(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】ECGベースの心臓壁厚推定
(51)【国際特許分類】
A61B 5/33 20210101AFI20240826BHJP
【FI】
A61B5/33 100
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020157103
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-09-15
(32)【優先日】2019-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】リアット・ツォレフ
(72)【発明者】
【氏名】シュムエル・アウアーバッハ
(72)【発明者】
【氏名】マティットヤフ・アミット
(72)【発明者】
【氏名】ヤリブ・アブラハム・アモス
(72)【発明者】
【氏名】アビ・シャルギ
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092071(WO,A1)
【文献】特表2018-522612(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0125575(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0254564(US,A1)
【文献】特開2016-123868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/318-5/367
A61B 18/12-18/16
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓壁組織の特性を推定するためのシステムであって、
患者の心臓内で実行された複数の電気生理学的(EP)測定値を受信するように構成されているインターフェースと、
訓練された機械学習(ML)モデルを使用して、前記EP測定値に基づいて、前記心臓の特定の場所における壁厚を推定するように構成されているプロセッサと、を備え
ており、
前記EP測定値のうちの1つ又は2つ以上が、心内電位図(EGM)を含み、
前記EP測定値のうちの1つ又は2つ以上が、身体表面心電図(ECG)を含み、
前記MLモデルが、前記EGM上で動作するように構成された第1のオートエンコーダと、前記ECG上で動作するように構成された第2のオートエンコーダと、を備えており、前記第1のオートエンコーダと前記第2のオートエンコーダのそれぞれは、デコーダに結合されたエンコーダを備える、システム。
【請求項2】
前記EP測定値は、前記EGMが取得された前記心臓内のそれぞれの場所を更に含む、請求項
1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサが
、前記心臓の前記特定の場所に適用されたアブレーション処置の結果に基づいて、前記
MLモデルを精緻化するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記アブレーション処置の結果が、(i)前記アブレーション処置と関連付けられた温度上昇、及び(ii)前記アブレーション処置と関連付けられた組織インピーダンスにおける変化のうちの1つ又は2つ以上を含む、請求項
3に記載のシステム。
【請求項5】
心臓壁組織の特性を推定するための方法であって、
患者の心臓内で実行された複数の電気生理学的(EP)測定値を受信することと、
訓練された機械学習(ML)モデルを使用して、前記EP測定値に基づいて、前記心臓の特定の場所における壁厚を推定することと、を含
み、
前記EP測定値のうちの1つ又は2つ以上が、心内電位図(EGM)を含み、
前記EP測定値のうちの1つ又は2つ以上が、身体表面心電図(ECG)を含み、
前記MLモデルが、前記EGM上で動作するように構成された第1のオートエンコーダと、前記ECG上で動作するように構成された第2のオートエンコーダと、を備えており、前記第1のオートエンコーダと前記第2のオートエンコーダのそれぞれは、デコーダに結合されたエンコーダを備える、方法。
【請求項6】
前記EP測定値は、前記EGMが取得された前記心臓内のそれぞれの場所を更に含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記壁厚を推定することが
、前記心臓の前記特定の場所に適用されたアブレーション処置の結果に基づいて、前記
MLモデルを精緻化することと、を含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項8】
前記アブレーション処置の結果が、(i)前記アブレーション処置と関連付けられた温度上昇、及び(ii)前記アブレーション処置と関連付けられた組織インピーダンスにおける変化のうちの1つ又は2つ以上を含む、請求項
7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年9月22日に出願された米国仮特許出願第62/903,851号の利益を主張し、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概して、電気生理学的信号及びアブレーションの処理に関し、具体的には、機械学習(machine learning、ML)を使用して心臓壁組織の特性を推定することに関する。
【背景技術】
【0003】
超音波、蛍光透視法、及びMRI撮像などの、多数の方法が、心臓壁の厚みを推定するために使用され得る。推定された壁厚は、心臓壁組織の損傷を推定するために、電気物理信号と更に相関することができる。例えば、Takeshi Sasakiらは、「Myocardial Structural Associations with Local Electrograms:A Study of Post-Infarct Ventricular Tachycardia Pathophysiology and Magnetic Resonance Based Non-Invasive Mapping,」Circulation Arrhythmia and Electrophysiology,December,2012;5(6):1081-1090において、左心室壁厚、梗塞後の瘢痕厚と、MRIで見られる壁内瘢痕場所と、電気解剖学的マッピング上の局所心内膜電位図双極/単極電圧、持続時間、及び偏向との間の有意な関連性を説明する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書で説明される本発明の一実施形態は、インターフェース及びプロセッサを含むシステムを提供する。インターフェースは、患者の心臓内で実行される複数の電気生理学的(electrophysiological、EP)測定値を受信するように構成される。プロセッサは、EP測定値に基づいて、心臓の特定の場所における壁厚を推定するように構成される。
【0005】
いくつかの実施形態では、EP測定値のうちの1つ又は2つ以上は、心内電位図(electrogram、EGM)を含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、EP測定値は、EGMが取得された心臓内のそれぞれの場所を更に含む。
【0007】
一実施形態では、EP測定値のうちの1つ又は2つ以上は、身体表面心電図(electrocardiogram、ECG)を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、EP測定値上で定義されたモデルを使用して壁厚を推定し、心臓の特定の場所において適用されたアブレーション処置の結果に基づいて、モデルを精緻化するように構成される。
【0009】
別の実施形態では、モデルは、訓練された機械学習(ML)モデルである。更に別の実施形態では、MLモデルは、デコーダに結合されたエンコーダを備える少なくとも1つのタイプのオートエンコーダを備える。
【0010】
一実施形態では、少なくとも1つのオートエンコーダは、EGM上で動作するように構成された第1のオートエンコーダと、ECG上で動作するように構成された第2のオートエンコーダと、を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、アブレーション処置の結果は、(i)アブレーション処置と関連付けられた温度上昇、及び(ii)アブレーション処置と関連付けられた組織インピーダンスにおける変化のうちの1つ又は2つ以上を含む。
【0012】
本発明の別の実施形態により、患者の心臓内で実行された複数の電気生理学的(EP)測定値を受信することを含む方法が、付加的に提供される。壁厚は、EP測定値に基づいて、心臓の特定の場所において推定される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
【
図1】本発明の例示的な一実施形態による、カテーテルベースの電気生理学的(EP)感知、信号分析、及びIREアブレーションシステムの概略的な描写図である。
【
図2】本発明の例示的な実施形態による、心臓壁厚を推定するための機械学習モデルの訓練及び推論のための使用のフローチャートである。
【
図3】本発明の例示的な実施形態による、オートエンコーダ及び完全に接続された層に基づく、壁厚推定のための深層学習アルゴリズムを示す。
【
図4】本発明の例示的な実施形態による、
図3の深層学習アルゴリズムにおいて使用されるオートエンコーダアーキテクチャの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
概論
心臓アブレーションは、患者の心臓組織内に病変を形成することによって不整脈を治療するために使用される一般的な処置である。このような病変は、不可逆的電気穿孔法(irreversible electroporation、IRE)、又は高周波(radiofrequency、RF)などの他のタイプの切除エネルギーによって形成されてもよく、これらの両方が、カテーテルを使用して適用することができる。IREアブレーションでは、カテーテルは、カテーテルの遠位端上に配設された電極が組織と接触するか、又は組織に近接するように操作される。次いで、高電圧双極パルスが、電極間に適用され、組織内で生成された強電界パルスは、細胞死及び病変生成を引き起こす。RFアブレーションでは、交互のRF電流が、1つ又は2つ以上の電極によって組織に適用され、熱によって細胞死を引き起こす。
【0015】
効果的であるために、組織アブレーションは、貫壁性、すなわち、組織の深さに浸透しなければならない。しかしながら、「オーバーアブレーション」は、(めったにないが、心臓壁の穿孔を含む)組織への望まない損傷を作り出し、又は心臓組織の後ろにあり得る食道などの隣接する構造体に、害を与える場合がある。したがって、処置中に最適なアブレーションパラメータを使用するために、アブレーションの直前及び/又はアブレーション中に心臓壁厚(例えば、心房若しくは心室壁)を評価することができることが重要である。
【0016】
磁気共鳴映像法(magnetic resonance imaging、MRI)、コンピュータ断層撮影(computerized tomography、CT)、超音波などを含む、心臓壁厚を評価するための異なる撮像様式が、用いられ得る。しかしながら、これらの様式を使用することにより、処置のコスト及び複雑さが増す。更に、これらの様式の空間分解能は、組織厚の順序であってもよく、これは、アブレーション中の実際の壁厚のより正確な推定を得ることができる。
【0017】
以下に記載される本発明の実施形態は、限定された直近の最新情報を有するアブレーションの食前及び/又はアブレーション中の心臓壁の厚み、すなわち、心房壁又は心室壁の厚みを推定するためのシステム並びに方法を提供する。いくつかの実施形態では、人工ニューラルネットワーク(artificial neural network、ANN)などの機械学習(ML)モデルが提供されて、アブレーション処置の直前又は最中に、カテーテルの電極によって取得された、多チャネル(例えば、12リード)身体表面心電図(ECG)、及び心臓内電位図(EGM)などのEPデータのみを使用するこの推定を可能にする。
【0018】
いくつかの実施形態では、MLモデルは、EPデータ(多チャネルECG及びEGM-心内ECG(intra-cardiac ECG、IcECG)としても知られる)、患者の医療履歴、及び収集されたデータの3D場所情報を含む、データを使用して訓練される。このモデルは、訓練を介して、超音波、CT、MRIなどの撮像様式、又は類似の撮像様式によって評価される心房/心室壁厚などの、グラウンドトゥルースデータを使用して、壁厚の予測電力を得るように最適化される。
【0019】
訓練データはまた、上記のデータ項目と共に、アブレーションの開始後に収集されたデータ、並びにアブレーション中の温度上昇プロファイル及び/又はインピーダンス変化などの更なる初期アブレーションデータを含む(例えば、組み込む)ことができる。(温度上昇プロファイルは、典型的には4秒~60秒を要するアブレーションで、非常に迅速に、典型的には10mSec又は100mSecで検出可能である)。
【0020】
新しいアブレーション処置の直前及び/又はその間(すなわち、推論中)に、モデルは、上述のように、特定の患者のECG及びEGM並びに後続のアブレーションデータ(すなわち、アブレーション処置中に取得された任意の後続データ)のみを使用して、患者の壁厚を更に評価する。
【0021】
本明細書では、ANNモデルが一例として使用されるが、当業者は、決定木学習、サポートベクトル機械(support vector machine、SVM)、及びベイジアンネットワークなどの、使用に利用可能な他のMLモデルの中から選択することができる。ANNモデルとしては、例えば、畳み込みNN(convolutional NN、CNN)、オートエンコーダ、及び確率ニューラルネットワーク(probabilistic neural network、PNN)が挙げられる。典型的には、使用された1つ又は2つ以上のプロセッサ(以下総じて「プロセッサ」と命名される)は、プロセッサが、上記で概略を述べたプロセッサ関連工程及び機能の各々を実行することを可能にする、特定のアルゴリズムを含むソフトウェア内にプログラムされる。典型的には、訓練は、グラフィックス処理ユニット(graphics processing unit、GPU)又はテンソル処理ユニット(tensor processing unit、TPU)などの複数のプロセッサを備える、コンピューティングシステムを使用して行われる。しかしながら、これらのプロセッサのいずれもまた、中央処理ユニット(central processing unit、CPU)であってもよい。
【0022】
アブレーション直前、並びにアブレーション中、すなわち、MLアルゴリズムを使用して上記で参照されるデータの少なくとも一部に基づいて、リアルタイムで心臓壁厚の評価をする能力は、心臓壁圧の簡易評価を可能にし、より正確なアブレーション時間をもたらし、典型的には、アブレーション処置の結果の改善にも同様につながり得る。
【0023】
システムの説明
図1は、本発明の例示的な実施形態による、カテーテルベースの電気生理学的(EP)感知、信号分析、及びIREアブレーションシステム20の概略的な描写図である。システム20は、例えば、Biosense Websterによって生成されたCARTO(登録商標)3システムであり得る。見られるように、システム20は、医師30によって患者28の心臓26(挿入
図25)にナビゲートされる、シャフト22を有するカテーテル21を備える。描画された例では、医師30は、カテーテルの近位端の近くのマニピュレータ32を使用してシャフト22を操作しながら、シース23を通してシャフト22を挿入する。
【0024】
本明細書に記載の実施形態では、カテーテル21は、それぞれ、心臓26の電気生理学的マッピング及びIREアブレーションなど、任意の好適な診断目的及び/又は組織アブレーションのために使用され得る。ECG記録器具35は、プロセス中にシステム20によって感知された様々なタイプのECG信号を受信することができる。
【0025】
挿入
図25に示されるように、カテーテル21のシャフト22の遠位端には、多電極バスケットカテーテル40が装着される。挿入
図45は、バスケットカテーテル40の複数の電極48の配置を示す。カテーテル21の近位端は、制御コンソール24に接続されて、例えば、電極48によって取得された電位図を送信する。
【0026】
コンソール24は、プロセッサ41を備え、典型的には汎用コンピュータであって、カテーテル21の電極48からEP信号(例えば、ECG及びEGM)並びに非EP信号(位置信号など)を受信するための好適なフロントエンド及びインターフェース回路38を有する。この目的のために、プロセッサ41は、シャフト22内に延びるワイヤを介して電極48に接続される。インターフェース回路38は、ECG記録器具35であり得る、12リードECG装置からなどのECG信号、並びに体表面電極49からの非ECG信号を受信するように更に構成される。典型的には、電極49は、患者28の胸部及び脚の周囲の皮膚に取り付けられる。プロセッサ41は、ケーブル39を通して延びるワイヤによって電極49に接続されて、電極49から信号を受信する。
【0027】
体表面電極49のうちの4つは、標準的なECGプロトコル、RA(右腕)、LA(左腕)、RL(右脚)、及びLL(左脚)に従って命名される。ウィルソン中央端末(Wilson Central Terminal、WCT)は、4つの命名された体表面電極49のうちの3つによって形成され得、得られたECG信号VWCTは、インターフェース回路38によって受信される。
【0028】
EPマッピング処置中、電極48の場所は、患者の心臓26内にありながら追跡される。このような追跡は、開示が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8,456,182号で説明される、Biosense-Webster社製のActive Current Location(ACL)システムを使用して実行されてもよい。
【0029】
こうして、プロセッサは、EGMなどの、電極48から受信された任意の所与の信号を、信号が取得された場所と関連付け得る。プロセッサ41は、これらの信号に含まれる情報を使用して、ディスプレイ上に存在するように局所アクティベーション時間(local activation time、LAT)マップなどのEPマップを構築する。示される実施形態では、
図2及び
図3に記載されるように、EP及び他のデータに適用されるMLアルゴリズムを含むアルゴリズムを使用して、プロセッサ41は、心臓壁厚を推定する。
【0030】
IREアブレーションを実行するために、電極48は、コンソール24内のプロセッサ制御スイッチング回路(例えば、図示されていない、リレーの配列)を含むIREパルス発生器47に接続(例えば、切り替え)される。壁厚情報を使用して、プロセッサ41又は医師は、どの電極をパルス発生器47に接続するか選択して、(スイッチング回路を介して)IREパルスを適用することができる。
【0031】
RFアブレーション中、初期及び後続のアブレーションデータは、IREエネルギープロファイル、温度上昇、及びインピーダンスの変化のうちの少なくとも1つを含む。これらは、
図2に記載されるように、患者の壁厚を(例えば、リアルタイムで)更に評価するのに使用されてもよい。
【0032】
プロセッサ41は、本明細書に述べられる機能を実施するために、通常はソフトウェアでプログラムされる。ソフトウェアは、例えば、ネットワークを介して電子形式でプロセッサにダウンロードされてもよく、又は、ソフトウェアは、代替的に若しくは付加的に、磁気的、光学的、又は電子的メモリなどの非一時的な有形媒体上に提供及び/又は記憶されてもよい。具体的には、プロセッサ41は、
図3に含まれる、本明細書に開示される専用アルゴリズムを実行し、以下で更に説明するように、プロセッサ41が本開示の工程を行うことを可能にする。
【0033】
MLを使用したECGベースの心臓壁厚推定
図2は、本発明の例示的な実施形態による、心臓壁厚を推定するための機械学習モデルの訓練及び推論のための使用のフローチャートである。
【0034】
アルゴリズムは、提示された例示的実施形態により、アルゴリズム準備101及びアルゴリズム使用102の2つの部分に分割される。
【0035】
アルゴリズム準備は、MLモデリング工程70で開始して、心臓壁厚を推定するためのMLアルゴリズムを生成するプロセスを実行する。
【0036】
次に、ECG及びEGMを含むデータベースを使用して、プロセッサは、MLアルゴリズム訓練工程72において、アルゴリズム(例えば、ANN及び前処理部)を訓練する。工程72では、プロセッサは、グランドトゥルースデータを含む、訓練データを使用して、MLモデルを訓練する。訓練データは、以下から形成される:
1.多チャネル(例えば、12リード)ECGデータ
2.心臓組織収集場所の3D情報を有する電位図
3.MFAMを使用した心房の別のMLモデル/3Dセグメンテーションに基づく、各心内電極の解剖学的場所。
4.診断カテーテルの詳細
5.患者人口統計情報(例えば、性別、年齢、身長、体重)
6.患者の医療履歴
グランドトゥルースデータは、
7.超音波、CT、MRIなどの撮像様式、又は類似の撮像様式によって評価される心房/心室壁厚から形成される。
【0037】
付加的な訓練データはまた、エネルギープロファイルを送信するアブレーション、並びに温度上昇、インピーダンス変化、アブレーション中の弾性変化及び/又は剛性変化などのアブレーション関連パラメータも含み得る。アブレーションが開始された後に収集されているが、上記のデータ項目#1~#6、及び/又は付加的な収集訓練データは、本明細書で総称して「アブレーションデータ」と呼ばれる。
【0038】
アルゴリズム準備は、訓練されたモデル記憶工程74において、訓練されたモデルを、キー上のディスク(メモリスティック)などの、非一時的コンピュータ可読媒体内に記憶することによって終了する。代替的な実施形態では、モデルは、予め送信され、その最適化されたパラメータ(ANNの重みなど)は、訓練後に別々に送信される。
【0039】
アルゴリズム使用102は、アルゴリズムアップロードステップ76において開始するプロセスを実行し、このプロセス中、ユーザは、全MLモデル又はその最適化されたパラメータ(例えば、重み)のいずれかをプロセッサにアップロードする。次に、プロセッサ28などのプロセッサは、患者データ受信工程78において、患者推論データ、例えば、電極49及び48から、それぞれ上述のECG及びEGMを受信する。
【0040】
次に、訓練されたMLモデルを推論のために使用して、プロセッサは、選択された患者から訓練されたモデルにデータを入力し、モデル上でアルゴリズムを実装する、そのためモデルは、心臓壁厚推定工程80において、上述のEPデータなどの利用可能な限られたデータのみから患者の心房又は心室壁厚を出力することができる。プロセッサ上にインストールされた後、訓練されたモデルは、複数の患者と共に使用されてもよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、NNモデルは、厚みの統計的分布を出力し、分布のピークは、最も可能性の高い壁厚値を判定するために、後続の工程、すなわち、NNモデルに含まれるものを超えて選択されてもよい。
【0042】
図2に示される例示的なフローチャートは、純粋に概念を明確にする目的で選択される。本実施形態はまた、診断された組織との電極の物理的接触の程度の指標を受信するなど、アルゴリズムの付加的な工程を含んでもよい。この工程及び他の可能性のある工程は、より簡素化されたフローチャートを提供するために、本明細書の開示から意図的に削除される。
【0043】
MLアルゴリズムの説明
図3は、本発明の例示的な実施形態による、オートエンコーダ及び完全に接続された層に基づく壁厚推定のための深層学習アルゴリズム300を示す。本方法は、推定のために、深層学習管理付きフレームワークを提供することを含み、(上記の訓練データ項目#1~#6に対応する)電位図、12リードECG、解剖学的データ、カテーテルの詳細、患者の人口統計データ、及び患者の医療履歴を使用する。本方法はまた、アブレーション中の温度上昇及び/又はインピーダンス変化を使用してもよい。
【0044】
本方法では、2つのオートエンコーダ302及び304(以下により詳細に説明される)が適用されて、12リードECG及び/又は心内ECGからの一組の特徴への次元縮小法を実行する。本方法は、これらの特徴に基づいて、及び、限定されるものではないが、NYHA(New York Heart Association)スコア、CHA2DS2-VAScスコア、及びAF持続時間、並びに人口統計データ(例えば、年齢、性別、身長、及び体重)を含む、医療履歴情報に基づいて、完全に接続された層を使用する。次いで、心臓壁の厚みを推定するために回帰分析が実行される。
【0045】
上述のように、本方法は、2つのオートエンコーダ302及び304を使用する。オートエンコーダは、エンコーダ及びデコーダの2つの部品を備える。エンコーダは、非線形変換を介して、入力(
図3では、ECG信号及び/又はEGM信号)を隠れ表現(それぞれ、h又はu)にマッピングする。次いで、デコーダは、隠れ表現を別の非線形変換を介して再構成されたデータに戻してマッピングする。式1及び式2は、マッピングを表す。
【0046】
【数1】
式中、θ
エンコーダ、θ
デコーダは、ECG信号再構成のための重みであり、及びφ
エンコーダ、φ
デコーダは、EGM信号再構成のための重みである。
【0047】
同様のネットワークアーキテクチャが、ECG及びEGM再構成に使用され、そのため非線形関数f及びgは、実質的に同様である。一組のオートエンコーダ間の最小化L2正規化関数を使用して、ECG信号再構成のための一組のθエンコーダ、θデコーダ重み、及びEGM再構成のための一組のφエンコーダ、φデコーダ重みを提供する。
【0048】
図4は、本発明の例示的な実施形態による、
図3の深層学習アルゴリズムにおいて使用されるオートエンコーダアーキテクチャの概略図である。具体的には、オートエンコーダアーキテクチャは、電位図及び/又は12リードECGの特徴空間を圧縮及び学習するために使用される。各オートエンコーダは、図に示されるように、所定の数の層を有するエンコーダ及びデコーダの完全に接続された畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network、FCN)を使用して実装される。エンコーダでは、EGM/ECG信号のサイズが低減され、信号は、低次元特徴にコード化される。デコーダは、低次元特徴に応じて出力を再構成しようと試みる。本発明の実施形態は、隠れ層の活性化関数として整流線形単位(rectifier linear unit、ReLU)を用いる。FCNモデルにおける出力層の活性化関数は存在しない。加えて、各隠れ層は、バッチ正規化を受ける。
【0049】
エンコーダは、一連の層を含み、各個々の層は、畳み込み層、バッチ正規化層、及び活性化層から構成される。入力層は、1024×Nのサイズを有する元の信号によって定義され、ここで、Nは、入力されたチャネルの数を表す。このため、12リードECGに対するN=12、及び心内ECG信号Nは、カテーテル取得信号上の電極の数に対応する。例えば、N=20は、PentaRay又はLassoカテーテルに対して使用され、N=64は、
図1のバスケットカテーテルに使用される。上で言及されるカテーテルは、例であること、及び本発明の範囲は、任意の心臓カテーテルを含むことが理解されるであろう。
【0050】
サイズ16×Nの40フィルタ及び2のストライドを有する畳み込みプロセスが、第1の層上に適用される。次の3つの畳み込み層は全て、サイズ16×Nの20フィルタを有し、ストライドは2である。次いで、次の層は、サイズ16×Nの40フィルタからなり、ストライドは2である。最後の層は、1のストライドを有するサイズ16×1の1つのフィルタを有する。ダウンサンプリングプロセスは、2のストライドを使用して達成される。コード化プロセスを通して、32×N次元特徴マップが得られる。この特徴マップはまた、圧縮データを表し、元のデータサイズよりも32倍小さい。
【0051】
オートエンコーダのデコーダ部分は、エンコーダに対して逆対称である。ここで、逆畳み込み層は、構造の詳細を回復するように、特徴マップをアップサンプリングするように処理される。出力層に関して、サイズ16×N及びストライドが1の1つのフィルタを有する最終的な逆畳み込み層は、出力信号を生成する。
【0052】
図3に戻ると、隠れ表現h及びu、患者の医療履歴情報(NYHAスコア、CHA2DS2-VAScスコア、AF持続時間及び持続性AF持続時間)、並びに患者人口統計データ(年齢、性別、身長、及び体重)は、4つの隠れ層(暗灰色円)を有する完全に接続されたニューラルネットワークの特徴空間(
図3の薄灰色円)として機能する。いくつかの実施形態では、特徴空間はまた、温度上昇及びインピーダンス変化入力のうちの少なくとも1つを含む。
【0053】
隠れ層からの出力は、次いで、心臓の壁厚を推定する出力ニューロンに挿入される。
【0054】
ネットワーク全体は、式3に示される、L2正則化関数を最小限に抑えようと試みる逆伝播アルゴリズムを使用して訓練される。
【0055】
【数2】
式中、J(φ)は、損失関数であり、WT
iは、超音波、若しくはCT、MRI、又は被験体iの類似の撮像様式から取られた心房/心室壁厚を表しWT
i’は、示唆された方法に基づいて推定された心臓壁厚であり、φは、完全に接続された層の重みであり、βは、正則化パラメータである。開示される実施形態では、βは、0.01に設定される。
【0056】
逆伝播アルゴリズムは、損失関数J(φ)を最小限に抑えるために実行される。
【0057】
本発明の例示的な実施形態では、心臓壁厚のための深層学習リグレッサは、一組のパラメータφ、h、u、θエンコーダ、θデコーダ、φエンコーダ、φデコーダの最適値(L2正則化感知)を学習した後に得られる。
【0058】
開示された実施形態は、単なる例として、フィルタの数などの特定の数を提供する。一般に、このような数は、修正されてもよい。上記の説明は、アブレーション処置、及び処置のための組織壁厚を測定することを指すが、この説明は、アブレーション処置なしに組織壁厚を測定するように、変更すべきところは変更して、適合されてもよいことが理解されるであろう。このため、本発明の範囲は、アブレーション処置を伴う又は伴わない心臓処置を含む。
【0059】
それゆえ、上述のアルゴリズムを操作することにより、プロセッサは心臓壁の厚みの近似値を求めることができることが理解されるであろう。この値は、アブレーションシステムのGUIに組み込まれてもよい。代替的に、又は付加的に、厚み値は、「壁」の描画上の数として提示されてもよく、又は壁厚は、アブレーションシステムディスプレイ上に提示される心臓画像のスケールに従ってグラフで表示されてもよい。
【0060】
上記の実施形態は例として挙げたものであり、本発明は上記に具体的に示し記載したものに限定されない点が理解されよう。本明細書に記載される実施形態は、主に心臓診断用途に関するものであるが、本明細書に記載される方法及びシステムは、心臓壁厚の推定を必要とする他の心臓医療用とにおいて使用することもできる。
【0061】
したがって、上記の実施形態は例として挙げたものであり、本発明は、上記に具体的に示し記載したものに限定されない点が更に理解されよう。むしろ本発明の範囲は、上記の様々な特徴の組み合わせ及びその部分的組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者に想到されるであろう、先行技術において開示されていないそれらの変形例及び修正例を含むものである。参照により本特許出願に組み込まれる文献は、これらの組み込まれる文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾する様式で定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部とみなすものとする。
【0062】
〔実施の態様〕
(1) 心臓壁組織の特性を推定するためのシステムであって、
患者の心臓内で実行された複数の電気生理学的(EP)測定値を受信するように構成されているインターフェースと、
前記EP測定値に基づいて、前記心臓の特定の場所における壁厚を推定するように構成されているプロセッサと、を備える、システム。
(2) 前記EP測定値のうちの1つ又は2つ以上が、心内電位図(EGM)を含む、実施態様1に記載のシステム。
(3) 前記EP測定値は、前記EGMが取得された前記心臓内のそれぞれの場所を更に含む、実施態様2に記載のシステム。
(4) 前記EP測定値のうちの1つ又は2つ以上が、身体表面心電図(ECG)を含む、実施態様1に記載のシステム。
(5) 前記プロセッサが、前記EP測定値上で定義されたモデルを使用して、前記壁厚を推定し、前記心臓の前記特定の場所に適用されたアブレーション処置の結果に基づいて、前記モデルを精緻化するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
【0063】
(6) 前記モデルが、訓練された機械学習(ML)モデルである、実施態様5に記載のシステム。
(7) 前記MLモデルが、デコーダに結合されたエンコーダを備える、少なくとも1つのタイプのオートエンコーダを備える、実施態様6に記載のシステム。
(8) 前記少なくとも1つのオートエンコーダが、前記EGM上で動作するように構成された第1のオートエンコーダと、前記ECG上で動作するように構成された第2のオートエンコーダと、を備える、実施態様7に記載のシステム。
(9) 前記アブレーション処置の結果が、(i)前記アブレーション処置と関連付けられた温度上昇、及び(ii)前記アブレーション処置と関連付けられた組織インピーダンスにおける変化のうちの1つ又は2つ以上を含む、実施態様5に記載のシステム。
(10) 心臓壁組織の特性を推定するための方法であって、
患者の心臓内で実行された複数の電気生理学的(EP)測定値を受信することと、
前記EP測定値に基づいて、前記心臓の特定の場所における壁厚を推定することと、を含む、方法。
【0064】
(11) 前記EP測定値のうちの1つ又は2つ以上が、心内電位図(EGM)を含む、実施態様10に記載の方法。
(12) 前記EP測定値は、前記EGMが取得された前記心臓内のそれぞれの場所を更に含む、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記EP測定値のうちの1つ又は2つ以上が、身体表面心電図(ECG)を含む、実施態様10に記載の方法。
(14) 前記壁厚を推定することが、前記EP測定値上で定義されたモデルを使用することと、前記心臓の前記特定の場所に適用されたアブレーション処置の結果に基づいて、前記モデルを精緻化することと、を含む、実施態様10に記載の方法。
(15) 前記モデルが、訓練された機械学習(ML)モデルである、実施態様14に記載の方法。
【0065】
(16) 前記MLモデルが、デコーダに結合されたエンコーダを備える、少なくとも1つのタイプのオートエンコーダを備える、実施態様15に記載の方法。
(17) 前記少なくとも1つのオートエンコーダが、前記EGM上で動作するように構成された第1のオートエンコーダと、前記ECG上で動作するように構成された第2のオートエンコーダと、を備える、実施態様16に記載の方法。
(18) 前記アブレーション処置の結果が、(i)前記アブレーション処置と関連付けられた温度上昇、及び(ii)前記アブレーション処置と関連付けられた組織インピーダンスにおける変化のうちの1つ又は2つ以上を含む、実施態様14に記載の方法。