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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】粉末担持紙及び粉末担持紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/24 20060101AFI20240826BHJP
   D21H 17/02 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
D21H17/24
D21H17/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023006947
(22)【出願日】2023-01-20
(65)【公開番号】P2024102880
(43)【公開日】2024-08-01
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207665
【氏名又は名称】大福製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佃 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】村山 治範
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 秀和
(72)【発明者】
【氏名】澤田 祥吾
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-227918(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037843(WO,A1)
【文献】特開2013-133553(JP,A)
【文献】特開平06-235198(JP,A)
【文献】特開2011-106075(JP,A)
【文献】特開平08-013252(JP,A)
【文献】特開平07-279100(JP,A)
【文献】特開2011-202319(JP,A)
【文献】特開平03-227917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38;D21C1/00-11/14;D21D1/00-99/00;D21F1/00-13/12;D21G1/00-9/00;D21H11/00-27/42;D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を含む、アルギン酸カルシウム、アルギン酸鉄、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛の何れかが、複数の繊維にまたがって結合した複合体からなり、質量変動係数が8.0%未満であることを特徴とする粉末担持紙。
【請求項2】
粉末が、花、茎、葉、根、果実、果皮、麦芽、ホップ、海藻類、キノコ類、これらの残渣、木粉から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載の粉末担持紙。
【請求項3】
累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を含む、アルギン酸カルシウム、アルギン酸鉄、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛の何れかが、複数の繊維にまたがって結合した複合体からなり、質量変動係数が8.0%未満である粉末担持紙の製造方法であって
アルギン酸塩水溶液の20℃のときのB型粘度が1mPa・s以上、20mPa・s以下であり、原料スラリーに混合するアルギン酸塩の固形分量が繊維固形分に対して0.035倍以上、0.300倍以下であり、アルギン酸塩水溶液を混合した時点での原料スラリー中のアルギン酸塩の固形分濃度0.007質量%以上、0.100質量%以下にして、アルギン酸塩水溶液と、カルシウムイオン、鉄(III)イオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンの何れかを含む多価陽イオン水溶液と、繊維と、累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を混合、攪拌して、アルギン酸カルシウム、アルギン酸鉄、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛の何れかと、前記繊維と、累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を含むゲル複合体スラリーを形成させ、これを抄紙することを特徴とする粉末担持紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末担持紙及び粉末担持紙の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粉末担持紙としては炭酸カルシウムや二酸化チタンなどの無機粉末と各種パルプとの混合スラリーに硫酸バンドや高分子凝集剤、ナトリウムカルボキシメチルセルロースなどを添加して抄紙して得られる紙が知られている。硫酸バンドと無機粉末の凝集体は基本的には小さく、弱く、攪拌によって壊れやすく抄紙条件によっては無機粉末の歩留りが低くなる場合があるため、高分子凝集剤を併用することも一般的に行われている。高分子凝集剤やナトリウムカルボキシメチルセルロースは、無機粉末とパルプの強い凝集体が形成される場合があり、紙の地合い斑が大きくなる場合があった。硫酸バンドや高分子凝集剤は有機粉末に対しては凝集効果が弱く、粉末の大半が排水へ流出してしまう場合があった。
【0003】
特許文献1には、機能性粉体を水溶性アルギン酸塩水溶液中に混合して混合液としこの混合液を多価金属イオンとなり得る金属塩水溶液、酸あるいはアルコールのいずれかに連続的にまたは非連続的に分散して得られる少なくとも表面が不溶化した中間生成物を乾燥して機能性粒剤としこの機能性粒剤をシート状の基材に担持させた機能性シートが開示されている。しかし、この中間生成物の製法は著しく量産性に劣る問題があった。すなわち、機能性粉体を一気に大量に不溶化させることが難しく、さらにそれらを回収して乾燥させる手間がかかるからである。中間生成物の作製において混合液を連続的または非連続的に分散して不溶化する場合には不溶化の程度を均一に制御することが難しい問題があった。すなわち、機能性粉体の表面にアルギン酸成分が過剰に被覆してしまう場合や不溶化された機能性粉体同士が結合して非常に大きなゲル状物を形成してしまい単離できない場合があった。アルギン酸成分が過剰に被覆した中間生成物は乾燥効率が著しく悪い問題と機能性粉体の機能性が十分には発揮されない問題があった。乾燥した中間生成物はアルギン酸成分が固化することにより非常に硬く、数mm以上の大きなものもできやすい。大きく硬い中間生成物を繊維スラリーに混合して抄紙すると、紙から脱落しやすく、その部分に大きな穴が空く場合や破断する場合があり、抄紙量産性に問題があった。
【0004】
特許文献2には、アルギン酸類を抄紙用填料に混合することにより該填料を前処理する、填料の前処理方法、アルギン酸類により前処理された填料を紙料に添加して抄紙することを含む紙の製造方法、アルギン酸類により前処理された填料を紙料に添加して抄紙して得られる紙が開示されている。この特許文献における填料の前処理の目的は、填料をアルギン酸類で被覆することにより、紙力剤が填料に吸着することを防ぎ、パルプ同士を結合させやすくし、填料の歩留りが高く、紙力の優れる紙を得ることにある。すなわち、アルギン酸類がパルプを被覆してしまうと紙力剤がパルプに定着せず、紙力の向上効果が発現しないため、アルギン酸類は填料をある程度被覆するが、パルプは被覆しない量しか添加されない。従って、填料とアルギン酸類とパルプを積極的にゲル複合化するものではなく、本発明のゲル複合体からなる粉末担持紙及びその製造方法とは異なる。
【0005】
特許文献3には、アルギン酸、アルギン酸の塩、アルギン酸エステル、およびこれらの混合物からなる群より選択されるアルギン酸類を、再生パルプを含有するパルプスラリーに混合する工程を含む再生パルプの処理方法、ならびに当該方法で処理された再生パルプを含有するパルプスラリーを抄紙する紙の製造方法および当該製造方法により得られる紙が開示されている。この特許文献における再生パルプの前処理の目的は、再生パルプに含まれる填料をアルギン酸類で被覆することにより、紙力剤が填料に定着することを防ぎ、パルプ同士を結合させやすくすることにより優れた紙力の紙を得ることにある。すなわち、アルギン酸類がパルプを被覆してしまうと紙力剤がパルプに定着せず、紙力の向上効果が発現しないため、アルギン酸類は填料をある程度被覆するが、パルプはほとんど被覆しない量しか添加されない。従って、填料とアルギン酸類とパルプを積極的にゲル複合化するものではなく、本発明のゲル複合体からなる粉末担持紙及びその製造方法とは異なる。特許文献3には、アルギン酸類の添加量は再生パルプ固形分を基準として0.05~3.0質量%が好ましく、0.1~1.0質量%がより好ましく、0.15~0.5質量%がさらに好ましいことが明記されている。この範囲のアルギン酸類の添加量ではアルギン酸類の量が非常に少なく、再生パルプと填料とアルギン酸類とのゲル複合化は起こりにくい。それ故、再生パルプを含む紙料にさらに填料を内添した場合に填料の歩留りは低くなりやすく、特に未叩解パルプや叩解度の低いパルプ、合成繊維などを紙料とする場合には、填料の歩留まりが著しく低くなる。
【0006】
特許文献4には、アルギン酸と、繊維及びカチオン性物質の少なくとも1種とを混合した混合物にカルシウム塩を添加して凝集させたことを特徴とする模様紙用フロック、該フロックを紙基材に含有させて形成してなる模様紙が開示されている。これはアルギン酸と繊維またはカチオン性物質との凝集が強く、模様のように形成されることによるもので、繊維またはカチオン性物質に対するアルギン酸の量が過剰であることを意味する。アルギン酸の量が過剰になるとゲル成分が過剰となり、模様紙用フロックを含むスラリーの濾水性が悪化し、抄紙性に支障を来す問題や、抄紙網にゲル成分が目詰まりしやすく、抄紙用フェルトの汚れがひどくなることや、ドライヤー面にゲル成分が固着し、その部分の紙に穴が空くなど安定した品質の紙を連続抄紙できない問題があった。特許文献4の模様紙は、模様紙用フロックを紙基材に含有させて製造される。すなわち、模様紙用フロックをそのまま抄紙して紙層全てを模様紙用フロックで形成して模様紙とすることは当該文献の製造方法及び模様紙の範疇に含まれておらず、本発明の粉末担持紙及びその製造方法とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平3-227917号公報
【文献】特開2011-106075号公報
【文献】特開2011-202319号公報
【文献】特開2013-133553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、粉末の歩留りが高く、地合いの均一な粉末担持紙を得ること、及びゲル複合体スラリーの濾水性が良く、抄紙量産性に優れ、粉末の歩留まりが高く、地合いが均一な粉末担持紙の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する粉末担持紙は、累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を含む、アルギン酸カルシウム、アルギン酸鉄、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛の何れかが、複数の繊維にまたがって結合した複合体からなり、質量変動係数が8.0%未満である。これにより、粉末の歩留りが高く、地合いが均一となる。
【0010】
また、粉末が、花、茎、葉、根、果実、果皮、麦芽、ホップ、海藻類、キノコ類、これらの残渣、木粉から選ばれる1種以上である。
さらに、累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を含む、アルギン酸カルシウム、アルギン酸鉄、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛の何れかが、複数の繊維にまたがって結合した複合体からなり、質量変動係数が8.0%未満である粉末担持紙の製造方法であって、アルギン酸塩水溶液の20℃のときのB型粘度が1mPa・s以上、20mPa・s以下であり、原料スラリーに混合するアルギン酸塩の固形分量が繊維固形分に対して0.035倍以上、0.300倍以下であり、アルギン酸塩水溶液を混合した時点での原料スラリー中のアルギン酸塩の固形分濃度0.007質量%以上、0.100質量%以下にして、アルギン酸塩水溶液と、カルシウムイオン、鉄(III)イオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンの何れかを含む多価陽イオン水溶液と、繊維と、累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を混合、攪拌して、アルギン酸カルシウム、アルギン酸鉄、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛の何れかと、前記繊維と、累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を含むゲル複合体スラリーを形成させ、これを抄紙するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粉末の歩留りが高く、地合いの均一な粉末担持紙を得ることができる。また、ゲル複合体スラリーの濾水性が良く、抄紙量産性に優れ、粉末の歩留りが高く、地合いの均一な粉末担持紙の製造方法を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いられる繊維は、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維、無機繊維の何れであっても良い。これら1種類でも良く、2種類以上の混合であっても良い。天然繊維としては麻、葦、竹、藁、楮三椏、雁皮、ケナフ、木綿、リンター、エスパルトなどの非木材の植物繊維、ポプラ、ユーカリ、ブナ、カバなどの広葉樹や松、杉、モミなどの針葉樹由来の木材繊維、羊、カシミア、鳥類の羽毛などの動物繊維が挙げられる。これらの天然繊維は漂白されたものでも良く、未漂白のものでも良い。天然繊維や再生繊維は叩解されたものであっても良く、未叩解のものであっても良い。
【0013】
天然繊維や再生繊維のカナダ標準濾水度としては300ml以上が好ましく、400~800mlがより好ましい。カナダ標準濾水度が300ml未満では繊維スラリーの濾水性が低いため、これにアルギン酸塩を含むゲル成分を形成させると、スラリーの濾水性がより低下して抄紙量産性に支障を来す場合がある。カナダ標準濾水度は、JISP8121-2に規定されている。天然繊維の平均繊維長は0.5mm~10mmが好ましく、1mm~6mmがより好ましい。天然繊維の平均繊維径は1μm~50μmが好ましい。平均繊維長が0.5mm未満では短すぎて抄紙性に支障を来す場合がある。10mmより長いと繊維同士が絡んで地合いが悪くなる場合がある。平均繊維径が1μm未満ではスラリーの濾水性が悪く、抄紙量産性に支障を来す場合がある。50μmより太いと繊維同士が絡んで地合いが悪くなる場合がある。
【0014】
本発明における繊維の平均繊維長、平均繊維巾は何れも長さ加重平均値である。これらは市販の繊維長測定装置を用いて、光学的自動分析法により測定することができる。具体的には水に分散させた状態の繊維を撮影し、自動的に画像解析される。
【0015】
再生繊維としては、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、溶剤紡糸レーヨン、ポリノジックレーヨンなどが挙げられる。半合成繊維としては、酢酸セルロース繊維やプロミックス繊維などが挙げられる。合成繊維としては、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル、ナイロン、ポリアミド、ポリイミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、これらの誘導体などからなる単繊維や複合繊維が挙げられる。再生繊維、半合成繊維、合成繊維の繊維長は1mm~10mmが好ましく、3mm~6mmがより好ましい。繊維長が1mm未満では、短すぎてしっかりした紙を形成しにくい場合がある。10mmより長いと繊維同士が絡んで地合いが悪くなる場合がある。再生繊維、半合成繊維、合成繊維の繊維径は1μm~30μmが好ましく、1μm~20μmがより好ましい。繊度は0.01~10デシテックスが好ましく、0.1~5デシテックスがより好ましい。繊維径が1μm未満又は繊度が0.01デシテックス未満ではスラリーの濾水性が悪くなり、抄紙量産性に支障を来す場合がある。繊維径が30μmより太い又は繊度が10デシテックスより大きいと粉末の歩留まりが悪くなる場合がある。
【0016】
無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、活性炭繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維などが挙げられる。無機繊維の繊維長としては、1mm~10mmが好ましく、3mm~6mmがより好ましい。繊維長が1mm未満では、短すぎてしっかりした紙を形成しにくい場合がある。10mmより長いと繊維同士が絡んで地合いが悪くなる場合がある。無機繊維の繊維径は1μm~30μmが好ましく、1μm~20μmがより好ましい。繊維径が1μm未満ではスラリーの濾水性が悪くなり、抄紙量産性に支障を来す場合がある。30μmより太いと繊維の分散性が不均一になりやすく、地合い斑が大きくなる場合がある。
【0017】
本発明においては、繊維は1種類だけでも良いし、2種類以上用いても良い。2種類以上とは、例えば天然繊維を2種類以上、天然繊維と再生繊維、天然繊維と合成繊維、天然繊維と無機繊維、合成繊維と無機繊維、2種類以上の合成繊維といった具合であるが、これらの組み合わせに限定されるものではない。
【0018】
本発明に用いられる粉末は有機物、無機物の何れでも良く、その累積中位径は0.1~500μmである。累積中位径が0.1μm未満ではゲル複合体の形成が不十分になり粉末の歩留りが悪くなる場合があり、500μmより大きいと抄紙網に凹みが生じる場合やフェルトやドライヤーに付着してしまい、その部分の紙に穴が空く場合や、紙の地合いが不均一になる場合がある。累積中位径とは、市販のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定された粒子径分布において、体積での累積50%のときの粒子径(D50)を意味する。
【0019】
有機粉末としては、花、茎、葉、根、果実、果皮、麦芽、ホップ、海藻類、キノコ類、これらの残渣、肉、昆虫、卵殻、木粉、樹脂などが挙げられるが、これらの中でも花、茎、葉、根、果実、果皮、麦芽、ホップ、海藻類、キノコ類、これらの残渣、木粉が好ましい。花としては、桜、梅、椿、ツツジ、バラ、ラベンダー、ユリ、藤、キキョウなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。茎や葉としては、タケノコ、ウド、ダイコン、アスパラガス、サトイモ、コンニャク、ジャガイモ、アピオス、ハス、ショウガ、トマト、パイナップル、バナナ、茶、アロエなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。根としては、サツマイモ、カブ、ゴボウ、ニンジン、ダイコン、クズ、枝豆などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。果実や果皮としては、みかん、ゆず、キンカン、レモン、スイカ、パイナップル、マンゴー、ブドウ、メロン、りんご、もも、梅、柿、プラム、サクランボ、バナナ、籾、大豆、小豆、インゲン豆、コーヒー、オリーブ、ソバ、クルミ、アーモンド、カカオ、落花生、ヒマワリ、オオバコ、サルスベリ、カボチャ、ウリ、キュウリなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。残渣としては、農作物を収穫した後の根、茎、葉などの残渣、さとうきびの搾りかすから得られるバガス、甜菜根の搾りかすから得られるビート、ハト麦残渣、大麦残渣、果汁の搾りかすなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。肉としては、魚肉、鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。木粉としては、檜、杉、松、ブナ、桜などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル、エチレン-酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、ポリウレタン、シリコーン、フッ素樹脂、ポリ乳酸、ポリ(ε-カプロラクトン)、これらの誘導体や混合物や混錬物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の粉末担持紙が非木材の植物繊維や木材繊維と有機粉末を含む場合は、生分解性のある粉末担持紙が得られやすく、好ましい。
無機粉末としては、二酸化チタン(単に「酸化チタン」とも呼ばれる)、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二酸化マンガン、アルミナ、シリカ、石英片岩、カオリン、クレー、タルク、珪藻土、ゼオライト、硫化鉱物(閃亜鉛鉱、方鉛鉱、銅藍、輝銀鉱、輝銅鉱、黄鉄鉱、白鉄鉱、グレーグ鉱、スミス鉱、デュルレ鉱、方輝銅鉱、磁硫鉄鉱など)、硫塩鉱物、酸化鉱物(赤銅鉱、パラメラコナイト、緑マンガン鉱、スピネル、赤鉄鉱、石英、モリブダイト、シュトゥット石など)、珪酸塩鉱物、ストルバイトなどのリン酸塩鉱物、ハロゲン化鉱物(岩塩、カリ岩塩、角銀鉱、緑塩銅鉱、蛍石、氷晶石など)、炭酸塩鉱物(方解石、菱苦土石、菱鉄鉱、菱マンガン鉱、霰石、ストロンチアン石、ドロマイト、ナトロン、孔雀石、藍銅鉱など)、硫酸塩鉱物(重晶石、硫酸鉛鉱、硬石膏、石膏、芒硝石、天青石など)、硼酸塩鉱物、カーボン、活性炭、金属(金、銀、銅、鉄、白金、ニッケル、コバルト、アルミニウム、亜鉛、各種合金など)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明に用いられる粉末の形状は、球、円板、板、棒、針、柱、紡錘、立方体、直方体、不定形などがあり、特に限定されるものではない。
本発明における質量変動係数は、紙を直径16mmの円形に100個打ち抜き、100個の質量を1つずつ計量し、100個の平均値と標準偏差から算出され、パーセントで表示される。本発明においては、標準偏差を平均値で除して100倍した時点の数値の小数点第2位以下を切り捨てた数値を採用する。従って算出した数値が7.99の場合は7.9%となる。質量変動係数が8.0%以上では、繊維や粉末の分散状態が不均一で厚み斑や地合い斑が大きいことを意味する。繊維や粉末の分散状態が不均一になる原因としては、一部の繊維同士が強く凝集して大きな塊を形成している場合、大きめの粉末が局所的に集中して担持されている場合、粉末が凝集するなどして紙に偏在する場合などが挙げられる。本発明において打ち抜く大きさが直径16mmである理由は、それよりも小さいと質量が小さくなり、計量しにくくなる場合があり、16mmより大きいと質量の重い領域と軽い領域が両方とも含まれやすくなり、100個の質量の差が付きにくくなる場合があるからである。
【0022】
本発明におけるアルギン酸塩水溶液のアルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムなどが挙げられる。アルギン酸塩の重量平均分子量は、目安としてゲル浸透クロマトグラフィーで測定された値で1万~100万が好ましい。重量平均分子量には幅があり、アルギン酸塩の製造ロットや製造会社によって異なるため重量平均分子量を規定することは難しい。一方、アルギン酸塩水溶液の粘度を特定の範囲に調整することは易しく、本発明においてはアルギン酸塩水溶液の粘度を規定する。
【0023】
多価陽イオン水溶液とは2価以上の陽イオン水溶液で、カルシウムイオン、鉄イオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン、銅イオン、コバルトイオン、バリウムイオンなどが挙げられるが、本発明においてはカルシウムイオン、鉄(III)イオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンの水溶液を用いる。これらの水溶液は、カルシウム、鉄、アルミニウム、亜鉛のハロゲン化物や、硫酸アルミニウム、硫酸亜鉛などを水に溶解させることにより得ることができる。これらの中でも水に対する溶解度、水溶液の安全性や取り扱いやすさの観点から塩化カルシウム、塩化鉄(III)、臭化カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸亜鉛が好ましい。これらは無水物、水和物の何れを用いても良い。多価陽イオン水溶液の濃度は、0.01~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0024】
アルギン酸塩水溶液と多価陽イオン水溶液を混合すると、アルギン酸塩の塩が多価陽イオンに置換され、置換後のアルギン酸塩が架橋構造を形成してゲル化する。例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液を混合することにより、アルギン酸ナトリウムのナトリウムがカルシウムに置換され、アルギン酸カルシウムによる架橋構造が形成されてゲル化する。
【0025】
本発明におけるゲル複合体とは、アルギン酸カルシウム、アルギン酸鉄、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛の何れかのゲルが累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を包含し、それが複数の繊維にまたがって結合し、肉眼で樹氷のように見えるものを指す。
【0026】
アルギン酸カルシウム、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛のゲルは透明であるが、例えばトマトの茎葉粉末は緑色をしており、これを含むゲルは緑色を呈する。そしてこの緑色のゲルを含むゲル複合体を抄紙して得られる粉末担持紙は紙全体が緑色となり、トマト茎葉粉末の担持量によって緑色の濃淡が変わる。塩化鉄(III)水溶液は黄褐色から赤褐色をしており、アルギン酸鉄のゲルはその色を帯び、粉末担持紙全体が茶色から褐色系の色を帯びる。これらのことは本発明の粉末担持紙が、アルギン酸カルシウム、アルギン酸鉄、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛の何れかと、繊維と、累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を含む複合体からなることを示す。粉末や多価陽イオン水溶液の種類と組み合わせによっては、ゲルは透明のままで紙全体に色が付かない場合もあるが、その場合も紙全体が前記複合体からなっており、顕微鏡観察により紙全体にアルギン酸カルシウム、アルギン酸鉄、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛の何れかが散在していることを確認することができる。
【0027】
本発明の粉末担持紙は、用いる粉末や多価陽イオン水溶液によって紙全体が色を帯び、粉末の存在が肉眼で分かりにくい場合や、紙全体は色を帯びずに粉末が点状や水玉状に散りばめられた地合いを形成する場合や、紙全体が色を帯び、粉末の存在が肉眼で視認できる地合いを形成する場合などがあり、地合いや模様を限定するものではない。
【0028】
本発明の粉末担持紙の製造方法は、アルギン酸塩水溶液と、カルシウムイオン、鉄(III)イオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンの何れかを含む多価陽イオン水溶液と、繊維と、粉末を混合、攪拌して、アルギン酸カルシウム、アルギン酸鉄、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛の何れかと繊維と粉末を含むゲル複合体を形成させ、これを抄紙するものであり、アルギン酸塩水溶液の20℃のときのB型粘度が1mPa・s以上、20mPa・s以下であり、原料スラリーに混合するアルギン酸塩の固形分量が繊維固形分に対して0.035倍以上、0.300倍以下であり、アルギン酸塩水溶液を混合した時点での原料スラリー中のアルギン酸塩の固形分濃度が0.007質量%以上、0.100質量%以下である。原料スラリーとは、繊維、粉末、アルギン酸塩水溶液、多価陽イオン水溶液の何れか1種のスラリー、2種以上の混合スラリーの何れをも指す。原料スラリー中のアルギン酸塩の固形分濃度とは、アルギン酸塩水溶液を混合した時点の混合スラリー全体におけるアルギン酸塩の固形分濃度を意味し、小数点第4位以下を切り捨てた値とする。繊維固形分に対するアルギン酸塩の固形分倍率は、小数点第3位以下を切り捨てた値とする。
【0029】
B型粘度が1mPa・s未満では、アルギン酸塩水溶液の濃度が薄くなりすぎて容量が非常に多くなり、ゲル複合体スラリーの調成に支障を来す場合や、ゲル複合体の形成が不十分になり、粉末の歩留まりが低下する場合がある。20mPa・s超では、ゲル複合体スラリーの濾水性が悪くなり、抄紙性や抄紙量産性に支障を来す場合や、抄紙網、フェルト、ドライヤーにゲル成分が付着することにより紙に穴が空くなど品質が安定せず抄紙量産性に支障を来す場合がある。B型粘度を1mPa・s以上、20mPa・s以下の範囲に調整するには、アルギン酸塩水溶液の濃度を調整すれば良い。
【0030】
繊維固形分に対してアルギン酸塩の固形分が0.035倍未満では、アルギン酸塩の量が少なくなりすぎてゲル複合体の形成が不十分になり、粉末の歩留りが低くなる場合や、粉末同士が凝集するなどして偏在し、極めて不均一な紙が出来てしまう場合がある。0.300倍を超えるとゲル複合体に占めるゲル成分が過剰になり、ゲル複合体スラリーの濾水性が悪くなり、抄紙性に支障を来す場合がある。さらに、ゲル成分が抄紙網の目詰まりを起こす場合や、フェルトやドライヤー面にゲル成分が固着して抄紙中の紙に穴が空くなど抄紙量産性に支障を来す場合がある。
【0031】
アルギン酸塩水溶液を混合した時点での原料スラリー中のアルギン酸塩の固形分濃度が0.007%未満では、原料スラリーの容量が多くなりすぎてゲル複合体スラリーの調成に支障を来す場合や、ゲル複合体の形成が不十分になり、粉末の歩留りが著しく低くなる場合や、粉末同士が凝集して紙に偏在し、紙の地合いが著しく悪くなる場合がある。0.100質量%を超えると繊維の周りにゲル成分が過剰に付着し、ゲルの塊ができるなどして紙の地合いが著しく不均一になる場合がある。
【0032】
ここで、繊維を(F)、アルギン酸塩水溶液を(A)、粉末を(P)、多価陽イオン水溶液を(C)とすると、混合する手順は(1)(F)と(P)と(C)を混合した後、それに(A)を混合する、(2)(F)と(P)と(A)を混合した後、それに(C)を混合する、(3)(F)と(A)と(C)を混合した後、それに(P)を混合する、(4)(P)と(A)と(C)を混合した後、(F)を混合する4通りである。繊維、アルギン酸塩水溶液、粉末、多価陽イオン水溶液については、本発明における所定の条件であることを前提とし、混合する際には十分に攪拌する。混合する設備としては、ミキサー、パルパー、ビーター、ポーチャー、ストックタンク、マシンチェストなど作業性や生産性を考慮して適宜選択すれば良い。(1)、(2)、(3)、(4)何れの手順においても最初の3つの原料の混合順はどのような順でも良く、粉末はそのまま混合しても良いし、予め水に分散させてから混合しても良い。(1)と(4)においては、予め多価陽イオン水溶液に粉末を分散させた粉末分散多価陽イオン水溶液を調成して、これを混合しても良い。(2)と(4)においては、予めアルギン酸塩水溶液に粉末を分散させた粉末分散アルギン酸塩水溶液を調成して、これを混合しても良い。粉末分散アルギン酸塩水溶液、粉末分散多価陽イオン水溶液とも有機粉末を用いる場合は経日により腐敗臭が発生しやすいため抄紙の直前に調成することが好ましい。以後、混合手順について説明する場合は、同様の意味で(A)、(C)、(F)、(P)を用いて表記する。
【0033】
混合する粉末の固形分は繊維固形分に対して0.01~0.54倍が好ましい。0.01倍未満では粉末の絶対量が少なすぎて、粉末担持紙における粉末の担持量が少なくなりすぎる場合がある。0.54倍を超えると繊維が不足し、粉末担持紙を安定して抄紙しにくくなる場合がある。
【0034】
粉末の固形分質量をアルギン酸塩の固形分質量で除して得られる倍率は、0.10倍以上、8.00倍以下が好ましい。粉末の投入量がアルギン酸塩に対して0.10倍未満では、ゲル複合体に占めるゲル成分が過剰になり、ゲル複合体スラリーの濾水性が悪くなり、抄紙性や抄紙量産性に支障を来す場合や地合いが著しく不均一になる場合がある。8.00倍を超えるとゲル複合体の形成が不十分になり、粉末が抄紙網から抜けやすくなり、粉末の歩留りが低下する場合がある。粉末分散アルギン酸塩水溶液や粉末分散多価陽イオン水溶液においては、粉末が沈殿してゲル複合体の形成に寄与せず、粉末の歩留りが低下する場合がある。この倍率は、小数点第3位以下を切り捨てた値とする。
【0035】
本発明における多価陽イオンを生成しうる塩化合物の量は、アルギン酸塩の固形分に対して0.01倍以上、20倍以下が好ましく、0.1倍以上、10倍以下がより好ましい。0.01倍未満では、ゲル複合体の形成が不十分となり、粉末の歩留りが低くなる場合がある。20倍を超えると、ゲル複合体の形成に寄与しない多価陽イオンが増えていき、過剰投入になってしまう。
【0036】
ゲル複合体スラリーを形成させた後は、通常の抄紙方法に従ってゲル複合体スラリーは希釈されて抄紙される。抄紙機は円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、これらのコンビネーション抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などを用いることができる。本発明の粉末担持紙の坪量は、15~100g/m程度が好ましいが、特に限定されるものではない。
【0037】
本発明においては、必要に応じて原料スラリーに各種薬品を添加しても良い。薬品とは、防腐剤、分散助剤、消泡剤、増粘剤、湿潤紙力剤、紙力向上剤、サイズ剤、染料、顔料などである。
【0038】
以下、実施例にて本発明を詳しく説明する。全ての組み合わせを記載することは難しいため、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例には示していないが、例えばアルギン酸塩と多価陽イオン水溶液の組み合わせとしては、アルギン酸ナトリウムと硫酸亜鉛でも良いし、アルギン酸カリウムと塩化鉄(III)の組み合わせでも良い。
【0039】
表1に示した原材料と条件に従ってゲル複合体スラリーを調成し、円網抄紙機を用いて抄紙し、実施例1~27の粉末担持紙を作製した。表2に示した原材料と条件に従って原料スラリーを調成し、円網抄紙機を用いて抄紙し、比較例1~14の紙を作製した。
【0040】
表1及び2に示した「Alg酸塩」とはアルギン酸塩を意味し、「Alg酸Na」はアルギン酸ナトリウム、「Alg酸K」はアルギン酸カリウム、「Alg酸NH」はアルギン酸アンモニウムを意味する。「Alg酸塩液粘度」とは20℃のときのアルギン酸塩水溶液のB型粘度である。繊維のCSF(ml)はカナダ標準濾水度を意味し、天然繊維のときに示した。繊度(dt)×繊維長(mm)については、合成繊維のときに示した。「Alg酸塩/繊維」は繊維固形分に対するアルギン酸塩の固形分倍率、「粉末/繊維」は繊維固形分に対する粉末の固形分倍率、「Alg酸塩濃度」は、アルギン酸塩水溶液を混合した時点の原料スラリー中のアルギン酸塩の固形分濃度、「塩化合物/Alg酸塩」はアルギン酸塩の固形分に対する塩化合物の固形分倍率を意味する。塩化合物とは、多価陽イオンを生成しうる化合物、例えば塩化カルシウムなどを指す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
表1及び2に示した粉末の「梅」及び「桜」は花、「トマト」は茎葉、「茶」は葉、「枝豆」は根、「柿」は果実および果皮の混合物、「ゆず」及び「みかん」は果皮、「ハト麦」はハト麦残渣、「バガス」はさとうきびの搾りかす、「ヒノキ」は木粉である。NBKPは、針葉樹由来の晒しパルプを意味する。繊維の「PET」はポリエステル繊維を意味し、繊度0.1デシテックス、繊維長3mmの該繊維を70質量%と繊度1.7デシテックス、繊維長5mmのポリエステル系バインダー繊維を30質量%の配合割合で用いた。ポリエステル系バインダー繊維は、芯部にポリエチレンテレフタレート、鞘部に熱融着性を有する非晶性共重合ポリエステルを配してなる芯鞘型複合繊維である。カナダ標準濾水度が650mlの麻パルプと800mlのNBKPは未叩解品を用いた。その他の天然繊維はビーターを用いて叩解処理し、所望のカナダ標準濾水度に調整した。多価陽イオン水溶液の「Zn2+」は濃度2質量%の硫酸亜鉛水溶液、「Fe3+」は濃度0.5質量%の塩化鉄(III)水溶液、「Al3+」は濃度1質量%の臭化アルミニウム水溶液、「Ca2+」は濃度5質量%の塩化カルシウム水溶液を用いた。
【0043】
表1及び2における「原料混合手順」の「ア」とは(P)と(A)と(C)を混合した後、それに(F)を混合する手順、「イ」とは(F)と(P)と(C)を混合した後、それに(A)を混合する手順、「ウ」とは(F)と(A)と(C)を混合した後、それに(P)を混合する手順、「エ」とは(F)と(P)と(A)を混合した後、それに(C)を混合する手順、「オ」とは(F)と(P)を混合する手順を意味する。何れも混合する際には十分に攪拌した。「ア」、「イ」、「ウ」、「エ」の各手順において最初の3つの原料を混合する際には、アルギン酸塩水溶液を混合した時点の原料スラリー中のアルギン酸塩の固形分濃度を所定の濃度になるようにすればどの順序で混合しても良い。粉末の「梅」、「みかん」、「トマト」、「桜」は予め水に均一に分散させたものを用い、それ以外の粉末はそのまま原料スラリーに混合した。
【0044】
実施例1~27及び比較例1~14で作製した粉末担持紙及び紙について、濾水性、抄紙網汚れ、欠点頻度、抄紙量産性、粉末歩留り、質量変動係数を評価、判定し、表3及び4に示した。表3及び4の「坪量」は、抄紙した粉末担持紙及び紙の坪量又は抄紙のときの設定坪量を意味する。
【0045】
<濾水性>
円網抄紙機を用いて抄紙した際に、ゲル複合体スラリーや原料スラリーの濾水性が良好で抄き網からの脱水が良好であり、適量範囲の水分を持つ湿紙が形成され、フェルトへの転写が円滑に進む場合を「〇」、ゲル複合体スラリーや原料スラリーの濾水性が悪く、抄き網からの脱水が不十分となり、抄き網上に大量の水分を保持して膨潤したスラリーが形成され、フェルトに転写可能な湿紙が形成されない場合を「×」、ゲル複合体スラリーや原料スラリーの濾水性がやや悪く、通常より湿紙の形成に時間がかかる場合を「△」とした。
【0046】
<抄紙網汚れ>
円網抄紙機を用いて抄紙した際に、ゲル成分による抄紙網の目詰まり、湿紙をフェルトへ転写した直後の抄紙網にゲル成分が残留する、粉末による抄紙網の目詰まりの何れか1つ以上の現象が原因で抄紙網汚れが頻発した場合を「×」、そのような抄紙網汚れが発生するが頻発しない場合を「△」、そのような抄紙網汚れがほとんど無い場合を「〇」とした。
【0047】
<欠点頻度>
抄紙網やフェルトにゲル成分が固着して湿紙に穴や透けが多数発生、ドライヤーにゲル成分が固着してドライヤーから離れる際に紙に穴が発生、抄紙網やフェルトに粉末や粉末の塊が付着して湿紙に穴や透けが発生、ドライヤーに粉末の塊が付着してドライヤーから離れる際に紙に穴が発生する現象の1つ以上が頻発した場合を「×」、「×」の現象が発生するが頻発はしない場合を「△」、これらの現象がなく安定して抄紙できた場合を「〇」とした。
【0048】
<抄紙量産性>
<濾水性>、<抄紙網汚れ>、<欠点頻度>の結果を総合的に判断して抄紙量産性として判定し、問題ない場合を「〇」、抄紙量産性が不可である場合を「×」とし、後工程にて欠点除去処理することにより製品化が可能な場合を「△」とした。
【0049】
<粉末歩留り>
実施例1~20、24及び比較例1、3、5、6、8~14の粉末歩留りは手漉き紙を作製して算出した。手漉きした際に抄き網から脱水された排水と、湿紙を濾紙へ転写した後の抄き網を洗浄したときの排水を全量回収し、静置して上澄み液を除去した後、乾燥させて固形物を得、この固形物に含まれる有機粉末の乾燥質量(P1)を計量した。有機粉末の固形分の投入量(P0)から乾燥質量(P1)を差し引いて得られる値(P2)をP0で除して100倍した値を有機粉末の歩留りとした。実施例21~23、25~27及び比較例2、4、7の粉末歩留りは、円網抄紙機を用いて抄紙した粉末担持紙の灰分を用いて算出した。すなわち、粉末担持紙の絶乾質量(P4)を計量した後、電気炉内で焼成して灰分を測定した。灰分から目的の無機粉末の質量(P5)を算出し、さらに焼成前の無機粉末の質量(P6)に換算し、P6を無機粉末の投入量(P3)で除して100倍した値を無機粉末の歩留りとした。焼成温度は700℃とした。目的の無機粉末の質量(P5)は、予め測定しておいたパルプ又はポリエステル繊維固有の灰分とアルギン酸塩由来の無機酸化物の質量を灰分から差し引いて算出した。粉末担持紙におけるアルギン酸塩由来の無機酸化物の量は、アルギン酸塩と多価陽イオン水溶液の投入量を変えずに無機粉末を配合しないで抄紙して得た紙の灰分とした。焼成後の無機粉末の質量(P5)から焼成前の無機粉末の質量(P6)に換算するには、絶乾質量を計量した無機粉末を700℃で焼成して、焼成前の質量を焼成後の質量で除して得られる変化率(C1)を求めておき、焼成後の無機粉末の質量(P5)にその変化率(C1)を乗じてP6とした。本発明における粉末の歩留りは、パーセント表示したときの小数点第2位以下を切り捨てた値とする。
【0050】
<質量変動係数>
JISP8111に規定されている温度23±1℃、湿度50±2%にて調湿された粉末担持紙又はそれ以外の紙を直径16mmの円形に100個打ち抜き、100個の質量を1つずつ計量し、100個の平均値と標準偏差を算出し、標準偏差を平均値で除して100倍した時点の数値の小数点第2位以下を切り捨てた値を質量変動係数とし、単位はパーセントである。
【0051】
表3及び4中の「-」は、該当なし又は測定不可を意味する。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
実施例1~7で作製した粉末担持紙は、アルギン酸亜鉛と繊維と、累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を含む複合体からなり、実施例8~14で作製した粉末担持紙は、アルギン酸アルミニウムと繊維と、累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を含む複合体からなり、実施例15~20で作製した粉末担持紙は、アルギン酸カルシウムと繊維と、累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を含む複合体からなり、実施例21~27の粉末担持紙は、アルギン酸鉄と繊維と累積中位径0.1μm以上、500μm以下である粉末を含む複合体からなり、何れも質量変動係数が8.0%未満であった。
【0054】
実施例1~27においては、アルギン酸塩水溶液と、カルシウムイオン、鉄(III)イオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンの何れかを含む多価陽イオン水溶液と、繊維と、粉末を混合、攪拌して、アルギン酸カルシウム、アルギン酸鉄、アルギン酸アルミニウム、アルギン酸亜鉛の何れかと繊維と粉末を含むゲル複合体を形成させ、これを抄紙してなり、アルギン酸塩水溶液の20℃のときのB型粘度が1mPa・s以上、20mPa・s以下であり、繊維固形分に対するアルギン酸塩の固形分量が0.035倍以上、0.300倍以下であり、アルギン酸塩水溶液を混合した時点での原料スラリー中のアルギン酸塩の固形分濃度が0.007質量%以上、0.100質量%以下であるため、ゲル複合体スラリーの濾水性が良く、抄紙網の汚れや欠点の発生がほとんどなく、抄紙量産性に優れ、粉末の歩留まりが高く、地合いの均一性が高い粉末担持紙を製造することができた。実施例1はカナダ標準濾水度300mlの繊維を用いたため、実施例2~27に比べてゲル複合体スラリーの濾水性がやや劣っていた。
【0055】
比較例1~4は、アルギン酸塩水溶液を混合しなかったため複合体は形成されておらず、粉末の歩留りが著しく低かった。比較例5及び10は、ゲル複合体を形成させるときの原料スラリー中のアルギン酸塩濃度が濃いため、繊維の周りにゲル成分が多く付着したことにより、粉末の歩留りは高くなったがゲル複合体スラリーの濾水性がやや悪く、粉末担持紙の地合いが不均一になり、質量変動係数が大きくなった。
【0056】
比較例6~8は、アルギン酸塩水溶液の粘度が高いため、ゲル成分が過剰となりゲル複合体スラリーの濾水性が著しく悪く、紙を作製することができなかった。比較例9は、繊維固形分に対するアルギン酸塩の固形分倍率が大きいため、繊維の周りにゲル成分が過剰に形成され、ゲル複合体スラリーの濾水性が著しく悪く、紙を作製することができなかった。
【0057】
比較例11は、アルギン酸塩水溶液の粘度が低いため、複合体の形成が不十分になり、粉末同士が凝集して紙に偏在し、地合いが不均一になり、質量変動係数が大きくなった。比較例12は、繊維固形分に対するアルギン酸塩の固形分倍率が小さいため、複合体の形成が不十分になり、粉末同士が凝集して紙に偏在し、地合いが不均一になり、質量変動係数が大きくなった。比較例13は、アルギン酸塩溶液を混合した時点での原料スラリー中のアルギン酸塩の固形分濃度が薄いため複合体の形成が不十分になり、粉末同士が凝集して紙に偏在し、地合いが不均一になり、質量変動係数が大きくなった。
【0058】
比較例14は、粉末の累積中位径が500μmを超えるため、抄紙網やフェルトに付着して湿紙から取り除かれてしまうことにより、紙に穴が空くなどの欠点が頻発し、品質安定性の観点において抄紙量産性が悪く、出来た紙は地合いが不均一で質量変動係数が大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の粉末担持紙は、紙糸や脂取り紙の原紙、防滑紙、包装用紙、色紙、壁紙、障子用紙などに適用できる。