシリン抵抗性を含有する500mlのLB液体培地中に移し、続いて、細菌培養物のOD600が約0.6になるまで、37℃、180rpmで培養し、次いで、誘導物質であるIPTGを、最終濃度0.2mMになるまで添加し、続いて、25℃で8時間誘導を行った。誘導の後、細菌細胞を、4℃、7000gで10分間の遠心分離によって収集し、細菌細胞の一部は、タンパク質の誘導発現を検出するために採取した。次いで、細菌細胞をタンパク質精製用の平衡緩衝剤(グリセロール50ml、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン3.6342gが1Lの再蒸留水中に溶解しており、pHが8.0に調整されている)10ml中に再懸濁し、超音波で破砕した。次いで、遠心分離によって上清を採取し、AKTAタンパク質精製システムのスルホプロピル(SP)陽イオン交換カラムにロードした。次いで、様々な比率の平衡緩衝剤および高塩濃度溶出剤(グリセロール50ml、NaCl 116.88g、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン3.6342gが1Lの再蒸留水中に溶解しており、pHが8.0に調整されている)による勾配溶出によって所望のタンパク質を得た。タンパク質濃度は、分光光度計またはBCAタンパク質アッセイキットで測定することができた。精製した各融合タンパク質を分注し、-20℃で保存した。各タンパク質のSDS-PAGEの結果を図18に示した。
【0141】
3.3 TNF-αによって誘導される壊死の比率に対する送達系-Ppm1b複合体の効果
L929細胞を12ウェル細胞培養プレートに播種し、終夜培養し、タンパク質処置の前に、ウェルあたりの細胞数が確実に約2×10/mlとなるようにした。細胞を、無血清DMEM培地で3回ゆすぎ、3.2で得られた送達系タンパク質(Ppm1b、T-Ppm1b、TI-Ppm1b、TINNe-Ppm1b)100μl/5μMをそれぞれ無血清培地に添加し、3時間インキュベートした。次いで、20ng/ml TNF-αおよび20mM z-VADを含有する10%FBS DMEM1mlを添加し、10時間インキュベートした。細胞を収集し、PI染色し、フローサイトメトリー分析を行って、細胞壊死の比率を観察した。レンチウイルスで形質導入したPpm1b(Lenti-Ppm1b)およびレンチウイルス(Lenti-vec)を対照として用い、Ppm1b発現配列を有するレンチウイルスおよび対照レンチウイルスのパッケージングを行い、HEK-293T細胞上で収集し、Ppm1bが細胞内で完全に発現されるように24時間L929細胞を感染させた後に、以降のTNF-α刺激用に感染L929細胞を再プレーティングした。
【0142】
結果を図19に示した。pH感受性ペプチドINF7(TI-Ppm1b)の導入は、T-Ppm1bと比較して、細胞壊死を少しだけ阻害することができたが、それは依然として低レベルであった。しかし、系にプロテアーゼ切断部位をさらに導入すること(TINNe-Ppm1b)によって、TINNe群は、レンチウイルス群のレベルと同程度の細胞壊死阻害能を有した。細胞壊死率を約25%まで大幅に低下させることができる。したがって、CTSLならびにフーリン特異的切断部位NおよびNeの導入は、Ppm1b複合体を保持している送達系を細胞内に入れるエンドサイトーシスプロセス中に、保持されているPpm1bの脱出プロセスを有意に促進し、より多くのPpm1bが細胞質に入り、RIP3のリン酸化プロセスを阻害し、それによって、細胞壊死率を低下させることができた。
【0143】
実施例4:遺伝子編集酵素Cas9における送達系の適用
CRISPR/Cas9遺伝子編集システムでは、sgRNAがCas9タンパク質に結合し、sgRNAは、標的部位を特異的に認識することができ、Cas9は、DNA二本鎖分子に結合し、切ることができ、非相同末端組換えまたは相同組換え修復を介して標的遺伝子の編集が実現される。このシステムでは、Cas9は、その機能を完遂するために、核に入らなければならない。これに基づいて、本発明者らは、真核細胞上で遺伝子編集を達成するように、送達系をCas9タンパク質と融合させた。
【0144】
4.1 送達系-Cas9タンパク質複合体用の発現ベクターの構築
TAT、INF7、プロテアーゼ切断部位、および核移行シグナル(NLS)を保持するカーゴ分子Cas9(配列番号33)を含有する組換えタンパク質の発現ベクターを構築した。各組換えタンパク質の構造の概略図を図20に示し、各コンポーネントのアミノ酸配列を下記の表6に示した。構築方法は以下の通りだった。TAT、INF7、プロテアーゼ切断部位NおよびNe、Cas9をコードする核酸配列をPCR増幅によって得た。これらのパーツを、複数ラウンドのPCRによって接続し、PCRの最終ラウンドで、フォワードプライマーにより、NdeI制限部位とpET-21b(+)中の対応するNdeI制限部位の上流のオーバーラップとを断片の5’末端に導入し、リバースプライマーにより、BamHI制限部位とpET-21b(+)中の対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップとを断片の3’末端に導入した。pET-21b(+)プラスミドをNdeIおよびBamHIで二重消化した。GIBSON assemblyによって、オーバーラップのある挿入断片を、消化されたベクターpET-21b(+)に連結した。
【0145】
【表6】
【0146】
4.2 送達系-Cas9複合体の発現および精製
ニッケルカラムでの予備精製:4.1に記載の発現プラスミドで大腸菌発現株BL21(DE3)を形質転換した。単一コロニーを形質転換後のプレートから採取し、アンピシリン抵抗性を含有するLB液体培地5mlに播種し、終夜培養した。次いで、終夜培養された細菌培養物1mlを、アンピシリン抵抗性を含有するLB液体培地500mlに移し、細菌培養物のOD600が約0.6になるまで、37℃、180rpmで培養し、誘導物質であるIPTGを、最終濃度0.2mMになるまで添加し、続いて、25℃で8時間誘導を行った。誘導の後、7000g、4℃で10分間の遠心分離によって細菌細胞を収集した。次いで、細菌細胞をタンパク質精製用の平衡緩衝剤(5%グリセロール、30mM TB8.0、50mMグリセロール、500mM塩化ナトリウム、25mMグルコース)10mlで再懸濁し、超音波で破砕した。次いで、遠心分離によって上清を採取し、タンパク質精製システムのポリヒスチジンタグ付きタンパク質用のタンパク質精製カラム上にロードした。次いで、タンパク質精製システムによって、タンパク質精製システム用の溶離緩衝剤(5%グリセロール、30mM TB8.0、50mMグリセロール、500mM塩化ナトリウム、25mMグルコース、250mMイミダゾール)で所望のタンパク質を溶出させた。
【0147】
陽イオン交換カラム上での最終精製:ニッケルカラム上での予備精製から収集された所望のタンパク質を平衡緩衝剤(30mM TB8.0、50mMグリセロール、250mM塩化ナトリウム、25mMグルコース、pHが7.2に調整されている)に対して透析し、AKTAタンパク質精製システムのスルホプロピル(SP)陽イオン交換カラムにロードした。次いで、様々な比率の平衡緩衝剤および高塩濃度溶出剤(30mM TB8.0、50mMグリセロール、250mM塩化ナトリウム、25mMグルコース、pHが7.2に調整されている)による勾配溶出によって所望のタンパク質を得た。タンパク質濃度は、分光光度計またはBCAタンパク質アッセイキットで測定することができた。精製した各融合タンパク質を分注し、-20℃で保存した。各タンパク質のSDS-PAGEの結果を図21に示した。
【0148】
4.3 HEK293T-RFPレポーター細胞系の構築
Cas9は、sgRNAに結合することによって、標的部位を特異的に認識することができ、ドナーが提供されていなければ、非相同末端組換えが起こる。したがって、レンチウイルス感染によって、sgRNA認識部位および読み枠にない2つの赤色蛍光タンパク質遺伝子(dsRedとmCherryはGによって接続されている)がHEK-293T細胞のゲノムに組み込まれる。そのような場合、Cas9が、sgRNA認識部位でDNA配列の相同末端組換えの発生を引き起こすと、それにより、読み枠にない赤色蛍光タンパク質遺伝子が読み枠に入って、発現されることになり、これにより、細胞が非蛍光状態から赤色蛍光状態に変わる。それゆえ、遺伝的に操作された酵素であるCas9の形質導入についての送達系の効率を、赤色蛍光が生じたかどうか、および赤色蛍光細胞の数によって評価することができる(図22)。
【0149】
4.3.1 RFP レポーター細胞系用のレンチウイルスプラスミドの構築
dsRedのコード配列(配列番号35)およびmCherryのコード配列(配列番号36)をPCR増幅によって得た。sgRNA認識部位(配列番号37)のDNA配列は比較的短く、それゆえ、プライマー中に設計した。これらのコンポーネントを複数ラウンドのPCRによって連結した。PCRの最終ラウンドで、フォワードプライマーにより、Hind III制限部位とレンチベクター上の対応するHind III制限部位の上流のオーバーラップとを断片の5’末端に導入し、リバースプライマーにより、BamHI制限部位とレンチベクター上の対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップとを断片の3’末端に導入した。このレンチプラスミドをHind IIIおよびBamH Iで二重消化した。GIBSON assemblyによって、オーバーラップのある挿入断片を、消化されたレンチベクターに連結した。構築に成功したプラスミドのマップを図23に示す。
【0150】
4.3.2 レンチウイルスのパッケージング、感染、および細胞系抵抗性スクリーニング
HEK-293T細胞を6ウェルプレートに播種し、終夜培養し、プラスミドトランスフェクション前に、ウェルあたりの細胞数が確実に約2×10/mlとなるようにした。トランスフェクションの前に、培地を無血清DMEM培地に交換した。レンチ組換え体プラスミド(RFPレポーター)1.5μg、pMDLプラスミド0.75μg、pVSV-Gプラスミド0.45μg、pREVプラスミド0.3μg(質量比は、5:3:2:1であった)を無血清DMEM300μlに添加し、緩徐に十分に吹き込み撹拌し、5分間静置した。次いで、X-tremeGENEトランスフェクション試薬9μlを添加し、緩徐に十分に吹き込み撹拌し、室温で15分間静置した。次いで、それを細胞上清に添加した。8時間後に、培地を10%FBSを含有するDMEMに変え、その後、培養を続けた。60時間後に、培養上清を収集し、4℃で保存した。
【0151】
HEK-293T細胞を12ウェルプレートに播種し、終夜培養し、レンチウイルス感染前に、ウェルあたりの細胞数が確実に約2×10/ml(50%密度)となるようにした。細胞培養上清を捨て、レンチウイルス(Moi=3)300μl、10%FBS DMEM700μl、および濃度10μg/mlのポリブレンを添加した。続いて、無菌条件下、2500rpmで30分間の遠心分離を行って、次いで、培養を続けた。
【0152】
48時間のレンチウイルス感染の後、1/3の比率で細胞を継代し、抵抗性スクリーニングを行うために、濃度2.5μg/mlのピューロマイシンを添加した。スクリーニングで得られた陽性細胞をクローニングして、HEK293T-RFPレポーターのモノクローナル細胞株を得た。
【0153】
4.3.3 GM3-gRNA転写プラスミドの構築
gRNAの導入は、細胞内でgRNAに転写されることになる転写プラスミドのトランスフェクションによって行われる。gRNAに対応するDNA配列は、プライマーのアニーリングおよびオーバーラップによって生成される。プライマー設計のプロセスにおいて、AflII制限部位の付着末端が直接的に導入された。gRNAクローニングベクターをAflII単一酵素消化で処理し、ベクターおよび挿入断片を、それらそれぞれの付着末端を用いて、T4 DNAリガーゼで連結した。
【0154】
4.4 送達系-Cas9複合体の編集効率の評価
gRNA転写プラスミドのトランスフェクション:HEK-293T-RFPレポーター細胞系を12ウェルプレートに播種し、終夜培養し、トランスフェクション前に、ウェルあたりの細胞数が確実に約2.5×10/mlとなるようにした。トランスフェクションの前に、培地を無血清DMEM培地に交換した。gRNA-GM3転写プラスミド1μgを無血清DMEM100μlに添加し、緩徐に十分に吹き込み撹拌し、5分間静置した。X-tremeGENEトランスフェクション試薬3μlをさらに添加し、十分に吹き込み撹拌し、15分間静置した。次いで、それを細胞上清に添加した。8時間後に、培地を10%FBS DMEMに変えた。
【0155】
送達系によるCas9の形質導入:gRNA転写プラスミドのトランスフェクションの後の12h(血清含有DMEMに変えた後の4h)に、細胞を無血清DMEMで3回すすぎ、4.2で得られた5μMの送達系-Cas9複合体を無血清DMEM条件下で添加し、3時間インキュベートした。培地を10%FBS DMEMに変え、培養を続け、赤色蛍光タンパク質発現の観察およびフローサイトメトリー分析を48hに行った。
【0156】
フローサイトメトリーの結果を図24に示した。T-Cas9の形質導入の後、赤色蛍光細胞の割合は低かった(3.7%)。すなわち、ほとんどのCas9タンパク質は、脱出し、核に入ることができなかった。pH感受性ペプチドINF7(TI-Cas9)の導入により、赤色蛍光細胞の割合を9%に増やすことができた。さらに、系にプロテアーゼ切断部位をさらに導入すること(TINNE-Cas9)によって、赤色蛍光タンパク質を発現している細胞の数を有意に増やし、48時間以内に約14%に達するようにすることができた。したがって、CTSLならびにフーリン特異的切断部位NおよびNeの導入は、Cas9を保持している送達系を細胞内に入れるエンドサイトーシスプロセス中に、保持されているCas9の脱出プロセスを有意に促進し、核移行シグナルの作用の下、より多くのCas9が核に入った。細胞内転写によって形成されたGM3 sgRNAに結合した後、Cas9は、標的配列を特異的に認識した。この部位の近くで相同末端修復が起こって、それにより、赤色蛍光遺伝子が読み枠に入り、発現されることになる。
【0157】
実施例5:非共有結合性連結に基づく送達系の確立
融合発現に加えて、本発明の融合タンパク質とカーゴの間の接続様式は、強い相互作用を有するヘテロ二量体ロイシンジッパーなど、アダプターペアを呼ばれるタンパク質ドメインを介した非共有結合性の相互作用とすることもできた(図25)。2つの逆平行ロイシンジッパードメインは、それらの空間構造および電荷分布の相補性により、自発的に合体してオリゴマーを形成することができる。NZとCZは、もう一方と合体することができるそのような一対のロイシンジッパーであると報告されている。本発明者らは、本発明の細胞内送達系にNZドメインを融合させ(TINNe-NZ)、核移行シグナル(NLS)付きのGFPβ1-10にCZドメインを融合させ、カーゴ(CZ-GFPβ1-10-NLS)とした。2種の融合タンパク質を混合し、インキュベートして、両者を合体させ、ヒストン-β11を安定的に発現しているHEK293T細胞に形質導入するのに用い、エンドソーム脱出効率をGFPの比率および相対蛍光強度によって評価することができた。したがって、カーゴに融合タンパク質を接続するのにNZ-CZアダプターペアを使用することの実現可能性を評価した。
【0158】
5.1 送達系-NZ融合タンパク質およびCZ-GFPβ1-10融合タンパク質用の発現ベクターの構築
pET32aベクターをベースにして、TAT、INF7、プロテアーゼ切断部位、およびNZドメインを含有する組換えタンパク質用の発現ベクター、ならびにCZドメイン、核移行シグナル(NLS)付きのカーゴ分子GFPβ1-10を含有する組換えタンパク質用の発現ベクターを構築した。ここで、可溶化標識として、TrxAを導入した。各組換えタンパク質の構造概略図を図26に示し、送達系のアミノ酸配列を下の表に示した。構築方法は以下の通りだった。最初に、前述のベクターをテンプレートとして用い、送達系中のTAT、INF7、N、Ne、およびNZ配列、ならびにCZ配列およびカーゴ分子sGFPβ1-10をコードする核酸配列をPCR増幅によって得た。TrxA-TINNe-NZ用には、PCRプロセスの最終ラウンドで、フォワードプライマーにより、BamHI制限部位とpET-32a(+)中の対応するBamHI制限部位の上流のオーバーラップとを断片の5’末端に導入し、リバースプライマーにより、HIindIII制限部位とpET-32a(+)中の対応するHIindIII制限部位の下流のオーバーラップとを断片の3’末端に導入した。pET-32a(+)プラスミドをBamHIとHIindIIIで二重消化した。GIBSON assemblyによって、オーバーラップのある挿入断片を、消化されたベクターpET-32a(+)に連結した。CZ-GFPβ1-10用には、PCRプロセスの最終ラウンドで、フォワードプライマーにより、NdeI制限部位とpET21b(+)中の対応するNdeI制限部位の上流のオーバーラップとを断片の5’末端に導入し、リバースプライマーにより、BamHI制限部位とpET-21b(+)中の対応するBamHI制限部位の下流のオーバーラップとを断片の3’末端に導入した。pET-21b(+)プラスミドをNdeIおよびBamHIで二重消化した。GIBSON assemblyによって、オーバーラップのある挿入断片を、消化されたベクターpET-21b(+)に連結した。
【0159】
【表7】
【0160】
5.2 送達系-NZ融合タンパク質およびCZ-GFPβ1-10融合タンパク質の発現および精製
5.1に記載の発現プラスミドで大腸菌発現株BL21(DE3)を形質転換した。単一コロニーを形質転換後のプレートから採取し、アンピシリン抵抗性を含有するLB液体培地5mlに播種し、終夜培養した。終夜培養された細菌培養物1mlを、アンピシリン抵抗性を含有するLB液体培地500mlに移し、細菌培養物のOD600が約0.6になるまで、37℃、180rpmで培養した。25℃で8時間の誘導を行うため、誘導物質であるIPTGを、最終濃度0.2mMになるまで添加した。誘導の後、細菌細胞を4℃、7000gで10分間の遠心分離によって採取し、細菌細胞をタンパク質精製用の平衡緩衝剤(グリセロール50ml、NaCl 8g、KCl 0.201g、NaHPO 1.44g、KHPO 0.24gが1Lの再蒸留水中に溶解している)10ml中に再懸濁し、超音波で破砕した。遠心分離によって上清を収集し、タンパク質精製システムのポリヒスチジンタグ付きタンパク質用のタンパク質精製カラム上にロードした。次いで、タンパク質精製システムによって、タンパク質精製システム用の溶離緩衝剤、すなわち溶離緩衝剤2#(グリセロール50ml、NaCl 8g、KCl 0.201g、NaHPO 1.44g、KHPO 0.24g、イミダゾール17gが1Lの再蒸留水中に溶解している)を用いて、所望のタンパク質を溶出させた。タンパク質濃度は、分光光度計またはBCAタンパク質アッセイキットで測定することができた。精製した各融合タンパク質を分注し、-20℃で保存した。各タンパク質のSDS-PAGEの結果を図27に示した。
【0161】
5.3 スプリットGFPシステムによるアダプターベースの送達系の送達効率の検出
上で得られたHEK-293T-Hitone-GFPβ11細胞系を12ウェルプレートに播種し、終夜培養し、タンパク質処理前に、ウェルあたりの細胞数が確実に約5×10/mlとなるようにした。次いで、細胞を無血清DMEM培地で3回ゆすいだ。対照群および実験群ならびにそれらが用いたタンパク質(5.2で得られたもの)の量を下の表に示した。表中、対照2および実験群における2種のタンパク質は、細胞をインキュベートする前に、無血清培地と室温で10分間混合した。無血清培地条件における3時間のインキュベーションの後、細胞表面に吸着し、まだ飲食されていなかったタンパク質を除去するために、細胞をヘパリン溶液で3回洗浄し、次いで、培地を10%FBS DMEM培地に変えた後、培養を続けた。蛍光顕微鏡観察および緑色蛍光陽性の細胞の比率のフローサイトメトリー分析およびMFIを12時間時点に行った。
【0162】
フローサイトメトリー分析の結果を図28に示した。結果は、2つの対照群(CZ-GFPβ1~10/TrxA-TINNe+CZ-GFPβ1~10)のMFI値が両方とも5未満であったことを示した。このうち、対照群2(TrxA-TINNe+CZ-GFPβ1~10)は、対照群1の値よりわずかに高いMFIを有した。本発明者らは、それは、TrxA-TINNeとCZ-GFPβ1~10の間の非特異的な吸着があり、それによって、TINNeによりカーゴCZ-GFPβ1~10が細胞に入り、エンドソームから脱出することが可能となったことによって引き起こされたと推測した。TrxA-TINNe-NZ+CZ-GFPβ1~10群のMFI値は、約20であり、これは、対照群の値より有意に高かった。このことは、NZとCZの作用の下で、ある程度、TrxA-TINNeがGFPβ1~10と合体し、TINNeの作用を介して、GFPβ1~10が細胞に入り、エンドソームから脱出したことを示した。アダプターベースの接続法の蛍光強度は、融合発現によって得られたTINNe-GFPβ1~10のものより依然として低かったが、この実験は、NZ-CZまたは類似のアダプターをベースとした接続法が、送達系をカーゴと接続するのに使用でき、細胞に入り、エンドソームから脱出するようにカーゴを効果的に送達できることを確認した。
【0163】
【表8】
【0164】
本発明の特定の実施形態について詳細に記載したが、当業者ならば、そのような詳細には、開示されたすべての教示にしたがって様々な改変および変更を加えることができ、そのような変更形態も本発明の保護範囲内にあることを理解するであろう。本発明の全体は、添付の特許請求の範囲およびその任意の等価物によって示される。
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【配列表】
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