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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】熱電変換材料のチップ
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/817 20230101AFI20240826BHJP
   H10N 10/852 20230101ALI20240826BHJP
【FI】
H10N10/817
H10N10/852
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020550503
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2019038914
(87)【国際公開番号】W WO2020071424
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2018190442
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 豪志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦久
(72)【発明者】
【氏名】根本 拓
(72)【発明者】
【氏名】森田 亘
(72)【発明者】
【氏名】関 佑太
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-229223(JP,A)
【文献】特開2017-204550(JP,A)
【文献】特開2005-191431(JP,A)
【文献】特開2016-006827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/817
H10N 10/852
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換材料のチップの少なくとも一つの面に凹部を有し、
前記熱電変換材料のチップの形状が、直方体状、立方体状、及び円柱状から選ばれる少なくとも1種であり、
前記熱電変換材料のチップの幅方向の中央部を含む縦断面において、前記縦断面の面積をS(μm)、前記縦断面の厚さ方向の厚さの最大値をDmax(μm)、前記縦断面の幅方向の長さの最大値をXmax(μm)、前記縦断面の凹部の深さの最大値をTmax(μm)とした場合、前記熱電変換材料のチップの前記縦断面の凹部の断面が、以下の条件(A)及び条件(B)を満たす、熱電変換材料のチップ。
(A)0<(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)≦0.20(B)0.01<Tmax/Dmax<0.30及びTmax≧2μm
ここで、前記縦断面の厚さ方向の厚さの最大値Dmaxは、前記熱電変換材料のチップの前記縦断面において、前記縦断面の底辺上に垂線を立てた時に前記縦断面の厚さ方向の厚さの上下端と前記垂線とが交差した際に得られる2交点間の最大の距離(厚さ)を意味し、前記縦断面の幅方向の長さの最大値Xmaxは、前記縦断面の底辺に平行な平行線を引いた時に前記縦断面の幅方向の長さの左右端と前記平行線とが交差した際に得られる2交点間の最大の距離(長さ)を意味し、前記縦断面の凹部の深さの最大値Tmaxは、前記縦断面の厚さ方向の厚さの最大値Dmaxから、前記凹部の最深部と前記凹部の最深部から前記縦断面の底辺におろした垂線とが交差した際に得られる交点との最短距離(長さ)を減じて得られる最大の距離(深さ)を意味する。
【請求項2】
前記熱電変換材料のチップの凹部に接合材料層を有する、請求項1に記載の熱電変換材料のチップ。
【請求項3】
前記接合材料層が、ハンダ材料、導電性接着剤、又は焼結結合剤からなる、請求項2に記載の熱電変換材料のチップ。
【請求項4】
前記条件(A)が、0.05<(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)≦0.10、かつ前記条件(B)が、0.10<Tmax/Dmax<0.20及び4≦Tmax≦35μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱電変換材料のチップ。
【請求項5】
前記請求項1~4のいずれか1項に記載の熱電変換材料のチップを備えた、熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料のチップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エネルギーの有効利用手段の一つとして、ゼーベック効果やペルチェ効果などの熱電効果を有する熱電変換モジュールにより、熱エネルギーと電気エネルギーとを直接相互変換するようにした装置がある。
この中で、前記熱電変換素子として、いわゆるπ型の熱電変換素子の構成が知られている。π型は、通常、互いに離間するー対の電極を基板上に設け、例えば、―方の電極の上にP型熱電素子を、他方の電極の上にN型熱電素子を、同じく互いに離間して設け、両方の熱電素子の上面を対向する基板の電極に接続することで構成されている。
【0003】
近年、熱電変換素子の薄型化、高集積化を含む熱電性能の向上等の要求がある。特許文献1では、熱電素子層として、薄膜化による薄型化の観点も含め、樹脂等を含む熱電半導体組成物を用い、スクリーン印刷法等により直接熱電素子層のパターンを形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/104615号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、熱電半導体材料、耐熱性樹脂等からなる熱電半導体組成物をスクリーン印刷法等で電極上、又は基板上に熱電素子を直接パターン層として形成する方法では、得られた熱電素子層の形状制御性が十分ではなく、電極界面、又は基板界面において熱電素子層の端部に滲みが発生することにより熱電素子層の形状が崩れてしまうことがある。例えば、熱電性能及び製造容易性の観点から熱電素子層の形状を直方体状(立方体状含む)に形成することを意図した場合には、実際の熱電素子層の断面形状は概ね半楕円状又は台形状(後述する、図2(a)参照)となり、所望の厚さが得られないことはもとより、熱電素子層の上面の領域の両端まで均一な平坦に制御することができず、両端の平坦でない面に接合材料層が回り込んでしまう場合がある。このため、前述したπ型の熱電変換素子を構成する場合には、得られた熱電素子層の上面と対向する電極との接合部の面積が十分とれず、かつ接合性が十分とならず、界面抵抗や熱抵抗が増大することにより、熱電性能が低下してしまい、熱電素子層が本来有する熱電性能を十分引き出すことができない場合がある。このように、熱電素子層の形成に際しては、熱電性能の向上、また、高集積化の観点から、個々の熱電素子層の形状制御性を向上させることが重要となっている。
【0006】
本発明は、上記を鑑み、電極との高い接合性を実現する凹部を有する熱電変換材料のチップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱電変換材料のチップの少なくとも一つの面に凹部を有する熱電変換材料のチップ(以下、単に「チップ」、又は「熱電変換材料層」ということがある。)において、前記凹部内に接合材料層を満たすことで、電極に対し高い接合性が実現できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の(1)~(7)を提供するものである。
(1)熱電変換材料のチップの少なくとも一つの面に凹部を有する、熱電変換材料のチップ。
(2)前記熱電変換材料のチップの形状が、直方体状、立方体状、及び円柱状から選ばれる少なくとも1種である、上記(1)に記載の熱電変換材料のチップ。
(3)前記熱電変換材料のチップの幅方向の中央部を含む縦断面において、該縦断面の面積をS(μm)、縦断面の厚さ方向の厚さの最大値をDmax(μm)、縦断面の幅方向の長さの最大値をXmax(μm)、縦断面の凹部の深さの最大値をTmax(μm)とした場合、前記熱電変換材料のチップの縦断面の凹部の断面が、以下の条件(A)及び条件(B)を満たす、上記(1)又は(2)に記載の熱電変換材料のチップ。
(A)0<(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)≦0.20
(B)0.01<Tmax/Dmax<0.30及びTmax≧2μm
ここで、縦断面の厚さ方向の厚さの最大値Dmaxは、前記熱電変換材料のチップの前記縦断面において、前記縦断面の底辺上に垂線を立てた時に前記縦断面の厚さ方向の厚さの上下端と該垂線とが交差した際に得られる2交点間の最大の距離(厚さ)を意味し、縦断面の幅方向の長さの最大値Xmaxは、前記縦断面の底辺に平行な平行線を引いた時に前記縦断面の幅方向の長さの左右端と該平行線とが交差した際に得られる2交点間の最大の距離(長さ)を意味し、縦断面の凹部の深さの最大値Tmaxは、縦断面の厚さ方向の厚さの最大値Dmaxから、凹部の最深部と該凹部の最深部から前記縦断面の底辺におろした垂線とが交差した際に得られる交点との最短距離(長さ)を減じて得られる最大の距離(深さ)を意味する。
(4)前記熱電変換材料のチップの凹部に接合材料層を有する、上記(1)~(3)のいずれかに記載の熱電変換材料のチップ。
(5)前記接合材料層が、ハンダ材料、導電性接着剤、又は焼結結合剤からなる、上記(1)~(4)のいずれかに記載の熱電変換材料のチップ。
(6)前記条件(A)が、0.05<(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)≦0.10、かつ前記条件(B)が、0.10<Tmax/Dmax<0.20及び4≦Tmax≦35μmである、上記(1)~(5)のいずれかに記載の熱電変換材料のチップ。
(7)上記(1)~(6)のいずれかに記載の熱電変換材料のチップを備えた、熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電極との高い接合性を実現する凹部を有する熱電変換材料のチップを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の熱電変換材料のチップの縦断面の定義を説明するための図である。
図2】本発明の実施例又は比較例の熱電変換モジュールに用いた熱電変換材料のチップの縦断面を説明するための断面図である。
図3】本発明の熱電変換材料のチップの縦断面を備えた熱電変換モジュールの一例を示す断面構成図である。
図4】本発明に用いたパターン枠配置/剥離法による熱電変換材料のチップの製造方法の一例を工程順に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[熱電変換材料のチップ]
本発明の熱電変換材料のチップは、熱電変換材料のチップの少なくとも一つの面に凹部を有することを特徴とする。
熱電変換材料のチップの面に凹部を有することにより、該凹部に、例えば、後述する熱電変換モジュールを構成する電極と接合する際に用いる接合材料層を満たすことが可能になり、電極との接合性が向上し、熱電性能の向上に繋がる。
【0011】
本発明に用いる、熱電変換材料のチップの形状は、簡便に高い形状制御性を得る観点から、直方体状、立方体状、及び円柱状から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
この中で、製造簡易性、熱電変換材料のチップの集積度を高くする観点から、直方体状、又は立方体状であることがさらに好ましい。
【0012】
〈熱電変換材料のチップの縦断面〉
本発明の熱電変換材料のチップは、前記熱電変換材料のチップの幅方向の中央部を含む縦断面において、該縦断面の面積をS(μm)、縦断面の厚さ方向の厚さの最大値をDmax(μm)、縦断面の幅方向の長さの最大値をXmax(μm)、縦断面の凹部の深さの最大値をTmax(μm)とした場合、前記熱電変換材料のチップの縦断面の凹部の断面が、以下の条件(A)及び条件(B)を満たす。
(A)0<(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)≦0.20
(B)0.01<Tmax/Dmax<0.30及びTmax≧2μm
ここで、縦断面の厚さ方向の厚さの最大値Dmaxは、前記熱電変換材料のチップの前記縦断面において、前記縦断面の底辺上に垂線を立てた時に前記縦断面の厚さ方向の厚さの上下端と該垂線とが交差した際に得られる2交点間の最大の距離(厚さ)を意味し、縦断面の幅方向の長さの最大値Xmaxは、前記縦断面の底辺に平行な平行線を引いた時に前記縦断面の幅方向の長さの左右端と該平行線とが交差した際に得られる2交点間の最大の距離(長さ)を意味し、縦断面の凹部の深さの最大値Tmaxは、縦断面の厚さ方向の厚さの最大値Dmaxから、凹部の最深部と該凹部の最深部から前記縦断面の底辺におろした垂線とが交差した際に得られる交点との最短距離(長さ)を減じて得られる最大の距離(深さ)を意味する。
【0013】
本明細書において、「熱電変換材料のチップの中央部を含む縦断面」の定義を、図1を用いて説明する。図1は、本発明の熱電変換材料のチップの縦断面を説明するための図であり、(a)は、熱電変換材料のチップ4の平面図であり、熱電変換材料のチップ4は、幅方向に長さX、奥行き方向に長さYを有し、(b)は、熱電変換材料のチップ4の縦断面であり、縦断面は、前記(a)の中央部Cを含み、幅方向にA-A’間で切断した時に得られる長さX、厚さDを有する斜線部(図では長方形)を意味する。
本発明に用いる熱電変換材料のチップの縦断面について、図を用いて説明する。
【0014】
図2は、本発明の実施例又は比較例の熱電変換モジュールに用いた本発明の熱電変換材料のチップの縦断面を説明するための断面図であり、(a)は、比較例1で用いた熱電変換材料のチップ4uの縦断面であり、縦断面は略四角形(概ね台形)になっている。幅方向の長さの最大値Xmax、厚さ方向の厚さの最大値Dmaxを有する縦断面(断面積S)であり、縦断面の上面5aは、ゆるやかな曲線を有する凹部と凸部とからなり、縦断面の両端部はやや急峻な傾斜を有している。(b)は、実施例1で用いた熱電変換材料のチップ4vの縦断面であり、縦断面は略四角形(長方形)になっている。幅方向の長さの最大値Xmax、厚さ方向の厚さの最大値Dmaxを有する縦断面(断面積S)であり、縦断面の上面5bは、ゆるやかな曲線を有する凹部でなり、縦断面の両端部が凹部内に比べ傾斜を有し、最深部Tにおいて凹部の深さの最大値Tmaxを与える。
【0015】
前記熱電変換材料のチップの縦断面の凹部の断面が、以下の条件(A)及び(B)を満たすことが好ましい。
(A)0<(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)≦0.20
(B)0.01<Tmax/Dmax<0.30及びTmax≧2μm
【0016】
条件(A)において、(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)は、Dmax×Xmaxで算出される熱電変換材料のチップの縦断面の凹部の断面の面積を含む熱電変換材料のチップの縦断面の面積に対する、熱電変換材料のチップの縦断面の凹部の断面の面積の比率である(以下、「凹部断面占有率」ということがある。)。
【0017】
条件(A)において、凹部断面占有率が、0<(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)≦0.20であることが好ましく、0.03<(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)≦0.15であることがより好ましく、0.04<(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)≦0.13であることがさらに好ましく、0.05<(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)≦0.10であることが最も好ましい。
凹部断面占有率が、上記の範囲にあると、熱電変換材料のチップの上面の凹部に対向電極の接合に用いる後述する接合材料からなる接合材料層を充填しやすくでき、熱電変換材料のチップの縦断面の両端部の側面側に接合材料層がまわりこみ、付着することが抑制される。また、熱電変換材料のチップの熱電性能の効率が維持される。
【0018】
条件(B)において、Tmax/Dmaxが、0.01<Tmax/Dmax<0.30であることが好ましく、0.07<Tmax/Dmax<0.25であることがより好ましく、0.10<Tmax/Dmax<0.20であることがさらに好ましい。
Tmax/Dmaxが、上記の範囲にあると、熱電変換材料のチップの熱電性能の効率が維持されやすくなるとともに、上面に凹部を有する形状制御性に優れた熱電変換材料のチップの形成が容易となる。
また、Tmaxが2μm以上であることが好ましく、2~50μmであることがより好ましく、4~35μmであることがさらに好ましく、4~20μmであることが最も好ましい。
Tmaxが上記の範囲にあると、熱電変換材料のチップの上面の凹部に対向電極の接合に十分な厚さの接合材料層を確保しやすくなり、機械的な接合強度及び電気的な接合性が向上しやすくなる。
Tmax/Dmax及びTmaxが、上記の範囲にあると、対向電極との接合がとりやすくなり、熱電変換材料のチップの熱電性能の効率が維持されやすくなる。
【0019】
熱電変換材料のチップの縦断面が、前記の条件(A)及び(B)の範囲であると、熱電変換材料のチップの上面の凹部に対向電極の接合に用いる接合材料からなる接合材料層を充填しやすくでき、かつ熱電変換材料のチップの縦断面の両端部の側面側への接合材料層のまわりこみが抑制され、結果的に電極との接合性が向上し、熱電変換材料のチップの熱電性能の効率も維持されることから、熱電性能の向上が期待される。
【0020】
本発明の熱電変換材料のチップの凹部には、後述する熱電変換モジュールを構成する際、対向する電極と良好な接合を行うために、接合材料層を有することが好ましい。
接合材料層に用いる接合材料としては、ハンダ材料、導電性接着剤、又は焼結接合剤であることが好ましく、それぞれの接合材料がこの順に、ハンダ層、導電性接着剤層、又は焼結接合剤層として熱電変換材料のチップの凹部に備わる。接続の信頼性の観点から、接合材料としては、ハンダ材料を用いることがより好ましい。
接合材料層は、熱電変換材料のチップの凹部内にあれば、1層単独であっても、2種以上を用い積層してもよい。また、凹部内には、本発明の効果を阻害しない範囲で、接合材料層以外の層を併用してもよい。
なお、本明細書において導電性とは、電気抵抗率が1×10Ω・m未満のことを指す。
【0021】
前記ハンダ層を構成するハンダ材料としては、熱電変換モジュールを構成する材料の耐熱温度、また、ハンダ層としての導電性、熱伝導性とを考慮し、適宜選択すればよく、Sn、Sn/Pb合金、Sn/Ag合金、Sn/Cu合金、Sn/Sb合金、Sn/In合金、Sn/Zn合金、Sn/In/Bi合金、Sn/In/Bi/Zn合金、Sn/Bi/Pb/Cd合金、Sn/Bi/Pb合金、Sn/Bi/Cd合金、Bi/Pb合金、Sn/Bi/Zn合金、Sn/Bi合金、Sn/Bi/Pb合金、Sn/Pb/Cd合金、Sn/Cd合金等の既知の材料が挙げられる。鉛フリー及び/またはカドミウムフリー、融点、導電性、熱伝導性の観点から、43Sn/57Bi合金、42Sn/58Bi合金、40Sn/56Bi/4Zn合金、48Sn/52In合金、39.8Sn/52In/7Bi/1.2Zn合金のような合金が好ましい。
ハンダ材料の市販品としては、以下のものが挙げられる。例えば、42Sn/58Bi合金(タムラ製作所社製、製品名:SAM10-401-27)、41Sn/58Bi/Ag合金(ニホンハンダ社製、製品名:PF141-LT7HO)等が使用できる。
ハンダ層の厚さ(加熱冷却後)は、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは20~150μm、さらに好ましくは30~130μm、特に好ましくは40~120μmである。ハンダ層の厚さがこの範囲にあると、熱電変換材料のチップ及び電極との密着性が得やすくなる。
ハンダ材料を塗布する方法としては、ステンシル印刷、スクリーン印刷、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。加熱温度は用いるハンダ材料、樹脂フィルム等により異なるが、通常、150~280℃で3~20分間行う。
【0022】
前記導電性接着剤層を構成する導電性接着剤としては、特に制限されないが、導電ペースト等が挙げられる。導電ペーストとしては、銅ペースト、銀ペースト、ニッケルペースト等が挙げられ、バインダーを使用する場合は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
導電性接着剤を塗布する方法としては、スクリーン印刷、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。
導電性接着剤層の厚さは、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは20~150μm、さらに好ましくは30~130μm、特に好ましくは40~120μmである。
【0023】
前記焼結接合剤層を構成する焼結接合剤としては、特に制限されないが、シンタリングペースト等が挙げられる。前記シンタリングペーストは、例えば、ミクロンサイズの金属粉とナノサイズの金属粒子等からなり、前記導電性接着剤と異なり、直接金属をシンタリングで接合するものであり、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等のバインダーを含んでいてもよい。
シンタリングペーストとしては、銀シンタリングペースト、銅シンタリングペースト等が挙げられる。
焼結接合剤層を塗布する方法としては、スクリーン印刷、ステンシル印刷、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。焼結条件は、用いる金属材料等により異なるが、通常、100~300℃で、30~120分間である。
焼結接合剤の市販品としては、例えば、銀シンタリングペーストとして、シンタリングペースト(京セラ社製、製品名:CT2700R7S)、焼結型金属接合材(ニホンハンダ社製、製品名:MAX102)等が使用できる。
焼結接合剤層の厚さは、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは20~150μm、さらに好ましくは30~130μm、特に好ましくは40~120μmである。
【0024】
[熱電変換モジュール]
本発明の熱電変換モジュールは、本発明の凹部を有する熱電変換材料のチップを備える。当該熱電変換材料のチップを備えることにより、形状制御性の高い熱電変換材料のチップと対向電極との接合性が向上された、熱電変換モジュールが実現できる。
【0025】
図3は、本発明の凹部を有する熱電変換材料のチップを備える熱電変換モジュールの一例を示す断面構成図であり、熱電変換モジュール1は、基板2aの電極3a上にN型熱電変換材料のチップ4a及びP型熱電変換材料のチップ4bを備え、さらに、N型熱電変換材料のチップ4a及びP型熱電変換材料のチップ4bの上面に、基板2b上に電極3bを有する対向電極基板を備えており、交互に隣接するN型熱電変換材料のチップ4a及びP型熱電変換材料のチップ4bが、基板2b上の電極3bを介在し電気的に直列接続するように配置され、π型熱電変換素子として構成されている。なお、前記した接合材料層は、N型熱電変換材料のチップ4a及びP型熱電変換材料のチップ4bの上面のそれぞれ凹部に備わる(図示せず)。
【0026】
(熱電変換材料層)
熱電変換モジュールに用いる熱電変換材料のチップ、すなわち、熱電変換材料層は、熱電半導体材料(熱電半導体微粒子)、耐熱性樹脂、並びに、イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方を含む熱電半導体組成物からなるものが好ましい。
【0027】
(熱電半導体材料)
熱電変換材料のチップに含まれる熱電半導体材料としては、温度差を付与することにより、熱起電力を発生させることができる材料であれば特に制限されず、例えば、P型ビスマステルライド、N型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、ZnSb2、ZnSb等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;BiSe等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi、CrSi、MnSi1.73、MgSi等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS等の硫化物系熱電半導体材料等が用いられる。
これらの中で、ビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、又はビスマスセレナイド系熱電半導体材料が好ましい。
【0028】
さらに、熱電性能の観点から、P型ビスマステルライド又はN型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料であることがより好ましい。
前記P型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiTeSb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、P型熱電素子としての特性が維持されるので好ましい。
また、前記N型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、BiTe3-YSeで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3(Y=0の時:BiTe)であり、より好ましくは0<Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、N型熱電素子としての特性が維持されるので好ましい。
【0029】
熱電半導体組成物に用いる熱電半導体微粒子は、前述した熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕したものである。
【0030】
熱電半導体微粒子の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~96質量%であり、さらに好ましくは、70~95質量%である。熱電半導体微粒子の配合量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0031】
熱電半導体微粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~10μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
前記熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体微粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体微粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0032】
また、熱電半導体微粒子は、事前に熱処理されたものであることが好ましい(ここでいう「熱処理」とは本発明でいうアニール処理工程で行う「アニール処理」とは異なる)。熱処理を行うことにより、熱電半導体微粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体微粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数又はペルチェ係数が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。熱処理は、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体微粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体微粒子に依存するが、通常、微粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0033】
(耐熱性樹脂)
本発明に用いる熱電半導体組成物には、熱電変換材料層を形成後、熱電半導体材料を高温度でアニール処理を行う観点から、耐熱性樹脂を用いることが好ましい。熱電半導体材料(熱電半導体微粒子)間のバインダーとして働き、熱電変換モジュールの屈曲性を高めることができるとともに、塗布等による薄膜の形成が容易になる。該耐熱性樹脂は、特に制限されるものではないが、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体微粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される耐熱性樹脂が好ましい。
前記耐熱性樹脂は、耐熱性がより高く、且つ薄膜中の熱電半導体微粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、屈曲性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。後述する基板として、ポリイミドフィルムを用いた場合、該ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本発明においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。
【0034】
前記耐熱性樹脂は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、屈曲性を維持することができる。
【0035】
また、前記耐熱性樹脂は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料層の屈曲性を維持することができる。
【0036】
前記耐熱性樹脂の前記熱電半導体組成物中の配合量は、0.1~40質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは、1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。前記耐熱性樹脂の配合量が、上記範囲内であると、熱電半導体材料のバインダーとし機能し、薄膜の形成がしやすくなり、しかも高い熱電性能と皮膜強度が両立した膜が得られる。
【0037】
(イオン液体)
本発明で用いるイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50~500℃の温度領域のいずれかの温度領域において、液体で存在し得る塩をいう。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、耐熱性樹脂との相溶性に優れるため、熱電素子層の電気伝導率を均一にすることができる。
【0038】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウムのアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルホスホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl、AlCl 、AlCl 、ClO 等の塩化物イオン、Br等の臭化物イオン、I等のヨウ化物イオン、BF 、PF 等のフッ化物イオン、F(HF) 等のハロゲン化物アニオン、NO 、CHCOO、CFCOO、CHSO 、CFSO 、(FSO、(CFSO、(CFSO、AsF 、SbF 、NbF 、TaF 、F(HF)n、(CN)、CSO 、(CSO、CCOO、(CFSO)(CFCO)N等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0039】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。イオン液体のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0040】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3、4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3、5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージド等が挙げられる。この中で、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージドが好ましい。
【0041】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。この中で、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0042】
上記のイオン液体は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記の範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0043】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる熱電変換材料層の薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0044】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる熱電変換材料層の薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0045】
前記イオン液体の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~20質量%である。前記イオン液体の配合量が、上記の範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0046】
(無機イオン性化合物)
本発明で用いる無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は室温において固体であり、400~900℃の温度領域のいずれかの温度に融点を有し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0047】
カチオンとしては、金属カチオンを用いる。
金属カチオンとしては、例えば、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、典型金属カチオン及び遷移金属カチオンが挙げられ、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンがより好ましい。
アルカリ金属カチオンとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs及びFr等が挙げられる。
アルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+等が挙げられる。
【0048】
アニオンとしては、例えば、F、Cl、Br、I、OH、CN、NO 、NO 、ClO、ClO 、ClO 、ClO 、CrO 2-、HSO 、SCN、BF 、PF 等が挙げられる。
【0049】
無機イオン性化合物は、公知または市販のものが使用できる。例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はリチウムカチオン等のカチオン成分と、Cl、AlCl 、AlCl 、ClO 等の塩化物イオン、Br等の臭化物イオン、I等のヨウ化物イオン、BF 、PF 等のフッ化物イオン、F(HF) 等のハロゲン化物アニオン、NO 、OH、CN等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0050】
上記の無機イオン性化合物の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、無機イオン性化合物のカチオン成分が、カリウム、ナトリウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、無機イオン性化合物のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl、Br、及びIから選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0051】
カチオン成分が、カリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、KBr、KI、KCl、KF、KOH、KCO等が挙げられる。この中で、KBr、KIが好ましい。
カチオン成分が、ナトリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、NaBr、NaI、NaOH、NaF、NaCO等が挙げられる。この中で、NaBr、NaIが好ましい。
カチオン成分が、リチウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、LiF、LiOH、LiNO等が挙げられる。この中で、LiF、LiOHが好ましい。
【0052】
上記の無機イオン性化合物は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0053】
また、上記の無機イオン性化合物は、分解温度が400℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる熱電変換材料層の薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0054】
また、上記の無機イオン性化合物は、熱重量測定(TG)による400℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる熱電変換材料層の薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0055】
前記無機イオン性化合物の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。前記無機イオン性化合物の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、前記熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0056】
(その他の添加剤)
本発明で用いる熱電半導体組成物には、上記以外の成分以外に、必要に応じて、さらに分散剤、造膜助剤、光安定剤、酸化防止剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤、樹脂安定剤、充てん剤、顔料、導電性フィラー、導電性高分子、硬化剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
(熱電半導体組成物の調製方法)
本発明で用いる熱電半導体組成物の調製方法は、特に制限はなく、超音波ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリッドミキサー等の公知の方法により、前記熱電半導体微粒子、前記耐熱性樹脂、並びに前記イオン液体及び/又は無機イオン性化合物、必要に応じて前記その他の添加剤、さらに溶媒を加えて、混合分散させ、当該熱電半導体組成物を調製すればよい。
前記溶媒としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アルコール、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン、エチルセロソルブ等の溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。熱電半導体組成物の固形分濃度としては、該組成物が塗工に適した粘度であればよく、特に制限はない。
【0058】
〈熱電変換材料のチップの製造方法〉
本発明においては、熱電変換材料のチップは、前記熱電半導体組成物からなる塗工液等を用い、基板上、又は電極上に形成する。
本発明の熱電変換モジュールを構成する前記条件(A)及び(B)を満たす熱電変換材料のチップの製造方法としては、下記(P)に示す方法等が挙げられる。
(P)パターン枠配置/剥離法
【0059】
(パターン枠配置/剥離法)
パターン枠配置/剥離法とは、基板上に離間した開口部を有するパターン枠を設け、前記開口部に熱電半導体組成物を充填し、乾燥し、前記パターン枠を基板上から剥離することで、パターン枠の開口部の形状が反映された形状制御性に優れる熱電変換材料層を形成する方法である。
製造工程としては、基板上に開口部を有するパターン枠を設ける工程、前記開口部に前記熱電半導体組成物を充填する工程、前記開口部に充填された前記熱電半導体組成物を乾燥し、熱電変換材料層を形成する工程、及び前記パターン枠を基板上から剥離する工程を含む。
パターン枠配置/剥離法を用いた熱電変換材料層の製造方法の一例を、図を用い具体的に説明する。
図4は、本発明に用いたパターン枠配置/剥離法による熱電変換材料層の製造方法の一例を工程順に示す説明図であり、
(a)は基板上にパターン枠を対向させた態様を示す断面図であり、ステンレス鋼12’からなる、開口13s、開口部13、開口部深さ(パターン枠厚)13dを有する、パターン枠12を準備し、基板11とを対向させる;
(b)はパターン枠を基板上に設けた後の断面図であり、パターン枠12を基板11上に設ける;
(c)はパターン枠の開口部に熱電変換材料層を充填した後の断面図であり、(b)で準備したステンレス鋼12’からなるパターン枠12の開口13sを有する開口部13に、P型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及びN型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物をそれぞれ所定の開口部13内に充填し、開口部13に充填されたP型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物及びN型熱電半導体材料を含む熱電半導体組成物を乾燥し、P型熱電変換材料層14b、N型熱電変換材料層14aを形成する;
(d)はパターン枠を、充填した熱電変換材料層から剥離し、熱電変換材料層のみを得る態様を示す断面図であり、パターン枠12を、形成したP型熱電変換材料層14b、N型熱電変換材料層14aから剥離し、自立層としてのP型熱電変換材料層14b、N型熱電変換材料層14aを得る。
乾燥方法としては、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~150℃であり、加熱時間は、加熱方法により異なるが、通常、数秒~数十分である。
また、熱電半導体組成物の調製において溶媒を使用した場合、加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば、特に制限はない。
上記により、熱電変換モジュールに用いる本発明の熱電変換材料のチップを得ることができる。
このように、パターン枠配置/剥離法を用いることにより、前記条件(A)及び(B)を満たす熱電変換材料のチップを容易に得ることができる。
【0060】
前記熱電半導体組成物からなる塗工液の粘度は、熱電半導体材料の配合量、熱電変換材料層の厚さ、パターンの寸法により適宜調整されるが、熱電変換材料層の形状制御性、並びに凹部の形状及び最深部の深さを制御する観点から、例えば、25℃、5s-1の条件において1Pa・s~1000Pa・s、好ましくは5Pa・s~500Pa・s、より好ましくは10Pa・s~300Pa・s、さらに好ましくは30Pa・s~200Pa・sである。
また、前記熱電半導体組成物からなる熱電変換材料層の薄膜の厚さは、π型熱電変換素子として用いる場合には、スクリーン印刷法、ステンシル印刷法等の使用の観点から、50μm以上、1mm以下、好ましくは80μm以上1mm以下、より好ましくは100μm以上700μm以下、さらに好ましくは150μm以上500μm以下である。
【0061】
(アニール処理)
本発明では、熱電変換材料層形成後、アニール処理を行うことが好ましい。アニール処理を行うことで、熱電性能を安定化させるとともに、熱電変換材料層中の熱電半導体微粒子を結晶成長させることができ、熱電性能をさらに向上させることができる。
アニール処理は、特に限定されないが、通常、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行われ、用いる耐熱性樹脂、イオン液体、無機イオン性化合物等に依存するが、アニール処理の温度は、通常100~600℃で、数分~数十時間、好ましくは150~600℃で、数分~数十時間、より好ましくは250~600℃で、数分~数十時間、さらに好ましくは250~550℃で、数分~数十時間行う。
【0062】
(基板)
本発明の熱電変換モジュールにおいて、基板として、特に制限されないが、薄型、屈曲性の観点から、熱電変換材料層の電気伝導率の低下、熱伝導率の増加に影響を及ぼさない樹脂フィルムを用いることができる。なかでも、屈曲性に優れ、熱電半導体組成物からなる熱電変換材料層の薄膜をアニール処理した場合でも、基板が熱変形することなく、熱電変換材料層の性能を維持することができ、耐熱性及び寸法安定性が高いという点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、又はポリアミドイミドフィルムが好ましく、さらに、汎用性が高いという点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0063】
前記樹脂フィルムの厚さは、屈曲性、耐熱性及び寸法安定性の観点から、1~1000μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、10~50μmがさらに好ましい。
また、上記樹脂フィルムは、熱重量分析で測定される5%重量減少温度が300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。JIS K7133(1999)に準拠して200℃で測定した加熱寸法変化率が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。JIS K7197(2012)に準拠して測定した平面方向の線膨脹係数が0.1ppm・℃-1~50ppm・℃-1であり、0.1ppm・℃-1~30ppm・℃-1であることがより好ましい。
【0064】
また、本発明に用いる基板として、ガラス、又はセラミック等の絶縁性材料を用いてもよい。前記基板の厚さは、プロセス及び寸法安定性の観点から、5~1200μmが好ましく、10~800μmがより好ましく、30~700μmがさらに好ましい。
【0065】
(電極)
本発明に用いる熱電変換モジュールの電極の金属材料としては、銅、金、ニッケル、アルミニウム、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、ステンレス鋼、モリブデン、すず又はこれらのいずれかの金属を含む合金等が挙げられる。
前記電極の層の厚さは、好ましくは10nm~200μm、より好ましくは30nm~150μm、さらに好ましくは50nm~120μmである。電極の層の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり、かつ電極として十分な強度が得られる。
【0066】
電極の形成は、前述した金属材料を用いて行う。
電極を形成する方法としては、樹脂フィルム上にパターンが形成されていない電極を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法、または、スクリーン印刷法、インクジェット法等により直接電極のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていない電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等のドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、電極の材料に応じて適宜選択される。
本発明に用いる電極には、熱電性能を維持する観点から、高い導電性、高い熱伝導性が求められるため、めっき法や真空成膜法で成膜した電極を用いることが好ましい。高い導電性、高い熱伝導性を容易に実現できることから、真空蒸着法、スパッタリング法等の真空成膜法、および電解めっき法、無電解めっき法が好ましい。形成パターンの寸法、寸法精度の要求にもよるが、メタルマスク等のハードマスクを介在し、容易にパターンを形成することもできる。
【0067】
(接合材料層)
本発明に用いる熱電変換モジュールにおいて、熱電変換材料層と電極との接合には、接合材料層を用いることができる。接合材料層は、本発明の熱電変換モジュールの構成においては、熱電変換材料のチップの凹部に備わる。当該接合材料層については、前記した通りである。
【0068】
熱電変換材料層の凹部の断面を含む縦断面が条件(A)及び(B)を満たすことにより、熱電変換材料層と電極との接合性が高い優れた熱電性能を有する熱電変換モジュールを得ることができる。また、熱電変換材料層の高集積化を実現することに繋げることができる。
【実施例
【0069】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0070】
実施例、比較例で作製した熱電変換モジュールの電気抵抗値の評価、凹部断面占有率の評価は、以下の方法で行った。
(a)電気抵抗値評価
得られた熱電変換材料層(チップ)を備えた熱電変換モジュールの取り出し電極部間の電気抵抗値を、ディジタルハイテスタ(日置電機社製、型名:3801-50)により、25℃×50%RHの環境下で測定した。
(b)凹部断面占有率
得られた熱電変換モジュールの熱電変換材料層(チップ)の中央部を含む縦断面(図2(b)参照)を、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、型名:VHX-5000)を用い観察し、縦断面の面積S(μm)、縦断面の厚さ方向の厚さの最大値Dmax(μm)、縦断面の幅方向の長さの最大値Xmax(μm)、縦断面の凹部の深さの最大値Tmax(μm)、最深部Tから前記縦断面の底辺におろした垂線とが交差した際に得られる交点Zとの最短距離(μm)を測定した。測定で得られたDmax、Xmax及びSを用い凹部断面占有率(Dmax×Xmax-S)/(Dmax×Xmax)を算出し、評価した。
【0071】
(実施例1)
熱電半導体組成物を構成する熱電半導体材料は、熱電半導体微粒子として用いる。
(熱電半導体微粒子の作製)
ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるP型ビスマステルライドBi0.4TeSb1.6(高純度化学研究所製、粒径:180μm)を、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン社製、Premium line P-7)を使用し、窒素ガス雰囲気下で粉砕することで、平均粒径1.2μmの熱電半導体微粒子T1を作製した。粉砕して得られた熱電半導体微粒子に関して、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)により粒度分布測定を行った。
また、ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるN型ビスマステルライドBiTe(高純度化学研究所製、粒径:180μm)を上記と同様に粉砕し、平均粒径1.4μmの熱電半導体微粒子T2を作製した。
【0072】
(塗工液の調製)
塗工液(P)
得られたP型ビスマス-テルル系熱電半導体材料の微粒子T1を90質量部、耐熱性樹脂としてポリイミド前駆体であるポリアミック酸(シグマアルドリッチ社製、ポリ(ピロメリト酸二無水物-co-4,4´-オキシジアニリン)アミド酸溶液、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:15質量%)5質量部、及びイオン液体として[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]5質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(P)を調製した。塗工液(P)の粘度は170Pa・sであった。
塗工液(N)
得られたN型ビスマス-テルル系熱電半導体材料の微粒子T2を90質量部、耐熱性樹脂としてポリイミド前駆体であるポリアミック酸(シグマアルドリッチ社製、ポリ(ピロメリト酸二無水物-co-4,4´-オキシジアニリン)アミド酸溶液、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:15質量%)5質量部、及びイオン液体として[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]5質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(N)を調製した。塗工液(N)の粘度は170Pa・sであった。
【0073】
〈熱電変換材料層の形成〉
熱電変換材料層の形成を以下のパターン枠配置/剥離法により形成し、π型の熱電変換モジュールを作製した。
〈パターン枠配置/剥離法による熱電素子層の形成〉
下部ポリイミドフィルム基板(東レ・デュポン社製、カプトン200H、100mm×100mm、厚さ:50μm)の電極上に、離間した開口部を有するように設計された板厚200μmのパターン枠を設け、前記開口部に前述した塗工液(P)及び(N)を印刷し、乾燥し、前記パターン枠を基板上から剥離することで、1.5mm×1.5mmのP型熱電変換材料層及びN型熱電変換材料層の対をトータルで100対設けた。
なお、塗工液塗布後の乾燥は、温度150℃で、10分間アルゴン雰囲気下で行い、得られた熱電変換材料層の薄膜に対するアニール処理は、水素とアルゴンの混合ガス(水素:アルゴン=3体積%:97体積%)雰囲気下で、加温速度5K/minで昇温し、325℃で1時間保持し、熱電半導体材料の微粒子を結晶成長させ、P型熱電変換材料層及びN型熱電変換材料層とした。熱電変換材料層の厚さは、上面の凹部の両端部では180μmであり、凹部の最深部は5μmであり、凹部断面占有率は0.05であった。
【0074】
次いで、P型熱電変換材料層及びN型熱電変換材料層の上面の凹部に、ハンダ材料(ニホンハンダ社製、PF141-LT7HO F=10)が充填されるように形成し、上部ポリイミドフィルム基板(下部ポリイミドフィルム基板の電極の配置以外同一仕様であり、電極の配置は、100対のP型熱電変換材料層とN型熱電変換材料層とが交互に直列に配置され、かつ電気的に直列接続されように配置)上の電極と接合することで、100対のP型熱電変換材料層とN型熱電変換材料層とが交互に直列に配列され、かつ電気的に直列接続された、π型の熱電変換モジュール(ペルチェ冷却素子)を作製した。
なお、下部ポリイミドフィルム基板の電極上に形成したP型熱電変換材料層とN型熱電変換材料層とのそれぞれの中心間の距離は2.5mm、上部ポリイミドフィルム基板の電極上のP熱電変換材料層とN型熱電変換材料層とのそれぞれの中心間の距離は2.5mmとした。
【0075】
(実施例2)
実施例1において、塗工液(P)及び塗工液(N)の粘度を、N-メチルピロリドンを添加することにより120Pa・sに調整し用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2のπ型の熱電変換モジュールを作製した。アニール処理後の熱電変換材料層の厚さは、上面の凹部の両端部では170μmであり、凹部の最深部は8μmであり、凹部断面占有率は0.07であった。
【0076】
(実施例3)
実施例1において、塗工液(P)及び塗工液(N)の粘度を、N-メチルピロリドンを添加することにより70Pa・sに調整し用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3のπ型の熱電変換モジュールを作製した。アニール処理後の熱電変換材料層の厚さは、上面の凹部の両端部では160μmであり、凹部の最深部は10μmであり、凹部断面占有率は0.10であった。
【0077】
(比較例1)
実施例1において、P型熱電変換材料層及びN型熱電変換材料層の形成をパターン枠配置/剥離法で行わず、板厚235μmのステンシル版でP型熱電変換材料層及びN型熱電変換材料層をパターンで印刷し形成した以外は、実施例1と同様にして、比較例1のπ型の熱電変換モジュールを作製した。アニール処理後の熱電変換材料層の厚さは180μmであった。
【0078】
(比較例2)
実施例1において、塗工液(P)及び塗工液(N)の粘度を、N-メチルピロリドンを添加することにより30Pa・sに調整し用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2のπ型の熱電変換モジュールを作製した。アニール処理後の熱電変換材料層の厚さは、上面の凹部の両端部では130μmであり、凹部の最深部は30μmであり、凹部断面占有率は0.30であった。
【0079】
実施例1~3及び比較例1~2で得られた熱電変換モジュールの電気抵抗値、凹部断面占有率、最深部Tmax、Dmax、Dmax/Xmaxの評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1より明らかに、π型熱電変換素子の構成で比較した場合、凹部を有する熱電変換材料層(チップ)を備えた実施例1~3の熱電変換モジュールでは、凹部を有さない熱電変換材料層を備えた比較例1の熱電変換モジュールに比べて、熱電変換モジュールの両端の電極部間の電気抵抗値が低く、高い熱電性能が得られることが分かる。また、条件(A)及び(B)を満たす縦断面を有する熱電変換材料層(チップ)を備えた実施例1~3の熱電変換モジュールでは、条件(A)を満たさない縦断面を有する熱電変換材料層(チップ)を備えた比較例2の熱電変換モジュールに比べて、熱電変換モジュールの両端の電極部間の電気抵抗値が低く、高い熱電性能が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の熱電変換材料のチップによれば、条件(A)及び(B)を満たす縦断面を有する熱電変換材料のチップを備えた熱電変換モジュールは、熱電変換材料のチップの形状が、例えば、略直方体状かつ上面に特定の凹部が形成されていることから、熱電変換材料のチップと電極との接合に用いる接合材料を前記凹部に充填することができ、熱電変換材料のチップの側面にまわりこむことがないため、熱電変換材料のチップの電気抵抗値を小さく制御でき、熱電性能の向上が期待できる。さらに、本発明の熱電変換材料のチップを用いた熱電変換モジュールは、熱電変換材料のチップの形状制御性が優れることから、高集積化の実現が期待できる。
上記の熱電変換モジュールは、工場や廃棄物燃焼炉、セメント燃焼炉等の各種燃焼炉からの排熱、自動車の燃焼ガス排熱及び電子機器の排熱を電気に変換する発電用途に適用することが考えられる。冷却用途としては、エレクトロニクス機器の分野において、例えば、スマートフォン、各種コンピューター等に用いられるCPU(Central Processing Unit)、また、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor)、CCD(Charge Coupled Device)等のイメージセンサー、さらに、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、その他の受光素子等の各種センサーの温度制御等に適用することが考えられる。
【符号の説明】
【0083】
1:熱電変換モジュール
2a:基板
2b:基板
3a:電極
3b:電極
4,4u,4v:熱電変換材料のチップ
4a:N型熱電変換材料のチップ
4b:P型熱電変換材料のチップ
5a,5b:熱電変換材料のチップの上面の凹部
11:基板
12:パターン枠
12’:ステンレス鋼
13s:開口
13d:開口部深さ(パターン枠厚)
13:開口部
14a:N型熱電変換材料層
14b:P型熱電変換材料層
X:長さ(幅方向)
Xmax:幅方向の長さの最大値(縦断面)
Y:長さ(奥行き方向)
D:厚さ(厚さ方向)
Dmax:厚さ方向の厚さの最大値(縦断面)
S:縦断面の面積
T:最深部(凹部)
Tmax:凹部の深さの最大値(縦断面)
図1
図2
図3
図4