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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】ポア形成方法、およびポア形成装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/08 20060101AFI20240826BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20240826BHJP
   C25F 3/14 20060101ALI20240826BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
B01J19/08 F
G01N27/00 Z
C25F3/14
C12M1/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021033145
(22)【出願日】2021-03-03
(65)【公開番号】P2022134179
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳 至
(72)【発明者】
【氏名】柳川 善光
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-525114(JP,A)
【文献】特表2018-513774(JP,A)
【文献】国際公開第2015/097765(WO,A1)
【文献】特開2020-094894(JP,A)
【文献】特表2008-545518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00 - 19/32
B01D 67/00
B01D 69/00 - 69/14
H01L 21/306
C12M 1/00
G01N 27/00
C25F 3/00 - 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電解液と第2の電解液の間に膜を配置することと、
第1の電極を前記第1の電解液に接触させ、第2の電極を前記第2の電解液に接触させることと、
前記第1の電極と前記第2の電極をつなぐ配線の途中に電圧源と抵抗を配置して構成された回路に前記電圧源から第1の電圧を出力することと、
前記第1の電極と前記第2の電極の間の第2の電圧を計測することと、
前記第2の電圧の有意な変化を検出することと、
前記第2の電圧の有意な変化が検出されたことに応答して、前記第1の電圧の出力を停止させることを含み、
前記有意な変化とは、前記第2の電圧が所定の電圧閾値に到達するか、もしくは下回る場合であり、
前記所定の電圧閾値は、0Vよりも大きく、(前記第1の電圧-10mV)以下である、ポア形成方法。
【請求項2】
第1の電解液と第2の電解液の間に膜を配置することと、
第1の電極を前記第1の電解液に接触させ、第2の電極を前記第2の電解液に接触させることと、
前記第1の電極と前記第2の電極をつなぐ配線の途中に電圧源と抵抗を配置して構成された回路に前記電圧源から第1の電圧を出力することと、
前記第1の電極と前記第2の電極の間の第2の電圧を計測することと、
前記第2の電圧が変化し始めたことを示す電圧値変化点を検出することと、
前記電圧値変化点からの前記第2の電圧の変化率が、前記膜に形成されるポアの所望サイズに応じて決定される所望の変化率値に到達したことに応答して、前記第1の電圧の出力を停止させること、
を含む、ポア形成方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1の電圧/前記膜の厚さは、0.1V/nm以上10V/nm以下である、ポア形成方法。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記第2の電圧の値に有意な変化が起こる前は、前記第2の電圧/前記膜の厚さは、0.1V/nm以上10V/nm以下である、ポア形成方法。
【請求項5】
請求項1または2において、
前記抵抗の値は、前記第1の電解液の抵抗および前記第2の電解液の抵抗よりも大きく、100GΩ以下である、ポア形成方法。
【請求項6】
第1の電解液と第2の電解液との間に配置される膜と、
前記第1の電解液に接触するように配置される第1の電極と、
前記第2の電解液に接触するように配置される第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極をつなぐ配線と、
前記配線の途中に配置され、第1の電圧を出力する電圧源と、
前記配線の途中に配置される抵抗と、
前記第1の電極と前記第2の電極の間の第2の電圧を計測する電圧計と、
前記第2の電圧の有意な変化を検出し、前記第2の電圧の有意な変化が検出されたことに応答して、前記第1の電圧の出力を停止させる制御部と、
を備え
前記有意な変化とは、前記第2の電圧が所定の電圧閾値に到達するか、もしくは下回る場合であり、
前記所定の電圧閾値は、0Vよりも大きく、(前記第1の電圧-10mV)以下である、ポア形成装置。
【請求項7】
第1の電解液と第2の電解液との間に配置される膜と、
前記第1の電解液に接触するように配置される第1の電極と、
前記第2の電解液に接触するように配置される第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極をつなぐ配線と、
前記配線の途中に配置され、第1の電圧を出力する電圧源と、
前記配線の途中に配置される抵抗と、
前記第1の電極と前記第2の電極の間の第2の電圧を計測する電圧計と、
前記第2の電圧の変化によって前記第1の電圧の出力を停止させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第2の電圧が変化し始めたことを示す電圧値変化点を検出し、当該電圧値変化点からの前記第2の電圧の変化率が、前記膜に形成されるポアの所望サイズに応じて決定される所望の変化率値に到達したことに応答して、前記第1の電圧の出力を停止させる、ポア形成装置。
【請求項8】
第1の電解液と第2の電解液の間に膜を配置することと、
第1の電極を前記第1の電解液に接触させ、第2の電極を前記第2の電解液に接触させることと、
前記第1の電極と前記第2の電極をつなぐ配線の途中に電圧源、キャパシタ、およびスイッチを配置して構成された回路に、前記電圧源から第1の電圧を出力することと、
前記第1の電極と前記第2の電極の間の第2の電圧を計測することと、
前記第2の電圧の有意な変化を検出することと、
前記第2の電圧の有意な変化が検出されたことに応答して、前記スイッチをOFFにすること、を含み、
前記有意な変化とは、前記第2の電圧が所定の電圧閾値に到達するか、もしくは下回る場合であり、
前記所定の電圧閾値は、0V以上、かつ(前記第2の電圧の値に変化が起こる前の当該第2の電圧の値-10mV)以下である、ポア形成方法。
【請求項9】
第1の電解液と第2の電解液の間に膜を配置することと、
第1の電極を前記第1の電解液に接触させ、第2の電極を前記第2の電解液に接触させることと、
前記第1の電極と前記第2の電極をつなぐ配線の途中に電圧源、キャパシタ、およびスイッチを配置して構成された回路に、前記電圧源から第1の電圧を出力することと、
前記第1の電極と前記第2の電極の間の第2の電圧を計測することと、
前記第2の電圧が変化し始めたことを示す電圧値変化点を検出することと、
前記電圧値変化点からの前記第2の電圧の変化率が、前記膜に形成されるポアの所望サイズに応じて決定される所望の変化率値に到達したことに応答して、前記スイッチをOFFにすること、を含む、ポア形成方法。
【請求項10】
請求項8または9において、
前記第1の電圧×前記キャパシタの容量/(前記膜を挟んだ前記第1および第2の電極間の容量+前記キャパシタの容量)/前記膜の厚さが、0.1V/nm以上、10V/nm以下である、ポア形成方法。
【請求項11】
請求項8または9において、
前記第2の電圧の値に有意な変化が起こる前は、前記第2の電圧/前記膜の厚さが、0.1V/nm以上10V/nm以下である、ポア形成方法。
【請求項12】
第1の電解液と第2の電解液との間に配置される膜と、
前記第1の電解液に接触するように配置される第1の電極と、
前記第2の電解液に接触するように配置される第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極をつなぐ配線と、
前記配線の途中に配置され、第1の電圧を出力する電圧源と、
前記配線の途中に配置されるキャパシタと、
前記配線の途中に配置されるスイッチと、
前記第1の電極と前記第2の電極の間の第2の電圧を計測する電圧計と、
前記第2の電圧の有意な変化を検出し、前記第2の電圧の有意な変化が検出されたことに応答して、前記スイッチをOFFにする制御部と、を備え
前記有意な変化とは、前記第2の電圧が所定の電圧閾値に到達するか、もしくは下回る場合であり、
前記所定の電圧閾値は、0V以上、かつ(前記第2の電圧の値に変化が起こる前の当該第2の電圧の値-10mV)以下である、ポア形成装置。
【請求項13】
第1の電解液と第2の電解液との間に配置される膜と、
前記第1の電解液に接触するように配置される第1の電極と、
前記第2の電解液に接触するように配置される第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極をつなぐ配線と、
前記配線の途中に配置され、第1の電圧を出力する電圧源と、
前記配線の途中に配置されるキャパシタと、
前記配線の途中に配置されるスイッチと、
前記第1の電極と前記第2の電極の間の第2の電圧を計測する電圧計と、
前記第2の電圧の変化によって、前記スイッチをOFFにする制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第2の電圧が変化し始めたことを示す電圧値変化点を検出し、当該電圧値変化点からの前記第2の電圧の変化率が、前記膜に形成されるポアの所望サイズに応じて決定される所望の変化率値に到達したことに応答して、前記スイッチをOFFにする、ポア形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポア形成方法、およびポア形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液中に存在する分子や粒子の検出の手段として、ナノポアを用いた技術が検討されている。すなわち、メンブレンに、検出対象となる分子や粒子と同程度の大きさの孔(ナノポア)を設け、メンブレンの上下チャンバは水溶液で満たし、両チャンバに水溶液に接触するよう電極を設け、チャンバの片側には測定対象となる検出対象物を入れて、両チャンバに設けた電極間に電位差を持たせて検出対象物を電気泳動させてナノポアに通過させた際に、両電極間に流れるイオン電流の時間変化を計測することで、検出対象物の通過の検出や、その構造的な特徴を把握しようとするものである。
【0003】
ナノポアデバイスの製造は、機械的強度が高いこと等から、半導体基板、半導体材料および半導体プロセスを用いる方法が注目を集めている。例えばメンブレンはシリコン窒化膜(SiNx膜)を用いて形成でき、ナノポアの形成にはTEM(transmission electron microscope)装置をもちいて、電子ビームの照射面積をメンブレン上に小さく絞り、エネルギー、電流をコントロールすることで、ナノポアの直径が10 nm以下のポアを形成することが出来る(非特許文献1)。
【0004】
また、最近では、特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4にあるような、メンブレンの絶縁破壊現象を利用した新たなナノポアの形成方法が公開された。彼らの方法では、まず、穴の空いていないSiNxメンブレンを挟んで上下に水溶液を満たし、上下のチャンバの水溶液中に電極を浸し、両電極間に高電圧を印加し続ける。そして、電極間の電流値が急激に上昇して(つまり膜が絶縁破壊して)、あらかじめ指定したカットオフ電流値に到達したところで、所望のナノポアが形成されたと判断し、高電圧の印加をストップすることで、ナノポアを形成する。本ナノポア形成方式は、TEM装置をもちいたナノポア形成に比べ、製造コストやスループットが大幅に削減されるという利点がある。また本ナノポア形成方式では、膜にナノポアを形成した後、膜をチャンバから取り外すことなく、検出対象物の測定に移行できる。そのため、大気中の汚染物質にナノポアが曝されることがなく、測定時のノイズが少なくなるという利点がある。
【0005】
ナノポアを用いた測定の用途で注目を集めているのは、DNAの塩基配列の解読(DNAシーケンシング)である。すなわち、DNAがナノポアを通過する際の、ナノポアを通過するイオン電流の変化を検出することで、DNA鎖中の4種塩基の配列の決定をするという方法である。
【0006】
ナノポアを用いた測定の別の用途としては、水溶液中の特定対象物の検出および計数がある。たとえば非特許文献5では、水溶液中に存在する特定配列を有したDNAのみにPNAとPEGを結合させ、PNAとPEGが付いたDNAがナノポアを通過する際のイオン電流の変化を測定することで、特定配列を有したDNAの検出や計数を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2013/167955 A1 (PCT/IB2013/000891)
【非特許文献】
【0008】
【文献】Jacob K Rosenstein, et al., Nature Methods, Vol.9, No.5, 487-492 (2012)
【文献】Harold Kwok, et al., PloS ONE, Vol.9, No.3, e92880. (2013)
【文献】Kyle Briggs, et al., Nanotechnology, Vol.26, 084004 (2015)
【文献】Kyle Briggs, et al., Small, 10(10):2077-86 (2014)
【文献】Trevor J. Morin, et al., PLoS ONE 11(5):e0154426. doi:10.1371/journal.pone.0154426
【文献】Itaru Yanagi, et al., Scientific Reports, 4, 5000 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したようなナノポア計測においては、検出対象物の大きさとナノポアの大きさとの関係が重要である。検出対象物の大きさになるべく近いナノポアを用いることで、検出対象物がナノポアを通過した際に生じる信号(イオン電流変化)のS/N比(signal/noise比)が向上する。検出対象物の大きさはさまざまなので、高精度な測定を行うには、それらに応じてさまざまな大きさのナノポアを精度よく作成する必要がある。
【0010】
これまで、絶縁破壊現象を利用してメンブレンにナノポアを形成する場合、形成されるナノポアの大きさのばらつきが大きく、所望のナノポアの大きさとの大きな乖離がしばしば起きるという課題があった。そのため、ある検出対象物の測定を行う際にも、その検出対象物の大きさに近いナノポアを形成できる確率(歩留まり)が低くなってしまっていた。
【0011】
本開示は、このような状況に鑑みてなされ、絶縁破壊現象を利用して、所望の大きさのナノポア(検出対象物の大きさに近いナノポア)を歩留まり良く形成する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記改題を解決するために、本開示は、一形態として、チャンバ構成に収容される第1の電解液と第2の電解液の間に膜を配置することと、第1の電極を第1の電解液に接触させ、第2の電極を第2の電解液に接触させることと、第1の電極と第2の電極をつなぐ配線の途中に電圧源と抵抗を配置して構成された回路に電圧源から第1の電圧を出力することと、第1の電極と第2の電極間の第2の電圧を計測することと、第2の電圧の有意な変化を検出することと、第2の電圧の有意な変化が検出されたことに応答して、第1の電圧の出力を停止させることを含むポア形成方法を提案する。
【0013】
また、本開示は、別の形態として、チャンバ構成に収容される第1の電解液と第2の電解液の間に膜を配置することと、第1の電極を第1の電解液に接触させ、第2の電極を第2の電解液に接触させることと、第1の電極と第2の電極をつなぐ配線の途中に電圧源、キャパシタ、およびスイッチを配置して構成された回路に、電圧源から第1の電圧を出力することと、第1の電極と第2の電極間の第2の電圧を計測することと、第2の電圧の有意な変化を検出することと、第2の電圧の有意な変化が検出されたことに応答して、スイッチをOFFにすることを含むポア形成方法を提案する。
【0014】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。なお、本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【発明の効果】
【0015】
本開示の技術によれば、高精度なナノポアを形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】比較例によるポア形成装置1の構成例を示す図である。
図2】支持基板112を有する、比較例によるポア形成装置1の構成例を示す図である。
図3】比較例によるナノポア形成方法を説明するための図である。実施例1の中において、比較技術を説明するための図である。
図4A】電圧V1=18Vを印加中の電極間電流のタイムトレースを示す図である。
図4B】同じ実験条件(メンブレン101は20nm厚みのSiNメンブレン、印加電圧V1は18V、閾値電流値Ithは300nA)で5回ナノポア形成を行った時に、形成されたナノポアの直径をグラフにした図である。
図5】第1の実施形態によるポア形成装置10(セットアップ)を示す図である。
図6】第1の実施形態によるポア形成動作の一例を説明するフローチャートである。
図7】第1の実施形態によるポア形成動作の別の例を説明するためのフローチャートである。
図8】第1の実施形態によるポア形成を実施した時の、電圧源300からの出力電圧のタイムトレースと、メンブレン101に掛かる電圧(すなわち電圧計302で計測される電圧)のタイムトレースを示す図である。
図9】メンブレン101に掛かる電圧の変化率が予め定めた閾値以上となったときに電圧源300からの電圧印加を停止する制御を実行した場合の、電圧源300からの出力電圧のタイムトレースと、メンブレン101に掛かる電圧のタイムトレースと、その変化率のタイムトレースとを示す図である。
図10A】閾値電圧Vth=8V、抵抗R1=5MΩの時の実験結果を示す図である。
図10B図10AのVth到達時刻近傍の拡大図である。
図10C】実施例1で形成したナノポアのTEM写真である。
図11A】実施例2であって、6回ナノポア形成を行った時に、形成されたナノポアの直径をグラフにした図である。
図11B】形成されるナノポアの直径のR1依存性を示す図である。
図11C】形成されるナノポアの直径のVth依存性を示す図である。
図12】第2の実施形態によるポア形成装置20(セットアップ)の構成例を示す図である。
図13】第2の実施形態によるポア形成動作の一例を説明するフローチャートである。
図14】第2の実施形態によるポア形成動作の別の例を説明するためのフローチャートである。
図15】第2の実施形態によるポア形成を実施した時の、スイッチ304のON/OFFのタイミングのタイムトレースを示す図である。
図16】メンブレン101に掛かる電圧の変化率が予め定めた閾値以上となったときにスイッチ304をOFFする際(本実施形態によるナノポア形成技術を実施する際)の、スイッチ304のON/OFFのタイミングのタイムトレース、メンブレン101に掛かる電圧のタイムトレースと、およびその変化率のタイムトレースを示す図である。
図17A】閾値電圧Vth=0.1V、キャパシタC1=33nFの時の結果を示す図である。
図17B図17AのVth到達時刻近傍の拡大図である。
図17C】実施例3で形成したナノポアのTEM写真である。
図18A】実施例4であって、7回ナノポア形成を行った時に形成されたナノポアの直径を示すグラフである。
図18B】実施例4によって形成されたナノポアの直径のC1依存性を示している。
図19】第1および第2の実施形態で使用されるポア形成システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態は、サイズに過度なばらつきを生じさせずにメンブレンにポア(例えば、ナノポア)を形成する技術に関する。本実施形態における添付図面では、同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は可能な限り省略するようにしている。以下、本実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。実施例に記載するデバイス構造および材料は、本開示の技術的思想を具現化するための一例であり、材料および寸法などを厳密に特定するものではない。また実施例に記載する具体的な電圧値や電流値、電圧印加時間は、本技術的思想を具現化するための一例であり、それらを厳密に特定するものではない。以下では、まず比較例(メンブレン間の電流値のモニタリングによりナノポア形成を検知)について説明し、続いて各実施形態について実施例とともに説明することとする。
【0018】
(1)比較例
まず、比較例の絶縁破壊を用いたナノポア形成方法およびその課題について詳細に説明する。比較例の方法とは、非特許文献2-4で開示されている方法である。比較例の説明に当たり、図1のような装置構成(セットアップ)例を考える。
【0019】
<比較例によるポア形成装置1の構成例>
図1は、比較例によるポア形成装置1の構成例を示す図である。ポア形成装置1において、メンブレン101によって、水溶液102、103が分離されている。水溶液を各チャンバ120および121に入れる際には、溶液導入口もしくは溶液出口となる106、107、108、および109を利用して、水溶液を各チャンバに入れる。各チャンバ中の溶液には、電極104および105が接触している。電極は、電流計201と電圧源300に接続されている。電圧源300は、電極間に任意の電圧の印加ができる。電流計201は電極間の電流の計測ができる。また、図では省略されているが、PCや専用のコントロールユニットなどの制御ユニットを用いて本回路を制御することにより、計測された電流値の記録や、計測された電流値の情報に基づいて印加電圧を変化させることが出来る。
【0020】
なお、実際は、メンブレン101は、図2に示すように支持基板112にささえられており、またチャンバ内の液が漏れださないようにシール材(o-ringなど)130、131が支持基板とチャンバの間に配置されていることが多い。しかし、説明を簡単にするため、本明細書では、図1のような簡易図を用いる。また、例えば、電極104、105はAg/AgCl電極を用いることができ、メンブレン101は厚み3-30 nmのシリコン窒化膜(SiN膜)を用いることができ、溶液102および103はKClが溶解した水溶液を用いることができる。また例えば支持基板112の材質は、例えばシリコン(Si)である。
【0021】
<比較例によるナノポア形成方法およびその課題>
図3は、比較例によるナノポア形成方法を説明するための図である。この比較例方式は、電圧V1を印加した時に、電極間電流値の大きさが約Ithとなるようなサイズのナノポアを作成したいときに用いる。その手順は、電圧源300を用いて電極間に一定電圧V1を印加し、そのときに電極間を流れる電流を電流計201でモニタし、計測された電流値の大きさがIthと一致もしくはIthを超えた場合に、電極間の電圧印加を停止するというものである。電流値の計測は完全に連続にすることはできず、したがって、あるサンプリング間隔tsごとに計測値は記録される。その記録された計測値を図中の黒点で示している。計測値は、ある時間を境に急激に上昇している。この時点が、メンブレン101が絶縁破壊し、微細ポアがメンブレン101に生成した時点である。その後も電圧V1はメンブレンに印加され続け、計測値がIthと一致もしくは上回った時点で、電極間電圧の印加が停止される。そうすることで、電圧V1を印加した時に大きさ約Ithの電流値が流れるようなナノポアを形成することができる。なお、先に述べた通り、電流値の計測は完全に連続には行えず(時間軸上で離散的に計測される)、あるサンプリング間隔tsごとに計測される。このため、あるサンプリング点での計測値の大きさとIthが完全に一致することはまずなく、実際は計測(記録)された電流値がIthを超えた時点で電圧の印加が停止されることとなる。また、計測された電流値の大きさがIthを超えているかどうかを制御ユニットが判断するのにもある時間を要する。そして、制御ユニットが、計測された電流値の大きさがIthを超えていたと判断した場合に、電極間の電圧印加を停止するまでにもある時間がかかる。
【0022】
つまり、比較例による方式では、電極間を流れる電流値がIthに到達した後も電圧V1がある程度の時間メンブレンに印加され続けることとなり、その間、ポアの大きさは広がり続ける。なお、ポアは、ジュール熱(ポアを通過する電流×印加電圧)によって広がる。ポアの大きさが大きくなれば、V1が印加されたときに流れる電流値も大きくなり、ジュール熱も大きくなる。ジュール熱が大きくなればポアの大きさの広がるスピードはさらに速くなる。このように、比較例では、電極間を流れる電流値がIthに到達した後も電圧V1がある程度の時間メンブレンに印加され続け、その間に加速度的にポアの大きさの広がりが生じる。したがって、この方式では、本当は電圧V1で電流Ithが流れるような大きさのポアを形成したいのに、実際は、それよりも大分大きなポアが形成されてしまう。
【0023】
上述した通り、比較例では、電極間を流れる電流値がIthに到達した後も電圧V1がある程度の時間メンブレンに印加され続け、その間、高いジュール熱が発生し続けている。この高いジュール熱によってどれくらいポアの大きさが広がるかは、メンブレンごとに毎回異なる(同じ材料、同じ膜厚のメンブレンを使ったとしても毎回異なる)。一気にものすごく広がってしまう場合もあれば、そうでない場合もある。したがって、形成されるポアの大きさのばらつきも大きくなる。
【0024】
<比較例による実験結果>
続いて、比較例で実際にナノポアを形成した結果について説明する。本実験では、メンブレン101は20nm厚みのSiNメンブレンを用い、また、印加電圧V1は18V、閾値電流値Ithは300nAと設定した。使用した水溶液102および103は、濃度1MのKCl水溶液である。
【0025】
図4Aは、電圧V1=18Vを印加中の電極間電流のタイムトレースを示す図である。図4Aに示されるように、電極間電流値は電圧印加開始から約17秒後に、急激に増加している。そして、電極間電流値の計測点がIth=300nAを超えた時点で、電圧V1=18Vの印加を終了した。図4Aから分かる通り、最後に計測された電極間電流値はIth=300nAをかなり超えてしまっている。そして、最後に計測される電極間電流値がIthをどのくらい超えるのかは、メンブレンごとに毎回異なる(同じ材料、同じ膜厚のメンブレンを使ったとしても毎回異なってくる)。これが、形成されるポア径のばらつきにつながる。
【0026】
図4Bは、同じ実験条件(メンブレン101は20nm厚みのSiNメンブレン、印加電圧V1は18V、閾値電流値Ithは300nA)で5回ナノポア形成を行った時に、形成されたナノポアの直径をグラフにした図である。ナノポアの直径は、形成されたナノポアをTEM観察することにより求めた。なお、形成されるナノポアは真円ではないので、直径の算出は以下のように行った。まず形成されたナノポアのTEM像から、ナノポアの面積Sを測定した。次に、ナノポアを真円と仮定して、直径d=2×(S/π)^(1/2)の式から直径dを算出した。図から分かる通り、5回実験を行った結果、形成されたナノポア径の最小は6.49nm、最大は13.87nmであり、ばらつきが大きいことが確認された。
このように比較例によれば、形成されるナノポア径のばらつきが大きく、ばらつきを小さく抑えることができない。
そこで、本開示では、径のばらつきをより小さく抑えることができる技術を提案する。以下、各実施形態について説明する。
【0027】
(2)第1の実施形態
<ポア形成装置10の構成例>
図5は、第1の実施形態によるポア形成装置10(セットアップ)を示す図である。図5において、両電極104および105をつなぐ配線の途中に、電圧源300と抵抗(R1)301が直列に配置されている。また、電極間の電圧(メンブレンにかかる電圧)が計測できるように、電圧計302が配置されている。また図では省略されているが、例えばPCや専用の制御回路、コントロールユニットなどの制御ユニットを用いて本回路を制御する(図19のポア形成システムの構成例を参照のこと)ことにより、計測された電圧値の記録や、計測された電圧値の情報に基づいて印加電圧を変化させることができる。
【0028】
比較例によるポア形成装置1は、メンブレン101に流れる電流を計測してポア形成を検知するのに対して、第1の実施形態によるポア形成装置10では、メンブレン101と電圧源300との間に抵抗R1_301を設け、メンブレン101に掛かる電圧を計測する。仮に、比較例のポア形成装置1においてメンブレン101に掛かる電圧を計測したとしても、当該電圧の変化を計測することができない。それは抵抗R1が設けられていないためである。以下にさらに詳しく理由を説明する。メンブレンにポアが形成されるまではメンブレンを通じて電流が流れることができないため、メンブレンの抵抗は∞ Ωとみなせる。従って当然、メンブレンの抵抗は溶液の抵抗や配線の抵抗よりも圧倒的に大きい。そのため、電圧源300から印加された電圧(V1)は、メンブレン以外の箇所でほとんど電圧降下することなく、ほぼそのままメンブレンに印加される。またメンブレンにナノサイズのポアが形成された後も、そのポアを通過する電流値の抵抗はやはり溶液の抵抗や配線の抵抗よりも圧倒的に大きい。そのため、メンブレンにポアが形成された後でも、電圧源300から印加された電圧(V1)は、メンブレン(ポア)以外の箇所でほとんど電圧降下することなく、ほぼそのままメンブレン(ポア)に印加される。従って、比較例のポア形成装置1においてメンブレン101に掛かる電圧を計測したとしても、ポア形成前後で当該電圧の有意な変化を計測することができない。一方、第1の実施形態のポア形成装置10では、抵抗R1_301(例えば、配線抵抗や溶液の抵抗よりも十分に大きく、100 GΩ以下の抵抗)を設けているため、後述のように、メンブレンにナノポアが形成される前後で、メンブレン101に掛かる電圧変化を計測することができる。つまり、比較例と本実施形態による技術とは根本的にポア形成を検知する原理が異なっているものである。
【0029】
<ポア形成制御動作>
(i)制御例1
図6は、第1の実施形態によるポア形成動作の一例を説明するフローチャートである。以下の各ステップの動作主体が、例えば、制御システム・PC600ならびに制御回路500の一部(図19参照:以下、制御ユニットと言う)であるとしてポア形成動作を説明する。
【0030】
制御ユニットは、電圧源300に電圧V1を出力するように指示し、同時に電圧計302にて計測されるメンブレン101に掛かる電圧を監視する(ステップ601)。そして、制御ユニットは、電圧計302で計測された電圧が予め定めた閾値Vth以下かどうか随時判定する(ステップ602)。電圧計302で計測された電圧がVth以下でない場合(ステップ602でNoの場合:Vthより大きい場合)、制御ユニットは、処理をステップ601に移行させ、電圧源300からの電圧V1の出力と電圧計302による電圧計測を継続するようにポア形成装置10を制御する。電圧計302で計測された電圧がVth以下となった場合(ステップ602でYesの場合)、制御ユニットは、電圧源300からの電圧V1の出力を終了する(ステップ603)。なお、第1の実施形態では、電圧源300からの電圧の出力を停止するように制御するが、後述の第2の実施形態と同様に、ポア形成装置10内にスイッチを設け、これをOFFするようにしてもよい。なおステップ602の最中にも、ステップ601は実行されている。
【0031】
(ii)制御例2
図7は、第1の実施形態によるポア形成動作の別の例を説明するためのフローチャートである。
【0032】
制御ユニットは、電圧源300に電圧V1を出力するように指示し、同時に電圧計302によって計測されるメンブレン101に掛かる電圧を監視する(ステップ701)。そして、制御ユニットは、電圧計302で計測された電圧の変化率が予め定めた閾値Tth以上かどうか随時判定する(ステップ702)。電圧計302で計測された電圧の変化率が予め定めた閾値Tth以上でない場合(ステップ702でNoの場合)、制御ユニットは、処理をステップ701に移行させ、電圧源300からの電圧V1の出力と、電圧計302による電圧計測を継続するようにポア形成装置10を制御する。電圧計302で計測された電圧の変化率が予め定めた閾値Tth以上となった場合(ステップ702でYesの場合)、制御ユニットは、電圧源300からの電圧V1の出力を終了する。なお、ここで、電圧の変化率は、|dV/dt|で定義される。dVはn点目とn-1点目の電圧測定値の差であり、dtはn点目を計測した時刻とn-1点目を計測した時刻の差である。なおステップ702の最中にも、ステップ701は実行されている。
【0033】
<メンブレン101に掛かる電圧の変化:上記制御例1(図6)に対応>
図8は、第1の実施形態によるポア形成を実施した時の、電圧源300からの出力電圧のタイムトレースと、メンブレン101に掛かる電圧(すなわち電圧計302で計測される電圧)のタイムトレースを示す図である。なお、図8には電極間電流-時間のグラフもあわせて示してあるが、本実施形態において電極間電流を測る必要はない。電極間電流-時間のグラフはあくまで参考として示しているだけである。
【0034】
ナノポアがメンブレン101に形成されるまでは、メンブレン101を電流が通過することはできないので、図5に示すポア形成装置10においてメンブレン101は大きさ∞Ωの抵抗とみなせる。従って、電圧源300から出力された電圧V1は、ほぼメンブレン101のみに印加される。そのため、図8に示される通り、穴が開くまではメンブレン101にかかる電圧はV1で、時間によらずほぼ一定である。
【0035】
一方、メンブレン101にナノポアが形成された後は、ナノポアの抵抗は有限となり、その抵抗の大きさはポアの大きさで決定される。ナノポアの抵抗をRp(d、t)とすると(dはナノポア径、tは時間)、メンブレン101にかかる電圧はキルヒホッフの法則によりV1×(Rp/(R1+Rp))となる。要するに、メンブレン101にポアが形成されると、メンブレン101にかかる電圧が自動的に下がる。そして、メンブレン101にポアが形成された後は、ポアを電流が流れるので、ジュール熱が発生し、それによってナノポアの大きさが大きくなる。ナノポアの大きさが大きくなると、Rpは低下するので、上式より、メンブレン101にかかる電圧はさらに小さくなる。また、電圧計302によって計測された電圧が、予め定めた閾値Vth以下となった時点で、電圧源からのV1の印加がストップされ、ナノポアの形成が終了となる。この方法を用いることで、電圧Vthがメンブレン(ポア)に印加されたときにポアを通過する電流が約Ith’=(V1-Vth)/R1となるようなサイズのナノポアを、比較例よりも小さなサイズバラつきで形成することができる。
【0036】
<ポアサイズのばらつきが小さくなる理由>
形成されるナノポアの大きさのばらつきが小さくなる理由について以下に説明する。本実施形態の方法によれば、メンブレン101にナノポアが生成した時点から、メンブレン101(ポア形成後)に印加される電圧は下がり始める(抵抗R1_301が挿入されているため)。また、生成したポアが拡大するにつれて、メンブレン(ポア)101に掛かる電圧はどんどん下がっていく。
【0037】
一方、先に説明した比較例では、ナノポアに印加される電圧は、メンブレン101にナノポアが形成される前と後で同じ(抵抗R1_301が挿入されていないため)であり、ナノポアが形成された後にナノポアに印加される電圧が下がることはない。ここで、ポアの拡大要因であるジュール熱は(ナノポアを通過する電流)×(ナノポアに印加される電圧)であることを考えると、本実施形態ではポア形成後にポアにかかる電圧が下がっていく。このため、比較例に比べ、ポア拡大時のジュール熱の上昇は緩やかである。ポア拡大時のジュール熱の上昇は緩やかであるということは、ポア拡大のスピードも緩やかであるということを意味する。そして、ポア拡大のスピードが緩やかであれば、メンブレンに掛かる電圧が予め定めた閾値Vthの値を大きく下回ることはなく、その結果、想定よりも大きなポアが出来てしまう確率が少なくなる。従って、形成されるナノポアの大きさのばらつきが低減するということである。
【0038】
なお、電圧Vthがメンブレン101に印加されたときにポアを通過する電流が約Ith’となるようなサイズのナノポアをバラつき少なく作成したいのならば、比較例を用いて、印加電圧をVthとし、閾値電流をIth’に設定すればよいとも考えられる。しかし、その場合、メンブレン101にポアが開くまでにメンブレン101に印加される電圧VthはV1よりも低いため、メンブレン101にポアが開くまでにかかる時間は本実施形態の方法よりも長くなる。従って、本実施形態の方法を用いる方が、より短時間で、大きさのバラつきが少ないナノポアを形成することができる点で優れている。
【0039】
なお、比較例は、電圧V1を印加した時に、電極間電流値の大きさが約Ithとなるようなサイズのナノポアを形成する方法である。一方、本実施形態において、メンブレン101に電圧V1が印加されたときに電流Ithが流れるようなポアを形成したい場合は、Vth=V1×Ith’/Ith=V1×V1/(Ith(R1+Rp))と設定すればよい(オームの法則に従い、V1=Ith×Rp、Vth=Ith’×Rpが成り立つので、Vth/V1=Ith’/Ithとなり、Vth=V1×Ith’/Ithとなる。)。つまり、第1の実施形態において、メンブレン101に電圧V1を印加したときに電流Ithが回路に流れるようにしたいときには、当該回路に抵抗R1_301が設けられているため、当該抵抗R1の効果を加味し、上記式に基づいてVthを設定すればよい。これにより、第1の実施形態において、電圧V1が印加されたときに、電流Ithが流れるようなポアをメンブレン101に形成することができるようになる。
【0040】
<メンブレン101に掛かる電圧の変化:上記制御例2(図7)に対応>
図9は、メンブレン101に掛かる電圧の変化率が予め定めた閾値以上となったときに電圧源300からの電圧印加を停止する制御を実行した場合の、電圧源300からの出力電圧のタイムトレースと、メンブレン101に掛かる電圧のタイムトレースと、その変化率のタイムトレースとを示す図である。
【0041】
先に説明した通り、本実施形態において、ポアが開くまではメンブレン101に印加される電圧はほぼ一定(V1)であるが、ポアが開いた後は、ポアの拡大とともにメンブレン(ポア)101に印加される電圧は下がっていく。そして、|dV/dt|がTth以上となった時点で、電圧源300からの電圧V1の出力を停止することで所望のナノポアを形成する。この方法では、Tthを小さく設定しておくことで、急激にポアが拡大する前にナノポアの形成工程を終えることができる。従って、より小さいナノポアを形成することが可能である。
【0042】
<実施例1>
図10は、第1の実施形態による実験結果の一例(実施例1)を示す図である。実施例1において、メンブレン101は、厚さ14nmのSiNメンブレンであり、印加電圧V1=11.1Vとして実験を行った。図10Aは、閾値電圧Vth=8V、抵抗R1=5MΩの時の実験結果を示す図である。ポアがメンブレンに生成した時点から、電圧計302で計測されるメンブレンに掛かる電圧が下がっていっており、Vth以下になった時点で電圧源300からの電圧V1の出力が停止された。
【0043】
図10Bは、図10AのVth到達時刻近傍の拡大図である。図10Bからは、メンブレン101に掛かる電圧の最後の計測点はほぼVthと等しい値となっており、閾値を大幅に下回っていたりはしていないことが分かる。従って、実施例1において、形成されるナノポアの大きさのばらつきが小さくなっている。
【0044】
図10Cは、実施例1で形成したナノポアのTEM写真である。形成条件は、メンブレンが14nmのSiNメンブレンで、V1=11.1Vであり、閾値電圧Vth=10V、抵抗R1=5MΩである。図10Cの左側の図(写真)は、メンブレン101の全景であり、右側の図(写真)はナノポア部分の拡大図である。左側の写真からは、メンブレンに単一のナノポアが確認できる。また、右側のナノポアのTEM写真の面積から逆算して求められる直径dは、d=2×(S/π)^(1/2)により、約8nm程度となっている。
【0045】
<実施例2>
図11Aは、実施例2であって、6回ナノポア形成を行った時に、形成されたナノポアの直径をグラフにした図である。実施例2によるポアの形成条件は、メンブレン101が厚さ14nmのSiNメンブレンを用い、V1=11.1Vであり、閾値電圧Vth=10V、抵抗R1=5MΩである。
【0046】
当該実験(実施例2)の結果によれば、最小の直径が7.77nmとなり、最大の直径が9.14nmとなっている。これを図4Bに示す比較例の結果と比べると、形成されるポアの大きさのばらつきが小さくなっていることが分かる。
【0047】
図11Bは、形成されるナノポアの直径のR1依存性を示す図である。ポアの形成条件は、図11Aの場合と同様、メンブレン101が14nmのSiNメンブレンで、V1=11.1Vであり、閾値電圧Vth=10Vである。図11Bによれば、挿入する抵抗の値を小さくすることで、より大きなナノポアを形成できることが分かる。
【0048】
図11Cは、形成されるナノポアのVth依存性を示す図である。ポアの形成条件は、図11Aおよび図11Bの場合と同様、メンブレン101が厚さ14nmのSiNメンブレンで、V1=11.1Vであり、挿入抵抗R1=5MΩである。図11Cによれば、Vthの値を下げることで、より大きなナノポアを形成できることが分かる。
【0049】
<V1、R1,Vthの範囲について>
本技術の研究者は、第1の実施形態による技術に関して鋭意努力および検討の結果、ポア形成におけるV1、R1、およびVthの好適な条件について以下のように突き止めた。
【0050】
V1の範囲は、例えば、V1/(メンブレン101の膜厚)が0.1V/nm以上かつ10V/nm以下が好ましい。この範囲を下回ると、絶縁破壊によるナノポア形成に非常に長い時間がかかってしまうことが分かった。一方、この範囲を上回ると、孔の広がるスピードが速く制御が困難となることが分かった。
【0051】
抵抗R1は、例えば、少なくとも配線抵抗や水溶液の抵抗よりは十分に大きく(例えば、1桁オーダ以上大きい)、かつ100GΩ以下が望ましい。抵抗の値が100GΩよりも大きい場合、孔の広がるスピードが遅すぎて、検出対称分子も通れないほどの極めて小さな穴しか形成できないことが分かった。
【0052】
閾値電圧Vthは、例えば、0Vよりも大きく、かつV1-10mV以下である。VthをV1>Vth>V1-10mVの範囲に設定した場合、測定時のノイズのせいで、ナノポアが形成される前であっても計測された電圧がVthを下回る可能性がある。そのため、本当はナノポアが開口していないのに、開口したと誤判定してしまう恐れがあり、上記範囲が好適であることが分かった。
【0053】
また、ナノポアが形成されるメンブレンの材質は、例えば、SiN、SiO、SiON、HfOなどに代表される絶縁膜材料や、MoS、グラフェンなどの2次元材料、およびそれらの化合物からなる材料であってよい。また脂質二十膜などの生体分子材料でもよい。もちろん上記の材質に限られることはない。
【0054】
さらに、水溶液として、例えば、HCl、KCl、NaCl、LiCl、RbCl、CsCl、MgCl、あるいはCaClなどが溶解した水溶液を用いることができる。もちろん、他のイオンが溶解した水溶液(電解液)でもよい。
【0055】
(3)第2の実施形態
第2の実施形態によるナノポア形成技術も上記比較例の課題を解決することが可能である。以下、第2の実施形態について詳述する。
【0056】
<ポア形成装置20の構成例>
図12は、第2の実施形態によるポア形成装置20(セットアップ)の構成例を示す図である。
【0057】
ポア形成装置20において、両電極104および105をつなぐ配線の途中に、電圧源300とキャパシタ(C1)303が直列に配置されている。また、電極間の電圧(メンブレン101に掛かる電圧)が計測できるように、電圧計302が配置されている。さらに、電極105(あるいは電極104)とキャパシタC1の間にはスイッチ304が設けられている。なお、図12では省略されているが、例えばPCや専用の制御回路、コントロールユニットなどの制御ユニット(図19のポア形成システムの構成例を参照のこと)を用いて本回路を制御することにより、計測された電圧値の記録や、計測された電圧値の情報に基づいたスイッチ304の切り替え動作を実行することができる。
【0058】
<ポア形成制御動作>
(i)制御例1
図13は、第2の実施形態によるポア形成動作の一例を説明するフローチャートである。
【0059】
制御ユニットは、電圧源300に電圧V1を出力するように指示し、同時に電圧計302で計測された電圧を監視する(ステップ1301)。そして、制御ユニットは、電圧計302で計測された電圧が予め定めた閾値Vth以下かどうか随時判定する(ステップ1302)。電圧計302で計測された電圧がVth以下でない場合(ステップ1302でNoの場合:Vthより大きい場合)、制御ユニットは、処理をステップ1301に移行させ、電圧源300からの電圧V1の出力と、電圧計302による電圧計測を継続するようにポア形成装置20を制御する。電圧計302で計測された電圧がVth以下となった場合(ステップ1302でYesの場合)は、制御ユニットは、スイッチ304をOFFにする(ステップ1303)。なおステップ1302の最中にも、ステップ1301は実行されている。
【0060】
(ii)制御例2
図14は、第2の実施形態によるポア形成動作の別の例を説明するためのフローチャートである。
【0061】
制御ユニットは、電圧源300に電圧V1を出力するように指示し、同時に電圧計302で計測された電圧を監視する(ステップ1401)。そして、制御ユニットは、電圧計302で計測された電圧の変化率が予め定めた閾値Tth以上かどうか随時判定する(ステップ1402)。電圧計302で計測された電圧の変化率が予め定めた閾値Tth以上でない場合(ステップ1402でNoの場合:閾値Tth未満の場合)、制御ユニットは、処理をステップ1401に移行させ、電圧源300からの電圧V1の出力と電圧計302による電圧計測を継続するようにポア形成装置10を制御する。電圧計302で計測された電圧の変化率が予め定めた閾値Tth以上となった場合(ステップ1402でYesの場合)、制御ユニットは、スイッチ304をOFFにする(ステップ1403)。なお、ここで、電圧の変化率は、|dV/dt|で定義する。dVはn点目とn-1点目の電圧測定値の差であり、dtはn点目を計測した時刻とn-1点目を計測した時刻の差である。なおステップ1402の最中にも、ステップ1401は実行されている。
【0062】
<メンブレン101に掛かる電圧の変化:上記制御例1(図13)に対応>
図15は、第2の実施形態によるポア形成を実施した時の、スイッチ304のON/OFFのタイミングのタイムトレースを示す図である。
【0063】
ナノポアがメンブレンに形成されるまではメンブレンの抵抗値は∞なので、メンブレン101はキャパシタとして機能する。このキャパシタの値をC2と定義する。C2はメンブレン101の膜厚や接液面積に依存する。従って、ナノポアがメンブレン101に形成されるまでは、メンブレン101に掛かる電圧(すなわち電圧計302で計測される電圧)はV1×C1/(C1+C2)となる。
【0064】
一方、メンブレン101にナノポアが形成された後は、そこを電流が通過できるようになる。このため、もはやメンブレン101はキャパシタとして機能せず、メンブレン101に溜まっていた電荷はキャパシタC1へ流れ込み、次第にメンブレン101に掛かる電圧(すなわち電圧計302で計測される電圧)が下がっていく。つまり、メンブレン101にかかる電圧は、ポアが開いた時点から下がり始める。その後、メンブレン101に掛かる電圧(すなわち電圧計302で計測される電圧)が予め定めた閾値Vth以下になった時点で、スイッチ304がOFFとなるように制御され、ナノポア形成の工程が終了となる。
【0065】
第2の実施形態では、C1の値を変化させることで、メンブレン101に形成されるナノポアの大きさを変化させることができる。C1の値を大きくすれば、形成されるナノポアの大きさも大きくなる。また、閾値Vthの値を変化させることでも形成されるナノポアの大きさを変化させることができる。閾値Vthの値を低く設定すればするほど、大きなナノポアを形成することができる。本実施形態の特徴としては、V1とC1とVthとメンブレン101の容量C2が一定であれば、ナノポアの形成が終了するまでにナノポアを通過する電荷量は、試行ごとに異ならずに毎回一定となることがあげられる。そのため、形成されるナノポアの大きさのばらつきも小さくなる。
【0066】
また、本実施形態によれば、メンブレン101にナノポアが生成した時点から、メンブレン101(ポア)に印加される電圧は下がり始める。また、生成したポアが拡大するにつれて、メンブレン101(ポア)にかかる電圧はどんどん下がっていく。
【0067】
一方、上述の比較例では、ナノポアに印加される電圧は、メンブレン101にナノポアが形成される前と後で同じであり(抵抗R1(第1の実施形態)やキャパシタC1(第2の実施形態)が設けられていないため)、ナノポアが形成された後にナノポアに印加される電圧が下がることはない。ここで、ポアの拡大要因であるジュール熱は(ナノポアを通過する電流)×(ナノポアに印加される電圧)と表すことができきる。従って、本実施形態では、ポア形成後にポアにかかる電圧が下がっていくため、比較例に比べ、ポア拡大時のジュール熱の上昇は緩やかとなる。ポア拡大時のジュール熱の上昇が緩やかであるということは、ポア拡大のスピードも緩やかであるということを意味する。そして、ポア拡大のスピードが緩やかであれば、想定よりも大きなポアができてしまう確率(可能性)が少なくなる。よって、本実施形態によれば、形成されるナノポアの大きさのばらつきを低減させることができる。
【0068】
<スイッチ304のON/OFFのタイミングのタイムトレース、メンブレン101に掛かる電圧のタイムトレース、およびその変化率のタイムトレースについて>
図16は、メンブレン101に掛かる電圧の変化率が予め定めた閾値以上となったときにスイッチ304をOFFする際(本実施形態によるナノポア形成技術を実施する際)の、スイッチ304のON/OFFのタイミングのタイムトレース、メンブレン101に掛かる電圧のタイムトレースと、およびその変化率のタイムトレースを示す図である。
【0069】
上述した通り、ポアが開くまではメンブレン101に印加される電圧はほぼ一定(V1×C1/(C1+C2))であるが、ポアが開いた後は、メンブレン101(ポア)に印加される電圧は下がっていく。そして、|dV/dt|がTth以上となった時点で、スイッチ304をOFFにすることで所望のナノポアを形成する。この方法によれば、Tthを小さく設定しておくことで、急激にポアが拡大する前にナノポアの形成工程を終えることができる。従って、より小さいナノポアを形成することが可能となる。
【0070】
<スイッチ304でナノポア製造を終了させる理由>
本実施形態では、電圧V1の印加を停止する(V1を0にする)ことでナノポア製造工程を終了させる第1の実施形態とは異なり、スイッチ304をOFFすることによってナノポアの製造工程を終了させる。このような終了方法を採用する理由について以下に説明する。
【0071】
第2の実施形態において、スイッチ304をOFFにせず電圧V1を0にすることでナノポア製造工程を終了させたとすると、その後キャパシタC1に蓄積されていた電荷が一気にナノポアに流れ込むこととなる。C1に蓄積されていた電荷が一気にナノポアに流れ込んでしまうと、それに起因したジュール熱でポアが拡大してしまい、その結果想定よりもかなり大きなナノポアが形成されてしまうことがある。その結果、形成されるナノポアの大きさにばらつきが生じる。従って、本実施形態では、電圧V1を0にするのではなくスイッチ304を設け、これをOFFにすることによってナノポアの製造工程を終了させることとした。これにより、C1に蓄積した電荷をナノポアに流れ込こませることなく、ナノポアの製造工程を終了させることができる。
【0072】
<実施例3>
図17は、第2の実施形態による実験結果の一例(実施例3)を示す図である。実施例3は、メンブレン101は厚さ14nmのSiNメンブレンであり、V1=11.5Vとして行った実験結果を示している。
【0073】
図17Aは、閾値電圧Vth=0.1V、キャパシタC1=33nFの時の結果を示している。ポアがメンブレン101に生成した時点から、電圧計302で計測されるメンブレンに掛かる電圧が下がっていっており、Vth以下になった時点でスイッチ304がOFFとなった。
【0074】
図17Bは、図17AのVth到達時刻近傍の拡大図である。図17Bからは、メンブレン101に掛かる電圧の最後の計測点はほぼVthと等しい値となっており、閾値を大幅に下回っていたりはしていないことが分かる。従って、第3の実施形態による方法を用いれば、形成されるナノポアの大きさのばらつきを小さくすることができる。
【0075】
図17Cは、実施例3で形成したナノポアのTEM写真である。形成条件は、メンブレン101が厚さ14nmのSiNメンブレンで、V1=11.5Vであり、閾値電圧Vth=0.1V、キャパシタC1=33nFである。図17Cの左側の写真は、メンブレンの全景であり、右側の写真はナノポア部分の拡大図である。左側の写真からは、メンブレンに単一のナノポアが確認できる。また、右側のナノポアのTEM写真の面積から逆算して求められる直径d=2×(S/π)^(1/2)は約8nmくらいである。
【0076】
<実施例4>
図18Aは、実施例4であって、7回ナノポア形成を行った時に形成されたナノポアの直径を示すグラフである。ポアの形成条件は、メンブレン101が厚さ14nmのSiNメンブレンで、V1=11.5Vであり、閾値電圧Vth=0.1V、キャパシタC1=33nFである。図18Aからも分かるように、最小の直径が7.7nmであり、最大の直径が9.77nmである。図4Bに示す比較例による結果と比べて、形成されるポアの大きさのばらつきが小さくなっていることが分かる。
【0077】
図18Bは、実施例4によって形成されたナノポアのC1依存性を示している。ポアの形成条件は、メンブレンが14nmのSiNメンブレン101で、V1=11.5Vであり、閾値電圧Vth=0.1Vである。図18Bからは、挿入するキャパシタの値を大きくすることで、より大きなナノポアを形成することができる。
【0078】
<V1、R1,Vthの範囲について>
本技術の研究者は、第2の実施形態による技術に関して鋭意努力および検討の結果、ポア形成におけるV1、R1、およびVthの好適な条件について以下のように突き止めた。
【0079】
まず、V1×C1/(C1+C2)/(メンブレンの膜厚)の値(つまり、メンブレン101にポアが形成される前にメンブレン101に掛かる電圧をメンブレン101の膜厚で割った値、あるいはメンブレン101にポアが形成される前に電圧計302で計測される電圧をメンブレン101の膜厚で割った値とも言える。)は、0.1V/nm以上かつ10V/nm以下が好ましいことが分かった。この範囲を下回ると、絶縁破壊によるナノポア形成に非常に長い時間がかかってしまう。一方、この範囲を上回ると、孔の広がるスピードが速く制御が困難となる。
【0080】
また、閾値電圧Vthは、0V以上で、かつV1×C1/(C1+C2)-10mV以下であることが望ましいことも分かった。なお、V1×C1/(C1+C2)は、メンブレン101にポアが形成される前にメンブレン101に掛かる電圧、またはメンブレン101にポアが形成される前に電圧計302で計測される電圧とも言える。ここで、逆に、VthをV1×C1/(C1+C2)>Vth>V1×C1/(C1+C2)-10mVの範囲に設定した場合、測定時のノイズのせいで、ナノポアが形成される前であっても計測された電圧がVthを下回る可能性がある。そのため、本当はナノポアが開口していないのに、開口したと誤判定してしまう恐れがある。よって、閾値電圧Vthは、0V以上で、かつV1×C1/(C1+C2)-10mV以下であることが望ましい。
【0081】
なお、ナノポアが形成されるメンブレン101の材質は、例えばSiN、SiO、SiON、HfOなどに代表される絶縁膜材料や、MoS、グラフェンなどの2次元材料、およびそれらの化合物からなる材料であってよい。また脂質二十膜などの生体分子材料でもよい。もちろん上記の材質に限られることはない。
【0082】
また、ポア形成装置20では、水溶液として、例えば、HCl、KCl、NaCl、LiCl、RbCl、CsCl、MgCl、あるいはCaClなどが溶解した水溶液を用いることができる。もちろん、他のイオンが溶解した水溶液(電解液)でもよい。
【0083】
(4)各実施形態で用いることができるポア形成システムの構成例
図19は、第1および第2の実施形態で使用されるポア形成システムの構成例を示す図である。
【0084】
ユーザーは、当該ポア形成システムの一部を構成する制御システム・PC600に、電圧源300からの出力電圧値V1、閾値Vth、Tth、抵抗R1、容量C1の値など、ナノポア形成方法を実施する際に必要な値を入力する。すると、それらのパラメータ情報は、制御システム・PC600から制御回路500に送られる。制御回路500は、それらのパラメータを反映して本実施形態によるナノポア形成処理を実行する。
【0085】
制御回路500は、電圧源300、電圧計302、抵抗R1、キャパシタC1、およびスイッチ304などを含んでいる。なお、抵抗R1やキャパシタC1は、可変抵抗あるいは可変キャパシタで構成してもよい。これにより、多種の値を取ることができるようになる。メンブレン101に形成されるナノポアの大きさは、上述したように、抵抗R1やキャパシタC1を変化させることで調整できる。従って、抵抗R1やキャパシタC1の取り得る値が多ければ多いほど、形成されるナノポアの大きさをより細かく調整できる。
【0086】
また、制御システム・PC600には、予め、ポアの大きさと、そのポアにある電圧を印加した時に流れる電流値の大きさとの関係を、メンブレン101の膜厚や材質ごとにデータベース化して記憶させておいてもよい。そのデータベースを参照すれば、ユーザーは、本実施形態による方法でナノポアを形成した後に、形成したポアにある電圧を印加してその時に流れる電流値を観測し、当該電流値によってナノポアの大きさを知ることができる。
【0087】
さらに、制御システム・PC600には予め、形成されるポアの大きさの、各パラメータ(電圧源300からの出力電圧値V1や、回路中の抵抗R1や、容量C1や、閾値Vth、Tthの値、メンブレン101の材質、膜厚など)に対する依存性を記憶してある記憶部(データベース)を設けてもよい。このようなデータベースがあれば、例えば、ユーザーがある材質、ある膜厚のメンブレンにある大きさのナノポアを形成したい場合、どのような出力電圧、抵抗R1、容量C1、閾値Vth、およびTthの値を設定すればよいかが分かる。また、例えば、ユーザーが形成したいナノポアの大きさと、ナノポア形成に用いるメンブレン101の膜厚と材質を制御システム・PC 600に入力した後、制御システム・PC600がそのナノポアを形成するのに適している出力電圧V1、抵抗R1、容量C1、閾値Vth、Tthの値を自動的にデータベースから抽出し、その値に基づいて制御回路を動作させナノポアを形成させることも可能である。
【0088】
(5)まとめ
(i)第1の実施形態によるポア形成装置において、チャンバ構成(第1のチャンバおよび第2のチャンバに分けてもよいし、1つのチャンバをメンブレン(膜)で仕切るような構成にしてもよい)に第1の電解液と第2の電解液を収容し、その間に膜を配置し、第1の電極を第1の電解液に接触させ、第2の電極を第2の電解液に接触させる。また、第1の電極と第2の電極をつなぐ配線の途中に電圧源と抵抗を配置して構成された回路に電圧源から第1の電圧(定電圧V1を印加する)を出力し、第1の電極と第2の電極間の第2の電圧を計測する。
【0089】
また、当該ポア形成装置は、第2の電圧が所定の電圧閾値(例えば、0V<当該電圧閾値<(第1の電圧-10mV)に設定することができる)に到達するか、もしくは下回る場合に、第1の電圧の出力(電源供給)を停止する。あるいは、当該ポア形成装置は、第2の電圧の変化率が所定の変化率閾値に到達するか、もしくは上回る場合に、第1の電圧の出力(電源供給)を停止する。このような手順によってメンブレンにポアが形成される。また所定の電圧値あるいは所定の変化率を調整(指定)することにより、メンブレンに所望のサイズのポアを形成することができる。
【0090】
なお、第1の電圧/膜の厚さは、0.1V/nm以上10V/nm以下とすることができる。また、第2の電圧の値に変化が起こる前は、メンブレンの抵抗値は無限大となるため、第2の電圧/膜の厚さは、0.1V/nm以上10V/nm以下となっている。さらに、上記回路に配置される抵抗の値は、第1の電解液の抵抗および第2の電解液の抵抗よりも十分に大きく、100GΩ以下とすることができる。
【0091】
(ii)第2の実施形態によるポア形成装置は、チャンバ構成(第1のチャンバおよび第2のチャンバに分けてもよいし、1つのチャンバをメンブレン(膜)で仕切るような構成にしてもよい)に第1の電解液と第2の電解液を収容し、その間に膜を配置し、第1の電極を第1の電解液に接触させ、第2の電極を第2の電解液に接触させる。また、第1の電極と第2の電極をつなぐ配線の途中に電圧源、キャパシタ、およびスイッチを配置して構成された回路に電圧源から第1の電圧(定電圧V1を印加する)を出力し、第1の電極と第2の電極間の第2の電圧を計測する。
【0092】
また、当該ポア形成装置は、第2の電圧が所定の電圧閾値に到達するか、もしくは下回る場合に、スイッチをOFFにする。あるいは、当該ポア形成装置は、第2の電圧の変化率が所定の変化率閾値に到達するか、もしくは上回る場合に、スイッチをOFFにする。このような手順によってメンブレンにポアが形成される。また所定の電圧値あるいは所定の変化率を調整(指定)することにより、メンブレンに所望のサイズのポアを形成することができる。
【0093】
なお、第1の電圧×キャパシタの容量/(膜を挟んだ第1および第2電極間の容量+キャパシタ容量)/膜の厚さを、0.1V/nm以上、10V/nm以下にすることができる。また、第2の電圧の値に変化が起こる前は、第2の電圧/膜の厚さが、0.1V/nm以上10V/nm以下となっている。さらに、所定の電圧閾値は、0V以上、かつ{第1の電圧×キャパシタの容量/(膜を挟んだ第1および第2の電極間の容量+キャパシタの容量)-10mV}以下である。ここで、{第1の電圧×キャパシタの容量/(膜を挟んだ第1および第2の電極間の容量+キャパシタの容量)-10mV}は、第2の電圧の値に変化が起こる前の第2の電圧の値-10mVを意味する。
【0094】
(iii)本実施形態の機能は、ソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或は装置に提供し、そのシステム或は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本開示を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0095】
また、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータ上のメモリに書きこまれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータのCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。
【0096】
さらに、実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを、ネットワークを介して配信することにより、それをシステム又は装置のハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD-RW、CD-R等の記憶媒体に格納し、使用時にそのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行するようにしてもよい。
【0097】
最後に、ここで述べたプロセス及び技術は本質的に如何なる特定の装置に関連することはなく、コンポーネントの如何なる相応しい組み合わせによってでも実装できる。更に、汎用目的の多様なタイプのデバイスがここで記述した教授に従って使用可能である。ここで述べた方法のステップを実行するのに、専用の装置を構築するのが有益であることもある。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。本開示は、具体例に関連して記述したが、これらは、すべての観点に於いて限定の為ではなく説明の為である。本分野にスキルのある者には、本開示を実施するのに相応しいハードウェア、ソフトウェア、及びファームウエアの多数の組み合わせがあることが解るであろう。例えば、記述したソフトウェアは、アセンブラ、C/C++、perl、Shell、PHP、Java(登録商標)等の広範囲のプログラム又はスクリプト言語で実装できる。
【0098】
さらに、上述の実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていても良い。
【符号の説明】
【0099】
101 メンブレン(SiN膜)
102、103 水溶液
104、105 電極
106、107、108、109 溶液入口/出口
112 支持基板
120、121 チャンバ
130、131 o-ring
201 電流計
300 電圧源
301 抵抗
302 電圧計
303 キャパシタ
500 制御回路
600 制御システム・PC
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図18A
図18B
図19