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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】吸音器及び吸音構造体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/172 20060101AFI20240826BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20240826BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
G10K11/172
G10K11/16 140
E04B1/82 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020082389
(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公開番号】P2021177215
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】594075765
【氏名又は名称】日本環境アメニティ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517163320
【氏名又は名称】株式会社音響デザイン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 光司
(74)【代理人】
【識別番号】100146503
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】三好 康弘
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健久
(72)【発明者】
【氏名】落合 知生
(72)【発明者】
【氏名】荒木 邦彦
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-008012(JP,A)
【文献】特開平06-129029(JP,A)
【文献】特開2015-079226(JP,A)
【文献】特開2018-188954(JP,A)
【文献】実開昭63-042706(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/172
G10K 11/16
E04B 1/62-1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間に面する天井面、壁面または床面、及び、空間内に設置する構造物の少なくともいずれか(以下、「天井面等」という。)の中、または、空間内に露出して設置される吸音器本体を備え、この吸音器本体は内スリットとこの内スリットに連通する空洞を有し、前記空間にこの内スリットを連通させて空間内の音を吸音する吸音器であって、
前記内スリット近傍に取り付けることにより内スリットの外にネックを形成するネック部材をさらに設け、このネック部材の着脱によりネック高さ及び/又はネックスリット幅を変更可能であり、
前記ネック部材が、前記内開口の横側に沿ってこの部分に固定される固定部と、この固定部の両端側を互いに反対側にそれぞれ略90度ずつ折り曲げて一対の折返部を形成し、一対の折返部の長さを異ならせて反転使用することにより、前記ネック高さを変更可能な吸音器。
【請求項2】
前記ネック部材の内スリットから前記吸音器本体の内部に至る経路にこの経路を覆う目止め材を設け、この目止め材は吸音性を阻害せずに前記内スリット内部の目視を妨げるものであり、前記ネック部材が、前記ネック部と略90度屈曲される固定部とを備え、これらネック部と固定部との間に前記目止め材を受け入れる段部を形成してある請求項1記載の吸音器。
【請求項3】
前記内スリットの近傍で前記空洞内部に音を吸音する流れ抵抗材をスリットの奥に向かうように配向して設け、前記内スリットの幅を前記ネックスリット幅よりも広く形成してある請求項1または2記載の吸音器。
【請求項4】
前記内スリットの両側に前記流れ抵抗材を設け、この流れ抵抗材の奥にそれぞれ空洞が位置する請求項3記載の吸音器。
【請求項5】
前記内スリットの片側のみに前記流れ抵抗材を設け、この流れ抵抗材の奥にのみ空洞が位置する請求項3記載の吸音器。
【請求項6】
前記ネック部材と前記吸音器本体との間に挿入して前記ネック高さ及び/又は前記ネックスリット幅を変更することの可能なスペーサーを設けてある請求項1~5のいずれかに記載の吸音器。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の吸音器を用いた吸音構造体であって、前記吸音器本体を天井等の内部に収納し、表面仕上材に形成したスリットから前記ネックを突出させてある吸音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音器及び吸音構造体に関する。さらに詳しくは、空間に面する天井面、壁面または床面、及び、空間内に設置する構造物の少なくともいずれか(以下、「天井面等」という。)の中、または、空間内に露出して設置される吸音器本体を備え、この吸音器本体は内スリットとこの内スリットに連通する空洞を有し、前記空間にこの内スリットを連通させて空間内の音を吸音する吸音器及びこれを用いた吸音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
上述の如き吸音器及び吸音構造体としては、例えば、次の特許文献1に記載のものが知られている。同吸音器では、ヘルムホルツ共鳴器を構成し、開口102を介して共鳴し、吸音する構造である。同文献記載の共鳴器は、空洞4,5の容積及び開口102の幅等で共振周波数が異なり、吸音周波数帯域が異なることとなる。
【0003】
ところで、同文献の図5,6の如く吸音器を天井に取り付け、さらに開口102の周囲に天井板46を取り付けた場合、天井板の厚みによって開口102の周りにネック部が構成され、このネック部の高さや開口102に面するスリット幅により、ネック部の高さやスリット幅が左右されることとなる。その場合、共鳴器の共振周波数が当初の設計と異なることとなり、所望の吸音性能を発揮することができなくなる問題があった。また、環境に応じて適宜共振周波数を調整可能な吸音器が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-188954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、天井面等の中に収納する場合でも、天井面等の仕上げ材の寸法による共振周波数の変化の影響を受けず、また、天井面等の外に設置する場合でも共振周波数の調整が可能な吸音器及び吸音構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る吸音器の特徴は、空間に面する天井面、壁面または床面、及び、空間内に設置する構造物の少なくともいずれか(以下、「天井面等」という。)の中、または、空間内に露出して設置される吸音器本体を備え、この吸音器本体は内スリットとこの内スリットに連通する空洞を有し、前記空間にこの内スリットを連通させて空間内の音を吸音する構成であって、前記内スリット近傍に取り付けることにより内スリットの外にネックを形成するネック部材をさらに設け、このネック部材の着脱によりネック高さ及び/又はネックスリット幅を変更可能であり、前記ネック部材が、前記内開口の横側に沿ってこの部分に固定される固定部と、この固定部の両端側を互いに反対側にそれぞれ略90度ずつ折り曲げて一対の折返部を形成し、一対の折返部の長さを異ならせて反転使用することにより、前記ネック高さを変更可能としたことにある。
【0007】
上記において、吸音器の共振周波数f0は、例えば次式1のように計算される。
式1
0={c/(2π)}*[(a*b)/{V(l+Kb)}]1/2
ただし、上式において各変数は次式2、3及び次の通りである(図1(b)、6参照)。
式2
K=1/π+2/π*loge(2a/b)
式3
V=A*B*L
V:空洞容積、A:空洞長、B;空洞幅、L:空洞高さ、a:ネックスリット長、b:ネックスリット幅、l:ネック高さ
【0008】
図6(a)のI等はスリットの位置を示し、図6(b)は吸音器本体20とネック部31との関係を示す。各寸法は容積に関係するため内法である。同関係によれば、空洞幅B及び空洞高さLは、吸音器本体20のサイズにより決定される。また、ネックスリット長a及び空洞長Aは設置環境で決定される。したがって、ネック部材の着脱によりネック高さl及び/又はネックスリット幅bを変更可能であるため、上記施設の設置環境、吸音器本体の固定サイズ、必要に応じて設ける天井板等の表面材の厚みに拘わらず、共振周波数を所望の値に調整することができる。同構成によれば、反転使用で、共振周波数の調整を正確に変更しうる利点がある。
【0011】
上記構成において、前記ネック部材の内スリットから前記吸音器本体の内部に至る経路にこの経路を覆う目止め材を設け、この目止め材は吸音性を阻害せずに前記内スリット内部の目視を妨げるものであり、前記ネック部材が、前記ネック部と略90度屈曲される固定部とを備え、これらネック部と固定部との間に前記目止め材を受け入れる段部を形成してもよい。同構成によれば、内スリット内に外部から異物を差し込んだりすることを防止し、外から見た意匠面も向上させうる。目止め材を段部で受け入れるので、目止め材が破損等しても交換が容易である。
【0012】
また、前記内スリットの近傍で前記空洞内部に音を吸音する流れ抵抗材をスリットの奥に向かうように配向して設け、前記内スリットの幅を前記ネックスリット幅よりも広く形成するとよい。同構成によれば、内スリットの幅までネック部材のネック部を拡張させることができ、共振周波数調整の幅を調整しやすくなる。しかも、内スリット部分が広く形成できるので、吸音材等の流れ抵抗材が同内スリットを利用して挿入しやすくなる利点がある。
【0013】
前記内スリットの両側に前記流れ抵抗材を設け、この流れ抵抗材の奥にそれぞれ空洞を位置させてもよい。天井裏、壁面裏等の空間を有効活用して吸音器を合理的に収納配置することができる。また、前記内スリットの片側のみに前記流れ抵抗材を設け、この流れ抵抗材の奥にのみ空洞を位置させてもよい。同構成によれば、天井裏、壁面裏の片側がスラブにより収納空間が無い環境でも設置しやすくなる。
【0014】
また、前記ネック部材と前記吸音器本体との間に挿入して前記ネック高さ及び/又は前記ネックスリット幅を変更することの可能なスペーサーを設けてもよい。同構成により、スペーサーを利用して正確に共振周波数を調整し得る。
【0015】
一方、上記いずれかの構成に記載の吸音器を用いた吸音構造体の特徴は、前記吸音器本体を天井等の内部に収納し、表面仕上材に形成したスリットから前記ネックを突出させたことにある。同構成によれば、表面仕上材の厚みに拘わらず、ネックを独立して設置できるので、所望の共振周波数で吸音構造体を構築することが可能となる。したがって、ネックとは独立して表面仕上材のスリットの間隔を自由に設定してデザインできるようになった。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明に係る吸音器及び吸音構造体の特徴によれば、天井面等の中に収納する場合でも、天井面等の仕上げ材の寸法の影響を受けず、また、天井面等の外に設置する場合でも共振周波数の調整が可能となった。
【0017】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は本発明にかかる吸音器を天井角隅に収納した吸音構造体の縦断面図、(b)は吸音器の拡大断面図である。
図2a】本発明にかかる吸音器の吸音特性を示すグラフであり、ネック高さl及びネックスリット幅bを変更した場合である。
図2b】本発明にかかる吸音器の吸音特性を示すグラフであり、ネックスリット幅15mmでネック高さlを変更した場合である。
図2c】本発明にかかる吸音器の吸音特性を示すグラフであり、ネックスリット幅bを変更して他の吸音手法と比較した場合である。
図3】本発明にかかる吸音器を壁面の中央部に収納した吸音構造体の横断面図である。
図4】本発明にかかる吸音器を壁面の角部に収納した吸音構造体の横断面図である。
図5】本発明にかかる吸音器を壁面の下角部に収納した吸音構造体の縦断面図である。
図6】(a)は本発明にかかる吸音器の設置場所をネックスリットで示す斜視図、(b)は吸音器本体の容積及びネック部の寸法関係を表す概略斜視図である。
図7】本発明にかかる吸音器とネック部材との取付形態のバリエーションを示す縦断面図であって、(a)は第一ネックを使う場合、(b)は第二ネックを使う場合、(c)は第一ネックを利用し幅スペーサーを利用する場合、(d)は第一ネックを利用しさらに奥行スペーサーを利用する場合である。
図8】本発明にかかる吸音器のネック部材に段部を設けた実施形態における縦断面図であって、(a)は段部を設けた基本形態、(b)は3つのネック部を設けた形態における第一ネックを使う場合、(c)は第二ネックを使う場合である。
図9図1(b)に示す吸音器の改変例であって、(a)は内ネック部25とネック部31との内側面が一致している場合、(b)はネック部31のスリットが(a)より狭い場合を示す断面図である。
図10図1(b)に示す吸音器の改変例であって、(a)は内ネック部39のみを設けた場合、(b)は内ネック部39とネック部31とを双方設けた場合を示す断面図である。
図11図1(b)に示す吸音器の改変例であって、(a)は吸音材固定用の突起の改変例、(b)は異なる形状のネック部31を設けた例を示す断面図である。
図12】吸音器本体を複数部材で作成する場合の別の形態を示す縦断面図であり、(a)は吸音器本体が7分割、(b)は吸音器本体が異なる7分割、(c)は吸音器本体が3分割されている例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、適宜添付図面の図1~6を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。
【0020】
図1に示す本発明に係る吸音器2は、例えば、図1,6(a)に示す屋内構造100に設置されて、吸音構造体1を構成する。図6(a)の屋内構造100では、天井ボード107、内壁ボード113、床スラブ120、支柱130が示されている。同図に示す符号I,III,IV、Vは、それぞれ、図1,3,4,5の取付形態に対応したネックスリット32の位置である。それぞれ、吸音器は、天井ボード107、内壁ボード113等の表面仕上材の内部空間に収納され、表面仕上材のスリットから後述するネックを突出させている。その他、吸音器は、符号XI,XII(床スラブ120の代わりに床スラブより離隔して床板がある場合),XIIIに示す位置の内部空間に収納してもよい。また、符号XIIIに示す位置に表面仕上材の外側に吸音器を単独で設置してもよく、同様に符号I,III,IV、V、XI,XIIの位置において吸音器を表面仕上材の外に単独で設置してもよい。
【0021】
図1に示すように、吸音器2は、いずれも紙面垂直方向に長い部材である吸音器本体20及びネック部材30とこれら両部材の間に目止め材6を設けてなる。なお、目止め材6を設けなくても、吸音性能は影響を受けない。吸音器本体20は内部に空洞部3を有し、一対の流れ抵抗材としての吸音材5、5を収納してなる。
【0022】
吸音器本体20は、中央の内スリット23を中心に左右対称形を呈し、開口側板部21には左右に開口側突起21a、21aを、奥側板部22には左右に奥側内突起22b、22b及び奥側外突起22a、22aを設け、それぞれの突起に左右一対の吸音材5、5を保持させてある。そして、各吸音材5,5材の奥にそれぞれ空洞が位置する両側吸音吸音器本体20Aとして構成してある。
【0023】
ネック部材30は、本実施形態ではL型のアングルを呈し、ネック部31及び固定部33が90度の角度で接合され、固定部33でそれぞれ開口側板部21に固定された一対のネック部材30、30のネック部31,31間がネックスリット32として形成される。開口側板部21と固定部33との間には目止め材6を介在させ、これらすべてを例えば接着剤で貼り付けてある。開口側板部21と固定部33との双方にビスを打ち込んでこれらを固定してもよい。目止め材6は、例えば金属メッシュ、グラスファイバー布、不織布などで構成され、内スリット23を覆い、吸音性を阻害せずに内スリット23内部の目視を妨げる材料で構成してある。また、内部構造が見えてもよい場合は、目止め材6を取り付けなくてもよい。
【0024】
内スリット23は奥側内突起22b、22b間の間隔よりも広く切り欠かれ、先の吸音材5を挿入設置しやすくなっている。また、ネックスリット32のネックスリット幅bは、最大限内スリット23の幅まで広げて調整することが可能である。上記ネック部31と固定部33とは長さが異なり、それぞれ第一ネック30a、第二ネック30bとなるように反転させて使用すれば、ネック高さlを調整することができる。
【0025】
吸音器2は、構成部材である吸音器本体20、目止め材6及びネック部材30がいずれも紙面垂直方向に長い部材であり、図6(a)の例では天井の幅のほぼ全長にわたってスリットが形成される形で設定され、ネックスリット長は符号aで示されている。長さについては、途中で止めることもできる。但し、ネック部の端部は図6(b)の符号31eに示すように、ネック部材30と同様に他の部材により塞がれていることが必要である。すなわち、全長の両端部は、先の図1の吸音器本体20及びネック部材30の外形線に沿った板材で最低限塞がれれば良いが、ネック部材30の如き短い部材をネック部材30に直交させて設け、吸音器本体20の両端部も別の板材で塞ぐようにしてもよい。もちろん、ネックスリット長aは部屋の全幅に限らず中途位置で終わらせても良い。
【0026】
上記吸音器2を設置する屋内構造100についてさらに説明すると、天井スラブに支持される吊りボルト101によりハンガー102を介して紙面直交方向に延長する野縁受103が支持され、さらに野縁104が直交して取り付けられ、天井ボード107が野縁104に取り付けられる。基礎壁ボード112に取り付けられた取付チャンネル106及び先の野縁受103の間に取り付けアングル105が紙面直交方向に間欠的に設けられ、その下に吸音器本体20がとりつけられる。取付チャンネル106の下部には紙面直交方向に延長してランナー110が設けられ、その下にスタッド111が紙面直交方向に間欠的に立てられ、それらスタッド111に、内壁ボード113が支持される。同例では、内壁ボード113及び天井ボード107双方の裏側に空間があるため、両側吸音吸音器本体20Aが用いられる。
【0027】
上述の構成の吸音器の共振(共鳴)周波数の変化に関する効果の確認例を図2に示す。横軸は1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)を、縦軸は残響室法による吸音率をそれぞれ示す。ネック高さl及びネックスリット幅bをそれぞれ変更した。図2aでは、丸印がl:10mm、b:10mm、三角印がl:20mm、b:10mmであり、ネック高さlを高くすることで、共振周波数f0を低域側にシフトさせて低音域の吸音率を高くし、共振周波数f0における吸音率を高くさせることができる。四角印がl:35mm、b:15mmであり、ネックスリット幅bの増大がネック高さlの増大と相まって共振周波数f0とグラフ積分値の重心をさらに低域側にシフトさせていることが伺える。
【0028】
図2bでは、丸印がl:20mm、b:15mm、三角印がl:35mm、b:15mmであり、ネック高さlを高くすることで、グラフ積分値の重心と共鳴周波数f0が低域側にシフトしていることが伺える。
【0029】
図2cでは、丸印がl:20mm、b:20mm、三角印がl:20mm、b:10mmであり、例えば、ネックスリット幅bを小さくすることで、共振周波数f0を低域側に調整することができる。四角印の岩綿吸音板や菱形印のタイルカーペットで足りない部分を補完するとともに、会話レベルの主な周波数帯域を選択的に吸音することができる。
【0030】
図3は、図6(a)のIIIの位置における内壁ボード113内にスリットを形成して吸音器2を収納した例を示す。紙面直交方向にスタッド111が延長しており、両側吸音吸音器本体20Aを同様にスタッド111に沿わせて配置することで、空間の上下に沿って壁面に吸音のスリットを形成することができる。
【0031】
図4は、図6(a)のIVの位置における内壁ボード113,113どうしが直交する角部内にスリットを形成して吸音器2を収納した例を示す。同例では、片側吸音吸音器本体20Bを利用しており、例えば、左側のスタッド111が存在せずに壁スラブ114に内壁ボード113が近接している場合には、特に良好に設置できる。したがって、同左側の空間が存在する場合は、符号20Cの部分が存在するような両側吸音吸音器本体20Aを利用してもよい。
【0032】
内スリット23の右側には先の実施形態と同様のL字アングルのネック部材30を用いているが、内スリットの左側には平板ネック部材35を用いている。なお、左側の内壁ボード113がネックの一部をなすことができるため、平板ネック部材35はネックの材質の均質化の意味のほかに、意匠的な目的で用いられる場合がある。同例では、目止め材6の左端を折り曲げて、吸音器本体20の外壁に貼り付けている。
【0033】
図5は、図6(a)のVの位置における内壁ボード113下端と床スラブ120とが直交する角部内にスリットを形成して吸音器2を収納した例を示す。同例では、先と同様に片側吸音吸音器本体20Bを利用しており、床スラブ120側に内スリット23の形成された側を接することで、床スラブ120をネックの一部として利用している。
【0034】
吸音器本体20の上にはこの吸音器本体20に沿って紙面直交方向に延長して下ランナー121が配置され、その上にスタッド111が設けられ、スタッド11に内壁ボード113が固定される。
【0035】
図7にネック部材30の改変例を示す。同図(a)では、ネック部31及び固定部33の先にさらに折返部34をそれぞれ90度直交させて順次設け、ネック部31及び折返部34の長さを異ならせて、第一、第二ネック部30a,30bとしてある。同図(b)の如く第二ネック部30bを用いることで、第一ネック部30aを用いた場合よりネック高lをl1からl2に低くより確実な寸法精度で調整することが可能である。同図(c)に示すように、各折返部34(又は反転時は符号31部分)と吸音器本体20の側面との間に幅スペーサー36を挿入することで、厚さ2ΔW分だけネック幅bを拡大することができる。さらに同図(d)の如く固定部33と吸音器本体20の下面との間に奥行スペーサー37を挿入することで、ネック高lを奥行スペーサー37の厚みΔt分だけ拡大することができる。
【0036】
図8は目止め材6を交換可能とするための改変例であり、ネック部31と固定部33との間に段部38を設け、この段部38内に目止め材6を収納して吸音器本体20に貼り付けてある。同構成によれば、目止め材6は固定部33と吸音器本体20との間に挟まれないため、ネックスリット32を介しての交換が容易である。同図(b)(c)は段部38に加え先の折返部34を設けた構成であり、先の実施形態同様に第一、第二ネック部30a,30bを反転使用することで、ネック高lをl1、l2に変更可能である。
【0037】
図9は、図1(b)に示す吸音器の改変例であって、(a)は内ネック部25とネック部31との内側面が一致している場合である。奥側内突起22bに対応する位置に内ネック部25が内側に入り込み、ネック部材30のネック部31とともに、ネック高さlとなる。吸音材5は内ネック部25で一部が固定される。先の式3における容積Vは、内ネック部25の容積が除かれるため、次の式4となる。
【0038】
式4
V=A*B*L-a*b2*l2
V:空洞容積、A:空洞長、B;空洞幅、L:空洞高さ、a:ネックスリット長、b:ネックスリット幅、l:ネック高さ、b2:内ネック外幅、l2:内ネック高さ
【0039】
同例では、内ネック部25は固定であり調整ができないが、後の図12(b)(c)のように吸音器本体20を分割すれば、内ネック部25の間隔は調整が可能である。本例では、ネック部材30を別途設けたことで、ネックスリット幅bとネック高さlは変更可能である。
【0040】
図9(b)は内ネック部25の他に開口側内突起21bを設けて吸音材5を保持している。ネック部31のスリットが図9(a)より狭く、一番狭い部分がネックスリット幅bとなる。
【0041】
図10は内ネック部39が吸音器本体20と別部材であり、同図(a)では、第一ネック39a、第二ネック39bに反転可能であり、ネックスリット幅bも調整が可能である。
【0042】
図10(b)は、内ネック部39とネック部31とを双方設けた場合を示す。内ネック部39の他に開口側内突起21bを設けて吸音材5を保持している。目止め材7を設けるにあたっては、先の目止め材6と同様の目止めシート7aのほか、先の吸音材5と同様の材料の吸音材7b、7cをそれぞれネックスリット32に設けても良い。
【0043】
図11(a)は吸音材固定用の突起の改変例であり、開口側板部21、奥側板部22にそれぞれ一対の開口側中央突起21c、奥側中央突起21cが対向してに向けられ、各突起21c、22cが吸音材5の幅方向中央に食い込んで吸音材を固定している。
【0044】
図11(b)は異なる形状のネック部31を設けた例を示し、同ネック部は、細ネック部31a及び太ネック部31bの間に段部31cを有する。細ネック部31aがネックスリット幅bとなる。
【0045】
上記実施形態では、吸音器本体20を紙面直交方向に押し出し成型等で一体形成したが、図12に示すように複数の部材を組み合わせて構成してもよい。同図(a)では吸音器本体が7分割され、1つのチャンネル部20aに2つのアングル部20bを組み合わせて主要部を作成し、内部に小チャンネル20cと小アングル20dを組み合わせて吸音材5の突起を形成している。
【0046】
同図(b)は吸音器本体が異なる7分割され、2つの大チャンネル部20fと2つの小チャンネル部20gを平板20hで繋いでいる。前方は、大チャンネル部20fと小チャンネル部20gとをそれぞれネック部材30で繋いでいる。同図(c)は吸音器本体が3分割されている例である。各突起21ab,22abを有する2つの大チャンネル部20fを平板20hで繋いでいる。
【0047】
本発明は本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の改変が可能であり、上記各実施形態は、例えば図9,10と図12の各例を組み合わせるなど、それぞれ組み合わせて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、空間に面する天井面、壁面または床面、及び、空間内に設置する構造物等の少なくともいずれかの中(木材ボード、金属、ガラス、石、タイル等)に既設で、または、増設で設置可能な、吸音器及び吸音構造体として利用することができる。また、上記空間内の表面仕上材の外側に露出して設置し、吸音による音響環境の調整を行うことも可能である。従来から用いられている仕上げ吸音材(グラスウール、岩綿吸音板など)の吸音力が不足する周波数帯域で、かつ、人の会話レベルの主な周波数帯域を吸音することができ、様々な材料の下地材として使用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1:吸音構造体、2:吸音器、3:空洞部、5:吸音材、6:目止め材、7a:目止めシート、7b,7c:吸音材、7:目止め材、20:吸音器本体、20A:両側吸音吸音器本体、20B:片側吸音吸音器本体、21:開口側板部、21a:開口側突起、21b:開口側内突起、21c:開口側中央突起、22:側板部、22a:奥側外突起、22b:奥側内突起、21c:奥側中央突起、23:内スリット、25:内ネック部、30:ネック部材、30a:第一ネック、30b:第二ネック、31:ネック部、31a:細ネック部、31b:太ネック部、31c:段部、32:ネックスリット、33:固定部、34:折返部、35:平板ネック部材、36:幅スペーサー、37:奥行スペーサー、38:段部、39:内ネック部、39a:第一ネック、39b:第二ネック、100:屋内構造、101:吊りボルト、102:ハンガー、103:野縁受、104:野縁、105:取付アングル、106:取付チャンネル、107:天井ボード、110:ランナー、111:スタッド、112:基礎壁ボード、113:内壁ボード、114:壁スラブ、120:床スラブ、121:下ランナー、130:支柱、B:空洞幅、a:ネックスリット長、b:ネックスリット幅、L:空洞高さ、l:ネック高さ
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12