(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】多成分有機金属構造体およびその他の有機金属構造体ならびにこれらの使用方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/06 20060101AFI20240826BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20240826BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240826BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20240826BHJP
B01D 53/26 20060101ALI20240826BHJP
C07D 207/327 20060101ALI20240826BHJP
C07D 333/40 20060101ALI20240826BHJP
C07D 307/68 20060101ALI20240826BHJP
C07D 213/80 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C07F5/06 D
B01J20/22 A
B01J20/34 H
B01D53/04 220
B01D53/26 200
C07D207/327 CSP
C07D333/40
C07D307/68
C07D213/80
(21)【出願番号】P 2021529709
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(86)【国際出願番号】 US2019063442
(87)【国際公開番号】W WO2020112899
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-10-27
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504256408
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【住所又は居所原語表記】1111 Franklin Street,12th Floor,Oakland,California 94607 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ヤギー,オマー エム.
(72)【発明者】
【氏名】ハニケル,ニキータ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ハオ
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-080146(JP,A)
【文献】特表2017-509607(JP,A)
【文献】特表2013-512223(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0261882(US,A1)
【文献】国際公開第2016/186454(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0171604(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107722290(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/
B01J 20/
B01D 53/
C07D 207/
C07D 333/
C07D 307/
C07D 213/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返しコアを含む有機金属構造体(MOF)であって、
前記コアが、有機配位子に連結した二次構造単位を含み、
前記金属が、アルミニウムであり、
前記二次構造単位が、アルミニウムまたは水酸化アルミニウムを含み、
前記有機配位子が、直鎖状のジトピック構造、V字形状のジトピック構造、三角形状のトリトピック構造、正方形状または長方形状のテトラトピック構造、および四面体形状のテトラトピック構造のうちの1種以上を含み、
前記構造が、少なくとも2つのカルボキシレート基で置換されている5員環または6員環を含み、
前記二次構造単位が、前記有機配位子のカルボキシレート基の酸素原子を介して、該有機配位子に連結しており、
前記有機配位子が、
【化1】
で示される構造のうちの1種以上を含むMOF。
【請求項2】
前記二次構造単位が、棒状の一次元鎖または離散的な多核金属クラスターを形成する、請求項1に記載のMOF。
【請求項3】
単一リンカーの有機金属構造体である、請求項1に記載のMOF。
【請求項4】
各有機配位子が、
【化2】
を含む、請求項1または2に記載のMOF。
【請求項5】
MOF-313、MOF-314、またはMOF-323であり、MOF-313は、Al(OH)(2,5-PylDC)であり、MOF-314は、Al(OH)(2,4-PylDC)であり、MOF-323は、Al(OH)(2,4-TDC)である、請求項1に記載のMOF。
【請求項6】
多成分有機金属構造体(MTV-MOF)である、請求項1に記載のMOF。
【請求項7】
Al(OH)(2,5-FDC)
w(2,4-TDC)
v(式中、w+v=1である)またはAl(OH)(3,5-PynDC)
m(IPA)
n(式中、m+n=1である)である、請求項1に記載のMOF。
【請求項8】
前記二次構造単位が、棒状の一次元鎖を形成し、前記有機配位子が、1種以上のV字形状のジトピック構造を含む、請求項1に記載のMOF。
【請求項9】
前記二次構造単位が、前記有機配位子のカルボキシレート基の酸素原子を介して、シス型稜共有八面体形状またはトランス型稜共有八面体形状で該有機配位子に連結している、請求項8に記載のMOF。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の1種以上のMOFを含む水分捕集システムを用いて、周囲の大気中の水分を吸着する工程;
前記1種以上のMOFから水蒸気を脱着させる工程;および
前記水蒸気から水を回収する工程
を含む水分捕集方法。
【請求項11】
凝縮器を用いて前記水蒸気から水を回収する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の1種以上のMOFを含む吸着材層を含む、水分捕集システム。
【請求項13】
前記吸着材層に隣接する凝縮器をさらに含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
パッシブ方式の水分捕集システムである、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか1項に記載のMOFの水分捕集または水浄化における使用。
【請求項16】
ヒートポンプ、除湿器、吸着式冷蔵庫、太陽熱冷房システム、乾燥機、有機発光装置、または二次電池装置に使用するための、請求項1~9のいずれか1項に記載の
MOFの使用。
【請求項17】
請求項1~9のいずれか1項に記載のMOFを使用する方法であって、該MOF中に所定の気体もしくは流体を封じ込め、貯蔵し、かつ/または該MOFから抽出することを含む方法。
【請求項18】
前記気体または前記流体が、CO
2、H
2O、H
2、CH
4、C
2H
4、C
2H
2またはこれらの任意の組み合わせである、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2018年11月26日に出願された米国仮特許出願第62/771,537号に基づく優先権を主張するものであり、該出願は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
分野
本開示は、全体として、水分捕集に関するものであり、より具体的には、様々な種類の有機金属構造体を用いて周囲の空気から水分を捕集するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
水不足は、世界経済フォーラムが最近発表した「グローバルリスク報告書2018」において、進行中の主要なグローバルリスクの一つとして指摘されている1。世界人口の約3分の2が、1年のうち少なくとも1ヶ月もの間、水不足に直面している2。人口の増加や気候変動の進行に伴い、水供給の危機は深刻化することが予想される3。そのため、このグローバルな課題に対処するための様々な戦略が提案され、実施されている4。
【0004】
可能な解決策の一つとして、大気湿度を普遍的な水資源として利用することが考えられている5。これには、霧捕集6、結露による水分捕集7、乾燥剤による水蒸気の凝縮8などがある。しかし、これらの技術では、非常に高い相対湿度(RH約100%)状態が発生すること、また、使用した吸着材を再生するために大量のエネルギーを投入することが求められる9。
【0005】
最近になって、有機金属構造体(MOF)が、空気からの水分捕集という上記の課題を解決する有望な材料であることが明らかになった9。MOFは、特に、乾燥環境下での水分捕集用途に望ましい特性を示し、具体的には、低RHでも大気中の水分を大量に吸着し、多孔性を失うことなく、エネルギー効率よく連続的に脱着するという特性を示す。
【0006】
近年、水分捕集でMOFが実用化されてきているものの10、乾燥環境下での水分捕集に適したMOFに関する報告はまだ限られている11。本発明は、2種以上の構造単位の組み合わせによって構築された有機金属構造体(一般に、多成分(MTV)MOFとも呼ばれる)12を利用することで、水分吸着特性を微調整し、改善するための指針を提供するものである。これにより、水分捕集システムの種類を飛躍的に拡大させることができ、また用途に応じて水分吸着特性を調整することも可能になる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水分捕集などの用途のための多成分有機金属構造体(MOF)およびその他のMOFを提供する。いくつかの変形例において、前記多成分有機金属構造体(MTV-MOF)は、二次構造単位に混合金属を有していてよく、かつ/または混合有機配位子を有していてもよい。
【0008】
いくつかの態様において、繰り返しコアを含むMOFが提供され、該コアは有機配位子に連結した二次構造単位(SBU)を含む。いくつかの変形例において、前記二次構造単位は、1種以上の金属または金属含有錯体を含む。1つの変形例において、前記二次構造単位は、棒状の一次元鎖または離散的な多核金属クラスターを形成する。ある変形例において、前記有機配位子は、直鎖状のジトピック構造、V字形状のジトピック構造、三角形状のトリトピック構造、正方形状または長方形状のテトラトピック構造、および四面体形状のテトラトピック構造のうちの1種以上を含む。1つの変形例において、前記構造は、少なくとも2つのカルボキシレート基で置換されている5員環または6員環を含む。
【0009】
一態様において、本発明は、無機金属クラスター(二次構造単位、SBU)と、2種以上の異なる有機単位または有機配位子(リンカー)の組み合わせとから構成される多成分有機金属構造体(MTV-MOF)を提供する。
【0010】
別の一態様において、前記二次構造単位と1種の有機配位子から構成されるMOFが提供される。
【0011】
前述したもののいくつかの実施形態において、前記有機配位子は、直鎖状のジトピック配位子、V字形状のジトピック配位子、三角形状のトリトピック配位子、正方形状もしくは長方形状のテトラトピック配位子、または四面体形状のテトラトピック配位子である。1つの変形例において、前記有機配位子の少なくとも1つは、本明細書で開示されているようなV字形状である。
【0012】
いくつかの変形例において、前記二次構造単位は、金属クラスターであるか、または金属もしくは金属含有錯体を含む。ある変形例において、前記二次構造単位は、棒状の一次元鎖または離散的な多核金属クラスターを形成する。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記二次構造単位の金属は、ジルコニウム、ニッケル、鉄、銅、マンガンおよびアルミニウムから選択され、かつ/または、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、亜鉛、インジウム、カドミウム、ハフニウム、鉛、コバルトおよびクロムから選択される。
【0014】
一態様において、本発明は、本明細書に記載の1種以上のMOFを含む水分吸着ユニットを含む、水分捕集器などの装置を提供する。
【0015】
一態様において、本発明は、本明細書に記載の1種以上のMOFを使用する方法であって、この組成物中にCO2、H2O、H2、CH4、C2H4、C2H2などの所定の気体もしくは流体を封じ込め、貯蔵し、かつ/または該組成物から抽出することを含む方法を提供する。
【0016】
一態様において、本発明は、本明細書に記載の1種以上のMOFを使用する方法であって、水分捕集または水浄化の用途に当該組成物を利用することを含む方法を提供する。
【0017】
別の一態様において、本発明は、化学式Al(OH)(2,5-PylDC)で示されるMOFを含む水分吸着ユニットを含む水分捕集器を提供する。なお、2,5-PylDCは、2,5-ピロールジカルボキシレートである。
【0018】
一態様において、本発明は、水分捕集または水浄化の用途のための水分捕集器を使用する方法を提供する。
【0019】
本発明は、本明細書に記載された個々の実施形態のあらゆる組み合わせを包含するものであり、それらはすべて本明細書に記載されているものとする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
添付の図面と併せて以下の説明を参照することにより、本願について理解することができるであろう。
【0021】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bは、本明細書に記載のMOFにおいて二次構造単位を連結する有機配位子を形成するために用いられる化合物を非包括的に列挙したものである。また、水分捕集システムにおいて、これらのリンカーを組み合わせることで、水分捕集用のMOF材料の領域を拡大させることができる。
【0022】
【
図2】
図2および
図3は、Al(OH)(2,5-PylDC)の構造モデルを示したものである。
図2は、a軸とc軸に沿って見た図である。
【
図3】
図3は、MOFの二次構造単位を抜粋して示した図である。八面体の各頂点には酸素原子が配置されており、それぞれ八面体の中心のアルミニウム原子に配位している。
【0023】
【
図4】
図4は、MOFとして実験で得られたAl(OH)(2,5-PylDC)と、推定される構造モデルの粉末X線回折(PXRD)データを比較して示したものである。
【0024】
【
図5】
図5は、77Kで実施したAl(OH)(2,5-PylDC)の窒素吸着分析の結果である(BET表面積=1051m
2/g)。
【0025】
【
図6】
図6は、25℃で測定したAl(OH)(2,5-PylDC)の水分吸着等温線を示したものである。
【0026】
【
図7】
図7は、Al(OH)(2,4-PylDC)の構造モデルを、a軸(左)とc軸(右)に沿って見た図である。八面体の各頂点には酸素原子が配置されており、それぞれ八面体の中心のアルミニウム原子に配位している。
【0027】
【
図8】
図8は、MOFとして実験で得られたAl(OH)(2,4-PylDC)と、推定される構造モデルの粉末X線回折(PXRD)データを比較して示したものである。
【0028】
【
図9】
図9は、77Kで行ったAl(OH)(2,4-PylDC)の窒素吸着分析の結果である(BET表面積=912m
2/g)。
【0029】
【
図10】
図10は、25℃で測定したAl(OH)(2,4-PylDC)の水分吸着等温線を示したものである。
【0030】
【
図11】
図11は、Al(OH)(2,4-TDC)の構造モデルを、a軸(左)とc軸(右)に沿って見た図である。八面体の各頂点には酸素原子が配置されており、それぞれ八面体の中心のアルミニウム原子に配位している。
【0031】
【
図12】
図12は、MOFとして実験で得られたAl(OH)(2,4-TDC)と、推定される構造モデルの粉末X線回折(PXRD)データを比較して示したものである。
【0032】
【
図13】
図13は、77Kで実施したAl(OH)(2,4-TDC)の窒素吸着分析の結果である(BET表面積=1101m
2/g)。
【0033】
【
図14】
図14は、25℃で測定したAl(OH)(2,4-TDC)の水分吸着等温線を示している。
【0034】
【
図15】
図15は、2,5-フランジカルボン酸(H
2(2,5-FDC))と2,4-チオフェンジカルボン酸(H
2(2,4-TDC))の化学構造を示したものである。
【0035】
【
図16】
図16は、Al(OH)(2,5-FDC)、MTV-MOFであるAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5、およびMOF-323に対して行った粉末X線回折(PXRD)分析結果を比較して示したものである。
【0036】
【
図17】
図17は、リンカーH
2(2,5-FDC)(上)、リンカーH
2(2,4-TDC)(下)、およびMTV-MOFであるAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5を分解したもの、すなわち、後述の実施例4に記載されているように処理したもの(中)に対して行った
1H-核磁気共鳴(NMR)分析結果を示したものである。各数字は、積分によって求めた各ピークの相対的なシグナル強度を示す。
【0037】
【
図18】
図18は、MTV-MOFであるAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5の代表的な走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0038】
【
図19】
図19A~19Eは、MTV-MOFであるAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5の代表的な走査電子顕微鏡(SEM)写真とエネルギー分散型X線分光(EDS)分析結果である。
【0039】
【
図20】
図20は、Al(OH)(2,5-FDC)、MTV-MOFであるAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5、およびMOF-323の25℃における水分吸着分析結果を示したものである(P:蒸気分圧、P
sat:25℃の飽和蒸気圧)。
【0040】
【
図21】
図21は、Al(OH)(2,5-FDC)、MTV-MOFであるAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5、およびMOF-323の25℃における水分吸着分析結果の低圧領域を示したものである(P:蒸気分圧、P
sat:25℃の飽和蒸気圧)。
【0041】
【
図22】
図22は、イソフタル酸(H
2IPA)と3,5-ピリジンジカルボン酸(H
2(3,5-PynDC))の化学構造を示したものである。
【0042】
【
図23】
図23は、Al(OH)(3,5-PynDC)、MTV-MOFであるAl(OH)(3,5-PynDC)
0.56(IPA)
0.44、およびAl(OH)IPAに対して行った粉末X線回折(PXRD)分析結果を比較して示したものである。
【0043】
【
図24】
図24は、リンカーH
2(3,5-PynDC)(上)、リンカーH
2IPA(下)、およびMTV-MOFであるAl(OH)(3,5-PynDC)
0.56(IPA)
0.44を分解したもの、すなわち、後述の実施例5に記載されているように処理したものに対して行った
1H-核磁気共鳴(NMR)分析結果を示したものである。各数字は、積分によって求めた各ピークの相対的なシグナル強度を示す。
【0044】
【
図25】
図25は、MTV-MOFであるAl(OH)(3,5-PynDC)
0.56(IPA)
0.44の代表的な走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0045】
【
図26】
図26A~26Eは、MTV-MOFであるAl(OH)(3,5-PynDC)
0.56(IPA)
0.44の代表的な走査電子顕微鏡(SEM)写真とエネルギー分散型X線分光(EDS)分析結果である。
【0046】
【
図27】
図27は、Al(OH)(3,5-PynDC)、MTV-MOFであるAl(OH)(3,5-PynDC)
0.56(IPA)
0.44、およびAl(OH)IPAの25℃における水分吸着分析結果を示したものである(P:蒸気分圧、P
sat:25℃の飽和蒸気圧)。
【0047】
【
図28】
図28は、Al(OH)(3,5-PynDC)、MTV-MOFであるAl(OH)(3,5-PynDC)
0.56(2,4-TDC)
0.44、およびAl(OH)IPAの25℃における水分吸着分析結果の低圧領域を示したものである(P:蒸気分圧、P
sat:25℃の飽和蒸気圧)。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、例示的な方法、パラメータなどについて記載する。ただし、以下の記載は本開示の範囲を制限するものではなく、例示的な実施形態の説明として提示されているものである。
【0049】
以下の記載および本明細書全体を通して、別異に解される場合または別段の記載がある場合を除き、「a」および「an」という用語は1以上のものを表し、「または」という用語は「および/または」を表す。本明細書に記載されている実施例および実施形態は、単に本発明を説明するためのものであり、これらの実施例および実施形態に基づいて、様々な変形または変更が可能であることは当業者には明らかであり、またそのような変形または変更は本願の精神および範囲ならびに添付の請求項の範囲内に含まれるものである。
【0050】
一態様において、本発明により、特に水分捕集用途のための、1種以上の有機構造単位によって構築された有機-無機ハイブリッド材料、特に有機金属構造体(MOF)が提供される。MOFは、乾燥環境下での水分捕集用途に望ましい特性を示すことが示されている。例えば、MOFを用いることで、低相対湿度でも大気中の水分を大量に吸着することができ、多孔性を失うことなく、エネルギー効率よく脱着を連続的に行うことができる。本発明では、乾燥環境下での水分捕集に特に適した新たなMOFを見出し、これを報告する。さらに、本発明は、多成分(MTV)MOFを利用することで、水分捕集に関する特性を調整して改善する技術を提供する。このような有機金属構造体は、2種以上の有機単位または有機配位子の組み合わせによって構築されたものであってもよい。
【0051】
本明細書に記載の水分吸着特性の調整方法は、MOFを用いた水分捕集装置に適用できる。捕集された水は、人間の飲料水として、また作物の灌漑に使用することができる。
【0052】
さらに、本明細書に記載のMOFを利用して行う水分吸着特性の調整は、ヒートポンプ、除湿器、吸着式冷蔵庫、太陽熱冷房システム、乾燥機、有機発光装置、二次電池装置など、水分吸着を利用した他の用途にも利用することができる。
【0053】
以下、水分吸着用途、特に水分捕集のための、単一リンカーMOFやMTV-MOFを含む様々な種類のMOFについて説明する。
【0054】
いくつかの態様において、繰り返しコアを含むMOFが提供され、該コアは、有機配位子に連結した二次構造単位を含む。
【0055】
いくつかの実施形態において、前記有機配位子は、直鎖状のジトピック構造、V字形状のジトピック構造、三角形状のトリトピック構造、正方形状または長方形状のテトラトピック構造、および四面体形状のテトラトピック構造のうちの1種以上を含む。1つの変形例において、前記有機配位子は、V字形状のジトピック構造を含む。
【0056】
前記有機配位子のいくつかの変形例において、前記構造は、少なくとも2つのカルボキシレート基で置換されている5員環または6員環を含む。1つの変形例において、前記構造は、2つのカルボキシレート基で置換されている5員環または6員環を含む。
【0057】
ある変形例において、前記有機配位子は、式I~IX:
【化1】
(式中、X
1は、NH、OまたはSであり、R
aおよびR
bは、それぞれ独立してHまたはアルキルである);
【化2】
(式中、X
3は、NH、OまたはSであり、R
aおよびR
cは、それぞれ独立してHまたはアルキルである);
【化3】
(式中、X
2は、NH、OまたはSであり、R
cは、Hまたはアルキルである);
【化4】
(式中、X
1は、NH、OまたはSであり、R
aは、Hまたはアルキルである);
【化5】
(式中、X
3は、NH、OまたはSであり、R
aは、Hまたはアルキルである);
【化6】
(式中、X
1は、NH、OまたはSである);
【化7】
(式中、Y
1、Y
2およびY
3は、それぞれ独立してCHまたはNである);
【化8】
(式中、X
3は、NH、OまたはSである);および
【化9】
(式中、Y
1およびY
2は、それぞれ独立してCHまたはNである)
で示される構造のうちの1種以上を含む。
【0058】
式(III)で示される構造の1つの変形例において、X2は、NHまたはOであり、Rcは、Hまたはアルキルである。
【0059】
式(IV)で示される構造の1つの変形例において、X1は、NHまたはOであり、Raは、Hまたはアルキルである。
【0060】
式(V)で示される構造の1つの変形例において、X1は、NHまたはOであり、Raは、Hまたはアルキルである。
【0061】
式(VI)で示される構造の1つの変形例において、X1は、NHまたはOである。
【0062】
ある変形例において、前記有機配位子は、式(X)、(XI)、および(XII):
【化10】
(式中、R
d、R
eおよびR
fは、それぞれ独立してHまたはアルキルである);
【化11】
(式中、Y
1、Y
4のいずれか一方がNで、Y
4、Y
1のもう一方がCHであるか、またはY
1とY
4がいずれもNであり、R
dおよびR
eは、それぞれ独立してHまたはアルキルである);および
【化12】
(式中、Y
1は、CHまたはNである)
で示される構造のうちの1種以上を含む。
【0063】
前述したもののいくつかの変形例において、Ra、Rb、Rc、Rd、ReおよびRfは、それぞれHである。
【0064】
いくつかの変形例において、各有機配位子は、
【化13】
を含む。前述したものの別の変形例において、各二次構造単位は、水酸化アルミニウムを含む。例えば、1つの変形例において、前記MOFはMOF-313である。
【0065】
いくつかの変形例において、各有機配位子は、
【化14】
を含む。前述したものの別の変形例において、各二次構造単位は、水酸化アルミニウムを含む。例えば、1つの変形例において、前記MOFはMOF-314である。
【0066】
いくつかの変形例において、各有機配位子は、
【化15】
を含む。前述したものの別の変形例において、各二次構造単位は、水酸化アルミニウムを含む。例えば、1つの変形例において、前記MOFはMOF-323である。
【0067】
いくつかの変形例において、前記有機配位子は、
【化16】
を含む。前述したものの別の変形例において、各二次構造単位は、水酸化アルミニウムを含む。例えば、1つの変形例において、前記MTV-MOFは、Al(OH)(2,5-FDC)(2,4-TDC)である。ある変形例において、前記MTV-MOFは、Al(OH)(2,5-FDC)
w(2,4-TDC)
v(式中、w+v=1である)である。ある1つの変形例において、前記MTV-MOFは、Al(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5である。
【0068】
いくつかの変形例において、前記有機配位子は、
【化17】
を含む。前述したものの別の変形例において、各二次構造単位は、水酸化アルミニウムを含む。例えば、1つの変形例において、前記MTV-MOFは、Al(OH)(3,5-PynDC)(IPA)である。ある変形例において、前記MTV-MOFは、Al(OH)(3,5-PynDC)
m(IPA)
n(式中、m+n=1である)である。ある1つの変形例において、前記MTV-MOFは、Al(OH)(3,5-PynDC)
0.56(IPA)
0.44である。
【0069】
図1Aおよび
図1Bは、本明細書に記載のMOFにおいて二次構造単位を連結する有機配位子を形成するために用いられる化合物を非包括的に列挙したものである。また、水分捕集システムにおいて、これらのリンカーを組み合わせることで、水分捕集用のMOF材料の領域を飛躍的に拡大させることができる。
【0070】
他の実施形態において、前記二次構造単位は、1種以上の金属または金属含有錯体を含む。いくつかの変形例において、前記二次構造単位は、棒状の一次元鎖または離散的な多核金属クラスターを形成する。1つの変形例において、各二次構造単位は、1種の金属または金属含有錯体を含む。
【0071】
ある変形例において、各二次構造単位は、ジルコニウム、ニッケル、鉄、銅、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、亜鉛、インジウム、カドミウム、ハフニウム、鉛、コバルト、またはクロム、またはこれらの錯体を含む。1つの変形例において、各二次構造単位は、アルミニウムまたはアルミニウム含有錯体を含む。
【0072】
MOFにおける水凝縮の共同的な性質により9、MTV-MOFを含む本明細書に記載のMOFを使用することで、水分吸着等温線において急な立ち上がりが観察される点のP/P0値をシフトさせることができる可能性がある。さらに、嵩高い配位子を有するMOFにおいては、嵩高くない配位子を「ドーピング」してMTVシステムの細孔容積を増加させることによって総水分吸着量を改善することができる。また、MOFを形成していないリンカーをMTV-MOFに含めることも可能であり、それによって水分捕集用材料の領域を格段に拡大させることができる。
【0073】
この方法を用いてシステムを微調整することで、所望の水分吸着用途に最適な特性を得ることができる。このように、本発明では、必要に応じた水分捕集用材料を合成することが可能である。
【0074】
いくつかの変形例において、V字形状分子によって構築された、棒状の一次元SBUを示すAl-MOFが提供される。このようなMTVアプローチは、他の金属カチオンと他の形状のリンカーによって構築される他のMOFベースの水分捕集システムにも適用可能である。
【0075】
ある変形例において、前記二次構造単位は、前記有機配位子のカルボキシレート基の酸素原子を介して、シス型稜共有八面体形状またはトランス型稜共有八面体形状で該有機配位子に連結している。
【0076】
他の態様において、本明細書に記載のMOFを製造する方法が提供される。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、
図1Aおよび
図1Bに記載された1つ以上の化合物を、塩基性条件下、高温で金属溶液と組み合わせることを含む。いくつかの変形例において、前記金属溶液は、本明細書のMOFに関する記載において例示されている任意の金属を含む。他の変形例において、
図1Aおよび
図1Bの化合物と前記金属溶液を、水酸化ナトリウムなどの塩基性溶液と組み合わせる。反応混合物から得られた固体を単離する。その後、単離した生成物に対して、例えば、X線回折(例えば、粉末X線回折)など、当技術分野で公知の任意の適切な方法または技術を用いて特性評価を行うことができる。
【0077】
さらに別の態様において、本明細書に記載の1種以上のMOFを使用した水分捕集のための方法およびシステムが提供される。一態様において、水分捕集方法が提供され、該方法は、
本明細書に記載の1種以上のMOFを含む水分捕集システムを用いて、周囲の大気中の水分を吸着する工程;
前記1種以上のMOFから水蒸気を脱着させる工程;および
前記水蒸気から水を回収する工程
を含む。
別の一態様において、本明細書に記載の1種以上のMOFを含む吸着材層を含む、水分捕集システムが提供される。前述の方法およびシステムのいくつかの変形例において、使用されるMOFはMTV-MOFである。
【0078】
前述したもののいくつかの変形例において、前記水分捕集システムは、パッシブデバイスであり、太陽光による水の脱着により、閉鎖環境で飽和状態となり、その結果、水が凝縮される。他の変形例において、前記水分捕集システムは、アクティブデバイスであり、水の回収に凝縮器が必要である。前記凝縮器は、例えば、前記水分捕集システムの吸着材層に隣接していてもよい。
【0079】
実施形態の列挙
以下に列挙する実施形態は、本発明のいくつかの態様における代表的なものである。
1. 無機金属クラスター(二次構造単位、SBU)と、2種以上の異なる有機単位(リンカー)の組み合わせとから構成される多成分有機金属構造体(MTV-MOF)を含む組成物。
2. 前記リンカーが、V字形状リンカー、三角形状リンカー、およびトリトピックリンカー;正方形状もしくは長方形状のテトラトピックリンカー;ならびに四面体形状のテトラトピックリンカーから選択される、実施形態1に記載の組成物。
3. 前記リンカーの少なくとも1つが、本明細書に開示されたV字形状リンカーである、実施形態1に記載の組成物。
4. 前記金属クラスターが、棒状の無限一次元鎖または離散的な多核金属クラスターである、実施形態1に記載の組成物。
5. 前記MOF金属が、ジルコニウム、ニッケル、鉄、銅、マンガンおよびアルミニウムから選択され、かつ/または、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、亜鉛、インジウム、カドミウム、ハフニウム、鉛、コバルトおよびクロムから選択される、実施形態1~4のいずれかに記載の組成物。
6. 実施形態1~5のいずれかに記載の組成物を含む水分吸着ユニットを含む、水分捕集器などの装置。
7. 実施形態1~6のいずれかに記載の組成物を使用する方法であって、該組成物中にCO
2、H
2O、H
2、CH
4、C
2H
4、C
2H
2などの所定の気体または流体を封じ込め、貯蔵し、かつ/または該組成物から抽出することを含む方法。
8. 実施形態1~6のいずれかに記載の組成物を使用する方法であって、該組成物を水分捕集または水浄化の用途に利用することを含む方法。
9. 化学式Al(OH)(2,5-PylDC)(式中、2,5-PylDCは2,5-ピロールジカルボキシレートである)で示されるMOFを含む水分吸着ユニットを含む水分捕集器。
10. 実施形態9に記載の捕集器を、水分捕集または水浄化の用途に使用する方法。
11. 繰り返しコアを含む有機金属構造体(MOF)であって、
前記コアが、有機配位子に連結した二次構造単位を含み、
前記二次構造単位が、1種以上の金属または金属含有錯体を含み、
前記有機配位子が、直鎖状のジトピック構造、V字形状のジトピック構造、三角形状のトリトピック構造、正方形状または長方形状のテトラトピック構造、および四面体形状のテトラトピック構造のうちの1種以上を含み、
前記構造が、少なくとも2つのカルボキシレート基で置換されている5員環または6員環を含み、
前記二次構造単位が、前記有機配位子のカルボキシレート基の酸素原子を介して、該有機配位子に連結している、
MOF。
12. 前記二次構造単位が、棒状の一次元鎖または離散的な多核金属クラスターを形成する、実施形態11に記載のMOF。
13. 前記有機配位子が、式(I)~(XII):
【化18】
(式中、X
1は、NH、OまたはSであり、R
aおよびR
bは、それぞれ独立してHまたはアルキルである);
【化19】
(式中、X
3は、NH、OまたはSであり、R
aおよびR
cは、それぞれ独立してHまたはアルキルである);
【化20】
(式中、X
2は、NH、OまたはSであり、R
cは、Hまたはアルキルである);
【化21】
(式中、X
1は、NH、OまたはSであり、R
aは、Hまたはアルキルである);
【化22】
(式中、X
3は、NH、OまたはSであり、R
aは、Hまたはアルキルである);
【化23】
(式中、X
1は、NH、OまたはSである);
【化24】
(式中、Y
1、Y
2およびY
3は、それぞれ独立してCHまたはNである);
【化25】
(式中、X
3は、NH、OまたはSである);
【化26】
(式中、Y
1およびY
2は、それぞれ独立してCHまたはNである);
【化27】
(式中、R
d、R
eおよびR
fは、それぞれ独立してHまたはアルキルである);
【化28】
(式中、Y
1、Y
4のいずれか一方がNで、Y
4、Y
1のもう一方がCHであるか、またはY
1とY
4がいずれもNであり、R
dおよびR
eは、それぞれ独立してHまたはアルキルである);および
【化29】
(式中、Y
1は、CHまたはNである)
で示される構造のうちの1種以上を含む、実施形態11または12に記載のMOF。
14. 前記有機配位子が、式(I)~(VII)で示される構造のうちの1種以上を含む、実施形態13に記載のMOF。
15. 前記有機配位子が、式(VIII)および(IX)で示される構造のうちの1種以上を含む、実施形態13に記載のMOF。
16. 前記有機配位子が、式(X)、(XI)および(XII)で示される構造のうちの1種以上を含む、実施形態13に記載のMOF。
17. R
a、R
b、R
c、R
d、R
eおよびR
fがそれぞれHである、実施形態13~16のいずれかに記載のMOF。
18. 前記有機配位子が、
【化30】
で示される構造のうちの1種以上を含む、実施形態11または12のMOF。
19. 前記有機配位子が、
【化31】
で示される構造のうちの1種以上を含む、実施形態11または12のMOF。
20. 前記有機配位子が、
【化32】
で示される構造のうちの1種以上を含む、実施形態11または12のMOF。
21. 前記有機配位子が、1種の構造を含む、実施形態18~20のいずれかに記載のMOF。
22. 前記有機配位子が、2種の構造を含む、実施形態18~20のいずれかに記載のMOF。
23. 前記有機配位子が、複数種の構造を含む、実施形態18~20のいずれかに記載のMOF。
24. 各有機配位子が、式(I)~(XII)で示される構造のうちの1種を含み、前記MOFが、単一リンカーの有機金属構造体である、実施形態11~17のいずれかに記載のMOF。
25. 各有機配位子が、式(I)~(VII)で示される構造のうちの1種を含み、前記MOFが、単一リンカーの有機金属構造体である、実施形態24に記載のMOF。
26. 各有機配位子が、
【化33】
を含む、実施形態24のMOF。
27. 各有機配位子が、
【化34】
を含む、実施形態24のMOF。
28. 各二次構造単位が水酸化アルミニウムを含む、実施形態27に記載のMOF。
29. MOF-313である、実施形態28に記載のMOF。
30. 各有機配位子が、
【化35】
を含む、実施形態24に記載のMOF。
31. 各二次構造単位が水酸化アルミニウムを含む、実施形態30に記載のMOF。
32. MOF-314である、実施形態31に記載のMOF。
33. 各有機配位子が、
【化36】
を含む、実施形態24に記載のMOF。
34. 各二次構造単位が水酸化アルミニウムを含む、実施形態33に記載のMOF。
35. MOF-323である、実施形態34に記載のMOF。
36. 多成分有機金属構造体(MTV-MOF)である、実施形態11~20のいずれかに記載のMOF。
37. 前記有機配位子が、式(I)~(VII)で示される構造のうちの複数種を含む、実施形態36に記載のMOF。
38. 前記有機配位子が、式(I)~(VII)で示される構造のうちの2種を含む、実施形態36に記載のMOF。
39. 前記有機配位子が、式(I)~(XII)で示される構造のうちの複数種を含む、実施形態36に記載のMOF。
40. 前記有機配位子が、式(I)~(XII)で示される構造のうちの2種を含む、実施形態36に記載のMOF。
41. 前記有機配位子が、
【化37】
を含む、実施形態36のMOF。
42. 各二次構造単位が水酸化アルミニウムを含む、実施形態41に記載のMOF。
43. Al(OH)(2,5-FDC)(2,4-TDC)、Al(OH)(2,5-FDC)
w(2,4-TDC)
v(式中、w+v=1)、またはAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5である、実施形態42に記載のMOF。
44. 前記有機配位子が、
【化38】
を含む、実施形態36のMOF。
45. 各二次構造単位が水酸化アルミニウムを含む、実施形態44に記載のMOF。
46. Al(OH)(3,5-PynDC)(IPA)であるか、Al(OH)(3,5-PynDC)
m(IPA)
n(式中、m+n=1)であってもよく、またはAl(OH)(3,5-PynDC)
0.56(IPA)
0.44である、実施形態45に記載のMOF。
47. 各二次構造単位が、ジルコニウム、ニッケル、鉄、銅、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、亜鉛、インジウム、カドミウム、ハフニウム、鉛、コバルト、またはクロム、またはこれらの錯体を含む、実施形態1~46のいずれかに記載のMOF。
48. 各二次構造単位が、アルミニウムまたはアルミニウム含有錯体を含む、実施形態11~47のいずれかに記載のMOF。
49. 前記二次構造単位が、棒状の一次元鎖を形成し、前記有機配位子が、1種以上のV字形状のジトピック構造を含む、実施形態11~48のいずれかに記載のMOF。
50. 前記二次構造単位が、前記有機配位子のカルボキシレート基の酸素原子を介して、シス型稜共有八面体形状またはトランス型稜共有八面体形状で該有機配位子に連結している、実施形態49に記載のMOF。
51. 実施形態11~50のいずれかに記載の1種以上のMOFを含む水分捕集システムを用いて、周囲の大気中の水分を吸着する工程;
前記1種以上のMOFから水蒸気を脱着させる工程;および
前記水蒸気から水を回収する工程
を含む水分捕集方法。
52. 凝縮器を用いて前記水蒸気から水を回収する、実施形態51に記載の方法。
53. 実施形態11~50のいずれかに記載の1種以上のMOFを含む吸着材層を含む、水分捕集システム。
54. 前記吸着材層に隣接する凝縮器をさらに含む、実施形態53に記載のシステム。
55. パッシブ方式の水分捕集システムである、実施形態53に記載のシステム。
56. 水分捕集または水浄化に使用するための、実施形態11~50のいずれかに記載のMOF。
57. ヒートポンプ、除湿器、吸着式冷蔵庫、太陽熱冷房システム、乾燥機、有機発光装置、または二次電池装置に使用するための、実施形態11~50のいずれかに記載のMOF。
58. 実施形態11~50のいずれかに記載のMOFを使用する方法であって、該MOF中に所定の気体もしくは流体を封じ込め、貯蔵し、かつ/または該MOFから抽出することを含む方法。
59. 前記気体または前記流体が、CO
2、H
2O、H
2、CH
4、C
2H
4、またはC
2H
2、またはこれらの任意の組み合わせである、実施形態58に記載の方法。
【実施例】
【0080】
以下の実施例は例示に過ぎず、本開示の態様を何ら限定するものではない。
【0081】
実施例1
MOF-313の合成および特性評価
この実施例では、棒状の一次元SBUを用いたMOFの例示的な合成方法を説明することを目的として、水分吸着用途に適したMOFであるAl(OH)(2,5-PylDC)(2,5-PylDC=2,5-ピロールジカルボキシレート)の合成および特性評価について記載する。この化合物は「MOF-313」とも表記する。
【0082】
合成:
77.5mg(0.5mmol)の2,5-ピロールジカルボン酸を、加熱下、4.5mLのNaOH水溶液(0.139M)に溶解した。続いて、500μLのAlCl3水溶液(1M)を加えた。得られた析出物を加熱下で溶解させ、この溶液を100℃に予熱したオーブンに入れた。2時間後、析出物をろ過した。この固体を1日かけて水で5回洗浄し、さらに1日かけてメタノールで5回洗浄した。溶媒を減圧下で除去して、15mgのAl(OH)(2,5-PylDC)を得た。
【0083】
PXRDによる特性評価:
合成したMOFの構造(
図2および
図3)を、粉末X線回折(PXRD)分析により確認した(
図4)。この構造は、棒状の一次元SBUが2,5-ピロールジカルボキシレートからなるリンカー配位子で連結されている構造であることが確認された。
【0084】
空隙率と表面積:
得られた有機金属構造体の空隙率と表面積を分析するために、77Kにおける窒素吸着等温線を求めた(
図5)。BETモデルに基づいて、表面積は1051m
2/gと推定された。
【0085】
水分吸着特性:
水分吸着等温線は、P/P
0=0.12において急な立ち上がりを示した(
図6)。水蒸気の吸着量は、P/P
0=0.15で横ばいになり始め、分析物が完全に飽和した時点で約480cm
3/g(STP)に達した。重要なことに、ヒステリシスは生じてもごくわずかであり、最適なケースではヒステリシスは生じなかった。
【0086】
実施例2
MOF-314の合成および特性評価
この実施例では、棒状の一次元SBUを用いたMOFの例示的な合成方法を説明することを目的として、水分吸着用途に適したMOFであるAl(OH)(2,4-PylDC)(2,4-PylDC=2,4-ピロールジカルボキシレート)の合成および特性評価について記載する。この化合物は「MOF-314」とも表記する。
【0087】
合成:
2,4-ピロールジカルボン酸[H2(2,4-PylDC);75.0mg]をNaOH水溶液(0.43M, 14.517mL)に完全に溶解した。続いて、AlCl3水溶液(1M、0.483mL)を加えた。白色の析出物が生じた。得られた懸濁液を予熱したオーブンで100℃に加熱した。数分後に溶液が透明になった。6時間後に反応を停止させた。得られた灰白色固体をろ過して回収し、H2Oで3回、メタノールで3回、それぞれ1日かけて洗浄した。真空下(約10-3mbar)120℃で6時間加熱した後、活性化MOF-314[Al(OH)(2,4-PylDC);35mg]を得た。
【0088】
PXRDによる特性評価:
合成したMOFの構造(
図7)を、粉末X線回折(PXRD)分析により確認した(
図8)。この構造は、棒状の一次元SBUが2,4-ピロールジカルボキシレートからなるリンカー配位子で連結されている構造であることが確認された。
【0089】
空隙率と表面積:
得られた有機金属構造体の空隙率と表面積を分析するために、77Kにおける窒素吸着等温線を求めた(
図9)。BETモデルに基づいて、表面積は912m
2/gと推定された。
【0090】
水分吸着特性:
水分吸着等温線は、P/P
0=0.1において急な立ち上がりを示した(
図10)。水蒸気の吸着量は、P/P
0=0.2で横ばいになり始め、分析物が完全に飽和した時点で約535cm
3/g(STP)に達した。重要なことに、ヒステリシスは生じてもごくわずかであり、最適なケースではヒステリシスは生じなかった。
【0091】
実施例3
MOF-323の合成および特性評価
この実施例では、棒状の一次元SBUを用いたMOFの例示的な合成方法を説明することを目的として、水分吸着用途に適したMOFであるAl(OH)(2,4-TDC)(2,4-TDC=2,4-チオフェンジカルボキシレート)の合成および特性評価について記載する。この化合物は「MOF-323」とも表記する。
【0092】
合成:
2,4-チオフェンジカルボン酸(H2(2,4-TDC);98.9mg)をKOH溶液(0.139M、6.187mL)とエタノール(3.239mL)に溶解した。続いて、AlCl3水溶液(1M、0.574mL)を加えた。得られた透明な溶液を予熱したオーブンで100℃に加熱した。24時間後、得られた白色析出物をろ過して回収し、H2Oで3回、メタノールで3回、それぞれ1日かけて洗浄した。真空下(約10-3mbar)60℃で6時間加熱した後、活性化MOF-323(Al(OH)(2,4-TDC);60mg)を得た。
【0093】
PXRDによる特性評価:
合成したMOFの構造(
図11)を、粉末X線回折(PXRD)分析により確認した(
図12)。この構造は、棒状の一次元SBUが2,4-チオフェンジカルボキシレートからなるリンカー配位子で連結されている構造であることが確認された。
【0094】
空隙率と表面積:
得られた有機金属構造体の空隙率と表面積を分析するために、77Kにおける窒素吸着等温線を求めた(
図13)。BETモデルに基づいて、表面積は1101m
2/gと推定された。
【0095】
水分吸着特性:
水分吸着等温線は、P/P
0=0.16において急な立ち上がりを示した(
図14)。水蒸気の吸着量は、P/P
0=0.21で横ばいになり始め、分析物が完全に飽和した時点で約470cm
3/g(STP)に達した。重要なことに、ヒステリシスは生じてもごくわずかであり、最適なケースではヒステリシスは生じなかった。
【0096】
実施例4
MTV-MOFの合成および特性評価
この実施例では、例示的なMTV-MOFシステムの例示的な合成方法を説明することを目的として、水分吸着用途に適したMTV-MOFであるAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5(2,5-FDC=2,5-フランジカルボキシレート;2,4-TDC=2,4-チオフェンジカルボキシレート;
図15)の合成および特性評価について記載する。
【0097】
MTV-MOFの合成:
2,5-フランジカルボン酸(H
2(2,5-FDC);44.9mg)と2,4-チオフェンジカルボン酸(H
2(2,4-TDC);49.5mg)を、KOH水溶液(0.139M、6.187mL)とエタノール(3.239mL)に溶解した(
図15)。続いて、AlCl
3水溶液(1M、0.574mL)を加えた。得られた溶液を予熱したオーブンで100℃に加熱した。24時間後、得られた白色析出物をろ過して回収し、H
2Oで3回、メタノールで3回、それぞれ1日かけて洗浄した。真空下(約10
-3mbar)120℃で6時間加熱した後、活性化MTV-MOFであるAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5(35mg)を得た。
【0098】
比較に使用した単一リンカーMOFの合成:
H2(2,5-FDC)(78.0mg)をKOH水溶液(0.079M, 9.5mL)に溶解し、これにAlCl3水溶液(1M, 0.5mL)を加えて、Al(OH)(2,5-FDC)(別名:MIL-160)を合成した。得られた溶液を100℃で一晩加熱した。得られた白色析出物をろ過して回収し、H2Oで3回、メタノールで3回、それぞれ1日かけて洗浄した。真空下(約10-3mbar)120℃で6時間加熱した後、活性化Al(OH)(2,5-FDC)(40mg)を得た。上記した方法と同様にして、Al(OH)(2,4-TDC)(MOF-323)を合成した。
【0099】
PXRDによる特性評価:
合成したMTV-MOFを、粉末X線回折(PXRD)分析により確認し、Al(OH)(2,5-FDC)およびMOF-323との比較を行った(
図16)。
【0100】
NMR解析:
洗浄して活性化させたサンプルをNaOD溶液(D
2O中5%)に溶解し、核磁気共鳴(NMR)分析に供した。この条件下、アルミニウムMTV-MOFを各成分に分解し、溶液ベースの
1H-NMR分析により、リンカー分子の組成を分析した(
図17)。
【0101】
走査電子顕微鏡(SEM)写真:
MTV-MOFであるAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5のSEM写真(
図18)における、全体的な結晶の形状と形態により相純度が示される。
【0102】
走査電子顕微鏡(SEM)写真およびエネルギー分散型X線分光(EDS)分析:
MTV-MOFであるAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5のSEM写真とEDS分析(
図19A~19E)により、すべての結晶において、炭素(C)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、硫黄(S)の各元素が均一に分布していることが示された。NMRのデータと合わせると、両リンカーがすべての結晶に存在し、均一に分布していると考えられる。
【0103】
水分吸着特性:
Al(OH)(2,5-FDC)、MTV-MOFであるAl(OH)(2,5-FDC)
0.5(2,4-TDC)
0.5、およびMOF-323の25℃における水分吸着分析(
図20および
図21)により、MTV-システムを用いることでMOFの水分吸着特性を調整できることがわかった。
【0104】
実施例5
MTV-MOFの合成および特性評価
この実施例では、別の例示的なMTV-MOFシステムの例示的な合成方法を説明することを目的として、水分吸着用途に適したMTV-MOFであるAl(OH)(3,5-PynDC)
0.56(IPA)
0.44(3,5-PynDC=3,5-ピリジンジカルボキシレート;IPA=イソフタレート;
図22)の合成および特性評価について記載する。
【0105】
MTV-MOFの合成:
イソフタル酸(H
2IPA;41.5mg)と3,5-ピリジンジカルボン酸(H
2(3,5-PynDC);41.8mg)をH
2O(4mL)とエタノール(5mL)に溶解した(
図22)。続いて、AlCl
3水溶液(1M、0.5mL)と尿素水溶液(2M、0.5mL)を加えた。得られた溶液を予熱したオーブンで100℃に加熱した。24時間後、得られた白色析出物をろ過して回収し、H
2Oで3回、メタノールで3回、それぞれ1日かけて洗浄した。真空下(約10
-3mbar)120℃で6時間加熱した後、活性化MTV-MOFであるAl(OH)(3,5-PynDC)
0.56(IPA)
0.44(70mg)を得た。
【0106】
比較に使用した単一リンカーMOFの合成:
Al(OH)(3,5-PynDC)(別名:CAU-10-ピリジン)を合成するために、3,5-ピリジンジカルボン酸(H2(3,5-PynDC);83.5mg)をH2O(4mL)とエタノール(5mL)に溶解した。続いて、AlCl3水溶液(1M、0.5mL)と尿素水溶液(2M、0.5mL)を加えた。得られた溶液を予熱したオーブンで100℃に加熱した。24時間後、得られた白色析出物をろ過して回収し、H2Oで3回、メタノールで3回、それぞれ1日かけて洗浄した。真空下(約10-3mbar)120℃で6時間加熱した後、Al(OH)(3,5-PynDC)(70mg)を得た。過去に報告された手順16に基づいて、Al(OH)IPA(別名:CAU-10)を合成した。
【0107】
PXRDによる特性評価:
合成したMTV-MOFを、粉末X線回折(PXRD)分析により確認し、Al(OH)(3,5-PynDC)およびAl(OH)IPAとの比較を行った(
図23)。
【0108】
NMR解析:
洗浄して活性化させたサンプルをNaOD溶液(D
2O中5%)に溶解し、核磁気共鳴(NMR)分析に供した。この条件下、アルミニウムMTV-MOFを各成分に分解し、溶液ベースの
1H-NMR分析により、リンカー分子の組成を分析した(
図24)。
【0109】
走査電子顕微鏡(SEM)写真およびエネルギー分散型X線分光(EDS)分析:
MTV-MOFであるAl(OH)(3,5-PynDC)
0.56(IPA)
0.44のSEM写真とEDS分析(
図25および
図26A~26E)により、すべての結晶において、炭素(C)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、硫黄(S)の各元素が均一に分布していることが示された。NMRのデータと合わせると、両リンカーがすべての結晶に存在し、均一に分布していると考えられる。
【0110】
水分吸着特性:
Al(OH)(3,5-PynDC)、MTV-MOFであるAl(OH)(3,5-PynDC)
0.56(IPA)
0.44、およびAl(OH)IPAの25℃における水分吸着分析(
図27および
図28)により、MTV-システムを用いることでMOFの水分吸着特性を調整できることがわかった。
【0111】
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