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  • 特許-アルミニウム合金押出材 図1
  • 特許-アルミニウム合金押出材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】アルミニウム合金押出材
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/10 20060101AFI20240826BHJP
   C22F 1/053 20060101ALN20240826BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
C22C21/10
C22F1/053
C22F1/00 602
C22F1/00 612
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021025553
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022127410
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】伊原 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 大晃
(72)【発明者】
【氏名】志鎌 隆広
(72)【発明者】
【氏名】吉原 伸二
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-327229(JP,A)
【文献】特開2001-140029(JP,A)
【文献】特開昭51-056719(JP,A)
【文献】特開2017-214656(JP,A)
【文献】特開2011-144396(JP,A)
【文献】特開平06-145871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/10
C22F 1/053
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成が、
Zn:3.0~6.0質量%、
Mg:0.4~1.4質量%、
Fe:0.05~0.2質量%、
Cu:0.05~0.2質量%、
Ti:0.005~0.2質量%、
Zr:0.1~0.3質量%、および
残部:Alおよび不可避不純物からなり、
Zn/Mgの質量比が2.92~4.35または8.94~9.12である、アルミニウム合金押出材。
【請求項2】
前記Zn/Mgの質量比が3.15~4.00である、請求項1に記載のアルミニウム合金押出材。
【請求項3】
耐力が260MPa以上である、請求項1または2に記載のアルミニウム合金押出材。
【請求項4】
前記耐力が270MPa以上である、請求項3に記載のアルミニウム合金押出材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はアルミニウム合金押出材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フレーム材に用いられるアルミニウム部材として、高強度の6000系アルミニウム合金押出材が主に使用されてきた。しかし、6000系アルミニウム合金は焼入れ感受性が高く、焼入れによって歪が生じやすいために、精度が要求される部材への適用は難しい。そこで、応力腐食割れの問題があるものの焼入れ感受性が低い7000系アルミニウム合金のフレーム材への適用が試みられている。
【0003】
特許文献1には、合金組成等を制御することにより耐応力腐食割れ性に優れた7000系アルミニウム合金部材の製造方法が開示されており、具体的にはクロム酸促進法による耐応力腐食割れ試験を行って、割れが少なくとも12時間発生しないアルミニウム合金部材が開示されている。
【0004】
特許文献2には、合金組成等を制御することによりT6処理材の強度と靭性、金属組織及び耐応力腐食割れ性を改善したAl-Zn-Mg系合金押出材(すなわち7000系アルミニウム合金押出材)とその製造方法が開示されており、具体的にはクロム酸促進試験により、割れが12時間発生しない合金押出材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-214656号公報
【文献】特開平10-30147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に開示されるような従来技術では、クロム酸促進試験を12時間超行った場合に割れが発生するおそれがあることがわかり、耐応力腐食割れ性に更なる改善の余地があることがわかった。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、フレーム材として十分な強度にでき、かつ耐応力腐食割れ性が改善されたアルミニウム合金押出材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、
成分組成が、
Zn:3.0~6.0質量%、
Mg:0.4~1.4質量%、
Fe:0.05~0.2質量%、
Cu:0.05~0.2質量%、
Ti:0.005~0.2質量%、
Zr:0.1~0.3質量%、および
残部:Alおよび不可避不純物からなり、
Zn/Mgの質量比が2.92~4.35または8.94~9.12である、アルミニウム合金押出材である。
【0009】
本発明の態様2は、
前記Zn/Mgの質量比が3.15~4.00である、態様1に記載のアルミニウム合金押出材である。
【0010】
本発明の態様3は、
耐力が260MPa以上である、態様1または2に記載のアルミニウム合金押出材である。
【0011】
本発明の態様4は、
前記耐力が270MPa以上である、態様3に記載のアルミニウム合金押出材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、フレーム材として十分な強度にでき、かつ耐応力腐食割れ性が改善されたアルミニウム合金押出材を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、Zn/Mgの質量比に対する、耐力の関係を示すグラフである。
図2図2は、Zn/Mgの質量比に対する、クロム酸促進試験による割れ寿命の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、フレーム材として十分な強度にでき、かつ耐応力腐食割れ性が改善されたアルミニウム合金押出材を実現するべく、様々な角度から検討した。その結果、Zn、Mg、Fe、Cu、TiおよびZrを必須で含み、それらの含有量を所定範囲に制御するとともに、Zn/Mg質量比を2.92~4.35または8.94~9.12という非常に狭い範囲に限定することにより、フレーム材として十分な強度にでき、かつ耐応力腐食割れ性が改善されたアルミニウム合金押出材を実現できることを見出した。
【0015】
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0016】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金押出材は、成分組成が、Zn:3.0~6.0質量%、Mg:0.4~1.4質量%、Fe:0.05~0.2質量%、Cu:0.05~0.2質量%、Ti:0.005~0.2質量%、Zr:0.1~0.3質量%を含み、さらに、残部がアルミニウムおよび不可避不純物であることが好ましい。また、Zn/Mgの質量比が2.92~4.35または8.94~9.12である。
以下、各元素について詳述する。
【0017】
(Zn:3.0~6.0質量%)
Znは、Mgと共にアルミニウム合金押出材の強度を向上させる元素である。Zn含有量が3.0質量%未満では電池パックフレーム(バッテリーフレームとも称する)などのフレーム材として必要な耐力260MPa以上が得られない。一方、Zn含有量が6.0質量%超だと耐応力腐食割れ性および一般耐食性が低下する。よって、Znの含有量は3.0~6.0質量%とする。
【0018】
(Mg:0.4~1.4質量%)
MgはZnと共にアルミニウム合金押出材の強度を向上させる元素である。Mg含有量が0.4質量%未満では電池パックフレームなどのフレーム材として必要な耐力260MPa以上が得られない。一方、Mg含有量が1.4質量%超だと、押出圧力の増大に伴い押出性が低下するとともに伸びも低下する。よって、Mgの含有量は0.4~1.4質量%とする。
【0019】
(Fe:0.05~0.2質量%)
Feはアルミニウム合金の主要な不可避不純物であり、アルミニウム合金押出材の諸特性を低下させないため、0.2質量%以下とする。一方、アルミニウム合金押出材中のFeを0.05質量%未満に低減することはコスト面の負担が大きい。よって、Fe含有量は0.05~0.2質量%とする。
【0020】
(Cu:0.05~0.2質量%)
Cuはアルミニウム合金押出材の強度を向上させる元素である。Cu含有量が0.05質量%未満では十分な強度向上効果が無く、一方、0.2質量%超だと押出性の低下を招く。よって、Cu含有量は0.05~0.2質量%とする。
【0021】
(Ti:0.005~0.2質量%)
Tiは、押出材の成形性を向上させる作用があり、0.005質量%以上を添加する。一方、0.2質量%超だとその作用が飽和し、粗大な金属間化合物が晶出して破壊の起点になりうるため機械的性質が低下する。よって、Ti含有量は0.005~0.2質量%とし、好ましくは0.005~0.1質量%とし、より好ましくは0.005~0.05質量%とする。
【0022】
(Zr:0.1~0.3質量%)
Zrはアルミニウム合金押出材の再結晶を抑制して、耐応力腐食割れ性を向上させる作用がある。Zrの含有量が0.1質量%未満では前記効果が十分ではなく、0.3質量%超だと押出性が低下し、さらに焼入れ感受性を高めて強度低下を招く。よって、Zr含有量は0.1~0.3質量%とする。
【0023】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金押出材は、上記の成分組成を含み、本発明の1つの実施形態では、残部はアルミニウムおよび不可避不純物であることが好ましい。不可避不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容される。なお、例えば、Feのように、通常、含有量が少ないほど好ましく、従って不可避不純物であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している元素がある。このため、本明細書において、「不可避不純物」という場合は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
不可避不純物としては、Mn、SiおよびCrなどが挙げられ、MnおよびCrを除くものについては、単体で0.05質量%以下とすることが好ましい。Crについては、Cr含有量が多いと押出工程において焼き付きが発生しやすくなるため、0.12質量%以下とすることが好ましい。また、Mnについては、Mn含有量が多いと押出圧力を増大させて押出性を低下させるおそれがあるため、0.05質量%未満とすることが好ましい。また、不可避不純物は総量で0.20質量%以下することが好ましい。
【0024】
(Zn/Mgの質量比が2.92~4.35または8.94~9.12)
本発明者らは、Zn/Mgの質量比が耐力に影響することを見出した。図1にZn/Mgの質量比に対する耐力の関係を示し、ドットパターンで示される領域は耐力が260MPa以上である領域を示す。図1からわかるように、Zn/Mg質量比が5付近では、Zn/Mg原子比(モル比)がMgZnの組成比である2付近となり、その場合に耐力が最大となる。換言すると、Zn/Mg質量比が約5の場合を基準として、高Zn/Mg比側および低Zn/Mg比側では耐力が低下し、Zn/Mg質量比が2.92~9.12であれば、電池パックフレームなどのフレーム材として十分な強度(耐力260MPa以上)にでき、Zn/Mg質量比が3.15~8.32であれば、より高強度(耐力270MPa以上)にできる。
さらに、本発明者らは、Zn/Mgの質量比が耐応力腐食割れ性にも影響することを見出した。図2にZn/Mgの質量比に対する、耐応力腐食割れ性を指標となるクロム酸促進試験による割れ寿命の関係を示し、ドットパターンで示される領域は割れ寿命が12.5時間以上である領域を示す。図2からわかるように、Zn/Mgの質量比が4.35以下と小さいか、または8.94以上と大きい場合に、クロム酸促進試験による割れ寿命が12.5時間以上となって耐応力腐食割れ性を改善でき、Zn/Mgの質量比を4.00以下または9.74以上とすることにより、クロム酸促進試験による割れ寿命が14時間以上となって耐応力腐食割れ性をさらに改善できる。
そして、Zn/Mgの質量比を2.92~4.35または8.94~9.12とすることにより、フレーム材として十分な強度(例えば、強度の1つの指標である耐力(0.2%耐力)が260MPa以上)にできるとともに、耐応力腐食割れ性が改善された(具体的にはクロム酸促進試験による割れ寿命が12.5時間以上の)アルミニウム合金押出材を実現した。なお、Zn/Mgの質量比について、「8.94~9.12」の範囲よりも「2.92~4.35」の範囲の方が高い耐力で耐応力腐食割れ性が高まるため、Zn/Mgの質量比は「2.92~4.35」とする方が好ましい。さらに、耐力270MPa以上にできるとともに、クロム酸促進試験による割れ寿命が14時間以上のアルミニウム合金押出材を得るために、Zn/Mg質量比を3.15~4.00とすることが好ましい。
【0025】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金押出材は上記のような化学成分組成を有していればよく、押出材の形状等も特に制限されない。また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金押出材の製造方法は、本発明の目的を達成する上で特に制限されず、公知の方法で製造することができる。
【0026】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金押出材は、一般的な人工時効処理によって、耐力を260MPa以上にできる。より好ましくは耐力が270MPa以上であることである。また、一般的な人工時効処理後の引張強度は330MPa以上であることが好ましく、一般的な人工時効処理後の伸びは10%以上であることが好ましく11%以上であることがより好ましい。
【実施例
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0028】
表1に示す成分組成のアルミニウム合金ビレットAを造塊し、470℃6時間の均質化処理を行った。室温まで空冷した後、ビレット温度480℃、ダイス温度450℃、コンテナ温度450℃、押出比60.9、押出速度4m/分で押出加工を行い、断面形状を厚さ3mm、幅110mmの平板とした。その後、人工時効処理として、一般的な7000系アルミニウム合金のT7条件である70℃×5時間+165℃×6時間の熱処理を行った。得られたアルミニウム合金押出材に対して、以下に示す引張試験および耐応力腐食割れ性試験を行った。
【0029】
【表1】
【0030】
<引張試験>
アルミニウム合金押出材からJIS13Bの試験片を引張方向が押出方向(L方向)と平行になるように各2本切出し、JISZ2241に規定する金属材料試験方法に準じて引張試験を行い、引張強さ、耐力および伸びを測定した。
【0031】
<耐応力腐食割れ性試験(クロム酸促進試験)>
アルミニウム合金押出材に応力を3点曲げ方式にて負荷した。応力負荷方向は横方向(LT方向)で、負荷応力水準は、それぞれの人工時効処理後の耐力に対して100%を負荷した。その後、各2本ずつクロム酸沸騰溶液中に浸漬して2時間おきに16時間まで目視観察を行い、いずれも割れが生じなかった最長時間を割れ寿命とした。表2に結果を示す。なお、16時間経過後も割れが認められなかったものは、割れ寿命の欄に「16」と記載した。
【0032】
【表2】
【0033】
表2の結果より、次のように考察できる。表2の試験No.1は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満足しており、フレーム材として十分な強度(耐力260MPa以上)を有するとともに、割れ寿命が少なくとも12.5時間以上であり、耐応力腐食割れ性が改善されていた。
一方、表2の試験No.2~6は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件(Zn/Mgの質量比2.92~4.35または8.94~9.12)を満たしておらず、耐力が260MPa未満であるか、または割れ寿命が12.5時間未満であった。
図1
図2