(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】材料の加工方法並びにプロセス設計計算機及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 3/28 20060101AFI20240826BHJP
B21D 22/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
G01N3/28
B21D22/00
(21)【出願番号】P 2020218738
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 康彦
(72)【発明者】
【氏名】谷上 哲也
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-323338(JP,A)
【文献】特開2003-048021(JP,A)
【文献】特開2019-098390(JP,A)
【文献】特開2005-349410(JP,A)
【文献】特開2006-075884(JP,A)
【文献】特開2011-183417(JP,A)
【文献】特開2005-111510(JP,A)
【文献】特開2014-100740(JP,A)
【文献】特開2006-125299(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0048619(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D22/00 -26/14 、
G01N 3/00 - 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材の材料特性値の同定方法であって、
(1)材料特性値が既知である第1被加工材に関して、前記既知の材料特性値と、前記
第1被加工材の加工中又は加工後の第1代表値と、の相関データを作成し、
(2)前記材料特性値が未知である、第2被加工材を加工し、
(3)前記第2被加工材の加工中又は加工後に第2代表値を取得し、
(4)前記相関データと、前記第2代表値に基づいて、前記第2被加工材の材料特性値を取得し、
ここで、前記第2代表値は、前記第1代表値と同じ所定の測定条件で測定された値である、
同定方法。
【請求項2】
請求項1記載の同定方法であって、
前記測定条件は以下の1以上のエンティティの所定の箇所に関する幾何学値、物性値を測定することである、同定方法:
加工後の第1被加工材又は第2被加工材、
加工くず、又は
(2)の加工で用いる加工設備又は消耗品。
【請求項3】
請求項1記載の同定方法であって、
(1)の相関データの作成は:
(1A)前記既知の材料特性値に基づいて、シミュレーション用材料特性値を複数作成し、
(1B)作成した複数のシミュレーション用材料特性値の各々を用いて、(2)の加工で用いる加工プロセスを模擬した加工シミュレーションを実行し、
(1C)前記加工シミュレーションの実行結果から、前記所定の測定条件に基づいた前記第1代表値を取得する、
同定方法。
【請求項4】
請求項1記載の同定方法であって、
前記第2被加工材の材料は、仕様上は前記第1被加工材の材料と同じ材料である、
同定方法。
【請求項5】
請求項3記載の同定方法を複数の第2被加工材に適用することで、前記第2被加工材の前記材料特性値のばらつきを算出する、
被加工材の材料特性値のばらつき算出方法。
【請求項6】
請求項5記載の被加工材の材料特性値のばらつき算出方法であって、
前記ばらつきは、前記被加工材を提供する材料メーカ毎に算出する、
ばらつき算出方法。
【請求項7】
請求項1乃至6
のいずれか一項に記載の方法で同定した第2被加工材の材料物性値に基づいて、前記第2被加工材の加工プロセスの条件を生成し、
前記第1被加工材及び前記第2被加工材と仕様上は同一である第3被加工材を対象に、前記生成した加工プロセスの条件で加工する、
加工方法。
【請求項8】
相関データを格納した記憶資源と、プロセッサと、を有する、計算機であって、
前記相関データは、材料特性値が既知である第1被加工材に関して、前記既知の材料特性値と、前記
第1被加工材の加工中又は加工後の第1代表値と、の相関を示し、
前記プロセッサは:
(A)前記材料特性値が未知である、第2被加工材を加工した時の、前記第2被加工材の加工中又は加工後の第2代表値を受信し、
(B)前記相関データと、前記第2代表値に基づいて、前記第2被加工材の材料特性値を取得し、
ここで、前記第2代表値は、前記第1代表値と同じ所定の測定条件で測定された値である、
計算機。
【請求項9】
請求項8記載の計算機であって、
前記測定条件は以下の1以上のエンティティの所定の箇所に関する幾何学値、物性値を測定することである、計算機:
加工後の第1被加工材又は第2被加工材、
加工くず、又は
前記第2被加工材の加工で用いる加工設備又は消耗品。
【請求項10】
請求項8記載の計算機であって、
前記相関データを作成するために、前記プロセッサは:
前記既知の材料特性値に基づいて、シミュレーション用材料特性値を複数作成し、
作成した複数のシミュレーション用材料特性値の各々を用いて、前記第2被加工材の加工で用いる加工プロセスを模擬した加工シミュレーションを実行し、
前記加工シミュレーションの実行結果から、前記所定の測定条件に基づいた前記第1代表値を取得する、
計算機。
【請求項11】
請求項8記載の計算機であって、
前記第2被加工材の材料は、仕様上は前記第1被加工材の材料と同じ材料である、
計算機。
【請求項12】
請求項8記載の計算機であって、
前記プロセッサは:
複数の第2被加工材の各々について、前記材料特性値を取得し、
複数の第2被加工材の各々の前記材料特性値に基づいて、前記第2被加工材の前記材料特性値のばらつきを算出する、
計算機。
【請求項13】
請求項12記載の計算機であって、
前記ばらつきは、前記
第2被加工材を提供する材料メーカ毎に算出する、
計算機。
【請求項14】
請求項8記載の計算機であって、
前記プロセッサは:
前記第2被加工材の材料物性値に基づいて、前記第2被加工材の加工プロセスの条件を生成する、
計算機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の加工方法並びにプロセス設計計算機及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属、樹脂、硝子などの加工工程において、材料の特性値のばらつきに起因した不良の発生が課題になる。加工工程のうち、例えばプレス機を使用して板状の被加工材を加工するプレス加工の場合、材料の特性値のばらつきによって加工後のスプリングバックによる変形量が異なる。これにより、加工された加工形状の形状ばらつきが生じ、不良が発生する。材料の特性値のばらつきに起因したプロセス設計およびプロセスの評価方法として、特許文献1に記載されているようなものがある。
【0003】
特許文献1には、「プレス成形品の成形データを得る成形解析ステップ(S1)と、前記プレス成形品の一部の領域の物性値及び物理量のデータの少なくとも1つを制御因子として選定し、前記制御因子に対して演算処理を行うステップ(S2)と、前記成形データと前記演算処理後の成形データとに基づいて、スプリングバック量を算出するステップ(S3)と、選定したすべての制御因子に対して、S2及びS3を繰り返し計算するステップ(S4)と、前記成形条件とは異なる成形条件に対してS1~S4を実行し、算出されたすべての前記スプリングバック量について、前記成形条件の差異に対するスプリングバック量のSN比を算出するステップ(S5)と、算出された前記SN比に基づきスプリングバックの安定性を判断するステップ(S6)によりスプリングバックの安定性を評価する。」と記載されている。なお、特許文献1の「成形」は本願における「加工」の別な言い方である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている方法では、材料の特性値のばらつきがある範囲に生じることを仮定し、材料の特性値のばらつきを考慮したプロセス設計およびプロセス安定性評価を試みている。しかしながら、実際の材料の特性値のばらつきは不明であり、適切にプロセスを設計および評価することは困難である。
【0006】
例えば、材料特性値のばらつき範囲を実材料のそれよりも過大に仮定した場合、すべての特性値に対して要求される形状精度を満足させるプロセス条件は存在しない可能性が高い。すなわち、実材料のばらつきが不明なことからどの程度安全を見ればよいかがわからないため、適正なプロセス条件を選定することが過度に難しくなる。
【0007】
実材料の特性値のばらつきを正確に把握することで、形状不良の発生を抑制したプロセス設計に貢献できると考えられる。例えば、実材料のばらつきが生じても形状の要求精度を満足するプロセス設計が容易になる。
【0008】
材料の特性値のばらつきは、ISO6892などの基礎試験において試験数を増やすことで評価可能である。しかしながら、ロット内における材料特性値のばらつきおよび異なるロット間の材料特性値のばらつきを精度よく評価するためには多くの基礎試験が必要になる。よって、材料特性値を取得する基礎試験の試験数を抑えつつ、より多数の被加工材の材料特性値を同定することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するため、本発明による被加工材の材料特性値の同定方法または計算機は、
(1)材料特性値が既知である第1被加工材に関して、前記既知の材料特性値と、前記第1被加工材の加工中又は加工後の第1代表値と、の相関データを作成し、
(2)前記材料特性値が未知である、第2被加工材を加工し、
(3)前記第2被加工材の加工中又は加工後に第2代表値を取得し、
(4)前記相関データと、前記第2代表値に基づいて、前記第2被加工材の材料特性値を取得する。ここで、前記第2代表値は、前記第1代表値と同じ所定の測定条件で測定された値である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、材料特性値を取得する基礎試験の試験数を抑えつつ、より多数の被加工材の材料特性値を同定できる。
【0011】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】加工工程の一例としてプレス加工工程を示す斜視図である。
【
図2】実施例1の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】実施例1における
図2のフローチャートのステップS210の詳細を示すフローチャートである。
【
図5】材料の特性値のばらつきデータを示す表である。
【
図6】材料の特性値のばらつきを表すグラフで、(a)は特性値のばらつきが小さい材料の例を示し、(b)は特性値のばらつきが大きい材料の例を示している。
【
図7】圧力P、材料特性値F’、n’、形状測定箇所の測定値Y1、寸法誤差の絶対値dY1、寸法誤差dY1の平均値μ、測定値Y1の標準偏差の3倍で計算されたばらつき指標3σの関係を示す表であり、(a)は圧力を100Kgに設定した場合、(b)は圧力を150Kgに設定した場合に、シミュレーションにより求めたデータである。
【
図8】実施例3におけるプロセス条件最適化の処理のフローを示すフローチャートである。
【
図9】実施例3における被加工材の加工処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】実施例4における計算機システムの全体構成図である。
【
図11】実施例4におけるデータを入力する入力用GUI画面の正面図である。
【
図12】実施例4における計算結果のデータを出力する出力用GUI画面の正面図である。
【
図13】実施例4における処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0014】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例1】
【0015】
実施例1に、本発明による材料の特性値およびそのばらつきを算出する例を示す。なお、以下の例では、プレス加工と幾何学的代表値を例として説明する。変形例は後程説明する。
【0016】
<<プレス加工における幾何学的代表値の例>>
図1は、プレス加工工程の一例を示す斜視図である。また、本図では、材料特性値を求めるために用いる幾何学的代表値について説明する。なお、以後の説明では被加工材の材料の特性値を単に特性値と略することがある。
図1の(a)は加工前の被加工材を、(b)はプレス加工工程の全体図を、(c)は加工された加工形状(スプリングバック後)をそれぞれ示す。実際の金型は塊状の形状だが、ここでは簡略化して被加工材101と接触する面のみを抜き出して図示する。
【0017】
図1の(a)における板状の被加工材101を、(b)においてまず下型105および板押さえ107で挟んで固定し、上型103が下方向に移動することで被加工材101のプレス加工を行う。ここで、板押さえ107の圧力はP、上型103のプレス速度はVとする。また、金型の形状パラメータの例として金型の幅をxとする。
【0018】
加工が完了したのち、上型103および板押さえ107を除去し、加工された加工形状を取り外すと(c)の加工形状が得られる。ただし、金型および板押さえからの力が除去されることで応力が解放されてスプリングバックが発生するため、(c)の被加工材101の形状は、(b)で加工した金型の形状とは一致しない。y1、y2は加工された形状を評価して得られる幾何学的代表値、Y1はプレス製品の形状精度が求められる形状測定箇所の測定値の例である。なお、Y1を幾何学的代表値としてもよいが、そうでなくてもよい。例えば、形状精度が求められる形状想定箇所が、材料特性値の変化に対する感度が小さい場合は、形状精度が求められないが、材料特性値の変化の感度が大きい箇所を用いて幾何学的代表値を測定したほうが、より簡便だが測定精度に劣る測定器具を用いることができるからである。
【0019】
<<フローチャートの説明>>
図2は、本発明の実施例1による材料の特性値およびそのばらつきを算出するためのフローチャートである。まず、S201で既に材料の特性値(例えば、ヤング率)がわかっている被加工材(特性値が既知の材料)を対象に、材料の特性値と、この特性値に基づいてシミュレーションにより求めた加工情報の第1代表値の相関データを作成する。
【0020】
次に、S202において加工工程で、シミュレーションに用いた特性値がわかっている被加工材料と同じ材質で材料特性値が未知の被加工材(特性値が未知の材料)を加工し、加工情報から第2代表値を取得する。さらに、S203において、S201で作成した相関データとS202で測定した第2代表値を用い、S202で材料特性値がわからなかった被加工材(特性値が未知の材料)の特性値を算出する。
【0021】
材料の特性値を測定したサンプルの数が予め設定した数に達するまでS202およびS203の処理を繰り返す(S204でNOの場合)。設定した数のサンプルについてそれぞれの特性値を算出した後(S204でYESの場合)、S205に進んで、材料特性値のばらつきデータを作成する。
【0022】
ここで、第1代表値の作成に関する被加工材(特性値が既知の材料)と、第2代表値の取得に関する被加工材(材料が未知の材料)とは、仕様上(例えばカタログスペック、材料組成)は同じ材料である。例えば、材料メーカに対して「厚さが1.5mmのSUS304」と仕様を指定して供給された被加工材のグループの内、厚さとヤング率を事前に測定した被加工材が被加工材(特性値が既知の材料)となり、厚さやヤング率を事前に測定していない被加工材が比較材(特性値が未知の材料)となる。その他の仕様上は同じ材料のケースは以後説明する。また、本実施例の適用対象の条件として、前述の「仕様上」が同じである必要なく、市場通念として同じと考えられる材料に対して適用してもよい。被加工材が木材であれば、例えば単に「マホガニー」といった木材の種類だけ指定された被加工材を対象にしてもよい、ということである。
【0023】
<<
図1の例を用いた
図2の各ステップの説明>>
以降では、
図1のプレス加工工程を対象にし、材料の特性値が未知の被加工材について、材料の特性値および材料の特性値のばらつきを算出する方法について各ステップを説明する。なお、算出の対象となる材料の特性値は、応力σとひずみεの関係を表す式(数1)の材料定数F、nとし、材料の応力とひずみの相関は実験的に式(数1)で近似できることがわかっているものとする。
σ=F×ε
n ・・・(数1)
<<<S201の前に行う幾何学的代表値の設定方法>>>
まず、S201を行う前に、第1代表値として第1幾何学的代表値y1、y2を設定する。ここで、第1幾何学的代表値y1、y2は、
図1の(c)に示す位置のスプリングバック後の寸法とし、材料特性値が既知の被加工材の加工形状で評価される値とする。次に、第2代表値として第2幾何学的代表値y1’、y2’を設定する。ここで第2幾何学的代表値y1’、y2’は
図1の(c)に示すスプリングバック後のy1、y2の位置の寸法とし、材料特性値が未知の被加工材の加工形状で評価される値とする。
【0024】
ここで、第1幾何学的代表値と、第2幾何学的代表値とは、共通の測定条件(どのような種別の幾何学値を、被加工材のどの箇所を代表箇所として測定するか)に従って測定された値である。そして、
図1の(c)のy1を例とすると、測定条件は「幾何学値の種別は長さ、代表箇所は被加工材のX軸方向の2端面間」と言える。また、
図1の(c)のy2を例とすると、測定条件は「幾何学値の種別は長さ、代表箇所は被加工材のY軸方向の窪みの深さ(ただしX軸方向の端面)」と言える。なお、幾何学的代表値の取得は、「長さ」である場合はノギスやマイクロメータといった測定器具や装置を用いることが考えられるが、その他の方法で取得してもよい。また、計算機で当該方法を行うとしたら、計算機が測定器具や装置による計測データを得ることを意味してもよい。
【0025】
<<<S201の詳細:相関データ作成方法>>>
図2のS201において相関データを作成する方法の例を、
図3に示す。相関データの例を
図4に示す。
図4に示す表400には複数のサンプル401について求めた材料特性値F:402、材料特性値n:403および第1幾何学的代表値y1:404、y2:406の関係を示す。
図4の表400は、材料特性値F:402、n:403のパターンのリストと、それに対応する第1幾何学的代表値y1:404、y2:405の値が記録された相関データを模したものである。
【0026】
図4の表400に示したような数値データを、例えば、有限要素解析などによって加工プロセスを模擬する加工シミュレーションで作成する場合、
図3のフロー図に示すような、以下のステップS301~S303の手順で作成する。
S301:材料特性値F:402、n:403のパターンのリストを実験計画法などの手法により作成する。
S302:作成した材料特性値F:402、n:403のパターンのリストの各条件で、プレス加工工程およびスプリングバック工程の加工シミュレーションを実施する。(材料の特性値が既知の被加工材に関する加工シミュレーション)
S303:加工シミュレーションによって得られた加工形状の第1幾何学的代表値y1:404、y2:405を評価し、表に記録する。
【0027】
S301において、リストを作成するために必要な材料特性値F:402、n:403の上限値と下限値は、例えば、対象とする材料の文献値から平均的な値F0、n0を調査し、これらの平均的な値に対して任意の幅±dF、±dnだけ加算した値F0+dF、F0-dF、n+dn、n-dnにそれぞれ設定してもよい。あるいは、上限値および下限値を一般に考えうる値よりも大きい任意の値に設定してもよい。また、リストの作成はほかの手段でもよく、例えばランダムに値を変更することで作成してもよい。
【0028】
以上の処理により、表形式で表される相関データを作成できるが、表形式の相関データから関係式で表される相関データを構築してもよい。例えば、
図4の表400の値を参照し、式(数2)、式(数3)の関係式に近似することで相関データを構築してもよい。
y1=a1×F+b1×n+c1 ・・・(数2)
y2=a2×F+b2×n+c2 ・・・(数3)
ここで、a1~c1、a2~c2は近似式の定数である。関係式は上記に限定するものではなく、二次関数近似、対数近似、機械学習などを用いた近似を使っても構わない。関係式の相関データを作成することで、
図4の表400で検討した材料特性値F:402、n:403以外の値についても、それに対応した加工形状の第1幾何学的代表値y1:404、y2:405を推定可能になる。
【0029】
なお、上述の通り本明細書における「相関データ」は式で表現する実施形態を排他するものではない。これら式に於いては、式の係数がデータとして存在し、複数の近似式を用いる場合はどの近似式を用いているかを示す情報もデータとして存在させることもあるからである。
【0030】
なお、表400は、別な言い方をするとすれば、材料特性パターンと、当該パターンで得られた第1幾何学的代表値と、の相関が、離散的に格納されたデータである、ともいえる。
【0031】
<<<S202の詳細:材料特性値が未知の被加工材の代表値の測定>>>
図2のS202における、第2幾何学的代表値y1‘、y2’の測定方法を示す。材料特性値F,nを推定したい材料特性値が未知の被加工材を、実機プレス機によるプレス加工工程にて加工する。スプリングバック後の加工形状について第2幾何学的代表値y1’、y2’を測定する。第2幾何学的代表値を測定するときの測定箇所定義基準は、前述の通り第1幾何学的代表値の測定箇所定義基準と同じである。
【0032】
<<<S203の詳細:材料特性値が未知の被加工材の材料特性値の算出>>>
図2のS203における、材料特性値F,nの算出方法を示す。例えば、
図2のS201で作成した関係式である式(数2)、式(数3)と、
図2のS202で測定した第2幾何学的代表値y1’、y2’を使って材料特性値F,nが未知の被加工材の材料特性値F’、n’を算出する例の場合、式(数2)および式(数3)の関係式にy1およびy2に代入し、連立方程式を解くことで得られる。
【0033】
また、例えば、
図2のS201で作成した
図4の表400と、
図2のS202で測定した第2幾何学的代表値y1’、y2’を使って材料特性値が未知の被加工材の材料特性値F’、n’を算出する例の場合、第2幾何学的代表値y1’、y2’と最も近いy1、y2の組合せを
図4の表400から探すことで得られる。なお、算出方法はこれらの方法に限定するものではなく、例えば、第2幾何学的代表値y1’、y2’を代入した式(数2)、式(数3)の解を最適化プログラムなどで求めてもよい。
図2のS201~S203の処理により、材料の特性値が未知の被加工材の材料特性値を算出することが可能である。
【0034】
<<<S205の詳細:材料特性値のばらつきデータ作成>>>
図2のS205で作成する基本的に同じ組成を有する複数の被加工材の特性値のばらつきデータの作成例を示す。
図5の表500に、ばらつきデータを模した表を示す。
図5の表500に示すように、
図2のS202およびS203の操作を、材料特性値が未知の基本的に同じ組成を有する複数の被加工材に対して繰り返すと、実機で加工した被加工材501ごとの第2幾何学的代表値y1’: 502、y2’:503と、被加工材ごとに算出した材料特性値F’、n’が得られる。
【0035】
図5の表500において、材料特性値F’:504、n’:505のリストは被加工材501ごとの材料特性値のばらつきを示すデータであり、これらのデータを評価することで材料特性値F‘,n’がどの程度ばらつくかを確認できる。
【0036】
材料特性値F‘,n’のばらつきの確認方法として、例えば材料特性値F’:504およびn’:505ごとに分布図を作成してもよいし、表の結果から材料特性値F’:504、n’:505の平均値や標準偏差を計算してもよい。また、表500の結果を近似して、確率密度関数f(F’、n’)を作成してもよい。
【0037】
以上により、材料の特性値が未知の被加工材の材料特性値およびそのばらつきデータを算出することが可能である。
【0038】
なお、実施例1は様々な変形例が考えうる。その一つとして
図4の表400を実験的に作成する例が挙げられる。
図4の表400を実験的に作成する場合、まず材料特性値F:402、n:403をあらかじめ基礎試験により求めておき、材料特性値が既知の被加工材を準備する。次に、材料特性値が既知の被加工材を実機プレス機で加工し、加工した加工形状の第1幾何学的代表値y1:404、y2:405を計測し、
図4の表400を作成する。
【0039】
実験的に作成する場合、
図4の表400の第1幾何学的代表値y1:404、y2:405の範囲は、材料特性値が未知の被加工材の加工形状における第2幾何学的代表値y1’:502、y2’:503の範囲より大きいことが望ましい。第1幾何学的代表値y1:404、y2:405の範囲を広くすることで、材料特性値が未知の被加工材の材料特性値F’:504、n’:505の推定精度を高くすることができる。
【0040】
本実施例によれば、材料特性値が未知の被加工材について、加工工程における加工情報から材料特性値を精度よく推定することができる。ISO6892などに代表される材料特性値の基礎試験は、時間を要するため、ばらつきを得るために各々の被加工材に適用するのは現実的ではない。本実施例によれば初期期間では加工プロセスをしつつ材料特性値を同定するため、基礎試験数を抑えることができる。見方を変えれば、実際の加工工程による被加工材の加工を続けながら材料ばらつきを同定できるともいえる。
【実施例2】
【0041】
実施例2に、実施例1を使用して被加工材を提供する材料メーカの選定指針を得る例を示す。
【0042】
図6は、実施例1の材料特性値のばらつきを算出する処理を複数のロットに対して実施し、材料特性値の確率密度分布を作成した例である。
図6の(a)および(b)はそれぞれ材料メーカAおよび材料メーカBにより提供された被加工材の材料特性のばらつきを模している。材料の特性値の例として
図6の横軸はいずれも材料の特性値F’(例えば、材料の塑性域における応力―歪曲線を定義するための変数)とした。
【0043】
図6の(a)の材料メーカAにより提供された基本的に同じ組成を有する複数の被加工材の材料特性のばらつきの確率密度分布601より、材料メーカAより提供される被加工材の材料特性値F’は、ロット内のばらつきが小さく、かつ、ロットが変化してもばらつきに大きな影響がないと評価できる。すなわち、材料メーカAは、基本的に同じ組成を有する複数の被加工材の材料特性値F’のばらつきが少ないため、加工工程において、材料特性値のばらつきに起因した形状不良が起こりにくいと推測される。
【0044】
一方で、
図6の(b)の材料メーカBにより提供された基本的に同じ組成を有する複数の被加工材の材料特性のばらつきの確率密度分布602より、材料メーカBより提供される被加工材の材料特性値F’は、ロット内のばらつきが大きく、かつ、ロットが変化するとばらつきも大きく変化すると評価できる。すなわち、材料メーカBは、基本的に同じ組成を有する複数の被加工材の材料特性値F’のばらつきが大きいため、加工工程において、材料特性値のばらつきに起因した形状不良が起こりやすいと推測される。
【0045】
以上のように、実施例2によって、被加工材を提供する材料メーカの選定指針を得ることができる。上記を例にすれば、材料メーカAより提供される被加工材を加工することで、特性値のばらつきに起因した加工形状の寸法不良を低減可能と予想される。なお、材料メーカの選定指針は本例のように確率密度分布を作成してそれらを視覚的に比較してもよいし、材料の特性値のばらつきの平均値および標準偏差などの数値情報を比較してもよい。
【実施例3】
【0046】
実施例3に、実施例1で算出した材料特性値のばらつきデータを活用して
図1に示すプレス加工のプロセス条件を適正化する例を示す。ここでは、適正化するプロセス条件として、
図1に示した板押さえ107の圧力Pを挙げる。
【0047】
図7に、圧力P:701、711、材料特性値F’:702、712、n’:703、713、プレス製品の形状精度が求められる形状測定箇所の測定値Y1:704、714、測定値Y1と測定値Y1の目標値Y1t(プレス製品の仕様値)との寸法誤差の絶対値dY1:705、715、寸法誤差dY1の平均値μ:706、716、測定値Y1の標準偏差の3倍で計算されたばらつき指標3σ:707、717、の関係を模したものを示す。
図7の(a)の表700及び(b)の表710は、それぞれ圧力P:701、711を仮で設定した例である。
【0048】
材料特性値F’:702、712、n’:703、713は、
図5で算出したばらつきデータを記載する。
図5のばらつきデータをそのまま記載してもよいし、ばらつきデータから近似した確率密度関数f(F’、n’)の確率密度分布を再現するように材料特性値F’:702、712、n’:703、713のリストを作成してもよい。
【0049】
また、
図5のばらつきデータを処理することで得た材料特性値F’、n’の上下限材のリストのみ作成してもよい。測定値Y1:704、714は、例えば、圧力P:701、711、材料の特性値F’:702、712、n’:703、713の各条件の下で加工シミュレーションを実行し、加工した形状を評価することでも得られる。
【0050】
ここで、
図7の(a)の表700と(b)の表710とを比較すると、(b)の表710の圧力P:711において寸法誤差dY1:715の平均値μ:716およびばらつき指標3σ:717のいずれも(a)の表700の値と比べて小さい。これにより、本例で検討した圧力Pの水準の中では(b)の表710の圧力P:711が適正であると判断できる。
【0051】
以上のように、被加工材の加工形状データT1,dY1に基づいて算出した材料特性値F‘,n’のばらつきデータを活用して、プレス加工のプロセス条件を適正化することが可能である。実機プレス加工における圧力Pをシミュレーション上で適正化した圧力Pに修正することでプレス成型品の形状不良を低減することができる。
【0052】
圧力Pの水準の数は3以上にしてもよく、圧力Pの適正値を求めるために最適化プログラムを用いてもよい。また、測定値Y1は加工シミュレーション以外の方法で計算してもよい。適正化するプロセス条件は圧力Pに限定するものではない。例えば、
図1の(b)に示すプレス速度Vを設定してもよく、プロセス条件として被加工材の温度T1や金型温度T2がある場合、それらを設定してもよい。適正化するプロセス条件の数は2つ以上であってもよい。例えば、圧力Pおよびプレス速度Vの2つを設定してもよい。
【0053】
<<フローチャートの説明>>
<<<加工プロセス条件最適化>>>
上記に説明したプロセス条件最適化の処理のフローを
図8に示す。
まず、ステップS801において、実施例1で説明したように、材料の特性値が未知の被加工材の材料特性値およびそのばらつきデータを算出して作成した
図5の表500の値を用い、被加工材を加工するためのプロセス条件を変えてシミュレーションを行う。
【0054】
次に、ステップS802において、ステップS801で求めたプロセス条件ごとの評価項目の値をチェックし、ステップS803において、このチェックした評価項目の値が予め設定した目標範囲に入っているかをチェックする。
【0055】
ステップS803における判定の結果、チェックした評価項目について予め設定した目標範囲に入っているものがない場合には(S803でNOの場合)、ステップS801に戻って、プロセス条件を変える範囲を変更して再度加工シミュレーションを実施する。
【0056】
一方、ステップS803における判定の結果、チェックした評価項目について予め設定した目標範囲に入っているものがある場合には(S803でYESの場合)、ステップS804に進んで、チェックした評価項目について予め設定した目標範囲に入っているものの中から最適プロセス条件を抽出する。
【0057】
以上のように、被加工材の加工の形状データに基づいて算出した材料特性値のばらつきデータを活用して、シミュレーションにより被加工材の加工のプロセス条件を適正化することができる。なお、上記説明した実施例では、元の加工プロセス条件から「変更」して適正化された加工プロセス条件を生成したが、元の加工プロセス条件がない状態から、適正化された加工プロセス条件を生成してもよい。
【0058】
<<<加工プロセス条件最適化を用いた加工処理>>>
図9に、本実施例による被加工材の加工処理の流れを示す。
まず、実施例1において
図2のフロー図で説明した手順で被加工材料の材料特性値のばらつきデータを作成し、
図5で説明したような表を作成する(S901)。
【0059】
次に、
図8で説明したシミュレーションによる被加工材の最適プロセス条件を求め(S902)、この求めた最適プロセス条件に基づいて被加工材を実際に加工する(S903)。
【0060】
本実施例を上記したプロセスを金属材料のプレス加工工程に適用した場合、加工対象の金属材料に最適なプロセス条件に基づいてプレス加工することにより、加工対象の金属材料に最適なプロセス条件を求めずにプレス加工した場合と比べて、加工後の形状不良の発生を大幅に低減することができ、加工の歩留まりを高く維持することができる。
【0061】
上記には、プレス加工に適用した例について説明したが、本実施例は設計工程で金型形状の適正化に適用してもよい。例えば、
図1以外の製品を対象に、実施例2の方法であらかじめばらつきデータを作成しておき、
図1のプレス加工工程の金型設計に活用してもよい。適正化するプロセス条件は、例えば金型形状パラメータの例である金型の幅xなどが挙げられ、実施例3における圧力Pを金型の幅xに置き換えることで適正な金型の幅xを選定することができる。
【0062】
また、上記した実施例ではプロセス条件の適正化によって測定値Y1に関連する指標μ、3σの2つの評価値を小さくする例を示したが、例えば、被加工材の発熱量に要求がある場合は被加工材の温度に関わる評価値でもよく、そのほかの評価値でもよい。あるいは、加工荷重を低くしつつ、そのばらつきも低減したいなどの設備上の要求がある場合は加工荷重などを評価値に適用してもよい。
【0063】
また、上記した実施例ではプレス加工工程の例と金型加工工程の例を示したが、別の加工工程でもよい。例えば加工方法の例である鍛造や圧延、機械加工などの工程でもよい。これらの場合、プレス加工と同様に、例えば、第1代表値、第2代表値として加工荷重、被加工材の幾何学的な寸法、被加工材の発熱量などが挙げられ、適正プロセス条件を決定するための評価値には加工形状の寸法精度、加工荷重(加工負荷)、被加工材の発熱量などが挙げられる。
【0064】
本実施例によれば、シミュレーションにより求めた被加工材に最適な加工プロセス条件を用いて被加工材を加工することにより、加工不良の発生を抑制して、製造コストの低減を図ることができる。
【実施例4】
【0065】
実施例4では、実施例1乃至3で説明したような最適な加工プロセス条件を求めるためのプロセス設計計算機を含む計算機システムの構成について、
図10乃至
図13を用いて説明する。
【0066】
図10に示した計算機システム1400は、材料特性値およびそのばらつきデータの算出およびプロセス条件を適正化する計算機の一例としての材料特性値算出/プロセス設計計算機1402と、管理計算機1426と、1以上のユーザ端末1424とを備えて構成される。
【0067】
材料特性値算出/プロセス設計計算機1402と管理計算機1426とは、ネットワーク1428を介して接続されている。また、材料特性値算出/プロセス設計計算機1402とユーザ端末1424とは、ネットワーク1422を介して接続されている。ネットワーク1422、ネットワーク1428は、LAN(Local Area Network)であっても、WAN(Wide Area Network)であってもよい。
【0068】
管理計算機1426は、材料特性値算出/プロセス設計計算機1402のシステム管理者によって使用される計算機である。システム管理者は、管理計算機1426を利用することにより、材料特性値算出/プロセス設計計算機1402の記憶媒体容量や、ユーザごとの利用率などを監視してサービス運用を行う。
【0069】
ユーザ端末1424は、材料特性値算出/プロセス設計計算機1402を利用するユーザによって使用される計算機である。ユーザ端末1424は、プロセッサ、メモリ、ユーザに対する入出力用のインターフェース(IF)を有している。
【0070】
ユーザ端末1424は、材料特性値算出/プロセス設計計算機1402にアクセスして、例えば
図11に示すような入力画面(グラフィックユーザインターフェイス(GUI):以下、入力用GUI画面と記す)1100を介して、被加工材料の材質および加工工程1101に対応して、特性値が既知の被加工材について、特性値の代表値と材料加工時の第1代表値との相関データ1102や、特性値が未知の被加工材を加工した加工情報から得た第2代表値1103、プロセス条件の構成要素1104、寸法精度が要求される箇所およびその要求される寸法精度1105、などといったデータを入力する。
【0071】
入力用GUI画面1100上での入力が終了した後、送信ボタン1106を画面上でクリックすることにより、入力したデータの材料特性値算出/プロセス設計計算機1402への送信を行う。
【0072】
これにより、ユーザにより入力された条件は材料特性値算出/プロセス設計計算機1402の記憶資源1410に保存され、保存されたデータに基づいて材料特性値算出/プロセス設計計算機1402が材料の特性値と第1幾何学的代表値の相関データの作成結果や、材料特性値の算出結果、プロセス設計結果をユーザ端末1424に送信する。
【0073】
これにより、
図12に示すような計算結果を出力する出力用GUI画面:1200に、被加工材料の材質および加工工程1201に対応して、材料特性値算出/プロセス設計計算機1402による相関データ1202、ばらつきデータ1203、プロセス条件1204、などの作成結果をユーザが閲覧できる。出力用GUI画面:1200上で確認ボタン1205をクリックすることにより、これらのデータは確定され、プロセス条件が決定される。
【0074】
この決定されたプロセス条件に基づいて被加工部材を加工することにより、寸法のばらつきが少ない形状に被加工部材を加工することができる。
【0075】
材料特性値算出/プロセス設計計算機1402は、一例としては、パーソナルコンピュータ、汎用計算機である。材料特性値算出/プロセス設計計算機1402は、プロセッサの一例としてのCPU1404、ネットワークインターフェース1406(図ではNet I/Fと省略)、ユーザインターフェース1408(図ではUser I/F)、記憶部の一例としての記憶資源1410、及びこれら構成物を接続する内部ネットワークを含む。
【0076】
CPU1404は、記憶資源1410に格納されたプログラムを実行することができる。記憶資源1410は、CPU1404で実行対象となるプログラムや、このプログラムで使用する各種情報を格納する。本実施形態では、記憶資源1410は、特性値相関データ作成プログラム1416、材料特性値算出プログラム1418、プロセス設計プログラム1420を格納する。記憶資源1410としては、例えば、半導体メモリ、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等であってよく、揮発タイプのメモリでも、不揮発タイプのメモリでもよい。
【0077】
特性値相関データ作成プログラム1416またはプロセス設計プログラム1420で加工シミュレーションを実行する場合、記憶資源1410には、プロセス設計プログラム1420の入力データである被加工材の形状や目標形状を示すCADデータや計算実行条件、加工シミュレーションソフトウェアおよびその結果ファイルなどが保存されている。
【0078】
また、記憶資源1410には、特性値相関データ作成プログラム1416により作成された相関データ1412、材料特性値算出プログラム1418により作成された特性値1414が保存されている。相関データ1412および特性値1414はテキストファイルやグラフの画像ファイルとして保存されている。
【0079】
ネットワークインターフェース1406は、ネットワーク1428およびネットワーク1422を介して外部の装置(例えば、管理計算機1426、ユーザ端末1424等)と通信するためのインターフェースである。
【0080】
ユーザ端末1424は、例えば、タッチパネル、ディスプレイ、キーボード、マウス等であるが、作業者(ユーザ)からの操作を受け付け、情報表示ができるのであれば、他のデバイスであってもよい。ユーザ端末1424は、これら複数のデバイスで構成されてもよい。
【0081】
特性値相関データ作成プログラム1416は、例えば、
図4で説明した表400の材料特性値F:402、n:403のような情報をユーザ端末1424を介して受信し、材料の特性値と第1幾何学的代表値(
図4の第1幾何学的代表値y1:404、y2:405に相当)から構成される相関データ1412を作成する(
図4の表400)。
【0082】
または、材料の特性値のみをユーザ端末1424を介して受信し、加工シミュレーションなどによって第1代表値を算出し、相関データ1412を作成してもよい。また、作成した相関データ1412(
図11の相関データ1102に相当)は、ユーザ端末1424に送信して、ユーザ端末(
図12の出力用GUI画面:1200)に出力してもよい。
【0083】
材料特性値算出プログラム1418は、例えば、特性値相関データ作成プログラム1416に作成された相関データ1412と、ユーザ端末1424を介して受信した第2代表値から、特性値1414を算出する。または、相関データ1412および第2代表値のいずれもユーザ端末1424を介して受信し、特性値1414を作成してもよい。また、作成した特性値1414はユーザ端末1424に送信してユーザインターフェース(
図12の出力用GUI画面:1200に相当)に出力するようにしてもよい。
【0084】
特性値1414は単一の被加工材に対する単一の材料の特性値の値でもよく、複数の被加工材に対する材料特性値のばらつきデータでもよい。また、ロットや材料メーカがわかる情報を付与されたばらつきデータでもよい。
【0085】
プロセス設計プログラム1420は、例えば、材料特性値算出プログラム1418に作成された特性値1414と、ユーザ端末1424のユーザインターフェース(
図11の入力用GUI画面:1100)を介して受信したプロセス条件の構成要素、寸法精度が要求される箇所およびその要求精度から、適正なプロセス条件を決定する。または、特性値1414およびその他の条件のいずれもユーザ端末1424を介して受信し、適正なプロセス条件を決定してもよい。
【0086】
上記に説明した一連の処理の流れを、
図13を用いて説明する。
まず、S1301において、
図11で説明したユーザ端末1424の入力用GUI画面1100上で、加工条件を設定する(S1301)。次に、入力用GUI画面1100上で設定した加工条件を、ネットワーク1422を介して材料特性値算出/プロセス設計計算機1402に入力する(S1302)。
【0087】
加工条件が入力された材料特性値算出/プロセス設計計算機1402では、材料の特性値と第1幾何学的代表値の相関データの作成や、材料特性値の算出を行い、これらの計算結果に基づいてプロセス条件を算出する(S1303)。
【0088】
次に、材料特性値算出/プロセス設計計算機1402は、一連の計算を行って得られた材料の特性値と第1幾何学的代表値の相関データや、材料特性値、プロセス条件を、ネットワーク1422を介してユーザ端末1424の出力用GUI画面1200上に出力する(S1304)。
【0089】
ユーザは、この出力用GUI画面1200上に表示されたプロセス条件を確認して(S1305)、寸法精度1105が許容範囲に入っていると判断した場合(S1305でYesの場合)には、この表示されたプロセス条件を用いて被加工材を加工する(S1306)。一方、出力用GUI画面1200上に表示されたプロセス条件の下での寸法精度1105が許容範囲に入っていないと判断した場合(S1305でNoの場合)には、S1301に戻って、入力用GUI画面1100上で加工条件を修正する。
【0090】
本実施例によれば、材料特性値が未知の被加工材について、加工工程における加工情報から材料特性値を精度よく推定して被加工材を加工するためのプロセス条件を設定することができるので、加工後の形状寸法のばらつきを小さくして、被加工材を歩留まり良く加工することができる。
【0091】
実施例4は、特性値相関データ作成プログラム1416、材料特性値算出プログラム1418、プロセス設計プログラム1420が記憶資源1410に保存された構成を例示したが、一部のプログラムのみで構成されていてもよい。また、ユーザ端末上に材料特性値算出/プロセス設計計算機1402の機能を持たせたプログラムを保存し、実行する形態としてもよい。
【0092】
<変形例>
なお、本発明は上記した実施例1乃至4に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。 その変形例としては以下がある。
【0093】
*被加工材の加工方法は、被加工材の加工中の形状(工具、金型等の加工設備による被加工材との接触によって維持される形状)と、被加工材の加工後の形状(加工設備から取り外した後の被加工材の形状)と、に差異が生じる加工方法であれば、他の加工方法でもよい。例えば、前述のプレス加工の他、鍛造、圧延、切削、引き抜き、パンチ加工、といった機械加工が考えられる。さらには、被加工材の材料特性値によって、被加工材の加工後の形状が変化するような加工を対象にしてもよい。例えば、樹脂成形が考えられる。
【0094】
*被加工材の材料は、金属以外でもよい、例えばガラス、複合材料、樹脂が考えられる。ただし、加工後の被加工材は個体であることが好ましい。
【0095】
*同定対象となる被加工材の材料特性値は、前述の材料定数F、n以外の、加工後の被加工材の形状に影響を及ぼす特性値でもよい。例えば、ヤング率、ポアソン比などの弾性域の材料特性値でもよく、温間成形や熱間成形、摩擦発熱などによる温度変化が生じる加工方法の場合は熱的な材料特性でもよく、他にも材料の粘性などの特性値でもよい。
【0096】
*幾何学的代表値の種類、言いかたを変えれば前述の測定箇所定義基準は、距離以外でもよい。例えば角度や曲率、厚みでもよい。
【0097】
*さらには、被加工材の材料特性値を求めるために、被加工材の幾何学的でない代表値を用いてもよい。例えば加工中又は加工後の被加工材に関する以下の物性値(材料物性値以外も含む)である:
#温度
#発熱量
#光の透過率、電気抵抗値、等の加工に影響を及ぼさない材料物性値。
【0098】
*さらには、代表値は加工中に被加工材から離れた、加工くずを対象として測定してもよい。例えば、パンチ加工で発生する端材、切削くずである。なお、加工直後は被加工材の一部であるが、その後取り除かれるような部材を対象とした代表値でもよい。切削加工にて加工設備が被加工材を固定する部分や、せん断加工で取り除かれる製品領域外の被加工材が例である。
【0099】
*さらには、被加工材の材料特性値を求めるために、被加工材以外、例えば加工設備の代表値、加工で用いる消耗品の代表値や、被加工材から加工中に分離した加工くず、に関する代表値を用いてもよい。たとえば以下である:
#プレス加工設備:加工荷重の履歴から得られる特徴量(例えば,最大荷重)
#金型: 代表位置の温度、加工中または後の変形量
#切削工具: 代表位置の温度、加工中または後の変形量。
つまり、代表値を測定するエンティティ(対象)は、加工後の加工材(材料特性値が既知)、加工後の加工材(材料特性が未知)、加工くず、加工設備または消耗品である、といえる。
【0100】
*実施例1乃至4のフローの実行主体は、作業者、計算機、又はこれら組み合わせであることが考えられるが、ロボットを用いてもよい。
【0101】
<まとめ>
以上、実施例では以下を説明した。
【0102】
被加工材の材料特性値の同定方法または計算機であって、
(1)材料特性値が既知である第1被加工材に関して、前記既知の材料特性値と、前記被加工材の加工中又は加工後の第1代表値と、の相関データを作成し、
(2)前記材料特性値が未知である、第2被加工材を加工し、
(3)前記第2被加工材の加工中又は加工後に第2代表値を取得し、
(4)前記相関データと、前記第2代表値に基づいて、前記第2被加工材の材料特性値を取得する。
ここで、前記第2代表値は、前記第1代表値と同じ所定の測定条件で測定された値である。
【0103】
また、前記測定条件は以下の1以上のエンティティの所定の箇所に関する幾何学値、物性値を測定することもよい:
加工後の第1被加工材又は第2被加工材、
加工くず、又は
(2)の加工で用いる加工設備又は消耗品。
【0104】
なお、(1)の相関データの作成は:
(1A)前記既知の材料特性値に基づいて、シミュレーション用材料特性値を複数作成し、
(1B)作成した複数のシミュレーション用材料特性値の各々を用いて、(2)の加工で用いる加工プロセスを模擬した加工シミュレーションを実行し、
(1C)前記加工シミュレーションの実行結果から、前記所定の測定条件に基づいた前記第1代表値を取得する、
ことを行ってもよい。
【0105】
なお、前記第2被加工材の材料は、仕様上は前記第1被加工材の材料と同じ材料でもよい。
【0106】
なお、これまで説明した方法を、複数の第2被加工材に適用することで、前記第2被加工材の前記材料特性値のばらつきを算出してもよい。
【0107】
なお、前記ばらつきは、前記被加工材を提供する材料メーカ毎に算出してもよい。
【0108】
なお、同定した第2被加工材の材料物性値に基づいて、前記第2被加工材の加工プロセスの条件を生成し、
前記第1被加工材及び前記第2被加工材と仕様上は同一である第3被加工材を対象に、前記生成した加工プロセスの条件で加工してもよい。
【符号の説明】
【0109】
101 被加工材
103 上型
105 下型
107 板押さえ
1100 入力用GUI画面
1200 出力用GUI画面
1400 計算機システム
1402 材料特性値算出/プロセス設計計算機
1404 CPU
1410 記憶資源
1416 特性値相関データ作成プログラム
1418 材料特性値算出プログラム
1420 プロセス設計プログラム
1424 ユーザ端末
1426 管理計算機