(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】速硬性グラウト組成物及び速硬性グラウト材
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240826BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240826BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20240826BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240826BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20240826BHJP
C04B 24/18 20060101ALI20240826BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
C04B24/26 E
C04B24/22 C
C04B24/18 B
C04B22/10
(21)【出願番号】P 2020043113
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 和彦
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-019658(JP,A)
【文献】特開2011-201126(JP,A)
【文献】特開2008-174429(JP,A)
【文献】特開2017-165628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、混合セメント及びエコセメントから選ばれるセメント、カルシウムアルミネート類
並びに石膏類からなる結合材と、減水剤とを含有し、
前記セメントの含有量が、結合材100質量部に対し、30~55質量部であり、
前記カルシウムアルミネート
類の含有量が、結合材100質量部に対し、30~45質量部であり、
前記石膏類のブレーン比表面積が9000~17000cm
2/gであり、
前記減水剤が、少なくとも、ポリカルボン酸系減水剤及びナフタレンスルホン酸系減水剤を含む、速硬性グラウト組成物。
【請求項2】
前記減水剤が、更に、リグニンスルホン系減水剤を含む、請求項1に記載の速硬性グラウト組成物。
【請求項3】
更に、硬化促進剤を含有する、請求項1又は2に記載の速硬性グラウト組成物。
【請求項4】
更に、発泡剤を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の速硬性グラウト組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の速硬性グラウト組成物と、水とを含有し、
前記水の含有量が、前記結合材100質量部に対し、32~42質量部である、速硬性グラウト材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速硬性グラウト組成物及び速硬性グラウト材に関する。
【背景技術】
【0002】
土木構造物や建築構造物の構築又は補修、或いは機械の設置等において、流動性の高いセメント系グラウト材が用いられている。道路や鉄道等の構造物の補修工事等のように工事できる時間が限られている場合は、グラウト材の充填後速やかに強度発現するグラウト材の使用が望まれていることもあり、材齢3時間程度で所要の強度を発現する速硬性のグラウト材が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
また、最近ではグラウト材に要求される性能は高まっており、短時間でより高い実用強度を発現するケースも増えてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平07-309658号公報
【文献】特開平11-021160号公報
【文献】特開2005-289656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、速硬性を具備したグラウト材には、カルシウムアルミネート等の速硬成分や石膏等粉末度の高い材料の使用は必須であり、グラウト材としての流動性を担保しつつ、短時間でより高い強度を発現しようすると、水なじみが悪く(水と練混ぜる際に水と材料がしっかりとまざり、なじむまでに時間を要する)、作業性に優れないという課題があった。
【0005】
したがって、本発明は、良好な流動性及び作業性を確保し、且つ、速硬性及び強度発現性に優れる速硬性グラウト組成物及び速硬性グラウト材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題について本発明者が鋭意検討を行った結果、石膏類のブレーン比表面積と、特定の種類の減水剤に着目することにより、水なじみがよいため作業しやすく、流動性、速硬性及び強度発現性にも優れた速硬性グラウト組成物及び速硬性グラウト材が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の[1]~[5]である。
[1] ポルトランドセメント、混合セメント及びエコセメントから選ばれるセメント、カルシウムアルミネート類並びに石膏類からなる結合材と、減水剤とを含有し、
前記セメントの含有量が、結合材100質量部に対し、30~55質量部であり、
前記カルシウムアルミネート類の含有量が、結合材100質量部に対し、30~45質量部であり、
前記石膏類のブレーン比表面積が9000~17000cm2/gであり、
前記減水剤が、少なくとも、ポリカルボン酸系減水剤及びナフタレンスルホン酸系減水剤を含む、速硬性グラウト組成物。
[2]前記減水剤が、更に、リグニンスルホン系減水剤を含む、[1]に記載の速硬性グラウト組成物。
[3]更に、硬化促進剤を含有する、[1]又は[2]に記載の速硬性グラウト組成物。
[4]更に、発泡剤を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の速硬性グラウト組成物。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の速硬性グラウト組成物と、水とを含有し、
前記水の含有量が、前記結合材100質量部に対し、32~42質量部である、速硬性グラウト材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水なじみがよく、良好な作業性及び流動性を確保し、且つ、速硬性及び強度発現性に優れる速硬性グラウト組成物及び速硬性グラウト材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0010】
本実施形態の速硬性グラウト組成物は、セメント、カルシウムアルミネート類及び石膏類からなる結合材と、減水剤とを含有する。
【0011】
本明細書において、結合材とは、セメント、カルシウムアルミネート類及び石膏類の三成分からなる。
【0012】
セメントは、種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント;高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカフュームを含む混合セメント;エコセメント;速硬性セメント等が挙げられる。セメントとしては、初期の強度発現性及び流動性の向上を両立しやすいという観点から、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントが好ましい。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0013】
セメントの含有量は、結合材100質量部に対し、30~80質量部であることが好ましく、35~70質量部であることがより好ましく、38~55質量部であることが更に好ましい。セメントの含有量が上記範囲内であれば、良好な流動性が得られ易く且つ初期の強度発現性に優れやすい。
【0014】
カルシウムアルミネート類は、CaOをC、Al2O3をA、Na2OをN、及びFe2O3をFとして表したとき、C3A、C2A、C12A7、CA、又はCA2等と表示される鉱物組成を有するカルシウムアルミネート、C4AF等と表示されるカルシウムアルミノフェライト、カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶又は置換したC3A3・CaF2やC11A7・CaF2等と表示されるカルシウムフルオロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート、C8NA3やC3N2A5等と表示されるカルシウムナトリウムアルミネート、カルシウムリチウムアルミネート、アルミナセメント、並びにC3A3・CaSO4等と表示されるカルシウムサルホアルミネートを総称するものである。このカルシウムアルミネート類は、結晶質のもの、非結晶質のもの、非晶質及び結晶質が混在したもののいずれも使用可能である。カルシウムアルミネート類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。カルシウムアルミネート類の粉末度は、初期強度発現性をより向上させるという観点から、ブレーン比表面積で3000cm2/g以上であることが好ましく、5000cm2/g以上であることがより好ましい。また、カルシウムアルミネート類の粉末度は、ブレーン比表面積で8000cm2/g以下であることが好ましい。
【0015】
カルシウムアルミネート類の含有量は、結合材100質量部に対し、10~50質量部であることが好ましく、15~48質量部であることがより好ましく、25~45質量部であることが更に好ましい。カルシウムアルミネート類の含有量が上記範囲内であれば、速硬性と可使時間の両立及び初期の強度発現性に優れやすい。
【0016】
石膏類としては、例えば、無水石膏、半水石膏、二水石膏が挙げられる。石膏類としては、強度発現性を更に向上させるという観点から、無水石膏が好ましい。石膏類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0017】
石膏類のブレーン比表面積は5000~17000cm2/gである。石膏類のブレーン比表面積が上記範囲外であると、より高い初期の強度発現性が得られない。石膏類のブレーン比表面積は、速硬性及びより高い初期の強度発現性が得られやすいという観点から、7000~15000cm2/gであることが好ましく、9000~14000cm2/gであることがより好ましく、10000~14000cm2/gであることが更に好ましい。
【0018】
石膏類の含有量は、結合材100質量部に対し、5~30質量部であることが好ましく、10~28質量部であることがより好ましく、12~25質量部であることが更に好ましい。石膏類の含有量が上記範囲内であれば、良好な流動性や可使時間を確保し易く且つ速硬性及び初期の強度発現性に優れやすい。
【0019】
本実施形態の速硬性グラウト組成物は、減水剤として、少なくとも、ポリカルボン酸系減水剤及びナフタレンスルホン酸系減水剤を含む。ポリカルボン酸系減水剤及びナフタレンスルホン酸系減水剤を含まない場合、水なじみの悪化や所定の流動性が得られない場合がある。減水剤とは、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む。
減水剤としては、ポリカルボン酸系減水剤及びナフタレンスルホン酸系減水剤以外の減水剤を併用してもよく、このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。
ポリカルボン酸系減水剤及びナフタレンスルホン酸系減水剤以外の減水剤としては、例えば、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミンスルホン酸系減水剤が挙げられる。これらの中でも、温度による物性の変化をより低減し、水なじみを更に良好にするという観点から、リグニンスルホン酸系減水剤又はメラミンスルホン酸系減水剤が好ましい。
【0020】
減水剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.2~1.0質量部であることが好ましく、0.25~0.8質量部であることがより好ましく、0.3~0.7質量部であることが更に好ましい。減水剤の含有量が上記範囲内であれば、流動性に優れたものとなりやすい。
【0021】
ポリカルボン酸系減水剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.01~0.5質量部であることが好ましく、0.03~0.2質量部であることがより好ましく、0.05~0.15質量部であることが更に好ましい。ポリカルボン酸系減水剤の含有量が上記範囲内であれば、水なじみ及び流動性に優れたものとなりやすい。
【0022】
ナフタレンスルホン酸系減水剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.1~0.9質量部であることが好ましく、0.15~0.7質量部であることがより好ましく、0.2~0.5質量部であることが更に好ましい。ナフタレンスルホン酸系減水剤の含有量が上記範囲内であれば、水なじみ及び流動性に優れたものとなりやすく、材料分離も起こしにくい。
【0023】
リグニンスルホン酸系減水剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.01~0.3質量部であることが好ましく、0.03~0.2質量部であることがより好ましく、0.05~0.15質量部であることが更に好ましい。リグニンスルホン酸系減水剤の含有量が上記範囲内であれば、水なじみ及び流動性に優れたものとなりやすい。
【0024】
本実施形態の速硬性グラウト組成物は、更に、硬化促進剤を含有してもよい。
硬化促進剤としては、アルカリ金属炭酸塩が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩は、アルカリ金属(水素原子を除く周期表第一族元素)の炭酸塩であれば特に限定されるものではない。アルカリ金属炭酸塩としては、強度発現性を更に促進させるという観点から、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが好ましい。アルカリ金属炭酸塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0025】
アルカリ金属炭酸塩の含有量は、結合材100質量部に対して0.3~2質量部であることが好ましく、0.5~1.5質量部であることがより好ましく、0.7~1.2質量部であることが更に好ましい。アルカリ金属炭酸塩の含有量が上記範囲内であれば、良好な流動性や可使時間を確保し易く、且つ初期の強度発現性が一層優れたものとなる。
【0026】
本実施形態の速硬性グラウト組成物は、更に、発泡剤を含有してもよい。
発泡剤は特に限定されず、例えば、水と混練後に気体を発生する物質であればよい。発泡剤としては、アルミニウムや亜鉛等の両性金属の粉末、過炭酸ナトリウム等の過酸化物質等が挙げられる。発泡剤としては、効果的に発泡し、膨張作用をより一層発揮することができるという観点から、過炭酸ナトリウムが好ましい。発泡剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0027】
発泡剤の含有量は、結合材100質量部に対して0.01~0.2質量部であることが好ましく、0.03~0.18質量部であることがより好ましく、0.05~0.15質量部であることが更に好ましい。発泡剤の含有量が上記範囲内であれば、速硬性グラウト材充填後の沈下減少を防止しやすく、過度な膨張による強度低下を起こしにくい。
【0028】
本実施形態の速硬性グラウト組成物は、更に、細骨材を含有してもよい。
細骨材としては、例えば、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。細骨材は、これらの中から、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度に調整した珪砂、石灰石砂等を用いることが好ましい。細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。細骨材は、通常用いられる粒径5mm以下のもの(5mmふるい通過分)を使用するのが好ましい。
【0029】
細骨材の粒度は特に限定されるものではなく、必要とする細骨材の粒度の範囲内で調整することができる。細骨材は、JIS A 1102:2014「骨材のふるい分け試験方法」により規定される粗粒率からその粒度を考慮することができる。モルタルとした時により良好な流動性が得られやすく、ブリーディングを抑制しやすいという観点から、細骨材の粗粒率は、1~4であることが好ましく、1.5~3.8であることがより好ましく、2~3.5であることが最も好ましい。
【0030】
細骨材の含有量は、結合材100質量部に対し、50~250質量部であることが好ましく、60~180質量部であることがより好ましく、80~150質量部であることが更により好ましい。細骨材の含有量が上記範囲内であれば、より良好な流動性を確保しつつ、短時間での強度発現性がより一層優れたものとなる。
【0031】
本実施形態の速硬性グラウト組成物は、凝結遅延剤を含有してもよい。
凝結遅延剤としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸又はその塩;ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、リン酸塩、アルカリ金属重炭酸塩等の無機塩;糖類が挙げられる。これらの中でも、クエン酸、クエン酸塩、酒石酸及び酒石酸塩が好ましい。凝結遅延剤は、粉体であってもよく、液状体(例えば、水溶液、エマルジョン、懸濁液の形態)であってもよい。凝結遅延剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0032】
凝結遅延剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.01~1質量部であることが好ましく、0.1~0.8質量部であることがより好ましく、0.12~0.5質量部であることが更に好ましい。凝結遅延剤の含有量が上記範囲内であれば、可使時間を更に確保しやすく、初期強度発現性が低下しにくい。
【0033】
本実施形態の速硬性グラウト組成物は、消泡剤を含有してもよい。
消泡剤は、一般のセメント用消泡剤、セメントモルタル用消泡剤又はコンクリートに使用される消泡剤であれば特に限定されず、例えば、鉱油系消泡剤、エステル系消泡剤、アミン系消泡剤、アミド系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、シリコーン系消泡剤が挙げられる。消泡剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。消泡剤は、液体のものでも粉体のものでもよく、プレミックスモルタルのようにプレミックス、つまり、セメント及び混和材料を乾式混合したときに材料が均質化し易いという観点から、粉体のものを使用することが好ましい。
【0034】
消泡剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.003~0.2質量部であることが好ましく、0.005~0.15質量部であることがより好ましく、0.008~0.1質量部であることが更に好ましい。
【0035】
本実施形態の速硬性グラウト組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和剤(材)を配合してもよい。混和剤(材)としては、例えば、膨張材、セメント用ポリマー、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、繊維、高炉スラグ微粉末、石粉、土鉱物粉末、スラグ粉末、フライアッシュ、シリカフューム、無機質フィラー、火山灰等が挙げられる。
【0036】
本実施形態の速硬性グラウト組成物を製造する方法は、特に限定されず、例えば、V型混合機や可傾式コンクリートミキサー等の重力式ミキサー、ヘンシェル式ミキサー、噴射型ミキサー、リボンミキサー、パドルミキサー等のミキサーにより混合することで製造することができる。
【0037】
本実施形態の速硬性グラウト組成物は、水と混合して速硬性グラウト材として調製することができ、その水の含有量は用途に応じて適宜調整すればよい。水の含有量は、結合材100質量部に対し、32~42質量部であることが好ましく、34~40質量部であることがより好ましく、36~40質量部であることが更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、より流動性を確保しやすく、材料分離の発生、及び初期強度発現性の低下を抑制しやすい。
【0038】
本実施形態の速硬性グラウト材の調製は、通常の速硬性グラウト組成物と同様の混練器具を使用することができ、特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、モルタルミキサー、グラウトミキサー、ハンドミキサー、傾胴ミキサー、二軸ミキサー等が挙げられる。
【0039】
本実施形態の速硬性グラウト組成物を使用することにより、水なじみがよく、作業性及び流動性に優れ、さらには、硬化後の強度発現性が良好な速硬性グラウト材を提供することが可能となる。したがって、本実施形態の速硬性グラウト組成物及び速硬性グラウト材は、通常の補修作業等に加え、素早い施工が求められている道路や鉄道等の構造物の補修工事等にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、実施例8、12、13、14、15は、参考例である。
【0041】
[材料]
セメント:早強ポルトランドセメント
カルシウムアルミネート類:アルミナセメント
石膏類:無水石膏(ブレーン比表面積:4000~15000cm2/g)
減水剤A:ポリカルボン酸系減水剤
減水剤B:ナフタレン系スルホン酸減水剤
減水剤C:リグニンスルホン酸系減水剤
減水剤D:メラミンスルホン酸系減水剤
細骨材:石灰石骨材、粗粒率2.90
硬化促進剤:炭酸リチウム及び炭酸ナトリウムの1:1混合品
消泡剤:ポリエーテル系消泡剤
発泡剤:過炭酸ナトリウム
凝結遅延剤:クエン酸
【0042】
[速硬性グラウト組成物の配合設計]
セメント、カルシウムアルミネート類及び石膏類からなる結合材100質量部に対して、各種材料を表1に示す量とし、硬化促進剤を0.9質量部、発泡剤を0.12質量部、消泡剤を0.04質量部、凝結遅延剤を0.2質量部、細骨材を100質量部とし、配合設計した。
【0043】
[速硬性グラウト材の作製]
20℃環境下において、10Lの円筒容器に配合設計した速硬性グラウト組成物6000gと水を添加し、ハンドミキサーで90秒混練して速硬性グラウト材を作製した。水は、結合材100質量部に対して37質量部を添加した。
【0044】
[評価方法]
下記の評価方法にて、各種速硬性グラウト材の評価を行った。各試験は20℃で行った。
(1)J漏斗流下値の測定:
土木学会基準JSCE-F 541-2013「充填モルタルの流動性試験方法(案)」に準拠し、J14漏斗流下時間を測定した。
(2)流動性試験:
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」のフロー試験に準じて流動性試験を実施した。フロー値は引抜きフロー値を測定した。
(3)可使時間:
練上がり後の速硬性グラウト材を、500mLの容器に入れ、練上がり直後から一定時間毎に別の500mLの容器に移し替える作業を実施した。この際、速硬性グラウト材の流動性がなくなるまで(別の500mL容器に速硬性グラウト材が落ちなくなるまで)の時間を可使時間とした。
(4)硬化時間:
速硬性グラウト材約2000mLをポリエチレン袋に入れて封をし、そのまま静置した。静置後、ポリエチレン袋の上から速硬性グラウト材を指で押し、速硬性グラウト材が変形しなくなった時の時間を硬化時間とした。
(5)流動化時間(水なじみ):
所定量の水に対し、ハンドミキサーで攪拌しながら速硬性グラウト組成物を投入した後、速硬性グラウト組成物と水分がなじむ(速硬性グラウト材が流動化する)までの時間(秒)を目視にて計測した。流動化時間が20秒以内であれば、水なじみが良好である。
(6)圧縮強度:
土木学会基準JSCE-G 505-2018「円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法(案)」に準じて、材齢3時間及び24時間におけるモルタル硬化体の圧縮強度を測定した。供試体の寸法は、直径50mm、高さ100mmとした。養生は20℃にて型枠のまま湿潤養生とした。
【0045】
【0046】
実施例の速硬性グラウト材はいずれも、水なじみがよいため素早く調製することができ、可使時間及び流動性にも優れた性状を示しており、良好な作業性が得られた。また、実施例の速硬性グラウト材は、3時間における圧縮強度も24N/mm2以上と優れており、速硬性と強度発現性にも優れていた。一方、比較例の速硬性グラウト材は、水なじみが悪く、流動化時間が悪いためグラウト調整に手間取るものや、初期の強度発現性が悪いものだった。