(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】脳および脊髄に局所冷却を提供するシステム
(51)【国際特許分類】
A61F 7/12 20060101AFI20240826BHJP
A61F 7/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
A61F7/12 Z
A61F7/00 331H
(21)【出願番号】P 2022169294
(22)【出願日】2022-10-21
(62)【分割の表示】P 2020126183の分割
【原出願日】2016-10-06
【審査請求日】2022-11-21
(32)【優先日】2015-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514049601
【氏名又は名称】ミネトロニクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ベイス、アビー
(72)【発明者】
【氏名】エバンス、ドン ダブリュ.イー.
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0046547(US,A1)
【文献】特表2014-529315(JP,A)
【文献】特開平09-253194(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0130651(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/00-7/12
A61B 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置部位の局所冷却を提供するためのシステムであって、前記システムは、
CSF(脳脊髄液)含有空間を含む前記処置部位にアクセスするように構成されたカテーテルであって、前記CSF含有空間から所定量のCSFを採取するように構成された第1のポートもしくは第1の複数のポートと、処置されたCSFを前記CSF含有空間に返還するように構成された第2のポートもしくは第2の複数のポートとを含むカテーテルと、
前記カテーテル上に位置した複数の温度センサーと、
前記カテーテルに結合され、前記処置部位と前記第1のポートもしくは前記第1の複数のポートおよび前記第2のポートもしくは前記第2の複数のポートを介して流体連通するポートを含む処置ユニットと、
前記処置部位と前記処置ユニットとの間で前記CSFの流れを誘発するように構成されたポンプであって、少なくともCSFの流量とCSFの圧力を変更可能な動作パラメータによって制御されるポンプと、
を備え、
前記ポンプは、
前記CSF含有空間から前記カテーテルの第1のポートもしくは第1の複数のポートを経由して前記処置ユニット内に所定量のCSFを採取するように構成され、かつ、
前記処置ユニットから前記カテーテルの前記第2のポートもしくは第2の複数のポートを経由して前記処置部位に冷却されたCSFの少なくとも一部を返還するように構成され、
前記処置ユニットは、前記CSF含有空間から受けた所定量のCSFを冷却するように構成された温度制御ユニットを含み、かつ、
前記処置ユニットは、
前記カテーテル上に位置した前記複数の温度センサーの出力に基づいて、冷却の速度を冷却の目標速度と比較し、前記冷却の速度が前記冷却の目標速度と異なる場合には、冷却の速度を変更するために前記ポンプの前記動作パラメータを更新するように構成され
、
前記カテーテルはCSFを冷却または加熱するための伝熱流体を循環させるための管腔を含み、かつ、前記処置ユニットは、前記冷却の速度が前記冷却の目標速度とは異なる場合に、前記伝熱流体の種類を変更するように構成される、
システム。
【請求項2】
前記カテーテルはCSFを冷却または加熱するための伝熱流体を循環させるための管腔を含み、かつ、前記処置ユニットは、前記冷却の速度が前記冷却の目標速度とは異なる場合に、前記伝熱流体の温度を変更するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記処置ユニットは、前記冷却の速度が前記冷却の目標速度とは異なる場合に、前記ポンプを介してCSFの流量を変更するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記カテーテルは、多管腔カテーテルである、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
第1の量のCSFが、前記第1のポートもしくは前記第1の複数のポートを通って前記多管腔カテーテルに入るように構成される、請求項
4に記載のシステム。
【請求項6】
前記処置ユニットのポートと前記第1のポートもしくは第1の複数のポートとを連通する部分を有するチューブをさらに備え、
前記第1の量のCSFが、前記チューブを介して通るように構成される、請求項
5に記載のシステム。
【請求項7】
前記チューブは、処置ユニットのポートと前記第2のポートもしくは第2の複数のポートとを連通する部分を有し、
第2の量のCSFが、前記チューブから通って、前記第2のポートもしくは前記第2の複数のポートを通って前記多管腔カテーテルから出るように構成される、請求項
6に記載のシステム。
【請求項8】
前記処置ユニットは、前記所定量のCSFを濾過するように構成されたフィルタを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記処置ユニットは、処置の前、処置の後、または処置の最中の少なくともいずれか一つにおいて前記CSF含有空間から採取されたCSFの特性に関する情報を受信または生成し得るセンサーを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記センサーは、前記処置ユニットの内部に配置される、請求項
9に記載のシステム。
【請求項11】
前記センサーは、前記処置ユニットの外側に配置される、請求項
9に記載のシステム。
【請求項12】
前記センサーは、前記CSFの温度と、前記CSFの圧力と、前記処置部位への前記CSFの流体流量と、前記処置部位からの前記CSFの流体流量と、前記CSFの他の測定項目とのうち、少なくともいずれか1つ以上の組み合わせを感知するように構成される、請求項
9に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、脳および脊髄に局所冷却を提供するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
神経集中処置(neurocritical care)における炎症の管理は多くの場合に望ましい。脊髄損傷、外傷性脳損傷、頭部外傷、脳虚血、発作、発熱、胸腹部大動脈瘤(thoraco-abdominal aortic aneurysms:TAAA)、水頭症、脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)の漏出、動脈瘤性クモ膜下出血などを含む、冷却が有効であり得る適応症が数多く存在する。
【0003】
発熱は重症神経疾患患者の20~50%に生じ、神経学的転帰に悪影響を与えることがある。具体的には、発熱は虚血性脳卒中および脳内出血の患者の最高で40%に、また重篤な外傷性脳損傷または動脈瘤性クモ膜下出血を有する患者の40~70%に生じる。発熱は虚血性および出血性脳卒中後の罹病率および死亡率の増大に独立して関係する。クモ膜下出血および外傷性脳損傷の患者において、体温上昇は頭蓋内圧亢進と関連づけられている。
【0004】
脊髄損傷に関して、有意な損傷は外傷性脊髄損傷の機構に起因するが、続く二次的損傷は多くの場合さらに危険である。二次的損傷は、損傷後の初めの12~24時間以内に生じ、損傷の重症度によって5~10日まで続く可能性がある。二次的損傷は、損傷部位における細胞炎症反応の開始、フリーラジカルの放出の増大などの、身体の恒常性を混乱させる生理学的障害を引き起こす。フリーラジカル過多は、組織虚血、脳浮腫、および脊椎-血液関門(spine-blood barrier)の破壊の一因となる。治療薬としての低体温法(hypothermia)の使用は、二次的損傷からの神経保護を提供するのに有効であることが示されている。研究により、低体温法の利点としては、酸素消費量、フリーラジカルの生成、神経伝達物質の放出、炎症および代謝要求の低下が挙げられることが示されている。1~2℃の体温低下でさえ細胞レベルで有益であり得る。
【0005】
疾患啓発および診断法が向上し続けているため、胸部および胸腹部大動脈瘤(TAAAおよび解離)の有病率は増大しており、年間100,000人当たり最高16.3人が罹患している。対麻痺は依然として胸腹部大動脈手術の中で最も深刻な合併症の1つであり、罹病率および死亡率の双方の有意な増大に関係している。大動脈閉塞中に中心高血圧を制御するために用いられる薬理学的処置法および機械的処置法の双方は、CSF動力学および脊髄潅流圧に作用する。腰椎ドレナージは10年以上にわたってTAAA患者に成功裡に用いられてきたが、標準処置としてのTAAAへの腰椎ドレナージの導入は発展が遅かった。実際、腰椎ドレナージは、対麻痺の割合を30%から10~15%に引き下げており、また低侵襲性TEVAR術の発展は、上記割合が現在控えめに見積もって約5~7%であることを意味している。これは、依然として毎年約15,500人が死亡するか、または永続的な衰弱および障害を経験することを意味する。TAAA修復中に脊髄を保護するための2つの主なアプローチとしては、脊髄灌流を最大にすること、および全身低体温を誘発することが挙げられる。局所冷却(Regional hypothermia)は副作用がより少ない場合があるが、硬膜外冷却はCSF圧の急な増大を引き起こし、脊髄灌流を弱める可能性がある。
【0006】
外傷性脳損傷は世界的に死亡および重篤な障害の主な原因である。米国単独で、毎年170万人が外傷性脳損傷を受けている。約52,000人が死亡し、約80,000人が永続的に障害を有したままとなる。低体温法は、頭蓋内圧を低下させるため、および二次的な虚血性神経損傷に対して保護するための有効な介入であり得る。全身低体温法は、その処置効果にもかかわらず、冷却の深さ、凝固不全、震え、不整脈、並びに感染症に対する感受性の増大および電解質平衡異常を伴う免疫抑制を含む、その広範な使用を制限してきた多くの潜在的な副作用に関連する。更に、外傷性脳損傷に続いて、様々な炎症性サイトカイン(例えばIL-1、IL-6およびTNF)は神経炎症を悪化させ、二次的脳損傷の一因となり、長期転帰を悪化させることが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在の冷却方法としては、患者における全身低体温の誘発、冷却ヘルメットの使用、患者の血液の冷却、およびCSF腔内における閉ループを介した冷却液の循環が挙げられる。全身低体温法の典型的な範囲は32℃~34℃を含む。低体温法がその利点にもかかわらず、臨床的に実施することが困難であるのにはいくつかの理由がある。現在の低体温法は、重篤な有害事象、例えば不整脈、感染症、敗血症、凝固障害、電解質異常、軽度のアシドーシス、乳酸濃度/アミラーゼ濃度の上昇、過剰な局所冷却または壊死、皮膚の問題および他の問題などを引き起こす可能性がある。従って、当該分野において、現在の方法の危険性を有しない冷却を提供する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特定の実施形態は、処置部位の付近に多管腔カテーテル(すなわち2つ以上の管腔を有するカテーテル)を留置することにより、ヒトまたは動物対象の処置部位で局所冷却(focal cooling)を提供し得るシステムに関する。CSFはカテーテルの流入管腔を介して処置部位付近から採取され得る。採取されたCSFは冷却され、次にカテーテルの流出管腔を介して返還され得る。処置部位の特性はセンサーを用いて測定され、次に処置目標に対して比較され得る。次に、その比較は処置パラメータを修正するために用いられ得る。
【0009】
特定の実施形態は処置部位の付近に多管腔カテーテルを留置することにより、ヒトまたは動物対象の処置部位で局所冷却を提供し得るシステムである。CSFはカテーテルの流入管腔を介して処置部位付近から採取または流出され得る。伝熱流体はカテーテルの冷却管腔を通って循環され得る。処置部位の特性はセンサーによって測定され得る。測定された特性は、処置目標と比較され、処置パラメータを修正するために用いられ得る。
【0010】
特定の実施形態は、処置部位を第1処置目標に到達するまで冷却し、処置部位の温度を第2処置目標に到達するまで維持し、処置部位が第3処置目標に到達することを可能にすることにより、対象の処置部位で局所冷却を提供し得るシステムである。本願において「温度」への言及は、必要に応じて所望の温度範囲を指すものと理解される。第1処置目標は第1温度および第1期間を含み得る。第2処置目標は第1温度および第2期間を含み得る。第3処置目標は、第3期間、および第1温度より高い第2温度を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】生物流体を処置するシステムまたは特定の実施形態に従ったシステムを示す図。
【
図2】特定の実施形態に従った処置ユニットのブロック図。
【
図3】生物流体を処置するためのマルチカテーテルシステムまたは本発明の他の実施形態に従ったシステムを示す図。
【
図4】脊椎の一部を処置するシステムの実施形態を示す図。
【
図5】脳室を処置するシステムの実施形態を示す図。
【
図9】スタイレットを含むカテーテルの実施形態を示す図。
【
図10】スタイレットが除去された、
図9のカテーテルの実施形態を示す図。
【
図11】冷却バルーンを有するカテーテルの実施形態を示す図。
【
図12】冷却バルーンを有するカテーテルの別の実施形態を示す図。
【
図13】冷却バルーンを有するカテーテルの別の実施形態を示す図。
【
図14】複数の冷却バルーンを有するカテーテルの実施形態を示す図。
【
図18】CSFを冷却するための目標処置パターンの実施形態を示す図。
【
図19】CSFを採取し、処置し、脊椎の一部に返還する方法およびシステムの実施形態を示す図。
【
図20】本発明の一実施形態の、第1および第2の複数のポートを含むカテーテルの一部を示す図。
【
図21】本発明の一実施形態のカテーテルの断面図。
【
図22】CSFを採取し、処置し、脳室に返還する方法およびシステムの実施形態を示す図。
【
図23】本発明の一実施形態の、第1および第2の複数のポートを含むカテーテルの一部を示す図。
【
図24】本発明の一実施形態のカテーテルの断面図。
【
図25】CSFをろ過し、脊椎の一部を冷却する方法およびシステムの実施形態を示す図。
【
図26】本発明の一実施形態の、第1および第2の複数のポートを含むカテーテルの一部を示す図。
【
図27】本発明の一実施形態のカテーテルの断面図。
【
図28】CSFをろ過し、脳室を冷却する方法およびシステムの実施形態を示す図。
【
図29】本発明の一実施形態の、第1および第2の複数のポートを含むカテーテルの一部を示す図。
【
図30】本発明の一実施形態のカテーテルの断面図。
【
図31】脊椎の一部からCSFを流出させて脊椎の一部を冷却する方法およびシステムを示す図。
【
図32】本発明の一実施形態の、第1および第2の複数のポートを含むカテーテルの一部を示す図。
【
図33】本発明の一実施形態のカテーテルの断面図。
【
図34】脳室からCSFを流出させて、脳室を冷却するシステムおよび方法の実施形態を示す図。
【
図35】本発明の一実施形態のカテーテルの一部を示す図。
【
図36】本発明の一実施形態のカテーテルの断面図。
【
図37】本発明の1つ以上の実施形態において用いられ得るユーザインタフェースの例を示す図。
【
図38】ウシ対象におけるCSF冷却の検討中に測定された脳実質温度を示す図。
【
図39】第1カテーテル設計について、経時的に、かつ様々なCSF流量に対してカテーテル内において測定された流入圧力および流出圧力を示す図。
【
図40】第2カテーテル設計について、経時的に、かつ様々なCSF流量に対してカテーテル内において測定された流入圧力および流出圧力を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
開示される実施形態は、概してヒトまたは動物対象の脳および脊髄の局所冷却のためのシステムおよび方法に関係するが、応用はこれらの領域の局所冷却を越えて、他の解剖学的位置および他の温度の修正(例えば正常体温または局所加温(focal warming))に拡大されてもよい。いくつかの実施形態は、選択的な脊髄の冷却、圧力の監視、および自動ドレナージを含み得る。そのような実施形態は、多管腔カテーテル、ドレナージ回収貯蔵バッグ、流体を循環させるポンプ、センサーハードウェアおよび制御装置を備え得る。実施形態は、治療的低体温および復温を調節するために、冷却するための循環流体の流れを調節し得る。実施形態は、自動ドレナージの結果としてワークフローを向上するとともに、局所的な低体温による神経保護(hypothermic neuroprotection)を可能にし、冷却のストレスを制限し、二次的な神経損傷を最小限にし、かつ神経保護を行い得る。
【0013】
開示される局所冷却法は、全身低体温法を含む現状技術に対して安全な範囲よりも低い、約30℃または25℃への冷却を可能にし得る。加えて、局所脊椎冷却は、全体の有益な定値制御の効果(setpoint control effect)を有する一連の神経保護反応をトリガし得る。従って、本願で開示される局部的な冷却技術(focalized cooling techniques)は従来の全身低体温法よりさらに神経を保護し得る。正常な内部ヒト体温(約37℃)より6℃低い冷却は、患者に恩恵をもたらし、代謝速度の約50%低下に相当し得る。
【0014】
別の利点は、開示されるシステムおよび方法が迅速な冷却および迅速な復温を可能にすることである。炎症および温度制御は脳で生じ、よって血液における間接的な冷却に対する体温調節中枢に焦点を当てることによって患者の転帰を改善する。
【0015】
開示される実施形態はまた、神経集中処置において炎症を最小限にするために用いられてもよい。具体的には、ドレナージおよびCSFの冷却と組み合わせたサイトカインのろ過は、複数の病態において転帰を向上する強力で迅速な処置を提供し得る。サイトトックス負荷(cytotox load)を約50%低下させ、かつ脳を約25℃~30℃に冷却することは、前述の適応症の重篤な症状において高度に有益であり得る。
【0016】
特定の実施形態において、CSFは脊椎から採取され、冷却され、返還される。特定の実施形態は、1箇所以上の位置において対象に挿入された1本以上の単一管腔カテーテル、二管腔カテーテル、ドレナージ管腔を有する三管腔カテーテル、または他のカテーテル形態のような、任意の適当な数の管腔を有するカテーテルを用いて冷却を提供し得る。特定の実施形態は、フィードバック制御系を用いて、CSFが採取され、温度が制御されるように、一度設定したら忘れてよい構成(set-it-and-forget-it configuration)で構成され得る。特定の実施形態は、伝熱流体を循環させるための管腔を有する腰椎ドレーンの形態をとってもよい。
【0017】
特定の実施形態において、カテーテルは脳室内において使用するために構成され得る。加えて、冷却および吸引が可能な脳室冷却カテーテルは、クモ膜下出血、発熱制御、発作制御、脳内出血の排出、外傷性脳損傷の回復および他の処置において恩恵をもたらし得る。脳室カテーテルは、迅速で、均一で、かつ目標を絞った冷却を可能にし得る。脳室で用いるためのカテーテルの実施形態は、脊椎において用いられるカテーテルと類似していてもよいし、または同一であってもよい。
【0018】
特定の実施形態は、身体による脳および脊髄の自然な加温を考慮し、それに打ち勝つように構成され得る。身体は、典型的には、1日当たり約400~500mLのCSFを生成する。本システムは、毎時約120mLのCSFのような、1時間あたりに任意の適当な量のCSFを処置するように構成され得る。本システムは毎時約840mLを処置するように構成されてもよい。温かい血液(約37℃)は1時間当たり約800mLの割合で脳に到達し得る。CSFの処置流量はその割合に合致するように構成され得る。特定の実施形態では、CSFの流量はその割合を越えるように構成されてもよい。例えば、毎時900~1800mLの流量が用いられてもよい。
【0019】
実施形態は、重力に基づいた手動ドレナージシステムと比較して、自動化の結果として、集中処置室および手術室において有意にコストを削減するワークフローを提供し得る。いくつかの実施形態によって提供される閉ループ感知および制御の結果として、頭蓋内圧は、神経保護状態を監視および維持するために、センサーを用いて制御され得る。軽度、中程度および深い局所的低体温を最長24時間以上にわたって維持および調節する冷却アルゴリズムが用いられ得る。
【0020】
一般システム
図1は、対象101、処置部位102、チューブ104、処置ユニット106およびポート108を含む生物流体または生物系を処置するシステム100の実施形態を示す。
【0021】
対象101は処置を受けるヒトまたは動物対象であり得る。対象は処置部位102を有し得る。処置部位102は、処置がそこで、またはそこに施される位置であり得る。しかしながら処置部位102は処置の最終的な目標であってもよいが、必ずしもそうでなくてもよい。例えば、特定の処置において、目標組織は脳組織であり得るが、目標組織は脊椎領域内に導入されたCSFを冷却することにより間接的に処置されてもよい。別例として、脳組織が処置目標であり、対象101の脳室内の脳組織に対する冷却バルーンの適用によって処置されてもよい。特定の実施形態において、処置部位102はCSF含有空間であり得る。処置部位102は、流体の供給源、流体(例えばCSF)の目的地、またはそれらの双方であり得る。例えば、システム100は、処置部位102から一定量の流体を取り出すか、または受容し、冷却、ろ過および/または他の処置を実施し、処理され、かつ/または処置された流体の一部を処置部位102へ返還し得る。
【0022】
システム100と処置部位102との間の接続は様々な方法でなされ得る。例えば、システム100からの処置部位102との接続は、特定の解剖学的位置に挿入された1本以上のカテーテルを介してなされてもよい。例えば、カテーテルは、解剖学的位置にアクセスするために対象の単一の開口を介して挿入された多管腔カテーテルであってもよいし、または異なるが接続された解剖学的位置に挿入された2本のカテーテルであってもよい。
【0023】
システム100の様々な構成要素はチューブ104を介して接続され得る。例えば、特定の実施形態において、処置部位102をポート108と流体接続させる一定長のチューブ104があってもよい。チューブ104は、流体を輸送または収容するために適当な任意の材料または系とすることができる。システム100の接続は直結しているように示されているが、該接続はそうである必要はない。システム100の様々な部分は、接続および様々なチューブ104の組み合わせによって接続されてもよい。特定の実施形態において、チューブ104およびシステム100の他の部分はプライミング流体(例えば生理食塩水)で充填されてもよい。チューブ104の長さが長い程、相応してより大量のプライミング流体を含み得るが、特定の実施において、プライミング流体の量が多い程、CSFのような「天然」流体の望ましくない量の希釈を生じることがある。従って、特定の実施において、チューブ104は、システムを依然として実用上有用なもの(例えばシステム100を対象のベッドサイドで用いることができるようにするために十分なチューブ)にすると同時に、必要とされるプライミング流体の量を最小限にするために選択され得る。対象および処置部位102によって、流体の除去または希釈に対する耐性は変化することがあり、それに応じてシステム100は規模を拡縮され(scaled)てもよい。例えば、システム100のパラメータは、マウスからヒトまたはより大型の哺乳動物に及ぶ対象に適合するように規模を拡縮するために変更されてもよい。
【0024】
特定の実施形態において、チューブ104は、流体がチューブ104を通って移動する際に流体(例えば伝熱流体および/またはCSF)の加温を低減するために断熱され得る。特定の実施形態において、処置ユニット106の温度制御ユニット110を用いることに加えて、またはその代わりに、前記チューブは流体を冷却するために氷浴または他の冷却源内に配置されてもよい。特定の実施形態において、チューブ104はチューブ104を取り囲むジャケットを備えてもよい。ジャケットはチューブを通過する流体の温度変化を制限するために断熱され得る。ジャケットはまた、流体の温度を修正するように構成されてもよい。例えば、ジャケットは、チューブおよびその内部に流れる流体の温度を修正するために加温された液体または冷却された液体が内部に流れ得るコイルを備えてもよい。
【0025】
処置ユニット106は、ポート108を介して受容された流体を冷却または他の場合には処置するように構成された装置または装置の組み合わせであり得る。処置ユニット106は、本願における開示に従ってさらに構成されてもよい(例えば
図2を参照されたい)。
【0026】
ポート108は、流体がそれを通って処置ユニット106に対して進入および退出するポートであり得る。ポート108は、物質または流体がそれを通って流れ得るいかなる種類のポートであってもよい。ポート108は、チューブ104を用いて、処置部位102と流体が流れるように接続(以下「流体接続」と記載する)するように構成され得る。ポート108は、フレアレス管継手(compression fittings)、フレア管継手(flare fittings)、食い込み継手(bite fittings)、クイック接続継手(quick connection fittings)、ルアー型継手、ねじ継手、および2つ以上の構成要素間における流体接続または他の接続を可能にするように構成された他の構成要素を含むが、これらに限定されない、接続を容易にするための様々な取付具を備えてもよい。取付具に加えて、ポート108はまた、様々な弁、流れ調節器、アダプタ、変換器、ストップコック、レジューサ、および他の要素を含むが、これらに限定されない、システム100の使用を容易にするための様々な要素を備えてもよい。特定の実施形態において、2つ以上のポート108が存在してもよい。この構成は、処置ユニット106を有する様々なシステムの使用を容易にし得る。
【0027】
図2は、特定の実施形態に従った処置ユニット106のブロック図を示しており、実線の接続は流体および物質に対する流体の流れの接続の例を示しており、破線の接続は信号および情報の流れに対する信号の接続を示している。処置ユニット106は、ポート108、温度制御ユニット110、フィルタ112、センサー114、ポンプ116、処理ユニット118、およびインタフェース120を備え得る。
【0028】
温度制御ユニット110は、流体を冷却する(または必要に応じて対象の所望温度に到達するために流体を加熱する)ように構成されたユニットであり得る。流体および所望の結果によって、蒸気圧縮、熱電冷却、ラジエータ、他の技術またはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない様々な技術が用いられ得る。特定の実施形態において、上記流体は対象101から取り出され、後に対象101に返還されるCSFまたは他の液体である。他の実施形態において、上記流体は流体または処置部位を冷却するために循環され得る伝熱流体である。特定の実施形態は、生物流体および伝熱流体の双方に冷却を提供するように構成され得る。
【0029】
フィルタ112は、物質および/または流体の第2部分から物質および/または流体の第1部分を分離するための装置であり得る。フィルタ112の設計および種類は、流体の種類および所望のろ過結果によって変化してもよい。異なる種類のろ過を得るために、様々な種類または組み合わせのフィルタが用いられ得る。例えば、それらのフィルタとしては、限外濾過、精密ろ過、粗ろ過、および様々な空隙率を有する他のサイズのフィルタのような、様々な細孔サイズおよび異なる属性のフィルタが挙げられ得る。フィルタの組み合わせとしては、デッドエンドろ過、深層ろ過、タンジェンシャルフローフィルトレーション(tangential flow filtration)、親和性ろ過、遠心ろ過、吸引ろ過、および/またはそれらの組み合わせが挙げられ得る。実施形態において、フィルタはサイトカインをろ過するように構成され得る。あらゆる目的のために参照により本願に援用される米国特許第8,435,204号を参照されたい。ろ過され得るサイトカインおよび他のタンパク質の例としては、EGF、エオタキシン、e-セレクチン、fasリガンド、FGF2、Flt3リガンド、フラクタルカイン、G-CSF、GM-CSF、GRO、ICAM、IFNa2、IFNg、IL10、IL12p40、IL12p70、IL13、IL15、IL17、IL1a、IL1b、IL1ra、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IL9、インテグリン、IP10、L-セレクチン、MCP1、MCP3、MDC、MIP1a、MIP1b、PDGF-AA、PDGF-AAAB、P-セレクチン、RANTES、sCD40L、sIL2R、TGFa、TNF、TNFb、VCAM、VEGF他が挙げられるが、これらに限定される必要がある場合もある。いくつかの実施形態において、フィルタは、ほとんどのサイトカインが属する約10~約50kDaの範囲にあるサイトカインを捕捉し、吸収するように構成されてもよい。
【0030】
センサー114は、情報を生成および/または受信するための装置であり得る。特定の実施形態において、センサー114は、処置の前、後および/または最中に処置部位102から採取された流体の特性に関する情報を受信または生成し得る。そのような特性としては、例えば、温度、圧力、処置部位102への流体流量、処置部位102からの流体流量、流体中の汚染物質の量、流体中の汚染物質の種類、流体の他の測定値、および/またはそれらの組み合わせが挙げられ得る。センサー114は、温度制御ユニット110の状態、温度制御ユニット110の効率評定(efficiency rating)、フィルタ112の状態、フィルタ112の効率評定、ポンプ116の状態、ポンプ116の効率評定、およびシステム内における障害物の徴候のような、システム100の構成要素に関する情報を生成または受信するように構成され得る。センサー114は処置ユニット106内に示されているが、1つ以上のセンサー114はシステム100のどこか他のところに位置してもよいし、かつ/または他の場所と協働してもよい。例えば、センサー114は、対象101から読み取り値を取得するように構成されたセンサーを含んでいてもよい。センサー114は、そのデータを処理および検討のためにコンピュータ可読および/またはヒト可読表現に変換し得る。システム100内において単一のセンサーが示されているが、単一のセンサーとしてのみ存在する必要はないことが理解されるであろう。システム全体にわたって1つ以上の読み取り値を取得するために、任意の適当な数のセンサーが用いられてもよい。
【0031】
いくつかの実施形態において、センサー114は毎時約0~約1200ミリリットルの流量、約100~約125立方センチメートルの量、および約0~約20mmHgの圧力における使用のために選択されるか、または最適化され得る。これらの測定範囲は、本システム内において、例えばCSFまたは熱交換流体の流量、量および圧力において見られ得る。いくつかの実施形態において、流量センサーは毎時約0~約2400ミリリットルの範囲内において正確であってもよく、圧力センサーは約-50mmHg~約300mmHgの有効動作範囲を有してもよい。いくつかの実施形態において、センサー114は、約20msの応答時間を有してもよい。いくつかの実施形態において、センサー114は、約4℃~約70℃で+/-0.5℃の精度を有するように構成された温度センサーであってもよい。適当なセンサーとしては、スイスのセンシリオン(SENSIRION)によって提供される流量センサー、ユタ州ミッドヴェールのユタ メディカル(UTAH MEDICAL)による圧力センサー、およびウィスコンシン州マディソンのサイログ(SCILOG)による温度センサーが挙げられ得る。
【0032】
ポンプ116は、処置ユニット106の1つ以上の部分を通る流体の流れを誘発するための任意の装置であり得る。特定の実施形態において、ポンプ116は蠕動ポンプであってもよく、そのような蠕動ポンプは複雑なポンプ部品の滅菌の必要性を低減し得る。しかしながら、他の種類のポンプを用いてもよい。ポンプ116の作動は、ポンプ116の動作パラメータの修正により制御され得る。これは、ポンプ116の流量、圧力、および/または他のパラメータが変更されることを可能にし得る。ポンプ116はまた、処置部位102から流体を採取するため、および/または流体を処置部位102へ返還するために用いられ得る。多管腔カテーテルを有する特定の実施形態では、1つの管腔につき1つのポンプが存在してもよい。
【0033】
処理ユニット118は、例えば温度制御ユニット110、フィルタ112、センサー114、および/またはポンプ116へ信号を送信することによって、処置ユニット106の操作を制御するように構成された装置であり得る。いくつかの実施形態において、そのような信号はインタフェース120からの入力に応答して送信される。特定の実施形態において、処理ユニット118は、センサー114および/またはインタフェース120から受信したデータのような情報を処理し、かつそれらの情報に基づいて決定を行っていてもよい。特定の実施形態において、処理ユニット118は、それ自体が情報に基づいて決定を行っていてもよい。例えば、処理ユニット118は、入力を受信し、決定し、出力を提供するように構成された命令を実行するためのプロセッサおよびメモリを備え得る。処理ユニット118は、システム100の様々なセンサーからのログデータまたは結果を受信するようにさらに構成されていてもよい。
【0034】
インタフェース120は、入力を受信し、かつ/または出力を提供するように構成された装置または装置のシステムであり得る。特定の実施形態において、インタフェース120は、キーボード、タッチパッド、対象監視装置、および/または入力を受信するように構成された他の装置である。例えば、医療従事者は、インタフェース120を用いて、システム100を開始または停止したり、また該手順の絶対継続時間、ポンプ速度および他のパラメータのようなシステムパラメータを修正したりしてもよい。インタフェース120はまた、表示装置、スピーカまたはユーザが検知可能な信号を送るための他の装置を含んでいてもよい。特定の実施において、インタフェース120は、他の装置へ通信を送信するように構成されたネットワークインタフェースを備えていてもよい。例えば、インタフェース120は、処置ユニット106が他の冷却システム、ろ過システム、流量制御装置、サーバおよび/または他の装置と通信できるようにしてもよい。
【0035】
システム100および/または処置ユニット106は、システム100の全体にわたる流体の流れを促進する、または他の場合には制御するために、様々な流れ調節器およびセンサーを備えてもよい。流れ調節器は、システム100の1つ以上の流体の流動特性を調節するように構成された装置であり得る。これらの特性としては、流量、方向および圧力が挙げられ得るが、これらに限定されるものではない。流れ調節器は流動特性を制御するための様々な構成要素またはサブシステムを含んでいてもよく、また圧力調整器、背圧調整器、センサー、および/または他の装置を含んでいてもよい。流れ調節器は、システムの他の構成要素(例えば処理ユニット118)によって制御可能であり得る。
【0036】
図3は処置部位102付近で流体を処置するためのマルチカテーテルシステムを示す。第1カテーテル130は第1位置に位置し、第2カテーテル131は第2位置に位置し得る。第1位置および第2位置は流体接続し得る(例えばCSFを含有する空間の2つの異なる部分)。第1カテーテル130は、第2カテーテル131の位置より頭方であるCSF含有空間の一部に留置され得る。例えば、第1カテーテル130および第2カテーテル131は、椎骨1つ以上の距離だけ離れて挿入されてもよい。いくつかの実施形態において、第1カテーテル130および/またはそのポート132は、対象101の脳付近または脳内(例えば脳室内)、脊椎の腰部内、脊椎の頸部内、および/または他の適当な位置に位置し得る。示したように、第2カテーテル131は、椎骨142を含む脊椎部分140のCSF含有空間内に挿入される。示したように、第1カテーテル130は流体144を返還するための複数のポート132を有し、また第2カテーテル131は流体144を採取するための複数のポート132を有する。しかしながら、それらの役割は処置中であっても逆転されてもよい(例えば、第1カテーテル130が流体144を採取し、かつ第2カテーテル131は流体144を返還する)。
【0037】
カテーテル130は(例えば2つの異なる手術部位を通じて)2つの異なる領域に進入するように示されているが、それらのカテーテルはそのように構成されていなくてもよい。いくつかの実施形態において、2本のカテーテル130,131は単一の手術部位を通じて挿入されてもよく、カテーテル130,131の一方が他方のカテーテル130から一定距離だけ離れて進められてもよい。加えて、カテーテル130,131は単一管腔カテーテルとして示されているが、それらのカテーテルはそのようでなくてもよい。カテーテル130,131は複数の管腔を有していてもよい。加えて、カテーテル130,131はポート132を有さなくてもよい。代わりに、例えば、カテーテル130,131は、流体144および/または処置部位102を冷却または加温するために伝熱流体を循環させるための管腔を備えてもよい。カテーテル130,131は複数のポート132を有するように示されているが、いくつかの実施形態では単一ポート132のみが存在してもよい。加えて、ポート132は、カテーテル130上において、またはカテーテル130に沿って、様々な形態で配列され得る。
【0038】
図4は、特定の実施に従った、脊椎領域140における処置部位102の流体を処置するシステムおよび方法を示す。特定の実施は、流体144(例えばCSFを含む流体)を保持する椎骨142を含む対象101の脊椎200の一部と、多管腔カテーテル130とを含み得る。多管腔カテーテル130は、処置部位102をチューブ104と流体接続させる第1ポートまたは第1の複数のポート132および第2ポートまたは第2の複数のポート134を備え得る。示したように、第1量の流体144は第1ポート206を通って多管腔カテーテル130に進入し、チューブ104の一部(例えばポート108に通じるチューブ104の一部)に通される。第2量の流体144はチューブ104の一部から多管腔カテーテル130に進入し、第2の複数のポート134を通って多管腔カテーテル130を退出する。
【0039】
図5は、特定の実施に従った、脳室を処置するシステムおよび方法を示す。この特定の例において、カテーテル130は、典型的には脳室内ドレナージ(external ventricular drain)と称される形態で、対象の脳の脳室と流体接続するように配置されている。いくつかの例において、システムは、例えばカテーテルを2つ以上の脳室に配置するか、またはそれらの脳室に複数のカテーテルを用いることにより、一度に2つ以上の脳室を冷却するように構成することができる。特定の実施において、脳室内ドレナージシステムを経由して接続がなされてもよい。例えば、カテーテルの先端部は脳の側脳室に配置されてもよい。
【0040】
図3~
図5は、脊椎200の一部または脳の一部においてCSFにアクセスすることを示しているが、本願に開示する実施形態はそれらの領域またはそのような流体に限定される必要はない。実施形態は、他の流体、位置、または位置の組み合わせとともに用いられてもよい(例えば脳室内に位置するカテーテルおよびクモ膜下腔の一部に位置する別のカテーテル)。例えば、1つ以上の単一管腔カテーテルを用いて流体144を輸送してもよい。さらに、冷却は1つの冷却回路に限定される必要はない。例えば、クモ膜下腔と脳室との間に2つ以上の冷却回路が存在することができる。別例として、解剖学的位置は血管であってもよく、また流体は血液であってもよい。
【0041】
カテーテル設計
特定の実施形態において、カテーテル130は1つ以上の管腔を備え得る。カテーテル130はまた、1つ以上の管腔を処置部位102の流体144と流体接続させるポートも備えてもよいが、備えなくてもよい。カテーテル130は、一般に、可撓性であり、操縦可能であり、かつ非外傷性であるように構成され得る。カテーテル130は、温度、頭蓋内圧、および/または他のパラメータの感知を可能にし得る。カテーテル130の大きさは、遠隔のチューブ(例えばチューブ104)、コンソール(例えば処置ユニット106)または他のユニットへの取り付けを可能にするために、約6フレンチ(約2.0mm)以上であり、かつ約20~約120cmであり得るが、他の大きさを用いてもよい。いくつかの実施形態では、カテーテルの大きさは約5フレンチ(約1.7mm)であってもよい。
【0042】
温度制御管腔。特定の実施形態において、カテーテル130は温度制御管腔を備え得る。温度制御管腔は、伝熱流体を循環させるための1つ以上の管腔であり得、カテーテルの異なる管腔(例えば温度制御管腔に隣接する流入管腔または流出管腔)を通って流れる流体を冷却して、カテーテルまたはカテーテルの組み合わせの外部を流れる流体(例えば処置部位102を通って流れるCSF)の温度を修正するように構成されている。温度制御管腔は、温度制御管腔内における伝熱流体の循環を促進するために複数の流路またはチャネルを含んでもよい。特定の実施において、温度制御管腔は、伝熱流体の流入および流出を促進するために、実質的にカテーテル130を下って延び、次いで折り返して戻ってもよい。特定の実施形態において、伝熱流体はカテーテルを下って延在し、終端において終了し得る。管腔は扇形にされる(scalloped)か、または表面積を増大し、かつ温度制御能力を増大または低下させる構造を有してもよい。例えば、温度制御管腔の内表面は、伝熱流体から例えばカテーテルを取り囲む流体への熱交換を促進するために内部フィン、隆条または他の構造を有してもよい。
【0043】
流入および流出管腔。特定の実施形態において、カテーテル130は1つ以上の流入管腔および/または流出管腔を備えて構成され得る。これらの管腔は流体144の流入および流出のために構成されており、そのためカテーテル130の開口を介して処置部位102の流体と流体接続し得る。特定の実施形態では、カテーテル130は流入管腔および流出管腔の双方を有さなくてもよい。例えば、カテーテルは流体144を流出させるためだけに構成されてもよく、流出管腔のみを有してもよい。別例として、流体144を追加するためだけに構成されたカテーテルは流入管腔のみを有してもよい。
【0044】
図6は、流入管腔212、温度制御管腔214、および流出管腔216を有するカテーテル210の実施形態の例の断面図を示す。示したように、温度制御管腔212は流入管腔212と流出管腔216との間に配置されている。加えて、温度制御管腔214は、流入管腔212および流出管腔216よりも比較的大きな表面積を有し得る。
【0045】
図7は、流入管腔212、4つの温度制御管腔214および流出管腔216を有するカテーテル220の実施形態の例の断面図を示す。温度制御管腔214はカテーテル220の周縁付近に位置する。これらの管腔214は、カテーテル220のバルーンまたは他の外部機構(external features)と流体接続するように配置され得る。
【0046】
図8~
図10は、剛性を提供するためにスタイレットを有するカテーテル230の実施形態を示す。
図8は、温度制御管腔234を備えたカテーテル230の断面図を示す。
図9は挿入されたスタイレット238を有したカテーテル230を示す。
図10は、スタイレット238の除去後のコイル状形態にあるカテーテル230を示す。カテーテル230は、スタイレット238がカテーテル内に存在しない場合には、実質的にコイル形状、ねじれ形状、または他の場合には歪曲した形状を形成するように構成され得る。
【0047】
増大した表面積。特定の実施形態において、カテーテルは温度制御を促進するために増大した表面積を有するように構成され得る。増大した表面積は、カテーテルが、さらなる表面積を提供するために、扇形の外形、凹凸を有する外形、または他の場合には不均一または複雑な外形を有することによってもたらされ得る。
【0048】
伝熱流体。生理食塩水またはパーフルオロカーボンのような様々な伝熱流体が用いられ得る。特定の実施形態では、異なる伝熱流体が温度制御プロセスの異なる部分で用いられ得る。例えば、温度制御プロセスは一次伝熱流体として生理食塩水で開始し、次いで一定期間後、生理食塩水の使用は中止されて、パーフルオロカーボンおよび/または他の物質が使用される。これに代わって、流体の混合物が用いられてもよく、そのような混合物はプロセス中に一定のままであり、かつ/または変化する。
【0049】
混合要素。特定の実施形態において、冷却され返還された流体と、依然として処置部位102に存在する流体との混合を促進するために、返還する流体の混合を容易にするカテーテルの要素または機構が存在し得る。混合を増強する要素は対象101の身体の外部に存在してもよいし、または内部に存在してもよい。一例において、カテーテル130は、受動的なCSF流の混乱および乱流、並びに内生のCSFの処理されたCSFに対する混合および交換をより多く生じさせるために、らせんまたは二重らせん設計を含み得る。他の例としては、ジェットまたは有向性の流出の使用による混合を増強するための渦または乱流の生成を含む。他の例では、例えばカテーテル130の長さに沿った、またはその長さ内における小さなフィン、非平面表面、リブ部分(ribbed portions)、バルーン、および/または他のシステムは、内生のCSFおよび処理されたCSFの混合および/または交換を促進し得る。
【0050】
カテーテル材料。カテーテルまたはその一部は、特定の効果を促進または防止するために特定の材料を用いるように構成され得る。例えば、材料はカテーテルの特定の領域への熱伝達を促進または防止するために選択されてもよい。具体的には、
図7を参照すると、温度制御管腔214による流入管腔212の冷却を制限するために断熱材が配置され得る。流入管腔214内の流体は身体から退出しており、そのような流体の冷却は処置部位102の温度に対してほとんど効果を有し得ないため、これは有益であり得る。反対に、流出管腔214は断熱材を有さないか、または流出管腔214内の流体が温度制御管腔214を通って流れる伝熱流体によって冷却されるのを促進するように構成され得る。同様に、熱をカテーテルの外部に、または熱をカテーテルの外部から移動させるための材料が存在してもよい。
【0051】
感染症の軽減。カテーテル130、チューブ104およびシステム100の他の部分は、処置部位102の感染または汚染の可能性を低減するように構成され得る。例えば、カテーテルの材料は、タンパク質忌避コーティング、微生物忌避コーティング、抗生物質コーティング、および/または感染症を防止するために銀(例えば銀ナノ粒子)を含有するコーティングで被覆されていてもよい。別例として、保護シーラントが脳に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、感染対策を強化するために、抗菌性部品(例えばワッシャ)をシステム内の取り付け点に追加してもよい。
【0052】
温度制御バルーン
図11~
図14は、温度制御バルーンを備えた実施形態を示す。温度制御バルーンは、側脳室の壁に接触して配置されるように構成され得る。温度制御バルーンは、脳実質、脊髄または他の目標を冷却するために、処置部位102付近の組織に触れている拡張可能部分において伝熱流体を循環させることにより、温度を修正し得る。脳室において用いられる場合、バルーンの膨張は脳室内のCSFを退去させ得る。
【0053】
図11は温度制御バルーン242を有するカテーテル240の実施形態を示す。バルーン内またはバルーン上には、伝熱流体が流れ得る経路244が配置されている。バルーンは、バルーンを空気、流体、または他の手段で充填することによって拡張され得る。経路244に加えて、バルーンを通って延びる管腔246が存在する。管腔246はCSF、伝熱流体または他の流体を運び得る。
【0054】
図12は温度制御バルーン252を有するカテーテル250の実施形態を示す。温度制御バルーンは伝熱流体によって拡張され、かつ伝熱流体によって充填される。カテーテル240とは異なり、このカテーテル250は付加的な管腔246を備えていない。
【0055】
図13は、温度制御バルーン262、弁264および付加的な管腔266を有するカテーテル260の実施形態を示す。カテーテル250の温度制御バルーン252のように、カテーテル260の温度制御バルーン262は伝熱流体によって拡張され、かつ伝熱流体によって充填される。バルーン252が伝熱流体で充填されると、その伝熱流体は、バルーンの外側に隣接する材料の温度を制御すること(例えば、加熱または冷却)に加えて、付加的な管腔266を介して移動する流体の温度を変化させ得る。弁264はカテーテル260を通る伝熱流体の流れを制御するように構成され得る。
【0056】
図14は、複数のバルーン272、流入口274および流出口276を含むカテーテル270の実施形態を示す。
センサー
様々な実施形態は、温度、頭蓋内圧および他の測定値を監視するためのセンサーを備え得る。
【0057】
圧力センサー。特定の実施形態において、カテーテルは、カテーテル上、カテーテル内、またはカテーテルのまわりに配置された圧力センサーを備えてもよい。圧力センサーは、全体的な流れ回路の状態を検知し、かつ閉塞物を検知するために用いられ得る。バルーンはカテーテル上に配置され、かつ可撓性圧力センサーを配備するために用いられてもよい。他の実施形態において、可撓性圧力センサーは基材(例えばシリコーン)上に印刷されていてもよい。
【0058】
温度センサー。温度センサー(例えば光ファイバまたは熱電対)は、所与の地点または一連の地点において(例えばシステム100では、処置部位102において、カテーテルに沿って、チューブ104に沿って、または他の位置において)温度または温度勾配を感知するために用いられ得る。温度センサーは、脊髄において、脳実質において、または組織自体において、第1読み取り値を収集するように構成され得る。先端センサーおよびx秒の間隔毎に温度が確認されるような段階式アルゴリズム(stepped algorithm)が存在してもよい。別の実施形態において、身体外部の温度センサーは組織内の温度センサー並びに体内のCSF中の温度センサーから読み取ってもよく、アルゴリズムは該アルゴリズムが温度を確認するx秒の間隔で温度を読み取り得る。温度に差がある間、システムは冷却し続けるか、または伝熱流体の流量を増大し続けるように構成され得る。
【0059】
代用量(Surrogate volume)の測定。特定の実施形態において、システム100を通って移動した流体の体積を監視することが望ましい場合がある。例えば、システム内に戻る冷却されたCSFの流れを制御することに基づいて温度を制御する実施形態は、流量依存性であり得る。そのような実施形態では、システムに戻る冷却されたCSFの体積は、冷却されたCSFが血液によって脳に戻されている熱に打ち勝っているかを判定するために追跡される必要があり得る。
【0060】
いくつかの実施形態において、流体が処置部位102から採取される割合は、約0.01mL/分~約100mL/分である。いくつかの実施形態では、上記の流体の割合(fluid rate)は、約0.1mL/分~約10mL/分、または約8mL/分~約20mL/分であってもよい。流体は、流体が採取されるのとほぼ同一の割合で返還されてもよいし、または、それは異なる割合であってもよい。しかしながら、採取される量または返還される量は、用途によってより高くてもよいし、より低くてもよい。そのような量は、採取される流体の種類、流体の粘度、処置部位102における流体の量、および他の要因を含む様々な要因によって変化してもよい。流体の粘度は、経時的に、かつ特定の対象101によって、変化してもよい。例えば、CSFの粘度は、脳膜炎を有する対象101と脳膜炎を有していない対象101とでは異なることがある。
【0061】
別例として、外科手術の頭蓋内圧が低下し得る間に、除去された流体の体積を判定することが望ましいことがある。除去された体積は、様々な直接的および間接的な方法で測定され得る。特定の実施形態において、1つ以上の流量計が用いられてもよい。例えば、流量計は処置部位102から採取された流体の量を監視するために配置され得る。別の流量計は処置部位102に返還された流体の量を監視するために配置されてもよい。流体がシステムによって(例えばバック内に)貯蔵される実施において、処置部位102から採取された体積を判定するために、バッグ内の流体の体積が測定されてもよい。例えば、除去された体積を判定するために、前記バッグが秤量されてもよい。
【0062】
脳血流の計測。特定の実施形態において、システム100はまた、脳血流を測定し得る。例えば、患者の脳血流を測定するために、ケティ-シュミット不活性ガス法(Kety-Schmidt inert-gas technique)、経大脳二重指示薬希釈法(transcerebral double-indicator dilution technique)、および/または他の技術が用いられてもよい。血管収縮を感知および回避するために、脳血流の監視が用いられてもよい。
【0063】
脳波図(Electroencephalogram:EEG)の監視。特定の実施において、システム100は、対象の脳からの信号を読み取るためにEEGを備えるか、またはEEGと協働し得る。具体的には、システムのカテーテル上にはEEG電極または他のセンサーが配置され得る。カテーテル上のEEG電極に加えて、またはそのような電極の代わりに、対象の皮膚上に表面電極を配置してもよい。監視は連続的であってもよいし、または間欠的であってもよい。EEG監視の結果は、復温後の脳活動および機能の予測および予後を含むが、これらに限定されない様々な転帰を促進するために用いられ得る。EEGの監視はまた、発作制御のための処置について用量を設定し(titrate)得る。
【0064】
誘発電位の監視。特定の実施において、システム100は、誘発電位試験の結果を受信するように、かつ/または、誘発電位試験を行うように構成され得る。誘発電位試験は、神経の刺激に応答して対象の神経系(例えば脊椎の一部)の電気的活動を測定し得る。誘発電位試験の結果は、冷却の量を設定するために用いられてもよい。例えば、システムは、誘発電位の20%の低下を検知して、温度を上昇または低下させ得る。システムは、誘発電位の周波数を一定のパーセンテージだけ低下させ、最小閾値(例えば温度閾値または誘発電位試験結果閾値)に到達するまで、温度を低下させ続け得る。
【0065】
頭蓋内圧の測定。システム100は、頭蓋内圧を読み取り、その読み取り値を用いて処置を修正するように構成され得る。いくつかの実施形態において、頭蓋内圧は眼内圧の読み取り値に基づいて推定され得る。いくつかの実施形態において、システム100は、熱変調、流れの特徴(flow signatures)、温度の読み取り値、流量の読み取り値、および他のパラメータを代用頭蓋内圧(surrogate intracranial pressure)として外挿し得る。例えば、特定の感知された流量読み取り値は、高い頭蓋内圧または低い頭蓋内圧が存在するかを判定するために外挿されてもよい。
【0066】
安全装置
本願に記載するシステムおよび方法は、対象101の安全な処置を促進するために様々な安全装置を備え得る。
【0067】
血管収縮回避モジュール。特定の人に対して、過剰な冷却は血管収縮を生じ、そのような血管収縮は頭痛または他の問題を引き起こすことがある。血管収縮は圧力の変化として現われ得る。開示したシステムの実施形態は圧力を追跡し、それをシステム管理アルゴリズムに組み込み得る。具体的には、アルゴリズムは、圧力降下(例えば約2~3mmHg、約5mmHgまたは他の圧力降下)が検知されるまで冷却をもたらし、次いで冷却をそのレベルで保持するように構成され得る。
【0068】
区画化の検知。温度制御方式の特定の使用において、CSF輸送空間内における区画化(compartmentalization)の危険性があり得る。例えば、水頭症、クモ膜下出血、卒中またはCSF輸送空間内における血栓に対処する手順では、潜在的な区画化を検知するために複数の圧力センサーを有するシステムを用いることが望ましいことがある。対照的に、特定の用途では、区画化の検知がそれほど必要でないことがある。例えば、胸腹部大動脈瘤の手順では、脳または他のCSF輸送空間の異なる区画間において良好な連絡があるであろうことが知られていることがある。
【0069】
いくつかの実施形態において、システム100は、脳、他のCSF輸送空間および/またはカテーテル自体の中の複数の地点において流体流量および圧力を監視するように構成され得る。正常圧水頭症または他の閉塞物が存在する場合に、カテーテルが流体の採取を試行してできないとき、次に圧力の急上昇および流れの減少が起こり得る。測定された圧力および/または流量によって、値の勾配が生じ得る。(例えば特定の圧力または流量センサーまたはその付近において)低い読み取り値が位置するか、高い読み取り値が位置するかによって、その問題の位置が三角法で測定され得る。例えば、システムは、その問題が頸部、胸部、または脳室空間内に位置することを判定し得る。
【0070】
閉塞物の検知および防止。特定の実施形態は、システム内における潜在的な閉塞物を回避し、検知し、かつ対処するように構成され得る。例えば、特定の実施形態において、カテーテルは、障害物(clogs)または閉塞物の影響を最小限にするために、複数の流入口および流出口を備えてもよい。カテーテルの管腔は、目詰まり(clogging)を防止するために特定の形状を備えてもよい。例えば、管腔は、目詰まりを防止するために様々な大きさ、形状(例えば四角形、楕円形および円形)を組み合わせてもよい。閉塞物は、予測および実際の流量、圧力および他の特性の監視によって検知され得る。例えば、測定された圧力が予測より有意に高いか、または低い場合には、この読み取り値はシステム内における障害物または閉塞物の可能性を示し得る。
【0071】
安全機構。システムは、対象が処置の送達にどのように、かつ/またはどの程度、応答しているかどうかを判定するように構成され得る。いくつかの実施形態において、システムは対象が処置の送達に不都合に反応しているかどうかを判定するように構成されていてもよい。例えば、システムは、対象が低温になりすぎていないかどうか、対象が脊髄性頭痛または他の有害反応を感じていないかどうかを判定してもよい。システムはまた、対象が処置に反応していないか、または十分に反応していないかどうかを判定してもよい。対象が処置に対して不都合にまたは不適当に反応しているという判定に応答して、システムは処置の継続時間または温度または流れの勾配(ramping)のような処置パラメータを変更し得る。温度または流量の緩やかな勾配は、温度または流量の急速な変化をもたらすよりも、より高い安全性を提供することができる。いくつかの実施形態において、システムは、心血管、神経系の読み取り値、または他のパラメータもしくは読み取り値に基づいて対象の処置に対する反応を測定してもよい。そのようなパラメータおよび読み取り値としては、心拍数、血圧、血液酸素レベル、EEGの結果、誘発電位、および/または他の読み取り値、またはそれらの組み合わせが挙げられ得るが、これらに限定される必要はない。
【0072】
使用法-体外温度制御、概説。
体外温度制御。
図15は、処置ユニットを生物流体の処置に用いる方法300を示しており、前記方法は、開始ステップ302と、一定体積の流体を採取するステップ304と、前記一定体積の流体を処置するステップ306と、特性を測定するステップ308と、前記一定体積の流体を返還するステップ310と、判定するステップ312と、パラメータを更新するステップ314と、終了するステップ316とを含む。方法300はシステム100を含む様々な実施形態に用いられ得る。
【0073】
方法300は、特定の体積の流体に対して実施されると記載されているが、本システムは流体の連続流に対して作用してもよい。すなわち、システム100は必ずしも、一定体積の流体を採取し、その体積が処理されるのを待って返還し、次に別の体積の流体を採取する必要はない。本方法は連続プロセスに従ってもよい。同様に、
図15は一連の連続ステップを示すように見えるが、記載した方法のステップは同時に行われてもよい。例えば、システム100は、
図15に示したステップのうちのいくつか、またはすべてを同時に実施してもよい。例えば、システム100は同時に流体を採取し、かつ返還してもよい。
【0074】
方法300は開始ステップ302において開始し得る。このステップ302はシステム100の1つ以上の構成要素を作動させることを含み得る。このステップ302はまた、様々な準備ステップを含んでもよいし、またはそのようなステップに後続してもよい。そのようなステップは、温度制御要素を導入すること、伝熱流体を添加すること、ろ過要素を導入すること、処置部位102を選択および準備すること、チューブ104を導入すること、構成要素を較正すること、本システムの構成要素をプライミングすること、および他のステップを含み得る。
【0075】
処置部位102を選択および準備するステップは、特定の処置部位102を選択することを含み得る。例えば、医療従事者は、処置部位102で処置を実施することから恩恵を受け得る対象101を選択してもよい。処置部位102の準備は、(例えば、
図4に示すように、脊椎部分142において)処置部位102にアクセスする手順のために解剖学的位置を識別すること、その位置を殺菌すること、または他の場合には上記手順のために処置部位102を準備することを含み得る。処置部位102の選択および準備は、本明細書内に記載されているシステムおよび方法に従って、または他の手段を通じて実施されてもよい。
【0076】
いくつかの実施形態において、処置部位を準備することは、硬膜外針をイントロデューサ内に配置すること、それらの針およびイントロデューサを用いて対象101のクモ膜下腔にアクセスすること、適所にイントロデューサを残したまま針を除去すること、ガイドワイヤを配置すること、固定装置を用いてカテーテルを患者に固定すること、イントロデューサを剥離すること、処置システム100をカテーテルに接続すること、およびオーバーザワイヤー配置技術を用いてカテーテルを植え込むことを含み得る。上記の準備中に、クモ膜下腔へのアクセスを検証するため、ガイドワイヤの配置を検証するため、およびカテーテルの配置を確認するために蛍光透視法を用いてもよい。
【0077】
チューブ104を導入することは、システム100の様々な構成要素を接続することを含み得る。このステップは、チューブ104およびカテーテル130を処置部位102に導入することを含み得る。このステップは、多管腔カテーテルを解剖学的位置内に挿入して、処置部位102をシステム100と流体接続させて、流体がポート108に引き込まれ、かつ処置部位102に返還されることを可能にし得る。
【0078】
構成要素の較正は、システム100を使用するために初期値パラメータを設定することを含み得る。このステップは初期流量、初期温度制御速度(initial temperature control rate)、初期圧力、および他の初期値パラメータまたはシステム設定を確立することを含み得る。初期値パラメータは、処置部位102における推定流体量、対象の健康状態、保留物(retentate)の透過物(permeate)に対する予測比および他の要因を含むが、これらに限定されない観測または予測された臨床的尺度に基づき得る。
【0079】
システム100をプライミングすることは、システム100の構成要素の1つ以上にプライミング溶液を加えることを含み得る。システム100の形態によって、プライミングは、1つ以上の構成要素が効率的に機能するために必要であり得る。処置部位102、流体および対象によって、1つ以上の構成要素は対象の快適さおよび健康状態を向上するためにプライミングされ得る。特定の用途において、システム100は、一定体積の流体を同時に採取しながら、一定体積の流体の返還を可能にするようにプライミングされ得る。これは、処置部位102が比較的小体積の流体(例えばCSF)を有するか、または他の場合には体積の相対的変動に敏感である用途に特に有用であることがある。処置の種類、手順の長さおよび他の要因によって、プライミング流体は、手順の間に失われたか、または使用された流体を補うために、ろ過手順中に追加されてもよい。
【0080】
ステップ304では、一定体積の流体が処置部位102から採取される。特定の状況において、流体はシステム100内に位置するポンプまたは装置(例えばポンプ116)を用いて採取され得る。ポンプは処置部位102から一定体積の流体を採取するために用いられ得る。流体が処置部位102から採取されると、その流体はチューブ104を通過し、ポート108を介してろ過システム100内に入り得る。
【0081】
ステップ306では、それらの一定体積の流体が処置される。流体の処置は、(例えば、温度制御ユニット110を用いた)温度制御、加温(または、流体を温かくさせること)、(例えば、フィルタ112を用いた)フィルタリング、他の処置法、および/またはそれらの組み合わせを含み得る。特定の実施形態において、流体は、例えば、冷却されることにより、および/または別のプロセス、システムまたはユニットによって再びろ過されることにより、連続的にまたは漸進的に処置され得る。
【0082】
特定の実施形態において、温度制御または加温の速度は、用いる伝熱流体を変更する(例えば、高比熱容量を有する伝熱流体から低比熱容量を有する伝熱流体に変更する)ことによって変更され得る。例えば、伝熱流体が生理食塩水である場合、異なる温度制御の速度を得るために、生理食塩水をパーフルオロカーボンと交換してもよい。具体的には、伝熱流体として生理的食塩水を用いる実施形態があり得、特定の時間(例えば、センサーを確認するサイクルを3サイクル)後に測定された温度が有意な量(例えば1℃)だけ変化していない場合には、次に生理的食塩水はシステムから除去され、異なる伝熱流体(例えばパーフルオロカーボン)と交換されて、温度の変更を試行し得る。
【0083】
流体を再加温するための様々な手段が存在する。特定の実施形態において、伝熱流体の流量が低減されてもよい(例えば、流量は毎分約30mLから毎分約15mLに、約5mLに低減されてもよい)し、または用いられる伝熱流体の量が低減されてもよい。同様に他の手段が用いられてもよい。
【0084】
ステップ308では、対象101、処置部位102、流体、および/またはシステムの特性が測定され得る。特性の測定は、注目している特性またはパラメータの間欠的または連続的なサンプリングおよび/または監視を含み得る。このステップ308は流体306のろ過後に行われるように示されているが、ステップ308は有用なデータが収集され得る方法300中のいかなる時点で行われてもよい。特定の実施形態において、特性の測定は、処置の前、最中、または後に処置部位102から採取された流体の特性を測定することを含み得る。測定される特性としては、特定の汚染物質、タンパク質、化合物、マーカーおよび存在する他の流体成分の存在または量が挙げられ得る。別例として、透過物量(permeate volume)の保留物量(retentate volume)に対する比率、処置部位102からの流体流量、流体温度、流体の不透明度または半透明度または透明度、絶対保留物流量、および処置部位102への流体流量も測定され得る。システム100の性能特性も測定され得る。例えば、フィルタ112の効率、フィルタ112の状態(例えばインタフェース210を介して)、およびシステム100の性能の他のマーカーが測定されてもよい。
【0085】
特定の実施形態において、測定される特性としては、対象に関する情報または医療サービス提供者による入力が挙げられ得る。例えば、システム100は、対象の血圧、心拍数、ストレスおよびの他の情報を監視し得る。定量的特性に加えて、定性的測定も同様になされてもよい。例えば、対象の不快感および他の質が測定されてもよい。これらおよび他のデータはセンサー224によって測定されてもよく、かつ/またはシステム100に作動可能に接続された入力装置(例えばキーボード、タッチスクリーン、対象監視装置、および入力を受信するための他の装置)によってシステムに入力されてもよい。
【0086】
ステップ310では、一定体積の流体が処置部位102に返還される。特定の実施形態において、流体は流体のろ過が完了すると直ちに処置部位102に返還される。特定の実施形態において、上記流体の流量は制御され得る。例えば、一定体積の流体が、処置部位102に返還される前の一時の間、システム100の一領域に一時的に貯留(buffered)されてもよい。一時的な貯留は、流体の返還の割合を滑らかにするため、流体が特定の温度に到達するための時間を与えるため、特定の添加物が流体内に混合するための時間を与えるため、および他の理由で用いられ得る。
【0087】
特定の実施形態において、流体が処置部位102に返還される割合および/または圧力は(例えば流れ調節器によって)制御される。例えば、流体の返還は、流体が処置部位102内における恒常性を維持するような割合またはそのような方法で返還されるように制御される。特定の実施形態では、これは流体が現在システムから採取されているのと同じ割合で流体を返還することによって行われ得る。特定の実施形態において、流体は、該流体が取り出されたのとほぼ同じ流量で返還され得る。システムから取り出される流体体積とシステムに返還される流体体積とは等しくなくてもよい。これは処置部位102から有意量の汚染物質を除去する場合であり得る。特定の実施形態において、その差異は追加流体の添加によって補償され得る。
【0088】
特定の実施形態において、特定体積の追加流体が処置部位102に返還され得る。そのような追加流体は、処置部位102から採取されたのではない流体、処置部位102から予め採取された流体、異なる処置部位102から採取された流体、合成された流体、これらの混合物、または他の場合にはステップ304において処置部位102から取り出された体積とは異なる流体であり得る。追加流体の返還は、例えば、特に処置部位102が開始ステップ402において小量の流体のみを含んでいた状況において、ろ別された一定体積の流体を補償するために用いられ得る。
【0089】
特定の実施形態において、1種以上の治療薬が流体の処置部位102への返還の前に該流体に添加されてもよい。流体は特定の薬物で処置されてもよいし、または特定の薬物と混合されてもよい。例えば、流体がCSFである場合、上記薬物は脳血液関門を迂回するように構成されていてもよい。上記薬物としては、抗生物質、神経成長因子、抗炎症薬、鎮痛薬、髄腔内手段を用いて送達されるように設計された薬物、特定の症状(例えば脳膜炎、アルツハイマー病、うつ病、慢性疼痛および他の症状)に作用するように設計された薬物、および他の薬物が挙げられ得るが、これらに限定される必要はない。
【0090】
特定の例として、処置部位102は、対象のCSF含有空間、例えば、クモ膜下腔またはCSFを含むと知られているか、または考えられている別の空間などであってもよい。上記空間は合計で約125mLのCSFしか有さず、そのレベルが特定の閾値(例えば約85mL)未満に低下する場合には、対象は望ましくない副作用に苦しむことがある。特に大量の既存のCSFが望ましくない化合物を含む場合には、透過物の体積が処置部位102における流体レベルを閾値未満に低下させるのに十分なほど少ないことがある。従って、システム100は、返還されている採取したCSFの量と、処置部位102の体積を閾値量より高く維持するために返還されるのに必要とされる量との間の差異を調整するために、一定体積の追加流体(例えば人工CSFまたは他の適当な流体)を返還し得る。
【0091】
特定の実施形態において、流体の採取および返還はパルス方式で行われてもよい。例えば、システム100は特定の体積を採取し、次いで追加流体を採取するのを停止してもよい。採取した体積はろ過または他のシステムによって処理され、(例えばコンバイナ116で)一時的に貯留される。その一時的な貯留からろ過された量が、処置部位102から採取される次の体積とほぼ同一の割合で、かつ/またはほぼ同一の総体積で、処置部位102に返還され得る。このプロセスは、システムが処置部位102の体積レベルを比較的一貫して維持することを可能にし、処置時間(例えば流体の処置部位102からの採取と流体の処置部位102への返還との間の時間)が長い状況において有用であり得る。
【0092】
ステップ312では、判定がなされる。判定は、例えば、医療従事者、プロセッサシステム、またはそれらの組み合わせによってなされ得る。例えば、医療従事者は測定された特性を分析し、結論を出してもよい。別例として、処理ユニット118が、アルゴリズムを用いて、または他の機構によって、測定された特性を分析してもよい。判定は、測定されたパラメータ、タイマー、スケジュール、または他の機構に基づき得る。判定は、システム100のパラメータを経時的に変化させるため、および特定の測定された特性に対処するために用いられてもよい。
【0093】
例えば、判定は処置部位を冷却および/または加温する速度に関してなされてもよい。例えば、測定された特性に基づいて、温度制御の速度は、目標処置時間または処置速度に対して低すぎたり、または高すぎたりする場合がある。
【0094】
別例として、判定は、流体が処置部位102から採取されている流量および/または処置部位102に返還されている流量に関してなされてもよい。例えば、流体の採取および返還の割合をほぼ同一に維持することが望ましいことがある。具体的には、返還されているよりも多くの流体が処置部位102から採取されている場合、その後、処置部位102における流体の体積は全体として減少し得る。特定の流体および特定の処置部位102について、処置部位102の体積が特定の閾値を過ぎると、望ましくない副作用が生じ得るため、これは望ましくないことがある。例えば、採取されている流体がCSFである場合には、ヒト対象から取り出されるCSFの体積が1時間の間に約5mL~約20mLを超えないような流量とし得る。すなわち、流体の体積は、1時間でその本来の開始体積から約5mL~約20mLを超えて減少することはない。特定の実施形態において、絶対保留物流量を許容可能な保留物流量の特定の範囲内に維持することが望ましい場合がある。特定の実施形態において、上記閾値は約0.10mL/分~約0.30mL/分であり得る。特定の実施形態において、上記閾値は約0.16mL/分であり得る。特定の実施形態において、上記閾値は約0.2mL/分~約0.25mL/分であり得るが、特定の状況では他の値が望ましいこともある。
【0095】
測定された特性に基づいて、採取および返還の割合の相違に対処する最良の方法が、流量を低下させて、システムから失われる流体の総体積を低減することであり得ることが判定され得る。これは、処置部位102からの流体の純損失はあるが、その損失はより遅い速度で生じていることを意味し得る。該速度は、例えば、対象の身体が損失を補うのに十分な流体を生成するのに十分に遅いものであり得る。
【0096】
別例として、測定された特性は、対象が表わした不快感であってもよい。対象のCSF含有空間からのCSFの採取は、脊髄性頭痛のような過剰排出の症状を引き起こすことがある。過剰排出の症状は、CSFの閾値量を超えて採取しないことによって、回避するか、または他の場合には対処することができ得る。しかしながら、特定の閾値は対象毎に変化し得る。そのため、予測閾値は、実際の閾値とは異なっていることがあり、また対象は予想されたより早く症状を経験する場合がある。対象が不快感を示すことに応答して、医療従事者はプロセスのパラメータを変更する必要があり得ることを判定してもよい。
【0097】
特定の実施形態において、ステップ312では、処理ユニット118および/または医療従事者は、プロセスが終了されるべきであることを判定し得る。この時点で、流れは終了ステップ316に移る。特定の他の実施形態では、ステップ312において、処理ユニット118および/または医療従事者は、プロセスが引き続き実質的に不変であるべきであることを判定し得る。その判定により、流れ図はステップ304に戻り得る。さらに他の実施形態において、ステップ312では、処理ユニット118および/または医療従事者は、プロセスの1つ以上のパラメータが変更されるべきであることを判定し得る。その判定により、流れ図はステップ314に移り得る。
【0098】
ステップ314では、システム100の1つ以上のパラメータが、ステップ312においてなされた判定に応じて変更される。変更されるべきパラメータとしては、流入量、流出量、温度制御量および他のパラメータが挙げられ得る。そのようなパラメータは、例えば、処理ユニット118がそれらのパラメータを修正するためにポンプ116またはシステムの他の構成要素に信号を送信することによって変更され得る。特定の実施形態において、パラメータはポート108において受信される入力によって手動で変更されてもよい。これは、医療従事者によって入力されるパラメータを含み得る。特定の実施形態において、パラメータは、採取体積と返還体積との差(例えば廃棄率)、目標温度制御速度および実際の温度制御速度、並びに他の目標に基づいて更新されてもよい。
【0099】
特定の実施形態において、パラメータを更新するステップ314は、流体の流動方向を変更することを含み得る。例えば、システムは、弁または流体の流動方向を変更するための他の機構の操作によって流体が導かれ得る複数の処置システムを含み得る。ステップ314は、流体の流れを1つの処置システムから異なる処置システムへ変更することを含んでもよい。これは、例えば、第2処置システムが第1ろ過システムよりも特定の汚染物質のろ過により適していることを判定することに応答してもよい。
【0100】
特定の実施形態において、パラメータを更新するステップ314は、処置部位102におけるチューブの配置を修正することを含み得る。例えば、1つ以上の流入チューブまたは流出チューブ104は、目詰まりしたり、または他の場合には能力が低下した状態で作動したりすることがある。これに応答して、チューブ104は、能力低下問題に対処するように調節されるか、または他の場合には修正され得る。医療従事者は、光、警報または他の表示によってそのような問題に対して警告を受けてもよい。
【0101】
特定の実施形態において、パラメータを更新するステップ314はフィルタ112のようなシステム100の1つ以上の構成要素を清掃するか、または他の場合には修正することを含み得る。これは、例えば、背圧またはポンプ速度を変更することによって行われ得る。
【0102】
特定の実施形態において、パラメータを更新するステップ314は、フィルタ112またはシステムの他の構成要素が目詰まりを経験しているかどうかを判定するためにシステムの特性を感知することを含み得る。感知される特性としては、ろ過システムの警告状態を読み取ること、またはシステム流量もしくはシステムの他のパラメータの変化を伴わないフィルタ圧力の増大を感知することが挙げられ得る。システム100内に障害物が存在し得るという判定に応答して、フィルタの保留物ポートを通る流量が増大され得る。そのような流量の増大は、ユーザまたはシステムが背圧弁(例えば流れ調節器の背圧弁)を開放した結果であり得る。弁の開放は、1つ以上のフィルタの1つ以上の保留物ポートを通る流体の廃棄物回収領域への急増を生じ得る。該流体の急増は、処置部位102に戻る流れがゼロどころか負の割合に低下することを生じ得る。よって、流量を制御する操作者またはシステムは、このフィルタクリアランス機構の結果として、失われた流体の体積、および患者に対する可能な影響を考慮に入れ得る。
【0103】
ステップ316において、本プロセスは終了する。本プロセスが完了した後、対象に包帯を巻くこと、システム100の1つ以上の構成要素を取り外すこと、採取した流体の量を分析すること、保留物を分析すること、および他のステップを含むが、これらに限定されない様々な終結ステップが実施され得る。
【0104】
使用法-処置部位における直接温度制御、概説。
処置部位の温度制御。
図16は、処置部位102における温度制御のための方法320を示す。具体的には、方法320は、処置部位102における直接温度制御に関する
図15の方法300の修正版であり得る。方法320は、開始するステップ322と、処置を施すステップ324と、特性を測定するステップ326と、判定するステップ328と、パラメータを更新するステップ330と、終了するステップ322とを含み得る。上記方法はシステム100を含む特定の実施形態に用いられ得る。
【0105】
開始するステップ322は、方法300のステップ302に実質的に類似しており、処置部位102内における直接的な温度制御に焦点を合わせ得る。具体的には、このステップ322はカテーテル130を処置部位に挿入することを含み得、カテーテル130は伝熱流体の循環のために構成された少なくとも1つの温度制御管腔を有する。このステップ322はまた、カテーテル130内における伝熱流体の温度制御および循環のための処置ユニット106を準備することも含み得る。
【0106】
処置を施すステップ324は、温度制御をもたらすこと、加温をもたらすこと、または他の場合には処置部位102を処置することを含み得る。これは伝熱流体をカテーテル130の温度制御管腔内で循環させることを含み得るが、これに限定される必要はない。伝熱流体は、温度制御ユニット110によって冷却および/または加温され得る。伝熱流体は、特定の割合、温度、体積および他の特性で循環し得る。これらの特性は温度制御ユニット110において変更可能であり得る。
【0107】
特性を測定するステップ326は、伝熱流体、処置部位および/または、システムの他の部分の特性を測定することを含み得る。このステップ326は方法300のステップ308に類似していてもよい。
【0108】
判定ステップ328は、どのように処置部位102の処置を進めるかを判定することを含み得る。このステップは、方法300のステップ312においてなされる判定に類似し得る。例えば、判定ステップ328は、測定した特性が処置の所望の目的および目標と比較してどのようであるかを判定することを含み得る。具体的には、温度制御の現状速度が温度制御の所望速度または目標速度と比較され得る。所望の臨床的または他の転帰に到達するためには、処置の特定パラメータが変更される必要があり得るという判定がなされ得る。システム100の1つ以上のパラメータが変更される必要がある、または変更されるべきであるという判定がなされた場合には、図の流れは、パラメータを更新するステップ330に移り得る。処置は終了するべきであるという判定がなされた場合には、流れは終了ステップ332に移り得る。
【0109】
パラメータを更新するステップ330は、判定ステップ328に基づいてシステム100の1つ以上のパラメータを修正することを含み得る。パラメータを更新するステップ330は、パラメータを更新するステップ314に類似していてもよい。このステップ330は、所望の処置目標をより厳密に追跡するために、伝熱流体の温度、伝熱流体の流量、伝熱流体の種類、および/または処置の他のパラメータを変更することを含み得る。
【0110】
ステップ332において本プロセスは終了する。本プロセスが完了した後、対象に包帯を巻くこと、システム100の1つ以上の構成要素を取り外すこと、処置の結果を分析すること、および他のステップを含むが、これらに限定されない様々な終結ステップが実施され得る。
【0111】
使用法-特定の温度制御方法およびアルゴリズム
図17および
図18は、処置を制御し、パラメータを更新する方法の例を示す。具体的には、
図17は、温度を制御する方法400の例を示す。温度を制御する方法は、
図15および
図16に記載した方法とともに、またはそれらの方法の代わりに用いられ得る。該方法は、処置を開始するステップ402と、センサーを読み取るステップ404と、目標に到達しているかを判定するステップ406と、健康チェックを実施するステップ408と、処置を継続するステップ410と、処置を終了するかどうかを判定するステップ412と、処置を停止するステップ414とを含み得る。
【0112】
方法400は処置を開始するステップ402において開始する。方法400は、様々な準備ステップが実施された後に開始し得る。具体的には、温度制御および感知システムは、流体を冷却し、かつセンサーを読み取るように構成され得る。例えば、温度制御カテーテルは対象の脊椎のCSF含有空間内および/または対象の1つ以上の脳室内に挿入され得る。システムは対象内の流体を(例えばカテーテルを介して伝熱流体を循環させることによって)冷却し、かつ/または流体を採取し、採取した流体を冷却し、その流体を返還するように構成され得る。
【0113】
センサーを読み取るステップ404は、様々なセンサーからのセンサー情報を読み取ることを含み得る。上記センサーは、温度センサー、EEGセンサー、頭蓋内圧センサー、流量センサー、および/または、対象、流体、または他の供給源に関係する情報を読み取るための他のセンサーであってもよい。特定の実施形態において、センサーを読み取ることは、機能的バイオマーカー(例えば頭蓋内圧、組織温度、およびサイトカインマーカー)を測定することを含み得る。いくつかの実施形態において、1つ以上のセンサー(例えばカテーテル内の圧力または温度)は、カテーテルの先端部のようなカテーテル上またはカテーテル内に位置することができる。センサー情報は、処置を増大するか、低減するか、変更するか、または維持するかどうかに関して決定を行うために用いられ得る。
【0114】
目標に到達しているかを判定するステップ406は、ステップ404から受信した情報を用いて、目標に到達しているかどうかを判定することを含み得る。例えば、目標は、目標温度、目標流量、目標圧力、目標時間、他の目標またはそれらの組み合わせであってもよい。測定値が目標値の特定の範囲に合致するか、該範囲を超えるか、該範囲を過ぎるか、または該範囲内に入る場合に、目標に到達し得る。目標に到達している場合には、流れは処置を終了するかどうかを判定するステップ412に移り得る。目標に到達していない場合には、流れは健康チェックを実施するステップ408に移り得る。加えて、このステップ406の後に、目標が修正されてもよい。対象の処置は1つ以上の目標を含み得る。複数の目標がある場合には、目標間に従属性があり得る(例えば、第1目標または第2目標には、第3目標に移る前に到達しなければならない)。
【0115】
いくつかの実施形態において、目標に到達しているかどうかを判定することは、システムが目標モードに設定されているか、または目標モードを変更したかを判定するのと同じくらい単純であり得る。例えば、システムが冷却モードにあり、次いでシステムが維持モードへの変更を検知した場合には、次に該方法は処置を終了するかどうかを判定するステップ412に移り得る。
【0116】
健康チェックを実施するステップ408は、対象の健康状態を確認することを含み得る。上記チェックは、ステップ404においてセンサーから読み取られた情報、このステップ408のために集められた追加情報、医療従事者からの入力(例えば医師によってなされた観察)、(例えば、不快感を示した)対象からの入力、他の供給源、またはそれらの組み合わせを用いて実施され得る。上記チェックは、良好または不良な健康の判定をもたらし得る。例えば、不良な健康チェックは、患者によって表わされた不快感、危険なまでに低い深部体温、異常な心拍数、異常な心拍リズム、異常なEEG結果、異常な頭蓋内圧、予想範囲外のセンサー読み取り値、患者における不良な健康状態の他の徴候、またはそれらの組み合わせの結果であり得る。良好な健康チェックは、不良な健康の判定がないこと、感知された値が予測範囲内にあること、良好な対象の健康状態の他の徴候、またはそれらの組み合わせの結果であり得る。健康チェックが不良である場合には、流れは処置を終了するかどうかを判定するステップ412に移り得る。健康チェックが良好である場合には、次に流れは処置を修正するステップ410に移り得る。
【0117】
健康チェックはまた、処置を送達するシステムの健全性のチェックも含み得る。例えば、システムにおける障害物の検知は、不良な健康チェックを生じ得る。別例として、処置の修正が、センサー読み取り値の所望の変化、予測された変化、または期待された変化をもたらしていない場合には、不良な健康チェックを生じ得る、該システムに関する問題が存在することがある。
【0118】
処置を継続するステップ410は、現在のレベルで処置を継続するか、または処置を修正することを含み得る。処置の修正は、センサー読み取り値と目標との差(ステップ406の一部として実施され得るような)、ステップ408の健康チェック、処置を終了するべきかどうかに関する判定(412)、または他の要因に基づき得る。上述したパラメータを更新するステップ314において既に記載したものを含むが、それらに限定されない処置の様々なパラメータが修正され得る。処置を修正するステップ410の後、流れはステップ404に移り得る。
【0119】
ステップ408における不良な健康チェックまたはステップ406における目標への到達のいずれかに続いて、処置を終了するべきかどうかを判定するステップ412に到達し得る。目標に到達しており、達成すべき目標がこれ以上ない場合には、このステップ412は処置を終了する決定を生じ得る。不良な健康チェックの結果としてこのステップ412に到達する場合には、次に、例えば健康チェックの不良(unfavorability)の重症度によって、処置を終了する必要がある場合がある。例えば、健康チェックの結果が負の健康状態に向かう若干の傾向(例えば頭痛の前兆であり得る頭蓋内圧の増大)を示す場合には、次に、処置速度(例えば冷却または再加温の速度)を増大しないで、処置速度を低下させて、処置速度を維持して、処置を継続する決定がなされてもよい。
【0120】
処置を終了するためのステップ412の決定から処置を停止するステップ414に到達し得る。一旦処置が停止されると、ステップ316に関して上述したものを含むが、それらに限定されない様々な処置後の結末ステップが実施され得る。
【0121】
図18は、CSFのための目標冷却パターンの例を示す。具体的には、時間t
0では、温度は初期温度T
iである。次に、CSFは冷却される。示したように、CSFは、それが目標時間t
1において目標温度T
tに到達するまで冷却される。次にCSFは時間t
2まで目標温度T
tで維持される。次に目標温度T
tは時間t
2まで維持される。時間t
2から時間t
3まで、流体は最終温度T
fに加温されるか、または温められる。冷却および再加温の勾配は、
図18に記載する方法によって管理され得る。異なる傾き、推移、時間の長さ、温度調節などを有する他の冷却パターンが本発明の範囲内にあると考えられる。
【0122】
例えば、目標温度Ttとしては、約25℃~約35℃、約25℃~約32℃、約28℃~約32℃、約29℃~約31℃、約31℃、約30℃、約25℃、または他の温度が挙げられ得るが、これらに限定される必要はない。初期時間t0から目標時間t1までの時間としては、約50分~約70分、約60分、約30分、約5分、約10秒~約40秒、約20秒~30秒、または他の期間が挙げられ得るが、これらに限定される必要はない。目標温度Ttは時間t3まで維持されてもよく、この時間としては目標時間t1に到達した時間から約50分~約70分、約60分、約30分、約5分、約10秒~約40秒、または約20秒~約30秒が挙げられ得るが、これらに限定される必要はない。次に、流体は最終温度Tfに加温されるか、温められ得る。最終温度Tfとしては、初期温度Ti、平均的なヒト体温(ほぼ37℃)または他の温度が挙げられ得るが、これらに限定される必要はない。時間t2から時間t3までの時間としては、約50分~約70分、約60分、約30分、約5分、約10秒~約40秒、約20秒~約30秒、または他の期間が挙げられ得るが、これらに限定される必要はない。
【0123】
いくつかの実施形態において、処置期間は約48時間であり得る。例えば、外傷性脳損傷の対象に関する実施形態では、総処置時間は約48時間であってもよい。この処置の長さは、毎時約120ミリリットルの流量を有するシステムにおいて、ベースラインから99%を超えるサイトカインレベルの低下をもたらし得る。
【0124】
使用例
目標冷却パターン。
図17の方法に
図18の目標冷却パターンを適用する実施形態において、時間t
0は0分であり、初期の温度T
iは約37℃であり、目標温度T
tは約30℃であり、目標時間t
1は約60分であり、時間t
2は約120分(t
2-t
1=約60分)であり、最終温度T
fは約37℃であり、t
3は約180分(t
3-t
2=約60分)である。いくつかの実施形態において、システム100は、軽度の低体温、中程度の低体温、または超低体温を開始するため、温度を維持するため、システムが適切に機能していることを保証するために圧力、流量および温度の変化を監視するため、および対象101の冷却およびドレナージ状態を管理するための所定モードを有し得る。いくつかの実施形態において、目標温度は測定の位置に基づいて変化してもよい。例えば、低体温法の間、コア脳温度は低温塩水注入速度に従って約28~約31℃に維持され得る。冷却が開始した後、深部脳温度は約28℃に低下し、皮質下脳温度はほぼ31℃に達し得る。脳表面と脳深部との間のこの温度勾配は、血液供給に基づいて変化し得る。いくつかの実施形態において、(例えば、カテーテル上に位置した)複数の温度センサーが用いられてもよく、また平均脳温度は個々の温度プローブに基づいて用いられてもよい。いくつかの実施形態において、臨床医が対象において超低体温(例えば約25~約30℃)を誘発させようとしている場合には、次にシステムは実質温度を測定し、測定した温度に基づいて冷却を継続するか、または温度を維持するかのいずれかを行い得る。臨床医が患者を回復させようとしている場合には、次に再度加温アルゴリズムが関与し得る。
【0125】
図17の方法400に目を向けると、開始ステップ402は時間t
0で開始し得る。ステップ404において、システムはセンサーを読み取り、とりわけ、初期温度が約37℃であると判定する。ステップ406において、これは約30℃の目標温度T
tではないと判定される。流れはステップ408に移り、そこで頭蓋内圧およびEEGのセンサーデータに基づく良好な健康チェックにより、流れはステップ410に移動する。ステップ410において、対象の脊椎CSF腔に挿入されたカテーテルを通る伝熱流体の流量が増大される。ステップ404,406,408,410のループは目標速度に到達するまで継続する(例えば、冷却速度は、ほぼ目標時間t
1において目標温度T
tに到達するようなものである)。次に、上記ループは現在の時間tが目標時間t
1となるまで継続し、ステップ406において目標時間および温度に到達したという判定を生じ、よって流れはステップ412における処置を終了するべきかどうかに関する判定に移る。この目標には到達したが、すべての目標には到達しておらず、したがって処置は継続し、流れはステップ410に移る。ステップ410において、冷却速度は変更され、よって温度Tは時間t
2にわたって比較的一定のままである。次に、ステップ404,406,408,410のループは、現在時間tが時間t
2になるまで継続する。この目標に到達しても、処置はまだ終わっておらず、従って流れはステップ406からステップ412へ、そしてステップ410へ移動し、そこで処置が修正され、従って温度Tはそれが時間t
3で最終温度T
fに到達するような速度で増大する。これらの目標が達成されたならば、処置は終了する。
【0126】
CSF冷却サイクル(脊椎部分)。
図19~
図21は、いくつかの実施形態に従った、脊椎領域においてCSFを採取し、冷却し、返還するシステムおよび方法を示す。具体的には、
図19は、CSFがカテーテル130の第1の複数のポート132を用いて目標の腰椎槽504から採取されており、採取されたCSFは該CSFを冷却または他の場合には処置するために処置ユニット106内で処理され、処置されたCSFはカテーテル130の第2の複数のポート134を用いて目標頚胸境界部502に返還されていることを示している。
図20は、第1および第2の複数のポート132,134が配置され得る領域を含むカテーテル130の一部を示している。
図21は、流入管腔212および流出管腔216を備えたカテーテル130の断面図を示す。第1ポート132を介して採取されているCSFは流入管腔212を通過し得、第2の複数のポート134を介して返還されているCSFは流出管腔216を通過し得る。
【0127】
処置サイクルは、長尺状カテーテル130の第1の複数のポート132を用いた処置部位202の付近からのCSFの採取によって開始し得る。カテーテル130は、第1の複数のポート132が目標腰椎槽504内に位置し、かつ第2の複数のポート134は目標頚胸境界部502内に位置するように留置され得る。目標腰椎槽504はL2、L3およびL4腰椎付近の領域に位置し得るが、他の目標位置も用いられてもよい。目標頚胸境界部502は、C7、T1、T2、T3およびT4椎骨付近の領域に位置し得るが、他の位置が用いられてもよい。次に、CSFはカテーテル130の流入管腔212を通過し、ポート108を通って処置ユニット106に進入する。次に、センサー114は、CSFがポンプ116を通過する際のCSFの圧力を読み取り得る。CSFの圧力は、流体が温度制御ユニット110に向かって移動する際にセンサー114を用いて再び得られる。温度制御ユニット110は、採取されたCSFの温度を修正し得る。例えば、温度制御ユニット110はCSFを冷却または加温し得る。CSFが温度制御ユニット110を退出した後、CSFはCSFの圧力を読み取るように構成されたセンサー114、およびCSFの流量を読み取るように構成されたセンサー114を通過する。次に、CSFは、ポート108、カテーテル130の流出管腔216を通過し、目標頚胸境界部502において第2の複数のポート134を通ってカテーテル130を退出する。CSFの採取および返還は、脊髄、すなわち目標処置部位102の局所冷却をもたらし得る。このCSF冷却サイクルの制御および管理は処理ユニット118および/またはインタフェース120によって制御され、かつ監視され得る。これらの構成要素118,120は、処置ユニット106の他の構成要素に接続されてもよい。
【0128】
CSF冷却サイクル(脳室)。
図22~
図24は、脳室、すなわち処置部位202において、CSFを採取し、冷却し、返還するシステムおよび方法を示す。具体的には、
図22は、CSFがカテーテル130の第1の複数のポート132を用いて目標の脳室から採取されており、CSFは該CSFを冷却または他の場合には処置するために処置ユニット106内で処理され、処置されたCSFはカテーテル130の第2の複数のポート134を用いて脳室に返還されていることを示している。
図23は、第1および第2の複数のポート132,134が配置され得る領域を含むカテーテル130の一部を示している。
図24は、流入管腔212および流出管腔216を備えたカテーテル130の断面図を示す。CSFは、該CSFが第1ポート132を通って採取された後に流入管腔212を通過し得る。第2の複数のポート134を介して返還されているCSFは、流出管腔216を通過し得る。処置プロセスは、
図19~
図21に関して記載したプロセスに実質的に類似し得る。
【0129】
冷却およびCSF濾過サイクル(脊椎部分)。
図25~
図27は、脊椎部分においてCSFを採取し、ろ過し、返還して、脊椎部分を冷却する方法およびシステムを示す。具体的には、
図25は、CSFがカテーテル130の第1の複数のポート132を用いて目標の腰椎槽504から採取されており、CSFは処置ユニット106内のフィルタ112によってろ過され、ろ過されたCSFはカテーテル130の第2の複数のポート134を用いて目標頚胸境界部502に返還されていることを示している。該実施形態は、カテーテル130内を流れる伝熱流体を冷却して処置部位102の温度を変更するために温度制御ユニット110を用いた処置部位102の冷却をさらに提供する。
図26は、第1および第2の複数のポート132,134が配置され得る領域を含むカテーテル130の一部を示している。
図21は、流入管腔212、冷却管腔214、および流出管腔216を備えたカテーテル130の断面図を示す。CSFは、該CSFが第1ポート132を通って採取された後に流入管腔212を通過し得る。第2の複数のポート134を介して返還されているCSFは、流出管腔216を通過し得る。伝熱流体は冷却管腔214を通過し得る。
【0130】
サイクルは、長尺状カテーテル130の第1の複数のポート132を用いた処置部位202付近からのCSFの採取によって開始し得る。カテーテル130は、第1の複数のポート132が目標腰椎槽504内に位置し、かつ第2の複数のポートは目標頚胸境界部502内に位置するように留置され得る。他の適当な位置が用いられてもよい。CSFはカテーテル130の流入管腔212を通過し、ポート108を通って処置ユニット106に進入する。次に、CSFは、CSFの圧力を読み取るように構成されたセンサー114、次いでポンプ116を通過し得る。CSFの圧力は、流体がフィルタ112に向かって進む際にセンサー114を用いて再び得られる。フィルタ112はCSFから1つ以上の成分を分離してもよく、ろ別された物質は槽122に蓄積され、ろ過されたCSFは脊椎部分140に返還される。具体的には、CSFがフィルタ112を退出した後、そのCSFはポート、カテーテル130の流出管腔116を通過し、目標頚胸境界部502において第2の複数のポート134を通ってカテーテル130を退出する。
【0131】
槽122は、流体を貯蔵するための容器であり得る。例えば、フィルタ112を退出する流体は、槽122に蓄積されてもよい。槽122に蓄積された流体は、保管、廃棄物処理、処理、試験または他の用途のために保持され得る。槽122はまた、例えば、同一または異なるセットのフィルタを介した、後続のろ過、冷却または他の処理のための貯蔵器であってもよい。この流体は以前にろ過された流体と合わせられてもよいし、または合わせられなくてもよい。
【0132】
CSFのろ過の前、最中、または後に、温度制御ユニット110は一定体積の伝熱流体を冷却または加温し得る。次に、伝熱流体はカテーテル130の冷却管腔214内を流れて、処置部位102において冷却をもたらし得る。
【0133】
冷却およびCSF濾過サイクル(脳室)。
図28~
図30は、脳室内においてCSFを採取し、ろ過し、返還するシステムおよび方法の実施形態を示す。具体的には、
図28は、CSFがカテーテル130の第1の複数のポート132を用いて脳室から採取され、処置ユニット106内のフィルタ112によってろ過され、ろ過されたCSFはカテーテル130の第2の複数のポート134を用いて脳室に返還されている実施形態を示している。該実施形態は、カテーテル130内を流れる伝熱流体を冷却して処置部位102の温度を変更するために温度制御ユニット110を用いた処置部位102の冷却をさらに提供する。
図29は、第1および第2の複数のポート132,134が配置され得る領域を含むカテーテル130の一部を示している。
図30は、流入管腔212、冷却管腔214、および流出管腔216を備えたカテーテル130の断面図を示す。第1ポート132を介して採取されているCSFは流入管腔212を通過し得、第2の複数のポート134を介して返還されているCSFは流出管腔216を通過し得る。伝熱流体は、冷却管腔214を通過し得る。処置プロセスは、
図25~
図27に関して記載したプロセスに実質的に類似し得る。
【0134】
CSFを冷却および流出させるサイクル(脊椎部分)。
図31~
図33は、脊椎部分からCSFを流出させて、脊椎部分を冷却するシステムおよび方法の実施形態を示す。具体的には、
図31は、CSFがカテーテル130の第1および/または第2の複数のポート132,134用いて目標腰椎槽504および/または目標頚胸境界部から採取されており、採取されたCSFが槽122に蓄積されていることを示している。すべての実施形態に関して、任意の適当な位置が用いられ得る。該実施形態は、カテーテル130内を流れる伝熱流体を冷却して処置部位102の温度を変更するために温度制御ユニット110を用いた処置部位102の冷却をさらに提供する。
図32は、第1および第2の複数のポート132,134が配置され得る領域を含むカテーテル130の一部を示している。
図33は、流入管腔212および3つの冷却管腔214を備えたカテーテル130の断面図を示す。採取されたCSFは、流入管腔214を通過し得る。伝熱流体は冷却管腔214を通過し得る。
【0135】
サイクルは、長尺状カテーテル130の第1および/または第2の複数のポート132,134を用いた処置部位202から、またはその付近からのCSFの採取によって開始し得る。カテーテル130は、第1の複数のポート132が目標腰椎槽504内に位置し、かつ第2の複数のポートは目標頚胸境界部502内に位置するように留置され得る。CSFはカテーテル130の流入管腔212を通過し、ポート108を通って処置ユニット106に進入する。次に、CSFは、CSFの圧力を読み取るように構成されたセンサー114、次いでポンプ116を通過し得る。次に、CSFは槽122に蓄積される。
【0136】
CSFのろ過の前、最中、または後に、温度制御ユニット110は一定体積の伝熱流体を冷却または加温し得る。次に、伝熱流体はカテーテル130の冷却管腔214内を流れて、処置部位102において冷却をもたらし得る。伝熱流体は、流体の圧力を読み取るように構成されたセンサー114および該流体の流量を読み取るセンサー114を通過し得る。
【0137】
CSFを冷却および流出させるサイクル(脳室)。
図34~
図36は、脳室からCSFを流出させて、脳室を冷却するシステムおよび方法の実施形態を示す。具体的には、
図34は、CSFがカテーテル130の第1および/または第2の複数のポート132,134を用いて脳室から採取されており、採取されたCSFが槽122に蓄積されていることを示している。該実施形態は、カテーテル130内を流れる伝熱流体を冷却して処置部位102の温度を変更するために温度制御ユニット110を用いた処置部位102の冷却をさらに提供する。
図35は、第1および第2の複数のポート132,134が配置され得る領域を含むカテーテル130の一部を示している。
図36は、流入管腔212および3つの冷却管腔214を備えたカテーテル130の断面図を示す。採取されたCSFは、流入管腔214を通過し得る。伝熱流体は、冷却管腔214を通過し得る。CSFのろ過の前、最中、または後に、温度制御ユニット110は一定体積の伝熱流体を冷却または加温して、処置部位102において冷却をもたらす。処置プロセスは、
図31~
図33に関して記載したプロセスに実質的に類似し得る。
【0138】
ユーザインタフェース。
図37は、1つ以上の開示された実施形態とともに用いられ得るユーザインタフェースの例を示す。ユーザインタフェースとしては、とりわけ、患者識別子、処理されたCSFの量の測定値、ポンプが稼働している時間、エラーコードのリスト(コードの時間、番号および説明を含む)、フィルタで感知された圧力のグラフおよび/またはゲージ、対象から採取されたCSFの量のグラフおよび/またはゲージ、測定された流量のグラフおよび/またはゲージ、廃棄物槽に流れた流体の量のグラフおよび/またはゲージ、物質が槽内に蓄積している割合のグラフおよび/またはゲージ、センサーからの一連の生データ、および所望により他の情報が挙げられ得る。ユーザインタフェースはまた、ポンプをオンまたはオフするため、(例えばポンプのパラメータの変更により)流体がどれくらい迅速にシステムを通って流れるかを変更するため、背圧装置の位置および/またはステップパラメータを増大または低下させるため、システムをロックまたはロック解除するため、自動廃棄物制御をオンまたはオフするため、風袋を設定するため、注釈を残すため、および/または他の操作を実施するための制御のような、様々な制御を含み得る。
【0139】
実験
図38はウシ対象におけるCSF冷却の検討中に測定された脳実質温度を示す。脳実質の温度は、一定期間にわたって、脳室から3mm、脳室から8mm、および脳室から13mmの距離において測定された。本検討において、ウシ対象のCSFは二重管腔カテーテルを用いて採取され、冷却器によって冷却され、カテーテルを用いて対象に返還された。本検討は、3-オン-1温度センサーの使用を含んでいた。
【0140】
示したように、約8.3分において、CSFの流量は8mL/分であった。これは実質温度の測定可能な低下をもたらした。約53分において、流量は停止され、実質温度は脳室から3mm、8mmおよび13mmにおいて約36℃に上昇した。約66分において、流量は16mL/分に設定され、これは実質温度の測定可能な低下をもたらした。16mL/分の流量は、8mL/分の流量より約2倍速く温度を低下させた。約90分において、流量は停止され、温度は上昇した。
【0141】
該検討は、CSF冷却技術を用いて、脳室から13mmにおいてさえ、脳温度の統計的に有意な低下を示している。このように、CSF冷却技術は脳実質を冷却するために用いることができ、表面冷却法と比較して有利であり得る。
【0142】
図39は、第1カテーテル設計について、経時的に、かつ様々なCSF流量に対して測定されたカテーテル内における流入圧力および流出圧力(inlet and outlet pressure)を示す。示したように、カテーテルの流量が1mL/分から16mL/分まで増大するにつれ、カテーテルの流出圧力は増大する。
【0143】
図40は、第2カテーテル設計について、経時的に、かつ様々なCSF流量に対して測定されたカテーテル内における流入圧力および流出圧力を示す。示したように、カテーテルの流量が1mL/分から16mL/分まで増大するにつれ、カテーテルの流出圧力は増大する。
【0144】
カテーテルの安全な操作のために、カテーテル圧力を500mmHg未満に維持することは有益であり得る。
この開示内において、接続の言及(例えば、取り付けられた、結合された、接続された、接合された)は、一群の構成要素間の中間部材および構成要素間の相対運動を含み得る。そのような言及は、2つの構成要素が直接接続されており、互いに固定関係にあることを必ずしも意味しない。例示的な図面は例証のみを目的としており、本願に添付された図面に反映された寸法、位置、順番および相対的な大きさは変化してもよい。
【0145】
(付記)
好ましい実施形態として、上記実施形態から把握できる技術的思想について、以下記載する。
[項目1]
処置部位の局所冷却を提供するためのシステムであって、前記システムは、
CSF(脳脊髄液)含有空間を含む前記処置部位にアクセスするように構成されたカテーテルと、
前記カテーテルに結合され、前記処置部位と流体連通するポートを含む処置ユニットと、
を備え、
前記処置ユニットは、前記CSF含有空間から受けた所定量のCSFを冷却するように構成された温度制御ユニットを含み、かつ、
前記処置ユニットは、温度制御の速度を温度制御の目標速度と比較し、前記温度制御の速度が前記温度制御の目標速度と異なる場合には、温度制御の速度を変更するために処置のパラメータを更新するように構成される、システム。
[項目2]
前記CSF含有空間から前記所定量のCSFを除去するように構成される、項目1に記載のシステム。
[項目3]
冷却されたCSFの少なくとも一部を前記処置部位に返還するように構成される、項目2に記載のシステム。
[項目4]
前記カテーテルは、多管腔カテーテルである、項目1に記載のシステム。
[項目5]
前記多管腔カテーテルは、第1のポートまたは第1の複数のポートを含むとともに、前記多管腔カテーテルは、第2のポートまたは第2の複数のポートを含む、項目4に記載のシステム。
[項目6]
第1の量のCSFが、前記第1のポートまたは前記第1の複数のポートを通って前記多管腔カテーテルに入るように構成される、項目5に記載のシステム。
[項目7]
前記第1の量のCSFが、前記処置ユニットのポートに接続されたチューブを介して通るように構成される、項目6に記載のシステム。
[項目8]
第2の量のCSFが、前記チューブから通って、前記第2のポートまたは前記第2の複数のポートを通って前記多管腔カテーテルから出るように構成される、項目7に記載のシステム。
[項目9]
前記処置部位は、前記CSF含有空間内の第1位置を含み、本システムは、本システムに連結されるとともに前記第1位置とは異なる前記CSF含有空間内の第2位置に配置される、第2のカテーテルをさらに備える、項目1に記載のシステム。
[項目10]
前記処置ユニットと前記カテーテルとの間に配置されるチューブをさらに備える、項目1に記載のシステム。
[項目11]
前記処置ユニットは、ポンプを含む、項目1に記載のシステム。
[項目12]
前記処置ユニットは、前記所定量のCSFを濾過するように構成されたフィルタを含む、項目1に記載のシステム。
[項目13]
前記フィルタは、前記CSFからサイトカインを除去するように構成される、項目12に記載のシステム。
[項目14]
前記処置ユニットは、センサーを含む、項目1に記載のシステム。
[項目15]
前記センサーは、温度と、圧力と、前記処置部位への流体流量と、前記処置部位からの流体流量と、前記CSF中の汚染物質の量と、前記CSF中の汚染物質の種類と、流体の他の測定項目とのうち、少なくともいずれか1つ以上の組み合わせを感知するように構成される、項目14に記載のシステム。
上記の明細書は、以下で権利請求されるような例示的な実施形態の構造および使用法の完全な説明を提供する。権利請求される本発明の様々な実施形態は、ある程度の詳細事項とともに、または1つ以上の個々の実施形態に関連して上述されているが、当業者は、この開示の趣旨または範囲から逸脱することなく、開示した実施形態に対して多くの改変を行うことができる。従って、他の実施形態が企図される。上記の説明に含まれ、かつ添付図面に示された事項のすべては特定の実施形態の一例に過ぎず、限定するものではないと解釈されるものとすることが意図される。詳細または構造の変更は、以下の特許請求の範囲において定義されるような本開示の基本的な要素から逸脱することなく行われてもよい。