(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】固形状薬剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 9/012 20060101AFI20240826BHJP
A61L 9/04 20060101ALI20240826BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
A61L9/012
A61L9/04
C11B9/00 D
C11B9/00 S
(21)【出願番号】P 2021034030
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田井治 淑美
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-100762(JP,A)
【文献】特開昭59-77859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L9/00-9/22
A01N25/00-25/34
C09K3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンジリデンソルビトール、
下記式(1)
【化1】
(式中、nは1~3の整数を示し、R
1はC1~3のアルキル基を示し、R
2はC1~3のアルキレン基を示し、R
3はCH
3-COO-またはC1~C3のアルキル基を示す)
で表されるグリコールエーテルアセテート、
20℃での蒸気圧が2mmHg未満の油性有効成分、
を含有する固形状薬剤組成物。
【請求項2】
式(1)で表されるグリコールエーテルアセテートが、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートである請求項1記載の固形状薬剤組成物。
【請求項3】
更に離しょう防止剤を含有するものである請求項1または2記載の固形状薬剤組成物。
【請求項4】
ベンジリデンソルビトールが1~5質量%であり、式(1)で表されるグリコールエーテルアセテートが30~98質量%であり、油性有効成分が1~60質量%である請求項1~3の何れか1に記載の固形状薬剤組成物。
【請求項5】
VOCが3質量%未満である請求項1~4の何れか1に記載の固形状薬剤組成物。
【請求項6】
ベンジリデンソルビトール、
下記式(1)
【化2】
(式中、nは1~3の整数を示し、R
1はC1~3のアルキル基を示し、R
2はC1~3のアルキレン基を示し、R
3はCH
3-COO-またはC1~C3のアルキル基を示す)
で表されるグリコールエーテルアセテート、
20℃での蒸気圧が2mmHg未満の油性有効成分を溶解させた後、容器に充填して固化させることを特徴とする固形状薬剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香剤などの固形状薬剤組成物に関する。詳細には、本発明は、揮発性有機化合物(VOC)に該当しない溶剤および薬効成分を含有する固形状薬剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
室内空間や収納空間の臭気による不快感をなくし、快適な空間を生み出すために、芳香剤が広く使用されている。
【0003】
固形状の芳香剤には油性の溶剤をベースとしたオイル系のものと、水に香料等を分散させた水系のものが提案されているが、香料の選択性や香立ちの良さかオイル系のものが好ましく用いられている。
【0004】
オイル系芳香剤としては、揮散装置には様々な種類があり、例えば、液体を籐等天然由来の木片を揮散部材として用いて自然蒸散させるリードディフューザー、吸液芯部分に発熱体を取り付けて加熱することによって組成物を蒸散させるプラグタイプ、金属石鹸などで固形化した固体タイプなどがある。
【0005】
揮散装置によって、芳香剤組成物に用いる香料や溶剤の種類及び配合は異なるが、固形化タイプに用いる溶剤として、これまで主にグルコール系溶剤やピネンやパラフィン系炭化水素などの揮発性炭化水素系の溶剤が使用されてきた。(特許文献1、2)しかし、最近、「VOC」に関する規制に伴い、芳香剤組成物中のこれら溶剤の含量が規制されるようになった。「VOC」とは、「Volatile Organic Compounds(揮発性有機化合物)」の略で、当業者には公知の用語である。「VOC」に関する規制(以下「VOC規制」と称する場合がある)としては、例えば米国カリフォルニア州における一般消費者製品規則(第2項)があり、販売又は製造時に指定限界を超えて「VOC」を含有する消費者製品の販売、供給、販売の申込み、又は製造を取り締まる。本規制における「VOC」とは、California Consumer Products RegulationのArticle 2,§94508(a)(155)によって定められており、イソパラフィン系炭化水素などはそれに該当する。
【0006】
また、リモネンやピネンなどは引火性液体に該当するため、輸送特に輸出する場合は取扱数量などが制限されるなど様々な法規制をクリアすることが必要になり、輸送コストの増加につながってしまう。
【0007】
そこで、VOC規制に該当しないようにVOCの含有量を指定限界以下まで低減し、水などの他の低揮発性溶剤に置き換える試みもなされている。(特許文献4)しかし、香料の含有量が少なくなるため、香立ちが弱くなるとともに、芳香剤自体の強度が不足し、輸送中に崩れてしまうという問題点が発生する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭59-77859号公報
【文献】特開平3-9758号公報
【文献】特開2002-102325号公報
【文献】WO2019/087840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、「VOC」に該当せず、かつ固形状薬剤組成物を構成する溶剤として使用する油性有効成分を安定的に揮散させることができ、製品機能を充分に発揮し得る固形状薬剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、上記油性有効成分と、ベンジリデンソルビトールと、特定のグリコールエーテルを用いることにより固形状薬剤組成物がVOC規制に該当しないことを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、
ベンジリデンソルビトール、
下記式(1)
【化1】
(式中、nは1~3の整数を示し、R
1はC1~3のアルキル基を示し、R
2はC1~3のアルキレン基を示し、R
3はCH
3-COO-またはC1~C3のアルキル基を示す)
で表されるグリコールエーテルアセテート、
20℃での蒸気圧が2mmHg未満の油性有効成分、
を含有する固形状薬剤組成物を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、ベンジリデンソルビトール、
下記式(1)
【化2】
(式中、nは1~3の整数を示し、R
1はC1~3のアルキル基を示し、R
2はC1~3のアルキレン基を示し、R
3はCH
3-COO-またはC1~C3のアルキル基を示す)
で表されるグリコールエーテルアセテート、
20℃での蒸気圧が2mmHg未満の油性有効成分を溶解させた後、容器に充填して固化させることを特徴とする固形状薬剤組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、VOC規制を受けないゲル強度の高い固形状薬剤組成物を得ることができる。また、本発明の固形状薬剤組成物は、安定的に油性有効成分を揮散させることができ、VOCに該当しない溶剤を用いるため、安全に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の固形状薬剤組成物(以下、「本発明組成物」という)は、ベンジリデンソルビトール、
下記式(1)
【化1】
(式中、nは1~3の整数を示し、R
1はC(炭素数)1~3のアルキル基を示し、R
2はC1~3のアルキレン基を示し、R
3はCH
3-COO-またはC1~C3のアルキル基を示す)
で表されるグリコールエーテルアセテート、
20℃での蒸気圧が2mmHg未満の油性有効成分、
を含有するものである。
【0015】
本発明組成物に用いられるベンジリデンソルビトールはゲル化剤であり、化学的に中性で、疎水性且つ耐熱性の固体であり、通常、微粉末の形態である。このベンジリデンソルビトールは、ソルビトールとベンズアルデヒドとの縮合反応によって得られる縮合物であって、モノベンジリデンソルビトール、ジベンジリデンソルビトール、トリベンジリデンソルビトールまたはそれらの誘導体およびそれらのそれぞれ単独またはそれらの任意の割合の混合物も包含されるものである。ジベンジリデンソルビトールの誘導体としては、例えば、ジベンジリデンソルビトールのベンジリデン基中のベンゼン核が任意の位置にて炭素数1~3のアルキル基やハロゲン原子で置換された化合物を例示することができ、具体例としては、〔ジ(p-メチルベンジリデン)〕ソルビトール、〔ジ(m-エチルベンジリデン)〕ソルビトール、〔ジ(p-クロルベンジリデン)〕ソルビトール等を挙げられる。また、トリベンジリデンソルビトールの誘導体としては、例えば、トリベンジリデンソルビトールのベンジリデン基中のベンゼン核が任意の位置にて炭素数1~3のアルキル基やハロゲン原子で置換された化合物を例示することができ、具体例としては、〔トリ(p-メチルベンジリデン)〕ソルビトール、〔トリ(m-エチルベンジリデン)〕ソルビトール、〔トリ(p-クロルベンジリデン)〕ソルビトール等を挙げられる。これらのベンジリデンソルビトールの中でもジベンジリデンソルビトールが好ましい。
【0016】
ベンジリデンソルビトールは、公知の方法に従って合成してもよいが、例えば、「ゲルオールD」(ジベンジリデンソルビトール)、「ゲルオールMD」〔ジ(p-メチルベンジリデン)〕ソルビトール(いずれも新日本理化社製商品名)などの商品名で市販されているので、これらを利用してもよい。
【0017】
本発明組成物におけるベンジリデンソルビトールの含有量は、特に限定されないが、0.01~10質量%(以下、単に「%」という)、好ましくは0.1~7%、さらに好ましくは1~5%である。
【0018】
本発明組成物に用いられる下記式(1)で表されるグリコールエーテルアセテートは、VOCに該当しない揮発性有機溶剤である。
【化3】
【0019】
式中、nは1~3の整数、好ましくは2を示す。R1はC1~3のアルキル基、好ましくはメチル基を示す。R2はC1~3のアルキレン基、好ましくはプロピレン基を示す。R3はCH3-COO-またはC1~C3のアルキル基、好ましくはCH3-COO-基を示す。
【0020】
式1で表されるグリコールエーテルアセテートのうち、好ましいのは下記式(2)
【化4】
で表されるジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートまたはジプロピレングリコール-n-プロピルエーテルであり、より好ましくはジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートである。本発明組成物におけるグリコールエーテルアセテートの含有量は、特に限定されないが、30~98%、好ましくは40~80%、さらに好ましくは50~80%である。
【0021】
本発明組成物に用いられる20℃での蒸気圧が2mmHg未満の油性有効成分は、VOCに該当しないものである。このような油性有効成分であれば、本発明組成物を20℃で使用する際に順次気化する。このような油性有効成分としては、特に限定されないが、例えば、20℃での蒸気圧が2mmHg未満の香料原料で調合された香料が好ましい。
【0022】
上記20℃での蒸気圧が2mmHg未満の香料原料としては、例えば、麝香、霊猫香、竜延香等の動物性香料、アビエス油、アクジョン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ページル油、ベルガモット油、パーチ油、ボアバローズ油、カヤブチ油、ガナンガ油、カプシカム油、キャラウェー油、カルダモン油、カシア油、セロリー油、シナモン油、シトロネラ油、コニャック油、コリアンダー油、クミン油、樟脳油、ジル油、エストゴラン油、ユーカリ油、フェンネル油、ガーリック油、ジンジャー油、グレープフルーツ油、ホップ油、レモン油、レモングラス油、ナツメグ油、マンダリン油、ハッカ油、オレンジ油、セージ油、スターアニス油、テレピン油等の植物性香料を挙げることができる。この香料として、合成香料又は抽出香料等の人工香料を用いることもでき、例えば、リモネン、テルピノレン、ジペンテン等のテルペン系炭化水素、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、メントール、ボルネオール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、βフェネチルアルコール等のアルコール系香料、アネトール、オイゲノール等のフェノール系香料、シトロネラール、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド等のアルデヒド系香料、カルボン、メントン、樟脳、アセトフェノン、イオノン等のケトン系香料、γ―ブチルラクトン、クマリン、シネオール等のラクトン系香料、オクチルアセテート、ベンジルアセテート、シンナミルアセテート、安息香酸メチル等のエステル系香料等が挙げられる。さらに、上記香料の2種以上を混合した調合香料も使用することができる。
【0023】
本発明組成物における20℃での蒸気圧が2mmHg未満の油性有効成分の含有量は特に限定されないが、1~60%、好ましくは1~30%、さらに好ましくは5~20%である。
【0024】
本発明組成物には、更に離しょう防止剤を含有させることができる。本発明組成物に用いられる離しょう防止剤は、特に限定されないが、結晶セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースやグリセリン、タルク、マイカ、酸化亜鉛、ヒドロキシアパタイトを挙げることができる。これら離しょう防止剤は1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、ゲル強度の点から2種用いることが好ましい。本発明組成物における離しょう防止剤の含有量は、特に限定されないが、0.1~10%、好ましくは0.1~5%、さらに好ましくは0.5~3%である。
【0025】
本発明組成物には、ゲル形成に影響を与えない程度に更に各種添加剤を加えることができる。添加剤としては例えば他の溶剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消臭成分、色素、VOCに該当しない炭素数13以上または20℃0.1mmHg未満の油性成分等を添加することができる。
【0026】
本発明組成物の好ましい態様としては、ベンジリデンソルビトールが1~5%であり、式(1)で表されるグリコールエーテルアセテートが30~98%であり、20℃での蒸気圧が2mmHg未満の油性有効成分が1~60%であり、必要により離しょう防止剤が0.1~10%である。
【0027】
本発明組成物は、従来公知の方法で製造でき、例えば、ベンジリデンソルビトール、式(1)で表されるグリコールエーテルアセテート、20℃での蒸気圧が2mmHg未満の油性有効成分(必要により離しょう防止剤、添加剤)を加熱等して溶解し、その後容器に充填して室温で放冷等させて固化させることにより製造することができる。
【0028】
かくして得られる本発明組成物は、「VOC」規制に該当せず、かつ固形状薬剤組成物を構成する溶剤として使用する油性有効成分を安定的に揮散させることができ、芳香剤、消臭剤等の用途に利用可能である。なお、本発明組成物が「VOC」規制に該当しないとは、20℃での蒸気圧が2mmHg未満の油性有効成分および炭素数13以上または20℃0.1mmHg未満の油性成分を除いた、VOC成分が3質量%未満であることをいう。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明これら実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
実 施 例 1
固形状薬剤組成物:
表1の処方に従って以下の製造方法で実施品1~6および比較品1~3を製造した。これらについて以下の基準に従って離しょう性、ゲル強度、VOC規制への対応、揮散性および国連GHSの可燃性固体への対応について評価した。その結果も表1に示した。
【0031】
<製造方法>
(1)実施品1~6
全ての成分を加熱混合して溶解した後、容器に充填した。これを室温で放冷して固化させた。
(2)比較品1
香料とリモネン混合後80℃に加熱して攪拌しながらステアリン酸ナトリウム塩を添加し溶解させたのち、容器に充填して室温で放冷して固化させた。
(3)比較品2
ゲル化剤と溶剤と香料を表1の割合で加熱混合して溶解したのち容器に充填して室温で放冷して固化させた。
(4)比較品3
エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、ジベンジリデンソルビトール及び水を入れ70℃~80℃で加温して溶解させ、その後60℃に冷却させて香料を加え攪拌して容器に充填して室温で放冷して固化させた。
【0032】
【0033】
<評価基準>
(1)離しょう性
試験方法:作製したゲルの20gの外観を観察し、評価した。また、同じゲルを80℃恒温槽にて5日間静置し、恒温槽から取り出し24時間室温放置後の外観を観察し、評価した。
(評価) (内容)
◎ : 離しょうは見られない
〇 : ごくわずかに離しょうがみられる(離しょう液重量が1g以下)
△ : 離しょうがみられる(離しょう液重量が3g以下)
× : 液化している
【0034】
(2)ゲル強度:
試験方法:作製したゲルの20gを80℃恒温槽にて5日間静置し、恒温槽から取り出し24時間室温放置後のゲルを薬さじですくい、ゲル強度を確認し、評価した。
(評価) (内容)
◎ : 作成したゲル強度が高く、固体形状を維持している
〇 : やや柔らかくゾル状態のもの
× : 液状になっているもの
【0035】
(3)VOC規制への対応
米国カリフォルニア州における一般消費者製品規則(第2項)(規則)における指定限界(香料以外のVOC該当物質として3wt%)を超えてVOCを含有するものは×、含有しないものは〇とした。
【0036】
(4)揮散性
作製したゲルを室温解放空間に30日間放置し、時間経過とともに開始後重量-30日後重量差が開始時重量の40%以上のものを〇、40%未満のものを×とした。
【0037】
(5)国連GHSの可燃性固体への対応
国連GHSの可燃性固体の判定基準にて可燃性固体に該当するものを×、該当しないものを〇とした。
【0038】
表1から明らかなように、本発明品はいずれもVOC規制や可燃性固体に該当せず安全性が高いとともに、十分な揮散性を確保しつつ、高いゲル強度があり離しょうの問題も生じにくいものであった。一方、比較品1と3は安全性に問題があり、また、比較品2、3はゲル強度や離しょう性に問題があるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の固形状薬剤組成物は、芳香剤などに利用することができる。