(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】センサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20240826BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/416 331
(21)【出願番号】P 2021044221
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 薫
(72)【発明者】
【氏名】大西 諒
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-093330(JP,A)
【文献】特開2009-080111(JP,A)
【文献】特開2016-029360(JP,A)
【文献】特開2009-080110(JP,A)
【文献】特開2020-165816(JP,A)
【文献】特開2020-165813(JP,A)
【文献】特開2018-169324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスにおける所定ガス成分の濃度の測定に用いられるセンサ素子であって、
酸素イオン伝導性を有する固体電解質層、及び、前記固体電解質層を加熱するように構成されたヒータを含む、板状の素子本体と、
前記素子本体の少なくとも一つの面上に形成された保護層とを備え、
前記保護層の表面において、表面粗さRaは8μm以下であり、表面うねりWaは6μm以上である、センサ素子。
【請求項2】
前記素子本体は、平面視において、長辺及び短辺を有し、
前記表面粗さRa及び前記表面うねりWaの各々は、前記短辺方向における前記保護層の断面曲線から得られる、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記素子本体の短辺方向における前記保護層の中央部に対応する位置は、前記短辺方向における前記保護層の両端部の各々に対応する位置よりも盛り上がっている、請求項1又は請求項2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記保護層は、内側保護層と、前記内側保護層よりも外側に位置する外側保護層とを含み、
前記内側保護層及び前記外側保護層の各々は、多孔質であり、
前記外側保護層の平均気孔径は、前記内側保護層の平均気孔径よりも小さく、
前記内側保護層の気孔率は、40%以上、60%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記内側保護層の膜厚は、170μm以上、900μm以下である、請求項4に記載のセンサ素子。
【請求項6】
前記外側保護層の気孔率は、15%以上、50%以下である、請求項4又は請求項5に記載のセンサ素子。
【請求項7】
前記外側保護層の膜厚は、30μm以上、300μm以下である、請求項4から請求項6のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子に関し、特に、被測定ガスにおける所定ガス成分の濃度の測定に用いられるセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-65852号公報(特許文献1)は、被測定ガスにおける所定ガス成分の濃度を測定するように構成されたガスセンサを開示する。このガスセンサは、センサ素子を含む。このガスセンサにおいては、センサ素子が被水することによって生じる熱衝撃を抑制するために、センサ素子の先端部に保護膜が形成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
センサ素子を含むガスセンサは、例えば、エンジンの排気管に取り付けられる。近年、エンジンの始動後にガスセンサを早期に始動させることが求められている。すなわち、エンジンの始動後において、センサ素子の昇温タイミングを早めることが求められている。
【0005】
エンジンの始動直後には、排気管内に凝縮水が存在する場合がある。エンジンの始動後におけるセンサ素子の昇温タイミングが早められると、昇温されたセンサ素子に凝縮水が付着し得る。昇温されたセンサ素子に凝縮水が付着すると、センサ素子において熱衝撃が生じる。この熱衝撃が原因となって、センサ素子においてクラックが発生する可能性がある。上記特許文献1に開示されているセンサ素子によってもこのような問題を解決できない可能性がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、被水による熱衝撃をより受けにくいセンサ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従うセンサ素子は、被測定ガスにおける所定ガス成分の濃度の測定に用いられる。このセンサ素子は、板状の素子本体と、保護層とを備える。素子本体は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質層、及び、固体電解質層を加熱するように構成されたヒータを含む。保護層は、素子本体の少なくとも一つの面上に形成されている。保護層の表面において、表面粗さRaは8μm以下であり、表面うねりWaは6μm以上である。
【0008】
このセンサ素子においては、保護層の表面において、表面粗さRaがある程度小さく、かつ、表面うねりWaがある程度大きい。したがって、保護層の表面に滴下した水分は、一箇所にとどまりにくい。その結果、このセンサ素子によれば、保護層の表面に滴下した水分がセンサ素子以外の部分に移動する可能性が高いため、被水による熱衝撃を抑制することができる。
【0009】
上記センサ素子において、素子本体は、平面視において、長辺及び短辺を有し、表面粗さRa及び表面うねりWaの各々は、短辺方向における保護層の断面曲線から得られてもよい。
【0010】
上記センサ素子において、素子本体の短辺方向における保護層の中央部に対応する位置は、短辺方向における保護層の両端部の各々に対応する位置よりも盛り上がっていてもよい。
【0011】
したがって、このセンサ素子によれば、保護層の表面に滴下した水分が保護層の両端部に向かって流れていきセンサ素子以外の部分に移動する可能性が高いため、被水による熱衝撃を抑制することができる。
【0012】
上記センサ素子において、保護層は、内側保護層と、内側保護層よりも外側に位置する外側保護層とを含み、内側保護層及び外側保護層の各々は、多孔質であり、外側保護層の平均気孔径は、内側保護層の平均気孔径よりも小さく、内側保護層の気孔率は、40%以上、60%以下であってもよい。
【0013】
上記センサ素子において、内側保護層の膜厚は、170μm以上、900μm以下であってもよい。
【0014】
上記センサ素子において、外側保護層の気孔率は、15%以上、50%以下であってもよい。
【0015】
上記センサ素子において、外側保護層の膜厚は、30μm以上、300μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被水による熱衝撃をより受けにくいセンサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】センサ素子の一例を概略的に示した斜視図である。
【
図2】ガスセンサの構成の一例を概略的に示した断面模式図である。
【
図3】センサ素子等の温度がどのように変化するかの一例を示す図である。
【
図4】
図1のIV-IV断面を模式的に示す図である。
【
図5】3室構造のセンサ素子を含むガスセンサの構成の一例を概略的に示した断面模式図である。
【
図6】表面粗さRa及び表面うねりWaの測定方法を説明するための図である。
【
図7】耐被水性試験において用いられる装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
[1.センサ素子の概略構成]
図1は、本実施の形態に従うセンサ素子101の一例を概略的に示した斜視図である。
図2は、センサ素子101を含むガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。
図2のうち、センサ素子101の断面は
図1のII-II断面に相当する。なお、センサ素子101は、長尺な直方体形状を有している。平面視において、センサ素子101は、長辺及び短辺を有している。以下においては、センサ素子101の長辺方向(
図2の左右方向)を前後方向とする場合があり、センサ素子101の厚み方向(
図2の上下方向)を上下方向とする場合がある。また、センサ素子101の短辺方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする場合がる。
【0020】
図1及び
図2を参照して、ガスセンサ100は、例えば車両の排気管等に取り付けられ、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOx又はO
2等の特定ガスの濃度を測定するように構成されている。本実施の形態において、ガスセンサ100は、特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。センサ素子101は、素子本体101aと、素子本体101aを被覆する保護層90とを含んでいる。なお、素子本体101aは、センサ素子101のうち保護層90以外の部分である。
【0021】
センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電界質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工及び回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0022】
センサ素子101の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0023】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0024】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
【0025】
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、例えば大気が導入される。なお、第1固体電解質層4がセンサ素子101の後端まで延びており、基準ガス導入空間43が形成されていなくてもよい。また、基準ガス導入空間43が形成されていない場合に、大気導入層48がセンサ素子101の後端まで延びていてもよい(例えば、
図5参照)。
【0026】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0027】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0028】
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0029】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0030】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0031】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0032】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空間へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0033】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0034】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0035】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6及び第1固体電解質層4)、及び、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0036】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0037】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0038】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0039】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0040】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0041】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
【0042】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0043】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0044】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。
【0045】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0046】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0047】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0048】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0049】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0050】
測定用ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0051】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
【0052】
第4拡散律速部45は、アルミナ(Al2O3)を主成分とする多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜としても機能する。
【0053】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0054】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0055】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0056】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とを組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0057】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0058】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0059】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75とを備えている。
【0060】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0061】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0062】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0063】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、及び、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0064】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0065】
上述のように、素子本体101aは、一部が保護層90により被覆されている。保護層90は、素子本体101aの6個の表面のうち5面を覆っている。すなわち、保護層90は、素子本体101aの上面、下面、左面、右面及び前面の各々を覆っている。
【0066】
保護層90は、多孔質体で構成されており、例えばセラミックス粒子を含むセラミックスで構成されている。セラミックス粒子としては、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、スピネル(MgAl2O4)、ムライト(Al6O13Si2)等の金属酸化物の粒子が挙げられ、保護層90は、これらの少なくともいずれかを含んでいることが好ましい。なお、本実施の形態において、保護層90は、アルミナ多孔質体で構成されている。
【0067】
なお、保護層90は、素子本体101aの表面のうち、素子本体101aの前端面から後方に向かって距離L(
図2参照)までの領域を全て覆っている。また、保護層90は、外側ポンプ電極23が形成された部分を被覆している。保護層90は、ガス導入口10を覆っているが、保護層90が多孔質体で構成されているため、被測定ガスは保護層90の内部を流通してガス導入口10に到達可能である。保護層90は、素子本体101aの一部(素子本体101aの前端面を含む、前端面から距離Lまでの部分)を被覆して、その部分を保護する。保護層90は、例えば、被測定ガス中の水分等が素子本体101aに付着して、素子本体101aにクラックが生じるのを抑制する。なお、距離Lは、ガスセンサ100において素子本体101aが被測定ガスに晒される範囲、及び、外側ポンプ電極23の位置等に基づいて、(0<距離L<素子本体101aの長辺方向の長さ)の範囲で定められている。
【0068】
保護層90は、2層構造になっている。保護層90は、多孔質の外側保護層91と、多孔質の内側保護層92とを含んでいる。内側保護層92は、素子本体101aの表面の一部を被覆している。外側保護層91は、素子本体101aを基準にして内側保護層92よりも外側に位置しており、内側保護層92上に積層されている。外側保護層91は、内側保護層92よりも平均気孔径が小さい。すなわち、外側保護層91の平均気孔径R1μmと内側保護層92の平均気孔径R2μmとの比R1/R2は、1.0未満となっている。
【0069】
外側保護層91について、厚みTh1は、30μm以上としてもよく、50μm以上としてもよく、300μm以下としてもよく、200μm以下としてもよく、150μm以下としてもよく、100μm以下としてもよい。なお、厚みTh1は、必ずしも外側保護層91の全体において均一である必要はない。
【0070】
また、内側保護層92について、厚みTh2は、170μm以上としてもよく、200μm以上としてもよく、250μm以上としてもよく、900μm以下としてもよく、400μm以下としてもよい。なお、厚みTh2は、必ずしも内側保護層92の全体において均一である必要はない。
【0071】
なお、本実施の形態において、外側保護層91の厚みTh1及び内側保護層92の厚みTh2の各々は、以下のように導出された値とする。まず、外側保護層91の厚み方向に沿ってセンサ素子101が切断される。切断面の樹脂埋め及び研磨を行なうことによって、観察用試料が作製される。続いて、SEM(Scanning Electron Microscope)の倍率が1000倍に設定され、観察用試料の観察面(外側保護層91の断面)が撮影される。これにより、外側保護層91のSEM画像が得られる。得られたSEM画像を用いることによって、外側保護層91(例えば、第2固体電解質層6の上方に位置する部分)と内側保護層92(例えば、第2固体電解質層6の上方に位置する部分)との境界が特定される。また、保護層90が形成された素子本体101aの表面(例えば、第2固体電解質層6の上面)に垂直な方向が厚み方向として特定される。そして、保護層90の表面(ここでは上面)から境界までの厚み方向の距離が厚みTh1として導出される。また、素子本体101aの表面から境界までの厚み方向の距離が厚みTh2として導出される。なお、SEM画像の取得は、例えば、日立ハイテクノロジーズ製SU1510を用いて行うことができる。
【0072】
外側保護層91について、気孔率Po1は30%以上であることが好ましい。気孔率Po1が30%以上であれば、外側保護層91内の気孔容積が水分量に対して不足しにくくなり、外側保護層91が水分を十分に保持できる。また、外側保護層91について、気孔率Po1は50%以下であることが好ましい。気孔率Po1が50%以下であれば、水分が外側保護層91を通り抜けにくくなり、外側保護層91が水分を十分に保持できる。
【0073】
また、内側保護層92について、気孔率Po2は40%以上であることが好ましい。気孔率Po2が40%以上であれば、外側保護層91と素子本体101aとの間の内側保護層92による断熱効果が不十分になるのを抑制することができる。また、内側保護層92について、気孔率Po2は60%以下であることが好ましい。気孔率Po2が60%以下であれば、内側保護層92の強度が不十分になるのを抑制することができる。
【0074】
なお、本実施の形態において、外側保護層91の気孔率Po1は、以下のように導出された値とする。まず、外側保護層91の厚み方向に沿ってセンサ素子101が切断される。切断面の樹脂埋め及び研磨を行なうことによって、観察用試料が作製される。続いて、SEMの倍率が100倍に設定され、観察用試料の観察面(外側保護層91の断面)が撮影される。これにより、外側保護層91のSEM画像が得られる。得られたSEM画像の画像解析が行なわれる。画像中の画素の輝度分布に基づいて、判別分析法で閾値が決定される。その後、決定された閾値に基づいて画像中の各画素が物体部分と気孔部分とに2値化され、物体部分の面積と気孔部分の面積とが算出される。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合が、気孔率Po1として導出される。内側保護層92の気孔率Po2も、同様にして導出された値とする。
【0075】
[2.ガスセンサの早期始動に伴って生じる問題]
ガスセンサ100は、例えば、車両のエンジンの排気管に取り付けられる。近年、エンジンの始動後にガスセンサ100を早期に始動させることが求められている。すなわち、エンジンの始動後において、センサ素子101の昇温タイミングを早めることが求められている。
【0076】
図3は、センサ素子101等の温度がどのように変化するかの一例を示す図である。
図3を参照して、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示す。線W2はセンサ素子101の温度変化の一例を示し、線W1は比較対象のセンサ素子の温度変化の一例を示す。線W3は、エンジンの排気管を通る排気ガスの温度変化の一例を示す。
【0077】
時刻t0において、エンジンが始動する。時刻t0においては、排気管内に凝縮水が存在する。エンジンの始動後に、凝縮水は、排気管内で飛散し、ガスセンサ100内に進入する。排気ガスの温度上昇に伴って、例えば、時刻t2において、ガスセンサ100内は乾燥状態になる。
【0078】
比較対象のセンサ素子は、ガスセンサ100内が乾燥状態となった後(時刻t2)に昇温を開始する。その後、比較対象のセンサ素子の温度は、時刻t3の時点で温度T2になる。温度T2は、ガスセンサが機能するのに必要な温度である。比較対象のセンサ素子はガスセンサ100内が乾燥状態となった後に昇温を開始するため、比較対象のセンサ素子にクラックが生じる可能性は低い。しかしながら、比較対象のセンサ素子は、時刻t3まで機能を発揮することができない。
【0079】
一方、センサ素子101は、例えば、エンジンの始動と同時(時刻t0)に昇温を開始する。センサ素子101の温度は、時刻t1の時点で温度T2になる。すなわち、センサ素子101の昇温タイミングは比較対象のセンサ素子の昇温タイミングよりも早い。
【0080】
時刻t0にセンサ素子101の昇温を開始すると、昇温されたセンサ素子101に凝縮水が付着する可能性がある。仮に特に構造上の工夫を施していないセンサ素子の昇温を時刻t0に開始すると、センサ素子に凝縮水が付着することにより生じる熱応力によって、センサ素子においてクラックが発生する可能性がある。
【0081】
本実施の形態に従うガスセンサ100においては、センサ素子101に構造上の工夫が施されている。その結果、エンジンの始動後にガスセンサ100を早期に始動させたとしても、センサ素子101においてクラックが発生しにくくなっている。以下、センサ素子101における構造上の工夫について、詳細に説明する。
【0082】
[3.センサ素子における特徴的な構造]
図4は、
図1のIV-IV断面を模式的に示す図である。なお、
図4においては、素子本体101aの構造が簡略化されている。
図4を参照して、センサ素子101においては、保護層90の上面の構造に工夫が施されている。具体的には、センサ素子101の短辺方向において、保護層90の上面の表面粗さRaは8μm以下であり、保護層90の上面の表面うねりWaは6μm以上である。好ましくは、保護層90の上面の表面粗さRaは7.6μm以下であり、保護層90の上面の表面うねりWaは6.9μm以上である。なお、表面粗さRa及び表面うねりWaの各々は、JIS B0633:2001における定義に従う。すなわち、表面粗さRaは粗さ曲線の算術平均高さを意味し、表面うねりWaはうねり曲線の算術平均高さを意味する。粗さ曲線及びうねり曲線の各々は、短辺方向における保護層90の断面曲線から得られる。
【0083】
すなわち、センサ素子101においては、保護層90の上面において、表面粗さRaがある程度小さく、かつ、表面うねりWaがある程度大きい。したがって、保護層90の上面に滴下した水滴Wt1は、ライデンフロスト現象の影響を大きく受け、保護層90の上面における一箇所にとどまりにくい。その結果、センサ素子101によれば、保護層90の上面に滴下した水滴Wt1がセンサ素子101以外の部分に移動する可能性が高いため、被水による熱衝撃を抑制することができる。
【0084】
より詳細には、保護層90の上面において、短辺方向における保護層90の中央部に対応する位置P1は、短辺方向における保護層90の両端部の各々に対応する位置P2よりも盛り上がっている。したがって、センサ素子101によれば、保護層90の上面に滴下した水滴Wt1が、ライデンフロスト現象の影響を大きく受け、保護層90の短辺方向の端部に向かって流れていき、センサ素子101以外の部分に移動する可能性が高いため、被水による熱衝撃を抑制することができる。
【0085】
なお、
図4においては、位置P1から位置P2に向かって上下方向の位置がなだらかに下がっていくが、位置P2が位置P1よりも下方に位置していれば、位置P1から位置P2に向かう途中で上下方向の位置が上がる部分があってもよい。また、位置P1と位置P2との間の領域において、位置P1よりも上下方向の位置が上の領域が存在してもよい。
【0086】
[4.特徴]
以上のように、本実施の形態に従うセンサ素子101においては、保護層90の表面において、表面粗さRaは8μm以下であり、表面うねりWaは6μm以上である。すなわち、保護層90の表面において、表面粗さRaがある程度小さく、かつ、表面うねりWaがある程度大きい。したがって、保護層90の表面に滴下した水分は、一箇所にとどまりにくい。その結果、センサ素子101によれば、保護層90の表面に滴下した水分がセンサ素子101以外の部分に移動する可能性が高いため、被水による熱衝撃を抑制することができる。
【0087】
[5.変形例]
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下、変形例について説明する。
【0088】
<5-1>
上記実施の形態において、センサ素子101には、第1内部空所20と、第2内部空所40とが形成されていた。すなわち、センサ素子101は、2室構造であった。しかしながら、センサ素子101は、必ずしも2室構造である必要はない。たとえば、センサ素子101は、3室構造であってもよい。
【0089】
図5は、3室構造のセンサ素子101Xを含むガスセンサ100Xの構成の一例を概略的に示した断面模式図である。
図5に示されるように、第2内部空所40(
図1)を第5拡散律速部60でさらに2室に分け、第2内部空所40Xと第3内部空所61とを作成してもよい。この場合、第2内部空所40Xに補助ポンプ電極51Xを配置し、第3内部空所61に測定電極44Xを配置してもよい。また3室構造にする場合には、第4拡散律速部45を省略してもよい。
【0090】
<5-2>
また、上記実施の形態においては、保護層90の上面に関して、表面粗さRaが8μm以下であり、表面うねりWaが6μm以上であったが、保護層90の下面、左面、右面及び前面の一部又は全部においても、表面粗さRaが8μm以下であり、表面うねりWaが6μm以上であってもよい。
【0091】
[6.実施例等]
<6-1.実施例及び比較例>
まず、次に説明する方法により、実施例となるセンサ素子101を製造した。具体的には、まず素子本体101aを製造し、素子本体101aに保護層90を形成することによってセンサ素子101を製造した。
【0092】
最初に素子本体101aの製造方法について説明する。ジルコニア等の酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む6枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意した。なお、各セラミックスグリーンシートは、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合し、テープ成形により成形した。このグリーンシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いるシート穴や必要なスルーホール等を予め複数形成しておいた。
【0093】
また、スペーサ層5となるグリーンシートにはガス流通部となる空間を予め打ち抜き処理等によって設けておいた。そして、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6とのそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに種々のパターンを形成するパターン印刷処理及び乾燥処理を行なった。
【0094】
形成されたパターンは、具体的には、上述した各電極、各電極に接続されるリード線、大気導入層48、ヒータ部70等のパターンであった。パターン印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してグリーンシート上に塗布することにより行なった。乾燥処理についても、公知の乾燥手段を用いて行なった。パターン印刷及び乾燥が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層及び接着するための接着用ペーストの印刷及び乾燥処理を行なった。
【0095】
そして、接着用ペーストを形成したグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ所定の順序に積層して、所定の温度・圧力条件を加えることで圧着させ、一つの積層体とする圧着処理を行なった。こうして得られた積層体は、複数個の素子本体101aを包含したものであった。その積層体を切断して素子本体101aの大きさに切り分けた。そして、切り分けた積層体を所定の焼成温度で焼成し、素子本体101aを得た。
【0096】
次に、素子本体101aに保護層90を形成する方法について説明する。素子本体101aの焼成後に、外側保護層91及び内側保護層92となる外側保護層用スラリー及び内側保護層用スラリーを用いてディッピング法により保護層90を形成した。外側保護層用スラリーは、例えば、外側保護層91の原料粉末(アルミナ)と造孔材とを溶媒に分散させたものであった。内側保護層用スラリーも、原料粉末として内側保護層92用のものを用いる点以外は同様であった。
【0097】
まず、内側保護層用スラリーを用いて、素子本体101aの固体電解質層(層1~6)の表面の少なくとも一部をディッピングにより被覆して被膜を形成した。ディッピングは、以下のように行なった。まず、素子本体101aの前端面を下方に向けて、内側保護層用スラリーの表面に対して垂直に素子本体101aを浸漬する。このとき、素子本体101aの前端から距離Lまでの領域を内側保護層用スラリーに浸漬した。そして、素子本体101aを後方に動かして内側保護層用スラリーからゆっくりと引き上げた。これにより、素子本体101aの前端から後方に距離Lまでの領域が、内側保護層用スラリーからなる被膜で被覆された。素子本体101aを引き上げた後に、被膜を乾燥させた。乾燥後に、同様にして外側保護層用スラリーを用いてディッピングによる被膜の形成及び乾燥を行った。
【0098】
以上のように外側保護層用スラリー及び内側保護層用スラリーの被膜を形成して乾燥させたあと、被膜を所定の焼成温度で焼成した。これにより、被膜が焼結して外側保護層91及び内側保護層92を備えた保護層90となり、センサ素子101が得られた。得られたセンサ素子101には、必要に応じて表面研磨が施された。
【0099】
このような方法で、実施例1~5のセンサ素子101が得られた。実施例1においては、保護層90の上面の表面粗さRaが7.6μmであり、保護層90の上面の表面うねりWaが6.2μmであった。実施例2においては、保護層90の上面の表面粗さRaが7.1μmであり、保護層90の上面の表面うねりWaが6.9μmであった。実施例3においては、保護層90の上面の表面粗さRaが7.3μmであり、保護層90の上面の表面うねりWaが9.4μmであった。実施例4においては、保護層90の上面の表面粗さRaが7.7μmであり、保護層90の上面の表面うねりWaが7.5μmであった。実施例5においては、保護層90の上面の表面粗さRaが7.6μmであり、保護層90の上面の表面うねりWaが8.6μmであった。
【0100】
なお、表面粗さRa及び表面うねりWaの各々は、JIS B0633:2001に従って測定された。
【0101】
図6は、表面粗さRa及び表面うねりWaの測定方法を説明するための図である。
図6を参照して、センサ素子101の短辺方向における10本の線EL1において、上記JIS規格に規定されるカットオフ値を設定した上で、線粗さを計測した。10本の線EL1における計測結果の平均値を表面粗さRa及び表面うねりWaとした。なお、線粗さの測定には、キーエンス社製のVR-3000を使用した。
【0102】
また、比較例1におけるセンサ素子も上述の方法と同様の方法で製造した。保護層の上面においては、表面粗さRa及び表面うねりWaが実施例1~5と異なっていた。比較例1において、保護層の上面の表面粗さRaは8.6μmであり、保護層の上面の表面うねりWaは5.1μmであった。
【0103】
<6-2.耐被水性試験>
図7は、耐被水性試験において用いられる装置を模式的に示す図である。
図7に示されるように、ディスペンサ500は、ヘッド510と、ノズル520とを含んでいる。センサ素子101は、素子用クランプ530によって保持されている。
【0104】
耐被水性試験においては、液体貯留部から内径が3mm以下のノズル520へ液体が供給される。具体的には、大気圧に1-10kPa上乗せした圧力で加圧することによって、液体がノズル520へ供給される。液だれを利用して、ノズル520の先端から3-70μLの範囲で設定された所望の滴下量の液滴をセンサ素子101(保護層90)上に1滴滴下する。液滴の滴下によるセンサ素子101への影響を評価する。
【0105】
より具体的には、センサ素子101の保護層90上面上に液滴を第1の所定時間ノズルを開いて液滴を滴下する。センサ素子101に異常が生じなければ、センサ素子101の所定位置に第1の所定時間よりも長い第2の所定時間液滴を滴下する。この作業を、センサ素子101に異常が生じるまで、又は、予め定められた全ての所定時間のパターンをやり切るまで繰り返す。
【0106】
液滴の滴下によって、センサ素子101においてクラックが発生すると、第1内部空所20内に酸素に進入し、Ip0(
図1)が急激に上昇する。Ip0の急激な上昇の有無によって、センサ素子101におけるクラック発生の有無を判断する。実施例1-5及び比較例1の各々におけるサンプル数は5であった。このような方法によって、耐被水性試験が行なわれた。
【0107】
<6-3.試験結果>
試験結果を以下の表1にまとめる。
【0108】
【表1】
耐被水性の値が大きい程、耐被水性のレベルは高いといえる。表1に示されるように、実施例1の耐被水性を1(基準)とした場合に、実施例2-5の各々の耐被水性は1を超えていた。一方、比較例1の耐被水性は1を下回っていた。
【符号の説明】
【0109】
1 第1基板層、2 第2基板層、3 第3基板層、4 第1固体電解質層、5 スペーサ層、6 第2固体電解質層、10 ガス導入口、11 第1拡散律速部、12 緩衝空間、13 第2拡散律速部、20 第1内部空所、21 主ポンプセル、22 内側ポンプ電極、22a,51a,51aX 天井電極部、22b,51b,51bX 底部電極部、23 外側ポンプ電極、30 第3拡散律速部、40,40X 第2内部空所、41 測定用ポンプセル、42 基準電極、43 基準ガス導入空間、44,44X 測定電極、45 第4拡散律速部、46,52 可変電源、48 大気導入層、50 補助ポンプセル、51,51X 補助ポンプ電極、60 第5拡散律速部、61 第3内部空所、70 ヒータ部、71 ヒータ電極、72 ヒータ、73 スルーホール、74 ヒータ絶縁層、75 圧力放散孔、80 主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、81 補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、82 測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、83 センサセル、90 保護層、91,91a~91e 外側保護層、92,92a~92e 内側保護層、100 ガスセンサ、101 センサ素子、101a 素子本体、500 ディスペンサ、510 ヘッド、520 ノズル、530 素子用クランプ、P1,P2 位置、Po1,Po2 気孔率、Th1,Th2 厚み、Wt1 水滴、EL1 線。