(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20240826BHJP
A61K 36/15 20060101ALI20240826BHJP
A23K 20/10 20160101ALI20240826BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240826BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240826BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240826BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240826BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20240826BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20240826BHJP
A61K 33/14 20060101ALI20240826BHJP
A61K 33/06 20060101ALI20240826BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20240826BHJP
A61K 9/36 20060101ALI20240826BHJP
A23K 50/42 20160101ALN20240826BHJP
A61K 129/00 20060101ALN20240826BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
A61K36/185
A61K36/15
A23K20/10
A61P9/00
A61P43/00 121
A61K47/36
A61K47/26
A61K31/198
A61K31/36
A61K33/14
A61K33/06
A61K33/24
A61K9/36
A23K50/42
A61K129:00
A61K131:00
(21)【出願番号】P 2024021170
(22)【出願日】2024-02-15
【審査請求日】2024-02-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507173517
【氏名又は名称】株式会社スケアクロウ
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 博
(72)【発明者】
【氏名】鯉江 洋
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0136214(US,A1)
【文献】Food & Function,2013年,Vol.4,p.453-460
【文献】獣医麻酔外科学雑誌,Vol.36 S1,2005年,p.219
【文献】第38回動物臨床医学会年次大会プロシーディング,No.3,2017年,p.187-188
【文献】第37回動物臨床医学会年次大会プロシーディング,No.3,2016年,p.131-134
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
僧帽弁閉鎖不全症に罹患した動物に与える心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬、予防薬であって、
フランスの南西部の海岸において強い紫外線にさらされて生育した松の樹皮を、
10~50℃において、30重量%以上の抽出液を用いて抽出して松樹皮抽出液を生成する工程と、該松樹皮抽出液を水分含有率5~20%になるまで濃縮する工程と、
ゴマ種子に、30重量%以上のアミノ酸を添加し、乳酸菌の中から選ばれた一以上の菌を接種して10~50℃において発酵させて発酵ゴマ乾燥抽出物を生成する工程と、
前記濃縮した松樹皮乾燥抽出物に、該松樹皮乾燥抽出物と前記発酵ゴマ乾燥抽出物との重量混合比が、該松樹皮乾燥抽出物の重量比率1に対して、該発酵ゴマ乾燥抽出物の重量比率0.5~2.0になるように配合する工程と、を順に経て得られる、ことを特徴とする心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬。
【請求項2】
グルタミン酸、システイン、グリシンで構成される、0.5~0.9重量%のグルタチオン酵母を、更に有する、ことを特徴とする請求項1に記載の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬。
【請求項3】
前記発酵ゴマ乾燥抽出物は、有機セレンを重量比率75ppm以上有する、ことを特徴とする請求項1に記載の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬。
【請求項4】
請求項1に記載の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、カリウム、マグネシウム、亜鉛、マンガン又は銅を必須ミネラル補助剤として配合して成る、ことを特徴とする心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬。
【請求項5】
請求項1に記載の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、セサミン、セサモリンを含む抗酸化物リグナン類を配合して成る、ことを特徴とする心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬。
【請求項6】
心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、圧力によって一定の硬度に固めた錠剤の周囲に、デンプン、グリコーゲン、セルロースの多糖類でコーティングし、その外側にデンプン、デキストリンの水で溶けやすい単糖類、二単糖類でコーティングして成る、ことを特徴とする請求項1に記載の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬。
【請求項7】
心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、内側の被膜(12)がデンプンで形成され、外側の被膜(11)が、この内側の被膜(12)より水で溶けやすいゼラチン質で形成された2重構造のカプセルに充填して成る、ことを特徴とする請求項1に記載の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬。
【請求項8】
海岸において強い紫外線にさらされて生育した松の樹皮を、10~50℃において、30重量%以上の抽出液を用いて抽出して松樹皮抽出液を生成し、
前記松樹皮抽出液を水分含有率5~20%になるまで濃縮し、
ゴマ種子に、30重量%以上のアミノ酸を添加し、乳酸菌の中から選ばれた一以上の菌を接種して10~50℃において発酵させて発酵ゴマ乾燥抽出物を生成し、
前記濃縮した松樹皮乾燥抽出物に、該松樹皮乾燥抽出物と前記発酵ゴマ乾燥抽出物との重量混合比が、該松樹皮乾燥抽出物の重量比率1に対して、該発酵ゴマ乾燥抽出物の重量比率0.5~2.0になるように配合する、ことを特徴とする心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、僧帽弁閉鎖不全症に罹患した小動物、特に犬に与えるための心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬及びその製造方法に関する。心房性ナトリウム利尿ペプチドの略称は、ANP(Atrial Natriuretic Peptide)である。
【背景技術】
【0002】
最近は、犬や猫等の小動物のペット飼育において、ペットフードの栄養価の向上と与え過ぎにより肥満になる傾向にある。小動物が肥満になると、人間と同様に心臓疾患のおそれが高くなる。心臓疾患の一種に僧帽弁閉鎖不全症がある。
【0003】
<僧帽弁閉鎖不全症の概要>
心臓は血液を全身と肺に循環させるポンプ機能を果たす重要な臓器である。全身から大静脈に集まった血液は、右心房から右心室を経て、肺で新鮮な酸素を取り込み、左心房から左心室を経て大動脈から再度全身へ送られる。小動物が健常のときは、常にこの順路通り血液は運ばれている。
【0004】
心臓における僧帽弁は、左心房と左心室を仕切っている弁であり、これに異常が生じると弁の閉鎖が不完全となり、左心室から左心房へ血液が逆流するようになる。「僧帽弁粘液腫様変性」は犬で最も一般的な心臓病であり、進行に応じて僧帽弁が分厚く、短く、いびつになる結果、血液の逆流が起こる。この心臓病を「僧帽弁閉鎖不全症」又は単に「僧帽弁逆流」などと称されている。
【0005】
血液の逆流量が増えると心臓内に鬱滞した血液は心臓を押し広げ、心拡大が進行する。ある程度までは代償的に心機能が上がることで増えた血液量を十分に全身に送り出すことができる。しかし、重度の心拡大へ進行すると代償しきれず破綻する。すなわち、左心房に鬱滞した血液が肺へ滲みだし呼吸を障害する「肺水腫」を発症する。ひとたび肺水腫になると、呼吸不全が急速に進行し、治療が遅れると死に至ることがある。
【0006】
<僧帽弁閉鎖不全症の症状>
僧帽弁閉鎖不全症の初期症状はほとんどなく、多くの場合少し疲れやすくなったり遊ぶ時間が短くなったりする程度である。徐々に進行していくと、運動や興奮した際にすぐ疲れやすくなり、舌が紫がかってくるチアノーゼ現象を呈する。寝る時間が増えるなどの症状が認められる。咳が増えるのも悪い徴候である。更に病状が進むと、あまり動きたがらず、直ぐに疲れてしまい、少しの刺激で咳が止まらずチアノーゼを起こしたり、失神するようになる。
【0007】
僧帽弁閉鎖不全症が重度になり肺水腫を発症すると、呼吸が苦しいため落ち着きがない、横になれず座ったまま肩で息をする、息が荒くチアノーゼが持続する、首を伸ばして喘ぎ呼吸をする、などの症状を呈するようになる。最終的に、血の混じったピンク色の液体を咳と共に吐き出す、脳の低酸素からぐったりして横たわり反応に乏しい、などの症状を呈し、呼吸不全から死亡する。
【0008】
<僧帽弁閉鎖不全症の診断>
僧帽弁に逆流が起こると心雑音が聴取されるようになる。しかし聴診のみで心臓病の診断や重症度の評価はできないため、客観的に心臓の形や大きさ、機能を見る検査を続いて行うことが多い。エックス線検査、超音波検査、血圧測定、心電図検査などが行われる。さらに、心疾患が他臓器の問題と関連しているかを把握するため血液検査や尿検査を行う事も重要である。
【0009】
<僧帽弁閉鎖不全症の病期>
僧帽弁閉鎖不全症の病期としては、一般的に次の5段階に分けられて説明されている。これはアメリカ獣医内科学会(ACVIM)による分類である。
(1)ステージA
ステージAは、現時点で心臓に異常はない段階である。
今後心不全をおこすリスクの高い犬種としては、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、チワワなどがある。
(2)ステージB1
ステージB1は、心雑音、弁の変性、僧帽弁逆流が認められ始める段階である。但し、心拡大が認められない段階である。
(3)ステージB2
ステージB2は、心雑音、弁の変性、僧帽弁逆流が認められ、心拡大が認められる段階である。
(4)ステージC
ステージCは、咳や息切れなどの症状があり、過去に肺水腫の治療をしたことがある段階である。
(5)ステージD
ステージDは、あらゆる内科治療にもかかわらず、治療反応が悪くなった段階である。
【0010】
このステージ分類は非常に有名で、循環器診療を行う獣医師の多くが参考にしている。シンプルで理解しやすい反面、同じステージに重症度が異なる患者が含まれたり、個々の患者ごとに進行ペースが大きく異なったりするため、定期健診による病状のまめな把握は欠かせない。
【0011】
<僧帽弁閉鎖不全症の治療>
僧帽弁閉鎖不全症の治療は、そのまま重症度によって推奨されている治療が異なる。ただし上述の通り個々の患者の病状はステージが同じでも様々であるため、実際の治療はもう少し複雑となる。
(1)ステージA
薬物療法や食事療法は推奨されていない。
(2)ステージB1
薬物療法や食事療法は推奨されていない。6-12ヵ月に1回は心臓超音波検査、エックス線検査を行うことが推奨される。
(3)ステージB2
ピモベンダンという強心薬の一種を用いることが強く推奨される。食事療法が推奨される。病状によっては降圧剤、βブロッカー、アルダクトン(弱い利尿剤)などの使用が考慮される。
(4)ステージC
急性期、すなわち肺水腫では入院下で強力な利尿剤(フロセミド)、ピモベンダン、鎮静剤、降圧剤、酸素療法など集中治療が強く推奨される。呼吸困難が改善せず進行する場合は麻酔下で人工呼吸器による呼吸補助が救命のために考慮される。
慢性期、すなわち肺水腫離脱後は利尿剤やピモベンダン、降圧剤の継続投与や腎数値、心臓検査のこまめな再評価が強く推奨される。食事療法や体重など健康状態の自宅での記録も推奨される。
(5)ステージD
高用量の利尿剤、ピモベンダン、降圧剤などを用いても病状の改善が認められず不安定であり、都度状況に応じた治療が必要となる。専門の心臓外科チームによる心臓手術が打開策となる可能性がある。
【0012】
この僧帽弁閉鎖不全症の疑いがある犬の疾病の発生リスクについて評価する技術が提案されている。例えば、特許文献1の「犬の疾病発生リスク評価方法」には、犬の体脂肪率を測定し、体脂肪率が35%以上の場合と35%未満の場合に区分するステップと、測定される犬の年齢を5歳以上と5歳未満に区分するステップとを含み、犬の年齢が5歳以上で体脂肪率が35%以上の場合には僧帽弁閉鎖不全症及び/又は三叉弁閉鎖不全の発症リスクが高いと判断する、犬の疾病発生リスク評価方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、この特許文献1は、単に体脂肪率を測定するだけの簡単な操作と、食餌管理によって体脂肪率を特定の値未満となるようにすることで、犬の疾病の発症を未然に予防することに役立てるものである。犬の健康管理に大きく資するだけである。罹患した小動物の健康体を改善するものではなかった。
【0015】
従来の治療方法では、ステージA、ステージB1のような初期段階では、心臓に異常があらわれにくいので発見しづらかった。また、僧帽弁閉鎖不全症の治療に際して、この初期段階では薬物療法や食事療法が推奨されていないため、症状が大きく変化したときには手遅れになりやすいという問題を有していた。
【0016】
本発明の発明者は、このような状況に鑑みて鋭意研究した。樹皮の抽出物には強力な抗酸化作用や抗炎症作用を持っていることに着目した。松樹皮抽出物に含まれるプロアントシアニジンが悪玉(LDL)コレステロールの酸化を抑制し、生活習慣病を予防する効果がある。また、血流を促進する効果もある。そこで、本発明の発明者は、僧帽弁粘液腫様変性などの心臓疾患は、比較的緩徐に進行することが多く、自覚症状なく気付いたころには末期的であることや、ある日突然死亡することに鑑みた。自然由来の物質であればサプリメントのように常時摂取しても、健康を害するおそれはなく、症状が急速に悪化することも防止できると考えた。
【0017】
更に、ゴマが機能性食品素材として有効性が高いことにも着目した。ゴマは古くから栄養価が高い食品として食され、特にセサミンはゴマ由来の抗酸化食品素材として注目されている。更に、ゴマの発酵物は、ゴマが元来有する抗酸化性や免疫賦活作用を著しく高めることに着目し、血圧の改善にも寄与できると考えた。
【0018】
犬が僧帽弁閉鎖不全症に罹患すると、心臓から拍出される血液量が減少する。生体はホメオスタシスにより、血圧低下に陥らないために、末梢の血管を収縮させ、全身の血圧を維持しようとする。これにより心臓へ還流する血液量は維持される。しかし同時に末梢組織の血行不全と心臓への容量負荷が発生する。心臓の容量負荷により、右心房ならびに左心房筋が引き伸ばされる。過剰な左心房の容量負荷により左心房内血圧が過度に上昇した場合に「肺水腫」が引き起こされる。このように心房筋が伸展した状況では、心房筋より心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)が過剰に分泌される。
本発明の発明者は、上述した松樹皮抽出物とゴマの発酵物が末梢血管を弛緩させる作用があることに着目した。この末梢血管を弛緩させる作用により心臓へ還流する血液量が減少し、心房に対する容量負荷が軽減される。この作用によりANPの分泌量が減少する。松樹皮抽出物とゴマの発酵物は最終的に左心房容量負荷を軽減することにより、肺水腫等の発生を抑える効果があるものと考えた。
【0019】
本発明の発明者は、松樹皮抽出物とゴマの発酵物には、犬の僧帽弁閉鎖不全症の改善に効果があることに着目したが、その配合比率は不明であった。それぞれの犬の心臓への負担を増加することなく、左心房容量負荷を軽減することができる最適な配合割合があると考えた。
【0020】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、自然由来の物質を用いることで、小動物の健康を害することなく、僧帽弁粘液腫様変性などの心臓疾患をより効果的に抑制することができる心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、僧帽弁閉鎖不全症に罹患した動物に与える心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬、予防薬であって、
フランスの南西部の海岸において強い紫外線にさらされて生育した松の樹皮を、
10~50℃において、30重量%以上の抽出液を用いて抽出して松樹皮抽出液を生成する工程と、該松樹皮抽出液を水分含有率5~20%になるまで濃縮する工程と、
ゴマ種子に、30重量%以上のアミノ酸を添加し、乳酸菌の中から選ばれた一以上の菌を接種して10~50℃において発酵させて発酵ゴマ乾燥抽出物を生成する工程と、
前記濃縮した松樹皮乾燥抽出物に、該松樹皮乾燥抽出物と前記発酵ゴマ乾燥抽出物との重量混合比が、該松樹皮乾燥抽出物の重量比率1に対して、該発酵ゴマ乾燥抽出物の重量比率0.5~2.0になるように配合する工程と、を順に経て得られる、ことを特徴とする。
心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、グルタミン酸、システイン、グリシンで構成される、0.5~0.9重量%のグルタチオン酵母を、更に有するものである。
【0022】
前記発酵ゴマ乾燥抽出物は、有機セレンを重量比率75ppm以上有する抽出物である。
心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬に、カリウム、マグネシウム、亜鉛、マンガン又は銅を必須ミネラル補助剤として配合することができる。
心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬に、セサミン、セサモリンを含む抗酸化物リグナン類を配合することができる。
【0023】
心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、圧力によって一定の硬度に固めた錠剤の周囲に、デンプン、グリコーゲン、セルロースの多糖類でコーティングし、その外側にデンプン、デキストリンの水で溶けやすい単糖類、二単糖類でコーティングすることが望ましい。
【0024】
心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、内側の被膜(12)がデンプンで形成され、外側の被膜(11)が、この内側の被膜(12)より水で溶けやすいゼラチン質で形成された2重構造のカプセルに充填することができる。
【0025】
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の製造方法は、海岸において強い紫外線にさらされて生育した松の樹皮を、10~50℃において、30重量%以上の抽出液を用いて抽出して松樹皮抽出液を生成し、
前記松樹皮抽出液を水分含有率5~20%になるまで濃縮し、
ゴマ種子に、30重量%以上のアミノ酸を添加し、乳酸菌の中から選ばれた一以上の菌を接種して10~50℃において発酵させて発酵ゴマ乾燥抽出物を生成し、
前記濃縮した松樹皮乾燥抽出物に、該松樹皮乾燥抽出物と前記発酵ゴマ乾燥抽出物との重量混合比が、該松樹皮乾燥抽出物の重量比率1に対して、該発酵ゴマ乾燥抽出物の重量比率0.5~2.0になるように配合する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、自然由来の物質、松樹皮乾燥抽出物と、ゴマ種子を主原料とする発酵ゴマ乾燥抽出物について、それぞれの松樹皮乾燥抽出物、発酵ゴマ乾燥抽出物とグルタチオン酵母それぞれの機能を減殺することなく、最適な配合割合であるために、犬の心臓への負担を増加することなく、左心房容量負荷を軽減することができる。小動物の健康を害することがなく、症状が急速に悪化することも防止できる。
グルタチオン酵母は、グルタチオンの抗酸化作用を有し、血圧の改善に寄与できる。
松樹皮乾燥抽出物に含まれるプロアントシアニジンが悪玉(LDL)コレステロールの酸化を抑制し、生活習慣病を予防することができる。ゴマが元来有する抗酸化性や免疫賦活作用が血圧の改善に寄与できる。
【0027】
心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を、糖衣錠剤又は2重カプセルで成型することで、薬剤が口蓋に付着したり、喉、食道の内壁に付着することを防止することができる。匂いや苦みなどの味を気にすることなく小動物に薬剤を投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の配合割合を示す表である。
【
図2】糖被膜を二重に成型した糖衣錠剤型の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を示す拡大断面図である。
【
図3】二重カプセルに充填した心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を示す拡大断面図である。
【
図4】実施例2の本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の製造方法を示すフロー図である。
【
図5】松樹皮乾燥抽出物の製造工程を詳細に示すフロー図である。
【
図6】発酵ゴマ乾燥抽出物の製造工程を詳細に示すフロー図である。
【
図7】本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を僧帽弁閉鎖不全症(MR)に罹患した動物(犬)に与える前後におけるANP値の変化を示すグラフである。
【
図8】各ステージにおける症状の変化を示すグラフである。
【
図10】心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬をA群の9頭の犬に投与した臨床症状の改善について示すグラフである。
【
図11】A群9例に関する本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与による臨床症状の改善について示すグラフである。
【
図12】B群12例に関する本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与による臨床症状の改善について示すグラフである。
【
図13】犬の胸部のエックス線画像の比較を示す画像である。
【
図14】犬の胸部の別の角度から撮像したエックス線画像の比較を示す画像である。
【
図15】右傍胸骨四腔断面について超音波検査(エコー検査)の比較を示す画像である。
【
図16】右傍胸骨短軸四腔断面について超音波検査(エコー検査)の比較を示す画像である。
【
図17】カラー血流ジェット領域の比較であり、左心室流入血流速波形について超音波検査(エコー検査)の比較を示す画像である。
【
図18】徐脈・頻脈症候群の症状を有する犬の心臓の動きを検査したものである。
【
図19】徐脈・頻脈症候群の症状を有する犬に本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を投与したときの臨床症状の改善について示す説明図である。
【
図20】洞不全症候群症状を有する犬に本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を投与したときのエックス線画像の比較を示す画像である。
【
図21】洞不全症候群症状を有する犬に本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を投与したときのエックス線画像の比較を示す画像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の原材料は、松樹皮の抽出物とゴマを発酵させた抽出物の2種を主成分とする。松樹皮の抽出物は、プロアントシアニジンというフラボノイドが含まれている物質である。ゴマの発酵物は抗酸化物リグナン類のセサミンが含まれている物質である。
【実施例1】
【0030】
<松樹皮の乾燥抽出物>
図1は本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の種類、原材料と配合割合を示す表である。
実施例1の本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、プロアントシアニジンが含まれている松樹皮乾燥抽出物と、ゴマを主原料とする抗酸化物リグナン類のセサミンが含まれている発酵ゴマ乾燥抽出物と、を主成分とする降下剤、治療薬、予防薬である。松樹皮乾燥抽出物と発酵ゴマ乾燥抽出物との混合比が、松樹皮乾燥抽出物の重量比率1に対して、発酵ゴマ乾燥抽出物の重量比率0.5~2.0になる。このプロアントシアニジンは、カテキン分子が連鎖した構造を有するポリフェノールである。抗酸化物質として機能する成分である。
【0031】
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の1種目の主成分「松樹皮の乾燥抽出物」は、フランスの南西部の海岸に生育する海岸松樹皮からとった天然植物由来の抽出物を成分とする。このフランス海岸松樹皮エキスは、強い紫外線にさらされたフランス南西部海岸に生育する松の樹皮から抽出された成分である。このフランス海岸の土地は1年のうち320日以上が晴天で非常に強い紫外線にさらされるため、この土地に生育する松は自身を守るために多くの抗酸化物質を蓄えるようになった。
【0032】
本発明の主成分である松樹皮乾燥抽出物に含まれるプロアントシアニジンは、体内抗酸化力を強化する優れた抗酸化力を有する。一酸化窒素を増加させ循環器を補強する血流を改善する機能を有する。血管壁の修復と強化を図るコラーゲン・エラスチンとの結合機能を有する。NF-kB(核内因子κB、nuclear factor-kappa B)の抑制作用を有し、有力な抗炎症作用を有する。NF-kBは、炎症反応急性期の調節因子で、効果的な免疫防御および形質転換細胞の排除に必要とされる因子である。α-グルコシダーゼ抑制により食後の血糖値上昇を抑えて血糖値を安定させる機能を有する。α-グルコシダーゼは、糖同士が結合する部分に水が反応し分解する作用(加水分解)を補助する機能を有する。
【0033】
松樹皮乾燥抽出物に含まれるプロアントシアニジンの心疾患リスク軽減効果としては、血流改善機能がある。先ず、血小板凝集能を抑制する効果がある。人に対しては、喫煙による血小板凝集に対する効果や、エコノミー症候群に対する効果がある。また、血管を拡張する機能を有する。血管収縮物質エンドセリン-1の生成を減少させたり、血管拡張物質プロスタサイクリンの生成を促進させる機能を有する。
【0034】
松樹皮乾燥抽出物に含まれるプロアントシアニジンには、心疾患リスク軽減効果がある。血管内皮細胞由来の血管調節因子としては次のものがある。エンドセリン(Endothelin)は血管内皮細胞由来の強力な血管収縮ペプチドであり、心不全時に産生増大する。プロスタサイクリン(Prostacyclin PGI2)は血管弛緩と血小板凝集抑制作用を有する。一酸化窒素(Nitric Oxide (NO))は血管内皮細胞由来の血管弛緩因子の代表格である。
【0035】
<発酵ゴマ乾燥抽出物>
「発酵ゴマ乾燥抽出物」にはゴマ特有の抗酸化物リグナン類のセサミンが含まれている。ゴマは古くから栄養価が高い食品として食されている。近年その機能性が研究され、フェニルプロパノイドの一種であるゴマリグナンは、機能性食品素材として多くのサプリメントに利用されてきた。特にセサミンはゴマ由来の抗酸化食品素材として注目されている。抗酸化と免疫は昨今の機能性食品の重要要素であり、これらにより万病のもととなるいわゆる未病状態は改善することができる。本発明では、従来のゴマ発酵物の機能性を強化し、ゴマが本来持っている血圧抑制効果に加えて、乳酸発酵させることによってγ-アミノ酪酸を効率よく産生させ、血圧上昇抑制効果を増強させたものである。
【0036】
発酵ゴマ乾燥抽出物は、ゴマイーストは微量必須ミネラル有機セレンを高濃度に含む植物由来の生理活性素材である。他にカリウム、マグネシウム、亜鉛、マンガン、銅などの必須ミネラル、および胡麻特有の抗酸化物リグナン類(セサミン、セサモリン)を豊富に含む物質である。
【0037】
グルタチオン酵母は、グルタミン酸、システイン、グリシンで構成される。グルタチオン酵母は、グルタチオンの抗酸化作用を有し、血圧の改善に寄与できる効果がある。グルタチオン酵母は0.5~0.9重量%を、含めることが好ましい。
【0038】
この松樹皮乾燥抽出物と発酵ゴマ乾燥抽出物とグルタチオン酵母は、デンプン、乳糖などを原材料とする賦形剤を用いて成型する。これは粉末が均一になり、錠剤が固まり、吸湿による品質劣化などを防止するためである。その形態は錠剤、カプセル、粉剤とする。小動物に投与する治療薬、予防薬であるため、錠剤の形態が好ましい。粉剤は小動物には投与が困難であるが、飼料に混ぜて投与する方法がある。
【0039】
<配合割合>
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の配合例は、
図1の表に示すような数値が最適であった。松樹皮乾燥抽出物は5~9重量%、発酵ゴマ乾燥抽出物は5~9重量%及び賦形剤は79~87重量%である。
小動物の犬で体重が10kg前後の小型犬、中型犬には、投与する心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の量を140mgとすると、発酵ゴマ乾燥抽出物は7~13mg、発酵ゴマ乾燥抽出物は7~13mg、グルタチオン酵母は0.7~1.3mg及び賦形剤は110~122mgが適している。
【0040】
<補助剤>
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬に、カリウム、マグネシウム、亜鉛、マンガン又は銅を必須ミネラル補助剤として配合することができる。
また、本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬に、セサミン、セサモリンとを含む抗酸化物リグナン類を補助剤として配合することができる。
【0041】
<糖被膜を二重に形成した糖衣錠剤>
図2は糖被膜を二重に形成した糖衣錠剤型の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を示す拡大断面図である。
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を小動物に投与する際に、糖衣錠剤が小動物の口蓋に付着したり、喉、食道の内壁に付着することがある。この胃に到達する前に糖衣錠剤の糖が溶けて内部の薬剤が口、喉に露出すると薬物の臭いや味が気になり、動物が薬の投与を嫌がるようになる。そこで、糖衣錠剤の糖を、外側の糖衣が内側の糖衣より水で溶けやすい糖で薬剤に二重に被膜を形成するようにして、喉、食道の内壁に付着しづらいようにした。
【0042】
例えば、錠剤1に被膜している内側の糖衣2は、デンプン、グリコーゲン、セルロースなどの多糖類を用いる。胃に到達するまで薬剤が溶けないように保護するためである。唾液、胃液が付着してから約5分程度で溶け、内部の薬剤1が露出するようになる。
外側の糖衣3は、内側の糖衣2より水で溶けやすい、ブドウ糖、果糖などの単糖類、ショ糖、乳糖などの二糖類を用いる。唾液の消化酵素で溶けやすい性質を利用したものである。この錠剤の外側の糖衣3を溶けやすい性質の材質で成型することで錠剤1が口蓋に付着したり、喉、食道の内壁に付着することを防止することができる。
【0043】
<二重カプセル>
図3は二重カプセルに充填した心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を示す拡大断面図である。
この二重カプセルも、カプセルが小動物の口蓋に付着したり、喉、食道の内壁に付着することを防止するものである。胃に到達する前にこのカプセルのゼラチン、糖が溶けて内部の薬剤が口、喉に露出すると薬物の臭いや味が気になり薬の投与を嫌がるようになるからである。そこで、外側の被膜11が、内側の被膜12(デンプン)より水で溶けやすいゼラチン質で形成された2重構造のカプセルに、薬剤13を充填するようにした。
【0044】
例えば、カプセルの内側の被膜12は植物性の繊維やデンプンなどを十分に乾燥させて硬い被膜に形成し、ここに充填した薬剤13を保護する機能を有する。唾液、胃液が付着してから約5分程度で溶け、内部の薬剤13が露出するようになる。
カプセルの外側の被膜11は、内側の被膜12より水で溶けやすい形態のもので形成している。例えば、ゼラチンは植物性の繊維やデンプンなどと比較して、唾液の消化酵素、胃の消化酵素で溶けやすい性質がある。このカプセルの外側を溶けやすい性質の材質で形成することでカプセルが口蓋に付着したり、喉、食道の内壁に付着することを防止することができる。
【実施例2】
【0045】
<心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の製造方法>
図4は実施例2の本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の製造方法を示すフロー図である。
図5は松樹皮乾燥抽出物の製造工程を詳細に示すフロー図である。
図6は発酵ゴマ乾燥抽出物の製造工程を詳細に示すフロー図である。
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の製造方法は、海岸において強い紫外線にさらされて生育した松の樹皮を採取し、これを細断、粉砕する。この粉砕物を、ブチレングリコールの抽出液を用いて抽出する。例えば、10~50℃において、30重量%以上のブチレングリコール抽出液を用いて抽出する。なお、溶剤はブチレングリコールに限定されず、エタノールなどの溶剤(油剤)を用いることができる。
この松樹皮の抽出物をろ過処理し、これを減圧濃縮する。松樹皮の抽出物は、例えば、水分含有率10~30%になるまで濃縮する。
その後、噴霧乾燥して粉砕し、松樹皮乾燥抽出物にする。
【0046】
発酵ゴマ乾燥抽出物については、ゴマにアミノ酸を添加し、乳酸菌の中から選ばれた一以上の菌を接種して発酵させて発酵ゴマ乾燥抽出物を生成する。なお、ゴマを効率良く発酵させるためには、ゴマの表面の雑菌を殺菌する必要がある。殺菌する方法は、加熱殺菌、pH処理殺菌がある、必要に応じて脱脂することもある。
ゴマは粒状のままでも発酵するが、より良い発酵をさせるためには細かく摩砕したものを用いる。
ゴマの発酵は水の存在下で行なわれる。発酵方法として水を多く加えて発酵させるタンク培養、水を少なめに加えて発酵させる固体培養、その中間のペースト状で発酵させる方法などがある。比較的早く大量に処理出来るタンク培養法がより好ましい。
【0047】
接種する乳酸菌の種類としては、例えばラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、リューコノストック属(Leuconostoc)などであり、それらの中でも毒物を産生しない株を用いることができる。特に、ラクトバチルス・カゼイはゴマ中の基質を効率よく発酵し、セサミノールをセサモールに効率よく転換するため好ましく、またラクトバチルス・ロイテリはγ-アミノ酪酸を効率よく産生するためより好ましい。
接種する乳酸菌の量は、ゴマを含む液体または固体に対して、液体培養した菌液を0.5~10重量%接種するものであり、特に1.0重量%を無菌的に接種するのが好ましい。
【0048】
このように生成した発酵ゴマ乾燥抽出物は、胡麻フレークを発酵低分子化して不要な繊維成分を除去し、さらに分離精製法によりセレンその他の必須ミネラル成分を高濃縮した。これはゴマ由来の微量必須ミネラル有機セレン(セレニウム)を高濃度に含む純植物由来生理活性素材(フィトケミカルズ)粉末である。
【0049】
発酵ゴマ乾燥抽出物の性状は、淡褐色粉末であり、セレン(セレニウム)が75ppm以上(平均値100ppm)を含有する。油分は20%以下、水分は8%以下、ヒ素(As2O3として)は1ppm以下、重金属(Pbとして)は10ppm以下、一般生菌数は3×103個/g以下、大腸菌は陰性である。
【0050】
濃縮した松樹皮乾燥抽出物に、松樹皮乾燥抽出物と発酵ゴマ乾燥抽出物との混合比が、松樹皮乾燥抽出物の重量比率1に対して、発酵ゴマ乾燥抽出物の重量比率0.5~2.0になるように配合して心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の製造が完了する。
その後、錠剤、カプセルなどの形態にして心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の製品とする。
【0051】
<心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与>
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を、犬などの小動物に投与する目安量としては、たとえば犬の体重10kg以下のときは、約560mg程度が好ましい。
【0052】
<症例の説明>
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を、僧帽弁閉鎖不全症(MR)に罹患した動物(犬)に与えた効果について説明する。
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を、僧帽弁閉鎖不全症(MR)の犬26(頭)症例に1ヶ月間投与した結果について、表1にANP値(atrial natriuretic peptides 心房性ナトリウム利尿ペプチド)の変化を示す。ANP値は、主に心房から分泌されるホルモンで、体液量や血圧調整に重要な役割を示す数値である。投与後は、数値が低下したものが多い。単独投与は3例(3頭)、薬剤との併用23例(23頭)である。
【0053】
【0054】
<26頭のANP値の変化>
図7は本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を僧帽弁閉鎖不全症(MR)に罹患した動物(犬)に与える前後におけるANP値の変化を示すグラフである。
図7もANP値の変化を示すものである。各棒線の左が投与前の数値で、右が投与1か月の数値である。26頭中10頭で投与後のANP値の数値が低下したことを表している。また、6頭は上昇し、10頭は変化がなかった。
【0055】
表2にQOL値(quality of life :生活の質)の変化を示す。このQOL値は、疾患や治療が,罹患者(犬)の主観的健康感(メンタルへルス,活力,痛みなど)や,毎日行っている活動にどのようなインパクトを与えているか,これを定量化した数値である。この表2にあらわれているように、投与後は、殆どの数値が改善されている。
【0056】
【0057】
図8は各ステージにおける症状の変化を示すグラフである。
図9は重症度の分布を示すグラフである。
図8は、ステージAからステージDまでの段階において、「症状」、「心雑音」、「心拡大」、「治療の必要性」、「ACEI」、「フロセミド」、「ピモベンダン」の投与の必要性について説明する。
図9は、ステージB1からステージDまでの重症度の20症例の分布を示すグラフである。
【0058】
図10は心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬をA群の9頭の犬に投与した臨床症状の改善について示すグラフである。
僧帽弁閉鎖不全症と診断された犬の1ヶ月間の様子について観察した。獣医師の検査内容によって2群に分けた。A群はANP値の測定を実施した9例(頭)を上げる。B群は臨床経過観察を中心に実施した。12例(頭)を上げる。この観察において、各犬の飼い主が、就寝時の呼吸数モニターを観察した。同じく、発咳や散歩時の様子を観察した。なお、本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を投与期間(1か月)の投薬内容の変更はない。また、他のサプリメントの併用はなかった。
【0059】
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与による臨床症状の改善について説明する。A群の9頭の犬について、投与後の改善が、著しく有効である「著効」、症状が和らいだ「緩和」、「変化なし」又は「悪化」したかの変化を示す。表3は心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬をA群の9頭の犬に投与した臨床症状の改善についての表である。著効と緩和で77.8%であった。
【0060】
【0061】
図11はA群9例に関する本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与による臨床症状の改善について示すグラフである。
各2本の棒は各症例の犬のANP値を示し、左側の濃いグレーの棒は本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬投与前のANP値であり、右側の薄いグレーの棒は投与1か月後のANP値である。投与後は、数値が低下したものが多い。
【0062】
図12はB群12例に関する本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与による臨床症状の改善について示すグラフである。
次にB群の12頭の犬について、投与後の「改善」、「変化なし」又は「悪化したので中止」したかの変化を示す。表4は心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与による臨床症状の改善についての表である。改善率は66.7%であった。
【0063】
【0064】
次に、A群とB群を合わせて、安静時呼吸数の変化について説明する。11例に関して、表5は本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与による臨床症状の改善について示す表である。投与前と投与後では、投与後に数値が低下したものが多い。即ち、安静時の呼吸が改善されたことを表している。
【0065】
【0066】
<症例のエックス線画像比較>
図13と
図14は各症例についてエックス線画像の比較を示す画像である。
図13は犬の胸部のエックス線画像であり、図示の左は本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与前の画像である。右は投与後25日目の画像である。この画像から本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与により、心臓の輪郭が明確になり、肺の不透明性が改善したことを表している。
【0067】
図14は犬の胸部の別の角度から撮像したエックス線画像であり、図示の左は本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与前の画像である。右は投与後25日目の画像である。この画像から本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与により、心臓の輪郭が明確になり、肺の不透明性が改善したことを表している。
【0068】
<症例の超音波検査(エコー検査)画像比較>
図15と
図16はカラー血流ジェット領域の比較であり、右傍胸骨四腔断面について超音波検査(エコー検査)の比較を示す画像である。
図15は犬の右傍胸骨長軸の超音波検査(エコー検査)の画像であり、図示の左は本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与前の画像である。右は投与後25日目の画像である。この画像から本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与により、左房内逆流カラー血流ジェットの領域が著明に減少、逆流血液量の減少が予想された。ARJ/LAAが、50%から30%に減少した。
【0069】
図16は犬の右傍胸骨短軸の超音波検査(エコー検査)の画像であり、図示の左は本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与前の画像である。右は投与後25日目の画像である。左室拡張末期内径(LVIDd)が4.36cmから3.56cmに変化した。
左室収縮末期内径(LVIDs)が1.57cmから1.51cmに変化した。
【0070】
図17はカラー血流ジェット領域の比較であり、左心室流入血流速波形について超音波検査(エコー検査)の比較を示す画像である。
図17は犬の左心室流入血流速波形の超音波検査(エコー検査)の画像であり、図示の左は本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与前の画像である。右は投与後25日目の画像である。E波速度(拡張早期波)が1.24m/sから0.89m/sに変化した。E/Aが1.56から1.17に変化した。A波速度は心房収縮期波である。
【0071】
<洞不全症候群>
ミニチュア・シュナウザー、避妊メス、8歳齢、体重7.1kgの症例について説明する。既往症として糖尿病,クッシング症候群を有する。僧帽弁閉鎖不全症を有する(III/VI)。臨床症状は洞性徐脈による安静時の失神の症状がある(ISACHC分類 Ib ACVIM分類 B2)。併用薬はベトメディン,シロスタロールと漢方薬(水蛭・植物エキス)である。
【0072】
洞不全症候群とは、心臓の収縮の命令を出している洞房結節の細胞に異常が生じることで徐脈を起こす病気のことである。
洞徐脈(心臓の脈が遅い状態を自覚し、ふらつき、めまい、浮遊感等の自覚症状の原因になる。)、洞停止(めまいやふらつきが多く、洞停止時間が長いと失神を起こす(Adams-Stokes発作))、洞房ブロック(心臓収縮の命令を伝達している房室結節の細胞に支障が生じて、心房から心室に命令が適切に伝わらなくなった病態のことである。)、上室性頻脈(何かの拍子に(発作性)脈がはやくなり、それが持続する(頻拍)状態で、早い脈が心房およびその付近からでているもの(上室性)が発作性上室性頻拍である。)洞不全症候群とは、これらが組合わさったもので、単一の疾患ではない。洞不全症候群の特徴としては、(A)高度の洞徐脈、(B)高度の洞停止、(B)徐脈・頻脈症候群を呈する。
【0073】
図19は徐脈・頻脈症候群の症状を有する犬の心臓の動きを検査したものである。
図19は徐脈・頻脈症候群の症状を有する犬に本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を投与したときの臨床症状の改善について示す説明図である。
徐脈・頻脈症候群を呈する犬は、重度な徐脈と重度な頻脈を繰り返す。また徐脈時に失神を伴うことが多い。
図18では長円形で印を付けた部分が30秒以上の高度徐脈があらわれた状態を示す。
この犬に本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を投与すると、
図19に示すように、心拍数が40から48回/分と上がった。呼吸数が43から35回/分に下がった。血圧は120/82から125/90mmHgに上がった。更に、投与開始から約2週間目より失神がなくなった。
【0074】
図20と
図21は洞不全症候群症状を有する犬に本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬を投与したときのエックス線画像の比較を示す画像である。
図示の左は本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬の投与前の画像である。右は投与後1カ月後の画像である。
【0075】
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、NO合成促進を図ることができる。プロスタサイクリン産生の促進を図ることができる。エンドセリン産生を抑制することができる。その結果、肺水腫の改善と徐脈性失神の消失に寄与する。
【0076】
なお、本発明は、自然由来の物質を用いることで、小動物の健康を害することなく、サプリメントのように常時摂取することができ、僧帽弁粘液腫様変性などの心臓疾患をより効果的に抑制することができる構成であれば、上述した発明の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の心房性ナトリウム利尿ペプチド降下剤治療薬と予防薬は、僧帽弁閉鎖不全症に罹患した小動物、特に犬に与えると有効に働く健康補助食品に利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 錠剤(薬剤)
2 内側の糖衣
3 外側の糖衣
11 外側の被膜
12 内側の被膜
13 薬剤
【要約】
【解決手段】自然由来の物質を用いることで、小動物の健康を害することなく、僧帽弁粘液腫様変性などの心臓疾患をより効果的に抑制する。
【効果】フランスの南西部の海岸において強い紫外線にさらされて生育した松の樹皮由来であり、プロアントシアニジンが含まれている、5~9重量%の松樹皮乾燥抽出物と、ゴマを主原料であり、抗酸化物リグナン類のセサミンが含まれている、5~9重量%の発酵ゴマ乾燥抽出物と、を主成分とし、粉末が均一になり、錠剤が固まり、吸湿による品質劣化などを防止する、デンプン、乳糖などを原材料とする、79~87重量%のデンプン、乳糖などの賦形剤と、から成る。
【選択図】
図1