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  • 特許-炭化物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】炭化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 53/07 20060101AFI20240826BHJP
   C08J 11/04 20060101ALI20240826BHJP
   C10L 5/46 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C10B53/07
C08J11/04
C10L5/46
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020200187
(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公開番号】P2022022057
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020124846
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(72)【発明者】
【氏名】冨部 圭一郎
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-034950(JP,A)
【文献】特開2002-301458(JP,A)
【文献】特開2002-274824(JP,A)
【文献】特開2004-148176(JP,A)
【文献】特開2003-010824(JP,A)
【文献】特開2001-164278(JP,A)
【文献】国際公開第2008/107042(WO,A2)
【文献】特開2007-112669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 53/07
C10L 5/00- 7/04
C10L 9/00-11/08
C08J 11/00-11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック成分を含む廃棄物を用いた炭化物の製造方法であって、
セルロース及び炭化物の少なくとも一方からなる第1触媒を構成する第1添加物と、リン酸塩及び硫酸塩のうち少なくとも一種からなる第2触媒を構成する第2添加物と、を添加した前記廃棄物の炭化処理を行い、
前記第1添加物及び前記第2添加物の少なくとも一部として前記炭化処理で得られた生成物を用いる
炭化物の製造方法。
【請求項2】
前記プラスチック成分と前記第1触媒との合計量に対する前記プラスチック成分の質量比率が65%以下となるように前記第1添加物を添加する
請求項に記載の炭化物の製造方法。
【請求項3】
前記第2触媒の量が、質量比率で、前記第1触媒における灰分の量の2倍以上である
請求項1又は2に記載の炭化物の製造方法。
【請求項4】
前記第2触媒が、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、及び硫酸アンモニウムの少なくとも一種からなる
請求項1からのいずれか1項に記載の炭化物の製造方法。
【請求項5】
プラスチック成分を含む廃棄物の炭化処理のための触媒であって、
セルロース及び炭化物の少なくとも一方からなる第1触媒と、リン酸塩及び硫酸塩のうち少なくとも一種からなる第2触媒と、を含む
触媒。
【請求項6】
前記第2触媒の量が、質量比率で、前記第1触媒の灰分の量の2倍以上である
請求項に記載の触媒。
【請求項7】
前記第2触媒が、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、及び硫酸アンモニウムの少なくとも一種からなる
請求項又はに記載の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物のリサイクル技術に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の焼却処理では、温室効果をもたらす多量の二酸化炭素が排出される。これに対し、特許文献1,2には、二酸化炭素の排出を抑制可能な廃棄物の処理技術が開示されている。これらの技術では、炭化処理による炭素固定によって、廃棄物に含まれる炭素が二酸化炭素として排出されることを抑制可能である。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の廃棄物の炭化処理では、処理温度が400℃以上の高温であるため、燃料の消費に伴う二酸化炭素の排出量が多くなる。これに対し、特許文献2に記載の廃棄物の炭化処理では、炭化を促進させる触媒として濃硫酸や発煙硝酸を用いることで、処理温度を低減することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-272203号公報
【文献】特開2011-143396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラスチックは、難炭化性物質として知られている。難炭化性のプラスチック成分を含む廃棄物の炭化処理では、プラスチック成分に由来する炭素が固定されずに二酸化炭素として排出されやすくなる。このため、プラスチック成分を含む廃棄物の炭化処理において二酸化炭素の排出量を抑制可能な技術が望まれる。
【0006】
本発明の課題は、プラスチック成分を含む廃棄物の炭化処理における炭素収率を向上させるための技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る炭化物の製造方法では、プラスチック成分を含む廃棄物を用いて炭化物を製造する。炭化物の製造方法では、セルロース及び炭化物の少なくとも一方からなる第1触媒と、リン酸塩及び硫酸塩のうち少なくとも一種からなる第2触媒と、の存在下で上記廃棄物の炭化処理を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、プラスチック成分を含む廃棄物の炭化処理における炭素収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る炭化物の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[炭化処理の構成]
本発明の一実施形態では、廃棄物を炭化処理することで炭化物を製造することができる。これにより、廃棄物を炭化物としてリサイクルすることができる。本実施形態に係る炭化処理によって廃棄物からリサイクルされた炭化物は、例えば、土壌改質剤、水処理剤、燃料などとして有効利用することができる。
本実施形態に係る炭化処理は、廃棄物中の炭素のうち、二酸化炭素として放出されずに炭化物として固定回収可能な炭素の質量比率である炭素収率が向上するように構成されている。特に、本実施形態に係る炭化処理は、炭素が二酸化炭素として放出されやすい難炭化性のプラスチック成分を含む廃棄物に適している。
つまり、本実施形態に係る炭化処理では、廃棄物に含まれる難炭化性のプラスチック成分を構成する炭素における二酸化炭素としての放出量を抑えつつ、その分、炭化物としての固定量を増大させることができる。これにより、本実施形態に係る炭化処理では、少ない環境負荷で効率的に廃棄物をリサイクル可能である。
【0011】
本実施形態に係る炭化処理を適用可能な廃棄物に含まれるプラスチック成分としては、特定の種類に限定されず、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。また、本実施形態に係る炭化処理では、廃棄物に二種以上のプラスチック成分が含まれていてもよい。
本実施形態に係る炭化処理は、例えば家庭や事業場などから出されたプラスチック成分を含む廃棄物に広く適用可能である。プラスチック成分を含む廃棄物としては、例えば、使用済みの包装容器(食品容器やボトル等)や、使用済みの吸収性物品(紙おむつや生理用ナプキン等)や、海洋ゴミなどが挙げられる。
【0012】
本実施形態に係る炭化処理は、公知の手法を用いて実施可能である。例えば、本実施形態に係る炭化処理には、ロータリーキルン炉、流動床炉、固定床炉、電気炉等の加熱炉を備えた公知の炭化処理機を用いることができる。また、本実施形態に係る炭化処理では、採用する手法に応じて処理条件を適宜決定可能である。
【0013】
本実施形態に係る炭化処理では、炭素収率を増大させるための触媒として、第1触媒と第2触媒とが組み合わせて用いられる。第1触媒は、固定前の炭素を含有する炭素含有物を捕捉することで、炭素が二酸化炭素として放出されることを妨げる機能を持つ。第2触媒は、炭素含有物に含まれる炭素の固定を促進する機能を持つ。
つまり、本実施形態に係る炭化処理では、プラスチック成分に由来する炭素含有物が、第1触媒に捕捉され、第1触媒から離脱する前に第2触媒の作用によって迅速に炭素固定される。このように、本実施形態に係る炭化処理では、第1触媒及び第2触媒の機能の相乗効果によって炭素収率を向上させることができる。
【0014】
より詳細に、第1触媒は、セルロース及び炭化物の少なくとも一方から構成される。セルロースは、炭化処理の際に、二酸化炭素の発生が活発化する前に炭化されて炭化物となる。したがって、第1触媒は、炭化処理の前の段階でセルロース及び炭化物のいずれであって、炭素を捕捉する機能を炭化物として発現させる。
炭化処理の過程において、多孔質状の炭化物は、外部環境に露出する大面積の表面に微細な炭素含有物を吸着することで効率的に捕捉することができる。炭化処理の過程で炭化物に捕捉された炭素含有物は、酸素との結びつきが妨げられ、二酸化炭素として放出されることなく固体のまま炭化物の表面上に留まる。
特に、プラスチック成分に由来する炭素含有物は、酸素と結びつきやすく、つまり二酸化炭素として放出されやすい。この点、本実施形態に係る炭化処理では、プラスチック成分に由来する炭素含有物を、炭化物に迅速に捕捉することで、二酸化炭素として放出することなく固体の状態で保持することができる。
【0015】
第2触媒は、リン酸塩及び硫酸塩のうち少なくとも一種から構成され、炭素含有物から炭素以外の水素や水などが脱離する反応を促進させる作用を有する。このため、本実施形態に係る炭化処理の過程では、第2触媒の作用によって炭素含有物からの水素や水などの脱離が進行し、これに伴って炭素含有物が単体の炭素に近づく。
したがって、本実施形態に係る炭化処理では、炭化物の表面に固体の状態で保持された炭素含有物が第2触媒の作用によって単体の炭素に近づき、やがて当該炭化物の表面に一体として固定される。このように、本実施形態に係る炭化処理では、第1触媒及び第2触媒が協働することで、プラスチック成分に由来する炭素の固定が促進される。
【0016】
第2触媒は、炭素固定をより効果的に促進するために、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、及び硫酸アンモニウムの少なくとも一種で構成することが好ましい。リン酸アンモニウムとしては、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、及びリン酸3アンモニウムが挙げられる。リン酸カリウムとしては、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム及びリン酸3カリウムが挙げられる。リン酸ナトリウムとしては、リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム及びリン酸3ナトリウムが挙げられる。硫酸アンモニウムとしては、硫酸2アンモニウム、及び硫酸水素アンモニウムが挙げられる。
また、炭化物としての固定量を増大させる観点から、第2触媒としてはリン酸アンモニウムを用いることが好ましい。
【0017】
本実施形態に係る炭化処理では、典型的には、プラスチック成分を含む廃棄物に対して、第1触媒を構成する第1添加物と、第2触媒を構成する第2添加物と、を添加する。つまり、第1添加物はセルロース及び炭化物の少なくとも一方から構成され、第2添加物はリン酸塩及び硫酸塩のうち少なくとも一種から構成される。
第1添加物のセルロースとしては、例えば、木材などの植物由来の原料を用いることができる。第1添加物の炭化物としては、例えば、セルロースや他の物質を炭化処理して得られる生成物を用いることができる。第2添加物のリン酸塩及び硫酸塩としては、例えば、粉末状の市販品を用いることができる。
【0018】
なお、セルロースや炭化物が予め含まれる廃棄物の炭化処理では、廃棄物に含まれるセルロース及び炭化物自体も第1触媒として機能する。一例として、プラスチック成分に加え、セルロース成分を含む廃棄物としては、吸収体がパルプに吸水性ポリマーを担持させた構成を有する吸収性物品などが挙げられる。
したがって、本実施形態に係る炭化処理では、廃棄物に含まれるセルロースや炭化物の量を加味することで、第1添加物の使用量を少なくすることができる。なお、本実施形態に係る炭化処理では、廃棄物に予め含まれるセルロースや炭化物の量が充分に多い場合には、第1添加物を添加しなくても構わない。
【0019】
本実施形態に係る炭化処理では、プラスチック成分と第1触媒との合計量に対するプラスチック成分の質量比率を第1添加物の添加量を調整することでコントロールすることができる。
本実施形態に係る炭化処理では、廃棄物に含まれるプラスチック成分が多いほど、第1触媒の量を多くすることが好ましい。この観点から、プラスチック成分の質量比率は、65%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることが更に好ましい。また、プラスチックの量に対して第1触媒の量が過度に多いと、一度に処理できる廃棄物の量が制限される。この観点から、プラスチック成分の質量比率は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。したがって、プラスチック成分の質量比率は、20%以上40%以下であることが特に好ましい。
また、本実施形態に係る炭化処理において第2触媒による上記の作用をより有効に得るためには、第2触媒の量が第1触媒の灰分の量に対して充分に多いことが好ましい。この観点から、第2触媒の量は、第1触媒の灰分の量に対して、質量比率で、2倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましい。また、省資源化の観点から、第2触媒の量が過度に多いことは好ましくない。この観点から、第2触媒の量は、第1触媒の灰分の量に対して、質量比率で、20倍以下であることが好ましく、10倍以下であることがより好ましい。
【0020】
本実施形態に係る炭化処理で得られる生成物は、第2触媒が残存し、かつ第1触媒として機能する炭化物である。このため、本実施形態に係る炭化処理で得られる生成物は、第1添加物及び第2添加物として利用可能である。つまり、本実施形態では、廃棄物のリサイクルで得られた生成物を、更なる廃棄物のリサイクルに利用可能である。
なお、本実施形態では、第1添加物及び第2添加物として、炭化処理で得られる炭化物と、新たに用意する添加物と、を併用してもよい。特に、本実施形態に係る炭化処理で得られる炭化物では、必然的に第1触媒が第2触媒に対して多くなるため、新たに用意する第2添加物によって第1触媒と第2触媒との比率をリバランスすることができる。
【0021】
[炭化物の製造方法の具体例]
以下、本実施形態に係る炭化処理を用いた炭化物の製造方法の具体例について説明する。なお、本実施形態に係る炭化物の製造方法は、以下に示す構成に限定されず、必要に応じて構成に変更を加えることが可能である。図1に示すフローチャートは、本実施形態に係る炭化物の製造方法の一例を示している。
まず、ステップS01では、炭化処理の対象となる廃棄物の成分分析を行う。ステップS01では、例えば、廃棄物の一部の成分分析によって、廃棄物全体を構成する各成分の量を把握することができる。具体的に、ステップS01により、廃棄物に含まれるプラスチック成分及び第1添加物などの量を把握することができる。
次に、ステップS02では、ステップS01で得られたプラスチック成分及び第1添加物の量に基づいて、廃棄物に第1触媒が不足しているか否かを判定する。例えば、ステップS02では、プラスチック成分と第1触媒との合計量に対するプラスチック成分の質量比率が50%を超える場合に、第1触媒が不足していると判断することができる。
そして、ステップS02で第1触媒が不足していると判定される場合にはステップS03に進み、ステップS02で第1触媒が不足していないと判定される場合にはステップS03が省略される。ステップS03では、廃棄物に対して第1触媒の不足分に相当する量の第1添加物を添加する。
続いて、ステップS04では、廃棄物に対して第2触媒を構成する第2添加物を添加する。なお、ステップS04はステップS03と同時に行ってもよく、つまり第2触媒を第1触媒と同時に添加してもよい。また、ステップS04はステップS03よりも前に行ってもよく、つまり第2触媒を第1触媒よりも前に添加してもよい。
そして、ステップS05において適切な量の第1触媒及び第2触媒の存在下で廃棄物の炭化処理を行う。ステップS05では、第1触媒及び第2触媒の作用によって特にプラスチック成分の炭素収率が向上することで、二酸化炭素の放出を抑えながら、より多くの炭化物を製造することができる。
なお、廃棄物の成分が予めわかっている場合、又は予測可能な場合には、ステップS01を省略してもよい。また、第1触媒の使用量を抑える必要が無い場合には、ステップS01及びステップS02を省略し、廃棄物の成分に関わらずに充分な量の第1添加物及び第2添加物を添加してもよい。
【0022】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下のような構成を採ることもできる。
【0023】
(1)プラスチック成分を含む廃棄物を用いた炭化物の製造方法であって、
セルロース及び炭化物の少なくとも一方からなる第1触媒と、リン酸塩及び硫酸塩のうち少なくとも一種からなる第2触媒と、の存在下で前記廃棄物の炭化処理を行う
炭化物の製造方法。
(2)前記廃棄物に、前記第1触媒を構成する第1添加物と、前記第2触媒を構成する第2添加物と、を添加する
上記(1)に記載の炭化物の製造方法。
(3)前記プラスチック成分と前記第1触媒との合計量に対する前記プラスチック成分の質量比率が65%以下となるように前記第1添加物を添加する
上記(2)に記載の炭化物の製造方法。
(4)前記第1添加物及び前記第2添加物の少なくとも一部として前記炭化処理で得られた生成物を用いる
上記(2)又は(3)に記載の炭化物の製造方法。
(5)前記第2触媒の量が、質量比率で、前記第1触媒における灰分の量の2倍以上である
上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(6)前記第2触媒が、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、及び硫酸アンモニウムの少なくとも一種からなる
上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(7)プラスチック成分を含む廃棄物の炭化処理のための触媒であって、
セルロース及び炭化物の少なくとも一方からなる第1触媒と、リン酸塩及び硫酸塩のうち少なくとも一種からなる第2触媒と、を含む
触媒。
(8)前記第2触媒の量が、質量比率で、前記第1触媒の灰分の量の2倍以上である
上記(7)に記載の触媒。
(9)前記第2触媒が、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、及び硫酸アンモニウムの少なくとも一種からなる
上記(7)又は(8)に記載の触媒。
(10)前記廃棄物は、前記プラスチック成分として、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリル酸、及びポリアクリル酸ナトリウムの少なくとも1つを含む
上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(11)前記第1触媒が炭化物である
上記(1)から(6)、及び(10)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(12)前記第2触媒がリン酸塩である
上記(1)から(6)、(10)、及び(11)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(13)前記第2触媒がリン酸アンモニウムである
上記(12)に記載の炭化物の製造方法。
(14)前記廃棄物に予め含まれる前記第1触媒の量を加味して、前記第1添加物の量を決定する
上記(2)から(4)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(15)前記プラスチック成分と前記第1触媒との合計量に対する前記プラスチック成分の質量比率が50%以下となるように前記第1添加物を添加する
上記(3)に記載の炭化物の製造方法。
(16)前記プラスチック成分と前記第1触媒との合計量に対する前記プラスチック成分の質量比率が20%以上40%以下となるように前記第1添加物を添加する
上記(15)に記載の炭化物の製造方法。
(17)前記第1添加物及び前記第2添加物として、前記炭化処理で得られた生成物と、新たに用意する添加物と、を併用する
上記(4)に記載の炭化物の製造方法。
(18)前記廃棄物は、前記プラスチック成分として、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリル酸、及びポリアクリル酸ナトリウムの少なくとも1つを含む
上記(7)から(9)のいずれか1つに記載の触媒。
(19)前記第1触媒が炭化物である
上記(7)から(9)、及び(18)のいずれか1つに記載の触媒。
(20)前記第2触媒がリン酸塩である
上記(7)から(9)、(18)、及び(19)のいずれか1つに記載の触媒。
(21)前記第2触媒がリン酸アンモニウムである
上記(20)に記載の触媒。
【0024】
[実施例及び比較例]
<全体構成>
(概略説明)
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。実施例及び比較例では、実際の廃棄物を被炭化物とするのではなく、廃棄物の成分として含まれ得るプラスチックを被炭化物として炭化処理を行うことにより、本発明における触媒による炭素収率を向上させる効果を確認した。
実施例及び比較例では、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)により、被炭化物を十分に炭化させ、その後炭化物を完全に燃焼させた。つまり、TG-DTAによって、昇温の過程において、炭化処理が進む炭化処理行程と、炭化処理で生成された炭化物を燃焼させる燃焼行程と、を行った。
これにより、被炭化物に対する炭化処理で生成された炭化物の質量比率である炭素収率が得られる。そして、実施例では被炭化物に触媒を混合する構成とし、比較例では被炭化物に触媒を混合しない構成とすることで、実施例及び比較例で得られる炭素収率の比較によって、触媒による効果を確認することができる。
【0025】
(被炭化物)
被炭化物としては、ポリエチレン(PE)(プライムポリマー社製 Evolue SP1540)、ポリプロピレン(PP)(プライムポリマー社製 プライムポリプロ J108M)、ポリエチレンテレフタレート(PET)(三井化学社製 三井ペット J005)、ポリアクリル酸(PAAH)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAHNa)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。
【0026】
(触媒の作製)
まず、実施例において被炭化物と混合する触媒として、第1触媒及び第2触媒を含む触媒1~12を作製した。触媒1~12は、表1に示す質量比率(%)で各成分を混合することで得られる。また、表1には、各触媒1~12の組成として、第1触媒中の灰分の比率(%)と、第1触媒の灰分の量に対する第2触媒の量の質量比率(質量倍率)と、が示されている。更に、表1には、各触媒1~12について算出された炭素分の質量比率である炭素分比率(%)が示されている。
表1中の各成分としては、セルロース(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸3カリウム(KPO)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸3ナトリウム(NaPO)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸2水素アンモニウム(NHPO)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸アンモニウム((NHSO)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸水素アンモニウム((NHSO)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、を用いた。
【0027】
【表1】
【0028】
また、触媒1~9に炭化処理Aを加えてセルロースを炭化させることによって、第1触媒として炭化物を含む触媒1A~9Aを作製した。炭化処理Aでは、窒素雰囲気下で、30℃から250℃まで10℃/分で昇温し、250℃で3時間維持し、250℃から30℃まで10℃/分で降温した。表2に触媒1A~9Aの炭素分比率を示す。
更に、触媒1~9に炭化処理Bを加えてセルロースを炭化させることによって、第1触媒として炭化物を含む触媒1B~9Bを作製した。炭化処理Bでは、大気雰囲気下で、30℃から250℃まで10℃/分で昇温し、250℃で3時間維持し、250℃から30℃まで10℃/分で降温した。表3に触媒1B~9Bの炭素分比率を示す。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
(TG-DTA)
TG-DTAでは、以下のステップ1~7を行った。ステップ1~7のうち、ステップ1~4が被処理物の炭化が進む炭化処理行程に相当し、ステップ5~7が炭化物の燃焼が進む燃焼工程に相当する。つまり、ステップ7の後には、被炭化物が完全に燃焼して、炭素分が二酸化炭素としてすべて放出されることで、灰分のみが残る。
ステップ1:30℃から600℃まで10℃/分で昇温 窒素雰囲気
ステップ2:600℃で10分間維持 窒素雰囲気
ステップ3:600℃から550℃まで10℃/分で降温 窒素雰囲気
ステップ4:550℃で10分間維持 窒素雰囲気
ステップ5:550℃から600℃まで10℃/分で昇温 大気雰囲気
ステップ6:600℃で30分間維持 大気雰囲気
ステップ7:600℃から30℃まで10℃/分で降温 大気雰囲気
TG-DTAでは、各温度に対する質量減少率(%)と、発熱・吸熱量(μV)と、を測定した。ここで、質量減少率とは、ステップ1の前にTG-DTAに投入した被炭化物及び触媒を含む被処理物の全質量に対して質量が減少した割合である。
【0032】
(炭素収率の算出)
被炭化物の炭素収率は、以下の式(1)によって算出した。
被炭化物の炭素収率(%)=100×((ステップ4の直後の被処理物の質量(mg))-(ステップ7の直後の被処理物の質量(mg))-(触媒の炭素分の質量(mg)))/(ステップ1の前の被炭化物の質量(mg)) …式(1)
なお、上記式の分母のうち、「ステップ1の前の被炭化物の質量(mg)」は、TG-DTAに投入した被処理物の質量(mg)に被炭化物の占める割合(%)を乗じた値として算出した。上記式の分子のうち、「ステップ4の直後の被処理物の質量(mg)」は、ステップ4の終了時点における被処理物の質量であり、TG-DTAに投入した被処理物の質量(mg)にステップ4の直後の質量減少率(%)を乗じた値として算出した。「ステップ7の直後の被処理物の質量(mg)」は、ステップ7の終了時点における被処理物の質量であり、TG-DTAに投入した被処理物の質量(mg)にステップ7の直後の質量減少量(%)を乗じた値として算出した。「触媒の炭素分の質量(mg)」は、TG-DTAに投入した被処理物の質量(mg)のうち、触媒の炭素分が占める質量であり、TG-DTAに投入した被処理物の質量(mg)に、触媒の占める割合(%)と、触媒の炭素分比率(%)と、を乗じた値として算出した。
「ステップ4の直後の被処理物の質量(mg)」は、被処理物の炭素分及び灰分を含む全質量に相当する。「ステップ7の直後の被処理物の質量(mg)」は、被処理物の灰分の質量に相当する。「触媒の炭素分の質量(mg)」は、触媒の炭素分の質量に相当する。つまり、上記式の分子は、被処理物の炭素及び灰分を含む全質量から、被処理物の灰分の質量と触媒の炭素分の質量を引いた値となり、ステップ4の終了時点で生成されている炭化物の質量を示している。このように、上記式により、被炭化物の質量に対する、各実施例及び各比較例で生成された炭化物の割合が算出される。
また、各実施例における触媒による炭素収率の増加量である炭素増分は、各実施例の炭素収率と、これと同じ被炭化物を用いた比較例の炭素収率とを用いて、以下の式(2)によって算出することができる。
炭素増分(%)=(実施例の炭素収率(%))-(比較例の炭素収率(%)) …式(2)
【0033】
<各実施例及び比較例の説明>
(実験内容)
以下、実施例1~49及び比較例1~5の具体的な内容について説明する。
実施例1における被炭化物の種類、触媒の種類、及び被炭化物の比率を表4に示す。つまり、実施例1では、被炭化物としてポリエチレンを用い、触媒として触媒1を用い、被炭化物と触媒の合計質量に対する被炭化物の比率を24%とした。
まず、触媒1を作製するために、第1触媒としてセルロースを準備し、第2触媒としてリン酸2水素アンモニウムを準備した。第1触媒と第2触媒は80:20で配合した。次に、第1触媒、第2触媒、及び水を計量し、ガラスビーカー(HARIO製)に加え、ガラスビーカーを揺らしてこれらを攪拌した。ガラスビーカーを電気乾燥機(株式会社いすゞ製作所製)に配置し、50℃で1日乾燥させた。乾燥後の質量を測定し、ガラスビーカー内の水分が完全に蒸発しているか確認した。
第1触媒として用いる上記で得られた乾燥物と被炭化物として用いるポリエチレンを計量し、5mm径オープンパン(アルミニウム)に入れて、示差熱熱質量同時測定装置(TG-DTA)(株式会社日立ハイテクサイエンス製、商品名:STA7200RV)を用いて加熱し、各温度における発熱・吸熱量(μV)と質量減少率(%)とを経時的に測定した。TG-DTAの結果から、被炭化物の炭素収率(%)と炭素増分(%)を算出した。これらの結果を、表4に示す。
【0034】
実施例2~49における被炭化物の種類、触媒の種類、及び被炭化物の比率を表4~10に示す。実施例2~49では、表4~10に示す構成以外について実施例1と共通である。実施例2~49についてTG-DTAの結果から算出した被炭化物の炭素収率(%)と炭素増分(%)を表4~10に示す。
比較例1~5における被炭化物の種類を表9に示す。なお、比較例1~5ではいずれも、触媒を用いないため、被炭化物の比率が100%である。比較例1~5では、表9に示す構成以外について実施例1と共通である。比較例1~5についてTG-DTAの結果から算出した被炭化物の炭素収率(%)と炭素増分(%)を表9に示す。
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
【表6】
【0038】
【表7】
【0039】
【表8】
【0040】
【表9】
【0041】
【表10】
【0042】
(実験結果)
以下、表4~10を参照しながら、実施例1~49及び比較例1~5の実験結果について説明する。
被炭化物としてポリエチレンを用いた比較例1では、炭素収率が0%であった。一方、被炭化物としてポリエチレンを用いた実施例1~3,13~49では、炭素収率が0.5%以上31.8%以下であり、炭素収率の平均が9.6%であった。また、実施例1~3,13~49では、炭素増分が0.5%以上31.8%以下であり、炭素増分の平均が9.6%であった。この結果から、被炭化物としてのポリエチレンに本発明の触媒を用いることで炭素収率を向上できることがわかった。
特に、被炭化物のポリエチレンに対し、第1触媒としてセルロースを用いた実施例1~3では、被炭化物の炭素収率が2.1%以上31.8%以下となり、炭素収率を一層向上できることがわかった。
被炭化物としてポリプロピレンを用いた比較例2では、炭素収率が0%であった。一方、被炭化物としてポリプロピレンを用いた実施例4~6では、炭素収率が3.4%以上16.0%以下であり、炭素収率の平均が8.9%であった。また、実施例4~6では、炭素増分が3.4%以上16.0%以下であり、炭素増分の平均が8.9%であった。この結果から、被炭化物としてのポリプロピレンに本発明の触媒を用いることで炭素収率を向上できることがわかった。
被炭化物としてポリエチレンテレフタレートを用いた比較例3では、炭素収率が12%であった。一方、被炭化物としてポリエチレンテレフタレートを用いた実施例7、8では、炭素収率が15.1%以上16.0%以下であり、炭素収率の平均が15.6%であった。また、実施例7、8では、炭素増分が3.1%以上4.0%以下であり、炭素増分の平均が3.6%であった。この結果から、被炭化物としてのポリエチレンテレフタレートに本発明の触媒を用いることで炭素収率を向上できることがわかった。
被炭化物としてポリアクリル酸を用いた比較例4では、炭素収率が10%であった。一方、被炭化物としてポリアクリル酸を用いた実施例9、10では、炭素収率が24.2%以上36.0%以下であり、炭素収率の平均が30.1%であった。また、実施例9、10では、炭素増分が14.2%以上26.0%以下であり、炭素増分の平均が20.1%であった。この結果から、被炭化物としてのポリアクリル酸に本発明の触媒を用いることで炭素収率を向上できることがわかった。
被炭化物としてポリアクリル酸ナトリウムを用いた比較例5では、炭素収率が6%であった。一方、被炭化物としてポリアクリル酸ナトリウムを用いた実施例11、12では、炭素収率が13.5%以上16.0%以下であり、炭素収率の平均が14.8%であった。また、実施例11、12では、炭素増分が7.5%以上10.0%以下であり、炭素増分の平均が8.8%であった。この結果から、被炭化物としてのポリアクリル酸ナトリウムに本発明の触媒を用いることで炭素収率を向上できることがわかった。
図1