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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20240826BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20240826BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20240826BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20240826BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20240826BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240826BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20240826BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/46 ZHV
B60W10/30 900
B60W20/15
B60L50/16
B60L15/20 J
F02D29/02 321B
F02D9/02 305M
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020173161
(22)【出願日】2020-10-14
(65)【公開番号】P2022064493
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】平位 卓也
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-166695(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063328(WO,A1)
【文献】特開2006-002667(JP,A)
【文献】特開2009-008102(JP,A)
【文献】国際公開第2019/116588(WO,A1)
【文献】特開2009-67346(JP,A)
【文献】特開2007-161209(JP,A)
【文献】特開2016-44614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/46
B60W 10/30
B60W 20/15
B60L 50/16
B60L 15/20
F02D 29/02
F02D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に走行のための駆動力を供給できる走行用電動機と、
走行用電動機に供給するべき電力を発電する発電機に発電のための駆動力を供給できる、または駆動輪に走行のための駆動力を供給できる内燃機関と、
内燃機関の吸気通路におけるスロットルバルブの下流で発生する吸気負圧を蓄えその負圧を利用してブレーキ踏力を倍力するブレーキブースタと、
内燃機関に当該内燃機関を回転させるための駆動力を供給できるモータリング用電動機と
を具備するハイブリッド車両を制御する制御装置であって、
ブレーキブースタに蓄えている負圧が下限閾値を下回ったときに、モータリング用電動機により内燃機関を回転させるモータリングを行い、ブレーキブースタに蓄えている負圧が下限閾値よりも高い上限閾値以上に回復するまでそのモータリングを継続するものであり、
前記モータリングを行うにあたり、停止していた内燃機関の回転駆動を開始するよりも先にスロットルバルブの開度を当該内燃機関の停止時の開度から所要の負圧を発生させるために必要な目標開度に向けて開き始め、そしてスロットルバルブの開度を一旦所要の負圧を発生させるために必要な目標開度よりも大きく開き、その後エンジン回転数が目標回転数よりは低い所定値以上に上昇したときからスロットルバルブの開度を目標開度まで縮小するように操作するハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用の電動機及び内燃機関を搭載したハイブリッド車両を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、電動機及び内燃機関の二種の動力源を備えるハイブリッド車両が一定の普及を見ている。シリーズ方式のハイブリッド車両(例えば、下記特許文献を参照)は、内燃機関により発電用モータジェネレータを駆動して発電を行い、発電した電力を蓄電装置、即ちリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等のバッテリ及び/またはキャパシタに蓄えるとともに、走行用モータジェネレータに供給する。そして、走行用モータジェネレータによって車両の駆動輪を回転させて走行する。
【0003】
発電用モータジェネレータのみならず、走行用モータジェネレータもまた、回生制動により発電を行い、発電した電力を蓄電装置に蓄えることができる。蓄電装置の容量一杯まで既に電荷が蓄えられている場合には、回生制動により得られる電力を敢えて発電用モータジェネレータに供給し、これを電動機として作動させて内燃機関を回転駆動するモータリングを行うことで、余剰の電力を消費する。
【0004】
ハイブリッド車両では、内燃機関が燃料を燃焼させて回転駆動力を発生させるファイアリングを行わなくとも、走行用モータジェネレータが出力する回転駆動力により車両を走行させることが可能である。故に、車両の運用中であっても、内燃機関の回転を停止している状態が継続することがある。
【0005】
蓄電装置に蓄えている電荷の量が減少したときや、走行用モータジェネレータに対する要求出力が大きいときには、内燃機関を始動し気筒に燃料を供給してこれを燃焼させ、内燃機関の出力する回転駆動力を以て発電用モータジェネレータを駆動し、発電を実施して蓄電装置を充電、または走行用モータジェネレータに供給する電力を増強する。
【0006】
シリーズ方式のハイブリッド車両にあって、発電用モータジェネレータは、停止した内燃機関を始動する準備として内燃機関をモータリング(または、クランキング)する役割を兼ねる。モータリング時には、蓄電装置から必要な電力の供給を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-131035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来より、車両の制動時に必要となる操作力、即ちブレーキペダルの踏力を軽減する目的で、内燃機関の吸気通路におけるスロットルバルブの下流側で発生する吸気負圧を利用して踏力を倍力する真空倍力式(バキューム式)のブレーキブースタが広く採用されている。
【0009】
ブレーキブースタに蓄えた負圧は、車両の運転者がブレーキペダルを踏むことで消費される。既に述べた通り、ハイブリッド車両は、内燃機関の回転を停止したままで走行することが可能である。その間は、吸気負圧をブレーキブースタに供給することができない。それ故、ブレーキブースタに蓄えている負圧が下限閾値まで減少したときには、内燃機関をモータリングして吸気負圧を発生させ、その負圧をブレーキブースタに供給することにより、ブレーキブースタに蓄えている負圧を上限閾値まで回復させる処理を実行する。
【0010】
モータリング中のスロットルバルブの開度は、エンジン回転数の現在値に応じて調節する。より具体的には、エンジン回転数が高まるにつれて拡開してゆく。これは、エンジンオイルの消費量が徒に増加しないようにする、即ちエンジンオイルが気筒内から吸気通路側に吸い上げられて持ち去られないようにする意図である。
【0011】
スロットルバルブを拡開する操作を行ってから、スロットルバルブの下流の吸気負圧の大きさが変化するまでの間には、応答遅れがある。このため、内燃機関のモータリングの開始直後の時期に、吸気負圧が顕著に大きくなり、ブレーキブースタ内の負圧が急増することが起こり得る。その瞬間に運転者がブレーキペダルを踏むと、非常に軽い踏力で踏み込めてしまい、ブレーキペダルが引き込まれるかのような感じを与えてしまう。
【0012】
本発明は、以上の問題に初めて着目してなされたものであり、ブレーキブースタに蓄えるべき負圧を必要十分に確保しつつ、ブレーキペダルが引き込まれるような感覚を生じさせないようにすることを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、駆動輪に走行のための駆動力を供給できる走行用電動機と、走行用電動機に供給するべき電力を発電する発電機に発電のための駆動力を供給できる、または駆動輪に走行のための駆動力を供給できる内燃機関と、内燃機関の吸気通路におけるスロットルバルブの下流で発生する吸気負圧を蓄えその負圧を利用してブレーキ踏力を倍力するブレーキブースタと、内燃機関に当該内燃機関を回転させるための駆動力を供給できるモータリング用電動機とを具備するハイブリッド車両を制御する制御装置であって、ブレーキブースタに蓄えている負圧が下限閾値を下回ったときに、モータリング用電動機により内燃機関を回転させるモータリングを行い、ブレーキブースタに蓄えている負圧が下限閾値よりも高い上限閾値以上に回復するまでそのモータリングを継続するものであり、前記モータリングを行うにあたり、停止していた内燃機関の回転駆動を開始するよりも先にスロットルバルブの開度を当該内燃機関の停止時の開度から所要の負圧を発生させるために必要な目標開度に向けて開き始め、そしてスロットルバルブの開度を一旦所要の負圧を発生させるために必要な目標開度よりも大きく開き、その後エンジン回転数が目標回転数よりは低い所定値以上に上昇したときからスロットルバルブの開度を目標開度まで縮小するように操作するハイブリッド車両の制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハイブリッド車両にあって、ブレーキブースタに蓄える負圧を必要十分に確保しつつ、ブレーキペダルが引き込まれるような感覚を生じさせないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態におけるシリーズ方式のハイブリッド車両及び制御装置の概略構成を示す図。
図2】同実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関の概要を示す図。
図3】同実施形態の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
図4】同実施形態の制御装置が実施する制御の模様を示すタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態におけるハイブリッド車両の主要システムの概略構成を示している。このハイブリッド車両は、内燃機関1と、内燃機関1により駆動されて発電を行う発電用モータジェネレータ2と、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を蓄える蓄電装置3と、発電用モータジェネレータ2及び/または蓄電装置3から電力の供給を受けて車両の駆動輪62を駆動する走行用モータジェネレータ4とを備えている。
【0017】
本実施形態のハイブリッド車両は、内燃機関1を発電にのみ使用するシリーズハイブリッド方式の電気自動車であり、車両の駆動輪62には専ら走行用モータジェネレータ4から走行のための駆動力を供給する。内燃機関1と駆動輪62との間は機械的に切り離されており、元来両者の間で回転駆動力の伝達がなされない。つまり、内燃機関1は、走行用モータジェネレータ4及び駆動輪62から完全に独立して回転し、また完全に独立して停止することが可能である。従って、イグニッションスイッチ(パワースイッチ、またはイグニッションキー)がONに操作されている車両の運用中、運転者がアクセルペダルを踏むことで車両が走行可能な状態にあっても、蓄電装置3が充分な電荷を蓄え、かつブレーキブースタ15が充分な負圧を蓄えている状況下では、燃料の燃焼を伴う内燃機関1の運転を実施しないことがある。
【0018】
内燃機関1の回転軸であるクランクシャフトは、発電用モータジェネレータ2の回転軸と歯車機構を介して機械的に接続している。そして、内燃機関1が出力する回転駆動力を発電用モータジェネレータ2に入力することで、発電用モータジェネレータ2が発電する。発電した電力は、蓄電装置3に充電し、及び/または、走行用モータジェネレータ4に供給する。また、発電用モータジェネレータ2は、自らが回転駆動力を発生させて内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動するモータリング用の電動機としても機能する。例えば、発電用モータジェネレータ2は、停止している内燃機関1を始動する準備としてのモータリング(クランキング)を実行する。
【0019】
走行用モータジェネレータ4は、車両の走行のための駆動力を発生させ、その駆動力を減速機61を介して駆動輪62に入力する。また、走行用モータジェネレータ4は、駆動輪62に連れ回されて回転することで発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収する。この回生制動により発電した電力は、蓄電装置3に充電する。
【0020】
尤も、既に蓄電装置3の容量一杯まで電荷が蓄えられており、それ以上の充電が困難であるならば、走行用モータジェネレータ4が回生発電した電力を敢えて発電用モータジェネレータ2に供給し、発電用モータジェネレータ2を電動機として稼働させて内燃機関1を回転駆動する。これにより、車両の制動性能を維持しながら、余剰の電力を消尽する。また、このとき、内燃機関1の回転が保たれることから、内燃機関1の気筒への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実行することができる。
【0021】
発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2が発電する交流電力を直流電力に変換する。そして、その直流電力を蓄電装置3または駆動機インバータ41に入力する。並びに、発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させる際に、蓄電装置3及び/または駆動機インバータ41から供給される直流電力を交流電力に変換した上で発電用モータジェネレータ2に入力する。
【0022】
駆動機インバータ41は、蓄電装置3及び/または発電機インバータ21から供給される直流電力を交流電力に変換した上で走行用モータジェネレータ4に入力する。並びに、駆動機インバータ41は、車両の回生制動を行うときに走行用モータジェネレータ4が発電する交流電力を直流電力に変換した上で蓄電装置3または発電機インバータ21に入力する。発電機インバータ21及び駆動機インバータ41は、PCU(Power Control Unit)の一部をなす。
【0023】
蓄電装置3は、バッテリ及び/またはキャパシタ等である。バッテリは、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の、エネルギ密度の大きい高電圧の二次電池である。蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々が発電する電力を充電して蓄える。並びに、蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々を電動機として作動させるための電力を放電し、それらモータジェネレータ2、4に必要な電力を供給する。
【0024】
図2に、本実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関1の概要を示している。内燃機関1は、火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒11(例えば、三気筒。図1には、そのうち一つを図示)を包有している。各気筒11の吸気ポート近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ111を設けている。また、各気筒11の燃焼室の天井部に、点火プラグ112を取り付けてある。点火プラグ112は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。
【0025】
吸気を供給するための吸気通路13は、外部から空気を取り入れて各気筒11の吸気ポートへと導く。吸気通路13上には、エアクリーナ131、電子スロットルバルブ132、サージタンク133、吸気マニホルド134を、上流からこの順序に配置している。エアクリーナ131は、吸気通路13における最上流の位置、即ち空気を取り入れる吸気口に所在する。吸気口は、冷たい空気を取り入れて内燃機関の充填効率を上げるために、車両の前方に開口している。
【0026】
排気を排出するための排気通路14は、気筒11内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒11の排気ポートから外部へと導く。この排気通路14上には、排気マニホルド142及び排気浄化用の三元触媒141を配置している。
【0027】
内燃機関1には、車両の制動時に必要となる操作力、即ちブレーキペダルの踏力を軽減するためのブレーキブースタ15が付帯している。ブレーキブースタ15は、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流側の部位から吸気負圧を導き入れ、その負圧を用いてブレーキペダルの踏力を倍力する、この分野では広く知られているものである。ブレーキブースタ15は、負圧を蓄える定圧室(負圧室)と、大気圧が加わる変圧室(大気圧室)とを有し、定圧室が負圧管路(バキュームホース)151を介して吸気通路13に接続している。負圧管路151は、スロットルバルブ132の下流側の吸気負圧を定圧室へと導く。負圧管路151上には、負圧を定圧室内に留め、定圧室に正圧が加わることを防止するためのチェックバルブ152を設けてある。
【0028】
運転者によりブレーキペダルが操作されていないとき、定圧室と変圧室とが連通し、かつ変圧室が大気圧から隔絶される。ブレーキペダルが操作されると、定圧室と変圧室との間が遮断され、かつ変圧室に大気が導入される。結果、定圧室と変圧室との圧力差が、ブレーキペダルの踏力を倍力する制御圧力となる。ブレーキブースタ15により増幅されたブレーキ踏力は、マスタシリンダ16において液圧力に変換される。マスタシリンダ16が出力するマスタシリンダ圧、即ちマスタシリンダ16が吐出するブレーキ液の圧力は、液圧回路を介してブレーキキャリパやホイールシリンダ等といったブレーキ装置に伝達され、当該ブレーキ装置による車両の制動に用いられる。
【0029】
内燃機関1、発電用モータジェネレータ2、蓄電装置3、インバータ21、41及び走行用モータジェネレータ4の制御を司る制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECU、即ち内燃機関1を制御するEFI(Electronic Fuel Injection)ECU01、発電用モータジェネレータ2及び発電機インバータ21を制御する発電機ECU02、蓄電装置3を制御するBMS(Battery Management System)ECU03、走行用モータジェネレータ4及び駆動機インバータ41を制御する駆動機ECU04等、並びに、それらの制御を統括する上位のコントローラであるHV(Hybrid Vehicle)ECU00が、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものである。
【0030】
ECU0に対しては、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度(いわば、運転者が車両に対して要求している駆動力)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、運転者がブレーキペダルを踏んでいることを検出するスイッチ、運転者によるブレーキペダルの踏込量を検出するセンサまたはマスタシリンダ16から吐出されるブレーキ液の圧力であるマスタシリンダ圧を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路13(特に、サージタンク133または吸気マニホルド134)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、蓄電装置3に蓄えている電荷量を検出するセンサ(特に、バッテリ電流及び/またはバッテリ電圧センサ)から出力されるバッテリSOC(State Of Charge)信号g、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧を検出する負圧センサから出力される負圧信号h等が入力される。
【0031】
そして、ECU0は、各種センサを介してセンシングしている、運転者が操作するアクセル開度や、シフトポジション即ちシフトレバー若しくはセレクタレバーの位置、現在の車両の車速、路面の勾配、蓄電装置3が蓄えている電荷の量、ブレーキブースタ15が蓄えている負圧の大きさ、発電用モータジェネレータ2の発電電力等に応じて、走行用モータジェネレータ4が出力する回転駆動力、内燃機関1が出力する回転駆動力、及び発電用モータジェネレータ2が発電する電力の大きさを増減制御する。
【0032】
原則として、蓄電装置3が現在充分な電荷を蓄えており、走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が小さいならば、内燃機関1への燃料の供給を遮断して内燃機関1を運転しない。翻って、蓄電装置3が蓄えている電荷の量が閾値を下回り、または走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が大きいならば、内燃機関1を始動し気筒11に燃料を供給してこれを燃焼させるファイアリングを実行し、内燃機関1の出力する回転駆動力を以て発電機モータジェネレータ2を駆動し、発電を実施して蓄電装置3を充電し、または走行用モータジェネレータ4に供給する電力を増強する。
【0033】
内燃機関1の気筒11に燃料を供給して内燃機関1を運転しておらず、走行用モータジェネレータ4により駆動輪62を駆動して車両を走行させている最中に、内燃機関1を始動して発電用モータジェネレータ2による発電を実行しようとするためには、まず、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させ、これにより内燃機関1の始動のためのモータリングを行う。そして、内燃機関1のクランクシャフトが所定回数以上または所定角度以上回転し、内燃機関1の各気筒11の現在の行程またはピストンの位置を知得する気筒判別が完了した後、内燃機関1の各気筒11の行程に合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、かつ適切なタイミングで燃料を着火燃焼させるファイアリングを開始する。内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及び回転速度即ちエンジン回転数は、発電用モータジェネレータ2に付帯するレゾルバを介して(発電機ECU02において)検出することができ、内燃機関1に付帯するクランク角センサを介して(EFI ECU01において)検出することもできる。
【0034】
内燃機関1が自立的に回転し発電のために必要な回転駆動力を出力可能な状態となった、換言すれば発電用モータジェネレータ2の出力を低減させてもなおエンジン回転数が上昇傾向を維持できるようになったならば、電動機として作動させている発電用モータジェネレータ2の出力を0まで低減させてモータリングを終了し、今度は内燃機関1により発電用モータジェネレータ2を回転駆動する。さらに、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させ、その発電電力を0から増大させる。
【0035】
しかして、エンジン回転数を段階的に引き上げられる目標回転数に追従させるように、内燃機関1の気筒1に供給する吸気量及び燃料噴射量、並びに発電用モータジェネレータ2の発電電力を増減調整するフィードバック制御を実施する。最終的な目標回転数は、内燃機関1を最適または最適に近い効率で運転でき燃料消費率にとって最も有利な回転数、あるいは、内燃機関1が最大トルク若しくは最大出力またはこれに近いトルク若しくは出力を達成できるような回転数に設定する。
【0036】
因みに、ECU0の一部をなすEFI ECU01は、内燃機関1の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒11に吸入される空気量を推算する。そして、吸入空気量に見合った(目標空燃比を具現するために必要な)要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった内燃機関1の運転パラメータを決定する。このEFI ECU01は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを、出力インタフェースを介して点火プラグ112のイグナイタ、インジェクタ111、スロットルバルブ132、EGRバルブ123等に対して出力する。
【0037】
図3に示すように、本実施形態のECU0は、内燃機関1の回転を停止した状態で車両が走行している状況の下、ブレーキブースタ15に現在蓄えている負圧が下限閾値を下回ったときには(ステップS1)、現在の要求出力の大小にかかわらず、発電用モータジェネレータ2により内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動するモータリングを行う(ステップS2)。内燃機関1のクランクシャフトを回転させ、各気筒1のピストン及び吸排気バルブを運動させれば、吸気通路13における吸気の流通が起こり、吸気絞り弁であるスロットルバルブ132の下流に吸気負圧が発生して、その負圧をブレーキブースタ15の定圧室に補充することができる。
【0038】
ブレーキブースタ15に吸気負圧を供給するための内燃機関1のモータリング(ステップS2)は、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が上限閾値以上に回復するまで(ステップS3)続行する。当然ながら、ステップS3にいう上限閾値は、ステップS2にいう下限閾値よりも高位の値である。ブレーキブースタ15の負圧が上限閾値以上となったならば、モータリングを終了する。
【0039】
図4に、ブレーキブースタ15に負圧を補充するための内燃機関1のモータリング制御の内容を示している。ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が下限閾値まで減少した時点t0以降、HV ECU00が、EFI ECU01及び発電機ECU02の各々に対して、モータリング制御に必要な指令を下す。発電用モータジェネレータ2を電動機として始動した時点t1後、発電用モータジェネレータ2より回転駆動される内燃機関1の回転数は、吸気通路13におけるスロットルバルブ32の下流に所要の吸気負圧を発生させるために必要な目標回転数まで加速する。エンジン回転数が目標回転数に到達した時点t3後は、発電用モータジェネレータ2によりエンジン回転数を当該目標回転数またはその近傍に維持する。
【0040】
ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が上限閾値以上に回復したならば、発電用モータジェネレータ2及び内燃機関1の回転数を減速し、最終的にこれらを停止させる。図4中、時点t5が、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が上限閾値以上に回復した時点である。時点t6は、モータリングの終了時点である。
【0041】
従前のモータリング制御では、図4中に一点鎖線で表しているように、内燃機関1のスロットルバルブ132の開度を、専らエンジン回転数の現在値に比例するように開閉操作していた。つまり、スロットルバルブ132の開度が、時点t1後、エンジン回転数が加速するに伴って目標開度まで徐々に拡開してゆき、時点t3にて目標開度に到達し、以後時点t5まで目標開度またはその近傍の開度に維持される。目標開度は、モータリング中の目標回転数の下、所要の吸気負圧を発生させることができるように絞られた開度であり、かつエンジンオイルの消費量が過度に増加しない程度に開かれた開度である。
【0042】
そして、スロットルバルブ132の開度は、時点t5後、エンジン回転数が減速するに伴って徐々に縮小してゆく。時点t0以前、及び時点t6以降のスロットルバルブ132の開度は、ほぼ全閉であるが、僅かながら開いている。
【0043】
しかしながら、従前のモータリング制御の如く、単純にエンジン回転数の現在値に応じてスロットルバルブ132の開度を調整すると、内燃機関1のモータリング開始直後の時期に、吸気負圧が顕著に大きくなって、ブレーキブースタ15の定圧室内の負圧が急増、急回復することが起こる。その瞬間に運転者がブレーキペダルを踏むと、非常に軽い踏力で踏み込めてしまい、ブレーキペダルが引き込まれるかのような感じを与えてしまう。
【0044】
この問題を回避するべく、本実施形態のECU0は、図4中に実線で表しているように、モータリングの開始直後、スロットルバルブ132の開度を、一旦目標開度よりも大きく開き、しかる後目標開度まで徐々に縮小するように操作する。大きく開いたスロットルバルブ132の開度を目標開度に向けて絞り始める時点t2は、エンジン回転数が目標回転数よりは低い所定値以上に上昇したときである。時点t2後、スロットルバルブ132の開度は、一次遅れ的に、または指数関数的に縮小してゆく。図4中、時点t4が、スロットルバルブ132の開度が目標開度に到達した時点である。時点t4以降のスロットルバルブ132の操作は、従前のモータリング制御に準ずる。
【0045】
本実施形態では、駆動輪62に走行のための駆動力を供給できる走行用電動機4と、走行用電動機4に供給するべき電力を発電する発電機2に発電のための駆動力を供給できる内燃機関1と、内燃機関1の吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流で発生する吸気負圧を蓄えその負圧を利用してブレーキ踏力を倍力するブレーキブースタ15と、内燃機関1に当該内燃機関1を回転させるための駆動力を供給できるモータリング用電動機2とを具備するハイブリッド車両を制御する制御装置0であって、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が下限閾値を下回ったときに、モータリング用電動機2により内燃機関1を回転させるモータリングを行い、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が下限閾値よりも高い上限閾値以上に回復するまでそのモータリングを継続するものであり、前記モータリングを行うにあたり、スロットルバルブ132の開度を、一旦所要の負圧を発生させるために必要な目標開度よりも大きく開き、しかる後目標開度まで縮小するように操作するハイブリッド車両の制御装置0を構成した。
【0046】
本実施形態によれば、内燃機関1のモータリング開始直後の時期に、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流の吸気負圧が顕著に大きくなり、ブレーキブースタ15の定圧室内の負圧が急増する事象を有効に回避できる。従って、ブレーキブースタ15に蓄えるべき負圧を必要十分に確保しながら、ブレーキペダルが引き込まれるような感覚を生じさせないようにすることができる。
【0047】
また、ブレーキブースタ15の定圧室内の負圧の急増を防止する目的で、負圧管路151に絞り(オリフィス)を形成する等のハードウェアの変更を施す必要がなく、コストアップを将来せずに済む。
【0048】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態における車両はシリーズ方式のハイブリッド車両であり、内燃機関1が出力する駆動力を発電機2ではなく車両の駆動輪62に入力することは考えられていなかった。
【0049】
だが、他の方式のハイブリッド車両、内燃機関が出力する駆動力を車両の走行のために駆動輪に供給する態様のハイブリッド車両に、本発明を適用することも可能である。このときには、内燃機関と駆動輪との間に、両者の間で駆動力を伝達可能な状態と、両者の間で駆動力を伝達せず内燃機関が駆動輪から独立して回転/停止可能な状態とを切換可能な動力伝達機構(断接切換可能なクラッチや、遊星歯車を利用した伝達機構等)を介設しておく。そして、アクセル開度等に対応した要求出力に応じて、内燃機関を運転するか停止するかを判断し、内燃機関を運転する場合には動力伝達機構を後者の状態として内燃機関をモータリングしたり、気筒に燃料を供給して内燃機関をファイアリングし、かつ動力伝達機構を前者の状態として内燃機関が出力する駆動力を駆動輪に供給したりできるようにする。内燃機関の運転を停止する場合には、動力伝達機構を後者の状態とすることは言うまでもない。
【0050】
その他、各部の具体的な構成や処理の内容は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ハイブリッド車両の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
0…制御装置(ECU)
1…内燃機関
13…吸気通路
132…スロットルバルブ
15…ブレーキブースタ
2…発電機、モータリング用電動機(発電用モータジェネレータ)
3…蓄電装置
4…走行用電動機(走行用モータジェネレータ)
62…駆動輪
図1
図2
図3
図4