(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
H02K3/34 D
(21)【出願番号】P 2021018636
(22)【出願日】2021-02-08
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】榎本 裕治
(72)【発明者】
【氏名】床井 博洋
(72)【発明者】
【氏名】中原 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】三上 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利文
(72)【発明者】
【氏名】酒井 亨
(72)【発明者】
【氏名】天池 将
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼ 裕司
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/061904(WO,A1)
【文献】特開2012-157225(JP,A)
【文献】特開2004-112974(JP,A)
【文献】特開2005-312222(JP,A)
【文献】特開2008-271661(JP,A)
【文献】特開2016-187245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットがある固定子コアと、絶縁被覆された導線のコイルとを有し、
前記コイルは、
前記スロットに収納される複数の収納部と、前記スロットの外部にある複数のコイルエンド部とを有し、
前記コイルエンド部の導線は、屈曲形状を有し、また異相間で屈曲部がずれるように配置されることにより交差部を形成し、
前記屈曲形状の、前記交差部に対応する側にのみ、
かつ前記交叉部に対応する面にのみ、前記導線は前記異相間で同一側の面に絶縁部材を有する回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は小型化の要求がある一方で、電気絶縁性の向上が求められる。小型化の有効手段には、固定子の巻線占積率を高めて高出力密度化を図ることが有効である。巻線占積率の向上には、平角線などのセグメントコイルを用いた固定子構造が提案されている。セグメントコイルは、概略U字形状であり、一対の直線部とそれらと連続する傾斜部を有している。
【0003】
セグメントコイルの直線部は、それぞれ固定子コアに備えられているスロット内に収納され、セグメントコイルの概略U字形状は固定子コア軸方向の端部から突き出る構造となる。一対の直線部は、概略U字形状に備える傾斜部に対し、固定子コア軸方向の逆側の端部で曲げ加工されて、もう一方の傾斜部が形成される。セグメントコイルの傾斜部は、同様に形成された別のセグメントコイルの傾斜部と溶接して、所定数のセグメントコイルと連続的に接続されて固定子コイルのコイルエンドを構成する。
【0004】
コイルエンドの傾斜部では、セグメントコイルの異相が隣接するため、セグメントコイルに備えているエナメル絶縁被膜の絶縁強度が長期使用により低い状態になると、絶縁破壊が生じやすくなる懸念があった。これと同様に、コイルエンドの傾斜部の溶接位置は導体が露出しているので、溶接位置に絶縁補強をしないと絶縁破壊が生じる。
【0005】
特許文献1および特許文献2には、これら絶縁強度の低下を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-161212号公報
【文献】特開2018-117466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている回転電機の固定子は、コイルエンドのセグメントコイルの異相が隣接する部位に対して、軸方向や径方向の複数個所に絶縁物を配置することで異相間の絶縁強度を確保している。特許文献1のように絶縁物を配置する技術では、絶縁物を配置したセグメントコイルを、スロットに挿入可能な寸法裕度を設ける必要があるため、固定子寸法の大径化の懸念があった。同様に複数個所に絶縁物を配置するため、コイルエンドの大径化の懸念があった。
【0008】
特許文献2に開示されている回転電機の固定子は、コイルエンドの溶接位置に絶縁被覆のないセグメントコイルを用いる構造であるため、軸方向で隣接する異相のセグメントコイルの空間において、導体露出したセグメントコイルの軸方向に絶縁物を配置することで異相間の絶縁強度を確保している。特許文献2では、セグメントコイルの軸方向に絶縁物を極小空間に後付けで配置するため、絶縁物の取付け精度の低下による絶縁性能の低下、径方向の大径化、作業工数の増加の懸念があった。特許文献2は、コイルエンドの溶接位置の導体露出部に絶縁物を配置するのみであり、導体が絶縁被覆されたセグメントコイルへの絶縁物の配置に関しての開示はない。
【0009】
そこで発明者は、固定子コイルエンドにおいて、絶縁被覆された異相導線同士が隣接する内径または外径の一面に絶縁物を配置することで、初期および長期的な絶縁信頼性を向上できることを見出した。さらに、導線の内径又は外径の一面に絶縁物を、導線の幅寸法より広くすることにより、隣接する異相導線同士の沿面放電特性も向上できることも見出した。
【0010】
本発明の目的は、より少ない材料と、簡便な工法でコイルエンドの絶縁信頼性を向上した回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の好ましい一例としては、複数のスロットがある固定子コアと、絶縁被覆された導線のコイルとを有し、
前記コイルは、
前記スロットに収納される複数の収納部と、前記スロットの外部にある複数のコイルエンド部とを有し、
前記コイルエンド部の導線のうち、異相コイルの導線が近接する導線は、
前記異相コイルの導線が近接する内径面、または前記異相コイルの導線が近接する外径面のいずれかの一方の面のみに、絶縁部材を有する回転電機である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より少ない材料と、簡便な工法でコイルエンドの絶縁信頼性を向上した回転電機を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1における回転電機の断面斜視図である。
【
図2】実施例1における固定子の反接続側の斜視図である。
【
図3】実施例1におけるコイルエンドを拡大した斜視図である。
【
図5】実施例1における絶縁部材を配置したコイルの拡大図である。
【
図7】実施例2における絶縁部材を配置したコイルの拡大図である。
【
図8】実施例2における異相コイル間の沿面放電を抑制する態様を示す概略図である。
【
図9】本発明の実施例2の変形例であって、コイル表面に配置した絶縁部材の配置の一例を示す図である。
【
図11】実施例3における分割コイルの概略図である。
【
図12】実施例3における絶縁部材を配置したコイルの拡大図である。
【
図14】実施例4における分割コイルの概略図である。
【
図15】実施例4における絶縁部材を配置したコイルの拡大図である。
【
図16】実施例4における異相コイル間の沿面放電を抑制する態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて、実施例1から実施例4におけるラジアルギャップ型回転電機の構成及び動作について説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、実施例1の回転電機の概略構造を示す断面斜視図である。
図1に示すように回転電機100は、固定子2と回転子3から構成されているラジアルギャップ型回転電機である。回転電機100は、固定子2と、回転子3、シャフト4と、ハウジング5と、を備えている。
【0016】
図2は、固定子2の反接続側の概略構造を示す斜視図である。電源端子と接続される各相の口出し線がある接続側は、
図2の反対側である。固定子2には、複数のスロットがある固定子コア21と、絶縁被覆などの絶縁物を備えたコイル22とを有し、コイル22は、スロットに収納される複数の収納部(図示せず)と、スロットの外部にある複数のコイルエンド23とを有する。コイルを構成する導線は、平角線を例にして説明する。
【0017】
図3は、コイルエンドを拡大して示した斜視図である。コイルエンド23のコイル22は、固定子コア21の中心軸と対向する面24(内径面24)において、当該面の反対の面25(外径面25)において近接する。例えば、U1相241の内径面24は、V1相253、V2相254、W1相255の外径面25において近接する。近接するコイル間には、予め絶縁被膜(エナメル質被膜)を備えているが、モータ稼働時に初期の急峻な電圧上昇や長期的な熱劣化によって絶縁破壊が生じる懸念がある。また、反接続側に対向するコイルエンドの接続側には電源端子と接続される各相の口出し線がある。口出し線は高電圧が入力されるため、コイルエンドの傾斜部と同様に異相コイルとの近接部は、初期の急峻な電圧上昇や長期的な熱劣化によって絶縁破壊が生じる懸念がある。
【0018】
図4は、実施例1における固定子2の態様を示す概略図である。
図5は、本発明の絶縁部材26をコイルに取付けた態様を拡大して示す概略図である。
図4において、コイルエンド23のコイル221の内径面24の一つの傾斜部には、絶縁部材26をそれぞれ備えている。
【0019】
図5は、実施例1における絶縁部材を配置したコイルの拡大図である。
図5の下段は、上段におけるコイル221をa-aの線で、切断した断面を示す図である。
【0020】
図5において、絶縁部材はコイルの内径面24に取付けられており、下段のa-a断面に示すように、絶縁部材26の長さは、コイル221の表面の長さと同じである。
【0021】
絶縁部材26は、異相コイル同士が近接し、絶縁強度が低下する懸念がある位置、すなわち、コイルエンド23において、例えば、コイルエンド23の導線のうちU1相241コイル(導線)において、異相であるV1相コイル253が近接する内径面24のみに絶縁部材26を備える。これにより、コイルエンド23の径方向において近接する異相コイル同士の絶縁低下を抑制する。
【0022】
なお、上記に限らず、例えば、コイルエンド23の導線のうち、異相のコイルが近接する外径面25(内径面の反対の面)のみに、絶縁部材26を備えても同様の作用、効果が得られる。
【0023】
固定子のコイルエンドのコイルに備えた絶縁部材26は、絶縁フィルムや絶縁樹脂などが例示され、絶縁フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフレート、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミドなどからなるフィルムまたは粘着剤付きテープなどを使用することができる。これらは同時に2種類使用することができる。絶縁フィルムは、対象とする導線の面に接着または密着することで固定子の組立時にズレがなく精度良く配置できる。
【0024】
また、絶縁樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などを使用することができる。これらは同時に2種類使用することができる。絶縁樹脂は、対象とする導線の面に刷毛、スプレー、モールド、成型等で備えることで固定子の組立時にズレがなく精度よく配置できる。
【0025】
対象とする導線の面は粗面化することで、アンカー効果の作用を利用することができ、フィルムの樹脂の接着性や密着性などを高めることができる。
【0026】
上記した実施例では、コイルエンドの傾斜部に絶縁部材26を備えた例について説明した。それに限らず、電源端子と接続される各相の口出し線についても同様に、口出し線のうち異相コイルと近接する内径面、もしくは外径面に絶縁部材26を備えても同様の作用、効果が得られる。
【0027】
本実施例における回転電機100の固定子2には、コイルエンド23のコイル異相同士が近接する内径面24または、外径面25のいずれか一方の面にのみ絶縁部材26を備える。これにより、生産工数と材料を低減するとともに、コイルエンドの径方向において近接する異相コイル同士の絶縁低下を防止した固定子が得られる。したがって、絶縁信頼性の高い回転電機100を提供することができる。
【実施例2】
【0028】
図6は、実施例2における固定子2の態様を示す概略図である。
図7は、本実施例の絶縁部材26をコイルに取付けた態様を拡大して示す概略図である。本実施例において、実施例1と同じ内容については説明を省略する。
【0029】
図6において、コイルエンド23のコイル221の内径面24の一つの傾斜部には、絶縁部材26をそれぞれ備えている。
図8は異相コイルで生じる沿面放電を示す概略図である。
図9はコイル表面の絶縁部材の寸法と形状の関係を示す概略図である。
【0030】
図7は、実施例2における絶縁部材を配置したコイルの拡大図である。
図7の下段は、上段におけるコイル221をa-aの線で、切断した断面を示す図である。
【0031】
図7において、絶縁部材はコイルの内径面24に取付けられており、a-a断面に示すように、絶縁部材26の長さは、コイル221の表面の長さより長いことが特徴である。絶縁部材26は、異相コイル同士が近接し、絶縁強度が低下する懸念がある位置、すなわち、コイルエンド23において、例えばU1相241コイルに、異相であるV1相コイル253が近接する内径面24に絶縁部材26を備える。これにより、コイルエンドの径方向において近接する異相コイル同士の絶縁低下を抑制する。
【0032】
図8では、異相コイルとの近接するコイル221の内径面もしくは外径面の一面より絶縁部材26の長さが長く、絶縁部材26の両端の先端部は、コイル221上の絶縁部材26に比べて下方に傾斜している。
【0033】
さらに、
図8に示した異相コイル間の近接部において、絶縁部材26の長さが、コイル221の表面の長さより長いので、異相コイル間に生じる沿面放電31を抑制する。なお、絶縁部材26は内径面の代わりに、内径面の反対の面である外径面25に備えても同様の作用、効果が得られる。
【0034】
また、
図9には、コイル表面の絶縁部材26の配置の一例である。
図9の上段の構成では、異相コイルとの近接するコイル221の内径面もしくは外径面の一面より絶縁部材26の長さが長いが、
図8とは異なり、絶縁部材26の両端の先端部は、コイル221上の絶縁部材26に対して平行に伸びた構成である。
【0035】
図9の下段の構成では、絶縁部材26の両端の先端部は、コイル221の一面(図の上面)だけではなく、コイル221の厚さ方向の二面の表面上の一部に伸びる構成である。本構成は、上面と合わせてコイル221の三面に絶縁部材26が配置されている構成である。
図9の絶縁部材26の配置においても、
図8の絶縁部材と同様の効果がある。ただし、コイル221の一面上にのみ絶縁部材26を配置する方が、三面に絶縁部材26が配置されるより、絶縁部材を少なくでき、工数を低減できる。
【0036】
絶縁部材26は、実施例1と同様のものが使用でき、同様に、対象とする導線の面は粗面化することで、アンカー効果の作用を利用することができ、フィルムの樹脂の接着性や密着性などを高めることができる。
【0037】
本実施例における回転電機100の固定子2には、コイルエンド23のコイル異相同士が近接する内径面24または、外径面25にのみ絶縁部材26を備え、この絶縁部材26は、内径面24または外径面25の幅寸法よりも大きい幅寸法とする。これにより、生産工数と材料を低減するとともに、コイルエンドの径方向において近接する異相コイル同士、および沿面放電による絶縁低下を防止した固定子が得られる。したがって、より絶縁信頼性の高い回転電機100を提供することができる。
【実施例3】
【0038】
図10は、実施例3における固定子2の態様を示す概略図である。
図11は分割コイルの概略図である。
図12は、本実施例の絶縁部材26をコイルに取付けた態様を拡大して示す概略図である。本実施例において、上記した実施例と同じ内容については説明を省略する。
【0039】
図10に示す分割コイル223は、スロット内に収納されるコイルの収納部が、
図11に示した凹凸部225をスロット内で連続するように接続されている。
【0040】
図12は、実施例3における絶縁部材を配置したコイルの拡大図である。
図12の下段は、上段におけるコイル221をa-aの線で、切断した断面を示す図である。
【0041】
図12において、コイルエンド23のコイル221の内径面24の一つの傾斜部には、絶縁部材26をそれぞれ備えている。さらに絶縁部材はコイルの内径面24に取付けられており、a-a断面に示すように、絶縁部材26の長さは、コイル221の表面の長さと同じである。
【0042】
絶縁部材26は、異相コイル同士が近接し、絶縁強度が低下する懸念がある位置、すなわち、コイルエンド23において、例えばU1相241コイルに、異相であるV1相コイル253が近接する内径面24に絶縁部材26を備える。これにより、コイルエンドの径方向において近接する異相コイル同士の絶縁低下を抑制する。なお、絶縁部材26は内径面の代わりに、内径面の反対の面である外径面25に備えても同様の作用、効果が得られる。
【0043】
また、分割コイル223は、絶縁部材26を備えた部位を、スロット内に通さずに、分割コイル223をスロット内で接続できる。本実施例のコイルの収納部には絶縁部材26を配置する必要はない。そのため、絶縁部材26を通すための裕度をスロット内に設けずに最少の寸法設計で固定子を製作できる。
【0044】
絶縁部材26は、実施例1と同様のものが使用でき、同様に、対象とする導線の面は粗面化することで、アンカー効果の作用を利用することができ、フィルムの樹脂の接着性や密着性などを高めることができる。
【0045】
本実施例によれば、固定子の生産性を損なわずに、コイルエンドの異相導線間と導線沿面間の電気絶縁性を向上できるので、固定子および回転電機の絶縁信頼性を向上できる。
【0046】
本実施例における回転電機100の固定子2には、コイルエンド23のコイル異相同士が近接する内径面24または、外径面25にのみ絶縁部材26を備える。また、スロット内の寸法に裕度を設けずに最少の寸法設計で固定子を製作できる。これにより、生産工数と材料を低減するとともに、固定子のコイルエンドの径方向において小径化ができ、近接する異相コイル同士の絶縁低下を防止した固定子が得られる。したがって、小型化と絶縁信頼性の高い回転電機100を提供することができる。
【実施例4】
【0047】
図13は、実施例4における固定子2の態様を示す概略図である。
図14は分割コイルの概略図である。
図15は、本実施例の絶縁部材26をコイルに取付けた態様を拡大して示す概略図である。
図16は異相コイルで生じる沿面放電の抑制の態様を示す概略図である。本実施例において、上記した実施例と同じ内容については説明を省略する。
【0048】
図13に示す分割コイル223は、スロット内に収納されるコイルの収納部が、
図14に示した凹凸部225をスロット内で連続するように接続されている。
【0049】
図15は、実施例4における絶縁部材を配置したコイルの拡大図である。
図15の下段は、上段におけるコイル221をa-aの線で、切断した断面を示す図である。
【0050】
図15において、絶縁部材はコイルの内径面24に取付けられており、a-a断面に示すように、絶縁部材26の長さは、コイル221の表面の長さより長いことが特徴である。絶縁部材26は、異相コイル同士が近接し、絶縁強度が低下する懸念がある位置、すなわち、コイルエンド23において、例えばU1相241コイルに、異相であるV1相コイル253が近接する内径面24に絶縁部材26を備える。
【0051】
これにより、コイルエンドの径方向において近接する異相コイル同士の絶縁低下を抑制するとともに、
図16に示すように、絶縁部材26の長さが、コイル221の表面の長さより長いので、異相コイル間に生じる沿面放電31を抑制する。なお、絶縁部材26は内径面の代わりに、内径面の反対の面である外径面25に備えても同様の作用、効果が得られる。
【0052】
また、分割コイル223は、絶縁部材26を備えた部位をスロット内に通さずに、分割コイル223をスロット内で接続できるため、絶縁部材26を通すための裕度をスロット内に設けずに最少の寸法設計で固定子を製作できる。
【0053】
絶縁部材26は、実施例1と同様のものが使用でき、同様に、対象とする導線の面は粗面化することで、アンカー効果の作用を利用することができ、フィルムの樹脂の接着性や密着性などを高めることができる。
【0054】
本実施例における回転電機100の固定子2には、コイルエンド23のコイル異相同士が近接する内径面24または、外径面25にのみ絶縁部材26を備え、この絶縁部材26は、内径面24または外径面25の幅寸法よりも大きい幅寸法とする。
【0055】
本実施例によれば、生産工数と材料を低減するとともに、コイルエンドの径方向において小径化ができ、コイルエンドの径方向において近接する異相コイル同士、および沿面放電による絶縁低下を防止した固定子が得られる。したがって、小型化とより絶縁信頼性の高い回転電機100を提供することができる。
【0056】
上記した実施例では、コイルの導線は、平角線を例にして説明したが、コイルの導線を、複数の丸線を組み合わせた束として、断面を矩形状にしたコイルを用いてもよい。
【符号の説明】
【0057】
100…回転電機、2…固定子、3…回転子、4…シャフト、5…ハウジング、6…軸受、21…固定子コア、22…コイル、221…コイル、223…分割コイル、225…凹凸部、23…コイルエンド、24…コイルの内径面、25…コイルの外径面、26…絶縁部材、31…沿面放電