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特許7543234アルミナセラミックス、及びアルミナセラミックスの製造方法
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  • 特許-アルミナセラミックス、及びアルミナセラミックスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】アルミナセラミックス、及びアルミナセラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/111 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
C04B35/111
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021163224
(22)【出願日】2021-10-04
(65)【公開番号】P2023054408
(43)【公開日】2023-04-14
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】深沢 祐司
(72)【発明者】
【氏名】中川 卓哉
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-069889(JP,A)
【文献】特開2005-239463(JP,A)
【文献】特開2011-116615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/111
C23C 24/04
H01L 21/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを主結晶とし、焼結助剤としてMgとSiを使用するアルミナセラミックスにおいて、
少なくとも表層から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が400ppm以上2000ppm以下であり、かつMg/Siの値が0.5以上30以下であり、
の純度が99%以上を有するとともに、気孔径が1μm以上2μm以下、かつ表面抵抗率が4×1013Ω/□以上6.2×10 13 Ω/□以下であり、
さらにTiの含有量を100ppm以下とする、ことを特徴とするアルミナセラミックス。
【請求項2】
CVD装置、イオンプレーティング装置、エッチング装置、静電チャックを含むプラズマ生成装置において使用する、ことを特徴とする請求項1に記載のアルミナセラミックス。
【請求項3】
前記請求項1に記載された、Alを主結晶とするアルミナセラミックスの製造方法であって、
不純物として含まれるTiの含有量が100ppm以下のアルミナ粉末に対し、少なくともアルミナ焼結体の表層から深さ500μmの範囲においてMgの含有量が400ppm以上2000ppm以下となるように、Mgを含ませるステップと、
さらに、前記範囲においてMg/Siの値が0.5以上30以下となるように、Siを含ませて原料粉を作製するステップと、
前記原料粉にバインダーを添加して造粒粉を作製するステップと、
前記造粒粉から成形体を作製するステップと、
前記成形体を焼成し、アルミナ焼結体を得るステップと、
を含むことを特徴とするアルミナセラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記アルミナ粉末はAlの純度を99%以上とする、ことを特徴とする請求項3に記載のアルミナセラミックスの製造方法。
【請求項5】
アルミナ粉末に対して炭酸マグネシウムを添加することにより、前記Mgの含有量を400ppm以上2000ppm以下とし、
さらに、二酸化ケイ素を添加することにより、前記Mg/Siの値を0.5以上30以下とする、ことを特徴とする請求項3に記載のアルミナセラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の範囲の表面抵抗率を有するアルミナセラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、プラズマ生成装置に用いられるアルミナセラミックスは、その抵抗率が高い場合には帯電が生じやすく、反応生成物を引き寄せる場合がある。そのため、表面に付着するパーティクルが生じやすい。一方、アルミナセラミックスの抵抗率が低い場合には、微弱ながらも導電現象が生じやすく、装置全体の制御に悪影響を与える可能性がある。したがって、プラズマ生成装置においては、帯電と導電現象を抑制可能な抵抗率を有するアルミナセラミックスが求められている。
【0003】
また、アルミナセラミックスは、セラミック材料としては最もよく知られており、高硬度、高耐摩耗性、耐食性、耐薬品性等の優れた特性を有し、汎用性も高く、様々な分野で応用されている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、アルミナセラミックスが静電吸着装置に使用する材料として適していることが記載されている。具体的には、高純度のアルミナセラミックスの体積抵抗率は、室温近傍でおよそ1014Ωcm程度であるため、この抵抗率で発生するクーロン力を利用して、静電吸着装置として使用されている。また、ジョンソンラーベックによる静電吸着力を発生するのに適した体積抵抗率は109~1012Ωcmである。そこで、体積抵抗率を低下させるため、添加物(酸化チタン等)を使用する。具体的には、添加物を数%程度原料のアルミナ粉末と混合し、焼結することによって、必要とする体積抵抗率に調整している。このように、非特許文献1には、アルミナセラミックスの体積抵抗率を所望の体積抵抗率に調整することが記載されている。
【0005】
また、特許文献1には、アルミナセラミックスの抵抗を低下させるためにTi、Ti酸化物を使用することが記載されている。そして、この文献に記載されたアルミナセラミックスは、アルミナを主成分としTi等が分散したものであり、その表面抵抗が104~1011Ω/□であることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、アルミナ原料に所定の配合割合で微量成分(CaTiO3、SrTiO3、Y23、SiO2)を添加し焼結したアルミナ焼結サンプルが記載されている。このアルミナ焼結サンプルは、表面抵抗が3.0×1014Ω/□であることが開示されている。また、特許文献3には、半導電性セラミック焼結体の表面抵抗が2.0×1014Ω/□であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-352572号公報
【文献】特開平7-144983号公報
【文献】特開2013-136503号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】井口忠士、立川俊洋、茅本隆司、「静電吸着装置の材料と方式」、一般社団法人 日本真空学会発行、真空第45巻、No.8、2002、p.633-636
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記先行技術文献等に開示されているように、アルミナセラミックスにTiを代表例とする遷移金属元素等の導電性材料を添加すると、電気抵抗を低下させることができる。しかしながら、アルミナセラミックスに導電性材料を添加すると、アルミナの焼結が阻害されやすく、熱伝導性の悪化や気孔の生成による機械強度の低下等を招く、という問題があった。例えば、導電性材料を添加したアルミナセラミックスをプラズマ生成装置に使用する場合には、緻密性(気孔径5μm以下)を満たさないケースが考えられる。
【0010】
このような問題を回避するためには、高い緻密性を満たしつつ所望の範囲の表面抵抗率を有する高純度のアルミナセラミックスを製造することが考えられるが、アルミナセラミックス自体の改善は進められていない。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、高純度(Al23純度99%以上)及び高緻密性(気孔径5μm以下)を満たしつつ、所望の範囲の表面抵抗率を有するアルミナセラミックス、及びその製造方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるアルミナセラミックスは、Alを主結晶とし、焼結助剤としてMgとSiを使用するアルミナセラミックスにおいて、少なくとも表層から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が400ppm以上2000ppm以下であり、かつMg/Siの値が0.5以上30以下であり、Aの純度が99%以上を有するとともに、気孔径が1μm以上2μm以下、かつ表面抵抗率が4×1013Ω/□以上6.2×10 13 Ω/□以下であり、さらにTiの含有量を100ppm以下とする、ことを特徴とする。
【0013】
このように構成されたアルミナセラミックスによれば、高純度及び高緻密性を満たしつつ、所望の範囲の表面抵抗率を有するアルミナセラミックスを提供することができる。
【0014】
また、本発明にかかるアルミナセラミックスは、CVD装置、イオンプレーティング装置、エッチング装置、静電チャックを含むプラズマ生成装置において使用することが望ましい。
【0015】
また、本発明にかかるアルミナセラミックスの製造方法は、上記した、Aを主結晶とするアルミナセラミックスの製造方法であって、不純物として含まれるTiの含有量が100ppm以下のアルミナ粉末に対し、少なくともアルミナ焼結体の表層から深さ500μmの範囲においてMgの含有量が400ppm以上2000ppm以下となるように、Mgを含ませるステップと、さらに、前記範囲においてMg/Siの値が0.5以上30以下となるように、Siを含ませて原料粉を作製するステップと、前記原料粉にバインダーを添加して造粒粉を作製するステップと、前記造粒粉から成形体を作製するステップと、前記成形体を焼成し、アルミナ焼結体を得るステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかるアルミナセラミックスの製造方法においては、アルミナ粉末のAlの純度を99%以上とすることが望ましい。
【0017】
また、本発明にかかるアルミナセラミックスの製造方法においては、アルミナ粉末に対して炭酸マグネシウムを添加することにより、Mgの含有量を400ppm以上2000ppm以下とし、さらに、二酸化ケイ素を添加することにより、Mg/Siの値を0.5以上30以下とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高純度及び高緻密性を満たしつつ、所望の範囲の表面抵抗率を有するアルミナセラミックス、及びその製造方法、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明にかかるアルミナセラミックスの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかるアルミナセラミックス及びその製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0021】
本実施形態のアルミナセラミックスは、主結晶であるAl23の純度を99%以上の高純度とし、さらに、気孔径5μm以下の高い緻密性を有する。また、本実施形態のアルミナセラミックスは、上記高純度及び高緻密性を満たしつつ、Tiのような遷移金属元素を添加することなく4×1013Ω/□以上1×1014Ω/□以下の表面抵抗率を有する。この表面抵抗率は、表面の単位面積(1cm2)あたりの表面抵抗値であり、例えば、JIS C2141(電気絶縁用セラミック材料試験方法)、JIS C2139(固体電気絶縁材料の誘電特性及び抵抗特性)に従って測定したものである。
【0022】
また、緻密性を向上させるため、本実施形態のアルミナセラミックスは、焼結の際の第一の焼結助剤として炭酸マグネシウム(MgCO3)が用いられる。これにより、400ppm以上2000ppm以下の量のMgが含有される。なお、このMgの含有量は、製造されるアルミナセラミックスにおける少なくとも表層から深さ500μmの範囲において、満たす必要がある。この範囲が表面抵抗率に影響を与えるからである。また、Mgの含有量が2000ppmを超えると、焼結体構造中にMgOが析出し、アルミナセラミックスに歪が生じるため、好ましくない。一方、Mgの含有量が400ppm未満の場合には、高い緻密性(気孔径5μm以下)を満たすことができないため、好ましくない。
【0023】
なお、上記Mgは、上記表層から深さ500μmの範囲において、600ppm以上2000ppm以下の量を含有することが好ましく、800ppm以上2000ppm以下の量を含有することがより好ましい。
【0024】
また、本実施形態のアルミナセラミックスは、上記MgCO3の他に、焼結をより促進させるために第二の焼結助剤として二酸化ケイ素(SiO2)が用いられる。そして、アルミナセラミックス中に含まれるMgとSiの比率(各金属含有量をppm単位で表した際のMg/Siの値)は、0.5以上30以下とすることが好ましい。これにより、アルミナセラミックスを焼結した際の表面の緻密性が向上し、気孔径5μm以下を達成することができる。なお、このMg/Siの値(0.5以上30以下)は、上記同様、表層から深さ500μmの範囲において満たす必要がある。この範囲が表面抵抗率に影響を与えるからである。また、上記Mg/Siの値は、例えば、各元素の含有量を二次イオン質量分析法で測定することにより、または、表層から深さ500μmの範囲の一部を切断して採取し、その試料片をICP発光分析、ICP質量分析で測定することにより得られる。また、表層から深さ500μmの範囲以外のMg/Siの値については、特に規定はしないが、一例として、表層から深さ500μmの範囲と同様に、0.5以上30以下としてもよい。
【0025】
例えば、Mg/Siの値が30を超える場合は、Siが極微量であるため、焼結性の向上が見込めず、気孔が残留しやすく好ましくない。一方、Mg/Siの値が0.5未満の場合は、Siを多量に含むことになり、SiO2が析出しやすくなる。その結果、アルミナセラミックス中にアモルファス構造が共存し、抵抗率が上昇して1×1014Ω/□以上となるため好ましくない。また、Siと同時に400ppm以上のMgを含ませることで、コーディエライト(2MgO・2Al23・5SiO2)やステアタイト(MgO・SiO2)といった結晶質を形成させることができ、アモルファスSiO2の析出を抑制することができる。
【0026】
なお、本実施形態においては、第一の焼結助剤として炭酸マグネシウム(MgCO3)を例示したが、これに限らず、MgO、MgSO4、Mg(NO32を用いることもできる。また、第二の焼結助剤として二酸化ケイ素(SiO2)を例示したが、これに限らず、Si(OCH34、Si(OC254を用いることもできる。
【0027】
また、本実施形態のアルミナセラミックスは、CVD装置、イオンプレーティング装置、エッチング装置、静電チャックを含むプラズマ生成装置での使用を想定しているため、その表面特性が重要である。例えば、アルミナセラミックスの表面抵抗は、その表面の電気伝導性と関連し、アルミナセラミックスを構成する粒子、粒界(結晶粒の境界)、不純物の影響を受ける。具体的には、アルミナセラミックスの表面抵抗は、表層から深さ500μmの範囲の組織構造や不純物(Ti、Mg、Siなど)により大きく影響を受ける。
【0028】
特に、粒子同士の接点に生じる粒界や三重点(3つの粒界がぶつかる点)に存在する不純物は粒子に固溶している不純物に比べて移動がしやすく、電気抵抗を下げる効果がある。また、粒界や三重点は不純物であるMgからの影響を大きく受け、表層から深さ500μmの範囲のMg含有量を上記400ppm以上2000ppm以下とすることで、緻密性を向上させ、粒界を低減させることができる。その結果、Tiのような遷移金属元素を添加することなく、表面抵抗率を4×1013Ω/□以上1×1014Ω/□以下とすることができる。
【0029】
なお、本実施形態のアルミナセラミックスにおいて規定するMg含有量は、表層から深さ500μmの範囲で満たされていればよいが、これに限定されるものではなく、例えば、表層から深さ500μmの範囲とその範囲以外の内部との両方で満たされていてもよい。
【0030】
また、本実施形態のアルミナセラミックスは、上記不純物として含まれるTiの含有量を100ppm以下とする。なお、このTiは、不純物として含まれているものであり、アルミナセラミックスの抵抗を低下させるために積極的に使用されたものではない。
【0031】
このように、本実施形態のアルミナセラミックスは、少なくとも表層から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が400ppm以上2000ppm以下であり、MgとSiのそれぞれの金属含有量をppm単位で表した際のMg/Siの値が0.5以上30以下である。さらに、Al23の純度が99%以上を有するとともに、高い緻密性(気孔径5μm以下)と所望の範囲の表面抵抗率(4×1013Ω/□以上1×1014Ω/□以下)とを有する。すなわち、本実施形態によれば、高純度及び高緻密性を満たしつつ、所望の範囲の表面抵抗率を有するアルミナセラミックスを得ることができる。これにより、本実施形態のアルミナセラミックスは、CVD装置、イオンプレーティング装置、エッチング装置、静電チャックを含むプラズマ生成装置に好適に用いることが可能となる。
【0032】
なお、本実施形態のアルミナセラミックスは、上述したように、気孔径5μm以下の高い緻密性を有するものである。すなわち、気孔径が5μmを超えるものについては、緻密性が低く、要求される表面抵抗率を下回るので好ましくない。一方、表面抵抗率の観点でいえば気孔径自体は小さいほうがよいが、これを小さくし過ぎることは、製造コストが過大になる割に得られる効果が小さい。そのため、気孔径は、0.1μm以上5μm以下であることがより好ましい。
【0033】
また、本実施形態のアルミナセラミックスは、気孔径が1μm以上2μm以下かつ表面抵抗率が4×1013Ω/□以上6.2×1013Ω/□以下、であることがさらに好ましい。本実施形態の表面抵抗率(4×1013Ω/□以上1×1014Ω/□以下)及びMg/Siの値(0.5以上30以下)の好ましい範囲内において、小さい気孔径と低めの表面抵抗率を有するものは、電気伝導性の点でより優れたものといえる。
【0034】
つづいて、本実施形態のアルミナセラミックスの製造方法を図面に従って説明する。図1は、アルミナセラミックスの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0035】
まず、原料として、Al23の純度が99%以上で、平均粒子径が1~2μmのアルミナ粉末を用意する(図1のステップS1)。このアルミナ粉末は、純度の高いものであることが好ましいが、不純物として100ppm以下のTiが含まれるものであってもよい。なお、本実施形態においては、あくまでも不純物としてのTiの含有量を規定したものであり、アルミナ粉末に対して積極的にTiを添加するものではない。積極的にTiを添加することによる気孔径増大を回避するためである。
【0036】
つぎに、用意したアルミナ粉末に対し、表層(後述するアルミナ焼結体の表層)から深さ500μmの範囲においてMgの含有量が400ppm以上2000ppm以下となるように、炭酸マグネシウム(MgCO3)を添加する(図1のステップS2)。さらに、上記同様の範囲においてMgとSiの比率(Mg/Siの値)が0.5以上30以下となるように、二酸化ケイ素(SiO2)を添加して原料粉を作製する(図1のステップS3)。また、バインダーとして、ポリビニルアルコールを原料粉に添加して造粒粉を作製する(図1のステップS4)。
【0037】
つぎに、上記造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により、80~200MPaの範囲の圧力にて成形体を作製する(図1のステップS5)。また、この成形体を大気雰囲気または還元雰囲気下において、最高温度が例えば1600℃となるよう焼成し、アルミナ焼結体を得る(図1のステップS6)。
【0038】
そして、このアルミナ焼結体を所望の形状に研削、研磨し、最終の面状態に仕上げる(図1のステップS7)。なお、ステップS5のCIP成形の後、脱脂処理を行い、ステップS6において、水素雰囲気下で、例えば1800℃で焼成することとしてもよい。
【0039】
以上のように、本実施形態においては、アルミナセラミックスを製造する際に、少なくとも表層から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が400ppm以上2000ppm以下となるように、さらに、MgとSiの比率(Mg/Siの値)が0.5以上30以下となるように、用意した高純度のアルミナ粉末に、焼結助剤であるMgとSiを含ませることとした。その後、上記に示す所定の手順で、成形、焼成等を実施することにより、Al23の純度が99%以上を有するとともに、高い緻密性(気孔径が5μm以下)と所望の範囲の表面抵抗率(4×1013Ω/□以上1×1014Ω/□以下)とを有するアルミナセラミックスを作製した。本実施形態の製造方法により得られたアルミナセラミックスは、CVD装置、イオンプレーティング装置、エッチング装置、静電チャックを含むプラズマ生成装置に好適に用いることができる。
【実施例
【0040】
本発明にかかるアルミナセラミックス及びその製造方法を、実施例に基づきさらに説明する。
【0041】
[実験1]
実験1では、焼結助剤としてMgとSiを用いてアルミナセラミックスを製造し、MgとSiの量及び比率の好ましい範囲について検証した。
【0042】
(実施例1)
実施例1では、原料として、純度が99%以上でかつ平均粒子径が1~2μmのアルミナ粉末を用いた。このアルミナ粉末に対し、表層(アルミナ焼結体の表層)から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が1400ppmとなるように炭酸マグネシウム(MgCO3)を添加し、さらに、Siの含有量が200ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、MgとSiの比率(Mg/Siの値)は7である。また、原料粉中におけるTiの含有量は10ppmであった。
【0043】
また、上記添加剤を含む原料粉に対し、バインダーとしてポリビニルアルコールを添加して造粒粉を作製した。
【0044】
つぎに、上記造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により、80~200MPaの範囲の圧力にて成形体を作製した。そして、この成形体を大気雰囲気下において、最高温度が1600℃となるよう焼成し、アルミナ焼結体(アルミナセラミックス)を得た。
【0045】
得られた焼結体に対し、ICP発光分析法により焼結体純度を測定した。また、焼結体を切断し研磨後、サーマルエッチングを行い、走査型電子顕微鏡により気孔径を測定した。具体的には、80μm×80μmの領域において、存在する気孔の最大径を求めた。さらに、JIS C2141(電気絶縁用セラミック材料試験方法)、JIS C2139(固体電気絶縁材料の誘電特性及び抵抗特性)に従って表面抵抗率を測定した。
【0046】
(実施例2)
実施例2では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が700ppmとなるように炭酸マグネシウム(MgCO3)を添加し、さらに、Siの含有量が900ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、MgとSiの比率(Mg/Siの値)は0.8である。また、原料粉中におけるTiの含有量は30ppmであった。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0047】
(実施例3)
実施例3では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が1000ppmとなるように炭酸マグネシウム(MgCO3)を添加し、さらに、Siの含有量が1600ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、MgとSiの比率(Mg/Siの値)は0.6である。また、原料粉中におけるTiの含有量は25ppmであった。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0048】
(実施例4)
実施例4では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が750ppmとなるように炭酸マグネシウム(MgCO3)を添加し、さらに、Siの含有量が25ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、MgとSiの比率(Mg/Siの値)は30である。また、原料粉中におけるTiの含有量は100ppmであった。
【0049】
また、造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により80~200MPaの範囲の圧力にて成形体を作製した後、脱脂処理を行い、水素雰囲気下において1800℃で焼成し、アルミナ焼結体(アルミナセラミックス)を得た。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0050】
(実施例5)
実施例5では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が400ppmとなるように炭酸マグネシウム(MgCO3)を添加し、さらに、Siの含有量が15ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、MgとSiの比率(Mg/Siの値)は26.7である。また、原料粉中におけるTiの含有量は1ppmであった。
【0051】
また、造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により80~200MPaの範囲の圧力にて成形体を作製した後、脱脂処理を行い、水素雰囲気下において1800℃で焼成し、アルミナ焼結体(アルミナセラミックス)を得た。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0052】
(比較例1)
比較例1では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が250ppmとなるように炭酸マグネシウム(MgCO3)を添加し、さらに、Siの含有量が150ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、MgとSiの比率(Mg/Siの値)は1.7である。また、原料粉中におけるTiの含有量は15ppmであった。
【0053】
また、造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により80~200MPaの範囲の圧力にて成形体を作製した後、脱脂処理を行い、水素雰囲気下において1800℃で焼成し、アルミナ焼結体(アルミナセラミックス)を得た。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0054】
(比較例2)
比較例2では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が840ppmとなるように炭酸マグネシウム(MgCO3)を添加し、Siの含有量が25ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、MgとSiの比率(Mg/Siの値)は33.6である。また、原料粉中におけるTiの含有量は5ppmであった。
【0055】
また、造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により80~200MPaの範囲の圧力にて成形体を作製した後、脱脂処理を行い、水素雰囲気下において1800℃で焼成し、アルミナ焼結体(アルミナセラミックス)を得た。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0056】
(比較例3)
比較例3では、アルミナ粉末に対し、表層から深さ500μmの範囲において、Mgの含有量が800ppmとなるように炭酸マグネシウム(MgCO3)を添加し、Siの含有量が100ppmとなるように二酸化ケイ素(SiO2)を添加した。このとき、MgとSiの比率(Mg/Siの値)は8である。また、原料粉中におけるTiの含有量は150ppmであった。その他の実施条件は実施例1と同じとした。
【0057】
(評価)
実施例1~5及び比較例1~3の条件を表1に示し、評価結果を表2に示す。なお、表2の評価結果において、気孔径5μm以下及び表面抵抗率4×1013Ω/□以上1×1014Ω/□以下の両方を満たすものを○とし、片方でも満たさなかったものを×とした。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
実験1の結果、本実施形態の製造方法を実施した実施例1~5については、Al23の純度が99%以上を有するとともに、高い緻密性(気孔径5μm以下)と所望の範囲の表面抵抗率(4×1013Ω/□以上1×1014Ω/□以下)とを有するアルミナセラミックスが得られることを確認した。
【0061】
なお、実施例4において、原料のアルミナ粉末内のTiを、意図的にドープして100ppmとしたものは、実施例2とほぼ同等の表面抵抗率と気孔径を有していた。また、同様の方法でTi濃度を150ppmとした比較例3は、実施例2と同程度の表面抵抗率を有していたが、気孔径が増大していた。すなわち、Tiを積極的に添加しない本実施形態のアルミナセラミックスは、Ti濃度が100ppmを超えるアルミナセラミックスと比較して、不純物濃度均一性や緻密性を考慮して製造するコストの面において優れているといえる。
図1