(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】椅子、座部および背もたれ
(51)【国際特許分類】
A47C 7/14 20060101AFI20240826BHJP
A47C 7/40 20060101ALI20240826BHJP
A47C 7/16 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
A47C7/14 C
A47C7/40
A47C7/16
(21)【出願番号】P 2021570078
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2021000275
(87)【国際公開番号】W WO2021141073
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020001891
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519366237
【氏名又は名称】NatureArchitects株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 泰介
(72)【発明者】
【氏名】山本 龍
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓介
(72)【発明者】
【氏名】上原 直樹
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-121334(JP,A)
【文献】特開2019-063177(JP,A)
【文献】特開2015-134085(JP,A)
【文献】特開2017-114308(JP,A)
【文献】特開2005-160558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/14
A47C 7/40
A47C 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面の少なくとも一部の変形モードがユーザの着座時に前記ユーザの臀部の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている座部を具備する椅子
であって、
前記複曲面の曲率は、前記ユーザからの外力のうち前記座面の基準面に対する法線方向の成分の大きさに依存し、
前記複曲面は、椀型であって、前記ユーザからの外力のうち前記座面の基準面に対する法線方向の成分が大きいほどガウス曲率がより大きな正値となり、
前記座部は、前記座面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体を含み、
前記複数の単位構造体の1つである第1の単位構造体は、
4以上の偶数本の辺を備える多角形が備える4以上の頂点のうち第1の頂点を通り、前記座面の基準面上の主軸に対して略平行に配列される第1の梁部と、
前記4以上の頂点のうち前記第1の頂点と対向する第2の頂点を通り、前記主軸に対して略平行に配列される第2の梁部と、
前記4以上の頂点のうち対向する第3の頂点および第4の頂点において前記第1の単位構造体に隣接する第2の単位構造体および第3の単位構造体の梁部を接続する接続部と、
前記多角形の辺に沿って、前記第1の梁部および前記第2の梁部から延出する柱部と
を備え、
前記第1の単位構造体を前記主軸の方向に引っ張り変形させたときのポアソン比が負である、椅子。
【請求項2】
座面の少なくとも一部の変形モードがユーザの着座時に前記ユーザの臀部の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている座部を具備する椅子であって、
前記複曲面の曲率は、前記ユーザからの外力のうち前記座面の基準面に対する法線方向の成分の大きさに依存し、
前記複曲面は、椀型であって、前記ユーザからの外力のうち前記座面の基準面に対する法線方向の成分が大きいほどガウス曲率がより大きな正値となり、
前記座部は、前記座面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体を含み、
前記単位構造体は、
第1の面を有する第1の梁部と、
前記第1の面と対向する第2の面を有する第2の梁部と、
前記第1の面の一端および他端から前記第2の面に向かって、互いの距離が近づくようにそれぞれ延出する第1の柱部および第2の柱部と、
前記第2の面の一端および他端から前記第1の面に向かって、互いの距離が近づくようにそれぞれ延出する第3の柱部および第4の柱部と、
前記第1の柱部および前記第2の柱部のうち前記第1の面に接していない端部と、前記第3の柱部および前記第4の柱部のうち前記第2の面に接していない端部とを接続する接続部と
を備え、
前記第1の梁部および前記第2の梁部は、前記第1の柱部、前記第2の柱部、前記第3の柱部および前記第4の柱部に比べて、厚みが大きい
、椅子。
【請求項3】
座部と、
背当て面の少なくとも一部の変形モードがユーザの寄り掛かり時に前記ユーザの背中の位置に関わらず第1の位置を基準とした第1の種類の複曲面を含む第1の目標曲面を形成するように孤立化されている背もたれと
を具備する、椅子
であって、
前記複曲面の曲率は、前記ユーザからの外力のうち前記背当て面の基準面に対する法線方向の成分の大きさに依存し、
前記の複曲面は、鞍型であって、前記ユーザからの外力のうち前記背当て面の基準面に対する法線方向の成分が大きいほどガウス曲率がより小さい負値となり、
前記背もたれは、前記背当て面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体を含み、
前記複数の単位構造体の1つである第1の単位構造体は、
4以上の偶数本の辺を備える多角形が備える4以上の頂点のうち第1の頂点を通り、前記背当て面の基準面上の主軸に対して略平行に配列される第1の梁部と、
前記4以上の頂点のうち前記第1の頂点と対向する第2の頂点を通り、前記主軸に対して略平行に配列される第2の梁部と、
前記4以上の頂点のうち対向する第3の頂点および第4の頂点において前記第1の単位構造体に隣接する第2の単位構造体および第3の単位構造体の梁部を接続する接続部と、
前記多角形の辺に沿って、前記第1の梁部および前記第2の梁部から延出する柱部と
を備え、
前記第1の単位構造体は、前記主軸の方向に引っ張り変形させたときのポアソン比が正である、椅子。
【請求項4】
座部と、
背当て面の少なくとも一部の変形モードがユーザの寄り掛かり時に前記ユーザの背中の位置に関わらず第1の位置を基準とした第1の種類の複曲面を含む第1の目標曲面を形成するように孤立化されている背もたれと、
を具備する、椅子であって、
前記複曲面の曲率は、前記ユーザからの外力のうち前記背当て面の基準面に対する法線方向の成分の大きさに依存し、
前記の複曲面は、鞍型であって、前記ユーザからの外力のうち前記背当て面の基準面に対する法線方向の成分が大きいほどガウス曲率がより小さい負値となり、
前記背もたれは、前記背当て面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体を含み、
前記単位構造体は、
第1の面を有する第1の梁部と、
前記第1の面と対向する第2の面を有する第2の梁部と、
前記第1の面の一端および他端から前記第2の面に向かって、互いの距離が遠ざかるようにそれぞれ延出する第1の柱部および第2の柱部と、
前記第2の面の一端および他端から前記第1の面に向かって、互いの距離が遠ざかるようにそれぞれ延出する第3の柱部および第4の柱部と、
前記第1の柱部および前記第2の柱部のうち前記第1の面に接していない端部と、前記第3の柱部および前記第4の柱部のうち前記第2の面に接していない端部とを接続する接続部と
を備え、
前記第1の梁部および前記第2の梁部は、前記第1の柱部、前記第2の柱部、前記第3の柱部および前記第4の柱部に比べて、厚みが大きい
、椅子。
【請求項5】
前記座部は、座面の少なくとも一部の変形モードが前記ユーザの着座時に前記ユーザの臀部の位置に関わらず第2の位置を基準とした第2の種類の複曲面を含む第2の目標曲面を形成するように孤立化されている、請求項
3または4に記載の椅子。
【請求項6】
座面の少なくとも一部の変形モードがユーザの着座時に前記ユーザの臀部の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている座部
であって、
前記複曲面の曲率は、前記ユーザからの外力のうち前記座面の基準面に対する法線方向の成分の大きさに依存し、
前記複曲面は、椀型であって、前記ユーザからの外力のうち前記座面の基準面に対する法線方向の成分が大きいほどガウス曲率がより大きな正値となり、
前記座部は、前記座面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体を含み、
前記複数の単位構造体の1つである第1の単位構造体は、
4以上の偶数本の辺を備える多角形が備える4以上の頂点のうち第1の頂点を通り、前記座面の基準面上の主軸に対して略平行に配列される第1の梁部と、
前記4以上の頂点のうち前記第1の頂点と対向する第2の頂点を通り、前記主軸に対して略平行に配列される第2の梁部と、
前記4以上の頂点のうち対向する第3の頂点および第4の頂点において前記第1の単位構造体に隣接する第2の単位構造体および第3の単位構造体の梁部を接続する接続部と、
前記多角形の辺に沿って、前記第1の梁部および前記第2の梁部から延出する柱部と
を備え、
前記第1の単位構造体を前記主軸の方向に引っ張り変形させたときのポアソン比が負である、座部。
【請求項7】
背当て面の少なくとも一部の変形モードがユーザの寄り掛かり時に前記ユーザの背中の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている背もたれ
であって、
前記複曲面の曲率は、前記ユーザからの外力のうち前記背当て面の基準面に対する法線方向の成分の大きさに依存し、
前記の複曲面は、鞍型であって、前記ユーザからの外力のうち前記背当て面の基準面に対する法線方向の成分が大きいほどガウス曲率がより小さい負値となり、
前記背もたれは、前記背当て面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体を含み、
前記複数の単位構造体の1つである第1の単位構造体は、
4以上の偶数本の辺を備える多角形が備える4以上の頂点のうち第1の頂点を通り、前記背当て面の基準面上の主軸に対して略平行に配列される第1の梁部と、
前記4以上の頂点のうち前記第1の頂点と対向する第2の頂点を通り、前記主軸に対して略平行に配列される第2の梁部と、
前記4以上の頂点のうち対向する第3の頂点および第4の頂点において前記第1の単位構造体に隣接する第2の単位構造体および第3の単位構造体の梁部を接続する接続部と、
前記多角形の辺に沿って、前記第1の梁部および前記第2の梁部から延出する柱部と
を備え、
前記第1の単位構造体は、前記主軸の方向に引っ張り変形させたときのポアソン比が正である、背もたれ。
【請求項8】
座面の少なくとも一部の変形モードがユーザの着座時に前記ユーザの臀部の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている座部であって、
前記複曲面の曲率は、前記ユーザからの外力のうち前記座面の基準面に対する法線方向の成分の大きさに依存し、
前記複曲面は、椀型であって、前記ユーザからの外力のうち前記座面の基準面に対する法線方向の成分が大きいほどガウス曲率がより大きな正値となり、
前記座部は、前記座面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体を含み、
前記単位構造体は、
第1の面を有する第1の梁部と、
前記第1の面と対向する第2の面を有する第2の梁部と、
前記第1の面の一端および他端から前記第2の面に向かって、互いの距離が近づくようにそれぞれ延出する第1の柱部および第2の柱部と、
前記第2の面の一端および他端から前記第1の面に向かって、互いの距離が近づくようにそれぞれ延出する第3の柱部および第4の柱部と、
前記第1の柱部および前記第2の柱部のうち前記第1の面に接していない端部と、前記第3の柱部および前記第4の柱部のうち前記第2の面に接していない端部とを接続する接続部と
を備え、
前記第1の梁部および前記第2の梁部は、前記第1の柱部、前記第2の柱部、前記第3の柱部および前記第4の柱部に比べて、厚みが大きい、座部。
【請求項9】
背当て面の少なくとも一部の変形モードがユーザの寄り掛かり時に前記ユーザの背中の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている背もたれであって、
前記複曲面の曲率は、前記ユーザからの外力のうち前記背当て面の基準面に対する法線方向の成分の大きさに依存し、
前記の複曲面は、鞍型であって、前記ユーザからの外力のうち前記背当て面の基準面に対する法線方向の成分が大きいほどガウス曲率がより小さい負値となり、
前記背もたれは、前記背当て面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体を含み、
前記単位構造体は、
第1の面を有する第1の梁部と、
前記第1の面と対向する第2の面を有する第2の梁部と、
前記第1の面の一端および他端から前記第2の面に向かって、互いの距離が遠ざかるようにそれぞれ延出する第1の柱部および第2の柱部と、
前記第2の面の一端および他端から前記第1の面に向かって、互いの距離が遠ざかるようにそれぞれ延出する第3の柱部および第4の柱部と、
前記第1の柱部および前記第2の柱部のうち前記第1の面に接していない端部と、前記第3の柱部および前記第4の柱部のうち前記第2の面に接していない端部とを接続する接続部と
を備え、
前記第1の梁部および前記第2の梁部は、前記第1の柱部、前記第2の柱部、前記第3の柱部および前記第4の柱部に比べて、厚みが大きい、背もたれ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、椅子、座部および背もたれに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、働き方改革を背景に、オフィスに用意された固定席の他に業務を行う場所を選択できるオフィスワーカーが増えつつある。かかるオフィスワーカーは、典型的には、オフィス共有部(例えば、カフェスペース)、コワーキングスペース、シェアオフィス、自宅などで業務を行うことになる。これらの空間では、オフィスを連想させにくいシンプルなデザインのカジュアルチェアが好まれる。
【0003】
しかしながら、一般的なカジュアルチェアは、従来のオフィスの固定席でよく目にする高機能なタスクチェアと比べると、長時間の着座を前提としていないため座り心地が悪いうえにデザイン上の制約から各種の機械的調節機構を付加することも困難である。
【0004】
特許文献1には、着座者が快適に着座できるとされる椅子が提案されている。特許文献2には、座り心地の向上を図ることができるとされる椅子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-191807号公報
【文献】特開2015-016232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の椅子は、その座板の着座面に坐骨の凸部を収容する2つの坐骨用凹部が形成される。故に、特許文献1に記載の技術を利用して座り心地の良さを追求するには、かかる坐骨用凹部を形成することが椅子のデザインの前提条件となる。
【0007】
特許文献2に記載の椅子は、そのフレームに取り付けられ着座者の臀部又は背面部を支える支持構造物に着座者の移動を防止するストッパが設けられる。故に、特許文献2に記載の技術を利用して座り心地の良さを追求するには、ストッパを設置することが椅子のデザインの前提条件となる。
【0008】
本開示は、デザインの自由度が高く座り心地の良い椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様によれば、椅子が提供される。この椅子は、座面の少なくとも一部の変形モードがユーザの着座時にユーザの臀部の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている座部を備える。
【0010】
本開示の第2の態様によれば、椅子が提供される。この椅子は、座部と、背当て面の少なくとも一部の変形モードがユーザの寄り掛かり時にユーザの背中の位置に関わらず第1の位置を基準とした第1の種類の複曲面を含む第1の目標曲面を形成するように孤立化されている背もたれとを備える。
【0011】
本開示の第3の態様によれば、座部が提供される。座部は、座面の少なくとも一部の変形モードがユーザの着座時にユーザの臀部の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている。
【0012】
本開示の第4の態様によれば、背もたれが提供される。背もたれは、背当て面の少なくとも一部の変形モードがユーザの寄り掛かり時にユーザの背中の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、デザインの自由度が高く座り心地の良い椅子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る椅子の構成を例示する図である。
【
図2】ユーザの着座時の座部の3次元形状を例示する図である。
【
図3】ユーザの非着座時の座部のYZまたはZX断面形状を例示する図である。
【
図4】ユーザの非着座時の座部のYZまたはZX断面形状を例示する図である。
【
図6】座部に含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
【
図7】ユーザの寄り掛かり時の背もたれの3次元形状を例示する図である。
【
図8】ユーザの非寄り掛かり時の背もたれのXY断面形状を例示する図である。
【
図9】ユーザの寄り掛かり時の背もたれのXY断面形状を例示する図である。
【
図10】ユーザの非寄り掛かり時の背もたれのYZ断面形状を例示する図である。
【
図11】ユーザの寄り掛かり時の背もたれのYZ断面形状を例示する図である。
【
図12】背もたれに含まれる構造体を例示する図である。
【
図13】背もたれに含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
【
図14】座部に含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
【
図15】座部に含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
【
図16】背もたれに含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
【
図17】背もたれに含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら実施形態の説明を述べる。なお、以降、説明済みの要素と同一または類似の要素には同一または類似の符号を付し、重複する説明については基本的に省略する。
【0016】
以降の説明では、椅子から見て左右、前後、および上下方向をそれぞれX方向、Y方向およびZ方向と定義する。
【0017】
(1)椅子の構成
本実施形態に係る椅子の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る椅子の構成を例示する図である。
【0018】
図1の椅子1は、座部10と、背もたれ20と、脚30とを含む。
【0019】
座部10は、ユーザの着座時にその臀部を支持する。座部10は、後述する構造体を含む。この構造体は、加えられる力に対して、予め定められた部分が弾性変形を介して予め定められた動き(変位)をすることで、ある一定の曲面を形成するように設計されている。このような構造体が加えられる力に対して弾性変形を介して予め定められた動きをする機構を、コンプライアントメカニズムと呼ぶこともある。この構造体は、一定の曲面の形成に寄与する向きの力に対しては剛性が低く(すなわち変形しやすい)一方で、当該曲面の形成に寄与しない向きの力に対しては剛性が高い(すなわち変形しにくい)。言い換えると、この構造体の変形モードは孤立化されている。故に、構造体に加える力の位置、向き、および大きさに関わらず、構造体はその設計に従って一定の曲面を形成することができる。
【0020】
座部10に含まれる構造体は、例えば、3Dプリンタによる造形、射出成型、粉末圧縮成型、レーザー加工、および切削加工の少なくとも1つを利用して製造され得る。構造体は、例えば、樹脂、金属(例えば、鉄、アルミニウム)、および木材の少なくとも1つを材料として含み得る。
【0021】
構造体は、外部に露出していてもよいし、表面材によって覆うこともできる。構造体を表面材によって覆うことで、構造体の外観に左右されることなく椅子1をデザインすることができる。表面材は、構造体の弾性変形を阻害しない材料、例えばエラストマーなどの軟質材、布(織物、編物、不織布)、皮革(天然皮革、人工皮革)、などで構成される。表面材としてのエラストマーの基材は特に限定されないが、例えば、アクリル系、ウレタン系、シリコン系、またはスチレン系の基材であり得る。
【0022】
背もたれ20は、ユーザの寄り掛かり時にその背中を支持する。背もたれ20は、後述する構造体を含む。この構造体は、座部10の構造体と同様に、加えられる力に対して、予め定められた部分が弾性変形を介して予め定められた動き(変位)をすることで、ある一定の曲面を形成するように設計されている。この構造体は、その変形モードが孤立化されている。故に、構造体に加える力の位置、向き、および大きさに関わらず、構造体はその設計に従って一定の曲面を形成することができる。
【0023】
背もたれ20に含まれる構造体は、例えば3Dプリンタによる造形、射出成型、粉末圧縮成型、レーザー加工、および切削加工の少なくとも1つを利用して製造され得る。構造体は、例えば、樹脂、金属(例えば、鉄、アルミニウム)、および木材の少なくとも1つを材料として含み得る。
【0024】
構造体は、外部に露出していてもよいし、表面材によって覆うこともできる。構造体を表面材によって覆うことで、構造体の外観に左右されることなく椅子1をデザインすることができる。表面材は、構造体の弾性変形を阻害しない材料、例えばエラストマーなどの軟質材、布(織物、編物、不織布)、皮革(天然皮革、人工皮革)、などで構成される。表面材としてのエラストマーの基材は特に限定されないが、例えば、アクリル系、ウレタン系、シリコン系、またはスチレン系の基材であり得る。
【0025】
座部10および背もたれ20は、両方または一方のみが個別に製造されてもよいし、一体的に椅子として製造されてもよい。座部10および背もたれ20の両方が個別に製造された場合に、個別製造された座部10および背もたれ20は、接合されて椅子として用いられてもよい。或いは、個別に製造された座部10が背もたれ20とは接合されないまま椅子として用いられてもよいし、個別に製造された背もたれ20が座部10とは接合されないまま椅子として用いられてもよい。さらに、椅子から座部10および背もたれ20の少なくとも一方が取り外し可能であってもよい。
【0026】
座部10および背もたれ20の少なくとも一方は、安定性向上のために図示されないフレームに接合部を介して取り付けられていてもよい。フレームは、例えば樹脂、金属(例えば、鉄、アルミニウム)、および木材の少なくとも1つを材料として含み得る。また、樹脂は、カーボン繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化ナイロン(PAGF)、繊維強化ポリプロピレン樹脂、などの繊維強化樹脂であってもよい。接合部は、例えばエラストマーなどの軟質材を含み得る。
【0027】
脚30は、座部10および背もたれ20を支持する。脚30は、図示されないフレームと一体的に製造されてもよい。或いは、脚30は、フレームとは別に製造された後にフレーム取り付けられてもよい。
【0028】
図1の例では、脚30の数は4本であるが、3本以下であってもよいし、5本以上であってもよい。脚30のうち複数本の接地面側の端部を互いに接続してもよい。これにより、椅子1の安定性を高めたり、椅子1をロッキングチェアとして構成したりすることが可能である。また、脚30には、キャスターが取り付けられていてもよい。さらに、椅子1を座椅子として構成する場合には、脚30は不要となり得る。
【0029】
(2)実施形態の概要
座部10は、ユーザの着座時に座面がユーザからの外力に応じて弾性変形することでユーザの臀部の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標となる曲面(以下、「目標曲面」と称する)を形成するように設計された構造を備えている。座面の目標曲面は、外力の印加に対する弾性変形によって到達する座面の最終形状である。座面の目標曲面は、座部10の構造に依存する。換言すれば、座部10の変形モードは孤立化されており、座部10はユーザの着座時に座面がユーザの臀部の位置に関わらず目標曲面を形成する。ユーザからの外力は、例えば着座により座部10に接触したユーザの臀部を介して作用する。この複曲面は、ユーザの臀部の少なくとも一部を包み込む。
【0030】
ここで、複曲面とは、可展面に該当しない曲面であって、その曲面上の点のガウス曲率が非零である曲面を意味する。複曲面は、例えば、椀型曲面(定義は後述する)、鞍型曲面(定義は後述する)、球面などである。可展面は、例えば、平面、柱面、錐面、および接線曲線から選ばれる面の一部または全部を含む。ガウス曲率は、面が平面からどれだけ偏っているかを表す幾何的指標である。
【0031】
背もたれ20は、ユーザの寄り掛かり時に背当て面がユーザからの外力に応じて弾性変形することでユーザの背中の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように設計された構造を備えている。背当て面の目標曲面は、外力の印加に対する弾性変形によって到達する背当て面の最終形状である。背当て面の目標曲面は、背もたれ20の構造に依存する。換言すれば、背もたれ20の変形モードは孤立化されており、背もたれ20はユーザの寄り掛かり時に背当て面がユーザの背中の位置に関わらず目標曲面を形成する。ユーザからの外力は、例えば寄り掛かりにより背もたれ20に接触したユーザの背中を介して作用する。この複曲面は、ユーザの背中の少なくとも一部を包み込む。
【0032】
このように、椅子1の座部10は、着座によりユーザの臀部が接触した時に受ける外力によって、それ自体が当該臀部の少なくとも一部を包み込む複曲面状の座面を形成するように弾性変形する。また、椅子1の背もたれ20は、寄り掛かりによりユーザの背中が接触した時に受ける外力によって、それ自体が当該背中の少なくとも一部を包み込む複曲面状の背当て面を形成するように弾性変形する。
【0033】
要するに、この椅子1は、座部10および背もたれ20そのものがそれぞれ人間の身体にフィットする目標曲面を形成するように弾性変形するので、座り心地を向上させるために座部や背もたれを特定の形状に強制する必要もなければ、何らかの機械的機構を追加する必要もない。すなわち、本実施形態によれば、デザインの自由度が高く座り心地の良い椅子1を提供することができる。
【0034】
なお、変形例1において後述するように、座部10および背もたれ20の一方を既存の座部および背もたれに置き換えたり、背もたれが存在しない椅子に座部10を適用したりしたとしても、デザインの自由度が高く座り心地の良い椅子を提供することが可能である。
【0035】
また、座部10の座面が目標曲面を形成するように変形すると説明したが、座面全体が変形する必要はなく、座面の一部が変形するようにしてもよい。同様に、背もたれ20の背当て面が目標曲面を形成するように変形すると説明したが、背当て面全体が変形する必要はなく、背当て面の一部が変形するようにしてもよい。
【0036】
(3)座部および背もたれ
(3-1)座部
(3-1-1)座部の変形
座部10の変形を説明する。
図2は、ユーザの着座時の座部の3次元形状を例示する図である。
図3は、ユーザの非着座時の座部のYZまたはZX断面形状を例示する図である。
図4は、ユーザの非着座時の座部のYZまたはZX断面形状を例示する図である。
【0037】
図2乃至
図4に示されるように、座部10は、着座によるユーザからの外力に応じて略椀型の複曲面に変形する。
【0038】
この複曲面の曲率は、着座によるユーザからの外力のうち座面の基準面に対する法線方向の成分(
図2および
図4において矢印で示す)の大きさ(絶対値)に依存する。
図2乃至
図4の例では、座面の基準面をXY平面とするので、この基準面に対する法線方向はZ方向である。この複曲面は、ユーザの臀部の位置に関わらず、座部10の構造体の力学的性質に依存する位置を基準とする。要するに、座部10は、ユーザからの外力のうちZ方向の成分が大きいほどガウス曲率がより大きな正値である椀型の複曲面に変形する。椀型の複曲面とは、面上の全ての点におけるガウス曲率が正である複曲面を意味する。
【0039】
図3および
図4に示されるように、座面は、中心付近の変形(沈み込み)が最も大きく、周辺に向かうにつれて変形は小さくなるので、ユーザの臀部の収まりがよい。このような座部10によれば、ユーザの非着座時に座面をフラットまたは他の任意の面形状に見せながらも、ユーザの着座時にはその臀部(の少なくとも一部)を包み込んで良い座り心地、特に臀部へのフィット感を演出できる。
【0040】
座面の形成する目標曲面は、異なる位置を基準とする複数の曲面を含んでもよい。座面は、例えば、右臀部の少なくとも一部を包み込む略椀型の第1の複曲面と、左臀部の少なくとも一部を包み込む略椀型の複曲面とを含む目標曲面を形成し得る。目標曲面は、椀型に限らず鞍型またはその他の型の複曲面を含んでもよい。目標曲面は、少なくとも1つの複曲面を含んだ曲面を意味しており、複曲面の他に可展面をさらに含んでいてもよい。すなわち、目標曲面において、正、負、または零のガウス曲率が混在し得る。ガウス曲率が零である曲面は、可展面に相当する。
【0041】
(3-1-2)座部の構造体
座部10に含まれる構造体を説明する。この構造体が、上記(3-1-1)において説明した変形を実現する。
図5は、座部に含まれる構造体を例示する図である。
図6は、座部に含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
【0042】
図5の構造体は、
図6の単位構造体11を座部10の座面の基準面、この例ではXY平面に沿って連続的に配列したものである。なお、座部10の一部(例えば中央部)に構造体を配列し、座部10の残部(例えば、端部)に構造体を配列しないようにしてもよい。この構造体は、単位構造体の繰り返し構造によって、人間が意図した力学的性質(すなわち、上記(3-1-1)において説明した変形)を実現できる。このような構造体は、メカニカル・メタマテリアルと呼ぶこともある。なお、単位構造体の繰り返し構造は、例えば、3Dプリンタによる造形、射出成型、粉末圧縮成型、レーザー加工、および切削加工の少なくとも1つを利用して製造され得る。
【0043】
図6に例示されるように、単位構造体11は、梁部12L、梁部12R、柱部13UL、柱部13UR、柱部13DL、柱部13DR、および接続部14を含む。なお、
図6において、梁部12Uは、
図6の単位構造体11ではなく当該単位構造体11とY方向に隣接する別の単位構造体11に含まれるため破線で描かれている。同様に、
図6において、梁部12Dは、
図6の単位構造体11ではなく当該単位構造体11とY方向に隣接するさらなる別の単位構造体11に含まれるため破線で描かれている。単位構造体11のサイズは特に限定されないが、そのXY断面が5mm×5mm~80mm×80mmの正方形の枠に収まるように設計され得る。或いは、単位構造体11に対するこの正方形の枠を、その周長を保ったまま、縦横比が異なる矩形状の枠に変形することもできる。
【0044】
梁部12は、柱体、錐体、多面体、およびこれらの組み合わせの少なくとも1つの3次元形状、例えば直方体状に形成され、XY平面内のいずれかの直線、曲線、およびこれらの少なくとも1つ、例えばX方向に沿って配列される。梁部12のXY平面における長手方向のサイズは、特に限定されないが、例えば2~57mmの範囲で設計され得る。梁部12Lは、梁部12Rに対向する第1の面を有する。梁部12Rは、梁部12Lの第1の面に対向する第2の面を有する。
【0045】
柱部13は、柱体、錐体、多面体、およびこれらの組み合わせの少なくとも1つの3次元形状、例えば直方体状に形成される。柱部13のXY平面における長手方向のサイズは、特に限定されないが、例えば3~80mmの範囲で設計され得る。柱部13ULおよび柱部13DLはそれぞれ、梁部12Lの第1の面の一端および他端から、梁部12Uおよび梁部12Dに向かって、互いの距離が近づくようにそれぞれ延出し、梁部12Uおよび梁部12Dに接続する。すなわち、柱部13ULおよび柱部13DLは、XY平面において梁部12Lの第1の面に対して鋭角をなす(θ<90度)。
【0046】
柱部13URおよび柱部13DRはそれぞれ、梁部12Rの第2の面の一端および他端から、梁部12Uおよび梁部12Dに向かって、互いの距離が近づくようにそれぞれ延出し、梁部12Uおよび梁部12Dに接続する。すなわち、柱部13URおよび柱部13DRは、XY平面において梁部12Rの第2の面に対して鋭角をなす。
【0047】
接続部14は、梁部12Uおよび梁部12Dを接続する。なお、接続部14は、
図6の例では、断面が菱形となるように直方体を接続した環状柱体を含んでいるが、これに限らず、例えば断面が正方形、矩形または他の多角形となるように直方体を接続した環状柱体、円環柱体、または楕円環柱体を含んでいてもよい。接続部14がそのXY断面が正方形となるように直方体を接続した環状柱体の場合に、接続部14のサイズは、特に限定されないが、例えば2mm×2mm~40mm×40mmの範囲で設計され得る。或いは、接続部14のこの正方形状の断面を、その周長を保ったまま、縦横比が異なる矩形状の断面に変形することもできる。
【0048】
接続部14は、Y軸周りに回転する曲げに対する剛性が、X軸周りに回転する曲げに対する剛性より高い部材である。接続部14は、単位構造体11のY軸周りのねじりによる変形を抑制する。
【0049】
梁部12Lおよび梁部12Rは、柱部13UL、柱部13DL、柱部13URおよび柱部13DR、および接続部14に比べて、厚みが大きい。ここで、梁部12の厚みは例えば梁部12Lおよび梁部12Rを配列する方向、例えばX方向のサイズを指し、柱部13の厚みは例えばXY平面において当該柱部13の延出方向に直交する方向のサイズを指す。接続部14の厚みは、例えばそのXY断面の周方向のサイズを指す。このため、ユーザの着座時に、柱部13および接続部14には梁部12に比べて大きな曲げと捻りが生じて外力のZ方向成分を弾性エネルギーとして蓄えるとともに、梁部12は、柱部13および接続部14の少なくとも1つからの力を、他の柱部13および他の接続部14の少なくとも1つに伝える。
【0050】
(3-2)背もたれ
(3-2-1)背もたれの変形
背もたれ20の変形を説明する。
図7は、ユーザの寄り掛かり時の背もたれの3次元形状を例示する図である。
図8は、ユーザの非寄り掛かり時の背もたれのXY断面形状を例示する図である。
図9は、ユーザの寄り掛かり時の背もたれのXY断面形状を例示する図である。
図10は、ユーザの非寄り掛かり時の背もたれのYZ断面形状を例示する図である。
図11は、ユーザの寄り掛かり時の背もたれのYZ断面形状を例示する図である。
【0051】
図7乃至
図11に示されるように、背もたれ20は、寄り掛かりによるユーザからの外力に応じて略鞍型の複曲面に変形する。
【0052】
この複曲面の曲率は、寄り掛かりによるユーザからの外力のうち背当て面の基準面に対する法線方向の成分(
図7、
図9および
図11において矢印で示す)の大きさ(絶対値)に依存する。
図7乃至
図11の例では、背当て面の基準面をZX平面とするので、この基準面に対する法線方向はY方向である。この複曲面は、ユーザの背中の位置に関わらず、背もたれ20の構造体の力学的性質に依存する位置を基準とする。要するに、背もたれ20は、ユーザからの外力のうちY方向の成分が大きいほどガウス曲率がより小さい負値である鞍型の複曲面に変形する。鞍型の複曲面とは、面上の全ての点におけるガウス曲率が負である複曲面を意味する。
【0053】
図8および
図9に示されるように、背当て面は、XY平面で見ると、その中心付近の変形(沈み込み)が最も大きく周辺に向かうにつれて変形は小さくなるので、ユーザの背骨に沿って背面から側面を捉えることになる。
図10および
図11に示されるように、背当て面は、YZ平面で見ると、その端部付近の変形(沈み込み)が最も大きく中心に向かうにつれ変形は小さくなるので、ユーザの背骨のS字カーブに沿ってその背面を支えることになる。このような背もたれ20によれば、ユーザの非寄り掛かり時に背当て面をフラットまたは他の任意の面形状に見せながらも、ユーザの寄り掛かり時にはその背中(の少なくとも一部)を包み込んで良い座り心地、特に背中へのフィット感を演出できる。
【0054】
背当て面の形成する目標曲面は、異なる位置を基準とする複数の曲面を含んでもよい。背当て面は、例えば、背中の下側の少なくとも一部を包み込む略鞍型の第1の複曲面と、背中の上側の少なくとも一部を包み込む略鞍型の複曲面とを含む目標曲面を形成し得る。目標曲面は、鞍型に限らず椀型またはその他の型の複曲面を含んでもよい。目標曲面は、少なくとも1つの複曲面を含んだ曲面を意味しており、複曲面の他に可展面をさらに含んでいてもよい。すなわち、目標曲面において、正、負、または零のガウス曲率が混在し得る。
【0055】
(3-2-2)背もたれの構造体
背もたれ20に含まれる構造体を説明する。この構造体が、上記(3-2-1)において説明した変形を実現する。
図12は、背もたれに含まれる構造体を例示する図である。
図13は、背もたれに含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
【0056】
図12の構造体は、
図13の単位構造体21を背もたれ20の背当て面の基準面、この例ではZX平面に沿って連続的に配列したものである。なお、背もたれ20の一部(例えば中央部)に構造体を配列し、背もたれ20の残部(例えば、端部)に構造体を配列しないようにしてもよい。この構造体は、座部10の構造体と同様に、単位構造体の繰り返し構造によって、人間が意図した力学的性質(すなわち、上記(3-2-1)において説明した変形)を実現できる。なお、単位構造体の繰り返し構造は、例えば、3Dプリンタによる造形、射出成型、粉末圧縮成型、レーザー加工、および切削加工の少なくとも1つを利用して製造され得る。
【0057】
図13に例示されるように、単位構造体21は、梁部22L、梁部22R、柱部23UL、柱部23UR、柱部23DL、柱部23DR、および接続部24を含む。なお、
図13において、梁部22Uは、
図13の単位構造体21ではなく当該単位構造体21とY方向に隣接する別の単位構造体21に含まれるため破線で描かれている。同様に、
図13において、梁部22Dは、
図13の単位構造体21ではなく当該単位構造体21とY方向に隣接するさらなる別の単位構造体21に含まれるため破線で描かれている。単位構造体21のサイズは特に限定されないが、そのZX断面が5mm×5mm~80mm×80mmの正方形の枠に収まるように設計され得る。或いは、単位構造体21に対するこの正方形の枠を、その周長を保ったまま、縦横比が異なる矩形状の枠に変形することもできる。
【0058】
梁部22は、柱体、錐体、多面体、およびこれらの組み合わせの少なくとも1つの3次元形状、例えば直方体状に形成され、ZX平面内の直線、曲線、およびこれらの少なくとも1つ、例えばZ方向に沿って配列される。梁部22のZX平面における長手方向のサイズは、特に限定されないが、例えば2~57mmの範囲で設計され得る。梁部22Lは、梁部22Rに対向する第1の面を有する。梁部22Rは、梁部22Lの第1の面に対向する第2の面を有する。
【0059】
柱部23は、柱体、錐体、多面体、およびこれらの組み合わせの少なくとも1つの3次元形状、例えば直方体状に形成される。柱部23のZX平面における長手方向のサイズは、特に限定されないが、例えば3~80mmの範囲で設計され得る。柱部23ULおよび柱部23DLはそれぞれ、梁部22Lの第1の面の一端および他端から、梁部22Uおよび梁部22Dに向かって、互いの距離が遠ざかるようにそれぞれ延出し、梁部22Uおよび梁部22Dに接続する。すなわち、柱部23ULおよび柱部23DLは、ZX平面において梁部22Lの第1の面に対して鈍角をなす(θ>90度)。
【0060】
柱部23URおよび柱部23DRはそれぞれ、梁部22Rの第2の面の一端および他端から梁部22Uおよび梁部22Dに向かって、互いの距離が遠ざかるようにそれぞれ延出し、梁部22Uおよび梁部22Dに接続する。すなわち、柱部23URおよび柱部23DRは、ZX平面において梁部22Rの第2の面に対して鈍角をなす。
【0061】
接続部24は、梁部22Uおよび梁部22Dを接続する。なお、接続部24は、
図13の例では、断面が菱形となるように直方体を接続した環状柱体を含んでいるが、これに限らず、例えば断面が正方形、矩形または他の多角形となるように直方体を接続した環状柱体、円環柱体、または楕円環柱体を含んでいてもよい。接続部24がそのZX断面が正方形となるように直方体を接続した環状柱体の場合に、接続部24のサイズは、特に限定されないが、例えば2mm×2mm~40mm×40mmの範囲で設計され得る。或いは、接続部24のこの正方形状の断面を、その周長を保ったまま、縦横比が異なる矩形状の断面に変形することもできる。
【0062】
接続部24は、X軸周りに回転する曲げに対する剛性が、Z軸周りに回転する曲げに対する剛性より高い部材である。接続部24は、単位構造体21のX軸周りのねじりによる変形を抑制する。
【0063】
梁部22Lおよび梁部22Rは、柱部23UL、柱部23DL、柱部23UR、柱部23DR、および接続部24に比べて、厚みが大きい。ここで、梁部22の厚みは例えば梁部22Lおよび梁部22Rを配列する方向、例えばZ方向のサイズを指し、柱部23の厚みは例えばZX平面において当該柱部23の延出方向に直交する方向のサイズを指す。接続部24の厚みは、例えばそのZX断面の周方向のサイズを指す。このため、ユーザの寄り掛かり時に、柱部23および接続部24には梁部22に比べて大きな曲げと捻りが生じて外力のY方向成分を弾性エネルギーとして蓄えるとともに、梁部22は、は柱部23および接続部24の少なくとも1つからの張力を、他の柱部23および接続部24の少なくとも1つに伝える。
【0064】
(4)小括
以上説明したように、本実施形態に係る椅子の座部は、着座によりユーザの臀部が接触した時に受ける外力によって、それ自体が当該臀部の少なくとも一部を包み込む複曲面状の座面を形成するように弾性変形する。また、この椅子の背もたれは、寄り掛かりによりユーザの背中が接触した時に受ける外力によって、それ自体が当該背中の少なくとも一部を包み込む複曲面状の背当て面を形成するように弾性変形する。故に、この椅子は、座部および背もたれそのものが人間の身体にフィットするように弾性変形するので、座り心地を向上させるために座部や背もたれを特定の形状に強制する必要もなければ、何らかの機械的機構を追加する必要もない。すなわち、本実施形態によれば、デザインの自由度が高く座り心地の良い椅子を提供することができる。
【0065】
(5)変形例
(5-1)変形例1
上記実施形態において、ユーザの着座時に座面が前記ユーザの臀部の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を形成するようにユーザからの外力に応じて変形する座部と、ユーザの寄り掛かり時に背当て面が前記ユーザの背中の位置に関わらず第1の位置を基準とした第1の種類の複曲面を形成するようにユーザからの外力に応じて変形する背もたれとを備える椅子について説明した。
【0066】
しかしながら、座部および背もたれの一方が既存の座部および背もたれに置き換えられたとしてもデザインの自由度が高く座り心地の良い椅子を提供することが可能である。また、例えばカウンターチェアのように背もたれを備えない椅子であっても、実施形態において説明した座部を備えることでデザインの自由度が高く座り心地の良い椅子を提供することが可能である。
【0067】
(5-2)変形例2
上記実施形態において説明した座部および背もたれは、椅子の部品となり得るほか、独立した製品としても成立し得る。例えば、かかる座部および背もたれを、既存のクッションの代わりに既存の椅子とともに使用することで、既存の椅子の座り心地を改善することができる。
【0068】
上述の実施形態は、本発明の概念の理解を助けるための具体例を示しているに過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図されていない。実施形態は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、様々な構成要素の付加、削除または転換をすることができる。
【0069】
(5-3)変形例3
図14は、座部に含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
図15は、座部に含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
図16は、背もたれに含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
図17は、背もたれに含まれる構造体を構成する単位構造体を例示する図である。
【0070】
上記実施形態において、単位構造体の具体例を説明したが、座部または背もたれの構造体を構成可能な単位構造体は
図6および
図13の例に限られない。
【0071】
具体的には、単位構造体11は、
図14または
図15に例示される単位構造体11に変形されてもよい。また、単位構造体21は、
図16または
図17に例示される単位構造体11に変形されてもよい。
【0072】
単位構造体11は、例えば、4以上の偶数本の辺を備える多角形が備える4以上の頂点のうち対向する第1の頂点および第2の頂点をそれぞれ通り座面の基準面上の主軸(例えばY方向)に略平行に配置される梁部12Lおよび梁部12Rと、これら頂点のうち対向する第3の頂点および第4の頂点においてこの単位構造体11に隣接する別の2つの単位構造体11の梁部を接続する接続部と、この多角形の辺に沿って梁部12Lおよび梁部12Rから延出する柱部13とを含み、主軸方向に引っ張り変形させたときのポアソン比が負である構造体、などとして一般化して表現することもできる。
図6、
図14、および
図15の例では、かかる多角形の頂点の数はそれぞれ、6個、4個、および8個の例である。
【0073】
単位構造体21は、例えば、4以上の偶数本の辺を備える多角形が備える4以上の頂点のうち対向する第1の頂点および第2の頂点をそれぞれ通り背当て面の基準面上の主軸(例えばX方向)に略平行に配置される梁部22Lおよび梁部22Rと、これら頂点のうち対向する第3の頂点および第4の頂点においてこの単位構造体21に隣接する別の2つの単位構造体21の梁部を接続する接続部と、この多角形の辺に沿って梁部22Lおよび梁部22Rから延出する柱部23とを含み、主軸方向に引っ張り変形させたときのポアソン比が正である構造体、などとして一般化して表現することもできる。
図13、
図16、および
図17の例では、かかる多角形の頂点の数がそれぞれ、6個、4個、および8個の例である。
【0074】
(6)付記
実施形態で説明した事項を、以下に付記する。
【0075】
(付記1)
座面の少なくとも一部の変形モードがユーザの着座時にユーザの臀部の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている座部(10)を具備する椅子。
【0076】
(付記2)
複曲面の曲率は、ユーザからの外力のうち座面の基準面に対する法線方向の成分の大きさに依存する、(付記1)に記載の椅子。
【0077】
(付記3)
複曲面は、椀型であって、ユーザからの外力のうち座面の基準面に対する法線方向の成分が大きいほどガウス曲率がより大きな正値となる、(付記2)に記載の椅子。
【0078】
(付記4)
座部は、座面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体(11)を含み、
複数の単位構造体の1つである第1の単位構造体は、
4以上の偶数本の辺を備える多角形が備える4以上の頂点のうち第1の頂点を通り、座面の基準面上の主軸に対して略平行に配列される第1の梁部(12L)と、
4以上の頂点のうち第1の頂点と対向する第2の頂点を通り、主軸に対して略平行に配列される第2の梁部(12R)と、
4以上の頂点のうち対向する第3の頂点および第4の頂点において第1の単位構造体に隣接する第2の単位構造体および第3の単位構造体の梁部(12U,12D)を接続する接続部(14)と、
多角形の辺に沿って、第1の梁部および第2の梁部から延出する柱部(13UL,13UR,13DL,13DR)と
を備え、
第1の単位構造体を主軸方向に引っ張り変形させたときのポアソン比が負である、
(付記3)に記載の椅子。
【0079】
(付記5)
座部は、座面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体(11)を含み、
単位構造体は、
第1の面を有する第1の梁部(12L)と、
第1の面と対向する第2の面を有する第2の梁部(12R)と、
第1の面の一端および他端から第2の面に向かって、互いの距離が近づくようにそれぞれ延出する第1の柱部(13UL)および第2の柱部(13DL)と、
第2の面の一端および他端から第1の面に向かって、互いの距離が近づくようにそれぞれ延出する第3の柱部(13UR)および第4の柱部(13DR)と、
第1の柱部および第2の柱部のうち第1の面に接していない端部と、第3の柱部および第4の柱部のうち第2の面に接していない端部とを接続する接続部(14)と
を備え、
第1の梁部および第2の梁部は、第1の柱部、第2の柱部、第3の柱部および第4の柱部に比べて、厚みが大きい、
(付記3)に記載の椅子。
【0080】
(付記6)
座部(10)と、
背当て面の少なくとも一部の変形モードがユーザの寄り掛かり時にユーザの背中の位置に関わらず第1の位置を基準とした第1の種類の複曲面を含む第1の目標曲面を形成するように孤立化されている背もたれ(20)と
を具備する、椅子。
【0081】
(付記7)
複曲面の曲率は、ユーザからの外力のうち背当て面の基準面に対する法線方向の成分の大きさに依存する、(付記6)に記載の椅子。
【0082】
(付記8)
の複曲面は、鞍型であって、ユーザからの外力のうち背当て面の基準面に対する法線方向の成分が大きいほどガウス曲率がより小さい負値となる、(付記7)に記載の椅子。
【0083】
(付記9)
背もたれは、背当て面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体(21)を含み、
複数の単位構造体の1つである第1の単位構造体は、
4以上の偶数本の辺を備える多角形が備える4以上の頂点のうち第1の頂点を通り、背当て面の基準面上の主軸に対して略平行に配列される第1の梁部(22L)と、
4以上の頂点のうち第1の頂点と対向する第2の頂点を通り、主軸に対して略平行に配列される第2の梁部(22R)と、
4以上の頂点のうち対向する第3の頂点および第4の頂点において第1の単位構造体に隣接する第2の単位構造体および第3の単位構造体の梁部(22U,22D)を接続する接続部(24)と、
多角形の辺に沿って、第1の梁部および第2の梁部から延出する柱部(23UL,23UR,23DL,23DR)と
を備え、
第1の単位構造体は、主軸方向に引っ張り変形させたときのポアソン比が正である、
(付記8)に記載の椅子。
【0084】
(付記10)
背もたれは、背当て面の基準面に沿って連続的に配列された複数の単位構造体(21)を含み、
単位構造体は、
第1の面を有する第1の梁部(22L)と、
第1の面と対向する第2の面を有する第2の梁部(22R)と、
第1の面の一端および他端から第2の面に向かって、互いの距離が遠ざかるようにそれぞれ延出する第1の柱部(23UL)および第2の柱部(23DL)と、
第2の面の一端および他端から第1の面に向かって、互いの距離が遠ざかるようにそれぞれ延出する第3の柱部(23UR)および第4の柱部(23DR)と、
第1の柱部および第2の柱部のうち第1の面に接していない端部と、第3の柱部および第4の柱部のうち第2の面に接していない端部とを接続する接続部(24)と
を備え、
第1の梁部および第2の梁部は、第1の柱部、第2の柱部、第3の柱部および第4の柱部に比べて、厚みが大きい、
(付記8)に記載の椅子。
【0085】
(付記11)
座部は、座面の少なくとも一部の変形モードがユーザの着座時にユーザの臀部の位置に関わらず第2の位置を基準とした第2の種類の複曲面を含む第2の目標曲面を形成するように孤立化されている、(付記6)乃至(付記10)のいずれかに記載の椅子。
【0086】
(付記12)
座面の少なくとも一部の変形モードがユーザの着座時にユーザの臀部の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている座部(10)。
【0087】
(付記13)
背当て面の少なくとも一部の変形モードがユーザの寄り掛かり時にユーザの背中の位置に関わらず所定の位置を基準とした所定の種類の複曲面を含む目標曲面を形成するように孤立化されている背もたれ(20)。
【0088】
2020年1月9日出願の特願2020-001891の日本出願に含まれる明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【符号の説明】
【0089】
1 :椅子
10 :座部
11 :単位構造体
12 :梁部
13 :柱部
14 :接続部
20 :背もたれ
21 :単位構造体
22 :梁部
23 :柱部
24 :接続部
30 :脚