(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】冷凍機用作動流体組成物及び冷凍機油
(51)【国際特許分類】
C10M 105/42 20060101AFI20240826BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20240826BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20240826BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240826BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
C10M105/42 ZAB
C09K5/04 C
C09K5/04 E
C10M105/38
C10N30:00 A
C10N40:30
(21)【出願番号】P 2021530559
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023823
(87)【国際公開番号】W WO2021005986
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2019126493
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】永井 郷司
(72)【発明者】
【氏名】中島 達貴
(72)【発明者】
【氏名】水谷 祐也
(72)【発明者】
【氏名】尾形 英俊
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-031321(JP,A)
【文献】特表平08-507524(JP,A)
【文献】特表2008-504373(JP,A)
【文献】特開2009-024152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C09K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三フッ化ヨウ化メタンを含む冷媒と、
冷凍機油と、
を含有する冷凍機用作動流体組成物であって、
前記冷凍機油が、冷凍機油全量基準で90質量%以上の潤滑油基油を含み、
前記潤滑油基油が、潤滑油基油全量基準で5質量%以上のコンプレックスエステルを含み、
前記コンプレックスエステルが、2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールと、炭素数6~12の多塩基酸と、炭素数4~18の一価アルコール及び炭素数2~12の一価脂肪酸から選ばれる少なくとも1種と、から合成されるコンプレックスエステルである、冷凍機用作動流体組成物。
【請求項2】
前記潤滑油基油が、ペンタエリスリトールと炭素数4~9の脂肪酸とのポリオールエステルを更に含む、請求項1に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【請求項3】
前記冷媒が、ジフルオロメタン(R32)及びペンタフルオロエタン(R125)を更に含む、請求項1又は2に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【請求項4】
冷凍機油全量基準で90質量%以上の潤滑油基油を含有する冷凍機油であって、
前記潤滑油基油が、潤滑油基油全量基準で5質量%以上のコンプレックスエステルを含み、
前記コンプレックスエステルが、2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールと、炭素数6~12の多塩基酸と、炭素数4~18の一価アルコール及び炭素数2~12の一価脂肪酸から選ばれる少なくとも1種と、から合成されるコンプレックスエステルを含み、
三フッ化ヨウ化メタンを含む冷媒と共に用いられる、冷凍機油。
【請求項5】
前記潤滑油基油が、ペンタエリスリトールと炭素数4~9の脂肪酸とのポリオールエステルを更に含む、請求項4に記載の冷凍機油。
【請求項6】
前記冷媒が、ジフルオロメタン(R32)及びペンタフルオロエタン(R125)を更に含む、請求項4又は5に記載の冷凍機油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機用作動流体組成物及び冷凍機油に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫、カーエアコン、ルームエアコン、自動販売機等の冷凍機は、冷媒を冷凍サイクル内に循環させるための圧縮機を備える。そして、圧縮機には、摺動部材を潤滑させるための冷凍機油が充填される。冷凍機油は一般的に、耐摩耗性、安定性等の特性が求められており、要求特性に応じて選択される潤滑油基油、或いは各種添加剤を備える。
【0003】
冷凍サイクル内に循環させる冷媒としては、近年、地球温暖化対策及び安全面での対策から、地球温暖化係数(GWP)が低く、不燃性の冷媒を適用することが検討されている。例えば下記特許文献1では、冷凍システムにおける冷媒として、三フッ化ヨウ化メタンを含む冷媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような冷媒循環システムの場合、その機構上、冷凍機油の一部が冷媒と共に圧縮機から吐出される。したがって、冷凍機油には、圧縮機内の潤滑性(すなわち冷媒存在下での潤滑部位における油膜保持性)に加えて、冷媒との相溶性が要求される。すなわち、冷凍機油は、冷媒との相溶性を確保する観点から、冷媒との二層分離温度が低いことが好ましく、また潤滑部位における油膜保持性を確保する観点から、冷媒溶解粘度が高いことが好ましい。
【0006】
しかしながら、冷凍機油の潤滑性と冷媒に対する相溶性とを両立することは必ずしも容易ではない。例えば、冷媒に対して高い相溶性を示す(低い二層分離温度を示す)冷凍機油の場合、冷媒の冷凍機油への溶解により、冷媒と冷凍機油の混合物(冷凍機用作動流体組成物)全体の粘性が低下し、結果として油膜保持性が低下する場合がある。また、冷凍機油の冷媒溶解粘度を高くして潤滑性を確保しようとすると、二層分離温度も相対的に上昇し、冷媒との相溶性が悪化することがある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、冷媒との二層分離温度が低く、且つ冷媒溶解粘度が高い冷凍機油、及び該冷凍機油を含む冷凍機用作動流体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、コンプレックスエステルを含む冷凍機油が、三フッ化ヨウ化メタンを含む冷媒に対し、二層分離温度を上げずに冷媒溶解粘度を上げることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、三フッ化ヨウ化メタンを含む冷媒と、多価アルコールと、多塩基酸と、一価アルコール及び一価脂肪酸から選ばれる少なくとも1種と、から合成されるコンプレックスエステルを含む冷凍機油と、を含む冷凍機用作動流体組成物を提供する。
【0010】
冷凍機油は、ポリオールエステルを更に含んでいてもよい。
【0011】
また、本発明は、多価アルコールと、多塩基酸と、一価アルコール及び一価脂肪酸から選ばれる少なくとも1種と、から合成されるコンプレックスエステルを含み、三フッ化ヨウ化メタンを含む冷媒と共に用いられる、冷凍機油を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、冷媒との二層分離温度が低く、且つ冷媒溶解粘度が高い冷凍機油、及び該冷凍機油を含む冷凍機用作動流体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る冷凍機油は、多価アルコールと、多塩基酸と、一価アルコール及び一価脂肪酸から選ばれる少なくとも1種と、から合成されるコンプレックスエステルを含む。
【0015】
コンプレックスエステルは、例えば以下の(a)又は(b)の方法で合成されるエステルである。
(a)多価アルコールと多塩基酸とのモル比を調整して、多塩基酸のカルボキシル基の一部がエステル化されずに残存するエステル中間体を合成し、次いでその残存するカルボキシル基を一価アルコールでエステル化する方法
(b)多価アルコールと多塩基酸とのモル比を調整して、多価アルコールの水酸基の一部がエステル化されずに残存するエステル中間体を合成し、次いでその残存する水酸基を一価脂肪酸でエステル化する方法
【0016】
上記(b)の方法により得られるコンプレックスエステルは、冷凍機油としての使用時に加水分解すると比較的強い酸が生成するため、上記(a)の方法により得られるコンプレックスエステルに比べて安定性が若干劣る傾向にある。そのため、コンプレックスエステルは、好ましくは、安定性のより高い上記(a)の方法により得られるコンプレックスエステルである。
【0017】
コンプレックスエステルは、好ましくは、2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールから選ばれる少なくとも1種と、炭素数6~12の多塩基酸から選ばれる少なくとも1種と、炭素数4~18の一価アルコール及び炭素数2~12の一価脂肪酸から選ばれる少なくとも1種とから合成されるエステルである。
【0018】
2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールは、コンプレックスエステルを基油として用いたときに好適な粘度を確保し、良好な低温特性が得られる観点から、好ましくは、ネオペンチルグリコール及びトリメチロールプロパンから選ばれ、幅広く粘度調整のできる観点から、より好ましくはネオペンチルグリコールである。
【0019】
潤滑性に優れる観点から、コンプレックスエステルを構成する多価アルコールは、好ましくは、2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールに加えて、ネオペンチルグリコール以外の炭素数2~10の二価アルコールを更に含有する。ネオペンチルグリコール以外の炭素数2~10の二価アルコールとしては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-ペンタンジオール等が挙げられる。当該二価アルコールは、潤滑油基油の特性に優れる観点から、好ましくはブタンジオールである。ブタンジオールとしては、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール等が挙げられる。ブタンジオールは、良好な特性が得られる観点から、好ましくは1,3-ブタンジール及び1,4-ブタンジオールから選ばれる。ネオペンチルグリコール以外の炭素数2~10の二価アルコールの量は、2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコール1モルに対して、好ましくは1.2モル以下、より好ましくは0.8モル以下、更に好ましくは0.4モル以下である。
【0020】
炭素数6~12の多塩基酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、トリメリット酸等が挙げられる。当該多塩基酸は、合成されたエステルの特性のバランスに優れ、入手が容易である観点から、好ましくはアジピン酸及びセバシン酸から選ばれ、より好ましくはアジピン酸である。炭素数6~12の多塩基酸の量は、2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコール1モルに対して、好ましくは0.3~5モル、より好ましくは0.4~4モル、更に好ましくは0.5~3モル、特に好ましくは0.6~2.5モルである。
【0021】
炭素数4~18の一価アルコールとしては、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、オレイルアルコール等の脂肪族アルコールが挙げられる。これらの一価アルコールは、直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素数4~18の一価アルコールは、特性のバランスの点から、好ましくは炭素数6~10の一価アルコールであり、より好ましくは炭素数8~10の一価アルコールである。当該一価アルコールは、合成されたコンプレックスエステルの低温特性が良好になる観点から、更に好ましくは2-エチルヘキサノール及び3,5,5-トリメチルヘキサノールから選ばれる。
【0022】
炭素数2~12の一価脂肪酸としては、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸等が挙げられる。これらの一価脂肪酸は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素数2~12の一価脂肪酸は、好ましくは炭素数8~10の一価脂肪酸であり、これらの中でも低温特性の観点から、より好ましくは2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸である。
【0023】
コンプレックスエステルとして好ましいものとしては、例えば以下のコンプレックスエステルが挙げられる。
・ネオペンチルグリコールと1,4-ブタンジオールにアジピン酸を反応させたエステル中間体に、更に3,5,5-トリメチルヘキサノールを反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たコンプレックスエステル
・トリメチロールプロパンにアジピン酸を反応させたエステル中間体に、更に2-エチルヘキサノールを反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たコンプレックスエステル
・ネオペンチルグリコールにアジピン酸を反応させたエステル中間体に、更に3,5,5-トリメチルヘキサン酸を反応させ、残存した未反応物を蒸留して除去して得たコンプレックスエステル
・トリメチロールプロパンと1,3-ブタンジオールにセバシン酸を反応させたエステル中間体に、更にノルマルヘプタノールを反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たコンプレックスエステル
・ネオペンチルグリコールと1,4-ブタンジオールにアジピン酸を反応させたエステル中間体に、更に2-エチルヘキサノールを反応させ、残存した未反応物を蒸留して除去して得たコンプレックスエステル
【0024】
更にコンプレックスエステルとしては、以下に示す高粘度のものも使用することができる。
・ペンタエリスリトールとアジピン酸と、分岐ブタン酸及び分岐ノナン酸と、から合成されるコンプレックスエステル
・ペンタエリスリトールとアジピン酸と、ペンタン酸及び分岐オクタン酸又はペンタン酸及び分岐ノナン酸から選ばれる少なくとも1種と、から合成されるコンプレックスエステル
・ペンタエリスリトールとアジピン酸と、分岐ペンタン酸及び分岐オクタン酸と、から合成されるコンプレックスエステル
【0025】
コンプレックスエステルの40℃における動粘度は、好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは40mm2/s以上、更に好ましくは50mm2/s以上であってよい。コンプレックスエステルの40℃における動粘度は、好ましくは1000mm2/s以下、より好ましくは500mm2/s以下、更に好ましくは400mm2/s以下、特に好ましくは170mm2/s以下であってよい。コンプレックスエステルの100℃における動粘度は、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは2mm2/s以上であってよい。コンプレックスエステルの100℃における動粘度は、好ましくは100mm2/s以下、より好ましくは50mm2/s以下であってよい。コンプレックスエステルの粘度指数は、低温粘度特性が良好な冷凍機油を得ることができるため、好ましくは100以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは130以上であり、200以下又は160以下であってよい。
【0026】
なお、本発明における動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定された動粘度及び粘度指数を意味する。
【0027】
コンプレックスエステルの酸価は、通常0.1mgKOH/g以下であり、より安定性に優れる点で、好ましくは0.05mgKOH/g以下、より好ましくは0.02mgKOH/g以下である。また、コンプレックスエステルの水酸基価は、通常0~100mgKOH/gであるが、三フッ化ヨウ化メタンを含む冷媒との冷媒相溶性と冷媒溶解粘度及び安定性のバランスから、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは20mgKOH/g以上であり、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは40mgKOH/g以下である。なお、本発明における酸価は、JIS K2501:2003に準拠して測定された酸価を意味し、本発明における水酸基価は、JIS K0070に準拠して測定された水酸基価を意味する。
【0028】
本実施形態に係る冷凍機油は、潤滑油基油として、上記コンプレックスエステルのみを含んでいてもよいが、上記コンプレックスエステル以外の潤滑油基油を含んでいてもよい。潤滑油基油における上記コンプレックスエステルの含有量は、潤滑油基油全量基準で、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上又は30質量%以上であってよく、また、100質量%以下又は50質量%以下であってよい。
【0029】
コンプレックスエステル以外の潤滑油基油としては、炭化水素油、コンプレックスエステル以外の含酸素油等を用いることができる。炭化水素油としては、鉱油系炭化水素油、合成系炭化水素油が例示される。コンプレックスエステル以外の含酸素油としては、コンプレックスエステル以外のエステル、エーテル、カーボネート、ケトン、シリコーン及びポリシロキサンが例示される。
【0030】
鉱油系炭化水素油は、パラフィン系、ナフテン系等の原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤精製、水素化精製、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、白土処理、硫酸洗浄等の方法で精製することによって得ることができる。これらの精製方法は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
合成系炭化水素油としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリα-オレフィン(PAO)、ポリブテン、エチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0032】
コンプレックスエステル以外のエステルとしては、ポリオールエステル、芳香族エステル、二塩基酸エステル、炭酸エステル及びこれらの混合物等が例示される。
【0033】
エーテルとしては、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、パーフルオロエーテル及びこれらの混合物等が例示される。
【0034】
このような潤滑油基油の中でも、粘度特性、潤滑性、電気絶縁性等の観点から、ポリオールエステルを潤滑油基油として更に含むことが好ましい。
【0035】
ポリオールエステルは、多価アルコールと脂肪酸とのエステルである。脂肪酸としては、飽和脂肪酸が好ましく用いられる。脂肪酸の炭素数は、好ましくは4~20、より好ましくは4~18、更に好ましくは4~9、特に好ましくは5~9、極めて好ましくは8~9である。ポリオールエステルは、多価アルコールの水酸基の一部がエステル化されずに水酸基のまま残っている部分エステルであってもよく、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであってもよく、また部分エステルと完全エステルとの混合物であってもよい。
【0036】
炭素数4~20の脂肪酸としては、具体的には、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸が挙げられる。これらの脂肪酸は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。脂肪酸は、好ましくはα位及び/又はβ位に分岐を有する脂肪酸であり、より好ましくは、2-メチルプロパン酸、2-メチルブタン酸、2-メチルペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-メチルヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸及び2-エチルヘキサデカン酸から選ばれ、更に好ましくは、2-エチルヘキサン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸から選ばれる。
【0037】
ポリオールエステルと構成する脂肪酸のうち、上述した好ましい炭素数を有する脂肪酸の割合は、好ましくは20~100モル%、より好ましくは50~100モル%、更に好ましくは60~100モル%、特に好ましくは70~100モル%、極めて好ましくは90~100モル%である。特に、ポリオールエステルを構成する脂肪酸として、炭素数9の脂肪酸を含む場合、当該脂肪酸の割合は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上であり、好ましくは100モル%以下、より好ましくは90モル%以下、更に好ましくは80モル%以下である。
【0038】
脂肪酸は、炭素数4~20の脂肪酸以外の脂肪酸を含んでいてもよい。炭素数4~20の脂肪酸以外の脂肪酸は、例えば炭素数21~24の脂肪酸であってよい。炭素数21~24の脂肪酸は、ヘンイコ酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸等であってよく、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0039】
ポリオールエステルを構成する多価アルコールとしては、2~6個の水酸基を有する多価アルコールが好ましく用いられる。多価アルコールの炭素数は、好ましくは4~12、より好ましくは5~10である。多価アルコールは、好ましくは、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等のヒンダードアルコールなどであり、冷媒との相溶性及び加水分解安定性に特に優れることから、より好ましくは、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、又はペンタエリスリトールとジペンタエリスリトールとの混合アルコールである。
【0040】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは3mm2/s以上、より好ましくは4mm2/s以上、更に好ましくは5mm2/s以上であってよい。潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは1000mm2/s以下、より好ましくは500mm2/s以下、更に好ましくは400mm2/s以下であってよい。潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは2mm2/s以上であってよい。潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは100mm2/s以下、より好ましくは50mm2/s以下であってよい。
【0041】
潤滑油基油の粘度指数は、70以上であってよく、200以下であってよい。
【0042】
潤滑油基油の含有量は、冷凍機油全量基準で、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってよい。
【0043】
本実施形態に係る冷凍機油は、好ましくは、酸化防止剤及び/又は酸捕捉剤を更に含有する。
【0044】
酸化防止剤は、例えば、2,6-ジ-tert.-ブチル-p-クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール系の酸化防止剤、又は、フェニル-α-ナフチルアミン、N,N-ジ(2-ナフチル)-p-フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤であってよく、好ましくは2,6-ジ-tert.-ブチル-p-クレゾールである。酸化防止剤の含有量は、冷凍機油の安定性に優れる観点から、冷凍機油全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であってよい。酸化防止剤の含有量は、特に制限はなく、冷凍機油全量基準で、通常5質量%以下であるが、空気混入時の酸化防止剤による冷凍機油の着色を抑制する観点からは、冷凍機油全量基準で、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以下であってよい。
【0045】
酸捕捉剤としては、例えばエポキシ化合物(エポキシ系酸捕捉剤)が挙げられる。エポキシ化合物としては、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、アリールオキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステル、エポキシ化植物油等が挙げられる。これらの酸捕捉剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば下記式(1)で表されるアリールグリシジルエーテル型エポキシ化合物又はアルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物を用いることができる。
【0047】
【化1】
[式(1)中、R
aはアリール基又は炭素数5~18のアルキル基を表す。]
【0048】
式(1)で表されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、フェニルグリシジルエーテル、n-ブチルフェニルグリシジルエーテル、i-ブチルフェニルグリシジルエーテル、sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ペンチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキシルフェニルグリシジルエーテル、ヘプチルフェニルグリシジルエーテル、オクチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、デシルフェニルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ウンデシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテルが好ましい。
【0049】
Raで表されるアルキル基の炭素数が5以上であると、エポキシ化合物の安定性が確保され、水分、脂肪酸、酸化劣化物と反応する前に分解したり、エポキシ化合物同士が重合する自己重合を起こしたりするのを抑制でき、目的の機能が得られやすくなる。一方、Raで表されるアルキル基の炭素数が18以下であると、冷媒との溶解性が良好に保たれ、冷凍装置内で析出して冷却不良などの不具合を生じにくくすることができる。
【0050】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、式(1)で表されるエポキシ化合物以外に、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールモノグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル等を用いることもできる。
【0051】
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば下記式(2)で表されるものを用いることができる。
【0052】
【0053】
式(2)中、Rbはアリール基、炭素数5~18のアルキル基、又はアルケニル基を示す。
【0054】
式(2)で表されるグリシジルエステル型エポキシ化合物としては、グリシジルベンゾエート、グリシジルネオデカノエート、グリシジル-2,2-ジメチルオクタノエート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートが好ましい。
【0055】
Rbで表されるアルキル基の炭素数が5以上であると、エポキシ化合物の安定性が確保され、水分、脂肪酸、酸化劣化物と反応する前に分解したり、エポキシ化合物同士が重合する自己重合を起こしたりするのを抑制でき、目的の機能が得られやすくなる。一方、Rbで表されるアルキル基又はアルケニル基の炭素数が18以下であると、冷媒との溶解性が良好に保たれ、冷凍機内で析出して冷却不良などの不具合を生じにくくすることができる。
【0056】
脂環式エポキシ化合物とは、下記一般式(3)で表される、エポキシ基を構成する炭素原子が直接脂環式環を構成している部分構造を有する化合物である。
【0057】
【0058】
脂環式エポキシ化合物としては、例えば、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタン、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、エキソ-2,3-エポキシノルボルナン、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)-スピロ(1,3-ジオキサン-5,3’-[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、4-(1’-メチルエポキシエチル)-1,2-エポキシ-2-メチルシクロヘキサン、4-エポキシエチル-1,2-エポキシシクロヘキサンが好ましい。
【0059】
アリールオキシラン化合物としては、1,2-エポキシスチレン、アルキル-1,2-エポキシスチレンなどが例示できる。
【0060】
アルキルオキシラン化合物としては、1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシノナン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシウンデカン、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシトリデカン、1,2-エポキシテトラデカン、1,2-エポキシペンタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、1,2-エポキシヘプタデカン、1,1,2-エポキシオクタデカン、2-エポキシノナデカン、1,2-エポキシイコサンなどが例示できる。
【0061】
エポキシ化脂肪酸モノエステルとしては、エポキシ化された炭素数12~20の脂肪酸と、炭素数1~8のアルコール又はフェノールもしくはアルキルフェノールとのエステルなどが例示できる。エポキシ化脂肪酸モノエステルとしては、エポキシステアリン酸のブチル、ヘキシル、ベンジル、シクロヘキシル、メトキシエチル、オクチル、フェニルおよびブチルフェニルエステルが好ましく用いられる。
【0062】
エポキシ化植物油としては、大豆油、アマニ油、綿実油等の植物油のエポキシ化合物などが例示できる。
【0063】
酸捕捉剤は、好ましくはグリシジルエステル型エポキシ化合物及びグリシジルエーテル型エポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種であり、冷凍機内の部材に使用されている樹脂材料との適合性に優れる観点からは、好ましくはグリシジルエステル型エポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種である。
【0064】
酸捕捉剤の含有量は、冷凍機油全量基準で、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.1~3質量%、更に好ましくは0.3~2質量%である。
【0065】
本実施形態に係る冷凍機油が酸化防止剤及び酸捕捉剤を含む場合、冷凍機油における酸化防止剤及び酸捕捉剤の含有量の合計は、冷凍機油全量基準で、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0066】
本実施形態に係る冷凍機油は、その他の添加剤を更に含有していてもよい。その他の添加剤としては、極圧剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、耐摩耗剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は、冷凍機油全量基準で、10質量%以下又は5質量%以下であってよい。
【0067】
冷凍機油の40℃における動粘度は、好ましくは3mm2/s以上、より好ましくは4mm2/s以上、更に好ましくは5mm2/s以上であってよい。冷凍機油の40℃における動粘度は、好ましくは500mm2/s以下、より好ましくは400mm2/s以下、更に好ましくは300mm2/s以下であってよい。冷凍機油の100℃における動粘度は、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは2mm2/s以上であってよい。冷凍機油の100℃における動粘度は、好ましくは100mm2/s以下、より好ましくは50mm2/s以下であってよい。
【0068】
冷凍機油の粘度指数は、70以上であってよく、200以下であってよい。
【0069】
冷凍機油の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-20℃以下であってよい。本発明における流動点は、JIS K2269:1987に準拠して測定される流動点を意味する。
【0070】
冷凍機油の体積抵抗率は、好ましくは1.0×109Ω・m以上、より好ましくは1.0×1010Ω・m以上、更に好ましくは1.0×1011Ω・m以上であってよい。本発明における体積抵抗率は、JIS C2101:1999に準拠して測定した25℃での体積抵抗率を意味する。
【0071】
冷凍機油の水分含有量は、冷凍機油全量基準で、好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは50ppm以下であってよい。
【0072】
冷凍機油の酸価は、好ましくは1.0mgKOH/g以下、より好ましくは0.1mgKOH/g以下であってよい。冷凍機油の水酸基価は、通常0~100mgKOH/gであり、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは20mgKOH/g以下であり、好ましくは2mgKOH/g以上、より好ましくは6mgKOH/g以上である。
【0073】
冷凍機油の灰分は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下であってよい。本発明における灰分は、JIS K2272:1998に準拠して測定された灰分を意味する。
【0074】
本実施形態に係る冷凍機油は、通常、冷凍機において、三フッ化ヨウ化メタンを含む冷媒と混合された冷凍機用作動流体組成物として存在している。すなわち、本実施形態に係る冷凍機油は、三フッ化ヨウ化メタンを含む冷媒と共に用いられ、本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物は、本実施形態に係る冷凍機油と、三フッ化ヨウ化メタンを含む冷媒と、を含む。
【0075】
かかる冷媒は、三フッ化ヨウ化メタンを含む限りにおいて特に制限されず、三フッ化ヨウ化メタンのみを含んでいてもよく、三フッ化ヨウ化メタン以外の冷媒を更に含んでいてもよい。三フッ化ヨウ化メタンの含有量は、冷媒全量基準で、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。また、三フッ化ヨウ化メタンの含有量は、冷媒全量基準で、好ましくは100質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0076】
三フッ化ヨウ化メタン以外の冷媒としては、例えば、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒、炭化水素冷媒、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド冷媒、及び、アンモニア、二酸化炭素等の自然系冷媒、並びにこれらの冷媒から選ばれる2種以上の混合冷媒が例示される。
【0077】
飽和フッ化炭化水素冷媒としては、好ましくは炭素数1~3、より好ましくは炭素数1~2の飽和フッ化炭化水素が挙げられる。具体的には、ジフルオロメタン(R32)、トリフルオロメタン(R23)、ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)、1,1-ジフルオロエタン(R152a)、フルオロエタン(R161)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R227ea)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(R245fa)、及び1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(R365mfc)、又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0078】
飽和フッ化炭化水素冷媒としては、上記の中から用途や要求性能に応じて適宜選択されるが、例えばR32単独;R23単独;R134a単独;R125単独;R134a/R32=60~80質量%/40~20質量%の混合物;R32/R125=40~70質量%/60~30質量%の混合物;R125/R143a=40~60質量%/60~40質量%の混合物;R134a/R32/R125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;R134a/R32/R125=40~70質量%/15~35質量%/5~40質量%の混合物;R125/R134a/R143a=35~55質量%/1~15質量%/40~60質量%の混合物などが好ましい例として挙げられる。さらに具体的には、R134a/R32=70/30質量%の混合物;R32/R125=60/40質量%の混合物;R32/R125=50/50質量%の混合物(R410A);R32/R125=45/55質量%の混合物(R410B);R125/R143a=50/50質量%の混合物(R507C);R32/R125/R134a=30/10/60質量%の混合物;R32/R125/R134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);R32/R125/R134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);R125/R134a/R143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)等を用いることができる。
【0079】
三フッ化ヨウ化メタンと上記飽和フッ化炭化水素冷媒との混合冷媒としては、例えば、R32/R125/三フッ化ヨウ化メタン混合冷媒、R32/R410A/三フッ化ヨウ化メタン混合冷媒が好ましい例として挙げられる。このような混合冷媒におけるR32:三フッ化ヨウ化メタンの比率は、冷凍機油との相溶性、低GWP及び不燃性とのバランスから、好ましくは10~90:90~10、より好ましくは30~70:70~30、更に好ましくは40~60:60~40、特に好ましくは50~60:50~40であり、同様に、R32及び三フッ化ヨウ化メタンの混合冷媒:R125の比率は、好ましくは10~95:90~5であり、低GWPの観点から、より好ましくは50~95:50~5、更に好ましくは80~95:20~5である。
【0080】
不飽和フッ化炭化水素(HFO)冷媒は、好ましくはフルオロプロペン、より好ましくはフッ素数が3~5のフルオロプロペンである。不飽和フッ化炭化水素冷媒としては、具体的には、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye)、及び3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)のいずれか1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。冷媒物性の観点からは、HFO-1225ye、HFO-1234ze及びHFO-1234yfから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0081】
炭化水素冷媒は、好ましくは炭素数1~5の炭化水素、より好ましくは炭素数2~4の炭化水素である。炭化水素としては、具体的には例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、メチルシクロプロパン、2-メチルブタン、ノルマルペンタン又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、25℃、1気圧で気体のものが好ましく用いられ、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2-メチルブタン又はこれらの混合物が好ましい。
【0082】
冷凍機用作動流体組成物における冷凍機油の含有量は、冷媒100質量部に対して、好ましくは1~500質量部、より好ましくは2~400質量部であってよい。
【0083】
本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物の冷媒溶解粘度(mm2/s)は、振動式粘度計を入れた200mlの耐圧容器に冷凍機油100gを入れ、容器内に真空脱気した後、冷媒を入れて冷凍機用作動流体組成物を調製し、温度80℃、絶対圧力3.4MPaの条件に冷媒の圧力と耐圧容器の温度を調整して測定する。この条件における冷媒溶解粘度は、冷凍機油が冷媒と相溶した際にも適正な粘度と油膜厚さを保持するために、好ましくは2.3mm2/s以上、より好ましくは2.5mm2/s以上、更に好ましくは2.7mm2/s以上であり、その上限に特に制限はないが、通常3.5mm2/s以下である。
【0084】
本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物の低温側の二層分離温度は、JIS K2211:2009「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して測定する。当該二層分離温度は、冷媒と冷凍機油との混合物(混合物における冷凍機油の割合:20質量%)のときで、好ましくは0℃以下、より好ましくは-10℃以下、更に好ましくは-20℃以下、特に好ましくは-30℃以下であり、冷媒溶解粘度とのバランスから、好ましくは-50℃以上、より好ましくは-40℃以上である。
【0085】
本実施形態に係る冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有するエアコン、冷蔵庫、開放型又は密閉型のカーエアコン、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷凍機、遠心式の圧縮機を有する冷凍機等に好適に用いられる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
[潤滑油基油]
以下に示す基材を用いて表1に示す組成(潤滑油基油全量基準での質量%)を有する潤滑油基油を調製した。
【0088】
(基材)
基材1:ペンタエリスリトールと、2-エチルヘキサン酸/3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸(モル比:50/50)とのポリオールエステル(40℃における動粘度:68.3mm2/s、粘度指数:88、酸価:0.01mgKOH/g、水酸基価:1mgKOH/g)
基材2:ペンタエリスリトールと、2-メチルプロパン酸/3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸(モル比:35/65)とのポリオールエステル(40℃における動粘度:69.4mm2/s、粘度指数:95、酸価:0.01mgKOH/g、水酸基価:1mgKOH/g)
基材3:ネオペンチルグリコール(1.0モル)と1,4-ブタンジオール(0.2モル)にアジピン酸(1.9モル)を反応させたエステル中間体に、更に3,5,5-トリメチルヘキサノール(1.0モル)を反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たコンプレックスエステル(40℃における動粘度:150.0mm2/s、粘度指数:138、酸価:0.02mgKOH/g、水酸基価:30mgKOH/g)
【0089】
これらの基油の合成反応は、触媒、溶剤を使用せずに行い、最終工程で吸着処理(白土処理)による微量の不純物除去を行い、酸価を0.05mgKOH/g以下とした。なお、動粘度及び粘度指数はJIS K2283に準拠し測定、計算した。
【0090】
【0091】
[冷凍機油]
上記で得られた潤滑油基油1~6に、冷凍機油全量基準で、酸化防止剤(DBPC)を0.1質量%、酸捕捉剤(グリシジルネオデカノエート)を0.5質量%添加して、冷凍機油1~6をそれぞれ調製した。
【0092】
[冷媒]
以下に示す冷媒を準備した。
冷媒1:ジフルオロメタン(R32)
冷媒2:ジフルオロメタン(R32)/ペンタフルオロエタン(R125)の50/50質量%の混合物(R410A)
冷媒3:上記冷媒1及び2、並びに三フッ化ヨウ化メタンを混合して調製した、R32/R125及び三フッ化ヨウ化メタンを含む混合冷媒(混合比(質量比):R32/R410A/三フッ化ヨウ化メタン=37.5/23/39.5)(R32/R125/三フッ化ヨウ化メタン=49.0/11.5/39.5)。この組成の混合冷媒は、GWPが733とされ、ASHRAEによるカテゴリーでは、不燃性冷媒(A1)にあたるとされている。
【0093】
上記冷凍機油1~6及び冷媒1~3を用い、以下に示す試験項目で評価を行った。
【0094】
(二層分離温度の測定)
JIS K2211:2009「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して、冷媒と冷凍機油との混合物(混合物における冷凍機油の割合:20質量%)を20℃から-40℃まで徐々に冷却し、混合物が層分離又は白濁した温度を二層分離温度(℃)として評価した。結果を表2及び表3に示す。なお、表2及び表3中、「<-40」とは、本試験の測定温度領域において相分離及び白濁が認められなかったことを示す。また、表2及び表3中、「分離」とは、20℃で既に相分離又は白濁していたことを表す。
【0095】
(冷媒溶解粘度の測定)
冷媒溶解粘度(mm2/s)は、振動式粘度計を入れた200mlの耐圧容器に冷凍機油100gを入れ、容器内を真空脱気した後、冷媒を入れて作動流体組成物を調製し、温度80℃、絶対圧力3.4MPaの条件に冷媒の圧力と耐圧容器の温度を調整して測定した。結果を表2及び表3に示す。
【0096】
【0097】
【0098】
表2及び表3に示されるように、本発明に係る冷凍機油及び冷媒を用いた場合、冷媒との二層分離温度を低く保持したまま、冷媒溶解粘度を高くすることができ、冷媒相溶性と油膜保持性とを高水準で両立することができた。それに対し、本発明に係る冷凍機油又は冷媒を用いなかった場合、二層分離温度を低くすると、冷媒溶解粘度が著しく低下し、逆に冷媒溶解粘度を高くすると、二層分離温度が著しく上昇することが示され、冷媒相溶性と油膜保持性とを高水準で両立することができないことが判明した。
【0099】
[実施例4~9]
実施例4~9においては、潤滑油基油4に含まれる基材3のコンプレックスエステルに代えて、以下の基材A-1~A-6のコンプレックスエステルを用い、その他は実施例1と同様にして冷凍機油を調製した。
<コンプレックスエステル>
(基材A-1)トリメチロールプロパン(1モル)にアジピン酸(2.4モル)を反応させたエステル中間体に、さらに2-エチルヘキサノール(2.0モル)を反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たエステル(40℃における動粘度68.8mm2/s、粘度指数120)。
(基材A-2)ネオペンチルグリコール(1モル)にアジピン酸(0.8モル)を反応させたエステル中間体に、さらに3,5,5-トリメチルヘキサン酸(0.5モル)を反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たエステル(40℃における動粘度71.5mm2/s、粘度指数114)。
(基材A-3)トリメチロールプロパン(1モル)と1,3-ブタンジオール(0.2モル)にセバシン酸(2.4モル)を反応させたエステル中間体に、さらにノルマルヘプタノール(1.6モル)を反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たエステル(40℃における動粘度77.3mm2/s、粘度指数148)。
(基材A-4)ネオペンチルグリコール(1モル)と1,4-ブタンジオール(0.3モル)にアジピン酸(2.4モル)を反応させたエステル中間体に、さらに2-エチルヘキサノール(2.4モル)を反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たエステル(40℃における動粘度68.2mm2/s、粘度指数144)。
(基材A-5)ネオペンチルグリコール(1モル)と1,4-ブタンジオール(0.4モル)にアジピン酸(3.1モル)を反応させたエステル中間体に、さらに3,5,5-トリメチルヘキサノール(3.5モル)を反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たエステル(40℃における動粘度32.2mm2/s、粘度指数161)。
(基材A-6)ネオペンチルグリコール(1モル)と1,4-ブタンジオール(0.3モル)にアジピン酸(2.4モル)を反応させたエステル中間体に、さらに3,5,5-トリメチルヘキサノール(2.5モル)を反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たエステル(40℃における動粘度67.8mm2/s、粘度指数145)。
【0100】
実施例4~9の冷凍機油について、上記と同様にして二層分離温度及び冷媒溶解粘度を測定した。これらの場合においても、三フッ化ヨウ化メタンを含む冷媒3に対して、二層分離温度が低く(-39℃以下)、冷媒溶解粘度が高くなる(1.9mm2/s以上)という効果が認められた。