(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】脱リチウム化溶液及びこれを用いた陰極活物質または陰極の化成方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240826BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240826BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240826BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/1393
H01M4/133
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M10/54
(21)【出願番号】P 2022078676
(22)【出願日】2022-05-12
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】10-2021-0174920
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】イ,ミンア
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ジヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,フン-ギ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジン クァン
【審査官】岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113061726(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103943825(CN,A)
【文献】特開2008-198610(JP,A)
【文献】特開2012-099316(JP,A)
【文献】特開2018-133183(JP,A)
【文献】PAVLOPOULOS, T. G.,“Triplet-triplet absorption and polarization spectra of anthracene”,Spectrochimica Acta,1991年,Vol.47A, No.3/4,pp.517-518
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 4/134
H01M 4/1395
H01M 4/1393
H01M 4/133
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/587
H01M 4/36
H01M 10/54
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)リチウムが挿入された陰極活物質または陰極活物質層が形成された陰極を準備する段階と、
(B)前記陰極活物質または陰極を、2-メチルテトラヒドロフラン及びアントラセンの混合物、または、2-メチルテトラヒドロフラン及び9-メチルアントラセンの混合物を含む脱リチウム化溶液に浸漬する段階と、を含み、
前記(A)段階は、
(A1)陰極活物質または陰極活物質層が形成された陰極を、環状または線形エーテル系溶媒とリチウムイオン及び芳香族炭化水素の複合体を含み、還元電位が0.25V未満の予備リチウム化溶液に浸漬する段階を含むことを特徴とする、陰極活物質または陰極の化成方法。
【請求項2】
前記陰極活物質は、シリコン、シリコン酸化物、シリコンと黒鉛との混合物、シリコン酸化物と黒鉛との混合物、またはシリコン酸化物とシリコンと黒鉛との混合物であることを特徴とする、請求項
1に記載の陰極活物質または陰極の化成方法。
【請求項3】
前記予備リチウム化溶液の前記芳香族炭化水素は、置換基を除いた炭素数が10~22の多環芳香族化合物であることを特徴とする、請求項
1に記載の陰極活物質または陰極の化成方法。
【請求項4】
前記予備リチウム化溶液の前記環状または線形エーテル系溶媒は、前記溶媒の酸素元素対炭素元素の比が0.25以下であることを特徴とする、請求項
1に記載の陰極活物質または陰極の化成方法。
【請求項5】
前記(A1)段階の浸漬は、-10~80℃の温度で0.01~1440分間遂行することを特徴とする、請求項
1に記載の陰極活物質または陰極の化成方法。
【請求項6】
前記(A1)段階で、前記予備リチウム化溶液に浸漬される前記陰極活物質及び前記予備リチウム化溶液内の前記複合体のモル比は1:0.1~1:20であることを特徴とする、請求項
1に記載の陰極活物質または陰極の化成方法。
【請求項7】
前記(B)段階の後、(C)前記(B)段階で得られたリチウムの抽出された陰極活物質または陰極をフッ素置換基を含む炭化水素が溶解した溶液に浸漬する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項
1に記載の陰極活物質または陰極の化成方法。
【請求項8】
前記フッ素置換基を含む炭化水素は、フルオロエチレンカーボネート(Fluoroethylene carbonate)、フルオロデカン(Fluorodecane)またはフルオロベンゼン(Fluorobenzene)であることを特徴とする、請求項
7に記載の陰極活物質または陰極の化成方法。
【請求項9】
前記(B)段階の浸漬は、-10~80℃の温度で遂行することを特徴とする、請求項
1に記載の陰極活物質または陰極の化成方法。
【請求項10】
前記(B)段階の浸漬は、0.01~1440分間遂行することを特徴とする、請求項
1に記載の陰極活物質または陰極の化成方法。
【請求項11】
廃電池から電極を分離する段階と、
前記分離された電極を
脱リチウム化溶液に浸漬する段階と、を含
み、
前記脱リチウム化溶液は、2-メチルテトラヒドロフラン及びアントラセンの混合物、または、2-メチルテトラヒドロフラン及び9-メチルアントラセンの混合物を含む、
廃電池のリチウムを回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱リチウム化溶液及びこれを用いた陰極活物質または陰極の化成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリーのエネルギー密度は、セルの電圧とセル容積(または質量)当たりの電気化学反応にて伝達されたLiイオンの数によって決定される。実際の電池では、最初のサイクルで陰極上に固体-電解質インターフェース(solid-electrolyte interphase、SEI)を形成する、電解質の非可逆的な電気化学的還元反応が発生する。これは、サイクリング以前に陽極に元々ロードされていた活性リチウムイオンを消費するので、バッテリー作動のクーロン効率を低める問題がある。このように減少した活性リチウムイオンによって次のサイクルでバッテリーの可用容量とエネルギー密度が大きく制限される。リチウムイオンバッテリーの陰極として商用される黒鉛は一般的に初期クーロン効率の約90%を示す反面、次世代高容量陰極材であるシリコンまたはシリコン酸化物(SiOx)は一般的に初期80%未満のクーロン効率を示しているので、商用化の障害物になっていることが実情である。
【0003】
商用化の側面で初期の高クーロン効率及びエネルギー密度の極大化を達成するために、バッテリーの組立以前に予備リチウム化(prelithiation)によって活性リチウムイオンの損失を余分のリチウムイオンで補償する試みが遂行されている。さまざまな予備リチウム化方法が提示された。これらには、電極の製造過程で固相のリチウム粒子またはリチウム化合物を犠牲リチウムソースとして添加する方法、リチウム金属を、製造された電極に物理的に接触させて予備リチウム化する方法、リチウム金属を陰極とする臨時セルを用意し、電気化学的に電極を予備リチウム化する方法などがある。最近には、本発明者らが線形または環状エーテルを含む還元性溶液を用いた予備リチウム化方法を提示し、シリコン系陰極に活性リチウムを挿入する化学反応によって初期効率を100%まで高めることができることを示した。
【0004】
予備リチウム化によってリチウムが挿入された陰極は、そのままで電池の組立に活用される場合、高い初期効率を示す。しかし、0.5V(vs Li/Li+)より低い陰極活物質の酸化/還元電位によって、乾燥大気に露出されるか電極スラリー製造のための溶媒と接触するとき、望まない副反応を引き起こすことから、電極の抵抗が高くなり、初期効率及び可逆容量が低下する限界があるので、依然として商用化の障害物となっている。
【0005】
したがって、本発明者らは予備リチウム化した高容量陰極活物質または陰極の脱リチウム化に対する研究を持続的に遂行した結果、環状または線形のエーテル系溶媒に芳香族炭化水素を溶解させて還元電位0.5V(vs Li/Li+)~2.5V(vs Li/Li+)の脱リチウム化溶液を製造し、これを用いて予備リチウム化した陰極活物質または陰極で化学的にリチウムを回収することにより、乾燥大気及び電極スラリー製造溶媒などに露出されても高い初期クーロン効率を有し、高エネルギー密度を示す商用化の可能なリチウム二次電池を製造することができ、前記陰極活物質または陰極を化成(formation)するできることを見つけて本発明を完成することになった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Holtstiege, F., Barmann, P., Nolle, R., Winter, M. & Placke, T. Pre-lithiation strategies for rechargeable energy storage technologies: Concepts, promises and challenges. Batteries 4,4 (2018).
【文献】Sun, Y. et al. High-capacity battery cathode prelithiation to offset initial lithium loss. Nat. Energy 1, 1-7 (2016).
【文献】Choi, J. et al. Weakly Solvating Solution Enables Chemical Prelithiation of Graphite-SiOx Anodes for High-Energy Li-Ion Batteries. J. Am. Chem. Soc 143, 9169-9176 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前述したような問題点を解決するために案出されたものであり、本発明の目的は、脱リチウム化溶液、これを用いて陰極活物質または陰極でリチウムを回収する方法及びこれによって陰極活物質または陰極を化学的に化成(formation)する化成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、環状または線形エーテル系溶媒と、芳香族炭化水素とを含み、還元電位が0.5V(vs Li/Li+)~2.5V(vs Li/Li+)であることを特徴とする脱リチウム化溶液を提供する。
【0009】
本発明の他の側面は、前記脱リチウム化溶液によって脱リチウム化した陰極活物質または陰極活物質層を含む陰極を提供する。
【0010】
本発明のさらに他の側面は、(A)リチウムが挿入された陰極活物質または陰極活物質層が形成された陰極を準備する段階と、(B)前記陰極活物質または陰極を、環状または線形エーテル系溶媒及び芳香族炭化水素を含み、還元電位が0.5V(vs Li/Li+)~2.5V(vs Li/Li+)である脱リチウム化溶液に浸漬する段階とを含む陰極活物質または陰極の化成方法を提供する。
【0011】
本発明のさらに他の側面は、前記陰極活物質または陰極の化成方法によって化成された陰極活物質または陰極を提供する。
【0012】
本発明のさらに他の側面は、前記化成された陰極活物質または陰極を含むリチウムイオン電池を提供する。
【0013】
本発明のさらに他の側面は、廃電池から電極を分離する段階と、前記分離された電極を前記脱リチウム化溶液に浸漬する段階とを含む廃電池のリチウムを回収する方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明による脱リチウム化溶液は、多量のリチウムを含んで初期効率は高いが、乾燥大気及びスラリー製造時の溶媒に対する安全性が落ちる高容量陰極活物質または陰極から高反応性の原因になるリチウムを溶液中で化学的に抽出することにより、安全性を向上させ、初期効率を高い状態に維持することができ、陰極活物質または陰極を化成することができる。また、前記脱リチウム化溶液は廃電池のリチウムを回収するのに用いることができる。
【0015】
また、本発明による陰極活物質または陰極の化成方法は、従来のリチウムイオン電池の製作後、一日乃至一週間以上の間に低電流密度で充電及び放電を繰り返えす化成サイクルなしにも優れた容量及び85%以上の理想的な初期効率を発現することができるので、従来の化成工程を代替して、リチウムイオン電池の生産後から納品までかかるコスト及び時間を大きく節減することができる。また、追加的な安定化工程を適用して製造した陰極は80%以上の初期クーロン効率を有し、乾燥大気及びリチウムイオン電池の電解質と接触しても優れた安全性を保有して大量生産に適用するのに適した利点を有する。
【0016】
また、本発明の陰極活物質または陰極の化成方法によって化成された陰極活物質または陰極は乾燥大気及び産業界で主に使用するスラリー製造溶媒に露出されても優れた安全性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例による陰極活物質または陰極の化成方法を概略的に示した模式図である。
【
図2】本発明の実施例1による電極の化成過程を示した写真イメージである。
【
図3】本発明の(a)製造例1の電極、(b)実施例1の化成された電極、(c)乾燥大気に露出された実施例1の化成された電極、(d)実施例2の化成及び安定化した電極、(e)乾燥大気に露出された実施例2の化成及び安定化した電極の電気化学曲線を示す図である。
【
図4】本発明の製造例1の予備リチウム化したシリコン酸化物電極、実施例1の化成された電極、実施例2の化成及び安定化した電極の乾燥大気に24時間露出された後の初期効率の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を添付図面及び実施例に基づいてより具体的に説明する。
【0019】
前述したように、予備リチウム化によってリチウムが挿入された陰極活物質または陰極は、0.5V(vs Li/Li+)より低い陰極活物質の酸化/還元電位によって、乾燥大気に露出されるか電極スラリー製造のための溶媒と接触したときに望まない副反応を引き起こすことから、電極の抵抗が高くなり、初期効率及び可逆容量が著しく減少した。また、予備リチウム化した活物質または電極は乾燥大気と激しく反応するので、工程性が減少し、爆発事故の可能性が高くなって商用化しにくいという限界があった。したがって、本発明はリチウムが挿入された陰極活物質または陰極から不安定性の原因になるリチウムを効果的に回収することができるので、乾燥大気に露出されるときまたは電極スラリー製造の際に安全性を向上させることができ、これにより陰極活物質または陰極を化学的に化成することができる脱リチウム化溶液を提供する。
【0020】
より具体的には、本発明の一側面は、環状または線形エーテル系溶媒と、芳香族炭化水素とを含み、還元電位が0.5V(vs Li/Li+)~2.5V(vs Li/Li+)であることを特徴とする脱リチウム化溶液を提供する。
【0021】
本発明の脱リチウム化溶液の還元電位は0.5V(vs Li/Li+)~2.5V(vs Li/Li+)であることを特徴とする。前記脱リチウム化溶液の還元電位が0.5V(vs Li/Li+)未満であれば、シリコン系陰極活物質または陰極の還元電位より低くて陰極活物質または陰極のリチウムを回収することができないことがあり、前記脱リチウム化溶液の還元電位が2.5V(vs Li/Li+)超過であれば、望まない副反応が発生して初期効率が減少することがある。よって、前記脱リチウム化溶液の還元電位が0.5V(vs Li/Li+)~2.5V(vs Li/Li+)であるとき、リチウム化した陰極活物質または陰極に挿入されたリチウムを効果的に抽出及び回収することができる。
【0022】
本発明の脱リチウム化溶液の溶媒は環状または線形エーテル系溶媒であることができる。
【0023】
前記環状エーテル系溶媒は、ジオキソラン、メチルジオキソラン、ジメチルジオキソラン、ビニルジオキソラン、メトキシジオキソラン、エチルメチルジオキソラン、オキサン、ジオキサン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジメチルテトラヒドロフラン、ジメトキシテトラヒドロフラン、エトキシテトラヒドロフラン、エチルテトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロピラン、ジメチルテトラヒドロピラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、ヘキサメチレンオキサイド、フラン、ジヒドロフラン、ジメトキシベンゼン及びジメチルオキセタンからなる群から選択される1種以上であることができる。
【0024】
前記線形エーテル系溶媒は、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、エチルテルトブチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジメトキシプロパン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールテルトブチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル及びトリエチレングリコールジビニルエーテルからなる群から選択される1種以上であることができる。
【0025】
前記芳香族炭化水素は、陰極活物質または陰極の脱リチウム化のために、前記陰極活物質または陰極の電気化学的電位より高い還元電位を有するものであることができる。また、前記芳香族炭化水素は置換または非置換のものであることができ、置換基を除いた炭素数が18以下の芳香族炭化水素であることができる。芳香族環の炭素数が18を超える芳香族炭化水素はエーテル系溶媒に対する溶解度が低くてリチウムと複合体を充分に形成することができないので、予備リチウム化した陰極活物質または陰極のリチウムを効果的に回収することができないので好ましくない。より具体的には、前記芳香族炭化水素は、置換または非置換のナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、アズレン、フルオランテン、ピレン、トリフェニレン、ビフェニル、テルフェニル及びスチルベンなどを使うことができ、置換または非置換のアントラセンをより好ましく使うことができる。
【0026】
特に、前記芳香族炭化水素がアントラセンであるとき、還元電位がリチウム金属に対して0.9V程度であり、シリコン系陰極活物質または陰極より著しく高い還元電位を示して、シリコン系陰極活物質または陰極に挿入されたリチウムを効果的に回収することができる十分な酸化力を有するという点でより好ましい。
【0027】
前記置換された芳香族炭化水素の置換基は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、及び炭素数1~6のハロゲン化アルキル基の中で選択された1種以上の置換基を含むものであることができ、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基を含むものであることができる。
【0028】
前記脱リチウム化溶液内の前記芳香族炭化水素の濃度は0.01~0.2M、好ましくは0.03~0.15M、より好ましくは0.05~0.13Mであることができる。前記脱リチウム化溶液内の前記芳香族炭化水素の濃度が0.01M未満であれば、陰極活物質または陰極に挿入されたリチウムを充分に回収することができないことがあり、反対に0.2Mを超えれば、前記芳香族炭化水素が沈殿して陰極活物質または陰極の表面に副産物を形成することがあるので好ましくない。
【0029】
また、本発明は、前記脱リチウム化溶液によって脱リチウム化した陰極活物質または陰極活物質層を含む陰極を提供する。
【0030】
前記陰極活物質は、シリコン、シリコン酸化物、シリコンと黒鉛との混合物、シリコン酸化物と黒鉛との混合物、またはシリコン酸化物とシリコンと黒鉛との混合物であることができる。
【0031】
リチウムイオン電池はリチウムイオンと電子が活性化するときに電気を帯びることができるので、使用に先立ち電池を活性化させる化成工程が必須である。従来の化成工程は一日乃至一週間以上の間に低電流密度で充電及び放電を繰り返えす電気化学的方法によって遂行した。しかし、従来の化成工程は、工程が複雑であり、コスト及びエネルギーが多くかかるという限界があった。したがって、本発明は脱リチウム化溶液を用いて陰極活物質または陰極を化成する方法を提供する。
【0032】
より具体的には、本発明は、(A)リチウムが挿入されている陰極活物質または陰極活物質層が形成された陰極を準備する段階と、(B)前記陰極活物質または陰極を、環状または線形エーテル系溶媒及び芳香族炭化水素を含み、還元電位0.5V(vs Li/Li+)~2.5V(vs Li/Li+)の脱リチウム化溶液に浸漬する段階とを含む陰極活物質または陰極の化成方法を提供する。
【0033】
本発明の陰極活物質または陰極の化成方法は、予備リチウム化してリチウムが挿入された陰極活物質または陰極活物質層が形成された陰極を脱リチウム化溶液に浸漬することによって陰極活物質または陰極を化成することができるので、工程が簡単であり、粉末状の陰極活物質にも適用可能である。また、従来の電気化学的化成方法に比べてエネルギー及びコストが著しく節減されるという利点がある。
【0034】
図1は本発明の一実施例による陰極活物質または陰極の化成方法を概略的に示した模式図である。同図を参照すると、本発明の脱リチウム化した陰極活物質または陰極の製造方法は、前記(C)段階以後、(D)前記(C)段階で得られたリチウムが抽出された陰極活物質または陰極を、フッ素置換基を含む炭化水素が溶解した溶液に浸漬する段階をさらに含むことができる。
【0035】
以下、本発明の陰極活物質または陰極の化成方法の各段階をより詳細に説明する。
【0036】
(A)リチウムが挿入されている陰極活物質または陰極活物質層が形成された陰極を準備する段階
前記(A)段階はリチウムが挿入されている陰極活物質または陰極を準備する段階であり、固相のリチウム粒子またはリチウム化合物を犠牲リチウムソースとして添加する方法、リチウム金属を製造された電極に物理的に接触させて予備リチウム化する方法、リチウム金属を陰極とする臨時セルを作って電気化学的に電極を予備リチウム化する方法のように従来の予備リチウム化方法を使うことができる。より好ましくは、後述する予備リチウム化溶液を用いて予備リチウム化した陰極活物質または陰極を準備するものであることができ、予備リチウム化溶液を使うとき、リチウムを陰極活物質に均一に挿入することができるのみならず、工程が簡単であり、リチウムイオン電池の大量生産工程に利用可能であるという利点がある。
【0037】
より具体的には、前記(A)段階は、(A1)陰極活物質または陰極活物質層が形成された陰極を、環状または線形エーテル系溶媒とリチウムイオン及び芳香族炭化水素の複合体を含み、還元電位0.25V未満の予備リチウム化溶液に浸漬する段階を含むものであることができる。
【0038】
前記予備リチウム化溶液はシリコン系陰極に比べて低い0.25V未満の還元電位を示すので、充分に高い還元力でシリコン系陰極活物質または陰極にリチウムを挿入させることができる。
【0039】
前記予備リチウム化溶液の前記芳香族炭化水素は置換または非置換のものであることができ、置換基を除いた炭素数が10~22の多環芳香族化合物であることができる。炭素数10未満の芳香族炭化水素は還元電位がLiより低いから、Liイオンと芳香族炭化水素誘導体の複合体の形成が不可能であり、炭素数が22を超える場合、酸化還元電位が高くて十分な還元力を有することができない問題があるので好ましくない。
【0040】
前記予備リチウム化溶液の前記芳香族炭化水素は、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、アズレン、フルオランテン、フェニルアントラセン、ペリレン、ピレン、トリフェニレン、ビフェニル、テルフェニル及びスチルベンからなる群から選択される1種以上であることができ、好ましくはナフタレン及びビフェニルの中で選択される1種以上であることができる。
【0041】
前記予備リチウム化溶液の前記芳香族炭化水素は、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~20のアリール、炭素数1~10のアルコキシ、及び炭素数1~6のハロゲン化アルキルの中で選択された1種以上の置換基を含むことができ、好ましくは炭素数1~4のアルキルを置換基として含むことができる。
【0042】
前記予備リチウム化溶液の前記芳香族炭化水素は下記化学式1及び化学式2のいずれか一つで表示される化合物からなる群から選択された1種以上であることができる。
【0043】
【0044】
前記化学式1で、R1及びR2は互いに同じか異なり、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~20のアリール、炭素数1~10のアルコキシまたは炭素数1~6のハロゲン化アルキルであり、a及びbは互いに独立的に0~5の整数であり、少なくとも一つは0ではなく、aが2以上の場合、2以上のR1は互いに同じか異なり、bが2以上の場合、2以上のR2は互いに同じか異なる。より好ましくは、前記化学式1で、R1及びR2は互いに同じか異なり、炭素数1~4のアルキルであり、a及びbは互いに独立的に0~2の整数であることができる。
【0045】
【0046】
前記化学式2で、R3及びR4は互いに同じか異なり、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~20のアリール、炭素数1~10のアルコキシまたは炭素数1~6のハロゲン化アルキルであり、c及びdは互いに独立的に0~5の整数であり、少なくとも一つは0ではなく、cが2以上の場合、2以上のR3は互いに同じか異なり、dが2以上の場合、2以上のR4は互いに同じか異なる。より好ましくは、前記化学式2で、R3及びR4は互いに同じか異なり、炭素数1~4のアルキルであり、c及びdは互いに独立的に0~2の整数であることができる。
【0047】
前記化学式1及び化学式2が前記条件を満たすとき、前記予備リチウム化溶液は電極表面に保護層を形成して電極の安全性を付与することができるという利点がある。また、前記化学式1及び化学式2がより好ましい条件を満たすとき、シリコン系陰極に比べて充分に低い還元電位を示し、シリコン系の陰極に効果的にリチウムを挿入して予備リチウム化することができるので、初期クーロン効率が著しく向上することができる。
【0048】
本発明の好適な具現例によれば、前記予備リチウム化溶液の前記芳香族炭化水素は、下記化学式1-1~1-3及び化学式2-1~2-3の中でいずれか一つの化学式で表示される化合物からなる群から選択される1種以上であることができる。
【0049】
【0050】
前記化学式1-1~1-3及び化学式2-1~2-3で表示される芳香族炭化水素を含む予備リチウム化溶液は0.2V以下の酸化還元電位を有するので、シリコン系陰極の化学的予備リチウム化のための十分な還元力を有するだけでなく、初期クーロン効率が100%を上回ることができた。すなわち、純粋SiOx陰極の非可逆的なリチウム損失を成功的に補償して充電容量と放電容量がほとんど同値を有する。
【0051】
前記予備リチウム化溶液の溶媒において、前述した脱リチウム化溶液に使われる溶媒と内容が同一である部分は詳細な内容を省略する。
【0052】
陰極活物質または陰極が黒鉛または黒鉛複合体の場合、前記予備リチウム化溶液の環状または線形エーテル系溶媒の酸素元素対炭素元素の比が0.25以下であることができる。前記環状または線形エーテル系溶媒の酸素元素対炭素元素の比が0.25を超えて溶媒化能力(solvation power)が高い環状または線形エーテル系溶媒を使う場合、黒鉛または黒鉛複合体などの高容量陰極の処理ができないという点で、その溶媒の酸素元素対炭素元素の比が0.25以下であること(O:C≦0.25)が好ましい。すなわち、大きなサイズの溶媒化リチウムイオンの共挿入(co-intercalation)反応によって黒鉛が剥離(exfoliation)する現象が発生するので、溶媒化リチウムイオンが黒鉛に共挿入されることを防止するとともに脱溶媒化(desolvated)リチウムイオンの挿入(doping)のみができるようにする技術が必要である。また、エーテル溶媒の酸素元素対炭素元素の比が0.25以下の場合、溶媒化力が弱くて還元電位が充分に低いので、置換基がない炭化水素を使っても十分な予備リチウム化が可能であるという利点がある。
【0053】
前記酸素元素対炭素元素の比が0.25以下の環状エーテル系溶媒としては、メチルジオキソラン、ジメチルジオキソラン、ビニルジオキソラン、エチルメチルジオキソラン、オキサン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジメチルテトラヒドロフラン、エトキシテトラヒドロフラン、エチルテトラヒドロフラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロピラン、ジメチルテトラヒドロピラン、ヘキサメチレンオキサイド、フラン、ジヒドロフラン、ジメトキシベンゼン及びジメチルオキセタンからなる群から選択される1種以上を使うことができ、メチルテトラヒドロフランまたはテトラヒドロピランをより好ましく使うことができる。
【0054】
また、酸素元素対炭素元素の比が0.25以下の線形エーテル系溶媒としては、エチレングリコールジブチルエーテル、メトキシプロパン、エチルプロピルエーテル、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル及びエチルターシャリーブチルエーテルからなる群から選択される1種以上を使うことができる。
【0055】
前記予備リチウム化溶液内の前記複合体の濃度は0.01~5M、好ましくは0.1~2M、より好ましくは0.2~1Mであることができる。
【0056】
前記(A1)段階の浸漬は、-10~80℃の温度、好ましくは10~50℃の温度で遂行することができる。-10~80℃の温度範囲で前記複合体の酸化還元電位は典型的に減少し、向上した還元力は初期クーロン効率を向上させることができる。前記(A1)段階の浸漬を-10℃未満の温度で遂行すれば、酸化還元電位が余りに高くなって予備リチウム化反応が起こらないことがあり、80℃超過の温度で遂行する場合、リチウム金属の沈殿が発生することがあるので好ましくない。
【0057】
前記(A1)段階の浸漬は、0.01~1440分、好ましくは1分~600分、より好ましくは5~240分間遂行することができる。浸漬の後5分まで、製造される陰極の初期クーロン効率が急激に増加し、30分を超えた時点から徐々に増加速度が減少し、120分を超えれば、初期クーロン効率はそれ以上向上せずに維持される傾向を示し、セルの開回路電圧(open circuit voltage、OCV)は初期クーロン効率とは反対の傾向を示す。よって、前記浸漬時間が0.01分未満の場合、予備リチウム化による陰極性能向上の効果を期待しにくく、1440分超過の場合、それ以上の初期クーロン効率の向上またはOCV減少などの効果を期待することができないので、適切な範囲で上限を決定する。
【0058】
前記(A1)段階で、前記予備リチウム化溶液に浸漬される前記陰極活物質及び前記予備リチウム化溶液内の前記複合体は1:0.1~1:20のモル比、好ましくは1:1~1:15のモル比、より好ましくは1:2~1:10のモル比を有することができる。前記陰極活物質及び複合体のモル比が1:0.1~1:20のとき、正常に予備リチウム化することができ、1:2~1:10のモル比で最も理想的な初期クーロン効率を達成することができた。
【0059】
前記(A1)段階はロールツーロール(roll-to-roll)工程で連続的に遂行することができる。より詳細には、前記ロールツーロール工程は、陰極を連続的に解すアンワインダーと、工程を終えた後に供給される陰極を連続的に巻き取るリワインダーとを含むロールツーロール設備によって遂行する。前記アンワインダー及びリワインダーは前記リチウムイオン電池用陰極に所定の張力を付与する。前記陰極は前記アンワインダー及びリワインダーによって連続的に供給され、供給された陰極は前記予備リチウム化溶液を収容する予備リチウム化溶液収容部を通過することにより、予備リチウム化溶液に浸漬されて予備リチウム化する。予備リチウム化溶液収容部を通過した陰極はリワインダーに巻き取られる。前記予備リチウム化溶液に浸漬される時間はロールツーロール工程の速度を調節するかロールの個数及び位置などを変更することによって調節することができる。前記予備リチウム化した陰極は洗浄のために追加的な溶液収容部を通過することができ、残留溶液の除去のために乾燥装置を通過することができる。本発明の製造方法に使われる予備リチウム化溶液は陰極の表面に保護層を形成して乾燥大気中でも長期間安全性を維持することができるので、大量生産可能なロールツーロール工程に適用することができる利点を有する。
【0060】
(B)前記陰極活物質または陰極を、環状または線形エーテル系溶媒及び芳香族炭化水素を含み、還元電位が0.5V(vs Li/Li+)~2.5V(vs Li/Li+)である脱リチウム化溶液に浸漬する段階
前記(B)段階の脱リチウム化溶液及び陰極活物質についての内容は上述した部分と同一であるので、その詳細な説明は省略する。
【0061】
前記(B)段階の浸漬は、-10~80℃の温度、好ましくは10~50℃の温度で遂行することができる。前記(B)段階の浸漬を-10℃未満の温度で遂行すれば、脱リチウム化反応が遅延して好ましくなく、80℃超過の温度で遂行する場合、エーテル溶媒が蒸発するので好ましくない。
【0062】
前記(B)段階の浸漬は、0.01~1440分、好ましくは1分~600分、より好ましくは5~240分間遂行することができる。前記浸漬の時間が、0.01分未満の場合、脱リチウム化によって安全性が向上し、乾燥大気に露出されるか電極スラリー製造のための溶媒と接触するとき、副反応が減少する効果を期待しにくい。前記浸漬の時間が、1440分超過の場合、それ以上の初期クーロン効率の向上またはOCV減少などの効果を期待することができないので適切な範囲で上限を決定する。
【0063】
前記(B)段階で前記脱リチウム化溶液に浸漬される前記陰極活物質及び前記脱リチウム化溶液内の前記芳香族炭化水素は1:0.1~1:100、好ましくは1:1~1:50、より好ましくは1:2~1:20、最も好ましくは1:4~1:10のモル比を有することができる。前記陰極活物質及び芳香族炭化水素のモル比が1:0.1~1:100のとき、正常に脱リチウム化することができ、1:4~1:10のモル比で最も理想的な乾燥大気に対する安全性を確保することができた。
【0064】
前記(B)段階はロールツーロール(roll-to-roll)工程によって連続的に遂行することができる。前述した(A1)段階のロールツーロール工程と同様に、前記陰極はアンワインダー及びリワインダーによって連続的に供給される。供給された陰極は前記脱リチウム化溶液を収容する脱リチウム化溶液収容部を通過しながら脱リチウム化溶液に浸漬されて脱リチウム化する。脱リチウム化溶液収容部を通過した陰極はリワインダーに巻き取られる。本発明の製造方法に使われる脱リチウム化溶液は高反応性の原因になるリチウムを抽出して乾燥大気中でも長期間安全性を維持することができるので、大量生産可能なロールツーロール工程に適用することができる利点を有する。
【0065】
(C)前記(B)段階で得られるリチウムが抽出された陰極活物質または陰極を、フッ素置換基を含む炭化水素が溶解した溶液に浸漬する段階
前記(C)段階は前記(B)段階で得られるリチウムが抽出及び回収された陰極活物質または陰極を安定化させる段階である。前記(C)段階は前記脱リチウム化した陰極活物質または陰極の初期クーロン効率を80%以上増加させ、乾燥大気及びリチウムイオン電池の電解質と接触しても優れた安全性を確保するので、大量生産に適用するのに適することができる。
【0066】
前記フッ素置換基を含む炭化水素は、フルオロエチレンカーボネート(Fluoroethylene carbonate)、フルオロデカン(Fluorodecane)またはフルオロベンゼン(Fluorobenzene)であることができる。
【0067】
また、本発明は前記陰極活物質または陰極の化成方法によって化成された陰極活物質または陰極を提供する。
【0068】
本発明の化成された陰極活物質または陰極は反応性が著しく低下し、乾燥大気に露出されるか電極スラリー製造の際に副反応と性能減少の現象が改善するので、リチウム二次電池大量生産工程に適用することができる。
【0069】
また、本発明は、前記化成された陰極活物質または陰極を含むリチウムイオン電池を提供する。
【0070】
また、本発明は、廃電池から電極を分離する段階と、前記分離された電極を前記脱リチウム化溶液に浸漬する段階とを含む廃電池のリチウムを回収する方法を提供する。
【0071】
使用が終わるか製造中に発生した不良品であるリチウムイオン電池(廃電池)は、資源節減及び環境保護のためにだけでなく、リチウムが不安定に存在しているという側面でも廃電池内のリチウムを回収することが必須である。本発明による廃電池リチウム回収方法は、脱リチウム化溶液のみを用いて簡単な工程で廃電池のリチウムを回収することができる。
【0072】
また、本発明は、リチウム金属を陰極として活用するリチウム金属電池または全固体電池の製造後に残ったリチウム金属粉末及び破片を安全に回収する方法を提供する。微細粉末状のリチウム金属は高反応性によって火災及び爆発事故の危険が高い。不安定なリチウム金属粉末及び破片を前記リチウム回収溶液で安定化させれば、爆発の危険がないリチウム-芳香族炭化水素複合体溶液形態のリチウムを回収することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示する。しかし、これらの実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれによって制限されなく、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で多様な変更及び修正が可能であるというのは当該分野で通常の知識を有する者に明らかであろう。
【0074】
[製造例1]
<シリコン酸化物電極>
シリコン酸化物を活物質として活用し、カーボンブラック、バインダーと7:1.8:1.2の重量比で蒸留水溶媒に遠心分離機(THINKY corporation、日本国)で混合して電極スラリーを製造した。前記スラリーを銅ホイル集電体にキャストした後、80℃で1時間乾燥し、ロール-プレスの後、直径11.3mm(面積1.003cm2)になるように切断し、120℃の真空オーブンで一晩乾燥させた。各電極にロードされた活物質の量は1.0±0.5mg/cm2になるようにした。
【0075】
<予備リチウム化したシリコン酸化物電極>
前記製造された電極を、0.5Mリチウム-ビフェニル(Li-BP)を2-MeTHFと混合して製造した予備リチウム化溶液(30℃)に30分間浸漬した後、2-MeTHFで洗浄し、リチウムを挿入することで、予備リチウム化したシリコン酸化物電極を製造した。ここで、前記活物質(シリコン酸化物)と予備リチウム化溶液のリチウム-ビフェニル(Li-BP)のモル比は1:8であった。
【0076】
[実施例1]
<脱リチウム化(リチウム回収)溶液の製造>
芳香族炭化水素であるアントラセン(ATC)0.08Mを2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)溶媒に溶解し、45℃の温度及びアルゴン雰囲気のグローブボックスで30分間撹拌することで、脱リチウム化溶液を製造した。
【0077】
<化成された(脱リチウム化した)電極の製造>
その後、前記脱リチウム化溶液に前記製造例1にて製造された予備リチウム化したシリコン酸化物電極を浸漬した後、2-MeTHF溶媒で洗浄して脱リチウム化溶液と電極との間の追加反応をクエンチング(quenching)することで、化成された電極を製造した。前記活物質(シリコン酸化物)と脱リチウム化溶液のアントラセン(ATC)のモル比は1:8であった。
【0078】
図2は本発明の実施例1の電極の化成過程を示した写真イメージである。
図2を参照すると、脱リチウム化溶液に予備リチウム化したシリコン酸化物電極を担持したとき、透明であった脱リチウム化溶液(ATC)が時間の経過につれて濃い青色Li-ATC溶液に変化することから、リチウムが抽出されたことが分かる。
【0079】
[実施例2]
<安定化溶液の製造>
50容積%のフルオロベンゼン(Fluorobenzene)をシクロヘキサン(Cyclohexane)溶媒に溶解し、30℃の温度及びアルゴン雰囲気のグローブボックスで30分間撹拌することで、安定化溶液を製造した。
【0080】
<化成及び安定化した電極の製造>
前記製造された安定化溶液に前記実施例1で製造された化成された電極を浸漬して表面を安定化させることによって乾燥大気との反応をクエンチング(quenching)することで、化成及び安定化した陰極を製造した。
【0081】
[実施例3]
脱リチウム化溶液を製造するための芳香族炭化水素として9-メチルアントラセン(9-MeATC)を使ったことを除き、前記実施例1と同様な方法で化成された電極を製造した。
【0082】
[実施例4]
0.5Mリチウム-ビフェニル(Li-BP)を2-MeTHFと混合して製造した予備リチウム化溶液にシリコン酸化物活物質粉末を30分間浸漬した後、2-MeTHFで洗浄してリチウムを挿入することで、予備リチウム化したシリコン酸化物活物質粉末を製造した。前記活物質(シリコン酸化物)と予備リチウム化溶液のリチウム-ビフェニル(Li-BP)のモル比は1:8であった。
【0083】
その後、前記実施例1と同様な方法で製造した脱リチウム化溶液に前記予備リチウム化したシリコン酸化物活物質粉末を浸漬し、30分間撹拌した後、フィルタリングしてリチウムを抽出することで、化成されたシリコン酸化物活物質粉末を製造した。
【0084】
[実施例5]
前記実施例4で製造された粉末を前記実施例2で製造された安定化溶液に浸漬して化成及び安定化したシリコン酸化物活物質粉末を製造した。
【0085】
[実施例6]
前記実施例5で製造された化成及び安定化した活物質粉末を伝導性炭素、高分子バインダーとともにテトラヒドロフラン(THF)溶媒に混合して製造したスラリーを銅ホイルにドクターブレードで広げて塗った後、THFが充分に蒸発するように80℃の真空オーブンで乾燥させることで、電極を製造した。
【0086】
[試験例1.電気化学的分析]
CR2032コインセルは、アルゴン雰囲気のグローブボックスでPP/PE/PPを分離膜とし、LiPF6を、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)(1:1v/v)に、LiPF6の濃度が1Mとなるように混合してなる混合物を、電解質として使用して製造した。前記製造例及び実施例で製造された電極を作動電極として活用して半電池実験を遂行した。半電池実験で、コインセルは、一定した電流でリチウムの還元電圧に比べて+30mVまで放電した後、電流密度が既存の電流密度の10%に減少するまで終端電圧から定電圧に追加放電し、1.2Vに充電した。初期の2サイクル及び後続のサイクルで電流密度はそれぞれ可逆容量に比べて0.2C、0.5Cを使った。その後、電気化学的分析はWBCS-3000バッテリーサイクラー(Wonatech Co.Ltd.,韓国)及びVMP3 potentio/galvanostat(Bio-logic Scientific Instruments、フランス)を用いて遂行し、すべての電気化学的分析は30℃の温度で遂行した。
【0087】
前記製造例1及び実施例1及び2で製造された電極の乾燥大気に露出後の性能変化を観察するために、露点が零下50℃以下のドライルームに24時間露出させ、前後の電気化学的性能を評価し、その結果を
図3及び
図4に示した。
【0088】
図3は本発明の(a)製造例1の電極、(b)実施例1の化成された電極、(c)乾燥大気に露出された実施例1の化成された電極、(d)実施例2の化成及び安定化した電極、(e)乾燥大気に露出された実施例2の化成及び安定化した電極の電気化学曲線を示す図である。
【0089】
図3を参照すると、従来の純粋シリコン酸化物電極(製造例1)は72%の初期効率を示す反面、前記実施例1の化成された電極と前記実施例2の化成及び安定化した電極の初期効率はそれぞれ88%及び82%であり、従来の純粋シリコン酸化物電極に比べて高い初期効率を示し、乾燥大気に一日間露出された後にも従来のシリコン酸化物電極より8%高い初期効率を示すことが分かる。これから、前記実施例1及び実施例2の電極は化学的な化成工程が成功的に遂行されたことが分かる。また、従来の純粋シリコン酸化物と同じ充電曲線形態を示すことから、シリコン酸化物の化学的化成過程で構造破壊が発生しなかったことが分かる。
【0090】
図4は本発明の製造例1の予備リチウム化したシリコン酸化物電極、実施例1の化成された電極、実施例2の化成及び安定化した電極の乾燥大気に24時間露出された後の初期効率の変化を示した図である。
図4を参照すると、予備リチウム化のみを遂行した製造例1のシリコン酸化物電極の場合には、乾燥大気に露出されて初期効率が約800%から520%程度に35%(280%p)急減する結果を示した。これは、予備リチウム化した電極が乾燥大気と激しく反応したことを意味する。一方、前記実施例1及び2で製造された電極は乾燥大気に露出されても初期効率の相対的な変化幅が小さかった。これから、予備リチウム化のみを遂行した電極は大量生産過程で工程性を低下させ、爆発事故などの災害発生の可能性を有することができるが、本発明による脱リチウム化溶液によって化成された電極は乾燥大気との反応性が急激に低減して爆発危険性が全然ないので、バッテリー生産過程での工程性が大きく向上したことが分かる。