(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】免震システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240826BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20240826BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20240826BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240826BHJP
B66B 7/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
E04H9/02 351
E04H9/14 G
F16F15/023 A
F16F15/04 P
B66B7/00 A
(21)【出願番号】P 2020133039
(22)【出願日】2020-08-05
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉江 慶祐
(72)【発明者】
【氏名】今枝 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】ジロン 二コラ
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-100958(JP,A)
【文献】特開2019-014548(JP,A)
【文献】実開平03-108943(JP,U)
【文献】特開平10-339050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
F16F 15/00-15/36
B66B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震建物が風によって振動することを抑制する免震システムであって、
前記免震建物に免震層が設けられており、
前記免震層に速度依存型ダンパーが設けられて
おり、
前記速度依存型ダンパーに送風して、前記速度依存型ダンパーを冷却する送風機と、
前記免震建物または前記免震建物の近傍に設けられた風エネルギー検出手段と、
前記風エネルギー検出手段により検出された情報に基づき、前記速度依存型ダンパーに対する送風及び停止を行う制御手段と、を有する、
ことを特徴とする免震システム。
【請求項2】
前記風エネルギー検出手段は風速計であり、検出される情報は風速であり、前記制御手段は、前記風速が所定の風速値を超えるとき前記速度依存型ダンパーに対する送風を開始し、前記風速が所定の風速値を下回る前記速度依存型ダンパーに対する送風を停止するよう動作する、
請求項1記載の免震システム。
【請求項3】
前記制御手段による、前記速度依存型ダンパーに対する送風及び停止の条件は、前記速度依存型ダンパーの作動による発熱に基づいて設定される
請求項1記載の免震システム。
【請求項4】
前記免震建物にエレベーターが設けられ、
前記免震建物の中間階に前記免震層が設けられ、
前記エレベーターのシャフトが前記免震建物の前記免震層よりも上の上層階と一体化した構造になっており、
前記免震建物が揺れると、前記エレベーターのシャフトが前記免震建物の上層階とともに移動する請求項1記載の免震システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速度依存型ダンパーを減衰材に用いた免震建物の免震システムに関する。特に、前記免震建物に暴風や強風が当たった時に大きな減衰力によって振動を低減することができる免震システムに関する。
【背景技術】
【0002】
免震建物(免震建物の高さは限定されないが、特に、高さが60m以上の超高層建物に対して本発明の効果が高い。)は、建物に風が当たることで振動しやすい。したがって、免震層によって風による振動をいかに低減するかが重要となる。
【0003】
なお、一般的な免震建物は掘り下げた地盤の上に免震層を設けて、その免震層の上に免震建物を建築するが、免震建物が所定以上の高さがある建物(例えば超高層建物)である場合は、免震建物の中間階層に免震層を設けることがある。
【0004】
免震建物にあたる風は、日常的に吹く風(春一番など)から、数十年に一度の割合で吹く強風、さらに数百年に一度の割合で吹く暴風など、様々な種類がある。日常的に吹く風に対して対策をすることで、建物の住み心地が良くなり(「居住性」の確保)、強風に対して対策することで、建物の使用を継続することができ(「使用性」の確保)、暴風に対して対策することで、その建物の住民の安全を図ることができる(「安全性」の確保)。特に、
図1に示すように、暴風時に免震建物が受ける風荷重は、大地震が発生した時の地震荷重に匹敵する場合もある。このように、さまざまな強さの風に対して対策を施すことは、免震建物の住民にとって非常に重要である。
【0005】
一般的な免震建物(特に、超高層免震建物)は、免震層の強度と剛性を高めることによって風による振動を低減している。このように設計された免震建物は「剛性抵抗型」と称することができる。剛性抵抗型の免震建物にするためは、履歴型ダンパーの設置数を増やして、免震層の弾性限耐力を高める必要がある。なお、履歴型タンパーとは、鋼材ダンパーや鉛ダンパーのように、金属の延性や摩擦抵抗を利用して振動を吸収するダンパーをいう。
【0006】
ところで、本発明に関する先行技術には下記特許文献1に開示されたものがある。この文献には、地震時に温度が上昇した滑り板を効果的に冷却することができる滑り免震装置の冷却装置に関する発明が開示されている。冷却装置は、開口部に滑り免震装置の支承部が収まるように設置されており、中央に円形の開口部を有する基板と、基板から立設した複数のフィンと、基板の外周に乗り上げ部とを有する。なお、この特許文献1の発明は滑り免震装置を冷却する装置に係るものであり、後述する本発明のようにオイルダンパーを冷却するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した剛性抵抗型の免震建物において、風荷重による変形を抑制するために必要な複数個の履歴型ダンパーを設置した場合、その設置した履歴型ダンパーの個数は、地震に対しては過剰なダンパー数となる。そのため、地震が起きた際に、免震建物の応答低減効果が低下してしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、免震建物に様々な強さの風があたっても、建物の居住性、使用性および安全性を確保することができる免震システムを提供することにある。
【0010】
また、地震が起きた場合にも免震建物の十分な応答低減効果を発揮する免震システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段の態様は次のとおりである。
〔第1の態様〕
免震建物が風によって振動することを抑制する免震システムであって、
前記免震建物に免震層が設けられており、
前記免震層に速度依存型ダンパーが設けられていることを特徴とする免震システム。
【0012】
〔第2の態様〕
前記速度依存型ダンパーに送風して、前記速度依存型ダンパーを冷却する送風機と、
前記免震建物または前記免震建物の近傍に設けられた風エネルギー検出手段と、
前記風エネルギー検出手段により検出された情報に基づき、前記速度依存型ダンパーに対する送風及び停止を行う制御手段と、を有する前記第1の態様の免震システム。
【0013】
〔第3の態様〕
前記風エネルギー検出手段は風速計であり、検出される情報は風速であり、前記制御手段は、前記風速が所定の風速値を超えるとき前記速度依存型ダンパーに対する送風を開始し、前記風速が所定の風速値を下回る前記速度依存型ダンパーに対する送風を停止するよう動作する、前記第2の態様の免震システム。
【0014】
〔第4の態様〕
前記制御手段による、前記速度依存型ダンパーに対する送風及び停止の条件は、前記速度依存型ダンパーの作動による発熱に基づいて設定される前記第2の態様の免震システム。
【0015】
〔第5の態様〕
前記免震建物にエレベーターが設けられ、
前記免震建物の中間階に前記免震層が設けられ、
前記エレベーターのシャフトが前記免震建物の前記免震層よりも上の上層層と一体化した構造になっており、
前記免震建物が揺れると、前記エレベーターのシャフトが前記免震建物の上層階とともに移動する前記第1の態様の免震システム。
【発明の効果】
【0016】
以上に説明したように、本発明によれば、免震建物に様々な強さの風があたっても、建物の居住性、使用性および安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】建物に作用する水平力を比較したグラフであり、暴風時と大地震発生時を比較したものである。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る免震システムの概略図である。
【
図3】建物に作用する水平力と減衰力の関係の一例を示すグラフである。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る免震システムの概略図であり、水平力が作用する前の図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る免震システムの概略図であり、水平力が作用した後の図である。参考として、
図4の状態を点線で示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る免震システムの実施形態を、添付図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図2に第1実施形態に係る免震システム1を示した。この免震システム1は、免震建物2の1階と最上階の間(中間階)に免震層4を有している。そして、免震建物2のうち、免震層4よりも上側に位置する部分を上層階2Aといい、免震層4よりも下側に位置する部分を下層階2Bという。
【0020】
なお、免震層4を設ける位置は特に限定されないが、免震建物2の高さ(地面から屋上までの距離)の概ね下から2分の1程度の高さ設けることが好ましい。免震効果の範囲を広く確保することができるからである。
【0021】
免震層4には、揺れが高さ方向に伝わることを遮るためのアイソレータ6と、免震建物2に生じた揺れのエネルギーを吸収するための速度依存型ダンパー7が備えられている。このように、免震層4の免震部材としてアイソレータ6と速度依存型ダンパー7を併用することが好ましい。
【0022】
アイソレータ6は、地震が発生したときには、地震の揺れを遮断し、地盤から免震建物2に(または免震建物2の下層階2Bから上層階2Aに)、地震の揺れが伝達されることを防止する。また、風の揺れを遮断する効果もあり、例えば免震建物2の上層階2Aから下層階2Bに地震の揺れが伝達されることを防止する。このアイソレータ6の種類は特に限定されず、例えばゴムを積層した積層ゴムのほか、すべり支承、転がり支承を用いることができる。
【0023】
速度依存型ダンパー7は免震建物2内に取り付けられ、地震等によって免震建物2に生じた振動を吸収する。ダンパーの種類としては主として、鋼材ダンパーや鉛ダンパーなどの前記履歴型ダンパーと、オイルダンパーなどの速度依存型タンパーの2種類を挙げることができる。前述のように、免震層4の強度と剛性を高めることによって振動を防ぐことを目的として、免震建物2には履歴型ダンパーが用いられている。
【0024】
しかし、履歴型ダンパーを用いると、地震発生時に、免震建物2の応答低減効果が低下する懸念がある。そこで本実施例においては、ダンパーとして速度依存型ダンパー7を用いている。減衰材として速度依存型ダンパー7を用いると、速度依存型ダンパー7の高い減衰性能によって、地震発生時に、免震建物2の応答低減効果を十分に確保することができる。それとともに、日常的な風、強風、暴風など、様々な強さの風による振動を制御することもできる。
【0025】
図3に、減衰力と建物に作用する水平力の関係の検討結果の一例についてのグラフを示した。このように、減衰材として速度依存型ダンパー7を用いることによって、免震層4が有する大きな減衰力を発揮して風荷重(水平力)を低減することができる。
図3に示すシミュレーションによれば、速度依存型ダンパー7を用いる場合、剛性抵抗型ダンパーを用いる場合と比較して、風荷重を約30%低減できることがわかる。
【0026】
なお、図面では理解の容易化のために、アイソレータ6と速度依存型タンパー7を模式的に大きく表示するとともに、免震層4にアイソレータ6と速度依存型タンパー7を一つずつ表示している。しかし、実際には免震層4にアイソレータ6と速度依存型タンパー7をそれぞれ複数個設ける。
【0027】
ここで、ダンパーとして速度依存型ダンパー7を用いる場合に、新たな問題が生じる可能性を知見した。例えば、速度依存型ダンパー7の一種であるオイルダンパー7を用いると、地震のような一時的な振れを吸収する際は問題にならないが、免震建物2に長時間(例えば2時間以上)にわたって風が当たって風荷重がかかり続けた場合に以下のような問題が発生するおそれがある。
【0028】
すなわち、複数のオイルダンパー2(「オイルダンパー群」という。)のオイルが発熱して温度が次第に高くなり、発熱温度が限界温度を超えるとオイルダンパーの性能が低下するおそれがある。その結果、免震機能が低下して、風によって免震建物2が過度に揺れ続ける状態になるおそれがある。このような可能性は、とりわけ当該免震建物2の一面が長く、交差する側面が短い建物である場合に顕著である。
【0029】
そこで、本実施形態に係る免震システム1は、オイルダンパー7を冷却する送風機11を備えている。送風機11はオイルダンパー7に送風して、オイルダンパー7のオイルを冷却するために設けられる。この送風機11の種類は特に限定されるものではない。例えば、図に示したように、モーターの動力によってプロペラが回転し、風が電動機の軸方向に沿って流れるプロペラファンを備えた送風機を用いることができる。そのほか、多翼ファンまたはターボファンを備え、風が電動機の軸方向に対して直角に、遠心方向に流れる送風機を用いても良いし、回転翼が電動機の軸方向に対して斜めに取り付けられている斜流ファンを備え、風が電動機の軸方向に対して斜め方向に流れる送風機などを用いても良い。また、免震層にガラリを設けて空気を出し入れすることで免震層内の空気を循環させてオイルダンパーの発熱を抑制するようにしても良い。
【0030】
図示した送風機11は免震層4に取り付けているが、必ずしも免震層4に取り付けなくてもよい。例えば免震層4の外側の上層階2Aや下層階2Bに送風機11を設け、そこからオイルダンパー7へ送風してもよい。ただし、冷却効果や配管の取り回しを考慮すると、できるだけオイルダンパー7の近くに設けることが好ましい。なお、設置する送風機11の台数は特に限定されないが、例えば、シミュレーションによって、免震建物2に風があたることで生じる振幅や振動数を基にオイルダンパー7の発熱量を求め、オイルダンパー7のその発熱を抑えるために必要な台数を決定する。
【0031】
また、免震建物2の屋上には、風エネルギー検出手段3としての風速計3を設けている。この風速計3は、免震建物2に当たる風の風速を計測するものであり、図面上は1つだけ設けているが、複数個設けようにしてもよい。風速計3の取り付け位置は特に限定されないが、免震建物2の上層になるほど揺れやすく、その上層階の揺れを優先的に抑える必要があるため、免震建物2の上層に取り付けることが好ましい。例えば図示したように免震建物2の屋上に取り付けたり、免震建物2の上層階2Aの側壁に取り付けたりすることが好ましい。また、風エネルギー検出手段3は、免震建物2の近傍に設けてもよい。例えば、免震建物2の隣の建物や他の構造物に風エネルギー検出手段3を設け、そこから免震建物2の制御装置5まで、検出結果を送信するようにしてもよい。
【0032】
風速計3の種類は特に限定されない。例えば、羽根車の回転数から風速を求めるベーン式風速計、プロペラと尾翼を有し、プロペラの回転数から風速を、尾翼の向きから風向きを求める風向き風速計、3方向に超音波を伝搬させ、超音波到達の遅延時間から風速を求める超音波風速計、風杯を有し、風杯の回転から風速を測る風杯型風速計などを用いることができる。
【0033】
そして、本実施形態に係る免震システム1は、オイルダンパー7に送風する送風量を決定する制御装置5を備えている。図示した形態では、制御装置5を下層階2Bの下側部分に設けているが、上側階2Aに設けたり、免震建物2以外、例えば免震建物2の周辺にある構造物に設けたりしてもよい。
【0034】
この制御装置5によって、例えば次のように各機器を作動させることができる。例えば、風速計3で検出した風速に基づいて、制御装置5は、風速が所定の風速値(例えば40m/s)を超えるときに、オイルダンパー7に送風を開始する。また、風速が所定の風速値(例えば40m/s)を下回り一定時間経過後に、オイルダンパー7に送風することを止める。
【0035】
そのほか、オイルダンパー7の作動による発熱に基づいて、送風するか否かを決定してもよい。例えば、オイルダンパー7の発熱温度が所定の値(例えば50℃)を超えるときに、オイルダンパー7に送風を開始し、発熱温度が所定の値(例えば50℃)を下回るときに、オイルダンパー7に送風することを止める。この発熱温度は、例えばオイルダンパー7に温度計(図示しない)を取り付けることで検出することができる。
【0036】
なお、一般的にオイルダンパー7の限界温度はおよそ85℃とされているので、この限界温度を超えないように送風のタイミングを設定することが好ましい。
【0037】
そのほか、風エネルギー検出手段3により検出された情報に基づき、制御手段5によって、オイルダンパー7に対して送風する送風量を増減させてもよい。
【0038】
例えば、風速計3によって免震建物2に弱い風が当たっていることを検知したときは、オイルダンパー7へ送風する風の量を少なくし、反対に、免震建物2に強い風が当たっていることを検知したときは、オイルダンパー7へ送風する風の量を多くするように制御することができる。
【0039】
以上のように、送風機11から送風を行うことにより、オイルダンパー2のオイルの発熱を抑えることができ、オイルダンパー7の性能の低下を防ぐことができる。その結果、免震機能の低下が防止され、風によって免震建物2が過度に揺れ続ける状態になることを防ぐことができる。
【0040】
オイルダンパー7の発熱を防ぐため、前記送風機11や風エネルギー検出手段3等を設けることが好ましいが、これらの発熱を防ぐための機器の設置は必須ではない。
【0041】
(第2実施形態)
図4および
図5に第2実施形態に係る免震システム1を示した。第1実施形態と同じ部分は説明を省略し、異なる部分について説明する。なお、見やすさを考慮して、
図4および
図5には、風エネルギー検出手段3、制御装置5、アイソレータ6、速度依存型ダンパー7、送風機11を示していないが、
図2と同様に備えている。
【0042】
第2実施形態では、免震建物2に免震層4を跨いで上下に延在するエレベーター9が設置されている。そして、このエレベーター9は、免震層4よりも上の階(上層階4A)と一体化されている。
図4および
図5では、一体化されている部分に斜線の網掛けを付している。この斜線の網掛けを付したように、第2実施形態では、エレベーター9が上から吊り下げられているような形態になっている。
【0043】
エレベーター9を設けている免震建物2では、免震建物2に強風があたると、免震層4が大きく変形する結果、エレベーター9の通路(シャフト)にも大きな変形が生じて、運転ができなくなる可能性がある。そこで、本実施形態においては、上層階2Aとエレベーター9を一体化させた。すなわち、エレベーター9のシャフトを上層階2Aから吊り下げる構造にした。このような構造にすることで、
図5に示すように、強風によって免震層4が変位した場合であっても、その変位がエレベーターのシャフトに影響を及ぼさず、その結果、エレベーター9を継続して運転することが可能となる。
【0044】
(第3実施形態)
図示しないが、第3実施形態に係る免震システム1を説明する。なお、第2実施形態とほとんど同じであるため、
図4を参照しながら、第2実施形態と異なる部分について説明する(第2実施形態と同じ部分は説明を省略する。)。
【0045】
第3実施形態では、上層階2Aとエレベーター9を一体化させていない点が第2実施形態と異なる。また、第2実施形態とは異なり、速度依存型ダンパー7の設置数を増やして減衰力を高めることで、強風時における免震層の変形量を30mmよりも少なくしている。前記変形量は、35mm以下とすることがより好ましく、30mm以下とすることがさらに好ましい。上層階4Aとエレベーター9を一体化させなくとも、前記変形量を30mm以下とすれば、強風が吹いたときであっても、エレベーター9の継続運転が可能となる。
【0046】
(その他)
春一番などの日常的に吹く風に対しても、速度依存型ダンパー7の減衰力によって、風荷重(水平力)を低減することが可能である。暴風や強風と比べて、日常的に吹く風による免震層の振幅は小さいため、速度依存型ダンパー7による減衰効果は20~30%程度まで低下する。しかし、そもそも居住性が問題となるような振幅では、建物の内部粘性減衰が小さいため、居住性を改善するためには20~30%程度で十分である。なお、最近では、免震建物2の頂部にチューンド・マス・ダンパー(以下「TMD」という)などを設置して、そのTMDの減衰力によって居住性を改善する事例もあるが、本発明のように速度依存型ダンパー7を設けることによって、このTMDの設置を省略できるという効果もある。
【0047】
これまでの説明においては、速度依存型ダンパー7の例としてオイルダンパー7を例示して説明したが、速度依存型ダンパー7はオイルダンパー7に限られるものではなく、粘性ダンパーなどの他の速度依存型ダンパーを用いても良い。
【0048】
(効果)
免震建物2に速度依存型ダンパー7を設けて、地震発生時の免震建物2の応答低減効果を確保しつつ、様々な風(日常的な風、強風、暴風)による建物2の変形や風荷重を効果的に低減することができる。また、速度依存型ダンパー7の冷却機構を設けることで、長時間にわたって免震建物2に風があたった場合であっても前記ダンパー7の性能を維持することができる。さらに、エレベーター9を吊り下げ式にすることで、強風時であってもエレベーター9の運転を継続することできる。
【符号の説明】
【0049】
1…免震システム、2…免震建物、2A…上層階、2B…下層階、3…風エネルギー検出手段、4…免震層、5…制御装置(制御手段)、6…アイソレータ、7…速度依存型ダンパー(例えばオイルダンパー)、8…地面、9…エレベーター、11…送風機