IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エコプロ ビーエム コーポレイテッドの特許一覧

特許7543388正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
<>
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図1
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図2
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図3
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図4
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図5
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図6
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図7
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図8
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図9
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図10
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図11
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図12
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図13
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図14
  • 特許-正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240826BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240826BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240826BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 D
H01M4/505
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022207815
(22)【出願日】2022-12-26
(62)【分割の表示】P 2021130580の分割
【原出願日】2021-08-10
(65)【公開番号】P2023027385
(43)【公開日】2023-03-01
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】10-2020-0132472
(32)【優先日】2020-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】パク ジュン ペ
(72)【発明者】
【氏名】ユ ヒュン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ムン ホ
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-064841(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0078498(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムのインターカレーション/デインターカレーションが可能なリチウム複合酸化物を含む正極活物質であり、
前記正極活物質は、小粒子である第1リチウム複合酸化物と大粒子である第2リチウム複合酸化物とを含むバイモダル形態であり、
前記第1リチウム複合酸化物及び前記第2リチウム複合酸化物のうちリチウムを除いた全金属元素に対するNiのモル比はそれぞれ50%以上であり、
前記第1リチウム複合酸化物の断面SEM像における前記第1リチウム複合酸化物の中心を横切る仮想の直線上にある一次粒子について、下記式8で計算される結晶粒界密度の平均値は、0.50~0.88であり、前記第2リチウム複合酸化物の断面SEM像において前記第2リチウム複合酸化物の中心を横切る仮想の直線上にある一次粒子について、下記式8で計算される結晶粒界密度の平均値以下である、
正極活物質。
[式8]
結晶粒界の密度=(前記仮想の直線上に配置された1次粒子の間の境界面の数/前記仮想の直線上に配置された1次粒子の数)
【請求項2】
前記第2リチウム複合酸化物の断面SEM像において前記第2リチウム複合酸化物の中心を横切る仮想の直線上にある一次粒子について、下記式8で計算される結晶粒界密度の平均値は0.67~0.90である、請求項1に記載の正極活物質。
[式8]
結晶粒界の密度=(前記仮想の直線上に配置された1次粒子の間の境界面の数/前記仮想の直線上に配置された1次粒子の数)
【請求項3】
前記正極活物質を正極とし、リチウムホイルを負極とするリチウム二次電池において下記の充放電条件で充放電を行ったとき、
[充放電条件]
1サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.3V
-充電:0.1C(CCCV)/放電:0.1C(CC)
2サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.3V
-充電:0.1C(CCCV)/放電:0.1C(CC)
3サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.4V
-充電:1C(CCCV)/放電:1C(CC)
3サイクル目の電圧Vおよび電池容量Qを有し、X軸を前記電圧Vとし、Y軸を前記電池容量Qを前記電圧Vで微分した値dQ/dVで示したグラフにおいて、
下記の式1によって定義されたピーク強度比(A)を満たす、請求項1に記載の正極活物質。
[式1]
I1/I2≧1.4
(式1で、
I1は、充電領域で3.0V~3.8Vの間において、hexagonal から monoclinic への相変態領域に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、
I2は、充電領域で3.8V~4.1Vの間において、monoclinic から hexagonalへの相変態領域に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【請求項4】
前記式1で定義されるピーク強度比(A)は、1.4以上1.92以下である、請求項に記載の正極活物質。
【請求項5】
下記の式2によって定義されたピーク強度比(B)を満たす、請求項に記載の正極活物質:
[式2]
I1/I3≧0.7
(式2で、
I1は、充電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、
I3は、充電領域で4.1V~4.4Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【請求項6】
下記の式3によって定義されたピーク強度比(C)を満たす、請求項に記載の正極活物質:
[式3]
I2/I3≧0.5
(式3で、
I2は、充電領域で3.8V~4.1Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、
I3は、充電領域で4.1V~4.4Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【請求項7】
下記の式4によって定義されたピーク強度比(D)を満たす、請求項に記載の正極活物質:
[式4]
DI1/DI2≧1.25
(式4で、
DI1は、放電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、
DI2は、放電領域で3.8V~4.1Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【請求項8】
下記の式5によって定義されたピーク強度比(E)を満たす、請求項に記載の正極活物質:
[式5]
DI1/DI3≧0.41
(式5で、
DI1は、放電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、
DI3は、放電領域で4.1V~4.4Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【請求項9】
下記の式6によって定義されたピーク強度比(F)を満たす、請求項に記載の正極活物質:
[式6]
DI2/DI3≧0.34
(式6で、
DI2は、放電領域で3.8V~4.1Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、
DI3は、放電領域で4.1V~4.4Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【請求項10】
下記の式7によって定義された電圧比(G)を満たす、請求項に記載の正極活物質:
[式7]
|ΔV1=(V1-DV1)|≦0.05
(式7で、
V1は、充電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのx軸値Vであり、
DV1は、放電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのx軸値Vである)
【請求項11】
前記リチウム複合酸化物は、下記の化学式1で表される、請求項1に記載の正極活物質。
[化学式1]
LiNi1-(b+c+d+e)CoM1M2M3
(ここで、
M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2およびM3は、それぞれ独立して、Al、Ba、B、Ce、Cr、Mg、Mn、Mo、Na、K、P、Sr、Ti、W、NbおよびZrから選ばれ、
M1~M3は、互いに異なり、
0.90≦a≦1.05、0≦b≦0.10、0≦c≦0.10、0≦d≦0.025、0≦e≦0.025、1.0≦f≦2.0である)
【請求項12】
前記第1リチウム複合酸化物の平均粒径D50が8μm以下である、請求項に記載の正極活物質。
【請求項13】
前記第2リチウム複合酸化物の平均粒径D50が8.5μm以上である、請求項に記載の正極活物質。
【請求項14】
請求項1~1のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極。
【請求項15】
請求項1に記載の正極を使用するリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池に関し、より具体的に、所定の条件で充放電を行ったとき、3サイクル目の電圧Vおよび電池容量Qを有し、X軸を前記電圧Vとし、Y軸を前記電池容量Qを前記電圧Vで微分した値dQ/dVで示したグラフにおいて、所定のピーク強度比および電圧比を示す正極活物質とこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池は、正極と負極に電気化学反応が可能な物質を使用することによって、電力を貯蔵するものである。このような電池のうち代表的な例としては、正極および負極でリチウムイオンがインターカレーション/デインターカレーションされるときの化学電位(chemical potential)の差異によって電気エネルギーを貯蔵するリチウム二次電池がある。
【0003】
前記リチウム二次電池は、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な物質を正極と負極活物質として使用し、前記正極と負極との間に有機電解液またはポリマー電解液を充填させて製造する。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム複合酸化物が使用されており、その例として、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiMnO等の複合酸化物が研究されている。
【0005】
前記正極活物質のうちLiCoOは、寿命特性および充放電効率に優れていて、最も多く使用されているが、原料として使用されるコバルトの資源的限界によって高価なので、価格競争力に限界があるという短所を有している。
【0006】
LiMnO、LiMn等のリチウムマンガン酸化物は、熱的安全性に優れ、価格が安いという長所があるが、容量が小さくて、高温特性が悪いという問題点がある。また、LiNiO系正極活物質は、高い放電容量の電池特性を示しているが、Liと遷移金属との間のカチオンミキシング(cation mixing)問題に起因して合成が難しく、これにより、レート(rate)特性に大きな問題点がある。
【0007】
また、このようなカチオンミキシングの深化程度に応じて多量のLi副産物が発生することとなり、これらのLi副産物の大部分は、LiOHおよびLiCOの化合物からなるので、正極ペーストの製造時にゲル(gel)化する問題点と電極の製造後に充放電の進行によるガス発生の原因となる。残留のLiCOは、セルのスウェリング現象を増加させて、サイクルを減少させると共に、バッテリーが膨らむ原因となる。
【0008】
このような短所を補完するために、二次電池の正極活物質としてNi含量が50%以上のHigh-Ni正極活物質の需要が増加し始めた。しかしながら、このようなHigh-Ni正極活物質は、高容量特性を示すが、正極活物質中のNi含量が増加するにつれて、Li/Ni cation mixingによる構造的不安定性をもたらす問題点がある。このような正極活物質の構造的不安定性によって高温だけでなく常温でもリチウム二次電池が急激に劣化することがある。
【0009】
したがって、このようなHigh-Ni正極活物質の問題点を補完するための正極活物質の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】韓国特許公開第10-2010-0131921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
リチウム二次電池の市場では、電気自動車用リチウム二次電池の成長が市場の牽引役としての役割をしている中で、リチウム二次電池に使用される正極材の需要も持続的に変化している。
【0012】
例えば、従来、安全性の確保等の観点から、LFPを用いたリチウム二次電池が主に使用されてきたが、最近になって、LFPに比べて重量当たりのエネルギー容量が大きいニッケル系リチウム複合酸化物の使用が拡大される傾向にある。
【0013】
このような正極材の動向に符合するように、本発明は、High-Ni正極活物質の構造的不安定性を減らして、結果的に、電気化学的特性および安定性が向上した正極活物質を提供することを目的とする。
【0014】
特に、本出願人は、正極活物質中、Ni含量が50%以上、好ましくは、80%以上のHigh-Ni正極活物質において、前記正極活物質を所定の条件で充放電を行ったとき、3サイクル目の電圧Vおよび電池容量Qを有し、X軸を前記電圧Vとし、Y軸を前記電池容量Qを前記電圧Vで微分した値dQ/dVで示したグラフにおいて前記正極活物質が所定のピーク強度比および電圧比を満たす場合、前記正極活物質の電気化学的特性および安定性がさらに向上することができることを知見するに至った。
【0015】
これによって、本発明は、所定の条件で充放電を行ったとき、3サイクル目の電圧Vおよび電池容量Qを有し、X軸を前記電圧Vとし、Y軸を前記電池容量Qを前記電圧Vで微分した値dQ/dVで示したグラフにおいて、後述する所定のピーク強度比および電圧比を示す正極活物質を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明の他の目的は、本願に定義された正極活物質を含む正極を提供することにある。
【0017】
しかも、本発明のさらに他の目的は、本願に定義された正極を使用するリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様によれば、リチウムのインターカレーション/デインターカレーションが可能なリチウム複合酸化物を含む正極活物質が提供される。
【0019】
前記正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物は、少なくともNiとCoを含むことができる。また、前記リチウム複合酸化物は、NiおよびCoに加えて、Mnおよび/またはAlをさらに含むことができる。
【0020】
一実施例において、前記正極活物質は、前記正極活物質を正極とし、リチウムホイルを負極とするリチウム二次電池において下記の充放電条件で充放電を行ったとき、
【0021】
[充放電条件]
1サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.3V
-充電:0.1C(CCCV)/放電:0.1C(CC)
2サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.3V
-充電:0.1C(CCCV)/放電:0.1C(CC)
3サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.4V
-充電:1C(CCCV)/放電:1C(CC)
【0022】
3サイクル目の電圧Vおよび電池容量Qを有し、X軸を前記電圧Vとし、Y軸を前記電池容量Qを前記電圧Vで微分した値dQ/dVで示したグラフにおいて、下記の式1によって定義されたピーク強度比(A)を満たすことができる。
【0023】
[式1]
I1/I2≧1.4
【0024】
(式1で、I1は、充電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、I2は、充電領域で3.8V~4.1Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【0025】
また、前記正極活物質は、下記の化学式1で表されるリチウム複合酸化物を含むことができる。
【0026】
[化学式1]
LiNi1-(b+c+d+e)CoM1M2M3
【0027】
(ここで、
M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2およびM3は、それぞれ独立して、Al、Ba、B、Ce、Cr、Mg、Mn、Mo、Na、K、P、Sr、Ti、W、NbおよびZrから選ばれ、
M1~M3は、互いに異なり、
0.90≦a≦1.05、0≦b≦0.10、0≦c≦0.10、0≦d≦0.025、0≦e≦0.025、1.0≦f≦2.0である)
【0028】
また、本発明の他の態様によれば、本願に定義された正極活物質を含む正極が提供される。
【0029】
しかも、本発明のさらに他の態様によれば、本願に定義された正極を使用するリチウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0030】
本発明による正極活物質は、所定の条件で充放電を行ったとき、3サイクル目の電圧Vおよび電池容量Qを有し、X軸を前記電圧Vとし、Y軸を前記電池容量Qを前記電圧Vで微分した値dQ/dVで示したグラフにおいて、所定のピーク強度比および電圧比を示し、この場合、Ni含量が50%以上、好ましくは、80%以上のHigh-Ni正極活物質の高容量特性を維持すると同時に、High-Ni正極活物質の短所として指摘された構造的不安定性を改善することができる。
【0031】
また、本発明による正極活物質は、平均粒径が互いに異なる小粒子の第1リチウム複合酸化物および大粒子である第2リチウム複合酸化物を含むバイモーダル(bimodal)形態の正極活物質であり、大粒子間の空隙を相対的に平均粒径が小さい小粒子で充填することができるようになることによって、単位体積内リチウム複合酸化物の集積密度が向上して、単位体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0032】
しかも、本発明による正極活物質は、前記正極活物質を構成するリチウム複合酸化物の結晶粒界の密度を低くして、前記リチウム複合酸化物の表面積および粒界面を減少させることができ、これを通じて、前記正極活物質と電解液間の副反応の可能性を減らして、前記正極活物質の高温安定性だけでなく、貯蔵安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】正極活物質を正極とし、リチウムホイルを負極とするリチウム二次電池において所定の充放電条件で充放電を行ったとき、3サイクル目の電圧Vおよび電池容量Qを有し、X軸を前記電圧Vとし、Y軸を前記電池容量Qを前記電圧Vで微分した値dQ/dVで示したグラフである。
図2】本願に定義された結晶粒界の密度を算出するリチウム複合酸化物の断面を概略的に示す図である。
図3】本願に定義された結晶粒界の密度を算出するリチウム複合酸化物の断面を概略的に示す図である。
図4】実施例1による正極活物質を正極とし、リチウムホイルを負極とするリチウム二次電池において所定の充放電条件で充放電を行ったとき、3サイクル目の電圧Vおよび電池容量Qを有し、X軸を前記電圧Vとし、Y軸を前記電池容量Qを前記電圧Vで微分した値dQ/dVで示したグラフである。
図5】実施例2による正極活物質に対してX軸が電圧Vであり、Y軸がdQ/dVであるグラフである。
図6】実施例3による正極活物質に対してX軸が電圧Vであり、Y軸がdQ/dVであるグラフである。
図7】実施例4による正極活物質に対してX軸が電圧Vであり、Y軸がdQ/dVであるグラフである。
図8】実施例5による正極活物質に対してX軸が電圧Vであり、Y軸がdQ/dVであるグラフである。
図9】実施例6による正極活物質に対してX軸が電圧Vであり、Y軸がdQ/dVであるグラフである。
図10】実施例7による正極活物質に対してX軸が電圧Vであり、Y軸がdQ/dVであるグラフである。
図11】実施例8による正極活物質に対してX軸が電圧Vであり、Y軸がdQ/dVであるグラフである。
図12】実施例9による正極活物質に対してX軸が電圧Vであり、Y軸がdQ/dVであるグラフである。
図13】比較例1による正極活物質に対してX軸が電圧Vであり、Y軸がdQ/dVであるグラフである。
図14】比較例2による正極活物質に対してX軸が電圧Vであり、Y軸がdQ/dVであるグラフである。
図15】比較例3による正極活物質に対してX軸が電圧Vであり、Y軸がdQ/dVであるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明をさらに容易に理解するために便宜上特定の用語を本願に定義する。本願において別途定義しない限り、本発明に使用される科学用語および技術用語は、当該技術分野における通常の知識を有する者により一般的に理解される意味を有する。また、文脈上、特に別途指定しない限り、単数形態の用語は、それの複数形態も含むものであり、複数形態の用語は、それの単数形態も含むものと理解すべきである。
【0035】
以下、本発明による正極活物質および前記正極活物質を含むリチウム二次電池についてより詳細に説明することとする。
【0036】
正極活物質
本発明の一態様によれば、リチウムのインターカレーション/デインターカレーションが可能なリチウム複合酸化物を含む正極活物質が提供される。
【0037】
前記正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物は、少なくともNiとCoを含むことができる。また、前記リチウム複合酸化物は、NiおよびCoに加えて、Mnおよび/またはAlをさらに含むことができる。
【0038】
一実施例において、前記正極活物質は、小粒子の第1リチウム複合酸化物と、大粒子の第2リチウム複合酸化物とを含むバイモーダル(bimodal)形態の正極活物質でありうる。
【0039】
この場合、大粒子間の空隙を相対的に平均粒径が小さい小粒子で充填することができるようになることによって、単位体積内リチウム複合酸化物の集積密度が向上して、単位体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0040】
本願において小粒子および大粒子の平均粒径D50の範囲は、特に制限されものではないが、任意のリチウム複合酸化物が小粒子または大粒子であるかを区分するために、下記のような小粒子および大粒子の平均粒径D50の基準範囲が決定され得る。
【0041】
小粒子は、平均粒径D50が8μm以下のリチウム複合酸化物を意味し、大粒子は、平均粒径D50が8.5μm以上のリチウム複合酸化物を意味する。前記大粒子の平均粒径D50の上限は制限がないが、例えば、前記大粒子は、8.5~23.0μmの平均粒径を有することができる。
【0042】
本発明の多様な実施例によるバイモーダル形態の正極活物質は、上記に定義された平均粒径D50を示す前記第1リチウム複合酸化物および前記第2リチウム複合酸化物が5:95~50:50の重量比で混合された状態で存在することができる。
【0043】
この際、前記第1リチウム複合酸化物は、前記第2リチウム複合酸化物間の空隙内充填された形態で存在したり、前記第2リチウム複合酸化物の表面に付着したり、前記第1リチウム複合酸化物どうし凝集した形態で存在することもできる。
【0044】
なお、前記正極活物質中、前記第1リチウム複合酸化物および前記第2リチウム複合酸化物は、5:95~50:50の重量比で存在することが好ましい。
【0045】
前記正極活物質中、前記第2リチウム複合酸化物に比べて前記第1リチウム複合酸化物の割合が過度に多かったり過度に少ない場合、かえって前記正極活物質のプレス密度が減少するにつれて、前記正極活物質の単位体積当たりのエネルギー密度の向上効果が微小になり得る。
【0046】
なお、前記正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物は、下記の化学式1で表され得る。もし前記正極活物質が、小粒子の第1リチウム複合酸化物および大粒子の第2リチウム複合酸化物を含む場合、前記第1リチウム複合酸化物および前記第2リチウム複合酸化物も、下記の化学式1で表され得る。
【0047】
[化学式1]
LiNi1-(b+c+d+e)CoM1M2M3
【0048】
(ここで、
M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2およびM3は、それぞれ独立して、Al、Ba、B、Ce、Cr、Mg、Mn、Mo、Na、K、P、Sr、Ti、W、NbおよびZrから選ばれ、
M1~M3は、互いに異なり、
0.90≦a≦1.05、0≦b≦0.10、0≦c≦0.10、0≦d≦0.025、0≦e≦0.025、1.0≦f≦2.0である)
【0049】
また、前記第1リチウム複合酸化物と前記第2リチウム複合酸化物は、上記化学式1で表され、同じ組成を有するリチウム複合酸化物でありうるが、必ずこれに制限されるものではない。例えば、前記第1リチウム複合酸化物と前記第2リチウム複合酸化物は、同じ組成を有し、かつ、平均粒径が異なる前駆体の焼成により合成され得、または、前記第1リチウム複合酸化物と前記第2リチウム複合酸化物は、異なる組成を有し、平均粒径が異なる前駆体の焼成により合成され得る。
【0050】
なお、上記化学式1で表されるリチウム複合酸化物は、Niの含量(モル比)が80%以上のHigh-Niタイプのリチウム複合酸化物でありうる。この際、前記リチウム複合酸化物中Niの含量は、下記のように、下記の化学式1中、b+c+d+eの値によって決定され得る。
【0051】
Ni(mol%)/(Ni+Co+M1+M2+M3)(mol%)≧80
【0052】
本発明による正極活物質は、所定の条件で充放電を行ったとき、3サイクル目の電圧Vおよび電池容量Qを有し、X軸を前記電圧Vとし、Y軸を前記電池容量Qを前記電圧Vで微分した値dQ/dVで示したグラフにおいて、所定のピーク強度比および電圧比を示し、この場合、Ni含量が50%以上、好ましくは、80%以上のHigh-Ni正極活物質の高容量特性を維持すると同時に、High-Ni正極活物質の短所として指摘された構造的不安定性を改善することができる。
【0053】
具体的に、前記正極活物質を正極とし、リチウムホイルを負極とするリチウム二次電池において下記の充放電条件で充放電を行ったとき、
【0054】
[充放電条件]
1サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.3V
-充電:0.1C(CCCV)/放電:0.1C(CC)
2サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.3V
-充電:0.1C(CCCV)/放電:0.1C(CC)
3サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.4V
-充電:1C(CCCV)/放電:1C(CC)
【0055】
3サイクル目の電圧Vおよび電池容量Qを有し、X軸を前記電圧Vとし、Y軸を前記電池容量Qを前記電圧Vで微分した値dQ/dVで示したグラフ(図1参照)において、前記正極活物質は、下記の式1によって定義されたピーク強度比(A)を満たすことができる。
【0056】
[式1]
I1/I2≧1.4
【0057】
(式1で、I1は、充電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、I2は、充電領域で3.8V~4.1Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【0058】
前記正極活物質は、充電時に結晶構造の変化(相変態;phase transformation)が発生し得、I1は、H1(hexagonal 1)からM(monoclinic)への相変態領域(H→M)に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、I2は、M(monoclinic)からH2(hexagonal 2)への相変態領域(M→H2)に現れるピークのy軸値dQ/dVである。
【0059】
この際、H1→M相変態領域に比べてM→H2相変態領域において結晶構造の変化によって前記正極活物質に加えられるダメージが相対的にもっと大きいことがあり得、これによって、前記正極活物質の結晶構造の崩壊が引き起こされ得る。したがって、I1/I2が1.4以上、好ましくは1.4以上1.92以下の値を有する場合、前記正極活物質の安定性を向上させるのに有利であり得る。
【0060】
また、前記正極活物質は、下記の式2によって定義されたピーク強度比(B)を満たすことができる。
【0061】
[式2]
I1/I3≧0.7
【0062】
(式2で、I1は、充電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、I3は、充電領域で4.1V~4.4Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【0063】
同様に、I3は、H2(hexagonal 2)からH3(hexagonal 3)への相変態領域(H2→H3)に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、式1と同様に、H1→M相変態領域に比べてH2→H3相変態領域において結晶構造の変化によって前記正極活物質に加えられるダメージが相対的にもっと大きいことがあり得る。 したがって、I1/I3が0.7以上、好ましくは0.7以上1.41以下の値を有する場合、前記正極活物質の安定性を向上させるのに有利であり得る。
【0064】
また、前記正極活物質は、下記の式3によって定義されたピーク強度比(C)を満たすことができる。
【0065】
[式3]
I2/I3≧0.5
【0066】
(式3で、I2は、充電領域で3.8V~4.1Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、I3は、充電領域で4.1V~4.4Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【0067】
この際、M→H2相変態領域に比べてH2→H3相変態領域において結晶構造の変化によって前記正極活物質に加えられるダメージが相対的にもっと大きいことがあり得る。したがって、前記I2に比べて前記I3が相対的に小さいことによって、I2/I3が0.5以上の値を有する場合、前記正極活物質の安定性の向上に寄与することができる。
【0068】
また、前記正極活物質は、下記の式4によって定義されたピーク強度比(D)を満たすことができる。
【0069】
[式4]
DI1/DI2≧1.25
【0070】
(式4で、DI1は、放電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、DI2は、放電領域で3.8V~4.1Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【0071】
前記正極活物質は、放電時にも、充電反応と同様に、結晶構造の変化が発生し得、結晶構造の変化は、充電反応と逆順に起こり得る。
【0072】
具体的に、DI1は、M(monoclinic)からH1(hexagonal 1)への相変態領域(M→H1)に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、DI2は、H2(hexagonal 2)からM(monoclinic)への相変態領域(H2→M)に現れるピークのy軸値dQ/dVである。
【0073】
この際、M→H1相変態領域に比べてH2→M相変態領域において結晶構造の変化によって前記正極活物質に加えられるダメージが相対的にもっと大きいことがあり得、これによって、前記正極活物質の結晶構造の崩壊が引き起こされ得る。 したがって、DI1/DI2が1.25以上、好ましくは1.25以上1.46以下の値を有する場合、前記正極活物質の安定性を向上させるのに有利であり得る。
【0074】
また、前記正極活物質は、下記の式5によって定義されたピーク強度比(E)を満たすことができる。
【0075】
[式5]
DI1/DI3≧0.41
【0076】
(式5で、DI1は、放電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、DI3は、放電領域で4.1V~4.4Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【0077】
同様に、DI3は、H3(hexagonal 3)からH2(hexagonal 2)への相変態領域(H3→H2)に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、式4と同様に、H2→M相変態領域に比べてH3→H2相変態領域において結晶構造の変化によって前記正極活物質に加えられるダメージが相対的にもっと大きいことがあり得るので、前記DI3のピーク強度が前記DI1に比べて小さい値を有することによって、DI1/DI3が0.41以上の値を有する場合、前記正極活物質の安定性の観点から好ましい。
【0078】
また、前記正極活物質は、下記の式6によって定義されたピーク強度比(F)を満たすことができる。
【0079】
[式6]
DI2/DI3≧0.34
【0080】
(式6で、DI2は、放電領域で3.8V~4.1Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVであり、DI3は、放電領域で4.1V~4.4Vの間に現れるピークのy軸値dQ/dVである)
【0081】
この際、H2→M相変態領域に比べてH3→H2相変態領域において結晶構造の変化によって前記正極活物質に加えられるダメージが相対的にもっと大きいことがあり得る。 したがって、DI2/DI3が0.34以上、好ましくは0.34以上0.58以下の値を有する場合、前記正極活物質の安定性を向上させるのに有利であり得る。
【0082】
しかも、前記正極活物質は、下記の式7によって定義された電圧比(G)を満たすことができる。
【0083】
[式7]
|ΔV1=(V1-DV1)|≦0.05
【0084】
(式7で、V1は、充電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのx軸値Vであり、DV1は、放電領域で3.0V~3.8Vの間に現れるピークのx軸値Vである)
【0085】
V1は、充電時にI1ピークの電圧値であり、DV1は、放電時にDI1ピークに対応する電圧値であり、理想的にI1ピークの電圧値とDI1ピークの電圧値が同一でなければならないが、抵抗または速度論的問題によってI1ピークの電圧値とDI1ピークの電圧値に差異が発生するしかない。ただし、少なくとも式1~式6を満たす正極活物質の場合、優れた抵抗特性を示すことによって、式7で示すΔV1は、0.05以下、好ましくは0.022以下 の値を有することが可能である。
【0086】
Niを含むリチウム複合酸化物の場合、LiとNiのカチオンミキシングによって前記リチウム複合酸化物の表面に残留リチウム、すなわちLiOHおよびLiCOのようなLi不純物が形成され得る。このようなLi不純物は、前記Li不純物は、正極を製造するためのペーストの製造時にゲル(gel)化したり、セルのスウェリング現象を引き起こす原因として作用することができる。
【0087】
このようなLi不純物は、High-Niタイプの正極活物質においてさらに多量で形成され得るが、後述するように、本発明による正極活物質は、前記リチウム複合物の表面のうち少なくとも一部をカバーし、金属酸化物を含むコーティング層を形成する過程で前記リチウム複合酸化物の表面に存在するLi不純物を除去することができるというメリットがある。
【0088】
より具体的に、前記正極活物質は、前記リチウム複合酸化物の表面のうち少なくとも一部をカバーし、金属酸化物を含むコーティング層を含むことができる。
【0089】
また、前記コーティング層に含まれた前記金属酸化物は、下記の化学式2で表され得る。この際、前記コーティング層は、前記リチウム複合酸化物の表面のうち下記の化学式2で 表される金属酸化物が存在する領域と定義され得る。
【0090】
[化学式2]
LiM4
【0091】
(ここで、M4は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、Ce、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、0≦x≦10、0≦y≦8、2≦z≦13である)
【0092】
また、前記コーティング層は、1層内異種の金属酸化物が同時に存在したり、上記の化学式2で表される異種の金属酸化物がそれぞれ別個の層に存在する形態でありうる。
【0093】
上記の化学式2で表される金属酸化物は、上記の化学式1で表される1次粒子と物理的および/または化学的に結合した状態でありうる。また、前記金属酸化物は、上記の化学式1で表される1次粒子と固溶体を形成した状態で存在することもできる。
【0094】
本実施例による正極活物質は、前記第1リチウム複合酸化物および前記第2リチウム複合酸化物の表面のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層を含むことによって、構造的な安定性が高くなりえる。また、このような正極活物質をリチウム二次電池に使用する場合、正極活物質の高温貯蔵安定性および寿命特性が向上することができる。また、前記金属酸化物は、前記第1リチウム複合酸化物および前記第2リチウム複合酸化物の表面のうち残留リチウムを低減させると同時に、リチウムイオンの移動経路(pathway)として作用することによって、リチウム二次電池の効率特性を向上させるのに影響を与えることができる。
【0095】
また、前記金属酸化物は、リチウムとAで表される元素が複合化した酸化物であるか、Aの酸化物であり、前記金属酸化物は、例えば、Li、LiZr、LiTi、LiNi、Li、LiCo、LiAl、Co、Al、W、Zr、TiまたはB等でありうるが、上述した例は、理解を助けるために便宜上記載したものに過ぎず、本願に定義された前記金属酸化物は上述した例に制限されない。
【0096】
他の実施例において、前記金属酸化物は、リチウムとAで表される少なくとも2種の元素が複合化した酸化物であるか、リチウムとAで表される少なくとも2種の元素が複合化した金属酸化物をさらに含むことができる。リチウムとAで表される少なくとも2種の元素が複合化した金属酸化物は、例えば、Li(W/Ti)、Li(W/Zr)、Li(W/Ti/Zr)、Li(W/Ti/B)等でありうるが、必ずこれらに制限されるものではない。
【0097】
ここで、前記金属酸化物は、前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。これによって、前記金属酸化物の濃度は、前記2次粒子の最表面から前記2次粒子の中心部に向かって減少することができる。
【0098】
上述したように、前記金属酸化物が前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことによって、前記正極活物質の表面に存在する残留リチウムを効果的に減少させて、未反応の残留リチウムによる副反応をあらかじめ防止することができる。また、前記金属酸化物によって前記正極活物質の表面の内側領域での結晶性が低くなるのを防止することができる。また、電気化学反応中に前記金属酸化物によって正極活物質の全体的な構造が崩壊されるのを防止することができる。
【0099】
しかも、前記コーティング層は、上記の化学式2で表される少なくとも1つの金属酸化物を含む第1酸化物層と、上記の化学式2で表される少なくとも1つの金属酸化物とを含み、かつ、前記第1酸化物層に含まれた金属酸化物と異なる金属酸化物を含む第2酸化物層を含むことができる。
【0100】
例えば、前記第1酸化物層は、前記2次粒子の最外郭に存在する前記1次粒子の露出した表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在することができ、前記第2酸化物層は、前記第1酸化物層によってカバーされていない前記1次粒子の露出した表面および前記第1酸化物層の表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在することができる。
【0101】
なお、前記第1リチウム複合酸化物および前記第2リチウム複合酸化物が少なくとも1つの1次粒子を含む複合粒子であると定義するとき、前記コーティング層は、前記複合粒子の表面(例えば、2次粒子)のうち少なくとも一部をカバーするだけでなく、前記複合粒子を構成する複数の1次粒子の間の界面にも存在することができる。
【0102】
また、前記コーティング層は、前記1次粒子および/または前記2次粒子の表面を連続的または不連続的にコーティングする層として存在することができる。前記コーティング層が不連続的に存在する場合、前記コーティング層は、アイランド(island)形態で存在することができる。他の場合において、前記コーティング層は、前記1次粒子および/または前記1次粒子が凝集して形成された前記2次粒子と境界を形成しない固溶体の形態で存在することもできる。
【0103】
なお、前記コーティング層は、前記リチウム複合酸化物の前駆体と上記化学式2で表される金属酸化物の原料物質を混合した後に1次焼成したり、前記リチウム複合酸化物の前駆体を1次焼成した後に、上記化学式2で表される金属酸化物の原料物質を混合した後、2次焼成することによって得られる。
【0104】
また、リチウムのインターカレーション/デインターカレーションが可能な前記リチウム複合酸化物は、少なくとも1つの1次粒子を含む複合粒子でありうる。もし、前記リチウム複合酸化物が複数の1次粒子を含む場合、前記複数の1次粒子は、互いに凝集した凝集体である2次粒子として存在することができる。
【0105】
前記1次粒子は、1つの結晶粒(grain or crystallite)を意味し、2次粒子は、複数の1次粒子が凝集して形成された凝集体を意味する。前記2次粒子を構成する前記1次粒子の間には、空隙および/または結晶粒界(grain boundary)が存在することができる。
【0106】
特に、本発明によれば、リチウム複合酸化物の結晶粒界の密度を低くして、前記リチウム複合酸化物の表面積および粒界面を減少させることができ、これを通じて、前記正極活物質と電解液間の副反応の可能性を減らして、前記正極活物質の高温安定性だけでなく、貯蔵安定性を向上させることができる。
【0107】
具体的に、前記リチウム複合酸化物は、断面SEMイメージで前記リチウム複合酸化物の中心を横切る仮想直線L上に配置された1次粒子Pに対して下記の式8で計算される結晶粒界の密度が0.90以下でありうる。
【0108】
[式8]
結晶粒界の密度=(前記仮想の直線L上に配置された1次粒子間の境界面Bの数/前記仮想の直線上に配置された1次粒子Pの数)
【0109】
図2および図3は、本願に定義された結晶粒界の密度を算出するリチウム複合酸化物の断面を概略的に示す図である。図2および図3を参照して計算されたリチウム複合酸化物の結晶粒界の密度は、下記の表1に示した。
【0110】
【表1】
【0111】
この際、前記リチウム複合酸化物は、図2に示されたように、仮想の直線上に配置された1次粒子間の境界面(結晶粒界)の数が1個であり、前記仮想の直線上に配置された1次粒子の数が2個であることによって、結晶粒界の密度が0.5の構造を有することができる。また、別途図示してはいないが、前記リチウム複合酸化物は、単一の1次粒子で構成された単結晶構造のリチウム複合酸化物でありうる。
【0112】
前記式8で表される前記結晶粒界の密度が0.90以下の値を有することによって、前記リチウム複合酸化物の表面積および粒界面を減少させることができ、これを通じて、前記正極活物質と電解液間の副反応の可能性を減らして、前記正極活物質の高温安定性だけでなく、貯蔵安定性を向上させることができる。
【0113】
また、前記正極活物質が、小粒子の第1リチウム複合酸化物および大粒子の第2リチウム複合酸化物を含むバイモーダル(bimodal)形態の正極活物質である場合、前記第1リチウム複合酸化物および前記第2リチウム複合酸化物の結晶粒界の密度は、いずれも、0.90以下、好ましくは、0.75以下でありうる。
【0114】
リチウム二次電池
本発明のさらに他の態様によれば、正極集電体と、前記正極集電体上に形成された正極活物質層とを含む正極が提供され得る。ここで、前記正極活物質層は、本発明の多様な実施例による正極活物質を含むことができる。したがって、正極活物質は、上記で説明したことと同一なので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、残りの前述しない構成のみについて説明することとする。
【0115】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えばステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの等が使用され得る。また、前記正極集電体は、通常、3~500μmの厚みを有し得、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して、正極活物質の接着力を高めることもできる。例えばフィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等多様な形態で使用され得る。
【0116】
前記正極活物質層は、前記正極活物質と共に、導電材および必要に応じて選択的にバインダーを含む正極スラリー組成物を前記正極集電体に塗布して製造され得る。
【0117】
この際、前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80~99wt%、より具体的には、85~98.5wt%の含量で含まれ得る。上記した含量範囲で含まれるとき、優れた容量特性を示すことができるが、必ずこれに制限されるものではない。
【0118】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こさず、電子伝導性を有するものであれば、特別な制限なしに使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維等の炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀等の金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー;酸化チタン等の導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体等の導電性高分子等が挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して0.1~15wt%で含まれ得る。
【0119】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割をする。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体等が挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して0.1~15wt%で含まれ得る。
【0120】
前記正極は、上記した正極活物質を利用することを除いて、通常の正極の製造方法により製造され得る。具体的に、上記した正極活物質および選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した正極スラリー組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することによって製造することができる。
【0121】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であってもよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水等が挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚み、製造収率を考慮して前記正極活物質、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以後、正極の製造のための塗布時に優れた厚み均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0122】
また、他の実施例において、前記正極は、前記正極スラリー組成物を別の支持体上にキャストした後、該支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネーションすることによって製造されることもできる。
【0123】
また、本発明のさらに他の態様によれば、上述した正極を含む電気化学素子が提供され得る。前記電気化学素子は、具体的に電池、キャパシタ等であってもよく、より具体的には、リチウム二次電池であってもよい。
【0124】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と前記負極との間に介在される分離膜および電解質とを含むことができる。ここで、前記正極は、上記で説明したことと同一なので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、前述しない残りの構成のみについて具体的に説明する。
【0125】
前記リチウム二次電池は、前記正極、前記負極および前記分離膜の電極組立体を収納する電池容器および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0126】
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含むことができる。
【0127】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金等が使用され得る。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚みを有し得、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して、負極活物質の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等多様な形態で使用され得る。
【0128】
前記負極活物質層は、前記負極活物質と共に、導電材および必要に応じて選択的にバインダーを含む負極スラリー組成物を前記負極集電体に塗布して製造され得る。
【0129】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用され得る。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素等の炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金等リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープおよび脱ドープし得る金属酸化物;またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物等が挙げられ、これらのうちいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用され得る。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が使用されることもできる。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素等がすべて使用され得る。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球形状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)等の高温焼成炭素が代表的である。
【0130】
前記負極活物質は、負極活物質層の全体重量を基準として80~99wt%で含まれ得る。
【0131】
前記バインダーは、導電材、活物質および集電体間の結合に助力する成分であって、通常、負極活物質層の全体重量を基準として0.1~10wt%で添加され得る。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの多様な共重合体等が挙げられる。
【0132】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分であって、負極活物質層の全体重量を基準として10wt%以下、好ましくは5wt%以下で添加され得る。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛;アセチレンブラック、ケチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維等の導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末等の金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー;酸化チタン等の導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体等の導電性素材等が使用され得る。
【0133】
一実施例において、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極スラリー組成物を塗布し乾燥することによって製造されたり、または前記負極スラリー組成物を別の支持体上にキャストした後、該支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネーションすることによって製造され得る。
【0134】
なお、前記リチウム二次電池において、分離膜は、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常、リチウム二次電池において分離膜として使用されるものであれば、特別な制限なしに使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗でありかつ電解液含浸能力に優れていることが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体等のようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用され得る。また、通常の多孔性不織布、例えば高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等からなる不織布が使用されることもできる。また、耐熱性または機械的強度の確保のためにセラミック成分または高分子物質が含まれたコートされた分離膜が使用されることもでき、選択的に単層または多層構造で使用され得る。
【0135】
また、本発明において使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質等が挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0136】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0137】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割をすることができるものであれば、特別な制限なしに使用され得る。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)等のエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)等のエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)等のケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)等の芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)等のカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;R-CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環状構造の炭化水素基であり、二重結合の芳香環またはエーテル結合を含むことができる)等のニトリル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;1,3-ジオキソラン等のジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類等が使用され得る。これらの中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネート等)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネート等)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用することが、電解液の性能が優秀に現れることができる。
【0138】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供できる化合物であれば、特別な制限なしに使用され得る。具体的に前記リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAl0、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(C等が使用され得る。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0Mの範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれる場合、電解質が適切な伝導度および粘度を有するので、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0139】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量減少の抑制、電池の放電容量の向上等を目的として例えば、ジフルオロエチレンカーボネート等のようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウム等の添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。この際、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1~5wt%で含まれ得る。
【0140】
上記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および寿命特性を安定的に示すので、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ等の携帯用機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)等の電気自動車分野等に有用である。
【0141】
本発明によるリチウム二次電池の外形は、特別な制限がないが、缶を使用した円筒形、角形、パウチ(pouch)形またはコイン(coin)形等になり得る。また、リチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用され得ると共に、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく使用され得る。
【0142】
本発明のさらに他の態様によれば、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよび/またはこれを含む電池パックが提供され得る。
【0143】
前記電池モジュールまたは前記電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのうちいずれか1つ以上の中大型デバイス電源として用いられる。
【0144】
以下では、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、ただ本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇がこれらの実施例により制限されるものと解されないと言える。
【0145】
製造例1.正極活物質の製造
(1)実施例1
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを使用する公知の共沈法(co-precipitation method)を用いて小粒子の第1リチウム複合酸化物および大粒子の第2リチウム複合酸化物のNiCoMn(OH)水酸化物前駆体(Ni:Co:Mn=91:8:1(at%))を合成した。前記第1リチウム複合酸化物の水酸化物前駆体(第1水酸化物前駆体)の平均粒径D50は3.0μmであり、前記第2リチウム複合酸化物の水酸化物前駆体(第2水酸化物前駆体)の平均粒径D50は18.0μmであった。
【0146】
次に、前記第1水酸化物前駆体および前記第2水酸化物前駆体を30:70の重量比で混合した後、LiOH(Li/(Ni+Co+Mn)mol ratio=1.05±0.05)を添加した後、焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、780℃まで1分当たり2℃で昇温して、12時間熱処理(1次焼成)して、前記第1リチウム複合酸化物と前記第2リチウム複合酸化物の混合物を収得した。
【0147】
次に、前記第1リチウム複合酸化物と前記第2リチウム複合酸化物の混合物に蒸留水を投入し、1時間水洗し、真空乾燥器で120℃で12時間乾燥させた。
【0148】
次に、焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、700℃まで1分当たり2℃で昇温して、12時間熱処理(2次焼成)して、小粒子の第1リチウム複合酸化物と大粒子の第2リチウム複合酸化物が所定の割合で混合されたバイモーダル形態の正極活物質を収得した。
【0149】
(2)実施例2
1次焼成前に前記第1水酸化物前駆体および前記第2水酸化物前駆体の混合物を基準として0.5mol%のNaNOを追加混合した後、熱処理したことを除いて、実施例1と同一に、正極活物質を製造した。
【0150】
(3)実施例3
1次焼成前に前記第1水酸化物前駆体および前記第2水酸化物前駆体の混合物を基準として0.3mol%のBa(OH)を追加混合した後、熱処理したことを除いて、実施例1と同一に、正極活物質を製造した。
【0151】
(4)実施例4
820℃まで1分当たり2℃で昇温して、12時間熱処理(1次焼成)したことを除いて、実施例1と同一に、正極活物質を製造した。
【0152】
(5)実施例5
1次焼成前に前記第1水酸化物前駆体および前記第2水酸化物前駆体の混合物を基準として0.5mol%のNaNOを追加混合した後、熱処理したことを除いて、実施例4と同一に正極活物質を製造した。
【0153】
(6)実施例6
1次焼成前に前記第1水酸化物前駆体および前記第2水酸化物前駆体の混合物を基準として0.3mol%のBa(OH)を追加混合した後、熱処理したことを除いて、実施例4と同一に正極活物質を製造した。
【0154】
(7)実施例7
850℃まで1分当たり2℃で昇温して、12時間熱処理(1次焼成)したことを除いて、実施例1と同一に、正極活物質を製造した。
【0155】
(8)実施例8
1次焼成前に前記第1水酸化物前駆体および前記第2水酸化物前駆体の混合物を基準として0.5mol%のNaNOを追加混合した後、熱処理したことを除いて、実施例7と同一に正極活物質を製造した。
【0156】
(9)実施例9
1次焼成前に前記第1水酸化物前駆体および前記第2水酸化物前駆体の混合物を基準として0.3mol%のBa(OH)を追加混合した後、熱処理したことを除いて、実施例7と同一に正極活物質を製造した。
【0157】
(10)比較例1
700℃まで1分当たり2℃で昇温して、8時間熱処理(1次焼成)したことを除いて、実施例1と同一に、正極活物質を製造した。
【0158】
(11)比較例2
705℃まで1分当たり2℃で昇温して、8時間熱処理(1次焼成)したことを除いて、実施例1と同一に、正極活物質を製造した。
【0159】
(12)比較例3
710℃まで1分当たり2℃で昇温して、8時間熱処理(1次焼成)したことを除いて、実施例1と同一に、正極活物質を製造した。
【0160】
製造例2.リチウム二次電池の製造
製造例1によって製造された正極活物質それぞれ92wt%、人造黒鉛(super-P)4wt%、PVDFバインダー4wt%をN-メチル-2ピロリドン(NMP)30gに分散させて、正極スラリーを製造した。前記正極スラリーを厚み15μmのアルミニウム薄膜に均一に塗布し、135℃で真空乾燥して、リチウム二次電池用正極を製造した。
【0161】
前記正極に対してリチウムホイルを対電極(counter electrode)とし、多孔性ポリエチレン膜(Celgard 2300、厚み:25μm)を分離膜とし、エチレンカーボネートおよびエチルメチルカーボネートが3:7の体積比で混合された溶媒にLiPFが1.15Mの濃度で存在する電解液を使用してコイン電池を製造した。
【0162】
実験例1.正極活物質の構造解析
製造例1によって製造された正極活物質に含まれた小粒子の第1リチウム複合酸化物および大粒子の第2リチウム複合酸化物それぞれに対してFE-SEM(Bruker社)を使用して断面SEMイメージを収得した後、前記断面SEMイメージから下記の式8による結晶粒界の密度の平均値を計算した。
【0163】
[式8]
結晶粒界の密度=(リチウム複合酸化物の断面SEMイメージでリチウム複合酸化物の中心を横切る仮想の直線上に配置された1次粒子間の境界面の数/前記仮想の直線上に配置された1次粒子の数)
【0164】
前記結晶粒界の密度の測定結果は、下記の表2に示した。
【0165】
【表2】
【0166】
実験例2.正極活物質の電気化学的特性の評価
(1)リチウム二次電池のピーク強度比および電圧比の測定結果
製造例2によって製造されたリチウム二次電池を25℃で下記の充放電条件で充放電を行ったとき、3サイクル目の電圧Vおよび電池容量Qを電気化学分析装置(Toyo、Toscat-3100)を用いて測定し、X軸を前記電圧Vとし、Y軸を前記電池容量Qを前記電圧Vで微分した値dQ/dVで示したグラフを求め、前記グラフから式1~式6によって定義されたピーク強度比と式7によって定義された電圧比を求めた。式1~式6によって定義されたピーク強度比と式7によって定義された電圧比は、下記の表3~表6に示した。
【0167】
[充放電条件]
1サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.3V
-充電:0.1C(CCCV)/放電:0.1C(CC)
2サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.3V
-充電:0.1C(CCCV)/放電:0.1C(CC)
3サイクル:
-Cut off voltage 3.0V~4.4V
-充電:1C(CCCV)/放電:1C(CC)
【0168】
【表3】
【0169】
【表4】
【0170】
【表5】
【0171】
【表6】
【0172】
(2)リチウム二次電池の電池容量および寿命特性の評価
製造例2によって製造されたリチウム二次電池を電気化学分析装置(Toyo、Toscat-3100)を用いて25℃の温度で3.0V~4.4Vの駆動電圧の範囲内で1C/1Cの条件で50回充放電を実施した後、初期容量に対する50サイクル目の放電容量の比率(サイクル容量維持率;capacity retention)を測定した。
【0173】
前記方法によって測定されたリチウム二次電池の寿命特性の評価結果は、下記の表7に示した。
【0174】
【表7】
【0175】
前記表7の結果を参考にすると、実施例1~実施例9による正極活物質を使用したリチウム二次電池の場合、比較例1~比較例3による正極活物質を使用したリチウム二次電池に比べて寿命特性が向上したことを確認することができる。
【0176】
実験例3.正極活物質およびリチウム二次電池の安定性の評価
(1)正極活物質の熱的安定性の評価
製造例1によって製造された正極活物質の熱的安定性を評価する熱重量分析装置(TA Instruments、Q20)を使用して常圧のAr雰囲気下25℃から350℃まで10℃/minの昇温速度で重量損失を測定した。この際、それぞれの正極活物質において重量損失(熱分解)ピークが現れる開始温度(op-set)を下記の表8に示した。
【0177】
【表8】
【0178】
前記表8の結果を参考にすると、実施例1~実施例9による正極活物質において重量損失(熱分解)ピークが現れる開始温度(on-set)は、比較例1~比較例3による正極活物質より高いことが確認された。すなわち、実施例1~実施例9による正極活物質の熱的安定性が、比較例1~比較例3による正極活物質より優れていることが分かる。
【0179】
(2)リチウム二次電池のガス発生量の測定
製造例2によって製造されたリチウム二次電池を定電流0.2Cで4.25Vまで充電した後、60℃で14日間保管して、リチウム二次電池内ガス発生に起因するリチウム二次電池の体積変化を測定した。体積変化の測定結果は、下記の表9に示した。
【0180】
【表9】
【0181】
前記表9の結果を参考にすると、実施例1~実施例9による正極活物質を使用したリチウム二次電池の体積変化量は、比較例1~比較例3による正極活物質を使用したリチウム二次電池の体積変化量より小さいことを確認することができる。
【0182】
以上、本発明の実施例について説明したが、当該技術分野における通常の知識を有する者なら、特許請求範囲に記載された本発明の思想を逸脱しない範囲内で、構成要素の付加、変更、削除または追加等により本発明を多様に修正および変更させることができ、これも、本発明の権利範囲内に含まれるといえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15