(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】ウェーハシートの初期剥離発生方法及び半導体ダイのピックアップ装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/67 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
H01L21/68 E
(21)【出願番号】P 2023508195
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2021011840
(87)【国際公開番号】W WO2022201278
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 徹
(72)【発明者】
【氏名】尾又 洋
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-273195(JP,A)
【文献】国際公開第2018/174138(WO,A1)
【文献】特開2004-152858(JP,A)
【文献】特開平06-295930(JP,A)
【文献】特開2011-129821(JP,A)
【文献】特開平09-223728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/67
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハシートの上面に貼り付けられた半導体ダイをピックアップする前に前記半導体ダイと前記ウェーハシートとの間に初期剥離を発生させる初期剥離発生方法であって、
前記上面に前記半導体ダイが貼り付けられた前記ウェーハシートを保持するウェーハホルダと、前記ウェーハシートの下面を吸着する吸着面を備え、筒型で前記吸着面と側面とが曲面で接続されているステージと、前記ステージの内部に配置され、前記吸着面より上昇してピックアップ対象の前記半導体ダイを突き上げる移動要素と、を含み、前記ウェーハシートの前記上面に貼り付けられた前記半導体ダイをピックアップするピックアップ装置を準備する準備工程と、
前記ステージを上昇させて前記ウェーハシートの前記下面を押上げ、前記ステージを前記ウェーハシートに対して連続的に移動させて前記ステージの前記吸着面が前記ウェーハシートの前記下面を擦るように前記ステージを前記ウェーハシートに対して相対的に横方向に移動させて前記半導体ダイと前記ウェーハシートとの間に初期剥離を発生させる初期剥離発生工程と、
前記初期剥離発生工程の後に前記移動要素によりピックアップ対象の前記半導体ダイを突き上げてピックアップするピックアップ工程と、
を備え、
前記初期剥離発生工程は、前記半導体ダイの貼り付けられている前記ウェーハシートの前記上面の領域に対応する前記ウェーハシートの前記下面の領域の一部又は全部を前記吸着面が擦るように前記ステージを前記ウェーハシートに対して相対的に横方向に移動させ、
前記ステージを第1横方向に沿って往復移動させる往復工程と、
前記ステージを前記第1横方向に直交する第2横方向に移動させて往復移動経路を変更する往復経路変更工程と、を交互に繰り返して実行すること、
を特徴とする半導体ダイのピックアップ方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の半導体ダイのピックアップ方法であって、
前記初期剥離発生工程は、前記ウェーハシートの前記下面を3mm~5mm押上げること、
を特徴とする半導体ダイのピックアップ方法。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
請求項1に記載の半導体ダイのピックアップ方法であって、
前記ウェーハシートは、円形であり、
前記第1横方向は、前記ウェーハシートの円周方向であり、
前記第2横方向は、前記ウェーハシートの半径方向であること、
を特徴とする半導体ダイのピックアップ方法。
【請求項7】
ウェーハシートの上面に貼り付けられた半導体ダイをピックアップする前に前記半導体ダイと前記ウェーハシートとの間に初期剥離を発生させる初期剥離発生方法であって、
前記上面に前記半導体ダイが貼り付けられた前記ウェーハシートを保持するウェーハホルダと、前記ウェーハシートの下面を吸着する吸着面を備え、筒型で前記吸着面と側面とが曲面で接続されているステージと、前記ステージの内部に配置され、前記吸着面より上昇してピックアップ対象の前記半導体ダイを突き上げる移動要素と、を含み、前記ウェーハシートの前記上面に貼り付けられた前記半導体ダイをピックアップするピックアップ装置を準備する準備工程と、
前記ステージを上昇させて前記ウェーハシートの前記下面を押上げ、前記ステージを前記ウェーハシートに対して連続的に移動させて前記ステージの前記吸着面が前記ウェーハシートの前記下面を擦るように前記ステージを前記ウェーハシートに対して相対的に横方向に移動させて前記半導体ダイと前記ウェーハシートとの間に初期剥離を発生させる初期剥離発生工程と、
前記初期剥離発生工程の後に前記移動要素によりピックアップ対象の前記半導体ダイを突き上げてピックアップするピックアップ工程と、
を備え、
前記ウェーハシートは、円形であり、
前記初期剥離発生工程は、前記ステージを前記ウェーハシートの外周から中心に向かって又は中心から外周に向かって渦巻状に横移動させた後、前記ウェーハシートの中心から外周に向かって又は外周から中心に向かって渦巻状に横移動させること、
を特徴とする半導体ダイのピックアップ方法。
【請求項8】
上面に半導体ダイが貼り付けられたウェーハシートを保持するウェーハホルダと、
前記ウェーハホルダを横方向に駆動するウェーハホルダ駆動部と、
前記ウェーハシートの下面を吸着する吸着面を含み、筒型で前記吸着面と側面とが曲面で接続されているステージと、
前記ステージを上下方向に駆動するステージ駆動部と、
前記ステージの内部に配置され、前記吸着面より上昇して前記半導体ダイを突き上げる移動要素と、
前記移動要素を駆動する移動要素駆動部と、
前記ウェーハホルダ駆動部と、前記ステージ駆動部と、前記移動要素駆動部との動作を調整する制御部と、を備え、前記ウェーハシートの前記上面に貼り付けられた前記半導体ダイをピックアップする半導体ダイのピックアップ装置であって、
前記制御部は、
前記ステージ駆動部によって前記ステージを上昇させて前記ウェーハシートの前記下面を押上げ、前記ウェーハホルダ駆動部によって前記ステージの前記吸着面が前記ウェーハシートの前記下面を擦るように前記ステージを前記ウェーハシートに対して連続的に相対的に横方向に移動させ、
前記ステージ駆動部によって前記ステージを第1横方向に沿って往復移動させることと、前記ステージ駆動部によって前記ステージを前記第1横方向に直交する第2横方向に移動させることを交互に繰り返して実行した後に、前記移動要素駆動部によって前記移動要素を前記吸着面より上昇させてピックアップ対象の前記半導体ダイを突き上げてピックアップすること、
を特徴とする半導体ダイのピックアップ装置。
【請求項9】
上面に半導体ダイが貼り付けられたウェーハシートを保持するウェーハホルダと、
前記ウェーハホルダを横方向に駆動するウェーハホルダ駆動部と、
前記ウェーハシートの下面を吸着する吸着面を含み、筒型で前記吸着面と側面とが曲面で接続されているステージと、
前記ステージを上下方向に駆動するステージ駆動部と、
前記ステージの内部に配置され、前記吸着面より上昇して前記半導体ダイを突き上げる移動要素と、
前記移動要素を駆動する移動要素駆動部と、
前記ウェーハホルダ駆動部と、前記ステージ駆動部と、前記移動要素駆動部との動作を調整する制御部と、を備え、前記ウェーハシートの前記上面に貼り付けられた前記半導体ダイをピックアップする半導体ダイのピックアップ装置であって、
前記ウェーハシートは、円形であり、
前記制御部は、
前記ステージ駆動部によって前記ステージを上昇させて前記ウェーハシートの前記下面を押上げ、前記ウェーハホルダ駆動部によって前記ステージの前記吸着面が前記ウェーハシートの前記下面を擦るように前記ステージを前記ウェーハシートに対して連続的に相対的に横方向に移動させ、
前記ステージ駆動部によって前記ステージを前記ウェーハシートの外周から中心に向かって又は中心から外周に向かって渦巻状に横移動させた後、前記ステージ駆動部によって前記ウェーハシートの中心から外周に向かって又は外周から中心に向かって渦巻状に横移動させた後に、前記移動要素駆動部によって前記移動要素を前記吸着面より上昇させてピックアップ対象の前記半導体ダイを突き上げてピックアップすること、
を特徴とする半導体ダイのピックアップ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ダイをピックアップする前に半導体ダイとウェーハシートとの間に初期剥離を発生させる初期剥離発生方法とウェーハシートの上面に貼り付けられた半導体ダイをピックアップする半導体ダイのピックアップ装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ダイは、6インチや8インチの大きさのウェーハを所定の大きさに切断して製造される。切断の際には切断した半導体ダイがバラバラにならないように裏面にウェーハシートを貼り付け、表面側からダイシングソーなどによってウェーハを切断する。この際、裏面に貼り付けられたウェーハシートは若干切り込まれるが切断されないで各半導体ダイを保持した状態となっている。そして切断された各半導体ダイは一つずつウェーハシートからピックアップされてダイボンディング等の次の工程に送られる。
【0003】
半導体ダイをウェーハシートからピックアップする方法としては、半導体ダイが貼り付けられたウェーハシートをステ-ジに固定し、複数の突起部材が設けられたロ-ラを回転しながら複数の突起部材でウェーハシートを繰り返し突き上げて半導体ダイとウェーハシートとを剥離させた後、コレットで半導体ダイをピックアップする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術のピックアップ方法では、ウェーハシートの粘着力によっては、半導体ダイとウェーハシートとが完全に剥離せず、半導体ダイをピックアップできないピックアップミスが発生する場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、半導体ダイのピックアップ装置において、半導体ダイのピックアップミスを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の初期剥離発生方法は、ウェーハシートの上面に貼り付けられた半導体ダイをピックアップする前に半導体ダイとウェーハシートとの間に初期剥離を発生させる初期剥離発生方法であって、上面に半導体ダイが貼り付けられたウェーハシートを保持するウェーハホルダと、ウェーハシートの下面を吸着する吸着面を備え、筒型で吸着面と側面とが曲面で接続されているステージと、を含み、ウェーハシートの上面に貼り付けられた半導体ダイをピックアップするピックアップ装置を準備する準備工程と、ステージを上昇させてウェーハシートの下面を押上げ、ステージの吸着面がウェーハシートの下面を擦るようにステージをウェーハシートに対して相対的に横方向に移動させて半導体ダイとウェーハシートとの間に初期剥離を発生させる初期剥離発生工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
半導体ダイをピックアップする前に、初期剥離発生工程でピックアップしようとする半導体ダイのエッジ部に初期剥離を発生させて半導体ダイとウェーハシートとの粘着力を低減するので、半導体ダイのピックアップミスを低減することができる。
【0009】
本発明の初期剥離発生方法において、初期剥離発生工程は、ステージをウェーハシートに対して連続的に移動させてもよいし、ウェーハシートの下面を3mm~5mm押上げてもよい。
【0010】
これにより、半導体ダイのエッジ部に効果的に初期剥離を発生させ、半導体ダイとウェーハシートとの粘着力を低減することができ、半導体ダイのピックアップミスを低減することができる。
【0011】
本発明の初期剥離発生方法において、初期剥離発生工程は、半導体ダイの貼り付けられているウェーハシートの上面の領域に対応するウェーハシートの下面の領域の一部又は全部を吸着面が擦るようにステージをウェーハシートに対して相対的に横方向に移動させてもよい。
【0012】
これにより、ピックアップしようとしている半導体ダイとウェーハシートとに初期剥離を発生させて、粘着力を低減できる。
【0013】
本発明の初期剥離発生方法において、初期剥離発生工程は、ステージを第1横方向に沿って往復移動させる往復工程と、ステージを第1横方向に直交する第2横方向に移動させて往復移動経路を変更する往復経路変更工程と、を交互に繰り返して実行してもよい。
【0014】
ステージをウェーハシートに対して相対的に横方向に移動させると、ピックアップしようとする半導体ダイが貼り付けられたウェーハシートの部分がステージの吸着面の上に乗り上げる時と、ステージの吸着面の上から離れる時に半導体ダイのエッジ部とウェーハシートとの間に初期剥離が発生する。ステージをウェーハシートに対して往復移動させることにより、半導体ダイとウェーハシートとの間に初期剥離を複数回発生させて半導体ダイとウェーハシートとの間の粘着力を低減させて半導体ダイのピックアップミスを低減することができる。
【0015】
本発明の初期剥離発生方法において、ウェーハシートは、円形であり、第1横方向は、ウェーハシートの円周方向であり、第2横方向は、ウェーハシートの半径方向でもよい。
【0016】
ウェーハシートが円形の場合、ステージをウェーハシートに対して相対的に円周方向に移動させることで第2横方向への移動回数を低減でき、簡便な方法で半導体ダイとウェーハシートとの間に初期剥離を発生させ、半導体ダイとウェーハシートとの間の粘着力を低減することができる。
【0017】
本発明の初期剥離発生方法において、ウェーハシートは、円形であり、初期剥離発生工程は、ステージをウェーハシートの外周から中心に向かって又は中心から外周に向かって渦巻状に横移動させた後、ウェーハシートの中心から外周に向かって又は外周から中心に向かって渦巻状に横移動させてもよい。
【0018】
ウェーハシートが円形の場合、ステージをウェーハシートに対して渦巻状に往復移動させることにより、簡便な動作で効果的に半導体ダイとウェーハシートとの間に初期剥離を発生させ、半導体ダイとウェーハシートとの間の粘着力を低減することができる。
【0019】
本発明の半導体ダイのピックアップ装置は、上面に半導体ダイが貼り付けられたウェーハシートを保持するウェーハホルダと、ウェーハホルダを横方向に駆動するウェーハホルダ駆動部と、ウェーハシートの下面を吸着する吸着面を含み、筒型で吸着面と側面とが曲面で接続されているステージと、ステージを上下方向に駆動するステージ駆動部と、ウェーハホルダ駆動部と、ステージ駆動部との動作を調整する制御部と、を備え、ウェーハシートの上面に貼り付けられた半導体ダイをピックアップする半導体ダイのピックアップ装置であって、制御部は、ステージ駆動部によってステージを上昇させてウェーハシートの下面を押上げ、ウェーハホルダ駆動部によってステージの吸着面がウェーハシートの下面を擦るようにステージをウェーハシートに対して相対的に横方向に移動させること、を特徴とする。
【0020】
このように、ステージを上昇させてウェーハシートの下面を押上げた状態でウェーハシートの下面を擦るようにステージをウェーハシートに対して相対的に横方向に移動させることにより、ピックアップしようとする半導体ダイのエッジ部に初期剥離を発生させ、半導体ダイとウェーハシートとの間の粘着力を低減する。そして、粘着力を低減させた後、半導体ダイをピックアップするので、半導体ダイのピックアップミスを低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、半導体ダイのピックアップ装置において、半導体ダイのピックアップミスを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態の半導体ダイのピックアップ装置の構成を示す系統図である。
【
図2】
図1に示す半導体ダイのピックアップ装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】
図1に示す半導体ダイのピックアップ装置の初期剥離発生工程を示す説明図であって、ステージでウェーハシートの下面を第1高さH1だけ押し上げた状態を示す断面図である。
【
図4】
図1に示す半導体ダイのピックアップ装置の初期剥離発生工程を示す説明図であって、ステージのウェーハシートに対する相対移動の経路を示す平面図である。
【
図5】
図3に示すA部での半導体ダイのウェーハシートからの剥離状態の第1パターンを示す拡大断面図である。
【
図6】
図3に示すA部での半導体ダイのウェーハシートからの剥離状態の第2パターンを示す拡大断面図である。
【
図7】
図1に示す半導体ダイのピックアップ装置において、コレットで半導体ダイをピックアップする状態を示す断面図である。
【
図8】
図1に示す半導体ダイのピックアップ装置の初期剥離発生工程を示す説明図であって、ステージのウェーハシートに対する相対移動の他の経路を示す平面図である。
【
図9】
図1に示す半導体ダイのピックアップ装置の初期剥離発生工程を示す説明図であって、ステージのウェーハシートに対する相対移動の他の経路を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら実施形態の半導体ダイ15のピックアップ装置100について説明する。以下の説明では、水平面で互いに直交する方向をそれぞれX方向、Y方向、上下方向をZ方向として説明する。
【0024】
図1に示すように、実施形態の半導体ダイ15のピックアップ装置100(以下、ピックアップ装置100という)は、ウェーハホルダ10と、ステージ20と、コレット18と、ウェーハホルダ駆動部61と、ステージ駆動部62と、コレット駆動部63と、真空弁64、65と、真空装置68と、制御部70と、を備えている。
【0025】
ウェーハホルダ10は、フランジ部を持つ円環状のエキスパンドリング16とリング押さえ17とを備えており、ウェーハ11を切断した半導体ダイ15が上面12aに貼り付けられたウェーハシート12を保持する。ウェーハホルダ10は、ウェーハホルダ駆動部61により横方向であるXY方向に移動する。
【0026】
ここで、半導体ダイ15が上面12aに貼り付けられたウェーハシート12は、次のように、ウェーハホルダ10に保持される。ウェーハ11は裏面にウェーハシート12が貼り付けられており、ウェーハシート12の外周部には金属製のリング13が取付けられている。ウェーハ11は切断工程で表面側からダイシングソーなどによって切断されて各半導体ダイ15となり、各半導体ダイ15の間にはダイシングの際に隙間14ができる。ウェーハ11を切断してもウェーハシート12は切断されておらず、各半導体ダイ15はウェーハシート12によって保持されている。
【0027】
半導体ダイ15が上面12aに貼り付けられたウェーハシート12の下面12bをエキスパンドリング16の保持面16aの上に接するように載置し、リング13の位置がエキスパンドリング16のフランジ16bの上になるように調整する。そして、
図1中の矢印80に示すように上からリング押さえ17でリング13をエキスパンドリング16のフランジ16bの上に押し付けてフランジ16bの上に固定する。これにより、半導体ダイ15が上面12aに貼り付けられたウェーハシート12がウェーハホルダ10に保持される。この際、ウェーハシート12の下面12bはエキスパンドリング16の保持面16aの外周端に固定される。
【0028】
ステージ20は、ウェーハホルダ10の下面に配置されている。ステージ20は、円筒形状の円筒部21と、円筒部21の上側の蓋である上端板22とで構成されている。上端板22の表面は、ウェーハシート12の下面12bを吸着する吸着面22aである。吸着面22aは平面であり円筒部21の側面とは曲面状の角部25で接続されている。上端板22の中央には移動要素30が出入りする開口23が設けられており、開口23の周囲にはウェーハシート12の下面12bを吸着する吸着孔24が設けられている。円筒部21の内部には移動要素30と、移動要素30を駆動する移動要素駆動部29とが設けられている。移動要素30は、ステージ20の中心に配置される第1突き上げピン31と、第1突き上げピン31の外周に配置される円筒状の第2突き上げピン32とで構成される。移動要素駆動部29は、内部に駆動モータ、ギヤ、リンク機構等を含み、第1突き上げピン31と第2突き上げピン32とを開口23を通して吸着面22aより突出するように上下方向に駆動する。ステージ20は、ステージ駆動部62によって全体が上下方向に移動する。また、ステージ20の内部は、真空弁64を介して真空装置68に接続されている。
【0029】
コレット18は、ウェーハシート12の上側に配置されて下面12bに半導体ダイ15を吸着保持すると共に半導体ダイ15をウェーハシート12の上面12aからピックアップする。コレット18は、半導体ダイ15を下面12bに真空吸着するための吸引孔19が設けられている。吸引孔19は、真空弁65を介して真空装置68に接続されている。コレット18は、コレット駆動部63により、上下左右方向に移動する。
【0030】
ウェーハホルダ駆動部61と、ステージ駆動部62と、コレット駆動部63と、真空弁64、65と、真空装置68と、移動要素駆動部29とは、制御部70に接続されており、制御部70の指令によって動作する。制御部70は、内部に情報処理を行うプロセッサであるCPU71と、プログラム等を格納するメモリ72とを含むコンピュータである。
【0031】
次に
図2から
図7を参照しながらピックアップ装置100によって半導体ダイ15をピックアップする動作について説明する。
【0032】
図2のステップS101に示す様に、制御部70のCPU71は、初期剥離発生工程を開始する。CPU71は、ステージ駆動部62を駆動してステージ20の吸着面22aをウェーハシート12の下面12bに押し付ける。そして、
図3に示す様に、ウェーハシート12の下面12bを初期高さよりも第1高さH1だけ押し上げる。この際、ウェーハシート12の上に貼り付けられている半導体ダイ15の間の隙間14の幅は、幅W1である。
【0033】
ここで、第1高さH1は、後で説明するように、ステージ20の吸着面22aがウェーハシート12の下面12bを擦るように相対的に横方向に移動させることによって半導体ダイ15とウェーハシート12との間に初期剥離75、76(
図5、6参照)を形成させることができる高さであり、例えば、3mm~5mm程度の高さとしてもよい。尚、通常の半導体ダイ15のピックアップ動作の際にもステージ20によってウェーハシート12を押し上げるが、この際の押し上げ高さは、大体1mm程度であるから、初期剥離発生工程の際のウェーハシート12の押上げ高さは、通常の半導体ダイ15のピックアップ動作の際の押上げ量よりも高くなっている。
【0034】
次に、制御部70のCPU71は、
図2のステップS102に示す様に、ウェーハホルダ駆動部61によってウェーハホルダ10を
図3中に示す矢印Bのように横方向であるXY方向に移動させる。これにより、ステージ20は
図3中に矢印Cで示す様にウェーハシート12に対して相対的に横方向であるXY方向に移動する。
【0035】
ステージ20のウェーハシート12に対する横方向への移動の経路は、様々な経路を取りうるが
図4に一例を示す。最初、
図4中の矢印81に示すようにステージ20をウェーハシート12に対して第1横方向であるX方向のプラス側に向かって移動させ、その後、移動方向を反転させて
図4中の矢印82に示す様にステージ20をウェーハシート12に対してX方向のマイナス側に向かって移動させる。次に、
図4中に矢印83で示す様に、ステージ20を第2横方向であるY方向のプラス側に向かって移動させた後、再び、
図4中の矢印84、85に示す様に、ステージ20をX方向に往復移動させる。このように、ステージ20をウェーハシート12に対してX方向に沿って往復移動させる往復工程と、ステージ20をY方向に移動させて往復移動経路を変更する往復経路変更工程と、を交互に繰り返してステージ20をウェーハシート12に対して相対的に横方向に移動させていく。これにより、半導体ダイ15の貼り付けられているウェーハシート12の上面12aの領域に対応するウェーハシート12の下面12bの領域の全部についてステージ20をXY方向に移動させることができる。
【0036】
次に、
図5、6を参照してステージ20をウェーハシート12に対して相対的に横方向に移動させた場合の半導体ダイ15とウェーハシート12の上面12aとの間の剥離の発生について説明する。
【0037】
ステージ20によってウェーハシート12の下面12bを第1高さH1だけ押し上げると、ウェーハシート12の下面12bは、ステージ20の曲面状の角部25に沿って湾曲してエキスパンドリング16に向かって斜め下方向に延びる。このため、
図5の矢印86に示す様にウェーハホルダ10をX方向のマイナス側に向かって移動させると、ステージ20はウェーハシート12に対して
図5中の矢印87のようにX方向のプラス側に移動し、ステージ20の吸着面22aはウェーハシート12の下面12bを擦るように相対的にX方向のプラス側に移動する。
【0038】
図5は、半導体ダイ15のX方向のプラス側のウェーハシート12の上面12aとの間の粘着力がX方向マイナス側の粘着力よりも大きい場合を示す。この場合、半導体ダイ15がステージ20の角部25に差し掛かると、半導体ダイ15のX方向のプラス側の部分は角部25から斜め下方向に向かって延びるウェーハシート12の上面12aに貼り付いたままとなり、粘着力の小さい半導体ダイ15のX方向のマイナス側のエッジ部は
図5中の矢印88に示す様にウェーハシート12の上面12aから剥離し、初期剥離75が形成される。この際、半導体ダイ15のX方向マイナス側に位置する他の半導体ダイ15aとの隙間14の上端部の幅は、当初の隙間14の幅W1よりも広い幅W2となっている。このため、ステージ20をウェーハシート12に対して横方向に移動させた際に、半導体ダイ15が隣接する他の半導体ダイ15aに接触して割れや欠けが発生することがない。
【0039】
図6は、反対に半導体ダイ15のX方向のマイナス側のウェーハシート12の上面12aとの間の粘着力がX方向プラス側の粘着力よりも大きい場合を示す。この場合、半導体ダイ15がステージ20の角部25に差し掛かると、半導体ダイ15のX方向のマイナス側の部分はステージ20の吸着面22aに沿って水平方向に延びるウェーハシート12の上面12aに貼り付いたままとなる。一方、半導体ダイ15がステージ20の角部25に差し掛かると、半導体ダイ15のX方向のプラス側のエッジ部が貼り付いているウェーハシート12の部分は、
図6中の矢印89に示す様に、ステージ20の角部25からエキスパンドリング16に向かうように斜め下方向に曲がる。これにより、半導体ダイ15のX方向のプラス側のエッジ部からウェーハシート12が剥離して、初期剥離76が形成される。この際、半導体ダイ15のX方向マイナス側に位置する他の半導体ダイ15aとの隙間14の上端部の幅は、当初の隙間14の幅W1と同一の幅W1となっている。このため、半導体ダイ15が隣接する他の半導体ダイ15aに接触して割れや欠けが発生することがない。
【0040】
先に
図4を参照して説明したように、ステージ20の吸着面22aがウェーハシート12の下面12bを擦るようにステージ20をウェーハシート12に対して往復移動させると、半導体ダイ15は、往路と復路で一回ずつ初期剥離75又は76が形成される。これにより、半導体ダイ15のエッジ部に初期剥離75又は76が形成されて半導体ダイ15とウェーハシート12との間の粘着力が低減する。また、ステージ20をウェーハシート12に対してXY方向に移動させた際に、
図5、
図6を参照して説明した初期剥離75、76の半導体ダイ15がウェーハシート12の上面12aに再度貼り付く場合がある。しかし、再度貼り付いた箇所の粘着力は、初期の粘着力よりも小さくなっているので、半導体ダイ15とウェーハシート12との粘着力は低減されている。
【0041】
制御部70のCPU71は、
図2のステップS103で、半導体ダイ15の貼り付けられているウェーハシート12の上面12aの領域に対応するウェーハシート12の下面12bの領域の全部についてステージ20をXY方向に移動させたかを判断する。つまり、
図4に示すウェーハシート12の上面12aに貼り付けられた全ての半導体ダイ15の下側のウェーハシート12をステージ20の吸着面22aで擦ったかどうかを判断する。CPU71は、
図2のステップS103でNOと判断した場合には、
図2のステップS102に戻って、ステージ20をウェーハシート12に対して相対的に横方向させることを継続する。一方、CPU71は、
図2のステップS103でYESと判断した場合には、初期剥離発生工程を終了し、
図2のステップS104に進んでピックアップ工程を開始する。
【0042】
制御部70のCPU71は、
図2のステップS104に示す様に、ウェーハホルダ駆動部61によってウェーハホルダ10をXY方向に移動して、ステージ20の吸着面22aをピックアップしようとする半導体ダイ15の下に移動させる。
【0043】
次に、制御部70のCPU71は、
図2のステップS105に示す様に、ステージ駆動部62によってステージ20を上昇させて、ウェーハシート12の下面12bを第2高さH2だけ押し上げる(
図7参照)。第2高さH2は、先に説明した通常の半導体ダイ15のピックアップ動作の際の押上げ高さと同様の高さで、例えば、1mm程度であり、先に説明した第1高さH1よりも小さい。
【0044】
次に制御部70のCPU71は、
図2のステップS106に示すように、真空弁64を開としてステージ20の内部を真空にする。これにより、ステージ20の吸着孔24が真空になり、ステージ20の吸着面22aの上にウェーハシート12の下面12bを密着させる。
【0045】
そして、制御部70のCPU71は、
図2のステップS107、
図7に示すように、移動要素駆動部29によって移動要素30を構成する第1突き上げピン31と第2突き上げピン32とを吸着面22aより上昇させて、ウェーハシート12の下からピックアップしようとする半導体ダイ15を突き上げる。また、制御部70は、コレット駆動部63でコレット18の位置をピックアップしようとする半導体ダイ15の直上に移動させ、真空弁65を開としてコレット18の吸引孔19を真空にして、コレット18によって半導体ダイ15をピックアップする。
【0046】
制御部70のCPU71は、
図2のステップS108でピックアップとようとする半導体ダイ15を全てピックアップしたかどうかを判断する。CPU71は、
図2のステップS108でNOと判断した場合には、
図2のステップS104に戻って次の半導体ダイ15のピックアップを行う。
【0047】
一方、
図2のステップS108でYESと判断した場合には、CPU71は、ピックアップ工程を終了して動作を終了する。
【0048】
以上説明したピックアップ装置100は、初期剥離発生工程でピックアップしようとする半導体ダイ15のエッジ部に初期剥離75、76を起こさせて半導体ダイ15とウェーハシート12との間の粘着力を低減した後、ピックアップ工程を実行して半導体ダイ15をピックアップするので、半導体ダイ15のピックアップミスを低減することができる。
【0049】
また、実施形態のピックアップ装置100は、初期剥離発生工程でステージ20をウェーハシート12に対して往復移動させることにより、半導体ダイ15とウェーハシート12との間に初期剥離75、76を複数回発生させてウェーハシート12の粘着力を低下させる。これにより、半導体ダイ15のピックアップミスを低減することができる。
【0050】
以上説明したピックアップ装置100では、初期剥離発生工程において、
図4に示す様にステージ20をウェーハシート12に対してX方向に往復移動させた後、往復移動経路を変更する動作を繰り返してステージ20の吸着面22aがウェーハシート12の下面12bを擦るように横方向に移動させることとして説明したがこれに限らない。
【0051】
例えば、
図8に示す様に、ステージ20を矢印91に示す様に時計回りに円周方向に移動させた後、移動方向を反転させて矢印92に示す様に半時計周りに円周方向に移動させて円周方向に沿って往復移動さる。その後、
図8中の矢印93に示す様にステージ20を半径方向に移動させて往復移動経路を半径方向内側に変更したのち、
図8中の矢印94、95のようにステージ20を円周方向に往復移動させることを交互に繰り返して実行してもよい。
【0052】
これにより、円周方向と直交する半径方向への移動回数を低減でき、半導体ダイ15とウェーハシート12との間に初期剥離75、76を発生させることができる。
【0053】
また、
図9の矢印97に示す様に、ステージ20をウェーハシート12の外周から中心に向かって渦巻状に横移動させた後、移動方向を反転させてウェーハシート12の中心から外周に向かって渦巻状に横移動させてもよい。或いは、これと反対に、ステージ20をウェーハシート12の中心から外周に向かって渦巻状に横移動させた後、移動方向を反転させてウェーハシート12の外周から中心に向かって渦巻状に横移動させてもよい。
【0054】
これにより、簡便な動作で効果的に半導体ダイ15とウェーハシート12との間に初期剥離75、76を発生させることができる。
【0055】
また、以上説明したピックアップ装置100では、半導体ダイ15の貼り付けられているウェーハシート12の上面12aの領域に対応するウェーハシート12の下面12bの領域の全部についてステージ20をXY方向に移動させた後、半導体ダイ15のピックアップを行うこととして説明したが、これに限らない。例えば、ウェーハシート12の上面12aに貼り付けられている半導体ダイ15の一部をピックアップする場合には、ピックアップしようとする半導体ダイ15が貼り付けられている部分のウェーハシート12の下面12bの部分でステージ20をXY方向に移動させた後、半導体ダイ15をピックアップしてもよい。
【0056】
以上、実施形態のピックアップ装置100について説明したが、
図2~7を参照して説明したピックアップ装置100の動作は、以下のような半導体ダイ15とウェーハシート12との間の初期剥離発生方法を実行したものでもある。
【0057】
実施形態のピックアップ装置100により実行される初期剥離発生方法は、ウェーハシート12の上面12aに貼り付けられた半導体ダイ15をピックアップする前に半導体ダイ15とウェーハシート12との間に初期剥離を発生させる初期剥離発生方法であって、ステージ20を上昇させてウェーハシート12の下面12bを押上げ、ステージ20の吸着面22aがウェーハシート12の下面12bを擦るようにステージ20をウェーハシート12に対して相対的に横方向に移動させて半導体ダイ15とウェーハシート12との間に初期剥離を発生させる。
【0058】
これにより、半導体ダイ15をピックアップする前に、半導体ダイ15とウェーハシート12との間の粘着力を低減することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 ウェーハホルダ、11 ウェーハ、12 ウェーハシート、12a 上面、12b 下面、13 リング、14 隙間、15 半導体ダイ、16 エキスパンドリング、16a 保持面、16b フランジ、18 コレット、19 吸引孔、20 ステージ、20a 吸着面、21 円筒部、22 上端板、22a 吸着面、23 開口、24 吸着孔、25 角部、29 移動要素駆動部、30 移動要素、31 第1突き上げピン、32 第2突き上げピン、61 ウェーハホルダ駆動部、62 ステージ駆動部、63 コレット駆動部、64、65 真空弁、70 制御部、71 CPU、72 メモリ、75、76 初期剥離、100 ピックアップ装置。