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特許7542891立体造形用データ生成プログラム、及び、立体造形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】立体造形用データ生成プログラム、及び、立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/386 20170101AFI20240826BHJP
   B29C 64/40 20170101ALI20240826BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20240826BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240826BHJP
【FI】
B29C64/386
B29C64/40
B33Y50/00
B33Y10/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023116896
(22)【出願日】2023-07-18
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】317011573
【氏名又は名称】ケイワイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 圭祐
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-055792(JP,A)
【文献】特表2020-513478(JP,A)
【文献】特開2017-193776(JP,A)
【文献】特開2020-172876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/386
B29C 64/40
B33Y 10/00
B33Y 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モデル材を積層して立体を造形する装置により用いられるデータを生成する立体造形用データ生成プログラムであって、
コンピュータに、
造形される立体の形状と、入口が上方に向き出口が前記入口より低い位置で前記立体に対向する貫通路を内部に有した前記立体を支持する支持体の形状とを、複数の層に分割した各層に対し決定された経路に沿って造形させ、前記入口をなす層を造形した後に、前記貫通路に前記立体と前記支持体とを繋ぎうる必要十分な所定量のモデル材を流し込むよう命令するデータを生成する命令生成ステップ
を実行させる立体造形用データ生成プログラム。
【請求項2】
請求項1に記載の立体造形用データ生成プログラムにおいて、
前記立体の形状を踏まえて前記支持体の形状及び位置を決定する支持形状決定ステップと、
前記立体の形状と前記支持体の形状とを複数の層に分割した各層の造形に要する時間を算出して造形中における各層の温度低下を予測する温度予測ステップと、
前記温度予測ステップでの予測結果を踏まえて、前記貫通路にモデル材を流し込む時点での前記入口をなす層と前記出口をなす層との温度差が予め設定された十分な温度差に対応する所定の閾値以上となるように前記貫通路の形状を決定する貫通路形状決定ステップとを、
前記命令生成ステップに先行して実行させることを特徴とする立体造形用データ生成プログラム。
【請求項3】
請求項2に記載の立体造形用データ生成プログラムにおいて、
前記貫通路形状決定ステップでは、
前記貫通路の形状を踏まえて前記所定量を決定することを特徴とする立体造形用データ生成プログラム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の立体造形用データ生成プログラムにおいて、
前記貫通路形状決定ステップでは、
前記立体の安定的な起立に影響する要素を踏まえて、前記支持体における前記貫通路の位置を決定することを特徴とする立体造形用データ生成プログラム。
【請求項5】
モデル材を積層して立体を造形する装置を用いた立体造形物の製造方法であって、
造形される立体の形状と、入口が上方に向き出口が前記入口より低い位置で前記立体に対向する貫通路を内部に有した前記立体を支持する支持体の形状とを、複数の層に分割した各層に対し決定された経路に沿って造形させ、前記入口をなす層を造形した後に、前記貫通路に前記立体と前記支持体とを繋ぎうる必要十分な所定量のモデル材を流し込むよう命令するデータを生成する命令生成工程と、
前記装置に前記データに沿って前記各層を造形させることで前記立体及び前記支持体を造形させる造形工程と、
造形された前記支持体を除去する除去工程と
を含む立体造形物の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の立体造形物の製造方法において、
前記立体の形状を踏まえて前記支持体の形状及び位置を決定する支持形状決定工程と、
前記立体の形状と前記支持体の形状とを複数の層に分割した各層の造形に要する時間を算出して造形中における各層の温度低下を予測する温度予測工程と、
前記温度予測工程での予測結果を踏まえて、前記貫通路にモデル材を流し込む時点での前記入口をなす層と前記出口をなす層との温度差が予め設定された十分な温度差に対応する所定の閾値以上となるように前記貫通路の形状を決定する貫通路形状決定工程とを、
前記命令生成工程の前にさらに含んだ立体造形物の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の立体造形物の製造方法において、
前記貫通路形状決定工程では、
前記貫通路の形状を踏まえて前記所定量を決定することを特徴とする立体造形物の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の立体造形物の製造方法において、
前記貫通路形状決定工程では、
前記立体の安定的な起立に影響する要素を踏まえて、前記支持体における前記貫通路の位置を決定することを特徴とする立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンタ等の立体造形装置による造形において用いられる立体造形用データを生成するプログラム、及び、立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体を造形する方法として、熱で溶解した材料からなる層を積み上げて造形する熱溶解積層方式(fused filament fabrication;以下、「FFF方式」と称する。)が知られている(例えば、特許文献1を参照)。FFF方式で造形する際に、重心が高い位置にあるものや積層方向に長尺を有しているもの、例えば、鉛筆や煙突、塔のようなものを造形する場合には、造形の過程で物体がぐらついたり転倒したりする虞がある。
【0003】
このような問題への対応策として、従来、造形対象物を支えることだけを目的とした物体(以下、「捨て造形物」と称する。)を複数個、隙間を隔てて造形対象物を挟むような位置に造形対象物と一緒に造形(造形対象物及び捨て造形物の同じ高さの位置にある層を造形した後に、造形対象物及び捨て造形物の次の層を造形する、という態様により、両者の各層を次々と造形)し、一部の層において捨て造形物の端部を造形対象物の側面に付着させることにより、造形中は捨て造形物で造形対象物を支え、造形後に捨て造形物を造形対象物から除去する方法がよく知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2000-500709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した方法においては、造形対象物の層を造形した直後にその層の側面に端部が付着する捨て造形物の層を造形することから、両者の温度差が小さいため、捨て造形物の端部が造形対象物の側面と一体化し易い。その結果、造形後に捨て造形物の除去が困難になり、無理に除去しようとすれば造形対象物の仕上がりに影響を及ぼしかねず、最悪の場合には造形対象物が破損する虞もあるため、捨て造形物の除去に手間と時間がかかる。そうかといって、一体化を回避するために両者の間隔をより大きくすれば、ぐらつきや転倒の抑制が甘くなる。そこで、造形対象物の仕上がりに影響を及ぼすことなく造形対象物のぐらつきや転倒を抑制することができる対応策が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、造形対象物のぐらつきや転倒を抑制する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の立体造形用データ生成プログラム及び立体造形物の製造方法を提供する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0008】
すなわち、本発明の立体造形用データ生成プログラムは、モデル材を積層して立体を造形する装置により用いられるデータを生成する立体造形用データ生成プログラムであって、造形される立体の形状と、入口が上方に向き出口が入口より低い位置で立体に対向する貫通路を内部に有した立体を支持する支持体の形状とを、複数の層に分割した各層に対し決定された経路に沿って造形させ、入口をなす層を造形した後に、貫通路に所定量のモデル材を流し込むよう命令するデータを生成する命令生成ステップを、コンピュータに実行させる。
【0009】
この態様の立体造形用データ生成プログラムにより生成されたデータに沿って造形がなされると、貫通路の入口をなす層(貫通路の上端を含む層)を造形した後に貫通路に所定量のモデル材が流し込まれることで、モデル材が貫通路に概ね充填されたのち出口からはみ出して立体の一部に付着し、時間の経過とともに冷えて固化する。ここで、モデル材が付着した層は、貫通路の出口をなす層と概ね同時期に造形されていることから、貫通路にモデル材を流し込む時点では冷えているため、付着したモデル材は固化しても立体をなすこれらの層と一体化しにくい。
【0010】
したがって、この態様の立体造形用データ生成プログラムによれば、造形中には、出口からはみ出したモデル材を介してつながった支持体に立体を支持させてそのぐらつきや転倒を抑制することができるとともに、造形後には、支持体を立体から容易に除去することができる。
【0011】
好ましくは、上記の態様の立体造形用データ生成プログラムにおいて、立体の形状を踏まえて支持体の形状及び位置を決定する支持形状決定ステップと、立体の形状と支持体の形状とを複数の層に分割した各層の造形に要する時間を算出して造形中における各層の温度低下を予測する温度予測ステップと、温度予測ステップでの予測結果を踏まえて、貫通路にモデル材を流し込む時点での入口をなす層と出口をなす層との温度差が所定の閾値以上となるように貫通路の形状を決定する貫通路形状決定ステップとを、上記の命令生成ステップに先行して実行させる。
【0012】
この態様の立体造形用データ生成プログラムによれば、造形中における各層の温度低下の予測結果を踏まえて、モデル材を流し込む時点での入口をなす層と出口をなす層との温度差が所定の閾値以上となるように貫通路の形状を決定されることから、造形時には貫通路の出口をなす層と同じ高さにある立体の層が十分に冷えた後にモデル材を流し込むこととなるため、貫通路に流し込まれるモデル材とこれが付着する立体との一体化を確実に防止することができ、造形後に支持体を容易に除去することが可能となる。
【0013】
より好ましくは、上記の態様の立体造形用データ生成プログラムにおいて、貫通路形状決定ステップでは、貫通路の形状を踏まえて上記の所定量を決定する。
【0014】
仮に、貫通路に流し込むモデル材が足りなければ、出口からはみ出るモデル材を立体に十分に付着させることができず、支持体による立体の支持が甘くなる虞がある一方、モデル材が多すぎれば、必要以上の量のモデル材が立体に付着することで支持体から立体に余計な力が加わり、それ以降の造形に影響を及ぼす虞がある。これに対し、この態様の立体造形用データ生成プログラムによれば、貫通路の形状を踏まえて貫通路に流し込むモデル材の量が決定されるため、過不足のない適切な量のモデル材を貫通路に流し込むことができ、結果として支持体により立体を安定的に支持することが可能となる。
【0015】
さらに好ましくは、上記のいずれかの態様の立体造形用データ生成プログラムにおいて、貫通路形状決定ステップでは、立体の安定的な起立に影響する要素を踏まえて、支持体における貫通路の位置を決定する。
【0016】
この態様の立体造形用データ生成プログラムによれば、立体の安定的な起立に影響する要素(例えば、立体における重心の位置等)を踏まえて貫通路の位置が決定されるため、そのような貫通路を有した支持体に立体を支持させることで、立体の起立をより安定させることができ、ぐらつきや転倒をより効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、造形対象物のぐらつきや転倒を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】立体造形装置が動作する環境の一例を示す図である。
図2】立体造形用データ生成プログラムが動作する環境の一例を示す図である。
図3】立体造形装置における位置の管理方法を示す概略図である。
図4】立体造形用データ生成プログラムにより生成されたデータを用いて引張試験片を造形した直後の様子を示す図である。
図5】立体造形用データ生成プログラムの構成例を示す機能ブロック図である。
図6】立体造形用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。
図7】層造形用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。
図8】支持体の内部に形成される貫通路について説明する図である。
図9】貫通路の形状の変形例を示す図である。
図10】貫通路の上端部をザグリ形状にする場合の使い方を説明する図である。
図11】一般的なサポート領域の内部に貫通路を形成した例を示す図である。
図12】造形物に対して設置する支持体の位置及び個数の様々な例を示す図である。
図13】支持体に形成される貫通路の位置の変形例を示す図である。
図14】支持体のさらなる活用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0020】
〔立体造形装置の動作環境〕
図1は、一実施形態の立体造形用データ生成プログラムにより生成された立体造形用データを用いて造形する立体造形装置40が動作する環境の一例を示す図である。
【0021】
端末10は、立体造形装置40を利用するコンピュータであり、その内部に立体造形用データ生成プログラムが実装されている。立体造形装置40は、USBポートやシリアルポート等を介してプリンタサーバ30に接続されており、プリンタサーバ30との間でデータの送受信が可能である。プリンタサーバ30は、一般的なプリンタサーバと同様に、立体造形装置40に対するプリントジョブを管理/制御するコンピュータであり、有線又は無線のネットワーク20に接続されている。端末10は、立体物の造形を行う際に、プリント要求(造形要求)とともに、造形に用いられる立体造形用データを、ネットワーク20を介してプリンタサーバ30に送信する。
【0022】
プリンタサーバ30は、端末10からのプリント要求を受信すると、これを1つのプリントジョブとしてキューに挿入するとともに、立体造形用データを受信する。立体造形装置40によりプリントジョブが開始されると、プリンタサーバ30は、立体造形用データを小出しにして立体造形装置40に送信する。このとき、立体造形装置40に送信されるデータ量は、プリンタサーバ30の内部に実装されている制御プログラムによって適量に調整される。1つのプリントジョブに対する立体造形用データが全て立体造形装置40に送り出され、立体造形装置40がこれらのデータによる動作を終えると、立体造形装置40はプリント(造形)を終了する。
【0023】
なお、図1においては、端末10がプリンタサーバ30を介して立体造形装置40を利用する場合の構成を例に挙げて説明したが、プリンタサーバ30を介さずに立体造形装置40を端末10に直接接続して利用したり、立体造形用データが格納されたUSBメモリやSDカード等の記憶媒体をセットして立体造形装置40を単独で(端末10から切断された状態で)利用したりすることも可能である。
【0024】
〔立体造形用データ生成プログラムの動作環境〕
図2は、一実施形態の立体造形用データ生成プログラムが動作する環境の一例を示す図である。立体造形用データ生成プログラムは、上述したように端末10の内部に実装されている。
【0025】
端末10は、一般的なコンピュータの機能が搭載されたコンピュータであり、ハードウェアとしては、CPU11、RAM12、ネットワークインタフェース(I/F)13、HDD14の他、マウス、キーボード又はタッチパネル等の入力デバイス15や、液晶ディスプレイ等の表示デバイス16を備えている。また、ソフトウェアとしては、端末10には、立体形状を表すポリゴンの集合体からなるポリゴンデータ(例えば、STL形式のデータ)を出力する3Dモデリングソフト17、3Dモデリングソフト17から出力されたポリゴンデータに基づいて立体造形用データを生成する立体造形用データ生成ソフト100、端末10が立体造形装置40を利用する上で必要となるプリンタドライバ18等がインストールされている。ここで、立体造形用データ生成ソフト100は、いわゆる「スライサ(スライスソフト)」であり、一実施形態の立体造形用データ生成プログラムにより実装されている。
【0026】
3Dモデリングソフト17により出力されたポリゴンデータが立体造形用データ生成ソフト100に入力されると、立体造形用データ生成ソフト100は、ポリゴンデータにより形作られる立体形状を平板状にスライス(水平に切断)する処理を積層方向(高さ方向)に繰り返し行い、これにより生じた各層を形成するためのパスを決定して、決定したパスに沿って材料を吐出させるための命令データを次々と生成していく。そして、立体形状を構成する全ての層を形成するための命令データが生成されると、立体造形用データ生成ソフト100は、これらの命令データの集合体を立体造形用データ(例えば、G-Code形式のデータ)として出力する。立体形状の造形を行う際には、端末10は、プリンタドライバ18を介しネットワークインタフェース13を通して、プリント要求及び立体造形用データをプリンタサーバ30に送信する。
【0027】
なお、図2においては、立体造形装置40を利用する端末10に3Dモデリングソフト17がインストールされている場合の構成を例に挙げて説明したが、3Dモデリングソフト17は必ずしも端末10にインストールされている必要はなく、立体造形用データ生成ソフト100に対してポリゴンデータを入力可能な構成であればよい。また、端末10には、必要に応じてその他のソフトウェアや外部デバイス等が装備されていてもよい。
【0028】
また、上述したように、立体造形用データ生成ソフト100の実体は一実施形態の立体造形用データ生成プログラムであるため、以下の説明においては、立体造形用データ生成ソフト100を立体造形用データ生成プログラム100と称することとする。
【0029】
図3は、立体造形装置40における位置の管理方法を示す概略図である。
【0030】
立体造形装置40は、筐体41の内部空間に立体物を造形する上で必要となる構成を備えている。先ず、内部空間の最下部には平坦な造形台42が設けられている。造形台42に材料MMが吐出されて、立体物を構成する複数の層が下の方から順に形成され、下位の層に上位の層が次々と重ねて形成されていくことにより、立体物OBが造形される。
【0031】
材料MMは、吐出ノズル44から下方へ吐出される。材料MMは、吐出ノズル44に供給される前の段階では紐状をなした固体のフィラメントの状態であるが、吐出ノズル44の内側に装備されているヒータにより吐出ノズル44から吐出される前に高温に加熱されて溶融し、流動化した状態で吐出される。吐出ノズル44は、支持アーム43により支持されており、支持アーム43の水平方向(図中のX,Y軸方向)及び高さ方向(図中のZ軸方向)への移動に伴って、内部空間内を移動可能に構成されている。なお、支持アーム43を水平方向にのみ移動可能とし、造形台42を高さ方向に移動可能に構成してもよい。或いは、造形台42を水平方向にも移動可能とし、材料MMの吐出位置を造形台42及び支持アーム43の移動により変更可能に構成してもよい。
【0032】
内部空間内の位置は、3次元の座標で管理されている。造形において用いられる立体造形用データには、材料MMを吐出して各層を形成する(塗り潰す)線を描く上で必要となる命令、具体的には、吐出ノズル44の移動先の座標や移動速度、材料MMの吐出量、吐出圧や吐出温度等を指示する命令が大量に羅列されている。なお、図3においては、座標をイメージし易くするために造形台42に格子状の線を付して示しているが、実際の造形台42にはこのような線は付されていない。また、立体造形装置40は、デルタ状に配置された2本で1ペアの軸3組の移動可能な部位に吐出ノズル44が支持されているタイプのもの(いわゆる「デルタ型3Dプリンタ」)であってもよい。
【0033】
〔立体物の造形態様〕
図4は、立体造形用データ生成プログラム100により生成されたデータを用いて引張試験片を造形した直後の様子を示す図である。なお、発明の理解を容易とするために、これ以降の図面においては、図示の対象物を誇張して表しており、物体の形状や大きさ、物体間に設けられる隙間の大きさ、物体と隙間とのサイズ比等は、実際のものとは必ずしも対応していない。
【0034】
図4中(A):立体物OBの造形直後の様子を示す斜視図である。図示された立体物OBは、ASTM D638の規格において規定されたダンベル状の引張試験片であり、試験片の引張方向に材料を積層して造形されている。また、立体物OBを厚み方向の両側から挟むようにして、立体物OBから僅かに離れた位置に2つの支持体SPが造形されている。図中では立体物OBの一部が支持体SPに隠れており全体形状を確認できないが、立体物OBは上下対称な形状をなしており、上端部及び下端部の幅の広い部位が、引張試験において掴まれる部位に相当する。
【0035】
図4中(B):立体物OBの造形直後の様子を示す平面図である。立体物OBと支持体SPは一緒に造形され、個々の支持体SPの内部には、入口が上方に向き出口が側方に向いた貫通路THが1つ以上形成されている。貫通路THの出口は立体物OBに対向する面に設けられており、貫通路THの入口をなす層、すなわち貫通路THの上端を含む層(以下、「貫通路の最上流層」と称する場合がある。)の造形時に貫通路THに材料MMが流し込まれることで、材料MMが出口からはみ出して立体物OBの側面に付着する。立体物OBは、この部分を介してつながった支持体SPにより側方から支持されるため、起立の安定度が高められ、ぐらつきや転倒が抑制される。
【0036】
ここで、貫通路THの入口が設けられた層は出口が設けられた層の後に造形されることから、貫通路THに材料MMを流し込む際には入口が設けられた層と出口が設けられた層との間に温度差が生じているため、貫通路から流し込まれた材料MMは立体物OBと一体化しにくい。したがって、造形後に、支持体OBを立体物から容易に除去することができる。図示された状態の立体物OBから2つの支持体SPが除去されると、立体物OBが完成する。
【0037】
このように、立体物OBと併せて(一緒に、同時に)上記のような貫通路THを有した支持体SPを造形することにより、造形中における支持体SPによる立体物OBの確実な支持と、造形後における支持体SPの容易な除去とを両立させることができる。
【0038】
続いて、このような造形を行うためのデータを生成する立体造形用データ生成プログラム100の構成や主要な処理について説明する。
【0039】
〔立体造形用データ生成プログラムの構成〕
図5は、立体造形用データ生成プログラム100の構成例を示す機能ブロック図である。立体造形用データ生成プログラム100は、例えば、各種設定部110、立体形状入力部120、立体形状分析部130、サポート形状決定部140、形状切断部150、温度予測部160、断面形状分析部170、パス決定部180及び生成データ出力部190等で構成されている。
【0040】
各種設定部110は、立体造形用データ生成プログラムが機能する上で必要となる各種の閾値やパラメータ値(例えば、吐出する材料の幅(太さ、吐出量)の範囲、各種の温度(庫内温度、造形台42の温度、吐出ノズル44の内部温度)等)、描く形状のパターン等を予め設定する。また、各種設定部110は、ユーザ向けの設定画面を提供し、設定画面を介してユーザにより設定された内容を端末10の内部記憶領域(HDD14)に格納する。
【0041】
立体形状入力部120は、立体形状を形作るポリゴンデータを入力する。より具体的には、立体形状入力部120は、3D-CAD等の3Dモデリングソフトにより出力されたポリゴンデータを読み込む。ポリゴンデータは、端末10からアクセス可能な記憶領域(例えば、HDD14や別途接続された外部記憶媒体等)に格納されている。
【0042】
立体形状分析部130は、立体形状入力部120に入力されたポリゴンデータにより形作られる立体物の形状を分析する。
【0043】
サポート形状決定部140は、立体形状分析部130による分析結果に基づいて、造形対象の立体物を支えるために造形する支持体の形状や位置、支持体の内部に形成する貫通路の形状、位置、個数等を決定する。また、サポート形状決定部140は、後述する温度予測部160からのフィードバックを受けて、必要に応じて貫通路の形状等を調整する。
【0044】
形状切断部150は、立体形状入力部120に入力されたポリゴンデータにより形作られる立体物の形状と、サポート形状決定部140により決定された支持体の形状とを合わせた全体としての立体形状を、複数の平板形状に(高さの異なる複数の位置で水平に)切断し、積層方向(高さ方向)に積み重ねられた複数の層に分割する。
【0045】
温度予測部160は、形状切断部150により分割された複数の層の各形状から貫通路が含まれる(貫通路をなす)各層の造形時間を概算して、時間の経過に伴う各層の温度低下を予測する。より具体的には、温度予測部160は、概算された造形時間と造形に関する各種の温度とに基づいて貫通路の最上流層の造形時における貫通路の出口をなす層(以下、「貫通路の最下流層」と称する。)と貫通路の最上流層との温度差を予測し、予測した温度差が十分であるか否かを判定して、結果をサポート形状決定部140にフィードバックする。
【0046】
断面形状分析部170は、形状切断部150により切断された各断面の形状、言い換えると、分割された立体物及び支持体の各層の形状を分析する。
【0047】
パス決定部180は、断面形状分析部170により分析された結果等を踏まえて、各層を形成するための材料を吐出する経路、経路を辿る上での順序や方向や速度、材料の吐出幅や吐出量等、経路に関する詳細事項(以下、これらをまとめて「パス」と略称する。)を決定し、決定したパスに応じた命令データを生成する。また、パス決定部180は、貫通路の最上流層を造形した後に貫通路に材料を流し込む命令データを生成する。
【0048】
生成データ出力部190は、パス決定部180により生成された命令データの集合体、すなわち立体造形用データを出力する。
【0049】
なお、上述した例においては、貫通路が含まれる各層の造形時間を温度予測部160が概算しているが、これに代えて、各層の造形時間をパス決定部180がより正確に算出し、これに基づいて温度予測部160が貫通路の最上流層の造形時における貫通路の最下流層との温度差を予測してもよい。このような構成においては、予測された温度差に応じてサポート形状決定部140が貫通路の形状を調整した場合には、パス決定部180が貫通路を含む層のパスを再決定(修正)しなければならないが、貫通路の最上流層の造形時における貫通路の最上流層と最下流層との温度差をより正確に予測して、貫通路に流し込む材料と立体物との一体化をより確実に防止することが可能となる。
【0050】
〔立体造形用データ生成処理〕
図6は、立体造形用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。立体造形用データ生成処理は、立体造形装置40を利用して立体物を造形する際に必要となる立体造形用データを生成するための処理である。
【0051】
フローチャートに示される各ステップを実行するのは立体造形用データ生成プログラム100であるが、立体造形用データ生成プログラム100を動作させる主体は端末10のCPU11であり、厳密にはCPU11が、立体造形用データ生成プログラム100を構成する各機能部110~190に各ステップを実行させる。以下、手順例に沿って説明する。
【0052】
ステップS10:CPU11が、立体形状入力部120に立体形状入力処理を実行させる。この処理では、立体形状入力部120が、造形対象とする立体物の形状を形作るポリゴンデータを読み込む。
【0053】
ステップS20:CPU11が、立体形状分析部130に立体形状分析処理を実行させる。この処理では、立体形状分析部130が、ステップS10で読み込まれたポリゴンデータにより形作られる立体物の形状を分析し、立体物の安定的な起立に影響し得る要素(例えば、立体物の重心位置、突出した部位における重心位置、又は、立体物の体積の中心位置等)を割り出す。
【0054】
ステップS30:CPU11が、サポート形状決定部140にサポート形状決定処理を実行させる。この処理では、サポート形状決定部140が、ステップS20で割り出された要素を踏まえて、支持体の形状及び位置、支持体の内部に形成する貫通路の形状やその出入口の高低差、貫通路に流し込む材料の体積(量)、形成する貫通路の個数及びそれらの高さ方向における位置等を決定する。貫通路に流し込む材料の量は、貫通路の容積に加え、貫通路の出口とこれに対向する立体物との間の隙間の大きさを踏まえて、立体物と支持体とを繋ぎうる必要十分な量に決定される。
【0055】
なお、ステップS30において、サポート形状決定部140は、支持体の内部に形成する貫通路の形状として、予めパターン化された複数の貫通路の形状からいずれかを選択して適用してもよい。この場合には、貫通路に流し込む材料の体積は、選択されたパターンに応じた一定の量となる。
【0056】
ステップS40:CPU11が、形状切断部150に形状切断処理を実行させる。この処理では、形状切断部150が、ステップS10で読み込まれたポリゴンデータにより形作られる立体物の形状とステップS30で決定された支持体の形状とを合わせた全体としての立体形状を平板状(水平)に切断する処理を積層方向(高さ方向)に繰り返す。
【0057】
ステップS50:CPU11が、温度予測部160及びサポート形状決定部140に貫通路形状調整処理を実行させる。この処理では、先ず、温度予測部160が、ステップS40での切断によって生成された各層の形状から貫通路が含まれる各層の造形時間を概算し、これに立体造形装置40の庫内温度や吐出ノズル44の内部温度(材料を温めるヒータの温度)等を踏まえて、貫通路の最上流層の造形時に貫通路の最下流層の温度がどの程度まで低下しているか(貫通路の最下流層と最上流層との間の温度差がどの程度であるか)を予測し、予測された温度差と温度差に関して予め設定された閾値との比較により温度差が十分であるか否かを判定して、その結果をサポート形状決定部140にフィードバックする。
【0058】
続いて、サポート形状決定部140が、温度予測部160により温度差が不十分であると判定された場合、すなわち貫通路の最上流層の造形時に貫通路の最下流層が十分に冷えていないと判定された場合に、貫通路の形状(特に、貫通路の最上流層と最下流層との間の高さ(層数))等を調整し、これに応じて貫通路に関するその他のパラメータ(例えば、流し込む材料の体積等)を調整する。このような調整を加えることにより、造形時に、最下流層が十分に冷えた貫通路に材料を流し込むことが可能となる。
【0059】
ステップS60:CPU11が、断面形状分析部170に処理の対象とする層を更新させる。具体的には、断面形状分析部170が、ステップS40で立体形状が切断されたことにより生じた複数の層を下から順に1つずつ、後続する処理(ステップS70)の対象としてセットする。したがって、ステップS60が最初に実行される際には、立体形状の最も下の層が処理の対象としてセットされる。
【0060】
ステップS70:CPU11が、断面形状分析部170及びパス決定部180に層造形用データ生成処理を実行させる。この処理では、断面形状分析部170が、ステップS60で対象としてセットされた層(以下、「対象層」と称する。)の形状を分析した上で、パス決定部180が、対象層を造形するために最適化した命令データを生成する。なお、層造形用データ生成処理の詳細については、別の図面を用いてさらに後述する。
【0061】
ステップS80:CPU11が、断面形状分析部170に未処理の層、すなわち未だ層造形用データ生成処理(ステップS70)の対象とされていない層が残っているか否かを確認させる。未処理の層が残っている場合には(ステップS80:Yes)、CPU11はステップS60に戻り、以降のステップを繰り返し実行する。一方、未処理の層が残っていない場合には(ステップS80:No)、CPU11はステップS90に進む。
【0062】
ステップS90:CPU11は、生成データ出力部190に生成データ出力処理を実行させる。この処理では、生成データ出力部190は、立体形状を構成する全ての層を対象としてステップS70が実行されたことにより生成された命令データの集合体を、立体造形用データとして出力する。
【0063】
以上の手順を終えると、CPU11は、造形対象の立体物及びこれを支持する支持体についての立体造形用データの生成を終了する。
【0064】
なお、上記の手順例はあくまで一例であり、これに限定されない。例えば、上記の手順例においては、サポート形状決定処理(ステップS30)で支持体の形状及び位置に加えて、支持体の内部に形成する貫通路に関する決定も行い、形状切断処理(ステップS40)で切断された各層の形状を踏まえて、貫通路形状調整処理(ステップS50)で貫通路の最上流層と最下流層との間の温度差を予測し必要に応じて貫通路の形状を調整しているが、これに代えて、サポート形状決定処理(ステップS30)では貫通路の形状は決定しないでおき、貫通路形状調整処理(ステップS50)で温度予測結果を踏まえて十分に冷えた位置に貫通路の下部がくるように貫通路の形状を決定してもよい。
【0065】
〔層造形用データ生成処理〕
図7は、層造形用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。層造形用データ生成処理は、立体造形用データ生成処理の過程(図6中のステップS70)で実行される。以下、手順例に沿って説明する。
【0066】
ステップS71:CPU11が、断面形状分析部170に断面形状を分析させる。より具体的には、断面形状分析部170が、対象層における立体物及び支持体の形状を分析する。
【0067】
ステップS72:CPU11が、パス決定部180にパスを決定させる。より具体的には、パス決定部180が、ステップS71で分析された対象層の形状等を踏まえて、対象層を造形するためのパス、すなわち経路(吐出ノズル44の移動路)やその経路における材料の吐出量(積層ピッチ)や移動速度、経路に沿って線を描く順序(吐出ノズル44が各経路を移動する順序)等を決定する。
【0068】
なお、貫通路を含む層に対して、貫通路及びその周辺部をなす線においては充填率を100%としつつ、その他の線においては充填率を下げて描くように(例えば、線を井桁状に描いて多少の隙間が生じるように)パスを決定してもよい。これにより、造形時に、貫通路の周辺は材料で完全に満たされて隙間が生じないため、貫通路に流し込んだ材料が隙間から漏れ出すのを未然に防ぐことができる。また、貫通路を含む各層において、貫通路をなす線を他の線より先に描くようにパスを決定してもよい。これにより、造形時に、貫通路をなす材料の温度をより早く低下させることが可能となる。
【0069】
ステップS73:CPU11が、パス決定部180に、対象層が支持体の内部に形成される貫通路の最上流層に該当するか否かを確認させる。対象層が貫通路の最上流層に該当する場合には(ステップS73:Yes)、CPU11はステップS74に進む。一方、対象層が貫通路の最上流層に該当しない場合には(ステップS73:No)、CPU11はS75に進む。
【0070】
ステップS74:CPU11は、貫通路の最上流層を造形し終えた後に貫通路に材料を流し込む命令を追加する。この命令において、貫通路に流し込む材料の体積には、サポート形状決定部140により事前に決定された体積、具体的には、図6中のステップS30,50で決定又は調整された体積が適用される。
【0071】
ステップS75:CPU11が、パス決定部180に命令データ生成処理を実行させる。この処理では、パス決定部180が、ステップS72で決定されたパス及びステップS74で追加された命令に対応する命令データを生成する。
【0072】
以上の手順を終えると、CPU11は、1つの層(対象層)に対する命令データの生成を終了する。この手順が、全ての層に対して繰り返し実行される。
【0073】
〔貫通路の造形態様〕
図8は、支持体SPの内部に形成される貫通路THについて説明する図である。
【0074】
図8中(A):貫通路THの伸長方向における形状を示す垂直断面図(図4中のVIII-VIIIに沿う断面図)である。支持体SPの内部には、上方に向いた入口HIから側方に向いた出口HOまでの間を略L字状に貫通した貫通路THが形成されている。L字形状の貫通路THの全体としての高さLは、例えば、出口HOの高さLの約2~2.5倍(図示の例においては、2倍)に設定されている。なお、貫通路THの高さLはこれに限定されず、貫通路THの形状に応じて様々に異なる寸法となりうる。
【0075】
図8中(B):貫通路THの径方向における形状(以下、「断面形状」と称する。)を示す垂直断面図(図4中のVIII-VIIIに沿う断面図)である。例えば、貫通路THの断面形状が図4中(B)に示されるように略円形の場合には、貫通路を含む層を造形する際に、描く線を直下の層で描かれた線から徐々にずらしたり45度以下の傾斜で徐々にオーバーハングさせたりすることにより、断面形状が略円形となるように造形される。図示の例においては、吐出孔の断面が略円形で内径が0.4mmの吐出ノズルを用いて積層ピッチ0.1mmで貫通路が造形されている。貫通路THの断面の高さLすなわち出口HOの高さL、及び、断面の幅Lは、例えば、0.4~0.6mm程度に設定される。
【0076】
なお、貫通路THの断面形状や太さは一定である必要はなく、貫通路THの位置により異なっていてもよい。また、貫通路THの断面形状は、略円形に限定されず、例えば、略矩形、略三角形、略楕円形等、状況に応じて適宜変更が可能である。
【0077】
図8中(C):造形対象の立体物OBと、これを支持するための支持体SPと、吐出ノズル44とを、図8中(A)と同じ方向に切断して、貫通路THに材料MMが流し込まれる様子を表している。立体物OBと支持体SPとの間の間隔Lは、FFF方式による造形時に生じうる寸法誤差を超える大きさ(例えば、0.3mm程度)に設定される。
【0078】
立体物OB及び支持体SPは一緒に造形されていき、支持体SPの内部に形成される貫通路THの上端を含む最上流層LTの造形を終えると、吐出ノズル44の先端で入口HIを塞ぎつつ吐出孔46を入口HIの中心に合わせるようにして吐出ノズル44が移動する。そして、層の造形時よりも内圧を高めた状態で吐出孔46から材料MMが勢いよく吐出されることで、材料MMは、貫通路THに概ね充填されたのち出口HOからはみ出して、貫通路THからつながった状態で立体物OBの側面に付着して、時間の経過とともに冷えて固化する。
【0079】
このとき、立体物OBにおける材料MMが付着した層は、貫通路THの下部をなす層と概ね同時期に造形されていることから、貫通路THに材料MMを流し込む時点では、既に十分に冷えているため、付着した材料MMは、固化しても立体物OBにおけるこれらの層と一体化しにくい。したがって、造形中には、支持体SPにより立体物OBを支持してぐらつきや転倒を抑制することができ、造形後には、支持体SPを立体物OBから容易に除去することができる。
【0080】
図9は、貫通路THの形状の様々な変形例を示す図である。
上述した貫通路THは伸長方向に略L字形状をなしていたが、貫通路THの形状はこれに限定されない。貫通路THは、少なくとも、材料MMの入口が出口よりも高い位置に設けられており、かつ、出口が立体物に対向する位置に設けられていればよい。
【0081】
例えば、図9中(A)に示されるように、貫通路THにおける屈曲した部位を直角状に代えて傾斜状に形成してもよいし、図9中(B)に示されるように、上方から側方に向かって直線状に貫通させた形状としてもよい。また、図9中(C)に示されるように、立体物OBが下向きに傾斜する形状をなしている場合には、これに対向するように支持体SPを上向きに傾斜した形状とし、その内部に略J字形状の貫通路THを形成して、立体物OBの側面に対して下方から材料MMを付着させてもよい。なお、図示を省略するが、貫通路THはその途中で二股以上に分岐していてもよい。また、いずれの形状の貫通路THにおいても、その断面形状(太さ)は一定でなくてもよい。
【0082】
図10は、貫通路THの上端部をザグリ形状にする場合の使い方を説明する図である。
図10中(A)に示されるように、貫通路THの上端部にザグリCBが形成される場合には、ザグリCBを含む層の造形を終えた後に貫通路THに材料MMが流し込まれる。このような形状とすることにより、造形時に、ザグリCBを用いて吐出ノズル44の内圧調整を行うことができる。
【0083】
具体的には、先ず、図10中(B)に示されるように、吐出ノズル44の先端で入口HIを塞ぐようにした状態で、層の造形時よりも内圧を高めて吐出孔46から材料MMが勢いよく吐出されることで、貫通路THに材料MMが充填される。その後で、吐出ノズル44を少し上に移動させ、図10中(C)に示されるように、ザグリCBを埋めるように内圧を下げながら材料MMを吐出することにより、次層の造形を開始するまでの間に吐出ノズル44の内圧を層の造形に適した内圧に戻すことが可能となる。
【0084】
図11は、宙に浮いた部位を造形する際にその部位を支える土台となる、いわゆる一般的なサポート領域を支持体SPと捉え、そのような支持体SPの内部に貫通路THを形成した例を示す図である。視認性を考慮し、図11においては立体物OBを網かけして示している。
【0085】
例えば、図11中(A)に示されるように、上方に伸びる柱状の部位の途中から腕状の部位が右方に伸びる、いわば略トの字形状をなした立体物OBを造形する場合には、通常、腕状の部位を下から支える支持体SPが造形される。そのような支持体SPにおいて、図11中(B)に示されるように、内部に貫通路THを形成し、貫通路THの上端を含む最上流層LTの造形後に材料MMを貫通路THに流し込むことにより、材料MMが貫通路THの出口からはみ出し、立体物OBの柱状の部位の側面に付着して固化する。これにより、上方に伸びる柱状の部位の造形中に、支持体SPが当該部位を側方から支持することができ、当該部位の起立を安定させてぐらつきや転倒を抑制することができる。
【0086】
図12は、立体物OBに対して設置する支持体SPの位置及び個数の様々な例を示している。このうち、(A-1)、(B-1)、(C-1)は、立体物OBの形状の例を示す斜視図であり、(A-2)、(B-2)、(C-2)は、直前に示した立体物OBの造形直後の様子を示す平面図である。
【0087】
上述した図4の例においては、立体物OBが積層方向に長尺を有する薄板状の試験片であることから、これを安定的に支持できるよう、厚み方向の両側から挟むようにして2つの支持体SPが設置された。これに対し、図12中(A-1)に示されるように、立体物OBが軸対称な形状である場合には、例えば、図12中(A-2)に示されるように、中心軸に対して3回対称の位置に支持体SPを1つずつ設置して、3方向から立体物OBを支持することができる。なお、3回対称に限定されず、中心軸に対して回転対称となる位置に支持体SPを1つずつ設置すればよい。
【0088】
図12中(B-1)に示されるように、立体物OBが上方に伸びる直方体である場合には、例えば、図12中(B-2)に示されるように、その4つの側面に対向する位置に支持体SPを1つずつ設置して、4方向から立体物OBを支持することができる。また、図12中(C-1)に示されるように、例えば、立体物OBが下部においては安定した形状をなしているが、上部に片側のみに高く伸びる部位を有しており、この部位の造形により重心が片側に寄って起立が不安定になる虞がある場合には、図12中(C-2)に示されるように、その要因となる部位に対向する位置に支持体SPを設置してこの部位を支持することにより、立体物OBのぐらつきや転倒を防止することができる。
【0089】
図13は、支持体SPの内部に形成される貫通路TH(出口HO)の位置の変形例を示す図である。上述したように、貫通路THは支持体SPの内部に1つ以上形成され、その出口HOは支持体SPにおける立体物OBに対向する面(以下、「対向面」と称する。)に設けられるが、貫通路THの形成位置ひいては出口HOの設置位置は、様々に変形することができる。
【0090】
例えば、図13中(A)に示されるように、対向面における幅方向の略中心に沿って、高さ方向に略等間隔となる位置に複数の貫通路THを形成してもよい。また、図13中(B)に示されるように、対向面における同じ高さの位置に2つの貫通路THを形成し、この位置から所定の間隔をおいた上方の位置に1つの貫通路THを形成し、さらにこの位置から所定の間隔をおいた上方の位置に2つの貫通路THを形成する、という具合に、高さ方向に略等間隔となる位置に貫通路THを2個→1個→2個→1個→・・・と交互に個数を変えて形成してもよい。或いは、図13中(C)に示されるように、対向面における高さ方向に略等間隔となる位置に、貫通路THを1つずつジグザグ状に形成してもよい。
【0091】
また、図示を省略するが、立体物OBの重心の位置に基づいて貫通路THの形成位置を決定することも可能である。例えば、立体物OB単体での重心の位置を算出し、その高さより下の位置に貫通路THを形成する。造形時には、この貫通路THに流し込まれる材料を介して立体物OBが支持体SPに支持されることになる。そこで、貫通路THを複数形成する場合には、次に、1つ目の貫通路THを用いて支持がなされた状態における立体物OBの重心の位置を算出し、その高さより下の位置に2つ目の貫通路THを形成する。このようにして、立体物OBの重心の位置を算出し、その結果に応じた位置に1つ以上の貫通路THを形成してもよい。なお、立体物OBの重心の位置は上記の立体形状分析部130により算出され、それに応じた貫通路THの形成位置は上記のサポート形状決定部140により決定される。
【0092】
〔貫通路を有する支持体の応用例〕
図14は、支持体SPのさらなる活用例を説明する図である。
【0093】
これまでに説明した例においては、ぐらつきや転倒の虞がある形状をなした立体物OBを支持するために、貫通路THを内部に有する支持体SPが設置されたが、安定した形状の立体物OBを造形する際にも、同様の支持体SPを活用することができる。
【0094】
図14中(A):立体物OBの造形直後の様子を示す斜視図である。図示された立体物OBは、天面及び底面が広く安定した形状であるが、造形後に背面側の壁を多少切削して均す必要があると想定する。そのような立体物OBを造形する場合には、先ず造形台42の上に先ずラフトRAを造形し、ラフトRAの上に立体物OB及びこれを支持する適切な個数の支持体SPを造形する。支持体SPは、切削される部位とは反対側の位置、図示の例においては立体物OBの正面に対向する位置に設けられる。造形を終えると、造形物がラフトRAごと切削装置に移される。
【0095】
図14中(B):造形物が切削装置に移された様子を表す平面図である。なお、切削装置は図示を省略している。造形物は、ラフトRAの四隅に設けられた位置決め穴PHを介して切削装置に固定された後で、背面側の壁CPの一部が切削される。このとき、通常は、切削による衝撃が伝達して立体物OBが振動することで、立体物OBがラフトRAから剥離する場合があり、その場合には切削対象でない部位を破損する虞がある。これに対し、立体物OBを支持する支持体SPが設置されていれば、支持体SPの支持により立体物OBの振動を抑制することができ、結果として立体物OBがラフトRAから剥離するのを未然に防ぐことが可能となる。
【0096】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変更して実施することが可能である。また、実施形態で挙げた各種の数値はあくまで例示であり、それらの数値に限定されるものではない。
【0097】
上述した実施形態においては、断面が略円形の吐出孔46を備えた吐出ノズル44を造形に用いているが、吐出孔46の断面形状は略円形に限定されない。例えば、矩形や菱形であってもよい。
【符号の説明】
【0098】
10 端末
11 CPU
20 ネットワーク
30 プリンタサーバ
40 立体造形装置
42 造形台
44 吐出ノズル
46 吐出孔
100 立体造形用データ生成プログラム
【要約】
【課題】造形対象物のぐらつきや転倒を抑制する技術の提供。
【解決手段】立体造形用データ生成プログラムは、造形対象の立体物OBを支える支持体SPの内部に、入口HIが上方に向き出口HOが立体物OBに対向する面に設けられる貫通路THを形成するパスを決定し、貫通路THの上端を含む層LTに対しては、層LTの造形後に貫通路THに材料を流し込む命令を追加する。このように生成されたデータを用いて造形すると、層LTの造形後に流し込まれた材料が貫通路THに充填され出口HOからはみ出して立体物OBに付着する。材料が付着する層は、貫通路THの下部をなす層と概ね同時期に造形されていることから、材料が付着する時点では十分に冷えているため、付着した材料は固化しても立体物OBと一体化しにくい。したがって、造形中には支持体SPで立体物OBのぐらつきや転倒を抑制することができ、造形後には支持体SPを容易に除去することができる。
【選択図】図8
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14