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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
F16F15/02 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021029701
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022130992
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 佳也
(72)【発明者】
【氏名】大庭 正俊
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-077342(JP,U)
【文献】特開平09-079314(JP,A)
【文献】実開昭63-044951(JP,U)
【文献】実開平04-084945(JP,U)
【文献】特開2012-013126(JP,A)
【文献】特開平02-286933(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0325922(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00- 15/36
E04H 9/00- 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設置可能なフレームと、
前記フレームの内側において水平な一方向に移動可能に支持され、液体を内部に収容可能かつ排出可能である錘部材と、
前記錘部材と前記フレームとを連結するばね部材と、
前記錘部材の変位が所定の閾値を超えた場合に前記液体を排出させる作動機構と、
を備える、
制振装置。
【請求項2】
前記錘部材は、前記錘部材の内部と外部とを接続し開放時に前記錘部材から前記液体を排出可能な排液部を含み、
前記作動機構は、前記排液部を開閉可能な第1栓と、前記錘部材の変位が前記閾値を下回っている場合に弛みかつ前記閾値で緊張するように前記フレームと前記第1栓とを連結する第1ワイヤーと、を含む、
請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記排液部は、前記錘部材の底部に設けられ、
前記第1栓は、前記錘部材の内部において前記第1ワイヤーに連結される、
請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記フレームの外部に設けられ、前記錘部材から排出された前記液体を貯液する貯液タンクと、
前記排液部と前記貯液タンクとをフレキシブルに接続するホースと、
を備える、
請求項2又は3に記載の制振装置。
【請求項5】
前記錘部材は、前記錘部材の内部と外部とを接続し開放時に前記錘部材の内部へ外気が流入可能な給気部を含み、
前記作動機構は、前記給気部を開閉可能な第2栓と、前記錘部材の変位が前記閾値を下回っている場合に弛みかつ前記閾値で緊張するように前記フレームと前記第2栓とを連結する第2ワイヤーと、を含む、
請求項2から4のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項6】
前記給気部は、前記錘部材の天井部に設けられ、
前記第2栓は、前記錘部材の外部において前記第2ワイヤーに連結される、
請求項5に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔、タワー、高層建物等の建物は、台風等の強風を受けたり、地震動による力を受けたりすることで大きな揺れを生じやすい。この対策として、免震装置や制振装置を建物に設置して揺れを抑制する技術が知られている。例えば、特許文献1には、建物の屋上にばね及びダンパを介して錘部材を連結したチューンド・マス・ダンパー(Tuned Mass Damper、以下、TMDと略す。)を制振装置として用い、TMDの固有周期を建物の固有周期と同調させることで揺れを抑制する技術が記載されている。
【0003】
ところで、小地震又は強風等による揺れを制振するためのTMD装置は、大地震の際に錘部材の変位が想定以上になって可動ストローク不足になり、錘部材が衝突して装置が損傷する可能性がある。衝突を防止する対策の一つとして可動ストロークを大きくすると、TMD装置の制振装置の寸法が大きくなってしまう、別の対策の一つとして緩衝材を設けると、緩衝材の最適な設計及び費用が追加でかかってしまう、等の問題があった。この問題に対して、例えば特許文献1のような技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-053381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のTMD装置では、構成が複雑であること、地震の揺れの大きさによってはストロークが大きくなってしまうこと、等の課題があった。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、建物の振動を吸収する錘部材の想定以上の過大変位を簡易な構成で抑制することができる制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様の制振装置は、構造物に設置可能なフレームと、前記フレームの内側において水平な一方向に移動可能に支持され、液体を内部に収容可能かつ排出可能である錘部材と、前記錘部材と前記フレームとを連結するばね部材と、前記錘部材の変位が所定の閾値を超えた場合に前記液体を排出させる作動機構と、を備える。
【0008】
制振装置の望ましい態様として、前記錘部材は、前記錘部材の内部と外部とを接続し開放時に前記錘部材から前記液体を排出可能な排液部を含み、前記作動機構は、前記排液部を開閉可能な第1栓と、前記錘部材の変位が前記閾値を下回っている場合に弛みかつ前記閾値で緊張するように前記フレームと前記第1栓とを連結する第1ワイヤーと、を含む。
【0009】
制振装置の望ましい態様として、前記排液部は、前記錘部材の底部に設けられ、前記第1栓は、前記錘部材の内部において前記第1ワイヤーに連結される。
【0010】
制振装置の望ましい態様として、前記フレームの外部に設けられ、前記錘部材から排出された前記液体を貯液する貯液タンクと、前記排液部と前記貯液タンクとをフレキシブルに接続するホースと、を備える。
【0011】
制振装置の望ましい態様として、前記錘部材は、前記錘部材の内部と外部とを接続し開放時に前記錘部材の内部へ外気が流入可能な給気部を含み、前記作動機構は、前記給気部を開閉可能な第2栓と、前記錘部材の変位が前記閾値を下回っている場合に弛みかつ前記閾値で緊張するように前記フレームと前記第2栓とを連結する第2ワイヤーと、を含む。
【0012】
制振装置の望ましい態様として、前記給気部は、前記錘部材の天井部に設けられ、前記第2栓は、前記錘部材の外部において前記第2ワイヤーに連結される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、建物の振動を吸収する錘部材の想定以上の過大変位を簡易な構成で抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係る制振装置の構成例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、振動時の一状態における制振装置を示す断面図である。
図3図3は、振動時の別の一状態における制振装置を示す断面図である。
図4図4は、図3の後の一状態における制振装置を示す断面図である。
図5図5は、第1条件における地震波の最大加速度と制振装置設置による建物最大応答加速度低減率との関係を示すグラフである。
図6図6は、第1条件における地震波の最大加速度と錘部材の最大相対変位との関係を示すグラフである。
図7図7は、第2条件における地震波の最大加速度と制振装置設置による建物最大応答加速度低減率との関係を示すグラフである。
図8図8は、第2条件における地震波の最大加速度と錘部材の最大相対変位との関係を示すグラフである。
図9図9は、第3条件における地震波の最大加速度と制振装置設置による建物最大応答加速度低減率との関係を示すグラフである。
図10図10は、第3条件における地震波の最大加速度と錘部材の最大相対変位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本開示につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本開示は、以下の実施形態の記載に限定されるものではない。また、以下の実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した実施形態における構成要素は、本開示の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。以下の実施形態では、本開示の実施形態を例示する上で、必要となる構成要素を説明し、その他の構成要素を省略する。
【0016】
(実施形態)
まず、実施形態に係る制振装置1の概略構成について、図1を参照して説明する。図1は、実施形態に係る制振装置1の構成例を模式的に示す断面図である。制振装置1は、例えば、高層建物等の建物の屋上に設置される。この際、制振装置1は、平面視で長手方向(図1における左右方向)が建物の短手方向となるように設置されることが好ましい。制振装置1は、実施形態において、フレーム10と、ガイド機構20と、錘部材30と、貯液タンク40と、作動機構50と、ばね部材60と、ダンパ70と、を備える。
【0017】
フレーム10は、制振装置1を設置する構造物(例えば、高層建物等の建物の屋上)に設置可能である。フレーム10は、実施形態において、ガイド機構20、ばね部材60及びダンパ70を支持する。フレーム10は、ガイド機構20を介して、錘部材30を支持する。フレーム10は、実施形態において、床部12と、一対の側柱部14、16と、天井部18と、を含む。
【0018】
床部12の上面側には、後述のガイド機構20が設けられる。床部12は、ガイド機構20を介して錘部材30を水平な一方向(図1の両矢印に示すX軸方向)に移動可能に支持する。X軸方向は、実施形態において、フレーム10の長手方向である。
【0019】
側柱部14は、床部12の長手方向の一端部から立設される。側柱部16は、床部12の長手方向の他端部から立設される。他端部は、床部12の長手方向において、側柱部14が立設される一端部とは反対側の端部を示す。なお、フレーム10の床部12及び側柱部14、16は、実施形態では短手方向視の断面が図1に示すように凹字形状であるが、本開示ではこれに限定されず、四方が壁に囲まれた箱形状でもよいし、架構フレームであってもよい。
【0020】
天井部18は、フレーム10の上方側に設けられる。天井部18は、実施形態において、側柱部14、16に支持されるアーチ状である。天井部18は、フレーム10の上方を覆う蓋状であってもよい。
【0021】
ガイド機構20は、フレーム10に対して錘部材30がX軸方向にのみ移動可能であるようにガイドする。ガイド機構20は、床部12の上面側に設けられる。ガイド機構20は、実施形態において、ガイドレール22と、ガイドブロック24とを含むリニアガイドである。
【0022】
ガイドレール22は、X軸方向に沿って床部12の上面に固定して設けられる。ガイドレール22は、ガイドブロック24をX軸方向に移動自在に支持する。ガイドブロック24は、X軸方向に移動自在であるようにガイドレール22に支持される。ガイドブロック24は、例えば、複数の転動体を介してガイドレール22に支持される。ガイドブロック24は、ガイドレール22上をX軸方向に摺動する。ガイドブロック24の上面側には、錘部材30が設けられる。
【0023】
錘部材30は、制振装置1を設置する建物の揺れ方向と逆の方向に動くことによって建物の揺れを低減させるための重りである。錘部材30は、内部に液体Lqを収容可能かつ排出可能な液体槽である。液体Lqは、常温で液体状態である流体であれば特に限定されないが、低粘性、難燃性及び難揮発性であり、かつ調達が容易であることが好ましい。液体Lqは、例えば、水、又は水より比重の重い液体を含む。錘部材30に収容される液体Lqの重量は、実施形態において、錘部材30の総重量の1/2である。錘部材30は、ガイドブロック24の上面側に設けられる。錘部材30は、ガイドブロック24がガイドレール22上をX軸方向に摺動することによって、フレーム10に対してX軸方向に移動可能である。
【0024】
錘部材30は、移動可能方向であるX軸方向の一端側32が、フレーム10の側柱部14と対向する。錘部材30の一端側32は、後述のばね部材60a及びダンパ70aを介して側柱部14と連結される。錘部材30は、移動可能方向であるX軸方向の他端側34が、フレーム10の側柱部16と対向する。錘部材30の他端側34は、後述のばね部材60b及びダンパ70bを介して側柱部16と連結される。
【0025】
錘部材30は、排液部36と、給気部38と、を有する。排液部36は、液体Lqを収容する錘部材30の内部と外部とを接続する。排液部36は、実施形態において、錘部材30の底部に複数(図1に示す一例では、2箇所)設けられる。錘部材30の外部側において、排液部36は、後述のホース42に接続する。排液部36は、開放時において、錘部材30の内部の液体Lqを、ホース42側に排出可能である。給気部38は、液体Lqを収容する錘部材30の内部と外部とを接続する。給気部38は、実施形態において、錘部材30の天井部に複数(図1に示す一例では、2箇所)設けられる。給気部38は、開放時において、外部から錘部材30の内部へ外気が流入可能である。
【0026】
貯液タンク40は、実施形態において、フレーム10の外部に設けられる。貯液タンク40は、ホース42を介して錘部材30の排液部36と接続する。錘部材30の排液部36から排出された液体Lqは、ホース42を介して、貯液タンク40に送られる。貯液タンク40は、ホース42から送られた液体Lqを、一時的に貯液する。なお、図1に示す一例では、1つの排液部36及びホース42に対して、1つずつの貯液タンク40が設けられるが、複数のホース42が1つの貯液タンク40に接続してもよい。ホース42は、少なくとも一部がフレキシブルに設けられる。これにより、ホース42の一端側が接続される排液部36が、錘部材30のX軸方向への移動に伴って移動する際にも、排液部36と貯液タンク40との接続を維持する。
【0027】
作動機構50は、錘部材30の変位が所定の閾値を超えた場合に、錘部材30の内部から液体Lqを排出させる。なお、閾値は、想定した錘部材30の変位に安全率を考慮して設計される値である。作動機構50は、実施形態において、第1栓52と、第2栓54と、第1ワイヤー56と、第2ワイヤー58と、を含む。
【0028】
第1栓52は、錘部材30の排液部36を開閉可能な栓である。第1栓52は、実施形態において、錘部材30の底部に複数(図1に示す一例では、2箇所)設けられる。第1栓52は、実施形態において、排液部36から錘部材30の内部側に向かう方向へ抜かれることによって、排液部36を開放するように設けられる。第1栓52は、第1ワイヤー56と連結する。第1栓52は、実施形態において、錘部材30の内部において、第1ワイヤー56に連結される。
【0029】
第2栓54は、錘部材30の給気部38を開閉可能な栓である。第2栓54は、実施形態において、錘部材30の天井部に複数(図1に示す一例では、2箇所)設けられる。第2栓54は、実施形態において、給気部38から錘部材30の外部側に向かう方向へ抜かれることによって、給気部38を開放するように設けられる。第2栓54は、第2ワイヤー58と連結する。第2栓54は、実施形態において、錘部材30の外部において、第2ワイヤー58に連結される。
【0030】
第1ワイヤー56は、フレーム10と第1栓52とを連結する。第1ワイヤー56は、実施形態において、一方の端部が、フレーム10の天井部18に固定される。より詳しくは、複数(図1に示す一例では、2本)の第1ワイヤー56は、実施形態において、それぞれの一方の端部が、フレーム10の天井部18の中央部に固定される。第1ワイヤー56は、フレーム10に固定される側とは反対側である他方の端部が、第1栓52に固定される。
【0031】
第1ワイヤー56は、錘部材30の変位が所定の閾値を下回っている場合に弛み、閾値で緊張するように設けられる。錘部材30の変位が閾値を超えた場合、緊張した第1ワイヤー56が第1栓52を押さえることにより、第1栓52が排液部36から抜ける。これにより、排液部36が開放され、錘部材30の内部の液体Lqが、ホース42を介して貯液タンク40へ排出される。
【0032】
なお、実施形態においては、例えば、錘部材30が側柱部14から離隔する方向に閾値を超えて移動した場合、2つの第1栓52のうち側柱部16側に設けられる第1栓52と連結される第1ワイヤー56が緊張して第1栓52を抜く(後述の図3参照)。この際、2つの第1栓52のうち側柱部14側に設けられる第1栓52と連結される第1ワイヤー56は、弛んだままである。したがって、側柱部14側に設けられる第1栓52は、排液部36を閉じた状態を維持する。
【0033】
第2ワイヤー58は、フレーム10と第2栓54とを連結する。第2ワイヤー58は、実施形態において、一方の端部が、フレーム10の天井部18に固定される。より詳しくは、複数(図1に示す一例では、2本)の第2ワイヤー58は、実施形態において、それぞれの一方の端部が、図1に示す初期位置に錘部材30がある状態における給気部38の直上で、フレーム10の天井部18に固定される。第2ワイヤー58は、フレーム10に固定される側とは反対側である他方の端部が、第2栓54に固定される。
【0034】
第2ワイヤー58は、錘部材30の変位が所定の閾値を下回っている場合に弛み、閾値で緊張するように設けられる。錘部材30の変位が閾値を超えた場合、緊張した第2ワイヤー58が第2栓54を押さえることにより、第2栓54が給気部38から抜ける。これにより、給気部38が開放され、錘部材30の内部へ外気が流入可能となる。
【0035】
ばね部材60は、錘部材30とフレーム10とを連結する。ばね部材60は、実施形態において、引張ばねである。ばね部材60は、錘部材30がフレーム10から離隔する方向に移動した場合に、元の位置に復帰させる方向へ付勢する復元力を有する。ばね部材60は、実施形態において、一対のばね部材60a、60bを含む。一対のばね部材60a、60bは、同一のばね定数を有する。
【0036】
ばね部材60aは、フレーム10の側柱部14と錘部材30の一端側32との間に設けられる。ばね部材60aは、一方の端部が、フレーム10の側柱部14に固定される。ばね部材60aは、側柱部14に固定される側とは反対側である他方の端部が、錘部材30の一端側32に固定される。ばね部材60aは、錘部材30が、側柱部14から離隔する方向、すなわち側柱部16に接近する方向に移動した場合、錘部材30を側柱部14側に引っ張る。
【0037】
ばね部材60bは、フレーム10の側柱部16と錘部材30の他端側34との間に設けられる。ばね部材60bは、一方の端部が、フレーム10の側柱部16に固定される。ばね部材60bは、側柱部16に固定される側とは反対側である他方の端部が、錘部材30の他端側34に固定される。ばね部材60bは、錘部材30が、側柱部16から離隔する方向、すなわち側柱部14に接近する方向に移動した場合、錘部材30を側柱部16側に引っ張る。
【0038】
ダンパ70は、錘部材30とフレーム10とを連結する。ダンパ70は、例えば、オイルダンパである。ダンパ70は、X軸方向に振動する錘部材30の振動を減衰する。ダンパ70は、一対のダンパ70a、70bを含む。一対のダンパ70a、70bは、同一の減衰係数を有する。
【0039】
ダンパ70aは、ばね部材60aと並列で設けられる。ダンパ70aは、フレーム10の側柱部14と錘部材30の一端側32との間に設けられる。ダンパ70aは、一方の端部が、フレーム10の側柱部14に固定される。ダンパ70aは、側柱部14に固定される側とは反対側である他方の端部が、錘部材30の一端側32に固定される。ダンパ70aは、錘部材30のX軸方向への振動によりばね部材60aが周期振動する際、ばね部材60aの周期振動を減衰させる。
【0040】
ダンパ70bは、ばね部材60bと並列で設けられる。ダンパ70bは、フレーム10の側柱部16と錘部材30の他端側34との間に設けられる。ダンパ70bは、一方の端部が、フレーム10の側柱部16に固定される。ダンパ70bは、側柱部16に固定される側とは反対側である他方の端部が、錘部材30の他端側34に固定される。ダンパ70bは、錘部材30のX軸方向への振動によりばね部材60bが周期振動する際、ばね部材60bの周期振動を減衰させる。
【0041】
次に、制振装置1が設置される建物がX軸方向に振動して錘部材30がX軸方向に振動した際の制振装置1の挙動について、図1から図4までを参照して説明する。図1に示すように、建物が振動せず静止している状態において、錘部材30は側柱部14と側柱部16との間の中心に位置する。この際、ばね部材60aとばね部材60bとの復元力は釣り合っている。また、第1栓52及び第2栓54が排液部36及び給気部38を閉じていることにより、液体Lqで満たされた錘部材30の内部は密閉されている。第1ワイヤー56及び第2ワイヤー58は、弛んだ状態で第1栓52及び第2栓54とフレーム10とを連結している。
【0042】
図2は、振動時の一状態における制振装置1を示す断面図である。より詳しくは、図2は、閾値を超えない範囲で錘部材30がX軸方向に振動している一状態の制振装置1を示す。図2に示すように、錘部材30が側柱部14から離隔する方向へ移動すると、ばね部材60aが伸長するとともに、ばね部材60bが収縮する。この際、錘部材30と共に移動する第1栓52は、第1ワイヤー56が緊張する位置を超えて移動しないので、排液部36から抜かれず、閉じた状態を維持する。また、錘部材30と共に移動する第2栓54は、第2ワイヤー58が緊張する位置を超えて移動しないので、給気部38から抜かれず、閉じた状態を維持する。
【0043】
なお、錘部材30が側柱部14から離隔する方向へ移動すると、ばね部材60a、60bには、錘部材30を側柱部14に接近する方向へ復帰させようとする復元力が生じる。外部(建物)からの振動によって錘部材30が側柱部14から離隔する方向に移動させる力より復元力が大きくなると、錘部材30は、側柱部14に接近する方向へ移動し、振動が減衰するまで、側柱部14から離隔する方向への移動と側柱部16から離隔する方向への移動とを繰り返す。
【0044】
図3は、振動時の別の一状態における制振装置1を示す断面図である。より詳しくは、図3は、錘部材30の変位が閾値を超えた一状態の制振装置1を示す。図3に示すように、錘部材30が側柱部14から離隔する方向へ閾値を超えて移動すると、ばね部材60aが伸長するとともにばね部材60bが収縮し、錘部材30と共に側柱部16側の第1栓52がフレーム10の中心部から遠ざかる。
【0045】
この際、側柱部16側の第1栓52に連結している第1ワイヤー56が、緊張した状態でさらに第1栓52側に引っ張られるので、第1ワイヤー56が第1栓52を押さえることにより、第1栓52が排液部36から抜ける。これにより、排液部36が開放され、錘部材30の内部の液体Lqが、ホース42を介して貯液タンク40へ排出される。
【0046】
また、第2栓54が第2ワイヤー58のフレーム10への固定箇所から遠ざかることにより、第2ワイヤー58が緊張した状態でさらに第2栓54側に引っ張られるので、第2ワイヤー58が第2栓54を押さえることにより、第2栓54が給気部38から抜ける。これにより、給気部38が開放され、錘部材30の内部へ外気が流入可能となる。
【0047】
図4は、図3の後の一状態における制振装置1を示す断面図である。図4に示すように、錘部材30が側柱部16から離隔する方向へ閾値を超えて移動すると、ばね部材60bが伸長するとともにばね部材60aが収縮し、錘部材30と共に側柱部14側の第1栓52がフレーム10の中心部から遠ざかる。
【0048】
この際、側柱部14側の第1栓52に連結している第1ワイヤー56が、緊張した状態でさらに第1栓52側に引っ張られるので、第1ワイヤー56が第1栓52を押さえることにより、第1栓52が排液部36から抜ける。これにより、排液部36が開放され、錘部材30の内部の液体Lqが、ホース42を介して貯液タンク40へ排出される。
【0049】
このように、作動機構50は、錘部材30が閾値を超えて移動すると、第1栓52を排液部36から抜き、錘部材30の内部の液体Lqを外部に排出することができる。液体Lqを錘部材30の外部に排出することにより、錘部材30の重量を減少させることができる。例えば、実施形態のように、錘部材30の内部に収容された液体Lqの重量が錘部材30の総重量の50%である場合、液体Lqが全て排出されることによって、制振装置1の固有周期は、(1/2)1/2倍(約0.71倍)に減少する。なお、貯液タンク40に排出された液体Lqは、振動が収まった後に、ポンプ等で錘部材30の内部に戻せばよい。
【0050】
次に、実施形態の制振装置1における錘部材30の変位の抑制効果について、本開示の発明者らによる検証結果を、図5から図10までを参照して説明する。本検証は、重量が100t、固有周期が1秒、減衰率が3%である建物と、制振装置1とを模擬した計算モデルを用いて地震応答解析により行った。制振装置1は、本解析において、錘部材30の重量が1t、錘部材30の変位量の閾値が30cm、錘部材30に収容される液体Lqの重量が錘部材30の総重量の1/2であるものとする。なお、ばね部材60のばね定数及びダンパ70の減衰定数は、液体Lqを収容している状態の錘部材30の固有振動数が建物の固有振動数と同調するように設定されているものとする。
【0051】
本解析では、制振装置が設置されていない建物のモデルと、実施形態の制振装置1が設置される建物のモデルと、比較例の制振装置が設置される建物のモデルと、にそれぞれ第1条件から第3条件までの地震波を付与した時の、制振装置が設置されている建物と設置されていない建物の最大応答加速度の比(以下、「制振装置設置による建物最大応答加速度低減率」と記載)と、錘部材30の最大相対変位[cm]とについて比較検証した。比較例の制振装置は、実施形態の制振装置1と比較して、第1ワイヤー56及び第2ワイヤー58を備えない(液体Lqが錘部材30から排出されない)点で異なる。第1条件の地震波は、エルセントロ(1940年、NS波)の観測地震波である。第2条件の地震波は、神戸(1995年、NS波)の観測地震波である。第3条件の地震波は、日本建築センターの模擬波(BCJ-L2)である。
【0052】
図5は、第1条件における地震波の最大加速度[cm/s]と制振装置設置による建物最大応答加速度低減率との関係を示すグラフである。図6は、第1条件における地震波の最大加速度[cm/s]と錘部材30の最大相対変位[cm]との関係を示すグラフである。
【0053】
図6に示すように、実施形態の制振装置1及び比較例の制振装置ともに、約200[cm/s]以下の地震波では、錘部材30の変位が閾値(30cm)以内である。この範囲において、実施形態の制振装置1及び比較例の制振装置は、制振装置を備えない場合に対して、建物の最大応答加速度を約88%に減少させている。
【0054】
錘部材30の変位が閾値(30cm)を超える約250[cm/s]以上の地震波では、実施形態の制振装置1と比較例の制振装置とが異なる挙動を示す。具体的には、錘部材30の変位が閾値を超えた実施形態の制振装置1は、錘部材30の重量が1/2に減少したことにより、建物と固有周期がずれる。これにより、制振効果が減少するので、図5に示すように、建物の最大応答加速度が増加する。
【0055】
一方で、制振装置1の固有周期が建物とずれて錘部材30の振動が抑制されるため、図6に示すように、錘部材30の変位量が比較例に対して減少する。例えば、約1000[cm/s]の地震波に対する錘部材30の変位量は、比較例の制振装置では約200cmであるのに対し、実施形態の制振装置1では約50cmに抑制することができる。
【0056】
図7は、第2条件における地震波の最大加速度[cm/s]と制振装置設置による建物最大応答加速度低減率との関係を示すグラフである。図8は、第2条件における地震波の最大加速度[cm/s]と錘部材30の最大相対変位[cm]との関係を示すグラフである。
【0057】
図8に示すように、実施形態の制振装置1及び比較例の制振装置ともに、約200[cm/s]以下の地震波では、錘部材30の変位が閾値(30cm)以内である。この範囲において、実施形態の制振装置1及び比較例の制振装置は、制振装置を備えない場合に対して、建物の最大応答加速度を約98%に減少させている。
【0058】
錘部材30の変位が閾値(30cm)を超える約250[cm/s]以上の地震波では、実施形態の制振装置1と比較例の制振装置とが異なる挙動を示す。具体的には、錘部材30の変位が閾値を超えた実施形態の制振装置1は、錘部材30の重量が1/2に減少したことにより、建物と固有周期がずれる。これにより、制振効果が減少するので、図7に示すように、建物の最大応答加速度が増加する。
【0059】
一方で、制振装置1の固有周期が建物とずれて錘部材30の振動が抑制されるため、図8に示すように、錘部材30の変位量が比較例に対して減少する。例えば、約800[cm/s]の地震波に対する錘部材30の変位量は、比較例の制振装置では約140cmであるのに対し、実施形態の制振装置1では約70cmに抑制することができる。
【0060】
図9は、第3条件における地震波の最大加速度[cm/s]と制振装置設置による建物最大応答加速度低減率との関係を示すグラフである。図10は、第3条件における地震波の最大加速度[cm/s]と錘部材30の最大相対変位[cm]との関係を示すグラフである。
【0061】
図10に示すように、実施形態の制振装置1及び比較例の制振装置ともに、約100[cm/s]以下の地震波では、錘部材30の変位が閾値(30cm)以内である。この範囲において、実施形態の制振装置1及び比較例の制振装置は、制振装置を備えない場合に対して、建物の最大応答加速度を約83%に減少させている。
【0062】
錘部材30の変位が閾値(30cm)を超える約200[cm/s]以上の地震波では、実施形態の制振装置1と比較例の制振装置とが異なる挙動を示す。具体的には、錘部材30の変位が閾値を超えた実施形態の制振装置1は、錘部材30の重量が1/2に減少したことにより、建物と固有周期がずれる。これにより、制振効果が減少するので、図9に示すように、建物の最大応答加速度が増加する。
【0063】
一方で、制振装置1の固有周期が建物とずれて錘部材30の振動が抑制されるため、図10に示すように、錘部材30の変位量が比較例に対して減少する。例えば、約800[cm/s]の地震波に対する錘部材30の変位量は、比較例の制振装置では約200cmであるのに対し、実施形態の制振装置1では約50cmに抑制することができる。
【0064】
以上で説明したように、実施形態の制振装置1は、構造物に設置可能なフレーム10と、フレーム10の内側において水平な一方向(X軸方向)に移動可能に支持され、液体Lqを内部に収容可能かつ排出可能である錘部材30と、錘部材30とフレーム10とを連結するばね部材60と、錘部材30の変位が所定の閾値を超えた場合に液体Lqを排出させる作動機構50と、を備える。
【0065】
制振装置1は、設置される建物に大地震等の大きな揺れが生じて、錘部材30の変位が所定の閾値を超えた場合、錘部材30から液体Lqを排出して錘部材30の総重量を変化させることによって、固有周期を建物とずらして同調させないようにすることができる。これにより、錘部材30の想定以上の過大変位を抑制することができるので、可動ストロークを大きく設計することなく、錘部材30がフレーム10に衝突して衝撃力が発生したり制振装置1が破損したりすることを抑制することができる。すなわち、大地震等の大きな揺れが生じた場合、制振装置1の制振機能を停止させることにより、大地震に対応する別の大規模な制振装置又は免震装置等の働きを阻害することを抑制することができる。
【0066】
また、実施形態の制振装置1において、錘部材30は、錘部材30の内部と外部とを接続し開放時に錘部材30から液体Lqを排出可能な排液部36を含み、作動機構50は、排液部36を開閉可能な第1栓52と、錘部材30の変位が閾値を下回っている場合に弛みかつ閾値で緊張するようにフレーム10と第1栓52とを連結する第1ワイヤー56と、を含む。
【0067】
制振装置1は、設置される建物に大地震等の大きな揺れが生じて、錘部材30の変位が所定の閾値を超えた場合、第1ワイヤー56が第1栓52を押さえることにより、第1栓52が排液部36から抜ける。これにより、排液部36が開放され、錘部材30の内部の液体Lqが、外部へ排出されるので、錘部材30の重量が、排出された液体Lqの分だけ減少する。このように、錘部材30の変位が閾値を超えた場合の液体Lqの排出を、電気を用いない機構で実現しているため、例えば、大地震等で停電になった場合でも、運用が可能である。
【0068】
また、実施形態の制振装置1において、排液部36は、錘部材30の底部に設けられ、第1栓52は、錘部材30の内部において第1ワイヤー56に連結される。錘部材30の内部では、底部が最も水圧が高いため、底部に排液部36が設けられることにより、液体Lqの排出速度を増加させることができる。これにより、錘部材30の重量を迅速に変化させることができるため、より好適に錘部材30の想定以上の過大変位を抑制することができる。
【0069】
また、実施形態の制振装置1は、フレーム10の外部に設けられ、錘部材30から排出された液体Lqを貯液する貯液タンク40と、排液部36と貯液タンク40とをフレキシブルに接続するホース42と、を備える。制振装置1は、排出した液体Lqを貯液タンク40に貯液することにより、振動が収まった後に、再び貯液タンク40内の液体Lqを錘部材30の内部に戻して再利用することができる。また、貯液タンク40を外部に設け、フレキシブルなホース42で連結することにより、貯液タンク40の設置場所が限定されず、制振装置1のフレーム10を小型化できるので、制振装置1の設置場所が限定されることを抑制することができる。
【0070】
また、実施形態の制振装置1において、錘部材30は、錘部材30の内部と外部とを接続し開放時に錘部材30の内部へ外気が流入可能な給気部38を含み、作動機構50は、給気部38を開閉可能な第2栓54と、錘部材30の変位が閾値を下回っている場合に弛みかつ閾値で緊張するようにフレーム10と第2栓54とを連結する第2ワイヤー58と、を含む。
【0071】
制振装置1は、設置される建物に大地震等の大きな揺れが生じて、錘部材30の変位が所定の閾値を超えた場合、第2ワイヤー58が第2栓54を押さえることにより、第2栓54が給気部38から抜ける。これにより、給気部38が開放され、錘部材30の内部へ外気が流入可能になるので、排液部36から液体Lqが排出される際に、錘部材30の内部の気圧が低下して液体Lqの排出が阻害されることを抑制することができる。また、錘部材30の変位が閾値を超えた場合の外気の流入を、電気を用いない機構で実現しているため、例えば、大地震等で停電になった場合でも、運用が可能である。
【0072】
また、実施形態の制振装置1において、給気部38は、錘部材30の天井部に設けられ、第2栓54は、錘部材30の外部において第2ワイヤー58に連結される。このように、錘部材30から液体Lqが排出される際に、第2栓54が抜けて給気部38が開放されて天井部側から外気を流入させることにより、錘部材30の内部の気圧を低下させることなく、液位を下げることができる。これにより、錘部材30の重量を迅速に変化させることができるため、より好適に錘部材30の想定以上の過大変位を抑制することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 制振装置
10 フレーム
12 床部
14、16 側柱部
18 天井部
20 ガイド機構
22 ガイドレール
24 ガイドブロック
30 錘部材
32 一端側
34 他端側
36 排液部
38 給気部
40 貯液タンク
42 ホース
50 作動機構
52 第1栓
54 第2栓
56 第1ワイヤー
58 第2ワイヤー
60、60a、60b ばね部材
70、70a、70b ダンパ
Lq 液体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10