(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】画像記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240826BHJP
B41J 15/04 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
B41J2/01 305
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41J2/01 201
B41J15/04
(21)【出願番号】P 2020165459
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 世玲菜
(72)【発明者】
【氏名】馬場 直子
(72)【発明者】
【氏名】今野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】丸本 義朋
(72)【発明者】
【氏名】現田 心
(72)【発明者】
【氏名】牛山 崇幸
(72)【発明者】
【氏名】下古立 祐未
(72)【発明者】
【氏名】横川 太地
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-230690(JP,A)
【文献】特開2016-000643(JP,A)
【文献】特開2012-166566(JP,A)
【文献】特開2005-060086(JP,A)
【文献】特開2015-086034(JP,A)
【文献】特開2011-093674(JP,A)
【文献】特開2006-027799(JP,A)
【文献】特開2008-087340(JP,A)
【文献】特開2010-120339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1駆動源によって駆動され、記録媒体を搬送方向に搬送するための搬送ローラと、
前記搬送
ローラによって搬送される記録媒体に画像を記録する記録部と、
前記記録部によって画像が記録されている記録媒体を所定の方向に誘導する第1搬送経路と、
前記記録部によって画像が記録されている記録媒体を前記所定の方向とは異なる方向に誘導する第2搬送経路と、
第2駆動源によって駆動され、前記第2搬送経路において前記搬送ローラによって搬送された記録媒体を搬送するための排紙ローラと、
前記搬送ローラと前記排紙ローラとを含む搬送手段
による搬送を制御する制御手段と、を備える画像記録装置であって、
記録媒体を前記第1搬送経路に沿って搬送する場合、前記第1駆動源によって前記搬送ローラが駆動され、記録媒体を前記第2搬送経路に沿って搬送する場合、前記第1駆動源によって前記搬送ローラが駆動されかつ前記第2駆動源によって前記排紙ローラが駆動され、
前記制御手段は、前記第1搬送経路に沿って搬送する場合の前記搬送手段の搬送量に関する第1情報
に従って前記搬送手段による前記第1搬送経路に沿う搬送をし、前記第2搬送経路に沿って搬送する場合の前記搬送手段の搬送量に関する前記第1情報とは異なる第2情報に従って前記搬送手段
による前記第2搬送経路に沿う搬送をすることを特徴とする画像記録装置。
【請求項2】
記録媒体を前記第1搬送経路に沿って搬送させながら前記記録部に所定の調整パターンを記録させ、当該調整パターンの光学濃度に基づいて前記第1情報を取得する第1モードと、記録媒体を前記第2搬送経路に沿って搬送させながら前記記録部に前記所定の調整パターンを記録させ、当該調整パターンの光学濃度に基づいて前記第2情報を取得する第2モードとを実行可能な調整モード実行手段を備え
ることを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
前記調整モード実行手段は、前記第1モードを実行したときに前記第1情報に基づいて前記第2情報を導出し、前記第2モードを実行したときに前記第2情報に基づいて前記第1情報を導出することを特徴とする請求項2に記載の画像記録装置。
【請求項4】
前記調整モード実行手段は、
前記第1モードを実行したときに、前記第1情報と前記第2情報とを個別に記憶する記憶手段に記憶されている前記第2情報が初期値ではない場合は、前記記憶手段に記憶されている前記第2情報を維持し、
前記第2モードを実行したときに、前記記憶手段に記憶されている前記第1情報が初期値ではない場合は、前記記憶手段に記憶されている前記第1情報を維持することを特徴とする請求項3に記載の画像記録装置。
【請求項5】
前記調整モード実行手段は、
前記第1モードを実行したとき、前記第2モードを最後に実行してからの経過時間が所定の閾値を超えない場合は、前記第1情報と前記第2情報とを個別に記憶する記憶手段に記憶されている前記第2情報を維持し、
前記第2モードを実行したとき、前記第1モードを最後に実行してからの経過時間が所定の閾値を超えない場合は、前記記憶手段に記憶されている前記第1情報を維持することを特徴とする請求項3に記載の画像記録装置。
【請求項6】
前記調整パターンの光学濃度を検出する検出手段を更に備えることを特徴とする
請求項2から5のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項7】
記録媒体を搬送方向に搬送するための搬送手段と、
前記搬送手段によって搬送される記録媒体に画像を記録する記録部と、
前記記録部によって画像が記録されている記録媒体を所定の方向に誘導する第1搬送経路と、
前記記録部によって画像が記録されている記録媒体を前記所定の方向とは異なる方向に誘導し、複数の区間を含む第2搬送経路と、
前記搬送手段の駆動量を制御する制御手段と、
を備える画像記録装置であって、
前記制御手段は、前記第1搬送経路に沿って搬送する場合の前記搬送手段の搬送量に関する第1情報に従って前記搬送手段を駆動して前記第1搬送経路に沿う搬送をし、前記第2搬送経路に沿って搬送する場合の前記搬送手段の搬送量に関する前記第1情報とは異なる第2情報に従って前記搬送手段を駆動して前記第2搬送経路における搬送をし、
前記第2情報は前記複数の区間のそれぞれについて個別に設定されており、
記録媒体を前記第2搬送経路に沿って搬送する場合、前記制御手段は、前記複数の区間のうち記録媒体の先端が位置している区間に応じて前記搬送手段の駆動量を前記第2情報に従って変更することを特徴とす
る画像記録装置。
【請求項8】
前記第2搬送経路には、記録媒体をニップして搬送するための第1ローラ対と第2ローラ対とが前記搬送方向に離れて配置され、前記第2搬送経路は前記第1ローラ対から前記第2ローラ対の間の第1区間と、前記第2ローラ対よりも前記搬送方向の更に下流の第2区間とを含むことを特徴とする
請求項7に記載の画像記録装置。
【請求項9】
前記第2搬送経路には、記録媒体をニップして搬送するための第1ローラ対と第2ローラ対とが前記搬送方向に離れて配置され、前記第2搬送経路は、前記第2ローラ対を含む第3区間と、前記第1ローラ対から前記第3区間の手前までの第1区間と、前記第3区間よりも前記搬送方向の更に下流の第2区間とを含むことを特徴とする
請求項7に記載の画像記録装置。
【請求項10】
前記第3区間の前記第2情報は、前記第2区間の前記第2情報と等しい値に設定されることを特徴とする
請求項9に記載の画像記録装置。
【請求項11】
前記第3区間の前記第2情報は、前記第1区間と前記第2区間の前記第2情報に基づいて導出されることを特徴とする
請求項9に記載の画像記録装置。
【請求項12】
前記記録部で記録された記録媒体を切断するカッターを備えることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項13】
ロールから記録媒体を前記搬送手段に供給する供給部を備えることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項14】
前記第2搬送経路で搬送された記録媒体が排紙されるスタッカを備えることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項15】
前記第1情報及び前記第2情報は、前記搬送手段が記録媒体を搬送する際の、基準の搬送量に対する補正量に関する情報であることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項16】
前記搬送方向とは交差する方向に前記記録部を移動させながら画像を記録する記録走査と、前記搬送手段によって記録媒体を搬送する搬送動作とを交互に繰り返すことにより、記録媒体に画像を記録することを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【請求項17】
前記記録部は、インクを吐出するための複数の記録素子が配列されるインクジェット記録ヘッドであることを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載の画像記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドを用いて記録媒体に画像を記録する画像記録装置においては、記録媒体の搬送誤差が画像品位に影響を与えることがある。例えば、シリアル型の画像記録装置では、各搬送動作の搬送量が設計値よりも大きいと画像内に白スジが現れ、設計値よりも小さいと黒スジが現れ、画像品位を劣化させてしまう。
【0003】
特許文献1には、シリアル型の画像記録装置において、所定の調整パターンの記録処理及び読み取り処理を行い、搬送量の補正値を求める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の画像記録装置においては、記録物の排出口を複数用意し、これら複数の排出口のいずれを使用するかを、記録媒体の種類や記録物の用途等に応じて設定可能なものがある。この場合、排出口に応じて記録媒体の搬送経路が異なり、搬送経路に応じて搬送量の適切な補正値も異なる場合がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1には、複数の搬送経路それぞれに適した補正値を求めることへの着眼がない。このため、複数の排出口を有する画像記録装置で特許文献1の方法を採用した場合、ある搬送経路で調整パターンを記録して得られた補正値は、その搬送経路では有効であるものの、別の搬送経路では有効に機能しないことがある。即ち、従来の画像記録装置においては、複数の搬送経路のそれぞれについて、搬送量の補正を適切に行うことは困難な状況であった。
【0007】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものである。よってその目的とするところは、複数の搬送経路のそれぞれについて搬送量の補正を適切に行うことが可能な画像記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために本発明は、第1駆動源によって駆動され、記録媒体を搬送方向に搬送するための搬送ローラと、前記搬送ローラによって搬送される記録媒体に画像を記録する記録部と、前記記録部によって画像が記録されている記録媒体を所定の方向に誘導する第1搬送経路と、前記記録部によって画像が記録されている記録媒体を前記所定の方向とは異なる方向に誘導する第2搬送経路と、第2駆動源によって駆動され、前記第2搬送経路において前記搬送ローラによって搬送された記録媒体を搬送するための排紙ローラと、前記搬送ローラと前記排紙ローラとを含む搬送手段による搬送を制御する制御手段と、を備える画像記録装置であって、記録媒体を前記第1搬送経路に沿って搬送する場合、前記第1駆動源によって前記搬送ローラが駆動され、記録媒体を前記第2搬送経路に沿って搬送する場合、前記第1駆動源によって前記搬送ローラが駆動されかつ前記第2駆動源によって前記排紙ローラが駆動され、前記制御手段は、前記第1搬送経路に沿って搬送する場合の前記搬送手段の搬送量に関する第1情報に従って前記搬送手段による前記第1搬送経路に沿う搬送をし、前記第2搬送経路に沿って搬送する場合の前記搬送手段の搬送量に関する前記第1情報とは異なる第2情報に従って前記搬送手段による前記第2搬送経路に沿う搬送をすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の搬送経路のそれぞれについて搬送量の補正を適切に行うことが可能な画像記録装置及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】記録装置の制御の構成を説明するためのブロック図
【
図5】一般的な搬送量調整モードを説明するためのフローチャート
【
図6】調整パターンの記録方法を説明するための模式図
【
図8】前面排出用の搬送経路と上面排出用の搬送経路を示す図
【
図9】実施例1の搬送量調整モードを説明するためのフローチャート
【
図10】実施例1における補正値の更新状態を説明するための図
【
図11】記録コマンドが入力された際の処理を示すフローチャート
【
図12】実施例2における搬送経路と区間を説明するための図
【
図13】実施例2の搬送量調整モードを説明するためのフローチャート
【
図14】第2搬送経路を用いた調整における調整パターンを示す図
【
図15】実施例2における補正値の更新状態を説明するための図
【
図16】実施例3における搬送経路と区間を説明するための図
【
図18】実施例3における補正値の更新状態を説明するための図
【
図19】実施例3における補正値の切り替えを説明するための図
【
図20】一定の補正搬送量の下での実搬送量の変化を示す図
【
図21】実施例4における補正値の切り替えを説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0011】
<装置の基本的構成>
図1(a)及び(b)は、本発明の画像記録装置として使用可能なインクジェット記録装置1(以下、単に記録装置1と言う)の外観斜視図である。図中、X方向は記録装置1の前方向、Y方向は記録装置1の幅方向、Z方向は重力と逆向きの鉛直方向を示している。記録装置1の前面には、2つのシート供給部10A及び10Bが上下に設けられている。ユーザは、シート供給部10A及び10Bのそれぞれに対し、記録媒体となるロール紙を記録装置1に装着することができる。
【0012】
シート供給部10の上位には、前面排出が設定された場合に記録後のシート(以下、記録媒体と言う)が排出される排出口20が設けられている。また、記録装置100の上面には、上面排出が設定された場合に記録後の記録媒体が排出されるスタッカ28が設けられている。
【0013】
記録装置1の前上部には、記録装置1の状態を表示したり、ユーザからのコマンドを受付けたりするための操作パネル30が設けられている。ユーザは、操作パネル30に配された各種のスイッチを用いて、記録媒体のサイズや種類の指定、オンライン/オフラインの切り換え等、記録装置1に対する各種コマンドを入力することができる。本実施形態においては、記録後の記録媒体を排出口20に排出するかスタッカ28に排出するかの設定、及び後述する搬送量調整モードの実行についても、ユーザが操作パネル30を介して指示可能とする。
【0014】
図1(a)は、上面排出が設定され、記録中の記録媒体Sがスタッカ28に排出されていく様子を示している。一方、
図1(b)は、前面排出が設定され、記録中の記録媒体Sが排出口20から排出されている様子を示している。
【0015】
図2(a)及び(b)は、記録装置1の内部構成を説明するための図である。
図2(a)は、上面排出が設定された場合の記録状態を示し、
図2(b)は、前面排出が設定された場合の記録状態を示している。
【0016】
記録コマンドが入力されると、シート供給部10A及び10Bのうち、指定された記録媒体を搭載するロールRが回転し、ロールRの外面から外れた記録媒体Sは、所定の経路に誘導されて搬送ローラ14とニップローラ15のニップ部に到達する。
図2(a)及び(b)においては、上位にあるシート供給部10Aの記録媒体Sが指定された場合を示しているが、シート供給部10Bの記録媒体Sが指定された場合でも、途中から同じ経路を経て上記ニップ部まで搬送される。
【0017】
搬送ローラ14は、不図示の搬送モータに連結する駆動ローラである。ニップローラ15は、搬送ローラ14と共に記録媒体Sをニップしながら、搬送ローラ14の回転に伴って回転する従動ローラである。
【0018】
搬送ローラ14とニップローラ15から成るローラ対の下流には、記録媒体Sに対して画像を記録する記録部となる記録ヘッド18が配されている。本実施形態の記録ヘッド18は、記録データに従ってインクを吐出する複数の記録素子がX方向に配列されたインクジェット記録ヘッドであり、不図示の主走査モータによって図中Y方向に往復移動が可能になっている。記録ヘッド18がインクを吐出しながらY方向に移動することにより、記録媒体Sには1バンド分の画像が記録される。そして、このような1バンド分の記録走査と、1バンド分に対応する距離の記録走査と交差する方向への搬送動作とを繰り返すことにより、記録媒体Sに段階的に画像が記録されていく。
【0019】
図3は、本実施形態で使用する記録ヘッド18をノズル面側から見た図である。本実施形態の記録ヘッド18には、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(LM)、シアン(C)、ライトシアン(LC)及びブラック(Bk)のそれぞれを吐出するノズル列がY方向に配置されている。各色のノズル列には、Even列及びOdd列のノズル列と、これら2つのノズル列に共通してインクを供給するためのインク供給口180とが配されている。Even列とOdd列のそれぞれには、インクを吐出するノズルがX方向に600dpi(ドット/インチ)の間隔で640個ずつ配列しており、Even列とOdd列はX方向に互いに半ピッチずれて配置されている。このため、各色のノズル列は、X方向において1200dpiで配列する1280個のノズルを有していることになる。記録ヘッド18を主走査方向であるY方向に移動させながら個々のノズルからインクを吐出することにより、記録媒体Sには1200dpiの解像度でドットを記録することができる。
【0020】
図2の説明に戻る。記録ヘッド18の下流側(+X方向側)には、記録ヘッド18によって記録された調整パターンを読み取り可能な光学センサ40が配されている。光学センサ40の更に下流側には、連続紙である記録媒体Sを切断するためのカッター21が配されている。
【0021】
カッター21の更に下流側には、記録媒体Sの搬送経路を切り替えるためのフラップ22が設けられている。フラップ22は、図中、矢印E1又はE2の方向に回転することにより、搬送されて来る記録媒体Sの搬送経路を決定する。上面排出を示す
図2(a)において、フラップ22は、E1側に回転して排出口20の入り口を塞ぎ、搬送されて来る記録媒体Sを上方の搬送経路に誘導している。一方、前面排出を示す
図2(b)において、フラップ22は、E2側に回転して排出口20の入り口から退避し、搬送されて来る記録媒体Sを排出口20に誘導している。
【0022】
フラップ22よりも上方の搬送経路には、排紙ローラ25と排紙ニップコロ26が配されている。排紙ローラ25は不図示の排紙モータに連結する駆動ローラである。排紙ニップコロ26は、排紙ローラ25と共に記録媒体Sをニップしながら、排紙ローラ25の回転に伴って回転する従動コロである。排紙ローラ25と排紙ニップコロ26のニップ部に到達した記録媒体Sは、搬送ローラ14とニップローラ15のニップ部と排紙ローラ25と排紙ニップコロ26のニップ部とによってニップされる。そして、2つの駆動モータを駆動源として、より上位に配置されたスタッカ28に向けて重力に逆らって搬送される。
【0023】
記録ヘッド18による最後の記録走査が終了し、画像の後端がカッター21よりも下流まで搬送されると、カッター21は記録媒体Sを切断する。その後、上面排出が設定されている場合、カットされた記録媒体Sは、その後端が排紙ローラ25と排紙ニップコロ26のニップ部を通過するまで排紙ローラ25と排紙ニップコロ26によって搬送される。そして、スタッカ28のトレイ29に排紙される(
図2(a)参照)。スタッカ28は、連続して排出される複数の記録媒体を積載して保持することができる。
【0024】
一方、前面排出が設定されている場合、カットされた記録媒体Sは、自重によって排出口20より排紙される(
図2(b)参照)。
図2(b)では、装置の下部に設けられた収容部50が前面に引き出された様子を示している。排出口20より排紙された記録媒体Sは、その後端がカットされた時に自重によって落下し、収容部50に収容される。
【0025】
図4は、記録装置1の制御の構成を説明するためのブロック図である。コントローラ510は、マイクロ・コンピュータ形態のCPU511、プログラムや所定のテーブル及び固定データを格納したROM512、画像データを展開する領域や作業用の領域等が設けられたRAM513を有し、装置全体を制御する。CPU511は、ROM512に記憶されているプログラムに従いRAM513をワークエリアとして使用しながら、装置内の各種機構を制御する。
【0026】
外部に接続されたホスト装置501は、画像データの供給源である。ホスト装置501は、記録に係る画像データの作成、処理等を行うコンピュータの他、画像読み取り用のリーダ部等の形態であってもよい。画像データ、その他のコマンド、ステータス信号等は、インタフェース(I/F)502を介してコントローラ510との間で送受信される。CPU511は、ホスト装置501より受信した画像データに対し、ROM512に記憶されたプログラムに従って所定の画像処理を行い、記録ヘッド18が記録可能な記録データを生成してRAM513に保存する。そして、RAM513に保存された記録データを順次読み出しながら、ヘッドドライバ540、主走査モータドライバ550、搬送モータドライバ560、排紙モータドライバ570及びフラップモータドライバ580等を制御して記録媒体に画像を記録する。
【0027】
操作パネル30には、電源スイッチ521、記録開始を指示するためのプリントスイッチ522、記録ヘッド18に対するメンテナンス処理を指示するための回復スイッチ523が配されている。また操作パネル30には、後述する搬送量調整モードの実行を指示するための調整モード実行スイッチ524、搬送量調整モードで得られた補正値をユーザがマニュアルで入力可能な補正値入力部525も配されている。
【0028】
センサ群530は、記録装置1の状態や記録物の状態等を検知する各種センサの群である。センサ群530には、記録ヘッド18の主走査方向の位置を検知するフォトカプラ531、環境温度を検知する温度センサ532、調整パターンの濃度測定を行う光学センサ40等が含まれる。各種センサの検出結果はコントローラ510に送信される。
【0029】
搬送量調整部590は、CPU511の指示の下、本実施形態の搬送量調整モードの実行および搬送量調整モードによって得られた補正値の管理を行う。搬送量調整部590は、所定の調整パターンを生成する調整パターン生成部591、調整パターンの光学濃度を測定する調整パターン測定部592、測定結果から補正値を導出する補正値導出部593、及び補正値を設定する補正値設定部594を有する。
【0030】
ヘッドドライバ540は、CPU511が生成した記録データに従って記録ヘッド18を駆動する。本実施形態の記録ヘッド18は、電気熱変換素子である複数の吐出ヒータ541が各ノズルに配されたサーマル方式の記録ヘッドである。ヘッドドライバ540が記録データに従って吐出ヒータ541に電圧を印加することにより、個々のノズルからインクが吐出される。ヘッドドライバ540は、記録データを吐出ヒータ541の位置に対応させて整列させるためのシフト・レジスタ、適宜のタイミングでラッチするラッチ回路を備える。また、ヘッドドライバ540は、駆動タイミング信号に同期して吐出ヒータ541を作動させる論理回路素子、ドット形成位置合わせのために駆動タイミング(吐出タイミング)を適切に設定するタイミング設定部等も備える。
【0031】
記録ヘッド18には、吐出ヒータ541の他、記録ヘッド18を適切な温度に維持するためのサブヒータ542が設けられている。サブヒータ542は、吐出ヒータ541と同じ基板上に形成されていてもよいが、記録ヘッド18の基板以外の箇所に取り付けられていてもよい。
【0032】
主走査モータ551は、記録ヘッド18を記録走査方向(Y方向)に移動させるためのモータであり、主走査モータドライバ550は主走査モータ551を駆動するためのドライバである。搬送モータ561は、
図2で説明した搬送ローラ14を回転させるためのモータであり、搬送モータドライバ560は搬送モータ561を駆動するためのドライバである。排紙モータ571は、
図2で説明した排紙ローラ25を回転させるためのモータであり、排紙モータドライバ570は排紙モータ571を駆動するためのドライバである。
【0033】
フラップ駆動モータ581は、
図2で説明したフラップ22を回転させるためのモータであり、フラップモータドライバ580はフラップ駆動モータ581を駆動するためのドライバである。
【0034】
<一般的な搬送量調整モード>
図5は、特許文献1で開示される搬送量調整モードを、本実施形態の記録装置1で実行した場合の工程を説明するためのフローチャートである。本処理は、CPU511が、ROM512に記憶されているプログラムに従って、RAM513をワークエリアとして使用しながら、
図3で説明した搬送量調整部590の各機構を制御することによって実行される。また、本処理は、ユーザが、
図4で説明した調整モード実行スイッチ524を押すこと、又はホスト装置501のUIで搬送量調整モードを指示することによって開始可能である。
【0035】
本処理が開始されると、CPU511は、まずS501において所定の調整パターンを記録する。具体的には、調整パターン生成部591に所定の調整パターンを生成させ、主走査モータ551、搬送モータ561、排紙モータ571、ヘッドドライバ540を制御しながら、生成された調整パターンを記録ヘッド18に記録させる。
【0036】
図6は、調整パターンの記録方法を説明するための模式図である。本例の調整パターンはY方向に配列する7つのパッチ(パッチ0~パッチ6)で構成され、個々のパッチは、ブラックのノズル列を用いた2回の記録走査によって記録される。以下詳しく説明する。
【0037】
調整パターンを記録する際、ブラック用のノズル列は、下流側の第1ブロックと上流側の第2ブロックに分割される。それぞれのブロックにはEven列とOdd列を含めて640個ずつのノズルが含まれることになる。
【0038】
第1記録走査において、CPU511は、第2ブロックに含まれる所定のノズルを用い、各パッチに対応する位置に基準パターンを記録する。図では、基準パターンとして記録されるドットを白丸で示している。ここでは、各パッチについて2つの基準パターンが記録された例を示している。基準パターンは、いずれのパッチにおいても、同じノズルを用いて搬送方向の同じ位置に記録される。以下、基準パターンの記録に用いられるノズルを、便宜上、基準ノズルと呼ぶ。
【0039】
第1記録走査が完了すると、CPU511は記録媒体Sを1200dpiの640画素分、即ちノズル列の半分に相当する距離だけ搬送する。本実施形態において、CPU511は、搬送モータドライバ560や排紙モータドライバ570に対し、9600dpiの解像度で搬送量を指定できるものとする。より詳しく説明すると、1パルスの発信によって9600dpiの1画素分だけ搬送される構成となっており、CPU511は、目的の搬送量に対応する画素数のパルスを、指令パルス値として発信する。1200dpiの640画素は9600dpiの5160画素に相当するので、本例の場合、CPU511は、搬送モータドライバ560や排紙モータドライバ570に対し、5120個の指令パルス値を発信する。1インチは約25.4mmであるため、誤差が発生しない場合、搬送距離は、
25.4mm×640/1200=13.55mm
となる。
【0040】
第2記録走査において、CPU511は、第1ブロックに含まれる所定のノズルを用い、ずらしパターンを記録する。図では、ずらしパターンとして記録されるドットを黒丸で示している。白丸で示す基準パターンは、パッチ0~パッチ6で同じノズルを用いて記録したが、ずらしパターンは、パッチごとに異なるノズルを用いて記録する。本例では、パッチ3については、基準ノズルに対し640画素分、即ち上記搬送量と同じ距離を置いたノズルを用いてずらしパターンを記録する。以下、基準ノズルに対し640画素分の距離を置いたパッチ3で使用されるノズルを、便宜上、相対基準ノズルと呼ぶ。パッチ2については、相対基準ノズルに対し下流側に1つ分ずれたノズルを用いてずらしパターンを記録する。パッチ1については、相対基準ノズルに対し下流側に2つ分ずれたノズルを用いてずらしパターンを記録し、パッチ0については、相対基準ノズルに対し下流側に3つ分ずれたノズルを用いてずらしパターンを記録する。
【0041】
一方、パッチ4については、相対基準ノズルに対し上流側に1つ分ずれたノズルを用いてずらしパターンを記録する。パッチ5については、相対基準ノズルに対し上流側に2つ分ずれたノズルを用いてずらしパターンを記録し、パッチ0については、相対基準ノズルに対し上流側に3つ分ずれたノズルを用いてずらしパターンを記録する。
【0042】
図7は、各パッチにおけるドットの記録状態を示す図である。ここでは、ノズル列に配列する複数のノズルのうち、第1ブロックに含まれる端部から16個のノズルをノズル1~ノズル16とし、ノズル8が相対基準ノズルである場合を示している。パッチ3では、基準ノズルが記録した基準パターンの上に、640画素分の搬送動作を挟んで、基準ノズルから640画素分離れた相対基準ノズルがずらしパターンを記録する。このため、基準ノズルの記録位置と相対基準ノズルの記録位置は一致し、白丸で示す基準パターンと黒丸で示すずらしパターンは重なっている。これに対し、ずらしパターンを記録するノズルが相対基準ノズル(ノズル8)ではないパッチでは、ずらしパターンを記録するノズルが相対基準ノズルから離れるほど、ずらしパターンと基準パターンのずれも大きくなっている。
【0043】
ここで、
図7は、第1記録走査と第2記録走査の間の搬送動作において、記録媒体Sがほぼ正確に640画素分搬送された例である。記録媒体Sの搬送量が640画素分よりも大きかったり小さかったりすると、そのずれ量に応じてずらしパターンと基準パターンの重なり状態も変化する。例えば、基準パターンとずらしパターンが最も重なっているパッチがパッチ2であった場合、第1記録走査と第2記録走査の間に行われた搬送動作の搬送量は、設計値よりも1画素分短いと判断することができる。また、基準パターンとずらしパターンが最も重なっているパッチが例えばパッチ4であった場合、第1記録走査と第2記録走査の間に行われた搬送動作の搬送量は、設計値よりも1画素分長いと判断することができる。搬送量調整モードでは、このような基準パターンとずらしパターンのドットの重なり具合が光学濃度に反映されることを利用して、実際の搬送量と設計値との搬送誤差を求める。
【0044】
図5のフローチャートに戻る。S502において、CPU511は、S501で記録した各パッチの光学濃度を測定する。具体的には、まず、CPU511は、記録ヘッドの下流側に設けられた光学センサ40がS501で記録した各パッチを測定可能となる位置まで、記録媒体Sを搬送する。そして、主走査モータ551を駆動しながら記録ヘッド18をY方向に移動させ、光学センサ40を用いて各パッチの光学濃度を測定する。
【0045】
S503において、CPU511は搬送量の補正量を導出する。ここで、再度
図7を参照すると、パッチ0~6の中で、基準パターンとずらしパターンが最も重なっているパッチ3において、記録媒体Sに対するドットの被覆率が最も小さく、最も低い光学濃度が検出される。即ち、最も光学濃度が低いパッチのずらしパターンの記録に使用したノズルと相対基準ノズルとの距離を、搬送量の誤差即ち補正すべき搬送量とみなすことできる。
【0046】
例えば、パッチ3の光学濃度が最も低い場合、搬送量の誤差は±0画素(±0μm)であり補正量を(±0μm)とみなすことができる。また、パッチ2の光学濃度が最も低い場合、搬送量は目標値よりも1画素分少ないので、これを補正するための補正量は+1画素(+21μm)となる。また、また、パッチ4の光学濃度が最も低い場合、搬送量は目標値よりも1画素分多いので、補正量は-1画素(+21μm)となる。このように、S503では、搬送量の補正量を±3画素(±63μm)の範囲で導出することができる。
【0047】
S504において、CPU511は、S503で導出した補正量を指令パルス値に換算し、補正値としてメモリに保存する。例えば、補正量が+1画素(+21μm)の場合、CPU511は、これを9600dpiに分解した+8を補正値として保存する。以上で本処理が終了する。
【0048】
以後、記録コマンドが入力された場合、CPU511は、メモリに記憶されている補正値を読み出し、基準の指令パルス値(5160)に加算することによって指令パルス値を補正する。そして、各搬送動作においては、補正後の指令パルスを搬送モータドライバ560と排紙モータドライバ570に発信する。これにより、各搬送動作において、目的の搬送量(13.55mm)で記録媒体を搬送することができる。
【0049】
なお、
図7では、パッチ0、1、5、6において、基準パターンとずらしパターンが搬送方向に完全に分離している例を示した。この場合、これら4つのパッチにおいてドットの被覆率は同等となり、S502で測定される光学濃度もほぼ同等となる。しかしながら、個々のドットは更に大きいサイズに設計されていることもある。例えば、各ノズルの平均的な吐出量が4plである場合、一般的な記録媒体では1回の吐出によって、直径が40~50μmのドットが形成される。この場合、基準パターンとずらしパターンが2画素以上離れたパッチ1やパッチ5でも、基準パターンとずらしパターンが部分的に重複する状態となる。このような場合であっても、基準パターンとずらしパターンのずれが最も小さいパッチで、ドットの被覆率と光学濃度は最も低くなるため、光学濃度が最も低いパッチに基づいて補正値を導出することができる。
【0050】
また、個々のドットの大きさや記録媒体での着弾位置はノズル毎にばらつく。よって、信頼性の高い補正値を導出するためには、第1記録走査と第2記録走査のそれぞれで、個々のパッチを複数のノズルで記録することが好ましい。具体的には、各パッチの記録に使用する基準ノズルと相対基準ノズルを一定の間隔(例えば6ノズル間隔)で複数ずつ用意し、基準パターンとずらしパターンをパッチ内に複数ずつ記録する。そして、個々のパッチについてパッチ領域全体の光学濃度を測定する。こうすることにより、複数の基準パターンとずらしパターンの総合的な被覆率に基づいて各パッチの光学濃度を測定及び比較することができ、信頼性の高い補正値を導出することが可能となる。
【0051】
例えば、基準ノズルと相対基準ノズルを6ノズルおきに用意しておけば、ドット径が40~50μmの範囲でばらつく場合であっても、パッチ0及びパッチ6ではドット被覆率が約100%となりパッチ3では約50%となる。そして、このようなドット被覆率の大きな差は、光学濃度においても明確な差となって現れる。即ち、複数のノズルの吐出特性に多少のばらつきが含まれていても、複数のノズルの吐出特性の総和に基づいて搬送量の補正値を適切に決定することができる。
【0052】
なお、最も被覆率が小さい即ち最も濃度が低いパッチの判定は、必ずしも光学センサ40を用いて行わなくてもよい。例えば、ユーザが目視で判断し、光学濃度が最も低いパッチを操作パネルの補正値入力部525から入力する形態としてもよい。
【0053】
また、以上では、1200dpiの1画素単位で補正値を求める場合について説明したが、9600dpiの解像度で搬送量を指定する本実施形態においては、9600dpiの1画素単位で補正値を設定してもよい。この場合は、上記7つのパッチそれぞれの光学濃度から、ずらし量と光学濃度の近似曲線を導出し、光学濃度が最小値となるずらし量から補正値を求めればよい。
【0054】
更に、以上では、搬送方向(X方向)に対し上流側の第2ブロックで基準パターンを記録し、下流側の第1ブロックでずらしパターンを記録する例で説明したが、第1ブロックで基準パターンを記録し第2ブロックでずらしパターンを記録してもよい。この形態であっても、上記と同様の原理に従って適切な補正値と搬送量を決定することができる。
【0055】
<搬送量調整における課題>
記録媒体の搬送精度は搬送条件即ち搬送経路によってばらつくことがある。例えば、
図2(a)で示した上面排出の搬送経路では、搬送モータ561と排紙モータ571の協働によって記録媒体Sを搬送するが、
図2(b)で示した前面排出の搬送経路では、搬送モータ561のみを駆動源として記録媒体Sを搬送する。また、上面排出では重力に逆らって記録媒体Sを移動させるが、前面排出ではほぼ水平方向への搬送となる。このような搬送条件の違いは搬送精度に影響し、結果として、上面排出と前面排出では、搬送量における適切な補正値が異なることが予想される。
【0056】
このような中、
図5で説明した搬送量調整モードを上面排出で行うと、メモリには上面排出に適した搬送量が保存されることになり、次に前面排出で記録を行った際に、適切な搬送量で搬送動作が行われないおそれが生じる。反対に、搬送量調整モードを前面排出で行うと、メモリには前面排出に適した搬送量が保存されることになり、次に上面排出で記録を行った際に、適切な搬送量で搬送動作が行われないおそれが生じる。以上の状況に鑑み、本実施形態では、搬送経路のそれぞれについて適切な搬送量を個別に設定可能な構成とする。
【0057】
以下、
図1~
図4で説明した本実施形態の記録装置1で実行可能な搬送量調整モードの具体例を、いくつかの実施例として説明する。
【0058】
(実施例1)
実施例1では、前面排出と上面排出とで、補正値を個別に設定可能な構成とする。
【0059】
図8は、前面排出用の搬送経路と上面排出用の搬送経路とを示す図である。以下、搬送ローラ14とニップローラ15のニップ部から排出口20へ向かう搬送経路を第1搬送経路と呼ぶ。また、搬送ローラ14とニップローラ15のニップ部から排紙ローラ25と排紙ニップコロ26のニップ部を経由してスタッカ28へ向かう搬送経路を第2搬送経路と呼ぶ。第1搬送経路は前面排出が設定された際に記録媒体Sが搬送される搬送経路であり、第2搬送経路は上面排出が設定された際に記録媒体Sが搬送される搬送経路である。
【0060】
図9は、本実施例の搬送量調整モードを説明するためのフローチャートである。本処理は、CPU511が、ROM512に記憶されているプログラムに従って、RAM513をワークエリアとして使用しながら、
図3で説明した搬送量調整部590の各機構を制御することによって実行される。本処理は、ユーザが、
図3で説明した調整モード実行スイッチ524を押すこと、又はホスト装置501のUIで搬送量調整モードを指示することによって開始される。本実施例において、ユーザは、搬送量調整モードを指示する際に、搬送量の調整を、第1搬送経路を用いて行うか第2搬送経路を用いて行うかを設定する。
【0061】
本処理が開始されると、CPU511は、まずS901において、第1搬送経路を用いての調整か第2搬送経路を用いての調整かを判定する。第1搬送経路が設定されている場合、CPU511はS902に進み、第2搬送経路が設定されている場合、CPU511はS906に進む。
【0062】
S902において、CPU511は、第1搬送経路を用いた調整パターンの記録と読み取りを行う。具体的には、フラップ22をE2側に回転させて排出口20の入り口を開放する。そして、
図6及び
図7で説明した調整パターンを記録媒体に記録する。即ち、第1記録走査によって基準パターンを記録し、基準の指令パルス値を搬送モータ561に発信することによって記録媒体の搬送動作を行い、更に第2記録走査によってずらしパターンを記録する。その後、光学センサ40を用いて、6つのパッチの光学濃度を測定する。
【0063】
S903において、CPU511は、第1搬送経路用の補正値aを導出しメモリに保存する。即ち、第1搬送経路用の補正値aを更新する。補正値aの導出方法は、
図5を用いて説明した従来法と同様であるため、ここでの説明は割愛する。本実施例のメモリには、第1搬送経路用の補正値aと第2搬送経路用の補正値bとが個別に保存されている。S903では、第1搬送経路用の補正値aの更新のみを行う。
【0064】
S904において、CPU511は、現時点でメモリに保存されている第2搬送経路用の補正値bが、初期値b0であるか否かを判定する。b=b0である場合、CPU511は、S905に進み、S903で取得した第1搬送経路用の補正値aを用いて、第2搬送経路用の補正値bを導出し、これを第2搬送経路用の補正値としてメモリに保存・更新する。b=b0では無いと判定した場合、CPU511は第2搬送経路用の補正値bを更新せずに本処理を終了する。
【0065】
一方、S901において、第2搬送経路を用いての調整が設定されていると判定した場合、CPU511はS906に進み、第2搬送経路を用いた調整パターンの記録と読み取りを行う。具体的には、フラップ22をE1側に回転させて排出口20の入り口を閉塞する。そして、
図6及び
図7で説明した調整パターンを記録媒体に記録する。その後、光学センサ40を用いて、6つのパッチの光学濃度を測定する。
【0066】
S907において、CPU511は、第2搬送経路用の補正値bを導出しメモリに保存する。即ち、第2搬送経路用の補正値bを更新する。補正値bの導出方法は、
図5を用いて説明した従来法と同様であるため、ここでの説明は割愛する。S907では、第2搬送経路用の補正値bの更新のみを行う。
【0067】
S908において、CPU511は、現時点でメモリに保存されている第1搬送経路用の補正値aが、初期値a0であるか否かを判定する。a=a0である場合、CPU511は、S909に進み、S907で導出した第2搬送経路用の補正値bを用いて、第1搬送経路用の補正値aを導出し、これを第1搬送経路用の補正値としてメモリに保存・更新する。S908でa=a0では無いと判定した場合、CPU511は第1搬送経路用の補正値aを更新せずに本処理を終了する。
【0068】
図10は、メモリに保存されている補正値の更新状態を説明するための図である。本実施例において、記録装置のメモリには、第1搬送経路用の補正値aを記憶する領域と第2搬送経路用の補正値bを記憶する領域とが用意されている。図中、補正値a0と補正値b0は、記録装置1の出荷時に初期値として設定される第1搬送経路用の補正値と第2搬送経路用の補正値である。補正値a1は、第1搬送経路を搬送して得られる第1搬送経路用の補正値であり、補正値b1は、補正値a1に基づいて導出される第2搬送経路用の補正値である。また、補正値b2は、第2搬送経路を搬送して得られる第2搬送経路用の補正値であり、補正値a2は、補正値b2に基づいて導出される第1搬送経路用の補正値である。以下、
図9を再度参照しながら、
図10の各補正値について説明する。
【0069】
例えば、
図9のS901で第1搬送経路を用いての調整と判定され、S902~S905の工程が行われた時、S903において、第1搬送経路用の補正値aは、実際に第1搬送経路を搬送して得られた信頼性の高い補正値a1に更新される。
【0070】
そして、S904において、第2搬送経路用の補正値bが初期値b0であると判定された場合、第2搬送経路用の補正値は適正化されていない可能性が高い。よって、第2搬送経路用の補正値bについては、今回の調整で得られた第1搬送経路用の補正値a1に基づいて、初期値b0よりも更に信頼性の高い補正値b1を導出する。例えば、補正値b1は、式1を用いて算出することができる。
b1=b0+(a1-a0)・・・(式1)
【0071】
このような演算を行うことにより、第2搬送経路を用いての調整が実際に行われなくても、第2搬送経路用の補正値bを、初期値b0よりも更に適切な値b1に書き換えることができる。一方、S904において、第2搬送経路用の補正値bが初期値b0ではないと判定された場合、第2搬送経路用の補正値bは既に適正化されている可能性が高い。よって、この場合には既に保存されている現在値を維持する。
【0072】
また、S901で第2搬送経路を用いての調整と判定され、S906~S909の工程が行われた時、S907において、第2搬送経路用の補正値bは、実際に第2搬送経路を搬送して得られた信頼性の高い補正値b2に更新される。
【0073】
そして、S908において、第1搬送経路用の補正値aが初期値a0であると判定された場合、第1搬送経路の補正値は適正化されていない可能性が高い。よって、第1搬送経路用の補正値aについては、今回の調整で得られた第2搬送経路用の補正値b2に基づいて、初期値a0よりも更に信頼性の高い補正値a2を導出する。例えば、補正値a2は、式2を用いて算出することができる。
a2=a0+(b2-b0)・・・(式2)
【0074】
このような演算を行うことにより、第1搬送経路を用いての調整が実際に行われなくても、第1搬送経路用の補正値aを、初期値a0よりも更に適切な値a2に書き換えることができる。一方、S908において、第1搬送経路用の補正値aが初期値a0ではないと判定された場合、第1搬送経路用の補正値aは既に適正化されている可能性が高い。よって、この場合には、既に保存されている現在値を維持する。
【0075】
第1搬送経路を用いての調整と第2搬送経路を用いての調整が共に行われた場合、第1搬送経路用の補正値aは第1搬送経路の調整で得られた補正値a1が保存され、第2搬送経路用の補正値bは第2搬送経路の調整で得られた補正値b2がそれぞれ保存される。
【0076】
図11は、記録コマンドが入力された際に、CPU511が実行する処理を説明するためのフローチャートである。本処理は、CPU511が、ROM512に記憶されているプログラムに従って、RAM513をワークエリアとして使用しながら実行される。本実施例では、第1搬送経路を用いて記録処理を行うか第2搬送経路を用いて記録処理を行うるかが事前に設定される。このような設定は、ユーザが、操作パネル30やホスト装置501のUIを介して行っても良いし、画像品位や記録媒体の種類などに応じてCPU511が行ってもよい。
【0077】
本処理が開始されると、CPU511は、まずS1101において、第1搬送経路を用いての記録か第2搬送経路を用いての記録かを判定する。第1搬送経路を用いての記録が設定されている場合、CPU511はS1102に進み、第2搬送経路を用いての記録が指示されている場合、CPU511はS1105に進む。
【0078】
S1102において、CPU511は第1搬送経路を用いた記録動作を行う。具体的には、フラップ22をE2側に回転させて排出口20の入り口を開放する。また、現時点でメモリに保存されている第1搬送経路用の補正値aを用いて指令パルス値を補正する。その後、記録ヘッド18による記録データに従った記録走査と、搬送モータ561による補正後の指令パルス値に基づく搬送動作とを交互に繰り返すことにより、記録媒体に画像を記録する。最後の記録走査が完了すると、画像の後端をカッター21よりも下流の位置まで搬送し、カッター21によって記録媒体Sを切断する(S1103)。切断された記録媒体Sは、自重によって排出口20より排出される。
【0079】
一方、S1104において、CPU511は第2搬送経路を用いた記録動作を行う。具体的には、フラップ22をE1側に回転させて排出口20の入り口を閉塞する。また、現時点でメモリに保存されている第2搬送経路用の補正値bを用いて指令パルス値を補正する。その後、記録ヘッド18による記録データに従った記録走査と、搬送モータ561と排紙モータ571による上記補正後の指令パルス値に基づく搬送動作とを交互に繰り返すことにより、記録媒体Sに画像を記録する。最後の記録走査が完了すると、画像の後端をカッター21よりも下流の位置まで搬送し、カッター21によって記録媒体Sを切断する(S1105)。
【0080】
その後、S1106において、CPU511は、排紙モータ571を連続駆動して切断された記録媒体Sをスタッカ28上に排出する。
【0081】
以上説明した本実施例によれば、第1搬送経路を用いる場合も第2搬送経路を用いる場合も、それぞれ適切な指令パルス値の下、適切な搬送量で記録媒体を搬送させることができる。その結果、搬送誤差に伴う黒スジや白スジが抑えられた高画質な画像を記録することが可能となる。
【0082】
なお、以上では、第2搬送経路の使用が設定された場合、搬送モータ561と排紙モータ571を共に駆動させて搬送動作を行う形態で説明したが、S906やS1104において、排紙モータ571は必ずしも駆動される必要はない。フラップ22で排出口20の入り口を閉塞しておけば、排紙モータ571を駆動しなくても、記録媒体Sは搬送モータ561のみの駆動力によって第2搬送経路に移動される。この場合であっても、記録媒体Sを上方に搬送させる第2搬送経路に適切な補正値は、ほぼ水平方向へ搬送させる第1搬送経路に適切な補正値とは異なるため、これら補正値を個別に保存して管理する本実施例は有効に機能する。
【0083】
(実施例2)
図2(a)及び(b)に示す記録装置1において、第2の搬送経路では、排紙ローラ25と排紙ニップコロ26のローラ対にニップされる前と後で記録媒体Sの搬送条件は変わっている。このため、最適な補正値も、上記ニップ部に記録媒体Sがニップされる前と後で変わることが予想される。以上のことに鑑み、本実施形態では、第2の搬送経路を、排紙ローラ25と排紙ニップコロ26のニップ部を境界として2つの区間に分け、それぞれの区間で適切な補正値を設定する。
【0084】
図12は、本実施例の搬送経路と区間を説明するための図である。本実施形態では、第2の搬送経路のうち、搬送ローラ14から排紙ローラ25までの区間を第1区間、排紙ローラ25から更に下流側の区間を第2区間とする。記録媒体Sの先端が第1区間にあるとき、記録媒体Sの搬送は、搬送モータ561のみによって行われる。記録媒体Sの先端が第2区間にあるとき、記録媒体Sの搬送は、搬送モータ561と排紙モータ571の協働によって行われる。
【0085】
図13は、本実施例の搬送量調整モードを説明するためのフローチャートである。図中、S1301~S1305は、実施例1で説明した
図9のS901~S905と同様であるため、ここでの説明は割愛する。但し、S1305において、CPU511が導出する補正値bは、第2搬送経路の第1区間用の補正値に相当する。CPU511は、第1区間用の補正値bをメモリに保存し、第2区間用の補正値cについては現状値を維持する。
【0086】
S1306において、CPU511は、記録媒体Sに第1の調整パターンを記録する。具体的には、フラップ22をE1側に回転させて排出口20の入り口を閉塞する。また、記録媒体Sを、記録ヘッド18によって記録が可能な位置まで搬送する。そして、
図6及び
図7で説明した調整パターンを記録媒体に記録する。
【0087】
S1307において、CPU511は、光学センサ40を用いて、S1306で記録した第1の調整パターンに含まれる各パッチの光学濃度を測定する。
【0088】
S1308において、CPU511は、第1区間に対応する補正値b2を導出しメモリに保存する。補正値b2の導出方法は、
図5を用いて説明した従来法と同様であるため、ここでの説明は割愛する。
【0089】
S1309において、CPU511は、記録媒体Sを、その先端が第2区間に位置するまで搬送する。
【0090】
S1310において、CPU511は、第2の調整パターンを記録媒体に記録する。第2の調整パターンも、第1の調整パターンと同様、
図6及び
図7で説明したパターンである。
【0091】
S1311において、CPU511は、光学センサ40を用いて、S1310で記録した第2の調整パターンに含まれる各パッチの光学濃度を測定する。
【0092】
S1312において、CPU511は、第2区間に対応する補正値c2を導出し、メモリに保存する。補正値c2の導出方法は
図5を用いて説明した従来法と同様であるため、ここでの説明は割愛する。
【0093】
S1313において、CPU511は、現時点でメモリに保存されている第1搬送経路用の補正値aが、初期値a0であるか否かを判定する。a=a0である場合、CPU511は、S1314に進み、S1308で導出した第2搬送経路の第1区間の補正値b2を用いて第1搬送経路用の補正値a2を導出し、メモリに保存する。S1313でa=a0では無いと判定した場合、CPU511は第1搬送経路用の補正値aを更新せずに本処理を終了する。
【0094】
図14は、実施例2において、第2搬送経路を用いての調整が指示され場合に記録媒体Sに記録される調整パターンを示す図である。切断後の記録媒体Sにおいては、同じ内容の第1の調整パターンと第2の調整パターンが、搬送方向の上流側と下流側に記録される。第1の調整パターンの記録動作が行われているとき、記録媒体Sの先端は排紙ローラ25よりも上流側にあり、第2の調整パターンの記録動作が行われているとき、記録媒体Sの先端は排紙ローラ25よりも下流側にある。なお、本実施例においては、第1の搬送経路を用いた調整を行うS1302においても、
図14で示す調整パターンを記録してもよい。この場合、第1の調整パターンも第2の調整パターンもほぼ同じ条件で記録されることになるので、片方の調整パターンのみを用いて補正値a1を求めても良いし、両方の調整パターンの平均を補正値a1としてもよい。
【0095】
図15は、本実施例における補正値の更新状態を説明するための図である。本実施例において、記録装置1のメモリには、第1搬送経路用の補正値aを記憶する領域と、第2搬送経路用の第1区間の補正値bを記憶する領域と、第2搬送経路用の第2区間の補正値cを記憶する領域とが用意されている。図中、補正値a0、補正値b0及び補正値c0は、記録装置1の出荷時に初期値として設定されている初期値である。補正値a1は、第1搬送経路を搬送して得られた第1搬送経路用の補正値であり、補正値b1は、補正値a1に基づいて導出される第2搬送経路の第1区間用の補正値である。また、補正値b2と補正値c2は、第2搬送経路を搬送して得られた第1区間用の補正値と第2区間用の補正値である。更に、補正値a2は、補正値b2に基づいて導出される第1搬送経路用の補正値である。以下、
図13を再度参照しながら、
図15の各補正値について説明する。
【0096】
例えば、
図13のS1301で第1搬送経路を用いての調整と判定され、S1302~S1305の工程が行われた時、S1303において、第1搬送経路用の補正値aは、実際に第1搬送経路を搬送して得られた信頼性の高い補正値a1に更新される。
【0097】
そして、S1304において、第2搬送経路の第1区間の補正値bが初期値b0であると判定された場合、第2搬送経路用の補正値bは適正化されていない可能性が高い。よって、第2搬送経路の第1区間用の補正値bについては、今回の調整で得られた第1搬送経路用の補正値a1を用い、式1に従って算出し、更新する。一方、第2区間の補正値cについては、搬送モータ561のみを駆動源とする第1搬送経路で得られた補正値a1を用いても、適切な補正値は導出できない虞がある。よって、第2区間の補正値cについては、現在値をそのまま維持する。
【0098】
S1304において、第2搬送経路の第1区間用の補正値bが初期値b0ではないと判定された場合、第1区間用の補正値bは、既に適正化されている可能性が高い。よって、この場合には既に保存されている補正値bを維持する。
【0099】
また、S1301で第2搬送経路を用いての調整と判定され、S1306~S1314の工程が行われた時、第1区間用の補正値b及び第2区間用の補正値cは、実際に第2搬送経路を搬送して得られた信頼性の高い補正値b2及びc2にそれぞれ更新される。
【0100】
そして、S1313において、第1搬送経路用の補正値aが初期値a0であると判定された場合、第1搬送経路用の補正値aは適正化されていない可能性が高い。よって、第1搬送経路用の補正値aについては、第2搬送経路の第1区間用の補正値b2を用い、実施例1で説明した式2に従って算出する。一方、S1313において、第1搬送経路用の補正値aが初期値a0ではないと判定された場合、第1搬送経路用の補正値aは、既に適正化されている可能性が高い。よって、この場合には、既に保存されている補正値aを維持する。
【0101】
第1搬送経路を用いての調整と第2搬送経路を用いての調整が共に行われた場合、第1搬送経路の補正値aは第1搬送経路の調整で得られた補正値a1が保存される。また、第2搬送経路については、第1区間は第2搬送経路の調整で得られた補正値b2が、第2区間は第2搬送経路の調整で得られた補正値c2がそれぞれ保存される。
【0102】
その後、記録装置1に記録コマンドが入力された際、CPU511は、実施例1と同様、
図11のフローチャートに従って記録動作を行う。但し、第2搬送経路を用いての記録が設定されている場合、S1104において、CPU511は、記録媒体Sの先端が第1区間にある時は第1区間の補正値bに基づいた搬送動作を行い、第2区間にある時は第2区間の補正値cに基づいた搬送動作を行う。
【0103】
なお、以上では、第1搬送経路を用いての調整を行った場合、第2区間の補正値cについては現在値を維持したが、本実施例はこのような形態に限定されない。第1搬送経路の補正値a1に基づいて、ある程度信頼性の高い補正値を導出することが期待できる場合は、第2区間の補正値c1のために適切な式等を用意してもよい。この場合、補正値a1から補正値c1を求める式は、記録媒体の種類などに応じて異ならせてもよい。
【0104】
以上説明した本実施例によれば、第2搬送経路において、第1区間と第2区間のそれぞれで、実施例1よりも更に適切な補正値を設定することができる。その結果、第1搬送経路で記録する場合も第2搬送経路で記録する場合も、スジの無い高画質な画像を記録することが可能となる。
【0105】
(実施例3)
第2の実施形態では、第2の搬送経路を、第1区間と第2区間に分割し、それぞれの区間で適切な補正値を用意した。これに対し、本実施形態では、排紙ローラ25の近傍を第3区間として更に区分し、第1区間、第2区間及び第3区間のそれぞれについて適切な補正値を用意する。
【0106】
図16は、本実施例の搬送経路と区間を説明するための図である。本実施例では、排紙ローラ25を含む所定の区間を第3区間とする。そして、搬送ローラ14から第3区間の手前までを第1区間、第3区間よりも下流側の区間を第2区間とする。
【0107】
図17は、第1区間、第2区間及び第3区間それぞれの搬送量を説明するための図である。図中、横軸は、記録媒体Sの先端が搬送ローラ14を通過してからの搬送距離を示す。また、縦軸は、第1区間用の補正値b2に従って搬送動作を行った場合の目標搬送量(13.55mm)からの搬送誤差を示す。ここでは、記録媒体Sの幅方向(Y方向)における中央部と端部とで、搬送誤差を比較して示している。
【0108】
補正値bに従って搬送動作を行った場合、第1区間では搬送誤差の無い状態が維持される。第2区間では、搬送モータ561に加えて排紙モータ571が使用されるため、搬送量は大きくなる傾向がある。よって、第1区間に適した補正値bに従って搬送動作を行うと、搬送量は目標搬送量よりも大きくなる。図では、目標搬送量よりも0.01mm程度大きくなった状態を示している。
【0109】
一方、第3区間では、記録媒体Sの先端が排紙ローラ25と排紙ニップコロ26にニップされた時に、搬送量が瞬間的に大きくなる。この誤差は中央部よりも端部で大きく、端部では目標搬送量よりも0.04mmほど大きくなっている。このように実際の搬送量が目標搬送量よりも大きい場合、画像には白スジが現れる。
【0110】
しかし、搬送量が突発的に大きくなるタイミング即ち記録媒体の先端が排紙ローラ25と排紙ニップコロ26にニップされるタイミングを正確に把握し、そのタイミングに合わせて搬送量を適切に補正することは難しい。このため、本実施例では、記録媒体の先端が排紙ローラ25と排紙ニップコロ26にニップされていなくても、第3区間に突入した時点で、補正値を第1区間の補正値bから第2区間の補正値cに切り替える。
【0111】
図18は、本実施例における補正値の更新状態を説明するための図である。第2搬送経路については、第1区間の補正値b、第2区間の補正値c及び第3区間の補正値dをそれぞれ記憶する領域が用意されている。
【0112】
第1搬送経路の補正値a、第2搬送経路の第1区間の補正値b及び第2区間の補正値cの導出方法は実施例2と同様である。第2搬送経路の第3区間の補正値dは、常に第2区間の補正値cと同じ値に設定する。即ち、初期値d0はc0と等しく、第1搬送経路を用いた調整が行われた場合は現在値が維持され、第2搬送経路を用いた調整が行われた場合は第2区間の補正値c2と同じ値が設定される。
【0113】
図19は、本実施例の第2搬送経路における、補正値の切り替えを説明するための図である。横軸は記録媒体Sの先端が搬送ローラ14を通過してからの搬送距離を示し、縦軸は補正搬送量を示す。ここで、補正搬送量とは補正後の指令パルス値に相関する値であり、目標の搬送量を実現するための設定上の搬送量である。例えば、第1区間では、13.50mmの搬送量に対応する指令パルスを発信することにより、目標搬送量13.55mmが実現される。また、第2区間では13.48mmの搬送量に対応する指令パルスを発信することにより、目標搬送量13.55mmが実現される。
【0114】
本実施例では、記録媒体Sの先端が排紙ローラ25と排紙ニップコロ26にニップされていなくても、記録媒体Sの先端が第3区間に突入した時点で、搬送時の補正値を第1区間用の補正値bから第2区間用の補正値cに切り替える。この場合、記録媒体の幅方向の特に中央部では、実際の搬送量が目標搬送量よりも小さくなり、黒スジが現れることも想定される。しかしながら、このような黒スジは、実際の搬送量が目標搬送量よりも大きい場合に現れる白スジよりも視覚的に目立たず、画像上問題となり難い。このため、本実施例では、搬送量が不安定になりやすい第3区間の搬送量を敢えて短めに抑えている。
【0115】
以上説明した本実施例によれば、第2搬送経路において、第1区間と第2区間とでそれぞれ適切な搬送量の補正値を設定することができる。その上で、排紙ローラのニップ部への突入を含む第3区間については、白スジを抑制するように搬送量を調整することができる。その結果、第1搬送経路で記録する場合も第2搬送経路で記録する場合も、スジの無い高画質な画像を記録することが可能となる。
【0116】
(実施例4)
実施例3では、排紙ローラ25と排紙ニップコロ26のニップ部を含む第3区間の補正値を第2区間に一致させる形態とした。しかしながら、第1の区間と第2の区間の間で補正値即ち補正搬送量に大きな差がある場合、実施例3の方法では第3区間において適切な補正が行えない場合がある。
【0117】
図20(a)及び(b)は、一定の補正搬送量の下で搬送動作を行った場合の実際の搬送量の変化を示す図である。
図20(a)は、第1区間の補正値と第2区間の補正値の差が小さい場合を示し、
図20(b)は第1区間の補正値と第2区間の補正値の差が大きい場合を示す。
【0118】
第1区間の補正値と第2区間の補正値の差が小さい場合、即ち排紙モータ571の駆動力が加わる前後で実際の搬送量が大きく変わらない場合、
図20(a)に示すように、第3区間において実搬送量は緩やか変化する。このため、実施例3のように第3区間の補正搬送量を第2区間と同じにすることにより、白スジの出現を抑えることができる。
【0119】
一方、第1区間の補正値と第2区間の補正値の差が大きい場合、即ち排紙モータの駆動力が加わる前と後で実際の搬送量が大きく変わる場合、記録媒体Sが排紙ローラ25と排紙ニップコロ26にニップされるタイミングで、搬送量は更に大きく変化する。つまり、
図20(b)に見るように、第3区間の中に搬送量が突発的に大きくなる箇所が発生する。この場合、第3区間の補正搬送量を第2区間と同じにしても、白スジの出現を十分に抑えることはできない。本実施例では、
図20(b)のような搬送条件において適切な補正を行うための方法を説明する。
【0120】
図21は、本実施例の第2搬送経路における、補正値の切り替えを説明するための図である。横軸は記録媒体Sの先端が搬送ローラ14を通過してからの搬送距離を示し、縦軸は補正搬送量を示す。本実施例では、第3区間の補正値dを、第2区間の補正値cよりも更に小さい値に設定する。
図21では、第1区間の補正搬送量を13.50mm、第2区間の補正搬送量を13.48mm、第3区間の補正搬送量を13.45mmにした例を示している。このように、第3区間の補正搬送量を第2区間よりも更に小さな値に設定することにより、第3区間における白スジの発生を更に確実に抑えることが可能となる。
【0121】
なお、本実施例において、第3区間の補正搬送量や補正値は、第2搬送経路を用いた搬送量調整モードによって直接求めることは困難である。よって、本実施例では、予め適切な閾値sと係数kを用意し、これらを用いて第3区間の補正値dを算出する。
【0122】
具体的には、第2搬送経路を用いた搬送量調整モードによって得られた第1区間の補正値b2と第2区間の補正値c2の差が閾値sより大きい場合(b2-c2>s)、第3区間の補正値d2を式3によって求める。
d2=c2+k×(c2-b2)・・(式3)
【0123】
例えば、b2=-19、c2=-26のとき、k=1.7、s=6とすると、
d2=-26+1.7×(-26-(-19))≒-38
となる。この場合、第3区間の指令パルス値は
5120-38=5082
となり、補正搬送量Lとしては、
L=13.33mm×5082/5120=13.45mm
となる。
図21は、このような場合を示している。
【0124】
以上説明した本実施例によれば、第1区間の補正値と第2区間の補正値の差が大きく、突発的な白スジが現れやすい状況であっても、第3区間の補正搬送量を適切な値に設定することにより、白スジの発生を確実に抑えることが可能となる。
【0125】
(その他の実施形態)
以上では、
図2(a)及び(b)で説明したように、前面排出のための第1搬送経路と上面排出のための第2搬送経路を備える記録装置を例に説明した。しかし、搬送経路の形態は
図2の形態に限定されるものではない。例えば、前面から給紙して前面に排出する搬送経路と、背面から給紙して前面に排出する搬送経路を備える記録装置であっても、記録媒体Sの搬送条件は搬送経路ごとに異なるため、上記実施例は有効に機能する。また、記録装置には、3つ以上の搬送経路が備わっていてもよい。この場合、ある搬送経路を用いて取得した補正値を用いて、他の複数の搬送経路のそれぞれの補正値を導出すればよい。
【0126】
また、以上では、基準の指令パルス値(5160)と補正搬送量に対応する指令パルス値との差分を補正値としてメモリに保存したが、メモリには補正後の指令パルス値を保存してもよい。いずれにしても、実際に記録コマンドが発生したときに、それぞれの搬送経路において適切な補正搬送量、即ち適切な駆動量で搬送動作を行うことが可能な情報が記憶されればよい。そして、CPUがメモリに保存されている一方の搬送経路の情報から他方の搬送経路の情報が導出できる形態であればよい。
【0127】
また、以上では、ブラックのノズル列を用いて調整パターンを記録したが、調整パターンは他のインク色を用いて記録してもよい。また、7つのパッチが主走査方向に配列された調整パターンを例に説明したが、パッチの数やレイアウトは適宜変更可能である。例えば、複数のパッチが主走査方向に配列されたパッチの列を搬送方向に複数記録してもよい。
【0128】
また、以上では記録ヘッドが記録した調整パターンの光学濃度を記録ヘッドの下流側に配された光学センサを用いて測定する形態で説明したが、光学センサを備えることは、必須の要件ではない。記録ヘッドによって調整パターンが記録された記録媒体を、装置とは別の読み取りデバイスに設置し、その読み取りデバイスが読み取った濃度データに基づいて、各搬送経路に適した補正値が導出される形態としてもよい。また、調整パターンが記録された記録媒体をユーザが目視し、最も濃度が低いパッチのパッチ番号を操作パネルから入力する形態としてもよい。
【0129】
また、以上では、第1搬送経路を用いた調整が行われた場合の第2搬送経路用の補正値b1、及び第2搬送経路を用いた調整が行われた場合の第1搬送経路用の補正値a2を、それぞれ式1及び式2を用いて導出したが、無論、式の内容は適宜変更可能である。この際、搬送量は記録媒体の種類やサイズによっても変わるため、それぞれの式は記録媒体の種類やサイズに応じて個別に用意してもよい。
【0130】
また、
図9のS904とS908、及び
図13のS1304とS1313は、必ずしも現在値を初期値と比較する工程でなくてもよい。これら工程においては、第1搬送経路用の補正値a及び第2搬送経路の補正値bのそれぞれが、現段階において適正化されているか否かが判定できればよい。例えば、上記工程では、これまでの搬送量調整モードの実行の有無を判定してもよい。この場合、
図9のS904と
図13のS1304では、これまでに第2搬送経路を用いた搬送量調整モードが実行されたか否か判定し、Noの場合にS905及びS1305にそれぞれ進めばよい。また、
図9のS908と
図13のS1313では、これまでに第1搬送経路を用いた搬送量調整モードが実行されたか否か判定し、Noの場合にS909及びS1314にそれぞれ進めばよい。
【0131】
また、上記工程では、最後に搬送量調整モードを実行してからの経過時間に応じて補正値の更新が必要か否かを判定してもよい。この場合、
図9のS904と
図13のS1304では、第2搬送経路を用いた搬送量調整モードが最後に実行されてからの経過時間が所定の閾値を超えた場合に、S905及びS1305にそれぞれ進めばよい。また、
図9のS908と
図13のS1313では、第1搬送経路を用いた搬送量調整モードが最後に実行されてからの経過時間が所定の閾値を超えた場合に、S909及びS1314にそれぞれ進めばよい。
【0132】
更に、以上では、記録素子として電気熱変換素子を備えた記録ヘッドを例に説明したが、記録素子としてはピエゾ素子等、他の種類の素子を採用してもよい。また、記録方式はインクジェット方式に限定されず、サーマル転写方式や電子写真方式を採用してもよい。
【符号の説明】
【0133】
S 記録媒体
18 記録ヘッド
511 CPU
561 搬送モータ