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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】床冷暖房システム
(51)【国際特許分類】
   F24D 3/16 20060101AFI20240826BHJP
   F24D 3/00 20220101ALI20240826BHJP
   F24D 11/00 20220101ALI20240826BHJP
【FI】
F24D3/16 C
F24D3/00 E
F24D3/16 B
F24D11/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023036568
(22)【出願日】2023-03-09
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】519305708
【氏名又は名称】株式会社こころ一生に
(73)【特許権者】
【識別番号】523087331
【氏名又は名称】株式会社伸興建設
(73)【特許権者】
【識別番号】523087342
【氏名又は名称】猪瀬 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100129056
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 信雄
(72)【発明者】
【氏名】堀井 清之
(72)【発明者】
【氏名】菊地 俊克
(72)【発明者】
【氏名】堀井 美保
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 修平
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-057026(JP,A)
【文献】登録実用新案第3195933(JP,U)
【文献】特開2017-180004(JP,A)
【文献】特開2004-124922(JP,A)
【文献】実開平06-049027(JP,U)
【文献】特開平11-248176(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110762599(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24D 3/16
F24D 3/00
F24D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体を用いた床冷暖房システムであって、パイプ内に熱媒体を通した熱源部と、該熱源部に周設される蓄熱層と、該蓄熱層からの熱放射を反射する機能と外部環境の熱を反射する機能を有する境界断熱層と、から成り、
該蓄熱層は、床材に接し、熱取込み層と熱保持層とから成り、
該熱取込み層は、該熱源部に周設される黒色の物質で構成され、
該熱保持層は、該熱取込み層に周設され、熱を保持する多孔質物質あるいは砂を備え、
該境界断熱層は、熱放射制御シートで挟まれた白色の発泡材で構成され、
少なくとも、該蓄熱層の周辺ならびに下方側に、該境界断熱層が配置されており、
該境界断熱層の周辺ならびに下方側に、該境界断熱層からの散逸熱、および、外部環境からの熱の流入を遮断する熱遮断層が配置されて成り、
該熱遮断層は、伝導及び対流を制限する対流伝導制御層と、対流を制限する断熱層と、から成り、
該対流伝導制御層は、籾殻で構成されていることを特徴とする床冷暖房システム。
【請求項2】
前記境界断熱層の前記熱放射制御シートは、アルミ箔であり、該アルミ箔の両面の熱輻射率は0.05以下であることを特徴とする請求項1に記載の床冷暖房システム。
【請求項3】
前記蓄熱層における熱取込み層の黒色の物質は、黒色の多孔質物質であり、熱輻射率が0.94以上であり、前記蓄熱層の前記熱保持層は、白色の多孔質物質又は砂で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の床冷暖房システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源からの放射熱を有効に取り込み、その散逸を低減する放射熱制御を主体とする高効率の床冷暖房システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
床冷暖房システムを含む冷暖房システムは、熱の移動を制御することによって、効果を得るシステムである。熱の移動(伝熱)には、「熱放射、対流、熱伝導」がある。熱放射とは、物体の熱運動により電磁波を発する現象のことである。対流とは、流体の流れによって熱が伝えられる現象のことである。熱伝導とは、物体内において熱が高温から低温へ移動する現象のことである。
これより以降、熱伝導を、単に「伝導」と表現する。また、熱放射による熱を「放射熱」、対流による熱を「対流熱」、伝導による熱を「伝導熱」と表現する。
従来、床冷暖房システムにおいて、アルミ箔を伝熱面として機能させ、黒色塗料により熱容量を大きくするものや、熱放射反射材として銀箔シートを用い、砂利を蓄熱層として使用するもの、さらに、反射鏡板を熱放射の反射として用い、鏡がU字型形状であるものなどがあった。
しかし、これらは、伝熱あるいは蓄熱のいずれかに主眼を置いたものが多く、伝熱と蓄熱を合わせた効率の良い冷暖房システムとはなっていなかった。
そこで、蓄熱効果を高めると共に、熱の散逸を低減することの両方を行う高効率な床冷暖房システムが求められていた。
【0003】
このような問題に対して、従来からも様々な技術が提案されている。例えば、床暖房パネル用配管ユニットの熱放射量を高める技術が開示されている(特許文献1)。より詳しくは、パネル材に収容される熱媒流通管と、熱媒流通管に周設される熱放射層と、熱放射層の少なくとも下方側に配置され、熱放射層から受ける放射熱を反射させる反射材と、を備え、アルミ箔が伝熱面として機能されること、並びに、黒色塗料により熱容量を大きくすることについて、開示されている。
従って、これらの技術は、公知である。
【0004】
また、効率的な蓄熱、保温、効果的な放熱を行う蓄熱式電気床暖房装置が開示されている(特許文献2)。より詳しくは、断熱層、蓄熱層、平面仕上層を持ち、放射熱反射材として銀箔シートを用いること、砂利を蓄熱層として使用することの組み合わせが技術提案されている。
従って、これら構成を単独又は組み合わせとして用いることは、公知である。
【0005】
さらに、反射鏡板を用いる温水式床暖房パネルが開示されている(特許文献3)。より詳しくは、反射鏡板を熱放射の反射として用い、鏡がU字型形状とする技術が提案されている。
従って、これらの構成を用いることは、公知である。
また、石を用いて蓄熱すること自体は、懐石等で用いられ、公知公用である。
【0006】
床暖房に関連する技術として、上述のような技術が開示されているが、いずれも伝熱あるいは蓄熱に主眼を置いた技術提案であり、伝熱と蓄熱を合わせた効率の良い冷暖房システムとはなっておらず、上記問題の解決には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-168206号公報
【文献】特開2004-53164号公報
【文献】実開昭55-167092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点、即ち、従来の床暖房システムでは伝熱あるいは蓄熱に主眼を置いたものが多く、伝熱と蓄熱を合わせた効率の良い冷暖房システムとはなっていなかったという問題点に鑑み、蓄熱効果を高めると共に、熱の散逸を低減することにより、伝熱と蓄熱を合わせた高効率な床冷暖房システムを構築することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、床冷暖房システムであって、パイプ内に熱媒体を通した熱源部と、熱源部に周設される蓄熱層と、蓄熱層からの熱放射を反射する機能と外部環境の熱を反射する機能を有する境界断熱層と、から成り、蓄熱層は、床材に接し熱取込み層と熱保持層とから成り、熱取込み層は熱源部に周設される黒色の物質で構成され、熱保持層は、熱取込み層に周設され、熱を保持する多孔質物質あるいは砂を備え、境界断熱層は、熱放射制御シートで挟まれた白色の発泡材で構成され、少なくとも、蓄熱層の周辺ならびに下方側に、境界断熱層が配置されている手段を採用する。
【0010】
また、本発明は、境界断熱層の熱放射制御シートが、アルミ箔であり、該アルミ箔の両面の熱輻射率は0.05以下である手段を採る。
【0011】
さらに、本発明は、蓄熱層における熱取込み層の黒色の物質が、黒色の多孔質物質であり、熱輻射率が0.94以上であり、蓄熱層の熱保持層は、白色の多孔質物質又は砂で構成されている手段を採る。
【0012】
またさらに、本発明は、境界断熱層の周辺ならびに下方側に、境界断熱層からの散逸熱、および、前記外部環境からの熱の流入を遮断する熱遮断層が配置され、該熱遮断層は、伝導及び対流を制限する対流伝導制御層と、対流を制限する断熱層とから成る手段を採る。
【0013】
さらにまた、本発明は、熱遮断層における対流伝導制御層が、籾殻で構成されている手段を採る。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る床冷暖房システムによれば、黒色物質を用いた蓄熱層により高められた蓄熱効果と、アルミ箔と発泡材を用いた境界断熱層により熱の散逸を低減されたことによって、今までにない高効率な床冷暖房システムを構築することができる。
【0015】
また、本発明に係る床冷暖房システムによれば、熱遮断層によって熱の散逸を低減でき、より高効率な床冷暖房システムを構築することができる。
【0016】
さらに、本発明に係る床冷暖房システムによれば、熱媒体として、水道水の冷水、既存の温水ボイラの温水を流用することができるため、高度な施工技術を用いることなく、高効率な床冷暖房システムを構築することができる。
【0017】
またさらに、本発明に係る床冷暖房システムによれば、全熱移動の75%を占めると言われている輻射熱を制御することにより、パイプに流れる温水等の熱エネルギを効率よく床下空間に移動させることができ、移動した熱を長時間にわたり保持することが可能となって、今までにない高効率な床冷暖房システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る床冷暖房システムの実施形態を示す全体模式図である。
図2】本発明に係る床冷暖房システムの実施形態を示す全体模式図である。
図3】本発明に係る床冷暖房システムの実施形態を示す模式図である。
図4】本発明に係る床冷暖房システムの実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る床冷暖房システムは、アルミ箔と発泡材を用いた境界断熱層によって熱の散逸を低減し得ると共に、黒色物質を用いた蓄熱層によって蓄熱効果を高めることが可能であって、今までにない高効率の床冷暖房システムを構築することが可能であることを最大の特徴とする。
以下、本発明に係る床冷暖房システムの実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0020】
なお、以下に示される床冷暖房システムの全体構成及び各部の構成は、下記に述べる実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内、即ち、同一の作用効果を発揮できる形状や寸法、構造等の範囲内で適宜変更することができるものである。
【0021】
図1から図4に従って、本発明を説明する。
図1は、本発明に係る床冷暖房システムの実施形態を示しており、具体的には、家屋を含む本発明の全体模式図であって、床材や柱等の家屋の構成も描画している。
図2は、本発明に係る床冷暖房システムの実施形態を示す全体模式図であり、紙面右が上方側、紙面左が下方側である。
図3は、本発明に係る床冷暖房システムの実施形態を示す模式図であって、暖房時の熱移動を示しており、詳しくは、熱放射と伝導について、熱源からの熱移動を示している。
図4は、本発明に係る床冷暖房システムの実施形態を示す模式図であって、(a)は冷房時の熱移動を示し、(b)は冷房時の熱移動を強化した変形例を示している。
【0022】
床冷暖房システム1は、水道水の冷熱、温水ボイラの温熱を利用した冷暖房システムである。
より詳しくは、水道水の冷水、温水ボイラの温水の流れるパイプを床下に詰めた充填剤の中へ通すことにより、その熱エネルギを長時間保持する高効率の床冷暖房システムである。伝熱効率並びに蓄熱効果を共に高めることを特徴とする。
【0023】
このシステムで制御する物理因子は、主に、熱エネルギの保持と散逸である。すなわち、パイプラインを通る温水熱エネルギを効率よく充填剤に移行させること、そして、充填剤に移行した熱エネルギの散逸を防ぐこと、これらが主たる制御因子になる。
熱は、熱放射・対流・伝導という3つの伝わり方で広がっていく。ペンシルバニア州立大学の報告によると、空間での熱損失の大半は、伝導熱、対流熱によるものではなく、熱放射であり、その量は全熱移動の75%を占めると述べられている。
よって、このシステムは、いかに熱放射を床下に封じ込めるか、保持するかを目的としたものである。また、既存のボイラの温水を利用でき、また、身近な材料を使用し、安価で作ることができることも目的としている。
【0024】
床冷暖房システム1は、冷熱又は温熱を供給する熱源部10と、冷温熱を溜める蓄熱層20と、熱遮断層50と蓄熱層20との熱移動を絶つ境界断熱層40と、外部環境71との熱移動を遮断する熱遮断層50と、からなっている。
熱源部10と蓄熱層20と境界断熱層40は、本発明の床冷暖房システムにおいて、必須の構成要素である。
熱遮断層50は、蓄熱層20と境界断熱層40を補強する意味合いが強く、本システムにおいて、補完的な役割を担っている。
床冷暖房システム1は、全体として、熱源部10を覆う長尺体である。床冷暖房システム1の上部は、床材90に接している。床冷暖房システム1の側面は、柱91、根太93等に固定する。床冷暖房システム1の底面は、大引92等に載置する場合もある(図1)。
【0025】
熱源部10は、冷熱又は温熱を供給する部分である。熱媒体12と、熱媒体12を通すパイプ11とから成る(図1図2)。
熱媒体12は、暖房時は、温熱媒体として、温水ボイラの温水等を用いる。冷房時は、冷熱媒体として、水道水の冷水等を用いる。
伝導は、接している材料に、直接熱を伝えることである。熱源部10から蓄熱層20への伝導において、加熱物である熱源部10と蓄熱層20の接触面積を大きくすることにより、伝導効率は高くすることができる。そのために、パイプラインの長さをより長くすると好適である。
パイプの材質は、限定しないが、例えば、架橋ポリエチレンなどの樹脂管が好適である。可撓性がある樹脂管は、設置時の自由度が高いからである。
また、本実施形態では、5本のパイプ11を、蓄熱層20で覆う形としているが、施工する部屋全体として、必要なパイプ数を、ひと塊の蓄熱層20で覆う形態としてもよい。そうすることで、施工する部屋の床全体を均一に冷暖房することができ、好適である。
また、施工する領域が限られる場合は、5本よりも少ないパイプ数で施工してもよい。その際、下方側への熱の散逸に対して、側面方向への熱の散逸の比率が高くなる場合があるので、下方側に比べて、側面方向への断熱量を多く、例えば、2倍程度とすると好適である。
【0026】
蓄熱層20は、温冷熱を蓄える部分であり、床材90に接している。言い換えれば、暖房時は、熱源部10から供給される熱エネルギを蓄積し、床材90に、熱を放出する部分であり、冷房時は、床材90からの熱エネルギを蓄積し、熱源部10に、熱を放出する部分である。
蓄熱層20は、熱源部10に周設され、熱取込み層21と熱保持層30とからなる(図1図2)。
【0027】
熱取込み層21は、熱源部10に周設され、黒色の物質で構成されている。
温熱の熱源である熱源部10から熱エネルギを取り込む、又は、冷熱の熱源である熱源部10に熱エネルギを排出する、層である。伝導及び放射によって、熱移動させる。伝導については、放射される放射熱の熱移動を強化している。
熱取込み層21は、黒色の物質である黒色多孔質物質22で充填されている。黒色であると、熱反射率がゼロ(熱輻射率が1)に近くなり、放射熱を効率よく吸収、排出することができる。理想的には、完全黒体である。完全黒体とは、全ての波長にわたって電磁波(光)を全く反射しない物体を指す。現実に存在する黒体物質として、熱輻射率が0.94以上のものがあり、そのような物を用いると好適である。
黒色多孔質物質22は、黒色であると共に、多孔質であることから、多孔により、より多くの放射熱を吸収、排出することができる。
多孔質の物質としては、例えば、溶岩石が適当である。また、黒色溶岩のような黒色の岩石、あるいは、黒色の砂でも良い。
熱取込み層21として、熱源部10の周囲を隙間なく、黒色多孔質物質22で充填することで、伝導的にも、放射的にも、効率よく、熱源部10の熱を吸収、排出することができる。
【0028】
黒色多孔質物質22はパイプ11に、広い面積で密着させると好適である。そのほうが、伝導による熱移動が効率的に行われるからである。また、パイプ11側に黒色塗料を塗っても良い。そうすることで、暖房時でいえば、熱の送り側であるパイプ11と熱の受け取り側である熱取込み層21の両方が黒色となり、熱の移動効率が向上するからである。
熱取込み層21の厚みは、厚ければ厚いほど良い。黒体物質は、熱放射の吸収が良いからである。例えば、10センチ程度の厚さが適当である。
【0029】
熱保持層30は、熱取込み層に周設され、熱を保持する白色の多孔質物質あるいは砂を備えている。
暖房時に、蓄熱層20で取り込まれた熱エネルギを保持し、熱保持層30の上部の床材90に伝えられ、さらに、部屋内環境70に伝えられる。
冷房時は、部屋内環境70から床材90に伝えられ、床材90から送られた熱エネルギを一旦保持し、熱取込み層21に送る部分である。
熱保持層30に充填される部材として、白色多孔質物質31が考えられる。また、熱取込み層21の上側の熱保持層30が薄い場合には、熱の散逸を防ぐ意味合いが高くなることから白色の発泡スチロールとすることも考えらえる。白色多孔質物質31として、例えば、沸石が適当である。また、蓄熱を考えると砂でもよい。白色とすることで、熱保持層30の外側にある境界断熱層40への放射による熱の散逸を低減することができる。
対流伝導制御層51において、外部環境71からの熱の影響を遮断している。熱保持層30は、対流伝導制御層51による遮断を補完する意味も持っている。よって、厚みは10センチ程度あれば十分である。
【0030】
境界断熱層40は、熱遮断層50と蓄熱層20との熱移動を絶つ部分である。
蓄熱層20からの放射熱を反射する機能と、外部環境71の熱を反射する機能を有する。
境界断熱層40は、熱遮断層50と蓄熱層20の間に位置し、第1の熱放射制御シート41及び第2の熱放射制御シート43により発泡材42(伝導対流制御部材)を挟んだ構造である(図2)。蓄熱層20を包み込む構造であり、開放部を上面に向けたコの字型である(図1)。
【0031】
第1の熱放射制御シート41及び第2の熱放射制御シート43としては、熱反射率が1(熱輻射率がゼロ)に近い部材が望ましい。例えば、アルミ箔などである。しかしながら、アルミ箔は、伝導の意味では、その厚みが薄いことやアルミの熱伝導率が高いことから、熱遮断性が高くない。
そのため、アルミ箔による伝導を防ぐために、アルミ箔単体のみでなく、アルミの伝導を制御するための伝動対流制御部材を挟んだ構造が望ましい。
また、アルミ箔は、極めて薄いことから、アルミ箔を皺のない、反射効率の高い状態を保つ必要がある。そのために、アルミ箔を板状の部材で固定すると好適である。その部材として、伝動対流制御部材を用いる。
例えば、伝動対流制御部材としては、発泡スチロールが好適である。
【0032】
境界断熱層40は、放射熱を反射させる目的を持つことから、発泡スチロールを白色とすることで、発泡スチロールへの放射熱による熱移動を、さらに、低減することができる。
発泡スチロールの泡(粒)の大きさの寸法が、10ミリから20ミリの間の気泡が成形されているものが望ましい。しかし、数ミリ程度の気泡を含む板状の発泡スチロールでも良い。
第1の熱放射制御シート41は、発泡材42の蓄熱層20側に貼り付けられる。第2の熱放射制御シート43は、発泡材42の熱遮断層50側に貼り付けられる。第1の熱放射制御シート41及び第2の熱放射制御シート43の表面を研磨等によって鏡面状とすることで、熱輻射率を0.05以下にすることができる。熱輻射率を0.05以下とすることによって、熱放射の95%以上を反射させることになり、熱放射による熱移動を大幅に減少させることができる。
【0033】
また、第1の熱放射制御シート41及び第2の熱放射制御シート43の表面は、両面とも、鏡面状とすると好適である。暖房時は、第1の熱放射制御シート41及び第2の熱放射制御シート43の蓄熱層20側の面の熱輻射率が、熱源部10からの熱移動に関係する。
冷房時、第1の熱放射制御シート41及び第2の熱放射制御シート43の熱遮断層50側の面の熱輻射率が、外部からの熱の熱移動に関係するからである。
【0034】
熱遮断層50は、伝導及び対流を制限する対流伝導制御層51と、対流を制限する断熱層60からなる。
熱遮断層50は、外部との熱移動を遮断する部分である。境界断熱層40から漏れ出る熱である散逸熱、および、外部環境71からの熱の流入を遮断するものである。
熱遮断層50は、対流伝導制御層51と断熱層60とから成る(図2)。熱遮断層50は、蓄熱層20、境界断熱層40を覆い、断面視、上方に開放したコの字型である(図1)。
いずれも、対流伝達と伝導を制御することが目的である。
断熱層60は、床冷暖房システム1の側面、底面の外郭を構成する。家屋の柱91、大引92、根太93等によって固定され、床冷暖房システム1の位置を決める。
【0035】
断熱層60は、対流制御に重きを置いている。対流制御においては、存在する空気並びに液体が少なければ少ないほど良い。熱伝導率が低く、空気の内包率の少ない材質が有効である。例えば、空気の内包率の少ない発泡スチロールや、硬質ウレタンフォーム、フェノールフォーム、ポリスチレンフォーム、グラスウール、スタイロフォーム(登録商標)、古紙綿状材料などが考え得る。
【0036】
対流伝導制御層51は、粒状の物質で構成されている。本実施形態では、籾殻52を用いる。施工時、断熱層60を設置した後、籾殻52を、コの字状の断熱層60の上側に充填する。籾殻52は軽量であり、作業は容易である。
対流伝導制御層51での伝熱を最小限にするためは、構成物質同士の接触面積が少ないことが重要である。
また、単に、接触面積が少ないものを選ぶと、そこに存在する空気あるいは液体が多くなってしまい、対流が発生しやすくなってしまう。そのため、対流を制限する方法として、2センチ程度の直径の多孔質石が望ましいとされる。空気が分断され、対流が起きにくくなるからである。本実施形態では、入手しやすい材料として、籾殻52を用いている。
籾殻52は、中空であり、繊維構造である。空気は、籾殻の単位で分断されるので、対流は制限される。籾殻は、比較的硬質であるので、籾殻同士の接触面積は小さい。また、籾殻自体の熱伝導率も低い。
そのため、籾殻52全体として、対流、伝導を制限することができる。
【0037】
図3に沿って、暖房時の熱移動について説明する。熱の移動方向を矢印で表している。直線の矢印は、放射熱を表し、ジグザグ線の矢印は、伝導熱を表している。Rdは、放射熱の番号、Rfは、反射熱の番号、Emは、透過熱の番号を表す。Cdは、伝導熱の番号である。
熱源部10の熱媒体12は温水であり、他の部分よりも十分高温である。熱媒体12からCd11、Rd11によって、熱が熱取込み層21に移動する。Cd11は、伝導であるので、パイプ11と熱取込み層21の黒色多孔質物質22の接触面積が大きいほど、熱移動量は多くなる。
放射熱Rd11は、熱媒体12で発生し、パイプ11を通過し、熱取込み層21の黒色多孔質物質22に達する。黒色多孔質物質22の表面が黒色であるので、放射熱Rd11のほとんどが黒色多孔質物質22に吸収される。そのため、非常に効率的に、熱媒体12の熱エネルギを黒色多孔質物質22に取り込むことができる。
また、パイプ11の表面に黒塗装がされていれば、更に効率的に、放射熱による熱移動を行うことができる。
【0038】
熱取込み層21に取り込まれた熱エネルギは、隣接する熱保持層30に移動していく。熱保持層30は白色多孔質物質31で構成されているので、伝導熱Cd12が主に送られる。放射熱Rd12は、熱保持層30が白色であることから、Cd12よりも小さい。しかし、熱取込み層21と熱保持層30は、非常に広い面積で接触していることから、熱移動の量としては問題ない。
【0039】
熱保持層30に入った熱は、Cd13、Rd13により、床材90に伝わり、Cd14、Rd14として、部屋内環境70に達し、室内を温める。
また、熱保持層30に入った熱の一部は、境界断熱層40の方向に向かう。伝導熱Cd15は、第1の熱放射制御シート41に入る。第1の熱放射制御シート41は、アルミ箔あるので、熱伝導率は高い。そのため、Cd15は、第1の熱放射制御シート41を通過し、発泡材42に入る。発泡材42は、発泡スチロールであるので、熱伝導率が低い。また、発泡スチロールの粒(泡)が大きいと伝導しにくいので、効率的に断熱できる。
【0040】
放射熱Rd15については、第1の熱放射制御シート41によって、大部分がRf15として反射され、一部が、Em15として、発泡材42内に入る。
発泡材42に入った熱の一部は、Cd16として、対流伝導制御層51に送られる。第2の熱放射制御シート43を介在するが、第2の熱放射制御シート43の熱伝導率が高いので、あまり低減せずに対流伝導制御層51に入る。
放射熱Rd16については、大部分がRf16として反射し、一部がEm16として、対流伝導制御層51に入る。既に、第1の熱放射制御シート41によって、放射熱を低減しているとも考えられるが、Cd15等によって、発泡材42の一部が温められ、それに伴い、放射熱を発生する場合がある。第2の熱放射制御シート43は、その放射熱を遮断する意味で重要である。
【0041】
対流伝導制御層51に入った熱のうち、伝導は、籾殻52の殻を介して行われるので、極めて小さな熱量しか移動できない。透過熱Em16として入った、放射熱は、2つの反射シートで反射されているため、極めて小さい。
そのため、断熱層60に移動する伝導熱Cd17、放射熱Rd17は、極めて小さく、断熱層60でさらに、低減されることから、外部環境71に漏れる伝導熱Cd18、放射熱Rd18は、大変小さい量となる。
【0042】
このように、蓄熱層20により高められた蓄熱効果と、境界断熱層40により熱の散逸を低減されたことによって、高効率な床暖房システムを構築することができる。
また、高効率への補完的な役割である熱遮断層50を付加することによって、熱の散逸をさらに低減でき、より高効率な床暖房システムを構築することができる。
【0043】
図4(a)に沿って、冷房時の熱移動について説明する。冷房時の主目的は、部屋内環境70で発生し、床材90に移動している熱を熱源部10によって吸収することである。その際、外部環境71からの熱が流入してしまうと、熱源部10による熱吸収の効率が下がってしまう。そのため、外部環境71からの熱流入を遮断することも重要である。
【0044】
まず、部屋内環境70の熱を熱源部10で吸収する際の熱の移動について説明する。
部屋内環境70の熱は、伝導熱Cd21、放射熱Rd21として、床材90に入り、ほぼ、そのまま、Cd22、Rd22として、熱保持層30に入る。熱保持層30は白色多孔質物質31で構成されていることから、放射熱Rd22は、若干低減するが、床材90と熱保持層30は、広い面積で接触しているので、熱の移動量としては問題ない。
【0045】
熱保持層30から熱取込み層21への熱移動は、伝導熱Cd23は、Cd22と同様に、ほぼ、そのまま、送られる。Rd23は、熱保持層30は白色多孔質物質31で構成されていることから、放射熱Rd23は、若干低減するが、熱保持層30と熱取込み層21は、広い面積で接触しているので、熱の移動量としては問題ない。
【0046】
熱取込み層21から熱源部10への熱移動は、伝導熱Cd24、放射熱Rd24で行われる。熱取込み層21を熱源部10のパイプ11に密着させることによって、伝導熱によって、スムーズに熱移動できる。
熱取込み層21が黒色多孔質物質22で構成されているので、熱取込み層21から最大限の放射熱を熱媒体12に送ることができる。
【0047】
外部環境71からの熱の流入について説明する。外部環境71は、ほぼ、屋外と同様の熱量を持つので、部屋内環境70の熱量よりも大幅に多い場合もある。外部環境71の熱量、伝導熱Cd25、放射熱Rd25は、断熱層60に入る。断熱層60は、発泡スチロール等の断熱材であるので、伝導熱Cd25、放射熱Rd25ともある程度低減される。
【0048】
断熱層60から対流伝導制御層51へ熱移動の際、伝導熱Cd26は、細かな籾殻52を通して熱移動するので、移動量は少なくなる。放射熱Rd26は、比較的低減することなく、対流伝導制御層51内を移動する。
対流伝導制御層51から境界断熱層40へ熱移動する際、放射熱Rd27は、第2の熱放射制御シート43で大部分がRf27として反射され、一部がEm27として、発泡材42に入る。伝導熱Cd27は、第2の熱放射制御シート43を通過し、発泡材42に入る。発泡材42でCd27は低減される。
境界断熱層40から熱保持層30へ熱移動する際、伝導熱Cd28は、発泡材42により、Cd27よりも大幅に低減されて、熱保持層30に入る。放射熱Rd28は、第1の熱放射制御シート41で反射され、大部分はRf28となり、一部がEm28として熱保持層30に入る。
熱保持層30から熱取込み層21への熱移動は、部屋内環境70の熱移動と同様である。
【0049】
このように、蓄熱層20により高められた蓄熱効果と、境界断熱層40により外気熱の流入を低減されたことによって、高効率な床冷房システムを構築することができる。
また、高効率への補完的な役割である熱遮断層50を付加することによって、外気熱の流入をさらに軽減でき、より高効率な床冷房システムを構築することができる。
【0050】
図4(b)に沿って、変形例を説明する。大部分は、図4(a)と同様である。断熱層60と対流伝導制御層51の間に第3の熱放射制御シート61が配置されている点が異なる。
本実施形態で、冷暖房とも、蓄熱効果、伝熱効率向上によって、高効率の床冷房装置が構築可能であるが、部屋内環境70に比べて、外部環境71の温度が極めて高い場合に、それに応じて、外部環境71からの放射熱も増大し、境界断熱層40の反射シートのみでは、十分な低減ができないことも考えられる。
そこで、対流伝導制御層51と断熱層60の間にも、反射シートを設け、冷房時の外部熱量の低減をおこなう。
外部環境71からの断熱層60を通過した放射熱Rd26は、第3の熱放射制御シート61によって、大半がRf26として反射し、一部がEm26として、対流伝導制御層51に入る。
そのため、対流伝導制御層51に入る放射熱を大幅に減少させることができる。従って、熱源部10における、部屋内環境70からの熱量に対する、外部環境71からの熱量の比を低くすることができ、冷房の高効率化を実現できる。
【0051】
以上のように、本発明に係る床冷暖房システムによれば、蓄熱層20により高められた蓄熱効果と、境界断熱層40により熱の散逸が低減されたことによって、今までにない高効率な床冷暖房システムを構築することができるものである。
また、高効率への補完的な役割である熱遮断層50を付加することによって、熱の散逸をさらに低減でき、より高効率な床冷暖房システムを構築することができる。
【0052】
さらに、熱媒体として、水道水の冷水、既存の温水ボイラの温水を流用することができるので、高度な施工技術を用いることなく、高効率な床冷暖房システムを構築できる。
【0053】
またさらに、全熱移動の75%を占めると言われている熱放射を制御することにより、パイプに流れる温水等の熱エネルギを効率よく床下空間に移動されることができ、移動した熱を長時間にわたり保持することができ、今までにない、高効率な床冷暖房システムを構築できるものである。
【0054】
さらにまた、本発明によれば、熱保持層に砂を用いることによって、蓄熱効果を高めることができる。
【0055】
そしてまた、本発明によれば、熱取込み層に黒い岩石、黒い砂、炭を用いることで、蓄熱効果を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、床冷暖房における熱媒体として、水道水の冷水、既存の温水ボイラの温水を流用することができるため、高度な施工技術が不要であって、しかも熱源からの放射熱を有効に取り込み、その散逸を低減する放射熱制御を主体とする高効率のシステムを提供するものである。よって、本発明に係る「床冷暖房システム」の産業上の利用可能性は大きいものと思料する。
【符号の説明】
【0057】
1 床冷暖房システム
10 熱源部
11 パイプ
12 熱媒体
20 蓄熱層
21 熱取込み層
22 黒色多孔質物質(溶岩石)
30 熱保持層
31 白色多孔質物質(沸石)
40 境界断熱層
41 第1の熱放射制御シート(アルミ箔)
42 発泡材(発泡スチロール、伝動対流制御部材)
43 第2の熱放射制御シート
50 熱遮断層
51 対流伝導制御層
52 籾殻
60 断熱層
61 第3の熱放射制御シート
70 部屋内環境
71 外部環境
90 床材
91 柱
92 大引
93 根太

【要約】
【課題】蓄熱効果を高めると共に、熱の散逸を低減することにより、伝熱と蓄熱を合わせた高効率な床冷暖房システムを構築する。
【解決手段】パイプ内に熱媒体を通した熱源部と、熱源部に周設される蓄熱層と、蓄熱層からの熱放射を反射する機能と外部環境の熱を反射する機能を有する境界断熱層と、から成り、蓄熱層は、床材に接し熱取込み層と熱保持層とから成り、熱取込み層は熱源部に周設される黒色の物質で構成され、熱保持層は、熱取込み層に周設され、熱を保持する多孔質物質あるいは砂を備え、境界断熱層は、熱放射制御シートで挟まれた白色の発泡材で構成され、少なくとも、蓄熱層の周辺ならびに下方側に、境界断熱層が配置されている構成を採用した。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4