(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20240826BHJP
C08K 13/02 20060101ALI20240826BHJP
C08K 3/32 20060101ALN20240826BHJP
C08K 3/34 20060101ALN20240826BHJP
C08K 5/3462 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
C08L23/00 ZAB
C08K13/02
C08K3/32
C08K3/34
C08K5/3462
(21)【出願番号】P 2021019682
(22)【出願日】2021-02-10
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 辰哉
(72)【発明者】
【氏名】戸田 明秀
(72)【発明者】
【氏名】上田 拡充
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-222402(JP,A)
【文献】特開2002-224652(JP,A)
【文献】特開2013-124332(JP,A)
【文献】特開2016-203853(JP,A)
【文献】特開2016-027159(JP,A)
【文献】国際公開第2019/093204(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/069489(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00
C08K 13/02
C08K 3/32
C08K 3/34
C08K 5/3462
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法であって、
タルクを含む使用済みポリオレフィン樹脂廃
材と、
下記一般式(1)で表される第1の(ポリ)リン酸塩化合物と、
下記一般式(3)で表される第2の(ポリ)リン酸塩化合物とを含む原料を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を溶融混練する溶融混練工程と、を含み、
前記混合工程において、
前記第1の(ポリ)リン酸塩化合物と前記第2の(ポリ)リン酸塩化合物との合計を22質量%以上26質量%以下に調整した場合に、前記再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物に含まれる前記使用済みポリオレフィン樹脂廃材由来のタルクの含有量が1.3質量%未満となる場合には、さらに前記使用済みポリオレフィン樹脂廃材由来でないタルクを前記原料に添加することで、
前記再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中の前記第1の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量と前記第2の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量との合計を22質量%以上26質量%以下に調整し、且つ前記再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中のタルクの含有量を1.3質量%以上3.6質量%以下に調整する
、再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、nは、1~100の整数である。X
1
は、アンモニア又は下記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体である。pは、0<p≦n+2の関係を満たす整数である。)
【化2】
(式(2)中、Z
1
及びZ
2
は、それぞれ独立して、-NR
5
R
6
基、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基、フェニル基、及びビニル基からなる群より選択される基である。ここで、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はメチロール基である。)
【化3】
(式(3)中、rは、1~100の整数である。qは、0<q≦r+2の関係を満たす整数である。Y
1
は、〔R
1
R
2
N(CH
2
)
m
NR
3
R
4
〕、ピペラジン、又はピペラジン環を含むジアミンである。ここで、R
1
、R
2
、R
3
、及びR
4
は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1~5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基である。mは、1~10の整数である。)
【請求項2】
再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法であって、
タルクを含む使用済みポリオレフィン樹脂廃
材と、
下記一般式(1)で表される第1の(ポリ)リン酸塩化合物と、
下記一般式(3)で表される第2の(ポリ)リン酸塩化合物とを含む原料を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を溶融混練する溶融混練工程と、を含み、
前記混合工程において、
前記第1の(ポリ)リン酸塩化合物と前記第2の(ポリ)リン酸塩化合物との合計を22質量%以上26質量%以下に調整した場合に、前記再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物に含まれる前記使用済みポリオレフィン樹脂廃材由来のタルクの含有量が3.6質量%より多くなる場合には、さらに前記使用済みポリオレフィン樹脂廃材由来でないポリオレフィン樹脂を前記原料に添加することで、
前記再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中の前記第1の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量と前記第2の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量との合計を22質量%以上26質量%以下に調整し、且つ前記再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中のタルクの含有量を1.3質量%以上3.6質量%以下に調整する
、再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法。
【化4】
(式(1)中、nは、1~100の整数である。X
1
は、アンモニア又は下記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体である。pは、0<p≦n+2の関係を満たす整数である。)
【化5】
(式(2)中、Z
1
及びZ
2
は、それぞれ独立して、-NR
5
R
6
基、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基、フェニル基、及びビニル基からなる群より選択される基である。ここで、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はメチロール基である。)
【化6】
(式(3)中、rは、1~100の整数である。qは、0<q≦r+2の関係を満たす整数である。Y
1
は、〔R
1
R
2
N(CH
2
)
m
NR
3
R
4
〕、ピペラジン、又はピペラジン環を含むジアミンである。ここで、R
1
、R
2
、R
3
、及びR
4
は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1~5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基である。mは、1~10の整数である。)
【請求項3】
再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法であって、
タルクを含む使用済みポリオレフィン樹脂廃材と、下記一般式(1)で表される第1の(ポリ)リン酸塩化合物と、下記一般式(3)で表される第2の(ポリ)リン酸塩化合物とを含む原料を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を溶融混練する溶融混練工程と、を含み、
前記混合工程において、前記第1の(ポリ)リン酸塩化合物と前記第2の(ポリ)リン酸塩化合物とを添加することで、前記混合物中の前記第1の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量と前記第2の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量との合計を22質量%以上26質量%以下に調整し、且つ前記混合物中のタルクの含有量を1.3質量%以上3.6質量%以下に調整する、再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法。
【化7】
(式(1)中、nは、1~100の整数である。X
1
は、アンモニア又は下記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体である。pは、0<p≦n+2の関係を満たす整数である。)
【化8】
(式(2)中、Z
1
及びZ
2
は、それぞれ独立して、-NR
5
R
6
基、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基、フェニル基、及びビニル基からなる群より選択される基である。ここで、R
5
及びR
6
は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はメチロール基である。)
【化9】
(式(3)中、rは、1~100の整数である。qは、0<q≦r+2の関係を満たす整数である。Y
1
は、〔R
1
R
2
N(CH
2
)
m
NR
3
R
4
〕、ピペラジン、又はピペラジン環を含むジアミンである。ここで、R
1
、R
2
、R
3
、及びR
4
は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1~5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基である。mは、1~10の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物、その製造方法及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機等の家電製品や、複写機等のOA機器や、パーソナルコンピュータ等の情報機器が幅広く普及している。この結果、これら製品や機器の廃棄量は年々増加する傾向にあり、これに伴い、筐体や機構部品等に使用されていたプラスチック廃棄物の量も増加している。プラスチック廃棄物の大半は、これまで焼却や埋め立て等により処分されてきたが、環境汚染、地球温暖化、埋め立て処理場の不足等が大きな社会問題となっており、プラスチック廃棄物の再利用は緊急に解決すべき課題となっている。
【0003】
このような状況の下、資源の有効活用と廃棄物量の減量とを目的とした家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)が2001年4月に施行された。家電リサイクル法では、一般家庭や事務所から排出された家電製品(エアコン、ブラウン管テレビ、液晶・プラズマテレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機)のリサイクルが義務付けられ、それぞれの製品の再商品化率に対して法定基準値(エアコン80%以上、ブラウン管テレビ55%以上、液晶・プラズマテレビ74%以上、冷蔵庫・冷凍庫70%以上、洗濯機・衣類乾燥機82%以上)が定められている。
【0004】
家電リサイクル法の施行を受け、廃棄された製品に使用されていたプラスチック部材(以下、「プラスチック廃材」とも記載する)のリサイクル技術について各方面にて研究開発が進んでいる。こうして、様々なリサイクル方法が提案されている中、資源循環や環境負荷低減の観点からプラスチック廃材を再び製品のプラスチック部材として再利用するマテリアルリサイクルが注目されている。
【0005】
しかしながら、プラスチック廃材は使用環境による熱や紫外線等によって劣化している場合が多く、プラスチック廃材を粉砕してそのまま再成形しても未使用のプラスチックを成形した成形品と同等の特性(強度や難燃性)を得ることは難しい。このため、プラスチック廃材を、特性が高いプラスチック部材(例えば、家電製品、OA機器、情報機器等の耐久消費財の部品)として再利用することは困難であり、燃料として再利用するサーマルリサイクルや、特性の低いプラスチック部材(例えば、ハンガーや植木鉢等)として再利用するカスケードリサイクルが主流となっている。
【0006】
家電製品、OA機器、情報機器等の耐久消費財においては、製品の高機能化、軽量化、安全性向上等を目的に、強度、剛性、及び成形性に優れるプラスチックである、ポリオレフィン樹脂が広く使用されている。
【0007】
難燃性を備えるポリオレフィン樹脂(以下、「難燃性ポリオレフィン樹脂」とも記載する)として特許文献1には、ポリオレフィン樹脂に対して、特定の構造を有するリン酸塩化合物と、ドリップ防止剤とを配合することで、ハロゲン系難燃剤による燃焼時の有害なガスの発生が抑制され、難燃性に優れた樹脂組成物を実現できる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、廃棄された製品に使用されていたポリオレフィン樹脂部材(以下、「使用済みポリオレフィン樹脂廃材」とも記載する)を原料として作製した再生難燃性ポリオレフィン樹脂は、再生品ではない未使用の難燃性ポリオレフィン樹脂と比較して、十分な難燃性を得られないという問題があった。
【0010】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、優れた難燃性及び耐衝撃性を備える再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物、その製造方法及び成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研鑽した結果、使用済みポリオレフィン樹脂廃材をリサイクルして、イントメッセント系難燃剤を含む再生難燃性ポリオレフィン樹脂を製造した場合、当該樹脂中のタルクの含有量に起因して、難燃性が不十分となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、使用済みポリオレフィン樹脂廃材を含む再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物であって、下記一般式(1)で表される第1の(ポリ)リン酸塩化合物と、下記一般式(3)で表される第2の(ポリ)リン酸塩化合物と、タルクとを含み、前記第1の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量と前記第2の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量との合計が22質量%以上26質量%以下であり、前記タルクの含有量が1.3質量%以上3.6質量%以下であることを特徴とする再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物である。
【化1】
【化2】
【化3】
【0013】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、上記の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物から成形されることを特徴とする成形体である。
【0014】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、上記の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を製造する方法であって、使用済みポリオレフィン樹脂廃材に含まれるポリオレフィン樹脂と、タルクと、前記第1の(ポリ)リン酸塩化合物と、前記第2の(ポリ)リン酸塩化合物とを含む原料を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を溶融混練する溶融混練工程と、を含み、前記混合工程における原料が含むタルクは、前記使用済みポリオレフィン樹脂廃材由来のタルク、及び未使用のタルクの少なくとも一方であり、前記混合工程において、前記使用済みポリオレフィン樹脂廃材由来のタルクの含有量に応じて、タルク又はポリオレフィン樹脂を前記原料に添加することで、前記再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中のタルクの含有量を1.3質量%以上3.6質量%以下に調整することを特徴とする再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、優れた難燃性及び耐衝撃性を備える再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物、その製造方法及び成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物、その製造方法及び成形体を含む。以下、これらについて詳細に説明する。
【0017】
<再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物>
本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、使用済みポリオレフィン樹脂廃材(廃棄された製品に使用されていたポリオレフィン樹脂部材)をリサイクルしたものである。当該樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、任意成分を含有していてもよい。
【0018】
任意成分としては、例えば、ドリップ防止剤(フッ素系樹脂等)、酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系等)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、充填材(ガラス繊維、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等)、滑剤、可塑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、着色料(顔料、染料等)、金属不活性化剤、中和剤、分散剤が挙げられる。
【0019】
(使用済みポリオレフィン樹脂廃材)
使用済みポリオレフィン樹脂廃材としては、例えば、使用済みの洗濯機、冷蔵庫、エアコン等の家電製品、OA機器、情報機器、及び通信機器からなる群より選択される少なくとも1つの製品又は機器から回収される筐体や機構部品を用いることができる。なかでも、使用済みの洗濯機、冷蔵庫、エアコンから回収される筐体や機構部品が好適である。なお、その回収方法としては、手解体、機械選別等の公知の方法を採用することができる。
【0020】
使用済みポリオレフィン樹脂廃材は、主成分として、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。ここで、「主成分」とは、使用済みポリオレフィン樹脂廃材を構成する物質のうち最も含有率が高いものをいい、好ましくは含有率が50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。換言すれば、使用済みポリオレフィン樹脂廃材は、ポリオレフィン樹脂以外の成分を含んでいてもよく、例えば、後述するように、使用済みポリオレフィン樹脂廃材はタルクを含んでいてもよい。
【0021】
(ポリオレフィン樹脂)
上記使用済みポリオレフィン樹脂廃材におけるポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンブロック共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体、プロピレン-α-オレフィングラフト共重合体等が挙げられる。当該α-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン、ペンテン等の炭素原子数3~20のα-オレフィンが挙げられる。なお、当該ポリオレフィン樹脂は、これらの樹脂の混合物であってもよい。
【0022】
本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂の含有量は、65質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。ポリオレフィン樹脂の含有量が上記下限以上であることで、本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の成形性を向上させることができる。なお、本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂の含有量は、76.7質量%以下である。
【0023】
(イントメッセント系難燃剤)
本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、イントメッセント系難燃剤として、上記一般式(1)で表される第1の(ポリ)リン酸塩化合物と、上記一般式(3)で表される第2の(ポリ)リン酸塩化合物とを含有する。イントメッセント系難燃剤とは、燃焼が始まり加熱されるとともに発泡し、樹脂表面に泡状の断熱層を形成することで、難燃効果を発揮する難燃剤である。
【0024】
第1の(ポリ)リン酸塩化合物は、上記一般式(1)で表されるように、(ポリ)リン酸と、アンモニア又は上記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体との塩である。
【0025】
上記一般式(1)中、nは、1~100の整数である。X1は、アンモニア又は上記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体である。pは、0<p≦n+2の関係を満たす整数である。
【0026】
上記一般式(2)中、Z1及びZ2は、それぞれ独立して、-NR5R6基、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基、フェニル基、及びビニル基からなる群より選択される基である。ここで、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はメチロール基である。
【0027】
上記一般式(2)中において、Z1及びZ2で表される炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、第二ブチル基、第三ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、第三アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、第三ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、第三オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。また、Z1及びZ2で表される炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基としては、これらのアルキル基から誘導される基が挙げられる。
【0028】
上記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体としては、例えば、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4-ジアミノ-6-ノニル-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-エトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-プロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-イソプロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メルカプト-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0029】
第2の(ポリ)リン酸塩化合物は、上記一般式(3)で表されるように、(ポリ)リン酸と、〔R1R2N(CH2)mNR3R4〕、ピペラジン、又はピペラジン環を含むジアミンとの塩である。
【0030】
上記一般式(3)中、rは、1~100の整数である。qは、0<q≦r+2の関係を満たす整数である。Y1は、〔R1R2N(CH2)mNR3R4〕、ピペラジン、又はピペラジン環を含むジアミンである。ここで、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1~5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基である。mは、1~10の整数である。
【0031】
〔R1R2N(CH2)mNR3R4〕、ピペラジン、又はピペラジン環を含むジアミンとしては、例えば、N,N,N′,N′-テトラメチルジアミノメタン、エチレンジジアミン、N,N′-ジメチルエチレンジアミン、N,N′-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N,N′,N′-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N′,N′-テトラエチルエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノへプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、ピペラジン、trans-2,5-ジメチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられる。
【0032】
上記第1の(ポリ)リン酸塩化合物と、上記第2の(ポリ)リン酸塩化合物とを含有する混合物としては、例えば、株式会社ADEKA製の商品名アデカスタブ FP-2500S、アデカスタブ FP-2100JC等が挙げられる。
【0033】
本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中の、上記第1の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量と、上記第2の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量との合計は、22質量%以上26質量%以下である。より好ましい範囲としては、22質量%以上24質量%以下である。イントメッセント系難燃剤の含有量が上記範囲内であり、かつ、タルクの含有量が後述する範囲内であることにより、難燃性及び耐衝撃性に優れた再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を実現できる。
【0034】
上記第1の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量と、上記第2の(ポリ)リン酸塩化合物の含有量との合計が上記下限未満である場合、1.5mm厚に成形した際のUL94規格の燃焼性区分がV-0以上とはならず、十分な難燃性を得られないおそれがある。また、当該含有量の合計が上記上限を超える場合、JIS K7110に定めるIZOD衝撃強度が2.2kJ/m2以上とはならず、十分な耐衝撃性を得られないおそれがある。
【0035】
(タルク)
タルクとは、含水珪酸マグネシウム(Mg3Si4O10(OH)2)からなる鉱物であり、滑石とも呼ばれる。
【0036】
本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中のタルクの含有量は、1.3質量%以上3.6質量%以下である。より好ましい範囲としては、2質量%以上2.5質量%以下である。タルクの含有量を上記範囲内とすることで、使用済みポリオレフィン樹脂廃材をリサイクルした再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物において、優れた難燃性を実現できる。
【0037】
使用済みポリオレフィン樹脂廃材をリサイクルした再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物において、タルクの含有量が上記上限を超える場合や上記下限未満の場合には、1.5mm厚に成形した際のUL94規格の燃焼性区分がV-0以上とはならず、十分な難燃性を得られないおそれがある。
【0038】
本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中のタルクは、使用済みポリオレフィン樹脂廃材由来のタルク、及び未使用のタルクのどちらであってもよく、両方を合わせたものであってもよい。
【0039】
本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の原料として配合する未使用のタルクとしては、特に限定されないが、例えば、特開2018-150483号広報の段落[0019]に記載された市販品が挙げられ、具体的には、日本タルク株式会社製の製品名:ナノタルクナノエースシリーズのD-1000、FG-15、超微粉タルクSGシリーズのSG-2000、SG-200、SG-200N15、微粉タルクミクロエースシリーズのSG-95、P-8、P-6、P-4、P-3、P-2、L-1、K-1、L-G、RA-3、PAOG-3、汎用タルクのMS-P、MS-K、SWE、シムゴン、SSS、RA、PA-OG、富士タルク工業株式会社製の製品名:超微粉グレードのFH104、FH105、FH106、FH108、FL108、FG105、FG106、FH205、FH206、FS404、微粉グレードのML110、ML112、ML115、MG113、MG115、MS410、MS412、汎用グレードのRL119、RL217、RG319、RH415、RS415、RS515、RS613、株式会社福岡タルク工業所製の製品名:汎用タルクのFT-96、FT-92、FT-88、FT-84、FT-80、FT-76、微粒子タルクのMF-96、MF-92、MF-88、MF-84、超微粒子タルクのPS-5000H、PS-85H等が挙げられる。
【0040】
<再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法>
本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法は、使用済みポリオレフィン樹脂廃材に含まれるポリオレフィン樹脂と、タルクと、上記第1の(ポリ)リン酸塩化合物と、上記第2の(ポリ)リン酸塩化合物とを含む原料を混合する混合工程と、当該混合工程で得られた混合物を溶融混練する溶融混練工程とを含む。
【0041】
混合工程における原料が含むタルクは、使用済みポリオレフィン樹脂廃材由来のタルク、及び未使用のタルクの少なくとも一方である。そして、混合工程において、使用済みポリオレフィン樹脂廃材由来のタルクの含有量に応じて、タルク又はポリオレフィン樹脂を上記原料に添加することで、再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中のタルクの含有量を1.3質量%以上3.6質量%以下に調整する。
【0042】
当該製造方法において、例えば、使用済みポリオレフィン樹脂廃材に含まれるタルクが少ない場合や、使用済みポリオレフィン樹脂廃材に含まれるタルクが存在しない場合には、混合工程において、タルクを原料に添加することにより、再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中のタルクの含有量を1.3質量%以上3.6質量%以下に調整する。反対に、使用済みポリオレフィン樹脂廃材に含まれるタルクが多い場合には、混合工程において、ポリオレフィン樹脂を原料に添加することでタルクの濃度を希釈して、再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中のタルクの含有量を1.3質量%以上3.6質量%以下に調整する。当該原料に添加するポリオレフィン樹脂は、タルクの濃度を希釈することができれば特に限定されず、例えば、タルクを含有していない、又はタルクの含有量が少ない未使用のポリオレフィン樹脂や、タルクを含有していない、又はタルクの含有量が少ない使用済みポリオレフィン樹脂廃材を使用することができる。
【0043】
このように、当該混合工程において、再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中のタルクの含有量を上記範囲内となるように調整することにより、使用済みポリオレフィン樹脂廃材をリサイクルした再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物において、優れた難燃性を実現できる。
【0044】
なお、混合工程においては、本発明の効果を損なわない範囲において、任意成分を添加剤として混合してもよく、例えば、ドリップ防止剤(フッ素系樹脂等)、酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系等)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、充填材(ガラス繊維、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等)、滑剤、可塑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、着色料(顔料、染料等)、金属不活性化剤、中和剤、分散剤が挙げられる。
【0045】
<成形体>
本発明の成形体は、本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物から成形される成形体である。本発明の樹脂組成物は、溶融成形等により、例えば、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機等の家電製品、OA機器等の筐体や機構部品等の成形体に成形できる。本発明の成形体は、本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物のみから形成されていてもよく、他の材料から形成された部分を有していてもよい。本発明の成形体は、後述する実施例で示すように、本発明の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物から成形されることにより、優れた難燃性及び耐衝撃性を備える。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0047】
まず、実施例及び比較例で原料として用いた、ポリオレフィン樹脂(A成分)、イントメッセント系難燃剤としての第1及び第2の(ポリ)リン酸塩化合物(B成分及びC成分)、タルク(D成分)、ドリップ防止剤(E成分)について説明する。なお、以下において、符号に「′」を付けて表される物質は、使用済み家電製品(洗濯機や冷蔵庫やエアコン)から回収した使用済みポリオレフィン樹脂廃材由来のものであることを意味する。
【0048】
<A成分>:ポリオレフィン樹脂
・ポリオレフィン樹脂A′:使用済み家電製品から回収した使用済みポリオレフィン樹脂廃材に含まれるポリプロピレン樹脂
<B成分及びC成分>:イントメッセント系難燃剤
・アデカスタブ FP-2500S(商品名、株式会社ADEKA製)
<D成分>:タルク
・タルクD:SG-95(商品名、日本タルク株式会社製)
・タルクD′:使用済み家電製品から回収した使用済みポリオレフィン樹脂廃材に含まれるタルク
<E成分>:ドリップ防止剤
・ポリフロンFA-500H(商品名、ダイキン工業株式会社製)
【0049】
<再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物及び成形体の作製>
[実施例1~3、及び比較例1、2]
A成分としてのポリオレフィン樹脂A′、B成分及びC成分としてのアデカスタブ FP-2500S、D成分としてのタルクD′、並びにE成分としてのポリフロンFA-500Hを後掲する表1に示す質量割合で配合した原料を、タンブラー混合機を用いて混合して混合物を得た。
【0050】
この混合物を、スクリュー径27mm、スクリュー有効長L/D=45の二軸溶融混練押出機(株式会社テクノベル製)を用いて、設定温度200℃で加熱溶融混練し、溶融混練物を得た。次いで、この溶融混練物をストランド状に押出成形し、ペレタイザーを用いてカットし、ペレット状の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。押出条件は、吐出量12kg/h、スクリュー回転数150rpm、フィーダー回転数23rpmとした。
【0051】
上記のペレット状の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を、10トン縦型射出成型機(日精樹脂工業株式会社製)を用いて、設定温度220℃、金型温度40℃、冷却時間30秒の射出成形条件で、後述するASTM準拠の物性測定用試験片を作製した。
【0052】
また、80トン横型射出成型機(日精樹脂工業株式会社製)を用いて、設定温度220℃、金型温度40℃、冷却時間30秒の射出成形条件で、UL94規格準拠の難燃性測定用試験片を作製した。
【0053】
[実施例4~7、及び比較例3~5]
A成分としてのポリオレフィン樹脂A′、B成分及びC成分としてのアデカスタブ FP-2500S、D成分としてのタルクD(SG-95)及びタルクD′、並びにE成分としてのポリフロンFA-500Hを後掲する表2に示す質量割合で配合した原料を、タンブラー混合機を用いて混合して混合物を得た。
【0054】
この混合物を、スクリュー径27mm、スクリュー有効長L/D=45の二軸溶融混練押出機(株式会社テクノベル製)を用いて、設定温度200℃で加熱溶融混練し、溶融混練物を得た。次いで、この溶融混練物をストランド状に押出成形し、ペレタイザーを用いてカットし、ペレット状の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。押出条件は、吐出量12kg/h、スクリュー回転数150rpm、フィーダー回転数23rpmとした。
【0055】
上記のペレット状の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を、10トン縦型射出成型機(日精樹脂工業株式会社製)を用いて、設定温度220℃、金型温度40℃、冷却時間30秒の射出成形条件で、後述するASTM準拠の物性測定用試験片を作製した。
【0056】
また、80トン横型射出成型機(日精樹脂工業株式会社製)を用いて、設定温度220℃、金型温度40℃、冷却時間30秒の射出成形条件で、UL94規格準拠の難燃性測定用試験片を作製した。
【0057】
<評価>
実施例及び比較例の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物について、下記方法に従い各種測定を行い、難燃性及び耐衝撃性を評価した。実施例及び比較例ごとの原料の配合割合、並びに評価結果を、表1及び表2に示す。
【0058】
(IZOD衝撃強度の測定方法)
ASTM準拠の物性測定用試験片を作製し、JIS K7110に準じてノッチ付きIZOD衝撃強度を測定した。
【0059】
(難燃性の評価方法)
UL94規格準拠の長さ127mm×幅13mm×厚み1.5mmの垂直燃焼試験片を作製し、UL94規格に準じて垂直燃焼試験を行い、燃焼性区分を判定した。なお、V-0、V-1、V-2すべての基準を満たさない場合はV-2以下と判定した。
【0060】
(総合判定の方法)
上記のUL94規格の燃焼性区分がV-0以上であり、且つ、上記のIZOD衝撃強度が2.2kJ/m2以上である場合に、難燃性及び耐衝撃性が良好(○)であると判定し、どちらか一方でも上記基準を満たさない場合には不良(×)であると判定した。
【0061】
【0062】
【0063】
表1及び表2から明らかなように、使用済みポリオレフィン樹脂廃材(ポリオレフィン樹脂A′やタルクD′)を含む再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物であって、第1及び第2の(ポリ)リン酸塩化合物(B及びC成分)と、タルク(D成分)とを含み、第1及び第2の(ポリ)リン酸塩化合物(B及びC成分)の含有量が22質量%以上26質量%以下であり、タルク(D成分)の含有量が1.3質量%以上3.6質量%以下である実施例1~7の再生難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、難燃性及び耐衝撃性の評価が優れるものであった。
【0064】
これに対して、これらの要件を満たさない比較例1~5は、難燃性又は耐衝撃性の評価が実施例に対して劣っていた。
【0065】
具体的には、第1及び第2の(ポリ)リン酸塩化合物(B及びC成分)の含有量が上記下限未満である比較例1においては難燃性が、当該含有量が上記上限を超える比較例2においては耐衝撃性が、それぞれ実施例に対して劣っていた。
【0066】
また、タルク(D成分)の含有量が上記下限未満である比較例3においては難燃性が、当該含有量が上記上限を超える比較例4及び比較例5においても難燃性が、それぞれ実施例に対して劣っていた。
【0067】
<その他の実施形態>
なお、今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。