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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 1/00 20060101AFI20240826BHJP
   H02J 3/36 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
H02J1/00 301C
H02J3/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021018901
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022121914
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐己
(72)【発明者】
【氏名】狼 智久
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-191927(JP,A)
【文献】特開平4-71326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの交流系統の間に設けられた2つの直流系統と、前記2つの直流系統のうちの一方の直流系統と前記2つの交流系統のうちの一方の交流系統との間に設けられた第1変換器と、前記2つの直流系統のうちの他方の直流系統と前記一方の交流系統との間に設けられた第2変換器と、を有する双極構成の直流送電システムに用いられ、前記一方の直流系統と前記一方の交流系統との間の双方向の電力の変換を行う前記第1変換器および前記他方の直流系統と前記一方の交流系統との間の双方向の電力の変換を行う前記第2変換器が出力する合計の直流電力を、あらかじめ設定された電力設定値に追従するように制御する制御装置において、
前記第1変換器のための第1電力設定値および前記第2変換器のための第2電力設定値を前記電力設定値にもとづいて生成する双極共通制御回路と、
前記第1変換器が出力する第1直流電力を前記第1電力設定値に追従するように前記第1変換器を制御するとともに、第1電圧検出器によって検出された前記一方の直流系統の線間直流電圧に、第1電流検出器によって検出された前記一方の直流系統の電流値を乗じることにより、前記第1直流電力の測定値を計算し、前記第1直流電力の測定値を前記双極共通制御回路に送信する第1極制御回路と、
前記第2変換器が出力する第2直流電力を前記第2電力設定値に追従するように前記第2変換器を制御するとともに、第2電圧検出器によって検出された前記他方の直流系統の線間直流電圧に、第2電流検出器によって検出された前記他方の直流系統の電流値を乗じることにより、前記第2直流電力の測定値を計算し、前記第2直流電力の測定値を前記双極共通制御回路に送信する第2極制御回路と、
を備え、
前記双極共通制御回路は、
前記第1電力設定値および前記第2電力設定値の和が前記電力設定値となるように前記第1電力設定値および前記第2電力設定値を算出し、
前記第1電力設定値の値変更し、前記第1電力設定値を増大、低下、または潮流方向を反転させる第1時刻において、前記電力設定値から前記第1直流電力の測定値を減算した値を新たな前記第2電力設定値として演算することにより、前記第1直流電力および前記第2直流電力の和が前記電力設定値と等しくなるように、新たな前記第2電力設定値を算出し、
算出した新たな前記第2電力設定値を前記第2極制御回路に送信することにより、前記第2直流電力を新たな前記第2電力設定値に追従させるように前記第2極制御回路に前記第2変換器を制御させる制御装置。
【請求項2】
前記双極共通制御回路は、前記第1時刻において、前記第1電力設定値および前記第2電力設定値が同一の方向に増大または低下する場合には、前記新たな第2電力設定値を計算せず、前記第2電力設定値をそのまま出力する請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
2つの交流系統の間に設けられた2つの直流系統と、前記2つの直流系統のうちの一方の直流系統と前記2つの交流系統のうちの一方の交流系統との間に設けられた第1変換器と、前記2つの直流系統のうちの他方の直流系統と前記一方の交流系統との間に設けられた第2変換器と、を有する双極構成の直流送電システムに用いられ、前記一方の直流系統と前記一方の交流系統との間の双方向の電力の変換を行う前記第1変換器および前記他方の直流系統と前記一方の交流系統との間の双方向の電力の変換を行う前記第2変換器が出力する合計の直流電流を、あらかじめ設定された直流電流設定値に追従するように制御する制御装置において、
前記第1変換器のための第1直流電流設定値および前記第2変換器のための第2直流電流設定値を前記直流電流設定値にもとづいて生成する双極共通制御回路と、
前記第1変換器が出力する第1直流電流を前記第1直流電流設定値に追従するように前記第1変換器を制御するとともに、第1電流検出器によって検出された前記第1直流電流の測定値を前記双極共通制御回路に送信する第1極制御回路と、
前記第2変換器が出力する第2直流電流を前記第2直流電流設定値に追従するように前記第2変換器を制御するとともに、第2電流検出器によって検出された前記第2直流電流の測定値を前記双極共通制御回路に送信する第2極制御回路と、
を備え、
前記双極共通制御回路は、
前記第1直流電流設定値および前記第2直流電流設定値の和が前記直流電流設定値となるように前記第1直流電流設定値および前記第2直流電流設定値を算出し、
前記第1直流電流設定値の値変更し、前記第1直流電流設定値を増大、低下、または潮流方向を反転させる第1時刻において、前記直流電流設定値から前記第1直流電流の測定値を減算した値を新たな前記第2直流電流設定値として演算することにより、前記第1直流電流および前記第2直流電流の和が前記直流電流設定値と等しくなるように、新たな前記第2直流電流設定値を算出し、
算出した新たな前記第2直流電流設定値を前記第2極制御回路に送信することにより、前記第2直流電流を新たな前記第2直流電流設定値に追従させるように前記第2極制御回路に前記第2変換器を制御させる制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換器の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力を効率よく送電したり、周波数の異なる交流系統を相互に接続したりするのに、直流送電システムが注目されている。高い可用性で運用できる直流送電の方式として、双極直流送電システムが知られている。
【0003】
双極直流送電システムでは、送電端や受電端において、2つの極のいずれかを選択して運転することによって、定期、不定期の点検や故障時の修理等等においても、システムを停止することなく、運転を継続することができる。
【0004】
また、2つの極を同時に運転することによって、大電力の送電、受電が可能になるとともに、2つの極の潮流方向を適切に選択することによって、広い範囲の電力を送電し、受電することが可能になる。
【0005】
一方、1つの極の起動や停止、潮流方向の反転時に、過渡的に送電・受電電力が変動することが知られている。一方の極の起動、停止、潮流反転時の電力変動を低減するために、過渡変動抑制手段が採用される場合があるが、災害対応やローカル電源の多様化等にともなって高度化する電力網に対応するため、変動をより抑制したいとの要請が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-112322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実施形態は、一方の極の起動、停止、潮流反転時の電力変動を抑制した制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る制御装置は、2つの交流系統の間に設けられた2つの直流系統と、前記2つの直流系統のうちの一方の直流系統と前記2つの交流系統のうちの一方の交流系統との間に設けられた第1変換器と、前記2つの直流系統のうちの他方の直流系統と前記一方の交流系統との間に設けられた第2変換器と、を有する双極構成の直流送電システムに用いられ、前記一方の直流系統と前記一方の交流系統との間の双方向の電力の変換を行う前記第1変換器および前記他方の直流系統と前記一方の交流系統との間の双方向の電力の変換を行う前記第2変換器が出力する合計の直流電力を、あらかじめ設定された電力設定値に追従するように制御する。この制御装置は、前記第1変換器のための第1電力設定値および前記第2変換器のための第2電力設定値を前記電力設定値にもとづいて生成する双極共通制御回路と、前記第1変換器が出力する第1直流電力を前記第1電力設定値に追従するように前記第1変換器を制御するとともに、第1電圧検出器によって検出された前記一方の直流系統の線間直流電圧に、第1電流検出器によって検出された前記一方の直流系統の電流値を乗じることにより、前記第1直流電力の測定値を計算し、前記第1直流電力の測定値を前記双極共通制御回路に送信する第1極制御回路と、前記第2変換器が出力する第2直流電力を前記第2電力設定値に追従するように前記第2変換器を制御するとともに、第2電圧検出器によって検出された前記他方の直流系統の線間直流電圧に、第2電流検出器によって検出された前記他方の直流系統の電流値を乗じることにより、前記第2直流電力の測定値を計算し、前記第2直流電力の測定値を前記双極共通制御回路に送信する第2極制御回路と、を備える。前記双極共通制御回路は、前記第1電力設定値および前記第2電力設定値の和が前記電力設定値となるように前記第1電力設定値および前記第2電力設定値を算出し、前記第1電力設定値の値変更し、前記第1電力設定値を増大、低下、または潮流方向を反転させる第1時刻において、前記電力設定値から前記第1直流電力の測定値を減算した値を新たな前記第2電力設定値として演算することにより、前記第1直流電力および前記第2直流電力の和が前記電力設定値と等しくなるように、新たな前記第2電力設定値を算出し、算出した新たな前記第2電力設定値を前記第2極制御回路に送信することにより、前記第2直流電力を新たな前記第2電力設定値に追従させるように前記第2極制御回路に前記第2変換器を制御させる
【発明の効果】
【0009】
本実施形態では、一方の極の起動、停止、潮流反転時の電力変動を抑制した制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る双極共通制御装置を例示する模式的なブロック図である。
図2】直流送電システムを例示する模式的なブロック図である。
図3図3(a)および図3(b)は、比較例の双極共通制御装置を例示する模式的なブロック図である。
図4】比較例の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図5】実施形態の双極共通制御装置を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図6】比較例の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図7】実施形態の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図8】比較例の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図9】実施形態の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図10】実施形態の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係る双極共通制御装置を例示する模式的なブロック図である。
図1に示したように、双極共通制御装置(制御装置)10は、スムージング制御回路12を備える。スムージング制御回路12は、好ましくは、スムージング制御禁止回路14を含む。
【0013】
双極共通制御装置10は、極制御装置31,32に接続されている。双極共通制御装置10は、図示しない上位制御装置に接続されている。双極共通制御装置10は、上位制御装置から電力設定値Pdpを受信する。双極共通制御装置10は、極性制御装置31,32から、1極が送電または受電(以下、送電等という)している直流電力Pd1のデータおよび2極が送電等している直流電力Pd2のデータをそれぞれ受信する。双極共通制御装置10は、受信した電力設定値Pdpおよび変換器21,22の出力容量や現在の運転状況等に応じて、1極の電力設定値Pdp1および2極の電力設定値Pdp2を生成する。
【0014】
なお、以下説明する例では、電力設定値Pdpは、上位制御装置から供給されるものとするが、これに限るものではない。たとえば、直流送電システムの一方の端子のための双極共通制御装置がマスターとなり、他方の端子のための双極共通制御装置がスレーブとなる場合には、マスター制御装置が電力設定値を生成し、スレーブ制御装置に送信する等してもよい。
【0015】
双極共通制御装置10は、電力設定値Pdp1,Ppd2および直流電力Pd1,Pd2をスムージング制御回路12に入力する。スムージング制御回路12は、電力設定値Pdp1,Pdp2および直流電力Pd1,Pd2のデータにもとづいて、新たな電力設定値Pdp1’,Pdp2’を生成する。
【0016】
スムージング制御回路12が新たな電力設定値を生成する場合は、一方の極の電力設定値が変化したときに、その極の変換器が実際に出力する直流電力は他の要因によって変化するときである。具体的には、一方の極の電力設定値を低下、増大または潮流方向を反転する設定とする場合に、双極共通制御装置10は、他方の極の電力設定値を新たな電力設定値として生成し、出力する。なお、いうまでもないが、電力設定値の低下には、変換器を停止させる設定を含み、電力設定値の増大には、変換器を起動させる設定を含む。
【0017】
双極共通制御装置10は、上位制御装置が送信する電力設定値Pdpに変化がある場合に、新たな電力設定値Pdp1’,Pdp2’を生成し、電力設定値Pdpに変化がない場合であっても、双極共通制御装置10自身の判断で電力設定値Pdp1’,Pdp2’を生成することができる。
【0018】
なお、上位制御装置が送信する電力設定値Pdpは、一定の値を有する指令値であり、上位制御装置は、電力設定値Pdpの変更が必要と判断したときに、電力設定値Pdpを双極共通制御装置10に送信する。双極共通制御装置10が生成する電力設定値Pdp1,Pdp2および新たな電力設定値Pdp1’,Pdp2’は、時間に応じて変化し得る時間の関数データとして生成される。また、送電等されている直流電力Pd1,Pd2も時間の関数データである。なお、後述する比較例の場合の双極共通制御装置210が生成する電力設定値Pdp1’’,Pdp2’’も時間の関数データとして生成される。
【0019】
より具体的には後述するが、スムージング制御回路12は、電力設定値を増大、低下または潮流方向反転する極とは異なる極の電力設定値を、変換器21,22が出力している直流電力Pd(=Pd1+Pd2)が電力設定値Pdpとなるように設定する。電力設定値を増大、低下または潮流方向反転する極の変換器の電力設定値の増大時、低下時または潮流方向反転時の実際の動作波形に応じて、他方の極の動作状態を決定する。そのため、電力設定値の増大、低下または潮流方向反転の動作の違いによらず、同じ計算をすることによって、必要な新たな電力設定値を生成することができる。
【0020】
双極共通制御装置10は、生成した新たな電力設定値Pdp1’,Pdp2’を極制御装置31,32にそれぞれ送信する。
【0021】
極制御装置31は、1極の変換器21に接続されており、変換器21を制御する。この例では、極制御装置31は、電圧検出器51a,51bおよび電流検出器61に接続されている。電圧検出器51aは、1極側の母線3Fの直流電圧を検出するように設けられている。電圧検出器51bは、1極の帰線3Rの直流電圧を検出するように設けられている。電流検出器61は、1極の電流を検出する。極制御装置31は、電圧検出器51a,51bの検出結果にもとづいて、母線3F-帰線3R間の線間直流電圧Vd1を入力し、Vd1に電流検出器61によって検出された電流値Id1を乗じて、直流電力Pd1を計算する。極制御装置31は、計算された直流電力Pd1のデータを双極共通制御装置10に送信する。
【0022】
極制御装置32は、2極の変換器22に接続されており、変換器22を制御する。この例では1極の場合と同様に、極制御装置32は、電圧検出器52a,52bおよび電流検出器62に接続されている。電圧検出器52aは、2極の母線4Fの直流電圧を検出するように設けられている。電圧検出器52bは、2極側の帰線4Rの直流電圧を検出するように設けられている。電流検出器62は、2極の電流を検出する。極制御装置32は、電圧検出器52a,52bの検出結果にもとづいて、母線4F-帰線4R間の線間直流電圧Vd2を入力し、Vd2に電流検出器62によって検出された電流値Id2を乗じて、直流電力Pd2を計算する。極制御装置32は、計算された直流電力Pd2のデータを双極共通制御装置10に送信する。
【0023】
極制御装置(第1制御回路)31,32は、双極共通制御装置10から送信された新たな電力設定値Pdp1’,Pdp2’にもとづいて、変換器21,22を制御するためのゲート信号等を生成し、変換器21,22にそれぞれ供給する。
【0024】
変換器21,22は、供給された新たな電力設定値Pdp1’,Pdp2’にしたがって運転される。具体的には、変換器21,22は、出力する直流電力Pd1,Pd2を新たな電力設定値Ppdp1’,Pdp2’に追従するように運転される。
【0025】
1極の変換器21は、母線3Fおよび帰線3Rを介して、変換器41に接続されている。2極の変換器22は、母線4Fおよび帰線4Rを介して、変換器42に接続されている。図示しないが、変換器41,42も極制御装置および双極共通制御装置に接続されており、これらによって制御される。
【0026】
変換器21,22は、双極共通制御装置10および極制御装置31,32によって制御されて、交流電力を直流電力に変換して、変換器41,42に送電する。また、変換器21,22は、双極共通制御装置10および極制御装置31,32によって制御されて、変換器41,42から送電されてくる直流電力を受電して、交流電力に変換する。
【0027】
この例では、変換器21,22,41,42は、図1のようにサイリスタによる他励式の変換回路を採用しているが、サイリスタバルブに限らず、自励式の変換回路を採用した変換器としてもよい。
【0028】
スムージング制御禁止回路14は、電力設定値Pdp1,Pdp2が同じ方向に変化する場合に、スムージング制御を行わないようにするために設けられている。電力設定値Pdp1,Pdp2が同じ方向に変化する場合とは、変換器21,22の両方が運転している場合であって、変換器21,22が出力する直流電力を両方とも増加されるとき、または、両方とも減少させるときをいう。
【0029】
図2は、直流送電システムを例示する模式的なブロック図である。
図2には、図1に示した構成を含む直流送電システム100の全体の構成が示されている。
図2に示すように、直流送電システム100は、交流系統1,2と直流系統3,4とを含む。直流系統3は、母線3Fと帰線3Rとを含む。直流系統4は、母線4Fと帰線4Rとを含む。直流系統3,4は、帰線3R,4Rを共通にして並列に接続されている。
【0030】
直流系統3,4は、たとえば直流送電線等を含むことができる。この例では、母線3F,4Fおよび帰線4F,4Rは、直流送電線である。交流系統1,2は、たとえば交流の電力系統であり、発電機や交流送電線、各種交流負荷等を含むことができる。直流送電システム100は、交流電力を直流電力に変換して、変換した直流電力を直流系統3,4を介して、送電し、再度交流電力に変換して交流系統に連系する。
【0031】
変換器21は、交流系統1と直流系統3との間に設けられている。変換器22は、交流系統1と直流系統4との間に設けられている。変換器41は、直流系統3と交流系統2との間に設けられている。変換器42は、直流系統4と交流系統2との間に設けられている。なお、変換器21は、変圧器5を介して、交流系統1に連系されており、変換器22は、変圧器6を介して、交流系統1に連系されている。また、変換器41は、変圧器7を介して、交流系統2に連系されており、変換器42は、変圧器8を介して、交流系統2に連系されている。
【0032】
変換器21,22は、両方とも運転し、交流系統1の交流電力を直流に変換して、変換器41,42に送電することができる。また、変換器21,22は、両方とも運転し、変換器41,42から送電された直流電力を交流電力に変換して、交流系統に連系することができる。
【0033】
変換器21,22の両方が運転する場合には、変換器21,22の潮流方向を同じにして、変換器41,42に送電することができる。この場合には、変換器21,22が送電する電力は、それぞれの変換器21,22が送電する電力の和となる。
【0034】
変換器21,22の両方が運転する場合には、変換器21,22の潮流方向を逆方向にして、変換器41,42に送電することができる。この場合には、変換器21,22が送電する電力は、それぞれの変換器21,22が送電する電力の差となる。変換器21,22の潮流方向を逆方向とすることによって、変換器21,22を停止することなく送電電力を0にしたり、変換器21,22の最小の出力電力よりも小さい送電電力とすることができる。
【0035】
変換器21,22は、いずれか一方が運転し、他方が停止して、運転している一方が交流系統1の交流電力を直流電力に変換して、変換器41,42に送電することができる。また、運転している一方が、変換器41,42からの送電電力を受電することができる。個のようにして、双極直流送電システムでは、システムを稼働させた状態で、一方の変換器を停止させ、点検や修理等を行うことができる。
【0036】
以下では、変換器21,22が送電端または受電端になる場合について説明する。変換器21が送電端となる場合には、変換器41、42は受電端となり、変換器21が受電端となる場合には、変換器41,42は送電端となる。同様に、変換器22が送電端となる場合には、変換器41,42は受電端となり、変換器22が受電端となる場合には、変換器41,42は送電端となる。以下では、変換器21,22の運転等する場合について説明することとし、変換器41,42は、変換器21,22の運転等の状況に応じた動作をするものして、変換器41,42の詳細な動作説明を省略する。変換器21,22が設けられた側を変換器41,42が設けられた側に対して、送電端または受電端であることを送電端等ということがある。また、変換器21,22の送電電力または受電電力を送電電力等ということがある。
【0037】
本実施形態では、変換器21,22の運転状態は、以下の3つの場合を取り得る。運転状態とは、変換器21,22のいずれかの電力設定値が増大、低下または潮流方向を反転するタイミングに応じて、双極共通制御装置10が新たな電力設定値Ppdp1’または電力設定値Pdp2’を生成する場合をいう。新たに生成する電力設定値は、上述したように、電力設定値の増大、低下または潮流方向を反転させる極とは異なる他方の極に対応して生成される。
【0038】
第1の場合は、一方の変換器が運転中に他方の変換器の電力設定値を増大させて、送電端等の送電電力等を大きくする場合である。他方の変換器の電力設定値を増大させる場合とは、たとえば他方の変換器を起動する場合である。
【0039】
第2の場合は、両方の変換器が運転中に一方の変換器の電力設定値を低下させて、送電端等の送電電力等を小さくする場合である。一方の変換器の電力設定値を低下させる場合とは、たとえば一方の変換器を停止させる場合である。
【0040】
第3の状態は、両方の変換器が運転中に一方の変換器の潮流方向を反転して、送電端等の送電電力等を小さくする場合である。
【0041】
なお、第2、第3の場合では、いずれも送電電力等を小さくする場合に対応するが、第2の場合では、変換器の最小出力電力まで、送電電力等を小さくすることができる。第3の場合では、変換器の最小出力電力よりも小さい送電電力等とすることができる。
【0042】
本実施形態の双極共通制御装置10の動作について説明する。
本実施形態の双極共通制御装置10の動作の理解をより容易にするために、以下では、比較例の双極共通制御装置の動作を合わせて説明する。
まず、比較例の双極共通制御装置の構成について説明する。
図3(a)および図3(b)は、比較例の双極共通制御装置を例示する模式的なブロック図である。
比較例の双極共通制御装置210は、図1に示した実施形態の双極共通制御装置10に置き換えて用いられる。ただし、比較例の双極共通制御装置210では、実際に出力される直流電力Pd1,Pd2を用いずに、上位制御装置からの電力設定値Pdpにもとづいて生成した電力設定値Pdp1,Pdp2のみを用いて、スムージング制御を行う。
【0043】
図3(a)に示すように、比較例の双極共通制御装置210は、他極判定部211とスムージング制御回路212とを含む。双極共通制御装置210は、図示しない上位制御装置に接続されており、上位制御装置から電力設定値Pdpを受信する。双極共通制御装置210は、実施形態の双極共通制御装置10の場合と同様に、電力設定値Pdpおよび変換器21,22が出力することができる直流電力等にもとづいて、電力設定値Pdp1,Pdp2を生成する。
【0044】
他極判定部211は、電力設定値Pdp1,Pdp2を入力する。他極判定部211は、電力設定値Pdp1,Pdp2のうち、起動、停止または潮流反転する極を判定し、判定した極とは異なる極を他極として電力設定値をスムージング制御回路212に供給する。
【0045】
図3(b)に示すように、スムージング制御回路212は、一次遅れ回路213a~213cと、スイッチ214a~214cとを含む。一次遅れ回路213a~213cは、スムージング制御回路212の入力と出力との間で、並列に接続されている。一次遅れ回路213a~213cは、スイッチ214a~214cによっていずれかが選択されて、入力される電力設定値Pdp1またはPdp2の一次遅れ応答のデータを出力する。新たな電力設定値Pdp1’’,Pdp2’’は、一次遅れ回路213a~213cのいずれかを通過したデータとして生成され、出力される。
【0046】
一次遅れ回路213a(図では、他極起動と表記)は、起動する極の他極の電力設定値Pdp1またはPdp2のデータを入力し、新たな電力設定値Pdp1’’またはPdp2’’を出力する。一次遅れ回路213b(図では、他極停止と表記)は、停止する極の他極の電力設定値Pdp1またはPdp2のデータを入力し、新たな電力設定値Pdp1’’またはPdp2’’を出力する。一次遅れ回路213c(図では、他極潮流反転と表記)は、潮流方向反転する極の他極の電力設定値Pdp1またはPdp2のデータを入力し、新たな電力設定値Pdp1’’またはPdp2’’を出力する。
【0047】
スイッチ214aは、一次遅れ回路213aに直列に接続されている。スイッチ214bは、一次遅れ回路213bに直列に接続されている。スイッチ214cは、一次遅れ回路213cに直列に接続されている。スイッチ214a~214cは、スムージング制御有効信号C1~C3によって開閉を制御される。スイッチ214aは、スムージング制御有効信号C1がアクティブのときに回路を閉じ、非アクティブのときに回路を開く。スイッチ214bは、スムージング制御有効信号C2がアクティブのときに回路を閉じ、非アクティブのときに回路を開く。スイッチ214cは、スムージング制御有効信号C3がアクティブのときに回路を閉じ、非アクティブのときに回路を開く。
【0048】
スムージング制御有効信号C1~C3は、たとえば双極共通制御装置210によって、アクティブ、非アクティブのいずれかが決定される。双極共通制御装置210は、電力設定値Pdp1,Pdp2にもとづいて、アクティブにするスムージング制御有効信号を決定する。
【0049】
たとえば、変換器22が運転中の場合に、変換器21が停止状態から起動するときには、スムージング制御有効信号C1をアクティブにして、スイッチ214aを閉じる。
【0050】
たとえば、両方の変換器21,22が運転中の場合に、運転中の変換器21が停止するときには、スムージング制御有効信号C2をアクティブにして、スイッチ214bを閉じる。
【0051】
たとえば、両方の変換器21,22が運転中の場合に、変換器21の潮流方向を反転するときには、スムージング制御有効信号C3をアクティブにして、スイッチ214cを閉じる。
【0052】
一次遅れ回路213a~213cは、上述の運転状態に応じた時定数が設定されており、一方の変換器に対する電力設定値の急変時に、他方の変換器の電力設定値をゆるやかに変化させることによって、送電端等の送電電力等の変動を抑制するようにしている。
【0053】
動作波形図を用いて、比較例の場合と実施形態の場合について対比しつつ、より具体的に説明する。
図4は、比較例の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図4は、2極側の変換器22が最低の電力設定値Pdpminで運転している場合に、1極側の変換器21を起動し、2つの変換器21,22の電力設定値を、いずれもPdp/2に設定したときの動作波形例を模式的に示している。つまり、図4は、上述した実施形態の場合の第1の状態に対応する運転について示している。
【0054】
図4の最上段のグラフは、2極側の変換器22に対する起動信号の時間変化を示している。
図4の2段目のグラフは、1極側の変換器21に対する起動信号の時間変化を示している。いずれの変換器21,22に対する起動信号もLレベルが非アクティブ、すなわち停止状態を表しており、Hレベルがアクティブ、すなわち運転状態(起動)を表している。
図4の3段目のグラフは、1極側および2極側の変換器21,22に対する電力設定値Pdp1,Pdp2の時間変化を表している。なお、一点鎖線では、変換器21,22の合計の電力設定値を表している。
図4の4段目のグラフは、変換器21,22が出力する直流電圧Vdの時間変化を表している。
図4の5段目のグラフは、変換器21,22が出力する直流電流Idの時間変化を表している。
図4の6段目のグラフは、変換器21,22がそれぞれ出力する直流電力Pd1,Pd2の時間変化を表している。
図4の最下段のグラフは、2つの変換器21,22が出力する合計の直流電力Pdの時間変化を表している。
なお、図示しないが、図3(b)に関連して説明したスムージング制御有効信号C1~C3は、初期的には、非アクティブ、たとえばLレベルとされている。グラフの構成は、後述の図5図10について同様である。
【0055】
図4に示すように、時刻t10において、2極側の変換器22に対する起動信号がアクティブとなる。時刻t11において、起動信号に応じて変換器22が起動し、直流電圧Vdおよび直流電流Idの出力を開始する。なお、時刻t10よりも前の期間では、上位制御装置は、変換器が出力し得る最小の電力設定値Pdpminを双極共通制御装置210に送信している。双極共通制御装置10は、上位制御装置からの指令を解釈して、2極側の変換器22に対して、最小の電力設定値Pdpminで運転するように設定し、1極側の変換器21の停止状態を維持するように設定する。
【0056】
時刻t12において、上位制御装置は、電力設定値をPdpmimからPdpにするように双極共通制御装置10に指令を送信する。ここで、新たに設定された電力設定値Pdpは、Pdpminよりも十分に大きく、1台の変換器の最大出力電力よりも若干小さい。つまり、新たな電力設定値Pdpを扱うために、変換器21,22のいずれか1台を用いてもよいし、2台で分担してもよい。この例では、双極共通制御装置10は、上位制御装置から送信された指令を解釈して、新たな電力設定値Pdpを1/2ずつ変換器21,22で分担するように設定する。
【0057】
双極共通制御装置10は、2極の変換器22に対する電力設定値を時刻t12から時刻t13にわたって一定の時間増加率で新たな設定値Pdpまで上昇させる。なお、電力設定値の時間増加率は、あらかじめ設定されている。変換器22が出力する直流電流Id2は、電力設定値の上昇に応じて増大する。
【0058】
時刻t13において、1極の変換器21に対する起動信号がアクティブとなる。このときに、双極共通制御装置10は、2台の変換器21,22に対する電力設定値をPdp/2にそれぞれ設定し、他極判定部211に入力する。他極判定部211では、起動する極が1極であると判定し、他極である2極の電力設定値Pdp2をスムージング制御回路212に入力する。
【0059】
変換器21の電力設定値Pdp1は、時刻t13において、ステップ状にPdp/2に設定される。設定された電力設定値Pdp/2は、極制御装置31に送信され、変換器21は、電力設定値Pdp/2に追従するように動作を開始する。
【0060】
変換器21は、停止状態から起動するので、出力する直流電圧Vd1は、ほぼ0から設定された電圧まで次第に上昇する。変換器21が出力する直流電流Id1は、出力する直流電圧に応じて上昇する。
【0061】
また、時刻t13において、双極共通制御装置210は、スムージング制御有効信号C1をアクティブにして、スイッチ214aの回路を閉じる。一次遅れ回路213aは、電力設定値Pdp2を入力し、新たな電力設定値Pdp2’’を出力する。新たな電力設定値Pdp2’’はPdpからPdp/2に漸近する低減特性となり、下に凸の曲線となる。
【0062】
2極側の変換器22に対する電力設定値Pdp2’’は、時刻t14まで一次遅れ応答波形で低減し、双極の電力設定値は、Pdpとなる。この図では、一点鎖線で双極の電力設定値Pdpも合わせて示されている。
【0063】
スムージング制御回路212で生成された新たな電力設定値Pdp2’’は、極制御装置32に送信され、変換器22は、新たな電力設定値Pdp2’’に追従するように、出力する直流電流Id2を出力する。
【0064】
変換器21は、時刻t13において起動し、直流電圧Vd2は、ほぼ0から立ち上がる。変換器21が出力する直流電流Id2は、直流電圧Vd2にしたがって、増大する。ここで、変換器21,22の起動時に出力される直流電圧や直流電流は、変換器21,22の安全な運転のために変換器21,22の内部等で起動時間や最大値等が制限されている。そのため、変換器21が出力する直流電力Pd2は、電力設定値Pdp/2に追従するのに時刻t14まで時間を要することとなる。
【0065】
変換器22に対する電力設定値Pdp2を、スムージング制御回路212を通さずに極制御装置32および変換器22に供給した場合には、電力設定値は、図の破線のように、時刻t13においてステップ状に電力設定値Pdp/2に低下する。そのため、変換器22が出力する直流電流も、時刻t13においてステップ状に低下することとなり、変換器22が出力する直流電力Pd2も、時刻t13でステップ状に低下する。
【0066】
一方、変換器21が出力する直流電力Pd1は、スムージング制御回路212の有無によらず、変換器21の内部的な制限や出力に接続される線路のインピーダンス等により起動波形が決定される。そのため、時刻t13から時刻t14の期間では、電力設定値Pdpは、破線のように一次的に大きく低下する。
【0067】
比較例の双極共通制御装置210は、1極の変換器21が起動する場合に、2極の変換器22の電力設定値Pdp2’’の立下りをゆるやかにして、時刻t13から時刻t14の期間の双極の電力値Pdの低下を抑制する。
【0068】
しかしながら、比較例の双極共通制御装置210では、他極起動時の電力設定値Pdp2’’の立下りを一定の定数による一次遅れ回路213aによって生成しているので、電力設定値Pdp1,Pdp2の変化の大きさ等が異なる場合等には、双極の電力値Pdがさらに低下する場合が生じ得る。また、図4の例においても、双極の電力値Pdの一時的な低下が生じており、系統への影響をさらに抑制したい場合等には、改善することが必要となる。
【0069】
図5は、実施形態の双極共通制御装置を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図5は、上述した比較例の場合と同様に、運転中の変換器22に変換器21を起動して、双極の電力設定値をPdpminからPdpに増大させる場合を示している。図5では、時刻t10から時刻t13の期間の動作および時刻t14以降の動作は、図4の場合と同じである。したがって、時刻t13から時刻t14までの動作について説明する。
【0070】
図5に示すように、実施形態の双極共通制御装置10では、起動する1極の他極である2極の変換器22の電力設定値Pdp2’を、変換器21,22が出力している直流電力Pd(=Pd1+Pd2)が電力設定値Pdpとなるように、電力設定値Pdp2’を計算する。
【0071】
電力設定値Pdp2’の計算は、図示のように電力設定値Pdp2’および直流電力Pd1,Pd2が時間の関数であるため、時刻同期してデータを取得し、その時刻における電力設定値Pdp2’を計算し、たとえば計算するたびに計算した電力設定値Pdp2’を極制御装置32に送信する。
【0072】
図4の場合では、一次遅れ回路213aによって、下の凸の時間特性を有する電力設定値Pdp2’’のために、双極分の直流電力Pdpに一時的な低下が生じている。これに対して、実施形態のこの例では、電力設定値Pdp2’は時間に対して上に凸の特性となるので、双極分の直流電力Pdは、時刻t13以降でほぼ一定とすることができる。
【0073】
実施形態の双極共通制御装置10では、リアルタイムに、直流電力Pd1,Pd2を実測して、これらの加算データとしての双極分の直流電力Pdが、双極分の電力設定値Pdpとなるように、2極の電力設定値Pdp2’を計算する。そのため、接続される線路の条件等によって、変換器21,22の起動特性等が異なる場合等であっても、送電端等の送電電力等の変動は抑制され、よりスムーズに目標の電力設定値に遷移させることができる。
【0074】
図6は、比較例の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図6は、両方の変換器21,22が同じ電力設定値Pdp/2で運転中に1極の変換器21を停止し、送電電力等を停止前後で同じに維持する場合についての動作波形例を模式的に示している。この例では、上位制御装置は、同一の電力設定値Pdpで運転するように双極共通制御装置210に指令しており、送電端等で一方の変換器21を点検や故障修理等のために停止させる場合等が想定される。図6は、上述した実施形態の場合の第2の状態に対応する運転について示している。
【0075】
図6に示すように、時刻t20以前では、双極共通制御装置210は、上位制御装置から電力設定値Pdpを受信しており、2つの変換器21,22に1/2ずつ分担するように電力設定値Pdp1,Pdp2(=Pdp/2)を生成し、設定している。
【0076】
時刻t20において、双極共通制御装置210は、1極の変換器21を停止させるように、起動信号を非アクティブに遷移させる。双極共通制御装置210は、1極の変換器21の電力設定値Pdp1をステップ状に0に遷移させる。変換器21が出力する直流電圧Vd1は、次第に低下しほぼ0になる。変換器21が出力する直流電流Id1は、直流電圧Vd1に応じて低下する。直流電圧Vd1の時間変化は、変換器21内のインピーダンスや変換器21に接続されている直流線路のインピーダンス等によって決定され、電力設定値等の制御パラメータにより制御されない。
【0077】
時刻t20において同時に、双極共通制御装置210は、2極の変換器22が出力する直流電力Pd2を2倍に増加するように、電力設定値Pdp2をPdpにステップ状に変化させる。
【0078】
電力設定値Pdp1,Pdp2は、他極判定部211に入力される。他極判定部211は、電力設定値Pdp2を選択して、スムージング制御回路212に出力する。スムージング制御回路212は、電力設定値Pdp2を入力し、スムージング制御有効信号C2をアクティブにして、スイッチ214bを閉じる。電力設定値Pdp2は、一次遅れ回路213bを通過することによって、時間とともに次第に増加する上に凸の特性を有する電力設定値Pdp2’’としてスムージング制御回路212から出力される。
【0079】
双極共通制御装置210は、電力設定値Pdp1,Pdp2を極制御装置31,32にそれぞれ送信し、変換器21,22の動作を設定する。
【0080】
変換器22が出力する直流電圧Vd2は、時刻t21以降も一定の値を維持する。変換器22は、設定された電力設定値Pdp2’’に追従するように、出力する直流電流Id2を増大させる。したがって、変換器22が出力する直流電力Pd2は上に凸となるような一次遅れ応答特性にしたがって、電力設定値Pdpに漸近する。
【0081】
変換器21は、時刻t20において起動信号が非アクティブとされ、電力設定値Pdp1はステップ状に0に設定される。変換器21が出力する直流電圧Vd1および直流電流Id1は、変換器21内のインピーダンスおよび直流線路のインピーダンス等にしたがって低下し、時刻t21でほぼ0となる。
【0082】
最下段のグラフに示すように、変換器22が出力する直流電力Pd2は、一次遅れ応答特性のため上に凸の特性となっている。変換器21が出力する直流電力Pd1も変換器21内の出力コンデンサ等の容量成分に蓄積された電荷が既存のインピーダンスを介して放電するため下に凸とはならず、上に凸となる特性になることがある。そのため、送電端等の出力する直流電力Pdは、時刻t20~時刻t21の期間では、所望の電力設定値Pdpよりも大きい値となり得る。
【0083】
図の破線は、電力設定値Pdp2をスムージング制御回路212を通さない場合の送電端等が出力する直流電力Pdであり、電力設定値Pdpの2倍の大きさに達する。比較例のスムージング制御回路212によって、電力設定値Pdp2’’をゆるやかに変化させることによって、直流電力Pdの上昇を抑制することができるが、変換器21の停止時の放電波形等によっては、直流電力Pdの上昇はさらに大きくなるおそれもあり、直流電力Pdの変動を完全に抑制することは困難である。
【0084】
図7は、実施形態の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図7は、上述した比較例の場合と同様に、運転中の変換器21,22のうち変換器21の運転を停止し、変換器22が出力する直流電力を2倍にして、送電端等の送電電力等を一定に保つ場合を示している。図7では、時刻t20以前の動作および時刻t21以降の動作は、図6の場合と同じである。したがって、時刻t20から時刻t21の期間の動作について説明する。
【0085】
実施形態の双極共通制御装置10は、2極側の電力設定値Pdp2をスムージング制御回路12に入力し、変換器21,22が実際に出力している直流電力Pd(=Pd1+Pd2)が電力設定値Pdpとなるように、新たな電力設定値Pdp2’を生成する。
【0086】
この例では、変換器21の内部および外部のインピーダンス等によって決定される変換器21の停止後の直流電力Pd2が上に凸であるため、これを相殺するように、双極共通制御装置10は、下に凸となるように電力設定値Pdp2’を生成している。
【0087】
電力設定値Pdp2’の計算は、図5において説明した場合と同様にすることができる。すなわち、図示のように電力設定値Pdp2’および直流電力Pd1,Pd2が時間の関数であるため、時刻同期してデータをそれぞれ取得し、その時刻における電力設定値Pdp2’として極制御装置32に送信する。
【0088】
このようにして、変換器21,22を含む送電端等が出力する直流電力Pdは、電力設定値Pdpとおりに一定の値を維持することができる。
【0089】
図8は、比較例の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図8は、両方の変換器21,22が同じ大きさの異なる潮流方向の電力設定値で運転することによって、1台の変換器の最小の出力電力よりも小さい送電電力等を出力している場合の例を示している。この例では、上位制御装置は、電力設定値Pdpを0に設定し、その後、1台の変換器が出力し得る出力電力程度の電力設定値Pdpに遷移させる場合が示されている。双極共通制御装置210は、変換器21,22を潮流方向の異なる最小の電力設定値±Pdpminにそれぞれ設定し、電力設定値Pdpが0からPdpに遷移するタイミングで変換器21の潮流方向を反転させる場合の例である。図8は、上述した実施形態の場合の第3の状態に対応する運転について示している。
【0090】
図8に示すように、時刻t30において、両方の極の変換器21,22の起動信号がアクティブとなる。上位制御装置は、電力設定値Pdpとして0を指令しており、双極共通制御装置210は、これを解釈して、2つの変換器21,22に異なる潮流方向で最小の直流電力を出力するように、±Pdpminをそれぞれ設定している。
【0091】
時刻t31において、変換器21,22が運転を開始し、直流電圧Vd1,Vd2が立ち上がる。変換器21,22は、直流電圧Vd1,Vd2に応じて直流電流Id1,Id2を出力する。
【0092】
時刻t32において、双極共通制御装置210は、電力設定値Pdp2を増大させる。電力設定値Pdp2の時間増加率は、あらかじめ設定されている。時刻t32は、時刻t33において、送電端等の電力設定値Pdp程度となるように、当初の電力設定値Pdpminおよび電力設定値Pdp2の増加率にもとづいて決定される。
【0093】
時刻t33において、上位制御装置は、電力設定値を0からPdpに遷移させるように指令を送信する。双極共通制御装置210は、指令を解釈して、時刻t33において、変換器21の潮流方向を反転する。潮流反転後の電力設定値Pdp1は、Pdp/2とされる。また、潮流反転しない変換器22の電力設定値Pdp2もPdp/2とされる。
【0094】
時刻t33では、Pdp1,Ppd2は、他極判定部211に入力される。他極判定部211は、潮流反転しない方の変換器22を他極と判定し、Pdp2をスムージング制御回路212に出力する。
【0095】
スムージング制御回路212は、スムージング制御有効信号C3をアクティブに設定する。電力設定値Pdp2は、一次遅れ回路213cに入力され、スムージング制御回路212は、電力設定値Pdp2’’を出力する。
【0096】
一次遅れ回路213cを通過した電力設定値Pdp2’’は、一次遅れ応答により、下に凸の特性を有している。
【0097】
時刻t33において、変換器21は、潮流方向反転のため、出力する直流電圧Vd1を極性を反転させる。直流電圧Vd1の反転動作に要する期間は、直流線路の特性等を考慮してあらかじめ設定されている。変換器21が出力する直流電流Id1は、電力設定値Pdp1に応じて増大する。したがって、変換器21が出力する直流電力Pd1は、直流電圧Vd1に応じて増大する。
【0098】
この例のように、時刻t33から時刻t34の期間において、変換器21が出力する直流電力Pd1がほぼ直線的に変化し、変換器22が出力する直流電力Pd2が下に凸の一次遅れ応答特性を示す場合には、送電電力等は、図示のように多少低下する。破線で示した曲線は、電力設定値Pdp2をスムージング制御回路212を通さずに、ステップ状に変化させた場合の送電電力等を示しており、これに比べれば、比較例の場合の送電電力等の電力低下は小さく抑えられている。上述した第1の状態や第2の状態に相当する場合と同様に、潮流反転する側の直流電圧の変化率は、内部的に固定されており、反転前後の直流電圧値等によっては、直流電力低下はさらに大きくなるおそれがある。
【0099】
図9は、実施形態の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図9は、上述した比較例の場合と同様に、運転中の変換器21,22のうち、変換器21の潮流方向を反転して、双極の電力設定値を0からPdpに増大させる場合を示している。図9では、時刻t30から時刻t33の期間の動作および時刻t34以降の動作は、図8の場合と同じである。したがって、時刻t33から時刻t34までの動作について説明する。
【0100】
図9に示すように、実施形態の双極共通制御装置10では、変化する極である1極の他極である2極の変換器22の電力設定値Pdp2’を、変換器21,22が出力している直流電力Pdp(=Pd1+Pd2)が電力設定値Pdpとなるように、電力設定値Pdp2’を計算し、設定する。
【0101】
電力設定値Pdp2’の計算は、図示のように電力設定値Pdp2’および直流電力Pd1,Pd2が時間の関数であるため、時刻同期してデータを取得し、その時刻における電力設定値Pdp2’として極制御装置32に送信する。
【0102】
このようにして、潮流方向反転する極の他極の電力設定値を、実際に出力している直流電力Pdが電力設定値Pdpとなるように、他極の電力設定値を計算することによって、潮流反転時の直流電力の一時的な変化を抑制することができる。
【0103】
上述したように、実施形態の双極共通制御装置10では、起動、停止あるいは潮流反転する極の他極の電力設定値を計算することによって、変化を生ずる期間においても直流電力の低下や上昇を生ずることなく、所望の直流電力を得ることができる。
【0104】
比較例の双極共通制御装置210では、一方の極の起動、停止あるいは潮流反転によって、必要なスムージングの度合いが異なるので、一次遅れ回路の時定数をそれぞれに対して設定している。そのため、一方の極が起動するのか、停止するのか、あるいは潮流方向反転するのかをその都度判定して、一次遅れ回路の時定数を切り替える必要がある。これに対して、実施形態の双極共通制御装置10は、実際に出力している送電端等が出力する直流電力Pdを電力設定値Pdpとなるように、他極の電力設定値を計算する。そのため、一方の極が起動するか、停止するのか、あるいは潮流反転するのかにかかわらず、同じ回路やアルゴリズム等を用いて、他極の電力設定値を計算することができるので、回路構成やプログラム等を簡素化することができる。
【0105】
上述のように、一方の極の動作状態によらず、他極の電力設定値を計算することができるので、変換器内の回路定数や、接続される線路のインピーダンス等がシステムごとに異なっていること等により、一方の極の挙動が変化しても、確実に変化の抑制された直流電力を出力することができる。
【0106】
なお、実施形態の双極共通制御装置10のスムージング制御回路12においては、実際に出力している直流電力Pd(=Pd1+Pd2)を用いて、電力設定値Pdp2’(またはPdp1’)を計算する。電気量の測定後のアナログ-ディジタル変換にともなう遅れや、その他の回路の応答遅れ等が存在する。そのため、電力設定値Pdp2’(またはPdp1’)を計算する場合には、これらの遅れを見込んで、補正値を加算または減算するようにしてもよい。
【0107】
次にスムージング制御禁止回路14について説明する。
図10は、実施形態の双極共通制御装置の動作を説明するために模式的に例示した動作波形図である。
図10は、2つの極の変換器21,22が最低の電力設定値Pdpminで運転している場合に、変換器21,22とも同時に同じ方向に電力設定値を増大させるときについての動作波形例を模式的に示している。つまり、図10は、上述した実施形態の場合の第1~第3の状態のいずれにも対応していない。
【0108】
この場合においても、上述の第1~第3の状態の場合と同様に、変換器21,22が実際に出力している直流電力Pd(=Pd1+Pd2)が変化後の電力設定値Pdpに追従するように、電力設定値Pdp2’(またはPdp1’)を計算すればよい。しかしながら、2つの変換器21,22の出力が同時に同じ方向に変化する場合には、直流電力Pdを電力設定値Pdpに追従させようとすると、スムージングを行う方の極の変換器の最大の出力電力を超えて設定しなければならない場合がある。そのため、スムージング制御禁止回路14は、このように同一方向に電力設定値を変化させる場合には、電力設定値のスムージング制御を行わないようにする。
【0109】
図10に示すように、時刻t40において、変換器22の起動信号がアクティブとなり、時刻t41で変換器22は、運転を開始して、直流電圧Vd2を起動させる。変換器22は、直流電圧Vd2に応じて直流電流Id2を出力する。
【0110】
時刻t42において、変換器21のための起動信号がアクティブとなり、変換器21は、運転を開始する。変換器21は、直流電圧Vd1を起動させ、直流電流Id2を出力する。
【0111】
ここで、実線が、電力設定値Pdp2をスムージング制御回路12に通さない場合の波形を示している。1極の変換器21が出力する直流電力Pd1は、直流電圧Vd1の起動時の波形となるため、送電端等が出力する直流電力Pdは時刻t42から時刻t43の期間では、所望の電力設定値Pdpよりも低くなる。
【0112】
時刻t42において、スムージング制御回路12によって、変換器22の電力設定値Pdp2’を下に凸となるように生成すると、送電端等の出力する直流電力Pdは、電力設定値Pdpに追従させることができるが、変換器22の出力容量を超えてしまう場合には、電力設定値Pdp2’の設定ができないことになる。一方、比較例のように、一次遅れ回路によって電力設定値Pdp’’を生成すると、上に凸の動作波形となるため、送電端等が出力する直流電力Pdは、破線で示したように、実線の場合よりも値の低下幅が大きくなってしまう。
【0113】
そこで、実施形態の双極共通制御装置10では、スムージング制御禁止回路14によって、電力設定値を同時に同一方向に変化させる場合には、スムージング制御回路12を通さずに、そのまま電力設定値Pdp1,Pdp2を用いることで、安全かつ変化が抑制された直流電力を出力することができるようになる。
【0114】
上述では、電力設定値にもとづいて、各変換器の運転状態が制御される例について説明したが、電力設定値に代えて、直流電流設定値としてもよいのはいうまでもない。
【0115】
このようにして、一方の極の起動、停止、潮流反転時の電力変動を抑制した制御装置が実現される。
【0116】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0117】
1,2 交流系統、3,4 直流系統、5~8 変圧器、10 双極共通制御装置、12 スムージング制御回路、14 スムージング制御禁止回路、21,22,41,42 変換器、31,32 極制御装置、100 直流送電システム
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図10