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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/44 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
F04D29/44 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021012085
(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公開番号】P2022052691
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2020158175
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平舘 澄賢
(72)【発明者】
【氏名】塚本 和寛
(72)【発明者】
【氏名】望月 裕太
(72)【発明者】
【氏名】小林 博美
(72)【発明者】
【氏名】西岡 卓宏
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-094293(JP,A)
【文献】特表2018-503772(JP,A)
【文献】実開平01-149597(JP,U)
【文献】国際公開第2018/166716(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00-13/16
F04D 17/00-19/02
F04D 21/00-25/16
F04D 29/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、該回転軸に取り付けられた複数の遠心羽根車と、該遠心羽根車から流出した流体が前記回転軸から離れる遠心方向に流れるディフューザと、該ディフューザの下流に設けられ、該ディフューザから後段の前記遠心羽根車に流入する前記流体が前記回転軸に向かう戻り方向に流れるリターン流路と、前記回転軸の中心線を中心とする円形翼列状に配設され、前記リターン流路に設置されている複数のリターンベーンと、前記ディフューザを流れた前記流体の流れが前記遠心方向から軸方向に転向し、更に、前記軸方向から前記戻り方向に転向する転向部とを備え、
前記円形翼列が多重に設けられる前記リターンベーンが、前記リターン流路における前記流体の流れの上流側から下流側に向かって二列に配置されている遠心圧縮機であって、 前記リターンベーンのうちで下流側に設けられる後置翼の入口羽根角(β)は、前記リターンベーンのうちで上流側に設けられる前置翼の入口羽根角(α)に対して、周方向により寝ており、
前記リターン流路内に翼型の前記リターンベーンが、前記リターン流路内の上流、下流側にそれぞれ前置翼列、後置翼列として円周方向に複数設置され、
前記後置翼の負圧面に前記前置翼の圧力面側の流れを導くために、前記後置翼は、前記前置翼の圧力面側にオフセットして設けられ、
前記前置翼の前縁と前記後置翼の後縁とがなす角(θ)は、前記前置翼の前縁と周方向に隣接する前記前置翼の前縁とがなす角(γ)よりも小さく、かつ、
前記前置翼のキャンバーラインの最大キャンバー位置(翼の前縁と後縁を結ぶ直線(翼弦線)の任意の位置から垂直方向に伸ばした垂線が前記キャンバーラインに達するまでの距離(キャンバー)が最大となる前記翼弦線中の位置)が、翼弦後半にあることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の遠心圧縮機であって、
前記後置翼の前記入口羽根角(β)と前記前置翼の前記入口羽根角(α)は、β<αの関係にあることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の遠心圧縮機であって、
前記リターン流路内に翼型の前記リターンベーンが、前記リターン流路内の上流、下流側にそれぞれ前置翼列、後置翼列として円周方向に複数設置され、
前記後置翼の負圧面に前記前置翼の圧力面側の流れを導くために、前記後置翼は、前記前置翼の圧力面側にオフセットして設けられていると共に、前記後置翼の前縁は、前記前置翼の後縁に対して前記回転軸中心からの径方向長さが短く設けられていることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項4】
請求項3に記載の遠心圧縮機であって、
前記前置翼の前縁と前記後置翼の後縁とがなす角(θ)は、前記前置翼の前縁と周方向に隣接する前記前置翼の前縁とがなす角(γ)よりも小さいことを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項5】
請求項4に記載の遠心圧縮機であって、
前記前置翼のキャンバーライン(翼の上面と下面から等しい距離にある点を結んだ線)は、前記前置翼の前縁から後縁にかけての前半部の50%以上が一定の羽根角度となっていることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項6】
請求項に記載の遠心圧縮機であって、
前記後置翼の前縁は、前記前置翼の後縁に対して径方向長さが短く設けられていることを特徴とする遠心圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心圧縮機に係り、特に、静止流路を構成するリターン流路にリターンベーンを備えているものに好適な遠心圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転する遠心式の羽根車を有する遠心式の流体機械は、従来から様々なプラントや空調機器、液体圧送ポンプ、ターボチャージャー等において利用されている。
【0003】
近年の環境負荷低減要求の高まりを受けて、これら流体機械には、従来以上の高効率化と、広作動範囲化が求められ、その一方で、コスト低減、機場内における省スペース化の観点から、遠心圧縮機そのものの小型化が求められている。
【0004】
流体機械の高効率化・広作動範囲化と小型化の両立のためには、静止流路の外径縮小が重要となる。遠心圧縮機における静止流路とは、回転する羽根車の吐出口の下流側に設けられる流路であり、ディフューザ流路とリターン流路によって構成され、このうちのリターン流路は、ディフューザ流路を経た流れの旋回方向成分を除去し、次の段の羽根車へと予旋回のない流れを導くための流路である。
【0005】
ところが、静止流路の外径を縮小すると、静止流路を構成するリターン流路の流路長さも短くなるため、より短い距離で流れを転向させて流れの予旋回を除去する必要がある。静止流路を構成するリターン流路において、流れを効率よく転向させるために、リターン流路には、通常、リターンベーンと呼ばれる翼が周方向に等間隔に設けられている。
【0006】
このリターン流路に、周方向に等間隔に設けられているリターンベーンと呼ばれる翼については、特許文献1乃至3に記載されたものが提案されている。
【0007】
上記した特許文献1には、小型化したときの効率の低下を抑制できる形状の返し羽根を有する遠心形ターボ機械を得るために、回転軸に向かう戻り方向に流体が流れる戻り流路に、回転軸の軸方向を高さ方向として、中心線を中心とする多重の円形翼列状に配設される返し羽根の翼面が、戻り流路における流体の流れを中心線を中心とする周方向から回転軸に向かう径方向に転向させる曲面であり、返し羽根のうちで最も上流側に配置される外翼を回転軸の軸方向に垂直な平面で断面した翼断面のキャンバーラインが、高さ方向で異なった湾曲形状を呈することが記載されている。
【0008】
また、上記した特許文献2には、リターンベーンによって流体の流れの旋回成分を除去しながら流体を次段のインペラに導く際、旋回流れの残存を抑制する遠心ポンプを得るために、軸線回りに回転する回転軸と、軸線方向に配列されるように回転軸に設けられ、流体を遠心力により圧送する複数のインペラと、上流側のインペラによって径方向外側に圧送された流体を径方向内側に反転させて下流側のインペラに流入させる流路と、流体が反転された後の流路に周方向に間隔をあけて複数が設けられ、流体を径方向内側に向かって転向させるように湾曲するリターンベーンと、を備え、リターンベーンが、リターンベーンの圧力面から負圧面に向かうに従って下流側に傾斜するように、これら圧力面と負圧面を連通させる第一連通部を有する遠心ポンプが記載されている。
【0009】
更に、上記した特許文献3には、コスト増大を招くことなく、案内羽根表面からの流れの剥離発生を低減できる多段遠心圧縮機を得るために、複数段に設けられた羽根車と、各羽根車の下流側に設けられたディフューザと、このディフューザの下流側に設けられ流れを次段羽根車に導く戻り流路とを有する多段遠心圧縮機において、戻り流路の外周側部分に設けられディフューザから流入した流れの方向を第1角度だけ転向させる複数の第1案内羽根からなる第1円形翼列と、この第1円形翼列より内周側に設けられ第1円形翼列から流入した流れの方向を、更に第2角度だけ転向させる複数の第2案内羽根からなる第2円形翼列とを有し、かつ、第1及び第2円形翼列を千鳥状に配列することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第06339794号公報
【文献】特許第06097487号公報
【文献】特開2001-200797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、遠心圧縮機の更なる小型化のために、リターンベーンの径方向の長さを縮小した場合、リターンベーンの出入口間に要求される流れの転向量が、羽根の長さに対して相対的に大きくなる。
【0012】
上述した特許文献1乃至3に記載されている遠心圧縮機や遠心ポンプにおけるリターンベーンでは、遠心圧縮機や遠心ポンプの小型化に伴って羽根を主軸(回転軸)の軸方向に垂直な平面で切断した断面(翼型)のキャンバーライン(翼の上面と下面から等しい距離にある点を結んだ線)の反りを大きくすることが必要になり、流れの剥離が生じる可能性が高い。
【0013】
上記した流れの剥離を回避するために、上述した特許文献1乃至3では、翼列を二重に設けているが、遠心圧縮機の更なる小型化を考えた場合においては、これらの翼単独の形状のみを考慮するだけでは、個々の翼に作用する負荷が過大となるため、ただ翼を二重、三重に設けても、流れが翼面から剥離してしまう恐れがあり、効率の向上が図れない可能性がある。
【0014】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、静止流路の外径を縮小しつつ、効率の維持向上を図ることができる遠心圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の遠心圧縮機は、上記目的を達成するために、回転軸と、該回転軸に取り付けられた複数の遠心羽根車と、該遠心羽根車から流出した流体が前記回転軸から離れる遠心方向に流れるディフューザと、該ディフューザの下流に設けられ、該ディフューザから後段の前記遠心羽根車に流入する前記流体が前記回転軸に向かう戻り方向に流れるリターン流路と、前記回転軸の中心線を中心とする円形翼列状に配設され、前記リターン流路に設置されている複数のリターンベーンと、前記ディフューザを流れた前記流体の流れが前記遠心方向から軸方向に転向し、更に、前記軸方向から前記戻り方向に転向する転向部とを備え、
前記円形翼列が多重に設けられる前記リターンベーンが、前記リターン流路における前記流体の流れの上流側から下流側に向かって二列に配置されている遠心圧縮機であって、 前記リターンベーンのうちで下流側に設けられる後置翼の入口羽根角(β)は、前記リターンベーンのうちで上流側に設けられる前置翼の入口羽根角(α)に対して、周方向により寝ており、
前記リターン流路内に翼型の前記リターンベーンが、前記リターン流路内の上流、下流側にそれぞれ前置翼列、後置翼列として円周方向に複数設置され、
前記後置翼の負圧面に前記前置翼の圧力面側の流れを導くために、前記後置翼は、前記前置翼の圧力面側にオフセットして設けられ、
前記前置翼の前縁と前記後置翼の後縁とがなす角(θ)は、前記前置翼の前縁と周方向に隣接する前記前置翼の前縁とがなす角(γ)よりも小さく、かつ、
前記前置翼のキャンバーラインの最大キャンバー位置(翼の前縁と後縁を結ぶ直線(翼弦線)の任意の位置から垂直方向に伸ばした垂線が前記キャンバーラインに達するまでの距離(キャンバー)が最大となる前記翼弦線中の位置)が、翼弦後半にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、静止流路の外径を縮小しつつ、効率の維持向上を図ることができる遠心圧縮機を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一般的な遠心圧縮機の全体構成の上半分を示す子午面断面図である。
図2図1に示した遠心圧縮機の部分拡大断面図である。
図3図1及び図2に示されるリターンベーン周辺を回転軸の軸方向の下流側から見た状態の半分を示す図である。
図4】本発明の遠心圧縮機の実施例1におけるリターンベーン周辺を回転軸の軸方向の下流側から見た状態の半分を示す図である。
図5】本発明の遠心圧縮機の実施例1におけるリターンベーンの前置翼と後置翼の位置関係を示す模式図である。
図6】本発明の遠心圧縮機の実施例1におけるリターンベーン周囲の流れの角度分布比較を示す図である。
図7】本発明の遠心圧縮機の実施例1におけるリターンベーンの前置翼後縁の径方向長さと後置翼前縁の径方向長さとの関係を示す図である。
図8】本発明の遠心圧縮機の実施例1におけるリターンベーンの前置翼における無次元径方向位置(横軸)と羽根角度分布(縦軸)の関係を示す図である。
図9】本発明の遠心圧縮機の実施例2におけるリターンベーンの前置翼の形状的特徴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の遠心圧縮機を説明する。なお、各図において、同一構成部品には同符号を使用する。
【実施例1】
【0019】
本発明の遠心圧縮機の実施例1を説明する前に、一般的な遠心圧縮機について図1乃至3を用いて説明する。
【0020】
該図に示すように、遠心圧縮機100は、回転エネルギーを流体に付与する遠心羽根車1と、この遠心羽根車1が取り付けられる回転軸4と、遠心羽根車1の半径方向外側にあって遠心羽根車1から流出された流体の動圧を静圧へと変換するディフューザ5とから概略構成されている。また、ディフューザ5の下流には、後段の遠心羽根車1へ流体を導くためのリターン流路6が設けられている。
【0021】
特に図示しないが、遠心羽根車1は、通常、回転軸4に締結する円盤(ハブ)と、ハブに対向して配置される側板(シュラウド)と、ハブとシュラウド間に位置し周方向(図2の紙面と直角方向)に間隔をおいて配置された複数枚の羽根とを有している。
【0022】
ディフューザ5には、周方向にほぼ等ピッチで配置された複数枚の翼を有するベーン付きディフューザと、図2には図示していないが、翼を有さないベーンレスディフューザのいずれかが用いられる。
【0023】
また、リターン流路6は、ディフューザ5を流れた流体の流れが遠心方向から軸方向に転向し、更に、軸方向からリターン方向に転向する転向部7a及び7bとリターンベーン8から構成されており(図2参照)、リターンベーン8によってディフューザ5を通過した流体を半径方向外向きから内向きへと転向させ、更に、リターンベーン8によって流体の旋回成分を除去し、流体を整流しながら次段の遠心羽根車1へと流入させる役割を担っている。
【0024】
図2に示すように、軸方向からリターン方向に転向する転向部7a及び7bは、子午面内において、周囲の構造物に囲まれたU字状の曲り流路として形成され、その転向部入口9を、ディフューザ5の出口に相当する略円筒面で定義し、その転向部出口10を、リターンベーン前縁12の直上流に位置する子午面曲り流路の終端に相当する略円筒面で定義した転向部入口9から転向部出口10までの区間として定義する。
【0025】
リターンベーン8は、回転軸4のまわりに周方向にほぼ等ピッチに配置された複数枚の翼から構成されている。また、特に図示しないが、遠心圧縮機100には、回転軸4を回転自在に支持するラジアル軸受が回転軸4の両端側に配置されている。
【0026】
また、回転軸4には、多段の圧縮段の遠心羽根車(図1では6枚の遠心羽根車)1が取り付けられ、各遠心羽根車1の下流側には、図2に示すように、ディフューザ5及びリターン流路6が設けられている。
【0027】
これら遠心羽根車1とディフューザ5及びリターン流路6は、ケーシング19内に収容され、ケーシング19はフランジ20a及び20bにより支持されている。また、ケーシング19の吸込み側には吸込流路15が設けられており、ケーシング19の吐出側には吐出流路16が設けられている。
【0028】
このように構成された遠心圧縮機100においては、図1に示すように、吸込流路15から吸引された流体が、各段の遠心羽根車1とディフューザ5及びリターン流路6を通過するごとに昇圧され、最終的に所定圧力になって吐出流路16から吐出される。
【0029】
ところで、このように構成された遠心圧縮機100では、上述した如く、更なる小型化のために、リターンベーン8の径方向の長さを縮小した場合、リターンベーン8の出入口間に要求される流れの転向量が、遠心羽根車1の長さに対して相対的に大きくなるため、流れの剥離が生じる恐れがあり、効率の向上が図れない可能性がある。
【0030】
これを解決するのが本実施例の遠心圧縮機100であり、以下、その詳細を図4及び図5を用いて説明する。
【0031】
図4は、本発明の遠心圧縮機100の実施例1におけるリターンベーン8の周辺を回転軸4の軸方向の下流側から見た状態の半分を示す図であり、図5は、本発明の遠心圧縮機100の実施例1におけるリターンベーン8の前置翼8Aと後置翼8Bの位置関係を示す模式図である。
【0032】
図4及び図5に示す本実施例の遠心圧縮機100は、円形翼列が多重に設けられるリターンベーン8が、リターン流路6における流体の流れの上流側から下流側に向かって二列に配置されている遠心圧縮機であり、そして、本実施例では、リターンベーン8のうちで下流側に設けられる後置翼8Bの入口羽根角(β)が、リターンベーン8のうちで上流側に設けられる前置翼8Aの入口羽根角(α)に対して、周方向により寝ていることを特徴とし、具体的には、リターンベーン8の後置翼8Bの入口羽根角(β)と前置翼8Aの入口羽根角(α)が、β<αの関係にある。
【0033】
図6に示すように、数値解析によって得られたリターンベーン8の周囲の流れ角度の分布を見ると、リターンベーン8の前置翼8Aの周囲の流れ角度は、前置翼8Aの圧力面8A1側において、前置翼8Aの前縁8A3から後置翼8Bの前縁8B2付近まで、ほとんど変化していない。これは、リターンベーン8の前置翼8Aが翼によってスロートを形成しないため、流れが部分的にしか転向していないことを意味する。
【0034】
このことから、リターンベーン8の後置翼8Bの前縁8B2の羽根角度は、少なくともリターンベーン8の前置翼8Aの羽根角度と同程度にしなければならないことが分かる。
【0035】
また、本実施例では、リターン流路6内に翼型のリターンベーン8が、リターン流路6内の上流側、下流側にそれぞれ前置翼列、後置翼列として円周方向に複数設置され、リターンベーン8の後置翼8Bの負圧面8B1に前置翼8Aの圧力面8A1側の流れを導くために、リターンベーン8の後置翼8Bは、前置翼8Aの圧力面8A1側にオフセットして設けられていると共に、図7に示すように、リターンベーン8の後置翼8Bの前縁8B2は、前置翼8Aの後縁8A2に対して回転軸4の中心からの径方向長さが短く設けられている(図7に示すL1>L2の関係になっている)。
【0036】
また、リターンベーン8の前置翼8Aの前縁8A3と後置翼8Bの後縁8B3とがなす角(θ)は、リターンベーン8の前置翼8Aの前縁8A3と周方向に隣接する前置翼8Aの前縁8A3とがなす角(γ)よりも小さくなっている。
【0037】
更に、本実施例では、リターンベーン8の前置翼8Aのキャンバーライン(翼の上面と下面から等しい距離にある点を結んだ線)8A4は、前置翼8Aの前縁8A3から後縁8A2にかけての前半部の50%以上が一定の羽根角度となっている。
【0038】
これは、図5に記載されているリターンベーン8の前置翼8Aのキャンバーライン8A4が、リターンベーン8の前置翼8Aの前縁8A3から後縁8A2にかけての前縁8A3側の半分以上(50%以上)に渡って角度が変わっていないことであり、図8に示すリターンベーン8の前置翼8Aにおける無次元径方向位置(横軸)と羽根角度分布(縦軸)の関係からも分かるように、リターンベーン8の前置翼8Aのキャンバーライン8A4が、リターンベーン8の前置翼8Aの前縁8A3から後縁8A2にかけての前縁8A3側の半分以上(50%以上)に渡って角度が変わっていない。
【0039】
このように構成される本実施例の遠心圧縮機100における効果は、以下の通りである。
【0040】
即ち、リターンベーン8のうちで上流側に設けられる前置翼8Aの入口羽根角(α)に対して周方向により寝かせる。具体的には、リターンベーン8の後置翼8Bの入口羽根角(β)と前置翼8Aの入口羽根角(α)をβ<αの関係にすることで、流体は流れ後置翼8Bの負圧面8B1側から流入する。
【0041】
これにより、リターンベーン8の前置翼8Aと後置翼8Bの翼間に構成される流路内の圧力を上昇させ、この流路を通過する流れの流速を上昇させることができ、流速が上昇すると、後置翼8Bの負圧面8B1を通過する流れの運動量が増えるため、後置翼8Bの負圧面8B1で生じる流れの剥離を抑えることが可能となる。流れの剥離を抑えることで、剥離に伴う効率低下抑制と流れの転向を両立することができる。
【0042】
加えて、リターンベーン8の後置翼8Bの負圧面8B1側に流れを衝突させることで、後置翼8Bの圧力面8B4の圧力が相対的に低下するため、後置翼8Bの圧力面8B4と隣接する後置翼8Bの負圧面8B1との間の圧力差が小さくなる。
【0043】
これにより、リターンベーン8の後置翼8Bの圧力面8B4と隣接する後置翼8Bの負圧面8B1との間で生じる二次流れが抑制される。この二次流れの抑制により、二次流れによる流れ場の損失を抑えることが可能となる。
【0044】
更に、リターンベーン8の前置翼8Aのキャンバーライン8A4が、前置翼8Aの前縁8A3から後縁8A2にかけての前半部の50%以上が一定の羽根角度とすることで、翼弦長をより長く確保することができる。
【0045】
これにより、リターンベーン8の前置翼8Aの翼負荷低減による翼負圧面での剥離抑制と、前置翼8Aの前縁8A3と後置翼8Bの前縁8B2との距離を長くすることで、隣接する翼間との間で生じる流れ方向圧力勾配が緩やかになるため、リターン流路6内の側壁上で発達する境界層の剥離を抑えることが可能となる。
【0046】
従って、本実施例の遠心圧縮機100によれば、静止流路の外径を縮小しつつ、効率の維持向上を図ることができるため、コストの低減と運用効率の向上が期待でき、また、外径縮小によって、遠心圧縮機100の場内における専有面積の低減も可能となる。
【実施例2】
【0047】
以下,本発明における遠心圧縮機の実施例2について、図4図5及び図9を用いて説明する。
【0048】
本実施例の遠心圧縮機100は、実施例1と同様、図4及び図5に示す円形翼列が多重に設けられるリターンベーン8が、リターン流路6における流体の流れの上流側から下流側に向かって二列に配置されている遠心圧縮機であり、そして、本実施例では、リターンベーン8のうちで下流側に設けられる後置翼8Bの入口羽根角βが、リターンベーン8のうちで上流側に設けられる前置翼8Aの入口羽根角αに対して、周方向により寝ていることを特徴とし、具体的には、リターンベーン8の後置翼8Bの入口羽根角βと前置翼8Aの入口羽根角αが、β<αの関係にある。
【0049】
次に、本実施例では、リターン流路6内に翼型のリターンベーン8が、リターン流路6内の上流側、下流側にそれぞれ前置翼列、後置翼列として円周方向に複数設置され、リターンベーン8の後置翼8Bの負圧面8B1に前置翼8Aの圧力面8A1側の流れを導くために、リターンベーン8の後置翼8Bは、前置翼8Aの圧力面8A1側にオフセットして設けられている。
【0050】
また、リターンベーン8の前置翼8Aの前縁8A3と後置翼8Bの後縁8B3とがなす角(θ)は、リターンベーン8の前置翼8Aの前縁8A3と周方向に隣接する前置翼8Aの前縁8A3とがなす角(γ)よりも小さくなっている。
【0051】
更に、本実施例では、前置翼8Aの最大キャンバー位置を、翼弦後半に設定している。この本実施例の遠心圧縮機100におけるリターンベーン8の前置翼8Aの形状的特徴を、図9を用いて説明する。
【0052】
図9は、本発明の遠心圧縮機100の実施例2におけるリターンベーン8の前置翼8Aの形状的特徴を示す図である。
【0053】
なお、図中に示す一転鎖線8A6は、前置翼8Aの前縁8A3と後縁8A2を結んだ直線である翼弦線を示し、図中に示す点線8A4は、前置翼8Aのキャンバーラインを示している。また、図中に示す矢印8A7は、翼弦線8A6の任意の位置から垂直方向に伸ばした垂線がキャンバーライン8A4に達するまでの距離である、前置翼8Aのキャンバーを示している。更に、図中に示す矢印8A8は、前置翼8Aのキャンバーが最大となる最大キャンバーを示している。
【0054】
図9の翼弦線8A6上において、前置翼8Aの前縁8A3から最大キャンバー8A8に至るまでの距離を、最大キャンバー位置と呼ぶ。最大キャンバー位置は、翼弦線8A6の長さ(翼弦長L)に対する割合(無次元翼弦位置)で表される。ここでは、前置翼8Aの前縁8A3は無次元翼弦位置が0%の位置に、後縁8A2は無次元翼弦位置が100%の位置に、それぞれ相当する。
【0055】
本実施例では、前置翼8Aの最大キャンバー位置を、翼弦中央(無次元翼弦位置が50%の位置)よりも後縁8A2側、即ち、翼弦後半に設定している。
【0056】
このように構成される本実施例の遠心圧縮機100における効果は、実施例1に記載のものと同様であるが、前置翼8Aの最大キャンバー位置を翼弦後半に設定したことで、更に以下のような効果が得られる。
【0057】
即ち、図9に示すように、前置翼8Aのキャンバーライン8A4が後縁8A2付近で急激に曲がる形状となるため、前置翼8Aの圧力面8A1に沿う流れの方向が、図5に示される後置翼8Bの負圧面8B1に向かう方向となる。
【0058】
この流れにより、後置翼8Bの負圧面8B1に沿って流れる流れが翼面に向かって押さえつけられ、後置翼8Bの負圧面8B1で生じる流れの剥離が抑制される。後置翼8Bの負圧面8B1で生じる流れの剥離を抑えることで、剥離に伴う効率低下抑制と流れの転向を両立することができる。
【0059】
なお、前置翼8Aのキャンバーライン8A4が急激に曲がる形状になっていると、その付近において前置翼8Aの負圧面8A5で流れが剥離し易くなるが、本実施例では、前置翼8Aのキャンバーライン8A4の急激な曲がりが後縁8A2付近に限定されるため、負圧面8A5の剥離域が後縁8A2近傍の領域に限定される。
【0060】
従って、前置翼8Aでの圧力損失増大を最小限に抑えつつ、後置翼8Bの負圧面8B1における流れの剥離を効果的に抑制することが可能となる。
【0061】
加えて本実施例では、実施例1と同様、図7に示すように、リターンベーン8の後置翼8Bの前縁8B2が、前置翼8Aの後縁8A2に対して回転軸4の中心からの径方向長さを短く(図7に示すL1>L2の関係)するのがより好ましい。
【0062】
これは以下の理由による。即ち、後置翼8Bの負圧面8B1で生じる流れの剥離の抑制のためには、前置翼8Aの圧力面8A1の後半部と、後置翼8Bの負圧面8B1の前半部の翼間に構成される流路幅をなるべく狭めるとともに、負圧面8B1上において最も翼面上の流速の減速が大きくなり剥離が生じやすい翼の前半付近に、前置翼8Aの圧力面8A1からの流れを向けることが最も有効である。
【0063】
一方、この前置翼8Aの圧力面8A1の後半部と、後置翼8Bの負圧面8B1の前半部の翼間に構成される流路幅を狭め過ぎると、この部位を切削加工する際に小径の加工工具を用いて切削せざるを得なくなり、加工性が悪化する。そこで、加工性が悪化しない程度に、前置翼8Aの圧力面8A1の後半部と、後置翼8Bの負圧面8B1の前半部の翼間に構成される流路幅を確保するためには、リターンベーン8の前置翼8Aの前縁8A3と後置翼8Bの後縁8B3とがなす角(θ)を小さくして、後置翼8Bの前置翼8Aの圧力面8A1側へのオフセット量を大きくするか、前置翼8Aの後縁8A2に対する後置翼8Bの前縁8B2が回転軸4の中心からの径方向長さを短くし、半径方向に隙間を設ける必要がある。
【0064】
本実施例のように、前置翼8Aのキャンバーライン8A4が後縁8A2付近で急激に曲がる形状となっている場合、リターンベーン8の前置翼8Aの前縁8A3と後置翼8Bの後縁8B3とがなす角(θ)の低減のみで前置翼8Aの圧力面8A1の後半部と、後置翼8Bの負圧面8B1の前半部の翼間に構成される流路幅を確保しようとすると、リターンベーン8の前置翼8Aの前縁8A3と後置翼8Bの後縁8B3とがなす角(θ)の低減量を大きくせざるを得ない。
【0065】
この際に、前置翼8Aの圧力面8A1からの流れが向かう位置が、後置翼8Bの負圧面8B1上において、最も翼面上の流速の減速が大きくなり剥離が生じやすい前半付近から、下流側に移動してしまい、負圧面8B1における流れの剥離抑制効果が低下してしまう。
【0066】
これを避けつつ、加工性が悪化しない程度に前置翼8Aの圧力面8A1の後半部と、後置翼8Bの負圧面8B1の前半部の翼間に構成される流路幅を確保するためには、後置翼8Bの前縁8B2が、前置翼8Aの後縁8A2に対して回転軸4の中心からの径方向長さが短くなるようにすると良い。即ち、後置翼8Bの前縁8B2と前置翼8Aの後縁8A2の間に半径方向隙間を設ける手段を採用した方が良い。
【0067】
本実施例の遠心圧縮機100によれば、静止流路の外径を縮小しつつ、効率の維持向上を図ることができるため、コストの低減と運用効率の向上が期待でき、また、外径縮小によって、遠心圧縮機100の場内における専有面積の低減も可能となる。
【0068】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換える事が可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加える事も可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をする事が可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…遠心羽根車、4…回転軸、5…ディフューザ、6…リターン流路、7a、7b…転向部、8…リターンベーン、8A…リターンベーンの前置翼、8A1…リターンベーンの前置翼の圧力面、8A2…リターンベーンの前置翼の後縁、8A3…リターンベーンの前置翼の前縁、8A4…リターンベーンの前置翼のキャンバーライン、8A5…リターンベーンの前置翼の負圧面、8A6…リターンベーンの前置翼の翼弦線、8A7…リターンベーンの前置翼のキャンバー、8A8…リターンベーンの前置翼の最大キャンバー、8B…リターンベーンの後置翼、8B1…リターンベーンの後置翼の負圧面、8B2…リターンベーンの後置翼の前縁、8B3…リターンベーンの後置翼の後縁、8B4…リターンベーンの後置翼の圧力面、9…転向部入口、10…転向部出口、12…リターンベーン前縁、15…吸込流路、16…吐出流路、19…ケーシング、20a、20b…フランジ、100…遠心圧縮機、L…翼弦長、α…リターンベーンの前置翼の入口羽根角、β…リターンベーンの後置翼の入口羽根角、θ…リターンベーンの前置翼の前縁と後置翼の後縁とがなす角、γ…リターンベーンの前置翼の前縁と周方向に隣接する前置翼の前縁とがなす角。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9