(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】建物の内装工事の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 9/18 20060101AFI20240826BHJP
E04B 1/35 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
E04B9/18 R
E04B1/35 L
(21)【出願番号】P 2020188161
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【氏名又は名称】柱山 啓之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】新居 憲作
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-064790(JP,U)
【文献】特開2009-155943(JP,A)
【文献】特開2013-181342(JP,A)
【文献】特開平04-143365(JP,A)
【文献】特開平11-200651(JP,A)
【文献】特開2013-224574(JP,A)
【文献】特開2009-007751(JP,A)
【文献】特開2000-355999(JP,A)
【文献】特許第4708912(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/00
E04B 9/18
E04B 1/35
E04G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の階層で、隣接区域に対し、天井仕上げが切り替えられる及び/または天井内に達して当該天井内を区分する区分壁によって区画される所定区域に対して実施される、少なくとも天井内工事と床上工事を含む内装工事の施工方法であって、
人と荷の重量に耐える強度を有し、上記所定区域の全域にわたり、当該所定区域の天井から下方へ人の立位歩行が可能な間隔を隔てて配設されて天井仕上げ面を形成する複数枚の天井パネルを、該所定区域の該天井から複数本吊り下げられ、人と荷及び該天井パネルの重量を支持する強度を有する吊り材で吊り支持して構成され、少なくとも該天井パネル上の上記天井内工事に耐える吊り天井構造を構築する第1工程と、
次いで、上記天井パネル上で上記所定区域の全域に向けて順次進められていく上記天井内工事と、該所定区域の床上で当該所定区域の全域に向けて順次進められていく上記床上工事とを並行して行って内装工事を完了する第2工程とを含
み、
前記第1工程で構築される前記吊り天井構造には、少なくとも一カ所に、前記天井パネルの配設が保留された人荷開口部が形成され、
前記第2工程では、前記天井内工事が完了した後、前記床上で、上記人荷開口部を、前記吊り材で吊り支持される前記天井パネルで封鎖する封鎖作業を行い、その後、封鎖された上記人荷開口部下で前記床上工事を行うことを特徴とする建物の内装工事の施工方法。
【請求項2】
前記所定区域は、壁で仕切って形成される複数の室区画のうち、少なくともいずれか1つの当該室区画であることを特徴とする請求項
1に記載の建物の内装工事の施工方法。
【請求項3】
前記所定区域は、壁で仕切って形成される複数の室区画であって、一連に隣接する2以上の当該室区画で構成されることを特徴とする請求項
1に記載の建物の内装工事の施工方法。
【請求項4】
前記所定区域が前記区分壁によって前記隣接区域に対し区画される場合、前記天井下の前記天井パネル上に形成される天井内空間には、該区分壁を貫通して、扉で開閉される人通孔が設けられることを特徴とする請求項1~
3いずれかの項に記載の建物の内装工事の施工方法。
【請求項5】
前記建物は、天井内設備を有する既設建物であり、前記第1工程で前記吊り天井構造を構築する前に、既設の天井パネル及び既設の天井内設備を撤去する準備作業を行うことを特徴とする請求項1~
4いずれかの項に記載の建物の内装工事の施工方法。
【請求項6】
建物の階層で、隣接区域に対し、天井仕上げが切り替えられる及び/または天井内に達して当該天井内を区分する区分壁によって区画される所定区域に対して実施される、少なくとも天井内工事と床上工事を含む内装工事の施工方法であって、
人と荷の重量に耐える強度を有し、上記所定区域の全域にわたり、当該所定区域の天井から下方へ人の立位歩行が可能な間隔を隔てて配設されて天井仕上げ面を形成する複数枚の天井パネルを、該所定区域の該天井から複数本吊り下げられ、人と荷及び該天井パネルの重量を支持する強度を有する吊り材で吊り支持して構成され、少なくとも該天井パネル上の上記天井内工事に耐える吊り天井構造を構築する第1工程と、
次いで、上記天井パネル上で上記所定区域の全域に向けて順次進められていく上記天井内工事と、該所定区域の床上で当該所定区域の全域に向けて順次進められていく上記床上工事とを並行して行って内装工事を完了する第2工程とを含み、
前記所定区域が前記区分壁によって前記隣接区域に対し区画される場合、前記天井下の前記天井パネル上に形成される天井内空間には、該区分壁を貫通して、扉で開閉される人通孔が設けられることを特徴とする建物の内装工事の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の区域に区画される所定区域毎で、天井内工事と床上工事とを並行して行うことが可能で、内装工事の工期を全体として短縮することが可能な建物の内装工事の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の階層における床から天井にわたる内装工事に関連する技術として、例えば特許文献1~3が知られている。特許文献1の「人が乗れる天井パネル吊り構造」は、天井パネルは、アルミニューム押し出し型材によってパネル周辺枠が形成され、パネル周辺枠の内側部分は、ハニカムコアを芯材とし、その上下面をシート材でサンドイッチ構造に挟んだサンドイッチパネルで形成され、パネル周辺枠としてのアルミニューム押し出し型材は、その略中央部長手方向に上向側に開口する略C型断面構造のボルト取り付け溝が形成され、該ボルト取り付け溝の両側に中空構造部が長手方向に形成され、中空構造部の上下面は略面一状態に連ねた構成とされており、天井パネルは、パネル周辺枠のボルト取り付け溝へ頭部を挿入して用意したボルトの軸部を、天井下地材の下面へ取り付けた吊り具とナット止めにより接合して設置されるようになっている。
【0003】
特許文献2の「間仕切構造」は、上階床スラブから吊下固定した複数本の天井レールと、天井レールの間に架設した天井板と、上部が天井レールに着脱自在に固定され、下部が当該階床スラブに着脱自在に固定された間仕切壁と、を備えることを特徴とする間仕切構造であり、さらに、間仕切壁の上方の天井裏に、上部が上階床スラブに固定され、下部が天井レールに固定された天井裏間仕切壁を備えるようになっている。
【0004】
特許文献3の「屋根部の施工方法」は、建物床部の所定の位置に配置された壁部の上部に天井枠を設けた後、前記天井枠の上部に屋根枠を設けるに際し、まず、前記屋根枠の上面に貼り付けられる下地板材を、予め前記天井枠の上面に敷き詰めることにより作業床を形成し、次に、前記作業床上で前記屋根枠を組み立て、次に、前記下地板材をずらして、前記屋根枠を組み付けるための隙間を形成した後、この隙間に前記屋根枠の下部を挿入して前記天井枠に組み付け、次に、前記作業床として敷き詰めた前記下地板材を前記屋根枠に貼り付けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-7751号公報
【文献】特開2000-355999号公報
【文献】特許第4708912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
建物の内装工事は通常、各階層で、天井仕上げの切り替えや天井内に達して当該天井内を区分する区分壁を設置するレイアウトに応じ、間仕切り壁で仕切られた室区画など、所定区域を単位として、天井内となる位置で、配管等の設置など天井内工事を行い、次いで、天井パネル等の配設など天井仕上げ工事を行い、その後、床上で各種配線や、機械設備、間仕切り壁等の設置、床表面の塗装仕上げなどを行う床上工事を行うようにしている。
【0007】
天井側に対する作業と、床側での作業は、天井仕上げを挟んで別の空間の作業であるが、空間的に高いところから低いところへ移行していく、すなわち高いところの作業が済んだ後で低いところの作業を行う方法が採られているため、工期が長くなっていた。
【0008】
これは、天井内工事のために、床上に高所作業用の仮設足場を設置するが、天井内工事からすれば、設備資材などの取り扱いなどからして、この段階で床上工事が行われることは邪魔になり、床上作業からすれば、仮設足場が邪魔であって、どちらの工事からしても、安全性に問題があるためであった。また、天井内工事で発生する塵埃は、床上に落下するので、床上工事は、天井内工事の後で行った方が、効率的なためである。
【0009】
さらに、上記のように天井内工事を先行させるとしても、天井内に設置する設備の規格決定や製造が遅れて工事の開始が遅延したときには、内装工事に全く着手できないこととなっていた。
【0010】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、複数の区域に区画される所定区域毎で、天井内工事と床上工事とを並行して行うことが可能で、内装工事の工期を全体として短縮することが可能な建物の内装工事の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる建物の内装工事の施工方法は、建物の階層で、隣接区域に対し、天井仕上げが切り替えられる及び/または天井内に達して当該天井内を区分する区分壁によって区画される所定区域に対して実施される、少なくとも天井内工事と床上工事を含む内装工事の施工方法であって、人と荷の重量に耐える強度を有し、上記所定区域の全域にわたり、当該所定区域の天井から下方へ人の立位歩行が可能な間隔を隔てて配設されて天井仕上げ面を形成する複数枚の天井パネルを、該所定区域の該天井から複数本吊り下げられ、人と荷及び該天井パネルの重量を支持する強度を有する吊り材で吊り支持して構成され、少なくとも該天井パネル上の上記天井内工事に耐える吊り天井構造を構築する第1工程と、次いで、上記天井パネル上で上記所定区域の全域に向けて順次進められていく上記天井内工事と、該所定区域の床上で当該所定区域の全域に向けて順次進められていく上記床上工事とを並行して行って内装工事を完了する第2工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
前記第1工程で構築される前記吊り天井構造には、少なくとも一カ所に、前記天井パネルの配設が保留された人荷開口部が形成され、前記第2工程では、前記天井内工事が完了した後、前記床上で、上記人荷開口部を、前記吊り材で吊り支持される前記天井パネルで封鎖する封鎖作業を行い、その後、封鎖された上記人荷開口部下で前記床上工事を行うことを特徴とする。
【0013】
前記所定区域は、壁で仕切って形成される複数の室区画のうち、少なくともいずれか1つの当該室区画であることを特徴とする。
【0014】
前記所定区域は、壁で仕切って形成される複数の室区画であって、一連に隣接する2以上の当該室区画で構成されることを特徴とする。
【0015】
前記所定区域が前記区分壁によって前記隣接区域に対し区画される場合、前記天井下の前記天井パネル上に形成される天井内空間には、該区分壁を貫通して、扉で開閉される人通孔が設けられることを特徴とする。
【0016】
前記建物は、天井内設備を有する既設建物であり、前記第1工程で前記吊り天井構造を構築する前に、既設の天井パネル及び既設の天井内設備を撤去する準備作業を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる建物の内装工事の施工方法にあっては、複数の区域に区画される所定区域毎で、天井内工事と床上工事とを並行して行うことができ、内装工事の工期を全体として短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る建物の内装工事の施工方法の好適な一実施形態を示す、本施工方法が適用される建物の架構の側面図である。
【
図2】
図1の建物に第1工程で、吊り天井構造を構築した様子を示す側面図である。
【
図4】
図1の建物に第2工程で、立位姿勢の作業員により、天井内工事と床上工事とを並行して行うことが可能な様子を示す側面図である。
【
図5】
図1に示した建物の階層の室区画の配置の一例であって、吊り天井構造の人荷開口部から天井内空間への荷などの搬送状況を説明する伏せ図である。
【
図6】
図5に示した人荷開口部から天井内空間への荷揚げの様子を示す側面図である。
【
図7】
図1の建物に第2工程で、天井内工事と床上工事とを並行して行っている様子を示す側面図である。
【
図8】
図1の建物で、第2工程が完了した様子を示す側面図である。
【
図9】
図1の建物で、防火区画に人通孔を備えた様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明にかかる建物の内装工事の施工方法の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
本実施形態に係る建物の内装工事の施工方法が適用される建物について説明すると、構造形式としては、例えば、S造、RC造またはSRC造など、どのような構造形式であってもよい。
【0021】
建物は、階層が一つの単層構造であっても、複数の階層を備える多層構造であってもよい。内装工事を施工する階層は地上階だけでなく、地下階であってもよい。
【0022】
また、建物は、建物外周及び建物内部に適宜に配列された構造柱と、構造柱間に架設される構造梁と、構造梁下で構造柱間に配設される壁とを備える通常一般の建物である。
【0023】
建物の使用目的で例を挙げれば、単層構造の建物として例えば、工場、倉庫、展示会場施設、スポーツセンター、さらにスーパーマーケットやホームセンターなどの大規模商業施設などがあり、他方、多層構造の建物として例えば、ホテルやオフィスビル、デパート、病院などがあり、さらにこれら以外の使用目的の建物であってもよい。
【0024】
建物では、各階層において、隣接する区域同士の間で、一方である所定区域の天井仕上げを、他方である隣接区域に対して切り替える、すなわち天井仕上げを区域毎に異ならせる設計が行われる場合や、隣接する区域同士の間に、天井内に達して当該天井内を区分する区分壁を設ける場合がある。
【0025】
前者では例えば、床面からの天井仕上げ高さを異ならせたり、天井仕上げとなるパネル材の素材を異ならせるなどの場合がある。後者では例えば、防火区画が設定された結果、天井内まで区画する防火上主要な区分壁が設けられる場合がある。
【0026】
区分壁とは、床から立ち上げられて天井内空間に達し、当該天井内空間を区分けする壁であって、間仕切り壁が区分壁となる場合もある。
【0027】
本実施形態に係る建物の内装工事の施工方法は、階層において、隣接区域に対し、天井仕上げが切り替えられる、または天井内に達して当該天井内を区分する区分壁によって区画される、あるいは双方が適用される所定区域に対して実施される、少なくとも天井内工事と床上工事を含む内装工事に適用される。
【0028】
上記の区域とは、各階層で、壁で仕切って形成される1つもしくは一連に隣接する2以上複数の室区画で構成され、所定区域とは、このような室区画で構成される区域のうち、本実施形態に係る内装工事の施工方法が適用される区域を言う。
【0029】
階層の伏せ図である
図5で示すように、所定区域の例としては、階層に配置される複数の室区画のうち、壁(構造壁)5で包囲されて単独の室空間とされた単一の室区画R(#1)で構成されたり、隣接する室区画Rxと間仕切り壁5(区分壁5a)で分離されて単一の室区画R(#2)で構成されたり、廊下B側から間仕切り壁5で仕切って形成された一連に隣接する2以上の室区画R(#3)で構成されたり、当該2以上の室区画Rがさらには隣接する室区画Rxとも間仕切り壁5で分離形成されて(#4)構成されたりする場合がある。これら所定区域の中には、区分壁5aとして耐火壁を用いて、防火区画Fが備えられる場合もある。本実施形態に係る内装工事の施工方法は、このような所定区域を単位として、個々に実施される。
【0030】
天井内工事とは、階層の天井下であって、天井仕上げ面を形成する天井パネルとその上でなされるすべての工事が含まれる。
【0031】
床上工事とは、天井仕上げ面下であって、床スラブの床面とその上方でなされるすべての工事が含まれる。
【0032】
以下、建物として、
図1及び
図5に示すように、床スラブ1上に建物2外周に沿って配列された構造柱3と、構造柱3間に掛けられる構造梁4とを主体とするフレーム構造で構築され、構造梁4下で構造柱3間に、建物2外周に沿って壁5が設けられ、当該フレーム構造の上に屋根(図示せず)が掛けられて構成される事務棟などのS造の単層構造(地上1階建て)の建物2を例示し、所定区域が#4である場合について、説明する。
【0033】
所定区域が#1の場合は、建物2に作用する荷重を負担する構造壁5は、天井の構造梁4下に接続する形態で構築される。所定区域が#2の場合は、室区画Rを分ける間仕切り壁5(区分壁5a)は、構造梁4下まで設けられる。所定区域が#3及び#4の場合は、当該所定区画内で室区画Rを分ける間仕切り壁5は天井仕上げ面8aまで設けられ、所定区域の室区画Rと隣接する室区画Rxを分ける間仕切り壁5は、構造梁4下まで設けられる。防火区画Fを形成する間仕切り壁5(区分壁5a)は、耐火性を有し、構造梁4下まで設けられる。構造壁5及び区分壁5aは、後述する吊り天井構造6を設ける前に設置される。
【0034】
本実施形態に係る施工方法では、まず、吊り天井構造6を構築する第1工程が実施される。
図1に示すように、複数の構造柱3を有する建物2の屋根側である当該建物1階の天井には、隣接する構造柱3間に掛け渡して設けられた複数の構造梁4と、隣接する構造梁4間に掛け渡して設けられた複数の母屋7とが配置されている。
【0035】
吊り天井構造6は、
図2~
図4に示すように、主に天井パネル8と吊り材9とから構成され、全体が構造梁4及び母屋7から吊り下げて構築される。
図3及び
図9では、構造梁4や母屋7の図示が省略されている。建物がRC造やSRC造の場合には、吊り天井構造6は、上階の床スラブから吊り下げて構築される。
【0036】
天井パネル8は、所定区域の天井に位置される構造梁4から下方へ間隔を隔てて、所定区域全域にわたって複数枚配設される。天井パネル8と吊り材9は、例えばパンタグラフ式の高所作業車等によって、作業員Pと共に天井の高さ位置まで持ち上げられ、移動しながら配設される。
【0037】
吊り材9は、これら天井パネル8を吊り支持するために、当該所定区域の天井に位置される構造梁4や母屋7から複数本吊り下げて設けられる。なお、2層の建物の1層目や、適当な位置に構造梁4や母屋7がない場合には、吊り天井構造6を支持するための小梁を設けるようにしてもよい。
【0038】
天井パネル8は、吊った状態で、その上に人が乗ったり荷が載せられても耐える強度、例えば耐荷重100kg/m2で構成される。材質や構造は、どのようなものであってもよいが、軽量であることが好ましい。天井パネル8に適用可能なものの一例として、冷凍倉庫に用いられる冷凍断熱パネルがある。
【0039】
吊り材9は、所定区域の全域にわたって適宜間隔を隔てて複数本設けられる。吊り材9は、構造梁4や母屋7に上端が接合固定されて吊り下げて設けられ、下端には、隣接する吊り材9同士に掛け渡して、天井パネル8を受けるための受け梁10が接合によって設けられる。
【0040】
複数枚の天井パネル8は、受け梁10に配列して設けられ、吊り材9は、受け梁10を介して天井パネル8を天井から吊り下げ支持する。これにより、所定区域全域にわたって、受け梁10を介して吊り材9で吊り下げ支持した天井パネル8が配設される。
【0041】
吊り材9は、天井パネル8の上に乗る人及び天井パネル8の上に載せられる荷の重量、並びに天井パネル8を支持する強度を有する、例えば鋼製ロッドなどで構成される。
【0042】
吊り材9で吊り下げ支持される天井パネル8は、その上の天井内空間Sで、少なくとも人の立位歩行が可能なように、天井の構造梁4や母屋7から下方へ間隔を隔てて吊り下げ支持される。構造梁4や母屋7と天井パネル8との間の高さ間隔は、吊り材9の長さ寸法によって設定される。
【0043】
また、吊り材9には、天井仕上げ面8aを平坦にするために、当該吊り材9の長さを調整して天井パネル8の吊り下げ高さ位置を微調整できるように、ターンバックル11が備えられている。
【0044】
これにより、所定区域の天井下の天井パネル8上で行われる天井内工事に耐える吊り天井構造6の構築が完了する。
【0045】
本実施形態の施工方法では、
図5及び
図6に示すように、天井パネル8の配設が部分的に保留され、これにより、天井パネル8上の天井内空間Sへの人や荷の出入りを確保するための人荷開口部12が少なくとも一カ所に形成される。
【0046】
続く第2工程では、
図4~
図7に示すように、天井内工事と床上工事とを並行して行う。床上工事は、床スラブ1の床面1aを利用し、人荷開口部12下及びその近辺を除く、当該所定区域の全域に向けて、周知の各種作業が順次進められていく。
【0047】
天井内工事は、人荷開口部12を人や荷の出入りに利用して、天井パネル8上の天井内空間Sで、当該所定区域の全域に向けて、荷を搬送したり(
図5中、矢印A参照)、周知の各種作業が進められていく。
【0048】
図6に示すように、天井内空間Sには、当該所定区域の全域に向けて荷を運搬するために、人荷開口部12の上を通る荷捌き用のレール13が適宜な配置で配設され、このレール13を走行するスライド手段14には、荷揚げ用のホイスト15が設けられる。天井内工事の作業員Pは、天井パネル8上で、ホイスト15に吊られた荷Cを受け取り、所定区域の適宜位置へ荷を搬送し、この荷を天井内工事に供するようになっている。
【0049】
ホイスト15に代えて、吊り天井構造6の配設の際に用いたパンタグラフ式の高所作業車などを荷揚げ装置として用いて、人荷開口部12から荷揚げしてもよい。
【0050】
そして
図4に示すように、天井内空間Sを立位歩行する作業員Pによって所定区域の全域に向けて天井内工事が進められ、
図7に示すように、床上工事の塗り床16などの作業と並行して、ダクト部品17等などが天井内空間Sに取り付けられていく。
【0051】
図8に示すように、配管やダクト18の設置が完了し、天井内工事が完了した後、床面1a上で、人荷開口部12を、吊り材9で吊り下げ支持される天井パネル8で封鎖する作業を行い、その後、封鎖された人荷開口部12下で、最後の床上工事を行い、これにより内装工事が完了する。
【0052】
図5に示したように、所定区域に、天井下の天井パネル8上に形成される天井内空間Sに間仕切り壁5(区分壁5a)区画された防火区画Fが含まれ、この防火区画Fで所定区域内の室区画Rが分けられている場合には、必要に応じて、
図9に示すように、当該防火区画Fを貫通して、防火扉20で開閉される人通孔19が設けられる。
【0053】
この人通孔19を設けた場合、これを利用して所定区域内を作業員Pが自由に行き来し、荷Cを運ぶことにより、所定区域全域にわたって一連に天井内工事を実施することができる。言い換えれば、人通孔19を設けることで、所定区域を防火区画Fに拘わらず、その内外にわたって広げることができる。
【0054】
人通孔19は、工事完了後もメンテナンス等に使用できるように、防火扉20を設置して残すため、その形状・寸法は既製品の防火扉の規格に合わせることが望ましい。このため、天井内工事の資材が大型であると、人通孔19を通すことができない場合がある。このような場合には、防火区画Fを区画する間仕切り壁5(区分壁5a)を挟んだ両側に人荷開口部12を設ければよい。
【0055】
本実施形態に係る建物の内装工事の施工方法では、まず、吊り天井構造6を構築する第1工程を行って、天井内空間Sを、所定区域の全域にわたって先行して形成するようにしたので、続く第2工程で、天井内工事と床上工事とを並行して行うことができるようになり、内装工事を短工期で完了することができる。
【0056】
また、天井内工事の進捗にかかわらず、床上工事を進めることができ、仮に、天井内設備の規格決定や製造が遅れて遅延が生じても、内装工事に着手することができ、施工計画に対し、柔軟に対処することができる。また、床上工事の完了後であっても、天井内工事を続行することもできる。
【0057】
吊り天井構造6は、天井パネル8上での立位歩行で作業を行うことができる構造であるので、効率良く、容易かつ安全に天井内工事を行うことができる。
【0058】
人荷開口部12を備えるようにしたので、天井内空間Sへの人や荷の出入りの円滑性を確保することができ、さらに短工期化することができる。
【0059】
以上、新設の建物2の場合の内装工事について説明したが、建物が天井内設備を有する既設建物である場合には、第1工程で吊り天井構造6を構築する前に、既設の天井パネルや既設の天井内設備など、既存の天井構造を撤去する準備作業を行い、その後、第1工程から始めて施工を進めれば良く、既設建物であっても本施工方法を適用できることはもちろんである。
【0060】
人荷開口部12は、例えば室区画Rが広すぎる場合は、床仕上げ高さや天井パネル8の素材が異ならず、また区分壁5aがない場合であっても、複数設けるようにしてもよい。区分壁5aは、防火区画Fを区画する場合だけでなく、適宜に設置されるものであり、隣接する室区画との遮音性を確保するための遮音壁などであってもよい。このような区分壁5aに、人通孔19を設けるようにしてもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0061】
1 床スラブ
2 建物
5 壁(構造壁、間仕切り壁)
5a 区分壁(間仕切り壁)
6 吊り天井構造
8 天井パネル
8a 天井仕上げ面
9 吊り材
12 人荷開口部
19 人通孔
20 防火扉
C 荷
F 防火区画
P 作業員
R 室区画
S 天井内空間
#1~4 所定区域