(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】腫瘍溶解性ワクシニアウイルス
(51)【国際特許分類】
C12N 7/04 20060101AFI20240826BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240826BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240826BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240826BHJP
C12N 15/863 20060101ALI20240826BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240826BHJP
C12N 15/39 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
C12N7/04
A61K35/76
A61P35/00
A61P37/02
C12N15/863 Z
C12N15/12
C12N15/39 ZNA
(21)【出願番号】P 2021539282
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030448
(87)【国際公開番号】W WO2021029385
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2019147885
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】村上 利夫
(72)【発明者】
【氏名】沖田 剛
(72)【発明者】
【氏名】上水流 結
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/076422(WO,A1)
【文献】特表2011-504104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/04
A61K 35/76
A61P 35/00
A61P 37/02
C12N 15/863
C12N 15/12
C12N 15/39
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)活性化タンパク質、及びリボヌクレオチド還元酵素(RNR)の機能が欠損した
、C11R、O1L、及びF4Lの各遺伝子の全部又は一部の領域が削除又は改変され、これらの遺伝子産物の機能が不活化されているワクシニアウイルス
であって、
ここで、細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換されており、
細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13Lよりなる群から選ばれたひとつ又は複数の遺伝子であり、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換されており、
EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子がワクシニアウイルスIHD-J株またはIHD-W株に存在するA33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13Lからなる群から選択されるEEV関連タンパク質と同一のアミノ酸配列をコードする遺伝子である、
ワクシニアウイルス。
【請求項2】
正常細胞内では複製せず、増殖細胞内で選択的に複製可能な、安全性が向上した制限増殖型の請求項1に記載のウイルス。
【請求項3】
細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13L遺伝子であり、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換されて
おり、
EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子がワクシニアウイルスIHD-J株またはIHD-W株に存在するA33R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13Lからなる群から選択されるEEV関連タンパク質と同一のアミノ酸配列をコードする遺伝子である、請求項
1または2に記載のウイルス。
【請求項4】
細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13L遺伝子であり、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換されて
おり、
EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子がワクシニアウイルスIHD-J株またはIHD-W株に存在するA33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13Lからなる群から選択されるEEV関連タンパク質と同一のアミノ酸配列をコードする遺伝子である、請求項
1または2に記載のウイルス。
【請求項5】
請求項1
-4のいずれか1項に記載のウイルスを含む、癌治療のための医薬組成物。
【請求項6】
静脈内投与用、腹腔内投与用又は腫瘍内投与用である、請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1
-5のいずれか1項に記載のウイルスに外来DNAを導入した制限増殖型ワクシニアウイルスベクター。
【請求項8】
外来DNAが、癌特異抗原遺伝子、免疫応答制御分子、又は癌細胞表面抗原親和性タンパク質をコードするDNAである、請求項
7に記載のベクター。
【請求項9】
正常細胞内では複製せず、増殖細胞内で選択的に複製可能な制限増殖型ワクシニアウイルスの細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列を、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子のDNA配列で置換することを含む、制限増殖型ワクシニアウイルスの生産性を向上させる方法
であって、
ここで、制限増殖型ワクシニアウイルスが、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)活性化タンパク質、及びリボヌクレオチド還元酵素(RNR)の機能が欠損した、C11R、O1L、及びF4Lの各遺伝子の全部又は一部の領域が削除又は改変され、これらの遺伝子産物の機能が不活化されており、
ここで、細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13Lよりなる群から選ばれたひとつ又は複数の遺伝子であり、
EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子がワクシニアウイルスIHD-J株またはIHD-W株に存在するA33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13Lからなる群から選択されるEEV関連タンパク質と同一のアミノ酸配列をコードする遺伝子である、
方法。
【請求項10】
細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13L遺伝子である、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13L遺伝子である、請求項
9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)活性化タンパク質、及びリボヌクレオチド還元酵素(RNR)の機能を欠損させることにより正常細胞内でのウイルス複製を制限し、安全性を向上させるとともに、ワクシニアウイルスの細胞外エンベロープウイルス(EEV)のビリオン形成に関連するタンパク質のアミノ酸残基を改変することにより腫瘍細胞及び工業生産に用いる宿主細胞でのウイルス生産性を向上させたことを特徴とする、静脈内投与可能な腫瘍溶解性ワクシニアウイルスに関する。本発明のワクシニアウイルスは、ウイルスの安全性及び生産性がともに向上しており、抗癌剤として有効に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
腫瘍溶解性ワクシニアウイルスとして、ワクシニアウイルス増殖因子(以下、「VGF」ともいう)及び細胞外シグナル調節キナーゼ(以下、「ERK」ともいう)を活性化するタンパク質であるO1Lタンパク質をコードする両遺伝子を欠損させることにより、正常細胞内では増殖が制限され、癌細胞内で特異的に増殖し、癌細胞を障害する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性ワクシニアウイルス(MD-RVV)が開示されている(特許文献1)。
【0003】
ワクシニアウイルスは上皮増殖因子(以下、「EGF」ともいう)受容体シグナル伝達経路を利用し、迅速で直接的な感染細胞の運動性を介してウイルスの拡散を促進する(非特許文献1)。ワクシニアウイルスの感染初期に分泌される、EGFと高い相同性を持つワクシニアウイルス増殖因子(VGF)であるC11Rタンパク質は、感染細胞及び周囲の細胞上のEGF受容体に結合し、MAPキナーゼカスケード(Ras/Raf/MEK/ERK代謝経路)にシグナルを伝達する。またワクシニアウイルスのO1Lタンパク質は、感染細胞内の細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)を持続的に活性化し、ウイルスの病原性を促進する(非特許文献2)。C11R及びO1Lを欠損したウイルス(MD-RVV)は、正常細胞ではERKを活性化できないためウイルス増殖を低下させるが、ERK経路が異常に活性化している癌細胞では、不活化されているウイルスのERKの活性化機能が補われ、ウイルスが増殖し癌細胞を破壊する腫瘍溶解性ウイルスとなる(特許文献1)。
【0004】
ウイルス毒性を軽減させるために、ウイルスゲノムにコードされたリボヌクレオチド還元酵素を不活性化させたポックスウイルスを用いた腫瘍溶解性ウイルスが開示されている(特許文献2)。
【0005】
ワクシニアウイルスのA34Rポリペプチドのアミノ酸位置K151の点変異が細胞外エンベロープウイルスの産生を向上させることが公知である(非特許文献3及び特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】再表2015/076422
【文献】特表2011-504104
【文献】特表2006-506974
【非特許文献】
【0007】
【文献】Beerli C.,et al., Nature Microbiology,4(2),216-225,2019
【文献】Schweneker,M.,et al., Journal of Virology,86(4),2323-2336,2012
【文献】Blasco,R.,et al.,Journal of Virology,67(6),3319-3325,1993
【文献】Downs-Canner,S.,et al.,Molecular Therapy,24(8),1492-1501,2016
【文献】Loren,K.,et al., Clinical Cancer Research,23(19),5696-5702, 2017
【文献】McIntosh A.A.,Smith G.L.,Journal of Virology,70(1),272-281, 1996
【文献】Ferguson M.S.,et al.,Advances in Virology,2012,805629,2012
【文献】Badrinath N,et al.,International Journal of Nanomedicine,11,4835-4847,2016
【文献】Bernet J.,et al.,Journal of Biosciences,28(3),249-264,2003
【文献】Dehaven B.C.,et al., Journal of General Virology, 92, 1971-1980,2011
【文献】Chung,C.-S.,Journal of Virology,72(2),1577-1585,1998
【文献】Gammon,D.B.,et al.,PLOS Pathogens,6(7),e1000984,2010
【文献】Aye Y.,et al.,Oncogene,34(16),2011-2021,2015
【文献】Engstroem Y.,et al., The Journal of Biological Chemistry,260(16),9114-9116,1985
【文献】Torii,S.,et al.,Cancer Science,97(8),697-702,2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、腫瘍内投与による原発巣に対する治療のみならず、静脈注射で全身投与することにより、全身性の微小転移癌に対する効果も期待できる。しかしながら、これまでに腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを静脈内投与した臨床試験では、有効性を示唆する結果とともに、ウイルスの排出を伴う副作用が観察されており(非特許文献4;非特許文献5)、腫瘍溶解性ウイルスのさらなる安全性向上が求められていた。
【0009】
一方、安全性向上のために正常細胞におけるウイルスの増殖性が抑制されるように遺伝子改変された腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞及び工業生産で使用する宿主細胞において、遺伝子改変前の親株ウイルスと比較して、しばしばウイルス増殖性の低下を伴い、有効性及び生産性の低下が懸念される。そのため、ウイルスの安全性を向上させるとともに、生産性をも向上させることが望まれていた。
【0010】
しかしながら、有効性及び生産性向上のために、細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子を改変し、EEVの割合を増加させることは有用であるが、EEV産生量の増加はウイルス毒性に関連する(非特許文献6)。
【0011】
これまでに報告されている腫瘍溶解性ウイルスの静脈内投与の臨床試験データは、それらのウイルスが限られた毒性で安全に全身的に送達され得ることを示したが、有効性に個体差が認められるなどの不完全さが認められる。この主な理由は、安全性が確認された用法・用量で、ウイルスが標的に到達する前にウイルスが循環から急速に排除されるためである。この現象は、肺、肝臓及び脾臓などの他の組織による非特異的な取り込みとともに、主に中和抗体、補体活性化、抗ウイルス性サイトカイン、及び組織内在性マクロファージを介して行われる(非特許文献7)。腫瘍溶解性ウイルスの中で、ワクシニアウイルスは、その多くの好ましい性質のために前臨床及び臨床研究の焦点となっている(非特許文献8)。いくつかの腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、静脈内投与による臨床試験が実施されている。ワクシニアウイルスが分泌するワクシニアウイルス補体制御タンパク質(以下、「VCP」ともいう)は補体C4b及びC3bを結合及び不活性化し、それにより補体活性化の古典的経路及び代替経路を阻害する(非特許文献9)。また、EEV形態のワクシニアウイルスは、その膜内に補体活性化を防止し得る宿主タンパク質を組み込むとともに、EEVタンパク質であるA56Rが分泌されたVCPを固定し補体攻撃から保護している(非特許文献10)。
【0012】
ワクシニアウイルスは特異的なレセプターが存在せず、動物の結合組織を中心にあらゆる組織に普遍的に存在するヘパラン硫酸のようなグリコサミノグリカンがワクシニアウイルスと宿主細胞との相互作用を媒介し、原形質膜にウイルスが直接融合し、エンドサイトーシスによって腫瘍細胞に入る(非特許文献11)。従って、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは臓器により特異的な細胞指向性を示さず、幅広い癌種での治療効果が期待できる。その反面、静脈内投与による治療を実施する際には、ウイルス増殖による全身性の副作用が課題となる。この課題を解決するために、ワクシニアウイルスが正常細胞に感染し、侵入した後に生じる細胞内でのウイルス複製を厳しく制限する必要がある。一般に、抗癌剤は有効域と毒性域が近接しているため、有効性が期待される用法・用量で副作用が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ワクシニアウイルスゲノムには、DNA合成における律速酵素であるリボヌクレオチド還元酵素(以下、「RNR」ともいう)遺伝子が、I4L(大サブユニット;RRM1)及びF4L(小サブユニット;RRM2)としてコードされており、培養細胞中での効率的な複製及びマウスでのウイルス毒性には、F4Lが必要である(非特許文献12)。一方、細胞におけるRNR発現の上昇は多くの癌の特徴であり、ONCOMINEデータベースを使用してヒトの癌におけるRNR遺伝子発現を調査した結果、RRM2は分析した168の癌のうち73で最も過剰発現されている遺伝子のトップ10%であった(非特許文献13)。また、哺乳動物のRNR活性は細胞周期に依存し、RRM1のタンパク質レベルは細胞周期を通して一定であるが、RRM2はDNA複製が起こるG1/S期の間に発現し、細胞周期依存性の酵素活性はRRM2のレベルにより制御されている(非特許文献14)。一方、G1期からS期への細胞周期の進行は活性化したERK経路により引き起こされる(非特許文献15)。従って、F4Lの機能を阻害したワクシニアウイルスは、細胞増殖が盛んな癌細胞では細胞由来のRRM2を利用してウイルスの複製が可能となるが、正常細胞ではRRM2の発現レベルが低いためウイルス複製が制限される。C11R及びO1Lの機能が阻害されたMD-RVVからさらにF4Lを削除することにより、正常細胞でのウイルス増殖性が著しく抑制され、安全性がさらに向上する。
【0014】
正常細胞内では増殖できず、標的とする癌細胞内で選択的に増殖可能な制限増殖型ウイルスである腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞及び工業生産に用いる宿主細胞においても、親株ウイルスと比較して増殖性が低下する傾向が予測される。前述のC11R及びO1Lに加えてF4L遺伝子を削除した腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、増殖能が高い癌細胞では、ウイルス複製に必要なERK及びRNRを癌細胞内の酵素で補い、ウイルス複製が行われる。
【0015】
本発明者らは、細胞増殖に関連するERK及びRNRの機能を欠損させたウイルスの生産性をさらに補う方法として、ウイルス複製に必要なERK及びRNRの活性を癌細胞由来の酵素により補填するとともに、ウイルスライフサイクルの後期過程で発現されるビリオン形成に関連する分子に着目した。すなわち、ワクシニアウイルスの4つの異なる形態のビリオン(細胞内成熟ウイルス(以下、「IMV」ともいう)、細胞内エンベロープウイルス(以下、「IEV」ともいう)、細胞結合エンベロープウイルス(以下、「CEV」ともいう)及び細胞外エンベロープウイルス(以下、「EEV」))のうち、EEVの構成要素である7種類のタンパク質(A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、F13L)をコードする遺伝子を、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換することにより、ウイルスの生産性が向上するとともに、安全に静脈投与を行うことが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、以下の[1]~[20]を提供する。
[1]ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)活性化タンパク質、及びリボヌクレオチド還元酵素(RNR)の機能が欠損したワクシニアウイルス。
[2]正常細胞内では複製せず、増殖細胞内で選択的に複製可能な、安全性が向上した制限増殖型の[1]に記載のウイルス。
[3]C11R、O1L、及びF4Lの各遺伝子の全部又は一部の領域が削除又は改変され、これらの遺伝子産物の機能が不活化されている、[1]又は[2]に記載のウイルス。
[4]ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)活性化タンパク質、及びリボヌクレオチド還元酵素(RNR)の機能が欠損しており、さらに、細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換されている、正常細胞内では複製せず、増殖細胞内で選択的に複製可能な、安全性及び生産性が向上した制限増殖型ワクシニアウイルス。
[5]C11R、O1L、及びF4Lの各遺伝子の全部又は一部の領域が削除又は改変され、これらの遺伝子産物の機能が不活化されている、[4]に記載のウイルス。
[6]細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13Lよりなる群から選ばれたひとつ又は複数の遺伝子であり、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換されている、[4]又は[5]に記載のウイルス。
[7]細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13L遺伝子であり、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換されている、[4]又は[5]に記載のウイルス。
[8]細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13L遺伝子であり、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換されている、[4]又は[5]に記載のウイルス。
[9]EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株が、IHD-J株又はIHD-W株である、[4]~[8]のいずれかに記載のウイルス。
[10][1]~[9]のいずれかに記載のウイルスを含む、癌治療のための医薬組成物。
[11]静脈内投与用、腹腔内投与用又は腫瘍内投与用である、[10]に記載の医薬組成物。
[12][1]~[9]のいずれかに記載のウイルスに外来DNAを導入した制限増殖型ワクシニアウイルスベクター。
[13]外来DNAが、癌特異抗原遺伝子、免疫応答制御分子、又は癌細胞表面抗原親和性タンパク質をコードするDNAである、[12]に記載のベクター。
[14]正常細胞内では複製せず、増殖細胞内で選択的に複製可能な制限増殖型ワクシニアウイルスの細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列が、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子のDNA配列で置換されている、生産性が向上した前記ウイルス。
[15]細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13Lよりなる群から選ばれたひとつ又は複数の遺伝子である、[14]に記載のウイルス。
[16]細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13L遺伝子である、[14]に記載のウイルス。
[17]細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13L遺伝子である、[14]に記載のウイルス。
[18]EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株が、IHD-J株又はIHD-W株である、[14]~[17]のいずれかに記載のウイルス。
[19][14]~[18]のいずれかに記載のウイルスを含む、癌治療のための医薬組成物。
[20][14]~[18]のいずれかに記載のウイルスに外来DNAを導入した制限増殖型ワクシニアウイルスベクター。
[21]外来DNAが、癌特異抗原遺伝子、免疫応答制御分子、又は癌細胞表面抗原親和性タンパク質をコードするDNAである、[20]に記載のベクター。
【0017】
本発明はさらに、以下の[22]~[26]を提供する。
[22]正常細胞内では複製せず、増殖細胞内で選択的に複製可能な制限増殖型ワクシニアウイルスの細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列を、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子のDNA配列で置換することを含む、制限増殖型ワクシニアウイルスの生産性を向上させる方法。
[23]細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13Lよりなる群から選ばれたひとつ又は複数の遺伝子である、[22]に記載の方法。
[24]細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13L遺伝子である、[22]に記載の方法。
[25]細胞外エンベロープウイルス(EEV)関連タンパク質をコードする遺伝子が、A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13L遺伝子である、[22]に記載の方法。
[26]EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株が、IHD-J株又はIHD-W株である、[22]に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ワクシニアウイルス由来のVGF、ERK及びRNRの機能を欠損させることにより正常細胞でのウイルス増殖を著しく抑制し安全性を向上させるとともに、当該ウイルスのEEV関連タンパク質をコードする遺伝子を、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換することにより生産性を向上させた、静脈内投与可能な腫瘍溶解性ワクシニアウイルスが提供される。当該ウイルスは、新規の抗癌剤として有効に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の例示的な遺伝子組換えワクシニアウイルスの構造を示す図である。
【
図2】本発明の例示的な遺伝子組換えワクシニアウイルスの作製方法を示す図である。
【
図3】F4L欠損改変ウイルスによる癌細胞及び正常細胞の細胞障害性への影響を示す図である。A:HeLa(ヒト子宮頸癌細胞);B:NHDF(ヒト正常皮膚線維芽細胞)。
【
図4】F4L欠損改変ウイルスを静脈内投与した免疫不全マウスの生存率を示す図である。
【
図5】F4L欠損改変ウイルスを静脈内投与した免疫不全マウスの体重変化を示す図である。
【
図6】F4L欠損改変ウイルスを静脈内投与した免疫不全マウスの状態変化を示す図である。
【
図7】EEV関連タンパク質の改変による血清含有培地を用いたHeLa細胞での生産性への影響を示す図である。MD-RVV(A)及びMD-RVVのF4L遺伝子を欠損させたウイルス(B)を基に改変。
【
図8】EEV関連タンパク質の改変によるケミカリーディファインド培地を用いたHeLa細胞での生産性への影響を示す図である。A:培養上清ウイルス;B:細胞内ウイルス。
【
図9】ヒト膵がん腹膜播種マウスにおけるRNR遺伝子欠損ウイルスの腹腔内投与後のウイルス症状スコアを示す図である。
【
図10】ヒト膵がん腹膜播種マウスにおけるRNR遺伝子欠損ウイルスの腹腔内投与後の生存率を示す図である。
【
図11】ヒト膵がん腹膜播種マウスにおけるRNR遺伝子欠損ウイルスの腹腔内投与後のウイルス症状スコアを示す図である。
【
図12】ヒト膵がん腹膜播種マウスにおけるRNR遺伝子欠損ウイルスの腹腔内投与後の生存率を示す図である。
【
図13】ヒト膵がん同所移植マウスにおけるRNR遺伝子欠損ウイルスの静脈内投与後のウイルス症状スコアを示す図である。
【
図14】ヒト膵がん同所移植マウスにおけるRNR遺伝子欠損ウイルスの静脈内投与後の生存率を示す図である。
【
図15】ヒト膵がん皮下移植マウスにおけるRNR遺伝子欠損ウイルスの腫瘍内投与後の腫瘍体積を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書中に使用されている遺伝子命名法は、ワクシニアウイルスコペンハーゲン株に用いられ、特に限定されない限り、他のポックスウイルス科の相同性遺伝子にも用いられる。
【0021】
本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、ワクシニアウイルスゲノムの改変により、遺伝子組換えワクシニアウイルスとして作製することができる。親株ワクシニアウイルスとして、Copenhagen、Western Reserve、Lister、LC16mO、LC16m8、TianTan、Wyeth等が挙げられる。
【0022】
斯かるワクシニアウイルスゲノムの改変は、例えば、人体への投与実績のある痘そうワクチン株であるLC16m8ワクシニアウイルスのゲノム(Morikawa,S.,et al.,Journal of General Virology,79(18),11873-11891,2005)を用いて行うことができる。弱毒株のLC16m8は、その親株であるLC16mOのEEV構成要素の一つであるB5R遺伝子の変異によりウイルスの感染及び伝播の効率が低下している。正常細胞での複製能が制限された本発明のワクシニアウイルスは、癌細胞においては、増殖及び伝播が著しく、強い細胞障害性を示すことが望ましい。従って、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスの構築には、LC16mO又はLC16m8ウイルスゲノムのB5R遺伝子をLC16mOウイルスのB5R領域のDNA配列に改変したウイルスを用いてもよい。
【0023】
ワクシニアウイルスゲノムの改変は、ベクターを用いた相同組換えにより行うことができる。改変されるDNA遺伝子配列を含有する単離されたプラスミドは、培養細胞にワクシニアウイルスの感染とともに形質移入される。プラスミドの相同ウイルスDNAとウイルスゲノムとの間の組み換えは、改変されたDNA配列の存在により改変されたウイルスを生成する。ワクシニアウイルスDNAの改変にはBacterial Artificial Chromosome(BAC)システムを使用してもよい。BACシステムは、BACgfp配列が組み込まれたウイルスゲノムを大腸菌内で保持し、大腸菌の遺伝学を駆使してウイルスゲノムの組換えを行う方法である(
図2)。
【0024】
本発明により、VGF、ERK活性化タンパク質、及びRNRの機能を欠損させることにより、増殖細胞内で選択的に複製可能な、安全性が向上した制限増殖型ワクシニアウイルスを得ることができる。
【0025】
VGFをコードする遺伝子はC11Rであり、ERK活性化タンパク質であるO1Lタンパク質をコードする遺伝子はO1Lであり、RNRの小サブユニットであるRRM2をコードする遺伝子はF4Lであるので、ワクシニアウイルスのゲノムにおいてこれら遺伝子を改変することにより、VGF、ERK活性化タンパク質、及びRNRの機能を欠損させることができる。
【0026】
ワクシニアウイルスのVGF、O1Lタンパク質及びRRM2の機能の欠損とは、C11R、O1L、及びF4L遺伝子が発現しないか、又は発現してもその発現タンパク質がVGF、O1Lタンパク質、及びRRM2の正常な機能を保持していないことをいう。VGF、O1Lタンパク質及びRRM2の機能を欠損させるためには、C11R、O1L、及びF4L遺伝子の総て又は一部を欠失させればよい。また、塩基の置換、欠失又は付加により遺伝子を変異させ、正常なVGF、O1Lタンパク質、又はRRM2が発現できないようにしてもよい。また、C11R、O1L、又はF4L遺伝子中に外来遺伝子を挿入してもよい。外来遺伝子の挿入や遺伝子の欠失、変異は例えば公知の相同組換えや部位特異的突然変異導入法により行うことができる。本発明において、遺伝子の欠失や変異により正常な遺伝子産物が発現されない場合、遺伝子が欠損しているという。C11R、O1L及びF4L遺伝子の欠損は、これらの遺伝子を特異的に増幅するプライマーペアを用いたPCR法により確認できる。
【0027】
さらに、VGF、ERK活性化タンパク質、及びRNRの機能を欠損させることに加えて、EEV関連タンパク質をコードする遺伝子を、EEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換することにより、安全性が向上した制限増殖型ワクシニアウイルスの生産性を向上させることができる。
【0028】
改変させるEEV関連タンパク質をコードする遺伝子としては、EEVの構成要素である7種類のタンパク質(A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、F13L)をコードする遺伝子のうちの少なくとも一つであってよい。例えば、A34Rをコードする遺伝子を改変することによりワクシニアウイルスの生産性を向上させることができる。A33R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13Lのすべてを改変するのが好ましく、A33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、及びF13Lのすべてを改変するのがさらに好ましい。
【0029】
EEV関連タンパク質をコードする遺伝子を改変するために用いるDNA配列の由来となるワクシニアウイルスとしては、IHD-J、IHD-W等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本発明において、生産性を向上させるためにEEV関連タンパク質をコードする遺伝子をEEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換する対象となる制限増殖型ワクシニアウイルスとしては、正常細胞内では複製せず、増殖細胞内で選択的に複製可能な制限増殖型ワクシニアウイルスであれば特に制限されない。斯かる制限増殖型ワクシニアウイルスは、VGF、ERK活性化タンパク質、及びRNRの機能を欠損させることにより安全性が向上した、本発明による上記制限増殖型ワクシニアウイルスが好ましいが、これに限られるものではない。例えば、C11R及びO1Lを欠損したウイルス(MD-RVV)であっても、EEV関連タンパク質をコードする遺伝子をEEV産生能の高い他のワクシニアウイルス株の対応する遺伝子で置換することにより、生産性を向上させることができる。
【0031】
本発明に従って作製した改変ワクシニアウイルスの例示を
図1に示す。
「LC16m8-B5RmO」は、LC16m8のB5R遺伝子をその親株ウイルスであるLC16mOのB5R遺伝子のDNA配列に改変したウイルスである。
「MD-RVV」は、LC16m8-B5RmOウイルスのC11R及びO1L遺伝子を欠損させたウイルスである。
「MD-RVV-ΔRR」は、MD-RVVウイルスのF4L遺伝子を欠損させたウイルスである。
「MD-RVV-A34R」は、MD-RVVのA34R遺伝子をIHD-Jワクシニアウイルス株のA34R遺伝子DNA配列に置換したウイルスである。
「MD-RVV-ΔRR-A34R」は、MD-RVV-ΔRRウイルスのA34R遺伝子をIHD-Jワクシニアウイルス株のA34R遺伝子のDNA配列に置換したウイルスである。
「MD-RVV-EEV6」は、MD-RVVウイルスのA33R、A36R、A56R、B5R、F12L、F13L遺伝子を、それぞれ、IHD-Jワクシニアウイルス株のA33R、A36R、A56R、B5R、F12L、F13L遺伝子のDNA配列に置換したウイルスである。
「MD-RVV-ΔRR-EEV6」は、MD-RVV-ΔRRウイルスのA33R、A36R、A56R、B5R、F12L、F13L遺伝子を、それぞれ、IHD-Jワクシニアウイルス株のA33R、A36R、A56R、B5R、F12L、F13L遺伝子のDNA配列に置換したウイルスである。
「MD-RVV-EEV7」は、MD-RVVウイルスのA33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、F13L遺伝子を、それぞれ、IHD-Jワクシニアウイルス株のA33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、F13L遺伝子のDNA配列に置換したウイルスである。
「MD-RVV-ΔRR-EEV7」は、MD-RVV-ΔRRウイルスのA33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、F13L遺伝子を、それぞれ、IHD-Jワクシニアウイルス株のA33R、A34R、A36R、A56R、B5R、F12L、F13L遺伝子のDNA配列に置換したウイルスである。
【0032】
本明細書において、「増殖細胞」とは、正常細胞よりも増殖機能が亢進した細胞を意味し、癌細胞、悪性腫瘍細胞が例として挙げられるが、これに限られるものではない。
【0033】
本発明の制限増殖型ワクシニアウイルスは、腫瘍細胞及び工業生産に用いる宿主細胞のいずれにおいても用いることができる。腫瘍細胞は主として悪性腫瘍細胞を意味し、癌細胞と同義である。対象とする癌細胞としては、特に限定されないが、例えば発生臓器別に分類した場合、肺癌、膵癌、卵巣癌、皮膚癌、胃癌、肝臓癌、結腸癌、肛門・直腸癌、食道癌、子宮癌、乳癌、膀胱癌、前立腺癌、食道癌、脳・神経腫瘍、リンパ腫・白血病、骨・骨肉腫、平滑筋腫、横紋筋腫等あらゆる癌種の癌細胞が対象となる。また、工業生産に用いる宿主細胞としては、例えばVero、GL37、CHO、HeLa、MRC-5、huGK-14等のワクチン及びバイオ医薬品の生産に用いられる哺乳動物細胞が挙げられる。
【0034】
本発明の制限増殖型ワクシニアウイルスは、医薬組成物として、ヒトを含む哺乳動物の体内にウイルスを投与するためのあらゆる製剤化方法で製造することができる。例えば、バイオリアクターにより培養された哺乳動物細胞を宿主とし本発明のウイルスを接種及び培養し、細胞培養液から目的のウイルスを抽出し、精製後、医薬上許容される塩等を添加して製剤化される。
【0035】
本発明の制限増殖型ワクシニアウイルスを含む医薬組成物は、医薬的に有効量の本発明の制限増殖型ワクシニアウイルスを有効成分として含んでおり、無菌の水性又は非水性の溶液、懸濁液、又はエマルションの形態であってもよい。さらに、塩、緩衝剤、アジュバント等の医薬的に許容できる希釈剤、助剤、担体等を含んでいてもよい。投与方法は特に限定されず、当業者に既知の方法を用いて体内に投与することが可能であり、例えば、腫瘍内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮内、皮下、筋肉内、脳室内、胸腔内、脊髄腔内、表皮内、粘膜表面への注射を挙げることができる。静脈内、腹腔内又は腫瘍内投与が好ましい。好ましくは、静脈内投与により全身的に投与する。本発明において静脈内投与による全身性腫瘍溶解性ウイルス療法を行うことにより、原発腫瘍のみならず微小転移癌も治療することができる。有効投与量は被験体の年齢、性別 、健康、及び体重等により適宜決定することができる。例えば、限定されないが、ヒト成人に対して、投与当たり約106~1011プラーク形成単位(PFU)、好ましくは108~109プラーク形成単位(PFU)である。
【0036】
ワクシニアウイルスに感染した細胞は、ウイルスのライフサイクルにおいて異なる役割を果たす4種類のウイルス形態を産生する。IMVは最も豊富な形態のウイルスであり、物理的に強固な性質のために宿主間の輸送を媒介するのに適しているが、補体及び抗体に対する感受性のために宿主内での伝播の媒介にはあまり適していない。IEVは、IMVとCEV/EEVとの間の中間体として働き、EEV特異的タンパク質の取り込みを確実にし、微小管を用いてビリオンを細胞表面に輸送し、さらなる膜及び宿主タンパク質でIMV粒子を覆い隠して抗体及び補体に対する感受性を低下させ、ワクシニアウイルスが結合することができる宿主受容体の範囲を拡大している。CEVは、細胞表面でビリオンの下からアクチンテイルの形成を誘導し、ウイルスの効率的な細胞間伝播を促進するために必要とされる。最終的に、EEVは細胞表面から放出され、宿主内での感染拡大を媒介する(Smith G.L.,Journal of General Virology,83(Pt 12),2915-2931,2002)。静脈投与に用いる腫瘍溶解性ワクシニアウイルスにはEEV形態のウイルス製剤が望ましいが、ウイルスのライフサイクルの間にビリオンの形態は連続的に変化するため、ウイルス培養時に培養上清には放出されたEEVのみならずウイルス増殖により破壊された細胞から流出したIMV等のビリオンが混在する。生産性及び物理的安定性の観点から、EEVのみを分離して製造することは困難であるため、EEV関連分子の改変は、種々のビリオン形態で構成される腫瘍溶解性ウイルス製剤の有効性及び生産性向上に寄与する。
【0037】
腫瘍溶解性ウイルスにより破壊された癌細胞の断片は、自己の癌に特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導することが予想される。癌特異抗原及び免疫応答制御分子の遺伝子を組み込んだ種々のウイルスベクターが癌ワクチンとして研究されてきた。ワクシニアウイルスは、ウイルスゲノムのサイズが比較的大きいため抗原タンパク質の遺伝子全体を挿入可能であり、感染細胞の核ではなく細胞質内で複製する能力を有するため宿主細胞のゲノム中に遺伝物質を組み込むリスクが最小限に抑えられることから、ウイルスベクターとして優れている。哺乳動物細胞での増殖性が極めて低い弱毒ワクシニアウイルスのMVA株などが安全なウイルスベクターとして用いられてきた。腫瘍溶解性ウイルスは正常細胞での増殖性が著しく制限された弱毒化ウイルスである。腫瘍溶解性ウイルスをウイルスベクターとして用いることは抗腫瘍免疫応答の誘導に有利である(Guo,Z.S.,et al.,Journal for ImmunoTherapy of Cancer,7(1),6,2019)。本発明の腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、遺伝子を挿入したベクターとしての使用も可能である。挿入遺伝子及び挿入部位は特に限定されず、例えば、癌特異抗原遺伝子、免疫応答制御分子、癌細胞表面抗原親和性タンパク質を本発明で遺伝子機能を欠損させるC11R、O1L、及びF4L遺伝子、又はEEV関連遺伝子近傍に挿入する方法が挙げられる。
【0038】
本発明に係る腫瘍溶解性ウイルスは、ワクシニアウイルスゲノムのC11R、O1L及びF4Lを欠損し、さらに複数のEEV関連タンパク質のアミノ酸配列をIHD-J株のアミノ酸配列に置換することにより、安全性及び生産性が向上する。
【0039】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
ワクチン株ワクシニアウイルスゲノムの改変による制限増殖性ワクシニアウイルスの作製
人体への投与実績のある痘そうワクチン株であるLC16m8ワクシニアウイルスゲノム(Morikawa,S.,et al.,Journal of General Virology,79(18),11873-11891,2005)の改変により、遺伝子組換えワクシニアウイルスを作製した(
図1)。
【0041】
1.LC16m8-BACmidの作製
BACシステムを用いてワクシニアウイルスゲノムを改変した(
図2参照)。細胞培養での相同組換えにより、ワクシニアウイルスLC16m8株のゲノムにBACgfp配列を挿入したBACウイルスを作製し、BACウイルスのゲノムを環状化してLC16m8-BACmidを作製した。第一段階として、LC16m8にマーカーとなるBACgfp配列を導入するためのインサーションプラスミド(pUC-VVTK-BAC-EGFP)の構築を行った。具体的な手法は、ワクシニアウイルスLC16m8株ゲノム(GenBank:AY678275.1)を鋳型に、TK1プライマーFw(配列番号1)及びTK1プライマーRe(配列番号2)を用いてTK1を増幅し、また、同株ゲノムを鋳型に、TK2プライマーFw(配列番号3)及びTK2プライマーRe(配列番号4)を用いてTK2を増幅した。TK1に制限酵素KpnI及びPacIを処理し、TK2に制限酵素XbaI及びPacIを処理した後、アガロースゲルから目的断片を精製した。
【0042】
次に、pUC119プラスミド(GenBank:U07650.1)を制限酵素KpnI及びXbaIで処理、精製し、アルカリフォスファターゼ処理したプラスミドのKpnI/XbaIサイトに、上述の2つの断片を挿入し、pUC119-TK1-2を構築した。次に、pUCIDT-KAN-op7.5+EGFPプラスミド(配列番号5)を人工合成し、制限酵素PacIで処理後精製したものを、pUC119-TK1-2を制限酵素PacIで処理後精製し、アルカリフォスファターゼ処理したプラスミドのPacIサイトに挿入し、pUC-VVTK-op7.5+EGFPプラスミドを構築した。さらに、pBSIIプラスミド(GenBank:U25267.1)にpBeloBAC11配列(GenBank:CVU51113.1)を挿入したプラスミドを制限酵素NotIで処理後アガロースゲルから精製したものを、pUC-VVTK-op7.5+EGFPを制限酵素NotIで処理後精製しアルカリフォスファターゼ処理したプラスミドのNotIサイトに挿入し、pUC-VVTK-BAC-EGFPプラスミドを構築した。
【0043】
次に、LC16m8ゲノムへのBACgfp配列の導入方法を以下に示す。ウサギ初代腎細胞(PRK)にワクシニアウイルスLC16m8株をMOI=10で感染後、1時間培養し細胞を回収した。回収細胞をHeBSバッファーで懸濁後、制限酵素HindIIIで線状化したpUC-VVTK-BAC-EGFPプラスミドを加え、エレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーション液を段階希釈し、96穴プレートで培養したPRKに感染させ培養後、蛍光顕微鏡を用い緑色蛍光タンパク質(GFP)発現を観察し、希釈倍率の高いウェルで蛍光陽性プラークもしくは細胞変性効果(CPE)が得られたものを選択した。選択したウェルの細胞を回収し、超音波処理、遠心後、上清をLC16m8にBACgfp配列が挿入されたウイルス(LC16m8-BACgfp)として得た。
【0044】
さらに、LC16m8-BACgfpゲノムの環状化と大腸菌へのクローニングによるLC16m8-BACmidの構築は、以下の通り実施した。LC16m8-BACgfpをMOI=5で感染させたPRKに、pCAGGS-Creプラスミド(自家調製)を、トランスフェクション試薬を用いてトランスフェクションし、環状化したウイルスゲノムとしてLC16m8-BACmidを抽出後、大腸菌GS1783(WO2014077096A1)にエレクトロポレーションを用いて導入した。エレクトロポレーション液をクロラムフェニコール添加CG寒天培地で培養し、BACgfp配列中のクロラムフェニコール耐性をマーカーとしてLC16m8-BACmidを保持した大腸菌を選択し、目的のクローンをグリセロールストックした。
【0045】
2.改変BACmidの作製
LC16m8-BACmidを鋳型として改変BACmidを作製した。あらかじめ、後に培養細胞からBACgfp配列が除かれた組換えウイルスを回収するために必要なBACgfp除去配列カセット(配列番号6)を作製した。BACgfp除去配列カセットの作製方法は以下の通りであった。pUC119プラスミド(GenBank:U07650.1)を制限酵素HincII及びBamHIで処理後精製し、アルカリフォスファターゼ処理し、また、pBSIIプラスミド(GenBank:U25267.1)にpBeloBAC11配列(GenBank:CVU51113.1)を挿入したプラスミドを制限酵素XbaIで処理後精製した断片に、制限酵素ScaI及びBglIIを処理後精製し、前述のプラスミドとライゲーションさせ、pUC119-pBeloSBを構築した。さらに、pUC119-pBeloSBに制限酵素NruIを処理し、精製した(pUC119-pBeloSB/NruI/elution)。次に、ワクシニアウイルスLC16m8株ゲノム(GenBank:AY678275.1)を鋳型に、TKプライマーFw(配列番号7)及びTKプライマーRe(配列番号8)を用いてTK領域を増幅し、また、pEPkan-Sプラスミド(Addgene)を鋳型に、カナマイシンプライマー1Fw(配列番号9)及びカナマイシンプライマー1Re(配列番号10)を用いてPCRを行い、カナマイシン耐性遺伝子を増幅させた。上述2つのPCR産物を精製し、pUC119-pBeloSB/NruI/elutionとともに、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて3つの断片を反応させ、反応液を大腸菌JM109(Takara)へ導入し、反応後、アンピシリン、カナマイシン及びクロラムフェニコールを添加したCG寒天培地にプレーティングし、目的のプラスミド(pUC119-BAC-SBTKdup)を保持したクローンを得た。培養した大腸菌からpUC119-BAC-SBTKdupプラスミドを抽出し、制限酵素PstI及びKpnIで処理後精製してpUC119-BAC-SBTKdup/PstI/KpnI/elutionを作製し、BACgfp除去配列カセット(配列番号6)とした。
【0046】
B5R改変カセット:
目的の組換えウイルスを作製するために、改変する遺伝子の発現カセットを以下の方法で作製した。LC16m8株は安全なワクチン株として弱毒化されたウイルスであるが、腫瘍溶解性ウイルスの有効性においては、培養細胞での増殖性の高い親株であるLC16mO株を用いる方が望ましい。LC16m8は、B5R遺伝子配列中の1塩基欠損(グアニン欠損)によるフレームシフトにより不完全なB5Rタンパク質が産生されることが知られている(Morikawa,S.,et al.,Journal of General Virology,79(18),11873-11891,2005)。そこで、LC16m8-BACmidのB5R遺伝子配列を、完全なB5R遺伝子配列をもつLC16mOの配列に改変したBACmidを構築するため、B5R改変カセット(配列番号11)を以下の方法で作製した。LC16mOのB5R遺伝子配列中の、上記グアニンから上流、下流それぞれ約1kb、計2132bpを人工合成し、pUCFk-B5RmO(配列番号12)を構築した。このDNAを制限酵素EcoRIで処理し精製後、アルカリフォスファターゼ処理した(pUCFk-B5RmO/EcoRI/elution/BAP)。また、pEPkan-Sプラスミド(Addgene)を鋳型に、カナマイシンプライマー2Fw(配列番号13)及びカナマイシンプライマー2Re(配列番号14)を用いてPCRを行い、カナマイシン耐性遺伝子を増幅し、精製後、制限酵素EcoRIで処理し精製してrKanI/EcoRI/elutionを作製した。pUCFk-B5RmO/EcoRI/elution/BAPとrKanI/EcoRI/elutionをライゲーションし、pUCFk-B5RmO-rKanIを構築した。pUCFk-B5RmO-rKanIを制限酵素XbaI及びDraIで処理後精製し、pUCFk-B5RmO-rKanI/XbaI/DraI/elutionを作製した。これをB5R改変カセット(配列番号11)としてBACmidの改変に用いた。
【0047】
C11R欠損カセット:
VGFの機能を欠損したウイルスを回収するために、C11R欠損カセット(配列番号15)を作製した。C11R遺伝子配列の開始コドンから制限酵素AccIサイトまでの255bpを欠失させた配列及びその前後約1kbを人工合成し、pUC57-ΔVGF(配列番号16)を構築した。pUC57-ΔVGFを制限酵素AccIで処理し精製後、アルカリフォスファターゼ処理しpUC57-ΔVGF/AccI/elution/BAPを作製した。pEPkan-Sプラスミド(Addgene)を鋳型に、カナマイシンプライマー3Fw(配列番号17)及びカナマイシンプライマー3Re(配列番号18)を用いたPCRによりカナマイシン耐性遺伝子を増幅し、アガロースゲルから精製後、TOPOベクター(Invitrogen)にクローニングした。反応液を大腸菌JM109(Takara)へ導入し、得られたコロニーからプラスミドを抽出してTOPO-rKanIを作製した。TOPO-rKanIを制限酵素AccIで処理し、精製後、制限酵素ScaIで処理し、アガロースゲルから精製し、rKanI/AccI/ScaI/elutionを作製した。pUC57-ΔVGF/AccI/elution/BAPとrKanI/AccI/ScaI/elutionをライゲーションし、pUC57-ΔVGF-rKanIを構築した。pUC57-ΔVGF-rKanIを制限酵素ScaIで処理し、さらに、制限酵素BamHI及びEcoRIで処理後アガロースゲルから精製し、C11R欠損カセット(配列番号15)としてBACmidの改変に用いた。
【0048】
O1L欠損カセット:
O1Lの機能を欠損したウイルスを回収するために、O1L欠損カセット(配列番号19)を作製した。O1L遺伝子配列の開始コドンから制限酵素XbaIサイトまでの1049bpを欠失させた後に、XbaIサイト直後の50bpに、カナマイシン耐性遺伝子配列(Addgene)を挿入した配列を人工合成し、pUC57-ΔO1L-rKanI(配列番号20)を構築した。pUC57-ΔO1L-rKanIに、制限酵素ScaI及びEcoRIを処理し、アガロースゲルから精製し、O1L欠損カセット(配列番号19)としてBACmidの改変に用いた。
【0049】
F4L欠損カセット:
RNRの機能を欠損したウイルスを回収するために、F4L欠損カセット(配列番号21)を作製した。F4L遺伝子配列の開始コドンからEcoRIサイトまでの765bpを欠失させた後に、EcoRIサイト直後の50bpに、カナマイシン耐性遺伝子配列(Addgene)を挿入した配列を人工合成し、pUC57-ΔF4L-rKanI(配列番号22)を構築した。pUC57-ΔF4L-rKanIに、制限酵素BamHI及びHindIIIを処理し、アガロースゲルから精製し、F4L欠損カセット(配列番号21)としてBACmidの改変に用いた。
【0050】
エンベロープ改変カセット:
EEV関連遺伝子をIHD-J株もしくはIHD-W株のDNA配列に置換したウイルスを回収するために、A33R改変カセット(配列番号23)、A34R改変カセット(配列番号24)、A36R改変カセット(配列番号25)、A33-34-36R改変カセット(配列番号26)、A56R改変カセット(配列番号27)、B5R改変カセット(配列番号28)、F12-13L改変カセット(配列番号29)を作製した。その具体的な手法は、IHD-J株もしくはIHD-W株由来の各遺伝子配列を用意し、特定の部位の直後50bpに、カナマイシン耐性遺伝子配列(Addgene)を挿入した配列を人工合成し、pUC57-A33R-rKanI(配列番号30)、pUC57-A34R-rKanI(配列番号31)、pUC57-A36R-rKanI(配列番号32)、pUC57-A33―34-36R-rKanI(配列番号33)、pUC57-A56R-rKanI(配列番号34)、pUC57-B5R-rKanI(配列番号35)、pUC57-F12-13L-rKanI(配列番号36)を構築した。pUC57-B5R-rKanI(配列番号35)に制限酵素XbaI及びBglIを処理し、それ以外には制限酵素BamHI及びBglIを処理し、アガロースゲルから精製し、エンベロープ改変カセットとして各BACmidの改変に用いた。
【0051】
LC16m8-B5RmO-BACmidの作製:
LC16m8-B5RmO-BACmidの作製方法を下記に記す。前述のLC16m8-BACmidを保持した大腸菌を培養し、B5R改変カセット(配列番号11)をエレクトロポレーションにより導入した。エレクトロポレーション溶液を、クロラムフェニコール及びカナマイシンを添加したCG寒天培地で培養し、カセット中のカナマイシン耐性をマーカーとして、カセットが導入されたクローンを選択し、さらにカナマイシン耐性遺伝子除去操作を行い、BACgfp配列中のクロラムフェニコール耐性をマーカーとして目的クローンを取得した。プライマーペア(配列番号37及び配列番号38)を用いたPCRにより目的遺伝子断片を増幅し、精製後、シーケンス用プライマー(配列番号37)を用いた塩基配列解析により、得られたクローンは目的の改変BACmid(LC16m8-B5RmO-BACmid)であることが確認された。
【0052】
そのほかの改変BACmidも上述と同様の方法により作製した。改変体に特異的なプライマーペアを用いたPCRによりバンドサイズを確認した。改変体に特異的なプライマーペアは以下の通りであった。
C11R欠損確認プライマーFw(配列番号39)及びC11R欠損確認プライマーRe(配列番号40);
O1L欠損確認プライマーFw(配列番号41)及びO1L欠損確認プライマーRe(配列番号42);
F4L欠損確認プライマーFw(配列番号43)及びF4L欠損確認プライマーRe(配列番号44);
A33R改変確認プライマーFw(配列番号45)及びA33R改変確認プライマーRe(配列番号46);
A34R改変確認プライマーFw(配列番号47)及びA34R改変確認プライマーRe(配列番号48);
A36R改変確認プライマーFw(配列番号49)及びA36R改変確認プライマーRe(配列番号50);
A56R改変確認プライマーFw(配列番号51)及びA56R改変確認プライマーRe(配列番号52);
B5R改変確認プライマーFw(配列番号53)及びB5R改変確認プライマーRe(配列番号54);
F12―13L改変確認プライマーFw(配列番号55)及びF12―13L改変確認プライマーRe(配列番号56)
【0053】
さらに、ゲノム精製後、改変確認用のシーケンスプライマー[A33R改変(配列番号45)、A34R改変(配列番号47)、A36R改変(配列番号49)、A56R改変(配列番号51、配列番号57)、B5R改変(配列番号53)、F12-13L改変(配列番号55、配列番号58、配列番号59、配列番号60)]を用いた塩基配列解析により、得られたクローンは目的の改変BACmid(MD-RVV-BACmid、MD-RVV-ΔRR-BACmid、MD-RVV-EEV7-BACmid、MD-RVV-EEV6-BACmid、MD-RVV-A34R-BACmid、MD-RVV-ΔRR-EEV7-BACmid、MD-RVV-ΔRR-EEV6-BACmid、MD-RVV-ΔRR-A34R-BACmid)であることが確認された。
【0054】
各改変BACmidにBACgfp除去配列カセット[(SBTKdup配列)(配列番号6)を同様の手法で導入した。プライマーペア(BACgfp合成プライマーFw(配列番号61)及びBACgfp合成プライマーRe(配列番号62)]を用いたPCRによりバンドサイズを確認した。PCR産物を精製し、シーケンス用プライマー(配列番号61)を用いて塩基配列を解析した。 得られたクローンは目的の改変BACmid(MD-RVV-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-ΔRR-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-EEV7-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-EEV6-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-A34R-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-ΔRR-EEV7-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-ΔRR-EEV6-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-ΔRR-A34R-SBTKdup-BACmid)であることが確認された。
【0055】
3.ウイルスゲノムの抽出
BACgfp除去配列カセットを持つBACmid由来のウイルスは、培養細胞で継代を重ねることでBACgfpが抜けるように設計されている。前述のBACウイルス(LC16m8-BACgfp)をヘルパーウイルスとして用い、RK13細胞からLC16m8-B5RmO-SBTKdup-BACmid由来のウイルスを回収した。6穴プレートで培養したRK13細胞に、ヘルパーウイルスとしてLC16m8-BACgfpをMOI=1で接種し、1時間培養後にウイルスを除き、新たに培地を加えた。次に、LC16m8-B5RmO-SBTKdup-BACmid及びトランスフェクション試薬を混合し、15分間反応後、細胞へ添加し、37℃で一晩培養した。蛍光顕微鏡を用いてGFP発現を確認した後、GFP蛍光陰性プラークの割合が多いウェルから細胞をハーベストし、凍結融解後、超音波処置し、遠心後の上清をウイルス液として得た。ウイルス液を培地で段階希釈し、96穴プレートで培養したRK13細胞に接種し、37℃で二晩培養した。蛍光顕微鏡でGFP蛍光陰性プラークの割合が多いウェルから細胞をハーベストし、凍結融解後、超音波処置し、遠心後、上清をウイルス液として得た。本作業を繰り返し、2回連続で、RK13細胞におけるウイルスプラークが全て蛍光陰性になったところでウイルス純化完了とした。回収したウイルスを6穴プレートで培養したRK13細胞に接種し、37℃で二晩培養後、ゲノム抽出キットを用いてウイルスゲノムを抽出した。抽出したウイルスゲノムを鋳型とし、プライマーペア(配列番号61及び配列番号62)を用いてPCRを実施し、バンドサイズからBACgfp配列の除去を確認した。さらに、PCR産物を精製し、BACgfp除去確認プライマー(配列番号61)及びB5Rグアニン挿入確認プライマー(配列番号37)を用いて塩基配列解析を行い、BACgfp配列挿入部位から当該配列が除去されていること、さらに、B5R遺伝子配列中の特定の位置に、LC16m8では欠失している塩基(グアニン)が挿入されたことが確認され、これをLC16m8-B5RmOとした。
【0056】
上記と同様の方法により、LC16m8-BACgfpをヘルパーウイルスとして用い、MD-RVV-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-ΔRR-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-EEV7-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-EEV6-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-A34R-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-ΔRR-EEV7-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-ΔRR-EEV6-SBTKdup-BACmid、MD-RVV-ΔRR-A34R-SBTKdup-BACmid由来のウイルスを作製した。これらから抽出したゲノムを鋳型として、特異的プライマーペアを用いたPCRによりバンドサイズを確認した。特異的プライマーペアは以下の通りであった。
C11R欠損確認プライマーFw(配列番号39)及びC11R欠損確認プライマーRe(配列番号40);
O1L欠損確認プライマーFw(配列番号41)及びO1L欠損確認プライマーRe(配列番号42);
F4L欠損確認プライマーFw(配列番号43)及びF4L欠損確認プライマーRe(配列番号44);
A33R改変確認プライマーFw(配列番号45)及びA33R改変確認プライマーRe(配列番号46);
A34R改変確認プライマーFw(配列番号47)及びA34R改変確認プライマーRe(配列番号48);
A36R改変確認プライマーFw(配列番号49)及びA36R改変確認プライマーRe(配列番号50);
A56R改変確認プライマーFw(配列番号51)及びA56R改変確認プライマーRe(配列番号52);
B5R改変確認プライマーFw(配列番号53)及びB5R改変確認プライマーRe(配列番号54);
F12―13L改変確認プライマーFw(配列番号55)及びF12―13L改変確認プライマーRe(配列番号56);
BACgfp合成プライマーFw(配列番号61)及びBACgfp合成プライマーRe(配列番号62)
【0057】
さらに、各PCR産物を精製し、改変確認用シーケンスプライマー[A33R改変(配列番号45)、A34R改変(配列番号47)、A36R改変(配列番号49)、A56R改変(配列番号51、配列番号57)、B5R改変(配列番号53)、F12-13L改変(配列番号55、配列番号58、配列番号59、配列番号60)、BACgfp除去(配列番号61)]を用いた塩基配列解析により、得られたクローンは、それぞれ、目的の組換えウイルス(MD-RVV、MD-RVV-ΔRR、MD-RVV-EEV7、MD-RVV-EEV6、MD-RVV-A34R、MD-RVV-ΔRR-EEV7、MD-RVV-ΔRR-EEV6、MD-RVV-ΔRR-A34R)であることが確認された。
【実施例2】
【0058】
RNR遺伝子欠損による正常細胞における細胞障害性の低減
C11R及びO1L遺伝子が欠損した腫瘍溶解性ワクシニアウイルスであるMD-RVV及びそのEEV関連遺伝子改変ウイルス、並びにそれらのウイルスゲノムに存在するリボヌクレオチド還元酵素(RNR)小サブユニットをコードするF4L遺伝子を欠損させた改変ウイルスを、癌細胞及び正常細胞由来の培養細胞に感染させ、細胞障害性を細胞数測定キット(Cell Counting Kit-8,同仁化学)により評価した。癌細胞(ヒト子宮頸癌由来細胞株:HeLa細胞)及び正常細胞(ヒト皮膚線維芽細胞:NHDF)を96穴プレートに播種し、血清含有培地で接着培養後、無血清EMEM培地で血清飢餓培養した各細胞に、LC16m8-B5RmO、MD-RVV、MD-RVV-ΔRR、MD-RVV-ΔRR-A34R、MD-RVV-ΔRR-EEV6、MD-RVV-ΔRR-EEV7の各ウイルスを低濃度(0.8×10
6PFU/mL)及び高濃度(4.0×10
6PFU/mL)で接種し、72時間後、ウイルスを接種していない対照群の吸光度を100%とした場合の各ウイルス接種群の細胞生存率を細胞数測定キットにより定量した。その結果を
図3に示す。ここで用いたすべてのウイルスは癌細胞に対し同様の細胞障害性を示したが(
図3A)、正常細胞に対してはF4L遺伝子を欠損したウイルス(ΔRR)においてウイルス毒性が著しく軽減された(
図3B)。
【実施例3】
【0059】
RNR遺伝子欠損による免疫不全マウスへの静脈内投与におけるウイルス毒性の軽減
免疫不全マウス(SCIDマウス、5週齢、雌、各群5匹)にLC16m8-B5RmO、MD-RVV、MD-RVV-ΔRR-EEV6を2.5×10
4、5×10
5、1×10
7PFU/0.1mLの用量でマウス静脈内に投与し、生存数、体重、ウイルス症状スコアを観察した。ウイルス症状スコアは、最大5点で、0点:症状なし、1点:発痘1~2個、2点:発痘3~4個、3点:発痘多数、毛並みの荒れ、立毛、4点:呼吸困難、瀕死、5点:死亡、とした。その結果を
図4~6に示す。LC16m8-B5RmO及びMD-RVV投与群は、それぞれ、ウイルス投与19日後及び40日後までにすべての用量群の動物が死亡したが、MD-RVV-ΔRR-EEV6は、観察終了とした71日まで、高用量投与群、中用量投与群は5匹中3匹が生存し、また、低用量投与群はすべての動物が生存していた(
図4)。いずれのウイルスも投与量依存的に体重の減少が観察され、体重減少の程度は、LC16m8-B5RmO、MD-RVV、MD-RVV-ΔRR-EEV6の順に大きかった(
図5)。ウイルス症状スコアもまた、LC16m8-B5RmO、MD-RVV、MD-RVV-ΔRR-EEV6の順に、投与量依存的に高値を示した(
図6)。
【実施例4】
【0060】
EEV関連タンパク質の改変による癌細胞での生産性向上
HeLa細胞を24穴プレートに播種し、血清含有培地で接着培養後、MD-RVV、MD-RVV-A34R、MD-RVV-EEV6、MD-RVV-EEV7、MD-RVV-ΔRR、MD-RVV-ΔRR-A34R、MD-RVV-ΔRR-EEV6、MD-RVV-ΔRR-EEV7をMOI=1で接種し、1時間培養後にウイルスを除き、新たに血清含有培地を加え、16、24、32、48時間後に培地を回収し、培養上清ウイルスを得た。回収ウイルスを段階希釈し、6穴プレートで培養したRK13細胞に接種し、1時間培養後にウイルスを除き、新たにメチルセルロース培地を加え、37℃で72時間培養後、プラークをカウントし感染価を算出した。その結果を
図7に示す。MD-RVV(
図7A)及びMD-RVVのF4L遺伝子を欠損させたウイルス(
図7B)に対して、EEV関連タンパク質を改変することにより、いずれの改変ウイルスも培養期間を通して培養上清ウイルスの産生量の増加傾向が示された。特に、EEV関連タンパク質の改変数が多いほどその効果は大きかった。
【0061】
また、HeLa細胞を24穴プレートに播種し、血清含有培地で接着培養後、ケミカリーディファンイド培地でLC16m8-B5RmO、MD-RVV-ΔRR、MD-RVV-ΔRR-A34R、MD-RVV-ΔRR-EEV6、MD-RVV-ΔRR-EEV7をMOI=0.01で接種し、1時間培養後にウイルスを除き、新たにケミカリーディファインド培地を加え、48時間後に培地を回収し、培養上清ウイルスを得た。さらに、細胞を回収し凍結融解後、超音波処理し、遠心後の上清を細胞内ウイルスとして得た。回収ウイルスを段階希釈し、6穴プレートで培養したRK13細胞に接種し、1時間培養後にウイルスを除き、新たにメチルセルロース培地を加え、37℃で72時間培養後、プラークをカウントし感染価を算出した。その結果を
図8に示す。EEV関連タンパク質の改変により、培養上清ウイルス(
図8A)及び細胞内ウイルス(
図8B)のいずれにおいても、RNR遺伝子の欠損により低下したウイルス産生量を回復する傾向が示された。特に、EEV関連タンパク質の改変数が多いほどその効果は大きかった。
【実施例5】
【0062】
ヒト膵がん腹膜播種マウスにおけるRNR遺伝子欠損ウイルスの腹腔内投与による効果
腹腔内投与において、RNR遺伝子欠損ウイルスが腹膜播種モデルマウスの生存延長効果を示すことを確認するために、3×10
6個のヒト膵がんBxPC3-Luc細胞を、免疫不全マウス(SCIDマウス、6週齢、雌)の腹腔内に移植しヒト膵がん腹膜播種マウスを構築後、21日後にMD-RVVまたはMD-RVV-△RR-EEV6(10
5PFU/0.1mL)を、マウス腹腔内に投与した。また、対照としたウイルス非投与群には、同じく21日後に、PBS(0.1mL)をマウス腹腔内に投与した。投与後、ウイルス毒性、生存数を観察した。なお、ウイルス毒性はその症状をスコア化し、最大5点で、0点:症状なし、1点:発痘(ポックス)1~2個、2点:発痘(ポックス)3~4個、3点:発痘(ポックス)多数、毛並みの荒れ、立毛、4点:呼吸困難、瀕死、5点:ウイルス関連死、とした。結果を
図9~10に示す(
図9:ウイルス症状スコア、
図10:生存率)。
【0063】
ウイルス毒性に関して、MD-RVV投与群は、投与後10日目あたりから発痘(ポックス)症状が認められ、以降も発痘(ポックス)数の増加、毛並みの荒れ、呼吸困難等の重度のウイルス症状が発現し、最終的に42日までに全例がそれらウイルス毒性により死亡した(
図9)。一方で、MD-RVV-△RR-EEV6投与群は、一切のウイルス症状を示さず、RNR遺伝子欠損による安全性向上効果が確認された(
図9)。
【0064】
生存数による評価では、MD-RVV投与群は、重度のウイルス毒性を伴い、腫瘍が増大したウイルス非投与群と同時期に全例が死亡した(
図10)。一方で、生存期間に差があることを検定するlog-rank testにおいて、MD-RVV-△RR-EEV6投与群は、ウイルス非投与群及びMD-RVV投与群に対して、有意な生存延長効果を示した(
図10)。
【0065】
続いて、別のヒト膵がん細胞MIA-PaCa2/CMV-Luc細胞3×10
6個を、免疫不全マウス(SCIDマウス、6週齢、雌)の腹腔内に移植しヒト膵がん腹膜播種マウスを構築後、14日後にMD-RVV(10
6PFU/0.1mL)またはMD-RVV-△RR-EEV6(10
6または10
7PFU/0.1mL)を、マウス腹腔内に投与した。また、ウイルス非投与群には、同じく14日後に、PBS(0.1mL)をマウス腹腔内に投与した。投与後、ウイルス毒性、生存数を観察した。なお、ウイルス毒性はその症状をスコア化し、最大5点で、0点:症状なし、1点:発痘(ポックス)1~2個、2点:発痘(ポックス)3~4個、3点:発痘(ポックス)多数、毛並みの荒れ、立毛、4点:呼吸困難、瀕死、5点:ウイルス関連死、とした。結果を
図11及び12に示す(
図11:ウイルス症状スコア、
図12:生存率)。
【0066】
ウイルス毒性に関して、MD-RVV投与群は、ウイルス症状が顕著に認められる個体とそうでない個体のばらつきが観察されたが、全体として中程度~重度のウイルス症状が認められた(
図11)。一方で、MD-RVV-△RR-EEV6投与群は、一切のウイルス症状を示さず、RNR遺伝子欠損による安全性向上効果が確認された(
図11)。
【0067】
生存数による評価では、MD-RVV投与群は、重度のウイルス毒性及び腫瘍増大によりウイルス未接種群と同時期に全例が死亡した(
図12)。一方で、MD-RVV-△RR-EEV6投与群は、ウイルス非投与群及びMD-RVV投与群に対して、用量依存的な生存延長傾向を示した(
図12)。
【0068】
以上の結果から、RNR遺伝子欠損ウイルスは、腹腔内投与可能な安全性の高い腫瘍溶解性ウイルスであることが示唆された。
【実施例6】
【0069】
ヒト膵がん同所移植マウスにおけるRNR遺伝子欠損ウイルスの静脈内投与による効果
静脈内投与において、RNR遺伝子欠損ウイルスが膵がんモデルマウスの生存延長効果を示すことを確認するために、1×10
6個のヒト膵がんMIA-PaCa2/CMV-Luc細胞を、免疫不全マウス(SCIDマウス、5週齢、雌)の膵被膜に移植しヒト膵がん同所移植マウスを構築後、12日後にMD-RVV-RLuc(10
5PFU/0.1mL)またはMD-RVV-△RR-EEV6-RLuc(10
5PFU/0.1mL)をマウス静脈内に投与した。なお、RLucはウミシイタケ由来ルシフェラーゼ遺伝子を意味し、将来ウイルスの生体内分布を確認することを目的に、RLuc発現カセット(配列番号63)を構築後、実施例1で欠損後のC11R-AccIサイトの直前に挿入した。また、MD-RVV-△RR-EEV6-RLucは、1回目の投与後、1週間以内に追加で2回投与した(頻回投与)。また、ウイルス非投与群には、同じく12日後に、PBS(0.1mL)をマウス静脈内に投与した。投与後、ウイルス毒性、生存数を観察した。なお、ウイルス毒性はその症状をスコア化し、最大5点で、0点:症状なし、1点:発痘(ポックス)1~2個、2点:発痘(ポックス)3~4個、3点:発痘(ポックス)多数、毛並みの荒れ、立毛、4点:呼吸困難、瀕死、5点:ウイルス関連死、とした。結果を
図13及び14に示す(
図13:ウイルス症状スコア、
図14:生存率)。
【0070】
ウイルス毒性に関して、MD-RVV-RLuc投与群は、投与後10日目あたりから発痘(ポックス)症状が認められ、以降も発痘(ポックス)数の増加、毛並みの荒れ、呼吸困難等の重度のウイルス症状が発現し、最終的に32日までに全例がそれらウイルス毒性を伴い死亡した(
図13)。一方で、MD-RVV-△RR-EEV6-RLuc投与群は、単回投与及び頻回投与共に多少のウイルス症状が認められたものの、致死的な症状は見られず、RNR遺伝子欠損による安全性向上効果が確認された(
図13)。
【0071】
生存数による評価では、MD-RVV-RLuc投与群は、重度のウイルス毒性により、腫瘍を形成したウイルス非投与群よりも早期に全例が死亡した(
図14)。一方で、生存期間に差があることを検定するlog-rank testにおいて、MD-RVV-△RR-EEV6-RLucの単回投与群は、ウイルス非投与群と同様の生存変化であったものの、頻回投与群は、ウイルス非投与群に対して、有意な生存延長効果を示した(
図14)。
【0072】
以上の結果から、RNR遺伝子欠損ウイルスは、静脈内頻回投与可能な安全性の高い腫瘍溶解性ウイルスであることが示唆された。
【実施例7】
【0073】
ヒト膵がん皮下移植マウスにおけるRNR遺伝子欠損ウイルスの腫瘍内投与による効果
RNR遺伝子欠損ウイルスの腫瘍内投与での腫瘍増殖抑制効果を確認するために、5×106個のヒト膵がんMIA-PaCa2/CMV-Luc細胞を、免疫不全マウス(SCIDマウス、6週齢、雌)の右大腿部皮下に移植し、腫瘍体積が100mm3以上に達した個体に対して、MD-RVV-△RR-EEV6-RLuc(104、105、106PFU/0.1mL)を腫瘍内に投与した。また、ウイルス非投与群には、PBS(0.1mL)を腫瘍内に投与した。投与後、腫瘍体積変化を観察した。腫瘍体積は、短径×短径×長径×1/2で算出した。
【0074】
腫瘍体積変化に関して、MD-RVV-△RR-EEV6-RLucは、おおよそ用量依存的に腫瘍増殖の抑制傾向を示し、腫瘍内投与での腫瘍増殖抑制効果が確認された(
図15)。
【0075】
実施例5~7の結果から、RNR遺伝子欠損ウイルスであるMD-RVV-△RR-EEV6およびMD-RVV-△RR-EEV6-RLucは、複数のヒト膵がんマウスにおいて、自身の持つ腫瘍溶解作用により、安全性を確保しつつ生存延長効果を発揮することが示唆された。
【配列表フリーテキスト】
【0076】
配列番号1は、TK1プライマーFwの塩基配列である。
配列番号2は、TK1プライマーReの塩基配列である。
配列番号3は、TK2プライマーFwの塩基配列である。
配列番号4は、TK2プライマーReの塩基配列である。
配列番号5は、pUCIDT-KAN-op7.5+EGFPプラスミドの塩基配列である。
配列番号6は、BACgfp除去配列カセットの塩基配列である。
配列番号7は、TKプライマーFwの塩基配列である。
配列番号8は、TKプライマーReの塩基配列である。
配列番号9は、カナマイシンプライマー1Fwの塩基配列である。
配列番号10は、カナマイシンプライマー1Reの塩基配列である。
配列番号11は、B5R改変カセットの塩基配列である。
配列番号12は、pUCFk-B5RmOの塩基配列である。
配列番号13は、カナマイシンプライマー2Fwの塩基配列である。
配列番号14は、カナマイシンプライマー2Reの塩基配列である。
配列番号15は、C11R欠損カセットの塩基配列である。
配列番号16は、pUC57-ΔVGFの塩基配列である。
配列番号17は、カナマイシンプライマー3Fwの塩基配列である。
配列番号18は、カナマイシンプライマー3Reの塩基配列である。
配列番号19は、O1L欠損カセットの塩基配列である。
配列番号20は、pUC57-ΔO1L-rKanIの塩基配列である。
配列番号21は、F4L欠損カセットの塩基配列である。
配列番号22は、pUC57-ΔF4L-rKanIの塩基配列である。
配列番号23は、A33R改変カセットの塩基配列である。
配列番号24は、A34R改変カセットの塩基配列である。
配列番号25は、A36R改変カセットの塩基配列である。
配列番号26は、A33-34-36R改変カセットの塩基配列である。
配列番号27は、A56R改変カセットの塩基配列である。
配列番号28は、B5R改変カセットの塩基配列である。
配列番号29は、F12-13L改変カセットの塩基配列である。
配列番号30は、pUC57-A33R-rKanIの塩基配列である。
配列番号31は、pUC57-A34R-rKanIの塩基配列である。
配列番号32は、pUC57-A36R-rKanIの塩基配列である。
配列番号33は、pUC57-A33―34-36R-rKanIの塩基配列である。
配列番号34は、pUC57-A56R-rKanIの塩基配列である。
配列番号35は、pUC57-B5R-rKanIの塩基配列である。
配列番号36は、pUC57-F12-13L-rKanIの塩基配列である。
配列番号37は、B5R改変確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号38は、B5R改変確認プライマーReの塩基配列である。
配列番号39は、C11R欠損確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号40は、C11R欠損確認プライマーReの塩基配列である。
配列番号41は、O1L欠損確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号42は、O1L欠損確認プライマーReの塩基配列である。
配列番号43は、F4L欠損確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号44は、F4L欠損確認プライマーReの塩基配列である。
配列番号45は、A33R改変確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号46は、A33R改変確認プライマーReの塩基配列である。
配列番号47は、A34R改変確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号48は、A34R改変確認プライマーReの塩基配列である。
配列番号49は、A36R改変確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号50は、A36R改変確認プライマーReの塩基配列である。
配列番号51は、A56R改変確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号52は、A56R改変確認プライマーReの塩基配列である。
配列番号53は、B5R改変確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号54は、B5R改変確認プライマーReの塩基配列である。
配列番号55は、F12―13L改変確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号56は、F12―13L改変確認プライマーReの塩基配列である。
配列番号57は、A56R改変確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号58は、F12―13L改変確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号59は、F12―13L改変確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号60は、F12―13L改変確認プライマーFwの塩基配列である。
配列番号61は、BACgfp合成プライマーFwの塩基配列である。
配列番号62は、BACgfp合成プライマーReの塩基配列である。
配列番号63は、RLuc発現カセットの塩基配列である。
【配列表】