(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】バルブ装置、冷却水制御装置、及び冷却水回路
(51)【国際特許分類】
F16K 3/00 20060101AFI20240826BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
F16K3/00 A
F01P7/16 503
(21)【出願番号】P 2020080891
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 拓也
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 俊明
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0205685(US,A1)
【文献】特開昭53-2726(JP,A)
【文献】特開2019-184075(JP,A)
【文献】米国特許第4881718(US,A)
【文献】特開昭61-247470(JP,A)
【文献】実公昭43-18709(JP,Y1)
【文献】特開平4-136569(JP,A)
【文献】特開2008-39065(JP,A)
【文献】実開昭61-119668(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0209548(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111750135(CN,A)
【文献】特開2014-177979(JP,A)
【文献】特開平9-274521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 3/00-3/36
F16K 5/00-5/22
F01P 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
内部に空間が形成され、前記回転軸を中心として回転可能な弁体と、を備え、
前記弁体の外周面には、前記空間と連通する第1連通孔、及び、前記第1連通孔から前記回転軸の回転方向の一方に向かって延びる有底の溝が形成され、
前記溝は、前記第1連通孔に近づくにつれて前記溝の深さ及び前記溝の幅のうち少なくとも一方が大きくなる第1区間を含
むバルブ装置であって、
前記回転軸及び前記弁体を収容するとともに、径方向外側に向かって突出する入口部および出口部を含むケーシングを備え、
前記弁体は、上端及び下端に開口を有し、
前記入口部から前記溝又は前記第1連通孔を介して前記弁体の内部の前記空間に流入した流体が、前記開口を介して、前記弁体と前記ケーシングとの間の隙間に導かれ、前記隙間を経由して前記出口部から排出されるように構成された
バルブ装置。
【請求項2】
前記溝の深さは、前記第1区間において、前記第1連通孔に近づくにつれて大きくなる、請求項1に記載のバルブ装置。
【請求項3】
前記溝は、前記溝の深さが一定である第2区間を含む、請求項2に記載のバルブ装置。
【請求項4】
前記溝の幅は、前記第1区間において、前記第1連通孔に近づくにつれて大きくなる、請求項1又は2に記載のバルブ装置。
【請求項5】
前記溝は、前記溝の幅が一定である第2区間を含む、請求項4に記載のバルブ装置。
【請求項6】
前記第1区間は、前記回転方向において前記溝が形成される範囲の全体である、請求項1、2又は4の何れか1項に記載のバルブ装置。
【請求項7】
前記回転軸の軸線方向視において、前記回転軸の軸線と前記回転方向における前記溝の一端とを通過する仮想の第1直線と、前記回転軸の前記軸線と前記回転方向における前記溝の他端とを通過する仮想の第2直線と、によって形成される角度は、15度以下である、請求項1から6の何れか一項に記載のバルブ装置。
【請求項8】
前記弁体の前記外周面には、前記空間と連通する第2連通孔がさらに形成される、
請求項1から7の何れか一項に記載のバルブ装置。
【請求項9】
前記弁体の前記外周面には、前記第2連通孔から前記回転軸の回転方向の一方に向かって延びる溝が形成されていない、請求項8に記載のバルブ装置。
【請求項10】
前記溝は、前記第1連通孔から前記回転軸の回転方向の下流側に向かって延び、
前記バルブ装置の最小流路面積は、
前記第1区間によって前記最小流路面積が規定される前記バルブ装置の低開度域において、前記弁体の回転角度の増加とともに連続的に増加し、
前記低開度域の上限に対応する角度位置からさらに前記弁体の回転角度が増加するに従い、前記低開度域における前記最小流路面積よりも急激に増加する
請求項1に記載のバルブ装置。
【請求項11】
エンジンの冷却水が流通する流路と、
前記流路に設けられる請求項1から
10の何れか一項に記載のバルブ装置と、を備える、冷却水制御装置。
【請求項12】
請求項8又は9に記載のバルブ装置と、
前記バルブ装置とラジエータとを接続するラジエータ接続流路と、
前記バルブ装置とヒータとを接続するヒータ接続流路と、を含む冷却水回路であって、
前記第1連通孔及び有底の前記溝は、前記ラジエータ接続流路と前記空間とを連通可能に構成され、
前記第2連通孔は、前記ヒータ接続流路と前記空間とを連通可能に構成される、冷却水回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バルブ装置、冷却水制御装置、及び冷却水回路に関する。
【背景技術】
【0002】
バルブ装置には、弁体が回転することで、流路の開閉を行うものがある。このようなバルブ装置には、弁体の回転角の増加に伴って、弁体に形成された開口と流路の開口とが重なり合う範囲が増加することで、流路を流通する流体の流量が増加するものがある。
【0003】
特許文献1には、開弁初期の回転角が小さい範囲(低開度域)における流量を制御するために、弁体に設けられ、開弁開始から所定の回転角度までの範囲において、流量を回転角の値に関わらず一定に維持する流量維持手段を備えるバルブ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のバルブ装置では、低開度域における流量を高精度に変化させることができない。
【0006】
本開示は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、低開度域における流量を高精度に変化させることができるバルブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係るバルブ装置は、回転軸と、内部に空間が形成される弁体であって、回転軸を中心として回転可能な弁体と、を備え、弁体の外周面には、空間と連通する第1連通孔、及び、第1連通孔から回転軸の回転方向の一方に向かって延びる有底の溝が形成され、溝は、第1連通孔に近づくにつれて溝の深さ及び溝の幅のうち少なくとも一方が大きくなる第1区間を含む。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のバルブ装置において、溝の深さは、第1区間において、第1連通孔に近づくにつれて大きくなってもよい。
【0009】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載のバルブ装置において、溝は、溝の深さが一定である第2区間を含んでもよい。
【0010】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載のバルブ装置において、溝の幅は、第1区間において、第1連通孔に近づくにつれて大きくなってもよい。
【0011】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載のバルブ装置において、溝は、溝の幅が一定である第2区間を含んでもよい。
【0012】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)、(2)又は(4)の何れか1つに記載のバルブ装置において、第1区間は、回転方向において溝が形成される範囲の全体であってもよい。
【0013】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)から(6)の何れか1つに記載のバルブ装置において、回転軸の軸線方向視において、回転軸の軸線と回転方向における溝の一端とを通過する仮想の第1直線と、回転軸の軸線と回転方向における溝の他端とを通過する仮想の第2直線と、によって形成される角度は、15度以下であってもよい。
【0014】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)から(7)の何れか1つに記載のバルブ装置において、弁体の外周面には、空間と連通する第2連通孔がさらに形成されてもよい。
【0015】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)に記載のバルブ装置において、弁体の外周面には、第2連通孔から回転軸の回転方向の一方に向かって延びる溝が形成されていなくてもよい。
【0016】
(10)幾つかの実施形態では、冷却水制御装置は、エンジンの冷却水が流通する流路と、流路に設けられる上記(1)から(9)の何れか1つに記載のバルブ装置と、を備えてもよい。
【0017】
(11)幾つかの実施形態では、冷却水回路は、上記(8)又は(9)に記載のバルブ装置と、バルブ装置とラジエータとを接続するラジエータ流路と、バルブ装置とヒータとを接続するヒータ流路と、を含み、第1連通孔及び有底の溝は、ラジエータ流路と空間とを連通可能に構成され、第2連通孔は、ヒータ流路と空間とを連通可能に構成されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本開示の少なくとも一つの実施形態によれば、低開度域における流量を高精度に変化させることができるバルブ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る冷却水制御装置を含む冷却水回路の概略構成図である。
【
図2】本開示の第1実施形態に係るバルブ装置の全体構成を示す切り欠き断面図である。
【
図3】本開示の第1実施形態に係るバルブ装置の弁体の構成を示す斜視図である。
【
図4】本開示の第1実施形態に係る溝の構成を説明するための説明図である。
【
図5】本開示の第1実施形態に係るバルブ装置の効果を説明するための図であって、回転角度と最小流路面積の関係を示したグラフである。
【
図6】本開示の第2実施形態に係るバルブ装置の弁体の構成を示す斜視図である。
【
図7】本開示の第2実施形態に係るバルブ装置の効果を説明するための図であって、回転角度と最小流路面積の関係を示したグラフである。
【
図8】本開示の第3実施形態に係るバルブ装置の弁体の構成を示す斜視図である。
【
図9】本開示の第3実施形態に係るバルブ装置の効果を説明するための図であって、回転角度と最小流路面積の関係を示したグラフである。
【
図10】本開示の第4実施形態に係るバルブ装置の弁体の構成を示す斜視図である。
【
図11】本開示の第4実施形態に係るバルブ装置の効果を説明するための図であって、回転角度と最小流路面積の関係を示したグラフである。
【
図12】本開示の別の実施形態に係る冷却水回路の概略構成図である。
【
図13】本開示の別の実施形態に係るバルブ装置の弁体の構成を示す斜視図である。
【
図14】本開示のさらに別の実施形態に係るバルブ装置の弁体の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本開示の一実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0021】
(第1実施形態)
図1に示すように、冷却水回路100は、エンジン102と、ラジエータ104と、ウォータポンプ106と、エンジン102の冷却水Cが流通する流路108を含む冷却水制御装置110と、を備える。ラジエータ104及びウォータポンプ106は流路108に設けられている。このような冷却水回路100は、エンジン102から流出した冷却水Cを、ラジエータ104、ウォータポンプ106、エンジン102の順番に流通させる回路である。冷却水Cは、例えば、エチレングリコールを主成分とするLLC(Long Life Coolant)である。
【0022】
また、
図1に示すように、冷却水制御装置110は、流路108に設けられるバルブ装置1を含む。本実施形態では、バルブ装置1は、流路108のうちエンジン102とラジエータ104とを接続するラジエータ流路112に設けられている。つまり、本実施形態において、冷却水制御装置110は、ラジエータ104に供給される冷却水Cの流量を制御する機能を有している。以下では、この冷却水制御装置110のバルブ装置1の構成について説明する。尚、本開示では、バルブ装置1が冷却水制御装置110に適用される場合を例にして説明するが、冷却水C以外の流体の流量を制御する流体制御装置に適用されてもよい。
【0023】
本開示の第1実施形態に係るバルブ装置1の構成について説明する。
図2に示すように、バルブ装置1は、回転軸2と、弁体4と、ケーシング6と、バルブシート8と、を備える。弁体4は、筒状形状を有し、内部に空間(以下、流通空間10とする)が形成されている。回転軸2は弁体4の流通空間10に挿通されている。回転軸2と弁体4とは互いに固定されており、弁体4は回転軸2が回転するとともにこの回転軸2を中心として回転する。尚、回転軸2及び弁体4は一体構成されていてもよく、この場合、回転軸2及び弁体4が含まれる一部品を用意するだけで済む。また、回転軸2は、不図示のモータと接続されており、モータが発生させる回転動力によって回転するようになっている。
【0024】
本開示では、回転軸2の軸線Oが延在する軸線方向を「上下方向」とし、軸線方向の一方側を「上」とし、軸線方向の他方側を「下」とする。また、回転軸2の回転方向を単に「回転方向」とする。また、回転軸2の軸線Oを中心として軸線Oと直交する平面上に描かれる円の半径方向(回転軸2の径方向)を「径方向」とする。
【0025】
ケーシング6は、回転軸2、弁体4、及びバルブシート8を収容する。また、ケーシング6は、下方に向かって開口している。このケーシング6の開口は、板状形状を有するカバー部12によって閉塞される。ケーシング6とカバー部12とは、回転軸2、弁体4、及びバルブシート8を覆うハウジング9を構成する。カバー部12の上面14には、回転軸2の下端面15から突出する突出部16を嵌合させる凹部18が形成されている。
【0026】
また、ケーシング6は、ケーシング6の外周面20から径方向外側に向かって突出する入口部22と、入口部22が突出する方向とは異なる方向に、ケーシング6の外周面20から径方向外側に向かって突出する出口部24と、を含む。入口部22は、ラジエータ流路112のうちバルブ装置1よりエンジン102に近い側である上流側ラジエータ流路114と接続されている。出口部24は、ラジエータ流路112のうちバルブ装置1よりラジエータ104に近い側である下流側ラジエータ流路116と接続されている。冷却水Cは、入口部22を介して上流側ラジエータ流路114からバルブ装置1に流入し、出口部24を介してバルブ装置1から下流側ラジエータ流路116に流出する。尚、本実施形態では、入口部22は、回転軸2を挟んで出口部24とは反対側に位置しているが、本開示はこの実施形態に限定されない。
【0027】
バルブシート8は、弁体4より径方向外側に配置される。本実施形態では、バルブシート8は、弁体4よりエンジン102に近い側(上流側)に配置されている。バルブシート8は筒状形状を有しており、冷却水Cが流通可能に構成されている。バルブシート8の径方向内側の端面26は、弁体4の外周面28と摺接する。また、バルブシート8は、バルブシート8と上流側ラジエータ流路114との間に配置されるスプリング30によって弁体4の外周面28に押圧されている。また、ケーシング6とバルブシート8との間には、リング形状を有するシール部材32が嵌め込まれている。尚、本開示では、バルブシート8は、弁体4よりエンジン102に近い側に配置される場合を例に説明したが、弁体4よりラジエータ104に近い側に配置されてもよい。
【0028】
図3に示すように、弁体4の外周面28には、流通空間10と連通する第1連通孔36が形成されている。第1連通孔36は、回転方向に長手形状を有する長孔であり、弁体4を径方向に貫通する貫通孔として構成されている。尚、本実施形態では、
図2に参照されるように、弁体4の上端及び下端は開口している。このため、入口部22から流通空間10に流入した冷却水Cは、弁体4の上端又は下端の開口を介して、弁体4とケーシング6との間及び弁体4とカバー部12との間に形成される隙間34に流入する。そして、この隙間34に流入した冷却水Cは、出口部24を介して、バルブ装置1から下流側ラジエータ流路116に流出する。
【0029】
また、
図3に示すように、弁体4の外周面28には、第1連通孔36から回転方向の一方に向かって延びる有底の溝38が形成されている。本実施形態では、溝38は、回転軸2が回転するとバルブシート8の開口に対して溝38が重なり始め、回転軸2がさらに回転するとバルブシート8の開口に対して第1連通孔36も重なり始めるように、第1連通孔36よりも回転方向の一方側に位置している。バルブシート8の開口に対して溝38だけが重なっている状態(バルブシート8の開口に対して溝38が重なっており、且つ、バルブシート8の開口に対して第1連通孔36が重なっていない状態)は「低開度域」に相当する。
【0030】
本実施形態では、溝38は、径方向外側に向く底面42と、下方側に向く上面44と、上方側に向く下面46と、を含んでいる。よって、本開示において、溝38の幅Wとは、上面44と下面46との間に形成される隙間の上下方向の大きさを意味する。また、溝38の深さDとは、弁体4の外周面28から径方向内側に向かって凹んだ深さを意味する。
【0031】
溝38は、第1連通孔36に近づくにつれて溝38の幅Wが大きくなる第1区間40を含んでいる。また、
図3に示す構成では、第1区間40における溝38の深さDは一定である。第1区間40は、回転方向において弁体4の外周面28に溝38が形成される範囲の全体である。
【0032】
また、
図4に示すように、回転軸2の軸線O方向視において、回転軸2の軸線Oと回転方向における溝38の一端48とを通過する仮想の直線を第1直線L1とし、回転軸2の軸線Oと回転方向における溝38の他端50とを通過する仮想の第2直線L2とする。第1直線L1と第2直線L2とによって形成される角度θは15度以下である。本実施形態では、角度θは10度である。
【0033】
(作用・効果)
本開示の第1実施形態に係るバルブ装置1の作用・効果について説明する。
図5には、本開示における回転角度と最小流路面積との関係が示されている。回転角度とは、回転軸2が回転することで増減する角度であって、回転角度が0度であるときには、バルブ装置1は閉弁している。回転角度が0度から増加すると開弁し始める。0度<回転角度≦10度では、バルブシート8の開口に対して溝38だけが重なっており、上述した低開度域の状態である。10度<回転角度では、バルブシート8の開口に対して第1連通孔36が重なっている状態である。また、最小流路面積とは、冷却水Cがバルブシート8の開口から流通空間10までを流通する流路の各流路断面の流路面積のうち、最も小さい流路面積である。また、
図5には、溝38の深さD及び溝38の幅Wが一定である場合(以下、参考例とする)が点線で示され、溝38の深さDが一定であり、溝38の幅Wが第1連通孔36に近づくにつれて大きくなる場合(第1実施形態)が実線で示されている。
【0034】
図5に示すように、参考例では、0度<回転角度≦3度において、回転角度が増加するにつれて、バルブシート8の開口に対して溝38が重なる面積(径方向視においてバルブシート8の開口と溝38とが重なる面積)が増加するため、最小流路面積も増加している。3度<回転角度≦10度においても、回転角度が増加するにつれて、バルブシート8の開口に対して溝38が重なる面積は増加するが、最小流路面積は一定に維持されている。これは、3度<回転角度≦10度では、バルブシート8の開口に対して溝38が重なる面積よりも、溝38の一定の深さDと溝38の一定の幅Wによって決められる流路の流路面積の方が小さくなるためである。このため、参考例では、0度<回転角度≦3度において、ラジエータ104に供給される冷却水Cの流量の増加量が大きい。尚、回転角度が10度を超えると、バルブシート8の開口に対して第1連通孔36が重なり始め、バルブシート8の開口と第1連通孔36とが重なる面積(径方向視においてバルブシート8の開口と第1連通孔36とが重なる面積)が最小流路面積に対して支配的になる。
【0035】
第1実施形態によれば、第1連通孔36から回転軸2の回転方向の一方に向かって延びる有底の溝38は、第1連通孔36に近づくにつれて、溝38の幅Wが大きくなる第1区間40を含む。このため、
図5に示すように、参考例と比較して、低開度域における最小流路面積の変化を滑らかにすることができ、低開度域におけるラジエータ104に供給される冷却水Cの流量を高精度に変化させることができる。また、弁体4の外周面28に第1連通孔36から回転軸2の回転方向の一方に向かって延びる有底の溝38を形成する場合、第1連通孔36から回転軸2の回転方向の一方に向かって延びる微小開口(弁体4を径方向に貫通する微小開口)を形成する場合と比較して、弁体4を成形するための金型に幅が薄くなる部分が生じることを抑制し、金型の耐久性を向上させて破損を抑制することができる。
【0036】
また、第1実施形態によれば、第1区間40は、回転方向において溝38が形成される範囲の全体である。このため、
図5に示すように、低開度域(
図5における0度から10度まで範囲)における最小流路面積の変化を滑らかにすることができ、低開度域におけるラジエータ104に供給される冷却水Cの流量を高精度に変化させることができる。
【0037】
また、第1実施形態によれば、溝38は、第1区間40において溝38の深さDが一定であるため、低開度域における溝38の幅Wを調整するだけで、低開度域におけるラジエータ104に供給される冷却水Cの流量を高精度に変化させることができる。
【0038】
また、第1実施形態によれば、
図4に示して説明したように、第1直線L1と第2直線L2とによって形成される角度θは、15度以下である。このため、溝38を低開度域に設けることができ、冷却水Cがラジエータ104に供給され始める段階の冷却水Cの流量を高精度に変化させることができる。
【0039】
また、第1実施形態によれば、冷却水制御装置110はバルブ装置1を備えている。このため、低開度域におけるラジエータ104に供給される冷却水Cの流量を高精度に変化させることができる冷却水制御装置110が提供される。
【0040】
尚、第1実施形態では、第1区間40は第1連通孔36に近づくにつれて溝38の幅Wが大きくなっていたが、本開示はこの実施形態に限定されない。後述する第2実施形態で示すように、第1区間40は第1連通孔36に近づくにつれて溝38の深さDが大きくなってもよい。また、後述する第3実施形態で示すように、第1区間40は第1連通孔36に近づくにつれて溝38の幅W及び溝38の深さDが大きくなってもよい。
【0041】
また、第1実施形態では、低開度域において溝38が上流側ラジエータ流路114に対して開口する場合を例にして説明したが、低開度域において溝38が下流側ラジエータ流路116に対して開口してもよい。すなわちバルブ装置1の流出側で、冷却水Cの流量を制御してもよい。
【0042】
(第2実施形態)
図6を参照して、本開示の第2実施形態に係るバルブ装置1について説明する。第2実施形態は、第1実施形態で説明した溝38とは異なる溝38の構造を有しているが、それ以外の構成は第1実施形態で説明した構成と同じである。第2実施形態において、第1実施形態の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0043】
図6に示すように、溝38は、第1連通孔36に近づくにつれて溝38の深さDが大きくなる第1区間40を含む。また、
図6に示す構成では、第1区間40における溝38の幅Wは一定である。第1区間40は、回転方向において弁体4の外周面28に溝38が形成される範囲の全体である。
【0044】
第2実施形態によれば、第1連通孔36から回転軸2の回転方向の一方に向かって延びる有底の溝38は、第1連通孔36に近づくにつれて、溝38の深さDが大きくなる第1区間40を含む。このため、
図7に示すように、上記参考例と比較して、低開度域における最小流路面積の変化を滑らかにすることができ、低開度域におけるラジエータ104に供給される冷却水Cの流量を高精度に変化させることができる。
【0045】
また、第2実施形態によれば、溝38は、第1区間40において溝38の幅Wが一定であるため、低開度域における溝38の深さDを調整するだけで、低開度域におけるラジエータ104に供給される冷却水Cの流量を高精度に変化させることができる。
【0046】
(第3実施形態)
図8を参照して、本開示の第3実施形態に係るバルブ装置1について説明する。第3実施形態は、第1実施形態で説明した溝38とは異なる溝38の構造を有しているが、それ以外の構成は第1実施形態で説明した構成と同じである。第3実施形態において、第1実施形態の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0047】
図8に示すように、溝38は、第1連通孔36に近づくにつれて溝38の深さD及び溝38の幅Wが大きくなる第1区間40を含む。この第1区間40は、回転方向において弁体4の外周面28に溝38が形成される範囲の全体である。
【0048】
第3実施形態によれば、溝38は、第1連通孔36に近づくにつれて、溝38の深さD及び溝38の幅Wが大きくなる第1区間40を含む。このため、
図9に示すように、第1実施形態と比較して、低開度域における最小流路面積の変化をより滑らかにすることができ、低開度域におけるラジエータ104に供給される冷却水Cの流量を高精度に変化させることができる。尚、
図9には、第3実施形態の最小流路面積が一点鎖線で示されている。
【0049】
(第4実施形態)
図10を参照して、本開示の第4実施形態に係るバルブ装置1について説明する。第4実施形態は、第1実施形態で説明した溝38とは異なる溝38の構造を有しているが、それ以外の構成は第1実施形態で説明した構成と同じである。第4実施形態において、第1実施形態の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0050】
図10に示すように、溝38は、第1連通孔36に近づくにつれて溝38の深さD及び溝38の幅Wが大きくなる第1区間40を含む。また、溝38は、溝38の深さD及び溝38の幅Wが一定である第2区間41を含む。本実施形態では、第1区間40は、第2区間41より回転方向の一方側に位置しており、第1区間40と第2区間41とは回転方向において隣接している。第1区間40における溝38の深さDと第2区間41における溝38の深さDとは、第1区間40と第2区間41との境界43において同一である。また、第1区間40における溝38の幅Wと第2区間41における溝38の幅Wとは、第1区間40と第2区間41との境界43において同一である。また、溝38は、第1区間40と第2区間41のみによって構成されている。
【0051】
第4実施形態によれば、低開度域において、回転角度が増加するにつれて最小流路面積を滑らかに増加させることができる部分(第1区間40)と、回転角度が増加しても最小流路面積を一定に維持することができる部分(第2区間41)とが形成される。このため、
図11に示すように、低開度域において、ラジエータ104に供給される冷却水Cの流量を高精度に変化させる開度域と流量を一定に維持する開度域の両方を実現することができる。尚、第4実施形態では、第1区間40は、第2区間41より回転方向の一方側に位置していたが、本開示はこの実施形態に限定されない。例えば、第1区間40は、第2区間41より回転方向の他方側に位置していてもよい。また、
図11には、第4実施形態の最小流路面積が一点鎖線で示されている。
【0052】
以上、本開示の第1~第4実施形態に係るバルブ装置1について説明したが、本開示は上記の形態に限定されるものではなく、本開示の目的を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0053】
例えば、バルブ装置1は、ラジエータ104以外のデバイスに供給される冷却水Cの流量を制御してもよい。ラジエータ104以外のデバイスとは、例えば、トランスミッション、オイルクーラ、ヒータ、EGR、スロットルなどである。
【0054】
また、1つのバルブ装置1が複数のデバイスのそれぞれに供給される冷却水Cの流量を調整するように構成されてもよい。例えば、バルブ装置1はラジエータ104とヒータ118とのそれぞれに供給される冷却水Cの流量を調整するように構成されもてよい。
【0055】
幾つかの実施形態では、
図12に示すように、冷却水回路100は、流路108に設けられるヒータ118をさらに備える。この冷却水回路100の流路108は、バルブ装置1とラジエータ104とを接続するラジエータ接続流路120(上述した下流側ラジエータ流路116に相当)と、バルブ装置1とヒータ118とを接続するヒータ接続流路122と、を含む。また、この場合、
図13に示すように、バルブ装置1の弁体4の外周面28には、上述した第1連通孔36に加え、流通空間10と連通する第2連通孔50がさらに形成される。第2連通孔50は、回転方向に長手形状を有する長孔であり、弁体4を径方向に貫通する貫通孔として構成されている。
図13に示した実施形態では、弁体4の外周面28には、第2連通孔50から回転方向の一方に向かって延びる有底の第2溝52が形成されている。
【0056】
第1連通孔36及び有底の溝38は、ラジエータ接続流路120に連通可能に構成される。具体的には、ラジエータ接続流路120に対するバルブ装置1の低開度域では、ラジエータ接続流路120は、溝38と第1連通孔36とを介して流通空間10と連通する。ラジエータ接続流路120に対するバルブ装置1の低開度域を超えて、弁体4が回転方向の一方側に回転すると、ラジエータ接続流路120は、溝38を介さずに、第1連通孔36を介して流通空間10と連通する。
【0057】
同様に、第2連通孔50は、ヒータ接続流路122に連通可能に構成される。具体的には、ヒータ接続流路122は、ヒータ接続流路122に対するバルブ装置1の開度が低い低開度域では、第2溝52と第2連通孔50とを介して流通空間10と連通する。そして、ヒータ接続流路122に対するバルブ装置1の低開度域を超えて、弁体4が回転方向の一方側に回転すると、第2溝52を介さずに、第2連通孔50を介して流通空間10と連通する。尚、ヒータ接続流路122に対するバルブ装置1の開度が低い低開度域は、不図示のバルブシートの開口に対して第2溝52だけが重なっている状態(バルブシートの開口に対して第2溝52が重なっており、且つ、バルブシートの開口に対して第2連通孔50が重なっていない状態)に相当する。
【0058】
また、
図13に示した実施形態では、第1連通孔36と第2連通孔50とでは、上下方向における位置が互いに異なる。回転軸2と弁体4とは互いに固定されており、弁体4は回転軸2が回転すると回転軸2とともに回転する。第1連通孔36は、第2連通孔に対して回転方向にずれて配置されている。また、弁体4は、上下方向の位置が互いに異なって配置される2つの筒状の筒状部材54,54を含み、2つの筒状の筒状部材54,54のうち下側に配置される筒状部材54に第1連通孔36及び溝38が形成され、上側に配置される筒状部材54に第2連通孔50及び第2溝52が形成されている。
【0059】
尚、
図13に示した実施形態では、冷却水Cは弁体4の下端を介して流通空間10に流入し、第1連通孔36及び/又は溝38を介して、或いは、第2連通孔50及び/又は第2溝52を介して、流通空間10から流出するようになっている。このように、複数のデバイスに供給する冷却水Cの流量をバルブ装置1によってそれぞれ調節する場合には、
図13に例示した形態のように、第1連通孔36及び第2連通孔50の各々に溝38、第2溝52を設けてもよい。
【0060】
また、複数の連通孔のうちの1つの連通孔のみに溝を設けてもよい。幾つかの実施形態では、
図14に示すように、弁体4の外周面28には、第2連通孔50から回転軸2の回転方向の一方に向かって延びる第2溝52が形成されていない。
図14に示す構成は、弁体4の外周面28に第2溝52が形成されていない点のみが
図13に示す構成と異なっており、他の構成は
図13に示す構成と同一であるため、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0061】
ラジエータ104は、冷却されているため、ラジエータへの冷却水Cの供給開始時に冷却水Cを低流量で供給しないと、熱衝撃によって破損してしまう可能性がある。このため、弁体4の外周面28に
図3、
図6、
図8又は
図10に示した形状の溝38及び第1連通孔36を形成することで、低開度域におけるラジエータ104への冷却水Cの供給量を小さくし、ラジエータ104の破損を抑制することができる。一方で、ヒータ118は、冷却水Cが供給され始めても、破損してしまう可能性が低い。このため、弁体4の外周面28に第2溝52を形成しないようにすることで、バルブ装置1の製造を容易化することができる。また、弁体4の外周面28に第2溝52を形成しなくて済むので、弁体4の外周の長さが長くなることを抑制し、バルブ装置1の小型化を図ることができる。したがって、
図14に示した構成によれば、ラジエータ104に対して低開度域における流量を高精度に変化させること、ラジエータ104の破損を抑制すること、バルブ装置1の製造容易化及び小型化を実現することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 バルブ装置
2 回転軸
4 弁体
10 流通空間(空間)
28 弁体の外周面
36 第1連通孔
38 溝
40 第1区間
41 第2区間
50 第2連通孔
100 冷却水回路
108 流路
110 冷却水制御装置
120 ラジエータ接続流路
122 ヒータ接続流路
D 溝の深さ
W 溝の幅
O 回転軸の軸線
L1 第1直線
L2 第2直線