(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20240826BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20240826BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20240826BHJP
F04C 27/00 20060101ALI20240826BHJP
F16C 33/06 20060101ALI20240826BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
F16J15/34 G
F16J15/18 C
F16C17/04 Z
F04C27/00 311
F16C33/06
F16J15/16 B
(21)【出願番号】P 2021565607
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2020046869
(87)【国際公開番号】W WO2021125201
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2019227366
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓志
(72)【発明者】
【氏名】徳永 雄一郎
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/097064(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/139107(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/025629(WO,A1)
【文献】特開平08-210285(JP,A)
【文献】特開平04-362289(JP,A)
【文献】特公昭52-036566(JP,B2)
【文献】特開平09-088852(JP,A)
【文献】特開2016-061208(JP,A)
【文献】特開平8-312791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F16J 15/18
F16C 17/04
F04C 27/00
F16C 33/06
F16J 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環形状を成し、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有する摺動部品であって、
前記摺動面には、内径側および外径側の少なくともいずれか一方の流体が存在する空間に開口する溝が周方向に複数設けられ、
前記溝は、前記摺動面の周方向に沿って延びる第1の壁面と、径方向に沿って延びる第2の壁面が繋がって構成され、
周方向に対称形状であり、
前記溝の開口寸法は、周方向に隣接する前記溝間におけるランド部分の周方向の寸法及び前記溝の径方向の寸法よりも長寸に形成され、
周方向に隣接する前記溝間におけるランド部分の周方向の寸法は、前記溝の径方向の寸法よりも長寸に形成されて
おり、
複数の前記溝は、内径側の空間に開口しているとともに、該内径側に開口している複数の溝が周方向に等配されている摺動部品。
【請求項2】
前記溝は、高圧側の空間に開口している請求項
1に記載の摺動部品。
【請求項3】
円環形状を成し、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有する摺動部品であって、
前記摺動面には、内径側の空間に開口する溝と外径側の空間に開口する溝とが周方向に複数設けられ、
前記溝は、前記摺動面の周方向に沿って延びる第1の壁面と、径方向に沿って延びる第2の壁面が繋がって構成され
ており、
内径側に開口する溝と外径側に開口する溝とが交互に配置されている摺動部品。
【請求項4】
前記溝は、前記第1の壁面と前記第2の壁面との角部が角張っている請求項1ないし
3のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項5】
前記第1の壁面は、前記摺動面の中心に中心を有する円弧面であり、前記第2の壁面は、前記摺動面の中心から延びる径方向面である請求項1ないし
4のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項6】
前記摺動部品は、相対摺動する一対の摺動部品のうち径方向の幅が狭い方の摺動部品である請求項1ないし
5のいずれかに記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心機構を含む回転機械に用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、偏心機構を含む回転機械として、例えば、自動車の空調システムに用いられるスクロール圧縮機は、端板の表面に渦巻状のラップを備える固定スクロールと、端板の表面に渦巻状のラップを備える可動スクロールからなるスクロール圧縮機構、回転軸を偏心回転させる偏心機構等を備え、可動スクロールを回転軸の回転により固定スクロールに対して偏心回転を伴わせながら相対摺動させることにより、両スクロールの外径側の低圧室から供給された冷媒を加圧し、固定スクロールの中央に形成される吐出孔から高圧の冷媒を吐出させる機構となっている(特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献1に示されるスクロール圧縮機は、スクロール圧縮機構により圧縮された冷媒の一部を可動スクロールの軸方向の荷重を受けるスラストプレートの背面側に形成される背圧室に供給する背圧供給機構を備えている。可動スクロールの背面に作用する背圧により、可動スクロールは固定スクロールに向けて押圧される。これにより、両スクロール間の軸方向における冷媒漏れが低減され、スクロール圧縮機の圧縮効率が高められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-61208号公報(第5頁~第6頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるスクロール圧縮機においては、スラストプレートとハウジングとの間にシールリングを介在させることにより、背圧室からの背圧の漏れ出しを防止しながらスラストプレートを軸方向に移動可能とすることで、スラストプレートを介して可動スクロールを固定スクロールに向けて押圧できるようになっている。しかしながら、可動スクロールの背面にスラストプレートの摺動面が押し付けられるため、摺動面の摩擦抵抗が大きく可動スクロールの動作に影響を与えてしまう虞があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、偏心回転を伴う摺動面の摩擦抵抗を低減することができる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
円環形状を成し、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有する摺動部品であって、
前記摺動面には、内径側および外径側の少なくともいずれか一方の流体が存在する空間に開口する溝が周方向に複数設けられ、
前記溝は、前記摺動面の周方向に沿って延びる第1の壁面と、径方向に沿って延びる第2の壁面が繋がって構成されている。
これによれば、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面に設けられる溝の開口から摺動面間へ流体が流入可能となっているとともに、偏心回転に伴う溝の相対移動における径方向および周方向の成分に応じて第1の壁面および第2の壁面に流体をぶつけて動圧を発生させることができるため、摺動面同士をわずかに離間させ流体膜が形成されることで摺動面間における潤滑性が向上し、摺動面の摩擦抵抗を低減することができる。
【0008】
前記溝は、前記第1の壁面と前記第2の壁面との角部が角張っていてもよい。
これによれば、溝内を第1の壁面および第2の壁面に沿って移動してきた流体を角部の頂点およびその近傍から摺動面間に流出させることができるため、角部に高い動圧を発生させることができる。
【0009】
前記第1の壁面は、前記摺動面の中心に中心を有する円弧面であり、前記第2の壁面は、前記摺動面の中心から延びる径方向面であってもよい。
これによれば、偏心回転に伴う溝の相対移動における径方向の成分が第1の壁面にぶつかり、また周方向の成分が第2の壁面にぶつかるため、それぞれの壁面により動圧を発生させやすい。
【0010】
前記溝は、周方向に長い溝であってもよい。
これによれば、溝の開口から摺動面間へ流体が流入しやすくなるとともに、偏心回転に伴う溝の相対移動における径方向の成分が第1の壁面に作用しない状態でも周方向の成分により溝内の流体を第2の壁面にぶつけて高い動圧を発生させることができる。
【0011】
前記溝は、内径側の空間に開口していてもよい。
これによれば、溝の開口から溝内に流入した流体が遠心力により溝内に保持されやすい。
【0012】
前記溝は、高圧側の空間に開口していてもよい。
これによれば、流体の圧力により溝の開口から溝内に流体が流入しやすくなるため、より高い動圧を発生させることができる。
【0013】
前記摺動部品は、相対摺動する一対の摺動部品のうち径方向の幅が狭い方の摺動部品であってもよい。
これによれば、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面間において、溝により動圧を確実に発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る実施例の摺動部品としてのサイドシールが適用されるスクロール圧縮機を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施例のサイドシールの摺動面を示す図である。
【
図3】本発明の実施例のサイドシールの摺動面とスラストプレートの摺動面との相対摺動を示す図である。尚、(a)を開始位置として、(b)は90度、(c)は180度、(d)は270度まで回転軸が偏心回転したときに相対摺動するサイドシールの摺動面とスラストプレートの摺動面との位置関係を示している。
【
図4】(a)は、
図3(c)に示されるサイドシールの摺動面の領域Aにおいて、回転軸の偏心回転に伴う溝の相対移動により複数の溝内に発生する圧力の分布を示す一部拡大図であり、(b)は、
図3(c)に示されるサイドシールの摺動面の領域Bにおいて、回転軸の偏心回転に伴う溝の相対移動により複数の溝内に発生する圧力の分布を示す一部拡大図である。
【
図5】サイドシールの摺動面に形成される溝の変形例1を示す図である。
【
図6】サイドシールの摺動面に形成される溝の変形例2を示す図である。
【
図7】サイドシールの摺動面に形成される溝の変形例3~5を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0016】
実施例に係る摺動部品につき、
図1から
図4を参照して説明する。説明の便宜上、図面において、摺動部品の摺動面に形成される溝等にドットを付している。
【0017】
本発明の摺動部品は、偏心機構を含む回転機械、例えば自動車等の空調システムに用いられる流体としての冷媒を吸入、圧縮、吐出するスクロール圧縮機Cに適用される。尚、本実施例において、冷媒は気体であり、ミスト状の潤滑油が混合した状態となっている。
【0018】
先ず、スクロール圧縮機Cについて説明する。
図1に示されるように、スクロール圧縮機Cは、ハウジング1と、回転軸2と、インナーケーシング3と、スクロール圧縮機構4と、摺動部品としてのサイドシール7と、スラストプレート8と、駆動モータMと、から主に構成されている。
【0019】
ハウジング1は、円筒状のケーシング11と、ケーシング11の一方の開口を閉塞するカバー12と、から構成されている。ケーシング11の内部には、図示しない冷媒回路から吸入口10を通して低圧の冷媒が供給される低圧室20と、スクロール圧縮機構4により圧縮された高圧の冷媒が吐出される高圧室30と、スクロール圧縮機構4により圧縮された冷媒の一部が潤滑油と共に供給される背圧室50と、が形成されている。尚、背圧室50は、ケーシング11の内部に収容される円筒状のインナーケーシング3の内部に形成されている。
【0020】
カバー12には、図示しない冷媒回路と高圧室30とを連通する吐出連通路13が形成されている。また、カバー12には、高圧室30と背圧室50とを連通する背圧連通路14の一部が吐出連通路13から分岐して形成されている。尚、吐出連通路13には、冷媒から潤滑油を分離するオイルセパレータ6が設けられている。
【0021】
インナーケーシング3は、その一方の端をスクロール圧縮機構4を構成する固定スクロール41の端板41aに当接させた状態で固定されている。また、インナーケーシング3の一方の端部には、径方向に貫通する吸入連通路15が形成されている。すなわち、低圧室20は、インナーケーシング3の外部から吸入連通路15を介してインナーケーシング3の内部まで形成されている。吸入連通路15を通ってインナーケーシング3の内部まで供給された冷媒は、スクロール圧縮機構4に吸入される。
【0022】
スクロール圧縮機構4は、カバー12に対して略密封状に固定される固定スクロール41と、インナーケーシング3の内部に収容される可動スクロール42と、から主に構成されている。
【0023】
固定スクロール41は、金属製であり、円板状の端板41aの表面、すなわち端板41aの一方の端面から突設される渦巻状のラップ41bを備えている。また、固定スクロール41には、端板41aの背面、すなわち端板41aの他方の端面の内径側に凹む凹部41cが形成されており、この凹部41cとカバー12の端面とから高圧室30が画成されている。
【0024】
可動スクロール42は、金属製であり、円板状の端板42aの表面、すなわち端板42aの一方の端面から突設される渦巻状のラップ42bを備えている。また、可動スクロール42には、端板42aの背面、すなわち端板42aの他方の端面の中央から突出するボス42cが形成されている。ボス42cには、回転軸2の一方の端部に形成される偏心部2aが相対回転可能に挿嵌される。尚、本実施例においては、回転軸2の偏心部2aと、回転軸2の一方の端部から外径方向に突出するカウンタウエイト部2bとにより、回転軸2を偏心回転させる偏心機構が構成されている。
【0025】
回転軸2が駆動モータMにより回転駆動されると、偏心部2aが偏心回転し、可動スクロール42が固定スクロール41に対して偏心回転を伴って相対摺動する。このとき、固定スクロール41に対して可動スクロール42は偏心回転し、この回転に伴いラップ41b、42bの接触位置は回転方向に順次移動し、ラップ41b、42b間に形成される圧縮室40が中央に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより、スクロール圧縮機構4の外径側に形成される低圧室20から圧縮室40に吸入された冷媒が圧縮されていき、最終的に固定スクロール41の中央に設けられる吐出孔41dを通して高圧室30に高圧の冷媒が吐出される。
【0026】
次いで、本実施例における摺動部品としてのサイドシール7について説明する。
図1および
図2に示されるように、サイドシール7は、樹脂製であり、断面矩形状かつ軸方向視円環状を成しており、可動スクロール42の端板42aの背面に固定されている。サイドシール7の一方の側面には、スラストプレート8の摺動面8aに当接する摺動面7aが形成されている。
【0027】
図2に示されるように、サイドシール7の摺動面7aには、内径側の空間、すなわち背圧室50に開口する溝70が周方向に複数等配されている。尚、溝70の個数は問わないが、後述する第2の壁面70c,70cによる動圧発生効果を得るためには10個以上であることが好ましい。
【0028】
溝70は、周方向の寸法L1が径方向の寸法L2よりも長い(L1>L2)矩形溝として形成されている。詳しくは、溝70は、平坦な摺動面7aと直交するように軸方向に延びかつ摺動面7aの中心Qに中心を有する円弧面である第1の壁面70aと、摺動面7aと直交するように軸方向に延びかつ摺動面7aの中心Qから延びる径方向面である第2の壁面70c,70cと、摺動面7aと平行に延びる平面状の底面70bと、から構成されている。
【0029】
また、溝70は、第1の壁面70aの周方向両端と第2の壁面70c,70cの外径端が略直交して繋がっており、角部70d,70dを有している。すなわち、溝70は、第1の壁面70aと第2の壁面70c,70cからなる角張った壁面から構成されている。
【0030】
尚、溝70の底面70bは、摺動面7aと平行に延びる平面状に形成されるものに限らず、例えば傾斜面や湾曲面として形成されてもよい。
【0031】
また、溝70の周方向の寸法L1は、隣接する溝70間におけるランド部分の周方向の寸法L3よりも長く(L1>L3)なっている。すなわち、摺動面7aの周方向に亘って複数の溝70が密に形成されており、摺動面7aの内径側の空間から流体が流入する溝70の開口面積が大きくなっている。
【0032】
また、溝70は、周方向の寸法L1が径方向の寸法L2よりも長い(L1>L2)矩形溝として形成されており、溝70内に流体を保持するための容量が大きくなっている。
【0033】
図1に示されるように、スラストプレート8は、金属製であり、円環状を成し、その一方の端面には、シールリング43が固定されており、シールリング43は、インナーケーシング3の内周面に当接している。これにより、スラストプレート8は、サイドシール7を介して可動スクロール42の軸方向の荷重を受けるスラスト軸受として機能している。
【0034】
また、サイドシール7とシールリング43は、インナーケーシング3の内部において、可動スクロール42の外径側に形成される低圧室20と可動スクロール42の背面側に形成される背圧室50とを区画している。背圧室50は、インナーケーシング3の他方の端の中央に設けられる貫通孔3aの内周に固定されるシールリング44により、貫通孔3aに挿通される回転軸2との間がシールされることにより密閉空間として形成されている。また、カバー12、固定スクロール41、インナーケーシング3に亘って形成され、高圧室30と背圧室50とを連通する背圧連通路14には、図示しないオリフィスが設けられており、オリフィスにより減圧調整された高圧室30の冷媒がオイルセパレータ6で分離された潤滑油と共に背圧室50に供給されるようになっている。このとき、背圧室50内の圧力は、低圧室20内の圧力よりも高くなるように調整されている。尚、インナーケーシング3には、径方向に貫通し、低圧室20と背圧室50とを連通する圧力抜き孔16が形成されており、圧力抜き孔16内には圧力調整弁45が設けられている。圧力調整弁45は、背圧室50の圧力が設定値を上回ることで開放するようになっている。
【0035】
また、スラストプレート8の中央の貫通孔8bには、可動スクロール42のボス42cが挿通されている。貫通孔8bは、ボス42cに挿嵌される回転軸2の偏心部2aによる偏心回転を許容できる径の大きさに形成されている。すなわち、サイドシール7の摺動面7aは、回転軸2の偏心回転によりスラストプレート8の摺動面8aに対して偏心回転を伴って相対摺動できるようになっている(
図3参照)。
【0036】
尚、
図3においては、
図3(a)~(d)は、固定スクロール41(
図1参照)側から見た場合のボス42cの回転軌跡のうち、
図3(a)を時計周り方向の基準として、ボス42cがそれぞれ90度、180度、270度回転した状態を示している。また、サイドシール7の摺動面7aとスラストプレート8の摺動面8aとの摺動領域をドットにより模式的に示している。また、説明の便宜上、回転軸2については、ボス42cに挿嵌される偏心部2aのみを図示し、偏心機構を構成するカウンタウエイト部2b等の図示を省略している。
【0037】
このように、サイドシール7は、スラストプレート8の摺動面8aに対して偏心回転を伴って相対摺動する摺動面7aを有する摺動部品であり、サイドシール7の摺動面7aには、内径側の流体が存在する背圧室50に開口する溝70が周方向に複数設けられ、溝70は、摺動面7aの周方向に沿って延びる第1の壁面70aと、径方向に沿って延びる第2の壁面70c,70cが繋がって構成されている。これによれば、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面7aに設けられる溝70の開口から摺動面7a,8a間へ流体が流入可能となっているとともに、偏心回転に伴う溝70の相対移動(
図3参照)における径方向の成分および周方向の成分に応じて第1の壁面70aおよび第2の壁面70c,70cに流体をぶつけて動圧を発生させることができる。そのため、摺動面7a,8a同士をわずかに離間させ、潤滑油による液膜が形成されることにより、摺動面7a,8a間における潤滑性が向上し、摺動面7aの摩擦抵抗を低減することができる。
【0038】
また、溝70は、摺動面7aの周方向に複数設けられているため、偏心回転に伴う溝70の相対移動に応じて複数の溝70によって動圧を発生させることができる。また、回転軸2の偏心回転に伴う溝70の相対移動により複数の溝70内に発生する圧力の分布(
図4参照)は、偏心回転に伴って略周方向に移動していく。そのため、周方向上流の溝70から摺動面7a,8a間に動圧発生に伴って流出した流体は、隣接する周方向下流の溝70に流入されやすくなっており、摺動面7a,8a間の周方向に亘って潤滑油による液膜が形成されやすい。尚、
図4において各溝70の第1の壁面70aまたは第2の壁面70cに示される鎖線により囲まれる領域は、各溝70において圧力が発生する領域を示している。
【0039】
また、偏心回転に伴う溝70の相対移動によって溝70内の流体が第1の壁面70a、第2の壁面70cまたは両壁面70a,70cにぶつかることで摺動面7a,8a間に流体が流出して動圧が発生するが、それぞれの溝70において最も圧力が高くなる位置は、
図3に示されるボス42cの回転角度に応じて変化する。すなわち、ボス42cの回転角度に応じて各溝70において最も圧力が高くなる位置はそれぞれ異なってくるが、溝70が摺動面7aの周方向に複数等配されることにより、摺動面7a,8a間において周方向に発生する動圧のばらつきを抑えることができる。
【0040】
また、溝70は、第1の壁面70aと第2の壁面70c,70cが繋がることで角張った角部70d,70dが形成されている。これによれば、
図2の拡大部に示されるように、溝70内を第1の壁面70aと第2の壁面70c,70cに沿って移動してきた流体(白矢印にて図示)を角部70d,70dの頂点およびその近傍から摺動面7a,8a間に流出させることができるため、角部70d,70dに高い動圧を発生させることができる。
【0041】
また、第1の壁面70aは、摺動面7aの中心Q(
図2参照)に中心を有する円弧面であり、第2の壁面70c,70cは、摺動面7aの中心Qから延びる径方向面である。これによれば、偏心回転に伴う溝70の相対移動における溝70内の流体の流れは径方向の成分と周方向の成分からなり、径方向の成分が第1の壁面70a、また周方向の成分が第2の壁面70cにぶつかるため、それぞれの壁面70a,70cにて動圧を発生させやすい。
【0042】
以下、
図3(c)の状態において溝70内の流体の流れ等の概略について、
図2の上方、右方、下方、左方に配置される溝70を例に説明する。
【0043】
上方に配置される溝70について説明する。偏心回転に伴って溝70の単位時間当たりの移動量が中心Qに近づく方向の径方向の成分が多い溝70、例えば
図4(a)の箇所の溝70においては、溝70は、周方向に長く形成されているため、偏心回転に伴う溝70の相対移動における径方向の成分に対する第1の壁面70aの受圧面積が大きいため、溝70内の流体が第1の壁面70aにぶつかって動圧を発生させやすくなっている。加えて、溝70の開口から流体が流入されやすくなっており、該溝70内に流入された流体は第1の壁面70aにぶつかって摺動面7a,8a間へ流出しやすくなっている。
【0044】
次いで、右方に配置される溝70について説明する。偏心回転に伴って溝70の単位時間当たりの移動量が中心Qを中心に時計周りに回転移動する成分が多い溝70、例えば
図4(b)の箇所の溝70においては、第1の壁面70aは、偏心回転に伴う溝70の相対移動における回転方向の周方向の成分と平行に延びているため、溝70内の流体が第1の壁面70aに沿って移動し第2の壁面70cにぶつかりやすくなり、動圧を発生させやすくなっている。
【0045】
次いで、下方に配置される溝70について説明する。偏心回転に伴って溝70の単位時間当たりの移動量が中心Qから遠ざかる方向の径方向の成分が多い溝70、例えば
図2において下方に設けられている溝70においては、該溝70内の流体が摺動面7a,8a間よりも溝70の開口から内径側の空間に流出しやすく、動圧はほとんど発生しない。
【0046】
尚、左方に配置される溝70については、摺動面7aにおいて上述した右方に配置される溝70と略点対称の配置であるため、詳細な説明は省略する。
【0047】
このように、偏心回転に伴う溝70の相対移動における径方向の成分が第1の壁面70aに作用し難い状態、例えば上述した右方に配置される溝70、左方に配置される溝70が
図3(c)の回転状態であっても周方向の成分により溝70内の流体を第2の壁面70cにぶつけて高い動圧を発生させることができる。そのため、摺動面7a,8a間における周方向の広い範囲で高い動圧を発生させることができる。
【0048】
また、溝70は、内径側の空間に開口していることにより、溝70の開口から溝70内に流入した流体が遠心力により溝70内に保持されやすい。そのため、摺動面7a,8a間が貧潤滑の状態になり難く、潤滑油による液膜が形成されやすい。
【0049】
また、溝70は、低圧室20よりも高圧な背圧室50に向けて開口していることにより、流体の圧力により溝70の開口から溝70内に流体が流入しやすい。そのため、溝70により高い動圧を発生させることができる。
【0050】
また、摺動面7aに溝70が形成されるサイドシール7は、相対摺動するスラストプレート8と比べて径方向の幅が狭くなっている(
図1および
図3参照)。これによれば、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面7a,8a間において、サイドシール7の摺動面7a全体が常にスラストプレート8の摺動面8aとの摺動領域内(
図3参照)に位置することとなり、溝70により動圧を確実に発生させることができる。
【0051】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0052】
前記実施例では、自動車等の空調システムに用いられるスクロール圧縮機Cに摺動部品としてのサイドシール7が適用される態様について説明したが、これに限らず、偏心機構を含む回転機械であれば、例えば膨張機と圧縮機を一体に備えたスクロール膨張圧縮機等に適用されてもよい。
【0053】
また、摺動部品の摺動面の内外の空間に存在する流体は、それぞれ気体、液体または気体と液体の混合状態のいずれであってもよい。
【0054】
また、前記実施例では、サイドシール7の摺動面7aに形成される溝70は、内径側の空間に開口する態様について説明したが、これに限らず、
図5に示される変形例1のサイドシール107のように、外径側の空間に開口する溝170が摺動面107aの周方向に複数等配されていてもよい。
【0055】
また、
図6に示される変形例2のサイドシール207のように、内径側に開口する溝270Aと、外径側に開口する溝270Bが摺動面207aの周方向に交互に形成されていてもよい。
【0056】
また、前記実施例では、溝70は、第1の壁面70aと第2の壁面70c,70cとの角部70d,70dが略直角に角張って形成されるものとして説明したが、これに限らず、溝は、摺動面の内周に沿って周方向に延びる第1の壁面と、径方向に延びる第2の壁面が繋がっているものであればよく、例えば
図7(a)に示される変形例3のように、第1の壁面と第2の壁面との角部が鋭角に角張って形成されていてもよい。
【0057】
また、
図7(b)に示される変形例4のように、角部が鈍角に角張って形成されていてもよい。
【0058】
また、
図7(c)に示される変形例5のように、角部が円弧状に形成されていてもよい。尚、変形例3~5の溝は、変形例1のように外径側の空間に開口していてもよいし、変形例2のように内径側の空間と外径側の空間に交互に開口していてもよい。
【0059】
また、溝70は、周方向に長い溝に限らず、周方向に短い溝であってもよいし、第1の壁面と第2の壁面が同じ長さの溝であってもよい。
【0060】
また、前記実施例では、サイドシール7の摺動面7aに形成される溝70は、低圧室20よりも高圧な背圧室50に向けて開口する態様について説明したが、これに限らず、溝は低圧室20に向けて開口していてもよい。また、本発明の摺動部品は、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有するものであれば、摺動面の内外に圧力差がある環境に限らず、摺動面の内外の圧力が略同一である環境で使用されてもよい。また、本発明の摺動部品には、シールとしての機能は必要なく、摺動面を低摩擦化できるものであればよい。
【0061】
また、前記実施例では、相対摺動する摺動面7a,8aを有するサイドシール7が樹脂製、スラストプレート8が金属製のものとして説明したが、摺動部品の材料は使用環境等に応じて自由に選択されてよい。
【0062】
また、前記実施例では、サイドシール7の摺動面7aに溝70が形成される態様について説明したが、これに限らず、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有する摺動部品であるスラストプレート8の摺動面8aの摺動領域(
図3参照)に溝が形成されていてもよい。また、サイドシール7の摺動面7aとスラストプレート8の摺動面8aの両方に溝が形成されていてもよい。
【0063】
また、前記実施例では、摺動部品としてのサイドシール7の摺動面7aとスラストプレート8の摺動面8aとが偏心回転を伴って相対摺動する構成について説明したが、これに限らず、サイドシールとスラストプレートのいずれか一方のみを備え、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面に溝が形成されてもよい。例えば、スラストプレートのみを備える場合には、摺動部品としてのスラストプレートの摺動面と可動スクロールの端板の背面のいずれか一方または両方に溝が形成されてもよい。また、サイドシールのみを備える場合には、摺動部品としてサイドシールの摺動面に溝が形成されてもよい。この場合には、サイドシールがインナーケーシングの内周面に当接して可動スクロールの軸方向の荷重を受けるスラスト軸受としても機能する。
【0064】
また、サイドシールとスラストプレートを備えず、可動スクロールの端板の背面がインナーケーシングの内周面に当接して可動スクロールの軸方向の荷重を受けるスラスト軸受として機能する場合には、可動スクロールの端板の背面に形成される摺動面に溝が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 ハウジング
2 回転軸
2a 偏心部
3 インナーケーシング
4 スクロール圧縮機構
6 オイルセパレータ
7 サイドシール(摺動部品)
7a 摺動面
8 スラストプレート
8a 摺動面
10 吸入口
13 吐出連通路
14 背圧連通路
15 吸入連通路
20 低圧室
30 高圧室
40 圧縮室
41 固定スクロール
42 可動スクロール
50 背圧室
70 溝
70a 第1の壁面(円弧面)
70b 底面
70c 第2の壁面(径方向面)
70d 角部
107 サイドシール(摺動部品)
107a 摺動面
170 溝
207 サイドシール(摺動部品)
207a 摺動面
270A 溝
270B 溝
C スクロール圧縮機
M 駆動モータ
Q 中心