(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】プレス硬化したレーザー溶接鋼部品の製造方法及びプレス硬化したレーザー溶接鋼部品
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20240826BHJP
B23K 26/322 20140101ALI20240826BHJP
B23K 26/323 20140101ALI20240826BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240826BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240826BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240826BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240826BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20240826BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20240826BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
B23K26/21 W
B23K26/21 F
B23K26/322
B23K26/323
C22C38/00 301T
C22C38/00 301Z
C22C38/00 302A
C22C38/60
C22C38/58
C21D9/00 A
C21D1/18 C
B23K35/30 320A
C22C21/02
(21)【出願番号】P 2022195384
(22)【出願日】2022-12-07
(62)【分割の表示】P 2020567655の分割
【原出願日】2019-02-26
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/051237
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フランシス・シュミ
(72)【発明者】
【氏名】マリア・ポワリエ
(72)【発明者】
【氏名】サドク・ガイド
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/147035(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/050711(WO,A1)
【文献】特表2013-527312(JP,A)
【文献】特表2017-512137(JP,A)
【文献】特表2013-503748(JP,A)
【文献】特開2013-204090(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106363301(CN,A)
【文献】特表2009-534529(JP,A)
【文献】特表2017-514694(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006144(WO,A1)
【文献】特許第5334854(JP,B2)
【文献】糟谷 正,継手疲労強度向上フラックス入りワイヤSX-1LD,溶接学会誌,第78巻第4号,日本,2009年,P244-247,https://doi.org/10.2207/jjws.78.244
【文献】百合岡 信孝、児嶋 一浩,溶接金属引張強さの予測式,溶接学会論文集,第22巻第1号,日本,2004年,p53-60,https://doi.org/10.2207/qjjws.22.53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B23K 35/30
C22C 38/00、38/58、38/60
C21D 9/00
C21D 1/18
C22C 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス硬化したレーザー溶接鋼部品の製造方法であって、以下の連続工程、すなわち
- 第1のプレコート鋼板(1)及び第2のプレコート鋼板(2)を提供する工程であって、第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)の各々は、鋼基材(3、4)を含み、第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)の少なくとも一方は、その主面の少なくとも一方の上に、少なくとも50重量%のアルミニウムを含むアルミニウム含有プレコート(7、8)を有し、
第1のプレコート鋼板(1)は第1の厚さ(t
1)を有し、第2のプレコート鋼板(2)は第2の厚さ(t
2)を有し、
第1のプレコート鋼板(1)の基材(3、4)は、プレス硬化後に、第2のプレコート鋼板(2)の基材(4)のプレス硬化後の最大抗張力(Ts
2)より厳密に大きい最大抗張力(Ts
1)を有し、
第1の厚さ(t
1)とプレス硬化後の第1のプレコート鋼板(1)の最大抗張力(Ts
1)との積が、第2の厚さ(t
2)とプレス硬化後の第2のプレコート鋼板(2)の最大抗張力(Ts
2)との積よりも厳密に大きい、提供工程、次いで、
- 少なくとも、最大で0.05重量%のアルミニウムを含む溶加材を場合により用いて、提供工程で提供された第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)を突き合わせ溶接して得られた溶接継手(22)における理論上の平均アルミニウム含有率(Al
th
weld)が1.25重量%よりも厳密に大きいならば、第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)の少なくとも一方の溶接縁部(14)における少なくとも1つの主面(5、6)上のアルミニウム含有プレコート(7、8)を、その厚さの少なくとも一部にわたって除去する工程であって、その結果、最大で0.05重量%のアルミニウムを含む溶加材を場合により用いて、このように作製された第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)を突き合わせ溶接して得られた溶接継手(22)の理論上の平均アルミニウム含有率(Al
th
weld)が、0.5重量%~1.25重量%の間に含まれる、除去工程、
- 第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)の間の溶接継手(22)を得るためにレーザー溶接を用いて第1のプレコート鋼板(1)と第2のプレコート鋼板(2)とを突き合わせ溶接し、それにより溶接ブランク(15)を得る、溶接工程であって、溶接工程は溶加材(20)の使用を場合により含む、突き合わせ溶接工程、
- 溶接ブランク(15)を熱処理温度(T
t)まで加熱する工程であって、熱処理温度(T
t)は、溶接継手(22)の完全オーステナイト化温度(Ac3(WJ))より少なくとも10℃低く、且つ最低温度T
minより少なくとも15℃高く、ここで、
【数1】
であり、式中、
Ac3(WJ)は溶接継手(22)の完全オーステナイト化温度であり、℃で表され、Alは溶接継手(22)のアルミニウムの含有率であり、重量%で表され、
α
max
ICは次式により算出した溶接継手(22)の最大変態区間フェライト含有率であり、
【数2】
式中、
Ts
1はプレス硬化後の最強基材(3)の最大抗張力であり、MPaで表され、
Ts
2はプレス硬化後の最弱基材(4)の最大抗張力であり、MPaで表され、
C
FWは、溶加材の炭素含有率であり、重量%で表され、
βは、溶接プールに添加される溶加材の割合であり、0~1の間に含まれ、
ρは、最弱基材を含むプレコート鋼板(2)の厚さと、最強基材を含むプレコート鋼板(1)の厚さとの比(ρ=t
2/t
1)であり、
溶接ブランク(15)を熱処理温度(T
t)で2~10分の間に含まれる時間保持する工程、
- 溶接ブランク(15)を鋼部品にプレス成形する工程、並びに
- このようにして成形された鋼部品を、プレス硬化された溶接鋼部品を得るために、第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)の基材(3、4)の中で最も硬化可能な基材の臨界マルテンサイト又はベイナイト冷却速度以上の冷却速度で冷却する工程を含み、
プレス硬化後、第1のプレコート鋼板(1)の基材(3)の最大抗張力(Ts
1)と第2のプレコート鋼板(2)の基材(4)の最大抗張力(Ts
2)との比が1.4以上である、方法。
【請求項2】
第1のプレコート鋼板(1)の基材(3)の炭素含有率が、第2のプレコート鋼板(2)の基材(4)の炭素含有率より少なくとも0.05重量%高い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
提供工程で提供される第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)の各々が、その主面(5、6)の少なくとも一方上に少なくとも50重量%のアルミニウムを含むアルミニウム含有プレコート(7、8)を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
提供工程で提供される第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)が、その主面(5、6)の両方に少なくとも50重量%のアルミニウムを含むアルミニウム含有プレコート(7、8)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
突き合わせ溶接時において、アルミニウム含有プレコート(7、8)が、第1のプレコート鋼板(1)及び第2のプレコート鋼板(2)のうちの少なくとも一方の、両方の主面(5、6)上に完全に備わったままである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
最大で0.05重量%のアルミニウムを含有する溶加材を場合により用いて、提供工程で提供された第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)を突き合わせ溶接して得られる溶接継手(22)の理論上の平均アルミニウム含有率が、0.5重量%~1.25重量%の間に含まれている場合であっても、突き合わせ溶接に先立って、その少なくとも1つの主面(5、6)上のアルミニウム含有プレコート(7、8)をその厚さの少なくとも一部にわたって除去することにより、第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)のうちの少なくとも一方の溶接縁部(14)を作製する工程をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)のうち少なくとも一方について、基材(3、4)の鋼が、重量で、
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)のうち少なくとも一方について、基材(3、4)の鋼が、重量で、
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)のうち少なくとも一方について、基材(3、4)の鋼が、重量で、
0.040%≦C≦0.100%
0.70%≦Mn≦2.00%
Si≦0.50%
S≦0.009%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.2%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)のうち少なくとも一方について、基材(3、4)の鋼が、重量で、
0.06%≦C≦0.100%
1.4%≦Mn≦1.9%
0.2%≦Si≦0.5%
0.010%≦AI≦0.070%
0.04%≦Nb≦0.06%
3.4×N≦Ti≦8×N
0.02%≦Cr≦0.1%
0.0005%≦B≦0.004%
0.001%≦S≦0.009%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)のうち少なくとも一方について、基材(3、4)の鋼が、重量で、
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦AI≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、チタンと窒素の含有率が次の関係を満たし、
Ti/N>3.42
炭素、マンガン、クロム及びケイ素の含有率が次の関係を満たし、
【数3】
鋼は、以下の元素の1つ以上を任意選択的に含み、
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%
0.0005%≦Ca≦0.005%
残部は鉄及び製造に不可避的に起因する不純物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
レーザー溶接が、保護ガ
スを用いて実施される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
保護ガスが、ヘリウム若しくはアルゴン、又はこれらのガスの混合物である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第1及び第2のプレコート鋼板(1、2)が異なる厚さを有する、請求項1~1
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
溶接が、溶加材を使用せずに実施される、請求項1~1
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
溶接が、溶加材を用いて実施される、請求項1~1
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
溶加材は、重量で、以下の組成、すなわち
0.1%≦C≦1.2%
0.01%≦Mn≦10%
0.02%≦Ni≦7%
0.02%≦Cr≦5%
0.01%≦Si≦2%
任意に、
微量≦Mo≦1%
微量≦Ti≦0.1%
微量≦V≦0.1%
微量≦B≦0.01%
微量≦Nb≦0.1%
微量≦Al≦0.05%
を有し、残部は鉄及び製造に不可避的に起因する不純物である、請求項1
6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス硬化したレーザー溶接鋼部品の製造方法及びこのようにして得られたプレス硬化したレーザー溶接鋼部品に関する。
【背景技術】
【0002】
この種類の鋼部品は、特に自動車産業において使用され、より詳細には、侵入防止若しくは衝撃吸収部品、構造部品又は自動車の安全性に寄与する部品のような衝突管理部品の製造に使用される。
【0003】
このような種類の部品については、自動車製造業者は、溶接継手が、溶接された鋼部品の最も弱いゾーンを構成すべきではないと指示している。
【0004】
腐食を防止するために、このような溶接鋼部品の製造に用いられる鋼板には、アルミニウム含有浴中で溶融めっきを経てアルミニウムベースのプレコートがプレコートされている。事前の準備なしに鋼板を溶接すると、アルミニウムベースのプレコートは溶接作業中に溶融金属内で鋼基材で希釈される。アルミニウムは溶融金属の完全オーステナイト化温度を上昇させる傾向があり、したがって従来の熱処理温度を用いる熱間成形中のオーステナイトへの完全な変態を妨げる。その結果、熱間成形処理中に行われるプレス冷却中に溶接継手中に完全にマルテンサイト又はベイナイトの微細組織を得ることがもはやできなくなることがある。
【0005】
さらに、溶接継手の完全なオーステナイト化を可能にするであろうより高い熱処理温度を使用することは不可能である。というのは、塗料の接着性及び/又はプレス硬化部品のスポット溶接性に潜在的な負の影響を及ぼすコートの過合金化をもたらすであろうからである。
【0006】
このような状況に直面し、このようなプレコート鋼板から部品を製造する場合、従来の熱処理温度を用いる熱間成形及び焼入れ後の溶接継手において完全なマルテンサイト組織を得ることができるようにするために、従来技術において2種類の解決法が開発された。
【0007】
特に、EP2007545は、溶接継手におけるアルミニウムの総含有率を著しく減少させ、その結果プレコート鋼板の母材の完全オーステナイト化温度に近い完全オーステナイト化温度を得るように、プレコート鋼板の溶接端部における金属合金の表層を除去することからなる第1の解決法を記載する。
【0008】
さらに、EP2737971、US2016/0144456及びWO2014075824は、炭素、マンガン又はニッケルなどのオーステナイト安定化元素を含む溶加材ワイヤを用いてプレコート鋼板を溶接し、溶接継手内のアルミニウムの存在を相殺し、その完全オーステナイト化温度を低下させることからなり、従来の熱処理温度を用いる熱間成形及び焼入れ後に溶接継手内に完全なマルテンサイト組織が得られるようになる第2の解決法を記載する。
【0009】
しかし、これらの方法は完全に満足できるものではない。
【0010】
実際、第1の解決法は比較的時間がかかる。さらに、第2の方法は、熱処理後に溶接継手に完全マルテンサイト組織を得ることができるようにするために比較的多量のオーステナイト形成元素の添加を必要とする場合がある。この添加は製造コストを増加させ、さらに満足できない接継手形状、又はプレコート鋼板と溶接継手内の溶加材ワイヤとからの材料間の不均質な混合から生じる問題を、局所的に残留オーステナイトを有するリスクを伴ってもたらす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】欧州特許出願公開第2007545号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2737971号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0144456号明細書
【文献】国際公開第2014/075824号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の目的は、比較的低コストで、溶接継手内の比較的高いアルミニウム含有率に対しても、満足できる衝突性能特性を有する部品をプレス硬化後に得ることを可能にするような、プレコート板2枚から溶接鋼ブランクを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のために、本発明は、以下の連続工程、すなわち
- 第1のプレコート鋼板及び第2のプレコート鋼板を提供する工程であって、第1及び第2のプレコート鋼板の各々は、鋼基材を含み、第1及び第2のプレコート鋼板の少なくとも一方は、その主面の少なくとも一方の上に、少なくとも50重量%のアルミニウムを含むアルミニウム含有プレコートを有し、
第1のプレコート鋼板は第1の厚さを有し、第2のプレコート鋼板は第2の厚さを有し、
第1のプレコート鋼板の基材は、プレス硬化後に、第2のプレコート鋼板の基材のプレス硬化後の最大抗張力より厳密に大きい最大抗張力を有し、
第1の厚さと第1のプレコート鋼板のプレス硬化後の最大抗張力との積が、第2の厚さと第2のプレコート鋼板の最大抗張力との積よりも厳密に大きい、提供工程、次いで、
- 少なくとも、最大で0.05重量%のアルミニウムを含む溶加材を場合により用いて、提供工程で提供された第1及び第2のプレコート鋼板を突き合わせ溶接して得られた溶接継手における理論上の平均アルミニウム含有率が1.25重量%よりも厳密に大きいならば、第1及び第2のプレコート鋼板の少なくとも一方の溶接縁部又は溶接されるべき縁部における少なくとも1つの主面上のアルミニウム含有プレコートを、その厚さの少なくとも一部にわたって除去する工程であって、その結果、最大で0.05重量%のアルミニウムを含む溶加材を場合により用いて、このように作製された第1及び第2のプレコート鋼板を突き合わせ溶接して得られた溶接継手中の理論上の平均アルミニウム含有率が、0.5重量%~1.25重量%の間に含まれる、除去工程、
- 第1及び第2のプレコート鋼板の間に溶接継手を得るためにレーザー溶接を用いて第1のプレコート鋼板と第2のプレコート鋼板とを突き合わせ溶接し、それにより溶接ブランクを得る、溶接工程であって、溶接工程は溶加材の使用を場合により含む、突合せ溶接工程、
- 溶接ブランクを熱処理温度まで加熱する工程であって、熱処理温度は、溶接継手の完全オーステナイト化温度より少なくとも10℃低く、且つ最低温度T
minより少なくとも15℃高く、ここで、
【数1】
であり、式中、
Ac3(WJ)は溶接継手の完全オーステナイト化温度であり、℃で表され、Alは溶接継手のアルミニウムの含有率であり、重量%で表され、
α
max
ICは次式を用いて算出した溶接継手の最大変態区間フェライト含有率であり、
【数2】
式中、
Ts
1はプレス硬化後の最強基材の最大抗張力であり、MPaで表され、
Ts
2はプレス硬化後の最弱基材の最大抗張力であり、MPaで表され、
C
FWは、溶加材の炭素含有率であり、重量%で表され、
βは、溶接プールに添加される溶加材の割合であり、0~1の間に含まれ、
ρは、最弱基材を含むプレコート鋼板の厚さと、最強基材を含むプレコート鋼板の厚さとの比(ρ=t
2/t
1)であり、
溶接ブランクを該熱処理温度で2~10分の間に含まれる時間保持する工程、
- 溶接ブランクを鋼部品にプレス成形する工程、並びに
- このようにして成形された鋼部品を、プレス硬化した溶接鋼部品を得るために、第1及び第2のプレコート鋼板の基材の中で最も硬化可能な基材の臨界マルテンサイト又はベイナイト冷却速度以上の冷却速度で冷却する工程
を含むプレス硬化したレーザー溶接鋼部品の製造方法に関する。
【0014】
方法の特定の実施形態によると、
- アルミニウム含有プレコートを除去する工程は、以下の場合に実施され、
- 最大で0.05重量%のアルミニウムを含有する溶加材を場合により用いて、提供工程で提供された第1及び第2のプレコート鋼板を突き合わせ溶接して得られる溶接継手の理論上の平均アルミニウム含有率が、厳密に1.25重量%を超える場合、
及び任意選択的に、最大で0.05重量%のアルミニウムを含有する溶加材を場合により用いて、提供工程で提供された第1及び第2のプレコート鋼板を突き合わせ溶接して得られる溶接継手の理論上の平均アルミニウム含有率が、0.5重量%~1.25重量%の間に含まれ、より詳細には0.5重量%を超える場合、
この工程は、最大で0.05重量%のアルミニウムを含有する溶加材を場合により用いて、このように作製された第1及び第2のプレコート鋼板を突き合わせ溶接して得られる溶接継手の理論上の平均アルミニウム含有率が、0.5重量%~1.25重量%の間に含まれるように実施され、
【0015】
- 加熱工程の終了時に、第1及び第2のプレコート鋼板の基材の微細構造は完全にオーステナイトであり、
- 第1のプレコート鋼板の基材のプレス硬化後の最大抗張力と第2のプレコート鋼板の基材のプレス硬化後の最大抗張力との比は1.2以上であり、
【0016】
- 第1のプレコート鋼板の基材の炭素含有率が、第2のプレコート鋼板の基材の炭素含有率より少なくとも0.05重量%高く、
【0017】
- 提供工程で提供される第1及び第2のプレコート鋼板の各々は、その主面の少なくとも一方の上に少なくとも50重量%のアルミニウムを含むアルミニウム含有プレコートを含み、
【0018】
- 提供工程で提供される第1及び第2のプレコート鋼板は、その主面の両方に少なくとも50重量%のアルミニウムを含むアルミニウム含有プレコートを含み、
【0019】
-突き合わせ溶接時、アルミニウム含有プレコートは、第1のプレコート鋼板及び第2のプレコート鋼板の少なくとも一方の、例えば第1及び第2のプレコート鋼板の各々の、両方の主面上に完全に備わったままであり、
【0020】
- 本方法は、最大で0.05重量%のアルミニウムを含有する溶加材を場合により用いて、提供工程で提供された第1及び第2のプレコート鋼板を突き合わせ溶接して得られる溶接継手の理論上の平均アルミニウム含有率が、0.5重量%~1.25重量%の間に含まれる場合であっても、突き合わせ溶接の前に、その少なくとも1つの主面上のアルミニウム含有プレコートをその厚さの少なくとも一部にわたり除去することにより、少なくとも部分的に溶接継手に取り込まれることを意図している、第1及び第2のプレコート鋼板のうちの少なくとも一方の溶接縁を作製する工程をさらに含み、
【0021】
- 本方法は、最大で0.05重量%のアルミニウムを含有する溶加材を場合により用いて、提供工程で提供された第1及び第2のプレコート鋼板を突き合わせ溶接して得られる溶接継手の理論上の平均アルミニウム含有率が、0.5重量%~1.25重量%の間に含まれる場合であっても、突き合わせ溶接の前に、その少なくとも1つの主面上のアルミニウム含有プレコートをその厚さの少なくとも一部にわたり除去することにより、少なくとも部分的に溶接継手に取り込まれることを意図している、第1及び第2のプレコート鋼板のうちの少なくとも一方の溶接縁を作製する工程をさらに含み、除去工程は、最大で0.05重量%のアルミニウムを含有する溶加材を場合により用いて、このように作製された第1及び第2のプレコート鋼板を突き合わせ溶接して得られる溶接継手の理論上の平均アルミニウム含有率が、0.5重量%~1.25重量%の間に含まれるように実施され、
【0022】
- 第1及び第2のプレコート鋼板のうち少なくとも一方について、基材の鋼が、重量で、
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物であり、
【0023】
- 第1及び第2のプレコート鋼板のうち少なくとも一方について、基材の鋼が、重量で、
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物であり、
【0024】
- 第1及び第2のプレコート鋼板のうち少なくとも一方について、基材の鋼が、重量で、
0.040%≦C≦0.100%
0.70%≦Mn≦2.00%
Si≦0.50%
S≦0.009%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.2%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物であり、
【0025】
- 第1及び第2のプレコート鋼板のうち少なくとも一方について、基材の鋼が、重量で、
0.06%≦C≦0.100%
1.4%≦Mn≦1.9%
0.2%≦Si≦0.5%
0.010%≦AI≦0.070%
0.04%≦Nb≦0.06%
3.4×N≦Ti≦8×N
0.02%≦Cr≦0.1%
0.0005%≦B≦0.004%
0.001%≦S≦0.009%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物であり、
【0026】
- 第1及び第2のプレコート鋼板のうち少なくとも一方について、基材の鋼が、重量で、
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦AI≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、チタンと窒素の含有率が次の関係を満たし、
Ti/N>3.42
炭素、マンガン、クロム及びケイ素の含有率が次の関係を満たし、
【数3】
鋼は、以下の元素の1つ以上を任意選択的に含み、
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%
0.0005%≦Ca≦0.005%
残部は鉄及び製造に不可避的に起因する不純物であり、
【0027】
- レーザー溶接は保護ガス、特にヘリウム及び/又はアルゴンを用いて行われ、並びに
【0028】
- 第1及び第2のプレコート鋼板は異なる厚さを有する。
【0029】
本発明は、さらに、プレス硬化したレーザー溶接鋼部品に関し、鋼部品は、第1の被覆鋼部品部分及び第2の被覆鋼部品部分を含み、
各被覆鋼部品部分は、鋼基材を含み、第1の被覆鋼部品部分及び第2の被覆鋼板のうちの少なくとも一方は、その主面のうちの少なくとも一方の上に、少なくとも30重量%のアルミニウムを含むアルミニウム含有コートを有し、
第1の被覆鋼部品部分は第1の厚さを有し、第2の被覆鋼板は第2の厚さを有し、第1の被覆鋼部品部分の基材は、第2の被覆鋼部品部分の基材の最大抗張力よりも厳密に大きい最大抗張力を有し、第1の厚さと第1の被覆鋼部品部分の最大抗張力との積は、第2の厚さと第2の被覆鋼部品部分の最大抗張力との積よりも厳密に大きく、
第1及び第2の被覆鋼部品部分は溶接継手によって接合され、溶接継手は0.5重量%~1.25重量%の間に含まれるアルミニウム含有率を有し、溶接継手の微細組織はマルテンサイト及び/又はベイナイトを含み、並びに変態区間フェライト分率が15%~最大変態区間フェライト分率-5%で構成される変態区間フェライトの画分を含み、最大変態区間フェライト分率は以下の式を用いて決定され、
【数4】
式中、
Ts
1はプレス硬化後の最強基材の最大抗張力であり、MPaで表され、
Ts
2はプレス硬化後の最弱基材の最大抗張力であり、MPaで表され、
βは、溶接プールに添加される溶加材の割合であり、0~1の間に含まれ、
C
FWは、溶加材の炭素含有率であり、重量%で表され、
ρは、最弱基材を含む被覆鋼部品部分の厚さと、最強基材を含む被覆鋼部品部分の厚さとの比(ρ=t
2/t
1)であり、
並びに
第1及び第2の被覆鋼部品部分のうちの少なくとも一方の基材は主にマルテンサイト及び/又はベイナイト微細組織を有する。
【0030】
鋼部品の特定の実施形態によれば、第1の被覆鋼部品部分の基材の最大抗張力と第2の被覆鋼部品部分の基材の最大抗張力との比は、1.2以上であり、
【0031】
- 第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち少なくとも一方について、基材の鋼が、重量で、
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物であり、
【0032】
- 第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち少なくとも一方について、基材の鋼が、重量で、
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物であり、
【0033】
- 第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち少なくとも一方について、基材の鋼が、重量で、
0.040%≦C≦0.100%
0.70%≦Mn≦2.00%
Si≦0.50%
S≦0.005%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.2%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物であり、
【0034】
- 第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち少なくとも一方について、基材の鋼が、重量で、
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦AI≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、チタンと窒素の含有率が次の関係を満たし、
Ti/N>3.42
炭素、マンガン、クロム及びケイ素の含有率が次の関係を満たし、
【数5】
鋼は、以下の元素の1つ以上を任意選択的に含み、
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%
0.0005%≦Ca≦0.005%
残部は鉄及び製造に不可避的に起因する不純物であり、及び
【0035】
- 第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち少なくとも一方について、基材の鋼が、重量で、
0.06%≦C≦0.100%
1.4%≦Mn≦1.9%
0.2%≦Si≦0.5%
0.010%≦AI≦0.070%
0.04%≦Nb≦0.06%
3.4×N≦Ti≦8×N
0.02%≦Cr≦0.1%
0.0005%≦B≦0.004%
0.001%≦S≦0.009%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である。
【0036】
本発明は、添付の図を参照しながら、例としてのみ与えられた以下の明細書を読むことにより、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明に係る方法の溶接工程の開始の概略断面図である。
【
図2】前記溶接工程の終了時に得られた溶接ブランクの概略断面図である。
【
図3】作製工程後のプレコート鋼板の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
特許出願全体において、元素の含有率は重量パーセント(重量%)で表される。
【0039】
本発明は、プレス硬化したレーザー溶接鋼部品の製造方法に関する。
【0040】
より詳細には、本方法は、第1のプレコート鋼板1及び第2のプレコート鋼板2を提供する第1の工程を含む。
【0041】
各プレコート鋼板1、2は、2つの対向する主面5、6、及び該2つの対向する主面5、6の間を一方の主面5、6から他方の主面に延びる少なくとも1つの側面13を備える。
図3に示す例では、プレコート鋼板1、2は、4つの側面13を備える。例えば側面13は、主面5、6の一方と60°~90°の間に含まれる角度を形成する。
【0042】
図1に示すように、各プレコート鋼板1、2は、その主面の少なくとも一方の上にアルミニウム含有プレコート7、8を有する金属基材3、4を含む。プレコート7、8は、基材3、4上に重ね合わされ、それに接している。
【0043】
金属基材3、4は、より詳細には鋼基材である。
【0044】
また、基材3、4の鋼は、より詳細には、フェライト-パーライト(ferrito-perlitic)微細組織を有する鋼である。
【0045】
好ましくは、基材3、4は、熱処理を目的とした鋼、より詳細にはプレス硬化可能な鋼、例えば22MnB5型鋼のようなマンガン-ホウ素鋼で構成される。
【0046】
一実施形態によれば、基材3、4の鋼は、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である。
【0047】
より詳細には、基材3、4の鋼は、重量で
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である。
【0048】
代替案によれば、基材3、4の鋼は、重量で
0.040%≦C≦0.100%
0.70%≦Mn≦2.00%
Si≦0.50%、より詳細にはSi≦0.30%
S≦0.009%、より詳細にはS≦0.005%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.2%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である。
【0049】
代替案によれば、基材3、4の鋼は、重量で
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦AI≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、チタンと窒素の含有率が次の関係を満たし、
Ti/N>3.42
炭素、マンガン、クロム及びケイ素の含有率が次の関係を満たし、
【数6】
鋼は、以下の元素の1つ以上を任意選択的に含み、
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%
0.0005%≦Ca≦0.005%
残部は鉄及び製造に不可避的に起因する不純物である。
【0050】
代替案によれば、基材3、4の鋼は、重量で
0.06%≦C≦0.100%
1.4%≦Mn≦1.9%
0.2%≦Si≦0.5%
0.010%≦AI≦0.070%
0.04%≦Nb≦0.06%
3.4×N≦Ti≦8×N
0.02%≦Cr≦0.1%
0.0005%≦B≦0.004%
0.001%≦S≦0.009%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である。
【0051】
基材3、4は、その所望の厚さに応じて、熱間圧延及び/又は冷間圧延に続く焼鈍によって、又は他の適切な方法によって得ることができる。
【0052】
基材3、4は、有利には、0.6mm~5mmの間に含まれる、より詳細には0.8mm~5mmの間に含まれる、さらにより詳細には1.0mm~2.5mmの間に含まれる厚さを有する。
【0053】
一例によれば、第1のプレコート鋼板1の基材3の厚さは、第2のプレコート鋼板2の基材4の厚さと異なる。
【0054】
代替案によれば、第1及び第2のプレコート鋼板1、2の基材3、4は、同じ厚さを有する。
【0055】
本発明によれば、第1のプレコート鋼板1の基材3は、プレス硬化後、第2のプレコート鋼板2の基材4のプレス硬化後の最大抗張力Ts2より厳密に大きい最大抗張力Ts1を有する。
【0056】
これに関連して、「プレス硬化後」とは、考慮した鋼基材の完全オーステナイト化温度Ac3以上の温度まで加熱し、初期状態と比較して硬化を得るように、ホットプレス成形し、その後冷却する後を意味する。
【0057】
例えば、プレス硬化後の第1のプレコート鋼板1の基材3の最大抗張力Ts1は、1400MPa~1600MPaの間又は1700MPa~2000MPaの間に含まれる。
【0058】
例えばプレス硬化後の第2のプレコート鋼板2の基材3の最大抗張力Ts2は、500MPa~700MPaの間又は1000MPa~1200MPaの間に含まれる。
【0059】
例えばプレス硬化後の第1のプレコート鋼板1の基材3の最大抗張力Ts1とプレス硬化後の第2のプレコート鋼板2の基材4の最大抗張力Ts2との比(Ts1/Ts2)は、1.2以上、より詳細には1.4以上である。
【0060】
さらに、第1プレコート鋼板1は、第1の厚さt1を有する。第2のプレコート鋼板1は、第2の厚さt2を有する。
【0061】
厚さt1、t2は、例えば、0.6mm~5mmの間に含まれ、より詳細には0.8mm~5mmの間に含まれ、さらにより詳細には1.0mm~2.5mmの間に含まれる。
【0062】
一実施形態によれば、厚さt1及びt2は同一である。代替案によると、厚さt1及びt2は異なる。
【0063】
第1の厚さt1と第1のプレコート鋼板1の最大抗張力Ts1との積は、第2の厚さt2と第2のプレコート鋼板1の最大抗張力Ts2との積よりも厳密に大きい。
【0064】
特に、第1及び第2のプレコート鋼板1、2の基材3及び4の組成は、上記の組成の中から選択される。
【0065】
例えば第1のプレコート鋼板1の基材3の鋼は、重量で
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である。
【0066】
別の例によると、第1のプレコート鋼板1の基材3の鋼は、重量で
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦AI≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、チタンと窒素の含有率が次の関係を満たし、
Ti/N>3.42
炭素、マンガン、クロム及びケイ素の含有率が次の関係を満たし、
【数7】
鋼は、以下の元素の1つ以上を任意選択的に含み、
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%
0.0005%≦Ca≦0.005%
残部は鉄及び製造に不可避的に起因する不純物である。
【0067】
例えば第2のプレコート鋼板2の基材4の鋼は、重量で
0.040%≦C≦0.100%
0.70%≦Mn≦2.00%
Si≦0.50%、より詳細にはSi≦0.30%
S≦0.009%、より詳細にはS≦0.005%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.2%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である。
【0068】
別の例によると、第2のプレコート鋼板2の基材4の鋼は、重量で
0.06%≦C≦0.100%
1.4%≦Mn≦1.9%
0.2%≦Si≦0.5%
0.010%≦AI≦0.070%
0.04%≦Nb≦0.06%
3.4×N≦Ti≦8×N
0.02%≦Cr≦0.1%
0.0005%≦B≦0.004%
0.001%≦S≦0.009%
を含み、残部は鉄及び製造に起因する不純物である。
【0069】
好ましくは、第1のプレコート鋼板1の基材3の炭素含有率は、第2のプレコート鋼板2の基材4の炭素含有率よりも少なくとも0.05重量%高い。
【0070】
本発明によれば、第1のプレコート鋼板1及び第2のプレコート鋼板2のうちの少なくとも一方について、アルミニウム含有プレコート7、8は、少なくとも50重量%のアルミニウムを含む。
【0071】
好ましくは、プレコート7、8は、溶融めっき、すなわち、基材3、4を溶融金属の浴に浸漬することによって得られる。この場合、
図1に示すように、プレコート7、8は、基材3、4に接触する少なくとも金属間化合物合金層(intermetallic alloy layer)9、10を含む。
【0072】
金属間化合物合金層9、10は、少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間化合物を含む。金属間化合物合金層9、10は、特に基材3,4と浴の溶融金属との反応により形成される。より詳細には、金属間化合物合金層9、10は、Fex-Aly型、より詳細にはFe2Al5の金属間化合物を含む。
【0073】
図1に示す例では、プレコート7、8は、金属間化合物合金層9、10の上に延びる金属合金層11、12をさらに含む。この金属合金層11、12は、浴中の溶融金属の組成に近い組成を有する。金属合金層11、12は、溶融めっき中に溶融金属浴中を通過する際に板が持ち去る溶融金属によって形成される。
【0074】
金属合金層11、12は、例えばアルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベースの合金の層である。
【0075】
これに関連して、アルミニウム合金とは、50重量%を超えるアルミニウムを含む合金を指す。アルミニウムベースの合金とは、重量でアルミニウムを主成分とする合金である。
【0076】
例えば金属合金層11、12は、ケイ素をさらに含むアルミニウム合金の層である。より詳細には、金属合金層11、12は重量で
- 8%≦Si≦11%、
- 2%≦Fe≦4%
を含み、残部はアルミニウム及び可能性のある不純物である。
【0077】
金属合金層11、12は、例えば19μm~33μmの間、又は10μm~20μmの間に含まれる厚さを有する。
【0078】
プレコート7、8が金属合金層11、12を含む
図1に示す例では、金属間化合物合金層9、10の厚さは一般に数μm程度である。特に、その平均厚さは、典型的には2~7マイクロメートルの間に含まれる。
【0079】
溶融めっきによって得られる金属間化合物合金層9、10及び金属合金層11、12を含むプレコート7、8の特定の組織は、特に特許EP2007545に開示されている。
【0080】
別の実施形態によれば、アルミニウム含有プレコート7、8は、上記の金属間化合物合金層9、10のみを含む。この場合、金属間化合物合金層9、10の厚さは、例えば10μm~40μmの間に含まれる。金属間化合物合金層9、10からなるこのようなプレコート7、8は、例えば上で開示された金属間化合物合金層9、10及び金属合金層11、12を含むプレコート7、8を予備合金化処理に供することにより得ることができる。このような予備合金化処理は、プレコート7、8と基材3、4とをプレコート7、8の厚さの少なくとも一部にわたって合金化するように選択された温度及び保持時間で行われる。
【0081】
より詳細には、予備合金化処理は、以下の工程、すなわち板を620~1000℃の間に含まれる予備合金化温度まで加熱する工程、使用される処理温度に応じて数分から数時間の間で変化する時間の間この温度で予備合金化された板を保持する工程を含む。この場合、金属間化合物合金層9、10は、それ自体、Fe2Al5、FeAl3、FeAl、Fe6Al12Si5及びFeAl3副層のような異なる金属間化合物副層で構成することができる。
【0082】
有利なことに、
図1に示されるように、基材3、4は、その主面の両方に上記のアルミニウム含有プレコート7、8を備える。
【0083】
第1及び第2のプレコート鋼板1、2は、同一のプレコート7、8を担持することができる。
【0084】
あるいは、第1及び第2のプレコート鋼板1、2のプレコート7、8は、異なる組成を有していてもよい。
【0085】
次いで、溶加材を場合により用いて、上記の第1及び第2のプレコート鋼板1、2間の突き合わせ溶接によって得られた溶接継手22におけるアルミニウムの理論上の平均含有率を求める。
【0086】
溶加材が使用されることを意図する場合、溶加材は、0.05重量%以下のアルミニウム含有率を有する鋼ベースの溶加材であることが好ましい。
【0087】
この決定は、当業者に知られているあらゆる方法で行われる。
【0088】
例えば溶接継手22におけるアルミニウムの理論上の平均含有率は、次の式を用いて決定することができる。
【数8】
式中、
Al
th
weldは、溶接継手22におけるアルミニウムの理論上の平均含有率であり、重量%で表され、
Al
coatingは、アルミニウム含有プレコート7における平均アルミニウム含有率であり、重量%で表され、
M
cは、2枚のプレコート鋼板1、2の各々の上のアルミニウム含有プレコート7、8の単位面積当たりの重量であり、g/m
2で表され、
βは、溶接プールに任意選択的に添加される鋼ベースの溶加材の割合であり、0~1の間に含まれ、溶接プールに溶加材が添加されていない場合βはゼロに等しく、
t
1は、第1のプレコート鋼板1の厚さであり、mmで表され、
t
2は、第2のプレコート鋼板2の厚さであり、mmで表される。
【0089】
溶加材が0.05重量%以下のアルミニウム含有率を含む限り、溶加材を使用する場合でも上記の式を使用することができる。
【0090】
上記の式は、基材3、4のアルミニウム含有率が0.05重量%以下である限り、基材3、4がアルミニウムを含む場合でもさらに使用することができる。
【0091】
溶接プールに任意選択的に添加される鋼ベースの溶加材の割合βは、例えば0~0.5の間、すなわち、割合を百分率で表すと0~50%の間に含まれる。
【0092】
溶接継手22のアルミニウムの理論上の平均含有率Alth
weldが厳密に1.25重量%を超えるであろう場合、本発明による方法は、さらに、作製後、溶接継手のアルミニウムの理論上の平均含有率が0.5重量%~1.25重量%の間に含まれるように、プレコート鋼板1、2の少なくとも一方の溶接縁部14を作製する工程を含む。
【0093】
より詳細には、考えられるプレコート鋼板1、2の溶接縁部14は、他方のプレコート鋼板1、2に溶接されることが意図されるプレコート鋼板1、2の縁部である。
【0094】
図3により詳細に示すように、溶接縁部14は、突き合わせ溶接中に少なくとも部分的に溶接継手22に組み込まれることが意図された、プレコート鋼板1、2の周縁部分を含む。より詳細には、溶接縁部14は、プレコート鋼板1、2の側面13と、この側面13から延び、且つプレコート7、8の一部及び基材3、4の一部を含むプレコート板1、2の一部とを備える。
【0095】
より詳細には、溶接縁部14を作製する工程は、第1及び第2のプレコート鋼板1、2の少なくとも一方の主面5、6上のアルミニウム含有プレコート7、8をその厚さの少なくとも一部にわたって除去する工程を含む。プレコート7、8は、溶接縁部14で延びる除去ゾーン18にわたり、プレコート鋼板1、2の側面13から除去される。除去ゾーン18は、プレコート鋼板1、2の側面13から0.5mm~2mmの間に含まれる幅にわたって延びることができる。このようにして作製したプレコート鋼板1の一例を
図3に示す。
【0096】
除去は、レーザービームを用いて行うことが好ましい。
【0097】
有利には、除去ゾーン18において、金属合金層11、12が除去されるが、金属間化合物合金層9、10は、その厚さの少なくとも一部にわたって残る。
【0098】
より詳細には、除去ゾーン18において、金属合金層11、12が除去されるが、金属間化合物合金層9、10はそのまま維持される。
【0099】
残留金属間化合物合金層9、10は、溶接継手22にすぐ隣接する溶接ブランクの領域を、その後の熱間成形工程中の酸化及び脱炭から、及び使用中の腐食から保護する。
【0100】
図3に示す例では、金属合金層11、12は、除去ゾーン18にわたって溶接縁部14で除去され、金属間化合物合金層9、10がそのまま残される。
【0101】
特に、除去されるプレコート7、8の割合、並びにその上のプレコート7、8が除去されるべきプレコート鋼板1、2の主面の数は、除去後に、溶接継手22のアルミニウムの理論上の平均含有率Alth
weldが0.5重量%~1.25重量%の間に含まれるようなものである。
【0102】
特に、プレコート7、8は、
- 第1又は第2のプレコート鋼板1、2の1つの主面5、6のみ上の、又は
- 合計で2つの主面上、例えば第1及び第2のプレコート鋼板1、2の各々の1つの主面5、6上、若しくは第1及び第2のプレコート鋼板1、2の中の一方の2つの主面5、6上の、又は
- 合計で3つの主面5、6上、すなわち、第1及び第2のプレコート鋼板1、2の一方の2つの主面5、6上及び他のプレコート鋼板1、2の1つの主面5、6のみ上の、又は
- 合計で4つの主面5、6上、すなわち第1及び第2のプレコート鋼板1、2の2つの主面5、6上の
その厚さの少なくとも一部にわたって除去することができる。
【0103】
0.05重量%以下のアルミニウム含有率を有する溶加材を場合により用いて、提供工程で提供された第1及び第2のプレコート鋼板1、2間を突き合わせ溶接して得られる溶接継手22の理論上の平均アルミニウム含有率Alth
weldが、0.5重量%~1.25重量%の間に含まれている場合には、特に第1及び第2のプレコート鋼板1、2に対して、プレコート7、8を事前に除去せずに溶接を行う。より詳細には、この場合、溶接は、第1及び第2のプレコート鋼板1、2を用いて実施され、それらのプレコート7、8は少なくとも溶接縁部14上でそのままである。
【0104】
任意選択的に、0.05重量%以下のアルミニウム含有率を有する溶加材を場合により用いて、提供工程で提供された第1及び第2のプレコート鋼板1、2の間の突き合わせ溶接によって得られた溶接継手22の理論上の平均アルミニウム含有率Alth
weldが、0.5重量%~1.25重量%の間に含まれ、より厳密には0.5重量%より大きい場合であっても、プレコート鋼板1、2の少なくとも一方の少なくとも1つの主面5、6上、例えば2枚のプレコート鋼板1、2の少なくとも一方の少なくとも1つの主面5、6のみ上の溶接縁部14で、プレコート7、8はその厚さの少なくとも一部にわたって除去されてもよい。例えばプレコート7、8は、2枚のプレコート鋼板1、2の各々の1つの主面5、6のみ上の溶接縁部14で、その厚さの少なくとも一部にわたって除去される。この任意選択の除去工程は、0.05重量%以下のアルミニウム含有率を有する溶加材を場合により用いて、このように作製された第1及び第2のプレコート鋼板1、2の間の溶接によって得られた溶接継手22の理論上の平均アルミニウム含有率Alth
weldが、0.5重量%~1.25重量%の間に含まれたままであるように実施される。
【0105】
特に、このような除去は、その後の熱処理に使用される熱処理温度Ttをさらに低下させるために実施されてもよく、熱処理温度Ttは後述のように決定される。実際、溶接継手22のオーステナイト化温度Ac3(WJ)はアルミニウム含有率の減少と共に低下する。特に、この任意選択の除去工程は、除去のない状態で決定される熱処理温度Ttが厳密に950℃を超えるであろう場合に実施することができる。実際、良好な塗装性及び溶接性を維持するためには、950℃以下の熱処理温度Ttを用いることが好ましい。
【0106】
溶接継手22の理論上の平均アルミニウム含有率Alth
weldの決定、及び必要に応じて又は所望に応じて作製工程後に、本方法は第1及び第2のプレコート鋼板1、2の間で溶接継手22を得て、その結果溶接鋼ブランク15を得るように、レーザー溶接を用いて第1のプレコート鋼板1を第2のプレコート鋼板2に突き合わせ溶接する工程をさらに含む。
【0107】
溶接継手22は、0.5~1.25重量%の間に含まれるアルミニウム含有率を有する。
【0108】
一実施形態によれば、溶接工程は、溶加材の使用を含む。
【0109】
溶加材は、0.05重量%以下のアルミニウム含有率を有する鋼ベースの溶加材が有利である。溶加材は低い含有率のアルミニウムを有し、コーティングからアルミニウムを希釈する。
【0110】
例えば、溶加材は、プレコート7、8からのアルミニウムのフェライト形成及び/又は金属間化合物形成効果を部分的に釣り合わせるように、オーステナイト形成元素をさらに含む。
【0111】
溶加材は、例えば溶加材ワイヤ又は粉末である。
【0112】
溶接プールに添加される溶加材の割合は、例えば0~0.5の間に含まれる。
【0113】
一例によれば、溶加材は、重量で、以下の組成を有する。
0.1%≦C≦1.2%
0.01%≦Mn≦10%
0.02%≦Ni≦7%
0.02%≦Cr≦5%
0.01%≦Si≦2%
任意に、
微量≦Mo≦1%
微量≦Ti≦0.1%
微量≦V≦0.1%
微量≦B≦0.01%
微量≦Nb≦0.1%
微量≦Al≦0.05%
残部は鉄及び製造に不可避的に起因する不純物である。
【0114】
特定の例によれば、溶加材は、下記の表1に記載される組成W1、W2又はW3の1つを有することができる。
【0115】
【0116】
これら全ての組成において、含有率は重量パーセントで表される。
【0117】
さらに、各組成について、組成の残部は鉄及び避けられない不純物である。
【0118】
上記の表1において、「-」は、組成物がその元素を多くても微量しか含まないことを意味する。
【0119】
変形例によれば、溶接工程は自己溶接工程であり、これは溶加材を使用せずに溶接が実施されることを意味する。この場合、溶接継手22の組成は、第1及び第2のプレコート鋼板1、2の基材3、4の組成と、溶接継手22に組み込まれるプレコート7、8の量のみに依存する。
【0120】
溶接作業は、2枚の板1、2の間の接合部に溶接継手22を形成する結果となる。
【0121】
溶接工程は、レーザー溶接工程であり、レーザービーム24が、2枚のプレコート鋼板1、2の間の接合部の方へ向けられる。
【0122】
レーザー溶接工程は、例えば、CO2レーザー又は固体レーザー又は半導体レーザーを用いて行われる。
【0123】
レーザー源は、高出力レーザー源であることが好ましい。レーザー源は、例えば波長10マイクロメートルのCO2レーザー、波長1マイクロメートルの固体レーザー源又は半導体レーザー源、例えば波長が0.8~1マイクロメートルの間のダイオードレーザーの中から選択することができる。
【0124】
レーザーの出力は、第1及び第2のプレコート鋼板1、2の厚さに応じて選択される。特に、出力は、溶接継手22における十分な混合と同様に、プレコート鋼板1、2の溶接縁部14の融合を可能にするように選択される。CO2レーザーの場合、レーザー出力は、例えば3~12kWの間に含まれる。固体レーザー又は半導体レーザーの場合、レーザー出力は、例えば2~8kWの間に含まれる。
【0125】
プレコート鋼板1、2上のその衝撃点26におけるレーザービーム24の直径は、両方の種類のレーザー源について約600μmと等しくすることができる。
【0126】
溶接工程中、溶接は例えば保護雰囲気下で行われる。このような保護雰囲気は、特に溶接が行われている領域の酸化及び脱炭、溶接継手22内での窒化ホウ素の形成及び水素吸収による可能性のある冷間割れを防止する。
【0127】
保護環境は、例えば不活性ガス又は不活性ガスの混合物によって形成される。不活性ガスは、ヘリウム若しくはアルゴン、又はこれらのガスの混合物であることができる。
【0128】
溶接はレーザー光を唯一の熱源として行ってもよい。
【0129】
任意選択的に、レーザー溶接工程は、レーザービームに加えて、例えば、電気アーク又は誘導加熱のような付加的な熱源を含む。この付加的な熱源は、溶接継手22を形成するために第1及び第2のプレコート鋼板1、2の縁部を溶融するのに寄与する。
【0130】
任意選択的に、溶接工程は、
図1に破線で示すように、溶加材ワイヤ20の使用を含む。この場合、レーザービーム24は、レーザービーム24の衝撃点26で溶加材ワイヤ20を溶融するように追加的に構成される。
【0131】
溶接工程の間、2枚のプレコート鋼板1、2の対向する溶接縁部14間の距離は、例えば0.3mm以下であり、より具体的には0.1mm以下である。2枚の板1、2の対向する溶接縁部14の間にそのような間隙を設けることにより、溶接作業中に可能性のある溶加材ワイヤ20からの材料の堆積が促進され、溶接継手22での過剰な厚みの形成が防止される。
【0132】
溶接工程の終了時に、
図2に示すような溶接鋼ブランク15が得られる。
【0133】
溶接工程の後、本発明による方法は、こうして得られた溶接鋼ブランク15を熱処理オーブンで加熱する工程を含む。
【0134】
より詳細には、加熱工程は、溶接鋼ブランク15を熱処理温度Ttまで加熱することを含む。
【0135】
本発明によれば、熱処理温度Ttは、溶接継手22の完全オーステナイト化温度Ac3(WJ)よりも少なくとも10℃低い。
【0136】
溶接継手22の完全オーステナイト化温度Ac3(WJ)は、℃で表され、例えば以下の式を用いて溶接継手22の組成から決定される。
Ac3(WJ)=102.2×Al+439×C+181.9×Mn+364.1×Si+148×Al2-425.2×C2-29.2×Mn2-497.8×Si2-400×Al×C+9.9×Al×Mn-50.5×Al×Si-208.9×C×Mn+570.3、式中、Al、C、Mn及びSiは、それぞれ溶接継手22のアルミニウム、炭素、マンガン及びケイ素の含有率を指し、重量%で表される。
【0137】
Ac3(WJ)についての上記の式は、以下の表2で表される含有率範囲で使用することができる。
【0138】
【0139】
上記の表2において、
- 全ての含有率は重量パーセントで表される。
- 「-」は下限値がないことを意味する。
【0140】
本発明によれば、熱処理温度T
tは、最低温度T
minよりも少なくとも15℃さらに高い。これに関連して、最低温度T
minは以下のように定義される。
【数9】
式中、
Ac3(WJ)は、溶接継手22の完全オーステナイト化温度であり、℃で表され、
Alは、溶接継手22におけるアルミニウムの含有率であり、重量%で表され、
【数10】
式中、
Ts
1はプレス硬化後の最強基材3の最大抗張力であり、MPaで表され、
Ts
2はプレス硬化後の最弱基材4の最大抗張力であり、MPaで表され、
βは、溶接プールに添加される溶加材の割合であり、0~1の間に含まれ、
C
FWは、溶加材の炭素含有率であり、重量%で表され、
ρは、最弱基材4を含むプレコート鋼板2の厚さと、最強基材3を含むプレコート鋼板1の厚さとの比(ρ=t
2/t
1)である。
【0141】
これに関連して、基材は、プレス硬化後、より低い最大抗張力Tsを有する場合、他のものよりも弱い。
【0142】
したがって、最低温度Tminは、以下に基づいて計算することができる。
- 溶接継手22の化学組成、
- プレコート鋼板1、2の基材3、4の特性
- 溶加材を使用する場合には、溶加材の割合と組成
【0143】
溶接ブランク15を加熱する工程は、さらに、溶接鋼ブランク15を熱処理温度Ttで2~10分の間に含まれる時間保持する工程を含む。
【0144】
加熱工程の終了時に、溶接鋼ブランク15は、溶接継手22の完全オーステナイト化温度Ac3(WJ)よりも少なくとも10℃低い温度まで加熱されているので、溶接継手22の微細組織は完全にオーステナイトではない。溶接継手22における変態区間フェライト分率は、熱処理温度Ttと溶接継手22の完全オーステナイト化温度Ac3(WJ)との温度差に依存する。特に、加熱工程の終了時に、溶接継手22における変態区間フェライト分率αICは、15%以上であり、かつ最大変態区間フェライト分率αmax
ICより少なくとも5%低い(15%≦αIC≦αmax
IC-5%)。
【0145】
最大変態区間フェライト分率は%で表され、以下の式を用いて決定することができる。
【数11】
式中、
Ts
1はプレス硬化後の最強基材3の最大抗張力であり、MPaで表され、
Ts
2はプレス硬化後の最弱基材4の最大抗張力であり、MPaで表され、
βは、溶接プールに添加される溶加材の割合であり、0~1の間に含まれ、
C
FWは、溶加材の炭素含有率であり、重量%で表され、
ρは、最弱基材4を含むプレコート鋼板2の厚さと、最強基材3を含むプレコート鋼板1の厚さとの比(ρ=t
2/t
1)である。
【0146】
当業者に知られているように、変態区間フェライト分率は、例えば熱処理温度Ttまで加熱した後に溶接ブランク15を直接焼入れすることによって測定することができる。適合されたNitalエッチング後、変態区間フェライトは灰色がかったマルテンサイトマトリックス上に淡い成分として現れる。
【0147】
溶接継手22の変態区間フェライト分率は、試料内のマンガン含有率の分布を示す試料のマンガン元素マッピング画像の分析により決定することもできる。このようなマッピング画像は、例えば電子プローブマイクロ分析(EPMA)による試料の分析によって得られる。このMnマッピング画像において、Mn含有率の極小を示す領域は変態区間フェライト領域と一致し、一方より高いMn含有率を有する領域は変態区間焼鈍中に形成されたオーステナイトの変態から生じた相に対応する。したがって、変態区間フェライトの表面分率は、この画像におけるMn含有率が極小の領域の表面分率に対応する。この方法は、例えば、Hanlon,D; Rijkenberg,A; Leunis,Eら: Quantitative phase analysis of multi-phase steels、PHAST (2007)、 ISBN 92-79-02658-5、77-79頁に記載されている。実際、変態区間焼鈍中に、オーステナイトとフェライトとの間にマンガンの分配が生じ、マンガンがフェライトからオーステナイトに移動し、その結果、変態区間焼鈍の終了時に、変態区間フェライトのMn含有率がオーステナイトのMn含有率より厳密に小さくなることが知られている。マルテンサイト、変態フェライト及び/又はベイナイトのようなその後の冷却の際にオーステナイトから形成される相は、オーステナイトのMn含有率を受け継ぎ、一方変態区間フェライトは該分配から生じるそのより低いMn含有率を保持する。したがって、Mn元素マッピング画像上では、変態区間フェライトは他の相、特に他の種類のフェライトと区別でき、Mn含有率が最小である領域に対応する。
【0148】
本特許出願に関連して、微細組織に関連する全ての割合は、表面のパーセントで表される。
【0149】
加熱工程の終了時に、第1及び第2のプレコート鋼板1、2の基材3、4の微細組織は完全にオーステナイトである。特に、溶接時にプレコート鋼板1、2の溶接縁部14にプレコート5、6からのアルミニウムが存在するため、基材3、4の完全オーステナイト化温度Ac3は、溶接継手22の完全オーステナイト化温度Ac3(WJ)より厳密に低い。
【0150】
加熱工程の終了時に、溶接鋼ブランク15は、プレス成形ツールで鋼部品にプレス内で熱間成形される。例えば溶接鋼ブランク15は、適合されたホットスタンピングツールを用いるホットスタンピングによって鋼部品に成形される。
【0151】
好ましくは、熱処理オーブンとプレス成形ツールとの間の転写時間は、10秒以下である。転写時間は、例えば5~10秒の間に含まれる。転写時間は、溶接ブランク15における金属学的変態、特に熱間成形前のフェライトの形成を避けるために、できるだけ短くなるように選択される。
【0152】
このようにして成形された鋼部品は、次に、第1及び第2のプレコート鋼板1、2の基材3、4の中で、最も硬化可能な基材3、4の臨界マルテンサイト又はベイナイト冷却速度以上の冷却速度で冷却される。
【0153】
有利には、冷却工程は、プレス成形ツールにおいて、例えば、プレス成形ツール内に形成された冷却チャネルを備える冷却システムを例えば備える成形ツールを用いることによって行われる。
【0154】
本発明によれば、冷却工程の終了時に、溶接継手22は、マルテンサイト及び/又はベイナイトと、15%以上、かつ最大変態区間フェライト分率αmaxICよりも少なくとも5%低い変態区間フェライト分率αmax
IC(15%≦αIC≦αmax
IC-5%)とを含む微細組織を有する。最大変態区間フェライト分率αmax
ICは、上記のように決定され得る。
【0155】
冷却工程の終了時に、基材3、4のうちの少なくとも一方は、主にマルテンサイト及び/又はベイナイト微細組織を有する。マルテンサイト及び/又はベイナイトは、冷却工程中に、加熱工程中に形成されたオーステナイトの変態の結果として生じる。
【0156】
一例によれば、両方の基材3、4は、主としてマルテンサイト及び/又はベイナイト組織を有する。
【0157】
これに関連して、「主に」とは、微細構造がマルテンサイト及び/又はベイナイト、並びに最大で5%のフェライトからなることを意味する。
【0158】
本発明は、上記の方法を用いて得られたプレス硬化したレーザー溶接鋼部品にも関する。
【0159】
この部品は、特に衝突管理部品、例えば、侵入防止部品若しくは衝撃吸収部品、構造部品又は自動車の安全性に寄与する部品である。
【0160】
プレス硬化したレーザー溶接鋼部品は、上記のように溶接継手22によって接合された第1の被覆鋼部品部分及び第2の被覆鋼部品部分を備える。
【0161】
より詳細には、第1の被覆鋼部品部分及び第2の被覆鋼部品部分は、第1及び第2のプレコート鋼板1、2のプレス成形ツールにおけるホットプレス成形及び冷却にそれぞれ起因する。
【0162】
より詳細には、各被覆鋼部品部分は、その主面のうちの少なくとも一方の上に、鉄及び少なくとも30重量%のアルミニウムを含むアルミニウム含有コートを有する鋼基材を含む。
【0163】
特に、第1及び第2の鋼部品部分のアルミニウム含有コートは、ホットプレス成形中のプレコート7、8の少なくとも部分的合金化から生じる。
【0164】
第1及び第2の鋼部品部分の基材は、プレコート鋼板1、2に対して上で記載した組成を有する。これらは、プレコート鋼板1、2の基材3、4のホットプレス成形及び冷却から生じる。
【0165】
第1の被覆鋼部品部分の基材は、第2の被覆鋼部品部分の基材の最大抗張力Ts2より厳密に大きい最大抗張力Ts1を有する。
【0166】
例えば第1の被覆鋼部品部分は第1の厚さを有し、第2の被覆鋼部品部分は第2の厚さを有し、第1の厚さと第1の被覆鋼部品部分の最大抗張力との積は、第2の厚さと第2の被覆鋼部品部分の最大抗張力Ts2との積より厳密に大きい。
【0167】
溶接継手22は、0.5重量%~1.25重量%の間のアルミニウム含有率を有する。
【0168】
溶接継手22は、マルテンサイト及び/又はベイナイトと、15%以上、かつ最大変態区間フェライト分率αmax
ICよりも少なくとも5%低い変態区間フェライト分率αIC(15%≦αIC≦αmax
IC-5%)とを含む微細組織を有する。
【0169】
最大変態区間フェライト分率αmax
ICは、上で説明したように決定することができる。
【0170】
プレス硬化したレーザー溶接鋼部品上では、溶接作業中に溶接プールに添加される溶加材の割合βは、適応されたいずれかの方法により溶接継手22のアルミニウムの含有率Al
weldを測定することによって決定することができる。溶接鋼板のコートのアルミニウムの含有量Al
coatingを知り、溶加材中のアルミニウム量が無視できることを考慮すると、式
【数12】
に基づき、上述の式
【数13】
を用いて割合βを算出することができる。次いで、溶加材の炭素含有率C
FWは、基材3、4の炭素含有率、溶接継手22のアルミニウム含有率に基づいて決定された溶加材の割合β、及び溶接継手22における炭素の測定された含有率に基づいて決定することができる。
【0171】
溶接継手22の最大抗張力は、プレス硬化後の最弱基材4の最大抗張力以上である。
【0172】
少なくとも第1の基材3の鋼に対応する、溶接継手22の少なくとも片側の鋼は、主にマルテンサイト及び/又はベイナイト組織を有する。例えば第1の基材3の鋼及び第2の基材4の鋼に対応する、溶接継手22の両側の鋼は、主にマルテンサイト及び/又はベイナイト組織を有する。
【0173】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、溶接ブランク15を上記の条件下で熱処理すると、溶接継手22の最大抗張力が、第2のプレコート鋼板2の基材4、すなわち、最も低い最大抗張力を有する基材の最大抗張力よりも厳密に大きくなることを見出した。したがって、溶接継手22と直交する方向で引張試験を行った場合、熱処理後の溶接継手22の組織が完全にマルテンサイト又はベイナイトではないにもかかわらず、上記の熱処理後に得られた部品は溶接継手22で破損しない。
【0174】
したがって、本発明による方法は、低コストで満足のいく機械的特性を得ることができるため、特に有利である。実際、アルミニウム含有プレコートを含むプレコート鋼板を一緒に溶接する場合、溶接継手の完全オーステナイト化温度が基材の完全オーステナイト化温度以下になるように、例えばプレコート鋼板の両側のプレコートを除去するか、又は溶加材ワイヤのような溶加材を用いて溶接に多量のオーステナイト形成元素を加えることによって、溶接継手の組成を調整する必要はもはやない。特に、鋼板の両面のプレコートの除去を回避すると、総加工時間が短縮される。さらに、溶加材により添加されなければならないオーステナイト形成元素の量を減らすこと、又はさらに溶加材の使用を回避することにより、製造コストは大幅に削減され、特に溶接継手の幾何学的形状、及びプレコート鋼板からの材料と溶接継手の溶加材からの材料との間の均一な混合物を獲得することに関連する高比率の溶加材の添加に起因する問題が防止される。
【実施例】
【0175】
本発明の発明者は、プレコート鋼板1、2を用いて溶接鋼ブランク15を作製した実験E1~E36を行った。各プレコート鋼板1、2は、下記の組成(表5参照)を有する基材3、4、及び両方の主面上に、溶融めっきにより形成されるプレコート7、8を有し、プレコート7、8は、88重量%のアルミニウム、10重量%のケイ素及び2%の鉄を含む金属合金層11、12を含む。
【0176】
各プレコート鋼板1、2の両方の主面上のプレコート7、8の単位面積当たりの総重量は、いずれの除去工程の前でも、150g/m2であった。
【0177】
プレコート鋼板1、2の主面5、6の一方のみの金属合金層11、12を除去し、金属間化合物合金層9、10をそのままにした後、プレコート鋼板1、2の各々上の残留プレコート7、8の単位面積当たりの総重量は100g/m2であった。
【0178】
実験に使用した基材の組成を下記の表3に開示する。実験に使用した溶加材ワイヤの組成を下記の表4に示す。
【0179】
【0180】
【0181】
上記表3及び表4において、組成は重量パーセントで表される。
【0182】
さらに、表3及び表4の各組成について、組成の残部は鉄及び不可避的不純物である。
【0183】
「-」は、その組成はその元素を多くても微量しか含んでいないことを意味する。
【0184】
上記の基材S1、S2及びS3の完全オーステナイト化温度Ac3及び最大抗張力Tsは以下の通りである。
S1:834℃、Ts=1500MPa
S2:858℃、Ts=1050MPa
S3:806℃、Ts=700MPa
【0185】
プレコート鋼板1、2を、出力5.6kWのディスクレーザー又は出力4kWのYAGレーザーを用いて、突き合わせレーザー溶接した。
【0186】
全ての例において、溶接が行われている領域の酸化及び脱炭、並びに溶接継手における窒化ホウ素の生成及び水素吸収による可能性のある低温亀裂を避けるためにヘリウム又はアルゴンからなる保護雰囲気を使用した。ガスの流速は15L/分以上であった。
【0187】
次に、溶接ブランク1を920℃の熱処理温度Ttまで加熱し、この温度で6分間保持し、加熱オーブンと熱間成形ツールとの間のフェライトの生成を防止するように選択した転写時間でブランクをホットプレス成形ツールに移し、その後30℃/秒以上の冷却速度で1分間プレス成形ツール内で冷却する熱処理に供して、プレス硬化ブランクを得た。
【0188】
実験E1~E36に用いた実験条件を下記の表5及び表6に要約する。
【0189】
次に、このようにして得られた加熱ブランクから溶接継手に垂直な方向において引張試験片を切断した。
【0190】
引張試験は、次の規格、すなわち、NF EN ISO 4136及びNF ISO 6892-1に開示された方法を用いて、圧延方向に平行に抜き出されたタイプEN 12,5×50(240×30mm)の縦方向引張試験片に対して周囲温度(約20℃)で実施した。各加熱溶接ブランクについて、5回の引張試験を行った。
【0191】
引張試験の結果は、引張試験中に破損が発生した場所を示す下記の表6の「破損場所」と題する欄に示す。
【0192】
この欄において、
- 「BM」とは、母材金属の破損、すなわち、プレコート板の一方の基材の破損を指し、
- 「Weld」とは、溶接継手の破損を指し、
- 「Mix」とは、引張試験片の一部が溶接継手で破損し、他のものが母材金属で破損した場合を指す。
【0193】
【0194】
上記表5において、150g/m2のプレコート重量は、溶接前に作製工程が行われなかった場合、すなわち、プレコートが溶接時にプレコート鋼板の両方の主面上にそのまま残った場合に相当し、一方、100g/m2のプレコート重量は、プレコート鋼板が溶接前に、プレコート鋼板1、2の各々の1つの主面のみで金属合金層11、12を除去することによって、金属間化合物合金層9、10をそのまま残して作製された場合に相当する。
【0195】
【0196】
上記表5及び6では、本発明に従わない例に下線を引いている。
【0197】
これらの結果から、溶接ブランク15を上記温度範囲に含まれる熱処理温度まで加熱し、ここでプレス成形及び冷却前に保持時間が該熱処理温度で2~10分の間に含まれる場合は、組立体の最弱基材金属(上記表5及び6の「第2のプレコート鋼板の基材」)で破損が生じ、溶接継手22では破損が生じないことが示された(実験E1、E2、E5、E10、E12、E13、E16、E18、E22及びE29~E32)。
【0198】
反対に、最低熱処理温度Tmin+15℃より厳密に小さい熱処理温度及び該熱処理温度で2~10分の間に含まれる保持時間については、破損が、溶接継手22において(実験E3、E4、E6~E8、E14、E15、E17、E19、E21、E23、E27~E27及びE33~E36)常に起こるか、又は検討された実験(実験E9、E11、E20、E24及びE28、表中の参照「mix」)については引張試験片の少なくとも一部で溶接継手22において起こることが観察される。
【0199】
本発明者らはさらに、本発明による全ての実験において、溶接継手22は、15%~αmax
IC-5%の間で構成される変態区間フェライトの分率αICを含む微細組織を有することに注目した。
【0200】
これらの結果から、本発明に係る熱処理条件を用いて溶接ブランク15を熱処理すると、溶接継手22は、第2のプレコート鋼板2の基材4に対応する最弱基材の最大抗張力よりも厳密に大きい最大抗張力を有することが証明される。したがって、部品の最弱ゾーンを形成するのはこの基材4であり、溶接継手22ではない。このため、第2のプレコート鋼板2の基材4に破損が生じ、溶接継手22自体には生じない。これらの結果は、溶接継手22が完全にオーステナイト化されておらず、したがって熱処理後に主にマルテンサイト及び/又はベイナイト微細組織を有していないにもかかわらず得られるので、驚くべきことである。
【0201】
したがって、本発明による方法は、製造コスト及び時間を最小限に抑えながら満足のいく特性を有する部品を得るために最適な方法のパラメータ(最低熱処理温度及び添加される溶加材の量を含む)を決定することを可能にするため、特に有利である。