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  • 特許-情報媒体処理装置及びモーター制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】情報媒体処理装置及びモーター制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/08 20160101AFI20240826BHJP
   G06K 13/06 20060101ALI20240826BHJP
   G06K 7/08 20060101ALI20240826BHJP
   H02P 6/17 20160101ALI20240826BHJP
【FI】
H02P6/08
G06K13/06 C
G06K7/08 040
H02P6/17
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020129381
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022026088
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 幸生
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-219613(JP,A)
【文献】特開平04-229388(JP,A)
【文献】特開平07-130099(JP,A)
【文献】特開2003-187189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K7/00-7/14
13/00-13/30
H02P6/00-6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ヘッドと、磁気カードを搬送する搬送ローラと、前記搬送ローラを駆動するモータと、前記モータの回転量に応じて二値のパルス信号を出力するエンコーダと、を有し、前記磁気ヘッドに対して前記磁気カードを一定速度で搬送しながら前記磁気ヘッドによって前記磁気カードに対してデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を実施する情報媒体処理装置であって、
前記パルス信号における立ち上がりエッジと立ち下がりエッジとを検出し、前記立ち上がりエッジを検出するごとに前回の前記立ち上がりエッジからの期間の長さである第1の値を求め、前記立ち下がりエッジを検出するごとに前回の前記立ち下がりエッジからの期間の長さである第2の値を求める処理部と、
前記第1の値を得るごとに前記第1の値に基づいて前記一定速度で前記磁気カードが搬送されるように前記モータを制御し、前記第2の値を得るごとに前記第2の値に基づいて前記一定速度で前記磁気カードが搬送されるように前記モータを制御する制御回路と、
を有する情報媒体処理装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記第1の値を半分にした値と前記第2の値を半分にした値とを算出し、
前記制御回路は、前記第1の値を半分にした値と前記第2の値を半分にした値とを用いて前記モータを制御する、請求項1に記載の情報媒体処理装置。
【請求項3】
前記エンコーダは、前記モータの回転軸に接続する円板を有する光学式のエンコーダであって、単一の前記二値のパルス信号を発生する、請求項1または2に記載の情報媒体処理装置。
【請求項4】
モータによって駆動される搬送ローラによって磁気ヘッドに対して磁気カードを一定速度で搬送しながら前記磁気ヘッドによって前記磁気カードに対してデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を実施するために、前記モータの回転量に応じて二値のパルス信号を出力するエンコーダを用いて前記モータの速度を制御するモータ制御方法であって、
前記パルス信号における立ち上がりエッジを検出するごとに前回の前記立ち上がりエッジからの期間の長さである第1の値を求め、
前記パルス信号における立ち下がりエッジを検出するごとに前回の前記立ち下がりエッジからの期間の長さである第2の値を求め、
前記第1の値を得るごとに前記第1の値に応じて前記一定速度で前記磁気カードが搬送されるように前記モータを制御し、
前記第2の値が得るごとに前記第2の値に応じて前記一定速度で前記磁気カードが搬送されるように前記モータを制御する、モータ制御方法。
【請求項5】
前記第1の値を半分にした値と前記第2の値を半分にした値とを算出し、
前記第1の値を得るごとに前記第1の値を半分にした値を用いて前記モータを制御し、
前記第2の値を得るごとに前記第2の値を半分にした値を用いて前記モータを制御する、請求項に記載のモータ制御方法。
【請求項6】
前記エンコーダは、前記モータの回転軸に接続する円板を有する光学式のエンコーダであって、単一の前記二値のパルス信号を発生する、請求項またはに記載のモータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気カードなどの情報媒体に対してデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を行う、カードリーダなどの情報媒体処理装置と、そのような情報媒体処理装置において利用可能なモータ制御方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気カードなどの磁気記録媒体に対してデータの読み書きを行うときは、磁気ヘッドに対してその磁気記録媒体を所定の速度で相対的に移動させる必要がある。磁気ヘッドに対する磁気記録媒体の相対速度が変動すると、磁気記録媒体に対する記録の不良や読み出しの失敗などが発生するおそれがある。カードリーダなどの磁気記録装置では、通常、モータによって駆動される搬送ローラによって、磁気カードなどの磁気記録媒体を磁気ヘッドに対して相対的に移動させる。モータの回転速度における変動が磁気記録媒体の移動速度に変動に直結するので、モータの回転速度を精密に制御できる制御方法が必要とされる。磁気記録媒体以外の情報媒体に対してデータの読み書きを行うときに情報媒体を相対的に移動させるときも、情報媒体を搬送するモータの回転速度を精密に制御できることが必要である。
【0003】
特許文献1は、磁気記録装置において、モータにエンコーダを取り付けてモータの回転速度すなわち磁気記録媒体の移動速度に対応するタイミング信号を取得し、タイミング信号の間隔に応じて磁気ヘッドにおけるデータ書き込みのタイミングを規定するクロック信号を発生することを開示している。特許文献1ではタイミング信号に基づいてクロック信号を生成しているが、エンコーダからのタイミング信号をフィードバックしてモータの回転速度を一定に保つ制御を行うことも可能である。
【0004】
モータに取り付けられるエンコーダは、一般に、モータの回転軸に取り付けられた円板と、円板において半径方向に延びる複数のスリットとを備え、スリットは、円板の円周方向に沿って等間隔に配列している。このような円板を挟んで一方に発光部を、他方の受光部を配置すると、円板の回転に伴って受光部に入射する光が断続する。受光部は、光が入射したかしなかったかに対応するパルス信号を発生する。例えば受光部は、光が入射しているときに“1”あるいはオンとなり、光が入射していないときには“0”あるいはオフとなる二値のパルス信号を発生する。この二値のパルス信号では、円板の回転量がスリットの幅の分だけ増加するたびに“0”と“1”とが反転する。したがってパルス信号の周波数は円板の回転速度に比例する。光学式ではないエンコーダであっても、運動の速度に比例した周波数を有する二値のパルス信号を出力することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-130099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
円板を有する光学式のエンコーダでは、受光部が光を検出する期間と光を検出しない期間とが交互に現れ、受光部が出力するパルス信号は、光を検出しない期間から検出している期間に遷移するタイミングで立ち上がり、光を検出している期間から検出しない期間に遷移するときに立ち下がる。この信号における立ち上がりから立ち下がりまでの期間、すなわち光を検出している期間の長さをオン期間と呼び、立ち下がりから立ち上がりまでの期間、すなわち光を検出していない期間をオフ期間と呼ぶことにする。円板を有するエンコーダを用いる場合、円板が等回転速度で回転しているときにオン期間とオフ期間とがデューティ比50%で現れることが好ましい。デューティ比が50%であれば、信号の立ち下がり時にその直前のオン期間の長さによってモータの回転速度を制御し、引き続いて信号の立ち上がり時にその直前のオフ期間の長さによってモータの回転速度を制御するというように、高頻度でモータの回転速度を制御することが可能になる。しかしながら実際には、スリットの加工精度の限界や受光部の光検出感度のばらつきにより、円板が等回転速度で回転してもデューティ比が50%とならず、オン期間の長さとオフ期間の長さとが一致しないことが多い。
【0007】
等回転速度であってもオン期間の長さとオフ期間の長さとが一致しないときに、上述のように信号の立ち下がり時と立ち上がり時にそれぞれモータの回転速度の制御を行うと、モータの回転速度に細かい変動が生じ、磁気記録媒体の搬送に適さないものとなる。そこで従来は、オン期間とオフ期間とを合算した1周期(すなわち受光部が出力する二値のパルス信号での1周期)の継続時間に基づいてモータの回転速度を制御していた。この場合は、デューティ比を50%にできる場合に比べて制御の時間間隔が倍になるので、モータ回転速度の高頻度での制御という点で不利になる。高頻度での制御のために円板に設けるスリットの数を増やすことは、個々のスリットの幅が狭くなることも相まって加工コストの上昇をもたらす。受光部のセンサ感度の調整によりデューティ比を50%に近づけることは可能であるが、調整に伴って作業工数が増大する。円板を有する光学式のエンコーダ以外のエンコーダであっても等速運動時に出力される二値のパルス信号においてデューティ比が50%とならない場合には、ここで述べたような問題点が発生する。
【0008】
本発明の目的は、磁気記録媒体などの情報媒体の搬送に用いられるモータの速度をエンコーダで検出する情報媒体処理装置であって、等速運動時にエンコーダが出力する二値のパルス信号のデューティ比が50%にはならないときであっても情報媒体の移動速度を精密に制御できる情報媒体処理装置と、そのような情報媒体処理装置で利用可能なモータの制御方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の情報媒体処理装置は、磁気ヘッドと、磁気カードを搬送する搬送ローラと、搬送ローラを駆動するモータと、モータの回転量に応じて二値のパルス信号を出力するエンコーダと、を有し、磁気ヘッドに対して磁気カードを一定速度で搬送しながら磁気ヘッドによって磁気カードに対してデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を実施する情報媒体処理装置であって、パルス信号における立ち上がりエッジと立ち下がりエッジとを検出し、立ち上がりエッジを検出するごとに前回の立ち上がりエッジからの期間の長さである第1の値を求め、立ち下がりエッジを検出するごとに前回の立ち下がりエッジからの期間の長さである第2の値を求める処理部と、第1の値を得るごとに第1の値に基づいて一定速度で磁気カードが搬送されるようにモータを制御し、第2の値を得るごとに第2の値に基づいて一定速度で磁気カードが搬送されるようにモータを制御する制御回路と、を有する。
【0010】
本発明の情報媒体処理装置では、エンコーダからのパルス信号における立ち上がりエッジの間隔を示す第1の値を求め、立ち下がりエッジの間隔を示す第2の値を求め、これらの値に基づいてモータを制御する。第1の値も第2の値もパルス信号における1周期の長さを示しているから、パルス信号におけるデューティ比が50%でないことの影響を受けない。その一方で、第1の値を得るごとに制御を行ない、第2の値を得るごとに制御を行なうので、パルス信号の1周期当たり2回の制御を行なうこととなり、高頻度で制御が実行され、高精度でモータを制御することが可能になる。特に本発明の情報媒体処理装置によれば、磁気カードに対して安定してデータの読み書きを行うことが可能になる。
【0011】
本発明の情報媒体処理装置では、処理部は、第1の値を半分にした値と第2の値を半分にした値とを算出し、制御回路は、第1の値を半分にした値と第2の値を半分にした値とを用いてモータを制御してもよい。このように構成すれば、パルス信号のデューティ比が50%であることを前提とした従来の制御ルーチンをそのまま使用できるようになる。
【0012】
本発明の情報媒体処理装置では、エンコーダは、例えば、モータの回転軸に接続する円板を有する光学式のエンコーダであって、単一の二値パルス信号を発生する。円板を有する光学式のエンコーダに本発明を適用すると、パルス信号のデューティ比が50%でないとして、同じ制御精度を得るのであれば円板に設けられるスリットの数を半減できるので、エンコーダの製造コストを削減することが可能になる。
【0014】
本発明のモータ制御方法は、モータによって駆動される搬送ローラによって磁気ヘッドに対して磁気カードを一定速度で搬送しながら磁気ヘッドによって磁気カードに対してデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を実施するために、モータの回転量に応じて二値のパルス信号を出力するエンコーダを用いてそのモータの速度を制御するモータ制御方法であって、パルス信号における立ち上がりエッジを検出するごとに前回の立ち上がりエッジからの期間の長さである第1の値を求め、パルス信号における立ち下がりエッジを検出するごとに前回の立ち下がりエッジからの期間の長さである第2の値を求め、第1の値を得るごとに第1の値に応じて一定速度で磁気カードが搬送されるようにモータを制御し、第2の値が得るごとに第2の値に応じて一定速度で磁気カードが搬送されるようにモータを制御する。
【0015】
本発明のモータ制御方法では、立ち上がりエッジの間隔を示す第1の値も立ち下がりエッジの間隔を示す第2の値もパルス信号における1周期の長さを示しているから、パルス信号におけるデューティ比が50%でないことの影響を受けない。その一方で、第1の値を得るごとに制御を行ない、第2の値を得るごとに制御を行なうので、パルス信号の1周期当たり2回の制御を行なうこととなり、高頻度で制御が実行され、高精度でモータの速度を制御することが可能になる。
【0016】
本発明のモータ制御方法では、第1の値を半分にした値と前記第2の値を半分にした値とを算出し、第1の値を得るごとに第1の値を半分にした値を用いてモータを制御し、第2の値を得るごとに第2の値を半分にした値を用いてモータを制御してもよい。このように構成すれば、パルス信号のデューティ比が50%であることを前提とした従来のモータの速度制御ルーチンをそのまま使用できるようになる。
【0017】
本発明のモータ制御方法では、エンコーダは、例えば、モータの回転軸に接続する円板を有する光学式のエンコーダであって、単一の二値パルス信号を発生する。円板を有する光学式のエンコーダに本発明を適用すると、パルス信号のデューティ比が50%でないとして、同じ制御精度を得るのであれば円板に設けられるスリットの数を半減できるので、円板に設けられるスリットの数を増やすことなく、制御精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、磁気記録媒体などである情報媒体の搬送に用いられるモータの速度をエンコーダで検出する情報媒体処理装置であって、等速運動時にエンコーダが出力する二値信号のデューティ比が50%にはならないときであっても、情報媒体の移動速度を精密に制御できる情報媒体処理装置と、そのような情報媒体処理装置に適用可能なモータの制御方法とが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に基づくモータ制御方法を説明する図である。
図2】本発明の実施の一形態のカードリーダを説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明に基づくモータ制御方法を説明する図であって、(a)は円板を有する光学式エンコーダの概略構成を示す図であり、(b)及び(c)はエンコーダから出力されるパルス信号の例を示す波形図であり、(d)は従来の処理方法を説明する波形図であり、(e)は本発明に基づくモータ制御方法を実行するためのエンコーダからの信号の処理方法を説明する波形図である。
【0021】
エンコーダ1は、モータの回転軸などに接続されて回転する円板11と、円板11に設けられた複数のスリット12と、発光ダイオードなどを備えて光を発する発光部13と、受光素子を備える受光部14と、を備えている。円板11は、スリット板とも呼ばれる。スリット12は、円板11の円周方向に沿って等間隔に配列している。発光部13と受光部14は、円板11を挟み、かつ、発光部13からの光がスリット5を通過して受光部14に入射するように配置されている。発光部13からの光は円板11によって遮られるが、スリット12が光路上に位置するときは受光部14に入射する。その結果、円板11の回転量がスリット5の幅だけ増えるごとに、受光部14に入射する光が断続することになる。
【0022】
受光部14からは、光が入射しているときに“1”となり、光が入射していないときには“0”となる二値のパルス信号Sを発生する。理想的には、円板11が等回転速度で回転しているときには、図1(b)に示すように、このパルス信号Sにおける“1”である期間(オン期間)の長さAと“0”である期間(オフ期間)の長さBは等しくなり(すなわちA=B)、デューティ比は50%となる。しかしながら実際には、スリット12の加工精度や、受光部14における受光素子の感度などの影響により、図1(c)に示すように、円板11が等回転速度で回転しているときであってもパルス信号Sにおけるオン期間の長さAとオフ期間の長さBとは等しくなくなる(すなわちA≠B)。以下の説明においてパルス信号Sのデューティ比に言及するときは、円板11の回転速度に変動がない、すなわち円板11が等回転速度で回転していると仮定したときのパルス信号Sにおけるデューティ比を指すものとする。
【0023】
オン期間の長さAとオフ期間の長さBが等しくならないときは、従来は、図1(d)に示すように、受光部14から出力されるパルス信号Sにおける立ち上がりのエッジまたは立ち下がりのエッジのみを検出し、検出するたびに値が反転する二値のパルス信号Tを生成する。パルス信号Tではデューティ比が50%であってパルス信号Tにおける値が“1”である期間と値が“0”である期間の長さは等しいので、例えば“1”である期間の長さtに基づいてモータの回転速度の制御などを行っていた。しかしながら、図1(d)に示す信号の処理方法は、受光部4が出力するパルス信号Sを1/2に分周することにほかならず、円板11におけるスリット12の本体の幅に対して検出精度が半分になる。
【0024】
そこで本発明に基づく処理方法では、図1(e)に示すように、受光部14からのパルス信号Sの立ち上がりと立ち下がりの両方を検出し、立ち上がりのエッジから次の立ち上がりのエッジまでの期間Xの長さと、立ち下がりのエッジから次の立ち下がりのエッジまでの期間Yの長さとの両方を求める。なお、以下の説明では、混同しない限り、期間Xの長さもXで表し、期間Yの長さもYで表している。パルス信号Sでは立ち上がりと立ち下がりとは交互に現れるから、期間Xの途中で期間Yが開始し、期間Xと期間Yはオーバーラップする。そして、立ち上がりのエッジを検出したら、そのエッジを終端とする期間Xの長さの半分すなわちX/2を求め、求めたX/2をフィードバックしてモータの速度制御を行なう。同様に立ち下がりのエッジを検出したら、そのエッジを終端とする期間Yの長さの半分すなわちY/2を求め、求めたY/2をフィードバックしてモータの速度制御を行なう。
【0025】
モータの回転速度の変動にも依存するが、X/2及びY/2は、それぞれ、パルス信号Sのデューティ比が50%となる図1(b)に示した場合におけるオン期間の長さA及びオフ期間の長さBにほぼ等しくなる。モータの回転速度の変動を無視できれば、X/2及びY/2は、それぞれ、A=Bである場合におけるオン期間の長さA及びオフ期間の長さBに等しい。このことは、パルス信号Sのデューティ比が実際には50%からずれていても、デューティ比が50%であるものとして高頻度でモータの速度制御を行なえることを意味する。したがってここに示した処理により例えば磁気記録媒体である情報媒体の速度を制御することとした場合には、エンコーダ1から出力されるパルス信号Sのデューティ比が50%とはならない場合であっても、情報媒体の移動速度を精密に制御できるようになる。
【0026】
なお上記の説明では、立ち上がりのエッジを検出することによって期間Xが求められたらX/2を計算し、立ち下がりのエッジを検出することによって期間Yが求められたらY/2を計算しており、X及びYをそれぞれ半分にしているが、これは、図1(b)に示したパルス信号Sのデューティ比が50%であるときの制御と同じ制御パラメータを用いて制御を行なえるようにするためである。X及びYをそれぞれ半分にするのはX及びYに1/2を定数として乗じていることと等価であるが、X及びYに同じ定数を乗算することは制御の大筋には影響を及ぼさないので、期間Xの長さ及び期間Yの長さそのものを用いて制御のための計算を行うことも可能である。本発明に基づく方法では、期間Xが求められたらその期間Xの長さに基づいてモータの速度制御を行ない、期間Yが求められたその期間Yの長さに基づいてモータの制御を行なえばよい。
【0027】
以上説明した本発明のモータ制御方法は、磁気記録装置などの情報媒体処理装置において磁気記録媒体などの情報媒体を一定速度で搬送するために適した制御方法であるが、情報媒体処理装置以外に設けられるモータであって、一定速度で駆動される必要のあるモータの制御にも使用できるものである。
【0028】
図2は、本発明に基づく情報媒体処理装置の一例として、磁気記録媒体である磁気カードに対してデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を実施するカードリーダの構成を示している。本実施形態のカードリーダは、例えばATM(現金自動預け払い機:Automated Teller Machine)などの上位装置に搭載されて使用されるものである。カードリーダは、カードリーダの動作の制御を行うとともに上位装置との間でデータの入出力を行う制御回路20と、磁気ヘッド21と、磁気ヘッド21と制御回路20との間に設けられた読み出し・書き込み回路22と、カードリーダ内で磁気カードを搬送するための搬送ローラ31と、搬送ローラ31を駆動するモータ32と、制御回路20からの出力によってモータ32を駆動するモータ制御回路23と、を備えている。制御回路20は、例えばマイクロプロセッサによって構成される。搬送ローラ31は、モータ32の回転軸33に接続していてもよいし、プーリやベルト、歯車などからなる駆動伝達機構を介してモータ32の回転軸33に接続していてもよい。カードリーダでは、図1を用いて説明した制御方法によってモータ32の回転速度が制御される。
【0029】
モータ32の回転軸33には、図1を用いて説明したエンコーダ1が取り付けられている。モータ32の回転によりエンコーダ1内の円板11が回転し、上述と同様に受光部14からパルス信号Sが出力される。パルス信号Sは、制御回路20に設けられた速度算出部24に入力する。速度算出部24は、パルス信号Sから図1(e)で説明したX/2及びY/2を求め、それらの逆数を演算することにより、モータ32の回転速度を算出する。制御回路20は、算出された回転速度と予め設定された回転速度とを比較し、モータ32の回転速度が設定値となるように、モータ駆動回路23に対してモータ32を駆動する駆動指令を出力する。制御回路20がマイクロプロセッサによって構成されるときは、速度算出部24は、そのマイクロプロセッサ24上で実行されるソフトウェアルーチンによって実現できる。なお、X/2及びY/2の逆数の演算は計算負荷が大きいので、速度算出部24はX/2及びY/2の値だけを算出し、制御回路20は、設定された速度の逆数とX/2及びY/2を比較してモータ32の制御を行なってもよい。
【0030】
本実施形態のカードリーダでは、エンコーダ1の出力するパルス信号Sのデューティ比が50%でない場合であっても、モータ32の回転速度に細かい変動を起こすことなく、パルス信号Sにおける立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの両方のタイミングでモータ32に速度制御を行なうことができる。その結果、搬送される磁気カードの速度をより精密に制御することが可能になって、磁気カードからのデータ読み出しの失敗や、磁気カードへの記録の不良を低減することができる。
【0031】
以上、情報媒体処理装置がカードリーダである場合を説明したが、本発明に基づく情報媒体処理装置は、例えば、磁気ストライプを有する通帳や、磁気記録面を有する各種のチケットなどの磁気記録媒体に対してデータを読み書きするものであってもよい。さらには本発明に基づく情報媒体処理装置は、磁気記録媒体以外の記録媒体、例えば光学記録媒体に対してデータの読み出しと書き込みの少なくとの一方を行うものであってもよい。また、エンコーダは、モータの速度に比例した周波数を有する二値のパルス信号を発生するものであれば、円板を有する光学式のエンコーダでなくてもよい。本発明では、例えば、磁石とホール素子とを組み合わせたエンコーダなどを使用することもできる。
【符号の説明】
【0032】
1…エンコーダ;11…円板;12…スリット;13…発光部;14…受光部;20…制御回路;21…磁気ヘッド;22…読み出し・書き込み回路;23…モータ駆動回路;24…速度算出部;31…搬送ローラ;32…モータ;33…回転軸。
図1
図2