(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】液体散布ノズル
(51)【国際特許分類】
B05B 1/18 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
B05B1/18
(21)【出願番号】P 2020198797
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】593182923
【氏名又は名称】丸和バイオケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広中 房男
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214763(JP,A)
【文献】特開平08-281157(JP,A)
【文献】実開昭60-046154(JP,U)
【文献】特開平10-324376(JP,A)
【文献】中国実用新案第211322045(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00-1/36
B05B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水源に接続される導水部と、前記導水部に接続された筐体部と、前記筐体部の端面を閉鎖するシャワー板とを備えた液体散布ノズルであって、
前記シャワー板は、第1の方向の寸法が、前記第1の方向に直交する第2の方向の寸法より2倍以上大きく、前記第1の方向に沿って並んだ複数列の貫通孔を有しており、
前記導水部の内側に形成された端部流路と、前記端部流路に連通し前記シャワー板の内側面に至る拡散流路とが形成され、
前記拡散流路内の中央において、前記第1の方向に沿って延在する上流側面と、下流側面とを備えたメイン分流部が形成されており、
前記メイン分流部の前記第1の方向における端部と、前記拡散流路の内壁との間に隙間が形成されていることを特徴とする液体散布ノズル。
【請求項2】
前記第1の方向における前記拡散流路の最大寸法をW1とし、前記第1の方向における前記メイン分流部の寸法をW2としたときに、4/5≧W2/W1≧1/10を満たすことを特徴とする請求項1に記載の液体散布ノズル。
【請求項3】
前記メイン分流部は、前記筐体部の内側に突出して配設され、前記上流側面は平坦であり、前記下流側面は、前記シャワー板に近づくに従って前記第1の方向の寸法が小さくなる曲面から構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体散布ノズル。
【請求項4】
一対の前記メイン分流部が、前記筐体部の両壁から前記第2の方向に向かい内方に突出して配設され、各下流側面の曲面は、互いに近づくに従って前記第1の方向の寸法が小さくなることを特徴とする請求項3に記載の液体散布ノズル。
【請求項5】
前記メイン分流部は、前記筐体部の内側に突出して配設され前記第1の方向に延在する薄板であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体散布ノズル。
【請求項6】
前記端部流路と、前記拡散流路の前記メイン分流部との間に、前記筐体部の内側に突出したサブ分流部を配設したことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の液体散布ノズル。
【請求項7】
前記サブ分流部は円筒形状を有しており、前記メイン分流部に近づくに従って前記第1の方向の寸法が大きくなる中間流路内に配設されていることを特徴とする請求項6に記載の液体散布ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体散布ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
国内にて進行する農業就労人口の減少と高齢化に対する打開策として、移植機械の開発とともに、育苗箱を用いたイネや野菜等の育苗技術が開発された。しかしながら、育苗箱による育苗においては、育苗容器への培土の充填、種籾の播種、育苗期間中に必要となる肥料や農薬の施用、播種後の育苗箱への潅水など、育苗に付随する多くの調製作業が必要となる。
【0003】
一部の農家では、苗を調製する一連の作業を育苗センターに委託しているが、育苗センターに作業委託をしない農家においては、煩雑な育苗トレイや育苗床の調製作業が大きな負担となっている。
【0004】
調製作業の一例として、個々の苗の生育を均一に管理する為に、農薬散布・液肥散布・かん水などが行われるが、その散布量は極力均一であることが求められる。野菜苗の一般的な育苗トレイ(セル成型苗)において、30cm×60cmの範囲に128株ないし200株の苗が、小さなセル内でそれぞれ土壌も独立した条件で栽培される。そのため、注水位置の少しのズレで、個々のセルに散布される農薬・液肥・かん水の量に大きな差が生じる。
【0005】
例えば、農薬は、農薬ラベルに記載されている適用作物、使用時期、使用方法(希釈倍数、散布液量等)に従って適正に使用するよう、農林水産省から指導されている。農薬の液量に偏りがあると、農薬の効果不足などで病害虫が発生して苗の生育に影響を与える恐れがある。
【0006】
また、液肥散布やかん水についても、前述の各セルが独立した環境であることから、各セルに水分量の違いが出ないように望ましい散布量を順守するよう指導されている。セルごとに液肥量やかん水量が偏ることで、苗の生育不足や徒長苗の発生を招く恐れがある。
【0007】
このため、農薬散布・液肥散布・かん水などを行う場合、単位面積当たりの液量を許容範囲内に収めるように適切に行う必要がある。これに対し、市販されている一般的なジョウロを用いて農薬等の散布を行う場合、ジョウロの高さ位置によって農薬等がハス口から放散されトレイ面に処理される範囲(特に幅方向)が変化するため、単位面積当たりに散布される液量のばらつきが大きくなりやすいことと、ノズルの中央側と周辺側とで吐出量に偏りがあるという問題がある。
【0008】
このような問題に対して、特許文献1には、育苗トレイや育苗箱の全幅と略同一の幅を有して複数個の孔が一列で配列されたノズル部を備えるノズルを、容器のノズル接続管に接続してなる薬剤散布器が開示されている。この薬剤散布器を一方向へ移動させるだけで、育苗箱に収容された野菜苗に農薬等を均一に散布することが可能になり、薬剤散布作業を大幅に効率化することができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、特許文献1のノズルは、幅方向に一列に並んだ孔を備えているため、単位面積当たりの散布量が少ないという課題を有する。したがって、比較的多量の農薬等を散布する必要がある場合、薬剤散布器を育苗箱の上方で保持したまま一定速度でゆっくり移動させて散布を行なうか、あるいは薬剤散布器を何度も往復移動させなくてはならない。このため、農薬等の散布量のばらつきを招来し、また散布のための時間も長くなる。
【0011】
これに対し、単純に孔の径を大きくすれば、単位面積当たりの散布量は増大する。しかし、太い孔から吐出される勢いのある水流により苗の損傷や培土のえぐれが発生する恐れがある。
【0012】
一方、特許文献1のノズルを改造して、幅方向に沿って2列以上の孔を形成することにより、単位面積当たりの散布量増大を目指すことも一案である。しかしながら、本発明者の検討結果によれば、例えば特許文献1のノズルを改造して、幅方向に並んだ2列以上の孔を形成した場合、ノズルの中央側と両幅側とで散布量の偏りが発生する恐れがあることが判明した。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みて、単位面積当たりの散布量を確保しつつも、均一な散布を手早く行うことができる液体散布ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の液体散布ノズルの一つは、
給水源に接続される導水部と、前記導水部に接続された筐体部と、前記筐体部の端面を閉鎖するシャワー板とを備えた液体散布ノズルであって、
前記シャワー板は、第1の方向の寸法が、前記第1の方向に直交する第2の方向の寸法より2倍以上大きく、前記第1の方向に沿って並んだ複数列の貫通孔を有しており、
前記導水部の内側に形成された端部流路と、前記端部流路に連通し前記シャワー板の内側面に至る拡散流路とが形成され、
前記拡散流路内の中央において、前記第1の方向に沿って延在する上流側面と、下流側面とを備えたメイン分流部が形成されており、
前記メイン分流部の前記第1の方向における端部と、前記拡散流路の内壁との間に隙間が形成されていることにより達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、単位面積当たりの散布量を確保しつつも、均一な散布を手早く行うことができる液体散布ノズルを提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、第1の実施形態にかかるノズルの斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態にかかるノズルの平面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態にかかるノズルの側面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態にかかるノズルの正面図である。
【
図5】
図5は、
図3のノズルをB-B線で切断して矢印方向に見た断面図である。
【
図6】
図6は、
図2のノズルをA-A線で切断して矢印方向に見た断面図である。
【
図7】
図7は、
図2のノズルをC-C線で切断して矢印方向に見た断面図である。
【
図8】
図8は、ノズルの組立工程を説明する模式図である。
【
図9】
図9は、ノズルの使用態様を説明する図である。
【
図10】
図10は、ノズルの内部において液体の流れを矢印で示した模式図である。
【
図12】
図12は、ジョウロの注水管に取り付けた比較例のノズルから液体を散布した状態を示す図である。
【
図13】
図13は、ジョウロの注水管に取り付けた実施例1のノズルから液体を散布した状態を示す図である。
【
図14】
図14は、ジョウロの注水管に取り付けた実施例2のノズルから液体を散布した状態を示す図である。
【
図15】
図15は、ジョウロの注水管に取り付けた実施例3のノズルから液体を散布した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
以下、図面を参照して本発明にかかる第1の実施形態を説明する。
図1は、第1の実施形態にかかる液体散布ノズル(以下、単にノズルという)10の斜視図である。
図2は、ノズル10の平面図である。
図3は、ノズル10の側面図である。
図4は、ノズル10の正面図である。
【0018】
図3に示すように、ノズル10は、本体下半部10Aと、本体上半部10Bと、シャワー部10Cとを接合して形成される。ノズル10の製造工程については、後述する。
【0019】
まず、完成品としてのノズル10の外観について説明する。
図1,2に示すように、ノズル10は、略中空円筒状の導水部11を細長い筐体部12の中央に連設した略T字状の構造体であり、本体下半部10Aと本体上半部10Bとを接合することにより形成される。ここで、筐体部12の長手方向をx方向(第1の方向または幅方向)とし、導水部11の軸線方向をy方向とし、x方向及びy方向に直交する方向をz方向(第2の方向)とする。
【0020】
導水部11の端部外周には、雄ねじ11aが形成されている。また、導水部11の上下面には、円形のくぼみ11bが形成され、筐体部12の中央の上下面には、欠円状のくぼみ12aが形成されている。このくぼみ11b、12aは、ノズル10の製造過程で形成されたものであり、本体下半部10Aと本体上半部10Bとにそれぞれ配設されている。
【0021】
図3に示すように、筐体部12のz方向寸法は、シャワー部10Cに近い側で導水部11の外径より大きくなっている。
【0022】
筐体部12の導水部11と反対側(y方向)の端面は開放しており、この端面が矩形平板状のシャワー板13により閉鎖されている。
図4に示すように、シャワー板13は、x方向の寸法がz方向の寸法に対して2倍以上であり、好ましくは3倍以上である。またシャワー板13は、x方向に並んだ貫通孔13aを、z方向に沿って3列形成している。貫通孔13aは千鳥状に並んでいるが、行列状に並んでいてもよく、また列数は2列または4列以上であってよい。同列内の貫通孔13aのピッチは等しいことが望ましいが、不等ピッチであってもよい。シャワー板13は、その外周を囲う外枠13bと一体化されて、シャワー部10Cを構成する。
【0023】
次に、ノズル10の内部構造について説明する。
図5は、
図3のノズルをB-B線で切断して矢印方向に見た断面図である。
図6は、
図2のノズル10をA-A線で切断して矢印方向に見た断面図である。
図7は、
図2のノズル10をC-C線で切断して矢印方向に見た断面図である。導水部11の軸線をLとする。
【0024】
図5,6に示すように、ノズル10の内部には、導水路14が形成されている。導水路14は、導水部11の端部内側に形成される端部流路14aと、シャワー板13の内側面に至る拡散流路14bと、端部流路14aと拡散流路14bとをつなぐ中間流路14cとを有する。端部流路14aと中間流路14cとが、導水部11の内部に形成され、拡散流路14bが、筐体部12の内側に形成されている。
【0025】
端部流路14aは、雄ねじ11aの内側において、略一定の内径を有する。中間流路14cは、
図6に示すようにz方向の内寸が拡散流路14bに近づくにしたがって漸次拡大し、かつ
図5に示すようにx方向の内寸が拡散流路14bに近づくにしたがって漸次拡大している。中間流路14cの拡大幅はz方向よりx方向の方が大きい。なお、
図5の断面において、中間流路14cの両側の内壁形状は、内側に凸形状の円弧により近似できる。
【0026】
これに対し拡散流路14bは、
図6に示すようにz方向の内寸が略一定である。また、拡散流路14bは、
図5に示すように、中間流路14cに近い側でx方向の内寸(幅)が略一定の比で増大しており(軸線Lに対する傾き角が一定であり)、さらにシャワー板13近傍でx方向の内寸が略一定となる。中間流路14cと拡散流路14bとは、滑らかに接合されている。
【0027】
図5、6に示すように、中間流路14cの中央付近において、導水部11の上壁及び下壁に植設され端部を突き合わせるようにして一対の円筒部15が配設されている。円筒部15の軸線は、導水部11の軸線Lと交差している。円筒部15の内部が、くぼみ11b(
図1参照)に相当する。
【0028】
一方の円筒部15の先端には円形凸部15aが形成され、他方の円筒部15の先端には円形凹部15bが形成され、円形凸部15aと円形凹部15bが嵌合することで、本体下半部10Aと本体上半部10Bとの位置決めがなされる。
【0029】
図5に示すように、中間流路14cとの境界近傍における拡散流路14b内において、一対の欠円状の隆起部16が筐体部12の上壁および下壁から内側に突出するように配設されている。隆起部16の内部が、くぼみ12a(
図1参照)に相当する。互いに同一形状を有する隆起部16は、凡そ平坦な上流側面16aと、詳細は後述する下流側面16bとを有する。上流側面16aと下流側面16bとは、滑らかな曲面により連結されている。ここでは、隆起部16がメイン分流部を構成し、円筒部15がサブ分流部を構成する。
【0030】
隆起部16の上流側面16aは、x方向及びz方向に延在する略平面であると好ましいが、例えば成形上の都合により上壁または下壁から離れるに従って若干量傾いていてもよい。これに対し、下流側面16b全体は曲面により形成されている。
【0031】
より具体的に下流側面16bの形状を説明する。
図5において、下流側面16bは導水部11の軸線L上の点を中心とした円弧状の外縁を有し、シャワー板13に近づくにしたがってx方向の外寸が小さくなる。また、
図7において、下流側面16bは導水部11の軸線Lと交差するz方向線(図示せず)上の点を中心とした円弧状の外縁を有し、軸線Lに近づくにしたがってx方向の外寸が小さくなる。
【0032】
図5において、隆起部16のx方向幅W2と、拡散流路14bのx方向最大幅W1との比(W2/W1)は、4/5~1/10の範囲にあると好ましく、さらに1/2~1/4の範囲にあると好ましく、1/3であるとより好ましい。
【0033】
また、一対の隆起部16は、
図7に示すように、中央付近の当接部16cで互いに当接している。当接部16cのx方向当接幅W3と、拡散流路14bのx方向最大幅W1との比(W3/W1)は、1/8~1/10の範囲にあると好ましい。ノズル10に印加される水圧が比較的高い場合など、当接部16cを形成することで、シャワー板13に向かう水流のバランスを確保できる。ただし、ノズル10に印加される水圧が低い場合など、当接部16cを設けず、x方向当接幅W3をゼロとすることもできる。
【0034】
(ノズルの製造工程)
図8は、ノズル10の組立工程を説明する模式図である。
図8を参照して、ノズル10の製造工程について説明する。
【0035】
まず、不図示の金型に溶融した樹脂を注入して、型締め後に硬化させることによって、本体下半部10Aと、本体上半部10Bと、シャワー部10Cとをそれぞれ形成する。このとき、成形不良を抑制するためには、樹脂肉厚を極力一定とすることが望ましいが、雄ねじ11a付近などを局所的に厚くすることもある。肉厚を一定にすべく、くぼみ11bに対応して一対の円筒部15が形成され、またくぼみ12aに対応して一対の隆起部16が形成される。本体下半部10Aと本体上半部10Bとは、雄ねじ11aと円筒部15の形状が異なる以外、共通した形状を有する。
【0036】
その後、
図8に示すように、本体下半部10Aと本体上半部10Bとを、本体相互のはめ込み構造により、または結合補強のため接着剤を用いて、あるいは溶着により接合する。この時、
図5に関連して上述したように、円筒部15の円形凸部15aと円形凹部15bが互いに嵌合することで、本体下半部10Aと本体上半部10Bとの位置決めがなされる。また、導水部11の雄ねじ11aが、本体下半部10Aと本体上半部10Bとで螺旋形状につながって形成される。
【0037】
さらに、接合した本体下半部10Aと本体上半部10Bにより形成された筐体部12の開放端に、シャワー部10Cの外枠13bを、本体相互のはめ込み構造により、または結合補強のため接着剤を用いて、あるいは溶着により接合する。以上により、ノズル10が完成する。
【0038】
図9は、ノズル10の使用態様を説明する図であり、ノズル10は導水部11付近のみ示している。
図9(a)の使用態様では、導水部11の内側に、全体を図示しないジョウロの注水管TBが挿入される。一般的な注水管TBは先細形状を有するため、注水管TBを導水部11に挿入するのみで、ノズル10を容易に給水源であるジョウロに取り付けることができる。散布作業者が、ジョウロに農薬等の液体を貯留した後、かかるジョウロを保持して注水管TBを下方に向けると、重力の作用により注水管TBからノズル10の内部に進入した液体が、シャワー板13の貫通孔13aを介して均一に吐出するため、液体の散布を行うことができる。
【0039】
一方、
図9(b)の使用態様では、導水部11の雄ねじ11aに、加圧管PTの一端に連結されたナットNTが螺合される。雄ねじ11aとナットNTの雌ねじとの間は、液密化されている。加圧管PTの他端は、給水源であるポンプに連結されている。液体が給水源から加圧管PTを介してノズル10に圧送されたとき、ノズル10の内部に進入した液体が、シャワー板13の貫通孔13aを介して均一に吐出するため、液体の散布を行うことができる。
【0040】
(ノズル内での液体流れ)
図10は、ノズル10の内部において液体の流れを矢印で示した模式図である。図に示すように、導水部11の内側である端部流路14aに進入してきた液体は、中間流路14cに向かって流れ、中央の円筒部15に当たってx方向の両側に分流も生み出す。円筒部15の近傍において、中間流路14cのx方向の内寸が漸次拡大しているため、分流した液体を留めることがなく、液体はスムーズに流れる。円筒部15を通過した液体は、矢印に示すように隆起部16に向かって流れる。
【0041】
x方向両側に分かれつつ隆起部16に到達した液体は、上流側面16aによって分流され、さらにx方向両側に向かって流れる液体(実線の矢印)と、
図7に示す一対の隆起部16の隙間CL1を通過して、隆起部16の背面側に回り込む液体(点線の矢印)とに分流される。隆起部16の背面側に回り込んだ液体は、拡散流路14b内でシャワー板13の中央領域に到達し、中央領域の貫通孔13aから吐出される。隙間CL1は、隆起部16の両端側に近づくにしたがって大きくなっており、これによりシャワー板13の中央側に向かう液体の流量を調整できる。
【0042】
これに対し、x方向の両側に向かう液体は、中間流路14cの内壁と、隆起部16との間の比較的狭い隙間CL2を通過して拡散流路14bに進入する。この狭い隙間CL2を通過する際に液体の流れが増速され、それによりシャワー板13の端部領域まで液体が到達し、端部領域の貫通孔13aから吐出される。
【0043】
なお、狭い隙間CL2を通過した後に、液体の一部は下流側面16bの表面を伝わって流れ、隆起部16の背面側に回り込む。これにより、シャワー板13の中央領域と端部領域の間の中間領域に液体が到達し、中間領域の貫通孔13aから吐出される。
【0044】
以上の作用によって、シャワー板13の全面にわたって配設され、x方向に沿って並んだ複数列の貫通孔13aのいずれからも、均一な量の液体を吐出できる。これにより一度の散布で、大量の液体を均一に散布できるため、ジョウロを保持する時間が短くて済み、散布作業者の負担を軽減できる。
【0045】
また、本実施形態のノズル10によれば、各貫通孔13aからシャワー板13の面垂直方向に向かって液体が吐出するため、例えばノズル10を取り付けたジョウロの高さ位置を変更しても、単位面積あたりに散布される液量が変化しない。このため、散布作業者の身長差や歩行に伴う作業の上下に関わらず、適切な液体散布を行うことができる。
【0046】
なお、
図9(a)に示すように、重力の作用のみでノズル10から散布を行う場合、
図5に示す一対の隆起部16は離間していてもよい。一方、
図9(b)に示すように、液体が給水源から圧送される場合、導水部11から勢いよく液体が進入するため、一対の隆起部16を互いに当接させることで、シャワー板13の中央領域に向かう液体を抑制できる。
【0047】
[第2の実施形態]
図11は、第2の実施形態にかかるノズル10’の
図5と同様な断面図である。ノズル10’は、導水部11と、筐体部12と、シャワー板13と、一対の分流板17とを有する。ノズル10’のシャワー板13は、第1の実施形態と同様であり、重複する説明を省略する。
【0048】
本実施形態においても、中空円筒状の導水部11の内周により、端部流路14aが形成される。また、導水部11が接続された筐体部12の内壁により、端部流路14aに連通する拡散流路14bが形成される。
図11で見て、拡散流路14bにおける外縁が、導水部11の軸線Lに対称な放物線を描いている。このような筐体部12の形状をドーム形と称する。
【0049】
本実施形態のノズル10’は、円筒部と隆起部の代わりに分流板17を形成している。メイン分流部を構成する一対の分流板17は、それぞれ導水部11のx方向に同一面に沿って延在し、筐体部12に連結された細長い薄板である。分流板17の端部流路14a側が上流側面であり、シャワー板13側が下流側面である。一対の分流板17の対向縁の間には、隙間が形成されている。分流効果を高めるために、分流板17のx方向端部には、上流側面と下流側面とをつなぐ半円筒面(または曲面)が形成されている。ここで、分流板17のx方向幅W2と、拡散流路14bのx方向最大幅W1との比(W2/W1)は、4/5~1/10の範囲にあると好ましく、さらに1/2~1/4の範囲にあると好ましく、1/3であるとより好ましい。
【0050】
本実施形態においても、導水部11から侵入した液体の一部は、一対の分流板17によって弾かれた後にドーム形の筐体部12の内側で弧を描くように分流され、その残りは、一対の分流板17の対向縁間の隙間を通過してシャワー板13の中央領域に向かう。弾かれた液体の一部はx方向両側に向かって流れて、分流板17のx方向端部と拡散流路14bとの比較的大きな隙間を通ってシャワー板13の端部領域に到達し、弾かれた液体の残りが分流板17の背面側に回り込んでシャワー板13の中央領域と端部領域の間の中間領域に向かう。
以上の作用によって、シャワー板13の全面にわたって設けた各貫通孔13aから、均一な液体の吐出を行える。なお、一対の分流板17の対向縁の間に、隙間を設けなくてもよい。その場合、単一の分流板を設けることができる。また、第1の実施形態のように、メイン分流部としての分流板17の他に、サブ分流部としての円筒部を導水部11に配設してもよい。
【0051】
(実験結果)
本発明者は、実際にノズルの実施例と比較例とを製作し、それらを用いて散布試験を行った。その結果について説明する。まず、比較例として、円筒部と隆起部を配設していないノズルを製作した。また、実施例1として、隆起部のみを形成したノズルを製作した。さらに、実施例2として、第1の実施形態と同様に円筒部と隆起部を配設したノズルを製作した。加えて、実施例3として、第2の実施形態と同様に分流板を配設したノズルを製作した。ただし、実施例3の筐体と分流板は、透明な樹脂材で形成している。
【0052】
これらのノズルを、液体(水)を貯留したジョウロの注水管に取り付けて、重力の作用により液体をノズルから散布した。その散布状態を
図12~15に示す。
【0053】
比較例のノズルでは、
図12に示すように、貫通孔から吐出された液体の一部がすぐに合流し、均一な散布が得られなかった。これに対し、実施例1のノズルによれば、
図13に示すように、比較例のノズルに比べて均一な液体の散布が可能になり、隆起部の分流効果が有効であることが確認された。さらに、実施例2のノズルによれば、
図14に示すように、それぞれ液体が貫通孔からシャワー板の面垂直方向に吐出され、さらに均一な液体の散布が可能になり、隆起部に加えて円筒部の分流効果が有効であることが確認された。加えて、実施例3のノズルでも、
図15に示すように均一な液体の散布が可能になり、分流板の分流効果が有効であることが確認された。
【0054】
このため、本発明のノズルを用いることにより、育苗トレイや育苗床への農薬散布、液肥散布、かん水について、誰でも簡単に手早く均質な作業を行うことができる。それにより、農作業の格段の効率化を図り、農薬や液肥の無駄をなくして規定通りの処理を行うことができる。
【0055】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変を施すことができる。例えば、樹脂成形に限られず、金属素材をプレス成形することによってノズルを形成することもできる。
【符号の説明】
【0056】
10,10’ ノズル
11 導水部
12 筐体部
13 シャワー板
14 導水路
15 円筒部(サブ分流部)
16 隆起部(メイン分流部)
17 分流板(メイン分流部)