(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】神経突起成長及びシナプス形成活性を持つ新規プロリルFK506誘導体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12P 17/18 20060101AFI20240826BHJP
C07D 498/18 20060101ALI20240826BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240826BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20240826BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20240826BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240826BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240826BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20240826BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240826BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240826BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240826BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20240826BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240826BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240826BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240826BHJP
C12R 1/465 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
C12P17/18 C
C07D498/18
A61P25/00
A61K31/407
A61P25/02
A61P17/02
A61P9/00
A61P25/08
A61P25/28
A61P25/18
A61P25/16
A61P21/02
A61P37/04
A61K35/74 D
C12N1/20 A
C12R1:465
(21)【出願番号】P 2022578690
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 KR2021007681
(87)【国際公開番号】W WO2021256894
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0075285
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCTC 14170BP
【微生物の受託番号】KCTC 14171BP
(73)【特許権者】
【識別番号】522490608
【氏名又は名称】モルジェンバイオ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MOLGENBIO CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ヨジュン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ミョンジョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ジンア
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ウンジ
(72)【発明者】
【氏名】キム,サンウ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ホンジュ
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-518387(JP,A)
【文献】特開平06-340672(JP,A)
【文献】特開平04-271790(JP,A)
【文献】特表平04-500372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
C07D
A61P
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式1で表される9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、下記の式2で表される9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、下記の式3で表される9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び下記の式4で表される9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)からなる群より選ばれるいずれか一つの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩。
式1
【化1】
式2
【化2】
式3
【化3】
式4
【化4】
【請求項2】
下記の式1で表される9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、下記の式2で表される9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、下記の式3で表される9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び下記の式4で表される9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)からなる群より選ばれるいずれか一つの化合物、またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物。
式1
【化1】
式2
【化2】
式3
【化3】
式4
【化4】
【請求項3】
前記神経系疾患は、神経損傷疾患、退行性神経疾患(Neurodegenerative disease)、末梢神経損傷(Peripheral nerve injury)、外傷性脳損傷(Traumatic brain injury)、及び脳卒中(Cerebral infarction)から選ばれるいずれか一つ以上のものである、請求項2に記載の神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項4】
前記神経損傷疾患は、てんかん、中風、脳卒中、虚血性脳血管障害、脊髓損傷疾患、末梢神経疾患、行動障害、発達障害、精神障害、ダウン症、及び精神分裂病から選ばれるいずれか一つ以上のものである、請求項3に記載の神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項5】
前記退行性神経疾患は、認知症、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、進行性核上性麻痺(Progressive supranuclear palsy)、多系統萎縮症(Multiple system strophy)、オリーブ橋小脳萎縮症(Olivopontocerebellar atrophy;OPCA)、シャイ・ドレーガー症候群(Shy-Drager syndrome)、線条体黒質変性症(Striatonigral degeneration)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis;ALS)、本態性振戦(Essential tremor)、大脳皮質基底核変性症(Corticobasal ganlionic degeneration)、びまん性レビー小体病(Diffuse Lewy body disease)、パーキンソン認知症複合(Parkinson-ALS-dementia complex of Guam)、及びピック病(Pick’s disease)から選ばれるいずれか一つ以上のものである、請求項3または4に記載の神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項6】
前記薬学的組成物は、免疫抑制活性が減少されたことを特徴とするものである、請求項2に記載の神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項7】
前記薬学的組成物は、神経突起成長及びシナプス形成活性を示すものである、請求項2に記載の神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項8】
[1]ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14171BP)を培養して9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)を生産するステップ、
[2]ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14171BP)を培養して9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)を生産するステップ、
[3]ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14170BP)を培養して9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)を生産するステップ、または
[4]ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14170BP)を培養して9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)を生産するステップのいずれかを含む、請求項1に記載の化合物の生産方法。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物またはその塩、及び賦形剤を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)からなる群より選ばれるいずれか一つの化合物;前記化合物、その異性体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物;医薬部外品組成物;前記薬学的組成物を利用した神経系疾患の予防または治療方法;及びストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)菌株を用いた前記新規化合物の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全世界的な人口の高齢化の急速な進展に伴い、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中などの退行性神経疾患患者が急増している。しかし、現在これらの神経損傷疾患に対して、損傷された神経を回復させ、神経細胞を再生させるなどの根本的な治療が施されず、痛症緩和や悪化緩和などを目的とした治療が行われている。これは、神経損傷を遅延させる効果を超えて、神経損傷疾患の治療に用いられる水準の神経再生及び回復効果を提供する薬物がなかったからである。退行性神経疾患を病む患者が増加し続けると見込まれることから、病気の進行を根本的に抑制することができるDMT(Disease-modifying treatment、疾患修飾療法)医薬品の開発がさらに重要になりつつある。神経損傷による障害が発生した患者は、社会及び家庭での役割に大きく制限を受けるようになり、これによる個人的損失及びクオリティオブライフが悪くなるからである。したがって、神経損傷に係わる多様な疾患に単独または併用療法としての活用が可能な、神経再生の効果を奏せる薬物の開発が切に求められていると言える。
【0003】
FK506は、ヒトの細胞内でFK506-結合タンパク質(FKBP)12と結合した後、カルシニューリン(calcineurin(CaN))に結合してその活性を阻害することで、インターロイキン(interleukin)の転写を阻害して免疫抑制作用を示し、また、FKBP52(または51)と結合することで正確に究明されない機序によって神経再生活性を示すものと知られている[Nat.Chem.Biol.2015、11、33]。ただし、依然として免疫抑制活性による副作用がない、神経損傷疾患の治療剤として適用可能な神経再生物質は報告されていない実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明者らは、多種多様な努力を重ねた結果、神経系疾患の予防または治療用の薬学的組成物の主成分として活用可能な新規化合物、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)(以下、「4種新規化合物」と通称する)の神経細胞の成長促進効果を究明し、これらの製造工程を開発し、ひいて、これらを有効成分として活用した神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物を開発し、該組成物が免疫抑制活性による副作用なしに神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物として有効に活用されることができることを確認することで、本発明を完成するに至った。特に、本発明の4種新規化合物は、FK506化合物よりも免疫抑制活性が顕著に減少され、神経細胞の成長促進活性能などの有効性が向上したことにその意義がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの目的は、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)からなる群より選ばれるいずれか一つの化合物を提供することである。
本発明の他の目的は、前記化合物、その異性体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供することである。
【0006】
本発明のまた他の目的は、前記4種新規化合物を、ヒトを除く個体に投与するステップを含む、神経系疾患の予防または治療方法を提供することである。
本発明の別の目的は、前記4種新規化合物を個体に投与するステップを含む、神経系疾患の予防または改善用組成物を提供することである。
本発明のまた別の一つの目的は、ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)を培養するステップを含む前記4種新規化合物の生産方法を提供することである。
【0007】
本発明の更なる他の一つの目的は、前記4種新規化合物の生産菌株を提供することである。
【発明の効果】
【0008】
本発明による4種新規化合物の中から選ばれた一つ以上を有効成分として含む神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物は、免疫抑制活性は著しく減少されるが、神経突起の成長及びシナプス形成活性効果に優れ、神経毒性物質のMPTPによって誘導されたパーキンソン病マウスモデルにおいて神経系疾患、とりわけ退行性神経疾患の治療効果に優れることを確認した。これと共に細胞毒性及び安全性実験で優れた安全性を確認した。よって、本願の4種新規化合物は、神経系疾患の治療において免疫抑制活性に対する副作用なしに有効に活用されることができ、従来の薬物治療に比べてより根本的な治療効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する高速液体クロマトグラフィー分析の結果である。
【
図2】
図2は、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する核磁気共鳴分光法(
1H-NMR)の結果である。
【
図3】
図3は、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する核磁気共鳴分光法(
13C-NMR)の結果である。
【
図4】
図4は、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する核磁気共鳴分光法(COSY-NMR)の結果である。
【
図5】
図5は、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する核磁気共鳴分光法(HSQC-NMR)の結果である。
【
図6】
図6は、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する核磁気共鳴分光法(HMBC-NMR)の結果である。
【
図7】
図7は、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する高速液体クロマトグラフィー分析の結果である。
【
図8】
図8は、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する核磁気共鳴分光法(
1H-NMR)の結果である。
【
図9】
図9は、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する核磁気共鳴分光法(
13C-NMR)の結果である。
【
図10】
図10は、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する核磁気共鳴分光法(COSY-NMR)の結果である。
【
図11】
図11は、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する核磁気共鳴分光法(HSQC-NMR)の結果である。
【
図12】
図12は、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する核磁気共鳴分光法(HMBC-NMR)の結果である。
【
図13】
図13は、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)に対する高速液体クロマトグラフィー分析の結果である。
【
図14】
図14は、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)に対する核磁気共鳴分光法(
1H-NMR)の結果である。
【
図15】
図15は、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)に対する核磁気共鳴分光法(
13C-NMR)の結果である。
【
図16】
図16は、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)に対する核磁気共鳴分光法(COSY-NMR)の結果である。
【
図17】
図17は、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)に対する核磁気共鳴分光法(HSQC-NMR)の結果である。
【
図18】
図18は、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)に対する核磁気共鳴分光法(HMBC-NMR)の結果である。
【
図19】
図19は、9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)に対する高速液体クロマトグラフィー分析の結果である。
【
図20】
図20は、9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)に対する核磁気共鳴分光法(
1H-NMR)の結果である。
【
図21】
図21は、9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)に対する核磁気共鳴分光法(
13C-NMR)の結果である。
【
図22】
図22は、9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)に対する核磁気共鳴分光法(COSY-NMR)の結果である。
【
図23】
図23は、9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)に対する核磁気共鳴分光法(HSQC-NMR)の結果である。
【
図24】
図24は、9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)に対する核磁気共鳴分光法(HMBC-NMR)の結果である。
【
図25】
図25は、本発明の4種新規化合物の免疫抑制活性減少程度を調査した結果である。
【
図26】
図26は、本発明の4種新規化合物の神経細胞の成長促進能を調査した結果である。
【
図27】
図27は、本発明の4種新規化合物のシナプス形成活性効果による神経系疾患治療能を調査した結果である(a:FK506または4種新規化合物に露出させて培養した海馬神経細胞、b:神経細胞における興奮性シナプス電流の測定、c:神経細胞における興奮性シナプス電流の頻度)。
【
図28】
図28は、本発明の4種新規化合物によるパーキンソン病動物モデルのドーパミン神経回路の回復及び治療能を調査した結果である(a:神経繊維の密度の変化、b:ドーパミン性神経細胞体の数)。
【
図29】
図29は、本発明の4種新規化合物の細胞毒性の調査のためのMTTアッセイを調査した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
これを具体的に説明すると、次のようである。なお、本発明に開示のそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用し得る。すなわち、本発明に開示の多様な要素のすべての組み合わせが本発明の範疇に属する。また、後述する具体的な記載によって本発明の範疇が限定されるものではない。
前記目的を達成するための本発明の一態様は、4種新規化合物である、下記の式1で表される9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、下記の式2で表される9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、下記の式3で表される9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び下記の式4で表される9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)からなる群より選ばれるいずれか一つの化合物を提供する。
式1
【化1】
式2
【化2】
式3
【化3】
式4
【化4】
【0011】
前記目的を達成するための本発明の他の一態様は、4種新規化合物である、下記の式1で表される9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、下記の式2で表される9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、下記の式3で表される9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び下記の式4で表される9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)からなる群より選ばれるいずれか一つの化合物、その異性体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
式1
【化1】
式2
【化2】
式3
【化3】
式4
【化4】
【0012】
本発明で使われた用語、「FK506、タクロリムス(tacrolimus)またはフジマイシン(fujimycin)」は、多様なストレプトマイセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)から最初に分離された免疫抑制活性を持つ物質であり、23員環マクロライド(23-membered ring macrolide)ポリケタイド(polyketide)である。免疫抑制作用は、シクロスポリンよりも強く、臓器移植時、特に肝移植時に拒絶反応を抑制させるために使用するものと知られている。前記FK506は、PKSとNRPSとの(polyketide synthase/nonribosomal peptide synthetase)複合系によって合成されることができるが、本発明のFK506誘導体は、ストレプトマイセス属(Streptomyces sp.)の生合成遺伝子欠損によって製造された新規な菌株を通じて生産された新規な化合物であることができる。
本発明で使われた用語、「FK520またはアスコマイシン(ascomycin)」も免疫抑制剤であって、23個の炭素からなるマクロライド構造の化合物であり、FK506のC21位のエチル類似体である。
【0013】
本発明の一具体例として、本発明の化合物は、その異性体または薬学的に許容可能な塩を含むことができる。
【0014】
本発明で使われた用語、「異性体」とは、化学式は同じであるが、同一ではない化合物の関係を意味し、例えば構造異性体、幾何異性体、光学異性質体(鏡像異性体)、立体異性体、部分立体異性体を含むことができる。
【0015】
本発明で用いられる用語、「薬学的に許容可能な塩」は、患者に比較的非毒性でありかつ無害な有効作用を有する濃度であって、該塩に起因した副作用が母体化合物の有益な効能を低下させない任意のすべての有機または無機付加塩を意味することができる。例えば、前記塩は、薬学的に許容可能な遊離酸(Free acid)によって形成された酸付加塩であることができる。酸付加塩は、通常の方法、例えば化合物を過量の酸水溶液に溶解させ、この塩を水混和性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンまたはアセトニトリルを用いて沈殿させて製造することができる。同モル量の化合物及び水中の酸またはアルコール(例えば、グリコールモノメチルエーテル)を加熱し、次いで前記混合物を蒸発させて乾燥させるか、または析出された塩を吸引濾過させて製造されたものであってもよい。この時、遊離酸としては有機酸と無機酸を用いることができる。前記塩は、塩基を用いて製造された薬学的に許容可能な金属塩であることができる。
【0016】
また一つの具体例として、本発明の化合物は、溶媒和物またはプロドラッグ(Pro-drug)の形態であることができ、これは本発明の範囲内に含まれる。溶媒和物は、好ましくは、水和物及びエタノール和物を含むことができる。
本発明の薬学的組成物は、単一製剤としても用いることができ、公認された神経系疾患治療効果を持つと知られた薬物をさらに含んでなり、複合製剤に製造して用いることができ、薬学的に許容される担体または賦形剤を用いて製剤化することで、単位用量剤形で製造されるか、多回用量容器内に入れて製造されることができる。
本発明で用いられる用語、「薬学的に許容可能な担体」とは、生物体を刺激しないながらも、注入される化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない担体または希釈剤を意味することができる。本発明に使用可能な前記担体の種類は、特に制限されなく、当該技術分野において通常使われ、かつ薬学的に許容される担体であればいずれでも使用可能である。前記担体の非制限的な例としては、トランスクトール(Transcutol)、ポリエチレングリコール(Polyethylene glycol)、トリアセチン(Triacetin)、及びこれらの混合物が挙げられる共界面活性剤(Co-surfactant);クレモフォール(Cremophor)、ツイーン(Tween)、ミリズ(Myrj)、ポロキサマー(Poloxamer)、プルロニック(Pluronic)、ルトロ-ル(Lutrol)、インウィトール(Imwitor)、スパン(Span)、ラブラフィル(Labrafil)などの単独または混合物が挙げられる界面活性剤(Surfactant);ミグリオール(Miglyol)、カプテックス(Captex)、オレイン酸エチル(Ethyl oleate)などの単独または混合物が挙げられるオイル(Oil);及び、エリソルビン酸(Erythorobic acid)、クエン酸(Citric acid)などの単独または混合物が挙げられる有機酸類などが挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いられることができる。
【0017】
また、必要な場合、抗酸化剤、緩衝液及び/または静菌剤など他の通常の添加剤を添加して用いることができ、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤などを付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、料粒または錠剤などに製剤化して用いることができる。
【0018】
本発明で用いられる用語、「神経系疾患」とは、神経系統の疾患を通称するもので、一具体例として、神経損傷による疾患が含まれることができる。神経損傷疾患としては、退行性神経疾患(Neurodegenerative disease)、末梢神経損傷(Peripheral nerve injury)、外傷性脳損傷(Traumatic brain injury)と脳血管障害で現われる脳卒中(Cerebral infarction)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
一例として、前記退行性神経疾患は、中枢神経系の神経細胞に退行性変化が現われながら様々な症状を誘発する疾患を意味するもので、例えば、認知症、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、進行性核上性麻痺(Progressive supranuclear palsy)、多系統萎縮症(Multiple system strophy)、オリーブ橋小脳萎縮症(Olivopontocerebellar atrophy;OPCA)、シャイ・ドレーガー症候群(Shy-Drager syndrome);線条体黒質変性症(Striatonigral degeneration)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis;ALS)、本態性振戦(Essential tremor)、大脳皮質基底核変性症(Corticobasal ganlionic degeneration)、びまん性レビー小体病(Diffuse Lewy body disease)、パーキンソン認知症複合(Parkinson-ALS-dementia complex of Guam)またはピック病(Pick’s disease)が挙げられる。
【0020】
他の一例として、前記神経損傷疾患は、てんかん、中風、脳卒中、虚血性脳血管障害、脊髓損傷疾患、末梢神経疾患、行動障害、発達障害、精神障害、ダウン症または精神分裂病を含むことができるが、これらに限定されるものではない。
また他の一例として、前記神経損傷疾患は、神経細胞損傷または細胞死滅などを原因とする疾患であることができる。
【0021】
本発明で用いられる用語、「予防」とは、本発明の前記薬学的組成物を、神経系疾患の発病可能性があるか、該疾患が疑われる症状または状態を有する個体に投与することにより、神経系疾患の発病可能性を低くするか、前記症状または状態を緩和する行為を意味する。
【0022】
本発明で用いられる用語、「治療」とは、本発明の前記薬学的組成物を神経系疾患発病疑心個体に投与して神経系疾患の症状を好転させるか、もしくは良好にするすべての行為を意味する。
【0023】
本発明の前記4種新規化合物を含む薬学的組成物は、免疫抑制活性が減少されたものであることを特徴とするものであることができる。
【0024】
本発明の一具体例では、前記4種新規化合物の免疫抑制活性効果を、イン・ビトロ(in vitro)T細胞活性分析法で確認してFK506よりも著しく減少された免疫抑制活性を確認することができた(表7)。
【0025】
本発明の他の具体例では、前記4種新規化合物の神経突起成長を通じた神経細胞の成長促進活性能を確認した(
図26)。
【0026】
本発明のまた他の具体例では、前記4種新規化合物の機能性シナプス形成活性効果を確認することでFK506よりも増加された興奮性シナプス電流の頻度を確認し、4種新規化合物の神経系疾患の治療効果を確認することができた(
図27)。
【0027】
本発明の別の具体例では前記4種新規化合物のイン・ビボ(in vivo)神経再生活性効能を評価するために、神経毒性化合物である1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)によって誘導されるパーキンソン病マウスモデルを疾患動物モデルとして用いて、MPTPによって退行された神経細胞及び神経繊維の回復程度を確認して4種新規化合物の退行性神経疾患治療効果を確認することができた(
図28)。
【0028】
また、本発明の更なる他の具体例では、前記4種新規化合物の細胞毒性の調査のための3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイ(
図29)、簡易遺伝毒性評価のためのAmes試験、心再分極(cardiac repolarization)に対する潜在的な影響評価のためのヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル遺伝子(human ether-a-go-go-related gene(hERG)アッセイで安全性を確認することができた。
【0029】
前記結果は、前記4種新規化合物が免疫抑制活性に起因した副作用なしに神経系疾患の治療効果及び安全性を確認した物質であり、神経系疾患の予防または治療に有用に用いられることができることを示唆することである。
【0030】
前記の目的を達成するためのまた他の一態様として、本発明は前記薬学的組成物を個体に投与するステップを含む神経系疾患の予防または治療方法を提供する。
本発明で用いられる用語、「神経系疾患」、「予防」、及び「治療」は、前述したものと同様である。
【0031】
本発明で用いられる用語、「個体」とは、神経系疾患が発病されたか、もしくは発病可能性があるすべての動物を意味することができる。
【0032】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量の4種新規化合物の中から選ばれた一つ以上、またはこれの異性体や塩を含むことができる。本発明において、用語「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な受恵/危険の比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、一般に0.001~1000mg/kgの量、好ましくは、0.05~200mg/kg、より好ましくは、0.1~100mg/kgの量を一日1回~数回に分けて投与することができる。しかし、本発明の目的上、特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によって他の製剤が用いられるかどうかをはじめとした、具体的組成物、患者の年齢、体重、一般健康状態、性別及び食餌、投与時間、投与経路、及び組成物の分泌率、治療期間、具体的組成物とともに用いられるか、同時に使用される薬物をはじめ、多様な因子と医薬分野によく知られた類似因子によって異なるように適用することが望ましい。
【0033】
本発明の薬学的組成物の投与頻度は、特にこれに限定されないが、1日1回投与するか、若しくは用量を分割して数回投与することができる。
【0034】
本発明の薬学的組成物の投与用量は、0.001mg/kg~1000mg/kgであってもよく、具体的には、0.05mg/kg~200mg/kg、0.1mg/kg~100mg/kg、0.1mg/kg~20mg/kgであることができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明の薬学的組成物は、個別治療剤として投与するか、他の治療剤と併用して投与されることができ、従来の治療剤とは順次にまたは同時に投与することができる。そして単独または多重投与されることができる。前記要素をいずれも考慮して副作用の誘発を最小化するとともに最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要であり、当業者によって容易に決定され得る。
【0036】
本発明で使われた用語、「投与」は、ある適切な方法で患者に本発明の薬学的組成物を導入することを意味し、本発明の組成物の投与経路は、目的組職に到逹することができる限り、経口または非経口の多様な経路を通じて投与され得る。
【0037】
本発明による薬学的組成物の投与方式は特に限定されなく、当該技術分野において通常使用する方式に従うことができる。前記投与方式の非制限的な例として、薬学的組成物を経口投与または非経口投与方式で投与することができる。本発明による薬学的組成物は目的とする投与方式に従って多様な剤形に製作されることができる。
本発明の一具体例では、前記4種新規化合物の免疫抑制活性は著しく減少されるが、神経突起成長及びシナプス形成活性効果、退行性神経疾患治療効果とともに安全性に優れることを確認した。
【0038】
前記結果は、前記4種新規化合物が免疫抑制活性による副作用を著しく減少させて持続的な神経系疾患の治療に使用できることを示唆することである。
【0039】
前記目的を達成するための他の一態様として、本発明は、前記4種新規化合物の生物学的製造工程であり、ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)を培養するステップを含む前記4種新規化合物の生産方法を提供する。
前記4種新規化合物のうち、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)または9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)は、ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14171BP)を培養するステップを通じて生産されることができる。
【0040】
また、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)または9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)は、ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14170BP)を培養するステップを通じて生産されることができる。
【0041】
本出願において、用語「培養」は、前記微生物を適当に調節された環境条件下で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当業界に知られた適当な培地及び培養条件によって行われることができる。このような培養過程は、選択される菌株によって当業者が容易に調整して用いることができる。具体的に、前記培養は、回分式、連続式、及び流加式であることができるが、これらに限定されるものではない。
前記4種新規化合物の生産方法は、一般に、ストレプトマイセス属の培養工程で採択される培養温度を使用する。本発明の具現に適した培養温度としては、好ましくは、23~30℃を適用することができ、より好ましくは、25~28℃の培養温度を適用することができる。
【0042】
また、前記生産方法では、培養工程のpHを6.5~9に維持し、好ましくは、培養pHを7~8に維持する。
【0043】
一方、前記生産方法では、培養液での溶存酸素の水準を高く維持するのが重要であるが、培養初期の溶存酸素の水準を100%とした時、培養終了時点までの溶存酸素の水準を30%以上に維持することが重要である。これを具現するためには、通常、800~1,500rpmの水準で攪拌することが好ましい。
【0044】
前記生産方法での培養細胞体からの生産された4種新規化合物の抽出は、1次抽出工程、2次抽出工程、及び3次抽出工程の実施によって達成されるが、本発明では、1次抽出工程として有機溶媒抽出法を用いるが、この時、使用可能な溶媒には、酢酸エチル(Ethyl acetate)、メタノール(Methanol)、アセトン(Acetone)などが挙げられるが、酢酸エチルまたはメタノールの使用が好ましい。そして、2次抽出工程としてシリカゲルクロマトグラフィー(Silica gel chromatography)を用いるが、この時、使用可能な溶媒としては、メタノール、塩化メチレン(Methylene chloride)が好ましい。そして、3次抽出工程としてはクロマトグラフィーを用いるが、この時、使用可能な溶媒としては、アセトニトリル(Acetonitrile)、酢酸アンモニウム緩衝液(Ammonium acetate buffer)、酢酸(Acetic acid)、ギ酸(Formic acid)などが挙げられるが、アセトニトリルの使用が好ましい。これらの方法の適用は、4種新規化合物を回収し易くし、また収率も高める。
【0045】
前記の目的を達成するためのまた他の一態様として、本発明は、4種新規化合物の製造に用いられることができる生産菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14170BP)、ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14171BP)を提供する。
【0046】
前記生産菌株は、組換え菌株であることができ、前記組換えは形質転換のような遺伝的組換え(genetically modification)によって行われることができる。
前記目的を達成するための別の一態様として、本発明は、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)からなる群より選ばれたいずれか一つの化合物、その異性体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、神経系疾患の予防または改善用医薬部外品組成物を提供する。
【0047】
前記4種の化合物、異性体、薬学的に許容可能な塩、神経系疾患、予防に関しては前述したものと同様である。
【0048】
本発明で用いられる用語「医薬部外品」は、ヒトや動物の疾患を診断、治療、軽減、処置または予防する目的で使用する物品のうち、機構、機械または装置ではないもの及びヒトや動物の構造と機能に薬学的影響を与える目的で使用する物品の中で機構、機械または装置ではないことを除いた物品を意味する。
【0049】
本発明において、前記医薬部外品組成物は、神経系疾患の予防または改善効果を持つことができるが、これに限定されない。
【0050】
本発明の医薬部外品組成物には、前記成分のほかに必要によって薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤をさらに含むことができる。前記薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤は、本発明の効果を阻害しない限り制限されなく、例えば、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを含むことができる。
【0051】
前記「薬学的に許容可能な担体」は、生物体を刺激しないながらも、注入される化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない担体、賦形剤または希釈剤を意味することができ、具体的に、非自然的担体(non-naturally occurring carrier)であることができる。本発明に使用可能な前記担体の種類は特に限定されなく、当該技術分野において通常使用されるもので、薬学的に許容される担体であれば、いずれでも使用可能である。前記担体の非制限的な例としては、食塩水、滅菌数、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールなどが挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して用いられることができる。
【0052】
薬学的に許容可能な担体を含む前記組成物は、経口または非経口の種々の剤形であることができるが、好ましくは、経口の剤形であることができ、これに限定されるものではない。製剤化する場合は、普通使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調剤される。具体的に、経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、前記化合物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、カルボン酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどを混ぜ合わせて調剤されることができる。また、単純な賦形剤以外にステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も用いられることができる。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、耐溶剤、乳剤、シロップ剤などが該当し、よく用いられる単純希釈剤である水、液体パラフィンのほかに、様々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれることができる。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水溶性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、及び坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが用いられることができる。坐剤の機序としては、ウィテプソール、マクロゴ-ル、ツイーン61、カカオ脂、ラウリン系油脂、グリセロゼラチンなどが用いられることができる。
【0053】
本発明の医薬部外品組成物は、消毒清潔剤、シャワーフォーム、軟膏液、ウェットティシュー、コーティング剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、医薬部外品の製剤化方法、用量、利用方法、構成成分などは技術分野において公知された通常の技術から適宜選択され得る。
【0054】
本発明の目的のための更なる他の一態様は、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)からなる群より選ばれたいずれか一つの化合物、その異性体またはその食品学的に許容可能な塩を有効成分として含む、神経系疾患の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0055】
前記4種の化合物、異性体、食品学的に許容可能な塩、神経系疾患、予防については、前述したものと同様である。
【0056】
本発明の食品組成物は、日常的に摂取することが可能であり、一般薬品とは異なり、天然物を原料にするため、薬品の長期服用時に発生することができる副作用などがないという長所があるので、神経系疾患の予防または改善の目的で非常に有用に用いられることができる。
【0057】
本発明の用語「改善」は、前記食品組成物の攝取により、神経系疾患と係わるパラメーター、例えば症状の程度を緩和または減少させるすべての行為を意味する。
本発明の用語「食品」は、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンデー類、スナック類、お菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料水、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料、ビタミン複合剤、健康機能食品及び健康食品などが挙げられ、普通の意味での食品をすべて含む。
【0058】
前記健康機能(性)食品(health functional food)は、特定保健用食品(food for special health use、FoSHU)と同一な用語であり、栄養供給の他にも生体調節機能が効率的に現われるように加工された、医学、医療効果が高い食品を意味する。
【0059】
ここで、「機能(性)」とは、人体の構造及び機能に対して栄養素を調節するか、生理学的作用などのような保健用途に有用な効果を得ることを意味する。前記健康食品(health food)は、一般食品に比べて積極的な健康維持や増進効果を持つ食品を意味し、健康補助食品(health supplement food)は、健康補助の目的の食品を意味する。場合によって、健康機能食品、健康食品、健康補助食品の用語は混用されることができる。
【0060】
具体的に、前記健康機能食品は、前記4種新規化合物を飲み物、お茶類、香辛料、ガム、お菓子類などの食品素材に添加するか、カプセル化、粉末化、懸濁液などで製造した食品であり、これを摂取する場合、健康上特定の効果をもたらすことを意味するが、一般薬品とは異なり、食品を原料にするため薬品の長期服用時に発生することができる副作用がないという長所がある。
【0061】
本発明の食品は、当業界で通常用いられる方法によって製造可能であり、当業界で通常添加する原料及び成分を添加して製造することができる。
また、前記食品組成物は、食品と認められる剤形であれば、多様な形態の剤形で制限なしに製造されることができる。
【0062】
また、前記食品組成物は、食品学的に許容可能な担体をさらに含むことができるが、担体の種類は特に制限されなく、当該技術分野において通常用いられる担体であればいずれでも使用できる。
【0063】
また、前記食品組成物は、食品組成物に通常使われて、匂い、味、視覚を向上させることができる追加成分を含むことができる。例えば、ビタミンA、C、D、E、B1、B2、B6、B12、ナイアシン(niacin)、ビオチン(biotin)、葉酸(folate)、パントテン酸(panthotenic acid)などを含むことができる。また、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、クロム(Cr)などのミネラル;及びリジン、トリプトファン、システイン、バリンなどのアミノ酸を含むことができる。
【0064】
また、前記食品組成物は、防腐剤(ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、デヒドロ酢酸ナトリウムなど)、殺菌剤(漂白粉と高度漂白粉、次亜塩素酸ナトリウムなど)、酸化防止剤(ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)など)、着色剤(タール色素など)、発色剤(亜硝酸ナトリウム、亜酢酸ナトリウムなど)、漂白剤(亜硫酸ナトリウム)、調味料(MSGグルタミン酸ナトリウムなど)、甘味料(ダルシン、サイクラミン酸、サッカリン、ナトリウムなど)、香料(バニリン、ラックトン類など)、膨張剤(明礬、D-酒石酸水素カリウムなど)、強化剤、乳化剤、増粘剤(糊料)、被膜剤、ガムベース、消泡剤、溶剤、改良剤などの食品添加物(food additives)を含むことができる。前記添加物は食品の種類によって選別して適正量で使用することができる。
【0065】
本発明の目的のための更なる別の一態様は、神経系疾患の予防、改善または治療のための9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)からなる群より選ばれたいずれか一つの化合物、その異性体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む組成物の用途を提供することである。
【実施例】
【0066】
以下、下記実施例によって本発明をより詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0067】
実施例1:9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)の製造
FK506を生産する菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカスに対してBan、Y.H.ら(J.Nat.Prod.2013、76、1091-1098)に記載された方法によって二重交叉相同組換え(Double cross-over homologous recombination)によるインフレーム(In-frame)欠損方法を用いてfkbD、tcsD及びfkbL遺伝子の非活性化をもたらして9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロピルFK506の生産菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14171BP)を製作した。
【0068】
具体的に説明すると、FK506を生産するストレプトマイセス・カナマイセティカス菌株からfkbD、tcsDとfkbL遺伝子の欠損突然変異体を製作するために、それぞれの遺伝子をpKC1139ベクターにクローニングしてEscherichia coliET12567/pUZ8002に移した後、接合(Conjugation)を通じてFK506生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスに形質転換した。
【0069】
菌株の製作方法は、より具体的に、インフレーム(In-frame)遺伝子欠損プラスミド(Plasmid)の製作、遺伝子欠損菌株の製作で説明することができる。
インフレーム(In-frame)遺伝子欠失プラスミド(Plasmid)の製作は、大膓菌-放線菌シャトル(E.coli-Streptomyces shuttle)ベクターpKC1139をインフレーム遺伝子欠損のために用いた。プラスミド(Plasmid)の製作は、ストレプトマイセス・カナマイセティカスに由来するフォスミド(Fosmid)DNAからの除去のための標的遺伝子の左側及び右側隣接切片(Left- and right-flanking fragment)のPCR増幅によって実施した。fkbD遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対FkbDLF/FkbDLR、右側隣接切片のプライマー対FkbDRF/FkbDRRを設計した。tcsD遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対TcsDLF/TcsDLR、右側隣接切片のプライマー対TcsDRF/TcsDRRを設計した。fkbL遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対FkbLLF/FkbLLR、右側隣接切片のプライマー対FkbLRF/FkbLRRを設計した。PCR切片はいずれも分離してHindIII-XbaIまたはXbaI-EcoRIにより切断した後、pKC1139ベクターにクローニングした。本実施例で用いられた菌株、プラスミド及びプライマーに対する情報は、下記表1及び表2に示した。
【0070】
遺伝子欠損菌株の製作のために用いたプラスミドは、表1に要約した。C9のヒドロキシラーゼ(Hydroxylase)を除去するためのプラスミドpΔfkbDは大膓菌ET12567/pUZ8002に移した後に接合によってストレプトマイセス・カナマイセティカス内に導入して標的遺伝子を相同組換えで欠損させた。欠損プラスミドとストレプトマイセス・カナマイセティカス染色体との間で単一交叉が生じた菌株としては、アプラマイシン(Apramycin)が存在する37℃(pSG5基本とするレプリコン(Replicon)のための非増殖許容温度)でアプラマイシン耐性トランスコンジュガント(Transconjugant)の培養を選択した。その後、確保されたコロニーは、28℃で選択なしに3回増殖を行うことで2回目の交叉を許容した。2つの達成された二重交叉突然変異、すなわちΔfkbDを、アプラマイシン敏感性の発現形質で選択し、その後にPCRで確認し、選択的にサザンブロット分析法で確認した。
【0071】
製作したfkbD遺伝子が欠損されたストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbDに、C21側鎖を変形するためのプラスミドpΔtcsDを導入してfkbD遺伝子欠損方法と同様な方法を利用してtcsD遺伝子を欠損させた。ΔfkbD、tcsDはアプラマイシン敏感性の発現形質で選択し、その後に、PCRで確認したし、選択的にサザンブロット分析法で確認した。追加的に製作したfkbDとtcsD遺伝子が欠損されたストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD、tcsDに、C1プロリン環を形成するためのプラスミドpΔfkbLを導入してfkbDとtcsD遺伝子欠損方法と同様な方法を利用してfkbL遺伝子を欠損させた。ΔfkbD、tcsD、fkbLはアプラマイシン敏感性の発現形質で選択したし、その後にPCRで確認した。
【0072】
製作したfkbD、tcsD、fkbL遺伝子欠損菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD、tcsD、fkbLは、韓国生命工学研究院の生物資源センター(Korean Collection for Type Cultures、KCTC)に2020年4月14日付けで寄託した(受託番号KCTC14171BP)。
【表1】
【表2】
【0073】
前記製作した生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14171BP)の培養を通じて、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)を製造した。具体的に説明すると、次のようである。250mlのバッフル付三角フラスコ(Baffled flask)に50mlのR2YE培地(スクロース103g/L、グルコース10g/L、硫酸カリウム0.25g/L、塩化マグネシウム6水和物10.12g/L、カザミノ酸0.1g/L、酵母抽出物(10%)50ml/L、TES緩衝液(5.73%、pH7.2)100ml/L、リン酸カリウム(0.5%)10ml/L、塩化カルシウム2水和物(3.68%)80ml/L、L-プロリン(20%)15ml/L、微量元素溶液2ml/L、水酸化ナトリウム(1N)5ml/L)を添加し、ここに生産菌株を接種した後に回転式振とう培養器で28℃、180rpmの条件下で2日間前培養を実施した。次いで、1LのR2YE培地が添加されている3L三角フラスコ(Erlenmeyer flask)に2日間前培養した培養液10mlを接種した。接種後に28℃、180rpmの条件下で6日間培養を実施した。6日間培養後に1次回収工程によって生産された9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)を抽出した。
【0074】
1次回収工程は次のように実施した。まず、培養液に同量のメタノールを添加して30分間混合した後に遠心分離して菌体を除去し、菌体を除去した抽出液に対しては回転蒸発器(Rotary evaporator)を利用した濃縮を実施した。次に、濃縮した抽出液を水に溶解させて、2倍の用量の酢酸エチル(Ethyl acetate)を添加後、よく混合してから層分離が行われるまで放置した。層が分離された後に上層の有機溶媒層を回収し、これを回転蒸発器を用いて濃縮させて濃縮後の重量を測定した。1次回収工程を実施して得られた抽出液をシリカゲルが充填されたコラムを通過させた。この時、シリカゲルの量は、1次回収工程の抽出液の重量の15倍を使用したし、移動相は、5種の割合のメタノールと塩化メチレン(分液1は、0:100、分液2は、1:100、分液3は、1:10、分液4は、1:1、分液5は、100:0)を使用した。分液3から9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)が確認された。このように得られた分液3は、回転蒸発器を用いて濃縮してHPLCを利用して最終的に精製した。
【0075】
これを凍結乾燥させて粉末形態の式1で表される物質である9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)が得られた。
製造した9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)の確認は、次のように実施した。具体的に、高速液体クロマトグラフィー(High performance liquid chromatography analysis)分析、質量分析(Mass spectrometry)、核磁気共鳴分光法(Nuclear magnetic resonance analysis)を実施した。
【0076】
9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する分析結果は、表3及び
図1~
図6で整理され、これらの結果から製作した生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD、tcsD、fkbLから9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)が生産されることを確認することができた。
【0077】
9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506;分子式C
43H
71NO
11、分子量777.50)に対する分析結果を、下記の表3に示した。
【表3】
【0078】
1H、13C-NMRから特徴的な官能基として、1個のケトン炭素(δC214.8)と2個のカルボニル炭素(δC171.6、169.7)、2個のオレフィン骨格(δC140.6、122.6;δC132.3、129.4)が確認されたし、脱酸素化された第4級炭素(δC98.4)、7個の酸素化されたメチン炭素(δC84.2、77.8、77.4、74.4、73.6、70.8、69.1)、3個のメトキシ炭素(δC57.7、56.6、56.2)が観測されたし、6個のメチル炭素(δC18.9、16.9、15.4、14.0、9.8)が観測されたし、総計43個の炭素からなるFK506誘導体であることが観測された。
【0079】
正確な構造の確認のために、2D-NMRを確認した。gCOSYからプロトンの連結を確認した結果、H-2~H-4の間の結合(coupling)から、本化合物は、ピペコリル骨格のFK506ではない、CH2官能基がないプロピル骨格を持っていることを確認した。gHMBCデータからH-9(δH2.55、2.62)がC-8(δC171.6)、C-10(δC98.4)と相関関係(correlation)から本化合物は、C-9にケトンではないCH2に還元された骨格であることを確認した。FK506基本骨格であるC36~C37のエキソメチレンが観測されず、gCOSY 2D-NMRにおいてトリプレットであると観測されるH37がH36a/b及びH36a/bとH35a/bとの間にそれぞれ結合相関(coupling correlation)を示すことから、C36-C37の骨格が脱水素されたものであることを確認することができた。これと共に、3個のメトキシ官能基がC-13、C-15、及びC-31に存在する構造であることを確認した。これらを総合して、本化合物は9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)であることを確認した。
【0080】
実施例2:9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)の製造
FK506を生産する菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカスに対してBan、Y.H.ら(J.Nat.Prod.2013、76、1091-1098)に記載された方法によって二重交叉相同組換え(Double cross-over homologous recombination)によるインフレーム(In-frame)欠損方法を用いてfkbD-fkbM、tcsD及びfkbL遺伝子の非活性化をもたらして9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)の生産菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14170BP)を製作した。
【0081】
具体的に説明すれば、FK506を生産するストレプトマイセス・カナマイセティカス菌株からfkbD-fkbM、tcsDとfkbL遺伝子の欠損突然変異体を製作するためにそれぞれの遺伝子をpKC1139ベクターにクローニングしてEscherichia coli ET12567/pUZ8002に移した後、接合(Conjugation)を通じてFK506生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスに形質転換した。
【0082】
より具体的に、菌株の製作方法は、インフレーム(In-frame)遺伝子欠損プラスミド(Plasmid)の製作、遺伝子欠損菌株の製作により説明することができる。
インフレーム(In-frame)遺伝子欠損プラスミド(Plasmid)の製作は、大膓菌-放線菌シャトル(E.coli-Streptomyces shuttle)ベクターpKC1139をインフレーム遺伝子欠損のために使用した。プラスミド(Plasmid)の製作は、ストレプトマイセス・カナマイセティカスに由来するフォスミド(Fosmid)DNAからの除去のための標的遺伝子の左側及び右側隣接切片(Left- and right-flanking fragment)のPCR増幅によって実施した。fkbD-fkbM遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対FkbD-MLF/FkbD-MLR、右側隣接切片のプライマー対FkbD-MRF/FkbD-MRRを設計した。tcsD遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対TcsDLF/TcsDLR、右側隣接切片のプライマー対TcsDRF/TcsDRRを設計した。fkbL遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対FkbLLF/FkbLLR、右側隣接切片のプライマー対FkbLRF/FkbLRRを設計した。PCR切片はいずれも分離してHindIII-XbaIまたはXbaI-EcoRIにより切断した後、pKC1139ベクターにクローニングした。本実施例で用いられた菌株、プラスミド及びプライマーに対する情報は、前記表1及び表2に示した。
【0083】
遺伝子欠損菌株の製作のために用いたプラスミドは、表1に要約した。C9ヒドロキシラーゼ(Hydroxylase)と31-O-メチルトランスフェラーゼを一緒に除去するためのプラスミドpΔfkbD-fkbMは、大膓菌ET12567/pUZ8002に移した後、接合によってストレプトマイセス・カナマイセティカス内に導入して標的遺伝子を相同組換えにより欠損させた。欠損プラスミドとストレプトマイセス・カナマイセティカス染色体との間で単一交叉が生じた菌株としては、アプラマイシン(Apramycin)が存在する37℃(pSG5基本とするレプリコン(Replicon)のための非増殖許容温度)でアプラマイシン耐性トランスコンジュガント(Transconjugant)の培養を選択した。その後、確保されたコロニーは、28℃で選択なしに3回増殖を行うことで2回目の交叉を許容した。
2つの達成された二重交叉突然変異、すなわちΔfkbD-fkbMをアプラマイシン敏感性の発現形質で選択し、その後に、PCRで確認し、選択的にサザンプロット分析法で確認した。
【0084】
製作したfkbD-fkbM遺伝子が欠損されたストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD-fkbMに、C21側鎖を変形するためのプラスミドpΔtcsDを導入してfkbD-fkbM遺伝子欠損方法と同様な方法を利用してtcsD遺伝子を欠損させた。ΔfkbD-fkbM、tcsDはアプラマイシン敏感性の発現形質で選択し、その後にPCRで確認したし、選択的にサザンプロット分析法で確認した。追加的に製作したfkbD-fkbMとtcsD遺伝子が欠損されたストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD-fkbM、tcsDに、C1プロリン環を形成するためのプラスミドpΔfkbLを導入してfkbD-fkbMとtcsD遺伝子欠損方法と同様な方法を利用してfkbL遺伝子を欠損させた。ΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbLは、アプラマイシン敏感性の発現形質で選択し、その後にPCRで確認した。
【0085】
製作したfkbD-fkbM、tcsD、fkbL遺伝子欠損菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbLは、韓国生命工学研究院の生物資源センター(Korean Collection for Type Cultures、KCTC)に 2020年4月14日付けで寄託した(受託番号KCTC14170BP)。
【0086】
前記製作した生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14170BP)の培養を通じて9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)を製造した。具体的に説明すると、次のようである。250mlのバッフル付き三角フラスコ(Baffled flask)に50mlのR2YE培地(スクロース103g/L、グルコース10g/L、硫酸カリウム0.25g/L、塩化マグネシウム6水和物10.12g/L、カザミノ酸0.1g/L、酵母抽出物(10%)50ml/L、TES緩衝液(5.73%、pH 7.2)100ml/L、リン酸カリウム(0.5%)10ml/L、塩化カルシウム2水和物(3.68%)80ml/L、L-プロリン(20%)15ml/L、微量元素溶液2ml/L、水酸化ナトリウム(1N)5ml/L)を添加し、ここに生産菌株を接種した後、回転式振とう培養器で28℃、180rpmの条件下で2日間前培養を実施した。次いで、1LのR2YE培地が添加されている3L三角フラスコ(Erlenmeyer flask)に2日間前培養した培養液10mlを接種した。接種後に28℃、180rpmの条件下で6日間培養を実施した。6日間培養後に1次回収工程によって生産された9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)を抽出した。
【0087】
1次回収工程は次のように実施した。まず、培養液に同量のメタノールを添加して30分間混合した後、遠心分離して菌体を除去し、菌体を除去した抽出液に対しては、回転蒸発器(Rotary evaporator)を利用した濃縮を実施した。次に、濃縮した抽出液を水に溶解させ、2倍の用量の酢酸エチル(Ethyl acetate)を添加後、よく混合してから層分離が行われるまで放置した。層が分離された後に上層の有機溶媒層を回収し、これを回転蒸発器を利用して濃縮させて濃縮後の重量を測定した。1次回収工程を実施して得られた抽出液をシリカゲルが充填されたコラムを通過させた。この時、シリカゲルの量は、1次回収工程の抽出液の重量の15倍を使用し、移動相は 5種の割合のメタノールと塩化メチル(分液1は、0:100、分液2は、1:100、分液3は、1:10、分液4は、1:1、分液5は、100:0)を使用した。分液3から 9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)が確認された。このように得られた分液3は、回転蒸発器を利用して濃縮してHPLCを用いて最終的に精製した。
これを凍結乾燥させて粉末形態の式2で表される物質である9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)が得られた。
【0088】
製造した9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)の確認は、次のように実施した。具体的に、高速液体クロマトグラフィー分析(High performance liquid chromatography analysis)、質量分析(Mass spectrometry)、核磁気共鳴分光法(Nuclear magnetic resonance analysis)を実施した。9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)に対する分析結果は、表4及び
図7~
図12により整理され、これらの結果から製作した生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbLから、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)が生産されることを確認することができた。
【0089】
9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506;分子式C
42H
73NO
11、分子量763.49)に対する分析結果を下記の表4に示した。
【表4】
【0090】
1H、13C-NMRから特徴的な官能基として、1個のケトン炭素(δC216.3)と2個のカルボニル炭素(δC171.7、169.8)、2個のオレフィン骨格(δC140.8、122.6;δC132.4、129.4)が確認されたし、脱酸素化された第4級炭素(δC98.4)、7個の酸素化されたメチン炭素(δC77.9、77.3、75.5、75.0、74.4、70.8、69.1)、2個のメトキシ炭素(δC58.7、57.7)が観測されたし、5個のメチル炭素(δC18.9、16.9、15.4、14.0、9.8)が観測されたし、 総計42個の炭素からなるFK506誘導体であることが観測された。正確な構造を確認するために、2D-NMRを確認した。gCOSYからプロトンの連結を確認した結果、H-2~H-4の間の結合(coupling)から本化合物は、プロリン骨格を持っていることを確認した。gHMBCデータからH-9(δH2.54、2.63)がC-8(δC171.7)、C-10(δC98.4)と相関関係(correlation)から本化合物は C-9にケトンではないCH2に還元された骨格であることを確認した。これと共に、2個のメトキシ官能基がC-13、C-15に結合されており、C-31にはメトキシが存在しない構造であることを確認した。
これらを総合して、本化合物は、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)であることを確認した。
【0091】
実施例3:9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)の製造
FK506を生産する菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカスに対してBan、Y.H.ら(J.Nat.Prod.2013、76、1091-1098)に記載された方法によって二重交叉相同組換え(Double cross-over homologous recombination)によるインフレーム(In-frame)欠損方法を用いて、fkbD、tcsD及びfkbL遺伝子の非活性化をもたらして9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolyl-FK520)の生産菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14171BP)を製作した。
【0092】
具体的に説明すれば、FK506を生産するストレプトマイセス・カナマイセティカス菌株から、fkbD、tcsDとfkbL遺伝子の欠損突然変異体を製作するために、それぞれの遺伝子をpKC1139ベクターにクローニングしてEscherichia coli ET12567/pUZ8002に移した後、接合(Conjugation)によってFK506生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスに形質転換した。
【0093】
より具体的に、菌株の製作方法は、インフレーム(In-frame)遺伝子欠損プラスミド(Plasmid)の製作、遺伝子欠損菌株の製作により説明することができる。
インフレーム(In-frame)遺伝子欠損プラスミド(Plasmid)の製作は、大膓菌-放線菌シャトル(E.coli-Streptomyces shuttle)ベクターpKC1139をインフレーム遺伝子欠損のために使用した。プラスミド(Plasmid)の製作は、ストレプトマイセス・カナマイセティカスに由来するフォスミド(Fosmid)DNAからの除去のための標的遺伝子の左側及び右側隣接切片(Left- and right-flanking fragment)のPCR増幅によって実施した。fkbD遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対FkbDLF/FkbDLR、右側隣接切片のプライマー対FkbDRF/FkbDRRを設計した。tcsD遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対TcsDLF/TcsDLR、右側隣接切片のプライマー対TcsDRF/TcsDRRを設計した。fkbL遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対FkbLLF/FkbLLR、右側隣接切片のプライマー対FkbLRF/FkbLRRを設計した。PCR切片はいずれも分離してHindIII-XbaIまたはXbaI-EcoRIにより切断した後、pKC1139ベクターにクローニングした。本実施例で使用された菌株、プラスミド及びプライマーに対する情報は、表1及び表2に示した。
【0094】
遺伝子欠損菌株の製作のために用いたプラスミドは表1に要約した。C9ヒドロキシラーゼ(Hydroxylase)を除去するためのプラスミドpΔfkbDは、大膓菌ET12567/pUZ8002に移した後、接合によってストレプトマイセス・カナマイセティカス内に導入して標的遺伝子を相同組換えで欠損させた。欠損プラスミドとストレプトマイセス・カナマイセティカス染色体との間で単一交叉が生じた菌株としては、アプラマイシン(Apramycin)が存在する37℃(pSG5基本とするレプリコン(Replicon)のための非増殖許容温度)でアプラマイシン耐性トランスコンジュガント(Transconjugant)の培養を選択した。その以後確保されたコロニーは、28℃で選択なしに3回増殖を行うことで2回目の交叉を許容した。2つの達成された二重交叉突然変異、すなわちΔfkbDをアプラマイシン敏感性の発現形質で選択し、その後にPCRで確認したし、選択的にサザンプロット分析法で確認した。
【0095】
製作したfkbD遺伝子が欠損されたストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbDに、C21側鎖を変形するためのプラスミドpΔtcsDを導入してfkbD遺伝子欠損方法と同様な方法を利用してtcsD遺伝子を欠損させた。ΔfkbD、tcsDはアプラマイシン敏感性の発現形質で選択したし、その後にPCRで確認したし、選択的にサザンプロット分析法で確認した。追加的に製作したfkbDとtcsD遺伝子が欠損されたストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD、tcsDにC1プロリン環を形成するためのプラスミドpΔfkbLを導入してfkbDとtcsD遺伝子欠損方法と同様な方法を利用してfkbL遺伝子を欠損させた。ΔfkbD、tcsD、fkbLはアプラマイシン敏感性の発現形質で選択し、その後にPCRで確認したし、選択的にサザンプロット分析法で確認した。
【0096】
製作したfkbD、tcsD、fkbL遺伝子欠損菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)ΔfkbD、tcsD、fkbLは、韓国生命工学研究院の生物資源センター(Korean Collection for Type Cultures、KCTC)に2020年4月14日付けで寄託した(受託番号KCTC14171BP)。
【0097】
前記製作した生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14171BP)の培養を通じて9-デオキソ-プロリル-FK520を製造した。具体的に説明すると、次のようである。250mlのバッフル付き三角フラスコ(Baffled flask)に 50mlのR2YE培地(スクロース 103g/L、グルコース10g/L、硫酸カリウム0.25g/L、塩化マグネシウム6水和物10.12g/L、カザミノ酸0.1g/L、酵母抽出物(10%)50ml/L、TES緩衝液(5.73%、pH 7.2)100ml/L、リン酸カリウム(0.5%)10ml/L、塩化カルシウム2水和物(3.68%)80ml/L、L-プロリン(20%)15ml/L、微量元素溶液2ml/L、水酸化ナトリウム(1N)5ml/L)を添加し、ここに生産菌株を接種した後に回転式振とう培養器で28℃、180rpmの条件下で2日間前培養を実施した。次に、1LのR2YE培地が添加されている3L三角フラスコ(Erlenmeyer flask)に2日間前培養した培養液10mlを接種した。接種後に28℃、180rpmの条件下で6日間培養を実施した。6日間培養後に1次回収工程によって生産された9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)を抽出した。
【0098】
1次回収工程は次のように実施した。まず、培養液に同量のメタノールを添加して30分間混合した後、遠心分離して菌体を除去し、菌体を除去した抽出液に対しては回転蒸発器(Rotary evaporator)を利用した濃縮を実施した。次に、濃縮した抽出液を水に溶解させて、2倍の用量の酢酸エチル(Ethyl acetate)を添加後、よく混合した層分離が行われるまで放置した。層が分離した後に上層の有機溶媒層を回収し、これを回転蒸発器を利用して濃縮させて濃縮後の重量を測定した。1次回収工程を実施して得られた抽出液をシリカゲルが充填されたコラムを通過させた。この時、シリカゲルの量は、1次回収工程の抽出液の重量の15倍を使用し、移動相は5種の割合のメタノールと塩化メチル(分液1は、0:100、分液2は、1:100、分液3は、1:10、分液4は、1:1、分液5は、100:0)を使用した。分液3から9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)が確認された。このように得られた分液3は、回転蒸発器を利用して濃縮してHPLCを用いて最終的に精製した。
これを凍結乾燥させて粉末形態の式3で表される物質である9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)が得られた。
【0099】
製造した9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)の確認は、次のように実施した。具体的に、高速液体クロマトグラフィー分析(High performance liquid chromatography analysis)、質量分析(Mass spectrometry)、核磁気共鳴分光法(Nuclear magnetic resonance analysis)を実施した。9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)に対する分析結果は、表5及び
図13~
図18で整理され、これらの結果から製作した生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD、tcsD、fkbLから、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)が生産されることを確認することができた。
【0100】
9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520;分子式C
42H
69NO
11、分子量763.49)に対する分析結果を下記の表5に示した。
【表5】
【0101】
1H、13C-NMRから特徴的な官能基として、1個のケトン炭素(δC215.0)と2個のカルボニル炭素(δC171.8、169.9)、2個のオレフィン骨格(δC141.1、122.6;δC132.5、129.7)が確認されたし、脱酸素化第4級炭素(δC 98.6)、7個の酸素化メチン炭素(δC84.2、78.0、77.4、74.4、73.8、71.1、69.4)、3個のメトキシ炭素 (δC57.9、57.9、56.4)が観測されたし、5個のメチル炭素(δC19.1、17.1、15.7、14.4、10.0)が観測されたし、総計42個の炭素からなるFK506誘導体であることが観測された。正確な構造の確認のために、2D-NMRを確認した。gCOSYからプロトンの連結を確認した結果、H-2~H-4の間の結合(coupling)から本化合物は、プロリン骨格を持っていることを確認した。gHMBCデータからH-9(δH2.57、2.62)がC-8(δC171.8)、C-10(δC98.6)と相関関係(correlation)から本化合物は、C-9にケトンではないCH2に還元された骨格であることを確認した。これと共に、3個のメトキシ官能基がC-13、C-15及びC-31に存在する構造であることを確認した。また、gCOSY結合相関(coupling correlation)とgHMBC長距離相関(long range correlation)を通じて、C-21にC-35及びC-36がエチル基で連結された構造であることを確認した。これらを総合して、本化合物は9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)であることを確認した。
【0102】
実施例4:9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)の製造
FK506を生産する菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカスに対してBan、Y.H.ら(J.Nat.Prod.2013、76、1091-1098)に記載した方法によって二重交叉相同組換え(Double cross-over homologous recombination)によるインフレーム(In-frame)欠損方法を用いてfkbD-fkbM、tcsD及びfkbL遺伝子の非活性化をもたらして9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)の生産菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14170BP)を製作した。
【0103】
具体的に説明すれば、FK506を生産するストレプトマイセス・カナマイセティカス菌株から、fkbD-fkbM、tcsD、及びfkbL遺伝子の欠損突然変異体を製作するためにそれぞれの遺伝子を、pKC1139ベクターにクローニングしてEscherichia coli ET12567/pUZ8002に移した後、接合(Conjugation)によってFK506生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスに形質転換した。
【0104】
より具体的に、菌株の製作方法は、インフレーム(In-frame)遺伝子欠損プラスミド(Plasmid)の製作、遺伝子欠損菌株の製作により説明することができる。
インフレーム(In-frame)遺伝子欠損プラスミド(Plasmid)の製作は、大膓菌-放線菌シャトル(E.coli-Streptomyces shuttle)ベクターpKC1139をインフレーム遺伝子欠損のために使用した。プラスミド(Plasmid)の製作は、ストレプトマイセス・カナマイセティカスに由来するフォスミド(Fosmid)DNAからの除去のための標的遺伝子の左側及び右側隣接切片(Left- and right-flanking fragment)のPCR増幅によって実施した。fkbD-fkbM遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対FkbD-MLF/FkbD-MLR、右側隣接切片のプライマー対FkbD-MRF/FkbD-MRRを設計した。tcsD遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対TcsDLF/TcsDLR、右側隣接切片のプライマー対TcsDRF/TcsDRRを設計した。fkbL遺伝子の欠損のためには、左側隣接切片のプライマー対FkbLLF/FkbLLR、右側隣接切片のプライマー対FkbLRF/FkbLRRを設計した。PCR切片はいずれも分離してHindIII-XbaIまたはXbaI-EcoRIにより切断した後、pKC1139ベクターにクローニングした。本実施例で用いられた菌株、プラスミド及びプライマーに対する情報は、表1及び表2に示した。
【0105】
遺伝子欠損菌株の製作のために用いたプラスミドは表1に要約した。C9 ヒドロキシラーゼ(Hydroxylase)と31-O-メチルトランスフェラーゼを一緒に除去するためのプラスミドpΔfkbD-fkbMは、大膓菌ET12567/pUZ8002に移した後、接合によってストレプトマイセス・カナマイセティカス内に導入して標的遺伝子を相同組換えで欠損させた。欠損プラスミドとストレプトマイセス・カナマイセティカス染色体との間で単一交叉が生じた菌株としては、アプラマイシン(Apramycin)が存在する37℃(pSG5基本とするレプリコン(Replicon)のための非増殖許容温度)でアプラマイシン耐性トランスコンジュガント(Transconjugant)の培養を選択した。その後、確保されたコロニーは、28℃で選択なしに3回増殖を行うことで2回目の交叉を許容した。
2つの達成された二重交叉突然変異、すなわちΔfkbD-fkbMをアプラマイシン敏感性の発現形質で選択し、その後にPCRで確認したし、選択的にサザンプロット分析法で確認した。
【0106】
製作したfkbD-fkbM遺伝子が欠損されたストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD-fkbMにC21側鎖を変形するためのプラスミドpΔtcsDを導入してfkbD遺伝子欠損方法と同様な方法を利用してtcsD遺伝子を欠損させた。ΔfkbD-fkbM、tcsDはアプラマイシン敏感性の発現形質で選択し、その後にPCRで確認したし、選択的にサザンプロット分析法で確認した。追加的に製作したfkbD-fkbMとtcsD遺伝子が欠損されたストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD-fkbM、tcsDに、C1プロリン環を形成するためのプラスミドpΔfkbLを導入してfkbD-fkbMとtcsD遺伝子欠損方法と同様な方法を利用してfkbL遺伝子を欠損させた。ΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbLはアプラマイシン敏感性の発現形質で選択し、その後にPCRで確認した。
【0107】
製作したfkbD-fkbM、tcsD、fkbL遺伝子欠損菌株であるストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbLは韓国生命工学研究院の生物資源センター(Korean Collection for Type Cultures、KCTC)に2020年4月 14日付けで寄託した(受託番号KCTC14170BP)。
【0108】
前記製作した生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbL(受託番号KCTC14170BP)の培養を通じて9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)を製造した。具体的に説明すると、次のようである。250mlのバッフル付き三角フラスコ (Baffled flask)に50mlのR2YE培地(スクロース 103g/L、グルコース10g/L、硫酸カリウム0.25g/L、塩化マグネシウム6水和物10.12g/L、カザミノ酸0.1g/L、酵母抽出物(10%)50ml/L、TES緩衝液(5.73%、pH7.2)100ml/L、リン酸カリウム(0.5%)10ml/L、塩化カルシウム2水和物(3.68%)80ml/L、L-プロリン(20%)15ml/L、微量元素溶液2ml/L、水酸化ナトリウム(1N)5ml/L)を添加し、ここに生産菌株を接種した後に回転式振とう培養器で28℃、180rpmの条件下で2日間前培養を実施した。次に、1LのR2YE培地が添加されている3L三角フラスコ(Erlenmeyer flask)に2日間前培養した培養液10mlを接種した。接種後に28℃、180rpmの条件下で6日間培養を実施した。6日間培養後に1次回収工程によって生産された9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)を抽出した。
【0109】
1次回収工程は次のように実施した。まず、培養液に同量のメタノールを添加して30分間混合した後遠心分離して菌体を除去し、菌体を除去した抽出液に対しては回転蒸発器(Rotary evaporator)を利用した濃縮を実施した。次に、濃縮した抽出液を水に溶解させて、2倍の用量の酢酸エチル(Ethyl acetate)を添加後、よく混合した層分離が行われるまで放置した。層が分離された後に上層の有機溶媒層を回収してこれを回転蒸発器を利用して濃縮させて濃縮後の重量を測定した。1次回収工程を実施して得られた抽出液をシリカゲルが充填されたコラムを通過させた。この時、シリカゲルの量は、1次回収工程の抽出液の重量の15倍を使用し、移動相は5種の割合のメタノールと塩化メチル(分液1は、0:100、分液2は、1:100、分液3は、1:10、分液4は、1:1、分液5は、100:0)を使用した。分液3から9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)が確認された。このように得られた分液3は回転蒸発器を利用して濃縮してHPLCを用いて最終的に精製した。
これを凍結乾燥させて粉末形態の式4で表される物質である9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)が得られた。
【0110】
製造した9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)の確認は次のように実施した。具体的に、高速液体クロマトグラフィー分析(High performance liquid chromatography analysis)、質量分析(Mass spectrometry)、核磁気共鳴分光法(Nuclear magnetic resonance analysis)を実施した。9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolyl-FK520)に対する分析結果は表6及び
図19~
図24により整理され、これらの結果から製作した生産菌株ストレプトマイセス・カナマイセティカスΔfkbD-fkbM、tcsD、fkbLから、9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)が生産されることを確認することができた。
【0111】
9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520;分子式C
41H
67NO11、分子量749.97)に対する分析結果を下記の表6に示した。
【表6】
【0112】
1H、13C-NMRから特徴的な官能基として、1個のケトン炭素(δC214.7)と 2個のカルボニル炭素(δC171.6、169.8)、2個のオレフィン骨格(δC140.8、122.4;δC132.4、129.4)が確認され、脱酸素化第4級炭素(δC98.4)、7個の酸素化メチン炭素(δC77.9、77.3、75.5、75.0、74.4、70.9、69.1)、2個のメトキシ炭素(δC57.7、56.2)が観測され、5個のメチル炭素(δC 18.9、16.9、15.4、11.7、9.8)が観測されたし、総計41個の炭素からなる炭素数が減ったFK506誘導体と観測された。正確な構造の確認のために、2D-NMRを確認した。gCOSYからプロトンの連結を確認した結果、H-2~H-4の間の結合(coupling)から本化合物は、プロリン骨格を持って、H21-H35-36の結合相関(coupling correlation)からFK520形態を取っていることを確認した。gHMBC データからH-9(δH2.56、2.62)がC-8(δC171.6)、C-10(δC98.4)と相関関係(correlation)から本化合物は、C-9にケトンではないCH2に還元された骨格であることを確認した。これと共に、2個のメトキシ官能基がC-13、C-15に結合されており、C-31にはメトキシが存在しない構造であることを確認した。これを総合して、本化合物は、9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)であることを確認した。
【0113】
実施例5:4種新規化合物の免疫抑制活性の調査
4種新規化合物の免疫抑制活性の減少程度を通常のイン・ビトロ(In vitro)T-細胞活性分析法(J.Immunol.143:718-726、1989)を利用して調査した。CD4+T細胞が分裂されることは、免疫反応が起きていることを示す指標であり、CD4+T細胞をCell TraceTM Violet(CTV)で染色して細胞が免疫反応による分裂をしてT細胞が増殖する場合に、各細胞のCTV保有量が減少される現象が現われるので、これを指標として利用して免疫抑制活性程度を調査した。
【0114】
6~8週齢のB6J実験用マウスの脾臓(Spleen)から単細胞(Single cell)を剥離してMagniSort(登録商標) Mouse CD4 T cell Enrichment Kit(eBioscience社製)を用いてCD4+ T細胞を分離した。CD4+T細胞をCell TraceTM Violet(CTV)Cell Proliferation Kit(Molecular Probes社製)で染色してFK506または4種新規化合物を0.01ng/ml、0.1ng/ml、1ng/ml、10ng/ml、100ng/ml、1000ng/ml濃度になるように添加した後に、72時間の間培養した。T細胞の活性化のためにDynabeads(登録商標)Mouse T-Activator CD3/CD28(Gibco社製)を使用した。対照群としては活性化されないT細胞を使用した。培養後にフローサイトメトリー(flow cytometry)でCTV強度(intensity)を分析した。
【0115】
下記表7及び
図25は、フローサイトメトリーを用いてCTV強度を測定することによりT細胞増殖程度を示し、FK506及び4種新規化合物の免疫抑制活性程度を示している。下記表7及び
図25に示されているように、本願発明で提示しているすべての新規化合物は FK506よりも顕著に減少された免疫抑制活性を示した。特に、9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)は、今まで報告された神経再生活性が維持または向上したFK506誘導体の中で最も低い免疫抑制活性を示した。
【表7】
【0116】
このような結果から、本発明による4種新規化合物がFK506に比べて免疫抑制活性が大きく減少されたことを確認することができたし、4種新規化合物が、少なくとも1.14×105倍以上のIC50(ng/ml)濃度を示すことにより、免疫抑制活性が著しく減少されることを確認することができた。これにより、4種新規化合物の中から選ばれた一つ以上を有効成分として含む神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物を、免疫抑制活性に起因した副作用に対する心配なしに使用可能であると判断した。
【0117】
実施例6:4種新規化合物の神経細胞の成長促進活性の調査
4種新規化合物の神経細胞の成長促進能を初代培養したマウスの海馬神経細胞(hippocampal neuron)を利用してJing Sunらによって報告された方法(J.Neuroinflam.15: 180、2018)によって調査した。具体的に、初代培養した海馬神経細胞にFK506または4種新規化合物のいずれか一つを一緒に処理し(処理濃度:1ng/ml)対照群は、何らの処理もしなかった。神経突起の長さは、印画された写真を利用して既存に報告された方法(J.Pharmacol.Exp.Ther.302:1278-1285、2002)によって測定した。
【0118】
その結果を
図26に示した。
図26から分かるように、本発明の4種新規化合物は、優れた神経軸索形成(neurite growth)効果を示した。
すなわち、本発明の4種新規化合物は、優れた神経細胞成長促進能を持っていることを確認することができた。特に、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)の場合、FK506に比べて優れた神経軸索形成効果を示すことを確認することができた。よって、本発明による4種新規化合物は神経系疾患の予防または治療目的で使用することができると結論付けられた。
【0119】
実施例7:4種新規化合物の神経系疾患治療効果の確認
4種新規化合物の機能性シナプス形成活性を、初代培養した海馬神経細胞を利用してD.Park.らによって報告された方法(Sci.Rep.7:7260、2017)によって調べた。より具体的に、FK506または4種新規化合物に露出させて(処理濃度:1ng/ml)初代培養した10日~14日目の海馬神経細胞を対象としパッチ固定レコードを施して、興奮性シナプス電流の頻度を測定した。興奮性シナプス電流の頻度は、シナプス数の変化を確認することができる指標として用いられる。
測定した興奮性シナプス電流の頻度を示した結果を
図27に示した。
【0120】
その結果、自発性興奮性シナプス後電流(sEPSCs)は、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)および9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)において、それぞれ3.29±0.22(p<0.001、n=7)及び2.63±0.27(p<0.05、n=6)に増加されることを確認することができたし、これはFK506(2.61±0.18(p<0.05、n=10))に比べて増加された数値に当たることを確認することができた。
【0121】
すなわち、本発明の4種新規化合物のうち、9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)及び9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)を処理した群において、興奮性シナプス電流の頻度が有意味に増加したことを確認した。これは前記実施例6で新規化合物を処理した群が示した神経細胞の成長促進活性の向上が、機能性シナプス形成の増加にも関連付けられることを示唆する。
【0122】
実施例8:4種新規化合物の退行性神経疾患治療効果の確認
4種新規化合物の合成毒素のMPTPによるドーパミン性の神経繊維の密度変化を調査した。具体的に覚めている動物の特定の脳部位に薬物を注入することができるカニューレ(cannula)注入システムを利用して、生理食塩水、FK506、4種新規化合物(処理濃度:5mg/ml)を3日間投与して、2日目に神経毒性化合物である1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)を腹腔内に注入してパーキンソン病動物モデルを作って運動能力に係るドーパミン作働性黒質-線条体神経路(nigrostriatal pathway)の退行を誘導した。4日目にドーパミン性神経細胞の特異的標識であるTH抗体を利用して免疫組織化学(IHC)染色を施してドーパミン性神経細胞体の数及び神経繊維の密度の変化を測定した。
測定したドーパミン性神経細胞体の数及び神経繊維の密度の変化を示す結果を
図28に示した。
【0123】
その結果、ドーパミン性神経細胞体の数および神経繊維の密度は、回復されたことを確認した。
すなわち、本発明の4種新規化合物である9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)を処理した群において、いずれもFK506よりも優れた神経纎維密度の回復を示し、免疫抑制能もほとんどないことを確認した。
前記の結果は、4種新規化合物の全部が神経系疾患の治療用途、特に退行性神経疾患向けの薬物物質として使用可能であることを示唆する。
【0124】
実施例9:4種新規化合物の安全性の確認
4種新規化合物の安全性を、細胞毒性の調査のためのMTTアッセイ、簡易遺伝毒性評価のためのAmes試験、心再分極(cardiac repolarization)に対する潜在的な影響評価のためのhERGアッセイで遂行した。方法的には一般に用いる方法によって調査した。
【0125】
具体的に、MTTアッセイは、4種新規化合物に細胞毒性(cytotoxicity)実験濃度(1ng/ml=1.24nM)よりも80~800倍高い濃度(100nM~1,000nM)の薬物を試験濃度に設定し、哺乳動物由来の正常細胞(HEK293T Cell)に対する薬物毒性評価を測定した。Ames試験は、4種新規化合物の処理濃度をそれぞれプレート当たり4mg、16mg、64mg処理して実施し、4種新規化合物にヒスチジン要求性菌株(Samonella Typhimurium TA98)、トリプトファン要求性菌株(Escherichia Coli WP2 uvrA)での復帰突然変異誘発性を指標にして測定した。hERGアッセイは、4種新規化合物の処理濃度をそれぞれ0μM 、2μM 、8μM 、32μMずつ2個以上の細胞数で処理して実施した。一つのCHO-hERG細胞に正常タイロード液(normal tyrode solution)を貫流させ、hERGチャンネル電流(channel current)が3~4回のスイープの間に一定に記録されることを確認した上で、賦形剤対照群及び4種新規化合物処理群を約1~2分以上貫流させてhERGチャンネル電流の大きさが一定に記録されることを実行して、相対電流(relative current、pAまたはnA)の大きさ及び抑制の割合(suppression rate、%)を測定した。
この中、MTTアッセイの結果を
図29に示した。
図29から分かるように、本発明の4種新規化合物は、細胞毒性がほとんど観察されなかった。
【0126】
すなわち、本発明の4種新規化合物である9-デオキソ-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-31-O-デメチル-36,37-ジヒドロ-プロリルFK506(9-deoxo-31-O-demethyl-36,37-dihydro-prolylFK506)、9-デオキソ-プロリルFK520(9-deoxo-prolylFK520)、及び9-デオキソ-31-O-デメチル-プロリルFK520(9-deoxo-31-O-demethyl-prolylFK520)を処理した群でいずれも細胞毒性が観察されなかったし、Ames試験における使用した試験菌株の復帰突然変異誘発及びhERGアッセイでの心再分極(cardiac repolarization)において危険のない安全な物質であるということが確認された。
【0127】
以上の説明から、本発明の属する技術分野における当業者は、本発明がその技術的思想や主旨を変更することなく、他の具体的な形態で実施できるということを理解することができるはずである。これと関連して、前述した実施形態を、すべての面で例示的なものであり、限定的なものではないことと理解しなければならない。本発明の範囲は、前記詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、且つ、その等価の概念から導き出されるあらゆる変更または変形された形態が、本発明の範囲に含まれるものと解釈されなければならない。
【受託番号】
【0128】
寄託機関名: 韓国生命工学研究院の生物資源センター(KCTC)
受託番号KCTC14170BP
受託日 : 20200414
【0129】
寄託機関名: 韓国生命工学研究院の生物資源センター(KCTC)
受託番号KCTC14171BP
受託日 : 20200414