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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】動力伝達装置の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20240826BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 F
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021200108
(22)【出願日】2021-12-09
(65)【公開番号】P2023085834
(43)【公開日】2023-06-21
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100142871
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 哲昌
(74)【代理人】
【識別番号】100094743
【弁理士】
【氏名又は名称】森 昌康
(74)【代理人】
【識別番号】100175628
【弁理士】
【氏名又は名称】仁野 裕一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝典
(72)【発明者】
【氏名】藤冨 明久
(72)【発明者】
【氏名】霜上 裕輔
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-025554(JP,A)
【文献】実開平04-043912(JP,U)
【文献】特開平04-050552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転要素及び第2回転要素と、前記第1回転要素及び前記第2回転要素を収容する筐体とを備え、前記筐体は前記第1回転要素を潤滑するための潤滑油を貯留するための第1油室と、前記第2回転要素を潤滑するための潤滑油を貯留するための第2油室とを含む、動力伝達装置と、
前記筐体に接続され、前記潤滑油を清浄化するように構成され、前記潤滑油を取り込む油流入口と清浄化後の前記潤滑油を排出する油流出口とを有するオイルフィルタと、
前記オイルフィルタに溜まった潤滑油を吸い出すように構成された油圧ポンプと、
前記油流出口と前記油圧ポンプとを接続する油管と、
を備え、
前記筐体は、
前記第1油室から前記オイルフィルタに向けて延びる油路と、
前記油路と前記油流入口とを接続する接続部と、
前記接続部と前記オイルフィルタとによって囲まれる接続空間と前記第2油室とを仕切る隔壁と、
をさらに含み、
前記隔壁は、前記油路が前記接続部と接続する接続口に対して鉛直方向上方において、前記接続空間と前記第2油室とを連通する連通孔を含む、
動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項2】
前記オイルフィルタの前記鉛直方向の上端は、前記接続部から離れるにつれ、前記鉛直方向において下降する、請求項1に記載の潤滑構造。
【請求項3】
前記オイルフィルタは、
前記潤滑油の不純物を除去するように構成されたフィルタ本体と、
前記フィルタ本体を収容し、延伸方向に延びるフィルタ筐体と、
を含み、
前記フィルタ筐体は、
前記フィルタ本体と前記油管とを連通する油流出口と前記接続口と前記フィルタ本体とを連通する油流入口とを含む筐体基端部と、
前記延伸方向に対して前記筐体基端部と反対の筐体末端部と、
前記フィルタ本体に面するフィルタ内側面と、
前記フィルタ内側面の反対において前記フィルタ内側面を取り囲むフィルタ外側面と、
を含み、
前記フィルタ内側面の前記鉛直方向の上端は、前記筐体末端部から前記筐体基端部に向かうにつれ、前記鉛直方向において上昇する、
請求項1または2に記載の潤滑構造。
【請求項4】
前記油流入口は、前記油流出口の周囲に設けられる、請求項3に記載の潤滑構造。
【請求項5】
前記接続部は、前記油管を取り囲むように設けられている、請求項4に記載の潤滑構造。
【請求項6】
前記接続部は、前記接続空間に面し、前記隔壁の前記接続空間に面する面と接続する内側面を有し、
前記内側面の前記鉛直方向の上端は、前記オイルフィルタから前記隔壁に向かうにつれ上昇する、請求項2から5のいずれかに記載の潤滑構造。
【請求項7】
前記第1回転要素が回転するとき、前記第2回転要素も回転し、
前記第2回転要素の回転速度は、前記第1回転要素の回転速度よりも早い、
請求項1から6のいずれかに記載の潤滑構造。
【請求項8】
前記動力伝達装置は、走行装置に駆動力を伝達する第1駆動軸の回転速度を減速する第1減速機構と、パワーテイクオフ軸に駆動力を伝達する第2駆動軸の回転速度を減速する第2減速機構とを含み、
前記第2油室は、前記第1減速機構と前記第2減速機構とを収容し、
前記第2回転要素は、前記第2減速機構のうちの1つの回転要素である、
請求項1から7に記載の潤滑構造。
【請求項9】
前記動力伝達装置は、前記第1減速機構と、前方の走行装置に駆動力を伝達するための前輪伝動機構をさらに含み、
前記第1油室は、前記前輪伝動機構を収容し、
前記第1回転要素は、前記前輪伝動機構のうちの1つの回転要素である、
請求項8に記載の潤滑構造。
【請求項10】
前記第1油室と前記第2油室とは、第1隔壁によって仕切られている、
請求項1から9のいずれかに記載の潤滑構造。
【請求項11】
前記第2油室と前記油路は、第2隔壁によって仕切られている、
請求項1から10のいずれかに記載の潤滑構造。
【請求項12】
前記連通孔の開口の大きさは、前記接続口の開口の大きさよりも小さい、
請求項1から11のいずれかに記載の潤滑構造。
【請求項13】
前記連通孔に螺入される流量調節ネジをさらに含む、
請求項1から12のいずれかに記載の潤滑構造。
【請求項14】
前記連通孔には、前記流量調節ネジを螺入するためのネジ溝を含む、
請求項13に記載の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、潤滑油のフィルタを水平面に対して傾けた状態で組み付けた動力伝達装置を示している。この動力伝達装置の構造によって、フィルタ内でのエア溜りが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許5875955号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、フィルタ内のエアを効率よく外部に排出する構成については開示されていない。エアがフィルタ内に溜まり続けるとエア噛みが生じる恐れがあるため、フィルタ内のエアを外部に排出する機構が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1態様に係る動力伝達装置の潤滑構造は、動力伝達装置と、オイルフィルタと、油圧ポンプと、油管とを備える。動力伝達装置は、第1回転要素及び第2回転要素と、第1回転要素及び第2回転要素を収容する筐体とを備える。筐体は、第1回転要素を潤滑するための潤滑油を貯留するための第1油室と、第2回転要素を潤滑するための潤滑油を貯留するための第2油室とを含む。オイルフィルタは、筐体に接続され、潤滑油を清浄化するように構成される。オイルフィルタは、潤滑油を取り込む油流入口と清浄化後の潤滑油を排出する油流出口とを有する。油圧ポンプは、オイルフィルタに溜まった潤滑油を吸い出すように構成される。油管は、油流出口と油圧ポンプとを接続する。筐体は、油路と、接続部と、隔壁と、をさらに含む。油路は、第1油室からフィルタに向けて延びる。接続部は、油路と油流入口とを接続する。隔壁は、接続部とオイルフィルタとによって囲まれる接続空間と第2油室とを仕切る。隔壁は、油路が接続部と接続する接続口に対して鉛直方向上方において、接続空間と第2油室とを連通する連通孔を含む。
【発明の効果】
【0006】
本願に開示される構成は、潤滑油が流入される油路よりも上方に連通孔が設けられることにより、フィルタ内に溜まったエアを効率よく排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】トラクタの全体を示す側面図である。
図2】トラクタの全体を示す平面図である。
図3】動力伝達装置を示すスケルトン図である。
図4】分岐伝動機構を示す断面正面図である。
図5】遊星歯車機構、反転伝達機構、第1正転伝達機構、及び、第2正転伝達機構を示す断面側面図である。
図6】遊星歯車機構を示す断面正面図である。
図7】反転伝達機構を示す断面正面図である。
図8】動力伝達装置の外観を示す左側面図である。
図9】動力伝達装置の外観を示す背面図である。
図10】オイルフィルタの斜視図である。
図11図8のXI-XI'切断面による動力伝達装置の部分断面図である。
図12図9のXII-XII'切断面による動力伝達装置の部分断面図である。
図13図8図12のXIII-XIII'切断面による動力伝達装置の部分断面図である。
図14図8図12のXIV-XIV'切断面による動力伝達装置の部分断面図である。
図15図8のXV-XV'切断面による動力伝達装置の部分断面図である。
図16図15の領域Aの拡大図である。
図17図8のXVII-XVII'切断面による動力伝達装置の部分断面図である。
図18図8のXVIII-XVIII'切断面による動力伝達装置の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、この発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。なお、図中において同じ符号は、対応するまたは実質的に同一の構成を示している。
<実施形態>
<全体構成>
【0009】
図1は、本発明の実施形態に係るトラクタ1の全体を示す側面図である。図2は、本発明の実施形態に係るトラクタ1の全体を示す平面図である。トラクタ1は、作業車両の一例である。図1、2を参照すると、作業車両の一例に係るトラクタ1は、左右一対の操向操作及び駆動自在な前輪2a、左右一対の駆動自在な後輪2b、車体前部に設けたエンジン3aが収納されるエンジン室3、車体後部に設けたシート4aを有した運転席(driver's compartment)4、及び、エンジン室3と運転席4とを支持する車体フレーム5を備える。さらに、トラクタ1は、車体フレーム5の後端部の両横側に振り分けて設けた左右一対の上下揺動操作自在なリフトアーム6aを有するリンク機構6、及び、車体フレーム5の後端部から車体後方に突出するPTOシャフト7を備える。なお、前輪2aと後輪2bとを総称して走行装置2と呼ぶ。図2では、走行装置2は車輪によって実現されているが、走行装置2の全部及び一部がクローラによって実現されていてもよい。
【0010】
トラクタ1は、車体後部にリンク機構6を介して昇降操作自在にロータリ耕耘装置(図示せず)が連結されるとともにエンジン3aの出力をPTOシャフト7からロータリ耕耘装置に伝達するように構成されることによって乗用型耕耘機を構成することができる。また、トラクタ1は、車体後部に各種の作業装置が昇降操作及び駆動自在に連結されることによって各種の乗用型作業機を構成することができる。
【0011】
車体フレーム5は、エンジン3aの後部に連設されたクラッチハウジング10と、このクラッチハウジング10の後部に前部が脱着自在に連結された無段変速ケース20aと、この無段変速ケース20aの後部に連結されたミッションケース11と、エンジン3aの下部に連結された前輪支持フレーム12とを備える。ミッションケース11は、無段変速ケース20aの後部に前部が脱着自在に連結された前部ミッションケース11aと、この前部ミッションケース11aの後部に前部が脱着自在に連結された後部ミッションケース11bとを備える。車体フレーム5は、前輪支持フレーム12に取り付けられた前輪駆動ケース13を備え、この前輪駆動ケース13を介して左右一対の前輪2aを駆動自在に支持している。車体フレーム5は、後部ミッションケース11bの両横側に振り分けて連設された左右一対の車体横向きの後輪駆動ケース14を備え、左右一対の後輪駆動ケース14を介して左右一対の後輪2bを駆動自在に支持している。なお、以降の実施形態においてミッションケース11(前部ミッションケース11aと後部ミッションケース11b)のことを筐体11と呼んでもよい。
【0012】
なお、本願に係る実施形態において、トラクタ1の前後方向(前方向/後方向)とは、運転席4のシート4aに着座したオペレータから見て前後方向(前方向/後方向)を意味する。トラクタ1の左方向、右方向、幅方向とは、当該オペレータから見てそれぞれ、左方向、右方向、左右方向を意味する。トラクタ1の上方向、下方向、高さ方向とは、当該オペレータから見て上方向、下方向、高さ方向を意味する。トラクタ1の前後/左右(幅)/上下(高さ)方向とは、それぞれ、当該オペレータから見た前後/左右(幅)/上下(高さ)方向と一致するものとする。
【0013】
図3は、エンジン3aが出力する駆動力を前輪2a及び後輪2bに伝達するように構成された動力伝達装置8を示すスケルトン図である。図3においては、エンジン3aが出力する駆動力をPTOシャフト7に伝達する動力伝達系の図示を省略している。図3に示すように、動力伝達装置8は、エンジン3aが出力軸3bから出力する駆動力を、主クラッチ機構15及び分岐伝動機構16を介して油圧変速機構20及び遊星歯車機構30に伝達するように構成される。動力伝達装置8は、遊星歯車機構30の回転力を出力する第1シャフト38から出力する駆動力を反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、及び、第2正転伝達機構50のうちの1つを介して追加変速機構55に伝達するように構成される。動力伝達装置8は、さらに、追加変速機構55の出力軸である第2シャフト54から後輪差動機構25に伝達し、かつ第2シャフト54からギヤ伝動機構61、前輪伝動機構70及び回転軸27を介して前輪差動機構26に伝達するように構成される。つまり、第2シャフト54は、走行装置2に回転力を伝達するように構成される。以上により、動力伝達装置8は、遊星歯車機構30、第1シャフト38、第2シャフト54、反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、第2正転伝達機構50、及び、追加変速機構55を備える。
【0014】
油圧変速機構20は、前部ミッションケース11aの前部に連結された無段変速ケース20aに収納されている。遊星歯車機構30、反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、及び、第2正転伝達機構50は、前部ミッションケース11aに配備されている。追加変速機構55、後輪差動機構25及びギヤ伝動機構61は、後部ミッションケース11bに配備されている。分岐伝動機構16は、無段変速ケース20aの前部に設けられている。以下、機構別に詳細に説明する。
【0015】
図3、4に示すように、分岐伝動機構16は、無段変速ケース20aに連結された伝動機構ケース16aの内部に回転自在に設けた一つのエンジン側ギヤ17及び一対の伝動ギヤ18、19を備える。エンジン側ギヤ17は、主クラッチ機構15の出力シャフト15aの端部に一体回転自在に設けられる。エンジン側ギヤ17は、出力シャフト15aを回転軸として回転自在に支持されている。エンジン側ギヤ17は、主クラッチ機構15が連結状態にあれば、エンジン3a側に連動された状態となり、エンジン3aが出力軸3bから出力する駆動力によって回転駆動される。主クラッチ機構15が切断状態にあれば、エンジン側ギヤ17は、エンジン3aによって回転されない。
【0016】
一対の伝動ギヤ18、19は、一対の伝動ギヤ18、19の回転軸18a、19aがエンジン側ギヤ17の回転軸17aの配置高さ以下の配置高さに位置するとともにエンジン側ギヤ17に噛合う状態に配置されている。一方の伝動ギヤ18の回転軸18aが他方の伝動ギヤ19の回転軸19aよりも低い配置高さに位置している。一方の伝動ギヤ18は、油圧変速機構20を構成する油圧ポンプ21に備えられた車体前後向きの入力軸としてのシャフト23の前端部に一体として回転自在に連結されている。他方の伝動ギヤ18は、遊星歯車機構30から車体前方向きに無段変速ケース20aを貫通して延出しているエンジン出力導入シャフト24の延出端部に一体として回転自在に連結されている。
【0017】
分岐伝動機構16は、油圧変速機構20を構成する油圧ポンプ21及び油圧モータ22に対して車体前方側に配置されている。油圧変速機構20は、静油圧式無段変速機構である。分岐伝動機構16は、エンジン3aが出力軸3bから出力する駆動力を油圧変速機構20よりも車体前方側においてエンジン側ギヤ17と一対の伝動ギヤ18、19とによって油圧変速機構20の側と遊星歯車機構30の側とに分岐させるように構成されている。そして、分岐伝動機構16は、油圧変速機構20の側に分岐させた駆動力をシャフト23によって油圧変速機構20に伝達し、遊星歯車機構30の側に分岐させた駆動力をエンジン出力導入シャフト24によって遊星歯車機構30に伝達するように構成されている。
【0018】
油圧変速機構20は、前部ミッションケース11aの前部に設けられる無段変速ケース20aと、無段変速ケース20aの内部に遊星歯車機構30に対して車体前方側に位置するように配置される油圧ポンプ21と油圧モータ22とを備える。油圧ポンプ21は可変容量形でかつアキシャルプランジャ形の油圧ポンプである。油圧モータ22はアキシャルプランジャ形の油圧モータである。油圧変速機構20は、油圧ポンプ21の斜板の角度を変更することによって変速比を変更することが可能である。油圧ポンプ21は、エンジン3aの回転によって駆動され、圧油を図示しない油路によって油圧モータ22に出力する。油圧モータ22は、このように油圧ポンプ21によって駆動され、モータ出力シャフト28を回転させる。
【0019】
図5は、遊星歯車機構30、反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、及び、第2正転伝達機構50を示す断面図である。図6は、遊星歯車機構30を示す断面側面図である。図5及び図6を参照すると、遊星歯車機構30は、太陽歯車31と、複数の遊星歯車32と、内歯車33とを有する。太陽歯車31は、前部ミッションケース11aの第1支持部30aに軸受B1を介して回転自在に支持される。複数の遊星歯車32は、太陽歯車31の周囲に等間隔を隔てて分散して位置する。内歯車33は、3個の遊星歯車32に噛合うように構成されている。遊星歯車機構30は、さらに、キャリヤ35と第1シャフト38を備える。キャリヤ35は、各遊星歯車32を、支軸34を介して回転自在に支持する。
【0020】
キャリヤ35は、太陽歯車31の第1ボス部31aに一対の軸受B2を介して太陽歯車31に対して回転自在に支持されている。各遊星歯車32の支軸34は、キャリヤ35と連結する。遊星歯車機構30は、一枚の環状の支持板36をさらに有する。支持板36は、遊星歯車32に対してキャリヤ35が位置する側とは反対側において、3本の支軸34を連結する。図6に示すように、支持板36は、各支軸34のキャリヤ35に対する傾斜を防止し、遊星歯車32が太陽歯車31及び内歯車33に対して傾斜することがないように、太陽歯車31及び太陽歯車31に対する遊星歯車32の噛み合い状態を正常な状態に維持する。
【0021】
太陽歯車31の第1ボス部31aと、モータ出力シャフト28とのそれぞれに設けられたスプラインを互いにはめあうことによって、太陽歯車31は、油圧変速機構20の出力軸であるモータ出力シャフト28と一体として回転するように連結されている。
【0022】
エンジン出力導入シャフト24は、前部ミッションケース11aの第1支持部30aに軸受B5を介して回転自在に支持された入力ギヤ37に接続される。入力ギヤ37は、その内部にエンジン出力導入シャフト24を通す貫通孔を有し、その貫通孔と、エンジン出力導入シャフト24の外周に互いにかみ合うスプラインが設けられている。エンジン出力導入シャフト24と入力ギヤ49とは、スプラインはめあいによって一体として回転可能に連結している。キャリヤ35は、その外周に入力ギヤ49と噛み合うように構成された歯が形成されている。
【0023】
内歯車33のボス部33aは、前部ミッションケース11aの第2支持部30bに軸受B3を介して回転自在に支持され、かつ太陽歯車31の第2ボス部31bに軸受B4を介して回転自在に支持される。内歯車33のボス部33aの内周には、第1シャフト38の外周に形成されたスプラインと噛み合うスプラインが形成されている。これらのスプラインのはめあいによって内歯車33は第1シャフト38と一体で回転するように連結される。第1シャフト38は、前部ミッションケース11aの第2支持部30bに軸受B6を介して回転自在に支持され、前部ミッションケース11aの第3支持部30cに軸受B7を介して回転自在に支持される。第1シャフト38は、中心軸Ax1を有し、中心軸Ax1の周りに回転可能である。ここで、中心軸Ax1に沿う方向を軸方向Dxと呼ぶ。
【0024】
遊星歯車機構30は以上の構成を有する。これにより、エンジン3aが出力軸3bから出力した駆動力は、エンジン側ギヤ17、伝動ギヤ19、及び、エンジン出力導入シャフト24を介して入力ギヤ37に入力されることにより、エンジン3aからの駆動力は、油圧変速機構20による変速作用を受けない状態でキャリヤ35に入力される。さらに、油圧変速機構20がモータ出力シャフト28から出力する駆動力は、太陽歯車31に入力される。そして、油圧変速機構20からの駆動力と油圧変速機構20の変速作用を受けないエンジン3aからの駆動力とが合成され、合成された駆動力は、反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、及び、第2正転伝達機構50に接続される第1シャフト38に出力される。
【0025】
従って、動力伝達装置8は、エンジン3aが出力軸3bから出力する駆動力を、油圧変速機構20に対して車体前方側に位置する箇所において分岐伝動機構16によって油圧変速機構20の側と遊星歯車機構30の側とに分岐させる。そして、動力伝達装置8は、油圧変速機構20の側に分岐させた駆動力を、シャフト23によって油圧変速機構20の油圧ポンプ21に入力して油圧変速機構20の油圧ポンプ21と油圧モータ22による変速作用によって正回転方向の駆動力と逆回転方向の駆動力とに変換して、かつ正回転方向と逆回転方向のいずれの駆動力に変換する場合においても無段階に変速してモータ出力シャフト28から出力する。動力伝達装置8は、油圧変速機構20がモータ出力シャフト28から出力する駆動力を遊星歯車機構30の太陽歯車31に入力し、分岐伝動機構16によって遊星歯車機構30の側に分岐させた駆動力をエンジン出力導入シャフト24及び入力ギヤ37によって遊星歯車機構30のキャリヤ35に入力することにより、遊星歯車機構30において、エンジン3aからの駆動力と油圧変速機構20からの駆動力とを合成し、合成した駆動力を第1シャフト38から反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、及び、第2正転伝達機構50に出力する。
【0026】
ここで、キャリヤ35によって回転される遊星歯車32を第1歯車と呼ぶ。油圧モータ22によって回転される太陽歯車31を第2歯車と呼ぶ。第1シャフト38と一体で回転する内歯車33を第3歯車と呼ぶ。このとき、太陽歯車31、遊星歯車32、及び、内歯車33のうちの第1歯車(遊星歯車32)がエンジン3aによって回転されると言える。太陽歯車31、遊星歯車32、及び、内歯車33のうち、第1歯車(遊星歯車32)以外の第2歯車(太陽歯車31)がエンジン3aによって駆動される油圧変速機構20の油圧モータ22によって回転されると言える。第1シャフト38は、太陽歯車31、遊星歯車32、及び、内歯車33のうち、第1歯車および第2歯車以外の第3歯車の回転軸であると言える。
【0027】
図3を参照すると、反転伝達機構40は、伝動ギヤ41と、逆転ギヤ42と、後進出力ギヤ43と、後進クラッチ44とを備える。反転伝達機構40は、走行装置2を後進方向に駆動するために、第1シャフト38の回転力を第3シャフト39に伝達するように構成される。動力伝達装置8は、第3シャフト39を備える。第3シャフト39は、第1シャフト38と第2シャフト54との間に介在する。第3シャフト39は、前部ミッションケース11aの第2支持部30bに軸受B8を介して回転自在に支持され、前部ミッションケース11aの第3支持部30cに軸受B9を介して回転自在に支持される。第3シャフト39は、中心軸Ax3を有し、中心軸Ax3の周りに回転可能である。中心軸Ax3は、中心軸Ax1と実質的に平行である。したがって、第3シャフト39は、軸方向Dxに延びる。後進クラッチ44は、反転伝達機構40を介して第1シャフト38と第3シャフト39とを連結する、及び、連結を解くように構成される。後進クラッチ44は、第1シャフト38上に設けられる。図7に示すように、伝動ギヤ41は逆転ギヤ42と係合し、逆転ギヤ42は後進出力ギヤ43に噛み合っている。伝動ギヤ41は後進出力ギヤ43と噛み合っていない。なお、図7においては、動力伝達装置8内の伝動ギヤ41、逆転ギヤ42、及び、後進出力ギヤ43以外の一部の構成については図示が省略されている。
【0028】
後進クラッチ44が入り状態(engagement state)に切り換えられると、第1シャフト38の駆動力は、伝動ギヤ41、逆転ギヤ42、及び、後進出力ギヤ43、第3シャフト39の順に伝達される。このとき、第3シャフト39は、前輪2a及び後輪2bを後進方向に駆動するように回転する。伝動ギヤ41は、第1シャフト38に軸受B10を介して回転自在に支持されるため、後進クラッチ44が切り状態(disengagement state)に切り換えられると、伝動ギヤ41は、第1シャフト38と独立して回転する。後進出力ギヤ43は、第3シャフト39と一体に形成されている。伝動ギヤ41は、後進出力ギヤ43と逆転ギヤ42を介して係合している。このため、伝動ギヤ41と、逆転ギヤ42と、後進出力ギヤ43とは第3シャフト39と連れ回って回転する。
【0029】
第1正転伝達機構45は、第1伝動ギヤ46と、第1前進出力ギヤ47と、第1前進クラッチ48とを備える。第1正転伝達機構45は、第1シャフト38の軸方向Dxにおいて反転伝達機構40と遊星歯車機構30との間に設けられる。第1正転伝達機構45は、走行装置2を前進方向に駆動するために、第1シャフト38の回転力を反転伝達機構40とは反対方向の回転力として第1速度伝達比で第3シャフト39に伝達するように構成される。第1前進クラッチ48は、第1正転伝達機構45を介して第1シャフト38と第3シャフト39とを連結する、及び、連結を解くように構成される。第1前進クラッチ48は、第1シャフト38上に設けられる。
【0030】
第1前進クラッチ48が入り状態に切り換えられると、第1シャフト38の駆動力は、第1伝動ギヤ46、第1前進出力ギヤ47、第3シャフト39の順に伝達される。第3シャフト39は、前輪2a及び後輪2bを前進方向に駆動するように回転する。上述する第1速度伝達比とは、第1前進出力ギヤ47の歯数を第1伝動ギヤ46の歯数で割った値である。第1伝動ギヤ46は、第1シャフト38にニードルベアリングNB1を介して回転自在に支持されるため、第1前進クラッチ48が切り状態に切り換えられると、第1伝動ギヤ46は、第1シャフト38と独立して回転する。第1前進出力ギヤ47は、第3シャフト39と一体に形成されており、第3シャフト39上に設けられ、第3シャフト39と共に回転するように構成されている。第1伝動ギヤ46は、第1シャフト38上に設けられ、第1前進出力ギヤ47と係合している。このため、第1伝動ギヤ46と第1前進出力ギヤ47とは、第3シャフト39と連れ回って回転する。
【0031】
第2正転伝達機構50は、第2伝動ギヤ52と、第2前進出力ギヤ51と、第2前進クラッチ53とを備える。第2正転伝達機構50は、軸方向Dxにおいて反転伝達機構40と遊星歯車機構30との間に設けられる。より詳細には、第2正転伝達機構50は、軸方向Dxにおいて、遊星歯車機構30と第1正転伝達機構45との間に設けられる。第2正転伝達機構50は、走行装置2を前進方向に駆動するために、第1シャフト38の回転力を反転伝達機構40とは反対方向の回転力として第1速度伝達比よりも小さい第2速度伝達比で第3シャフト39に伝達するように構成される。第2前進クラッチ53は、第2正転伝達機構50を介して第1シャフト38と第3シャフト39とを連結する、及び、連結を解くように構成される。第2前進クラッチ53は、第3シャフト39上に設けられる。つまり、第1前進クラッチ48及び第2前進クラッチ53は、第1シャフト38と第3シャフト39とのうち互いに異なるシャフト上に設けられる。第2前進クラッチ53が入り状態に切り換えられると、第1シャフト38の駆動力は、第2伝動ギヤ52、第2前進出力ギヤ51、第3シャフト39の順に伝達される。第3シャフト39は、前輪2a及び後輪2bを前進方向に駆動するように回転する。
【0032】
上述する第2速度伝達比とは、第2前進出力ギヤ51の歯数を第2伝動ギヤ52の歯数で割った値である。第2速度伝達比は第1速度伝達比よりも小さいことは、具体的には、(1)第1伝動ギヤ46の歯数が第2伝動ギヤ52の歯数よりも少ないことと、(2)第1前進出力ギヤ47の歯数が第2前進出力ギヤ51の歯数よりも多いことによって実現される。ただし、(1)または(2)のいずれかが実現されてなくてもよい。第2前進出力ギヤ51は、第3シャフト39にニードルベアリングNB2を介して回転自在に支持されるため、第2前進クラッチ53が切り状態に切り換えられると、第2前進出力ギヤ51は、第3シャフト39と独立して回転する。第2伝動ギヤ52は、第1シャフト38とスプライン嵌合しているため、第1シャフト38上に設けられ、第1シャフト38と共に回転するように構成されている。第2伝動ギヤ52は、第3シャフト39上に設けられ、第2前進出力ギヤ51と係合している。このため、第2伝動ギヤ52と第2前進出力ギヤ51とは、第1シャフト38と連れ回って回転する。
【0033】
後進クラッチ44、第1前進クラッチ48、及び、第2前進クラッチ53は、シリンダ、ピストン、回転伝達元クラッチディスク、回転伝達先クラッチディスク、並びに、回転伝達元クラッチディスクと回転伝達先クラッチディスクとを離間させるようにピストンを押圧するばねを備える周知の構成を有する油圧クラッチである。このため、これらのクラッチの詳細な説明を省略する。なお、第2前進クラッチ53において、ばね53sによって押圧されるピストン53pを反対側から油圧で押圧するための油路53cが、第2前進クラッチ53のハウジングと前部ミッションケース11aの第2支持部30bとに設けられており、第3シャフト39内には設けられていない。
【0034】
後進クラッチ44、第1前進クラッチ48、及び、第2前進クラッチ53のそれぞれの入り状態と切り状態(disengagement state)の切り替えは、運転席4のシフトレバーまたはスイッチによって入力され、図示しない電子回路が、シフトレバーまたはスイッチの操作に対応する後進クラッチ44、第1前進クラッチ48、及び、第2前進クラッチ53のうちの1つのクラッチに作動油を供給するか否かを制御する制御弁の開閉を制御する。当該電子回路は、後進クラッチ44、第1前進クラッチ48、及び、第2前進クラッチ53のうちの2つ以上のクラッチが同時に入り状態とならないように制御する。すなわち、当該電子回路は、後進クラッチ44、第1前進クラッチ48、及び、第2前進クラッチ53のうちの1つのクラッチを入り状態として残りのクラッチを切り状態となるように制御するか、後進クラッチ44、第1前進クラッチ48、及び、第2前進クラッチ53の全てのクラッチを切り状態とするように制御する。
【0035】
追加変速機構55は、第3シャフト39の回転力を変速して第2シャフト54に伝達するように構成される。図3に示すように、追加変速機構55は、第3シャフト39にジョイントJTを介して一体回転自在に連結された第4シャフト39aと、第4シャフト39aに一体回転自在に設けた第1ギヤ57及び第2ギヤ59と、第1ギヤ57に噛合った状態で第2シャフト54に相対回転自在に設けられた低速ギヤ56と、第2ギヤ59に噛合った状態で第2シャフト54に相対回転自在に設けられた高速ギヤ58と、第2シャフト54に一体回転自在に設けられた伝動筒軸60とを備える。第1ギヤ57及び第2ギヤ59は、第3シャフト39とともに回転可能である。第2シャフト54は、伝動筒軸60と係合するためのスプライン54sを有している。伝動筒軸60の内側面は、スプライン54sと嵌合するスプライン内壁を有している。なお、第4シャフト39aは、第3シャフト39と一体に形成されてもよい。なお、伝動筒軸60は、上記内側面以外で高速ギヤ58と係合可能な第1係合部と、上記内側面以外で低速ギヤ56と係合可能な第2係合部とを有する。
【0036】
追加変速機構55は、伝動筒軸60が図示しないシフトフォークにより第4シャフト39aの軸方向に移動されて伝動筒軸60が低速ギヤ56のボス部に係合されると、反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、及び、第2正転伝達機構50のいずれかから伝達された駆動力が、第1ギヤ57、低速ギヤ56、伝動筒軸60を介して第2シャフト54に伝達される。この場合、反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、及び、第2正転伝達機構50のいずれから駆動力が伝達されても低速状態になる。追加変速機構55は、伝動筒軸60が図示しないシフトフォークにより第4シャフト39aの軸方向に移動されて伝動筒軸60が高速ギヤ58に係合されると、反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、及び、第2正転伝達機構50のいずれかから伝達された駆動力が、第2ギヤ59、高速ギヤ58、伝動筒軸60を介して第2シャフト54に伝達される。この場合、反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、及び、第2正転伝達機構50のいずれから駆動力が伝達されても高速状態になる。
【0037】
以降において、動力伝達装置8の潤滑構造9を説明する。図8は、動力伝達装置8の外観を示す左側面図である。図9は、動力伝達装置8の外観を示す背面図である。図8及び図9を参照すると、潤滑構造9は、ミッションケース11に接続された、動力伝達装置8の回転要素を潤滑するための潤滑油を清浄化するように構成される2つのオイルフィルタ79及び80を含む。より詳細には、オイルフィルタ79は、HSTフィルタである。オイルフィルタ80は、サクションフィルタである。オイルフィルタ79及び80は、いずれも略円筒形の形状を有している。図9に示すように、オイルフィルタ79は、当該円筒形の中心軸が概ね水平方向Dを向くように配置されているが、オイルフィルタ80は、当該円筒形の中心軸が水平方向Dから角度αだけ傾いている。αは、90度であることが望ましいが、最低地上高や接続部91(後述)との関係で最大限度可能な角度で傾けるとよい。オイルフィルタ80は、その先端が下方に向くように配置されている。図10は、オイルフィルタ80の斜視図である。図10を参照すると、オイルフィルタ80は、潤滑油を取り込む複数の油流入口81と、潤滑油を排出する油流出口82とを有する。油流入口81は、油流出口82の周囲に設けられる。
【0038】
図11は、図8のXI-XI'切断面による動力伝達装置8の部分断面図である。図11を参照すると、動力伝達装置8は、筐体11(ミッションケース11)を含む。筐体11は、上述する歯車、回転軸等の回転要素を収容する。筐体11は、第1油室R1と第2油室R2とを含む。第1油室R1と第2油室R2とは、第1隔壁66によって仕切られている。第1油室R1は、追加変速機構55、ギヤ伝動機構61、前輪伝動機構70、及び、PTOシャフト7に駆動力を伝達する伝達する第2駆動軸64を収容する。動力伝達装置8は、油圧ポンプ21に図示しない伝動機構を介して接続され、駆動力を第2駆動軸64に伝達する第2減速機構63を含む。第2減速機構63は小径ギヤ63A及び大径ギヤ63Bを含む。大径ギヤ63Bの歯数は小径ギヤ63Aの歯数より多い。大径ギヤ63Bは第2駆動軸64上に設けられる。なお、図11において第2駆動軸64及び大径ギヤ63Bの大部分は、XI-XI'切断面より上方に設けられているため、一点鎖線で図示している。第2油室R2は、遊星歯車機構30、反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、第2正転伝達機構50、及び、第2駆動軸64の回転速度を減速する第2減速機構63を収容する。遊星歯車機構30、反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、及び、第2正転伝達機構50は、走行装置に駆動力を伝達する第1駆動軸71の回転速度を減速する第1減速機構65に相当する。
【0039】
追加変速機構55、ギヤ伝動機構61、前輪伝動機構70、及び、第2駆動軸64のうちの少なくとも1つの回転要素を第1回転要素と呼ぶ。遊星歯車機構30、反転伝達機構40、第1正転伝達機構45、第2正転伝達機構50、及び、第2減速機構63のうちの少なくとも1つの回転要素を第2回転要素と呼ぶ。例えば、第1シャフト38の回転と同じ回転速度で回転する回転要素を第2回転要素とし、それに伴って回転する第3シャフト39の回転と同じ回転速度で回転する回転要素を第1回転要素とすると、第1回転要素が回転するとき、第2回転要素も回転し、第2回転要素の回転速度は、第1回転要素の回転速度よりも早い。また、第2駆動軸64を第1回転要素とし、大径ギヤ63Bを除く、第2減速機構63の回転要素を第2回転要素とすると、第1回転要素が回転するとき、第2回転要素も回転し、第2回転要素の回転速度は、第1回転要素の回転速度よりも早い。
【0040】
図12は、図9のXII-XII'切断面による動力伝達装置8の部分断面図である。図11図12を参照すると、筐体11は、第1油室R1からオイルフィルタ80に向けて延びる油路90と、油路90と油流入口81とを接続する接続部91をさらに含む。第1油室R1の潤滑油は、主に油取入口INLから図12に矢印で示した経路で油路に流入される。油取入口INLは、前輪伝動機構70のうち、ギヤ伝動機構61と回転軸27とを連結する、及び、連結を解くように構成される2輪=4輪駆動切り替えクラッチ72の後方に設けられている。油取入口INLから油路90までに至る空間は、カバー96,97によって仕切られている。カバー96は、2輪=4輪駆動切り替えクラッチ72が潤滑油を攪拌することによって生じる気泡が油路90に流入することを抑止する。また、前輪伝動機構70は、第1減速機構65に比べて回転速度が遅く、追加変速機構55、ギヤ伝動機構61に比べて下方に位置するため、油取入口INLから気泡の混ざった潤滑油が入りにくい。カバー97は、回転軸27及び回転軸27に接続される回転部材が回転することによって潤滑油が攪拌されることによって生じる気泡が油路90に流入することを抑止する。
【0041】
図13は、図8及び図12のXIII-XIII'切断面による動力伝達装置の部分断面図である。図13に示すように、カバー97は、回転軸27の下方に設けられている。なお、図12によって示された矢印のうちカバー97の下方において点線で記した矢印は、カバー97の下側にあることを示している。図14は、図8及び図12のXIV-XIV'切断面による動力伝達装置の部分断面図である。図13及び図14を参照すると、油路90は、筐体11の他の内部空間から仕切られている。特に、図14に示すように、第2油室R2と油路90は、第2隔壁98によって仕切られている。これによって、回転速度の速い第2回転要素により泡立てられた潤滑油が油路90に流入することが抑止される。
【0042】
図15は、図8のXIV-XV'切断面による動力伝達装置8の部分断面図である。図15を参照すると、筐体11は、接続部91とオイルフィルタ80とによって囲まれる接続空間92と第2油室R2とを仕切る隔壁93をさらに含む。隔壁93は、油路90が接続部91と接続する接続口94に対して鉛直方向上方において、接続空間92と第2油室R2とを連通する連通孔95を含む。連通孔95の開口の大きさは、接続口94の開口の大きさよりも小さい。図16は、図15の領域Aの拡大図である。図16を参照すると、潤滑構造9は、連通孔95に螺入される流量調節ネジ99をさらに含む。連通孔95には、流量調節ネジ99を螺入するためのネジ溝95Sを含む。
【0043】
図8を参照すると、潤滑構造9は、油圧ポンプ73と、油管75とをさらに含む。油圧ポンプ73は、オイルフィルタ80に溜まった潤滑油を吸い出すように構成される。油管75は、油流出口82と油圧ポンプ73とを接続する。図17は、図8のXVII-XVII'切断面による動力伝達装置8の部分断面図である。図18は、図8のXVIII-XVIII'切断面による動力伝達装置8の部分断面図である。図17及び図18を参照すると、接続部91は、油管75を取り囲むように設けられている。図15図17を参照すると、オイルフィルタ80は、潤滑油の不純物を除去するように構成されたフィルタ本体84を含む。フィルタ本体84は、油流入口81を介して接続口94と連通され、油流出口82を介して油管75と連通される。オイルフィルタ80は、フィルタ本体84を収容し、延伸方向Dに延びるフィルタ筐体83をさらに含む。延伸方向Dは、オイルフィルタ80の略円筒形状の高さ方向に相当する。図8及び図18を参照すると、潤滑構造9は、油管75に接続する付加油管77をさらに含む。図8を参照すると、付加油管77は、油管75から斜め下方に延びる。付加油管77の接続口78には、図示しないパイロット油を供給する別の油圧ポンプに接続されるパイプが接続される。
【0044】
フィルタ筐体83は、上述する油流入口81と油流出口82とを含む筐体基端部85と、延伸方向Dに対して筐体基端部85と反対の筐体末端部86と、フィルタ本体84に面するフィルタ内側面83ISと、フィルタ内側面83ISの反対においてフィルタ内側面83ISを取り囲むフィルタ外側面83OSとを含む。フィルタ内側面83ISの鉛直方向Dの上端は、筐体末端部86から筐体基端部85に向かうにつれ、鉛直方向Dにおいて上昇する。別の言い方をすれば、オイルフィルタ80の鉛直方向Dの上端は、接続部91から離れるにつれ、鉛直方向Dにおいて下降する。接続部91は、接続空間92に面し、隔壁93の接続空間92に面する面93OSと接続する内側面91ISを有する。内側面91ISの鉛直方向Dの上端は、オイルフィルタ80から隔壁93に向かうにつれ上昇する。
<実施形態の作用及び効果>
【0045】
上述の実施形態に係る潤滑構造9は、以下に述べる特徴を有する。(1)オイルフィルタ80には、回転速度が遅い回転部材が収納される第1油室R1から、第1油室R1及び回転速度が速い回転部材が収納される第2油室R2と仕切られた油路90を介して供給される。このため、オイルフィルタ80には、エアの含有量が少ない潤滑油が流入される。このため、エア噛みが抑止される。
【0046】
(2)オイルフィルタ80の鉛直方向Dの上端は、接続部91から離れるにつれ、鉛直方向Dにおいて下降する。別の言い方をすれば、フィルタ内側面83ISの鉛直方向Dの上端は、筐体末端部86から筐体基端部85に向かうにつれ、鉛直方向Dにおいて上昇する。このため、油流入口81からエアが含まれる潤滑油が流入されたとしてもエアが外部に排出されやすい。
【0047】
(3)フィルタ筐体83は、フィルタ本体84と油管75とを連通する油流出口82と油路90の接続口94とフィルタ本体84とを連通する油流入口81とを含む。油流入口81は、油流出口82の周囲に設けられる。つまり、接続部91は、油管75を取り囲むように設けられている。このため、潤滑油は、油管75の下方から流入され、エアは、油管75の上方から排出されやすい。このため、油流入口81からエアが含まれる潤滑油が流入されたとしてもエアが接続部91に排出されやすい。
【0048】
(4)接続部91の内側面91ISの鉛直方向Dの上端は、オイルフィルタ80から隔壁93に向かうにつれ上昇する。このため、接続部91によって形成される接続空間92にエアが排出されても接続部91の内側面91ISに沿って隔壁93に向かいやすい。
【0049】
(5)隔壁93は、油路90の接続口94に対して鉛直方向Dの上方において、接続空間92と第2油室R2とを連通する連通孔95を含む。このため、隔壁93に向かったエアが連通孔95から第2油室R2に排出される。なお、潤滑構造9は、連通孔95に螺入される流量調節ネジ99をさらに含む。このため、エアが多く混入されている第2油室R2の潤滑油が接続空間92に流入されることが抑止しつつ、接続空間92に溜まったエアが第2油室R2に排出されるように最適な流量となるように調節することができる。
【0050】
本願においては、「備える」およびその派生語は、構成要素の存在を説明する非制限用語であり、記載されていない他の構成要素の存在を排除しない。これは、「有する」、「含む」およびそれらの派生語にも適用される。
【0051】
「~部材」、「~部」、「~要素」、「~体」、および「~構造」という文言は、単一の部分や複数の部分といった複数の意味を有し得る。
【0052】
「第1」や「第2」などの序数は、単に構成を識別するための用語であって、他の意味(例えば特定の順序など)は有していない。例えば、「第1要素」があるからといって「第2要素」が存在することを暗に意味するわけではなく、また「第2要素」があるからといって「第1要素」が存在することを暗に意味するわけではない。
【0053】
程度を表す「実質的に」、「約」、および「およそ」などの文言は、実施形態に特段の説明がない限りにおいて、最終結果が大きく変わらないような合理的なずれ量を意味し得る。本願に記載される全ての数値は、「実質的に」、「約」、および「およそ」などの文言を含むように解釈され得る。
【0054】
本願において「A及びBの少なくとも一方」という文言は、Aだけ、Bだけ、及びAとBの両方を含むように解釈されるべきである。
【0055】
上記の開示内容から考えて、本発明の種々の変更や修正が可能であることは明らかである。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、本願の具体的な開示内容とは別の方法で本発明が実施されてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18