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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】改質セルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 11/08 20060101AFI20240826BHJP
   D01F 2/28 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C08B11/08
D01F2/28 Z ZAB
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021522861
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2020021122
(87)【国際公開番号】W WO2020241756
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2019100523
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】中川 晴香
(72)【発明者】
【氏名】吉田 穣
(72)【発明者】
【氏名】柴田 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】羽野 里奈子
(72)【発明者】
【氏名】田中 絢子
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053077(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043450(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/043451(WO,A1)
【文献】特開2018-145428(JP,A)
【文献】特開2018-145571(JP,A)
【文献】特表2003-530466(JP,A)
【文献】特開2008-266625(JP,A)
【文献】特開2006-233144(JP,A)
【文献】特開平03-279471(JP,A)
【文献】特開平01-085201(JP,A)
【文献】特開昭59-075902(JP,A)
【文献】HEINZE Thomas, et al.,Effective preparation of cellulose derivatives in a new simple cellulose solvent,Macromol. Chem. Phys.,2000, Vol.201, No.6,p.627-631
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 11/
D01F 2/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程Aを含む改質セルロースの製造方法。
工程A:セルロース原料に対し、水および炭素数10以上40以下のアルキル基を有する4級アンモニウム塩の存在下、セルロース骨格の水酸基から水素原子を除いた基に、下記一般式(3)で示される総炭素数が11以上の置換基をエーテル結合を介して導入する工程
-CH -CH(OH)-CH -(OA) -O-R (3)
〔式中、R は炭素数3以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数2以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の炭化水素基である。〕
【請求項2】
改質セルロースが、セルロースI型結晶構造を有する、請求項1に記載の改質セルロースの製造方法。
【請求項3】
改質セルロースが、改質セルロース繊維である、請求項1又は2に記載の改質セルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質セルロースの製造方法及び改質セルロースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限な資源である石油由来のプラスチック材料が多用されていたが、近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになり、かかる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロースを用いた材料が注目されている。
【0003】
例えば特許文献1には、有機媒体中に分散することが可能なセルロース繊維を提供すること等を目的として、ヒドロキシル官能基がエーテル結合により疎水置換された、特定の置換基構造を有する改質セルロース繊維が開示されている。また、特許文献2には、水酸基に対して比較的少ない当量数のアルカリの使用で、高置換度で、含有するアルカリ金属の中和塩が比較的少なく、かつ媒体を回収して再利用することも可能なセルロースエーテルの製造方法として、特定量の有機アルカリ(a)、イオン液体(b)、水(c)およびセルロースもしくはセルロース誘導体(d)を含有してなるセルロース溶液もしくは分散液(A)に、エーテル化剤(e)を加えてエーテル化反応させるセルロースエーテルの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-53077号公報
【文献】特開2008-266625号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1の改質セルロース繊維は、修飾の際に多量の有機溶媒や有機塩基が必要な場合があり、環境負荷や製造コスト低減の観点から更なる改善が求められる。また、特許文献2では、炭素数1~3などの短鎖の置換基を導入する方法以外は具体的に開示されておらず、より長鎖の置換基を導入する技術が求められる。
【0006】
本発明は、有機溶媒や樹脂等との疎水性媒体との親和性が高い改質セルロースを、環境負荷が低く、製造コスト低減が見込める反応系を用いて製造する方法に関する。
【0007】
本発明は、下記の[1]~[7]に関する。
[1] 下記工程Aを含む改質セルロースの製造方法。
工程A:セルロース原料に対し、水および界面活性剤存在下、セルロース骨格の水酸基から水素原子を除いた基に炭素数6以上の置換基を導入する工程
[2] さらに下記工程Bを有する前記[1]に記載の製造方法。
工程B:セルロース原料に対し、水および界面活性剤存在下、セルロース骨格の水酸基から水素原子を除いた基に炭素数1以上5以下の置換基を導入する工程
[3] 工程A及び工程Bを同時に行う、前記[2]に記載の製造方法。
[4] 工程Bの後、工程Aを行う改質セルロースの製造方法であって、工程Aにおけるセルロース原料として、工程Bで得られた炭素数1以上5以下の置換基が導入されたセルロースを用いる、前記[2]に記載の製造方法。
[5] 前記工程Aを含む改質セルロースの製造方法で得られた改質セルロース。
[6] 前記[1]~[4]のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた改質セルロースと、樹脂とを混合して得られる樹脂組成物。
[7] 前記[6]に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【0008】
本発明によれば、水系の媒体を用いて疎水的なセルロースの改質を行うことができるため、有機溶媒や樹脂等との疎水性媒体との親和性が高い改質セルロースを、環境負荷が低く、製造コスト低減が見込める反応系を用いて製造する方法を提供することができる。
【0009】
本発明の改質セルロースの製造方法は、セルロース原料に対し、水および界面活性剤存在下、セルロース骨格の水酸基から水素原子を除いた基に炭素数6以上の置換基を導入する工程Aを有する。本発明の改質セルロースの製造方法では、置換基の導入工程を水および界面活性剤存在下で行うため、従来のように多量の有機溶媒や有機塩基を必要とせず、環境負荷が低く、製造コストを低減することができる。
本発明の改質セルロースの製造方法は、詳細なメカニズムについては不明だが、界面活性剤を系内に添加することで、セルロース原料と疎水性置換基の相溶性を高めることができ、置換基の反応選択率が向上したと推測される。
【0010】
(工程A)
本発明の製造方法は工程Aを有する。工程Aでは、セルロース原料に、炭素数6以上の置換基を有する化合物をエーテル化剤として反応させる。好ましくは、セルロース原料と塩基の混合物に、炭素数6以上の置換基を有する化合物をエーテル化剤として反応させる。以下、工程Aにおける各成分および反応条件について説明する。
【0011】
(セルロース原料)
本発明で用いられるセルロース原料は、木本系(針葉樹・広葉樹)、草本系(イネ科、アオイ科、マメ科の植物原料、ヤシ科の植物の非木質原料)、パルプ類(綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプ等)、紙類(新聞紙、段ボール、雑誌、上質紙等)等が挙げられる。なかでも、入手性及びコストの観点から、木本系、草本系が好ましい。本発明ではこれらの原料をそのまま用いてもよいし、後述する工程Bの後、工程Aを行う場合等においては、工程Bで得られた炭素数1以上5以下の置換基が導入されたセルロースをセルロース原料として用いてもよい。
【0012】
セルロース原料の形状は、取扱い性の観点から、繊維状、粉末状、球状、チップ状、フレーク状が好ましい。また、これらの混合物であってもよい。
【0013】
セルロース原料の平均繊維径は特に限定されないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、同様の観点から、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。
【0014】
セルロース原料の平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは1,000μm以上であり、より好ましくは1,500μm以上であり、同様の観点から、好ましくは5,000μm以下であり、より好ましくは3,000μm以下である。セルロース原料の平均繊維径及び平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0015】
(水)
水は工程Aにおける媒体としての役割を有すると考えられる。
【0016】
(その他の媒体)
工程Aにおいては、任意に親水性の媒体を存在させることができる。親水性の媒体としては、エタノール、イソプロパノール、t-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどが挙げられる。
【0017】
(界面活性剤)
本発明で用いられる界面活性剤としては、界面活性を有していれば特に制限はない。
【0018】
使用できる界面活性剤の種類としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。このうち、セルロース原料として未修飾のセルロース原料を使用する場合には、反応選択率向上の観点から、好ましくは陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤であり、より好ましくは陽イオン性界面活性剤である。また、セルロース原料として、セルロース骨格の一部の水酸基から水素原子を除いた基に炭素数1~5の置換基が導入されたセルロース原料を使用する場合には、反応選択率向上の観点から、好ましくは陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤である。
【0019】
界面活性剤が有する炭化水素基の有する炭素数としては、反応選択率向上の観点から、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上である。また、反応選択率向上および入手性の観点から、好ましくは40以下、より好ましくは36以下、さらに好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下である。炭化水素基としてはヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、トリチル基等のアラルキル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基が挙げられ、入手性の観点から、アルキル基、アラルキル基が好ましく、アルキル基がさらに好ましい。
【0020】
陽イオン性界面活性剤は、例えば、4級アンモニウム塩およびアルキルアミン塩が使用できる。入手性の観点から、4級アンモニウム塩が好ましい。陽イオン性界面活性剤が有する炭化水素基の好適な範囲は、前述の界面活性剤の有する炭化水素基と同じである。
【0021】
4級アンモニウム塩としては、反応選択率向上の観点から、好ましくは炭素数6以上のアルキル基を有し、より好ましくは炭素数8以上のアルキル基を有し、より好ましくは炭素数10以上のアルキル基を有する。
【0022】
4級アンモニウム塩の具体例としては、下記一般式(A-1)が挙げられる。
【0023】
【化1】
【0024】
式中、R11、R12、R13、R14はそれぞれ独立して、炭素数1以上の炭化水素基である。炭化水素基は例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ステアリル基、ベンジル基であって良い。このうち、反応選択率向上の観点から、R11、R12、R13、R14のうち少なくとも1つの炭化水素基がデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ステアリル基であるものが好ましく、R11、R12、R13、R14のうち少なくとも1つの炭化水素基がドデシル基であるものがより好ましい。4級アンモニウム塩のカウンターアニオンとしては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、ギ酸イオン等の有機酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン等の無機酸イオンが挙げられる。4級アンモニウム塩のカウンターアニオンとしては、より好ましくはハロゲン化物イオン、有機酸イオンであり、更に好ましくはハロゲン化物イオンである。ハロゲン化物イオンは、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化物イオンが挙げられ、塩化物イオン、臭化物イオンが好ましい。具体的には、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリドなどが例示される。
【0025】
アルキルアミン塩としては、反応選択率向上の観点から、好ましくは炭素数6以上のアルキル基を有し、より好ましくは炭素数8以上のアルキル基を有し、より好ましくは炭素数10以上のアルキル基を有する。
【0026】
アルキルアミン塩の具体例としては、下記一般式(A-2)が挙げられる。
15-NH (A-2)
【0027】
式中、R15はそれぞれ独立して、炭素数6以上の炭化水素基である。炭化水素基は例えば、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、2-エチルへキシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ステアリル基、ベンジル基であって良い。具体的には、ドデシルアミン酢酸塩、オクタデシルアミン酢酸塩などが挙げられる。
【0028】
アルキルアミン塩のカウンターアニオンとしては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、ギ酸イオン等の有機酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン等の無機酸イオンが挙げられる。カウンターアニオンとしては、より好ましくはハロゲン化物イオン、有機酸イオンであり、更に好ましくは有機酸イオンである。有機酸イオンは、酢酸イオンが好ましい。具体的には、ドデシルアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、オクタデシルアミン酢酸塩などが挙げられる。
【0029】
陰イオン性界面活性剤は、例えば、アルキルカルボン酸塩(式(B))、リン酸エステル塩(式(C))、アルキル硫酸エステル塩(式(D))、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(式(E))、アルキルベンゼンスルホン酸塩(式(F))が使用できる。入手性の観点から、好ましくはアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。反応選択率向上の観点から、界面活性剤構造中の側鎖(下式(B)~(F)におけるR22~R26)のうち、最も長いアルキル側鎖の炭素数が、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上である。入手性及びコストの観点から、好ましくは40以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下の陰イオン性界面活性剤である。
【0030】
21-COO (B)
【0031】
【化2】
【0032】
23-SO3- (D)

24-O-(AO)-SO3- (E)
【0033】
【化3】
【0034】
具体的には、反応選択率向上の観点から、ラウリル硫酸塩(C12)、ラウリル硫酸トリエタノールアミン(C12)、ラウリル硫酸アンモニウム(C12)、ポリエチレンラウリルエーテル硫酸塩(C12)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(C8-18)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン(C8-18)、ジ-2-エチルヘキシルスルホこはく酸塩(C8)、ジ-トリデシルスルホこはく酸塩(C13)、ドデシルベンゼンスルホン酸塩(C12)、ドデシルナフタレンスルホン酸塩(C12)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩(C8-C18)、オクタデシルカルボン酸塩(C8)、ドデシルカルボン酸塩(C12)、ステアリルカルボン酸塩(C18)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩(C8-18)が好ましい。カウンターカチオンとしては、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、トリエタノールアミンが好ましく、入手性の観点からより好ましくはNaイオン、Kイオンであり、更に好ましくはNaイオンである。
【0035】
非イオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の低分子糖の脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、アルキルガラクトシド等の低分子糖のアルキルエーテル化合物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミンが挙げられる。入手性の観点から、好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、より好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルである。反応選択率向上の観点から、界面活性剤構造中の側鎖のうち、最も長い側鎖の炭素数が、好ましくは8以上、より好ましくは9以上、さらに好ましくは10以上である。入手性及びコストの観点から、好ましくは40以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。具体的には、炭素数8のアルキル基を有する化合物としては、ポリオキシエチレン2-エチルへキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが挙げられる。炭素数12のアルキル基を有する化合物としては、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートが挙げられる。炭素数14のアルキル基を有する化合物としてはポリオキシエチレンミリスチルエーテルが挙げられる。炭素数16のアルキル基を有する化合物としては、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ソルビタンモノパルミレートが挙げられる。炭素数18のアルキル基を有する化合物としては、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、グリセロールモノステアレートが挙げられる。
【0036】
両性界面活性剤はアルキルベタイン、アルキルアミンオキサイドが使用でき、入手性の観点から、好ましくはアルキルベタインである。入手性及び反応選択率向上の観点から、界面活性剤構造中の側鎖のうち、最も長い側鎖の炭素数が、好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上である。入手性及びコストの観点から、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下の両性界面活性剤である。具体的には、炭素数12のアルキル基を有する化合物は、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイドが挙げられる。炭素数14のアルキル基を有する化合物は、テトラデシルジメチルアミンオキサイドが挙げられる。炭素数18のアルキル基を有する化合物は、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、オクタデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、ステアリルジメチルアミンオキサイドが挙げられる。
【0037】
(炭素数6以上の置換基)
本発明の改質セルロースの製造方法において導入される置換基は、セルロース骨格の水酸基から水素原子を除いた基と結合する炭素数6以上の置換基である。疎水性発現の観点から、前記置換基の炭素数は、好ましくは7以上、更に好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、入手性および反応性の観点から、好ましくは26以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下である。
【0038】
本発明の改質セルロースの製造方法において導入される置換基は、反応性の観点から、以下の一般式(1)、(2)、及び(3)で表される置換基であることが好ましい。これらの置換基は単独で又は任意の組み合わせで導入される。
-R (1)
-CH-CH(OH)-R (2)
-CH-CH(OH)-CH-(OA)-O-R (3)
〔式中、Rは炭素数6以上30以下の炭化水素基であり、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基であり、Rは炭素数3以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数2以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の炭化水素基である。〕
【0039】
一般式(1)におけるRは、炭素数6以上30以下の炭化水素基である。炭化水素基の好ましい炭素数は、疎水性発現の観点から、好ましくは7以上、より好ましくは8以上であり、入手性及び反応性の観点から、好ましくは26以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下である。具体的には、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、トリアコンチル基等の飽和アルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基等の不飽和アルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、トリチル基等の環状構造を有する置換基が例示される。
【0040】
一般式(2)におけるRは、炭素数4以上30以下の炭化水素基である。炭化水素基の好ましい炭素数は、疎水性発現の観点から、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上であり、入手性及び反応性の観点から、好ましくは26以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下である。具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、トリアコンチル基等の飽和アルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基等の不飽和アルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、トリチル基等の環状構造を有する置換基が例示される。
【0041】
一般式(3)におけるRは、炭素数3以上30以下の炭化水素基であるが、疎水性発現の観点から、好ましくは炭素数6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上であり、入手性及び反応性の観点から、好ましくは26以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下である。具体的には、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、トリアコンチル基等の飽和アルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基等の不飽和アルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、トリチル基等の環状構造を有する置換基が例示される。
【0042】
一般式(3)におけるAは、炭素数2以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の炭化水素基であり、隣接する酸素原子と結合してオキシアルキレン基を形成する。具体的には、エチレン基、プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0043】
一般式(3)におけるnは、(OA)n基の付加モル数を示す。nは0以上50以下の数である。入手性及びコストの観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上であり、同様の観点及び低極性溶媒との親和性の観点から、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは20以下、更に好ましくは15以下である。
【0044】
(エーテル化剤)
エーテル化剤は、反応性の観点から、反応性を有する環状構造基を有する化合物及びまたは有機ハロゲン化合物を用いることが好ましく、エポキシ基及び又はハロゲン化炭化水素基を有する化合物を用いることがより好ましい。以下に、前記一般式(1)、(2)、(3)で示した置換基を導入するための化合物を例示する。
【0045】
一般式(1)で表される置換基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(1A)で示されるハロゲン化炭化水素基を有する化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。なお、下記一般式(1A)におけるR及びその好適態様は、前記一般式(1)のRと同じである。
【0046】
X-R (1A)
【0047】
〔式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数6以上30以下の炭化水素基を示す〕
【0048】
一般式(1A)で示される化合物の具体例としては、1-クロロヘキサンおよびその異性体、1-クロロデカンおよびその異性体、1-クロロドデカンおよびその異性体、1-クロロヘキサデカンおよびその異性体、1-クロロオクタデカンおよびその異性体、1-クロロエイコサンおよびその異性体、1-クロロトリアコンサンおよびその異性体、1-クロロ-5-ヘキセンおよびその異性体、クロロシクロヘキサン、クロロベンゼン、ベンジルクロリド、ナフチルクロリド、トリチルクロリド、および上記化合物の塩素を臭素もしくはヨウ素に置換したものが挙げられる。
【0049】
一般式(2)で表される置換基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(2A)で示される酸化アルキレン化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。なお、下記一般式(2A)におけるRの詳細は、前記一般式(2)で説明したとおりである。
【0050】
【化4】
【0051】
〔式中、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基を示す〕
【0052】
一般式(2A)で示される化合物の具体例としては、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシ-9-デセン、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシ-17-オクタデセン、1,2-エポキシエイコサン、スチレンオキシド及びその誘導体が挙げられる。
【0053】
一般式(3)で表される置換基を有する化合物としては、例えば、下記一般式(3A)で示されるグリシジルエーテル化合物が好ましい。かかる化合物は公知技術に従って調製したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。なお、下記一般式(3A)におけるR、A、nの詳細は、前記一般式(3)で説明したとおりである。
【0054】
【化5】
【0055】
〔式中、Rは炭素数3以上30以下の炭化水素基、nは0以上50以下の数、Aは炭素数2以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の炭化水素基を示す〕
【0056】
一般式(3A)で示される化合物の具体例としては、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、イソステアリルグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、5-ヘキセニルグリシジルエーテル、9-デセニルグリシジルエーテル、9-オクタデセニルグリシジルエーテル、17-オクタデセニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリチルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルおよびこれらの誘導体が挙げられる。
【0057】
(塩基)
本発明の改質セルロースの製造方法では、前記セルロース原料に、エーテル化反応を進行させる観点から、塩基を混合することが好ましい。
【0058】
本発明で用いられる塩基としては、、無機塩基または有機塩基が使用できる。無機塩基としては、水を含む反応系においてエーテル化反応を進行させる観点から、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましい。中でも、入手性およびコストの観点から好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムであり、更に好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムであり、特に好ましくは水酸化ナトリウムである。また、有機塩基としては水を含む反応系においてエーテル化反応を進行させる観点から、水酸化第4級アンモニウムから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。中でも、入手性およびコストの観点から、好ましくはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、更に好ましくは、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)である。
【0059】
セルロース原料と塩基の混合は、均一に混合できるのであれば、温度や時間は特に制限はない。
【0060】
(エーテル化反応)
エーテル化剤とセルロース原料とのエーテル化反応は、水および界面活性剤の存在下で、両者を混合することにより行うことができる。
操作手順としては、例えば、セルロース原料に水、界面活性剤、及び必要に応じて水酸化ナトリウム等の塩基をこの順序で加え、30分以上室温にて混合した後、エーテル化剤を添加して加熱混合することで反応を行う方法が例示される。この手順はセルロース原料や界面活性剤、エーテル化剤が均一に混合されていれば、順序を問わない。混合時間も反応のスケールや使用するエーテル化剤の種類や量等によって一概には決められない。均一に反応を行う観点、及び反応時の熱分布の偏りを解消する観点から、撹拌翼やマグネチックスターラー等を用いて適宜撹拌させながら反応を行ってもよい。エーテル化剤はこの一工程で二種類以上添加しても良い。
【0061】
水の添加量は、セルロース原料や置換基を導入するための化合物の種類によって一概には決定されないが、セルロース原料100質量部に対して、反応性の観点から、好ましくは15質量部以上であり、より好ましくは30質量部以上であり、更に好ましくは50質量部以上、更に好ましくは75質量部以上、更に好ましくは100質量部以上であり、生産性の観点から、好ましくは10,000質量部以下、より好ましくは7,500質量部以下、更に好ましくは5,000質量部以下である。
【0062】
界面活性剤の添加量は、セルロース原料の無水グルコースユニット(以下、「AGU」と略記する場合がある。)1molあたり、エーテル化反応を進行させるために最適な界面活性剤濃度の観点から、好ましくは0.005当量以上、より好ましくは0.01当量以上、更に好ましくは0.03当量以上であり、製造コストの観点から、好ましくは5当量以下、より好ましくは1当量以下、更に好ましくは0.1当量以下、更に好ましくは0.05当量以下である。
【0063】
また、界面活性剤の添加量は、セルロース原料の無水グルコースユニット1molあたり、上記と同様の観点から、好ましくは0.005mol以上、より好ましくは0.01mol以上、更に好ましくは0.03mol以上であり、製造コストの観点から、好ましくは5mol以下、より好ましくは1mol以下、更に好ましくは0.1mol以下、更に好ましくは0.05mol以下である。
【0064】
エーテル化剤の添加量は、得られる改質セルロースにおける置換基の所望の導入の程度および使用するエーテル化剤の構造によって一概には決定できないが、例えば、改質セルロースを樹脂組成物に適用した際に得られる樹脂組成物の成形体の機械的強度の観点から、セルロース原料の無水グルコースユニット1molあたり、好ましくは10.0当量以下であり、より好ましくは8.0当量以下であり、更に好ましくは7.0当量以下であり、更に好ましくは6.0当量以下であり、好ましくは0.02当量以上であり、より好ましくは0.05当量以上であり、更に好ましくは0.1当量以上であり、更に好ましくは0.3当量以上であり、更に好ましくは0.5当量以上である。ここで、2種類以上のエーテル化剤を使用する場合、エーテル化剤の添加量は個々のエーテル化剤の合計量である。
【0065】
また、エーテル化剤の添加量は、上記と同様の観点から、セルロース原料の無水グルコースユニット1molあたり、好ましくは10.0mol以下であり、より好ましくは8.0mol以下であり、更に好ましくは7.0mol以下であり、更に好ましくは6.0mol以下であり、好ましくは0.02mol以上であり、より好ましくは0.05mol以上であり、更に好ましくは0.1mol以上であり、更に好ましくは0.3mol以上であり、更に好ましくは0.5mol以上である。
【0066】
工程Aにおける全成分の混合物中のエーテル化剤の濃度は、得られる改質セルロースにおける置換基の所望の導入の程度および使用するエーテル化剤の構造によって一概には決定できないが、反応効率の観点から、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上であり、一方、製造効率の観点から、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下であり、更に好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは55質量%以下であり、更に好ましくは52質量%以下である。
【0067】
塩基の添加量は、セルロース原料の無水グルコースユニット1molあたり、エーテル化反応を進行させる観点から、好ましくは0.01当量以上、より好ましくは0.05当量以上、更に好ましくは0.1当量以上、更に好ましくは0.2当量以上であり、製造コストの観点から、好ましくは10当量以下、より好ましくは8当量以下、更に好ましくは5当量以下、更に好ましくは3当量以下である。
【0068】
また、塩基の添加量は、セルロース原料の無水グルコースユニット1molあたり、上記と同様の観点から、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.05mol以上、更に好ましくは0.1mol以上、更に好ましくは0.2mol以上であり、製造コストの観点から、好ましくは10mol以下、より好ましくは8mol以下、更に好ましくは5mol以下、更に好ましくは3mol以下である。
【0069】
混合条件としては、セルロース原料やエーテル化剤が均一に混合され、十分に反応が進行できるのであれば特に制限はなく、連続的な混合処理を行っても行わなくてもよい。比較的大きな反応容器を用いる場合には、反応温度を制御する観点から、適宜攪拌を行ってもよい。
【0070】
反応温度としては、セルロース原料やエーテル化剤の種類及び目標とする置換基導入の程度によって一概には決定されないが、反応性を向上させる観点から、好ましくは25℃以上であり、より好ましくは30℃以上であり、更に好ましくは35℃以上であり、更に好ましくは40℃以上、更に好ましくは45℃以上であり、熱分解を抑制する観点から、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは110℃以下であり、更に好ましくは100℃以下であり、更に好ましくは90℃以下であり、更に好ましくは80℃以下であり、更に好ましくは70℃以下である。また、必要に応じて適宜昇温・降温過程を設けてもよい。
【0071】
反応時間としては、セルロース原料やエーテル化剤の種類及び目標とする導入の程度によって一概には決定されないが、反応性の観点から、好ましくは0.1時間以上であり、より好ましくは0.5時間以上であり、更に好ましくは1時間以上であり、更に好ましくは2時間以上であり、更に好ましくは4時間以上であり、生産性の観点から、好ましくは60時間以下であり、より好ましくは48時間以下であり、更に好ましくは36時間以下である。
【0072】
反応後は、未反応の化合物や塩基等を除去するために、適宜後処理を行うことができる。該後処理の方法としては、例えば、未反応の塩基を酸(有機酸、無機酸等)で中和し、その後、未反応の化合物や塩基が溶解する溶媒を用いて洗浄することができる。所望により、更に乾燥(真空乾燥等)を行ってもよい。
【0073】
(その他の工程)
本発明の改質セルロースの製造方法は、前記工程Aの他、任意に、炭素数1以上5以下の置換基を導入する工程(工程B)、水以外の媒体を含有する工程、微細化処理工程などの工程を有していてもよい。
【0074】
(工程B)
工程Bは、セルロース骨格の水酸基から水素原子を除いた基に炭素数1以上5以下の置換基が導入されたセルロース原料を調製する工程である。
【0075】
工程Bは、公知の方法や、前記工程Aと同様の方法で行うことができる。導入される置換基としては、下記一般式(4)、(5)、及び(6)で表される置換基が例示される。即ち、工程Bの具体的態様として、セルロース原料に対し、水および界面活性剤存在下、セルロース骨格の水酸基から水素原子を除いた基に下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基を導入する工程が例示される。なお、下記一般式(4)、(5)、及び(6)で表される置換基を導入するためのエーテル化剤としては、前記一般式(1)、(2)、及び(3)と同様に、下記R、R、Rを有する、ハロゲン化炭化水素基を有する化合物、酸化アルキレン化合物、グリシジルエーテル化合物などを使用することができる。また、工程Bにおいても、工程Aと同様、任意に親水性の媒体を存在させることができる
【0076】
-R (4)
-CH-CH(OH)-R (5)
-CH-CH(OH)-CH-(OA)-O-R (6)
〔式中、Rは炭素数1以上5以下の炭化水素基を示し、Rは水素、または炭素数1以上3以下の炭化水素基、Rは水素、または炭素数1以上2以下の炭化水素基、nは0以上2以下の数、Aは炭素数2以上6以下の2価の炭化水素基を示す〕
【0077】
工程Bは、工程Aと同時に行うこともできる。従って、工程Bを含む場合の改質セルロースの製造方法としては、セルロース原料に対し、工程B及び工程Aを同時に、又は工程B、工程Aの順番で行う製造方法が挙げられる。工程Bで得られた炭素数1以上5以下の置換基が導入されたセルロースを前記の炭素数6以上の置換基を導入する工程Aで用いることで、置換基の反応選択率がより好ましいものとなる。
【0078】
(微細化処理工程)
本発明の改質セルロースの製造方法により得られる改質セルロースは、さらに微細化処理が行われてもよい。例えば、マスコロイダー等の磨砕機を用いた処理や溶媒中で高圧ホモジナイザー等を用いた処理を行うことで微細化することができる。
【0079】
(改質セルロース)
本発明の改質セルロースの製造方法により得られる改質セルロースは、炭素数6以上の置換基がエーテル結合を介してセルロースに導入されたものである。本発明の改質セルロースの製造方法により得られる改質セルロースの態様としては、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維、セルロースI型結晶構造を有さない改質セルロースが挙げられる。樹脂に機械物性を付与する観点から、好ましくはセルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維である。
【0080】
(樹脂組成物)
本発明の改質セルロースの製造方法により得られる改質セルロースは、樹脂(例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂など)と混合して、樹脂組成物として用いることができる。樹脂は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。また、樹脂含有組成物を溶媒キャスト法、紡糸、押出成形、射出成形、プレス成形等の公知の成形法を施すことによって、成形体を調製することができる。本明細書において、かかる樹脂組成物及び樹脂成形体は、本発明に包含される。
【0081】
熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸樹脂等の飽和ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、フェノキシ樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いても良い。これらの中でも、本発明の効果を発現する観点から、飽和ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂が好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル系樹脂とは、メタクリル系樹脂及びアクリル系樹脂を含むものを意味する。
【0082】
硬化性樹脂としては、光硬化性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂が好ましい。
【0083】
光硬化性樹脂は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線照射により、ラジカルやカチオンを発生する光重合開始剤を用いることで重合反応が進行する。
【0084】
前記光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物、2,3-ジアルキルジオン類化合物類、ジスルフィド化合物、チウラム化合物類、フルオロアミン化合物等が挙げられる。
【0085】
光重合開始剤で、例えば、単量体(単官能単量体、多官能単量体)、反応性不飽和基を有するオリゴマー又は樹脂等を重合することができる。
【0086】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂;フェノール樹脂;ユリア樹脂;メラミン樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ジアリルフタレート樹脂;ポリウレタン樹脂;ケイ素樹脂;ポリイミド樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらの中では、本発明の効果を発現する観点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。
【0087】
前記樹脂成分にエポキシ樹脂を用いる場合は、硬化剤を使用することが好ましい。硬化剤を配合することによって、樹脂組成物から得られる成形材料を強固に成形することができ、機械的強度を向上させることができる。尚、硬化剤の含有量は、使用する硬化剤の種類により適宜設定すればよい。
【0088】
セルロース系樹脂としては、酢酸セルロース(セルロースアセテート)、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース混合アシレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;硝酸酢酸セルロース等の有機酸無機酸混酸エステル;アセチル化ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエーテルエステルなどが挙げられる。
【0089】
ゴム系樹脂としては、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴムが好ましい。
【0090】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ブチルゴム、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体ゴム、クロロプレンゴム及び変性天然ゴム等が挙げられる。変性天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム、水素化天然ゴム等が挙げられる。非ジエン系ゴムとしては、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、多硫化ゴム、エピクロルヒドリンゴムなどが挙げられる。
【0091】
樹脂組成物における改質セルロースの配合量は、樹脂組成物の成形体に機械物性を発現する観点から、樹脂100質量部に対して、未改質のセルロース換算で、好ましくは0.05質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上であり、更に好ましくは0.3質量部以上であり、更に好ましくは0.5質量部以上であり、更に好ましくは1質量部以上である。一方、製造コストの観点から、好ましくは60質量部以下であり、より好ましくは50質量部以下であり、更に好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
【0092】
樹脂組成物における樹脂の配合量は、樹脂本来の性能を発揮させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、一方、改質セルロースの添加効果を発揮させる観点から、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0093】
〔その他の成分〕
本発明の改質セルロースには、用途に応じてその他の成分、例えば、可塑剤、硬化剤、硬化促進剤、結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、;香料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等が、含まれていても構わない。さらに、他の高分子材料や他の組成物を添加することも可能である。
【0094】
(結晶化度)
本発明の改質セルロースの製造方法により得られる改質セルロースの結晶化度は、改質セルロースを樹脂組成物に適用した際に得られる成形体の強度発現の観点から、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上であり、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下であり、より好ましくは85%以下であり、更に好ましくは80%以下であり、更に好ましくは75%以下である。なお、本明細書において、セルロースの結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、後述の実施例に記載のX線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0095】
(モル置換度(MS))
本発明の改質セルロースの製造方法により得られる改質セルロースにおいて、セルロースの無水グルコースユニット1モルに対する炭素数6以上の置換基が導入されたモル量(モル置換度:MS)は、疎水性発現の観点から、好ましくは0.001以上であり、より好ましくは0.005以上であり、より好ましくは0.01以上であり、更に好ましくは0.03以上である。一方、選択率及びコストの観点から、MSとしては、好ましくは3以下であり、より好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2以下である。ここで、炭素数6以上の置換基が複数種の置換基で構成されている場合、炭素数6以上の置換基のMSは各置換基のMSの合計である。本明細書において、モル置換度(MS)は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0096】
(平均繊維径)
本発明の改質セルロースの製造方法により得られる改質セルロースが改質セルロース繊維である場合の平均繊維径は、置換基の種類に関係なく、好ましくは5μm以上である。取扱い性、入手性、及びコストの観点から、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上であり、更に好ましくは15μm以上である。また、上限は特に設定されないが、取扱い性の観点から、好ましくは10,000μm以下であり、より好ましくは5,000μm以下であり、更に好ましくは1,000μm以下であり、更に好ましくは500μm以下であり、より更に好ましくは100μm以下である。なお、前記微細化処理工程により、ナノファイバーとすることもできる。改質セルロース繊維の平均繊維径は、前記したセルロース原料と同様にして測定することができる。詳細は、実施例に記載の通りである。
【0097】
上述した実施形態に関し、本発明は、さらに以下の、改質セルロース、改質セルロースの製造方法、樹脂組成物及び成形体を開示する。
【0098】
<1> 下記工程Aを含む改質セルロースの製造方法。
工程A:セルロース原料に対し、水および界面活性剤存在下、セルロース骨格の水酸基から水素原子を除いた基に炭素数6以上の置換基を導入する工程
【0099】
<2> 炭素数6以上の置換基が、下記一般式(1)、(2)、及び(3)からなる群より選択される1種以上の置換基を含む、前記<1>に記載の製造方法。
-R (1)
-CH-CH(OH)-R (2)
-CH-CH(OH)-CH-(OA)-O-R (3)
〔式中、Rは炭素数6以上30以下の炭化水素基であり、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基であり、Rは炭素数3以上30以下の炭化水素基であり、nは0以上50以下の数であり、Aは炭素数2以上6以下の直鎖又は分岐鎖の2価の炭化水素基である。〕
<3> 炭素数6以上の置換基の炭素数が、好ましくは7以上26以下、より好ましくは8以上22以下、更に好ましくは10以上18以下である、前記<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4> さらに下記工程Bを有する、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の製造方法。
工程B:セルロース原料に対し、水および界面活性剤存在下、セルロース骨格の水酸基から水素原子を除いた基に炭素数1以上5以下の置換基を導入する工程
<5> 工程A及び工程Bを同時に行う、前記<4>に記載の製造方法。
<6> 工程Bの後、工程Aを行う改質セルロースの製造方法であって、工程Aにおけるセルロース原料として、工程Bで得られた炭素数1以上5以下の置換基が導入されたセルロースを用いる、前記<4>又は<5>に記載の製造方法。
<7> 炭素数1以上5以下の置換基が、下記一般式(4)、(5)及び(6)からなる群より選択される1種以上の置換基である、前記<4>~<6>のいずれか1つに記載の製造方法。
-R (4)
-CH-CH(OH)-R (5)
-CH-CH(OH)-CH-(OA)-O-R (6)
〔式中、Rは炭素数1以上5以下の炭化水素基を示し、Rは水素、または炭素数1以上3以下の炭化水素基、Rは水素、または炭素数1以上2以下の炭化水素基、nは0以上2以下の数、Aは炭素数2以上6以下の2価の炭化水素基を示す〕
<8> セルロース原料の平均繊維径が、好ましくは5μm以上500μm以下、より好ましくは7μm以上300μm以下である、前記<1>~<7>のいずれか1つに記載の製造方法。
<9> セルロース原料の平均繊維長が、好ましくは1,000μm以上5,000μm以下、より好ましくは1,500μm以上3,000μm以下である、前記<1>~<8>のいずれか1つに記載の製造方法。
<10> 界面活性剤が、好ましくは、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤であり、より好ましくは陽イオン性界面活性剤であり、更に好ましくは4級アンモニウム塩である、前記<1>~<9>のいずれか1つに記載の製造方法。
【0100】
<11> 界面活性剤が有する炭化水素基の炭素数が、好ましくは6以上40以下、より好ましくは7以上36以下、さらに好ましくは8以上30以下、さらに好ましくは10以上20以下である、前記<1>~<10>のいずれか1つに記載の製造方法。
<12> 界面活性剤が有する炭化水素基が、好ましくは、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、トリチル基等のアラルキル基;及びヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基である、前記<1>~<11>のいずれか1つに記載の製造方法。
<13> 界面活性剤の添加量が、セルロース原料のAGU 1molあたり、好ましくは0.005当量以上5当量以下、より好ましくは0.01当量以上1当量以下、更に好ましくは0.03当量以上0.1当量以下、更に好ましくは0.03当量以上0.05当量以下である、前記<1>~<12>のいずれか1つに記載の製造方法。
<14> 界面活性剤の添加量が、セルロース原料のAGU 1molあたり、好ましくは0.005mol以上5mol以下、より好ましくは0.01mol以上1mol以下、更に好ましくは0.03mol以上0.1mol以下、更に好ましくは0.03mol以上0.05mol以下である、前記<1>~<13>のいずれか1つに記載の製造方法。
<15> エーテル化剤の添加量が、セルロース原料のAGU 1molあたり、好ましくは0.02当量以上10.0当量以下、より好ましくは0.05当量以上8.0当量以下、更に好ましくは0.1当量以上7.0当量以下、更に好ましくは0.3当量以上6.0当量以下、更に好ましくは0.5当量以上6.0当量以下である、前記<1>~<14>のいずれか1つに記載の製造方法。
<16> エーテル化剤の添加量が、セルロース原料のAGU 1molあたり、好ましくは0.02mol以上10.0mol以下、より好ましくは0.05mol以上8.0mol以下、更に好ましくは0.1mol以上7.0mol以下、更に好ましくは0.3mol以上6.0mol以下、更に好ましくは0.5mol以上6.0mol以下である、前記<1>~<15>のいずれか1つに記載の製造方法。
<17> 工程Aにおける全成分の混合物中のエーテル化剤の濃度が、好ましくは1質量%以上80質量%以下、より好ましくは5質量%以上70質量%以下、更に好ましくは10質量%以上60質量%以下、更に好ましくは10質量%以上55質量%以下、更に好ましくは10質量%以上52質量%以下である、前記<1>~<16>のいずれか1つに記載の製造方法。
<18> エーテル化反応における塩基の添加量が、セルロース原料のAGU 1molあたり、好ましくは0.01当量以上10当量以下、より好ましくは0.05当量以上8当量以下、更に好ましくは0.1当量以上5当量以下、更に好ましくは0.2当量以上3当量以下である、前記<1>~<17>のいずれか1つに記載の製造方法。
<19> エーテル化反応における塩基の添加量が、セルロース原料のAGU 1molあたり、好ましくは0.01mol以上10mol以下、より好ましくは0.05mol以上8mol以下、更に好ましくは0.1mol以上5mol以下、更に好ましくは0.2mol以上3mol以下である、前記<1>~<18>のいずれか1つに記載の製造方法。
<20> 改質セルロースがセルロースI型結晶構造を有するものである、前記<1>~<19>のいずれか1つに記載の製造方法。
【0101】
<21> 改質セルロースの結晶化度が、好ましくは10%以上90%以下、より好ましくは15%以上85%以下、更に好ましくは20%以上80%以下、更に好ましくは20%以上75%以下である、前記<1>~<20>のいずれか1つに記載の製造方法。
<22> 改質セルロースが改質セルロース繊維であって、該改質セルロース繊維の平均繊維径が、好ましくは5μm以上10,000μm以下、より好ましくは7μm以上5,000μm以下、更に好ましくは10μm以上1,000μm以下、更に好ましくは15μm以上500μm以下、更に好ましくは15μm以上100μm以下である、前記<1>~<21>のいずれか1つに記載の製造方法。
<23> 改質セルロースにおける、セルロースのAGU 1モルに対する炭素数6以上の置換基のモル置換度(MS)が、好ましくは0.001MS以上、より好ましくは0.005MS以上、より好ましくは0.01MS以上、更に好ましくは0.03MS以上である、前記<1>~<22>のいずれか1つに記載の製造方法。
<24> 前記工程Aを含む改質セルロースの製造方法によって得られた改質セルロース。
<25> 工程Aにおける界面活性剤が、炭素数6以上40以下の炭化水素基を有する界面活性剤である、前記<24>に記載の改質セルロース。
<26> 界面活性剤が、好ましくは、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤であり、より好ましくは陽イオン性界面活性剤であり、更に好ましくは4級アンモニウム塩である、前記<25>に記載の改質セルロース。
<27> 界面活性剤が有する炭化水素基の炭素数が、好ましくは6以上40以下、より好ましくは7以上36以下、さらに好ましくは8以上30以下、さらに好ましくは10以上20以下である、前記<25>又は<26>に記載の改質セルロース。
<28> 界面活性剤が有する炭化水素基が、好ましくは、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、トリチル基等のアラルキル基;及びヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基である、前記<25>~<27>のいずれか1つに記載の改質セルロース。
<29> 前記<1>~<23>のいずれか1つに記載の製造方法によって得られた改質セルロース。
<30> 前記<1>~<23>のいずれか1つに記載の製造方法によって得られた改質セルロースと、樹脂とを混合して得られる樹脂組成物。
<31> 前記<30>に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【実施例
【0102】
以下、製造例、実施例、比較例及び試験例を示して本発明を具体的に説明する。なお、これらの実施例等は単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「室温」とは25℃を示す。
【0103】
[セルロース等の結晶構造の確認]
セルロース原料及び改質セルロースの結晶構造は、回折計(リガク社製、商品名:RigakuRINT 2500VC X-RAY diffractometer)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
測定ペレット調製条件:錠剤成形機で10-20MPaの範囲で圧力を印加することで、面積320mm×厚さ1mmの平滑なペレットを調製する。
X線回折分析条件:ステップ角0.01°、スキャンスピード10°/min、測定範囲:回折角2θ=5~45°
X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:40kv、管電流:120mA
ピーク分割条件:バックグラウンドノイズを除去した後、2θ=13-23°の間の誤差が5%以内に収まるようにガウス関数でフィッティングする。
セルロースI型結晶構造の結晶化度は上述のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積を用いて以下の式(A)に基づいて算出する。
セルロースI型結晶化度(%)=[Icr/(Icr+Iam)]×100 (A)
〔式中、Icrは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22-23°)の回折ピークの面積、Iamはアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折ピークの面積を示す〕
【0104】
[モル置換度(MS)の測定]
測定対象のセルロース中に含有される置換基の含有量%(質量%)を、Analytical Chemistry, Vol.51, No.13, 2172(1979)、「第十五改正日本薬局方(ヒドロキシプロピルセルロースの分析方法の項)」等に記載の、セルロースエーテルのアルコキシ基の平均付加モル数を分析する手法として知られるZeisel法に準じて算出する。以下に手順を示す。
【0105】
(i)200mLメスフラスコにn-テトラデカン0.1gを加え、ヘキサンにて標線までメスアップを行い、内標溶液を調製する。
(ii)精製、乾燥を行った測定対象のセルロース70mg、アジピン酸80mgを10mLバイアル瓶に精秤し、ヨウ化水素酸2mLを加えて密栓する。
(iii)上記バイアル瓶中の混合物を、スターラーチップにより攪拌しながら、160℃のブロックヒーターにて1時間加熱する。
(iv)加熱後、バイアルに内標溶液2mL、ジエチルエーテル2mLを順次注入し、室温で1分間攪拌する。
(v)バイアル瓶中の2相に分離した混合物の上層(ジエチルエーテル層)をガスクロマトグラフィー(SHIMADZU社製、商品名:GC2010Plus)にて分析する。
(vi)測定対象のセルロースを、その改質に用いたエーテル化剤5mg、10mg、15mgにそれぞれ変更する以外は、(ii)~(v)と同様の方法で分析を行い、エーテル化剤の検量線を作成する。
(vii)作成した検量線と、測定対象のセルロースの分析結果から、測定対象のセルロース中に含有される置換基を定量する。分析条件は以下のとおりである。
【0106】
カラム:アジレント・テクノロジー社製、商品名:DB-5(12m、0.2mm×0.33μm)
カラム温度:30℃(10min Hold)→10℃/min→300℃(10min Hold)
インジェクター温度:300℃
検出器温度:300℃
打ち込み量:1μL
【0107】
得られた置換基含有量から、下記数式(1)を用いてモル置換度(MS)(無水グルコースユニット1モルに対する置換基モル量)を算出する。
数式(1)
MS=(W/Mw)/((100-W)/162.14)
W:測定対象のセルロース中の工程A又は工程Bで導入された置換基の含有量(質量%)
Mw:導入工程で導入したエーテル化剤の分子量(g/mol)
また、一工程中で二種類の置換基AおよびBを導入し、各々のMSをまとめて算出する場合、下記数式(2)及び(3)を用いて各々のモル置換度を算出することができる。
数式(2)
MS(A)=(A/Mw)/((100-A-B)/162.14)
数式(3)
MS(B)=(B/Mw)/((100-A-B)/162.14)
A:測定対象のセルロース中の一工程において二種の置換基AおよびBを導入した際の置換基A含有量(質量%)
B:測定対象のセルロース中の一工程において二種の置換基AおよびBを導入した際の置換基B含有量(質量%)
Mw:導入工程で導入したエーテル化剤の分子量(g/mol)
【0108】
[セルロース原料及び改質セルロースの平均繊維径及び平均繊維長]
測定対象のセルロースに媒体を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定する。セルロースを100本以上測定し、それらの平均ISO繊維径を平均繊維径として、平均ISO繊維長を平均繊維長として算出する。
【0109】
セルロース原料1の製造例<NBKP粉砕品>
針葉樹の漂白クラフトパルプ(以後NBKPと略称、ウエストフレザー社製、「ヒントン」、繊維状、平均繊維径24μm、セルロース含有量90質量%、水分含有量5質量%)を粉砕した粉末状セルロース(平均メジアン径89μm、セルロース含有量90質量%、水分含有量5質量%)を、セルロース原料1として用いた。
【0110】
セルロース原料2の製造例<酸化ブチレン付加セルロース>
絶乾したNBKP粉砕品(セルロース原料1)250.0gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液267.1g(NaOH0.28当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として酸化ブチレン333.8g(和工純薬社製、3当量/AGU)を添加し、密閉した後に50℃、7hニーダー回転機器を用いて撹拌反応を行った。反応後、酢酸で中和し、水、アセトンでそれぞれ十分に洗浄することで不純物を取り除き、70℃で一晩真空乾燥を行うことで、セルロース原料2(酸化ブチレンのMS0.26)を得た。
【0111】
実施例1
セルロース原料1を1.0gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液10.7g(NaOH2.77当量/AGU)、界面活性剤としてドデシルトリメチルアンモニウムクロリド0.069g(富士フイルムワコーケミカル社製、0.04当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤として2-エチルヘキシルグリシジルエーテル5.18g(東京化成工業社製、4.5当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24hブロックヒーターによる撹拌反応を行った。反応後、熱IPAで洗浄した後、酢酸で中和し、水、アセトンでそれぞれ十分に洗浄することで不純物を取り除き、70℃で一晩真空乾燥を行うことで、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。
【0112】
実施例2~3
2-エチルヘキシルグリシジルエーテルをラウリルグリシジルエーテル(四日市合成社製、実施例2)、ステアリルグリシジルエーテル(花王社製、実施例3)に変更した点以外は実施例1と同様の方法で、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。活性剤の量は4.5当量/AGUとした。
【0113】
実施例4
ラウリルグリシジルエーテルの使用量を1.0当量/AGUに変更した点以外は実施例2と同様の方法で、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。
【0114】
比較例1~4
界面活性剤を未添加に変更した点及び当量以外は実施例1~4と同様の方法で、それぞれセルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。
【0115】
実施例5~7、9~12(ただし、実施例5は参考例5であり、実施例9~12はそれぞれ参考例9~12である。)
使用した界面活性剤を表4に記載のものに変更した点以外は実施例4と同様の方法で、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。活性剤の量は1.0当量/AGUとした。
【0116】
実施例8
セルロース原料1を1.0gに25質量%のTBAH水溶液13.3g(Combi-Blocks社製TBAH2.17当量/AGU)、界面活性剤としてドデシルトリメチルアンモニウムクロリド0.069g(富士フイルムワコーケミカル社製、0.04当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤としてラウリルグリシジルエーテル2.9g(四日市合成社製、1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24hブロックヒーターによる撹拌反応を行った。反応後、熱IPAで洗浄した後、酢酸で中和し、水、アセトンでそれぞれ十分に洗浄することで不純物を取り除き、70℃で一晩真空乾燥を行うことで、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。
【0117】
実施例13~14(ただし、実施例13~14はそれぞれ参考例13~14である。)
2-エチルヘキシルグリシジルエーテルをフェニルグリシジルエーテル(東京化成工業社製、1.0当量/AGU、実施例13)、o-メチルフェニルグリシジルエーテル(Sigma-Aldrich社製、1.0当量/AGU、実施例14)に変更した点以外は実施例1と同様の方法で、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。
【0118】
比較例5~6
界面活性剤を未添加に変更した点以外は実施例13~14と同様の方法で、それぞれセルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。
【0119】
実施例15(ただし、実施例15は参考例15である。)
セルロース原料2を1.0gに6.4質量%の水酸化ナトリウム水溶液10.7g(NaOH3.00当量/AGU)、界面活性剤としてドデシルトリメチルアンモニウムクロリド0.063g(富士フイルムワコーケミカル社製、0.04当量/AGU)を添加し、均一に混合した後、エーテル化剤としてラウリルグリシジルエーテル1.38g(四日市合成社製、1.0当量/AGU)を添加し、密閉した後に70℃、24hブロックヒーターによる撹拌反応を行った。反応後、熱IPAで洗浄した後、酢酸で中和し、水、アセトンでそれぞれ十分に洗浄することで不純物を取り除き、70℃で一晩真空乾燥を行うことで、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。
【0120】
比較例7
界面活性剤を未添加に変更した点以外は実施例15と同様の方法で、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。
【0121】
実施例16(ただし、実施例16は参考例16である。)
ラウリルグリシジルエーテルを、ステアリルグリシジルエーテル(花王社製)に変更した点以外は実施例15と同様の方法で、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。
【0122】
実施例17~21(ただし、実施例17~21はそれぞれ参考例17~21である。)
使用した界面活性剤を表7に記載のものに変更した点以外は実施例15と同様の方法で、セルロースI型結晶構造を有する改質セルロース繊維を得た。
【0123】
上記で明示したものの他、各実施例で使用した界面活性剤の詳細を以下に示す。なお、実施例及び比較例に記載した各成分の添加量は、有効成分の量である。
オクチルトリメチルアンモニウムクロリド(東京化成工業社製)
コータミンD-10P(花王社製)ジデシルジメチルアンモニウムクロリド
ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド(Combi-Blocks社製)
ネオぺレックスG-15(花王社製)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
ぺレックスTR(花王社製)ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム
エマルゲン102KG(花王社製)ポリオキシエチレンラウリルエーテル
ラテムルE-150(花王社製)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム
エマルゲン150(花王社製)ポリオキシエチレンラウリルエーテル
アンヒトール20AB(花王社製)ラウリン酸アミドプロピルベタイン
【0124】
各実施例・比較例の改質セルロース繊維は、下記一般式(3a)で示される置換基を有するものであり、Rの詳細については表1~7に示す。
-CH-CH(OH)-CH-O-R (3a)
【0125】
反応選択率(相対値)
反応選択率は、1グルコースユニット当たりに付加した炭素数6以上の置換基の付加モル数をそれぞれ使用したエーテル化剤の使用モル量で割った値である。実施例1~3に関してはそれぞれ比較例1~3を、実施例4~12に関しては比較例4を、実施例13に関しては比較例6を、実施例14に関しては比較例7を、実施例15~21に関しては比較例8の反応選択率を1としたときの相対値を併せて示す。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
【表4】
【0130】
【表5】
【0131】
【表6】
【0132】
【表7】
【0133】
表1~7に示すように、界面活性剤を用いた各実施例の反応選択率は、NBKP粉砕品を原料として用いた場合(セルロース原料1)及び工程Bにより酸化ブチレンを付加したセルロースをセルロース原料として用いた場合(セルロース原料2)のいずれにおいても、界面活性剤を用いない各比較例の反応選択率よりも優れていたことが分かる。また、実施例4~8と実施例9~12の対比から、NBKP粉砕品を原料として用いた場合には、陽イオン性界面活性剤を用いた場合の反応選択率が特に優れていたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の製造方法によって得られた改質セルロース繊維を樹脂と複合化して得られた成形体は、高い機械強度と靱性を併せ持つことから、日用雑貨品、家電部品、家電部品用梱包資材、自動車部品等の様々な工業用途に好適に使用することができる。