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特許7543116マスクブランク、位相シフトマスク及び半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】マスクブランク、位相シフトマスク及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20240826BHJP
   G03F 1/58 20120101ALI20240826BHJP
   G03F 1/80 20120101ALI20240826BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F1/58
G03F1/80
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020204126
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091338
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】野澤 順
(72)【発明者】
【氏名】前田 仁
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-101741(JP,A)
【文献】特開2019-207359(JP,A)
【文献】特表2015-507227(JP,A)
【文献】特開平6-342205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から、第1層、第2層および第3層がこの順に積層した構造を含み、
前記第1層および前記第3層は、ハフニウムと酸素を含有し、
前記第2層は、ケイ素と酸素を含有し、
前記第1層、前記第2層および前記第3層の厚さをそれぞれD、DおよびDとしたとき、(式1-A)から(式1-D)の関係を全て満たす、または(式2-A)から(式2-D)の関係を全て満たすことを特徴とするマスクブランク。
(式1-A) D≧4.88×10-4×D -2.91×10-2×D +0.647×D -6.51×D+26.8
(式1-B) D≦-4.80×10-4×D +2.86×10-2×D -0.630×D +5.97×D-10.0
(式1-C) D≧4.41×10-4×D -2.66×10-2×D +0.598×D -6.13×D+59.3
(式1-D) D≦-4.72×10-4×D +2.81×10-2×D -0.625×D +5.97×D+23.0
(式2-A) D≧5.14×10-4×D -2.96×10-2×D +0.634×D -6.17×D+57.8
(式2-B) D≦-4.23×10-4×D +2.57×10-2×D -0.580×D +5.71×D+25.8
(式2-C) D≧5.76×10-4×D -3.23×10-2×D +0.673×D -6.33×D+23.7
(式2-D) D≦-4.76×10-4×D +2.74×10-2×D -0.579×D +5.13×D-6.29
【請求項2】
前記第2層の厚さDは、20nm以下であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるハフニウムと酸素の合計含有量は90原子%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記第2層におけるケイ素と酸素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記第1層、前記第2層および前記第3層のそれぞれにおける酸素の含有量は、50原子%以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項6】
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する屈折率nは、2.5以上3.1以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項7】
前記第2層におけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する屈折率nは、1.5以上2.0以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項8】
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する消衰係数kは、0.05以上0.4以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項9】
前記第2層におけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する消衰係数kは、0.05未満であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項10】
前記第3層の厚さは、5nm以上であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項11】
前記第3層の上に、第4層をさらに備え、前記第4層におけるケイ素と酸素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項12】
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を35%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせる機能とを有することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項13】
透光性基板上に転写パターンが形成された位相シフト膜を備える位相シフトマスクであって、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から、第1層、第2層および第3層がこの順に積層した構造を含み、
前記第1層および前記第3層は、ハフニウムと酸素を含有し、
前記第2層は、ケイ素と酸素を含有し、
前記第1層、前記第2層および前記第3層の厚さをそれぞれD、DおよびDとしたとき、(式1-A)から(式1-D)の関係を全て満たす、または(式2-A)から(式2-D)の関係を全て満たすことを特徴とする位相シフトマスク。
(式1-A) D≧4.88×10-4×D -2.91×10-2×D +0.647×D -6.51×D+26.8
(式1-B) D≦-4.80×10-4×D +2.86×10-2×D -0.630×D +5.97×D-10.0
(式1-C) D≧4.41×10-4×D -2.66×10-2×D +0.598×D -6.13×D+59.3
(式1-D) D≦-4.72×10-4×D +2.81×10-2×D -0.625×D +5.97×D+23.0
(式2-A) D≧5.14×10-4×D -2.96×10-2×D +0.634×D -6.17×D+57.8
(式2-B) D≦-4.23×10-4×D +2.57×10-2×D -0.580×D +5.71×D+25.8
(式2-C) D≧5.76×10-4×D -3.23×10-2×D +0.673×D -6.33×D+23.7
(式2-D) D≦-4.76×10-4×D +2.74×10-2×D -0.579×D +5.13×D-6.29
【請求項14】
前記第2層の厚さDは、20nm以下であることを特徴とする請求項13記載の位相シフトマスク。
【請求項15】
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるハフニウムと酸素の合計含有量は90原子%以上であることを特徴とする請求項13または14に記載の位相シフトマスク。
【請求項16】
前記第2層におけるケイ素と酸素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする請求項13から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項17】
前記第1層、前記第2層および前記第3層のそれぞれにおける酸素の含有量は、50原子%以上であることを特徴とする請求項13から16のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項18】
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する屈折率nは、2.5以上3.1以下であることを特徴とする請求項13から17のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項19】
前記第2層におけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する屈折率nは、1.5以上2.0以下であることを特徴とする請求項13から18のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項20】
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する消衰係数kは、0.05以上0.4以下であることを特徴とする請求項13から19のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項21】
前記第2層におけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する消衰係数kは、0.05未満であることを特徴とする請求項13から20のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項22】
前記第3層の厚さは、5nm以上であることを特徴とする請求項13から21のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項23】
前記第3層の上に、第4層をさらに備え、前記第4層におけるケイ素と酸素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする請求項13から22のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項24】
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を35%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせる機能とを有することを特徴とする請求項13から23のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項25】
前記位相シフト膜上に、遮光パターンが形成された遮光膜を備えることを特徴とする請求項13から24のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項26】
請求項13から25のいずれかに記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相シフトマスク用のマスクブランク、位相シフトマスク及び半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスクが使用される。半導体デバイスのパターンを微細化するに当たっては、転写用マスクに形成されるマスクパターンの微細化に加え、フォトリソグラフィーで使用される露光光源の波長の短波長化が必要となる。
【0003】
このようなフォトマスクとして、特許文献1には、レーザ光を透過可能な透光性基板1と、透光性基板1の表面に積層されレーザ光に対して高反射率を有する金属膜17と、この金属膜17上にそれぞれ屈折率の異なる第1および第2の誘電体部材2、3を交互に積層して形成される誘電体多層薄膜4と、この誘電体多層薄膜4および金属膜17を貫通して形成され所定のパターンに配置された複数の開口18とを備える誘電体マスクが開示されている。また、特許文献2には、紫外光に対して透明なガラス基板3の紫外光入射側とは反対側の面上に、光路長が使用紫外光の1/4波長の膜厚を持つ第1の誘電体層1と、第1の誘電体層の上に同じく光路長が1/4波長でかつ第1の誘電体層の屈折率より小である第2の誘電体層2を重ねてなる二層膜の組合せを繰り返し成膜した誘電体多層膜の最上層に前記ガラス基板の屈折率より大きな屈折率を持つと共にその光路長が使用紫外線の1/4波長となる第3の誘電体層1’を有し、最上層に金属膜4を有する構造としたエキシマレーザー加工用マスクが開示されている。
【0004】
これらの特許文献1、2においては、半導体装置を製造する際の露光光源にKrFエキシマレーザー(波長248nm)が主として適用されている。しかしながら、近年、半導体装置を製造する際の露光光源にArFエキシマレーザー(波長193nm)が適用されることが増えてきている。
【0005】
転写用マスクの一種に、ハーフトーン型位相シフトマスクがある。ハーフトーン型位相シフトマスクのマスクブランクとして、透光性基板上にケイ素及び窒素を含有する材料で構成される位相シフト膜、クロム系材料で構成される遮光膜、無機系材料で構成されるエッチングマスク膜(ハードマスク膜)が積層された構造を有するマスクブランクが以前より知られている。このマスクブランクを用いてハーフトーン型位相シフトマスクを製造する場合、先ず、マスクブランクの表面に形成したレジストパターンをマスクとしてフッ素系ガスによるドライエッチングでエッチングマスク膜をパターニングし、次にエッチングマスク膜をマスクとして塩素と酸素の混合ガスによるドライエッチングで遮光膜をパターニングし、さらに遮光膜のパターンをマスクとしてフッ素系ガスによるドライエッチングで位相シフト膜をパターニングする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-325384号公報
【文献】特開平8-171197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年における、パターンの微細化、複雑化に伴い、より高解像のパターン転写を可能にするために、ArFエキシマレーザーの露光光に対する透過率をより高くした(例えば、35%以上)位相シフト膜が要求されている。この露光光に対する透過率を高めることで、位相シフト効果を高めることができる。そして、パターンの微細化等に伴い、パターン倒れの抑制等の観点から、位相シフト膜の膜厚を一定以下(例えば、60nm以下)に抑制することも要求されている。
【0008】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、ArFエキシマレーザーの露光光に対する透過率を一定以上(例えば、35%以上)に高くして位相シフト効果を高めることができるとともに、位相シフト膜の膜厚を一定以下(例えば、60nm以下)に抑制することができ、光学的な性能が良好な位相シフトマスクを製造することのできるマスクブランクを提供することを目的としている、また、本発明は、ArFエキシマレーザーの露光光に対する透過率を一定以上に高くして位相シフト効果を高めることができるとともに、位相シフト膜の膜厚を一定以下に抑制することができ、光学的な性能が良好な位相シフトマスクを提供することを目的としている。そして、本発明は、このような位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決する手段として、以下の構成を有する。
【0010】
(構成1)
透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から、第1層、第2層および第3層がこの順に積層した構造を含み、
前記第1層および前記第3層は、ハフニウムと酸素を含有し、
前記第2層は、ケイ素と酸素を含有し、
前記第1層、前記第2層および前記第3層の厚さをそれぞれD、DおよびDとしたとき、(式1-A)から(式1-D)の関係を全て満たす、または(式2-A)から(式2-D)の関係を全て満たすことを特徴とするマスクブランク。
(式1-A) D≧4.88×10-4×D -2.91×10-2×D +0.647×D -6.51×D+26.8
(式1-B) D≦-4.80×10-4×D +2.86×10-2×D -0.630×D +5.97×D-10.0
(式1-C) D≧4.41×10-4×D -2.66×10-2×D +0.598×D -6.13×D+59.3
(式1-D) D≦-4.72×10-4×D +2.81×10-2×D -0.625×D +5.97×D+23.0
(式2-A) D≧5.14×10-4×D -2.96×10-2×D +0.634×D -6.17×D+57.8
(式2-B) D≦-4.23×10-4×D +2.57×10-2×D -0.580×D +5.71×D+25.8
(式2-C) D≧5.76×10-4×D -3.23×10-2×D +0.673×D -6.33×D+23.7
(式2-D) D≦-4.76×10-4×D +2.74×10-2×D -0.579×D +5.13×D-6.29
【0011】
(構成2)
前記第2層の厚さDは、20nm以下であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
(構成3)
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるハフニウムと酸素の合計含有量は90原子%以上であることを特徴とする構成1または2に記載のマスクブランク。
【0012】
(構成4)
前記第2層におけるケイ素と酸素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成5)
前記第1層、前記第2層および前記第3層のそれぞれにおける酸素の含有量は、50原子%以上であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【0013】
(構成6)
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する屈折率nは、2.5以上3.1以下であることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成7)
前記第2層におけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する屈折率nは、1.5以上2.0以下であることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【0014】
(構成8)
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する消衰係数kは、0.05以上0.4以下であることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成9)
前記第2層におけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する消衰係数kは、0.05未満であることを特徴とする構成1から8のいずれかに記載のマスクブランク。
【0015】
(構成10)
前記第3層の厚さは、5nm以上であることを特徴とする構成1から9のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成11)
前記第3層の上に、第4層をさらに備え、前記第4層におけるケイ素と酸素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする構成1から9のいずれかに記載のマスクブランク。
【0016】
(構成12)
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を35%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせる機能とを有することを特徴とする構成1から11のいずれかに記載のマスクブランク。
【0017】
(構成13)
透光性基板上に転写パターンが形成された位相シフト膜を備える位相シフトマスクであって、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から、第1層、第2層および第3層がこの順に積層した構造を含み、
前記第1層および前記第3層は、ハフニウムと酸素を含有し、
前記第2層は、ケイ素と酸素を含有し、
前記第1層、前記第2層および前記第3層の厚さをそれぞれD、DおよびDとしたとき、(式1-A)から(式1-D)の関係を全て満たす、または(式2-A)から(式2-D)の関係を全て満たすことを特徴とする位相シフトマスク。
(式1-A) D≧4.88×10-4×D -2.91×10-2×D +0.647×D -6.51×D+26.8
(式1-B) D≦-4.80×10-4×D +2.86×10-2×D -0.630×D +5.97×D-10.0
(式1-C) D≧4.41×10-4×D -2.66×10-2×D +0.598×D -6.13×D+59.3
(式1-D) D≦-4.72×10-4×D +2.81×10-2×D -0.625×D +5.97×D+23.0
(式2-A) D≧5.14×10-4×D -2.96×10-2×D +0.634×D -6.17×D+57.8
(式2-B) D≦-4.23×10-4×D +2.57×10-2×D -0.580×D +5.71×D+25.8
(式2-C) D≧5.76×10-4×D -3.23×10-2×D +0.673×D -6.33×D+23.7
(式2-D) D≦-4.76×10-4×D +2.74×10-2×D -0.579×D +5.13×D-6.29
【0018】
(構成14)
前記第2層の厚さDは、20nm以下であることを特徴とする構成13記載の位相シフトマスク。
(構成15)
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるハフニウムと酸素の合計含有量は90原子%以上であることを特徴とする構成13または14に記載の位相シフトマスク。
【0019】
(構成16)
前記第2層におけるケイ素と酸素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする構成13から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成17)
前記第1層、前記第2層および前記第3層のそれぞれにおける酸素の含有量は、50原子%以上であることを特徴とする構成13から16のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0020】
(構成18)
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する屈折率nは、2.5以上3.1以下であることを特徴とする構成13から17のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成19)
前記第2層におけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する屈折率nは、1.5以上2.0以下であることを特徴とする構成13から18のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0021】
(構成20)
前記第1層および前記第3層のそれぞれにおけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する消衰係数kは、0.05以上0.4以下であることを特徴とする構成13から19のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成21)
前記第2層におけるArFエキシマレーザーの光の波長に対する消衰係数kは、0.05未満であることを特徴とする構成13から20のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0022】
(構成22)
前記第3層の厚さは、5nm以上であることを特徴とする構成13から21のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成23)
前記第3層の上に、第4層をさらに備え、前記第4層におけるケイ素と酸素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする構成13から22のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0023】
(構成24)
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を35%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせる機能とを有することを特徴とする構成13から23のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0024】
(構成25)
前記位相シフト膜上に、遮光パターンが形成された遮光膜を備えることを特徴とする構成13から24のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成26)
構成13から25のいずれかに記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
以上の構成を有する本発明のマスクブランクは、透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、位相シフト膜は、前記透光性基板側から、第1層、第2層および第3層がこの順に積層した構造を含み、第1層および第3層は、ハフニウムと酸素を含有し、第2層は、ケイ素と酸素を含有し、第1層、第2層および第3層の厚さをそれぞれD、DおよびDとしたとき、上述の(式1-A)から(式1-D)の関係を全て満たす、または(式2-A)から(式2-D)の関係を全て満たすことを特徴とする。このため、ArFエキシマレーザーの露光光に対する透過率を一定以上に高くして位相シフト効果を高めることができるとともに、位相シフト膜の膜厚を一定以下に抑制することができ、光学的な性能が良好な位相シフトマスクを製造することができる。さらに、この位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造において、半導体デバイス上のレジスト膜等に精度良好にパターンを転写することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1の実施形態のマスクブランクの断面概略図である。
図2】第2の実施形態のマスクブランクの断面概略図である。
図3】第1および第2の実施形態の位相シフトマスクの製造工程を示す断面概略図である。
図4】シミュレーション結果から導き出された、所望の透過率、位相差、位相シフト膜の膜厚を満たす、第1層の厚さと第2層の厚さとの関係を示すグラフである。
図5】シミュレーション結果から導き出された、所望の透過率、位相差、位相シフト膜の膜厚を満たす、第2層の厚さと第3層の厚さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の各実施の形態について説明する。本願発明者らは、位相シフト膜において、ArFエキシマレーザーの露光光(以下、単に露光光という場合もある)に対する透過率を一定以上(例えば、35%以上)に高くして位相シフト効果を高めることができるとともに、位相シフト膜の膜厚を一定以下(例えば、60nm以下)に抑制することができ、光学的な性能が良好となる構成について、鋭意研究を行った。
位相シフト膜は、露光光を所定の透過率で透過させる機能と、その位相シフト膜内を透過する露光光に対してその位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過する露光光との間で所定の位相差を生じさせる機能を併せ持つ必要がある。位相シフト膜の膜厚を一定以下に抑えようとすると、所望の位相差を確保することが困難となる。単層構造や2層構造の位相シフト膜は設計自由度が低く、所望の位相差を確保しつつ、透過率を一定以上(例えば、35%以上)に高くして、位相シフト膜の膜厚を一定以下(例えば、60nm以下)に抑制することは容易ではなかった。
【0028】
そこで、本願発明者は、位相シフト膜を3層構造とすることを検討した。そのうえで、位相シフト膜について、透光性基板側から、第1層、第2層および第3層としたときに、第1層および第3層はハフニウムと酸素を含有し、第2層はケイ素と酸素を含有する構成とすることで、所望の位相差の確保および膜厚を抑制することができることを見出した。ハフニウムと酸素を含有する薄膜は、露光光に対する屈折率nが大幅に大きいが消衰係数kが比較的小さい光学特性を有する。また、ケイ素と酸素を含有する薄膜は、露光光に対する屈折率nは比較的小さいが消衰係数kが大幅に小さい光学特性を有する。これらの薄膜を組み合わせた多層構造とすることで、所望の透過率、位相差および膜厚を自在に設定できると当初考えていた。しかしながら、この条件のみでは、位相シフト膜全体の膜厚が同等であっても、所望の位相差が得られるように調整すると、一定以上の所望の透過率が得られなくなる場合があることが判明した。
【0029】
本発明者はさらに検討を行ったところ、一定以上の所望の透過率を得るためには、上述した3層構造の各層の厚さが重要であることを見出した。そこで、位相シフト膜の3層構造での露光光に対する透過率が35%以上であり、膜厚が60nm以下であり、位相差が略180°であることを満たすための、第1層、第2層、第3層の厚さについて光学シミュレーションを行った。具体的には、位相シフト膜の膜厚を60nm以下の所定範囲内、位相差を略180°の所定範囲内としたうえで、第2層の厚さを固定し、第1層および第3層の厚さを変えてゆき、位相シフト膜の透過率を算出した。そして、第2層の厚さを所定範囲で順次変更し、上述の処理を順次行った。
【0030】
これらの光学シミュレーションにより、所望の透過率(このシミュレーションでは35%以上とした)が得られた位相シフト膜について、第1層、第2層、第3層の関係を整理したところ、第1層が第3層よりも厚い場合と、第1層が第3層よりも薄い場合とで、それぞれ一定の関係が得られた。図4および図5には、シミュレーション結果から導き出された、所望の透過率、位相差、位相シフト膜の膜厚を満たす、第1層の厚さと第2層の厚さとの関係、および、第2層の厚さと第3層の厚さとの関係が示されている。
【0031】
図4および図5において、第1層および第2層の厚さが曲線1-Aと曲線1-Bとで規定される領域(すなわち、図4における曲線1-Aと曲線1-Bとの間に挟まれた範囲I-A)にあり、かつ、第2層および第3層の厚さが曲線1-Cと曲線1-Dとで規定される領域(すなわち、図5における曲線1-Cと曲線1-Dとの間に挟まれた範囲I-B)にあるとき、所望の透過率、位相差、位相シフト膜の膜厚の条件をすべて満たすことがわかった。このとき、図4および図5から把握されるように、第1層は第3層よりも薄い。
【0032】
また、図4および図5において、第1層および第2層の厚さが曲線2-Aと曲線2-Bとで規定される領域(すなわち、図4における曲線2-Aと曲線2-Bとの間に挟まれた範囲II-A)にあり、かつ、第2層および第3層の厚さが曲線2-Cと曲線2-Dとで規定される領域(すなわち、図5における曲線2-Cと曲線2-Dとの間に挟まれた範囲II-B)にあるとき、所望の透過率、位相差、位相シフト膜の膜厚の条件をすべて満たすことを突き止めた。このとき、図4および図5から把握されるように、第1層は第3層よりも厚い。
本発明は、このような鋭意検討の結果、なされたものである。
【0033】
以下、図面に基づいて、上述した本発明の詳細な構成を説明する。なお、各図において同様の構成要素には同一の符号を付して説明を行う。
【0034】
<第1の実施形態>
図1に、第1の実施形態のマスクブランクの概略構成を示す。図1に示すマスクブランク100は、透光性基板1における一方の主表面上に、位相シフト膜2、遮光膜3、及び、ハードマスク膜4がこの順に積層された構成である。マスクブランク100は、必要に応じてハードマスク膜4を設けない構成であってもよい。また、マスクブランク100は、ハードマスク膜4上に、必要に応じてレジスト膜を積層させた構成であってもよい。以下、マスクブランク100の主要構成部の詳細を説明する。
【0035】
[透光性基板]
透光性基板1は、リソグラフィーにおける露光工程で用いられる露光光に対して透過性が良好な材料で構成されている。このような材料としては、合成石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO-TiOガラス等)、その他各種のガラス基板を用いることができる。特に、合成石英ガラスを用いた基板は、ArFエキシマレーザー光(波長:約193nm)に対する透過性が高いので、マスクブランク100の透光性基板1として好適に用いることができる。
尚、ここで言うリソグラフィーにおける露光工程とは、このマスクブランク100を用いて作製された位相シフトマスクを使用したリソグラフィーにおける露光工程であり、露光光とは、特に断りの無い限り、ArFエキシマレーザー光(波長:193nm)を指すものとする。
透光性基板1を形成する材料の露光光における屈折率は、1.5以上1.6以下であることが好ましく、1.52以上1.59以下であるとより好ましく、1.54以上1.58以下であるとさらに好ましい。
【0036】
[位相シフト膜]
位相シフト膜2は、露光光を35%以上の透過率で透過させる機能を有していることが好ましく、37%以上であるとより好ましい。位相シフト膜2の内部を透過した露光光と空気中を透過した露光光との間で十分な位相シフト効果を生じさせるためである。また、位相シフト膜2の露光光に対する透過率は、60%以下であると好ましく、50%以下であるとより好ましい。位相シフト膜2の膜厚を、光学的な性能を確保できる適正な範囲に抑えるためである。
【0037】
位相シフト膜2は、適切な位相シフト効果を得るために、この位相シフト膜2を透過した露光光に対し、この位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせる機能を有するように調整されていることが好ましい。位相シフト膜2における前記位相差は、155度以上であることがより好ましく、160度以上であるとさらに好ましい。他方、位相シフト膜2における位相差は、195度以下であることがより好ましく、190度以下であるとさらに好ましい。
【0038】
本実施形態における位相シフト膜2は、透光性基板1側から、第1層21、第2層22、第3層23が積層した構造を有する。
本実施形態における位相シフト膜2は、第1層21、第2層22および第3層23の厚さをそれぞれD、DおよびDとしたとき、(式1-A)から(式1-D)の関係を全て満たす、または(式2-A)から(式2-D)の関係を全て満たすものである。
(式1-A) D≧4.88×10-4×D -2.91×10-2×D +0.647×D -6.51×D+26.8
(式1-B) D≦-4.80×10-4×D +2.86×10-2×D -0.630×D +5.97×D-10.0
(式1-C) D≧4.41×10-4×D -2.66×10-2×D +0.598×D -6.13×D+59.3
(式1-D) D≦-4.72×10-4×D +2.81×10-2×D -0.625×D +5.97×D+23.0
(式2-A) D≧5.14×10-4×D -2.96×10-2×D +0.634×D -6.17×D+57.8
(式2-B) D≦-4.23×10-4×D +2.57×10-2×D -0.580×D +5.71×D+25.8
(式2-C) D≧5.76×10-4×D -3.23×10-2×D +0.673×D -6.33×D+23.7
(式2-D) D≦-4.76×10-4×D +2.74×10-2×D -0.579×D +5.13×D-6.29
上述した(式1-A)~(式1-D)、(式2-A)~(式2-D)において、それぞれの等号の式が、図4図5に示した曲線1-A~1-D、曲線2-A~2-Dに対応する。すなわち、上述の(式1-A)~(式1-D)を満たすとき、第1層21~第3層23の厚さD~D図4図5に示した範囲I-A,I-B内となる。そして、上述の(式2-A)~(式2-D)を満たすとき、第1層21~第3層23の厚さD~D図4図5に示した範囲II-A,II-B内となる。
【0039】
位相シフト膜2の膜厚は、光学的な性能を確保するために、65nm以下であると好ましく、60nm以下であるとより好ましい。また、位相シフト膜2の膜厚は、所望の位相差を生じさせる機能を確保するために、45nm以上であることが好ましく、50nm以上であるとより好ましい。
【0040】
第1層21および第3層23は、ハフニウムと酸素を含有することが好ましく、ハフニウムと酸素からなることがより好ましい。ここで、ハフニウムおよび酸素からなるとは、これらの構成元素のほか、スパッタ法で成膜する際、第1層21および第3層23に含有されることが不可避な元素(ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の貴ガス、水素(H)、炭素(C)等)のみを含有する材料のことをいう(後述の第2層22や第4層24における、ケイ素と酸素からなるとの記載についても同様である)。第1層21および第3層23中にハフニウムと結合する他の元素の存在を極小にすることにより、第1層21および第3層23中におけるハフニウムよび酸素の結合の比率を大幅に高めることができる。
このため、第1層21および第3層23のそれぞれにおけるハフニウムと酸素の合計含有量は90原子%以上であることが好ましく、95原子%以上であることがより好ましく、98原子%以上であることがより一層好ましい。また、第1層21および第3層23のそれぞれにおける酸素の含有量は、50原子%以上であることが好ましく、55原子%以上であることがより好ましく、60原子%以上であることがより一層好ましい。また、第1層21および第3層23に含有されることが不可避な上記元素(貴ガス、水素、炭素等)においても合計含有量は3原子%以下が好ましい。
【0041】
第1層21および第3層23は、露光光に対する屈折率nが3.1以下であると好ましく、3.0以下であるとより好ましい。第1層21および第3層23は、屈折率nが2.5以上であると好ましく、2.6以上であるとより好ましい。一方、第1層21および第3層23は、露光光に対する消衰係数kが0.4以下であると好ましい。位相シフト膜2の露光光に対する透過率を高くするためである。第1層21および第3層23は、消衰係数kが0.05以上であると好ましく、0.1以上であるとより好ましく、0.2以上であるとさらに好ましい。
【0042】
第1層21の厚さDは、上述した(式1-A)、(式1-B)を満たす場合、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましい。そして、10nm以下であることが好ましく、9nm以下であることがより好ましい。
また、第1層21の厚さDは、上述した(式2-A)、(式2-B)を満たす場合、33nm以上であることが好ましく、34nm以上であることがより好ましい。そして、46nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましい。
第3層23の厚さDは、上述した(式1-C)、(式1-D)を満たす場合、34nm以上であることが好ましく、35nm以上であることがより好ましい。そして、44nm以下であることが好ましく、43nm以下であることがより好ましい。
第3層23の厚さDは、上述した(式2-C)、(式2-D)を満たす場合、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましい。そして、10nm以下であることが好ましく、9nm以下であることがより好ましい。
【0043】
一方、位相シフト膜、第3層23の厚さDは、上述した(式2-C)、(式2-D)を満たす場合、耐薬性、耐洗浄性の観点から、5nm以上であることが好ましく、6nm以上であることがより好ましい。そして、10nm以下であることが好ましく、9nm以下であることがより好ましい。ハフニウムと酸素を含有する第3層23の厚さDが5nm未満の場合、ケイ素と酸素を含有する第2層との界面で生じる相互拡散が第3層23の全体に波及しやすくなる。ハフニウム、ケイ素および酸素を含有する薄膜は、耐薬性、耐洗浄性が低い。全体が相互拡散した第3層23は、耐薬性、耐洗浄性が低下する。第3層23の厚さが5nm以上あれば、第3層23の全体が相互拡散することを抑制でき、第3層23の耐薬性、耐洗浄性の低下を抑制できる。
【0044】
第2層22は、ケイ素と酸素を含有することが好ましく、ケイ素と酸素からなる構成されることがより好ましい。第2層22中にケイ素と結合する他の元素の存在を極小にすることにより、第2層22中におけるケイ素よび酸素の結合の比率を大幅に高めることができる。
このため、第2層22におけるケイ素と酸素の合計含有量は90原子%以上であることが好ましく、95原子%以上であることがより好ましく、98原子%以上であることがより一層好ましい。また、第2層22における酸素の含有量は、50原子%以上であることが好ましく、55原子%以上であることがより好ましく、60原子%以上であることがより一層好ましい。また、第2層22に含有されることが不可避な上記元素(貴ガス、水素、炭素等)においても合計含有量は3原子%以下が好ましい。
【0045】
第2層22は、露光光に対する屈折率nが2.0以下であると好ましく、1.8以下であるとより好ましい。第2層22は、屈折率nが1.5以上であると好ましく、1.52以上であるとより好ましい。一方、第2層22は、露光光に対する消衰係数kが第1層21および第3層23よりも小さいことが求められ、0.05未満であると好ましく、0.02以下であるとより好ましい。位相シフト膜2の露光光に対する透過率を高くするためである。
【0046】
第2層22の厚さDは、上述した(式1-A)~(式1-D)を満たす場合、または、上述した(式2-A)~(式2-D)を満たす場合、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましい。そして、位相シフト膜2の膜厚を抑制するために、20nm以下であることが好ましく、18nm以下であることがより好ましい。
【0047】
位相シフト膜2は、第1層21の厚さの方が第3層23の厚さよりも厚い構成であることがより好ましい。位相シフト膜2に対するパターニング時、形成されるパターン側壁の垂直性を高めるため等の理由から、位相シフト膜2に対するエッチングが透光性基板1の表面まで到達した後もドライエッチングを継続すること、いわゆるオーバーエッチングが行われる。オーバーエッチングでは、位相シフト膜2に形成されているパターン側壁の透光性基板1側を主にエッチングすることが行われる。第2層22はケイ素と酸素を含有しており、第1層21に比べてドライエッチングに対するエッチングレートは遅い。第1層21の厚さが厚い場合、位相シフト膜2のパターン側壁の透光性基板1側は第1層22の比率が相対的に高くなる。その場合、オーバーエッチングで位相シフト膜2のパターン側壁の垂直性を制御しやすくなる。
【0048】
位相シフト膜2を含む薄膜の屈折率nと消衰係数kは、その薄膜の組成だけで決まるものではない。その薄膜の膜密度や結晶状態なども屈折率nや消衰係数kを左右する要素である。このため、反応性スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kとなるように成膜する。位相シフト膜2を、上記の屈折率nと消衰係数kの範囲にするには、反応性スパッタリングで成膜する際に、貴ガスと反応性ガス(酸素ガス、窒素ガス等)の混合ガスの比率を調整することだけに限られない。反応性スパッタリングで成膜する際における成膜室内の圧力、スパッタリングターゲットに印加する電力、ターゲットと透光性基板1との間の距離等の位置関係など多岐にわたる。これらの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、形成される薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kになるように適宜調整されるものである。
【0049】
[遮光膜]
マスクブランク100は、位相シフト膜2上に遮光膜3を備える。一般に、位相シフトマスクでは、転写パターンが形成される領域(転写パターン形成領域)の外周領域は、露光装置を用いて半導体ウェハ上のレジスト膜に露光転写した際に外周領域を透過した露光光による影響をレジスト膜が受けないように、所定値以上の光学濃度(OD)を確保することが求められている。位相シフトマスクの外周領域は、ODが2.8以上であると好ましく、3.0以上であるとより好ましい。上述のように、位相シフト膜2は所定の透過率で露光光を透過する機能を有しており、位相シフト膜2だけでは所定値の光学濃度を確保することは困難である。このため、マスクブランク100を製造する段階で位相シフト膜2の上に、不足する光学濃度を確保するために遮光膜3を積層しておくことが必要とされる。このようなマスクブランク100の構成とすることで、位相シフトマスク200(図参照)を製造する途上で、位相シフト効果を使用する領域(基本的に転写パターン形成領域)の遮光膜3を除去すれば、外周領域に所定値の光学濃度が確保された位相シフトマスク200を製造することができる。

【0050】
遮光膜3は、単層構造および2層以上の積層構造のいずれも適用可能である。また、単層構造の遮光膜3および2層以上の積層構造の遮光膜3の各層は、膜または層の厚さ方向でほぼ同じ組成である構成であっても、層の厚さ方向で組成傾斜した構成であってもよい。
【0051】
図1に記載の形態におけるマスクブランク100は、位相シフト膜2の上に、他の膜を介さずに遮光膜3を積層した構成としている。この構成の場合の遮光膜3は、位相シフト膜2にパターンを形成する際に用いられるエッチングガスに対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。この場合の遮光膜3は、クロムを含有する材料で形成することが好ましい。遮光膜3を形成するクロムを含有する材料としては、クロム金属のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が挙げられる。
【0052】
一般に、クロム系材料は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスでエッチングされるが、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮光膜3を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が好ましい。また、遮光膜3を形成するクロムを含有する材料にモリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させてもよい。モリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させることで、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスに対するエッチングレートをより速くすることができる。
【0053】
また、遮光膜3の上に、後述のハードマスク膜4をクロムを含有する材料で形成するのであれば、ケイ素を含有する材料で遮光膜3を形成してもよい。特に、遷移金属とケイ素を含有する材料は遮光性能が高く、遮光膜3の厚さを薄くすることが可能である。遮光膜3に含有させる遷移金属としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。遮光膜3に含有させる遷移金属元素以外の金属元素としては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびガリウム(Ga)などが挙げられる。
【0054】
一方、遮光膜3は、位相シフト膜2側から、クロムを含有する層と遷移金属とケイ素を含有する層をこの順に積層した構造を備えてもよい。この場合におけるクロムを含有する層および遷移金属とケイ素を含有する層の材料の具体的な事項については、上記の遮光膜3の場合と同様である。
【0055】
[ハードマスク膜]
ハードマスク膜4は、遮光膜3の表面に接して設けられている。ハードマスク膜4は、遮光膜3をエッチングする際に用いられるエッチングガスに対してエッチング耐性を有する材料で形成された膜である。このハードマスク膜4は、遮光膜3にパターンを形成するためのドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能することができるだけの膜の厚さがあれば十分であり、基本的に光学特性の制限を受けない。このため、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。
【0056】
このハードマスク膜4は、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合は、ケイ素を含有する材料で形成されることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、有機系材料のレジスト膜との密着性が低い傾向があるため、ハードマスク膜4の表面をHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施し、表面の密着性を向上させることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、SiO、SiN、SiON等で形成されるとより好ましい。
【0057】
また、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合におけるハードマスク膜4の材料として、前記のほか、タンタルを含有する材料も適用可能である。この場合におけるタンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選ばれる一以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。たとえば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、TaCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCN、などが挙げられる。また、ハードマスク膜4は、遮光膜3がケイ素を含有する材料で形成されている場合、前記のクロムを含有する材料で形成されることが好ましい。
【0058】
マスクブランク100において、ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、ハードマスク膜4に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)に、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも、レジストパターンの断面アスペクト比が1:2.5と低くすることができるので、レジスト膜の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制できる。なお、レジスト膜は、膜厚が80nm以下であるとより好ましい。
【0059】
[レジスト膜]
マスクブランク100において、ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、遮光膜3に形成すべき遮光パターンに、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも上述のようにハードマスク膜4を設けたことによってレジスト膜の膜厚を抑えることができ、これによってこのレジスト膜で構成されたレジストパターンの断面アスペクト比を1:2.5と低くすることができる。したがって、レジスト膜の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制することができる。なお、レジスト膜は、膜厚が80nm以下であることがより好ましい。レジスト膜は、電子線描画露光用のレジストであると好ましく、さらにそのレジストが化学増幅型であるとより好ましい。
【0060】
<第2の実施形態>
図2は、本発明の第2の実施形態に係るマスクブランク110の構成を示す断面図である。図2に示すマスクブランク110は、位相シフト膜2を、第1層21、第2層22、第3層23に加えて、第4層24を積層した4層構造で構成し、第4層24の上に遮光膜3を備えている点が、図1に示すマスクブランク100と異なっている。以下、第1の実施形態のマスクブランク100と共通する点については、適宜その説明を省略する。なお、図1図2に示す位相シフト膜2の各層の厚さは、上述の説明から把握されるように例示的なものであり、図示のものに限定されるものではない。
【0061】
第4層24は、ケイ素と酸素を含有することが好ましく、ケイ素と酸素からなることがより好ましい。第4層24は、キャップ層としての機能を奏するために、ケイ素と酸素の合計含有量は、90原子%以上であることが好ましく、95原子%以上であることがより好ましく、98原子%以上であることがより一層好ましい。
第4層24の厚さは、キャップ層としての機能を奏するために、1nmより大きいことが好ましく、2nm以上であることがより好ましい。また、第4層24の厚さは、位相シフト膜2の膜厚抑制のために、10nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましい。
本実施形態におけるマスクブランク110は、上述のように第4層24を設けた4層構造としている。第4層24は、耐薬性や耐洗浄性に優れた特性を有する。このため、第3層23の厚さは、位相シフト膜2に対して高い耐薬性や耐洗浄性が求められる場合においても、例えば4nm以下とすることができる。
なお、第1の実施形態において3層構造の位相シフト膜2について説明し、第2の実施形態において4層構造の位相シフト膜2について説明したが、本発明の内容はこれらに限定されるものではない。所望の透過率、位相差、膜厚を満たすものであれば、5層以上であってもよい。
【0062】
第1および第2の実施形態のマスクブランク100、110における位相シフト膜2は、塩素系ガス、およびフッ素系ガスを用いた3段階、あるいは4段階のドライエッチング処理によりパターニングが可能である。第1層21および第3層23については塩素系ガス、第2層22および第4層についてはフッ素系ガスを用いたドライエッチングによってパターニングを行うことが好ましい。第1層21と第2層22間、第2層22と第3層23間、第3層23と第4層24間において、エッチング選択性が非常に高い。特に限定するものではないが、以上の特性を持つ位相シフト膜2に対し、多段階に分割してエッチング処理を行うことにより、サイドエッチングの影響を抑制し、良好なパターン断面形状を得ることができる。
【0063】
一般に、ドライエッチングで薄膜にパターンを形成する際、その薄膜に形成されるパターンの側壁の垂直性を高めるための追加エッチング(いわゆるオーバーエッチング)が行われる。また、オーバーエッチングは、薄膜の下面にまでエッチングが到達した時間、いわゆるジャストエッチングタイムを基準に設定する場合が多い。上記のように、位相シフト膜2のパターニングに多段階に分割したエッチング処理を適用することにより、オーバーエッチングタイムの基準とする時間を、位相シフト膜2の第1層21のジャストエッチングタイムとすることができる。これにより、オーバーエッチングタイムを短くすることができ、良好なエッチング深さ均一性を得ることができる。ここで、塩素系ガスとしては、ホウ素を含有する塩素系ガスであると好ましく、BClガスであるとより好ましく、BClガスとClガスの混合ガスであるとさらに好ましい。
【0064】
[マスクブランクの製造手順]
以上の構成のマスクブランク100、110は、次のような手順で製造する。先ず、透光性基板1を用意する。この透光性基板1は、端面及び主表面が所定の表面粗さ(例えば、一辺が1μmの四角形の内側領域内において自乗平均平方根粗さRqが0.2nm以下)に研磨され、その後、所定の洗浄処理及び乾燥処理を施されたものである。
【0065】
次に、この透光性基板1上に、スパッタリング法によって位相シフト膜2を第1層21から順に、第2層22、第3層23、(および第4層24)を成膜する。位相シフト膜2における第1層21、第2層22、第3層23、(および第4層24)は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。成膜レートを考慮すると、DCスパッタリングを適用することが好ましい。導電性が低いターゲットを用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用するとより好ましい。
【0066】
位相シフト膜2の第1層21および第3層23については、ハフニウムを含有するスパッタリングターゲット、ハフニウム及び酸素を含有するスパッタリングターゲットのいずれも適用することができる。
また、位相シフト膜2の第2層22(および第4層24)については、ケイ素を含有するスパッタリングターゲット、ケイ素及び酸素を含有するスパッタリングターゲットのいずれも適用することができる。
【0067】
位相シフト膜2を成膜した後には、所定の加熱温度でのアニール処理を適宜行う。次に、位相シフト膜2上に、スパッタリング法によって上記の遮光膜3を成膜する。そして、遮光膜3上にスパッタリング法によって、上記のハードマスク膜4を成膜する。スパッタリング法による成膜においては、上記の各膜を構成する材料を所定の組成比で含有するスパッタリングターゲット及びスパッタリングガスを用い、さらに必要に応じて上述の貴ガスと反応性ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用いた成膜を行う。この後、このマスクブランク100、110がレジスト膜を有するものである場合には、必要に応じてハードマスク膜4の表面に対してHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施す。そして、HMDS処理がされたハードマスク膜4の表面上に、スピンコート法等の塗布法によってレジスト膜を形成し、マスクブランク100、110を完成させる。
このように、第1および第2の実施形態のマスクブランク100、110によれば、露光光に対する透過率を一定以上(例えば35%以上)に高くして位相シフト効果を高めることができるとともに、位相シフト膜の膜厚を一定以下(例えば60nm以下)に抑制することができ、光学的な性能が良好な位相シフトマスク200、210を製造することができる。
【0068】
〈位相シフトマスクおよびその製造方法〉
図3に、上記実施形態のマスクブランク100、110から製造される本発明の実施形態に係る位相シフトマスク200、210とその製造工程を示す。図3(g)に示されているように、位相シフトマスク200、210は、マスクブランク100の位相シフト膜2に転写パターンである位相シフトパターン2aが形成され、遮光膜3に遮光帯を含むパターンを有する遮光パターン3bが形成されていることを特徴としている。この位相シフトマスク200、210は、マスクブランク100、110と同様の技術的特徴を有している。位相シフトマスク200、210における透光性基板1、位相シフト膜2の第1層21、第2層22、第3層23(および第4層24)、遮光膜3に関する事項については、マスクブランク100、110と同様である。この位相シフトマスク200、210の作成途上でハードマスク膜4は除去される。
【0069】
本発明の実施形態に係る位相シフトマスク200、210の製造方法は、前記のマスクブランク100、110を用いるものであり、ドライエッチングにより遮光膜3に転写パターンを形成する工程と、転写パターンを有する遮光膜3をマスクとするドライエッチングにより位相シフト膜2に転写パターンを形成する工程と、遮光パターンを有するレジスト膜(レジストパターン6b)をマスクとするドライエッチングにより遮光膜3に遮光パターン3bを形成する工程とを備えることを特徴としている。以下、図3に示す製造工程にしたがって、本発明の位相シフトマスク200、210の製造方法を説明する。なお、ここでは、遮光膜3の上にハードマスク膜4が積層したマスクブランク100、110を用いた位相シフトマスク200、210の製造方法について説明する。また、遮光膜3にはクロムを含有する材料を適用し、ハードマスク膜4にはケイ素を含有する材料を適用した場合について述べる。
【0070】
まず、マスクブランク100、110におけるハードマスク膜4に接して、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。次に、レジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)である第1のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、位相シフトパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成する(図3(a)参照)。続いて、第1のレジストパターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成する(図3(b)参照)。
【0071】
次に、レジストパターン5aを除去してから、ハードマスクパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成する(図3(c)参照)。続いて、遮光パターン3aをマスクとして、塩素系ガスを用いたドライエッチング、およびフッ素系ガスを用いたドライエッチングを交互に4回(3層の場合は3回)行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつハードマスクパターン4aを除去する(図3(d)参照)。より具体的には、第1層21および第3層23に対しては塩素系ガスを用いたドライエッチングを行い、第2層22(および第4層24)に対してはフッ素系ガスを用いたドライエッチングを行う。
【0072】
次に、マスクブランク100、110上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成する(図3(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成する(図3(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200、210が得られる(図3(g)参照)。
【0073】
前記のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。たとえば、Cl、SiCl、CHCl、CHCl、CCl、BCl等があげられる。また、前記の第1層21および第3層23に対するドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、ホウ素を含有するものであると好ましく、BClを含有しているとより好ましい。特に、BClガスとClガスの混合ガスは、ハフニウムに対するエッチングレートが比較的高いため、好ましい。
【0074】
図3に示す製造方法によって製造された位相シフトマスク200、210は、透光性基板1上に、転写パターンを有する位相シフト膜2(位相シフトパターン2a)を備えた位相シフトマスクである。
【0075】
このように位相シフトマスク200、210を製造することにより、露光光に対する透過率を一定以上(例えば35%以上)に高くして位相シフト効果を高めることができるとともに、位相シフト膜の膜厚を一定以下(例えば60nm以下)に抑制することができ、光学的な性能が良好な位相シフトマスク200、210を得ることができる。
そして、この位相シフト膜を備える位相シフトマスク200、210を露光装置にセットして転写対象物(半導体基板上のレジスト膜等)に対して露光転写するときに、露光マージンを確保することができる。
【0076】
一方、上述の位相シフトマスクの製造方法で用いられているエッチングプロセスは、本発明のマスクブランクに対してのみ適用可能なものではなく、より広範な用途に用いることができる。少なくとも、基板上に、ハフニウムおよび酸素を含有する層と、酸素およびケイ素を含有する層と、ハフニウムおよび酸素を含有する層が、この順に積層した構造を含むパターン形成用薄膜を備えたマスクブランクにおいて、パターン形成用薄膜に転写パターンを形成する際にも適用することが可能である。上述の位相シフトマスクの製造方法を応用した形態である転写用マスクの製造方法は、以下の構成を備えることが好ましい。
【0077】
すなわち、基板上にパターン形成用薄膜を備えるマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記パターン形成用薄膜は、前記基板側からハフニウムおよび酸素を含有する第1A層と、ケイ素および酸素を含有する第2A層と、ハフニウムおよび酸素を含有する第3A層がこの順に積層した構造を含み、
ホウ素含有塩素系ガスを用いたドライエッチングを行い、前記第3A層に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成された前記第3A層をマスクとし、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、前記第2A層に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成された前記第2A層をマスクとし、ホウ素含有塩素系ガスを用いたドライエッチングを行い、前記第1A層に転写パターンを形成する工程と
を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。
【0078】
さらに、本発明の半導体デバイスの製造方法は、前記の位相シフトマスク200、210を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴としている。
【0079】
本発明の位相シフトマスク200、210やマスクブランク100、110は、上記の通りの効果を有するため、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージに位相シフトマスク200、210をセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する際、半導体デバイス上のレジスト膜に、高いCD面内均一性(CD Uniformity)で転写パターンを転写することができる。このため、このレジスト膜のパターンをマスクとして、その下層膜をドライエッチングして回路パターンを形成した場合、CD面内均一性の低下に起因する配線短絡や断線のない高精度の回路パターンを形成することができる。
【実施例
【0080】
以下、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するための、実施例1、2および比較例1について述べる。
【0081】
〈実施例1〉
[マスクブランクの製造]
図1を参照し、主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmの合成石英ガラスで構成される透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面が所定の表面粗さ(Rqで0.2nm以下)に研磨され、その後、所定の洗浄処理及び乾燥処理が施されている。分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いて透光性基板1の各光学特性を測定したところ、波長193nmの光における屈折率は1.556、消衰係数は0.000であった。
【0082】
次に、枚葉式RFスパッタリング装置内に透光性基板1を設置し、HfOターゲットとSiOターゲットを交互に用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとするスパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板1上に、ハフニウムおよび酸素で構成される第1層21、ケイ素及び酸素で構成される第2層22、ハフニウムおよび酸素で構成される第3層23からなる位相シフト膜2を形成した。第1層21の厚さDは36.5nm、第2層22の厚さDは15.5nm、第3層23の厚さDは6.1nmであり、位相シフト膜2の厚さは58.1nmであった。これら第1層21~第3層23の厚さD~Dは、(式2-A)~(式2-D)のいずれの式も満たすものである(第1層21~第3層23の厚さD~Dは、範囲I-A、範囲I-Bの中となっている)。
【0083】
次に、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1に対して、位相シフト膜2の膜応力を低減するための加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、加熱処理後の位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が44.8%、位相差が176.8度(deg)であった。また、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いて位相シフト膜2の各光学特性を測定したところ、波長193nmの光における第1層21および第3層23の屈折率nは2.93、消衰係数kは0.24であり、第2層22の屈折率nは1.56、消衰係数kは0.00であった。
【0084】
次に、枚葉式RFスパッタリング装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用いて、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)及びヘリウム(He)の混合ガス雰囲気での反応性スパッタリング(RFスパッタリング)を行った。これにより、位相シフト膜2に接して、クロム、酸素及び炭素で構成される遮光膜(CrOC膜)3を49nmの膜厚で形成した。
【0085】
次に、上記遮光膜(CrOC膜)3が形成された透光性基板1に対して、加熱処理を施した。加熱処理後、位相シフト膜2及び遮光膜3が積層された透光性基板1に対し、分光光度計(アジレントテクノロジー社製 Cary4000)を用い、位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造のArFエキシマレーザーの光の波長(約193nm)における光学濃度を測定したところ、3.0以上であることが確認できた。
【0086】
次に、枚葉式RFスパッタリング装置内に、位相シフト膜2及び遮光膜3が積層された透光性基板1を設置し、二酸化ケイ素(SiO)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとし、RFスパッタリングにより遮光膜3の上に、ケイ素及び酸素で構成されるハードマスク膜4を12nmの厚さで形成した。さらに所定の洗浄処理を施し、実施例1のマスクブランク100を製造した。
【0087】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1のハーフトーン型の位相シフトマスク200を製造した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS処理を施した。続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストで構成されるレジスト膜を膜厚80nmで形成した。次に、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフトパターンである第1のパターンを電子線描画し、所定の現像処理及び洗浄処理を行い、第1のパターンを有するレジストパターン5aを形成した(図3(a)参照)。
【0088】
次に、レジストパターン5aをマスクとし、CFガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図3(b)参照)。
【0089】
次に、レジストパターン5aを除去した。続いて、ハードマスクパターン4aをマスクとし、塩素ガス(Cl)と酸素ガス(O)の混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成した(図3(c)参照)。
【0090】
次に、遮光パターン3aをマスクとし、ドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(図3(d)参照)。このとき、第1層21および第3層23に対しては、BClガスとClガスの混合ガスでドライエッチングを行い、第2層22に対しては、フッ素系ガス(SFとHeの混合ガス)を用いたドライエッチングを用いてドライエッチングを行った。
【0091】
次に、遮光パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジストで構成されるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜に形成すべきパターン(遮光帯パターンを含むパターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有するレジストパターン6bを形成した(図3(e)参照)。続いて、レジストパターン6bをマスクとして、塩素ガス(Cl)と酸素ガス(O)の混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図3(f)参照)。さらに、レジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図3(g)参照)。
【0092】
[パターン転写性能の評価]
以上の手順を得て作製された位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、CD面内均一性が高く、設計仕様を十分に満たしていた。この結果から、この実施例1の位相シフトマスク200を露光装置のマスクステージにセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したとしても、最終的に半導体デバイス上に形成される回路パターンは高精度で形成できるといえる。
【0093】
〈実施例2〉
[マスクブランクの製造]
実施例2のマスクブランク110は、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例2の位相シフト膜2は、実施例1の位相シフト膜2とは成膜条件を変更している。具体的には、位相シフト膜2を、第1層21、第2層22、第3層23に加えて、第4層24を積層した4層構造で構成し、それぞれの厚さを変更している。枚葉式RFスパッタリング装置内に透光性基板1を設置し、HfOターゲットとSiOターゲットを交互に用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとするスパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板1上に、ハフニウムおよび酸素で構成される第1層21、ケイ素及び酸素で構成される第2層22、ハフニウムおよび酸素で構成される第3層23、ケイ素及び酸素で構成される第4層24からなる位相シフト膜2を形成した。第1層21の厚さDは39.2nm、第2層22の厚さDは12.3nm、第3層23の厚さDは4.4nmであり、第4層24の厚さは4.1nmであり、位相シフト膜2の厚さは60.0nmであった。これら第1層21~第3層23の厚さD~Dは、(式1-A)~(式1-D)のいずれの式も満たすものである(第1層21~第3層23の厚さD~Dは、範囲I-A、範囲I-Bの中となっている)。
【0094】
次に、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1に対して、位相シフト膜2の膜応力を低減するための加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、加熱処理後の位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が42.9%、位相差が177.4度(deg)であった。また、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いて位相シフト膜2の各光学特性を測定したところ、波長193nmの光における第1層21および第3層23の屈折率nは2.93、消衰係数kは0.24であり、第2層22および第4層24の屈折率nは1.56、消衰係数kは0.00であった。
【0095】
次に、実施例1と同様の手順で、位相シフト膜2に接して、クロム、酸素及び炭素で構成される遮光膜(CrOC膜)3を51nmの膜厚で形成した。実施例2の位相シフト膜2及び遮光膜3が積層された透光性基板1に対し、分光光度計(アジレントテクノロジー社製 Cary4000)を用い、位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造のArFエキシマレーザーの光の波長(約193nm)における光学濃度を測定したところ、3.0以上であることが確認できた。
【0096】
[位相シフトマスクの製造と評価]
次に、この実施例2のマスクブランク110を用い、実施例1と同様の手順で、実施例2の位相シフトマスク210を製造した。実施例2の位相シフトマスク210に対し、実施例1と同様にAIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、CD面内均一性が高く、設計仕様を十分に満たしていた。この結果から、この実施例2の位相シフトマスク200を露光装置のマスクステージにセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したとしても、最終的に半導体デバイス上に形成される回路パターンは高精度で形成できるといえる。
【0097】
〈比較例1〉
[マスクブランクの製造]
比較例1のマスクブランクは、位相シフト膜の膜厚以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例1の位相シフト膜は、実施例1の位相シフト膜2とは成膜条件を変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタリング装置内に透光性基板を設置し、HfOターゲットとSiOターゲットを交互に用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとするスパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板上に、ハフニウムおよび酸素で構成される第1層、ケイ素及び酸素で構成される第2層、ハフニウムおよび酸素で構成される第3層からなる位相シフト膜を形成した。第1層の厚さDは27.0nm、第2層22の厚さDは14.0nm、第3層23の厚さDは19.7nmであり、位相シフト膜2の厚さは60.7nmであった。これら第1層~第3層の厚さD~Dは、(式1-A)~(式1-D)、および、(式2-A)~(式2-D)のいずれの式も満たすものではなかった(第1層~第3層の厚さD~Dは、範囲I-A、範囲I-Bの外、そして、範囲II-A、範囲II-Bの外となっている)。
【0098】
位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、位相シフト膜の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が20.21%、位相差が177.07度(deg)であった。また、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いて位相シフト膜の各光学特性を測定したところ、波長193nmの光における第1層および第3層の屈折率nは2.93、消衰係数kは0.24であり、第2層の屈折率nは1.56、消衰係数kは0.00であった。
【0099】
次に、実施例1と同様の手順で、位相シフト膜に接して、クロム、酸素及び炭素で構成される遮光膜(CrOC膜)を45nmの膜厚で形成した。比較例1の位相シフト膜及び遮光膜が積層された透光性基板に対し、分光光度計(アジレントテクノロジー社製 Cary4000)を用い、位相シフト膜と遮光膜の積層構造のArFエキシマレーザーの光の波長(約193nm)における光学濃度を測定したところ、3.0以上であることが確認できた。
【0100】
[位相シフトマスクの製造と評価]
次に、この比較例1のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例1の位相シフトマスクを製造した。比較例1の位相シフトマスクに対し、実施例1と同様にAIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、設計仕様を満たすものではなかった。この原因は、位相シフト膜の透過率を十分に高くできず、パターンを鮮明に転写できなかったことにあると推察される。この結果から、この比較例1の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写した場合、最終的に半導体デバイス上に形成される回路パターンを高精度で形成することは困難であるといえる。
【符号の説明】
【0101】
1 透光性基板
2 位相シフト膜
21 第1層
22 第2層
23 第3層
24 第4層
2a 位相シフトパターン
3 遮光膜
3a,3b 遮光パターン
4 ハードマスク膜
4a ハードマスクパターン
5a レジストパターン
6b レジストパターン
100、110 マスクブランク
200、210 位相シフトマスク
図1
図2
図3
図4
図5