(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】内因性タンパク質のレベルを低下させることによって生物学的産物の産生を改善する方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20240826BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240826BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12N5/10
C12N15/09 110
(21)【出願番号】P 2021500804
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(86)【国際出願番号】 US2019041615
(87)【国際公開番号】W WO2020014618
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-07-05
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391003864
【氏名又は名称】ロンザ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LONZA LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, ロバート
(72)【発明者】
【氏名】オキャラハン, ピーター, マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ, デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ジャッフェ, ステファン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/186671(WO,A1)
【文献】特表2009-502167(JP,A)
【文献】特表2006-507829(JP,A)
【文献】特表2016-514461(JP,A)
【文献】Differentiation,1997年,Vol. 62,p. 129-137
【文献】Oncogene,2017年,Vol. 36,p. 6605-6616
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12P 21/00 - 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞中で異種ポリペプチド産物を製造する方法であって、
1つ以上の内因性タンパク質のレベルが低下していないCHO細胞と比較して、少なくとも10%、内因性タンパク質Lamb1の発現レベルを低下させることと、
前記異種ポリペプチド産物の産生に好適な条件下で前記細胞を培養することと、
それによって前記異種ポリペプチド産物を製造することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記異種ポリペプチド産物を回収することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞の作製方法であって、
1つ以上の内因性タンパク質のレベルが低下していないチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞と比較して、少なくとも10%、前記細胞中の内因性タンパク質Lamb1の発現レベルを低下させることを含み、
前記細胞
はCH
O細胞であり、
前記細胞は、内因性タンパク質をコードする非必須の冗長遺伝子のレベルが低下していない同じ型の細胞と比較して、異種ポリペプチドの増加した産生を有する、方法。
【請求項4】
前記細胞中の内因性タンパク質の発現レベルを低下させることが、前記内因性タンパク質をコードする遺伝子のコピーを前記細胞のゲノムからノックアクトすること、又は前記内因性タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合された調節核酸配列をノックアクトすることを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞内の内因性タンパク質の発現レベルを低下させることが、前記内因性タンパク質をコードする遺伝子のすべてのコピーを前記細胞のゲノムからノックアクトすること、又は前記内因性タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合された調節核酸配列をノックアウトすることを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ノックアウトすることが、CRISPR-Cas9タンパク質を、前記内因性タンパク質をコードする遺伝子に特異的なRNA、又は前記内因性タンパク質をコードする前記遺伝子に作動可能に結合した調節核酸配列
に特異的なRNAと組み合わせて使用することを含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
異種ポリペプチド産物の増加した産生が、前記内因性タンパク質のレベルが低下していない同じ型の細胞と比較して、少なくとも20%の産物産生速度(qP)の増加である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
異種ポリペプチド産物の増加した産生が、前記内因性タンパク質のレベルが低下していない同じ型の細胞と比較して、少なくとも20%の産物力価の増加である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
異種ポリペプチドを含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であって、
1つ以上の内因性タンパク質のレベルが低下していないCHO細胞と比較して、少なくとも10%、内因性タンパク質Lamb1の発現が低下している、細胞。
【請求項10】
前記細胞は、前記内因性タンパク質をコードする遺伝子の機能的コピー、又は前記内因性タンパク質をコードする前記遺伝子に作動可能に結合された調節核酸配列を含まない、請求項9に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮出願特許第62/697,480号(2018年7月13日出願)に対する優先権を主張し、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、培養細胞内で発現する産物、例えば、ポリペプチドの収率を増加させるための宿主細胞を発現させるための修飾方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
組換え治療用タンパク質などの細胞産物は、一般に、哺乳類細胞発現系などの細胞発現系において発現される。何百もの市場で承認されたバイオ医薬品が哺乳類細胞株で発現される。しかしながら、それらの生産に伴う高いコストは、グローバルな医療コストの増加をもたらす。
【0004】
したがって、産物、例えば培養細胞において発現されるポリペプチドの収率のための方法を開発および産生する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、部分的には、産物、例えば組換えポリペプチドを産生することができる細胞、例えば産生細胞中の1つ以上の内因性タンパク質、例えば、非必須タンパク質、冗長タンパク質、および/または分泌内因性タンパク質のレベルを低下させることにより、産物の収率が増加するという発見に基づく。
【0006】
一態様において、本発明は、産生細胞などの細胞中で組換えポリペプチドなどの産物を製造する方法であって、
産生細胞などの細胞中の内因性タンパク質のレベルを低下させることと、
それにより産物を製造することと、を含む、方法に関する。
【0007】
別の態様において、本発明は、産生細胞などの細胞中で組換えポリペプチドなどの産物を製造する方法であって、
産生細胞などの細胞を提供することと、
産生細胞などの細胞中の内因性タンパク質のレベルを低下させることと、
組換えポリペプチドなどの産物を産生するために好適な条件下で細胞を培養することと、
それにより産物を製造することと、を含む、方法に関する。
【0008】
別の態様において、本発明は、産物、例えば組換えポリペプチドを産生することができる細胞、例えば産生細胞であって、細胞、例えば産生細胞が、内因性タンパク質をコードする遺伝子のコピー、または内因性タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合されたプロモーターもしくはエンハンサーなどの調節核酸配列への欠失、置換、または挿入変異を含み、例えば、変異は内因性タンパク質の発現レベルを低下させる、細胞に関する。
【0009】
別の態様において、本発明は、産物、例えば組換えポリペプチドを産生することができる細胞、例えば産生細胞であって、細胞は、例えば、内因性タンパク質をコードするmRNAなどの核酸、または内因性タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合されたプロモーターもしくはエンハンサーなどの調節エレメントに結合することができるsiRNAを含む、細胞に関する。
【0010】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の方法または細胞によって産生される組換えポリペプチドなどの産物に関する。
【0011】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の産物、例えば組換えポリペプチドを含む医薬組成物に関する。
【0012】
別の態様において、本発明は、表E5から選択される内因性タンパク質をコードするmRNAなどの核酸に結合することができるsiRNAに関する。
【0013】
実施形態において、産物、例えばポリペプチドは、表1および2に提供されるポリペプチド、またはその変異体の1つである。
【0014】
実施形態において、産物はポリペプチドである。実施形態において、ポリペプチドは、モノクローナル抗体などの抗体、例えば、IgG1抗体、または抗体をコードするポリヌクレオチドである。実施形態において、ポリヌクレオチドによってコードされた抗体(antibody-encoded polynucleotide)中の1つ以上のシステインが、別のアミノ酸で置き換えられる。ある実施形態において、1つ以上のシステインが1つ以上のセリン残基で置き換えられる。
【0015】
一態様において、本開示は、細胞、例えば組換え宿主細胞、例えば産生細胞において、本明細書に記載の産物を産生するための方法を特徴とする。ある実施形態において、産物は、ポリペプチド、例えば組換えポリペプチドである。
【0016】
本明細書に記載の方法または組成物のいずれかを使用して産生され得る産物の例としては、組換え産物、または少なくとも1つの部分もしくは部分が遺伝子工学の結果である産物が挙げられる。本明細書に記載の組換え産物は、診断または治療目的に有用である。一実施形態では、産物は、ポリペプチド、例えば、抗体分子(例えば、二重特異性または多形式抗体分子)、融合タンパク質、またはタンパク質コンジュゲートを含む。本明細書に記載の方法および組成物は、例えば、高量で、または次世代生物学的製剤(例えば、融合タンパク質、二重特異性または多形式抗体分子、多量体タンパク質、およびグリコシル化タンパク質)などの商業的または治療的使用に十分な品質で産生することが困難な産物に特に有用であり得る。一実施形態において、例えば、産物を産生するための本明細書に記載の細胞は、産物を発現させる。一実施形態において、細胞は、表1、2、3、または4から選択されるポリペプチドなどの本明細書に記載の産物をコードする外因性核酸を含む。産物の追加例は、「産物」というタイトルのセクションに記載されている。
【0017】
本明細書に記載の方法はまた、低温に供されない細胞と比較して、産物の品質の改善をもたらすことができる。産物の質の改善は、以下のうちの1つ以上によって特徴付けることができる:解離(例えば、ポリペプチドの活性の低い形態への解離の減少)、凝集(例えば、凝集塊または凝集の減少)、適切な折り畳みまたは組み立て(例えば、誤った折り畳みもしくは展開産物の減少、または部分的に組み立てもしくは分解産物)、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化異種性の増加または減少、所望のまたは所定の翻訳後修飾のより高い割合)、断片化(例えば、断片化の減少)、ジスルフィド結合スクランブル(例えば、ジスルフィド結合スクランブルに起因する望ましくないアイソフォームまたは構造の減少)。一実施形態において、組換えポリペプチドなどの産物の品質は、例えば、低下した温度に供されない細胞によって産生される産物の品質と比較して、1倍、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍増加する。
【0018】
実施形態では、本明細書に記載の産物の産生方法は、ポリペプチドの安定性または活性を増強するための1つ以上の追加のステップを用いて実行することができる。これらには、ER処理能力(ER増大)または分泌を向上させる改変を産生細胞に導入すること、細胞もしくは細胞の子孫から、または細胞によって調節された培地から産物を得ること、少なくとも1つの細胞もしくは培地成分から産物を分離すること、および/または、例えば活性のためにまたは構造部分の存在のために産物を分析することが含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、本方法は、PD1、BiP、ERO、またはXBP1をコードする核酸を導入することによってER処理能力(またはER拡張)を改善するステップをさらに含む。一実施形態において、本方法は、スネア機構または分泌経路に関与する他の機構を調節することによって、例えば、スネア成分をコードする核酸を導入することによって、分泌容量または分泌速度を改善するための追加のステップをさらに含む。
【0019】
産物
本明細書に記載の方法に好適な産物としては、組換えタンパク質などのポリペプチド、DNAもしくはRNA分子などの核酸分子、多量体タンパク質もしくは複合体、ウイルス様粒子、小胞、もしくはエクソソームなどの脂質封入粒子、または他の分子が挙げられる。ある実施形態において、産物は、組換えポリペプチドなどのポリペプチドである。例えば、組換えポリペプチドは、発現が困難なタンパク質、または複合体および/または非天然構造を有するタンパク質、例えば、次世代生物学的タンパク質、例えば、二重特異性抗体分子、融合タンパク質、またはグリコシル化タンパク質でよい。
【0020】
本明細書に記載の方法のいずれかにおいて、産物の産生方法は、ポリペプチドなどの産物、例えば、組換えポリペプチドをコードする外因性核酸を細胞に導入することをさらに含む。
【0021】
本明細書に記載の組成物、調製物、バイオリアクター、または方法のいずれかにおいて、組換えポリペプチドなどの産物は、治療用ポリペプチド、または抗体もしくはその抗体断片などの抗体分子である。一実施形態において、抗体分子はモノクローナル抗体である。一実施形態において、抗体分子は、BiTE(二重特異性T細胞エンゲージャー)、ダート(二重親和性再標的またはリダイレクトT細胞)などの二重特異性抗体分子である。
【0022】
一実施形態において、組換えポリペプチドなどの産物は、表1、表2、表3、または表4から選択される。
【0023】
実施形態において、産物は細胞によって安定して発現される。一実施形態において、組換えポリペプチドなどの産物をコードする外因性核酸は、細胞の染色体ゲノムに組み込まれる。あるいは、産物は細胞によって一過性に発現される。一実施形態において、組換えポリペプチドなどの産物をコードする外因性核酸は、細胞の染色体ゲノムに組み込まれない。
【0024】
宿主細胞
本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の産物を産生するための組換え細胞などの細胞、例えば、産生細胞、かかる細胞を操作する方法、および細胞を使用するための方法である。
【0025】
本明細書に記載される組成物、調製物、または方法のいずれかにおいて、細胞は真核生物細胞である。一実施形態において、細胞は哺乳類細胞、酵母細胞、昆虫細胞、藻類細胞、または植物細胞である。一実施形態において、細胞はげっ歯類細胞である。一実施形態において、細胞は、CHO細胞である。CHO細胞の例としては、CHOK1、CHOK1SV、Potelligent CHOK1SV、CHO GSノックアウト、CHOK1SV GS-KO、CHOS、CHO DG44、CHO DXB11、CHOZN、またはCHO由来の細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本明細書に記載の組成物、調製物、または方法のいずれかにおいて、細胞は、HeLa、HEK293、H9、HepG2、MCF7、Jurkat、NIH3T3、PC12、PER.C6、BHK、VERO、SP2/0、NS0、YB2/0、EB66、C127、L細胞、COS、例えば、COS1およびCOS7、QC1-3、CHOK1、CHOK1SV、Potelligent CHOK1SV、CHO GSノックアウト、CHOK1SV GS-KO、CHOS、CHO DG44、CHO DXB11、およびCHOZNからなる群から選択される。
【0027】
一実施形態において、細胞は、昆虫、植物、酵母、または藻類細胞などの哺乳類細胞以外の真核細胞である。一実施形態において、細胞は原核細胞である。
【0028】
本明細書に記載の方法または細胞、例えば、産生細胞、のいずれかにおいて、細胞は、産物、例えば、組換え産物、例えば、二重特異性抗体、融合タンパク質、またはグリコシル化タンパク質からなる群から選択される次世代生物学的製剤を発現または含む。
【0029】
方法または細胞、例えば、本明細書に記載の産生細胞、のいずれかにおいて、細胞は、CHOK1、CHOK1SV、Potelligent CHOK1SV、CHO GSノックアウト、CHOK1SV GS-KO、CHOS、CHO DG44、CHO DXB11、CHOZN、またはCHO由来細胞からなる群から選択されるCHO細胞である。
【0030】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様または同等の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、好適な方法および材料を以下に記載する。本明細書に言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参照文献は、参照によりそれらの全体が組み込まれる。加えて、材料、方法、および実施例は、例示のみであり、限定することを意図するものではない。見出し、小見出し、または番号付きまたは文字付きの要素、例えば(a)、(b)、(i)などは、読みやすいように単に提示される。本書の見出しまたは番号付きまたは文字付きの要素の使用は、ステップまたは要素をアルファベット順に実行する必要はなく、ステップまたは要素が必ずしも互いに離散している必要はない。本発明の他の特徴、目的、および利点は、説明および図面、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1A】選択された非必須、冗長、および/または分泌された内因性タンパク質が、gRNAを欠くベクターでトランスフェクトされたCHO細胞と比較してノックアウトされたCHO細胞株におけるMabの細胞特異的生産性のグラフを示す。
【
図1B】FACSで選別したプールから抽出したゲノムDNAのTIDE解析によって測定した遺伝子インデル成功のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本開示は、産物を産生することができる細胞、例えば産生細胞中の内因性タンパク質、例えば、非必須タンパク質、冗長タンパク質、および/または分泌内因性タンパク質のレベルを低下させることによって、産物、例えば、ポリペプチドのより高い収率を得るための方法および組成物を特徴とする。本明細書に記載の方法および前記方法で使用される細胞は、現在の産生方法および/または細胞から得られる収率および品質と比較して改善された品質を示す。本明細書に記載の方法および組成物は、組換え産物を産生するために現在使用されている細胞発現系と比較して、生産性、産物の品質、頑健性、および/または培養生存率が向上した操作細胞または細胞株でも使用可能である。
【0033】
本方法は、次世代生物学的製剤の産生に好適である。これらの方法が患者において治療的有用性を獲得し続けるにつれて、治療的使用のための高い品質を有する大量の次世代生物学的製品、ならびに生産のための効率的な手段および生産細胞株の効率的な開発の需要が高まるであろう。さらに、多くの次世代生物学的製剤は、当技術分野で既知の従来の発現技法を使用して、従来の細胞株で発現および産生することが困難である。現在の方法は、臨床使用に必要な大量かつ高品質のこれらの製品を生産するのに十分ではない。本明細書に記載の方法は、内因性タンパク質のレベルを低下させることを含み、これらの障害を克服し、産物収率を増加させるために他の方法と組み合わせることができる。
【0034】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明に関連する当業者に一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様または同等の任意の方法および材料を、本発明の実施および/または試験に使用することができるが、好ましい材料および方法が本明細書に記載される。本発明の説明および特許請求の範囲において、以下の用語は、定義が提供される、定義方法に従って使用される。
【0035】
本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定することを意図するものではないことも理解されるべきである。
【0036】
物品「a」および「an」は、物品の文法的主語の1つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書で使用される。例として、「細胞」は、1つの細胞または2つ以上の細胞を意味し得る。
【0037】
本明細書で使用される「内因性」は、生物、細胞、組織、または系から、またはその内部で天然に産生される任意の材料を指す。
【0038】
本明細書で使用される「外因性」は、生物、細胞、組織または系に導入されるか、またはその外部で産生される任意の材料を指す。したがって、「外因性核酸」は、生物、細胞、組織または系に導入されるか、またはその外部で産生される核酸を指す。一実施形態では、外因性核酸の配列は、外因性核酸が導入される生物、細胞、組織、または系内で天然に産生されないか、または天然に見出すことができない。実施形態において、非天然に存在する産物、または非天然に存在する部分を含有する産物は、本明細書に記載される宿主細胞に関して外因性材料である。
【0039】
「異種」は、本明細書で使用される場合、異なる種由来の生物、細胞、組織または系に導入される場合、1つの種由来の任意の材料を指す。実施形態において、異種材料はまた、1つ以上の種由来の部分、または天然に存在しない部分を含む材料を包含する。例として、一実施形態において、融合タンパク質の一部がヒトであり、融合タンパク質の一部が細菌であり、融合タンパク質の一部が非天然であり、核酸がヒト細胞に導入される融合タンパク質をコードする核酸は、異種核酸である。
【0040】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」は、本明細書で互換的に使用される場合、ペプチド結合によって、またはペプチド結合以外の手段によって共有結合されたアミノ酸残基から構成される化合物を指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならず、タンパク質またはペプチドの配列を含むことができるアミノ酸の最大数に制限は設けられない。一実施形態において、タンパク質は、1つを超える、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上のポリペプチドを含んでもよく、各ポリペプチドは、共有結合または非共有結合/相互作用のいずれかによって別のポリペプチドと会合する。ポリペプチドは、ペプチド結合またはペプチド結合以外の手段によって互いに連結される2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を含む。本明細書で使用される場合、この用語は、例えば、当技術分野でペプチド、オリゴペプチド、およびオリゴマーとも一般的に称される短い鎖、ならびに多くの種類が存在するタンパク質として当技術分野で一般的に称される長い鎖の両方を指す。「ポリペプチド」としては、例えば、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドの変異体、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質等が挙げられる。
【0041】
「組換え産物」は、細胞または無細胞系によって産生され得る産物を指す。産物は、分子、核酸、ポリペプチド(例えば、SSポリペプチド)、またはその任意のハイブリッドでよい。組換え産物は、産物の少なくとも1つの成分、または産物の産生もしくは発現を制御する配列の少なくとも1つのヌクレオチドが遺伝子操作によって形成されたものである。組換え産物または組換え産物をコードする構築物を生成するために本明細書で使用される遺伝子操作は、当技術分野で既知の組換えDNA発現技術(例えば、Molecular BiologyにおけるCurrent Protocolsに記載される)、部位特異的、走査的、またはランダム変異誘発、CRISPR戦略、および亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)戦略を包含する。一実施形態において、組換え産物は組換えポリペプチドである。一実施形態において、組換え産物は、天然に存在する産物である。一実施形態において、組換え産物は、天然に存在しない産物、例えば、合成産物である。一実施形態において、組換え産物の一部が天然に存在する一方で、組換え産物の別の部分が非天然に存在する。別の実施形態では、組換え産物の第1の部分は、1つの天然に存在する分子であり、一方、組換え産物の別の部分は、第1の部分とは異なる別の天然に存在する分子である。
【0042】
「組換えポリペプチド」は、本明細書に記載の細胞によって産生することができるポリペプチドを指す。組換えポリペプチドは、(細胞または前駆細胞の)遺伝子操作または操作によって、ポリペプチドをコードする配列の少なくとも1つのヌクレオチド、またはポリペプチドの発現を制御する配列の少なくとも1つのヌクレオチドが形成されたものである。例えば、少なくとも1つのヌクレオチドが改変され、例えば、それが細胞に導入されたか、またはそれが遺伝子操作された再配列の産物である。一実施形態において、組換えポリペプチドの配列は、ポリペプチドまたはタンパク質の天然または非天然のアイソフォームと変わらない。一実施形態において、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、ポリペプチドまたはタンパク質の天然に存在するまたは非天然に存在するアイソフォームの配列とは異なる。一実施形態において、組換えポリペプチドおよび細胞は同じ種由来である。一実施形態では、組換えポリペプチドのアミノ酸配列は、細胞の内因性ゲノムによってコードされるポリペプチドと同一であるか、または実質的に同一であるか、あるいは1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%以下で異なる。一実施形態において、組換えポリペプチドおよび細胞は同じ種由来であり、例えば組換えポリペプチドはヒトポリペプチドであり、細胞はヒト細胞である。一実施形態において、組換えポリペプチドおよび細胞は異なる種由来であり、例えば、組換えポリペプチドはヒトポリペプチドであり、細胞は非ヒト、例えばげっ歯類、例えば、CHO、他の哺乳類細胞、昆虫細胞、植物、真菌、または細菌細胞である。一実施形態において、組換えポリペプチドは細胞に対して外因性であり、言い換えれば、細胞は第1の種由来であり、組換えポリペプチドは第2の種由来である。一実施形態において、ポリペプチドは合成ポリペプチドである。一実施形態において、ポリペプチドは、天然に存在しない供給源に由来する。一実施形態において、組換えポリペプチドは、アミノ酸配列がヒトポリペプチドまたはタンパク質の天然または非天然に存在するアイソフォームと異なるヒトポリペプチドまたはタンパク質である。一実施形態では、組換えポリペプチドは、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10個、15個、または20個以下のアミノ酸残基で、ヒトポリペプチドまたはタンパク質の天然または非天然に存在するアイソフォームとは異なる。一実施形態において、組換えポリペプチドは、そのアミノ酸残基の1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、または15%以下でヒトポリペプチドの天然に存在するアイソフォームとは異なる。組換えポリペプチドの一部が、ヒトポリペプチドの天然または非天然のアイソフォームの一部に由来する配列を含む実施形態では、組換えポリペプチドの部分は、天然または非天然のアイソフォームの対応する部分と、そのアミノ酸残基の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10個、15個、または20個、またはそのアミノ酸残基の1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、または15%以下で異なる。
【0043】
酸素化レベルおよび酸素化レベルは交換可能に使用され、本明細書で使用される場合、例えば培養物中のある体積の液体またはガス中の溶解酸素のレベルを指す。酸素化レベルは、例えば、空気飽和度の割合(例えば、空気中の酸素レベルの割合)に関して、溶解酸素張力(DOT)の単位で説明することができる。
【0044】
産生培養物は、本明細書で使用される場合、成長培地と細胞(例えば、少なくとも1つの細胞)、例えば、組換え細胞、例えば、産物を発現する組換え宿主細胞、例えば、タンパク質(例えば、組換えポリペプチド)、細胞因子、例えば、酵素および代謝産物との混合物を指す。ある実施形態において、産生培養物は、細胞成長/分裂特性を含む1つ以上の培養フェーズ(例えば、連続および/または重複培養フェーズ)を通して進行する。ある実施形態において、産生培養物の処理は、産生培養物が異なる段階を経るにつれて本明細書に記載されるように変化する。本明細書で使用される産生相は、接種時に開始し、特定の基準(例えば、プロセスもしくは期間の終了、例えば、10~30日、例えば、15~20日)に達したとき、または特定の細胞生存基準(例えば、90、80、70、60、50、40、30、20、もしくは10%の生存率、例えば、50%未満の生存率)に達したときに終了する産生培養物の相を指す。産生相は、細胞成長および/または分裂が指数関数的である指数関数的成長相を含んでよい。産生相は、指数的成長相に続く成長後相を含んでよく、細胞成長および/または分裂は、成長曲線の線形相にあり、例えば、細胞成長および/または分裂の速度は、指数的成長相と比較して減少している。ある実施形態において、産生段階の完了は産生培養物から生産混合物を産生する。ある実施形態では、産生上清からの細胞の分離、例えば、採取、ならびにさらなる分離または精製ステップ、例えば、採取後の段階は、産生段階の終了に続く段階である。
【0045】
本明細書で使用される産生混合物は、産物、例えば、組換えポリペプチド、成長培地、および細胞(例えば、少なくとも1つの細胞)、例えば、組換え細胞、例えば、産物を発現することができる組換え宿主細胞の混合物を指す。産生細胞は、産物、例えば、組換えポリペプチドを発現することができる組換え宿主細胞である。
【0046】
本明細書で使用される場合、作動可能に結合されるとは、容器間の関係を説明する。一実施形態において、培養培地または産生培養物は、作動可能に結合された容器間で伝達することができる。一実施形態では、作動可能に結合された容器間の培養の流れは、制御された様式で、例えば、ポンプ、フィルタ、センサ、培養条件を維持もしくは変更するための手段、および/または液体の流れを監視するための手段を使用して生じる。
【0047】
作動可能に結合されるとは、本明細書で使用される場合、第1の核酸配列、例えば、プロモーターまたはエンハンサー配列と、第2の核酸配列、例えば、タンパク質をコードする配列との間の関係を記載し、第1の核酸配列は、例えば、転写、エピジェネティック修飾、および/または染色体トポロジーに影響を及ぼすことによって、第2の核酸配列に影響を及ぼし得る。ある実施形態において、作動可能に連結されたとは、2つの核酸配列が同じ核酸分子上に含まれることを意味する。さらなる実施形態において、作用可能に連結されるとは、2つの核酸配列が、同じ核酸分子上で互いに近接している、例えば、互いに1000、500、100、50、または10塩基対以内であるか、または互いに直接的に隣接していることをさらに意味し得る。一実施形態において、タンパク質をコードする配列に作動可能に連結されたプロモーターまたはエンハンサー配列は、例えば、転写を行うことができる細胞または細胞遊離系において、タンパク質をコードする配列の転写を促進することができる。
【0048】
ある実施形態において、本開示の方法は、産生培養物、産生培養物の細胞、または産生培養物由来の上清を、異なる相にわたって異なる温度で維持することができるか、またはそのバイオリアクターを含む。T培養は、本明細書で使用される場合、タンパク質が産生される産生培養物を産生するために、接種の開始から産生相の終了まで、例えば増殖培地中で産生培養物の細胞を増殖させる温度である。ある実施形態において、T培養は、30℃~38℃である。T産生は、本明細書で使用される場合、産生培養物が指数関数後成長期の後に冷却される最初の温度である。ある実施形態では、T産生は、35℃、34℃、33℃、32℃、31℃、または30℃、例えば30℃~33℃未満である。T採取は、本明細書で使用される場合、採取前に産生培養物を冷却する(例えば、上清からの細胞の分離)第2の温度である。ある実施形態において、T採取は、29℃、28℃、27℃、26℃、25℃、24℃、23℃、22℃、21℃、20℃、19℃、18℃、17℃、16℃、15℃、14℃、13℃、12℃、11℃、10℃、9℃、8℃、7℃、6℃、5℃、または4℃である。一実施形態において、T採取は、12℃~18℃、例えば、15℃である。一実施形態において、T採取は、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃、または24℃未満である。一実施形態において、T採取は、15℃±3℃である。
【0049】
本明細書で使用される場合、Cas9分子またはCas9ポリペプチドは、ガイドRNA(gRNA)分子と相互作用し、gRNA分子と協調して、標的ドメインおよびPAM配列を含む部位に収容(home)または局在化することができる分子またはポリペプチドを指す。本明細書で使用される場合、Cas9分子およびCas9ポリペプチドには、参照配列、例えば、最も類似した天然に存在するCas9分子または配列と、例えば、少なくとも1つのアミノ酸残基が異なる、天然に存在するCas9分子、および操作、改変、もしくは修飾されたCas9分子またはCas9ポリペプチドが含まれる。例示的なCas9分子またはCas9ポリペプチド配列は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるWO2015/157070に見出され得る。Cas9分子またはCas9ポリペプチドは、DNA切断およびニッキング活性を有するCas9分子を含む。
【0050】
本明細書に引用される各特許、特許出願、および刊行物の開示は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。本発明は特定の態様を参照して開示されているが、本発明の他の態様および変形形態は、本発明の真の趣旨および範囲から逸脱することなく当業者によって考案され得ることが明らかである。添付の特許請求の範囲は、すべてのそのような態様および同等の変形を含むように解釈されることが意図される。
【0051】
内因性タンパク質の低下レベル
本開示は、部分的には、細胞、例えば産生細胞における産物、例えば、組換えポリペプチドの製造方法であって、細胞、例えば、産生細胞における1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることを含む、方法に関する。理論に拘束されることを望むものではないが、1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることによって、1つ以上の産生細胞の特性(例えば、特異的産生速度(qP)、成長速度、産物収率、および/または生存細胞濃度)を改善することができると考えられる。内因性タンパク質は、小胞体またはゴルジ内の空間および/またはリソース(例えば、翻訳、翻訳後処理、および分泌空間/リソース)を消費し、産生細胞が産物、例えば、組換えポリペプチドを産生するために利用可能な容量を低下させ得る。内因性タンパク質は、細胞、例えば産生細胞に対する機能性の観点から互いにさらに冗長であってもよく、または生体製造、例えば、バイオリアクターおよび細胞培養物の人工環境における細胞生存率もしくは成長に不必要であってもよい。
【0052】
ある実施形態では、細胞、例えば産生細胞における1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることは、1つ以上の内因性タンパク質のレベルが低下していない同様の細胞と比較して、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100%低下することを含む。ある実施形態では、細胞、例えば産生細胞における1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることは、細胞、例えば産生細胞から本質的にすべての、例えば、すべての1つ以上の内因性タンパク質を排除することを含む。1つ以上の内因性タンパク質のレベルは、例えば、Porter,A.J,ら(2010).“Strategies for selecting recombinant CHO cell lines for cGMP manufacturing:realizing the potential in bioreactors.” Biotechnol Prog 26(5):1446-1454に記載される方法によって評価され得る。
【0053】
ある実施形態において、細胞、例えば産生細胞中の1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることは、qPを向上させる。本明細書で使用されるqPは、特定の産物の産生速度を指す。ある実施形態において、qPは、単位時間当たりの単位産生細胞(例えば、グラムまたは生存細胞数)当たりの産物の単位を有する。ある実施形態では、qPは、例えば、1つ以上の内因性タンパク質のレベルが低下していない、同様の細胞、例えば産生細胞のqPの少なくとも1.05倍(すなわち、1.05倍)、1.06倍、1.07倍、1.08倍、1.09倍、1.1倍、1.12倍、1.13倍、1.14倍、1.15倍、1.16倍、1.17倍、1.18倍、1.19倍、1.2倍、1.25倍、1.3倍、1.35倍、1.4倍、1.45倍、1.5倍、1.55倍、1.6倍、1.65倍、1.7倍、1.75倍、1.8倍、1.85倍、1.9倍、1.95倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍向上する。ある実施形態では、qPは、1つ以上の内因性タンパク質のレベルが低下していない同様の細胞、例えば、産生細胞と比較して、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、または70%向上する。qPは、例えば、ELISAによる分泌タンパク質産物の定量化または定量クロマトグラフィー(例えば、プロテインA HPLC)によって評価され得る。
【0054】
ある実施形態において、細胞、例えば産生細胞における1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることは、細胞成長、例えば、細胞が成長および/または分裂する速度を改善する。ある実施形態において、細胞成長は、例えば、1つ以上の内因性タンパク質のレベルが低下されていない、同様の細胞、例えば、産生細胞の細胞成長の少なくとも1.05倍(すなわち、1.05倍)、1.06倍、1.07倍、1.08倍、1.09倍、1.1倍、1.12倍、1.13倍、1.14倍、1.15倍、1.16倍、1.17倍、1.18倍、1.19倍、1.2倍、1.25倍、1.3倍、1.35倍、1.4倍、1.45倍、1.5倍、1.55倍、1.6倍、1.65倍、1.7倍、1.75倍、1.8倍、1.85倍、1.9倍、1.95倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍向上する。ある実施形態では、細胞成長は、1つ以上の内因性タンパク質のレベルが低下していない同様の細胞、例えば、産生細胞と比較して、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、または70%改善、例えば増加する。細胞成長は、例えば、自動トリパンブルー排除アッセイを使用した生存細胞濃度の時間的測定によって(例えば、Beckman coulter Vi-Cell XRを使用して)評価され得る。
【0055】
ある実施形態において、細胞、例えば産生細胞中の1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることは、産物収率、例えば、培養物が産生する産物の量を改善する。ある実施形態において、細胞成長は、1つ以上の内因性タンパク質のレベルが低下していない、同様の細胞、例えば、産生細胞の産物収率の少なくとも1.05倍(すなわち、1.05倍)、1.06倍、1.07倍、1.08倍、1.09倍、1.1倍、1.12倍、1.13倍、1.14倍、1.15倍、1.16倍、1.17倍、1.18倍、1.19倍、1.2倍、1.25倍、1.3倍、1.35倍、1.4倍、1.45倍、1.5倍、1.55倍、1.6倍、1.65倍、1.7倍、1.75倍、1.8倍、1.85倍、1.9倍、1.95倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍改善される。ある実施形態では、産物収率は、1つ以上の内因性タンパク質のレベルが低下していない、同様の細胞、例えば、産生細胞の同様の培養物と比較して、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、または70%向上する。産物収率は、例えば、ELISAによる分泌タンパク質産物の定量化によって、または定量クロマトグラフィー(例えば、プロテインA HPLC)によって評価され得る。
【0056】
ある実施形態において、細胞、例えば産生細胞中の1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることは、qPおよび細胞成長を改善する。ある実施形態において、細胞、例えば産生細胞中の1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることは、qPおよび産物の収率を向上させる。ある実施形態において、細胞、例えば、産生細胞中の1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることは、産物収率および細胞成長を向上させる。ある実施形態において、細胞、例えば、産生細胞中の1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることは、qP、産物収率、および細胞成長を改善する。
【0057】
内因性タンパク質
本明細書に記載の方法においてレベルが低下され得る内因性タンパク質としては、非必須(例えば、細胞成長および/または生存性に、例えば、生体製造環境において)、レベルが低下されない場合がある他の内因性タンパク質と機能的に冗長であるもの、ならびに/または分泌されたタンパク質が挙げられる。本明細書の開示および当業者は、最小限の実験で、細胞、例えば、CHO細胞のどの内因性タンパク質が非必須、冗長、および/または分泌タンパク質であるかを認識することができるであろう。
【0058】
ある実施形態において、レベルが低下し得る内因性タンパク質は、例えば、実施例1の方法によって決定されるように、少なくとも非常に高いレベルで発現されるタンパク質である。ある実施形態において、レベルが低下し得る内因性タンパク質は、例えば、実施例1の方法によって決定されるように、少なくとも高レベルで発現されるタンパク質である。ある実施形態において、レベルが低下し得る内因性タンパク質は、例えば、実施例1の方法によって決定されるように、少なくとも中レベルで発現されるタンパク質である。
【0059】
ある実施形態において、レベルが低下し得る内因性タンパク質は、例えば、タンパク質機能データベース、例えば、実施例1のPANTHERデータベースにおける、冗長性、非必須性、または分泌に関連する機能に関連するタンパク質である。ある実施形態において、レベルが低下し得る内因性タンパク質は、表E1に列挙される機能的キーワード、または実質的に類似の機能的会合と関連付けられる。ある実施形態において、レベルが低下され得る内因性タンパク質は、免疫機能、疾患耐性、細胞通信、および/または分泌に関連するタンパク質である。
【0060】
ある実施形態において、レベルが低下し得る内因性タンパク質は、例えば、実施例1の方法によって決定されるように、少なくとも非常に高いレベルで発現され、例えば、タンパク質機能データベース、例えば、実施例1のPANTHERデータベースにおいて、冗長性、非必須性、または分泌に関連する機能と関連付けられ、例えば表E1のキーワードと関連付けられる、タンパク質である。ある実施形態において、レベルが低下し得る内因性タンパク質は、例えば、実施例1の方法によって決定されるように、少なくとも高レベルで発現され、例えば、タンパク質機能データベース、例えば、実施例1のPANTHERデータベースにおいて、冗長性、非必須性、または分泌に関連する機能と関連付けられ、例えば表E1のキーワードと関連付けられる、タンパク質である。ある実施形態において、レベルが低下し得る内因性タンパク質は、例えば、実施例1の方法によって決定されるように、少なくとも中レベルで発現され、例えば、タンパク質機能データベース、例えば、実施例1のPANTHERデータベースにおいて、冗長性、非必須性、または分泌に関連する機能と関連付けられ、例えば表E1のキーワードと関連付けられる、タンパク質である。
【0061】
ある実施形態において、レベルが低下し得る内因性タンパク質は、必須機能、例えば、細胞成長、生存率、または産物産生に重要または非常に必要な機能に関連するタンパク質ではない。ある実施形態において、そのレベルが低下し得る内因性タンパク質は、例えば、タンパク質機能データベース、例えば、実施例1のPANTHERデータベースにおける、必須機能に関連するタンパク質ではない。ある実施形態において、レベルが低下し得る内因性タンパク質は、表E2に列挙される機能的キーワード、または実質的に類似の機能的会合とは関連付けられない。ある実施形態において、レベルが低下し得る内因性タンパク質は、細胞代謝、ミトコンドリア機能、細胞構造、DNA複製、細胞分裂、チェックポイント阻害/通過、転写、翻訳、翻訳後修飾、タンパク質折り畳み、または熱ショック応答に関連するタンパク質ではない。
【0062】
レベルが低下し得る例示的な内因性タンパク質(および/または前記内因性タンパク質をコードする遺伝子)を表E5に列挙した。
【0063】
ある実施形態において、本明細書に開示される方法は、1つを超える内因性タンパク質のレベルを低下させることを含む。ある実施形態において、本明細書に開示される方法は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個、またはそれ以上(例えば、20個以上)の内因性タンパク質(および任意選択で、最大30個、29個、28個、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9つ、8つ、7つ、6つ、5つ、4つ、3つ、または2つの内因性タンパク質)のレベルを低下させることを含む。ある実施形態において、本明細書に開示される方法は、2つまたは3つの内因性タンパク質、例えば、表E6の組み合わせから選択される内因性タンパク質の組み合わせのレベルを低下させることを含む。ある実施形態において、本明細書において開示される方法は、2つまたは3つの内因性タンパク質、例えば、表E5に列挙されるものから選択される内因性タンパク質の組み合わせのレベルを低下させることを含む。
【0064】
内因性タンパク質のレベルを低下させるための方法
本開示は、部分的には、細胞、例えば、産生細胞における産物、例えば組換えポリペプチドの製造方法を対象とし、本方法は、細胞、例えば産生細胞における1つ以上の内因性タンパク質のレベルを低下させることを含む。ある実施形態において、細胞、例えば産生細胞における内因性タンパク質のレベルを低下させることは、内因性タンパク質をコードする遺伝子のコピーを除去する、例えばノックアウトすることを含む。ある実施形態では、細胞、例えば産生細胞における内因性タンパク質のレベルを低下させることは、細胞のゲノムから内因性タンパク質をコードする遺伝子のすべて(例えば、両方)のコピーを除去すること、例えばノックアウトすることを含む。ある実施形態において、細胞、例えば産生細胞における内因性タンパク質のレベルを低下させることは、内因性タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合された調節核酸配列、例えばプロモーターまたはエンハンサーを除去すること、例えば、ノックアウトすることを含む。ある実施形態において、細胞、例えば産生細胞における内因性タンパク質のレベルを低下させることは、内因性タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合された調節核酸配列、例えばプロモーターまたはエンハンサーのすべて(例えば、両方)のコピーを除去すること、例えばノックアウトすることを含む。
【0065】
ある実施形態において、例えばノックアウトを排除することは、内因性タンパク質をコードする遺伝子に欠失、置換、または挿入変異を導入すること、または内因性タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合された調節核酸配列、例えば、プロモーターまたはエンハンサーに導入することを含み、例えば、変異は内因性タンパク質の発現レベルを低下させる。ある実施形態では、例えば、ノックアウトを排除することは、内因性タンパク質をコードする遺伝子、または内因性タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合した調節核酸配列、例えばプロモーターまたはエンハンサーの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個、またはそれよりも多くの塩基対の欠失または挿入を導入することを含む。ある実施形態では、例えば、ノックアウトを排除することは、内因性タンパク質をコードする遺伝子または内因性タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に結合した調節核酸配列、例えば、プロモーターまたはエンハンサーの異なる塩基対に対して、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個、またはそれよりも多くの塩基対を置換すること(例えば、トランジションまたはトランスバージョン変異)を含む。
【0066】
例えば、内因性タンパク質をコードする遺伝子のリーディングフレームを破壊する挿入変異、または内因性タンパク質をコードする遺伝子の開始コドンを変化させる置換変異は、両方とも、内因性タンパク質のレベルを低下させる除去、例えばノックアウトの例であろう。さらなる例として、例えばノックアウトを排除することは、内因性タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターまたはプロモーターの一部を欠失させる様式で、マーカー(例えば、抗生物質耐性、補助栄養緩和、または蛍光マーカーコード遺伝子)の挿入を含んでよい。ある実施形態において、例えば、ノックアウトを排除することは、内因性タンパク質をコードする遺伝子のコピーから内因性タンパク質の産生を完全に失うことをもたらす。他の実施形態において、例えばノックアウトを排除することは、内因性タンパク質、例えば機能性内因性タンパク質のより低いレベルの産生をもたらす。他の実施形態では、例えば、ノックアウトを排除することは、切断された、機能が低い、非機能的、誤折り畳まれた、および/または分解しやすい内因性タンパク質の変異体の産生をもたらす。
【0067】
内因性タンパク質、または前記遺伝子に作用可能に連結された調節エレメントをコードする遺伝子のコピーを除去する、例えばノックアウトすることは、当技術分野で既知の任意の遺伝子編集システムによって達成され得る。例示的な遺伝子編集システムとして、クラスター化された調節間隔の短い回文反復(CRISPR)システム、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、および転写活性化因子様エフェクターベースヌクレアーゼ(TALEN)が挙げられる。ZFN、TALEN、およびCRISPRベースの方法は、例えば、Gajら、Trends Biotechnol.31.7(2013):397-405に記載され、遺伝子編集のCRISPR方法は、例えば、Guanら、遺伝子療法におけるCRISPR-Casシステムの適用に記載される。動物モデルにおける前臨床的進捗。DNA Repair 2016 July 30[印刷される前の電子出版];Zhengら、Precise gene deletion and replacement using the CRISPR/Cas9 system in human cells.BioTechniques,Vol.57,No.3,September 2014,pp.115-124。当業者は、細胞、例えば産生細胞におけるゲノムを編集する(例えば、遺伝子をノックアウトする)ためのこれらの選択肢および他の選択肢を認識するであろう。
【0068】
ある実施形態において、例えば、内因性タンパク質をコードする遺伝子のコピーまたは前記遺伝子に作動可能に連結された調節エレメントをノックアウトすることは、内因性タンパク質をコードする遺伝子または内因性タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に連結された調節核酸配列、例えばプロモーターまたはエンハンサーに特異的なRNA(例えば、gRNA、sgRNA、および/またはtracrRNA)と組み合わせて、CRISPR-Cas9分子、例えば、Cas9分子を使用することを含む。
【0069】
ある実施形態において、細胞、例えば産生細胞内の内因性タンパク質のレベルを低下させることは、細胞内の内因性タンパク質をコードするmRNA転写産物のレベルを低下させること、例えば、ノックダウンを含む。ある実施形態において、内因性タンパク質をコードするmRNA転写産物のレベルを低下、例えばノックダウンすることは、例えば、内因性タンパク質をコードする核酸、例えばmRNA、またはそれに作動可能に連結された調節核酸配列、例えばプロモーターもしくはエンハンサーに結合することができるsiRNAを使用することを含む。当業者は、siRNAを設計し、細胞に送達するためのツールおよび技術を認識するであろう。そのようなツールおよび/または技術には、以下、Dharmacon Horizon siDesignツール、InvivoGen siRNA Wizard、GenScript siRNA Construct Services、IDT Custom Dicer-Substrate siRNA、Sigma-Aldrich siRNA Design Service、またはwww.rnaiweb.com/RNAi/siRNA_Design/によって教示される方法が含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態において、内因性タンパク質をコードするmRNA転写産物のレベルを低下、例えばノックダウンすることは、細胞内の内因性タンパク質をコードするmRNA転写産物のレベルが少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100%低下することをもたらす。
【0070】
産物
本明細書に提供されるのは、細胞、細胞または細胞株、ならびに細胞、例えば産生細胞内の内因性タンパク質のレベルを低下させることによって、産物の高収率を産生するための方法、細胞または細胞株、ならびに/または産物の品質を改善するための組成物(例えば、産物、例えば、産生される組換えポリペプチドのレベルを増加させる)である。本明細書に記載の産物は、ポリペプチド、例えば組換えタンパク質、多量体タンパク質もしくは複合体、脂質封入粒子、例えば、ウイルス様粒子、小胞、もしくはエクソソーム、または他の分子を含む。一実施形態において、産物はポリペプチド、例えば組換えポリペプチドである。一実施形態において、産物はエクソソームである。例えば、組換えポリペプチドは、発現が困難なタンパク質、または複合体および/または非天然構造を有するタンパク質、例えば、次世代生物学的タンパク質、例えば、二重特異性抗体分子、融合タンパク質、またはグリコシル化タンパク質でよい。
【0071】
実施形態において、本明細書に記載の方法または組成物によって産生される細胞または細胞株は、医学的状態、障害または疾患の治療に有用な産物、例えば組換えポリペプチドを産生する。医学的状態、障害または疾患の例としては、代謝性疾患または障害(例えば、代謝酵素欠損症)、内分泌性障害(例えば、ホルモン欠損症)、止血不全、血栓症、造血障害、肺障害、胃腸障害、自己免疫疾患、免疫不全(例えば、免疫不全症)、不妊症、移植、癌、および感染性疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
実施形態において、産物は、外因性タンパク質、例えば細胞によって天然に発現されないタンパク質である。一実施形態において、タンパク質は1つの種由来であり、細胞は異なる種由来である。別の実施形態では、タンパク質は、非天然に存在するタンパク質である。
【0073】
他の実施形態において、産物は、細胞によって内因的に発現されるタンパク質である。一実施形態において、産物は、内因性または天然レベルで細胞によって内因性に発現されるタンパク質である。本明細書に記載の本方法および組成物は、内因性産物、例えば、細胞によって天然に産生される天然に存在する産物の産生および品質を増加させるために使用される。別の実施形態では、産物、例えば、タンパク質をコードする外因性核酸が、細胞に導入され、細胞によって発現される。別の実施形態では、細胞によって内因的に発現される産物の発現を増加させる外来性核酸が細胞に導入される。例として、外因性核酸は、細胞の内因性産物の発現を制御するプロモーターを活性化する配列を含む。
【0074】
組換え産物は、例えば、薬物スクリーニングに有用な、治療用産物または診断用産物でよい。治療用または診断用産物としては、抗体分子、例えば、抗体もしくは抗体断片、融合タンパク質、ホルモン、サイトカイン、成長因子、酵素、糖タンパク質、リポタンパク質、レポータータンパク質、治療用ペプチド、またはこれらのうちのいずれかの構造的および/もしくは機能的断片もしくはハイブリッドが挙げられるが、これらに限定されない。他の実施形態において、治療用または診断用産物は、合成ポリペプチドであり、例えば、ポリペプチド全体またはその一部は、任意の天然に存在するポリペプチド、例えば、上述の天然に存在するポリペプチドに由来しないか、または任意の配列もしくは構造的類似性を有する。
【0075】
一実施形態において、組換え産物は抗体分子である。一実施形態において、組換え産物は治療抗体分子である。別の実施形態では、組換え産物は、診断用抗体分子、例えば、画像診断技術または診断試験に有用なモノクローナル抗体である。
【0076】
本明細書で使用される抗体分子は、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子に由来するタンパク質またはポリペプチド配列である。一実施形態では、抗体分子は全長抗体または抗体断片である。抗体およびマルチフォーマットタンパク質は、ポリクローナルもしくはモノクローナル、複数もしくは一本鎖、またはインタクト免疫グロブリンでよく、天然源または組換え源に由来し得る。抗体は、免疫グロブリン分子の四量体でよい。一実施形態において、抗体はモノクローナル抗体である。抗体は、ヒト抗体またはヒト化抗体でよい。一実施形態において、抗体は、IgA、IgG、IgD、またはIgE抗体である。一実施形態において、抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4抗体である。
【0077】
「抗体断片」とは、インタクト抗体またはその組換え変異体の少なくとも1つの部分を指し、抗体断片の標的、例えば抗原への認識および特異的結合を付与するのに十分な抗原結合ドメイン、例えば、インタクト抗体の抗原決定可変領域を指す。抗体断片の例としては、限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv断片、scFv抗体断片、直鎖抗体、sdAb等の単一ドメイン抗体(VLまたはVHのいずれか)、ラクダ科VHHドメイン、ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体、例えば、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片、ならびに抗体の単離されたCDRまたは他のエピトープ結合断片が挙げられる。抗原結合断片はまた、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、ナノボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NARおよびビス-scFvに組み込むことができる(例えば、Hollinger and Hudson,Nature Biotechnology 23:1126-1136,2005を参照されたい)。抗原結合断片は、フィブロネクチンIII型(Fn3)等のポリペプチドに基づいて骨格に移植することもできる(フィブロネクチンポリペプチドミニボディを記載する米国特許第6,703,199号を参照されたい)。
【0078】
実施態様において、ポリペプチドは、例えば、ボトックス、ミオブロック、ニューロブロック、ディスポート(またはボツリヌス神経毒の他の血清型プ)、アルグルコシダーゼアルファ、ダプトマイシン、YH-16、コリオゴナドトロピンアルファ、フィルグラスチム、セトロレリックス、インターロイキン-2、アルデスロイキン、テセロイキン、デニロイキン・ディフティトックス、インターフェロンアルファ-n3(注射)、インターフェロンアルファ-nl、DL-8234、インターフェロン、サントリー(ガンマ-1a)、インターフェロンガンマ、チモシンアルファ1、タソネルミン、ジギファブ、ビペラタブ、エチタブ、クロファブ、ネシリチド、アバタセプト、アレファセプト、Rebif、エプトテルミナルファ、テリパラチド、カルシトニン、エタネルセプト、ヘモグロビン・グルタメル250(ウシ)、ドロトレコギンアルファ、コラゲナーゼ、カルペリチド、組換えヒト上皮成長因子、DWP401、ダルベポエチンアルファ、エポエチンオメガ、エポエチンベータ、エポエチンアルファ、デシルジン、レピルジン、ビバリルジン、ノナコグアルファ、モノニン、エプタコグアルファ(活性化)、組換え第VIII因子+VWF、リコンビナート、組換え第VIII因子、第VIII因子(組換え)、アルフマート、オクトコグアルファ、第VIII因子、パリフェルミン、インジキナーゼ、テネクテプラセ、アルテプラセ、パミテプラセ、レテプラセ、ナテプラセ、モンテプラセ、フォリトロピンアルファ、rFSH、hpFSH、ミカフンギン、ペグフィルグラスチム、レノグラスティム、ナルトグラスティム、セルモレリン、グルカゴン、エキセナチド、プラムリンチド、イニグルセラーゼ、ガルスルファーゼ、ロイコトロピン、モルグラモステイルン、トリプトレリン酢酸塩、ヒストレリン(Hydron)、デスロレリン、ヒストレリン、ナファレリン、ロイプロリデ(ATRIGEL)、ロイプロリデ(DUROS)、ゴセレリン、ユートロピン、ソマトロピン、メカセルミン、エンルファビルチド、Org-33408、インスリングラルギン、インスリングルリシン、インスリン(吸入)、インスリンリスプロ、インスリンデテルニル、インスリン(RapidMist)、メカセルミンリンファバート、アナキンラ、セルモロイキン、99mTc-アプシチド、ミエロピド、ベタセロン、グラチラメル酢酸塩、ゲポン、サルグラモスチム、オプレルベキン、ヒト白血球由来アルファインターフェロン、ビリベ、インスリン(組換え)、組換えヒトインスリン、インスリンアスパルト、メカセニン、ロフェロン-A、インターフェロンアルファ2、アルファフェロン、インターフェロンアルファコンー1、インターフェロンアルファ、アボネックス組換えヒト黄体化ホルモン、ドルナーゼアルファ、トラフェルミン、ジコノチド、タルチレリン、ジボテルミナルファ、アトシバン、ベカプレルミン、エプチフィバチド、ゼマイラ、CTC-111、シャンバック-B、オクトレオチド、ランレオチド、アンセスチリン、アガルシダーゼベータ、アガルシダーゼアルファ、ラロニダーゼ、プレザチド銅酢酸塩、ラスブリカーゼ、ラニビツマブ、アクティミューン、PEG-イントロン、トリコミン、組換えヒト甲状腺ホルモン(PTH)1-84、エポエチンデルタ、トランスジェニックアンチトロンビンIII、グランジトロピン、ビトラーゼ、組換えインスリン、インターフェロンアルファ、GEM-21S、バプレオチド、イデュルスルファーゼ、オムナパトリラート、組換え血清アルブミン、セルトリツマブペゴル、グルカリダーゼ、ヒト組換えC1エステラーゼ阻害剤、ラノテプラーゼ、組換えヒト成長ホルモン、エンフビルチド、VGV-1、インターフェロン(アルファ)、ルシナクタント、アビプタジル、イカチバント、エカルカンチド、オミガナン、オーログラブ、ペキシガナナ酢酸塩、ADI-PEG-20、LDI-200、デガレリックス、シントレデリンベスドトックス、ファブルド、MDX-1379、ISAtx-247、リラグルチド、テリパラチド、チファコギン、AA4500、T4N5リポソームローション、カツマキソマブ、DWP413、ART-123、クリサリン、デスモテプラーセ、アメジプラーセ、コルフォルリトロピナルファ、TH-9507、テデュグルチド、ダイアミド、DWP-412、成長ホルモン、組換えG-CSF、インスリン、インスリン(テクノスフィア)、インスリン(AERx)、RGN-303、DiaPep277、インターフェロンベータ、インターフェロンアルファ-n3、ベラタセプト、経皮インスリンパッチ、AMG-531、MBP-8298、キセレセプト、オペバカン、AIDSVAX、GV-1001、リンフォスキャン、ランピリナーゼ、キポキシサン、ルスプリチド、MP52、シプレウセル-T、CTP-37、インセギア、ビテスペン、ヒトトロンビン、トロンビン、TransMID、アルフィメプラーゼ、プリカーゼ、テルリプレシン、EUR-1008M、組換えFGF-I、BDM-E、ロチガプチデ、ETC-216、P-113,MBI-594AN、デュラマイシン、SCV-07、OPI-45、エンドスタチン、アンギオスタチン、ABT-510、ボーマン-バークインヒビター、XMP-629、99mTc-HYNIC-アネキシンV、カハラリドF、CTCE-9908、テベレリックス、オザレリックス、ロルニデプチン、BAY-504798、インターロイキン4、PRX-321、ペプスキャン、イボクタデキン、ラクトフェリン(rhlactoferrin)、TRU-015、IL-21、ATN-161、シレンジチド、アルブフェロン、ビファシックス、IRX-2、オメガインターフェロン、PCK-3145、CAP-232、パシレオチド、huN901-DMI、SB-249553、オンコバックス-CL、オンコバックス-P、BLP-25、デルバックス-16、MART-1、gp100、チロシナーゼ、ネミフィチド、rAAT、CGRP、ペグスネルセプト、チモシンベータ4、プリチデプシン、GTP-200、ラモプラニン、GRASPA、OBI-1、AC-100、サケカルシトニン(エリゲン)、クサモレリン、カプロモレリン、カルデバ、ベラフェルミン、131I-TM-601、KK-220、T-10、ウラリチド、デペレスタート、ヘマチド、クリサリン、rNAPc2、組換え第V111因子(PEG化リポソーム)、bFGF、PEG化組換えスタフィロキナーゼ、V-10153、ソノリシス プロライズ、ニューロバックス、CZEN-002、rGLP-1、BIM-51077、LY-548806、エキセナチド(制御された放出メディソルブ)、AVE-0010、GA-GCB、アボレリン、ACM-9604、リナクロチド酢酸塩(eacetate)、CETi-1、ホモスパン、VAL、超速効型インスリン(注射型、ビアデル)、インスリン(エリゲン)、組換えメチオニルヒトレプチン、ピトラキンラ、マルチキン、RG-1068、MM-093、NBI-6024、AT-001、PI-0824、Org-39141、Cpn10、ラクトフェリン、rEV-131、rEV-131、組換えヒトインスリン、RPI-78M、オプレベキン、CYT-99007 CTLA4-Ig、DTY-001、バラテグラスト、インターフェロンアルファ-n3、IRX-3、RDP-58、タウフェロン、胆汁酸塩促進性リパーゼ、メリスパーゼ、アラリネホスファターゼ、EP-2104R、メルノタン-II、ブレメラノチド、ATL-104、組換えヒトマイクロプラスミン、AX-200、SEMAX、ACV-1、Xen-2174、CJC-1008、ダイノルフィンA、SI-6603、LAB GHRH、AER-002、BGC-728、ALTU-135、組換えノイラミニダーゼ、Vacc-5q、Vacc-4x、Tatトキソイド、YSPSL、CHS-13340、PTH(1-34)(ノバサム)、オスタボリン-C、PTHアナログ、MBRI-93.02、MTB72F、MVA-Ag85A、FARA04、BA-210、組換えプレイグFIV、AG-702、OxSODrol、rBetV1、Der-p1/Der-p2/Der-p7、PR1ペプチド抗原、変異rasワクチン、HPV-16 E7リポペプチドワクチン、ラビリンス・イン、WT1-ペプチド、IDD-5、CDX-110、ペントリーズ、ノレリン、CytoFab、P-9808、VT-111、イクロカプチド、テルベルミン、ルピントリビル、レチクロセ、rGRF、HA、アルファガラクトシダーゼA、ACE-011、ALTU-140、CGX-1160、アンジオテンシン、D-4F、ETC-642、APP-018、rhMBL、SCV-07、DRF-7295、ABT-828、ErbB2-特異的免疫トキシン、DT3SSIL-3、TST-10088、PRO-1762、コンボトックス、コレシストキニン-B/ガストリン-受容体結合ペプチド、111In-hEGF、AE-37、トラスツズマブ-DM1、拮抗薬G、IL-12、PM-02734、IMP-321、rhIGF-BP3、BLX-883、CUV-1647、L-19バセドラ(based ra)、Re-188-P-2045、AMG-386、DC/1540/KLH、VX-001、AVE-9633、AC-9301、NY-ESO-1(ペプチド)、NA17.A2ペプチド、CBP-501、組換えイヒトラクトフェリン、FX-06、AP-214、WAP-8294A、ACP-HIP、SUN-11031、ペプチドYY[3-36]、FGLL、atacicept、BR3-Fc、BN-003、BA-058、ヒト副甲状腺ホルモン1-34、F-18-CCR1、AT-1100、JPD-003、PTH(7-34)(ノバサム)、デュラマイシン、CAB-2、CTCE-0214、グリコPEG化エリスロポイエチン、EPO-Fc、CNTO-528、AMG-114、JR-013、第XIII因子、アミノカンディン、PN-951、716155、SUN-E7001、TH-0318、BAY-73-7977、テベレリックス、EP-51216、hGH、OGP-I、シフビルチド、TV4710、ALG-889、Org-41259、rhCC10、F-991、チモペンチン、r(m)CRP、肝臓選択的インスリン、スバリン、L19-IL-2融合タンパク質、エラフィン、NMK-150、ALTU-139、EN-122004、rhTPO、トロンボポエチン受容体作動薬、AL-108、AL-208、神経成長因子拮抗藥、SLV-317、CGX-1007、INNO-105、テリパラチド(エリゲン)、GEM-OS1、AC-162352、PRX-302、LFn-p24融合体、EP-1043、gpE1、gpE2、MF-59、hPTH(1-34)、768974、SYN-101、PGN-0052、アビススクムニン、BIM-23190、マルチエピトープチロシナーゼペプチド、エンカスチム、APC-8024、GI-5005、ACC-001、TTS-CD3、血管を標的とするTNF、デスモプレシン、オネルセプト、およびTP-9201である。
【0079】
ある実施形態において、ポリペプチドは、アダリムマブ(ヒュミラ)、インフリキシマブ(レミケード(商標))、リツキシマブ(リツキサン(商標)/マブテラ(商標))エタネルセプト(ENBREL(商標))、ベバシズマブ(アバスチン(商標))、トラスツズマブ(ハーセプチン(商標))、ペグリルグラスチム(ニューラスタ(商標))、またはバイオシミラーおよびバイオベターを含む任意の他の好適なポリペプチドである。
【0080】
他の好適なポリペプチドは、以下および米国出願公開第2016/0097074号の表1に列挙されるものである。
【表1】
【0081】
実施形態において、ポリペプチドは、表2に示されるホルモン、血液凝固/凝固因子、サイトカイン/成長因子、抗体分子、融合タンパク質、タンパク質ワクチン、またはペプチドである。
【0082】
本明細書に記載の方法を使用して産生することができる例示的な組換え産物には、以下の表に提供されるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0083】
【0084】
実施形態において、タンパク質は、多重特異性タンパク質、例えば、表3に示される二重特異性抗体である。
【0085】
【0086】
実施形態において、産物は表4に列挙されるポリペプチドである。
【0087】
【0088】
ある実施形態において、ポリペプチドは癌細胞によって発現される抗原である。ある実施形態において、組換えポリペプチドまたは治療用ポリペプチドは腫瘍随伴抗原または腫瘍特異的抗原である。ある実施形態では、組換えまたは治療用ポリペプチドは、HER2、CD20、9-O-アセチル-GD3、βhCG、A33抗原、CA19-9マーカー、CA-125マーカー、カレチクリン、炭酸無水物酵素IX(MN/CA IX)、CCR5、CCR8、CD19、CD22、CD25、CD27、CD30、CD33、CD38、CD44v6、CD63、CD70、CC123、CD138、がん胚抗原(CEA;CD66e)、デスモグレリン4、E-カドヘリンネオエピトープ、エンドシアリン、エフリンA2(EphA2)、上皮成長因子受容体(EGFR)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、ErbB2、胎児アセチルコリン受容体、線維芽細胞活性化抗原(FAP)、フコシルGM1、GD2、GD3、GM2、ガングリオシドGD3、グロボH、糖タンパク質100、HER2/neu、HER3、HER4、インスリン様成長因子受容体1、ルイス-Y、LG、Ly-6、メラノーマ特異的コンドロイチン-硫酸プロテオグリカン(MCSCP)、メソセリン、MUCl、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5AC、MUC5B、MUC7、MUC16、ミュラー阻害物質(MIS)受容体II型、形質細胞抗原、ポリSA、PSCA、PSMA、音波ヘッジホッグ(SHH)、SAS、STEAP、sTn抗原、TNF-α前駆体、およびそれらの組み合わせから選択される。
【0089】
ある実施形態において、ポリペプチドは活性化受容体であり、2B4(CD244)、α4β1インテグリン、β2インテグリン、CD2、CD16、CD27、CD38、CD96、CDlOO、CD160、CD137、CEACAMl(CD66)、CRTAM、CSl(CD319)、DNAM-1(CD226)、GITR(TNFRSF18)、KIRの活性化形態、NKG2C、NKG2D、NKG2E、1つ以上の天然細胞傷害性受容体、NTB-A、PEN-5、およびこれらの組み合わせから選択され、任意選択的にβ2インテグリンはCD11a-CD18、CD11b-CD18、またはCD11c-CD18を含み、任意に、KIRの活性化形態はKIR2DSl、KIR2DS4、またはKIR-Sを含み、任意に天然細胞傷害性受容体はNKp30、NKp44、NKp46、またはNKp80を含む。
【0090】
ある実施形態において、ポリペプチドは阻害性受容体であり、KIR、ILT2/LIR-1/CD85j、KIR、KLRG1、LAIR-1、NKG2A、NKR-P1A、Siglec-3、Siglec-7、Siglec-9、およびそれらの組み合わせの阻害形態から選択され、任意選択的に、KIRの阻害形態はKIR2DL1、KIR2DL2、KIR2DL3、KIR3DL1、KIR3DL2、またはKIR-Lを含む。
【0091】
ある実施形態において、ポリペプチドは活性化受容体であり、かつCD3、CD2(LFA2、OX34)、CD5、CD27(TNFRSF7)、CD28、CD30(TNFRSF8)、CD40L、CD84(SLAMF5)、CD137(4-1BB)、CD226、CD229(Ly9、SLAMF3)、CD244(2B4、SLAMF4)、CD319(CRACC、BLAME)、CD352(Lyl08、NTBA、SLAMF6)、CRTAM(CD355)、DR3(TNFRSF25)、GITR(CD357)、HVEM(CD270)、ICOS、LIGHT、LTβR(TNFRSF3)、OX40(CD134)、NKG2D、SLAM(CD150、SLAMF1)、TCRα、TCRβ、TCRδγ、TIM1(HAVCR、KIM1)、およびこれらの組み合わせから選択される。
【0092】
ある実施形態において、ポリペプチドは阻害性受容体であり、PD-1(CD279)、2B4(CD244、SLAMF4)、B71(CD80)、B7Hl(CD274、PD-L1)、BTLA(CD272)、CD160(BY55、NK28)、CD352(Ly108、NTBA、SLAMF6)、CD358(DR6)、CTLA-4(CD152)、LAG3、LAIR1、PD-1H(VISTA)、TIGIT(VSIG9、VSTM3)、TIM2(TIMD2)、TIM3(HAVCR2、KIM3)、およびこれらの組み合わせから選択される。
【0093】
他の例示的なタンパク質としては、Leaderら、“Protein therapeutics:a summary and pharmacological classification”,Nature Reviews Drug Discovery,2008,7:21-39(参照により本明細書に組み込まれる)の表1~10に記載のいずれかのタンパク質、または本明細書に記載の組換えポリペプチドの任意のコンジュゲート、バリアント、類似体、もしくは機能的断片を含むが、これらに限定されない。
【0094】
他の組換えタンパク質産物としては、非抗体骨格または代替タンパク質骨格、例えばDARPin、アフィボディ、およびアドネクチンが挙げられるが、これらに限定されない。かかる非抗体骨格または代替タンパク質骨格は、1つまたは2つ以上、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つ以上の異なる標的または抗原を認識するか、またはそれに結合するように操作することができる。
【0095】
一実施形態において、本明細書に記載の産物、例えばポリペプチド、例えば組換えポリペプチドをコードする核酸配列を含むベクターは、選択マーカーをコードする核酸配列をさらに含む。一実施形態において、選択マーカーは、グルタミン合成酵素(GS)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、例えば、メトトレキサート(MTX)に対する耐性を付与する酵素、プロリン、または抗生物質マーカー、例えば、ヒグロマイシン、ネオマイシン(G418)、ゼオシン、ピューロマイシン、またはブラスチジン等の抗生物質に対する耐性を付与する酵素を含む。別の実施形態では、選択マーカーは、Selexis選択システム(例えば、Selexis SAから市販されているSUREtechnology Platform(商標)およびSelexis Genetic Elements(商標))またはCatalant Biologics GPEx(登録商標)細胞株開発技術を含むか、またはそれと互換性がある。
【0096】
一実施形態において、本明細書に記載の組換え産物をコードする核酸配列を含むベクターは、本明細書に記載の組換え産物をコードする核酸を含む、細胞または細胞(複数可)の同定に有用な選択マーカーを含む。別の実施形態では、選択マーカーは、本明細書に記載されるように、組換え産物をコードする核酸配列のゲノムへの組み込みを含む1つ以上の細胞を同定するのに有用である。組換えタンパク質をコードする核酸配列を組み込んだ1つ以上の細胞または細胞(複数可)の同定は、産物を安定して発現する細胞または細胞株の選択および操作に有用であり得る。
【0097】
一実施形態では、産物は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、または50個以下のアミノ酸残基で、表1~4とは異なる。別の実施形態では、産物は、そのアミノ酸残基の1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、または15%以下で、表2または3とは異なる。パーセント同一性を決定する方法は、上記で考察される。
【0098】
他の組換え産物としては、非抗体骨格または代替タンパク質骨格、例えばDARPin、アフィボディ、およびアドネクチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
他の例示的な治療用または診断用タンパク質としては、Leaderら、“Protein therapeutics:a summary and pharmacological classification”,Nature Reviews Drug Discovery,2008,7:21-39の表1~10に記載のタンパク質、およびWalsh,“Biopharmaceutical benchmarks 2014”,Nature Biotechnology,2014,32:992-1000に記載のタンパク質(それぞれ参照により本明細書に組み込まれる)、または本明細書に記載される組換えポリペプチドの任意のコンジュゲート、バリアント、アナログ、もしくは機能的断片を含むが、これらに限定されない。
【0100】
産生適用
本明細書に開示される方法および細胞または細胞株は、様々な産物を産生するために、様々な細胞株を評価するために、またはバイオリアクターもしくは処理容器もしくはタンクで使用するために、またはより一般的には任意の供給源で使用するために、様々な細胞株の産生を評価するために使用することができる。本明細書に記載されるデバイス、施設、および方法は、原核細胞株および/または真核細胞株を含む任意の所望の細胞株を培養するのに好適である。さらに、実施形態では、デバイス、施設、および方法は、懸濁細胞またはアンカージ依存性(付着性)細胞の培養に好適であり、ポリペプチド産物または細胞、ならびに/または細胞療法および/またはウイルス療法で使用されるものなどの医薬品および生薬製品の産生のために構成される産生動作に好適である。
【0101】
言及されるように、実施形態では、デバイス、施設、および方法は、真核細胞、例えば、大規模に真核細胞によって合成される、哺乳類細胞もしくは低級真核細胞、例えば、酵母細胞もしくは糸状真菌細胞、または原核細胞、例えば、グラム陽性もしくはグラム陰性細胞、および/または真核細胞もしくは原核細胞の産物、例えば、タンパク質、ペプチド、抗生物質、アミノ酸の産生を可能にする。本明細書に別段の記載がない限り、デバイス、施設、および方法は、ベンチスケール、パイロットスケール、および完全生産スケール容量を含むが、これらに限定されない任意の所望の容量または生産容量を含むことができる。
【0102】
さらに、本明細書に別段の定めがない限り、デバイス、設備、および方法は、攪拌タンク、エアリフト、繊維、マイクロファイバー、中空繊維、セラミックマトリックス、流動床、固定床、および/またはスプートベッドバイオリアクターを含むがこれらに限定されない、任意の好適な反応器(複数可)を含むことができる。本明細書で使用される場合、「反応器」または「バイオリアクター」は、発酵器もしくは発酵ユニット、または任意の他の反応容器を含むことができ、用語「反応器」および「バイオリアクター」は、「発酵器」と互換的に使用される。例えば、いくつかの態様では、バイオリアクターユニットは、栄養素および/または炭素源の供給、好適なガス(例えば、酸素)の注入、発酵または細胞培養培地の入口および出口の流れ、ガスおよび液体相の分離、温度の維持、酸素およびCO2レベルの維持、pHレベルの維持、攪拌(例えば、攪拌)、および/または洗浄/滅菌のうちの1つ以上、またはすべてを実行することができる。発酵ユニットなどの例示的な反応器ユニットは、ユニット内に複数の反応器を含んでよく、例えば、ユニットは、各ユニット内に1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、60個、70個、80個、90個、または100個以上のバイオリアクターを有することができ、および/または施設内に単一または複数の反応器を有する複数のユニットを含んでよい。様々な実施形態において、バイオリアクターは、バッチ、半供給バッチ、供給バッチ、灌流、および/または連続発酵プロセスに好適であり得る。任意の好適な反応器直径を使用することができる。実施形態では、バイオリアクターは、約100mL~約50,000Lの体積を有し得る。非限定的な例としては、100mL、250mL、500mL、750mL、1リットル、2リットル、3リットル、4リットル、5リットル、6リットル、7リットル、8リットル、9リットル、10リットル、15リットル、20リットル、25リットル、30リットル、40リットル、50リットル、60リットル、70リットル、80リットル、90リットル、100リットル、150リットル、200リットル、250リットル、300リットル、350リットル、400リットル、450リットル、500リットル、550リットル、600リットル、650リットル、700リットル、750リットル、800リットル、850リットル、900リットル、950リットル、1000リットル、1500リットル、2000リットル、2500リットル、3000リットル、3500リットル、4000リットル、4500リットル、5000リットル、6000リットル、7000リットル、8000リットル、9000リットル、10,000リットル、15,000リットル、20,000リットル、および/または50,000リットルの体積である。さらに、好適な反応器は、マルチユース、単回使用、ディスポーザブル、または非ディスポーザブルでよく、ステンレス鋼(例えば、316Lまたは任意の他の好適なステンレス鋼)ならびにインコネル、プラスチック、および/またはガラスなどの金属合金を含む任意の好適な材料から形成され得る。ある実施形態において、好適な反応器は円形、例えば円筒形でよい。ある実施形態において、好適な反応器は正方形、例えば長方形でよい。正方形反応器は、場合によっては、使用の容易さ(例えば、当業者による装填およびセットアップ)、反応器内容物のより大きな混合および均一性、ならびにより低い床面積等の丸型反応器よりも利点を提供し得る。
【0103】
実施形態において、および本明細書に別段の定めがない限り、調製物を作製する方法と共に使用するための本明細書に記載されるデバイス、施設、および方法は、任意の適切なユニット操作および/または別段の定めがない設備、例えば、そのような産物の分離、精製、および分離のための操作および/または設備も含むことができる。任意の適切な設備および環境、例えば、従来のスティック建設設備、モジュラー設備、移動設備および仮設設備、または任意の他の適切な建設、設備、および/またはレイアウトを使用することができる。例えば、ある実施形態では、モジュラークリーンルームを使用することができる。加えて、特に明記しない限り、本明細書に記載されるデバイス、システム、および方法は、単一の場所または施設に収容および/または実行され得るか、あるいは、別個のまたは複数の場所および/または施設に収容および/または実行され得る。
【0104】
参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる非限定的な例として、限定するものではないが、米国公開第2013/0280797号、同第2012/0077429号、同第2011/0280797号、同第2009/0305626号、ならびに米国特許第8,298,054号、同第7,629,167号、および同第5,656,491号は、好適であり得る例示的な施設、設備、および/またはシステムを記載する。
【0105】
バイオリアクターの設定と条件
一態様において、本開示のバイオリアクターまたは本開示の方法によって利用されるバイオリアクターは、単回使用バイオリアクターである。
【0106】
単回使用バイオリアクターは、バイオプロセス容器、シェル、少なくとも1つの攪拌器、少なくとも1つのスパーガ、スパーガ(複数可)および頭部空間オーバーレイのための少なくとも1つのガスフィルタ入口ポート、少なくとも1つの充填ポート、少なくとも1つの採取ポート、少なくとも1つの試料ポート、および少なくとも1つのプローブを含んでもよい。
【0107】
一実施形態において、本開示は、バイオプロセス容器を含むバイオリアクターを対象とする。バイオプロセス容器は、液体不透過性および可撓性形状適合材料から作製される。例えば、バイオプロセス容器は、多層フィルム等の可撓性フィルムから作製することができる。一実施形態において、例えば、フィルムは、親水性表面を形成するように改変された低密度ポリエチレン等のポリエチレンポリマーからなる。親水性表面は、バイオリアクター内の細胞培養物と接触するためのものであり、湿潤性を改善する。一実施形態において、ポリエチレンポリマーは、照射、光もしくは血漿誘導、または酸化に供されることによって修飾される。
【0108】
バイオプロセスコンテナは、その間に上部、下部、および少なくとも1つの側壁を有することができる。バイオプロセスチャンバは、培養培地を受容するための中空の筐体を画定することができる。中空筐体は、100mL、250mL、500mL、750mL、1リットル、2リットル、3リットル、4リットル、5リットル、6リットル、7リットル、8リットル、9リットル、10リットル、15リットル、20リットル、25リットル、30リットル、40リットル、50リットル、60リットル、70リットル、80リットル、90リットル、100リットル、150リットル、200リットル、250リットル、300リットル、350リットル、400リットル、450リットル、500リットル、550リットル、600リットル、650リットル、700リットル、750リットル、800リットル、850リットル、900リットル、950リットル、1000リットル、1500リットル、2000リットル、2500リットル、3000リットル、3500リットル、4000リットル、4500リットル、5000リットル、6000リットル、7000リットル、8000リットル、9000リットル、10,000リットル、15,000リットル、20,000リットル、および/または50,000リットルなどの任意の好適な体積を有することができる。
【0109】
バイオリアクターは、バイオプロセス容器の中空エンクロージャ内に材料を供給するための少なくとも1つの入口ポートを含んでよい。少なくとも1つの攪拌器に結合された回転可能なシャフトを備える混合デバイスは、バイオプロセスコンテナの中空エンクロージャ内に延びることができる。一実施形態において、回転可能シャフトは折り畳み可能である。例えば、回転可能なシャフトは、折り畳み可能または回転可能なシャフトに向かって折り畳める親水性ポリマー材料から作製された少なくとも1つのインペラを含んでよい。
【0110】
バイオリアクターはまた、長手方向にバイオプロセスコンテナの側壁に隣接して延在するように構成された少なくとも1つのバッフルを含んでよい。バッフルは、混合デバイスによる培養培地の混合中に中空筐体内の流体流に影響を与えるのに十分な量で側壁から半径方向に内側に延びる形状を有することができる。バッフルは、折り畳み可能かつ/または折り畳み可能である。一実施形態において、例えば、バッフルは、バッフルを膨張および収縮させることができるようにする膨張可能な流体膀胱を画定することができる。バッフルは、バッフルが可撓性形状形成材料に形成されることを意味するバイオプロセスコンテナと一体であることができる。代替として、バッフルは、バイオプロセスコンテナから分離することができる。バッフルは、中空エンクロージャの内側に配置するように構成することができ、または中空エンクロージャの外側に配置することができる。中空筐体の外側に配置すると、バイオプロセスコンテナの側壁はバッフルの形状の周囲に適合する。例えば、一実施形態において、バッフルは、外側金属シェルに取り外し可能に取り付けることができる。バイオプロセスコンテナは、バッフルの形状の周囲に適合するために金属シェルに配置することができる。バイオリアクターは、一実施形態において、バイオプロセスコンテナの中空エンクロージャの周囲に間隔を置かれる約2~約6個のバッフルを含むことができる。
【0111】
一実施形態において、バイオプロセス容器は直径を有し、1つ以上のバッフルは、バイオプロセス容器の直径の約5%~約15%等の約3%~約20%の距離を半径方向内側に延びる。
【0112】
バイオリアクターは、少なくとも1つのスパーガをさらに含み得る。スパーガは、例えば、長手方向部分および横方向部分を有するガスチューブを備えるバラストスパーガを含んでもよい。長手方向部分は、バイオプロセスコンテナの中空エンクロージャ内に垂直に延在することができる。他方では、横方向部分は、攪拌器の下の長手方向部分の端部に位置することができる。横方向部分は、バイオプロセス容器内に含まれる培養培地にガスを放出するための複数の穴を画定することができる。一実施形態において、複数の穴が穿孔される。横方向部分は、任意の好適な形状を有することができる。一実施形態において、横方向部分は、シャフトを安定化するために混合デバイスの回転可能シャフトと係合するように構成され得る。回転可能なシャフトは、横方向部分を通して延在してもよく、または横方向部分に形成されたシャフト受容部材内に収容されてもよい。
【0113】
一実施形態において、バイオリアクターは、第1の表面下スパーガおよび第2の表面上スパーガを含む。地下スパーガ内の複数の穴は、地上スパーガ上の複数の穴よりも大きくても小さくてもよい。一実施形態において、複数の穴が穿孔される。
【0114】
一実施形態において、バイオリアクターは、バイオプロセス容器内に流体を供給するために中空エンクロージャ内に延びる少なくとも1つの供給ラインを含むことができる。送りラインは、攪拌器に隣接して位置決めされた表面下流体出口を含むことができる。流体出口は、流体が流体出口から流出することのみを可能にし、逆方向に流体が流れることを防止する流体制御デバイスと関連付けることができる。例えば、流体制御デバイスは、一方向バルブを含んでもよい。
【0115】
別の実施形態では、バイオリアクターは、バイオプロセス容器の上部に位置決めされた送りラインを含むことができる。送りラインは、バイオプロセス容器に常駐する培養培地の体積の上に配置された超表面流体放電を含むことができる。超表面流体放出は、流体放出を流れる流体がバイオプロセス容器内に含まれる培養培地と直接接触するように位置決めされ得る。一実施形態において、攪拌器は、回転されるときに円周を形成することができ、送りラインの超表面流体放電は、流体放電を通る流体が円周内の培養培地に接触するように攪拌器の円周の上に配置することができる。
【0116】
バイオリアクターは、中空筐体内に含まれる培養培地の質量を示すために、ロードセルと作動可能に会合して配置することができる。バイオプロセス容器の底部は、排水を容易にするためのドーム形状を有することができる。例えば、バイオプロセス容器は、バイオプロセス容器の底部に位置するドレインラインを含むことができる。流体収集装置は、バイオプロセス容器の中空エンクロージャとドレインラインとの間に位置決めされ得る。流体収集装置は、バイオプロセス容器からドレインラインへの流体の渦流を誘導するように構成された形状を有することができる。一実施形態において、ドレインラインは、中空エンクロージャの容積に比例する断面積を有する。例えば、例示的な目的のために、ドレインラインは、中空エンクロージャの体積1リットル当たり約0.4mm2~約0.6mm2など、約0.3mm2~約0.7mm2の断面積を有することができる。
【0117】
一実施形態において、バイオプロセス容器は、バイオプロセス容器に流体を供給するための複数の供給ラインに接続するための複数のポートを含むことができる。各ポートおよび対応する供給ラインは、ユーザが供給ラインを対応するポートに接続するのを支援するためのマッチングインジケータを含むことができる。マッチングインジケータは、例えば、各ポートおよび対応する供給ラインが色分けされるように色を含み得る。マッチングインジケータは、送り線および任意の対応するポート、ならびにスパーガおよび任意の対応するコネクタに適用することもできる。
【0118】
一実施形態において、バイオプロセス容器は、ユニバーサルコネクタを含むポートを含むことができる。ポートは、第1の端部と第2の端部とを有することができる。第1の端部は、それぞれの供給ラインへの再接続可能な取り付け部を形成するためのものでよい。各供給ラインは、対応するポートから上流に配置された流体フィルタを含むことができる。
【0119】
本開示はまた、バイオリアクターシステムを対象とする。バイオリアクターシステムは、液体不透過性および可撓性形状適合材料から作製されたバイオプロセスコンテナを含むことができる。バイオプロセスコンテナは、その間に上部、下部、および少なくとも1つの側壁を有することができる。バイオプロセスチャンバは、培養培地を受容するための中空の筐体を画定することができる。バイオプロセスコンテナはまた、中空エンクロージャに材料を供給するための複数の入口ポートを含むことができる。ドレインラインは、流体を排出するためにバイオプロセスコンテナの下部に位置決めすることができる。混合デバイスは、バイオプロセスコンテナの中空エンクロージャ内に延びることができ、少なくとも1つの攪拌器に結合された回転可能なシャフトを含むことができる。
【0120】
バイオリアクターシステムは、中空エンクロージャ内の少なくとも1つのパラメータを監視するために、バイオプロセスコンテナと作動可能に関連する少なくとも1つのセンサをさらに含んでよい。少なくとも1つのセンサは、pHセンサ、溶解二酸化炭素センサ、溶解酸素センサ、酸化還元センサ、ロードセル、温度センサ、またはタコメータを含むことができる。コントローラは、少なくとも1つのセンサと通信して配置され得る。コントローラは、少なくとも1つのセンサから情報を受信し、情報に基づいて、中空エンクロージャ内に含まれる培養媒体の少なくとも1つのパラメータを予め設定された制限内に維持するために、流体供給からバイオプロセスコンテナの中空エンクロージャへの流体の流量を変化させるために流体供給を制御するように構成され得る。
【0121】
例えば、一実施形態において、バイオリアクターシステムは、バイオプロセス容器と流体連通する二酸化炭素ガス供給部、およびバイオプロセス容器とも流体連通する液体アルカリ供給部を含むことができる。少なくとも1つのセンサは、pHセンサを含むことができ、コントローラは、pHを選択的に低下させるために二酸化炭素ガス供給からの二酸化炭素ガスの量を添加することによって、またはpHを選択的に増加させるために液体アルカリ供給からのアルカリの量を添加することによって、事前に設定された限界内で培養培地のpHレベルを調節するように構成され得る。一実施形態において、システムは、コントローラと通信する第1のpHセンサおよび第2のpHセンサの両方を含むことができる。
【0122】
なお別の実施形態では、バイオリアクターシステムは酸素ガス供給を含むことができ、少なくとも1つのセンサは溶解酸素センサを含むことができる。コントローラは、溶存酸素センサから受信した情報に基づいて、酸素ガス供給から培養培地に酸素ガスの量を定期的に添加することによって、所定の制限内で培養培地内の溶存酸素レベルを調節することができる。
【0123】
さらに別の実施形態では、バイオリアクターシステムは、二酸化炭素ガス供給を含み得、少なくとも1つのセンサは溶解した二酸化炭素センサを含む。コントローラは、溶解二酸化炭素センサから受信した情報に基づいて、二酸化炭素ガス供給から培養培地に定期的に二酸化炭素ガスの量を添加することによって、事前に設定された制限内で培養培地内の溶解二酸化炭素レベルを調節するように構成され得る。
【0124】
さらに別の実施形態では、バイオリアクターシステムは、バイオプロセスコンテナを取り囲むサーマルジャケットを含むことができる。熱ジャケットは、加熱された流体または冷却された流体のうちの少なくとも1つと流体連通することができる。バイオリアクターシステムは、バイオプロセスコンテナ内に含まれる培養培地の温度を感知するための温度センサをさらに含むことができる。温度センサは、コントローラと通信することができる。コントローラは、温度センサから情報を受信し、情報に基づいて、予め設定された温度制限内で培養培地を維持するために、バイオプロセスコンテナに含まれる培養培地の温度を増加または減少させるために、熱ジャケット内への流体の流れを制御するように構成することができる。
【0125】
別の実施形態では、バイオリアクターシステムは、少なくとも1つの攪拌器に結合された回転軸の回転速度を監視するためのタコメータをさらに含むことができる。タコメータは、コントローラと通信することができる。コントローラは、シャフトを回転させるモータと通信することができる。コントローラは、タコメータから受信した情報に基づいて、シャフトを所定の速度で回転させる様式でモータを制御するように構成することができる。
【0126】
コントローラは、1つ以上のマイクロプロセッサを備え得る。
【0127】
一実施形態において、コントローラは、バイオリアクター内の複数のパラメータを制御するために、複数のセンサから情報を受信するように構成され得る。
【0128】
一実施形態において、上述のセンサのうちの1つ以上は、バイオプロセス容器に組み込まれることができ、バイオプロセス容器と一緒に使い捨てでもよい。
【0129】
本開示はまた、液体不透過性および可撓性形状適合材料から作製されたバイオプロセスコンテナを含むバイオリアクターを対象とする。バイオプロセスコンテナは、その間に上部、下部、および少なくとも1つの側壁を有することができる。バイオプロセスチャンバは、培養培地を受容するための中空の筐体を画定することができる。少なくとも1つの供給ラインは、流体をバイオプロセス容器に供給するために中空エンクロージャ内に延びることができる。
【0130】
一実施形態において、送りラインは、攪拌器に隣接して位置決めされた表面下流体出口を含む。流体出口は、流体が流体出口から流出することのみを可能にし、逆方向に流体が流れることを防止する流体制御デバイスと関連付けることができる。
【0131】
代替の実施形態において、送りラインは、バイオプロセス容器内に存在する培養培地の体積の上に配置された超表面流体放電を含むことができる。超表面流体放出は、流体放出を流れる流体が側壁に接触することなくバイオプロセス容器内に含まれる培養培地と直接接触するように位置決めされ得る。
【0132】
一実施形態において、バイオリアクターは、表面下流体出口を含む第1の供給ラインと、表面上流体放電を含む第2の供給ラインとを含むことができる。一実施形態において、バイオリアクターは、スーパー表面流体放電を有する約2~約3本の供給ライン等の約1~約5本の供給ラインを含有することができる。
【0133】
なお別の実施形態では、本開示は、単回使用バイオリアクターの製造方法を対象とする。方法は、液体不透過性および可撓性形状適合材料からバイオプロセスコンテナを構築するステップを含む。上部、下部、およびその間の少なくとも1つの側壁を有する、バイオプロセスコンテナ。バイオプロセスチャンバは、培養培地を受容するための中空筐体を画定する。中空エンクロージャは、約1~250ミリリットル、250ミリリットル~50リットル、50~800リットル、または800~20万リットルの体積を有することができる。バイオプロセスコンテナは、バイオプロセスコンテナの中空エンクロージャに材料を供給するための複数の入口ポートを含む。各入口ポートには直径がある。
【0134】
混合装置が中空筐体に挿入される。混合装置は、少なくとも1つの攪拌器に結合された回転可能なシャフトを備える。少なくとも1つのスパーガもまた、バイオプロセスコンテナの中空エンクロージャに挿入される。スパーガは、長手方向部分および横方向部分を有するガスチューブを備える。長手方向部分は、中空エンクロージャ内に垂直に延在する。横方向部分は、攪拌器の下の長手方向部分の端部に位置する。横方向部分は、バイオプロセス容器内に含まれる培養培地にガスを放出するための複数の穴を画定する。複数の穴は直径を有する。
【0135】
ドレインラインは、バイオプロセス容器の底部に接続されている。排水ラインは断面積を有する。
【0136】
本開示によれば、入口ポートの直径、スパーガ上の複数の穴の直径、およびドレインラインの断面積は、中空エンクロージャの容積に比例する。ドレインラインは、例えば、中空エンクロージャの体積1リットル当たり約0.3mm2~約0.7mm2の断面積を有することができる。
【0137】
本開示はまた、液体不透過性および可撓性形状適合材料から作製されたバイオプロセスコンテナを含むバイオリアクターを対象とする。バイオプロセスチャンバは、培養培地を受容するための中空エンクロージャを画定することができ、少なくとも1つの入口ポートを含み得る。複数の攪拌器に結合された回転可能なシャフトを含む混合デバイスは、バイオプロセス容器の中空筐体内に延びることができる。
【0138】
本開示によれば、バイオリアクターは、バイオプロセスコンテナの中空エンクロージャと流体連通する細胞保持チャンバをさらに含むことができる。濾液出口は、細胞保持チャンバと流体連通して配置することができる。濾液出口は、液体に対して透過性であるが、培養培地に含まれる生物学的材料に対して不透過性であるバイオフィルタを含む。濾液出口は、細胞保持チャンバから液体を連続的または定期的に除去するためのものである。フローレギュレータは、灌流プロセスを実施するために、バイオプロセスコンテナの中空エンクロージャと細胞保持チャンバとの間の培養培地の流れを代替するように構成される。
【0139】
フローレギュレータは、例えば、加圧ガス源および真空源と連通することができる。フローレギュレータは、代替的に、バイオプロセス容器の中空エンクロージャと細胞保持チャンバとの間で流体を前後にリサイクルするために、細胞保持チャンバに含まれる流体に真空または気体圧力を印加するように構成され得る。
【0140】
一実施形態において、フローレギュレータは、細胞保持チャンバに含まれる流体に圧力を加えることと吸引力を加えることとの間で交互に行う往復運動ダイヤフラムを含むことができる。
【0141】
本開示はまた、液体不透過性および可撓性形状適合材料から作製されたバイオプロセスコンテナを含むバイオリアクターを対象とする。バイオプロセス容器は、培養培地を受容するための中空の筐体を画定する。少なくとも1つの攪拌器に結合された回転可能なシャフトを備える混合デバイスは、バイオプロセスコンテナの中空エンクロージャ内に延びることができる。本開示によれば、攪拌器は、回転シャフト上に折り畳み可能である。例えば、攪拌器は、少なくとも1つのブレード要素を含むインペラを含むことができる。ブレード要素は、回転可能なシャフトに向かって折り畳むことができる。一実施形態において、回転可能シャフトは、第1のインペラおよび第2のインペラに連結され、両方のインペラは、折り畳み可能な少なくとも1つの羽根要素を含むことができる。保持リングは、シャフト上に位置決めすることができる。保持リングは、混合中に攪拌器を直立位置に、または折り畳まれたおよび折り畳まれた位置にそれぞれ保持するための攪拌器係合位置および攪拌器脱着位置を含んでよい。
【0142】
一実施形態において、回転可能シャフトは、シャフトスリーブに囲まれた金属補強ロッドを含む。ステンレス製の金属製補強棒は、複数の部品を一緒に取り付けることができる。補強ロッドの上部は、モータを磁気的に係合するための磁気部材を含むことができる。シャフトスリーブは、ポリマー材料から構成することができる。シャフト上の攪拌器は、親水性ポリマー等の高分子材料からも作製することができる。例えば、シャフトスリーブおよび攪拌器は、照射、写真もしくはプラズマ誘導、または酸化を受けることによって改変されたポリエチレンポリマーを含むことができる。
【0143】
一実施形態において、本開示による単回使用バイオリアクターシステムは、単回使用細胞培養バイオプロセスコンテナ(「SUB」)、動作中にサブが保持される再利用可能なシェル、ならびにサブならびに関連するサブシステムおよびプロセスの動作を制御するコントローラを含む。関連するサブシステムは、攪拌システム、バッフルシステム、スパーガシステム、供給システム、採取システム、監視システム、制御システム(複数可)、および充填システムを含む。
【0144】
一実施形態において、細胞培養接触面およびプロセス流体接触面のそれぞれは、好ましくは動物由来成分を含まない。
【0145】
本開示の一態様によれば、単回使用バイオリアクターが提供される。単回使用バイオリアクターは、バイオプロセス容器、シェル、少なくとも1つの攪拌器、少なくとも1つのスパーガ、スパーガ(複数可)および頭部空間オーバーレイのための少なくとも1つのガスフィルタ入口ポート、少なくとも1つの充填ポート、少なくとも1つの採取ポート、少なくとも1つの試料ポート、および少なくとも1つのプローブを含んでもよい。
【0146】
本開示の単回使用バイオリアクターも、単回使用バイオリアクター(SUB)システムと共に使用し得る。本システムは、単回使用および使い捨て用の可撓性バイオリアクターバイオリプロセスコンテナ、可撓性バイオリアクターバイオリプロセスコンテナを保持するように構成されたSUBシェル、攪拌器、スパージャ、複数のポート、ならびにSUBシステムと関連付けられた複数のパラメータを制御するように構成された少なくとも1つのコントローラを含み得、その結果SUBシステムは、同様のサイズのステンレス鋼バイオリアクターで産生することができるバイオ材料に対応するバイオ材料を産生する。
【0147】
本開示によれば、回転可能なシャフトは、上部インペラおよび下部インペラに結合することができる。上部インペラおよび下部インペラの両方がポリマー材料から作製され得る。例えば、一実施形態において、インペラは3D印刷されてもよい。上部インペラおよび下部インペラは、両方とも親水性表面を画定することができる。例えば、インペラを形成するために使用されるポリマー材料は、親水性ポリマーを含むことができ、または表面を親水性にするように表面改変されたポリマーを含むことができる。
【0148】
一実施形態において、例えば、上部インペラおよび下部インペラは、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィンポリマーから作製される。一実施形態において、低密度ポリエチレンを使用することができる。低密度ポリエチレンは、照射、光もしくはプラズマ誘導、または酸化を受けて親水性表面を形成することによって修飾され得る。
【0149】
上部インペラは、ヒドロホイルインペラを含むことができる。他方では、底部インペラは、4つのピッチブレードされた高固体インペラを含むことができる。インペラ対タンクの直径比は、約0.35~約0.55、例えば、約0.44~約0.46でよい。上部インペラおよび下部インペラは、約0.1~約0.9の電力数(Np)を有することができ、約0.4~約0.9の流量数(Nq)を有することができる。
【0150】
ある実施形態において、本開示のバイオリアクターは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第9,670,446号に記載されるバイオリアクターである。ある実施形態において、本開示のバイオリアクターは、米国特許第9,670,446号に記載されるバイオリアクターの一部または特徴を含む。
【0151】
一実施形態において、バイオリアクターを採取容器、例えば採取容器に作動可能に結合させることができる。採取容器は、例えば、培養物の適切な酸素化を確実にするために、培養物とガスとを(例えば、培養物を通気するために)混合する手段を含んでもよい。一実施形態では、採取容器は、採取容器内に、例えばバイオリアクターから堆積された上清と、ガス、例えば、空気、酸素、または空気と酸素の混合物を含む頭部空間とを含む。一実施形態では、採取容器は表面通気を使用して、培養上清を頭部空間ガス、例えば、空気または酸素、または空気と酸素ガスの混合物と酸素化する。表面通気は、Jチューブ入口ポートから採取容器壁を下り、頭部空間と接触した上清液表面から上清をカスケードまたは流すことを伴う。ある実施形態において、移動またはカスケードは、培養物の酸素化レベルの増加をもたらす。
【0152】
採取容器は、少なくとも1つのミキサー、頭部空間オーバーレイのための少なくとも1つのガスフィルタ入口ポート、容器壁に向けられた内部Jチューブを有する少なくとも1つの充填ポート、少なくとも1つの採取ポート、少なくとも1つの試料ポート、少なくとも1つの温度プローブ、少なくとも1つの酸化還元プローブ、少なくとも1つのDOTプローブ、および少なくとも1つのpHプローブ、少なくとも1つの温度制御、少なくとも1つのガス流、例えば、少なくとも1つの空気流制御、および少なくとも1つのO2流制御を含んでもよい。
【0153】
一実施形態において、採取容器は、空気飽和度40%超~空気飽和度500%以下の範囲にDOTを維持する空気/O2のヘッド空間ガス混合物を含む。
【0154】
一実施形態において、バイオリアクターまたは採取容器は、酸化還元プローブ、例えば、インライン酸化還元プローブ、例えば、Mettler Toledoインライン酸化還元プローブを含む。
【0155】
ある実施形態において、本方法は、チオレドキシンまたはグルタチオン/グルタレドキシンシステムの成分を提供するか、例えば、添加するか、または調節することができ、例えば、培養物または培養上清の細胞においてレドックス電位を提供するか、または維持するために活性/存在量を増加または減少させるバイオリアクターまたは採取容器を含む。チオレドキシンおよびグルタチオン/グルタレドキシン系ならびにそれらの成分は、当技術分野で既知である。例えば、Holmgrenら、Biochem Soc Trans.2005 Dec;33(Pt 6):1375-7;Nordberg and Arner.Free Radic Biol Med.2001 Dec 1;31(11):1287-312、Ghezzi P.Biochem Soc Trans.2005 Dec;33(Pt 6):1378-81、Ivarssonら、Diabetes.2005 Jul;54(7):2132-42;Sen,CK.Biochem Pharmacol 55(11),1747-1758.1998 Jun 01、およびMayら、J Biol Chem.1997 Sep 5、272(36):22607-10に記載されており、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0156】
一実施形態において、本方法は、例えば、GILT(ガンマインターフェロン誘導性リソソームチオールレダクターゼ)の活性/存在量を加えまたは調節すること、例えば増加または減少させるなどを提供することを含むか、あるいは、バイオリアクターまたは採取容器は当該提供をすることができる。例えば、RauschおよびHastings.Mol Immunol.2015 Dec;68(2PtA):124-8.doi:10.1016/j.molimm.2015.06.008.Epub 2015 Jun 23、および、HastingsおよびCresswell.Antioxid Redox Signal.2011 Aug 1;15(3):657-668を参照されたい。その内容は参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。一実施形態において、本方法は、例えば、成長培養物にアスコルビン酸、デヒドロアスコルビン酸、またはアスコルビン酸もしくはデヒドロアスコルビン酸修飾成分を添加するなどを提供することを含むか、あるいは、バイオリアクターまたは採取容器は当該提供をすることができる。アスコルビン酸およびデヒドロアスコルビン酸の酸化還元電位調節特性は、当技術分野で既知である。例えば、Winklerら、Free Radic Biol Med.1994 Oct;17(4):333-49を参照されたい。これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0157】
一実施形態において、本方法は、細胞内薬剤を提供すること、例えば、産生培養物に酸化還元電位指標標識、例えば、酸化還元感受性染料または分子プローブを添加することができるバイオリアクターを含む。そのような酸化還元電位指標標識は、培養物または培養物内の細胞の酸化還元電位を監視するのに有用であり得る。酸化還元電位指標ラベルには、以下が含まれるが、これらに限定されない。2,2’-ビピリジン(Ru複合体)、ニトロフェナントロリン(Fe複合体)、N-フェニルアントラニン酸、1,10-フェナントロリン硫酸鉄(II)複合体(フェロイン)、N-エトキシクリソジン、2,2’-ビピリジン(Fe複合体)、5,6-ジメチルフェナントロリン(Fe複合体)、o-ジアニシジン、ジフェニルアミンスルホン酸ナトリウム、ジフェニルベンジジン、ジフェニルアミン、ビオロゲン、ナトリウム2,6-ジブロモフェノール-インドフェノール、ナトリウム2,6-ジクロロフェノール-インドフェノール、ナトリウム-クレゾルインドフェノール、チオニン(Lauth’s violet)、メチレンブルー、インジゴテトラスルホン酸、インジゴトリスルホン酸、インジゴカーミン(インジゴスルホン酸)、インジゴモノスルホン酸、フェノサフラニン、サフラニン、ニュートラル、本明細書に組み込まれた任意の文書に開示される標識、およびSchwarzlander Mら、Antioxid Redox Signal.2016 May 1;24(13):680-712に開示される標識。これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0158】
別の実施形態では、本方法は、細胞外薬剤、例えば、本明細書に記載の代謝物、遷移状態の金属イオンを産生培養物に提供することを含むか、あるいはバイオリアクターもしくは採取容器は当該提供をすることができる。
【0159】
ある実施形態において、本開示の方法に使用するためのバイオリアクターまたはバイオリアクター(複数可)は、以下の原理に従って設定することができる。
・産生培養物が採取されている間のバイオリアクターの機能的設定は、バイオリアクターから出る培養物が十分に酸素化され、溶解酸素を次の処理ステップに運ぶことを保証する上で重要である。細胞培養が標的温度に達して採取工程を開始すると、産生培養物の酸素化を拮抗する可能性が高いすべてのプロセス制御が阻害されることを確認する。これらには、活性である場合のスパージ窒素ガス流量の阻害、活性である場合のオンデマンドCO2ガス流量制御の阻害、活性である場合のオンデマンドアルカリ制御の阻害、および活性である場合の飼料適用の阻害が含まれ得る。
【0160】
・窒素スパージガスの流れは、通常、酸素の細胞需要が低いときに、溶存酸素張力(DOT)を設定値に制御するためのバラストとして使用されるが、産生段階で能動的に流れ続けることができる。窒素は、これらの容器内での混合を維持するためにキャリアバラストとしてエアリフトバイオリアクターでも使用される。ただし、窒素スパージガスを使用する場合、採取工程中に産生培養物を通気するために使用されるスパージガスの酸素組成物を希釈することを防止するために阻害する必要がある。これは、溶存酸素、培養物中のDOTが100%の空気飽和(空気のみスパージを使用する場合)または期待される最大DOT(空気と酸素のブレンドを使用する場合)に達することを防止するためである。したがって、スパージ窒素は、所与の空気単独のスパージまたは空気酸素混合物のスパージに期待される最大溶解酸素濃度を制限する。CO2ガスフローは、プロセスpHが制御範囲を超えて上昇することに応答して、産生培養液中にスパージされる。CO2ガスフロースパージが活性である場合、スパージガスの酸素組成も希釈され、それは、所与の空気単独のスパージまたは空気酸素混合物のスパージに期待される最大溶解酸素濃度を制限する。したがって、産生培養物の採取中にその不活性化が、通気性スパージガスの希釈を防止する。
【0161】
・産生培養中の厳密なpH制御のためには、プロセスpHが対照範囲を下回ることに応答して産生培養物にアルカリ溶液を添加する必要がある。しかしながら、作動体積の継続的な減少およびアルカリ溶液の過剰投与により、産生培養物が採取されている間に、アルカリ溶液を適用することにより、細胞損傷および細胞死が大きくなる可能性がある。培養が積極的に成長および代謝されている間、飼料の産生培養への適用が必要である。しかしながら、採取中、連続的に減少する作動体積は、バイオリアクターの混合挙動に影響を及ぼし、不十分に混合された容器で作製された飼料の非生理学的性質(高浸透圧および高または低pH)ならびに微小環境に起因して、飼料溶液の適用により、より大きな細胞損傷および細胞死をもたらす。
【0162】
・産生培養が目標温度に達し、採取ステップを開始し、産生培養の酸素化を促進する可能性が高いすべてのプロセス制御が活性化されることを確認する。これらは、活性でない場合にはスパージ空気および/または酸素ガス流の活性化、活性でない場合には頭部空間空気および/または酸素流の活性化、ならびに活性でない場合には最終的に頭部空間圧力の活性化を含んでよい。オンデマンド空気および/または酸素スパージの流れは、採取の準備が整った状態で、産生培養が成長を停止した後、またはそれが冷却された後でも非常に低くなるか、または停止する場合がある。様々な連続的な固定流量での空気および酸素スパージの継続的な適用は、産生培養物を酸素化し、産生培養物が細胞内に溶解酸素を運ぶことを確実にするために重要であり、バイオリアクターとフィルタハウジングまたは遠心分離器との間、およびフィルタハウジングまたは遠心分離器と上清収集容器(例えば、採取容器)との間の遠心分離および流動経路を明らかにする。ヘッドスペースまたはオーバーレイ通気は、典型的には、産生培養物の培養中に活性であり、バイオリアクターヘッドスペースが代謝CO2ガスを継続的にパージされることを保証する。採取中の産生培養物の継続的なオーバーレイ通気は、スパージガスで達成されるよりも遅いにもかかわらず培養物の表面酸素化を促進するが、産生培養物がバイオリアクターから排出されている間にフォームの生成を回避する。
【0163】
・頭部空間圧力で作動することができ、産生培養中に圧力を使用して液体相(培養物)へのガスの溶解性を向上させるか、または容器の無菌境界を越えた環境汚染物質の侵入を防ぐためにバイオリアクター内で正圧を維持するバイオリアクターについては、採取中に維持することをお勧めする。採取物が圧力によって駆動される実際には、バイオリアクターを加圧するために使用されるガスが空気または空気と酸素の混合ブレンドである場合、培養酸素化が補助される。しかし、採取物がポンプによって駆動される場合、ヘッドスペース圧力は典型的には使用されない。そのような状況において、空気または空気/酸素ガス混合物と共にヘッド空間圧力を使用することは、培養物の酸素化を補助し、培養物が採取作業中に必要とされる動作規模に応じて必要な速い速度で流れているときに、ポンプヘッド上流の吸引ヘッドの下で採取チューブが崩壊しないようにするのに有益である。
【0164】
・単回使用バイオリアクターでは、ポンプヘッド上流で産生される吸引下で高流量での崩壊に耐えるための内部ボアサイズと壁強度に関する採取ラインの設計は、チューブ閉塞によって採取流量が妨げられないようにするために重要である。チューブ閉塞の影響は、採取流量を制限するだけでなく、培養物からの溶解酸素のより大きな細胞死および細胞溶解ならびに脱気を促進し得る。チューブ閉塞の影響は、より遅い流速でハウジング内の滞留時間を増加させることにより、細胞および産物をフィルタハウジングと共に低酸素/無酸素環境に曝露する可能性があり、収縮開口部を通過するより大きな細胞死および細胞溶解を通じて細胞内因子の放出を促進し、吸入ゾーン内で脱気することにより溶解酸素を培養物から除去し、したがって培養物によって担持される溶解酸素の量をフィルタハウジング内に少なくする。一実施形態において、本明細書に開示される方法は、産物安定性に対するこれらの負の影響を回避する。
【0165】
採取チューブの内径と使用するポンプの選択は、深度フィルタまたは深度フィルタに結合された遠心分離器によって細胞の明確化ステップのプロセス容積スループット(フィルタ面積あたりのプロセス上清リットル、L/m2)を達成するために必要な流量を達成するために選択される。採取ラインの構造材料は、ポンプヘッドの上流で生じる吸引ヘッドの崩壊に耐える剛性を有する必要がある。一般的に使用されている白金硬化シリコンまたはCフレックス以外の材料を採取チューブの構築に使用することが提案されている。編組チューブの使用は、一般的に使用される材料の代替物と考えることができる。
【0166】
・ある実施形態において、本方法は、フィルタ明確化ステップ中にフィルタの汚損および閉塞を回避するために深度フィルタ領域を最適化することを含むか、またはバイオリアクターは当該最適化を可能にすることができ、それによってフィルタハウジング内の細胞培養物の滞留時間を最小限に抑えることは、培養物が上清として通過する前にフィルタハウジング内に流入し、フィルタハウジング内に常駐する間に、産生培養物の酸素化およびバイオリアクターから実行される溶存酸素が排出されないことを確実にするために不可欠なステップである。さらに、流量は、明確化ステップ(フィルタハウジング)と上清収集容器(例えば、採取容器)との間の上清の滞留時間を最小限に抑えるのに十分でなければならない。
【0167】
細胞浄化フィルタ(一次、二次、三次)領域は、必要なプロセス容積スループットが、一次フィルタまたはステージ1のフィルタの下流の二次フィルタまたはステージ2および三次フィルタまたはステージ3のフィルタの性能に影響を与える範囲で、フィルタ全体のフラックス(L/m2/h)または(粒子のブレークスルーによる)濾液品質を損なうことなく満たされるように最適化される。さらに、最適なセルの明確化のために選択されたフィルタエリアとフィルタタイプは、フィルタの汚れと直ちにフィルタが詰まることを意味する異なるフィルタ段階間のより高い圧力差を回避する必要がある。したがって、異なるシリアル結合フィルタにわたるフラックスの減少は、フィルタハウジング内の滞留時間の増加をもたらし、フィルタハウジング内の上清中の溶解酸素の消費/消耗の増加をもたらし、上清中の低酸素をもたらすことが予想される。一次段階フィルタと二次段階フィルタとの間のより高い圧力差の蓄積はまた、活性化されると産物を不安定にするより高い細胞溶解および細胞因子の放出を促進するのと同様に、問題である。
【0168】
・ある実施形態において、本方法は、細胞を含まない上清が十分に通気され、混合された採取容器(スチールまたは単回使用)中に収集されることを確実にすることを含むか、またはバイオリアクターはそれを確実にすることができる。採取容器は、収集された濾液を容器壁に向かう内部ノズルを設計することによって容器壁表面に衝突させること、および/または採取容器を空気または任意の所与の空気と酸素のブレンドで構成されるガス環境で濾液収集の前に充填して、収集された濾液の酸素化を>40%以上の空気飽和度および500%以下の空気飽和度に促進する能力によって、良好な表面酸素化を促進するように設計されている。
【0169】
一実施形態において、採取容器はステンレス鋼採取容器である。上清回収の方法および採取容器の設計は、採取工程中に産物を保護するためのアプローチの最終要素である。現在、回収された上清は、回収された上清を継続的に混合するために、ミキサーを用いてジャケット付きステンレス鋼容器中に回収される。採取された上清は、上清の流れを容器の壁上に導く内部の「J」チューブを用いて、頭部空間ポートを介して採取容器内に排出され、そこから上清の流れが壁にカスケードダウンしてタンクの底部に収集される。さらに、これらのステンレス鋼容器は、滅菌された容器境界を越えた環境汚染物質の侵入を防ぐために、蒸気滅菌された後、容器を大気圧以上に加圧し続けるために滅菌空気で満たされている。これらの血管内に採取された上清は、加圧された空気の雰囲気下で血管壁にカスケードダウンする際に酸素化されると仮定されている。上清のさらなる酸素化は、収集した上清の上の頭部空間との表面接触を通じて生じる。
【0170】
別の実施形態では、採取容器は単回使用の採取容器である。単回使用の上清採取容器は、ガンマ照射および排出バッグである。上清収集中、バッグは、収集された上清の上にガス状の頭部空間が形成されずに真空を満たし、置換する。これらのバッグには攪拌器がないため、回収された上清を混合することはできず、回収された上清を加熱または冷却することができないジャケットなしのプラスチックまたはステンレス鋼シェルにバッグを設置する。袋に上清を充填すると、それらは最大14日間、+5℃の貯蔵に移される。精製プロセスは、採取の直後、または14日間の保持期間内に一次捕捉ステップから開始し得る。
【0171】
産生培養物の酸素化を確実にするためのアプローチは、採取ステップ中に40%を超える空気飽和度~500%未満の範囲のDOTで維持されることは、上清が収集されると、産物の解離を促進し得る細胞因子の活性化を防ぐのに十分な溶解酸素を有するように、明確化ステップ内およびそれを通して運ばれると予想される溶解酸素で産生培養物を「負荷」することを意図する。採取容器は、採取された上清が+5℃で最大14日間保管されている間、十分に酸素化された状態を維持し続けるように設計されている。これは、例えば、表面通気によって、+5℃の貯蔵下で収集および保持されながら、上清が酸素化し続けることを保証する容器設計によって達成される。一実施形態において、採取容器設計は、以下の特徴を含む。
・容器または単回使用バッグには、回収された上清が表面通気を通して酸素化するのに十分な軸方向バルク混合を提供する攪拌器/ミキサーがある。
・容器または単回使用バッグシェルは、容器含有量の温度が、例えば、室温から4時間以内に+5℃に達し、同様の期間内に+5℃から室温まで加熱することを可能にするために、適切なサイズのサーモサーキュレーターでジャケットを被っている。
・容器または単回使用バッグシェルには、適切なサイズの空気および酸素ガス質量流量コントローラが取り付けられており、空気、酸素、または酸素濃縮ガスとの頭部空気通気を可能にする。
・容器または単回使用バッグおよびシェルには、オーバーレイガスフィルタ(操作規模に適した流量の空気および酸素ガスに適している)と、操作規模に適した流量の空気および酸素ガスに適した出口ガスベントフィルタが装備されており、上清濾液収集前に採取容器を空気または空気と酸素の任意の所与のブレンドで満たすために、上清濾液の酸素化を>40%を超え、上清濾液収集中および収集が完了すると空気飽和度が500%以下に促進される。
・容器または単回使用のバッグとシェルには、圧力センサと安全インターロックが装備されており、圧力が操作規模と容器設計の安全限界を超えている場合は、ヘッドスペースガスを停止する。
・容器または単回使用バッグおよびシェルには、pH、DOT、酸化還元および温度用のプロセスセンサポートが取り付けられている。容器またはバッグ内のプローブ位置は、動作規模に適した最低動作容積での監視を可能にする。
・容器または単回使用バッグには、容器の上部に液体の流れを容器壁に誘導し、液体が容器壁にカスケードダウンするよう促進する内部ノズルを装着したポートを備えた追加ポートが取り付けられている。
【0172】
細胞および細胞培養
一態様において、本開示は、本明細書に記載の産物、例えば、組換え産物を産生する細胞または細胞株を操作または作製するための方法および組成物に関する。別の態様では、本開示は、改善された、例えば、解離の減少、生産性の増加、および/または産物の品質を有する細胞または細胞株を操作または作製するための方法および組成物に関する。
【0173】
実施形態において、細胞は哺乳類細胞または非哺乳類細胞、例えば昆虫細胞、酵母細胞、真菌細胞、植物細胞、古細菌細胞、例えば、古細菌種由来の細胞、または細菌細胞である。一実施形態において、細胞は、ヒト、マウス、ラット、チャイニーズハムスター、シリアハムスター、サル、類人猿、イヌ、アヒル、ウマ、オウム、フェレット、魚、またはネコ由来である。一実施形態において、細胞は動物細胞である。実施形態において、細胞は哺乳類細胞、例えば、ヒト細胞またはげっ歯類細胞、例えば、ハムスター細胞、マウス細胞、またはラット細胞である。一実施形態において、細胞は、原核細胞、例えば細菌細胞である。一実施形態において、細胞はアクチノバクテリウムの種であり、例えば結核マイコバクテリウムである。
【0174】
一実施形態において、細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。一実施形態において、細胞は、CHO-K1細胞、CHO-K1SV細胞、DG44 CHO細胞、DUXB11 CHO細胞、CHOS、CHO GSノックアウト細胞、CHO FUT8 GSノックアウト細胞、CHOZN、またはCHO由来細胞である。CHO GSノックアウト細胞(例えば、GSKO細胞)は、例えば、CHO-K1SVGSノックアウト細胞である。CHO FUT8ノックアウト細胞は、例えば、Potelligent(登録商標)CHOK1 SV(Lonza Biologics,Inc.)である。
【0175】
別の実施形態では、細胞は、HeLa、HEK293、HT1080、H9、HepG2、MCF7、Jurkat、NIH3T3、PC12、PER.C6、BHK(ベビーハムスター腎臓細胞)、VERO、SP2/0、NS0、YB2/0、Y0、EB66、C127、L細胞、COS、例えば、COS1およびCOS7、QC1-3、CHO-K1、CHOK1SV、Potelligent CHOK1SV、CHOGSノックアウト、CHOK1SV GS-KO、CHOS、CHO DG44、CHODUXB11、およびCHOZN、またはそれらに由来する任意の細胞である。一実施形態において、細胞は幹細胞である。一実施形態において、細胞は、本明細書に記載される細胞のいずれかの分化形態である。一実施形態において、細胞は、培養中の任意の一次細胞に由来する細胞である。
【0176】
一実施形態において、細胞は、産物、例えば、本明細書に記載の産物を産生する本明細書に記載の細胞のいずれか1つである。一実施形態において、細胞は、組換えポリペプチドをコードする外因性核酸を含み、例えば、組換えポリペプチド、例えば、表2または3から選択される組換えポリペプチドを発現する、本明細書に記載の細胞のいずれか1つである。
【0177】
一実施形態では、細胞培養物(例えば、産生培養物)は、バッチ培養物、フィードバッチ培養物、抽出および充填培養物、または連続培養物として実施される。一実施形態において、細胞培養物は接着培養物である。一実施形態において、細胞培養物は懸濁培養物である。一実施形態において、細胞または細胞培養物は、組換えポリペプチドの発現のためにインビボで、例えば、モデル生物またはヒト対象に配置される。
【0178】
例えば、本方法は、大規模バイオリアクター、例えば、少なくとも2つのインペラを有するバイオリアクター、大規模バイオリアクターシステム、ならびに哺乳類細胞の大規模な培養および増殖のための方法において実行される。一実施形態において、バイオリアクターは、第2011/0312087号に記載されるようなバイオリアクターである。
【0179】
一実施形態において、細胞は、米国特許出願第62/242,758号に開示されるようなバイオリアクター内で培養され、その内容はその全体が本明細書に組み込まれる。少なくとも1つのバイオリアクター、他の細胞培養関連機器、およびこれらの任意の組み合わせを含有するシステムの制御のためのシステムおよび方法が、本明細書に開示される。例えば、バイオリアクター制御のためのシステムおよび方法は、複数のバイオリアクターおよび他のタイプの栽培関連機器、例えば、発酵、採取、微小濾過および精製のための機器(例えば、液体クロマトグラフィースキッドシステム)、緩衝液調製、培地調製等を制御することを含んでよい。複数のバイオリアクターおよび他の種類の栽培関連機器は、プラント内に位置し得、そのような機器の制御は、プラント全体制御システム(「PWCS」)として知られ得る。
【0180】
一実施形態において、本方法は、例えば、その内容の全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願第62/246,478号に記載される少なくとも1つの使い捨て技術を使用して、バッチ製造および連続製造の両方を提供する製造施設において実行される。一実施形態において、製造施設は、活性医薬成分(「API」)の製造のためのものである。
【0181】
冷却は、当技術分野で既知の方法を使用して行うことができる。例えば、より大きな反応器は、典型的には、恒温制御または温度制御された水が通過して培養温度を制御するウォータージャケットを有するであろう。実施形態では、プロセス冷却水供給は、実質的かつ迅速な冷却を得るためにジャケット内に送達される。実施形態において、冷蔵装置は、熱を除去するために使用される。
【0182】
冷却は、培養するとき(すなわち、細胞数を増加させるか、細胞培養物から所望の産物の産生を誘導させる)、または産生相の終了時に産生培養物を冷却するとき、または細胞を採取するときに、1つ以上の所望の時間に行うことができる。生物は、それらが成長する最適な温度で異なるため、冷却温度は、冷却ステップの前の1つまたは複数のステップの比較的高い温度に基づいて選択される。実施形態では、培養細胞の冷却を実施して、酸素消費の細胞速度を低減し、採取流が採取プロセスを通して酸素化されたままであるようにする。
【0183】
哺乳類細胞株については、培養プロセスの温度シフトは、典型的には、27~35℃(例えば、27、28、29、30、31、または32、33、34、または35℃)である。ある実施形態において、温度は指数的成長相の後30~33℃まで低下する。理論によって拘束されることを望むものではないが、産生相後に温度を12~18℃、例えば15℃に低下させると、酸素消費の比率が10倍低下すると考えられる。
【0184】
一実施形態において、培養培地は血清を含まない。
【0185】
例えば、米国特許第5,633,162号に記載されるように、哺乳類細胞株のための他の好適な培地および培養方法は、当技術分野において周知である。実験室フラスコまたは低密度細胞培養のための標準細胞培養培地であって、特定の細胞型のニーズに適合される例は、例えば、Roswell Park Memorial Institute(RPMI)1640培地(Morre,G.,The Journal of the American Medical Association,199,p.519 f.1967)、L-15培地(Leibovitz,A.et al.,Amer.J.of Hygiene,78,1p.173 ff,1963)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地(MEM)、ハムF-12培地 (Ham,R.et al.,Proc.Natl.Acad.Sc.53,p288 ff.1965)、またはアルブミン、トランスフェリンおよびレシチンを欠くイスコフ改変DMEM(Iscoves et al.,J.Exp.med.1,p.923 ff.,1978)である。例えば、ハムのF10またはF12培地は、CHO細胞培養のために特別に設計された。CHO細胞培養に特異的に適合した他の培地は、EP-481 791に記載されている。他の好適な培養方法は当業者に既知であり、組換えポリペプチド産物および利用される宿主細胞に依存し得る。細胞によって発現される産物、例えば、組換えポリペプチドの発現および産生に好適な条件を決定または最適化することは、当業者の技術の範囲内である。
【0186】
例えば培養培地に分泌される、産生または分泌される産物の量、レベル、または量を定量するためのアッセイには、タンパク質定量アッセイ、例えば、Bradfordタンパク質アッセイ、SDS-PAGE分析、免疫ブロット、例えば、ウェスタンブロット、および例えば、ナノドロップ装置を使用する自動化手段が含まれる。タンパク質産生の増加を測定するための他の方法は、当業者に周知である。例えば、組換えタンパク質産生の増加は、ELISAによって組織培養培地中の濃度を測定することによって小規模で決定され得る(Smales et al.2004 Biotechnology Bioengineering 88:474-488)。これはまた、例えば、培地中の組換えモノクローナル抗体(mAb)濃度の高スループット決定のために、ForteBio Octetによって定量的に決定することができる(Mason et al.2012 Biotechnology Progress 28:846-855)、またはプロテインA HPLCによってより大規模に決定することができる(Stansfield et al.2007 Bioengineering 97:410-424)。産物、例えば、本明細書に記載の組換えポリペプチドの産生を決定するための他の方法は、産物の特定の産生速度(qP)、特に細胞内の組換えポリペプチド、および/または生存細胞濃度(IVC)の時間積分を指すことができる。一実施形態において、生産を決定するための方法は、qPとIVCを決定する組み合わせを含む。組換えポリペプチド産生または生産性は、培養培地中のポリペプチドの濃度として定義され、これらの2つのパラメータ(qPおよびIVC)の関数であり、Porterら(Porter et al.2010 Biotechnology Progress 26:1446-1455)。タンパク質産生の測定方法についても、本明細書に提供される実施例にさらに詳細に記載される。
【0187】
一実施形態において、本明細書に記載の方法は、改善された産物の品質を有する細胞を産生する。一実施形態では、産物の品質の改善は、産物の品質の増加、例えば、1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%、またはそれ以上の増加、または、例えば、より低い温度に供されない細胞によって産生される産物の量、レベル、または量と比較して、1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、50倍、もしくは100倍、またはそれ以上の増加をもたらす。産物の品質のかかる増加は、例えば、以下のうちの1つ以上によって例示され得る。
i)ジスルフィド結合スクランブルの増加または減少(例えば、例えば、抗体分子産物に対するジスルフィド結合スクランブルの増加または減少の結果としての所望のアイソフォームまたは構造の増加または減少)、
ii)非凝集産物の量(amount)もしくは量(quantity)の増加(または凝集産物の量もしくは量の減少)、
iii)適切に折り畳まれた産物もしくは組み立てられた産物の量(amount)もしくは量(quantity)の増加(または折り畳まれていない、折り畳まれていない、部分的に組み立てられている、もしくは組み立てられていない産物の量(amount)もしくは量(quantity)の減少)、または折り畳まれていない、折り畳まれていない、部分的に組み立てられていない、もしくは組み立ていない産物に対する適切に折り畳まれた産物もしくは組み立てられた産物の比率の増加、
iv)全長産物の量または量の増加(または産物の断片化の減少)、
v)所望の翻訳後修飾の増加(または未修飾もしくは誤って修飾された産物の減少)、
vi)グリカン不均一性の増加または減少(例えば、グリコシル化産物について)、
vii)機能性産物の量(amount)もしくは量(quantity)の増加(もしくは非機能性もしくは機能不全産物の量(amount)もしくは量(quantity)の減少)、または機能性もしくは機能不全産物に対する比の増加。
【0188】
本明細書に記載されるように生成される細胞または細胞株の産物の品質、例えば、産物の品質の改善を測定する方法は、当技術分野で既知である。一実施形態では、発現された組換えポリペプチド産物の一次配列の忠実度を決定するための方法、例えば、質量分析法が当技術分野で既知である。適切に折り畳まれた産物、例えば、発現された組換えポリペプチドの量または濃度の増加は、環状二色性または発現された組換えポリペプチドの固有の蛍光を評価することによって決定することができる。機能性産物の量または濃度の増加は、組換え産物、例えば、組換えポリペプチドの同一性に応じて、様々な機能アッセイを使用して試験することができる。例えば、抗体は、ELISAまたは他の免疫親和性アッセイによって試験することができる。産物の品質の増加を決定するための他の方法、例えば、凝集の決定、翻訳後修飾、ジスルフィド結合スクランブルは、サイズ排除クロマトグラフィー、高性能液体クロマトグラフィー、動的光散乱(DLS)アプローチ、およびタンパク質電気泳動(PAGE)方法によって評価することができる。
【0189】
ある実施形態において、産物の発現、例えば、産物の転写、翻訳、および/または分泌、または産物の質、例えば、一次配列の適切な折り畳みおよび/または忠実度を改善するために、追加のステップを実施してもよい。そのような追加のステップは、産物の発現または産物の品質を改善する薬剤を導入することを含む。一実施形態において、産物の発現または産物の品質を改善する薬剤は、タンパク質折り畳みを改善するポリペプチド、例えば、シャペロンタンパク質をコードする小分子、ポリペプチド、または核酸でよい。一実施形態において、タンパク質折り畳みを補助する薬剤は、シャペロンタンパク質、例えば、BiP、PD1、またはERO1をコードする核酸を含む(Chakravarthi &Bulleid 2004; Borth et al.2005; Davis et al.2000)。産物の収率および品質を改善するための他の追加のステップとしては、XBP1およびATF6等の転写因子(Tigges &Fussenegger 2006;Cain et al.2013;Ku et al.2008)、ならびにカルネキシンおよびカレチクリン等のレクチン結合シャペロンタンパク質(Chung et al.2004)の過剰発現が挙げられる。本明細書に記載されるタンパク質折り畳み、産物の品質、および産物の収率を補助または改善する薬剤の過剰発現は、薬剤をコードする外因性核酸の導入によって達成することができる。別の実施形態では、産物の発現または産物の品質を改善する薬剤は、産物または産物の品質、例えばDMSOの発現を増加させるために細胞培養物に添加され得る小分子である。一実施形態では、細胞を通常成長する温度よりも低い温度、例えば、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、または10℃低い温度で維持することは、産物の解離を低減または排除することによって、産物の質を改善することができる。
【0190】
本明細書に記載される方法のうちのいずれも、高い生産性を有するか、または高品質の産物を生成する細胞を同定するための追加の選択ステップをさらに含むことができる。例えば、FACの選択を利用して、所望の特徴、例えば、タンパク質折り畳みタンパク質、例えば、シャペロンのより高い発現を有する特定の細胞を選択することができる。
【0191】
一態様において、本開示は、組換えポリペプチド産物を回収または回収するためのステップを含む方法を提供する。組換えポリペプチドが細胞から分泌される実施形態では、方法は、細胞、細胞集団、または細胞が培養された培養培地から組換えポリペプチドを回収、収集、または分離するステップを含むことができる。組換えポリペプチドが細胞内にある実施形態では、組換えポリペプチド産物の精製は、細胞によって産生される組換えポリペプチドを、宿主細胞タンパク質、宿主細胞核酸、宿主細胞脂質、および/または宿主細胞からの他のデブリのうちの1つ以上から分離することを含む。
【0192】
実施形態において、本明細書に記載のプロセスは、実質的に純粋なタンパク質産物を提供する。本明細書で使用される場合、「実質的に純粋な」は、発熱性物質を実質的に含まない、核酸を実質的に含まない、および/または宿主細胞からの内因性細胞タンパク質、例えば、ポリメラーゼ、リボソームタンパク質、およびシャペロンタンパク質を実質的に含まないことを意味する。実質的に純粋なタンパク質産物は、例えば、宿主細胞由来の汚染内因性タンパク質、核酸、または他の巨大分子の25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%未満を含有する。
【0193】
産物、例えば、組換えポリペプチドを回収および精製するための方法は、当技術分野において十分に確立されている。組換えポリペプチド産物を回収するために、物理的または化学的または物理化学的方法が使用される。物理的または化学的または物理的化学的方法は、濾過方法、遠心分離方法、超遠心分離方法、抽出方法、凍結乾燥方法、沈殿方法、クロマトグラフィー方法、またはこれらの2つ以上の方法の組み合わせでよい。一実施形態では、クロマトグラフィー方法は、サイズ排除クロマトグラフィー(またはゲル濾過)、イオン交換クロマトグラフィー、例えば、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、および/またはマルチモーダルクロマトグラフィーのうちの1つ以上を含む。
【0194】
実施形態では、温度の低下は、温度の低下と、pH、チオレドキシン阻害剤、例えば、金属イオンの低下と組み合わされる。実施形態では、この組み合わせ処理は、上記のようなバイオリアクターで実行される。
【実施例】
【0195】
本発明は、以下の実施例を参照することによりさらに詳細に説明される。これらの実施例は、例示のみを目的として提供され、特に明記しない限り、限定することを意図するものではない。したがって、本発明は、決して、以下の実施例に限定されるものと解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書に提供される教示の結果として明らかになる任意のおよびすべての変形を包含するものと解釈されるべきである。
【0196】
さらなる説明なしに、当業者は、前述の説明および以下の例示的な実施例を使用して、本発明の化合物を作製および利用し、特許請求の範囲の方法を実施することができると考えられる。以下の実施例は、本発明の様々な態様を具体的に指摘するものであり、本開示の残りの部分をいかなる方法でも限定するものとして解釈されるべきではない。
【0197】
実施例1非必須、冗長、および/または分泌型内因性タンパク質の解析のための背景および同定
中国のハムスター卵巣(CHO)細胞は、バイオ医薬品の生成のための世界初の生産シャーシである(Walsh,2014)。これらの細胞を接着細胞株から静止細胞に発達させ、次いで過剰発現および合成エレメントを利用して細胞を操作して力価、成長速度、および細胞特異的組換えタンパク質産生速度(qP)を高めることに莫大な時間、労力および費用を費やすが、細胞シャーシおよびゲノムは前駆体チャイニーズハムスターと効果的に同じままである。このため、細胞はしばしば完全に人工的な環境の代わりに中国のハムスター内に存在したかのように振る舞う。これは、依然としてコードされ、その後細胞株によって発現されるいくつかの一見機能的に冗長な遺伝子によって例示される。CHOゲノムを正常にノックダウンまたはノックアウトし、細胞または産物特性の向上につながった遺伝子の文献例がある。これには、特定の生産性の向上のためのCers2およびTbc1D20のノックダウン(Pieper et al.,2017)、Fut8 (フコシル化を除去するため)、BakおよびBax(アポトーシスに対するより高い耐性のため)(Grav et al.,2015)、ならびに内因性CHOグルタミン合成酵素の除去が含まれる(Bebbington et al.,1992;Cockett,Bebbington,&Yarranton,1990)。CHOについての最近のゲノム配列(Lewis et al.,2013;Xu et al.,2011)、およびゲノム編集技術の急速な進歩(Cong,Ran,Cox,Lin,&Barretto,2013; Ran et al.,2013)を伴う個々の遺伝子のノックダウンまたはノックアウトによって示された有望性は、CHO遺伝子コード内の冗長エレメントのより大きなスクリーニングの機会を提示している。
【0198】
オーミクスレベルのデータは、小胞体(ER)空間、ならびに翻訳後修飾(PTM)および分泌機構に関して標的mAbと競合すると予測される高存在量の非必須タンパク質を合理的に特定するために、一連のバイオインフォマティクスツールおよび文献分析と対になった定量的転写学およびプロテオミクスの形態で利用された。この戦略は、主にCHO細胞株上のバイオリアクター実験からのLonza RNA-seqデータの分析に基づく。試料を採取し、4日目、7日目および9日目に抽出し、CHOK1GS(Ensembl受託番号:CHOK1GS_HDv1)ゲノム配列についてRNA-seq分析を行った。各遺伝子の100万当たりの転写産物(TPM)値を使用することにより、各遺伝子が全細胞転写産物プールの一部として発現された量の尺度が得られた。自動遺伝子ID割り当てにより、4日目、7日目、および9日目の転写産物プール活性遺伝子全体の77.5%、77.7%、および77.6%のIDが得られた。手動割り当ては、転写プールの18.4%、17.8%、および18.3%に遺伝子IDを加えた。これにより、4日目、7日目、および9日目の合計13773、14433、および14660個の遺伝子IDが得られ、これらの割り当ては、4日目、7日目、および9日目の合計転写プールの95.7%、95.4%、および95.8%のIDを表す。次いで、定義された閾値を導入して、遺伝子転写物を異なる存在量レベルに分類するのに役立たせた(Ramskold et al(2009)PLoS Comput.Biol.2009 Dec;5(12):e1000598.doi:10.1371/journal.pcbi.1000598に基づく)。
・発現していない遺伝子(マッピングされた100万リード当たりのエキソンモデルのキロベース当たりのフラグメント(FPKM)<0.3)(TPM<0.4)
・低発現遺伝子(0.3≦FPKM<3)(0.4≦TPM<4)
・中程度発現遺伝子(3≦FPKM<30)(4≦TPM<40)
・高発現遺伝子(30≦FPKM<100)(40≦TPM<133.33)
・非常に高度に発現された遺伝子(FPKM≧100)(TPM≧133.33)
【0199】
3日間(4、7、および9日)にわたって非常に高い存在量の遺伝子基準を一貫して満たす遺伝子のみを前進させた(879遺伝子)。その後、これらの遺伝子をパンサー分類システム(http://www.pantherdb.org/)を通過させ、解析を実行した生物として使用されるMus musculusデータベースを用いた。最初は、機能的冗長性に起因して目的と見なされたキーワードを含む遺伝子のみが、さらなる分析のために強調された(表E1)。その後、機能的に重要または非常に必要なキーワードのリストが生成された(表E2)。これらのキーワードを含有する遺伝子はその後、さらなる分析から除去され、表E1およびE2の両方からのキーワードを含有する遺伝子の場合、遺伝子がCHO細胞の機能にどの程度重要であるかについての証拠の検討のために、深く分析された。定義された基準を通じて遺伝子をフィルタリングした後、76個の標的(すべてのアイソフォームを考慮したとき112個)を残した。
【0200】
次いで、分泌タンパク質としての我々の基準にさらに適合した遺伝子に焦点を合わせるために、4つの異なるツールを使用してバイオインフォマティクス解析を行った。使用されたプログラムは次のとおりである。
・SignalP 4.1-(デフォルト設定-真核生物)-http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/
・TargetP 1.1-(デフォルト設定-非植物)-http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/
・SecretomeP 2.0-(設定を哺乳類に変更)-http://www.cbs.dtu.dk/services/SecretomeP/
・TMHMM 2.0-(デフォルト設定)-http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM/
【0201】
CHO細胞株の指数相および静止相細胞の定量的細胞内プロテオミクス解析を使用して、さらなるオミクスレベルデータを作成した。標的タンパク質について存在する場合、総タンパク質バイオマスを詳述するデータ(タンパク質の平均コピー数およびその分子量の考慮)が注目された。
【0202】
CHO細胞培養培地内に存在する細胞外タンパク質の定量的プロテオミクス解析に関する以前に公開されたデータ(Kumar et al.2015 J Proteome Res.2015 Nov 6;14(11):4687-703.doi:10.1021/acs.jproteome.5b00588;Park et al.2017 Sci Rep.2017 Mar 10;7:44246.doi:10.1038/srep44246.)を利用して、一般的な冗長細胞外宿主細胞(HC)タンパク質を試み、同定した。事前に定義されたリストからの標的タンパク質が存在していたかどうか、および存在する場合、高レベル、中レベル、または低レベル(表E3に定義されている基準)(NSAF-正規化されたスペクトル存在量係数、NSC-正規化されたスペクトルカウント)の詳細が注目された。
【0203】
要約されたパイプラインを以下に示す。
1.すべての転写産物は、バイオリアクター内の培養全体を通して非常に高い
2.すべてにハイライトされたキーワードが少なくとも1つ含まれている(表E1)
3.個々の評価が行われたポイント2と競合しない限り、すべての必須キーワードが削除されている(表E2)
4.すべて、複数のバイオインフォマティクスツールによって分泌タンパク質であると予測される
5.Lonza ICプロテオミクスに対するマッチングの試み
6.以前に公開されたCHO EC存在量データと一致しようとした
7.Mus musculus Uniprotデータを利用した糖質および糖質/AAの同定の試み
8.定義された基準に従ってランク付けされた(表E4)
【0204】
上記で定義された基準の大部分に一致するが、機能するCHO細胞発現系(クラステリン-Cluおよび14-3-3タンパク質イプシロン-YWHAE)にとって非常に重要であると思われる2つの負の標的と並んで、それらの知覚される冗長性に起因して、さらなるセットのaプリオリ標的(ファイブロネクチン-Fn1およびヘパリン硫酸塩プロテオグリカン-HSPG2)が選択された。試験対象の20個の標的の最終リストを表E5に示す。
【0205】
実施例2:内因性タンパク質のノックアウトおよび産物収率の増加
指定された遺伝子、例えば、内因性タンパク質、例えば、細胞外タンパク質、分泌タンパク質、および/または冗長タンパク質をコードする遺伝子(例えば、実施例1、例えば、表E5で決定された遺伝子)の高度に特異的な標的化ノックダウンを、Cas9ヌクレアーゼの使用を通じて実施し、組換えタンパク質産生への影響を評価した。GFPに融合した強化特異性Cas9(eCas9 1.1)(Slaymaker et al.,2016) 2Aペプチドを使用することにより、Cas9ヌクレアーゼ活性を有する細胞の高スループット単離が可能になり、多重ゲノム編集を可能にする可能性がある(Lonowski et al.2017 Nat Protoc.2017 Mar;12(3):581-603.doi:10.1038/nprot.2016.165)。
【0206】
内因性タンパク質、例えば、細胞外タンパク質、分泌タンパク質、および/または冗長タンパク質をコードする遺伝子を正常にノックアウトすることによって、冗長で競合するタンパク質(例えば、翻訳のために競合するタンパク質(すなわち、タンパク質をコードするmRNA)、ならびに産物(すなわち、産物をコードするmRNA)と競合するER/ゴルジリソース)を欠く最小限のCHOゲノムを作製することができる。これは、より合理化されたゲノムおよびプロテオームを生成するのに役立ち、改善された成長および生産特性は、競争力のあるバイオ医薬品の生成に必要な高い力価および成長速度の要求により適している。
【0207】
ある実施形態において、CHOゲノムからの機能的に冗長な分泌遺伝子のノックアウトは、増殖速度および発現能力の増強が可能な増強細胞株を生成する。
【0208】
表E5で特定された遺伝子ノックアウト標的を最初にスクリーニングするために、各遺伝子標的を、上記のCas9-GFPヌクレアーゼ、ならびに構成的U6プロモーターから発現される遺伝子標的特異的ガイドRNA(複数可)の両方をコードするプラスミド(pX458)による一過性トランスフェクションによって、IgG4 Mab産生クローンGS-CHOK1SV細胞株から個別にノックアウトした。トランスフェクションの48時間後、トランスフェクト細胞の不均質プールを、FACSによって高GFP発現(高Cas9ヌクレアーゼ活性のプロキシ)のために選別し、0.5×106以上の生存細胞を選択し、さらなる培養のためにプールし、その後の成長、Mab生産性、および遺伝子ノックアウト成功の評価を行った。
【0209】
詳細には、IgG4 Mabを作製するGS-CHOK1V細胞株を、1)CMVプロモーターから発現したCas9-GFPヌクレアーゼ融合タンパク質、および2)構成的U6プロモーターから発現したそのゲノム中の標的遺伝子に特異的なガイドRNA(複数可)を含有するプラスミド(pX458)で一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、トランスフェクタントプールをFACSによって高GFP発現のために選別し、≧0.5×106個の細胞を収集し、新しいフラスコにプールした。72時間後、細胞培養物を遠心分離し、上清を除去し、細胞ペレットを新しいフラスコ内で0.2×106個の生存細胞/mLの最終濃度に再懸濁し、その後、MabタイトルがValitaTITER(Valitacell,Dublin,Ireland)によって決定される前に≧5日間成長させ、細胞数を自動細胞計数によって決定した(ViCell-Beckman Coulter,High Wycombe,UK)。示された標的遺伝子に特異的なgRNAを含有するpX458ベクターでトランスフェクトしたGS-CHOK1SV細胞のFACS選別プールのqPにおける変化率を計算した。すべてのデータ点は、Cas9-GFPヌクレアーゼ融合タンパク質を発現するpX458でトランスフェクトしたがgRNAを欠く対照GS-CHOK1SV細胞と比較して発現される。
【0210】
gRNAによる遺伝子Lamb1、Mfge8、Sbsn、C1S、C1R、Nid1、Dcn、B2M、およびCluへのCas9-GFPヌクレアーゼの標的化は、gRNAを欠くpX458ベクターでトランスフェクトした対照GS-CHOK1SV細胞と比較して、GS-CHOK1SV細胞のFACS選別プールの平均qPを増加させた(
図1A)。
【0211】
指定された遺伝子を標的とするCas9-GFP遺伝子編集の成功を決定するために、ゲノムDNAをFACS選別細胞から抽出し、TIDE分析によって評価した(Brinkman et al.2014,Nucleic Acids Res.2014 Dec 16;42(22):e168.doi:10.1093/nar/gku936)。結果は、この方法によって達成される標的遺伝子インデルの高い率を実証し、≧60~90%の範囲であった(
図1B)。これは、表現型読み出し(すなわち、qPの観察された増加)がプール中の遺伝子編集の関数であることを強く示唆している。
【0212】
実施例3:内因性標的の多遺伝子ノックアウトおよび産物の収率の増加。
実施例2に提示されるデータは、細胞内の非必須、冗長、および/または分泌された内因性タンパク質をコードするいくつかの内因性遺伝子を個別にノックアウトして、CHO細胞株からのMabの収率を増加させることができることを部分的に示唆している。細胞分泌装置をトランジットする内因性タンパク質の数が非常に高いため、この戦略を使用して得られるqPの増加を最大化するために、必須、冗長、および/または分泌された内因性タンパク質をコードする複数の遺伝子を除去する必要がある可能性が高い。これを試験するために、遺伝子は、個々にノックアウトしたときのqPの最も高い増加と相関した、遺伝子標的Lamb1、Mfge8、Sbsn、C1S、C1R、Nid1、Dcn、B2M、およびCluを、実施例1および2の技法(表E6)を使用してGS-CHOK1SV細胞株内のランダムな3つ組の組み合わせでノックアウトしたが、同じCHO染色体上に位置する標的の組み合わせ(C1SおよびC1R、Mfge8およびNid1、ならびにDcnおよびClu)を避けて、大規模なゲノム組換えのリスクを低減した。3つ組で組み合わせると、遺伝子標的のいくつかの組み合わせは、平均力価およびqPの実質的な増加と相関し、例えば、C1S、Dcn、およびLamb1は、gRNAを欠くpX458ベクターでトランスフェクトした対照GS-CHOK1SV細胞と比較して、トリプルノックアウトプールで組み合わせると、力価が25%およびqPが28%の平均的な増加を示した(表E7)。
【0213】
【0214】
【0215】
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
実施例5:参考文献
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Cockett,I.M.,Bebbington,R.C.,&Yarranton,T.G.(1990).High level expression of tissue inhibitor of met alloproteinases in chinese hamster ovary cells using glutamine synthetase gene amplification.Nature Biotechnology,8,662-667.https://doi.org/10.1038/nm0798-822
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【0222】
等価物
当業者は、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に多くの等価物を認識するか、または通常の実験のみを使用して確認することができるであろう。かかる等価物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【0223】
本発明は、列挙される特許請求の範囲のうちの1つ以上からの1つ以上の制限、要素、条項、および説明的用語が別の特許請求の範囲に導入されるすべての変形、組み合わせ、および置換を包含する。要素がリストとして、例えば、マーカシュグループ形式で、または代替として提示される場合、要素の各サブグループも開示され、任意の要素(複数可)をグループから削除することができる。
【0224】
一般に、本発明または本発明の態様が特定の要素および/または特徴を含むと称される場合、本発明の特定の実施形態または本発明の態様は、そのような要素および/または特徴からなるか、または本質的にそれらからなることを理解されたい。また、「含む(comprising)」および「含有する(containing)」という用語は、開いていることが意図され、追加の要素またはステップの包含を可能にすることも留意されたい。範囲が指定されている場合、エンドポイントが含まれる。さらに、別段の指示がない限り、または当業者の文脈および理解から明らかでない限り、範囲として表される値は、文脈で別段の明確な指示がない限り、本発明の異なる実施形態では、記載の範囲内の任意の特定の値またはサブ範囲を、範囲の下限の単位の10分の1まで想定することができる。