(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】ケース
(51)【国際特許分類】
F16H 57/03 20120101AFI20240826BHJP
【FI】
F16H57/03
(21)【出願番号】P 2023546784
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2022024983
(87)【国際公開番号】W WO2023037695
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2021146523
(32)【優先日】2021-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004141
【氏名又は名称】弁理士法人紀尾井坂テーミス
(72)【発明者】
【氏名】遠山 寿志
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-110922(JP,A)
【文献】特開2005-172125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力伝達装置を内装するケースであって、
駆動力を伝達するシャフトが挿通される開口部を形成する円環部と、
前記円環部の周囲に設けられ、締結部材が固定される複数の締結用ボス部と、
前記シャフトの軸方向から見て、前記複数の締結用ボス部のうち、一部の締結用ボス部と前記円環部との間に形成された第1のリブと、
前記軸方向から見て、前記複数の締結用ボス部のうち、前記第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部の間に設けられ、前記締結部材が固定されない非締結用ボス部と、当該非締結用ボス部と前記円環部との間に形成された第2のリブと、を有し、
前記非締結用ボス部は、位置決め用のピンが挿入される凹部を有するピン用ボス部である、ケース。
【請求項2】
駆動力伝達装置を内装するケースであって、
駆動力を伝達するシャフトが挿通される開口部を形成する円環部と、
前記円環部の周囲に設けられ、締結部材が固定される複数の締結用ボス部と、
前記シャフトの軸方向から見て、前記複数の締結用ボス部のうち、一部の締結用ボス部と前記円環部との間に形成された第1のリブと、
前記軸方向から見て、前記複数の締結用ボス部のうち、前記第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部の間に設けられ、前記締結部材が固定されない非締結用ボス部と、当該非締結用ボス部と前記円環部との間に形成された第2のリブと、を有し、
前記軸方向から見て、前記非締結用ボス部は、前記シャフトの径方向における前記ケースの一方の端面と前記円環部との間に設けられており、
前記径方向における前記一方の端面側から溶湯を供給することで鋳造される、ケース。
【請求項3】
請求項
1において、
前記軸方向から見て、前記非締結用ボス部は、前記シャフトの径方向における前記ケースの一方の端面と前記円環部との間に設けられており、
前記径方向における前記一方の端面側から溶湯を供給することで鋳造される、ケース。
【請求項4】
駆動力伝達装置を内装するケースであって、
駆動力を伝達するシャフトが挿通される開口部を形成する円環部と、
前記円環部の周囲に設けられ、締結部材が固定される複数の締結用ボス部と、
前記シャフトの軸方向から見て、前記複数の締結用ボス部のうち、一部の締結用ボス部
の外周と前記円環部と
に接続された第1のリブと、
前記軸方向から見て、前記複数の締結用ボス部のうち、前記第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部の間に設けられ、前記締結部材が固定されない非締結用ボス部と、当該非締結用ボス部と前記円環部との間に形成された第2のリブと、を有する、ケース。
【請求項5】
請求項
4において、
前記非締結用ボス部は、位置決め用のピンが挿入される凹部を有するピン用ボス部である、ケース。
【請求項6】
請求項
4において、
前記軸方向から見て、前記非締結用ボス部は、前記シャフトの径方向における前記ケースの一方の端面と前記円環部との間に設けられており、
前記径方向における前記一方の端面側から溶湯を供給することで鋳造される、ケース。
【請求項7】
請求項
2、3または6の何れか一において、
前記非締結用ボス部は、前記第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部のうちの1つに連結している、ケース。
【請求項8】
請求項
7において、
前記第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部が設けられた領域と、前記第1のリブが接続される一部の締結用ボス部が設けられた領域に、それぞれ弧状の凹部を有しており、
前記軸方向から見て、前記第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部が設けられた領域の凹部の半径は、前記第1のリブが接続される一部の締結用ボス部が設けられた領域の凹部の半径よりも大きい、ケース。
【請求項9】
請求項
8において、
前記シャフトの軸周りの周方向で隣り合う、前記第1のリブと、前記第2のリブとの間に、第3のリブが設けられている、ケース。
【請求項10】
請求項
9において、
前記第3のリブは、前記軸方向から見て、断面がトラス構造である、ケース。
【請求項11】
請求項
10において、
前記第3のリブは、
前記第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部のうちの1つから前記シャフトの径方向内径側に延びる径方向壁と、
前記径方向壁と、前記第1のリブが接続された一部の締結用ボス部のうちの1つと、を周方向で接続する周方向壁と、を有し、
前記第3のリブは、前記径方向壁と前記周方向壁との交差部、前記第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部のうちの1つ、及び前記第1のリブが接続された一部の締結用ボス部のうちの1つ、の三点を結ぶことで前記トラス構造を構成している、ケース。
【請求項12】
請求項
11において、
前記軸方向から見て、前記径方向壁と前記周方向壁は、前記第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部のうちの1つの中心と、前記第1のリブが接続される一部の締結用ボス部のうちの1つの中心から、互いに近づく向きにそれぞれオフセットした位置に設けられている、ケース。
【請求項13】
請求項
12において、
前記径方向壁と前記周方向壁は、前記第1、2のリブよりも細い、ケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ドライブシャフトが挿通される開口部を有するトランスミッションケースを開示する。このトランスミッションケースは、開口部を形成する円環部から放射状に延びて、締結用のボルトボスに接続するリブを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケースは、シャフトを挿入する開口部を形成する円環部と、締結用のボルトボスとの間にリブを設け、強度を増大させている。この場合において、ボルトボスと円環部の間に部品を通すための穴や、油路を通すための肉厚部が形成されると、リブを設けられない場所が生じることがある。
このようなケースを鋳造で製造する場合、鋳型内の溶湯は、リブに対応する凹部を介して各部に供給される。リブに対応する凹部のない所には溶湯は供給されにくい。その結果、鋳型内の溶湯の流れにアンバランスが生じ、成型後のケースに鋳巣が発生するおそれがある。鋳巣が発生すると、ケースの歩留まりが低下する。
【0005】
そこで、鋳巣の発生を低減し、歩留まりが向上するケースを提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様におけるケースは、
駆動力伝達装置を内装するケースであって、
駆動力を伝達するシャフトが挿通される開口部を形成する円環部と、
前記円環部の周囲に設けられ、締結部材が固定される複数の締結用ボス部と、
前記シャフトの軸方向から見て、前記複数の締結用ボス部のうち、一部の締結用ボス部と前記円環部との間に形成された第1のリブと、
前記軸方向から見て、前記複数の締結用ボス部のうち、前記第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部の間に設けられ、前記締結部材が固定されない非締結用ボス部と、当該非締結用ボス部と前記円環部との間に形成された第2のリブと、を有し、
前記非締結用ボス部は、位置決め用のピンが挿入される凹部を有するピン用ボス部である、ケース。
【発明の効果】
【0007】
本発明のある態様によれば、鋳巣の発生を低減し、歩留まりが向上するケースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、自動変速機ケースを説明する図である。
【
図2】
図2は、トランスミッションケースを説明する図である。
【
図3】
図3は、トランスミッションケースを説明する図である。
【
図4】
図4は、トランスミッションケースを説明する図である。
【
図5】
図5は、トランスミッションケースを説明する図である。
【
図6】
図6は、トランスミッションケースの要部拡大図である。
【
図14】
図14は、比較例に係るトランスミッションケースを説明する図である。
【
図15】
図15は、比較例に係る鋳型内の溶湯の流れを説明する図である。
【
図16】
図16は、比較例に係る鋳型内の溶湯の流れを説明する図である。
【
図17】
図17は、比較例に係る鋳型内の溶湯の流れを説明する図である。
【
図18】
図18は、変形例に係るトランスミッションケースを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態を説明する。
図1は、自動変速機ケース4を説明する図である。
図2は、トランスミッションケース1を説明する図である。
図2では、トランスミッションケース1を断面で示すと共に、トランスミッション61、アウトプットシャフト63、コントロールバルブCV及びオイルパン5を仮想線で示してある。
図3は、トランスミッションケース1を説明する図である。
図3は、
図2のA-A矢視図である。なお、
図3では、壁部13の下端面13aにクロスハッチングを付してある。
図4は、トランスミッションケース1を説明する図である。
図4は、
図2のB-B矢視図である。なお、
図4では、支持部155、接合部12及びリブ7、8にクロスハッチングを付してある。
図5は、トランスミッションケース1を説明する図である。
図5は、トランスミッションケース1をカバー部材3側から見た斜視図である。
図6は、トランスミッションケース1を説明する図である。
図6は、
図4のA領域の拡大図である。なお、
図6では、位置関係を把握しやすくするために、リブ7、8、支持部155及び外径側壁部151にクロスハッチングを付してある。
図7は、トランスミッションケース1を説明する図である。
図7は、
図6のA-A断面の模式図である。なお、
図7では、リブ7にクロスハッチングを付してある。
【0010】
図1に示すように、自動変速機ケース4は、駆動力伝達装置6であるトルクコンバータ60と、インプットシャフト62と、トランスミッション61と、アウトプットシャフト63(シャフト)と、を収容する(
図1における破線参照)。
【0011】
駆動力伝達装置6では、エンジン(図示せず)の回転軸X回りの出力回転の伝達経路に沿って、トルクコンバータ60と、インプットシャフト62と、トランスミッション61と、アウトプットシャフト63と、が設けられている。
【0012】
駆動力伝達装置6では、エンジンの出力回転は、トルクコンバータ60からインプットシャフト62を介してトランスミッション61に伝達される。トランスミッション61に伝達された出力回転は、トランスミッション61を構成する複数の摩擦締結要素(図示せず)の締結/解放の組み合わせを変更することで、変速される。
トランスミッション61で変速された出力回転は、アウトプットシャフト63を介して、図示しない車両の駆動輪に伝達される。
【0013】
図1に示すように、自動変速機ケース4は、トルクコンバータ60を収容するコンバータハウジング2と、トランスミッション61を収容するトランスミッションケース1と、アウトプットシャフト63を収容するカバー部材3と、を有している。
【0014】
自動変速機ケース4の車両への設置状態を基準として、鉛直線VL方向(図中、上下方向)におけるトランスミッションケース1の下部には、潤滑油(図示せず)を貯留するオイルパン5が固定されている。
【0015】
トランスミッションケース1は、回転軸Xを囲む筒壁部10を有している。
筒壁部10は、回転軸X方向における一端10a側と他端10b側にそれぞれ接合部11、12を有している。
【0016】
接合部11には、回転軸X方向から、コンバータハウジング2の接合部20が当接している。これら接合部11、20は、締結部材であるボルトBで互いに連結されている。
【0017】
図1の拡大領域に示すように、接合部12には、ボルトボス121が設けられている。ボルトボス121のボルト穴120は、筒壁部10の他端10bに開口している。なお、
図1の拡大領域では、ボルトボス121周りを断面で示している。
ボルトボス121及びボルト穴120は、回転軸X周りの周方向に複数形成されている(
図4参照)。
【0018】
図1に示すように、筒壁部10の他端10bには、回転軸X方向から、カバー部材3の接合部30が当接している。カバー部材3は筒状を成している。接合部30は、カバー部材3の外周を囲むフランジである。
【0019】
図1の拡大領域に示すように、カバー部材3の接合部30には、回転軸X方向に貫通する貫通孔31が形成されている。トランスミッションケース1とカバー部材3は、接合部12のボルト穴120の中心線Cに、接合部30の貫通孔31の中心線を一致させた状態で、カバー部材3側からボルトBを螺入することで互いに固定される。
【0020】
図2に示すように、筒壁部10の他端10b側には、内径側に延びる壁部15が設けられている。壁部15は、回転軸Xに直交する向きで設けられている。
筒壁部10は、回転軸X方向における壁部15から一端10a側の内部空間にトランスミッション61(図中、仮想線参照)を収容する。筒壁部10は、回転軸X方向における壁部15から他端10b側の領域が、前記したカバー部材3(
図1参照)との接合部12となっている。
【0021】
壁部15の回転軸Xと交差する領域には、開口部150が形成されている。開口部150には、アウトプットシャフト63(図中、仮想線参照)が挿通する。アウトプットシャフト63は、壁部15を筒壁部10の一端10a側から他端10b側に横断する。
【0022】
壁部15の、筒壁部10の他端10b側(図中、右側)の面には、開口部150を囲む支持部155が設けられている。支持部155は、回転軸X方向で壁部15から離れる向きに突出している。
図4に示すように、支持部155は、回転軸X方向から見て円環形状を成している。すなわち、支持部155は円環部を構成する。
【0023】
図2に示すように、支持部155の内周には、ベアリングB1が設けられている。アウトプットシャフト63の外周が、ベアリングB1を介して支持部155で支持されている。
【0024】
壁部15は、回転軸Xの外径側から内径側に向かうにつれて、回転軸X方向で筒壁部10の他端10b側に段階的に近づく向きに膨出している。
具体的には、壁部15は、回転軸Xの径方向外径側で筒壁部10に接続する外径側壁部151と、回転軸Xの径方向内径側で支持部155に接続する内径側壁部153と、これら外径側壁部151と内径側壁部153とを接続する接続壁部152とを有する。
回転軸X方向において、内径側壁部153は、外径側壁部151よりも回転軸X方向で筒壁部10の他端10b側にオフセットしている。接続壁部152は、回転軸X方向において、外径側壁部151と内径側壁部153の間に位置している。接続壁部152は、段差部D、Dを介して外径側壁部151と内径側壁部153とにそれぞれ接続する。
【0025】
本実施形態では、これら外径側壁部151、接続壁部152及び内径側壁部153は、回転軸Xの径方向に沿って延びる部分の厚みがT1に設定されている。厚みT1は、回転軸X方向の厚みである。なお、これら外径側壁部151、接続壁部152及び内径側壁部153の厚みT1は、それぞれ異なっていても良い。
【0026】
図2に示すように、鉛直線VL方向における筒壁部10の下部には、壁部13が設けられている。壁部13は筒壁部10と一体に形成されている。壁部13は、鉛直線VL方向に沿って筒壁部10から離れる方向に延びている。
【0027】
図3に示すように、トランスミッションケース1を鉛直線VL方向下側から見ると、壁部13は、略矩形形状を成している。壁部13は、回転軸Xに沿う向きに設けられた長壁部131、132と、これら長壁部131、132の端部同士を接続する短壁部133、134と、から構成されている。長壁部131、132と、短壁部133、134とで囲まれた領域が、トランスミッションケース1の下部開口を構成する。
【0028】
また、
図2に示すように、筒壁部10における壁部13で囲まれた領域には、筒壁部10の内部と外部とを連通する連通孔105が形成されている。
図3に示すように、筒壁部10の下方側から見て、連通孔105は、壁部13で囲まれた領域内に形成されている。
【0029】
図2に示すように、壁部13の下端面13aには、オイルパン5が接合される。壁部13とオイルパン5で囲まれた空間には、コントロールバルブCVが収容される(
図2における仮想線参照)。
【0030】
図3に示すように、短壁部134は、回転軸X方向における接合部12の長さL1(
図2参照)と略整合する幅W1を有している。長壁部131、132及び短壁部133の幅W2は、短壁部134の幅W1よりも狭い(W2<W1)。短壁部134の外壁面134aは、回転軸Xに直交すると共に、筒壁部10の他端10b(
図2、
図5参照)と面一である。
【0031】
図3、
図5に示すように、壁部13の短壁部134側の下端面13aには、3つの油路Ha、Hb、Hcが開口している。油路Ha、Hb、Hcは、回転軸Xと交差する方向に沿って並んでいる。
【0032】
図2に示すように、油路Hcは、壁部15の内部を鉛直線VL方向に沿う向きに設けられている。鉛直線VL方向における下端は、コントロールバルブCVに設けられた油路(図示せず)と連通している。油路Hcの上端は、トランスミッションケース1内を通るケース内油路(図示せず)と連通している。なお、
図2では、油路Hcを図示しているが、油路Ha、Hbも同様である。
【0033】
図3に示すように、壁部15における油路Ha、Hb、Hcが通る領域には、回転軸X方向に厚みを増した肉厚部135、136、137が設けられている。回転軸X方向において肉厚部135、136、137の厚みT2は、壁部15の厚みT1よりも厚い(T2>T1)。肉厚部135、136、137は、回転軸X方向で壁部15の一方側と他方側の表面から膨出している。
【0034】
図4に示すように、回転軸Xを通る水平線HLよりも下側の領域では、壁部15から肉厚部135、136、137が紙面手前側に膨出している。
また、壁部15における肉厚部137と回転軸X周りの周方向で隣り合う位置には、肉厚部138が設けられている。肉厚部138もまた、壁部15から紙面手前側に膨出している。
【0035】
肉厚部138は、回転軸Xの径方向に延びている。肉厚部138の内部には、図示しない油路が通っている。肉厚部138内の油路は、開口部150とコントロールバルブCVの収容空間(
図2参照)とを連通する。
さらに、壁部15における肉厚部138と回転軸X周りの周方向で隣り合う位置には、貫通孔139が設けられている。貫通孔139は、回転軸X方向に壁部15を貫通している。貫通孔139には図示しない電装品のハーネス等が挿通される。
【0036】
ここで、
図4に示すように、トランスミッションケース1をカバー部材3側から見ると、短壁部134は、水平線HLに平行な直線HL1に沿う向きに延びている。
【0037】
図4及び
図5に示すように、トランスミッションケース1の接合部12は、短壁部134に接続している。具体的には、
図4に示すように、接合部12は、水平線HLの下側において、直線VL1、VL2に沿って延びる平行壁127、128を有する。直線VL1、VL2は、回転軸Xを通る鉛直線VLに平行な直線である。平行壁127、128の下端は、それぞれ直線HL1方向における短壁部134の一端部134bと他端部134cに接続している。
【0038】
接合部12は、回転軸Xを通る水平線HLの上側において、支持部155を囲む弧状壁129を有する。回転軸X周りの周方向における弧状壁129の両端は、平行壁127、128の上端に接続されている。回転軸X方向から見て、接合部12(弧状壁129、平行壁127、128)と、短壁部134とは、支持部155を囲む1つの連続壁を形成している。
【0039】
図4に示すように、接合部12には、複数のボルトボス121が設けられている。複数のボルトボス121は、回転軸X周りの周方向で間隔を空けて接合部12に設けられている。
図6に示すように、回転軸X方向から見て、ボルトボス121は接合部12の外周面12aから回転軸Xの径方向外径側に膨出している。ボルトボス121は円弧状の凹部121aを介して外周面12aから滑らかに膨出している。回転軸X方向から見て、凹部121aの曲率半径は、r2である。
【0040】
図4に示すように、直線HL1方向における短壁部134の一端部134bには、ボルトボス122aが設けられている。短壁部134の他端部134cには、ボルトボス122cが設けられている。短壁部134の一端部134bと他端部134cとの間には、ボルトボス122bが設けられている。
【0041】
接合部12の平行壁127と、短壁部134の一端部134bとは、ボルトボス122aを介して接続されている。また、接合部12の平行壁128と、短壁部134の他端部134cとは、ボルトボス122cを介して接続されている。
【0042】
図6に示すように、ボルトボス122cと短壁部134とが連続する部分の外周面には、径方向内径側に窪んだ円弧状の凹部122dが形成されている。回転軸X方向から見て、凹部122dの曲率半径r1は、凹部121aの曲率半径r2よりも大きい(r1>r2)。
【0043】
図4に示すように、複数のボルトボス121及び3つのボルトボス122a、122b、122cには、共通の穴径のボルト穴120が形成されている。ボルトボス122a~122cにもまた、ボルトBが螺入されることで、カバー部材3(
図1参照)を固定する。すなわち、複数のボルトボス121及び3つのボルトボス122a~122cは、締結部材であるボルトBが固定される複数の締結用ボス部を構成する。
【0044】
接合部12の弧状壁129には、周方向で隣り合うボルトボス121、121の間のうちの一か所に、ピン用ボス123が設けられている。ピン用ボス123には、ピン穴123a(凹部)が形成されている。ピン穴123aには、位置決め用のピンP1が挿入されている。
【0045】
図4に示すように、短壁部134における他端部134c側には、ピン用ボス124が設けられている。
図6に示すように、ピン用ボス124には、ピン穴124a(凹部)が形成されている。ピン穴124aには、位置決め用のピンP2が挿入されている。
なお、
図4、
図6では、ピンP1、P2にハッチングを付してある。ピンP1、P2としては、公知のノックピン、平行ピンなどの位置決めピンが挙げられる。ピンP1、P2の直径は同じであっても良く、異なっていても良い。すなわち、ピン用ボス123、124は、締結部材であるボルトBが固定されない非締結用ボス部を構成する。
【0046】
図4に示すように、ピン用ボス124は、ボルトボス122cからボルトボス122b側に直線HL1方向に距離CL1だけオフセットした位置に設けられている。また、ピン用ボス124は、ボルトボス122cと連続している。
【0047】
ピンP1、P2が挿入されたピン用ボス123、124は、鉛直線VLと水平線HLを挟んで対称となる位置に配置されている。トランスミッションケース1とカバー部材3とは、ピンP1、P2によって回転軸X周りの周方向の位置決めがなされた後、ボルトBによって互いに固定される(
図1参照)。トランスミッションケース1は、カバー部材3との固定部の剛性を高めるためにリブ7、8、9を有している。
【0048】
[リブ7(第1のリブ)]
図4に示すように、回転軸Xの径方向において、接合部12と支持部155との間には、複数のリブ7(第1のリブ)が設けられている。リブ7の各々は、回転軸Xの径方向に沿う向きに設けられている。リブ7は、回転軸Xの径方向内径側で支持部155に接続され、回転軸Xの径方向外径側で接合部12のボルトボス121に接続している。すなわち、ボルトボス121は、複数の締結用ボス部のうち、第1のリブが接続される一部の締結用ボス部を構成する。
【0049】
図2に示すように、リブ7は、壁部15の接合部12側の面から回転軸X方向に突出している。リブ7は、回転軸Xの径方向で、接合部12と壁部15と支持部155とに跨って設けられている。
【0050】
ここで、
図4に示すように、回転軸Xの径方向において、支持部155とボルトボス122aの間には、貫通孔139が設けられている。回転軸Xの径方向において、支持部155とボルトボス122bとの間には、肉厚部138が設けられている。そのため、ボルトボス122a、122bには、それぞれリブ7は接続していない。
【0051】
また、回転軸Xの径方向において、支持部155とボルトボス122cの間には、後記するリブ9が設けられている。リブ9は、リブ7とは異なるリブである。すなわち、短壁部134のボルトボス122a~122cには、第1のリブであるリブ7は接続されていない。従って、短壁部134のボルトボス122a~122cは、複数の締結用ボス部のうち、第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部を構成する。
【0052】
[リブ8(第2のリブ)]
図4に示すように、回転軸Xの径方向において、短壁部134と支持部155との間には、リブ8(第2のリブ)が設けられている。リブ8は、回転軸Xの径方向に沿う向きに設けられている。
図6に示すように、リブ8の幅T8は、リブ7の幅T7と略整合する(T8≒T7)。
【0053】
リブ8は、回転軸Xの径方向内径側で支持部155に接続され、回転軸Xの径方向外径側でピン用ボス124に接続されている。
【0054】
図4に示すように、ピン用ボス124は、ボルトボス122b、122cの間に設けられている。すなわち、ピン用ボス124は、リブ7が接続されない他の複数のボス部の間に設けられている。
【0055】
図4に示すように、リブ8は、回転軸Xの径方向における支持部155とピン用ボス124の間から分岐した分岐リブ85を有している。分岐リブ85は、直線HL1方向に延びて肉厚部136に接続している。
【0056】
図2に示すように、リブ8は、壁部15の接合部12側の面から回転軸X方向に突出している。リブ8は、回転軸Xの径方向で、短壁部134と壁部15と支持部155とに跨って設けられている。
【0057】
[リブ9(第3のリブ)]
図4に示すように、回転軸X周りの周方向で隣り合うリブ7とリブ8の間には、リブ9(第3のリブ)が設けられている。
図6に示すように、リブ9は、回転軸Xの径方向に延びる径方向壁91と、回転軸X周りの周方向に延びる周方向壁92と、を有する。径方向壁91は、ボルトボス122cと、壁部15における外径側壁部151と接続壁部152との段差部Dとを接続する。周方向壁92は、リブ7が接続されるボルトボス121と径方向壁91とを接続する。
【0058】
図6に示すように、径方向壁91と周方向壁92は略同じ幅T9を有している。
リブ9(径方向壁91、周方向壁92)の幅T9は、リブ7、8の幅T7、T8よりも細い(T9<T7、T9<T8)。
【0059】
径方向壁91と周方向壁92の交差部Kは、鉛直線VL方向におけるボルトボス121、122cの略中間に位置する。リブ9は、交差部K、ボルトボス122c及びボルトボス121の三点を結ぶトラス構造を構成している。
【0060】
図6に示すように、径方向壁91の長手方向に沿う直線Lp1は、ボルトボス122cのボルト穴120の中心C1よりも鉛直線VL方向上側を通ってボルトボス122cに接続している。周方向壁92の長手方向に沿う直線Lp2は、ボルトボス121のボルト穴120の中心C2よりも鉛直線VL方向下側を通ってボルトボス121に接続している。
回転軸X方向から見て、径方向壁91と周方向壁92は、ボルトボス122cの中心C1と、ボルトボス121の中心C2から、鉛直線VL方向で互いに近づく向きにそれぞれオフセットした位置に設けられている。
【0061】
図6に示すように、壁部15におけるリブ9が設けられた領域には、前記した肉厚部135が設けられている。肉厚部135は、壁部15の外径側壁部151から紙面手前側に膨出している。リブ9の周方向壁92は、外径側壁部151における肉厚部135を避けた領域に設けられている。
【0062】
図7に示すように、外径側壁部151は、回転軸Xの径方向におけるボルトボス121の中心C2からリブ7側に、回転軸Xに直交する底面151aを有している。外径側壁部151は、回転軸Xの径方向におけるボルトボス121の中心C2から平行壁128側に、回転軸X方向で他端10bに近づく向きに傾斜した傾斜面151bを有している。
傾斜面151bは、回転軸Xの径方向で底面151aから離れるにつれて、回転軸X方向で他端10bに近づく向きに傾斜している。
例えば周方向壁92を、中心C2に重なる位置に設けた場合、周方向壁92は、底面151a上に配置される。これに対して、本実施形態では、周方向壁92を、中心C2から回転軸Xの径方向にオフセットさせて、傾斜面151b上に設けている。これにより、周方向壁92は、回転軸X方向における外径側壁部151からの突出高さがΔHだけ短くなる。これにより、周方向壁92の形成に用いる材料の量が減るので、軽量化できる。
【0063】
以下、トランスミッションケース1の鋳造について説明する。
図8は、トランスミッションケース1の鋳造に用いる鋳型を説明する図である。
図9は、トランスミッションケース1の鋳造に用いる鋳型を説明する図である。
図9は、
図8のA-A矢視図である。
図10は、鋳型M内の溶湯Qの流れを説明する図である。
図11は、鋳型M内の溶湯Qの流れを説明する図である。
図11は、
図10のA-A矢視図である。
図12~
図13は、鋳型M内の溶湯Qの流れを順番に説明する図である。
なお、
図8~
図13では、トランスミッションケース1の形状に対応した鋳型Mの内部空間を破線で示している。また、
図10~
図13では、鋳型M内における溶湯Qが供給された領域にハッチングを付している。
【0064】
トランスミッションケース1は、鋳型Mに溶湯Qを流し込むことで鋳造により製造される。溶湯Qの成分は、マグネシウム合金である。
鋳型Mは、トランスミッションケース1の形状に対応した内部空間(トランスミッションケース1’、
図8における破線参照)を有する。以下の説明では、鋳型Mの内部空間におけるトランスミッションケース1の各部に対応した部分の符号に「’」をつけて表記する。
【0065】
図8に示すように、鋳型Mは、回転軸Xを鉛直線VL方向に沿わせて配置される。
具体的には、トランスミッションケース1’は、筒壁部10’の他端10b’側が鉛直線VL方向上側に配置され、一端10a’側が鉛直線VL方向下側に配置される。
また、トランスミッションケース1’は、回転軸Xの径方向における一方の端面側(図中、右側)に壁部13’の下端面13a’が配置される。
【0066】
図8及び
図9に示すように、鋳型Mには、3か所の溶湯Qの入口M1、M2、M3と、1か所の溶湯Qの出口M4が設けられている。入口M1、M2、M3及び出口M4は、鋳型Mの内部と外部とを連通する貫通孔である。
【0067】
図8に示すように、入口M1は、鉛直線VL方向における鋳型Mの下側(一端10a’側)で、壁部13’に接続されている。入口M1は、回転軸Xに沿う向きに設けられている。
【0068】
図8に示すように、入口M2は、鉛直線VL方向における鋳型Mの上側(他端10b’側)で、壁部13’の下端面13a’に接続されている。入口M2は、回転軸Xを一方側(壁部13’)から他方側(筒壁部10’)に横切る直線Lmに沿う向きに設けられている。
図9に示すように、入口M2は、短壁部134’の一端部134b’に接続されている。
【0069】
図9に示すように、短壁部134’の他端部134c’には、入口M3が接続されている。入口M3は、入口M2と同様に、回転軸Xを一方側から他方側に横切る直線Lmに沿う向きに設けられている。入口M3は、鉛直線VL方向において入口M2(
図8参照)と同じ位置に設けられており、下端面13a’に接続されている。
【0070】
図8に示すように、出口M4は、鉛直線VL方向における鋳型Mの上側(他端10b’側)で、回転軸Xを挟んで壁部13’と反対側に設けられている。出口M4は、直線Lmに沿う向きに設けられている。
具体的には、
図9に示すように、出口M4は、接合部12’の弧状壁129’と直線Lmとの交点に接続されている。なお、
図8及び
図9に示すように、鋳型Mに3か所の溶湯Qの入口M1、M2、M3が有る場合を、本発明の実施形態として説明したが、本発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではなく、鋳造の必要条件によって、入口M1と入口M2との間や、入口M1と入口M3との間に更に入口を1つ又は複数設けても良い。
【0071】
かかる構成のトランスミッションケース1の作用効果を説明する。
図10及び
図11に示すように、鋳型M内の空間(トランスミッションケース1’)には、入口M1~M3から溶湯Qが射出される。溶湯Qの多くは、まずトランスミッションケース1’内を、溶湯Qの射出方向に沿う向きに流れる。
【0072】
図10に示すように、入口M1から射出された溶湯Qの多くは、壁部13’を回転軸X方向に沿って流れる(矢印A)。これにより、壁部13’周りが溶湯Qで満たされる。その後、溶湯Qは、回転軸Xの径方向に沿って壁部13’側から筒壁部10’側に流れる(矢印B)。
【0073】
また、
図10に示すように、入口M2から射出された溶湯Qは、回転軸Xの径方向に沿って壁部13’側から筒壁部10’側に流れる(矢印C)。入口M3から射出された溶湯Qも同様に、矢印C方向に流れる(
図11参照)。
【0074】
図11に示すように、入口M2、M3から供給された直後の溶湯Qは、まず短壁部134’に充填される。その後、短壁部134’から、接合部12’、壁部15’、及びリブ7’、8’へ流れる。
【0075】
ここで、トランスミッションケース1では、回転軸X方向における短壁部134、接合部12及びリブ7、8の厚み(W1、L1)は、壁部15の厚みT1よりも厚い(
図2、
図3参照)。すなわち、鋳型M内の空間(トランスミッションケース1’)では、短壁部134’、接合部12’及びリブ7’、8’が、壁部15’よりも溶湯Qが通流する流路としての断面積が広くなっている。
従って、短壁部134’から流れる溶湯Qは、流路断面積の大きい接合部12’の平行壁127’、128’やリブ7’、8’を通りやすい(
図11における矢印C、D)。
【0076】
一方で、肉厚部137’、138’があるため、ボルトボス122b’にはリブ7’、8’に相当するものが設けられていない。また、ボルトボス122b’は、入口M2、M3から離れた位置にある。
従って、壁部15’におけるボルトボス122b’周りの領域は、短壁部134’から溶湯Qは供給されるものの、リブ7’、8’などが設けられた領域よりも溶湯Qの供給速度が遅くなる。そうすると、
図11に示すように、トランスミッションケース1’内において、溶湯Qは、壁部15’におけるボルトボス122b’周りの領域が、直線Lm方向における出口M4から離れる方向に窪んだ状態となる。
【0077】
ここで、溶湯Qからは、ガスGが発生する。ガスGは、鋳型M内に順次供給される溶湯Qによって押し出されて、出口M4から排出される(
図12参照)。
詳細は後記するが、鋳型M内の各部への溶湯Qの供給速度に差(アンバランス)が生じると、ガスGを適切に押し出せずに、ガスGを含んだまま鋳造されることがある(
図17参照)。巻き込まれたガスGは、鋳造後のトランスミッションケースに鋳巣として現れる。鋳巣は、溶湯Qの供給速度の差が大きくなるほど発生しやすくなる。
【0078】
図4に示すように、本実施形態にかかるトランスミッションケース1では、リブ8をピン用ボス124に接続している。ピン用ボス124は、ボルトボス122cからボルトボス122b側に距離CL1だけオフセットしている。
【0079】
図11に示すように、鋳型M内では、リブ8’は、ボルトボス122c’に接続する場合よりもボルトボス122b’の近くに配置される。これにより、リブ8’をボルトボス122c’に接続する場合よりも、リブ8’を通る溶湯Qの一部を、ボルトボス122b’周りの領域に供給しやすくなる。リブ8’には分岐リブ85’が接続されているため、よりボルトボス122b’周りの領域への供給が促進される。
【0080】
また、ボルトボス122cとピン用ボス124とは連続して形成されている(
図4参照)。これにより、例えばボルトボス122cとピン用ボス124とを分離して設けた場合よりも鋳型M内における、ピン用ボス124’周りの空間(容積)が大きくなる。
そうすると、ピン用ボス124’からリブ8’に供給される溶湯Qの量が増えるので、壁部15’におけるボルトボス122b’周りの領域に溶湯Qを供給することが促進される。
【0081】
このように、ピン用ボス124にリブ8が設けられたトランスミッションケース1とすることで、鋳造時に、溶湯Qが供給されにくい壁部15’におけるボルトボス122b’周りの領域にも、積極的に溶湯Qを供給することができる。これにより、鋳型M内の各部への溶湯Qの供給速度の差が大きくなることを低減し、溶湯Qから発生するガスGを、出口M4側に向かって、順次押し出すことができる(
図12参照)。これにより、鋳造後のトランスミッションケース1に鋳巣が発生することを低減している(
図13参照)。
【0082】
[比較例]
図14は、比較例に係るトランスミッションケース100を説明する図である。
図15~
図17は、比較例に係るトランスミッションケース100の鋳造を順番に説明する図である。以下の比較例では、本実施形態と異なる部分のみを説明する。
【0083】
図14に示すように、トランスミッションケース100のリブ800は、ボルトボス122cに接続されている。リブ800は、ボルトボス122cに接続している分だけ、ピン用ボス124よりもボルトボス122bから直線HL1方向に距離CL1だけ離れた位置に設けられている。
【0084】
図15~
図17に示すように、トランスミッションケース100は、鋳型MAに溶湯Qを流し込むことで形成される。鋳型MAは、トランスミッションケース100の形状に対応した空間(トランスミッションケース100’、
図15~
図17における破線参照)を有する。
【0085】
鋳型MA内において、トランスミッションケース100’は、リブ800’がボルトボス122b’から離れている分、壁部15’におけるボルトボス122b’周りの領域への供給が遅れる。
【0086】
入口M3からリブ800’に供給された溶湯Qは、壁部15’におけるボルトボス122b’周りの領域へ到達するよりも先に、支持部155’に到達する(
図15における矢印D参照)。
【0087】
そうすると、
図16に示すように、先に支持部155’に到達した溶湯Qが壁となって、ボルトボス122b’周りの領域から発生するガスGは、直線Lm方向における出口M4側に向かって押し出されることが阻害されて、鋳型MA内に取り残される。鋳造後のトランスミッションケース100には、溶湯Q内に取り残されたガスGが、鋳巣となって現れる(
図17参照)。
【0088】
本実施形態に係るトランスミッションケース1では、ピン用ボス124にリブ8を接続することで、リブが形成されない領域である壁部15のボルトボス122b周りの領域にも、鋳造時に溶湯Qが供給されやすくなっている。これにより、鋳型M内の各部への溶湯Qの供給速度の差が小さくなり、
図15~
図17の比較例のように溶湯Qから発生するガスGを巻き込んでしまうことを低減している。
【0089】
ここで、ピン用ボス124にリブ8を接続すると、回転軸X周りの周方向で隣り合うリブ8とリブ7との間隔が、比較例に係るトランスミッションケース100よりも広くなるが、リブ9を設けることで、剛性を確保している。
【0090】
また、
図6に示すように、本実施形態に係るトランスミッションケース1では、リブ9の径方向壁91の長手方向に沿う直線Lp1を、ボルトボス122cのボルト穴120の中心C1よりも上側を通るようにしている。これにより、径方向壁91と短壁部134との間隔は広くなる。そうすると、鋳型Mにおける径方向壁91と短壁部134を構成する部分の間隔を広くできるので、溶湯Qから鋳型Mに伝わる熱が分散しやすくなる。これにより、溶湯Qの熱によって鋳型Mの温度が局所的に高まって、ヒートクラックが発生することを低減している。
また、リブ9の周方向壁92の長手方向に沿う直線Lp2を、ボルトボス121のボルト穴120の中心C2よりも下側を通るようにしている。これにより、周方向壁92とリブ7との間隔は広くなる。そうすると、鋳型Mにおける周方向壁92とリブ7を構成する部分の間隔を広くできるので、溶湯Qから鋳型Mに伝わる熱が分散しやすくなる。これにより、溶湯Qの熱によって鋳型Mの温度が局所的に高まって、鋳型Mにヒートクラックが発生することを低減している。
【0091】
以下に、本発明のある態様におけるトランスミッションケース1の例を列挙する。
(1、2)トランスミッションケース1(ケース)は、駆動力伝達装置6のトランスミッション61を内装する。
トランスミッションケース1は、駆動力を伝達するアウトプットシャフト63(シャフト)が挿通される開口部150を形成する支持部155(円環部)を有する。
支持部155の周囲には、複数のボルトボス121が設けられている。
また、支持部155の周囲には、ボルトボス122a、122b、122cが設けられている。
ボルトボス121、122a、122b、122cは、締結用ボス部である。
ボルトボス121、122a、122b、122cには、それぞれボルトB(締結部材)が固定される。
回転軸X方向(シャフトの軸方向)から見て、ボルトボス121、122a、122b、122c(複数の締結用ボス部)のうち、ボルトボス121(一部の締結用ボス部)と、支持部155との間にはリブ7(第1のリブ)が形成されている。
ボルトボス121、122a、122b、122cのうち、ボルトボス122a、122b、122cは、リブ7が接続されない他の複数の締結用ボス部である。
ボルトボス122b、122cの間には、ピン用ボス124が設けられている。
ピン用ボス124は、ボルトBが固定されない非締結用ボス部である。
ピン用ボス124は、位置決め用のピンP2が挿入されるピン穴124a(凹部)を有する。
ピン用ボス124と、支持部155との間には、リブ8(第2のリブ)が形成されている。
【0092】
このように構成すると、鋳巣の発生を低減し、歩留まりが向上するトランスミッションケース1を提供できる。
具体的には、トランスミッションケース1では、リブ8をピン用ボス124と支持部155との間に設けることで、リブ8をボルトボス122bに近づけている。ボルトボス122bは、リブ7、8が接続されない締結用ボス部である。
これにより、鋳造時において、リブ8’を介したボルトボス122b’側への溶湯Qの供給が促進される。そうすると、鋳型M内の各部への溶湯Qの供給速度の差が小さくなり、溶湯Qから発生するガスGを巻き込んでしまうことを低減できる。従って、鋳巣の発生を低減して、歩留まりが向上するトランスミッションケース1を提供できる。
【0093】
(3)回転軸X方向から見て、ピン用ボス124は、回転軸Xの径方向における壁部13の下端面13a(一方の端面)と支持部155との間に設けられている。
トランスミッションケース1は、鋳型Mの入口M1~M3から溶湯Qを供給することで鋳造される。
溶湯Qの入口M1~M3は、回転軸Xの径方向におけるトランスミッションケース1’の壁部13’の下端面13a’側に設けられている。
【0094】
このように構成すると、鋳造時において、溶湯Qは、壁部13’に下端面13a’側からピン用ボス124’を介してリブ8’に供給される。これにより、リブ7’、8’が接続されない締結用ボス部であるボルトボス122b’側にも溶湯Qが供給されやすくなる。そうすると、鋳型M内の各部への溶湯Qの供給速度の差が小さくなり、溶湯Qから発生するガスGを巻き込んでしまうことを低減できる。従って、鋳巣の発生を低減し、歩留まりが向上するトランスミッションケース1を提供できる。
【0095】
(4)ピン用ボス124は、ボルトボス122cに連結している。
ボルトボス122cは、リブ7が接続されない他の複数の締結用ボス部のうちの1つである。
【0096】
このように構成して、ピン用ボス124とボルトボス122cが連結されたトランスミッションケース1とすることで、鋳型Mにおいて、溶湯Qが溜まる空間(ピン用ボス124’、ボルトボス122c’)を大きくできる。これにより、鋳造時において、ピン用ボス124’からリブ8’を介して供給される溶湯Qの量がより多くなり、ボルトボス122b’側にも溶湯Qを供給しやすくなる。そうすると、鋳型M内の各部への溶湯Qの供給速度の差が小さくなり、溶湯Qから発生するガスGを巻き込んでしまうことを低減できる。従って、鋳巣の発生を低減できる。
特に、ピン用ボス124を壁部13の下端面13aに近づける程、鋳型Mにおいて、溶湯Qが溜まる空間(ピン用ボス124’、ボルトボス122c’)を入口M3に近づけることができる。これにより、例えば溶湯Qが平行壁128’側へ流れてしまう前に、ピン用ボス124’、ボルトボス122c’に取り込むことができるので、リブ8’へ供給される溶湯Qの量を増やすことができる。
【0097】
(5)ボルトボス122cが設けられた領域に、円弧状の凹部122dを有する。
ボルトボス122cは、リブ7が接続されない他の複数のボス部のうちの1つである。
ボルトボス121が設けられた領域に、円弧状の凹部121aを有する。
回転軸X方向から見て、凹部122dの半径r1は、凹部121aの半径r2よりも大きい。
【0098】
このように構成すると、リブ7が接続されないボルトボス122cにおいて、カバー部材3との間で捻じれが生じた場合の応力集中を軽減することができる。これにより、応力集中によるトランスミッションケース1の割れを防止することができる。一方、リブ7が接続されたボルトボス121において、駄肉を少なくし、トランスミッションケース1全体の重量が重くなることを低減することできる。
【0099】
(6)回転軸X周りの周方向で隣り合う、リブ7と、リブ8との間には、リブ9(第3のリブ)が設けられている。
【0100】
回転軸X周りの周方向で隣り合うリブ7、8の間隔は、回転軸X周りの周方向で隣り合うリブ7、7の間隔よりも広くなる。
そこで、上記のように構成して、リブ7、8の設けられていないボルトボス122c周りにリブ9を設けることで、ボルトボス122c周りの剛性強度を確保することができる。
【0101】
(7)リブ9は、回転軸X方向から見て、断面がトラス構造である。
【0102】
このように構成すると、ボルトボス122cに単にリブを一本設ける場合よりも、面強度を向上することができる。
【0103】
(8)リブ9は、ボルトボス122cから径方向内径側に延びる径方向壁91と、径方向壁91とボルトボス121とを周方向で接続する周方向壁92と、を有する。
リブ9は、径方向壁91と周方向壁92との交差部K、ボルトボス122c、及びボルトボス121、の三点を結ぶことでトラス構造を構成する。
【0104】
このように構成すると、径方向壁91と周方向壁92と平行壁128との間で応力を分散させることができる。
【0105】
(9)径方向壁91は、長手方向に沿う直線Lp1が、鉛直線VL方向におけるボルトボス122cの中心C1の上側を通る。
周方向壁92は、長手方向に沿う直線Lp2が、鉛直線VL方向におけるボルトボス121の中心C2の下側を通る。
すなわち、回転軸X方向から見て、径方向壁91と周方向壁92は、ボルトボス122cの中心C1と、ボルトボス121の中心C2から、鉛直線VL方向で互いに近づく向きにそれぞれオフセットした位置に設けられている。
【0106】
このように構成すると、径方向壁91と周方向壁92とが、それぞれ短壁部134、リブ7から離れた位置に配置される。
そうすると、鋳型Mにおける径方向壁91と短壁部134に対応する部分の間隔、及び周方向壁92とリブ7に対応する部分の間隔を広くできるので、溶湯Qから鋳型Mに伝わる熱を分散しやすくなる。これにより、溶湯Qの熱によって鋳型Mの温度が局所的に高まって、ヒートクラックが発生することを低減している。
【0107】
また、
図7に示すように、外径側壁部151は、回転軸Xの径方向におけるボルトボス121の中心C2からリブ7側に、回転軸Xに直交する底面151aを有している。外径側壁部151は、回転軸Xの径方向におけるボルトボス121の中心C2から平行壁128側に、回転軸X方向で他端10bに近づく向きに傾斜した傾斜面151bを有している。傾斜面151bは、回転軸Xの径方向で底面151aから離れるにつれて、回転軸X方向で他端10bに近づく向きに傾斜している。
そこで、上記のように構成して、周方向壁92を、中心C2から回転軸Xの径方向にオフセットさせることで、周方向壁92を傾斜面151b上に設けることができる。そうすると、周方向壁92を底面151aに設ける場合よりも、回転軸X方向における外径側壁部151からの突出高さをΔHだけ短くできる。これにより、周方向壁92のトラス構造の機能を維持しつつ、周方向壁92の形成に必要な材料の量を減らしている。
【0108】
(10)径方向壁91と周方向壁92の幅T9は、リブ7、8の幅T7、T8よりも細い。
【0109】
このように構成すると、トランスミッションケース1全体の重量が重くなることを低減することできる。
【0110】
[変形例]
前記した実施形態では、リブ8をピン用ボス124に接続した場合を例示したが、この態様に限定されない。ボスは、ピン用でなくてもよい。また、リブ8は直線HL1方向において、ボルトボス122cよりもボルトボス122b側に配置できればよい。なお、以下の変形例では、本実施形態と異なる部分のみを説明する。
【0111】
図18は、変形例に係るトランスミッションケース1Aを説明する図である。
図18に示すように、トランスミッションケース1Aの短壁部134には、直線HL1方向でボルトボス122cに隣り合う位置に突起部14が設けられている。突起部14は、ボルトBが固定されない非締結用ボス部を構成する。
突起部14は、ボルトボス122cからボルトボス122b側に直線HL1方向に距離CL1だけオフセットした位置に設けられている。
【0112】
リブ8Aは、回転軸Xの径方向に延びて、支持部155と突起部14とを接続している。変形例に係るトランスミッションケース1Aでは、リブ8Aを突起部14と支持部155との間に設けて、ボルトボス122bに近づけている。
【0113】
図示は省略するが、これにより、鋳造時において、リブ8A’を通ってボルトボス122b’側に溶湯Qが供給されることが促進され、溶湯Qから発生するガスGを巻き込んでしまうことを低減できる。従って、鋳巣の発生を低減して、歩留まりが向上するトランスミッションケース1Aを提供できる。
【0114】
変形例にかかるトランスミッションケース1Aは、例えば以下の構成を有する。
(1)トランスミッションケース1A(ケース)は、駆動力伝達装置6のトランスミッション61を内装する。
トランスミッションケース1Aは、駆動力を伝達するアウトプットシャフト63(シャフト)が挿通される開口部150を形成する支持部155(円環部)を有する。
支持部155の周囲には、複数のボルトボス121が設けられている。
また、支持部155の周囲には、ボルトボス122a、122b、122cが設けられている。
ボルトボス121、122a、122b、122cは、締結用ボス部である。
ボルトボス121、122a、122b、122cには、それぞれボルトB(締結部材)が固定される。
回転軸X方向(シャフトの軸方向)から見て、ボルトボス121、122a、122b、122c(複数の締結用ボス部)のうち、ボルトボス121(一部の締結用ボス部)と、支持部155との間にはリブ7(第1のリブ)が形成されている。
ボルトボス121、122a、122b、122cのうち、ボルトボス122a、122b、122cは、リブ7が接続されない他の複数の締結用ボス部である。
ボルトボス122b、122cの間には、突起部14が設けられている。
突起部14は、ボルトBが固定されない非締結用ボス部である。
突起部14と、支持部155との間には、リブ8A(第2のリブ)が形成されている。
【0115】
このように構成すると、鋳巣の発生を低減し、歩留まりが向上するトランスミッションケース1Aを提供できる。
【0116】
なお、変形例に係るトランスミッションケース1Aでは、突起部14とボルトボス122cとを直線HL1方向に離間させているが、互いに連結させても良い。これにより、鋳型Mにおいて、溶湯Qが溜まる空間を大きくでき、リブ8A’に供給する溶湯Qの量を多くできる。
【0117】
なお、本実施形態では、ケースの一例として、車両に搭載されるトランスミッションケース1を例示したが、この態様に限定されない。車両以外に用いられるケースにも適用することができる。
【0118】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0119】
1、1A :トランスミッションケース(ケース)
6 :駆動力伝達装置
7 :リブ(第1のリブ)
8、8A :リブ(第2のリブ)
9 :リブ(第3のリブ)
14 :突起部(非締結用ボス部)
63 :アウトプットシャフト(シャフト)
91 :径方向壁
92 :周方向壁
13a :下端面(一方の端面)
121 :ボルトボス(第1のリブが接続される一部の締結用ボス部)
121a :凹部
122a、122b、122c :ボルトボス(第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部)
122d :凹部
124 :ピン用ボス(非締結用ボス部)
124a :ピン穴(凹部)
13a :下端面(一方の端面)
150 :開口部
155 :支持部(円環部)
B :ボルト(締結部材)
C1 :中心(第1のリブが接続されない他の複数の締結用ボス部の中心)
C2 :中心(第1のリブが接続される一部の締結用ボス部の中心)
K :交差部
M :鋳型
P2 :ピン
Q :溶湯
X :回転軸(シャフトの軸)