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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】電気化学反応装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20240826BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240826BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240826BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20240826BHJP
   C25B 9/60 20210101ALI20240826BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20240826BHJP
   C25B 9/77 20210101ALI20240826BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20240826BHJP
   H01M 8/0215 20160101ALI20240826BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20240826BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240826BHJP
【FI】
H01M8/0228
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/19
C25B9/60
C25B9/65
C25B9/77
H01M8/0206
H01M8/0215
H01M8/1213
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022054970
(22)【出願日】2022-03-30
(65)【公開番号】P2023147464
(43)【公開日】2023-10-13
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 保夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】竹内 瑞絵
(72)【発明者】
【氏名】島津 めぐみ
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-280618(JP,A)
【文献】特開2018-018694(JP,A)
【文献】特開2018-160427(JP,A)
【文献】特表2020-502751(JP,A)
【文献】国際公開第2012/144600(WO,A1)
【文献】特開2000-294256(JP,A)
【文献】特開2011-174152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
C25B 1/04
C25B 9/00
C25B 9/19
C25B 9/60
C25B 9/65
C25B 9/77
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、
前記燃料極との間でガスのやり取りを行う特定ガス流路を画定する流路画定部材であって、MnおよびCrを含み、かつ、前記特定ガス流路を画定する部分の少なくとも一部は酸化被膜である流路画定部材と、を備える電気化学反応装置であって、
前記流路画定部材について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした場合に、
前記酸化被膜は、X線回析法によってMnOが同定されず、
電子線マイクロアナライザにより分析をした場合の前記酸化被膜の厚み方向に沿った断面におけるMnマッピング画像においてMn濃度が5.0mass%以上である全てのピクセルのMn濃度の平均値Caは21.0mass%以下である、
電気化学反応装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応装置であって、
前記Mn濃度の平均値Caは16.0mass%以下である、
電気化学反応装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気化学反応装置であって、
前記流路画定部材について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした上で、電子線マイクロアナライザにより分析をした場合の前記酸化被膜の厚み方向に沿った断面におけるMnマッピング画像においてMn濃度が5.0mass%以上である全てのピクセルのMn濃度のばらつきCdは16.0mass%以下である、
電気化学反応装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電気化学反応装置であって、
前記Mn濃度のばらつきCdは9.0mass%以下である、
電気化学反応装置。
【請求項5】
電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、
前記燃料極との間でガスのやり取りを行う特定ガス流路を画定する流路画定部材であって、MnおよびCrを含み、かつ、前記特定ガス流路を画定する部分の少なくとも一部は酸化被膜である流路画定部材と、を備える電気化学反応装置であって、
前記流路画定部材について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした場合に、
前記酸化被膜は、X線回析法によってMnOが同定されず、
電子線マイクロアナライザにより分析をした場合の前記酸化被膜の厚み方向に沿った断面におけるMnマッピング画像においてMn濃度が5.0mass%以上である全てのピクセルのMn濃度のばらつきCdは16.0mass%以下である、
電気化学反応装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電気化学反応装置であって、
前記Mn濃度のばらつきCdは9.0mass%以下である、
電気化学反応装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の電気化学反応装置であって、
前記流路画定部材について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした上で、電子線マイクロアナライザにより分析をした場合に、前記酸化被膜の最表面に位置する全てのピクセルにおけるCr濃度は65%以下である、
電気化学反応装置。
【請求項8】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の電気化学反応装置であって、
前記流路画定部材の前記酸化被膜に隣接する部分は金属材料からなり、
前記流路画定部材の前記酸化被膜に隣接する前記部分は、その結晶粒界にNbまたはTiを含む酸化物相を含む、
電気化学反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、電気化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCは、例えば、燃料電池単セル(以下、単に「単セル」という。)が所定の方向(以下、「第1の方向」という。)に複数並べて配置された燃料電池スタックの形態で利用される(例えば、特許文献1参照)。単セルは、電解質層と、電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを備える。
【0003】
燃料電池スタックは、さらに、単セル間の電気的導通を確保するためのインターコネクタを備える。インターコネクタは、燃料極との間でガスのやり取りを行うガス流路(以下、「特定ガス流路」という。)を画定する。インターコネクタは、Mn(マンガン)およびCr(クロム)を含んでいる。インターコネクタの表面(換言すれば、特定ガス流路を画定する部分)の少なくとも一部は酸化被膜である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-160427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の燃料電池スタックにおいては、特定ガス流路(燃料極との間でガスのやり取りを行うガス流路)を画定する部材であるインターコネクタの酸化被膜に含まれるMnが、当該酸化被膜から放出され、Mn蒸気(Mn(OH)等)として特定ガス流路にて飛散することがある。これにより、特定ガス流路におけるMn蒸気圧が上昇し、ひいては電解質層にクラックが発生するなど、単セルの発電性能に悪影響を及ぼすことがある(以下、この現象を「電解質層のMn被毒」という。)。なお、インターコネクタ以外の部材であって、特定ガス流路(燃料極との間でガスのやり取りを行うガス流路)を画定する部材を備える構成においても、このような電解質層のMn被毒が生じる。
【0006】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う電解セル(以下、「SOEC」という。)の一形態である電解セルスタックにも共通の課題である。なお、電解セルスタックは、それぞれ電解単セルを有する複数の電解セル単位が所定の方向に並べて配置された構造体である電解ブロックを備える構造体である。本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼び、燃料電池発電単位と電解セル単位とをまとめて電気化学反応単位と呼び、燃料電池スタックと電解セルスタックとをまとめて電気化学反応セルスタックと呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応セルスタック等の種々の電気化学反応装置にも共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される電気化学反応装置は、電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、前記燃料極との間でガスのやり取りを行う特定ガス流路を画定する流路画定部材であって、MnおよびCrを含み、かつ、前記特定ガス流路を画定する部分の少なくとも一部は酸化被膜である流路画定部材と、を備える電気化学反応装置であって、前記流路画定部材について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした上で、電子線マイクロアナライザにより分析をした場合の前記酸化被膜の厚み方向に沿った断面におけるMn濃度の平均値Caは21.0mass%以下である。
【0010】
本電気化学反応装置においては、Mn濃度の平均値Caが21.0mass%以下であることにより、Mn濃度の平均値Caが21.0mass%より高い構成と比較して、酸化被膜に含まれるMnが酸化被膜から特定ガス流路に放出されにくくなる。そのため、本電気化学反応装置によれば、特定ガス流路におけるMn蒸気圧の上昇が抑制(これにより電解質層のMn被毒が抑制)され、その結果、電気化学反応単セルの性能を向上させることができる。
【0011】
(2)上記電気化学反応装置において、前記Mn濃度の平均値Caは16.0mass%以下である構成としてもよい。本電気化学反応装置によれば、Mn濃度の平均値Caが特に低いことにより、特に効果的に、電解質層のMn被毒を抑制することができる(ひいては電気化学反応単セルの性能を特に向上させることができる)。
【0012】
(3)上記電気化学反応装置において、前記流路画定部材について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした上で、電子線マイクロアナライザにより分析をした場合の前記酸化被膜の厚み方向に沿った断面におけるMn濃度のばらつきCdは16.0mass%以下である構成としてもよい。
【0013】
従来の電気化学反応装置においては、その作動中に高温の雰囲気にさらされた際等に、酸化被膜に含まれるCrが、酸化被膜から放出され、特定ガス流路にて飛散することがある。当該Crが燃料極に付着し、燃料極の触媒活性が低下する(以下、この現象を「燃料極のCr被毒」という。)おそれがある。
【0014】
本電気化学反応装置においては、Mn濃度のばらつきCdが16.0mass%以下であることにより、Mn濃度のばらつきCdが16.0mass%より高い構成と比較して、酸化被膜に含まれるCrが酸化被膜から特定ガス流路に放出されにくくなる。そのため、本電気化学反応装置によれば、電解質層のMn被毒と燃料極のCr被毒とを抑制することができる(ひいては電気化学反応単セルの性能を更に向上させることができる)。
【0015】
(4)上記電気化学反応装置において、前記Mn濃度のばらつきCdは9.0mass%以下である構成としてもよい。本電気化学反応装置によれば、Mn濃度のばらつきCdが特に低いことにより、特に効果的に、電解質層のMn被毒と燃料極のCr被毒とを抑制することができる(ひいては電気化学反応単セルの性能を特に向上させることができる)。
【0016】
(5)本明細書に開示される電気化学反応装置は、電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、前記燃料極との間でガスのやり取りを行う特定ガス流路を画定する流路画定部材であって、MnおよびCrを含み、かつ、前記特定ガス流路を画定する部分の少なくとも一部は酸化被膜である流路画定部材と、を備える電気化学反応装置であって、前記流路画定部材について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした上で、電子線マイクロアナライザにより分析をした場合の前記酸化被膜の厚み方向に沿った断面におけるMn濃度のばらつきCdは16.0mass%以下である。本電気化学反応装置によれば、上述した理由と同様の理由から、電解質層のMn被毒と燃料極のCr被毒とを抑制することができる(ひいては電気化学反応単セルの性能を更に向上させることができる)。
【0017】
(6)上記電気化学反応装置において、前記Mn濃度のばらつきCdは9.0mass%以下である構成としてもよい。本電気化学反応装置によれば、上述した理由と同様の理由から、特に効果的に、電解質層のMn被毒と燃料極のCr被毒とを抑制することができる(ひいては電気化学反応単セルの性能を特に向上させることができる)。
【0018】
(7)上記電気化学反応装置において、前記流路画定部材について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした上で、電子線マイクロアナライザにより分析をした場合に、前記酸化被膜の最表面に位置する全てのピクセルにおけるCr濃度は65%以下である構成としてもよい。本電気化学反応装置においては、酸化被膜に含まれるCrが酸化被膜から特定ガス流路に放出されることが更に抑制される。そのため、本電気化学反応装置によれば、特に効果的に、燃料極のCr被毒を抑制することができる(ひいては電気化学反応単セルの性能を向上させることができる)。
【0019】
(8)上記電気化学反応装置において、前記流路画定部材について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした場合に、前記酸化被膜は、X線回析法によってMnOが同定されない構成としてもよい。
【0020】
仮に、上記のように行うX線回析法によってMnOが同定される程度に多量のMnOが酸化被膜に存在する構成においては、比較的、酸化被膜に含まれるMnが酸化被膜から特定ガス流路に放出されやすい。MnOが同定されない本電気化学反応装置においては、酸化被膜に含まれるMnが酸化被膜から特定ガス流路に放出されにくいため、電解質層のMn被毒を特に効果的に抑制することができる(ひいては電気化学反応単セルの性能を特に向上させることができる)。
【0021】
(9)上記電気化学反応装置において、前記流路画定部材の前記酸化被膜に隣接する部分は金属材料からなり、前記流路画定部材の前記酸化被膜に隣接する前記部分は、その結晶粒界にNbまたはTiを含む酸化物相を含む構成としてもよい。
【0022】
仮に流路画定部材の酸化被膜に隣接する部分がこのような構成でないときには、比較的、流路画定部材の酸化被膜に隣接する部分に含まれるMnは、その結晶粒界を通ることにより特定ガス流路にまで拡散しやすい。流路画定部材の酸化被膜に隣接する部分が上記の構成である本電気化学反応装置においては、流路画定部材の酸化被膜に隣接する部分に含まれるMnが結晶粒界を通って特定ガス流路に拡散することが更に抑制される。これによって、特定ガス流路におけるMn蒸気圧の上昇が更に抑制(これにより電解質層のMn被毒が抑制)され、その結果、電気化学反応単セルの性能を更に向上させることができる。
【0023】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応装置(燃料電池スタック、電解セルスタック等)およびその製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
図2図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
図3図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
図4図1のIV-IVの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
図5図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
図6図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
図7】インターコネクタ190とその周辺(図6のVII-VII断面の一部)のYZ断面構成を拡大して示す説明図
図8】性能評価結果を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0025】
A.本実施形態:
A-1.燃料電池スタック100の構成:
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図である。図2は、図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図である。図3は、図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図である。図4は、図1のIV-IVの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている(図5以降においても同様)。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。なお、燃料電池スタック100は、特許請求の範囲における電気化学反応装置の一例である。
【0026】
図1から図4に示すように、燃料電池スタック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に積層されてなる複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という。)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106のうちの一方(以下、「上側エンドプレート104」という。)は、7つの発電単位102からなる発電ブロック103から構成される集合体の上側に配置されており、一対のエンドプレート104,106のうちの他の(以下、「下側エンドプレート106」という。)は、発電ブロック103の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106は、発電ブロック103を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)(Z軸方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0027】
燃料電池スタック100を構成する各層(上側エンドプレート104、各発電単位102、下側エンドプレート106)のZ軸方向回りの外周の4つの角部付近には、各層を上下方向に貫通する孔が形成されており、下側エンドプレート106のZ軸方向回りの外周の4つの角部付近における上側の表面には、孔(ネジ孔)が形成されている。これらの各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、上下方向に延びるボルト孔109を構成している(図4参照)。以下の説明では、ボルト孔109を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、ボルト孔109と呼ぶ場合がある。
【0028】
図1および図4に示すように、各ボルト孔109にはボルト22が挿入されている。各ボルト22の下端部は下側エンドプレート106に形成されたネジ孔に螺号しており、各ボルト22の上端部にはナット24が嵌められている。ナット24の下側の表面は、絶縁シート26を介してエンドプレート104の上側の表面に当接している。このような構成のボルト22およびナット24により、燃料電池スタック100の各層が一体に締結されている。なお、絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0029】
また、図1から図3に示すように、燃料電池スタック100を構成する各層(上側エンドプレート104、各発電単位102、下側エンドプレート106)のZ軸方向回りの周縁部には、各層を上下方向に貫通する4つの孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、最上部の発電単位102から下側エンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0030】
図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周を構成する1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の付近に位置する1つの連通孔108は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102の後述する空気室166に供給するガス流路である空気極側供給マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の付近に位置する1つの連通孔108は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へ排出するガス流路である空気極側排出マニホールド162として機能する。酸化剤ガスOGとしては、例えば空気が使用される。
【0031】
また、図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周を構成する辺の内、上述した空気極側供給マニホールド161として機能する連通孔108に最も近い辺の付近に位置する他の1つの連通孔108は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102の後述する燃料室176に供給するガス流路である燃料極側供給マニホールド171として機能し、上述した空気極側排出マニホールド162として機能する連通孔108に最も近い辺の付近に位置する他の1つの連通孔108は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へ排出するガス流路である燃料極側排出マニホールド172として機能する。燃料ガスFGとしては、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0032】
図2および図3に示すように、燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。図2に示すように、空気極側供給マニホールド161の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、空気極側供給マニホールド161に連通しており、空気極側排出マニホールド162の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、空気極側排出マニホールド162に連通している。また、図3に示すように、燃料極側供給マニホールド171の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料極側供給マニホールド171に連通しており、燃料極側排出マニホールド172の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料極側排出マニホールド172に連通している。なお、各ガス通路部材27と下側エンドプレート106の表面との間には、絶縁シート26が介在している。
【0033】
(エンドプレート104,106の構成)
図2から図4に示すように、一対のエンドプレート104,106は、Z軸方向視での外形が略矩形の平板状の部材であり、例えばステンレス等の導電材料により形成されている。一対のエンドプレート104,106の中央付近には、それぞれ、Z軸方向に貫通する孔32,34が形成されている。Z軸方向視で、一対のエンドプレート104,106のそれぞれに形成された孔32,34の内周線は、後述する各単セル110を内包している。そのため、各ボルト22およびナット24による締結によって生じるZ軸方向の圧縮力は、主として各発電単位102の周縁部(後述する各単セル110より外周側の部分)に作用する。また、本実施形態では、上側エンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側エンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0034】
(発電単位102の構成)
図5は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図6は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図である。
【0035】
図5および図6に示すように、発電単位102は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)110と、単セル用セパレータ120と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ190と、インターコネクタ用セパレータ191と、空気極側フレーム130と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電部144と、を備えている。単セル用セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ用セパレータ191におけるZ軸方向回りの周縁部には、各マニホールド161,162,171,172として機能する各連通孔108を構成する孔と、各ボルト孔109を構成する孔とが形成されている。なお、インターコネクタ190は、特許請求の範囲における流路画定部材の一例である。
【0036】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んでZ軸方向に互いに対向する空気極114および燃料極116と、電解質層112と空気極114との間に配置された反応防止層118とを備える燃料電池単セルである。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、反応防止層118)を支持する燃料極支持形の単セルである。単セル110は、特許請求の範囲における電気化学反応単セルの一例である。
【0037】
電解質層112は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材であり、固体酸化物(例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア))を含むように構成されている。すなわち、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。空気極114は、Z軸方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、例えばペロブスカイト型酸化物(例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物))を含むように構成されている。燃料極116は、Z軸方向視で電解質層112と略同じ大きさの略矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。反応防止層118は、Z軸方向視で空気極114と略同じ大きさの略矩形の平板形状部材であり、例えばGDC(ガドリニウムドープセリア)を含むように構成されている。反応防止層118は、空気極114から拡散した元素(例えば、Sr)が電解質層112に含まれる元素(例えば、Zr)と反応して高抵抗な物質(例えば、SrZrO)が生成されることを抑制する機能を有する。
【0038】
単セル用セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。単セル用セパレータ120における貫通孔121を取り囲む部分(以下、「貫通孔周囲部」という。)は、単セル110(電解質層112)の周縁部における上側の表面に対向している。単セル用セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、単セル110(電解質層112)と接合(接続)されている。単セル用セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリーク(クロスリーク)が抑制される。
【0039】
単セル用セパレータ120における貫通孔121付近には、ガラスを含むガラスシール部125が配置されている。ガラスシール部125は、接合部124に対して空気室166側に位置しており、単セル用セパレータ120の貫通孔周囲部の表面と、単セル110(本実施形態では電解質層112)の表面との両方に接触するように形成されている。ガラスシール部125により、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリーク(クロスリーク)が効果的に抑制される。
【0040】
インターコネクタ190は、略矩形の平板形状の平板部150と、平板部150から空気極114側に突出した複数の略柱状の空気極側集電部134と、を有する導電性の部材であり、MnおよびCrを含む金属(例えば、フェライト系ステンレス)により形成されている。インターコネクタ190は、例えば0.01~0.5mass%のMnを含む。本実施形態では、インターコネクタ190の表面(空気室166に面する表面)に、例えばスピネル型酸化物により構成された導電性の被覆層194が形成されている。以下では、被覆層194に覆われたインターコネクタ190を、単にインターコネクタ190という。各発電単位102において、上側のインターコネクタ190は、単セル110に対して空気室166を挟んで上側(空気極114に対してZ軸方向の電解質層112とは反対側)に配置されている。上側のインターコネクタ190(の各空気極側集電部134)は、例えばスピネル型酸化物により構成された導電性接合材196を介して、単セル110の空気極114に接合されており、これにより単セル110の空気極114に電気的に接続されている。また、各発電単位102において、下側のインターコネクタ190は、単セル110に対して燃料室176を挟んで下側に配置されており、後述する燃料極側集電部144を介して、単セル110の燃料極116に電気的に接続されている。インターコネクタ190は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を抑制する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ190は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ190は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ190と同一部材である。下側のインターコネクタ190は、燃料室176を画定している。燃料室176は、燃料極116との間でガスのやり取りを行うガス流路に該当し、下側のインターコネクタ190は、当該ガス流路(燃料室176の一部)を画定している。すなわち、燃料室176は、特許請求の範囲における特定ガス流路に該当し、下側のインターコネクタ190は、特許請求の範囲における流路画定部材に該当する。なお、最も下側に位置する発電単位102においては、下側のインターコネクタ190の代わりに、下端用セパレータ189を備えている(図2から図4参照)。
【0041】
(下端用セパレータ189の構成)
図2から図4に示すように、下端用セパレータ189は、Z軸方向視での外形が略矩形の平板状の部材であり、例えば金属により形成されている。下端用セパレータ189の周縁部は、発電ブロック103と下側エンドプレート106との間に挟み込まれた状態で、下側エンドプレート106と例えば溶接により接合されており、下側エンドプレート106と電気的に接続されている。
【0042】
インターコネクタ用セパレータ191は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔181が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。インターコネクタ用セパレータ191における貫通孔181を取り囲む部分(以下、「貫通孔周囲部」という。)は、インターコネクタ190の周縁部における上側の表面に例えば溶接により接合されている。ある発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ用セパレータ191のうち、上側のインターコネクタ用セパレータ191は、該発電単位102の空気室166と、該発電単位102に対して上側に隣り合う他の発電単位102の燃料室176とを区画する。また、ある発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ用セパレータ191のうち、下側のインターコネクタ用セパレータ191は、該発電単位102の燃料室176と、該発電単位102に対して下側に隣り合う他の発電単位102の空気室166とを区画する。このように、インターコネクタ用セパレータ191により、発電単位102の周縁部における発電単位102間のガスのリークが抑制される。なお、最も上側に位置する発電単位102の上側のインターコネクタ190に接合されたインターコネクタ用セパレータ191は、上側エンドプレート104に電気的に接続されている。
【0043】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、単セル用セパレータ120の周縁部における上側の表面と、上側のインターコネクタ用セパレータ191の周縁部における下側の表面とに接触しており、両者の間のガスシール性(すなわち、空気室166のガスシール性)を確保するシール部材として機能する。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ用セパレータ191間(すなわち、一対のインターコネクタ190間)が電気的に絶縁される。空気極側フレーム130には、空気極側供給マニホールド161と空気室166とを連通する空気極側供給連通流路132と、空気室166と空気極側排出マニホールド162とを連通する空気極側排出連通流路133とが形成されている。
【0044】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、単セル用セパレータ120の周縁部における下側の表面と、下側のインターコネクタ用セパレータ191の周縁部における上側の表面とに接触している。燃料極側フレーム140には、燃料極側供給マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料極側供給連通流路142と、燃料室176と燃料極側排出マニホールド172とを連通する燃料極側排出連通流路143とが形成されている。
【0045】
燃料極側集電部144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電部144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147(図7参照)とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116の下側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ190の上側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下側に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ190を備えていないため、該発電単位102における燃料極側集電部144のインターコネクタ対向部146は、下端用セパレータ189に接触している。燃料極側集電部144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ190(または下端用セパレータ189)とを電気的に接続する。なお、燃料極側集電部144の電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電部144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電部144を介した燃料極116とインターコネクタ190(または下端用セパレータ189)との電気的接続が良好に維持される。
【0046】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および図5に示すように、酸化剤ガスOGは、空気極側供給マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から、当該ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して空気極側供給マニホールド161に供給され、空気極側供給マニホールド161から各発電単位102の空気極側供給連通流路132を介して、空気室166に供給される。また、図3および図6に示すように、燃料ガスFGは、燃料極側供給マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から、当該ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料極側供給マニホールド171に供給され、燃料極側供給マニホールド171から各発電単位102の燃料極側供給連通流路142を介して、燃料室176に供給される。
【0047】
各発電単位102において、空気室166に供給された酸化剤ガスOGが多孔質な空気極114内に進入し、かつ、燃料室176に供給された燃料ガスFGが多孔質な燃料極116内に進入すると、単セル110において酸化剤ガスOGに含まれる酸素と燃料ガスFGに含まれる水素との電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は、導電性接合材196を介して一方のインターコネクタ190に電気的に接続され、燃料極116は、燃料極側集電部144を介して他方のインターコネクタ190に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0048】
図2および図5に示すように、各発電単位102の空気室166から空気極側排出連通流路133を介して空気極側排出マニホールド162に排出された酸化剤オフガスOOGは、空気極側排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から燃料電池スタック100の外部に排出される。また、図3および図6に示すように、各発電単位102の燃料室176から燃料極側排出連通流路143を介して燃料極側排出マニホールド172に排出された燃料オフガスFOGは、燃料極側排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)から燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0049】
A-3.インターコネクタ190とその周辺の詳細構成:
上述したように、インターコネクタ190は、MnおよびCrを含んでいる。
【0050】
図7は、インターコネクタ190とその周辺(図6のVII-VII断面の一部)のYZ断面構成を拡大して示す説明図である。インターコネクタ190のうち、燃料室176(特定ガス流路)を画定する部分の少なくとも一部(本実施形態では略全体)は、酸化被膜OCである。酸化被膜OCは、例えば、インターコネクタ190の材料である鋼材の表面に、まず加湿しながら水素雰囲気で熱処理を施し、その後に大気雰囲気で熱処理を施すことにより形成することができる。
【0051】
酸化被膜OCは、燃料室176に面するMnを含む層とMnを含む層に隣接し、主にCr等により形成されたクロミア層とからなる。Mnを含む層は、Mnと、Cr、Si(シリコン),Al(アルミニウム),Ti(チタン)およびS(硫黄)から選択される少なくとも1つの元素との化合物(例えば、MnCr)を含んでいる。また、インターコネクタ190のうち、酸化被膜OCに隣接する部分AP(本実施形態では、平板部150(のうち、少なくとも酸化被膜OCに隣接する部分))は、金属材料(例えば、MnとCrを含むフェライト系ステンレス)からなり、その結晶粒界にNbまたはTiを含む酸化物相を含む。
【0052】
本実施形態の酸化被膜OCは、加速加熱試験(詳細は後述)をした場合に、X線回析法によって、上記化合物(Mnと、Cr,Si,Al,TiおよびSから選択される少なくとも1つの元素との化合物)等が同定される一方で、MnOは同定されない。このX線回析法の測定条件は、以下の通りである。すなわち、管球電圧40kV、管球電流20mA、波長CuKα(1.541862Å)である。また、上記の「MnOが同定されない」とは、10°~80°の測定範囲において、MnOに帰属されるピークが2つ以上観察されないことを指す(以下、同様)。
【0053】
インターコネクタ190は、以下の第1条件を満たす。
(第1条件)
インターコネクタ190について、加速加熱試験(後述)をした上で、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により分析(詳細は後述)をした場合のMn濃度の平均値Caは、21.0mass%以下である。
【0054】
インターコネクタ190は、更に、以下の第2条件を満たす。
(第2条件)
Mn濃度の平均値Caは16.0mass%以下である。
【0055】
インターコネクタ190は、更に、以下の第3条件を満たす。
(第3条件)
インターコネクタ190について、加速加熱試験(後述)をした上で、下記のように電子線マイクロアナライザにより分析(後述)をした場合のMn濃度のばらつきCdは16.0mass%以下である。
【0056】
インターコネクタ190は、更に、以下の第4条件を満たす。
(第4条件)
インターコネクタ190は、Mn濃度のばらつきCdは9.0mass%以下である。
【0057】
インターコネクタ190は、更に、以下の第5条件を満たす。
(第5条件)
インターコネクタ190について、加速加熱試験(後述)をした上で、電子線マイクロアナライザにより分析(後述)をした場合に、酸化被膜OCの(Z軸正方向側の)最表面に位置する全てのピクセルにおけるCr濃度は65%以下である。
【0058】
(加速加熱試験)
上述したインターコネクタ190を、電気炉に静置し、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において、室温から1000℃まで+4℃/minの条件で電気炉内を昇温させる。1000℃の条件下で100時間保持した後、10時間をかけて室温まで電気炉内を降温させる。なお、正確な結果を得るために、電気炉に不純物(例えばSi)が混入しないことに留意すべきである。
【0059】
(電子線マイクロアナライザによる分析)
加速加熱試験後のインターコネクタ190を、酸化被膜OCを含むように所定の長さに切断し、エポキシ樹脂に埋め込んで固化した後、酸化被膜OCの厚み方向(Z軸方向)に略平行な断面が観察できるように切断して、鏡面状に研磨する。その後、研磨面(観察面)にカーボン蒸着を行った後、酸化被膜OC(の厚み方向(Z軸方向)の全域)と、酸化被膜OCに隣接する部分とを含んだ視野で、電子線マイクロアナライザによる元素マッピング分析を行う。Mnマッピング画像およびCrマッピング画像において、酸化被膜OCに含まれるMnの質量濃度と、Crの質量濃度とが等しくなる位置を、酸化被膜OCにおけるMnを含む層とクロミア層との境界とする。Mnマッピング画像において酸化被膜OCのMnを含む層におけるMn濃度が5.0mass%以上である全てのピクセル(ピクセルサイズは0.18μm)の質量濃度の平均値を「Mn濃度の平均値Ca」とし、それらピクセルの質量濃度の標準偏差を「Mn濃度のばらつきCd」とする。
【0060】
Mn濃度の平均値Caが21.0mass%以下であれば第1条件を満たし、16.0mass%以下であれば第2条件を満たすとする。Mn濃度のばらつきCdが16.0mass%以下であれば第3条件を満たすとし、9.0mass%以下であれば第4条件を満たすとする。酸化被膜OCの最表面に位置する全てのピクセルにおけるCr濃度が65%以下であれば、第5条件を満たすとする。この「酸化被膜OCの最表面に位置する全てのピクセル」は、酸化被膜OCの最表面に位置するピクセルであって、上下方向(Z軸方向)視における全てのピクセルを対象とする。
【0061】
なお、Mn濃度の平均値CaやばらつきCdは、鋼材(インターコネクタ190の材料)の表面に酸化被膜OCを形成するために施す熱処理の条件を種々変更すること等により調整することができる。例えば、上述したように加湿しながら水素雰囲気で熱処理を施す際の水蒸気濃度を低くすることにより、Mn濃度の平均値CaやばらつきCdを低下させることができる。
【0062】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の燃料電池スタック100は、単セル110と、インターコネクタ190と、を備える。単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んでZ軸方向に互いに対向する空気極114および燃料極116とを含む。インターコネクタ190は、燃料極116との間でガス(燃料ガスFG)のやり取りを行う燃料室176(特定ガス流路)を画定する。インターコネクタ190は、MnおよびCrを含む。インターコネクタ190のうち、燃料室176(特定ガス流路)を画定する部分の少なくとも一部は、酸化被膜OCである。インターコネクタ190について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした上で、電子線マイクロアナライザにより分析をした場合の酸化被膜OCの厚み方向(Z軸方向)に沿った断面におけるMn濃度の平均値Caは21.0mass%以下である(第1条件)。
【0063】
上述したように、従来の燃料電池スタックにおいては、燃料室176(特定ガス流路)を画定する部材であるインターコネクタ190の酸化被膜OCに含まれるMnが、酸化被膜OCから放出され、Mn蒸気(Mn(OH)等)として燃料室176(特定ガス流路)にて飛散することがある。これにより、燃料室176(特定ガス流路)におけるMn蒸気圧が上昇し、ひいては電解質層112にクラックが発生するなど、単セル110の発電性能に悪影響を及ぼすことがある(以下、この現象を「電解質層112のMn被毒」という。)。
【0064】
本実施形態の燃料電池スタック100においては、Mn濃度の平均値Caが21.0mass%より高い構成と比較して、酸化被膜OCに含まれるMnが酸化被膜OCから燃料室176(特定ガス流路)に放出されにくくなる。そのため、本実施形態の燃料電池スタック100によれば、上述した燃料室176におけるMn蒸気圧の上昇が抑制(これにより電解質層112のMn被毒が抑制)され、その結果、単セル110の発電性能を向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態の燃料電池スタック100においては、Mn濃度の平均値Caは16.0mass%以下である(第2条件)。そのため、本実施形態の燃料電池スタック100によれば、Mn濃度の平均値Caが特に低いことにより、特に効果的に、電解質層112のMn被毒を抑制することができる(ひいては単セル110の発電性能を特に向上させることができる)。
【0066】
また、本実施形態の燃料電池スタック100においては、インターコネクタ190について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした上で、電子線マイクロアナライザにより分析をした場合の酸化被膜OCの厚み方向に沿った断面におけるMn濃度のばらつきCdは16.0mass%以下である(第3条件)。
【0067】
従来の燃料電池スタック100においては、その作動中に高温(例えば、700℃~1000℃)の雰囲気にさらされた際等に、酸化被膜OCに含まれるCrが、酸化被膜OCから放出され、燃料室176(特定ガス流路)にて飛散することがある。当該Crが燃料極116に付着し、燃料極116の触媒活性が低下する(以下、この現象を「燃料極116のCr被毒」という。)おそれがある。
【0068】
本実施形態の燃料電池スタック100においては、Mn濃度のばらつきCdが16.0mass%以下であることにより、Mn濃度のばらつきCdが16.0mass%より高い構成と比較して、酸化被膜OCに含まれるCrが酸化被膜OCから燃料室176(特定ガス流路)に放出されにくくなる。そのため、本実施形態の燃料電池スタック100によれば、電解質層112のMn被毒と燃料極116のCr被毒とを抑制することができる(ひいては単セル110の発電性能を更に向上させることができる)。
【0069】
また、本実施形態の燃料電池スタック100においては、Mn濃度のばらつきCdは9.0mass%以下である(第4条件)。そのため、本実施形態の燃料電池スタック100によれば、Mn濃度のばらつきCdが特に低いことにより、特に効果的に、電解質層112のMn被毒と燃料極116のCr被毒とを抑制することができる(ひいては単セル110の発電性能を特に向上させることができる)。
【0070】
また、本実施形態の燃料電池スタック100においては、インターコネクタ190について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした上で、電子線マイクロアナライザにより分析をした場合に、酸化被膜OCの最表面に位置する全てのピクセルにおけるCr濃度は65%以下である(第5条件)。そのため、本実施形態の燃料電池スタック100においては、酸化被膜OCに含まれるCrが酸化被膜OCから燃料室176(特定ガス流路)に放出されることが更に抑制される。そのため、本実施形態の燃料電池スタック100によれば、特に効果的に、燃料極116のCr被毒を抑制することができる(ひいては単セル110の発電性能を向上させることができる)。
【0071】
また、本実施形態の燃料電池スタック100においては、インターコネクタ190について、20%水蒸気を含む水素雰囲気下において1000℃で100時間の加速加熱試験をした場合に、酸化被膜OCは、X線回析法によってMnOが同定されない。仮に、このように行うX線回析法によってMnOが同定される程度に多量のMnOが酸化被膜OCに存在する構成においては、比較的、酸化被膜OCに含まれるMnが酸化被膜OCから燃料室176(特定ガス流路)に放出されやすい。MnOが同定されない本実施形態の燃料電池スタック100においては、酸化被膜OCに含まれるMnが酸化被膜OCから燃料室176(特定ガス流路)に放出されにくいため、電解質層112のMn被毒を特に効果的に抑制することができる(ひいては単セル110の発電性能を特に向上させることができる)。
【0072】
また、本実施形態の燃料電池スタック100においては、インターコネクタ190の酸化被膜OCに隣接する部分APは金属材料からなり、インターコネクタ190の酸化被膜OCに隣接する部分APは、その結晶粒界にNbまたはTiを含む酸化物相を含む。仮にインターコネクタ190の酸化被膜OCに隣接する部分APがこのような構成でないときには、比較的、酸化被膜OCに隣接する部分APに含まれるMnは、その結晶粒界を通ることにより燃料室176(特定ガス流路)にまで拡散しやすい。インターコネクタ190の酸化被膜OCに隣接する部分APが上記の構成である本実施形態の燃料電池スタック100においては、酸化被膜OCに隣接する部分APに含まれるMnが結晶粒界を通って燃料室176(特定ガス流路)に拡散することが更に抑制される。これによって、上述した燃料室176におけるMn蒸気圧の上昇が更に抑制(これにより電解質層112のMn被毒が抑制)され、その結果、単セル110の発電性能を更に向上させることができる。
【0073】
なお、上記の発明の効果を考慮すると、上述した電子線マイクロアナライザによる分析において、インターコネクタ190のどの位置の断面(但し、酸化被膜OCを含む断面)を分析対象とした場合においても上記条件(第1条件、…、第5条件)を満たすことが特に好ましいが、インターコネクタ190のいずれか1つの断面のみにおいて上記条件(第1条件、…、第5条件)を満たすとしてもよい。
【0074】
A-5.性能評価:
次に、本実施形態の性能評価について説明する。各特性が互いに異なる複数のインターコネクタ190のサンプルを作製し、当該サンプルを用いて性能評価を行った。図8は、性能評価結果を示す説明図である。
【0075】
(サンプルについて)
図8に示すように、本性能評価では、インターコネクタ190の4個のサンプル(サンプルSA1、…、SA4)を用いた。各サンプルは、Mn濃度の平均値Caと、Mn濃度のばらつきCdとが互いに異なっている。
【0076】
各サンプル(インターコネクタ190)に形成された酸化被膜OCは、上述した方法(インターコネクタ190の材料である鋼材の表面に、まず加湿しながら水素雰囲気で熱処理を施し、その後に大気雰囲気で熱処理を施す方法)により形成した。大気雰囲気で施す熱処理については、どのサンプルについても、850℃、2時間という条件で行い、加湿しながら水素雰囲気で施す熱処理については、950℃、100時間という条件で、水蒸気濃度を、サンプルSA1は2%、サンプルSA2は5%、サンプルSA3は10%、サンプルSA4は50%として行った。このように酸化被膜OCを形成した各サンプルについて、加速加熱試験(上述)をした上で、電子線マイクロアナライザ(上述)による分析を行うことにより、Mn濃度の平均値CaとばらつきCdを測定した結果、図8に示すように、Mn濃度の平均値CaとMn濃度のばらつきCdとが互いに異なることを確認した。
【0077】
(電解質層112のMn被毒についての評価)
各サンプル(インターコネクタ190)について、当該サンプルを組み付けた燃料電池スタック100を用いて次の2つの耐久試験を行った。
「緩い条件の耐久試験」:各サンプルを850℃で1000時間(燃料利用率は82%、電流密度は0.47A/cm)の条件で燃料電池スタック100を作動させた後の単セル110について、電解質層112におけるクラックの発生の有無を確認した。
「厳しい条件の耐久試験」:各サンプルを850℃で2000時間(燃料利用率は82%、電流密度は0.47A/cm)の条件で燃料電池スタック100を作動させた後の単セル110について、電解質層112におけるクラックの発生の有無を確認した。
【0078】
なお、電解質層112におけるクラックの発生の有無の確認は、単セル110を、電解質層112の断面が露出するように切断し、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面画像を観察することにより行った。
【0079】
各サンプルについて、厳しい条件の耐久試験で電解質層112にクラックが発生しなかった場合に「特に良い(A)」と評価し、(厳しい条件の耐久試験で電解質層112にクラックが発生したが)緩い条件の耐久試験では電解質層112にクラックが発生しなかった場合に「良い(B)」と評価し、緩い条件の耐久試験で電解質層112にクラックが発生した場合に「不合格(C)」と評価した。
【0080】
その結果、図8に示すように、サンプルSA1,SA2は「特に良い(A)」、サンプルSA3は「良い(B)」、サンプルSA4は「不合格(C)」という評価結果となった。
【0081】
ここで、サンプルSA1,…,SA3では、Mn濃度の平均値Caが21.0mass%以下であるのに対し、サンプルSA4では、Mn濃度の平均値Caが21.0mass%より高い。この結果から、Mn濃度の平均値Caが21.0mass%以下である構成においては、Mn濃度の平均値Caが21.0mass%より高い構成と比較して電解質層112のMn被毒が抑制され、ひいては電解質層112におけるクラックの発生を抑制することができることが確認された。
【0082】
また、サンプルSA1,SA2では、Mn濃度の平均値Caが16.0%以下であるのに対し、サンプルSA3では、Mn濃度の平均値Caが16.0%より高い。この結果から、Mn濃度の平均値Caが16.0mass%以下である構成においては、より効果的に、電解質層112のMn被毒が抑制され、ひいては電解質層112におけるクラックの発生を抑制できることが確認された。
【0083】
(燃料極116のCr被毒についての評価)
各サンプル(インターコネクタ190)について、上記の耐久試験と同様に、当該サンプルを組み付けた燃料電池スタック100を850℃で2000時間(燃料利用率は82%、電流密度は0.47A/cm)の条件で作動させた後に、単セル110を、燃料極116の表面を含むように切断し、蛍光X線分析(XRF)を行った結果、Crが検出されなかった場合に「特に良い(A)」と評価し、検出されたCrの量が0.5mass%未満であった場合に「良い(B)」と評価し、検出されたCrの量が0.5mass%以上であった場合に「不合格(C)」と評価した。
【0084】
その結果、図8に示すように、サンプルSA1,SA2は「特に良い(A)」、サンプルSA3は「良い(B)」、サンプルSA4は「不合格(C)」という評価結果となった。
【0085】
ここで、サンプルSA1,…,SA3では、Mn濃度のばらつきCdが16.0mass%以下であるのに対し、サンプルSA4では、Mn濃度のばらつきCdが16.0massより高い。この結果から、Mn濃度のばらつきCdが16.0mass%以下である構成においては、Mn濃度のばらつきCdが16.0massより高い構成と比較して(電解質層112のMn被毒と)燃料極116のCr被毒とを抑制することができることが確認された。
【0086】
また、サンプルSA1,SA2では、Mn濃度のばらつきCdが9.0mass以下であるのに対し、サンプルSA3では、Mn濃度のばらつきCdが9.0mass%より高い。この結果から、Mn濃度のばらつきCdが9.0mass%以下である構成においては、より効果的に、(電解質層112のMn被毒と)燃料極116のCr被毒とが抑制され、ひいては電解質層112におけるクラックの発生を抑制できることが確認された。
【0087】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0088】
上記実施形態における燃料電池スタック100の構成や燃料電池スタック100を構成する各部分の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0089】
例えば、上記実施形態では、インターコネクタ190は導電性の被覆層194を含んでいるが、インターコネクタ190が該被覆層194を含んでいなくてもよい。また、上記実施形態(または変形例、以下同様)では、単セル110が反応防止層118を有しているが、単セル110が反応防止層118を有していなくてもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、インターコネクタ190は、第1条件から第5条件までの全てを満たしているが、第1条件を満たしていれば、他の条件を満たしていなくてもよい。例えば、第1条件(Mn濃度の平均値Caは21.0mass%以下である)を満たし、かつ、第2条件(Mn濃度の平均値Caは16.0mass%以下である)を満たさないとしてもよい。また、第1条件(Mn濃度の平均値Caは21.0mass%以下である)を満たし、かつ、第3条件(Mn濃度のばらつきCdは16.0mass%以下である)を満たさないとしてもよい。また、第3条件を満たしていれば、他の条件を満たしていなくてもよい。例えば、第3条件(Mn濃度のばらつきCdは16.0mass%以下である)を満たし、かつ、第1条件(Mn濃度の平均値Caは21.0mass%以下である)を満たさないとしてもよい。
【0091】
上記実施形態では、酸化被膜OCは、上記のように行うX線回析法によってMnOが同定されないものであるが、上記のように行うX線回析法によってMnOが同定されるものであってもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100に含まれるすべての発電単位102のインターコネクタ190に酸化被膜OCが形成されているが、一部の発電単位102のみにおいてインターコネクタ190に酸化被膜OCが形成されていてもよい。
【0093】
また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数(発電単位102の個数)は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。
【0094】
また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。例えば、上記実施形態ではインターコネクタ190の酸化被膜OCに隣接する部分APは金属材料からなるが、金属材料以外の材料により形成されていてもよい。また、上記実施形態ではインターコネクタ190の当該部分APは、その結晶粒界にNbまたはTiを含む酸化物相を含むが、このような組成でないものであってもよい。また、上記実施形態では酸化被膜OCは、Mnと、Si,Al,TiおよびSから選択される少なくとも1つの元素との化合物を含むが、このような組成でないものであってもよい。
【0095】
また、インターコネクタ190は、各部(平板部150、空気極側集電部134、被覆層194、酸化被膜OC)の一部または全体が一つの部材により構成されていてもよい。
【0096】
上記実施形態では、燃料極116との間でガスのやり取りを行う特定ガス流路を画定する部材としてのインターコネクタ190を備える構成に、本発明(第1条件、…、第5条件を満たす構成)を適用した例を示したが、燃料極116との間でガスのやり取りを行う特定ガス流路を画定する部材であって、インターコネクタ190以外の部材(例えば、反応ガスを燃料電池スタック100の外部に排出するための配管や、反応ガスを溜めるためのガスタンク等)を備える構成に本発明を適用してもよい。「燃料極116との間でガスのやり取りを行う特定ガス流路」としては、燃料極116にガスを供給するためのガス流路と、燃料極116において発生したガスや燃料極を通過したガスを排出するためのガス流路との少なくとも一方に該当するあらゆるガス流路が対象となりうる。「特定ガス流路を画定する部材」としては、特定ガス流路を流れるガスに晒されるあらゆる部材が対象となりうる。
【0097】
また、上記実施形態の燃料電池スタック100は、コフロータイプのSOFCであるが、本明細書に開示される技術は、カウンタータイプのSOFCにも同様に適用可能である。また、本明細書に開示される技術は、クロスフロータイプのSOFCにも同様に適用可能である。
【0098】
また、本発明を、特開2018-195414号公報に記載されているような、金属支持型(メタルサポート型)の単セル110を備える構成に適用してもよい。この構成においても、上記実施形態と同様の効果が得られる。例えば、「燃料極116との間でガスのやり取りを行う特定ガス流路を画定する部材」として、金属支持型(メタルサポート型)の単セル110における金属支持体(単セル110等を支持する金属部材)に本発明の特徴的な構成(Mn濃度の平均値Ca等)を採用してもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池スタック100を対象としているが、本明細書に開示される技術は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルを複数備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの基本的な構成は、例えば特開2016-81813号公報に記載されているように公知であるが、おおよそ以下の通りである。すなわち、電解セルスタックの構成は、上述した実施形態の燃料電池スタック100の構成において、「発電単位」を「電解セル単位」と読み替え、「単セル」を「電解単セル」と読み替え、「酸化剤ガス供給マニホールド」を「空気排出マニホールド」と読み替え、「酸化剤ガス排出マニホールド」を「空気供給マニホールド」と読み替え、「燃料ガス供給マニホールド」を「水素排出マニホールド」と読み替え、「燃料ガス排出マニホールド」を「水蒸気供給マニホールド」と読み替え、「酸化剤ガス供給連通流路」を「空気排出連通流路」と読み替え、「酸化剤ガス排出連通流路」を「空気供給連通流路」と読み替え、「燃料ガス供給連通流路」を「水素排出連通流路」と読み替え、「燃料ガス排出連通流路」を「水蒸気供給連通流路」と読み替えた構成である。
【0100】
電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極(水素極)116がマイナス(陰極)となるように、電解セルスタックに電圧が印加される。また、ガス通路部材27を介して水蒸気供給マニホールドに原料ガスとしての水蒸気が供給される。なお、供給される水蒸気に、水素ガスが含まれていてもよい。水蒸気供給マニホールドに供給された水蒸気は、水蒸気供給マニホールドから各電解セル単位の水蒸気供給連通流路を介して燃料室176に供給され、各電解単セルにおける水の電気分解反応に供される。各電解単セルにおける水の電気分解反応により燃料室176で発生した水素ガスは、余った水蒸気と共に水素排出連通流路を介して水素排出マニホールドに排出され、水素排出マニホールドからガス通路部材27を経て電解セルスタックの外部に取り出される。また、電解セルスタックの運転の際には、電解セルスタックの温度の制御等のために、必要により空気が電解セルスタックの内部に供給される。この場合には、ガス通路部材27を介して空気供給マニホールドに供給された空気が、空気供給マニホールドから各電解セル単位の空気供給連通流路を介して、空気室166に供給される。空気室166に供給された空気は、空気極114で生成される酸素とともに空気排出連通流路を介して空気排出マニホールドに排出され、空気排出マニホールドからガス通路部材27を経て電解セルスタックの外部に排出される。このような構成の電解セルスタックにおいても、上記実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成を採用することにより、上記実施形態における燃料電池スタック100の作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0101】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本明細書に開示される技術は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0102】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:(ガス通路部材の)本体部 29:(ガス通路部材の)分岐部 32,34:孔 100:燃料電池スタック 102:発電単位 103:発電ブロック 104,106:エンドプレート 108:連通孔 109:ボルト孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 118:反応防止層 120:単セル用セパレータ 121:貫通孔 124:接合部 125:ガラスシール部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:空気極側供給連通流路 133:空気極側排出連通流路 134:空気極側集電部 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料極側供給連通流路 143:燃料極側排出連通流路 144:燃料極側集電部 145:(燃料極側集電部の)電極対向部 146:(燃料極側集電部の)インターコネクタ対向部 147:(燃料極側集電部の)連接部 149:(燃料極側集電部の)スペーサー 150:(インターコネクタの)平板部 161:空気極側供給マニホールド 162:空気極側排出マニホールド 166:空気室 171:燃料極側供給マニホールド 172:燃料極側排出マニホールド 176:燃料室 181:貫通孔 189:下端用セパレータ 190:インターコネクタ 191:インターコネクタ用セパレータ 194:(インターコネクタの)被覆層 196:導電性接合材 FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス OC:酸化被膜 OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8