(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】制御装置、軌索式ケーブルクレーン及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B66C 21/00 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
B66C21/00 F
(21)【出願番号】P 2021021393
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】戸田 泰彰
(72)【発明者】
【氏名】赤木 晃
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-036074(JP,A)
【文献】特開平7-133618(JP,A)
【文献】特開平7-117983(JP,A)
【文献】特開平10-017270(JP,A)
【文献】特開平11-005689(JP,A)
【文献】米国特許第06145679(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06;
21/00-21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主索塔と、一対の軌索塔と、一対の前記軌索塔の間に張られた軌索と、前記軌索に沿って移動可能な走行トロリーと、前記主索塔と前記走行トロリーとの間に張られた主索と、前記主索に沿って移動可能な横行トロリーと、を備える軌索式ケーブルクレーンを制御する制御装置であって、
第一の座標系にて示された一の工程における前記横行トロリーの位置を示す座標を、一対の前記軌索塔のうちの一方の前記軌索塔から一対の前記軌索塔同士を結ぶ直線と前記主索の延長線との交点までの距離である第一距離と、前記主索塔から前記横行トロリーまでの距離である第二距離と、で表される第二の座標系にて示された形に変換する変換手段と、
前記変換手段が座標系を変換した前記座標に基づいて、前記走行トロリー及び前記横行トロリーの移動を制御する移動制御手段と、を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記第一の座標系は、少なくとも緯度及び経度で表されるグローバル座標系であることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第一の座標系を用いて製図された施工する構造物の設計図面のデータを取得する取得手段を備え、
前記変換手段は、前記データから、変換対象となる前記座標を抽出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記移動制御手段は、
前記横行トロリーの現在の位置を示す座標を繰り返し取得する第二取得手段と、
前記第二取得手段が前記横行トロリーの現在の位置を示す座標を取得する度に、取得した前記座標を第二の座標系にて示された形に変換する第二変換手段と、
前記第二変換手段が座標系を変換する度に、前記変換手段が座標系を変換した前記座標と、前記第二変換手段が座標系を変換した前記座標と、を比較する比較手段と、を備え、
前記変換手段が座標系を変換した前記座標と前記第二変換手段が座標系を変換した前記座標との差が無くなるまで、前記走行トロリー及び前記横行トロリーを移動させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
主索塔と、一対の軌索塔と、一対の前記軌索塔の間に張られた軌索と、前記軌索に沿って移動可能な走行トロリーと、前記主索塔と前記走行トロリーとの間に張られた主索と、前記主索に沿って移動可能な横行トロリーと、を備える軌索式ケーブルクレーンであって、
第一の座標系にて示された一の工程における前記横行トロリーの位置を示す座標を、一対の前記軌索塔のうちの一方の前記軌索塔から一対の前記軌索塔同士を結ぶ直線と前記主索の延長線との交点までの距離である第一距離と、前記主索塔から前記横行トロリーまでの距離である第二距離と、で表される第二の座標系にて示された形に変換する変換手段と、
前記変換手段が座標系を変換した前記座標に基づいて、前記走行トロリー及び前記横行トロリーの移動を制御する移動制御手段と、を備えることを特徴とする軌索式ケーブルクレーン。
【請求項6】
主索塔と、一対の軌索塔と、一対の前記軌索塔の間に張られた軌索と、前記軌索に沿って移動可能な走行トロリーと、前記主索塔と前記走行トロリーとの間に張られた主索と、前記主索に沿って移動可能な横行トロリーと、を備える軌索式ケーブルクレーンを制御する制御装置に、
第一の座標系にて示された一の工程における前記横行トロリーの位置を示す座標を、一対の前記軌索塔のうちの一方の前記軌索塔から一対の前記軌索塔同士を結ぶ直線と前記主索の延長線との交点までの距離である第一距離と、前記主索塔から前記横行トロリーまでの距離である第二距離と、で表される第二の座標系にて示された形に変換する変換処理と、
前記変換処理において座標系を変換した前記座標に基づいて、前記走行トロリー及び前記横行トロリーの移動を制御する移動制御処理と、を実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、軌索式ケーブルクレーン及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダム堤体の建設等に用いられる軌索式ケーブルクレーンにおいて、設計図面等の位置情報(位置を示す座標)に基づいて、コンクリートを収容するコンクリートバケットを、予め定めた打設位置へ自動的に移動させる自動運転を行うための各種技術が従来提案されている。
例えば、特許文献1には、3次元マップ及びコンクリートバケットの運搬開始位置と到達位置との座標データにより、運搬開始位置から到達位置までの理想の移動軌跡をシミュレーションし、実際の移動軌跡との間に誤差が有る場合にコンピュータが理想の移動軌跡に基づく上下限が存在するクルーズコントロール範囲を求めるクルーズコントロールを実行するケーブルクレーンの自動運転方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動運転を制御する制御装置にインプットされる設計図面のデータは、CIM(Construction Information Modeling)に準拠した形式になっていることが一般的である。
こうしたデータの多くは、緯度、経度及び標高で表されるグローバル座標系を用いて位置を規定している。
ところで、グローバル座標系にて示された座標を自動運転で利用するためには、その座標系を、グローバル座標系からローカル座標系へと変換する必要がある。
この座標系を変換するための演算では、回転座標変換の計算式に三角関数を使用するのが一般的である。
【0005】
しかしながら、従来の三角関数を用いた座標系の変換では、実際の座標の数値を算出する際に、数値をある程度の桁数で丸め込む必要がある。しかし、この丸め込みによる元の数値との差は、最終的にコンクリートバケットの到達位置がずれる原因となってしまう。
一方、変換前後の数値に差ができるのをできる限り抑えるため、演算の際の有効桁数を増やすことが考えられる。しかし、このようにすると、制御装置にかかる負荷が増えて演算速度が遅くなり、施工に遅延を生じさせてしまう可能性がある。
なお、計算能力の高い制御装置や専用の計算ソフトを使用することで、施工の遅延という問題を回避することは可能となるが、こうした計算機やソフトは高価であるため、設備に必要以上のコストをかけることになってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、施工に遅延を生じさせることなく、又は設備に必要以上のコストをかけることなく、自動運転を行う軌索式ケーブルクレーンが、横行トロリー(に吊るされるコンクリートバケット)を目的の位置に正確に移動させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、
主索塔と、一対の軌索塔と、一対の前記軌索塔の間に張られた軌索と、前記軌索に沿って移動可能な走行トロリーと、前記主索塔と前記走行トロリーとの間に張られた主索と、前記主索に沿って移動可能な横行トロリーと、を備える軌索式ケーブルクレーンを制御する制御装置であって、
第一の座標系にて示された一の工程における前記横行トロリーの位置を示す座標を、一対の前記軌索塔のうちの一方の前記軌索塔から一対の前記軌索塔同士を結ぶ直線と前記主索の延長線との交点までの距離である第一距離と、前記主索塔から前記横行トロリーまでの距離である第二距離と、で表される第二の座標系にて示された形に変換する変換手段と、
前記変換手段が座標系を変換した前記座標に基づいて、前記走行トロリー及び前記横行トロリーの移動を制御する移動制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の制御装置であって、
前記第一の座標系は、少なくとも緯度及び経度で表されるグローバル座標系であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、
請求項1又は請求項2に記載の制御装置であって、
前記第一の座標系を用いて製図された施工する構造物の設計図面のデータを取得する取得手段を備え、
前記変換手段は、前記データから、変換対象となる前記座標を抽出することを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に係る発明は、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制御装置であって、
前記移動制御手段は、
前記横行トロリーの現在の位置を示す座標を繰り返し取得する第二取得手段と、
前記第二取得手段が前記横行トロリーの現在の位置を示す座標を取得する度に、取得した前記座標を第二の座標系にて示された形に変換する第二変換手段と、
前記第二変換手段が座標系を変換する度に、前記変換手段が座標系を変換した前記座標と、前記第二変換手段が座標系を変換した前記座標と、を比較する比較手段と、を備え、
前記変換手段が座標系を変換した前記座標と前記第二変換手段が座標系を変換した前記座標との差が無くなるまで、前記走行トロリー及び前記横行トロリーを移動させることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明は、
主索塔と、一対の軌索塔と、一対の前記軌索塔の間に張られた軌索と、前記軌索に沿って移動可能な走行トロリーと、前記主索塔と前記走行トロリーとの間に張られた主索と、前記主索に沿って移動可能な横行トロリーと、を備える軌索式ケーブルクレーンであって、
第一の座標系にて示された一の工程における前記横行トロリーの位置を示す座標を、一対の前記軌索塔のうちの一方の前記軌索塔から一対の前記軌索塔同士を結ぶ直線と前記主索の延長線との交点までの距離である第一距離と、前記主索塔から前記横行トロリーまでの距離である第二距離と、で表される第二の座標系にて示された形に変換する変換手段と、
前記変換手段が座標系を変換した前記座標に基づいて、前記走行トロリー及び前記横行トロリーの移動を制御する移動制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に係る発明は、
プログラムであって、
主索塔と、一対の軌索塔と、一対の前記軌索塔の間に張られた軌索と、前記軌索に沿って移動可能な走行トロリーと、前記主索塔と前記走行トロリーとの間に張られた主索と、前記主索に沿って移動可能な横行トロリーと、を備える軌索式ケーブルクレーンを制御する制御装置に、
第一の座標系にて示された一の工程における前記横行トロリーの位置を示す座標を、一対の前記軌索塔のうちの一方の前記軌索塔から一対の前記軌索塔同士を結ぶ直線と前記主索の延長線との交点までの距離である第一距離と、前記主索塔から前記横行トロリーまでの距離である第二距離と、で表される第二の座標系にて示された形に変換する変換処理と、
前記変換処理において座標系を変換した前記座標に基づいて、前記走行トロリー及び前記横行トロリーの移動を制御する移動制御処理と、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、施工に遅延を生じさせることなく、又は設備に必要以上のコストをかけることなく、自動運転を行う軌索式ケーブルクレーンが、横行トロリーを目的の位置に正確に移動させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る軌索式ケーブルクレーンを含む施工システムを示す斜視図である。
【
図2】
図1の施工システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1のケーブルクレーンが備える制御装置が実行する処理の概要を示す概念図である。
【
図4】構造物を施工する際の
図1の軌索式ケーブルクレーンの動作を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
ただし、本発明の技術的範囲は、下記実施形態や図面に例示したものに限定されるものではない。
【0016】
<1.施工システムの概要>
初めに、本発明の実施形態に係る施工システム100の概要について説明する。
図1は施工システム100を示す斜視図、
図2は施工システム100の電気的構成を示すブロック図である。
【0017】
施工システム100は、例えば
図1に示すように、軌索式ケーブルクレーン(以下、クレーン101)と、コンクリート供給設備(以下、供給設備102)と、を備えている。
なお、
図1には、ダム堤体Dの施工に用いられる施工システム100を例示したが、施工システム100は、他の構造物(例えば橋梁等)の施工、物資の運搬等にも用いることができる。
【0018】
〔1-1.軌索式ケーブルクレーンの概略構成〕
クレーン101は、
図1,2に示すように、主索塔1と、一対の軌索塔2と、軌索3と、走行トロリー4と、主索5と、横行トロリー6と、制御装置7と、駆動装置8と、を備えている。
また、本実施形態に係るクレーン101は、コンクリートバケット9を更に備えている。
【0019】
主索塔1は、谷間におけるダム堤体Dの施工箇所を挟む一方の山M1の頂上に立設されている。
なお、主索塔1は、一方の山M1の中腹(斜面)に立設されていてもよい。
【0020】
一対の軌索塔2は、施工箇所を挟む一方の山M1とは反対側の他方の山M2の頂上に立設されている。
各軌索塔2は、谷に沿う方向に並んでいる。
なお、一対の軌索塔2のうちの少なくとも一方は、他方の山M2の中腹に立設されていてもよい。
【0021】
軌索3は、一対の軌索塔2の各上端部の間に張られている。
【0022】
走行トロリー4は、軌索3に沿って移動可能となっている。
具体的には、走行トロリー4は、図示しない滑車が軌索3に掛けられることで軌索3にガイドされるようになっており、自身に接続された図示しないケーブルが引っ張られる(駆動装置8によって巻き取られる)ことにより移動する。
【0023】
主索5は、主索塔1の上端部と走行トロリー4との間に張られている。
【0024】
横行トロリー6は、主索5に沿って移動可能となっている。
具体的には、横行トロリー6は、図示しない滑車が主索5に掛けられることで主索5にガイドされるようになっており、自身に接続された図示しないケーブルが引っ張られる(駆動装置8によって巻き取られる)ことにより移動する。
また、本実施形態に係る横行トロリー6は、自身の現在の位置を示す座標を検出し制御装置7へ送信する動作を繰り返す位置検出部61(例えば、GPS受信機等)を備えている。
【0025】
制御装置7は、クレーン101の各部を制御するものである。
本実施形態に係る制御装置7は、施工現場全体を俯瞰できる箇所に設けられた図示しない操作室に備えられている。
この制御装置7の詳細については後述する。
【0026】
駆動装置8は、走行ウインチ81と、巻上げウインチ82と、横行ウインチ83と、を備えている。
【0027】
走行ウインチ81は、制御装置7による制御に基づいて、走行トロリー4を移動させる。
具体的には、走行ウインチ81は、制御装置7による制御に基づいて図示しないモータを回転させ、走行トロリー4に接続されたケーブルを巻き取る又は送り出すことにより走行トロリー4を移動させる。
本実施形態に係る走行ウインチ81は、一対の軌索塔2の間に設けられた第一の機械室R1に備えられている。
【0028】
巻上げウインチ82は、制御装置7による制御に基づいて、主索5の長さを調節する。
具体的には、巻上げウインチ82は、制御装置7による制御(走行トロリー4の位置)に基づいて図示しないモータを回転させ、主索5を巻き取る又は送り出すことにより主索塔1と走行トロリー4との間に張られる主索5の長さを調節する。
本実施形態に係る巻上げウインチ82は、主索塔1の近傍に設けられた第二の機械室R2に備えられている。
【0029】
横行ウインチ83は、制御装置7による制御に基づいて、横行トロリー6を移動させる。
具体的には、横行ウインチ83は、制御装置7による制御に基づいて図示しないモータを回転させ、横行トロリー6に接続されたケーブルを巻き取る又は送り出すことにより横行トロリー6を移動させる。
本実施形態に係る横行ウインチ83は、巻上げウインチ82と共に第二の機械室R2に備えられている。
【0030】
コンクリートバケット9は、コンクリートを収容する容器である。
コンクリートバケット9は、横行トロリー6に吊り下げられており、鉛直方向に移動可能となっている。
コンクリートバケット9の下端には、開閉可能なコンクリートの吐出口と、図示しないリモコンになされた操作に応じて吐出口の開閉を制御する図示しない制御部と、が設けられている。
そして、コンクリートバケット9は、リモコンが操作されたことに応じて突出口を開閉させるようになっている。
なお、コンクリートバケット9は、制御装置7による制御又は駆動装置8からの操作に応じて突出口を開閉させるようになっていてもよい。
【0031】
〔1-2.コンクリート供給設備の概略構成〕
供給設備102は、コンクリートバケット9が運搬するための生コンクリートを供給するものである。
本実施形態に係る供給設備102は、他方の山M2のダム堤体Dの施工箇所との間に設けられている。
なお、供給設備102は、一方の山M1のダム堤体Dの施工箇所との間に設けられていてもよい。
供給設備102は、バッチャープラント102aと、バンカー線102bと、トランスファーカー102cと、図示しない第二制御装置と、を備えている。
【0032】
バッチャープラント102aは、セメント、水、骨材を混錬して生コンクリートを製造する。
バンカー線102bは、供給設備102の敷地に、バッチャープラント102aの下から軌索3と略平行に延びるように敷設されている。
トランスファーカー102cは、バッチャープラント102aにおいて製造された生コンクリートを運搬するもので、バンカー線102bに沿って移動可能となっている。
また、第二制御装置は、供給設備102の各部を制御する。
なお、第二制御装置は、上記制御装置7と一体になっていてもよい。
【0033】
〔1-3.施工システムの概略動作〕
このように構成された施工システム100は、構造物を施工する際、下記(a)~(g)のような流れで動作する。
(a)バッチャープラント102aが生コンクリートを製造する。
(b)バッチャープラント102aが生コンクリートを製造している間、制御装置7が駆動装置8を制御することで、横行トロリー6及びコンクリートバケット9が所定のコンクリート受け渡し位置へ移動するとともに、巻上げウインチ82が主索5の長さを調節する。
(c)横行トロリー6が移動するのと並行して、制御装置7がバッチャープラント102a及びトランスファーカー102cを制御することで、トランスファーカー102cがバッチャープラント102aへと移動するとともに、バッチャープラント102aが所定量の生コンクリートをトランスファーカー102cへ移す。
(d)制御装置7がトランスファーカー102cを制御することで、トランスファーカー102cがコンクリート受け渡し位置まで移動し、搭載している生コンクリートを待機しているコンクリートバケット9へ移す。
(e)制御装置7が駆動装置8を制御することで、走行トロリー4及び横行トロリー6が移動し、コンクリートバケット9が打設位置上方に位置する。
(f)打設位置の近傍にいる作業員がリモコンを操作することで、コンクリートバケット9が生コンクリートを吐出口から吐出する(打設する)。
(g)上記(a)の工程を継続しつつ、上記(b)~(f)の工程を、打設位置を変えつつ必要回数繰り返す。
【0034】
<2.制御装置の詳細>
次に、上記クレーン101が備える制御装置7の詳細について説明する。
図3は制御装置7が実行する処理の概要を示す概念図、
図4は構造物を施工する際のクレーン101の動作を示す平面図である。
【0035】
〔2-1.制御装置の具体的構成〕
制御装置7は、例えば
図2に示したように、制御部71と、記憶部72と、通信部73と、を備えている。
各部71~73は、バス等で電気的に接続されている。
【0036】
制御部71は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等により構成されている。
そして、CPUは、記憶部72に記憶されている各種プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って各種処理を実行し、制御装置7の各部の動作を集中制御する。
【0037】
記憶部72は、不揮発性のメモリーやハードディスク等により構成されている。
また、記憶部72は、CPUが実行する各種プログラム等を記憶している。
また、記憶部72は、施工する構造物の設計情報を記憶している。
【0038】
通信部73は、通信モジュール等で構成されている。
そして、通信部73は、通信ネットワークNを介して有線又は無線で接続された他の装置(横行トロリー6の位置検出部61、駆動装置8、供給設備102等)との間で各種信号や各種データを送受信するようになっている。
【0039】
なお、制御装置7は、制御部71から受信した画像信号に応じた画像等を表示する表示部、ユーザーによってなされた操作に応じた制御信号を制御部71へ出力する操作部等を備えていてもよい。
【0040】
〔2-2.制御装置の具体的動作〕
このように構成された制御装置7の制御部71は、以下のように動作する。
【0041】
(データ取得)
例えば、制御部71は、ダム堤体Dの施工開始前に取得処理を実行する。
この取得処理において、制御部71は、施工する構造物の設計図面のデータを取得する。
取得するデータは、第一の座標系を用いて製図されたものとなっている。
第一の座標系は、例えば
図3の上段に示すような、少なくとも緯度及び経度(緯度、経度及び標高)で表される(X軸、X軸と直交するY軸、X軸及びY軸と直交するZ軸で規定される)グローバル座標系である。
本実施形態に係る取得処理において、制御部71は、取得したデータを記憶部72に記憶させる。
制御部71は、以上説明してきた取得処理を実行することにより取得手段をなす。
【0042】
(座標変換)
また、制御部71は、データを取得した後に変換処理を実行する。
本実施形態に係る変換処理において、制御部71は、まず、記憶部72に記憶されているデータから、変換対象となる座標(xa,ya)を抽出する。
変換対象となる座標は、施工の各工程(トランスファーカー102cからの生コンクリートの受け取り工程、生コンクリートの打設工程等)における横行トロリー6(下に吊るされるコンクリートバケット9)の位置を示す座標である。
【0043】
変換対象となる座標を抽出した後、制御部71は、第一の座標系にて示された変換対象となる座標(x
a,y
a)を、第二の座標系にて示された形に変換する。
第二の座標系は、例えば
図3の下段に示すように、第一距離Hと、第二距離Lと、で表される。
第一距離Hは、一対の軌索塔2のうちの一方の軌索塔2(一方の軌索塔2と軌索3との接続点P
1)から一対の軌索塔2(両軌索塔2と軌索3との各接続点P
1,P
2)同士を結ぶ直線l
1と主索5の延長線(主索塔1と主索5との接続点P
0及び横行トロリー6の中心点P
Aを通る直線)l
2との交点P
Bまでの距離である。
第二距離Lは、主索塔1(主索塔1と主索5との接続点P
0)から横行トロリー6(横行トロリー6の中心点P
A)までの距離である。
【0044】
この変換処理において用いられる変換式は特に限定されるものではないが、第一距離H及び第二距離Lは、グローバル座標系の座標から三角関数を用いない演算によって算出することができる値である。
また、主索塔1と主索5との接続点P0、及び一対の軌索塔2と軌索3との各接続点P1,P2は、いずれも座標が既知であり、且つ不動である。従って、この変換処理において第一距離H及び第二距離Lを算出することで、横行トロリー6及びその下に吊るされたコンクリートバケット9の位置を示す座標(L,H)は一意に定まることとなる。
なお、緯度、経度及び標高のうちの標高については、座標変換をする前も後もコンクリートバケット9を吊るケーブルの巻き取り量によって規定すればよいため、本実施形態に係る変換処理において、制御部71は、緯度及び経度のみ(2次元平面内での)変換を行う。
【0045】
ところで、コンクリートバケット9は、構造物の施工に必要なコンクリートを一回で全量運搬することはできない。このため、構造物の施工を行う際、制御部71は、上記変換処理を複数回実行することになる。
例えば、例えば最初の工程(最初のコンクリート受け渡し工程)における横行トロリー6(下に吊るされるコンクリートバケット9)の位置を示す座標を(L0,H0)に変換し、その次の工程(コンクリート打設工程)における横行トロリー6の位置を示す座標を(L1,H1)に変換し、その次の工程(次のコンクリート受け渡し工程)における横行トロリー6の位置を示す座標を(L2,H2)に変換する。
この次以降の工程(変換対象となる座標(xa,ya))が更にある場合、制御部71は、その次以降の工程における横行トロリー6の位置を示す座標を(L3,H3)・・(Ln,Hn)に変換する。
制御部71は、以上説明してきた変換処理を実行することにより変換手段をなす。
【0046】
(移動制御)
また、制御部71は、上記変換処理を実行した後に移動制御処理を実行する。
この移動制御処理において、制御部71は、座標系を変換した座標に基づいて、走行トロリー4及び横行トロリー6の移動を制御する。
具体的には、制御部71は、走行ウインチ81を駆動させることにより、走行トロリー4を上記交点PBが一方の軌索塔2から第一距離H離れることになる位置まで移動させる。
また、制御部71は、巻上げウインチ82及び横行ウインチ83を駆動させることにより、横行トロリー6を主索塔1から第二距離L離れた位置まで移動させる。
【0047】
本実施形態に係る移動制御処理において、制御部71は、走行ウインチ81、巻上げウインチ82及び横行ウインチ83の駆動と並行して、第二取得処理を実行する。
この第二取得処理において、制御部71は、横行トロリー6の位置検出部61から通信部73を介して横行トロリーの現在の位置を示す座標を繰り返し取得する。
また、制御部71は、第二取得処理を実行する度に第二変換処理を実行する。
この第二変換処理において、制御部71は、取得した座標を第二の座標系にて示された形に変換する。
また、制御部71は、第二変換処理を実行する度に比較処理を実行する。
この比較処理において、制御部71は、上記変換処理において座標系を変換した座標と、第二変換処理において座標系を変換した座標と、を比較する。
そして、制御部71は、上記変換処理において座標系を変換した座標と第二変換処理において座標系を変換した座標との差が無くなるまで、走行ウインチ81、巻上げウインチ82及び横行ウインチ83を駆動させ、走行トロリー4及び横行トロリー6を移動させる。
【0048】
なお、構造物の施工を行う際、制御部71は、移動制御処理も複数回実行することになる。
例えば、上記変換処理において、各工程における横行トロリー6の位置を示す座標をそれぞれ(L
0,H
0),(L
1,H
1),(L
2,H
2)・・(L
n,H
n)に変換した場合、この移動制御処理において、制御部71は、まず、走行ウインチ81、巻上げウインチ82及び横行ウインチ83を制御して、横行トロリー6を、例えば
図4(a)に示すように、その中心点P
Aの座標が(L
0,H
0)となる位置(初めのコンクリート受け渡し位置:バンカー線102b上)に移動させ、次に、横行トロリー6を、
図4(b)に示すように、その中心点P
Aの座標が(L
1,H
1)となる位置(打設位置)に移動させ、次に、横行トロリー6を、
図4(c)に示すように、その中心点P
Aの座標が(L
2,H
2)となる位置(次のコンクリート受け渡し位置:バンカー線102b上)に移動させる。
変換した座標(L
3,H
3)・・(L
n,H
n)が更にある場合、制御部71は、次の打設位置への横行トロリー6の移動、及び次のコンクリート受け渡し位置への横行トロリー6の移動を繰り返す。
制御部71は、以上説明してきた移動制御処理を実行することにより移動制御手段、第二取得手段、第二変換手段及び比較手段をなす。
【0049】
〔2-3.制御装置その他〕
なお、制御部71は、移動制御処理を実行する前に変換処理を複数回実行することで、複数の工程における横行トロリー6の位置を示す各座標の変換をまとめて行っておくようになっていてもよいし、変換処理と移動制御処理を交互に実行することで、横行トロリー6を移動させた後に次工程における横行トロリー6の位置を示す各座標の変換を行うようになっていてもよい。
【0050】
<3.効果>
以上説明してきた制御装置7は、第一の座標系にて示された一の工程における横行トロリー6の位置を示す座標を、一対の軌索塔2のうちの一方の軌索塔2から一対の軌索塔2同士を結ぶ直線l1と主索5の延長線l2との交点PBまでの距離である第一距離Hと、主索塔1から横行トロリー6までの距離である第二距離Lと、で表される第二の座標系にて示された形に変換し、座標系を変換した座標に基づいて、走行トロリー4及び横行トロリー6の移動を制御する制御部71(変換手段と、移動制御手段)と、を備える。
【0051】
この変換処理において用いられる変換式は特に限定されるものではないが、第一距離H及び第二距離Lは、グローバル座標系の座標から三角関数を用いない演算によって算出することができる値である。
また、主索塔1と主索5との接続点P0、及び一対の軌索塔2と軌索3との各接続点P1,P2は、いずれも座標が既知であり、且つ不動である。従って、この変換処理において第一距離H及び第二距離Lを算出することで、横行トロリー6及びその下に吊るされたコンクリートバケット9の位置を示す座標(L,H)は一意に定まることとなる。
このため、制御装置7によれば、施工に遅延を生じさせることなく、又は設備(制御装置7の制御部71)に必要以上のコストをかけることなく、クレーン101が、横行トロリー6(コンクリートバケット9)を目的の(生コンクリートを打設する)位置に正確に移動させることができるようになる。
【0052】
<4.その他>
なお、クレーン101は、変換手段及び移動制御手段(第二取得手段、第二変換手段、比較手段)のうちの少なくともいずれかの手段としての機能が、制御装置7以外の装置に備えられたものとなっていてもよい。
また、クレーン101は、横行トロリー6が位置検出部61(GPS)を備えず、代わりに、軌索塔2又は走行トロリー4のうちの一方に設けられ他方までの距離を測定する第一の測距手段と、主索塔1又は横行トロリー6のうちの一方に設けられ他方までの距離測定する第二の測距手段と、を備え、第一,第二の測距手段による測定結果に基づいて横行トロリー6の現在位置を検知するようになっていてもよい。
また、クレーン101は、横行トロリー6が位置検出部61(GPS)を備えず、代わりに、第一の機械室R1に設けられ走行トロリー4に接続されたケーブルの送り出し量を測定する第一の計測手段(ウインチエンコーダ)と、第二の機械室R2に設けられ横行トロリー6に接続されたケーブルの送り出し量を測定する第二の計測手段と、を備え、第一,第二の計測手段による計測結果に基づいて横行トロリー6の現在位置を検知するようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0053】
100 施工システム
101 軌索式ケーブルクレーン
1 主索塔
2 軌索塔
3 軌索
4 走行トロリー
5 主索
6 横行トロリー
61 位置検出部
7 制御装置
71 制御部(変換手段、移動制御手段、取得手段)
72 記憶部
73 通信部
8 駆動装置
81 走行ウインチ
82 巻上げウインチ
83 横行ウインチ
9 コンクリートバケット
102 コンクリート供給設備
102a バッチャープラント
102b バンカー線
102c トランスファーカー
D ダム堤体
H 第一距離
L 第二距離
M1 一方の山
M2 他方の山
N 通信ネットワーク
P0 主索塔と主索との接続点
P1 一方の軌索塔と軌索との接続点
P2 他方の軌索塔と軌索との接続点
PA 横行トロリーの中心点
PB 一対の軌索塔同士を結ぶ直線と主索の延長線との交点
R1 第一の機械室
R2 第二の機械室
l1 一対の軌索塔同士を結ぶ直線
l2 主索の延長線