(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】空調システム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/74 20180101AFI20240826BHJP
F24F 11/63 20180101ALI20240826BHJP
F24F 11/54 20180101ALI20240826BHJP
F24F 110/10 20180101ALN20240826BHJP
F24F 110/20 20180101ALN20240826BHJP
【FI】
F24F11/74
F24F11/63
F24F11/54
F24F110:10
F24F110:20
(21)【出願番号】P 2021062438
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090985
【氏名又は名称】村田 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100093388
【氏名又は名称】鈴木 喜三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100093506
【氏名又は名称】小野寺 洋二
(74)【代理人】
【識別番号】100206302
【氏名又は名称】落志 雅美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慎介
(72)【発明者】
【氏名】新村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恵
【審査官】安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-049070(JP,A)
【文献】特開平09-014738(JP,A)
【文献】特開2001-174022(JP,A)
【文献】特開2006-194540(JP,A)
【文献】特開2015-010793(JP,A)
【文献】特開2019-132538(JP,A)
【文献】特開2022-157917(JP,A)
【文献】特許第7372201(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2006/0184283(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00 - 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調対象の建屋の空間を1又は2以上の複数の小区画に仮想的に区分した仮想区画(以下、FDU区画ともいう。)を最適なPMVに保つための空調システムであって、
前記各FDU区画の天井に設けて空調機からの清浄な空気を天井チャンバーに導入する空気取入口と、
前記各FDU区画の前記天井に設置されて当該FDU区画に対して前記空調空気を下降給気するFDUと、
前記各FDU区画の天井に設けた前記FDUの近傍に設置されて当該FDU区画内の表面温度を計測する放射温度計と、
前記FDU区画のそれぞれに在席可能に設置された在籍者執務デスクおよび在席者端末と、
前記仮想区画の床近傍から処理済み空気を排出する空気排出口と、
前記FDUに対して、その空気吹き出し量を制御するための運転出力値を出力すると共に、初期運転出力値の設定とシステムの統括管理を行うFDUシステムと、
前記各FDU区画に設置された前記放射温度計の計測値を収集して前記FDUシステムへ与える運転出力補正値を演算するサーモパイルシステムと、
を備え、
前記サーモパイルシステムは、空調機の還気温度と還気湿度、サーモパイルセンサの検知温度、met値、clo値、風速の各データに基づいてFDU毎のPMV値を推測し、このPMV推測値と任意に設定された目標PMV値を比較演算してFDU運転システム補正値を計算し、
前記FDUシステムは、
現状のFDU運転出力値を前記サーモパイルシステムから出力されるFDU運転システム補正値で更新してFDU運転システムの更新出力値をFDUに出力することを特徴とする空調システム。
【請求項2】
前記サーモパイルシステムは前記FDU区画に設置された前記放射温度計の計測値データの収集周期監視手段を備え、当該計測値データの収集周期を一定の周期としたことを特徴とする請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記サーモパイルシステムは、収集した前記放射温度計の
計測値から算出したFDU運転出力補正値をFDUシステムに送信する送信周期設定手段を備え、当該送信周期を一定
とすることを特徴とする請求項1に記載の空調システム。
【請求項4】
前記FDUシステムは、前記各FDUへの運転出力値のデータ送信タイミング設定手段を備え、前記各FDU区画のFDUへの運転出力値のデータ送信タイミングを一定周期とする固定パターンと、前記在席者端末の操作指令信号の発生時とする任意パターンとの2つのタイミングで前記FDUに運転出力値のデータを送出することを特徴とする請求項1に記載の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事務所ビルなどの建屋に配置された大部屋の執務室(作業室等の室内)の空調制御に係り、特に建屋コア部分に空調機(エアー・ハンドリング・ユニット:AHU)を有し、室内の天井面に設置したファン付吹出口(ファン・デフューザ・ユニット:FDU)空調方式(以下、FDU方式又はFDUシステム)にて、空調対象室内の仮想的に設定した室内空間(仮想区画)ごとの温度に加えて当該領域の表面温度を効率良く計測できる構成とすることで適切な予想平均温冷感申告が仮想区画ごとに得られる応答性の良い空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
事務所ビルなどの中規模・大規模面積の居室である室内の執務環境の空調には、一般的に変風量単一ダクト方式が採用されている。
大空間となる執務室において、外壁や窓に近いペリメータエリア、内部であるインテリアエリアそれぞれを更に区分した仮想区画ごとに可変風量装置(バリアブル・エアー・ボリュウム装置:VAV)を設け、空調機からは原則として低負荷時を除き一定温度で空気を給気ダクトにて送給し、仮想区画ごとにその天井面などに設けた温度センサを設置しVAVを操作器として、VAVコントローラ等において温度設定値と温度計測値との偏差に基づいて演算した結果の出力信号により、VAVの風量可変部を開閉制御し、室内負荷に対応する給気風量の供給制御を行っている。
【0003】
このように、仮想空間の代表温度を計測して制御するのが一般的であるが、この制御では不十分な場合がある。室内の居住者(執務者等)の体感温度は、室内温度、放射温度(室内表面からの輻射熱)、風速等々の要因(パラメータ)で左右されるため、室内温度のみで制御すると、室内温度が設定通りであったとしても居住者の温熱感覚は不快な傾向になる場合がある。
【0004】
この温熱感覚は人体が熱的に中立(熱平衡)であれば、快適な状態を感じることになる。すなわち、温度[℃]、湿度[%]、風速[m/s]、熱放射[℃]の環境側の4要素に、人体側の2要素である代謝当量[met]と着衣量[CLO値:clo値とも表記]をもとに下記式で算出した予測平均温冷感申告(Predicted Mean Vote:PMV)が0である状態を熱平衡が中立で最も快適であると称する。
PMV=(0.303e-0.036M+0.028)L
ただし、L:人体の熱負荷[W/m2]、M:代謝量[W/m2]
【0005】
PMV(予測平均温冷感申告)は、前記したように人体の熱的快適感に影響する環境側4要素(室温、相対湿度、平均風速、平均放射温度)に人間側の2要素(着衣量、作業量)を加えた6つの要素で評価される(デンマーク工科大学ファンガー教授提唱)。
【0006】
これらの要素を上式で算出した数値を7段階評価尺度で示したのが
図9である。また、
図10は、PMVを視覚的に説明するグラフで、横軸にPMVを、縦軸にPPD:Predicted Percentage of Dissatisfied(予測不快者率:多人数の申告により平均的な寒暖の感じ方を予測する指標、何人が不快と感じるかの割合%)を取って示す。
【0007】
図9において、0を中立として+3と-3の7段階で「快適」と「不快」を評価する。そして、
図10に示したように、PMVが±0.5以内で、不快者率(何人が不快と感じるかの割合%、PPD)は10%以下が推奨とされている。
上記の一般的な変風量単一ダクト方式から発展して、もう少し仮想区画を小さくするために、一般的には天井裏を還気チャンバーとして使用するところ、天井裏を給気チャンバーとし、吹出口に風量可変ファンを内蔵して吹出口毎に給気風量を居住者の好みで変更可能なシステムとして、特開2019-132538号公報(特許文献1)で示すようなFDUシステムがある。
【0008】
図11は、FDUシステムとしての従来の室内空調システムの概略説明図で、在席者5に加えてOA機器などの発熱機器(図示せず)も収容されている。符号6は在席者端末を示す。
図11では説明を簡単にするために一つの仮想区画が室内全部を占めるように示されているが、実際は仮想区画が複数ある。
建屋1の天井裏には天井チャンバー1aがあり、 室内(仮想区画)1bとの間にある天井4には複数のFDU7が設けられている。室内1bの床3の下部には床下チャンバー1cが形成されており、床3の要所々々には吸込口3aが形成されている。FDU7とは、システム天井の1グリッドに照明器具と共に載せるだけで設置できるような例もある、内蔵する小型ファンが可変風量である軽量なファン一体型ディフューザユニットである。
この
図11において、FDU7につながっている線はダクトを示しているのではなく、信号線のイメージである。天井チャンバー1aは給気チャンバーとなっていて、FDUはダクト接続されず、天井チャンバー1a内の温調された空気を自身のファンで吸込み天井下へ吹出すものである。
【0009】
図示しない空調機からの給気(サプライエアー)SAは、空気取入口8から天井チャンバー1aに流入する。在籍者5は自身の端末(在籍者端末)6でFDU7の運転出力値を操作することで自分好みの風量に変更を加えることができる。
【0010】
すなわち、FDUシステム11は予め設定されている運転スケジュールに従ってセットされた運転値で運転されている。在籍者端末6から個別に指示された操作信号(操作指令)は通信線16でFDUシステム11に転送される。
FDUシステム11は、操作された在籍者端末6に対応するFDU7の運転出力値の変更指令を、通信子機15を介して当該対応するFDU7に転送する。当該FDU7は、その変更指令信号に応じて運転出力値を調整する。この指令信号の転送はLANの通信線、あるいは在籍者端末やFDUを駆動するための電力を供給する電力線を利用した多重搬送通信(PLC)を用いることができる。
【0011】
なお、個々のFDU7から給気された空気(SA)は、室内1bに存在する熱負荷を空気自身の温熱又は冷熱にて空調処理した後に、床3に設けられた吸込口3aから床下チャンバー1cに排気されて合流する。合流した空気は還気(リターンエアー)RAとして空気排出口9から排気されて図示しない空調機にもどる。空調機では、このリターンエアーを清浄化処理し、必要に応じて外部環境から新鮮な空気を追加して空気取入口8から天井チャンバー1aに給気する。
【0012】
このシステムでは、日付が変わると各在席者が調整したFDU運転値がリセットされる。また、熱負荷は日々刻々と変化する。そのため、在席者は自身が希望する空調環境になるように日ごとに一定時間ごとに操作指令を発信する必要がある。
なお、FDUシステムは既知であるのでここでは必要な事項のみの説明とする。FDUシステムの詳細は、例えば特許文献1、特許文献2などを参照されたい。
【0013】
特許文献1は、天井チャンバーから空調区画にファンを備えた空気吹き出し口(FDU)を設け、天井チャンバーに供給する空調空気量を調整する変風量ユニット、還気温度センサからの測定値で天井チャンバーに供給する空調空気量を調整すると共に、在席者のパソコン等の操作でFDUを制御することを可能とした空調システムを開示する。
【0014】
また、特許文献2は、空調対象となるように設定した仮想区画毎の空気吹き出し口の温度を計測する給気温度センサを設け、このセンサの計測値で給気温度を制御する制御装置を備えた空調システムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2019-132538号公報
【文献】特開2020-183820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記特許文献1に開示された空調システムは、在席者のパソコン等(スマホ、タブレットなども含む)の操作でFDUを個別に制御することを可能にしている。しかしながら、日付や時間が変わる毎に在席者が自身の好む状態にFDUを設定する必要があるため、在席者にとって煩雑感があると共に、同一の仮想区画で執務している在席者にとって必ずしも快適な空調設定になるとは限らず、要らざるストレス発生(在席者間、あるいは空調管理者へのクレーム)の原因ともなり得る。
【0017】
特許文献2に開示のシステムは、上記特許文献1に記載の技術におけるストレス発生の可能性に加え、空調対象となる仮想区画毎の空気吹き出し口の温度で天井チャンバーへの給気温度を制御するため、個々の仮想区画の空調状態をバランスよく設定するには高度の調整計算が必要となり、制御手順が極めて複雑化し、管理装置の負荷が大きくなる。
【0018】
本発明の目的は、個別の在席者による「FDUの運転値設定の変更」に対応できると共に、仮想区画全体の空調環境を最適化することで前記従来技術における問題を解消した空調システムを提供することにある。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明に係る空調システムは、空調対象の室内(区画された仮想区画:以下、FDU区画)の天井面ではない実際の熱負荷近傍の表面温度を非接触温度センサで計測し、当該FDU区画の放射温度を推定して、FDU区画内の温湿度、風速、放射温度、clo値、met値から、FDU毎のPMVを推定し、このPMV推定値と目標PMVとを比較してFDUの運転出力値を演算する。この演算値で各FDU区画のFDUを制御することで快適な空調状態を演出できるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するための本発明の代表的な構成例を下記に列挙する。以下では、本発明を明確に理解するために、各構成に後述する実施例の参照符号を付してあるが、本発明はこの参照符号で特定される構成に限定されるものではない。なお、本発明において表面温度を計測するとは、FDU区画内の床、内壁、室内に置かれた様々な家具類、什器、各種電気・電子機器および居住者(人間、執務者)の表面から輻射される熱を測定することを意味する。
【0021】
本発明に係る空調システムは、
空調対象の建屋1の空間を1又は2以上の複数の小区画に仮想的に区分した仮想区画(FDU区画、以下、室内ともいう)1bを最適なPMV(予測平均温冷感申告)に保つための空調システムであって、本システムは、
(1)前記各FDU区画の天井4に設けて空調機(AHU)からの清浄な空気(サプライエアー)を天井チャンバー1aに導入する空気取入口8と、
前記各FDU区画の前記天井4に設置されて当該FDU区画1bに対して前記空調空気を下降給気するFDU7と、
前記各FDU区画1bの天井に設けた前記FDU7の近傍に設置されて当該FDU区画1b内の表面温度を計測する放射温度計(サーモパイルセンサ等)10と、
前記FDU区画1bのそれぞれに在席可能に設置された在籍者執務デスク5Aおよび在席者端末6と、
前記仮想区画1bの床3近傍から処理済み空気(リターンエアー)を排出する空気排出口9と、
前記FDU7に対して、その空気吹き出し量を制御するための運転出力値を出力すると共に、初期運転出力値の設定とシステムの統括管理を行うFDUシステム11と、
前記各FDU区画1bに設置された前記放射温度計10の計測値を収集して前記FDUシステム11の前記演算パラメータを生成するサーモパイルシステム12と、
を備え、
前記サーモパイルシステム12は、空調機の還気温度と還気湿度、サーモパイルセンサの検知温度、met値、clo値、風速の各データに基づいてFDU毎のPMV値を推測し、このPMV推測値と任意に設定された目標PMV値を比較演算してFDU運転出力補正値を計算し、
前記FDUシステム11は、現状のFDU運転出力値を前記サーモパイルシステム12から出力されるFDU運転出力補正値で更新してFDU運転システムの更新出力値をFDUに出力する。
【0022】
(2)前記サーモパイルシステム12は前記FDU区画1bに設置された前記放射温度計10の計測値データの収集周期監視手段を備え、当該計測値データの収集周期を一定の周期(好適には、30~600秒/回)とした。
【0023】
(3)前記サーモパイルシステム12は、収集した前記放射温度計の計測値から算出したFDU運転出力補正値を前記FDUシステム11に送信する送信周期設定手段を備え、当該送信周期を一定とした。
【0024】
(4)前記FDUシステム11は、前記各FDU7への運転出力値のデータ送信タイミング設定手段を備え、前記各FDU区画1bのFDU7への運転出力値のデータ送信タイミングを一定周期とする(好適には、20分毎)固定パターンと、前記在席者端末6の操作指令信号の発生時(操作2分後)とする任意パターンとの2つのタイミングで前記FDU7に運転出力値のデータを送出する。
【0025】
本発明は、上記の構成および後述する実施の形態に記載される構成に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱することなく、種々の変更が可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、空調対象の室内の温度測定値に加えて室内の全ての領域における表面温度をグローブ温度計を用いることなく取得して、仮想区画ごとの疑似放射温度として演算し、この疑似放射温度としてのサーモパイルセンサ検知温度のほかに、空調機の還気温度と還気湿度、met値、clo値、風速の各データに基づいてFDU毎のPMV値を推測し、このPMV推測値と任意に設定された目標PMV値を比較演算して、仮想区画ごとの補正設定温度値としてカスケード制御することで、居住空間内の位置によって偏らない快適性のある空調制御を得ることができる空調システムである
また、本発明はによれば、予め設定した目標PMVになるようにFDUを制御すると共に、FDU区画に居る在席者の端末などから温冷変更の操作があった場合には目標PMVが変更され、短時間(例えば、2分)でFDUの運転値が変更される。この目標PMVはシステムに保持され、日付が変わってもリセットされることがない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A】本発明に係る空調システムの1実施例を適用するFDU区画の第1構成例と制御系統の説明図
【
図1B】本発明に係る空調システムの1実施例を適用するFDU区画の第2構成例と制御系統の説明図
【
図2】
図1におけるFDU制御の流れとサーモパイルシステムで行われるデータ処理の説明図
【
図3】
図1におけるサーモパイルシステムとFDUの制御関係図
【
図5】本発明のFDU区画の分割例を説明する建屋の平面図
【
図6】
図5に対応したサーモパイルシステムのモニター上に表示された室内のサーモパターンの説明図
【
図7】本発明のFDU区画の他の分割例を説明する建屋の平面図
【
図8】
図7に対応した中央監視装置のモニター上に表示された室内のサーモパターンの説明図
【
図9】PMVの適用範囲とPMVの7段階評価尺度の説明図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る空調システムの実施形態について、実施例を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0029】
図1Aは本発明に係る空調システムの1実施例を適用するFDU区画の第1構成例と制御系統の説明図である。また、
図1Bは本発明に係る空調システムの1実施例を適用するFDU区画の第2構成例と制御系統の説明図である。
図1Aは、建屋1の空調対象となる室内(FDU区画1b)の床下に床下チャンバー1cを有して、室内を通過した空調空気が床下チャンバー1cに排気され、床下チャンバー1cに設けた空気排出口9から図示しない空調機に戻される構成としたものである。
【0030】
図1Bは、床下チャンバーを有せず、室内を通過した空調空気が床3近傍に設置された空気排出口9から図示しない空調機に戻される構成としたものである。
【0031】
図1Aと
図1Bとは床下チャンバーの有無のみが相違し、空調制御のシステムを含めたその余の構成は同一であるので、以下では
図1Aを参照して説明する。
【0032】
図1Aにおいて、本発明にかかる空調システムは、空調対象の建屋1の空間を1又は2以上の複数の小区画に仮想的に区分した仮想区画(以下、室内、FDU区画ともいう)1bを最適なPMV(予測平均温冷感申告)に保つための空調システムである。
各FDU区画の天井4には、空調機からの清浄な空気(サプライエアー)を天井チャンバー1aに導入する空気取入口8と、各FDU区画の天井4に設置されて当該FDU区画1bに対して空調空気を下降給気するFDU7と、各FDU区画1bの天井に設けたFDU7の近傍に設置されて当該FDU区画1b内の表面温度を計測する放射温度計10とを有している。なお、ここでは、放射温度計として代表的なデバイスであるサーモパイルセンサを用いることとするが、他の同様の機能を持つ放射温度計を排除するものではない。そして、ここでは、サーモパイルセンサを用いる放射温度制御システムを便宜上「サーモパイルシステム」とした。
放射温度を測定するために、グローブ温度計を居住空間の視覚的に目立つ高さに複数設置させる必要があり、グローブ温度計に人がぶつからないよう配慮する必要があった。正確な表面温度の算出には居住空間に多くのグローブ温度計を配置させる必要があるが、実際には人との接触が懸念されるため一般的に常時配置されることはなかった。天井に設置する放射温度計にて居住室の下方にある表面温度を計測し放射温度として見なして制御するものである。
【0033】
前記FDU区画1bのそれぞれには、在席可能に設置された在籍者執務デスク5Aおよび在席者端末6と、FDU区画1bの床3に有する吸込口3aを通して空調処理済みの空気(リターンエアー)を排出する空気排出口9がもうけられている。
【0034】
そして、空調対象区画とは側壁2で隔離された室外には、FDU7に対して、その空気吹き出し量を制御するための運転出力値を演算して出力すると共に、初期運転出力値の設定とシステムの統括管理を行うFDUシステム11と、各FDU区画1bに設置された放射温度計10の計測値を収集してFDUシステム11へ与える運転出力補正値を演算するサーモパイルシステム12が設置されている。さらに、FDUシステムの初期運転出力値の設定とシステムの統括管理を行うFDUシステムが設置されている。このFDUシステムは、運転管理者が空調に必要な初期設定値等の任意入力手段、FDU区画1bの物理的な配置を備え、サーモパイルシステム12は、サーモパターンを目視できる視覚モニター手段を備えている。
【0035】
サーモパイルシステム12は、FDU区画1bの温度データ、空調機の還気温度、還気湿度と運転モードを収集して演算して求められるPMV推測値と、FDUシステム11からの各FDUの目標PMVデータとの偏差に基づいて、FDU運転出力補正値の演算を行う。
FDUシステム11は、FDUシステムに設定された初期の目標PMVのデータと、前記サーモパイルシステム12が収集した各FDU区画の表面温度などから求められたFDU運転出力補正値データと、在席者端末6の操作で生成された操作指令のデータとに基づいて、FDUシステム11に前記FDU7のそれぞれに与えるFDU運転出力値を演算する。
【0036】
サーモパイルセンサを好適とする放射温度計10の計測値データは通信線16でサーモパイルシステム12に収集される。
【0037】
サーモパイルシステム12は、FDU区画1bに設置された放射温度計10の計測値データの収集周期監視手段を備え、当該計測値データの収集周期を一定の周期(好適には、30~600秒/回)で収集するようになっている。
【0038】
また、サーモパイルシステム12には、収集した放射温度計の計測値から算出したFDU運転出力補正値をFDUシステム11に送信する送信周期設定手段を備えており、当該送信周期を一定としている。
【0039】
FDUシステム11には、各FDU7への運転出力値のデータ送信タイミング設定手段が備えられており、各FDU区画1bのFDU7への運転出力値のデータ送信タイミングを一定周期としている。この周期は、好適には、20分毎の固定パターンと、在席者端末6の操作指令信号の発生時(例えば、操作2分後)とする任意パターンとの2つのタイミングでFDU7に運転出力値のデータを通信手段16から通信子機15に送出する。通信子機15は自身の属するFDU区画1bの運転データを解読して自身のFDU7に与える。
【0040】
FDUシステム11に設定された初期の目標PMVのデータ、サーモパイルシステム12が収集した各FDU区画の表面温度と空調機の還気温度と還気湿度と運転モードから演算して求められるPMV推測値と、FDUシステム11からの各FDUの目標PMVデータとの偏差に基づいて求められたFDU運転出力補正値のデータ、在席者端末6の操作で生成された操作指令のデータ、その他のデータの転送はそれ専用の通信線16を介在させてもよいが、本実施例では、システムの稼働のための電力エネルギーを供給する電力線を用いた電力線多重搬送(PLC)手段を通信手段とした。
【0041】
図2は
図1における(a)FDUの制御の流れと(b)サーモパイルシステムで行われるデータ処理の説明図である。FDUシステム11には、運転管理者が中央監視装置13からセットした「空調機 運転モード(冷房/暖房/除湿、等)」、「空調機の還気温度」、「空調機の還気湿度」、サーモパイルシステム12にセットした「サーモパイル検知温度(床、OA機器、什器等の表面温度)」、「met値、clo値、風速」の各初期データ又は調整データが入力され、FDUシステム11からサーモパイルシステム12へのデータ入力も含めサーモパイルシステム12にてFDU毎のPMVを推測する。
【0042】
FDUシステム11には、さらに、在席者端末(パソコン、スマートホン、タブレットなど)6からの操作指令データ(条件変更希望データ)が入力する。この在席者端末6から操作指令データが入力すると、上記した初期データあるいは調整データが変更される。
【0043】
サーモパイルシステム12は、FDUシステム11から上記の各データと目標PMVの受け取りと並行して、サーモパイルセンサ10からの現在温度(現状温度)データを受け取る。サーモパイルシステム12はFDUごとの現在のPMV推測値とFDUシステムで任意に設定された各FDUの目標PMVとを比較演算して目標PMVとなるようにFDU運転出力補正値を生成して、そのデータをFDUシステム11に転送する。FDUシステム11では、FDU運転出力補正値を含め演算したFDU運転出力値を各FDUに転送する。この転送周期は、在席者(人間)の体感傾向を考慮して約20分とした。
【0044】
図3は
図1におけるサーモパイルシステムとFDUシステムの制御関係図である。サーモパイルシステム12はFDU運転出力補正値計算手段12aとPMV推測手段12bを備えている。PMV推測手段12bは、空調機(AHU)の還気温度と還気湿度、サーモパイルセンサセンサ検知温度、met、clo値、風速に基づいたFDU区画毎のPMVを推測する。
【0045】
FDU運転出力補正値計算手段12aは、PMV推測手段12bからのFDU区画毎のPMV推測値とFDUシステムから設定されている目標PMVとを比較演算してFDU運転出力補正値を生成する。
FDUシステム11にはFDU運転出力値更新手段11aが設けられており、サーモパイルシステム12から定周期で(例えば、20分ごとに)出力される運転出力補正値で、現状の運転出力値を更新し、更新した運転出力値のデータを各FDU7に与える。また、FDUシステム11に設けてあるデータ転送手段11bは、中央監視装置13から設定される「AHU運転モード(冷房/暖房/等)」、「AHU還気温度」、「AHU還気湿度」をサーモパイルシステム12に転送する。
【0046】
図4は
図1におけるFDU制御システムの処理手順を説明する図で、(a)は処理の流れ図、(b)は(a)におけるデータと用語の説明図である。
図4(a)に記載したように、空調機(AHU)の還気湿度と還気温度から算出した室内絶対湿度と、FDU区画の非接触放射センサ(サーモパイルセンサ)の検知温度から当該FDU区画の相対湿度(%)を算出する。
【0047】
FDUシステム11から任意に設定される目標PMV設定値、clo値、met値、風速、当該FDU区画の推定放射温度、およびFDU区画毎の非接触放射センサ(サーモパイルセンサ)の検知温度と、上記の当該FDU区画の相対湿度を、前記PMVの式を具体的に演算する演算プログラムに入力し(ステップ1、以下S-1のように記す)、現状のPMVを算出する(S-2)。
【0048】
算出した現状PMVから目標PMVにするための当該FDU区画の室内温度の変化量を算出する(S-3)。この室内温度の変化量となるようにFDU区画の運転出力値を算出し、算出した運転出力値をFDUシステム11に出力する(S-4)。この運転出力値にしたがってFDU7は当該FDU区画が目標PMVになるようにその吹き出し風量が制御される(S-5)。吹き出し量が制御され、室内(当該FDU区画)への給気風量が変更される。
【0049】
この給気風量の変更により当該FDU区画の温度が変化し、この温度変化を非接触放射センサ(サーモパイルセンサ)が検知する(S-6。この検知温度は前記した非接触放射センサの検知温度として演算プログラムに入力する。以下、このループが繰り返されることでFDU区画のPMVが適性に制御される。
【0050】
在席者による操作で目標PMVが変更されたら、再度PMV計算を行い、操作2分後にFDU運転出力値を出力してFDUを制御する。
また、当該FDU区画の現在温度が20分毎に更新されることで室内の状況が変わるため、再度PMV計算を行う。これを繰り返す。
【0051】
図5は本発明のFDU区画の分割例を説明する建屋の平面図であり、空調対象となる建屋室内を等間隔の表面温度計測区画に仮想的に分画して、区画毎にマイクロボロメータを1個ずつ設置して温度分布を検証した結果である。図中、2aは建屋の壁面、2bは窓、室内に事務机や書棚などの配置を透視的に示してある。この表面温度計測区画毎(前記したFDU区画に相当)に設置したマイクロボロメータで計測したサーモグラフィーである。計測されたデータを
図1のサーモパイルシステムのモニター上にカラーパターンで表示した。
【0052】
図6は、
図5に対応したサーモパイルシステムのモニター上に表示されたサーモグラフィーで、温度の違いを異なるカラーで表示される。雲形のパターン(不定形曲線)30は相違する表面温度の境界付近を示し、このパターンの内側と外側は異なるカラーで表示される。カラー表示は表面温度の高低がカラーの色相/彩度の違いで視覚的に識別できるように表示される。
【0053】
従来の室内温度のフィードバックによる空調制御ではPMVによる快適性を担保できなかったが、室内を等間隔の表面温度計測区画に分画して区画毎にサーモパイルを1個ずつ設置した計測区画とした場合に、これを複数集めた仮想区画(FDU区画1b)の表面温度の計測が簡便に可能となり、PMV推測値が仮想区画ごとに演算算出できることとなる。
【0054】
すなわち、FDU区画毎ごとの目標PMVと推定PMVの偏差により、目標PMVとなるように給気風量を操作するカスケード制御する。すなわち、現在PMV推測値を演算し、仮想区画毎に任意に設定する目標PMV設定値と現状のPMV推測値との差を計算し、当該目標PMV設定値と現状のPMV推測値との差がゼロとなるように、FDU運転出力値の補正を算出する。
【0055】
ステップ3に記載のように、目標PMV設定値と現状のPMV推測値との差をゼロにするための当該FDU区画の室内温度変化量を算出し、元のFDU区画内設定温度に加減算されて求められ続ける前記FDU区画の補正設定温度を、FDU区画ごとの変風量装置に入力され続ける前記FDU区画の補正設定温度と、FDU区画内計測温度との偏差に基づいて逐一補正される各FDU区画の補正設定温度となるように給気風量を操作するカスケード制御する。これにより、快適性のあるPMVを保った室内環境を実現できる。
【0056】
また、室内の表面温度をリアルタイムで検知できるため、内部発熱の急激な増減も把握し易く、熱負荷の増減に応じて予め温度設定値を上下させる制御も可能となる。
【0057】
また、室内にある物体(OA機器、什器、人間、等)の発熱(表面温度)が室内空気の温度を上昇させるまでに時間遅れがあるため、室内温度を計測する温度センサが空気温度の上昇を捉えた時点では既に居住者周辺の空気温度が高くなっている。その時間遅れによる室内温度の乱れを抑制することが期待できる。
【0058】
図7は本発明のFDU区画の他の分割例を説明する建屋の平面図、
図8は
図7に対応したサーモパイルシステムのモニター上に表示された室内のサーモパターンの説明図である。
図7は室内を異なる広さでFDU区画に分画してその区画毎に1又は複数のマイクロボロメータを設置して温度分布を検証した結果である。
本実施例は、例えば、頻繁な温度変化が無いような領域は広く、室縁などのペリメータゾーンで方位による日射変化などで温度変化が激しい、あるいは人間の出入が多い領域などで温度変化が激しいと考えられる領域はより狭くFDU区画の設定を行うようにしたものである。
【0059】
図7中、参照符号2は室内外周部材で、2aは壁面、2bは窓を示し、室内に事務机や書棚などの配置も
図5と同様に透視的に示してある。この仮想的に区画したFDU区画は、面積が異なる7区画(FDU1~FDU7)に分画され、それぞれの区画毎に1つ又は複数のマイクロボロメータで計測したサーモグラフィーで表面温度を計測した。このサーモグラフィーはサーモパイルシステムのモニター上に表示される。
【0060】
図8は、サーモパイルシステムのモニター上に表示された
図7に示した室内のサーモパターンの説明図である。各FDU区画は光学的に視野角を拡大したマイクロボロメータ、あるいは一つのFDU区画に複数のマイクロボロメータを配置するなどして、FDU区画それぞれの表面温度を計測してモニターに表示した。
【0061】
このように、頻繁な温度変化が無いような領域は広く、人間の出入が多い領域などで温度変化が激しいと考えられる領域はより狭くFDU区画の設定を行うことで快適性のあるPMV環境を提供することができる。
【0062】
なお、上記した各実施例の検証に使用したサーモグラフィー取得手段としては、マイクロボロメータ(マイクロボロメータカメラ)のみでなく、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ型の光電変換素子を用いた赤外線カメラなども採用できる。
【0063】
FDU区画の大きさは対象とする室内の広さ、発熱体の発熱量、室内オフィス家具、什器などの数を考慮して柔軟に設定する。サーモグラフィー取得手段の設置数も同様にFDU区画の広さを考慮する。
【符号の説明】
【0064】
1・・・建屋
1a・・・天井チャンバー
1b・・・室内
1c・・・床下チャンバー
2・・・側壁
2a・・・壁面
2b・・・窓
3・・・床
3a・・・吸込口
4・・・天井
5・・・在席者(人間、執務者等)
6・・・在席者端末
7・・・FDU(空気吹出口)
8・・・空気取入口
9・・・空気排出口
10・・・温度センサ(放射温度計:サーモパイル等)
11・・・FDU
11a・・・FDU運転出力値更新手段
11b・・・データ転送手段
12・・・サーモパイルシステム
12a・・・FDU運転出力計算手段
12b・・・PMV推測手段
13・・・中央監視装置
14・・・ネットワーク
15・・・通信子機
16・・・通信線