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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】固化体、並びにそれを用いた元素吸着材
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/08 20060101AFI20240826BHJP
   C04B 28/26 20060101ALI20240826BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20240826BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240826BHJP
【FI】
B01J20/08 C
C04B28/26
B01J20/06 C
C02F1/28 B
C02F1/28 J
C02F1/28 L
C02F1/28 P
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019221966
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2020093252
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2018230662
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌志
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和宜
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/030521(WO,A1)
【文献】特開平11-228196(JP,A)
【文献】特開2016-002517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
C04B 28/26
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロタルサイト様化合物とジオポリマーを含有する固化体からなる元素吸着材
【請求項2】
前記ハイドロタルサイト様化合物が、2価金属イオンとしてマグネシウムイオンを含む、請求項1に記載の元素吸着材
【請求項3】
前記ハイドロタルサイト様化合物が、3価金属イオンとして鉄イオン及び/又はアルミニウムイオンを含む、請求項1又は2に記載の元素吸着材
【請求項4】
前記ジオポリマーが、ケイ素原子、アルミニウム原子及び酸素原子を骨格に含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の元素吸着材
【請求項5】
前記ジオポリマーが、非晶質アルミノシリケート及び塩基を用いて得られる、請求項1~4のいずれか1項に記載の元素吸着材
【請求項6】
前記固化体の総量を100質量%として、前記ハイドロタルサイト様化合物の含有量が0.1~75質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の元素吸着材
【請求項7】
さらに、磁性材料を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の元素吸着材
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の元素吸着材の製造方法であって、
前記ハイドロタルサイト様化合物及びジオポリマー前駆体を含有する水硬性組成物を焼成物する工程を備える、製造方法。
【請求項9】
基材上に、前記ハイドロタルサイト様化合物を含有する皮膜を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の元素吸着材
【請求項10】
前記皮膜中にジオポリマーを含有する、請求項9に記載の元素吸着材
【請求項11】
機能性食器である、請求項1~10のいずれか1項に記載の元素吸着材。
【請求項12】
被処理水を請求項1~7及び9~11のいずれか1項に記載の元素吸着材と接触させる工程を備える、元素吸着方法。
【請求項13】
前記接触工程が、容器状に成形した前記元素吸着材中に前記被処理水を投入し、振とうする工程である、請求項12に記載の元素吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固化体、並びにそれを用いた元素吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化により降雨量の格差が拡大しており、安全な飲用水の安定的確保が国際的に重大な環境問題として認識されている。実際に、ユニセフは、開発途上国を中心に、6億6300万人が安全な水を飲用できないと報告している。一方、開発途上国では、気候変動にかかわらず安定して飲用水を供給できる井戸水の飲用利用が急速に進んでいる。しかしながら、飲用井戸水には多種多様の有害元素に汚染されている場合も多い。加熱により無毒化できる病原微生物と比較すると、元素は加熱により浄化することが困難であるため、開発途上国においては有害元素を含む飲用水を摂取せざるをえない状態が続いている。近年、ヒ素に汚染された飲用水に起因する数千万人以上の慢性ヒ素中毒患者から爆発的な勢いで種々の癌が発生しており、問題は深刻化している。ヒ素以外の水銀・鉛・クロムといった有害元素による飲用水の汚染を考慮すると、世界には、莫大な数のヒトが有害元素を介した健康被害を受けている。以上のように、有害元素を除去した安全な飲用水を提供する技術は、開発途上国を中心に地球規模で求められている。
【0003】
有害元素の経口摂取による健康被害は、開発途上国だけの問題ではない。日本を含む先進国においても、高血圧の予防を目的として、食品に含まれる塩分(ナトリウム)の低減が求められている。さらに、英国食糧規格庁はヒ素を含むヒジキの摂取制限を勧告している。また、米国食品医薬品庁だけでなく日本の厚生労働省は妊婦に対する水銀を含むマグロ等の大型魚の摂取制限を勧告している。以上のように、有害元素を除去した安全な食品を提供する技術を開発は、先進国においても極めて重要である。コメや貝類に含まれるカドミウム等を考慮すると、米食で海産物を摂取する機会の多い日本人にとって、食品から有害元素を除去する技術は、特に重要である。
【0004】
このような状況下、特許文献1では、元素を吸着除去する浄化剤として、マグネシウム成分と鉄成分からなる溶液と炭酸ナトリウム溶液を化学反応させることにより得られる、式[M12+ 1-xM23+ x(OH)2][(An-x/n・mHO]((M1,M2):(Mg,Fe)または(Fe,Al)、An-:陰イオン)なるハイドロタルサイト様化合物の乾燥粉末固体を合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-146660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているハイドロタルサイト様化合物は、ヒ素やカドミウム等を汚染された水から高効率、低コストに除去できる浄化材料である。特に、毒性の高い3価のヒ素を吸着除去できる点において優れた材料である。しかしながら、特許文献1に記載されているハイドロタルサイト様化合物は、一般に粉末固体として得られることから、その圧縮成型体も耐久性に乏しい。また、ハイドロタルサイト様化合物は粉末固体であるために機械加工性が低いため、実用的な浄化装置への応用が困難である。このため、特許文献1に記載されているハイドロタルサイト様化合物を用いた水質浄化は普及が進んでおらず、上記した健康被害は依然として解消されていない。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、機械加工性に優れつつ効率的に種々の元素を吸着除去することができる材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねてきた結果、ハイドロタルサイト様化合物と、ジオポリマー又はセルロースとを含有することで、上記課題を解決した元素吸着材が得られることを見いだした。本発明者らは、以上の知見をもとにさらに研究を重ね、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.ハイドロタルサイト様化合物と、ジオポリマー及び/又はセルロースとを含有する、固化体。
項2.前記ハイドロタルサイト様化合物が、2価金属イオンとしてマグネシウムイオンを含む、項1に記載の固化体。
項3.前記ハイドロタルサイト様化合物が、3価金属イオンとして鉄イオン及び/又はアルミニウムイオンを含む、項1又は2に記載の固化体。
項4.前記ジオポリマーが、ケイ素原子、アルミニウム原子及び酸素原子を骨格に含有する、項1~3のいずれか1項に記載の固化体。
項5.前記ジオポリマーが、非晶質アルミノシリケート及び塩基を用いて得られる、項1~4のいずれか1項に記載の固化体。
項6.前記セルロースがセルロース繊維及び/又はセルロース紙である、項1~5のいずれか1項に記載の固化体。
項7.前記固化体の総量を100質量%として、前記ハイドロタルサイト様化合物の含有量が0.1~75質量%である、項1~6のいずれか1項に記載の固化体。
項8.さらに、磁性体を含有する、項1~7のいずれか1項に記載の固化体。
項9.前記ハイドロタルサイト様化合物及びジオポリマー前駆体を含有する水硬性組成物の焼成物である、項1~8のいずれか1項に記載の固化体。
項10.ハイドロタルサイト様化合物前駆体及びセルロース前駆体を含有する前駆体水溶液からの共沈反応物である、項1~8のいずれか1項に記載の固化体。
項11.基材上に、前記ハイドロタルサイト様化合物を含有する皮膜を有する、項1~8のいずれか1項に記載の固化体。
項12.前記皮膜中にジオポリマー及び/又はセルロースを含有する、項11に記載の固化体。
項13.項1~12のいずれか1項に記載の固化体からなる元素吸着材。
項14.機能性食器である、項13に記載の元素吸着材。
項15.被処理水を項1~12のいずれか1項に記載の固化体又は項13若しくは14に記載の元素吸着材と接触させる工程を備える、元素吸着方法。
項16.前記接触工程が、容器状に成形した前記固化体又は元素吸着材中に前記被処理水を投入し、振とうする工程である、項15に記載の元素吸着方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械加工性に優れつつ効率的に種々の元素を吸着除去することができる元素吸着材として用いられる固化体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ジオポリマーの合成方法の概略を示す図面である。
図2】本発明の固化体を用いた元素の吸着及び離脱を説明する概念図である。
図3】実施例1で得られた硬化体による元素の吸着結果を示す。
図4】実施例2で得られた硬化体による元素の吸着結果を示す。
図5】実施例3で得られた硬化体による元素の吸着結果を示す。
図6】実施例4で得られたコップ状硬化体の外観写真を示す。
図7】実施例4で得られたコップ状硬化体による元素の吸着結果を示す。
図8】実施例5で得られた硬化体による元素の吸着結果を示す。
図9】実施例5で得られた硬化体について、吸着等温式による解析結果を示す。
図10】実施例6で得られたコップ状硬化体の外観写真を示す。
図11】実施例6で得られたコップ状硬化体による元素の吸着結果を示す。
図12】実施例7においてシート状固化体を得た際の装置の外観写真を示す。
図13】実施例7で得られたシート状固化体の外観写真を示す。
図14】実施例7で得られたシート状固化体による元素の吸着結果を示す。
図15】実施例7で得られたシート状固化体によるNaClの吸着結果を示す。
図16】実施例8で得られた食器状表面担持型硬化体の外観写真を示す。
図17】実施例8で得られた食器状表面担持型硬化体のXRD結晶構造解析の結果を示す。
図18】実施例8で得られた食器状表面担持型硬化体による元素の吸着結果を示す。
図19】実施例8で得られた食器状表面担持型硬化体を用いて、反復使用による浄化効果を5分間振とうにより解析した結果を示す。
図20】実施例8で得られた食器状表面担持型硬化体を用いて、反復使用による浄化効果を10秒間振とうにより解析した結果を示す。
図21】実施例8で得られた食器状表面担持型硬化体を用いて、重曹処理による吸着再生効果の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0012】
1.固化体
本発明の固化体は、ハイドロタルサイト様化合物と、ジオポリマー及び/又はセルロースとを含有する。
【0013】
(1-1)ハイドロタルサイト様化合物
ハイドロタルサイト様化合物としては、特に制限はないが、特許文献1(特開2013-146660号公報)に記載されたものを採用することができ、特開2013-146660号公報をそのまま援用する。
【0014】
具体的には、ハイドロタルサイト様化合物は、2価金属イオンとしてマグネシウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン、マンガンイオン等を含むことが好ましく、3価金属イオンとして鉄イオン、アルミニウムイオン、コバルトイオン等を含むことが好ましい。
【0015】
このハイドロタルサイト様化合物においては、3価金属イオンに対する2価金属イオンのモル比(2価金属イオン/3価金属イオン)は、機械加工性、元素吸着除去性能等の観点から、0.5~4が好ましく、0.7~3がより好ましい。
【0016】
このようなハイドロタルサイト様化合物は、一般式(1):
[M12+ 1-xM23+ x(OH)2][An- x/n・mH2O] (1)
(M1, M2): (Mg, Fe)、(Mg, Al)等;An-:陰イオン;x: 0.2~0.7;n: 1又は2;m: 0より大きい整数(例えば1~10の整数)
で表されることが好ましい。
【0017】
このハイドロタルサイト様化合物は、M12+ 1-xM23+ x(OH)2で表され正電荷を帯びた八面体層からなるホスト層と、正電荷を補償する陰イオンと層間水とからなりAn- x/n・mH2Oで表されるゲスト層と、が交互に積層したハイドロタルサイト構造を有していることが好ましい。
【0018】
このハイドロタルサイト様化合物では、ゲスト層の陰イオンAn-は、どのような陰イオンでも採用できるが、例えば、NO3 2-、Cl-、SO4 2-、CO3 2-等を採用することができる。
【0019】
また、このハイドロタルサイト様化合物は、沈殿剤として炭酸ナトリウム水溶液を用いることができ、この場合、陰イオンAn-として炭酸イオンCO3 2-を残存させることができる。このとき、ハイドロタルサイト様化合物は一般式(2):
[M12+ 1-xM23+ x(OH)2][(An-)y・(CO3 2-)z・mH2O] (2)
(M1, M2): (Mg, Fe)、(Mg, Al)等;An-:陰イオン;x: 0.2~0.7;n: 1又は2;m: 0より大きい整数(例えば1~10の整数)
yn+ 2z= x
により表され、ゲスト層は(An-)y・(CO3 2-)z・mH2Oとすることができる。
【0020】
このようなハイドロタルサイト様化合物は、公知又は市販品を採用することができる。また、ハイドロタルサイト様化合物を製造する場合は、まず、金属イオンM12+と陰イオンAn-とからなる塩の水溶液と、金属イオンM23+と陰イオンAn-とからなる塩の水溶液と、をそれぞれ作製し、所定の組成比となるように混合、調製することが好ましい。この際、陰イオンAn-としてNO3 2-を採用する場合は、例えば硝酸水溶液を採用することができる。ここで、それぞれの塩を混合してから、混合水溶液を作製することもできる。
【0021】
次に、沈殿剤として塩基性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム等)を用意し、水熱合成を行うための所定の温度、例えば、室温~100℃に昇温することができる。
【0022】
続いて、沈殿剤を上記所定の温度に保持した状態で撹拌し、調製した混合水溶液を滴下することができる。撹拌速度及び時間は、適宜設定することができる。滴下終了後に沈殿剤の温度保持及び撹拌を継続し、熟成させることもできる。
【0023】
続いて、沈殿剤中の沈殿物を吸引濾過により回収し、洗浄した後に乾燥させることにより、ハイドロタルサイト様化合物を得ることができる。このように、ハイドロタルサイト様化合物原料費も安く簡単な工程で製造することができる。この後、分級したり、乳鉢等により破砕して所定の粒度に調製したりすることもできる。また、スラリー状にしたり、バインダ等を添加し粒状にしたり、等各種形態に調製することができる。
【0024】
なお、沈殿剤が水酸化物イオンを含む沈殿剤(水酸化ナトリウム水溶液等)を含む場合には、ハイドロタルサイト様化合物を緻密質とすることができる。一方、炭酸イオンを含む沈殿剤(炭酸ナトリウム水溶液等)を用いると、ハイドロタルサイト様化合物を多孔質に形成することができる。例えば、吸水率を50~90%とすることができる。このように、得られる本発明の固化体と被処理水との接触面積を増大させてより効率的に元素を吸着除去する観点からは炭酸イオンを含む沈殿剤(炭酸ナトリウム水溶液等)を用いることが好ましく、耐久性の観点からは水酸化物イオンを含む沈殿剤(水酸化ナトリウム水溶液等)を用いることが好ましい。
【0025】
(1-2)ジオポリマー
ジオポリマーとしては、特に制限はないが、特開2016-078017号公報に記載されたものを採用することができ、特開2016-078017号公報をそのまま援用する。
【0026】
ジオポリマーとは、ケイ素原子、アルミニウム原子及び酸素原子を骨格に含む無機ポリマーであり、アルミノシリケートポリマーとも呼ばれる。
【0027】
ジオポリマーの製造方法は特に限定されるものではないが、通常、図1に示すように、非晶質アルミノシリケート(Al2O3-SiO2)が塩基で活性化されて脱水縮合しSi-O-Al結合やSi-O-Si結合を生じることによってジオポリマーが得られる。非晶質アルミノシリケートは活性フィラーとも呼ばれ、塩基はアルカリ活性剤とも呼ばれる。ジオポリマーは、SiO4及びAlO4から構成されるネットワーク構造を取ることが好ましいが、この場合、3価の原子であるAlが4つの酸素原子と結合するため負電荷を帯びている。この負電荷を電荷補償するために、ネットワーク構造の網目の間にカチオンが保持されていることが好ましい。通常、上記カチオンはジオポリマー製造のために使用されたアルカリ活性剤に由来する。
【0028】
非晶質アルミノシリケート(活性フィラー)としては、例えば、下水道汚泥焼却灰、石炭灰(フライアッシュ等)、高炉水砕スラグ粉末、カオリン(メタカオリン等)、ゼオライト、粘土鉱物等の各種非晶質アルミノシリケートの1種又は2種以上を用いることができる。活性フィラーは、必要に応じて、含水率の低減や結晶構造を破壊するために焼成した後に用いることもできる。
【0029】
塩基(アルカリ活性剤)としては、各種の塩基を使用することができる。例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。これらは水和物の形態とすることもでき、1種又は2種以上を採用することができる。塩基(アルカリ活性剤)として、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ素原子を含む塩基、つまり、ケイ酸アルカリ金属塩を用いた場合、塩基に含まれていたケイ素原子の少なくとも一部がジオポリマーのネットワーク構造に取り込まれてジオポリマー中でSi-O-Al結合やSi-O-Si結合を形成することもある。また、先に記載したとおり、塩基(アルカリ活性剤)由来のカチオンにより、ジオポリマーの電荷を補償することができる。例えば、水素イオン(プロトン)、金属イオン等のカチオンを担持したジオポリマーとすることができ、これら担持カチオンは塩基(アルカリ活性剤)由来のカチオンとすることができる。塩基(アルカリ活性剤)由来のカチオンをイオン交換することにより、水素イオン、金属イオン等のカチオンを、ジオポリマーに担持させることができる。
【0030】
ジオポリマーは、公知の方法で合成することができる。または、市販のジオポリマーを用いることも可能である。ジオポリマーの合成方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0031】
まず、塩基(アルカリ活性剤)の水溶液に非晶質アルミノシリケート(活性フィラー)を添加することが好ましい。非晶質アルミノシリケート(活性フィラー)と塩基(アルカリ活性剤)との混合比は、塩基(アルカリ活性剤)を脱水縮合しSi-O-Al結合やSi-O-Si結合が形成されるように適宜設定することができる。得られた混合物を十分に混練した後、所定の型枠に注入し室温~200℃、特に室温~100℃で硬化させることができる。室温とは、例えば15~25℃程度である。こうして硬化体(成形体)としてジオポリマーを得ることができる。ジオポリマーは、通常、多孔質性を有するが、より多孔質性を高めるために公知の発泡剤をジオポリマー合成時に共存させることも可能である。また、混練に用いられる混練機は特に限定されるものではなく、例えば、ヘンシェルミキサー、アイリッヒミキサー、リボンミキサー、モルタルミキサー、コンクリートミキサー等の一般に使用される各種混錬機を用いることができる。
【0032】
(1-3)セルロース
セルロースとしては、特に制限はないが、国際公開第2018/030521号に記載されたものを採用することができ、国際公開第2018/030521号をそのまま援用する。
【0033】
セルロースとしては、セルロース繊維が好ましく、パルプ繊維(木材パルプ、非木材パルプ等)、バクテリアセルロース等が例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造することができる。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
【0034】
木材原料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0035】
非木材由来の原料としては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が挙げられる。
【0036】
パルプ繊維は、未叩解及び叩解のいずれでもよく、複合体シートの物性に応じて選択すればよいが、叩解を行う方が好ましい。
【0037】
また、これらセルロース原料はさらに処理を施すことで粉末セルロース、及びセルロース繊維:CNF(ミクロフィブリル化セルロース:MFC、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、カルボキシメチル化CNF、機械粉砕CNF等)として使用することもできる。本発明で用いる粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けするといった方法により製造される棒軸状である一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は100~1500が好ましく、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は70~90%が好ましく、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は1~100μmが好ましい。セルロース繊維としては、上記セルロース原料を解繊する方法が用いられる。解繊方法としては、例えばセルロースの水懸濁液等を、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機、ビーズミル等による機械的な磨砕、又は叩解することにより解繊する方法を使用することができる。上記方法を1種又は複数種類組み合わせてセルロース繊維を製造してもよい。製造したセルロース繊維の繊維径は電子顕微鏡観察等で確認することができ、例えば5~1000nmが好ましく、5~500nmがより好ましく、5~300nmがさらに好ましい。このセルロース繊維を製造する際、セルロースを解繊及び/又は微細化する前及び/又は後に、任意の化合物をさらに添加してセルロース繊維と反応させ、水酸基が修飾されたものにすることもできる。修飾する官能基としては、アセチル基、エステル基、エーテル基、ケトン基、ホルミル基、ベンゾイル基、アセタール、ヘミアセタール、オキシム、イソニトリル、アレン、チオール基、ウレア基、シアノ基、ニトロ基、アゾ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、アミド基、イミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2-ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2-プロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、オキシル基、チイラン基、チエタン基等が挙げられる。これらの置換基の中の水素が水酸基、カルボキシル基等の官能基で置換されても構わない。また、アルキル基の一部が不飽和結合になっていても構わない。これらの官能基を導入するために使用する化合物としては特に限定されず、例えば、リン酸由来の基を有する化合物、カルボン酸由来の基を有する化合物、硫酸由来の基を有する化合物、スルホン酸由来の基を有する化合物、アルキル基を有する化合物、アミン由来の基を有する化合物等が挙げられる。リン酸基を有する化合物としては特に限定されないが、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウムが挙げられる。更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムが挙げられる。更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムが挙げられる。更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等トリカルボン酸化合物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物等が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。また、化学的に結合させなくても、修飾する化合物がセルロース繊維に物理的に吸着する形でセルロース繊維を修飾してもよい。物理的に吸着する化合物としては界面活性剤等が挙げられ、アニオン性、カチオン性、ノニオン性いずれを用いてもよい。セルロースを解繊及び/又は粉砕する前に上記の修飾を行った場合、解繊及び/又は粉砕後にこれらの官能基を脱離させ、元の水酸基に戻すこともできる。以上のような修飾を施すことで、セルロース繊維の解繊を促進したり、セルロース繊維を使用する際に種々の物質と混合しやすくしたりすることができる。
【0038】
以上に示したセルロース繊維は単独で用いてもよいし、複数を混合してもよい。なかでも、木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプとの組み合わせを含むことが好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。
【0039】
なお、後述のように、固化体の表面に、ハイドロタルサイト様化合物及びセルロースを含有する皮膜を有する場合は、セルロースとしてはセルロース紙を用いることが好ましい。セルロース紙については、繊維状ではなく紙状であること以外はセルロース繊維と同様とすることができる。
【0040】
(1-4)磁性材料
本発明の固化体には、磁性材料を含有させることもできる。これにより、本発明の固化体を磁性体とすることも可能である。これにより、水質汚染のみならず、その源や結果である土壌汚染についても本発明の固化体により有害元素を吸着除去させた後には、回収の際にその磁性を利用して磁石等により容易に回収することができる。
【0041】
このような磁性材料としては、特に制限はなく、例えば、フェライト、マグネタイト、酸化鉄等の酸化物;鉄、コバルト、ニッケル等の金属;これらの合金等を用いることができ、主成分副成分として他の元素を含んでいてもよい。含有元素としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、銅、鉛、マグネシウム、スズ、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウム等が挙げられる。
【0042】
使用する磁性材料の大きさは特に制限はなく、適宜調整することができる。
【0043】
(1-5)固化体
本発明の固化体は、ハイドロタルサイト様化合物と、ジオポリマー及び/又はセルロースとを含有しており、必要に応じて磁性材料を含有することもできる。具体的には、ハイドロタルサイト様化合物及びジオポリマー、並びに必要に応じて磁性材料を含む硬化体を採用することもできるし、ハイドロタルサイト様化合物及びセルロース、並びに必要に応じて磁性材料を含有する固化体を採用することもできる。いずれの場合においても、耐久性、機械的加工性、元素の吸着除去性能等の観点から、固化体の総量を100質量%として、ハイドロタルサイト様化合物の含有量が0.1~75質量%、特に1~50質量%であることが好ましく、ジオポリマー及び/又はセルロースの含有量が1~80質量%、特に10~50質量%であることが好ましく、磁性材料を含む場合はその含有量が1~50質量%、特に10~25質量%であることが好ましい。なお、ジオポリマー及びセルロースとしては、機械加工性のみならず、耐酸性及び耐久性の観点から、持続的な使用が可能であるジオポリマーが好ましい。
【0044】
ハイドロタルサイト様化合物及びジオポリマー、並びに必要に応じて磁性材料を含む硬化体の製造方法は特に制限されない。具体的には、上記したハイドロタルサイト様化合物と、上記したジオポリマーの前駆体である非晶質アルミノシリケート及び塩基と、上記した磁性材料とを用いて、上記したジオポリマーの製造方法と同様にして、ジオポリマーを製造しつつハイドロタルサイト様化合物と複合化しつつ必要に応じて磁性材料を含んだ硬化体を得ることができる。
【0045】
具体的には、ハイドロタルサイト様化合物、非晶質アルミノシリケート及び塩基、並びに必要に応じて磁性材料を混合した(工程1)後に養生し(工程2)、得られた水硬性組成物を乾燥させ(工程3)、次いで焼成する(工程4)ことでハイドロタルサイト様化合物及びジオポリマーを含む硬化体を得ることができる。なお、工程2までは同様に行い、基材の上に、上記した水硬性組成物を塗布し、その後、上記した工程3及び4を行った場合は、基材(公知又市販の固化体等)上に、ハイドロタルサイト様化合物を含有する皮膜(特に、ハイドロタルサイト様化合物及びジオポリマー)を有する担持型固化体を得ることもできる。
【0046】
具体的には、まず、塩基(アルカリ活性剤)の水溶液に、ハイドロタルサイト様化合物及び非晶質アルミノシリケート(活性フィラー)、並びに必要に応じて磁性材料を添加することが好ましい。各成分の混合比は、塩基(アルカリ活性剤)を脱水縮合しSi-O-Al結合やSi-O-Si結合が形成しつつハイドロタルサイト様化合物と適度に複合化されるように適宜設定することができる。例えば、ハイドロタルサイト様化合物、非晶質アルミノシリケート及び塩基の総量を100質量%として、ハイドロタルサイト様化合物の使用量は0.1~75質量%(特に1~50質量%)が好ましく、非晶質アルミノシリケートの使用量は10~80質量%(特に10~50質量%)が好ましく、塩基(アルカリ活性剤)の使用量(固形分)1~50質量%(特に1~25質量%)が好ましく、磁性材料を含む場合はその含有量が10~50質量%(特に5~25質量%)であることが好ましい。好ましい。
【0047】
得られた混合物を例えば所定の型枠に注入し室温~200℃、特に40~100℃で封滅養生することで硬化させることができる。室温とは、例えば15~25℃程度である。この後、得られた水硬性組成物を常法(例えば室温~100℃)で乾燥させ、次いで、例えば400~1300℃、特に500~1200℃で焼成することで、ジオポリマーを製造しつつハイドロタルサイト様化合物と複合化した硬化体を得ることができる。ジオポリマーは、通常、多孔質性を有するが、より多孔質性を高めるために公知の発泡剤を工程1において共存させることも可能である。また、混合(特に混練)に用いられる混練機は特に限定されるものではなく、例えば、ヘンシェルミキサー、アイリッヒミキサー、リボンミキサー、モルタルミキサー、コンクリートミキサー等の一般に使用される各種混錬機を用いることができる。
【0048】
このようにして得られる硬化体は成形性に優れており、例えば、型枠によって食器、コップ、ストロー等の所望の形状に成形することができる。
【0049】
なお、担持型固化体を得ようとする場合は、公知又は市販の固化体の上に、得られた混合物を塗布し、同様に養生することで硬化させることができる。
【0050】
次に、ハイドロタルサイト様化合物及びセルロース、並びに必要に応じて磁性材料を含む固化体の製造方法も特に制限されない。
【0051】
例えば、ハイドロタルサイト様化合物の前駆体として、上記したように、金属イオンM12+と陰イオンAn-とからなる塩の水溶液と、金属イオンM23+と陰イオンAn-とからなる塩の水溶液と、をそれぞれ作製し、所定の組成比となるように混合、調製することが好ましい。この際、陰イオンAn-としてNO3 2-を採用する場合は、例えば硝酸水溶液を採用することができる。ここで、それぞれの塩を混合してから、混合水溶液を作製することもできる。
【0052】
次に、上記したハイドロタルサイト様化合物の前駆体溶液と、上記したセルロースの溶液とを混合する。この際の混合比は、得られる固化体におけるハイドロタルサイト様化合物の含有量が上記した範囲となるように調整することが好ましい。次に、沈殿剤として上記した塩基性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等)を所定の温度(例えば室温~100℃)に調整し、得られた混合液を少量ずつ添加する。撹拌速度及び時間は、適宜設定することができる。滴下終了後に沈殿剤の温度保持及び撹拌を継続し、熟成させることもできる。続いて、沈殿剤中の沈殿物を吸引濾過により回収し、必要に応じて磁性材料を混合し、洗浄した後に乾燥させることにより、ハイドロタルサイト様化合物とセルロースとが複合化し、必要に応じて磁性材料を含有した固化体を得ることができる。この固化体は、通常、フィルタ形状で得ることができるが、食器、コップ、ストロー等の所望の形状に成形することもできる。
【0053】
なお、担持型固化体を得ようとする場合は、基材(公知又は市販の固化体等)の上に、上記した水硬性組成物を塗布し、その後、上記した工程3及び4を行うことで、基材(公知又市販の固化体等)上に、ハイドロタルサイト様化合物を含有する皮膜(特に、ハイドロタルサイト様化合物及びセルロース)を有する担持型固化体を得ることもできる。また、基材(公知又は市販の固化体等)の上に、上記したハイドロタルサイト様化合物の前駆体溶液を含ませたセルロース紙をたたきつけることで固着させ、ジオポリマーを含む場合と同様に乾燥及び焼成し、その後、沈殿剤として上記した塩基性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等)を所定の温度(例えば室温~100℃)に調整し、浸漬することで硬化させ、ハイドロタルサイト様化合物を含有する皮膜(特に、ハイドロタルサイト様化合物及びセルロース)を有する担持型固化体を得ることもできる。
【0054】
一般に、ハイドロタルサイト様化合物は、ゲスト層の陰イオンAn-を他の陰イオンに交換する陰イオン交換作用を有している。本発明の固化体においては、飲用井戸水や味噌汁等の被処理水をこれらの固化体と接触させる、具体的には、本発明の固化体中に被処理水を投入し、振とうすることにより、ヒ素、カドミウム、鉛、水銀、マンガン、リチウム、ホウ素、ナトリウム、アルミニウム、ケイ素、リン、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタノイド(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム等)、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、イリジウム、白金、金、タリウム、ビスマス、ウラン等の各種有害元素を吸着除去することができる。また、カチオンのみならず、水質及び土壌汚染元素であるフッ素や硫化物イオン等のアニオンを吸着除去することができる。また、繰り返し使用しても、高効率な除去効果を維持することができる。そして、これらの元素を吸着除去した後は、図2に示すように、炭酸イオンを含む化合物(炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)等)と接触させることで、吸着除去した元素を容易に離脱させ、さらに加熱して燃焼させることで残存した炭酸イオンも容易に離脱させることができる。このため、仮に、繰り返し使用することで除去効果が低減した場合であっても、炭酸イオンを含む化合物(炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)等)と接触させることで吸着性能を再生させ、再度高効率な除去効果を得ることができる。この再生効果は、セルロースを使用した場合に特に顕著である。なお、元素によっては、炭酸イオンを含む化合物(炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)等)と接触させることで、初期よりも吸着除去性能がさらに向上することもある。
【0055】
また、ハイドロタルサイト様化合物及びジオポリマーはアルカリ性化合物であり、これにより浄化された水は通常アルカリ性を示すが、本発明の固化体(特に、ハイドロタルサイト様化合物及びジオポリマーを含む硬化体)は、その製造工程において焼成により、硬化体が中性化することで浄化された水が中性を保持するとともに、ジオポリマーによる多孔性が生じる。さらに、焼成により耐水性が生じるが、これは部分的なジオポリマーのセラミクスによると考えられる。これらより、本発明の固化体は、水硬性組成物として水質浄化機能を有する土木建築資材に用いること、焼成体として飲料水浄化機能を有するフィルタ、食器類等に用いることが可能である。
【0056】
また、本発明の固化体を食器類に採用する場合は、コップの形状に成形したり、ストローやマドラー等の形状に成形し、飲用前に1分~3時間程度振とうすることで上記した元素を除去することができる。
【実施例
【0057】
以下、本発明について実施例の形式で詳細に説明する。以下の実施例は、本発明の用途を何ら限定するものではない。
【0058】
なお、以下の実施例において、石炭灰、メタカオリン、ケイ酸ナトリウム水溶液(水ガラス1号)及びパルプ溶液(2質量%酢酸溶液)、硝酸マグネシウム及び硝酸鉄は市販品を使用した。
【0059】
また、ハイドロタルサイト様化合物は、特開2013-146660号公報の実施例に記載の方法に準拠し、実施例1及び4ではMg: Alがモル比2: 1、実施例2、3、5、6及び8ではMg: Feがモル比2: 1となるように調整し、ゲスト層のAn-がCO3 2-又はNO3 2-であるハイドロタルサイト様化合物を製造して使用した。
【0060】
実施例1
石炭灰及びケイ酸ナトリウム水溶液を所定比率で混和後、ハイドロタルサイト様化合物((M1, M2): (Mg, Al)、モル比Mg: Al= 2: 1)を前記混和物に対し、前記混和物:ハイドロタルサイト様化合物が質量比3.5: 0.2で混和した。混和物を一晩封滅養生した。生成された水硬性組成物を乾燥させた後、800℃で焼成し、実施例1の硬化体を得た。
【0061】
得られた硬化体を破砕した。複数元素を含む水溶液を用い、前記破砕した粒子を1質量%添加し、1時間振とう後固液分離した。前記破砕した粒子添加した前後の水溶液を分析した。なお、測定は、前記破砕した粒子40mgと複数元素(100ppb)が溶解している水溶液4mLとを混合し、1時間振とう後、遠心により固液分離を行い、以下の式:
除去効率(%)=(元の濃度-1時間後の濃度)÷元の濃度×100
にて、除去効率を求め図3に示した。
【0062】
実施例2
ハイドロタルサイト様化合物として、ハイドロタルサイト様化合物((M1, M2): (Mg, Fe) 、モル比Mg: Fe= 2: 1)を用いたこと以外は実施例1と同様に、実施例2の硬化体を得た。
【0063】
得られた硬化体を破砕した。複数元素を含む水溶液を用い、前記破砕した粒子を1質量%添加し、1時間振とう後固液分離した。前記破砕した粒子添加した前後の水溶液を分析した。なお、測定は、前記破砕した粒子40mgと複数元素(100ppb)が溶解している水溶液4mLとを混合し、1時間振とう後、遠心により固液分離を行い、以下の式:
除去効率(%)=(元の濃度-1時間後の濃度)÷元の濃度×100
にて、除去効率を求め図4に示した。
【0064】
実施例3
前記混和物:ハイドロタルサイト様化合物((M1, M2): (Mg, Fe))の質量比3.5: 0.4を用いたこと以外は実施例1と同様に、実施例3の硬化体を得た。
【0065】
得られた硬化体を破砕した。複数元素を含む水溶液を用い、前記破砕した粒子を1質量%添加し、1時間振とう後固液分離した。前記破砕した粒子添加した前後の水溶液を分析した。なお、測定は、前記破砕した粒子40mgと複数元素(100ppb)が溶解している水溶液4mLとを混合し、1時間振とう後、遠心により固液分離を行い、以下の式:
除去効率(%)=(元の濃度-1時間後の濃度)÷元の濃度×100
にて、除去効率を求め図5に示した。
【0066】
実施例4
実施例1と同様の組成で、コップ状の硬化体を得た。
【0067】
具体的には、石炭灰及びケイ酸ナトリウム水溶液を所定比率で混和後、ハイドロタルサイト様化合物((M1, M2): (Mg, Al)、モル比Mg: Al= 2: 1)を前記混和物に対し、前記混和物:ハイドロタルサイト様化合物が質量比3.5: 0.2で混和した。混和物をコップ状の型枠に投入し、一晩封滅養生した。生成された水硬性組成物を乾燥させた後、800℃で焼成し、実施例4のコップ状硬化体を得た。得られた外観写真を図6に示す。
【0068】
得られたコップ状硬化体に複数元素を含む水溶液を注ぎ、1時間振とう後固液分離した。硬化体に注ぐ前後の水溶液を分析した。なお、測定は、得られたコップ状硬化体に複数元素(100ppb)を含む水溶液を注ぎ、1時間振とう後、遠心により固液分離を行い、以下の式:
除去効率(%)=(元の濃度-1時間後の濃度)÷元の濃度×100
にて、除去効率を求め図7に示した。
【0069】
実施例5
メタカオリン及びケイ酸ナトリウム水溶液を所定比率で混和後、ハイドロタルサイト様化合物((M1, M2): (Mg, Fe)、モル比Mg: Fe= 2: 1)を前記混和物に対し、前記混和物:ハイドロタルサイト様化合物が質量比3.5: 0.8で混和した。混和物を一晩封滅養生した。生成された水硬性組成物を乾燥させた後、750℃で焼成し、実施例5の硬化体を得た。
【0070】
得られた硬化体を破砕した。複数元素を含む水溶液を用い、前記破砕した粒子を1質量%添加し、1時間振とう後固液分離した。前記破砕した粒子添加した前後の水溶液を分析した。なお、測定は、前記破砕した粒子40mgと複数元素(100ppb)が溶解している水溶液4mLとを混合し、1時間振とう後、遠心により固液分離を行い、以下の式:
除去効率(%)=(元の濃度-1時間後の濃度)÷元の濃度×100
にて、除去効率を求め図8に示した。この結果、ヒ素、カドミウム、マンガン、鉛等を90質量%以上吸着除去することができた。また、さらに、吸着等温式による解析を行い、図9に示した。この結果、ヒ素、フッ素、硫化水素等の吸着がLangmuir型に適合することを確認した。また、水質及び土壌汚染元素であるフッ素や硫化物イオン等も吸着できることを確認した。
【0071】
実施例6
実施例5と同様の組成で、コップ状の硬化体を得た。
【0072】
具体的には、メタカオリン及びケイ酸ナトリウム水溶液を所定比率で混和後、ハイドロタルサイト様化合物((M1, M2): (Mg, Fe) 、モル比Mg: Fe= 2: 1)を前記混和物に対し、前記混和物:ハイドロタルサイト様化合物が質量比3.5: 0.8で混和した。混和物をコップ状の型枠に投入し、60℃で一晩封滅養生した。生成された水硬性組成物を乾燥させた後、750℃で焼成し、実施例6のコップ状硬化体を得た。得られた外観写真を図10に示す。
【0073】
得られたコップ状硬化体に複数元素を含む水溶液を注ぎ、30秒間振とう後固液分離した。硬化体に注ぐ前後の水溶液を分析した。なお、測定は、得られたコップ状硬化体に複数元素(100ppb)を含む水溶液を注ぎ、200rpmで30秒間振とう後、遠心により固液分離を行い、以下の式:
除去効率(%)=(元の濃度-30秒後の濃度)÷元の濃度×100
にて、除去効率を求め図11に示した。このように振とう時間を短くしても効率的に元素を吸着除去することが可能であった。
【0074】
実施例7
図12に示すような装置を用いて、パルプ溶液(2質量%酢酸溶液)と、2価Mg/3価Feの混合溶液(硝酸マグネシウム及び硝酸鉄の混合溶液)とを混合し、炭酸ナトリウム水溶液に少量ずつ添加した後、精製水で洗浄した。得られた固化体をシート状構造体に成形し乾燥させることで、実施例7のシート状固化体を得た。得られた外観写真を図13に示す。
【0075】
得られたシート状固化体を用いて、複数元素を含む水溶液をろ過し、固化体でろ過する前後の水溶液を分析した。なお、測定は、得られたシート状固化体101mgを用いて、複数元素(100ppb)を含む水溶液5mLをろ過し(1mL/min)、遠心により固液分離を行い、以下の式:
除去効率(%)=(元の濃度-ろ過後の濃度)÷元の濃度×100
にて、除去効率を求め図14に示した。このように、シート状固化体によっても各種元素を吸着除去することが可能であった。
【0076】
次に、得られたシート状固化体を用いて、NaClを含む水溶液をろ過しし、固化体でろ過する前後の水溶液を分析した。なお、測定は、得られたシート状固化体300mgを用いて、NaCl(0.15質量%、0.9質量%及び1.5質量%)を含む水溶液3mLをろ過し(1mL/min)、遠心により固液分離を行い、以下の式:
除去効率(%)=(元の濃度-ろ過後の濃度)÷元の濃度×100
にて、除去効率を求め図15に示した。このように、NaClの吸着除去効率は最大でも15.5質量%であり、過度に吸着除去しないことから、味噌汁等の被処理食品に対して旨味等を損なうことなく減塩が可能であることが示された。
【0077】
実施例8
ハイドロタルサイト様化合物を硬化体表面にコートすることにより表面担持型硬化体を得た。
【0078】
具体的には、ハイドロタルサイト様化合物((M1, M2): (Mg, Fe) 、モル比Mg: Fe= 2: 1)及び塩化カルシウム水溶液を、ハイドロタルサイト様化合物:塩化カルシウムが質量比1: 3となるように混和した。次いで、硬化体(素焼きの白磁)の表面に得られた混和物を含んだセルロース紙をたたきつけることで固着させ、80℃で一晩乾燥した。乾燥させた後300℃で焼成し、炭酸ナトリウム水溶液に浸漬後乾燥し、食器状硬化体を得た。得られた外観写真を図16に示す。
【0079】
得られた担持体のXRD結晶構造解析を図17に示す。XRD解析より、ハイドロタルサイトと炭酸カルシムとが検出され、ハイドロタルサイト構造を有していることを確認した。
【0080】
得られた食器状硬化体に複数元素を含む水溶液を注ぎ、30秒間振とう後固液分離した。硬化体に注ぐ前後の水溶液を分析した。なお、測定は、得られた食器状硬化体に複数元素(100ppb)を含む水溶液を注ぎ、200rpmで30秒間振とう後、遠心により固液分離を行い、以下の式:
除去効率(%)=(元の濃度-30秒後の濃度)÷元の濃度×100
にて、除去効率を求め図18に示した。
【0081】
さらに、反復使用による浄化効果を5分間振とう及び10秒間振とうにより解析し、それぞれ図19及び図20に示した。いずれの場合も、繰り返し多元素を吸着可能であり、また振とう時間を短くしても効率的に元素を吸着除去することが可能であった。また、重曹処理(容器に対して重曹溶液をかけてから水洗する処理)による吸着再生効果についても図21に示した。重曹処理をすることにより、吸着性能を回復させることができ、また、セレン及びタングステンについては、理由は明らかではないが、初期よりもさらに吸着性能を増大させることができた。
図1
図2
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図10
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図21