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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】カルボプラチン複合体及びその薬物製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/54 20170101AFI20240826BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240826BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240826BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240826BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240826BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240826BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240826BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240826BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240826BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240826BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20240826BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240826BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
A61K47/54
A61P35/00
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/12
A61K47/12
A61K9/08
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/06
A61K9/12
A61K9/19
A61K31/282
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022513668
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-07
(86)【国際出願番号】 CN2020111393
(87)【国際公開番号】W WO2021037059
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】201910797724.6
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522076169
【氏名又は名称】上海先漢生物科技服務中心
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鄭 建強
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/233273(WO,A1)
【文献】ANALYST,2015年,Vol.140, No.8,p.2704-2712
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 9/08
A61K 9/14
A61K 9/20
A61K 9/06
A61K 9/12
A61K 9/19
A61K 31/00-33/44
A61K 39/395
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Science Direct
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボプラチン複合体の製造方法であって、
前記カルボプラチン複合体は、2つの水素結合を介してカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸とによって形成される複合体であり、前記2つの水素結合は、カルボプラチン分子のカルボニル酸素と1,1-シクロブタンジカルボン酸分子のカルボキシル水素との間に形成され、前記カルボプラチン複合体は以下の化学式で表され、
【化1】
前記製造方法は、
カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸をモル比1:1.5~3の割合で混合して過飽和水溶液に調製し、且つ、当該混合調製操作を65℃±10℃で行い、時間が0.5時間以上であることと、
前記カルボプラチン複合体の結晶を収集して得ることと、を含むカルボプラチン複合体の製造方法。
【請求項2】
薬物製剤の製造方法であって、前記薬物製剤の活性成分は請求項1に記載のカルボプラチン複合体であり、前記製造方法は、請求項に記載の製造方法に従って前記カルボプラチン複合体の結晶を製造し、粉砕して乾燥させて、カルボプラチン複合体粉末を得ることと、
前記カルボプラチン複合体粉末を製剤に製造することと、を含む薬物製剤の製造方法。
【請求項3】
前記カルボプラチン複合体粉末を滅菌水に溶解し、45℃±5℃で攪拌溶解し、室温で1時間以上静置し、母液を得ること、
前記母液を室温で濾過滅菌した後、水注射剤に小分けすること、又は、
前記母液を凍結乾燥粉末注射剤、固体経口製剤、ゲル剤形、スプレー剤形に製造すること、をさらに含む請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
カルボプラチン複合体の品質制御方法であって、X線粉末回折分析法により試料を検出し、前記試料は2θが約11.55±0.2°で回折ピークがないと決定することを含み、前記試料は請求項1に記載の製造方法によって得られたカルボプラチン複合体、或いは請求項又は請求項に記載の製造方法によって得られた薬物製剤であるカルボプラチン複合体の品質制御方法。
【請求項5】
HPLC方法により試料を検出し、前記試料におけるカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の含有量が97%~103%であり、且つ、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸のモル比が0.95~1.05であると決定すること、をさらに含む請求項に記載の品質制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラチナ系誘導体に関し、特に、カルボプラチン(Carboplatin)分子に基づいて水素結合によって得られるカルボプラチン複合体に関し、また、当該カルボプラチン複合体に基づいて得られるプラチナ系薬物製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シス-ジクロロジアミノプラチナの抗腫瘍効果の発見により、プラチナ類抗がん剤の研究と応用を開始し、プラチナ系抗がん剤の研究も近年の腫瘍治療分野で注目されている焦点の1つとなっている。シス-ジクロロジアミノプラチナが活性成分であるシスプラチン(Cisplatin)は、ヒト初のプラチナ系抗がん剤であり、細胞非特異性薬物であり、研究により、シスプラチンはDNAと結合して交差結合を引き起こし、DNAの機能を破壊し、細胞DNAの複製を抑制できることが示された。臨床応用において、シスプラチンの抗腫瘍スペクトルは比較的に広く、頭頚部扁平上皮癌、卵巣癌、胚胞性癌、精原性細胞腫、肺癌、甲状腺癌、リンパ肉腫及び網状細胞肉腫などに用いられ、ビッグデータ統計には良好な腫瘍治療効果を示したが、その臨床でも深刻な毒性と副作用を示した。一方、化学療法薬としての薬剤耐性の観点から、代替薬を探す必要もある。
【0003】
カルボプラチンは、シスプラチンを分子改質して得られる第2世代のプラチナ系抗がん剤であり、シスプラチン分子における2つの塩素原子が1つの1,1-シクロブタンジカルボン酸で同時に置換されることによって得られる新しいプラチナ系化合物であり、シスプラチンの毒性と副作用を部分的に克服すると同時に抗腫瘍特性を保持している。臨床応用によると、カルボプラチンの生化学的徴候はシスプラチンと類似しているが、腎毒性、耳毒性、神経毒性、特に胃腸反応はシスプラチンより明らかに低いため、十数年にわたって広く重視される広域スペクトル抗腫瘍薬物となっている。カルボプラチンは、シスプラチンと同様に細胞周期非特異性薬物であり、主にDNAのグアニンのNとO原子に作用し、DNA鎖間と鎖内の架橋を引き起こし、DNA分子複製を破壊し、腫瘍細胞のアポトーシスを招く。
【化1】

【化2】
【0004】
シスプラチンとカルボプラチンのほかに、多くのプラチナ系抗がん剤が研究と臨床段階に入り、毒性反応の問題を除いて、これらの薬物の安定性、特に水溶液における安定性問題は、その臨床応用の致命的な欠点となっている。従って、既存の構造の薬物の改良および修飾がずっと行われている。
【0005】
一方、化学療法薬剤耐性問題も腫瘍治療を影響するボトルネックであり、腫瘍細胞が何度も薬物と接触した後、薬物に対する感受性が低下し、さらには消失し、薬物の治療効果の低下または無効を招く。一旦薬剤耐性が生じると、薬物の化学療法作用は明らかに低下し、薬を使い続けると治療に失敗する。また、腫瘍細胞が1つの抗がん剤に対して薬剤耐性を持つ場合、構造や作用機序の異なる他の抗がん剤に対しても交差耐性を持ち、このような「多薬剤耐性」(MDR、Multiple Drug Resistance)又は交差耐性(Cross Resistance)は、腫瘍化学療法失敗の最も重要な原因であり、現在臨床ではまだ良策がない。転化医学(Translation Medicine)の発展に伴い、腫瘍駆動性遺伝子突然変異が異なるシグナルチャネル伝導機序を通じて腫瘍の発生と発展を促進することが明らかになり、腫瘍標的治療に道を開いたが、避けられないのは、標的治療も同様に8~14ヶ月の治療期間後に薬剤耐性問題が現れ、薬剤耐性問題の解決は腫瘍治療の成功に依然として挑戦である。
【0006】
持続的な新薬の開発と発売はもちろん医薬分野が追求しているが、経典の抗がん、抗ウイルス、抗菌薬のアップグレードも治療効果を向上させ、適応症を拡大する重要な考え方と方向である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、カルボプラチン複合体を提供し、カルボプラチン分子において水素結合によって1,1-シクロブタンジカルボン酸分子を導入し、カルボプラチンの水溶性、安定性、生物学的利用能などの機能を高め、毒性が低下するプラチナ系薬物製剤を得る。
【0008】
本発明はさらに、上記カルボプラチン複合体を活性成分とする薬物製剤を提供し、良好な安定性を有するのみならず、効果も明確である。
【0009】
本発明はさらに、上記カルボプラチン複合体と薬物製剤の製造方法を提供し、処理工程を制御し最適化することにより、非共有結合を介してカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸とによって形成される安定複合体を実現し、目標生成物として高い純度を有する。
【0010】
本発明はさらに、抗腫瘍薬、抗細菌薬、抗真菌薬または抗ウイルス薬の製造における上記カルボプラチン複合体の応用を提供し、薬物の標的性を高め、毒性副作用を低減する。
【0011】
本発明はさらに、上記カルボプラチン複合体を原料薬とする品質制御方法を提供し、当該カルボプラチン複合体が薬物製剤の製造に用いられる品質制御及び安全性を確保することができる。
【0012】
本発明の第1の態様では、2つの水素結合を介してカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸とによって形成される複合体であるカルボプラチン複合体を提供し、前記2つの水素結合は、カルボプラチン分子のカルボニル酸素と1,1-シクロブタンジカルボン酸分子のカルボキシル水素との間に形成される。
【0013】
上記カルボプラチン複合体は具体的には、分子間水素結合を介して1分子カルボプラチンと1分子1,1-シクロブタンジカルボン酸とによって形成される複合体であってもよい。本発明で提出するカルボプラチン複合体の構造については、以下のように例示することができる。
【化3】
【0014】
カルボプラチンが1,1-シクロブタンジカルボン酸と結合して形成される主な生成物をこの構造で説明し、分子式は、C12Pt・Cと書くことができ、分子量は515.0917である。
【0015】
前述のように、カルボプラチンは、シスプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸との間の置換反応生成物であり、シスプラチン分子における2つの塩素原子が1,1-シクロブタンジカルボン酸によって置換され、カルボプラチン合成中に形成される混合物には、遊離の単分子カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の他に、いくつかの分子量の大きい成分が存在する。これらの不純物の構成のさらなる探究は、カルボプラチンがさらに1,1-シクロブタンジカルボン酸と水素結合によって自己組立されて形成される特定の生成物に本発明者の関心を向ける。さらなる分析と検出により、当該「不純物」は実際に、水素結合と幾何学的空間を介してカルボプラチンと遊離の1,1-シクロブタンジカルボン酸によって形成される1:1モルの複合体であることが分かった。研究によると、当該複合体は、「化学薬物」として非常に無秩序で不安定で、酸塩基、温度、スペクトル、クロマトグラフィー、電磁場などに非常に敏感で、カルボプラチンと遊離の1,1-シクロブタンジカルボン酸に分解されやすいが、温和(80℃以下、PH2~7.5、光を避けるなど)の条件では、当該複合体は非常に安定であると発見した。また、発明者の研究によると、複合体構造は、DNA塩基対に類似しており、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸とを2つの水素結合と幾何学的空間構造を介して組み立てなるもので、多くの特徴もDNA塩基対に近いものであり、適切な環境において、例えば酵素(ヘリカーゼ)活性条件で水素結合が開かれ、カルボプラチンの活性が放出されることができるとさらに発見した。
【0016】
カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸との結合状況をさらに検討するため、本発明は、核磁気共鳴滴定法(HNMR)を用いて、重水素化DMSO(dimethylsulfoxide)を溶媒として(通常、水環境の測定対象物への影響と同等と公認されている)、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸との混合の場合の水素化学シフトを検討し、その結果、1,1-シクロブタンジカルボン酸の量を固定し、カルボプラチン添加量の増加に伴い、両者の混合物の滴定結果では、カルボキシル水素のみが化学シフト、アミノ水素が化学シフトしないと発見した。このことから、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸とはカルボキシル水素を介して自己組立されると推定される。
【0017】
プラチナ系薬物の毒性はプラチナの配位結合に由来し、プラチナ原子の活発な配位結合はDNAにおけるG-N7と結合し、より強い付加物を形成することができ、プラチナ系薬物の副作用を低下させることは付加物の形成速度と効率を遅らせることである。カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸が複合体を形成し、即ちDNAの塩基対A-T/G-C構造に類似する複合基質となり、カルボプラチン分子がホストとなり、1,1-シクロブタンジカルボン酸分子が水素結合を提供するゲストとなる場合、ホストの薬物活性はゲスト分子によって効果的に遮断され、DNA毒性のないまたは極めて低い複合体を形成するので、正常な非複製細胞には毒性がない。
【0018】
本発明のさらなる態様において、前記カルボプラチン複合体は、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の自己組立生成物から得られ、かつ、前記カルボプラチン複合体の質量含有量は95%以上である。
【0019】
適切な工程制御によって高純度の自己組立生成物を得ることができ、それにより、カルボプラチンの基礎の上で水溶安定性、抗腫瘍スペクトル、毒性と副作用、作用機序などの多くの面でより優れたプラチナ系薬物を提供するために構想と方向を見つけた。カルボプラチンと区別するために、本発明では、このようなカルボプラチン複合体を「カルボプラチン4.0」と略称する。つまり、本発明が提供するカルボプラチン4.0は、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸との自己組立生成物を主成分とし、自己組立率が95%以上であり、適切な製造工程を制御することにより、自己組立率が96%以上、あるいは98%以上、さらには99%以上に達することができる。
【0020】
本発明のカルボプラチン複合体構造には、水素結合により結合されるカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸が含まれ、示差走査熱量(DSC)測定の結果、前記カルボプラチン複合体は約197.8±2℃で相転移ピークの形成を開始し(即ち、溶融分解を開始し、一般的には鋭い相転移ピークを形成し)、及び/又は、X線粉末回折分析(XRPD)測定の結果、2θが約11.55±0.2°で回折ピークがない。
【0021】
具体的には、上記XRPD測定結果において、2θが約11.55±0.2°での回折ピークはカルボプラチンの特徴的なピークである。理解できるものとして、サンプルや検出条件等の影響により、上記検出結果に一定の偏差が生じる可能性があり、通常、約11.55°付近(例えば11.55±0.2°)に現れる回折ピークは、いずれもカルボプラチンの特徴的なピークとして表されることができる。本発明の研究によると、カルボプラチン複合体のXRPD測定結果において、一般的に主に7.55°、10.51°、14.63°、15.10°、15.66°、16.78°、18.55°、20.83°、22.86°、23.67°、24.02°などに回折ピークがあり、これらの回折ピークは、上記カルボプラチン複合体の特徴的なピークとすることができ、その偏差範囲はいずれも±0.2°であってもよい(例えば、上記2θが7.55°での回折ピークは7.55±0.2°での回折ピークを指してもよい)。
【0022】
本発明はさらに、活性成分が前記カルボプラチン複合体である薬物製剤を提供する。
【0023】
薬学分野の区分によって、本発明が提供する薬物製剤は主に抗腫瘍製剤、抗細菌製剤、抗真菌製剤または抗ウイルス製剤である。
【0024】
具体的には、前記薬物製剤は、水注射剤又は凍結乾燥粉末注射剤、固体経口製剤、ゲル剤形、スプレー剤形を含む。
【0025】
本発明が提供する薬物製剤において、カルボプラチン複合体(即ち、カルボプラチン4.0)が活性成分であり、その中の1,1-シクロブタンジカルボン酸は実質的に薬物補助材料の役割を担う。本発明の研究によると、1,1-シクロブタンジカルボン酸のカルボプラチン4.0の薬用補助材料としての使用はその分子の特殊性によって決定されると考えられる。まず、1,1-シクロブタンジカルボン酸自体はカルボプラチン生産の重要な原料であり、次に、1,1-シクロブタンジカルボン酸は水素結合を介してカルボプラチンと最適な安定な複合基質を形成することができ、さらに、1,1-シクロブタンジカルボン酸の補助材料としての役割により、カルボプラチンの水溶性、安定性、生物学的利用能、ヘリカーゼ標的などの機能を変化させ、向上させ、一方、カルボプラチンとDNAが結合した後も1,1-シクロブタンジカルボン酸を生成し、1,1-シクロブタンジカルボン酸の構造が明確で、品質が制御可能で、化学的に安定であることを証明するので、微量の1,1-シクロブタンジカルボン酸は生体に対しても安全である。
【0026】
上記カルボプラチン複合体の特性と効果の研究に基づいて、本発明はさらに、抗腫瘍薬物、抗細菌薬物、抗真菌薬物又は抗ウイルス薬物などの薬物の製造における当該カルボプラチン複合体の応用を提供する。
【0027】
上記カルボプラチン複合体の構造と特徴を詳細に検討した上で、出願人は、本発明に記載の特徴を有するカルボプラチン複合体がより正確には、カルボプラチンの新規剤形であると考え、リポソームに埋め込まれた薬物剤形に類似していると理解され得る。カルボプラチンの抗腫瘍効果は疑いの余地なく、水素結合を介してカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸を結合してなるホスト/ゲスト構造の複合体は新規な薬物剤形として製造され、ヘリカーゼ活性を有する条件で開環し、単分子カルボプラチンと単分子1,1-シクロブタンジカルボン酸を放出することができ、即ち、当該複合体の水素結合はヘリカーゼの標的であり、当該複合体(カルボプラチン4.0)はヘリカーゼの複合基質と考えられ、このような作用機序も実験結果から検証できる。
【0028】
従って、上記機序の研究によれば、本発明が提供する薬物は、活性成分の分子中の水素結合がヘリカーゼ作用標的となる標的薬物系であると考えられる。前記標的薬物は、抗腫瘍薬物、抗ウイルス薬物、抗細菌薬物及び抗真菌薬物などを含んでもよい。
【0029】
本発明はさらに、上記カルボプラチン複合体を製造する方法を提供し、特に、操作条件を最適化し、意識的に制御することにより、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の自己組立を実現し、できるだけ高純度または高含有量の上記特徴を満たす目標生成物を製造する。
【0030】
前記製造方法に含まれる操作プロセス(自己組立条件)は、
カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸をモル比1:1.5~3の割合で混合して過飽和水溶液に調製し、かつ、当該混合調製操作を65℃±10℃で行い、時間が0.5時間以上であることと、
前記カルボプラチン複合体の結晶(即ち自己組立生成物)を収集して得ることとを含む。
【0031】
上記過飽和水溶液とは、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸によって形成される複合体の過飽和水溶液であり、通常、一定濃度のカルボプラチン水溶液を調製した後、当該カルボプラチン水溶液に1,1-シクロブタンジカルボン酸を加えることができ、ここで、上記自己組立条件で、できるだけ各原料の濃度を高くしながら、結晶析出がない状態を維持すれば、調製したものは過飽和水溶液と考えられる。
【0032】
出願人の研究によると、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸との水溶液混合物も自然に不安定な複合体を生成することができ、異なる条件下でも異なる含有量の複合体を生成することができ、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸との粉末物理混合物さえも少量の複合体の分子情報を生成することができると発見した。このような状況に基づいて、本発明が提出する製造方法は、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸によって形成された溶液系条件を最適化することにより、1,1-シクロブタンジカルボン酸が著しく過剰となるように調製するとともに、混合後の溶液系における2つの反応原料の濃度ができるだけ高く、生成される複合体が過飽和状態となるように確保し、適当な温度で一定時間(一般的には1時間を超えるだけでよく、例えば、3時間又は4時間を維持してもよい)を維持し、非共有結合を介してカルボプラチン分子と1,1-シクロブタンジカルボン酸分子とによって形成された秩序安定複合体の形成を促進するのに有利であり、即ち、高収率のカルボプラチン複合体を得るとともに、遊離の単分子カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸を不純物と見なし、極めて低い微量に低減する。自己組立後の生成物は結晶状態であり、反応系を室温以下に冷却して結晶を析出させ、分離処理により得られることができ、純度の高い生成物は無色に近い結晶として表現される。分離後、1回以上の再結晶を実施し、生成物の純度を向上させることができる。高純度の原料を用いることも、生成物の純度と収率を向上させる有効な手段であることが理解できる。
【0033】
上記組立工程は、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸が水溶液での混合割合(モル割合)を最適化し、温度、組立時間などの要因を最適化することにより、2つの成分を水溶液で安定な複合体に組立し、結晶分離精製を経て、自己組立率が高いカルボプラチン複合体を得る。本発明の一実施形態において、必要に応じて、調製した過飽和溶液を濾過し、濾液を集めて室温(通常、20±5℃)に置き、遮光処理を行い、一般的に7日以上の時間をかけて、複合体結晶の析出を促進し、カルボプラチン複合体の純度と収率をさらに向上させることができる。
【0034】
本発明において言及されるカルボプラチン複合体収率、自己組立生成物系における含有量、及び自己組立率は、特に説明されていない限り、いずれも同じ意味で理解される。
【0035】
上記カルボプラチン複合体を得る上で、前記当該カルボプラチン複合体を活性組成とする薬物製剤をさらに製造する方法は、
前記方法に従って前記カルボプラチン複合体の結晶を製造し、粉砕し乾燥してカルボプラチン複合体粉末を得ることと、
前記カルボプラチン複合体粉末を製剤に製造することとを含む。
【0036】
具体的には、まずカルボプラチン複合体粉末を母液製造し、さらに水注射剤、又は凍結乾燥粉末注射剤などに製造することができ、
前記カルボプラチン複合体粉末を滅菌水に溶解し、45℃±5℃で攪拌溶解し、室温で1時間以上静置し、母液を得、
前記母液を室温で濾過滅菌後、水注射剤に小分けし、又は、
前記母液を凍結乾燥粉末注射剤、固体経口製剤、ゲル剤形、スプレー剤形などに製造する。
【0037】
本発明は、1,1-シクロブタンジカルボン酸をカルボプラチン新規製剤の補助材料として用いり、リポソーム埋め込み技術に類似し、カルボプラチン複合体粉末製剤を非常に安定な水注射剤に変更する。水注射剤の製造の一具体例は、500グラムのカルボプラチン複合体粉末を滅菌水に溶解し、500リットルまで定量し、45℃±5℃で攪拌し均一に溶解させ、室温で1時間以上放置し、製剤母液に調製し、含有量を検出し、調製した母液は検出によって含有量が基準に達すれば、室温で濾過滅菌し、5ミリグラム/5ミリリットルの水注射剤に小分けし、低温(4℃~10℃)で光を避けて貯蔵することができることであってもよい。
【0038】
本発明の態様では、所望のカルボプラチン複合体(カルボプラチン4.0と呼ぶことができる)が製造される限り、製薬分野における通常の手段に従って対応する薬物剤形を調製することができる。注射製剤の他に、経口製剤、又はゲル剤、スプレー剤などの局所投与製剤であってもよい。
【0039】
本発明のさらなる態様では、上記カルボプラチン複合体に対する品質制御方法を提供する。
【0040】
発明者の研究によると、多くの合成生成物の含有量検出は、クロマトグラフィー-質量スペクトル分析併用(LC-MS)分析が好ましいが、当該カルボプラチン複合体における2つの分子は水素結合のみによって結合しているため、クロマトグラフィー分離は水素結合を破壊し、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の放出によって検出結果を誤らせる可能性がある。一方、サンプルを流動注入した後に直接質量スペクトル分析により、マイナスイオンモードでカルボプラチン4.0の正確な分子量を得ることができるが、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸との物理混合物(以下、2成分の物理混合物と略称する)はこのモードで同じイオンを生じ、たとえ正確に分子量を測定することができても、カルボプラチン4.0の含有量測定根拠とすることができない。
【0041】
キャピラリー電気泳動分析により、水相ゾーンキャピラリー電気泳動(CZE)、非水相キャピラリーゾーン電気泳動(NACE)、ミセルキャピラリー電気泳動(MEKC)の3つのモードで、カルボプラチン4.0、カルボプラチン、1,1-シクロブタンジカルボン酸などのサンプルを鑑別し、上記様々な最適化された分離条件で、上記サンプルはいずれも分離現象が現れず、且つ、カルボプラチン4.0とカルボプラチンのピーク出現時間が一致し、HNMR、LC-MSなどの分析結果と組み合わせて、カルボプラチン4.0は分子内に共有結合に比べて弱い水素結合が存在するため、電界エネルギー環境の作用でカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸に解離することをさらに示す。
【0042】
なお、カルボプラチン4.0(又は水溶後に凍結乾燥して形成される凍結乾燥粉末)は、上記2成分の物理混合物の赤外スペクトルと明らかな差はなく、赤外スペクトル分析もカルボプラチン4.0の定量的および定性的分析には適さない。
【0043】
一方、X線粉末回折分析法(XRPD)を用いて測定するとき、水素結合が存在する上記カルボプラチン複合体とカルボプラチンのXRPD測定図では、回折ピークの特徴は明らかに異なり、即ち、カルボプラチンの特徴的なピークは11.55±0.2°の回折角付近に現れるが、カルボプラチン4.0はここに回折ピークがほとんどなく、その主要な特徴的なピークは、2θが7.55°、10.51°、14.63°、15.10°、15.66°、16.78°、18.55°、20.83°、22.86°、23.67°、24.02°などであるところにある(その偏差範囲はいずれも±0.2°である)。もちろん、さらにクロマトグラフィーと質量スペクトル分析を用いてカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸との吸収ピークを検出することも、製品の品質制御に必要なステップである。
【0044】
本発明の研究結果によれば、従来のいくつかの分析方法を用いてカルボプラチン4.0の直接含有量測定方法を確立することはできないが、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の含有量を測定することによってカルボプラチン4.0の間接含有量測定を実現することができるので、カルボプラチン4.0に対して以下の品質制御方法を確立することができる。(1)XRPD方法を用いて、カルボプラチン4.0とカルボプラチン、1,1-シクロブタンジカルボン酸との特徴回折ピークの違いに対して、カルボプラチン4.0における遊離カルボプラチンの限定量検査制御を実現する。(2)カルボプラチン4.0は、水素結合を介して1分子カルボプラチンと1分子1,1-シクロブタンジカルボン酸によって形成され、且つ極性溶媒条件で解離してカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸を生成しやすいので、高効率液体クロマトグラフィー分析(HPLC)法を追加して、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸のモル比及び両者の含有量を測定し、カルボプラチン4.0に対する品質制御標準に組み入れることができる。
【0045】
これにより、本発明は、前記カルボプラチン複合体の品質制御方法を提供し、X線粉末回折分析法により試料を検出し、前記試料は2θが約11.55±0.2°で回折ピークがないと決定することを含み、ここで、前記試料は、上記カルボプラチン複合体、又は当該カルボプラチン複合体を活性組成とする上記薬物製剤を含むことができる。
【0046】
理解できるものとして、本発明の品質制御方法は、カルボプラチン複合体(カルボプラチン4.0)に対するものであり、当該方法は、カルボプラチン4.0原料薬の純度の品質制御としても用いることができ、一般的には原料薬における遊離カルボプラチンの含有量が2%を超えず、より正確な場合には1%を超えないことが要求される。
【0047】
カルボプラチン4.0のXRPD測定結果によれば、カルボプラチン4.0は2θが約11.55±0.2°で特徴的なピークがないが、2θが約7.55°、10.51°、14.63°、15.10°、15.66°、16.78°、18.55°、20.83°、22.86°、23.67°、24.02°などで回折ピーク(その偏差範囲はいずれも±0.2°である)があり、ここで、2θが約15.10±0.2°での回折ピークは、カルボプラチン4.0の半定量的特徴的なピークとすることができ、これに基づいて、2θが約15.10±0.2°での特徴的なピークとカルボプラチンの特徴的なピーク(2θが約11.55±0.2°での回折ピーク)との相対積分面積を定量標準として、遊離カルボプラチンの限定量検出を実現することができる。
【0048】
具体的には、カルボプラチン4.0試料のXRPD測定結果において、2θが約11.55±0.2°での回折ピークを検出する場合、2θが約11.55±0.2°での回折ピークの積分面積をA1とし、2θが約15.10±0.2°での回折ピークの積分面積をA2とし、カルボプラチン4.0における遊離カルボプラチンの含有量をA1/A2の値で判断することができる。例えば、本発明の一実施形態では、カルボプラチン4.0原料薬(カルボプラチン4.0試料)における遊離カルボプラチン含有量の有効な制御を実現するために、カルボプラチン4.0試料に対するXRPD測定結果に従って、A1/A2の値は、遊離カルボプラチンの含有量がX%を超えないことを保証するために、カルボプラチン4.0とカルボプラチン4.0の質量のX%を占めるカルボプラチンから調製された混合サンプル(又は混合対照サンプルと称する)に対応する積分面積比より大きくないべきである。具体的に実施する場合、X%は例えば1%、0.5%、0.1%などであってもよく、上記混合サンプルを調製するためのカルボプラチン4.0は2θが約11.55±0.2°で回折ピークがほとんど検出されず、一般的には純粋なカルボプラチン4.0と考えられる。
【0049】
本発明の一具体的な実施例では、カルボプラチン4.0とカルボプラチンの混合サンプルを調製し、ここで、カルボプラチンがカルボプラチン4.0の質量の1%(即ち、上記X%=1%)を占め、当該混合対照サンプル及びカルボプラチン4.0原料薬に対してXRPD測定を行い、上記混合対照サンプルから測定されたA1/A2の値は約0.67であるので、原料薬における遊離カルボプラチンの含有量が1%を超えないことを保証するために、カルボプラチン4.0原料薬から測定されたA1/A2の値は0.67以下であるべきである。別の実施例では、上記X%は具体的には0.5%であってもよく、混合対照サンプルから測定されたA1/A2の値は約0.55であるので、原料薬における遊離カルボプラチンの含有量が0.5%を超えないことを保証するために、カルボプラチン4.0原料薬から測定されたA1/A2の値は0.55以下であるべきである。さらなる実施例では、上記X%は具体的には0.1%であってもよく、混合対照サンプルから測定されたA1/A2の値は約0.5であるので、原料薬における遊離カルボプラチンの含有量が0.1%を超えないことを保証するために、カルボプラチン4.0原料薬から測定されたA1/A2の値は0.5以下であるべきである。
【0050】
あるいは、別の実施形態では、別の限定量検査方法を提供することができる。カルボプラチン4.0原料薬の2θが11.55±0.2°での回折ピークの強度(又は積分面積)は、カルボプラチン4.0とカルボプラチン4.0の質量のX%を占めるカルボプラチンから調製された混合サンプルの当該ところの回折ピークの強度(又は積分面積)より大きいべきである。ここで、X%は上記の通り、例えば1%、0.5%、0.1%などであってもよい。
【0051】
本発明が提供する品質制御方法はさらに、HPLC方法を用いてカルボプラチン4.0試料を検出し、前記試料におけるカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の含有量が97%~103%で、且つ、両者のモル比が0.95~1.05であると決定することを含む。即ち、本発明の品質制御方法によれば、XRPDにおける回折ピーク特徴を決定することに加えて、HPLC方法により水素結合破断後に放出されるカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸を検出する必要があり、結果はその結合状態において理論的にそれぞれの存在量の97%~103%で、且つ、両者は基本的に1:1のモル比で存在すべきであり、制御標準は±0.05の範囲(即ち、両者のモル比は約0.95~1.05)に把握すべきである。
【0052】
発明者の研究によると、HPLC方法を用いて分析し、カルボプラチン濃度は0.025~0.999mg/mL範囲内でクロマトグラフィーピーク面積積分値と良好な線形関係を呈し、線形回帰方程式はY=40169+8.62E6Xであり、相関係数r=0.999であり、1,1-シクロブタンジカルボン酸の濃度は0.101~3.99mmol/L範囲内でクロマトグラフィーピーク面積積分値と良好な線形関係を呈し、線形回帰方程式はY=7407+962202Xであり、相関係数r=0.999である。これに基づいて、本発明の一実施形態では、カルボプラチン4.0試料、カルボプラチン及び1,1-シクロブタンジカルボン酸の混合対照サンプルをHPLC検出し、測定結果に基づいて、外部標準法によりピーク面積でカルボプラチン4.0試料におけるカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の含有量及びモル濃度比(モル比)を決定することができる。
【0053】
本発明の一実施例では、含有量/モル比を測定する場合、カルボプラチン4.0試料用検出用移動相を、カルボプラチン4.0の濃度(理論存在量計)が約1.0mg/mLの試料検出液に調製し、カルボプラチン対照サンプルと1,1-シクロブタンジカルボン酸対照サンプルを用いて両者の濃度がそれぞれ約0.7mg/mLと0.3mg/mLの混合対照サンプル測定液を調製し、HPLC検出を行う。
【0054】
本発明は、特定の水素結合によって形成されるカルボプラチン複合体(カルボプラチン4.0)を提供するだけでなく、当該カルボプラチン複合体で製造される薬物製剤を提供し、特に、ヘリカーゼ作用標的となる標的薬物を提供し、カルボプラチン薬のアップグレード版となることが期待される。本発明はまた、製造されるカルボプラチン4.0を原料薬する場合について、実行可能な品質制御方法を提出し、カルボプラチンを対照とし、当該カルボプラチン4.0の活性と薬物動態学に対して研究を行う。
【0055】
本発明の研究によると、カルボプラチン4.0が解離された後にカルボプラチンが放出されるので、臨床適応症はカルボプラチン原薬のすべての適応症を含むことが完全に合理的に予想されることができ、現在、臨床ではカルボプラチンは主に小細胞肺癌、卵巣癌、精巣癌、生殖細胞腫瘍、甲状腺癌、鼻咽頭癌の治療に用いられており、子宮頸癌、非小細胞肺癌、食道癌、精原細胞腫、膀胱癌、中皮腫、小児脳腫瘍及びその他の頭頚部癌などの悪性腫瘍にも応用できる。腎機能損傷、頑固性嘔吐、聴力低下或いは神経毒性のためシスプラチンに耐えられない患者は、カルボプラチン4.0をアップグレード薬として選択することが好ましい。適応症は更に脳腫瘍や脳転移腫瘍、骨腫瘍や骨転移腫瘍、前立腺癌、膵臓癌、胆管癌などに拡大することが期待され、即ち更に広い範囲の適応症を有している。同時に、カルボプラチン4.0は他のプラチナ系薬剤耐性患者の治療及び標的薬物治療にも適している。臨床では他の化学療法薬と交差耐性がなく、単独で使用することができ、他の化学薬物と組み合わせて使用することもでき、そして手術、放射線治療と協力して治療効果を高めることができる。
【0056】
一具体的な実施過程において、カルボプラチン4.0を用いて8種類のオキサリプラチン(Oxaliplatin)耐性或いはイリノテカン(Irinotecan)耐性の結腸癌薬剤耐性細胞及びその初代細胞に対する化学療法感受性研究を行い、その結果、カルボプラチン4.0は、オキサリプラチンとイリノテカンと交差耐性反応がなく、カルボプラチン4.0を臨床薬剤耐性結腸癌患者のもう1つの化学療法選択として考えることができる。
【0057】
一方、カルボプラチンのプラチナ原子は別の1分子1,1-シクロブタンジカルボン酸によって封鎖されているため、プラチナ原子とDNAの結合を阻害し、カルボプラチン4.0のDNA毒性活性を大きく低下させる。
【0058】
発明者の研究によると、カルボプラチン4.0、カルボプラチンをそれぞれ直鎖状DNAと結合する試験を行い、その結果、一定時間内にカルボプラチンはすぐにDNAと架橋付加物を形成し、直鎖状DNAが変形、収縮、凝集するが、カルボプラチン4.0は直鎖状DNAと架橋反応を起こさず、直鎖状DNAの形状はほとんど変化しないと発見した。また、カルボプラチン4.0、カルボプラチンをそれぞれスーパーコイルプラスミドDNAと混合し、一定時間後の電気泳動観察により、カルボプラチンはスーパーコイルプラスミドDNAと架橋して付加物を形成するが、カルボプラチン4.0はスーパーコイルプラスミドDNAと架橋せず、且つ、いかなるプラチナ系薬物を添加しない空白対照組のスーパーコイルプラスミドDNA運動速度と一致する。上記研究結果から、カルボプラチン4.0構造において、カルボプラチンのプラチナ原子が別の1分子の1,1-シクロブタンジカルボン酸によって封鎖され、この封鎖がプラチナ原子とDNAとの結合を阻害し、カルボプラチン4.0のDNA毒性活性を大きく低下させることを示す。
【0059】
薬物動態学研究の結果、カルボプラチンに比べて、カルボプラチン4.0の薬物排出半減期(half life、t1/2)は明らかに速い。カルボプラチン4.0は、カルボプラチンよりも優れた溶解性と非極性を示すため、機体器官での排出半減期時間が短く、排出率がより高くし、毒性と副作用も著しく低下し、特に腎臓毒性の発生率はもっと明らかに低下した。カルボプラチンに比べて、カルボプラチン4.0はカルボプラチンの絶対的生物学的利用能とほぼ一致するが、血漿タンパク質との結合が低く、膜貫通輸送が速く、非複製細胞に対して破壊がないなどの利点を持っているため、より高い生物学的利用能を示している。なお、見かけ分布容積(apparent volume of distribution、Vd)において、カルボプラチンに比べて、カルボプラチン4.0の分布、特に脳組織、骨髄、前立腺などの障壁のある組織器官においてはもっと広く、カルボプラチン4.0の臨床適応症がより広いことを示している。
【0060】
また、本発明の研究によると、カルボプラチン4.0が抗腫瘍においてカルボプラチンよりも優れた性能を有しているので、カルボプラチンのアップグレード版抗腫瘍薬として有望であることに加えて、抗ウイルス、抗真菌及び細菌抑制においても優れた性能を有しているので、より広い適応症を示し、例えば、手足口ウイルス(EV71ウイルス)、インフルエンザウイルス(H3N2)、HSV-1ウイルス、EBウイルス、HPVウイルス、バクテリオファージ、インジケーターバクテリア、カンジダアルビカンスなどのいずれもに対して明らかな抑制効果を有する。
【0061】
また、発明者は、抗ウイルスにおけるカルボプラチン4.0とカルボプラチンの応用を細胞毒性実験のデータにより評価した結果、カルボプラチンの細胞毒性がその抗ウイルスへの応用を阻害し、カルボプラチン4.0は細胞毒性実験による薬物の有効性、毒性、薬剤耐性、薬物の細胞アポトーシス、増殖などの作用に対する影響評価を通過したことを示す。
【0062】
本発明のさらなる態様では、上記カルボプラチン複合体を活性成分とする薬物、又は上記薬物製剤を患者に投与することを含む悪性腫瘍疾患の治療方法をさらに提供する。
【0063】
本発明のさらなる態様では、上記カルボプラチン複合体を活性成分とする薬物、又は上記薬物製剤を患者に投与することを含む細菌又は真菌感染の治療方法をさらに提供する。
【0064】
本発明のさらなる態様では、上記カルボプラチン複合体を活性成分とする薬物、又は上記薬物製剤を患者に投与することを含むウイルス感染の治療方法をさらに提供する。
【発明の効果】
【0065】
本発明が提供する2つの水素結合を介してカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸とによって形成されるカルボプラチン複合体によれば、分子間水素結合によりカルボプラチンの水溶性、安定性、生物学的利用能などの機能を改善し、カルボプラチンに対して毒性と副作用を大幅に低減し、極めて低い薬剤耐性/交差耐性を有し、抗腫瘍、抗ウイルス、抗真菌、抗細菌においてより広範な適応症がある。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】カルボプラチン濃度(Concentration of carboplatin)の増加に伴うカルボキシル水素の化学シフト(Chemical shift of OH)の変化図である。
図2】カルボキシル水素の化学シフト値逆数(1/Chemical shift)とカルボプラチンモル濃度の逆数(1/C carboplatin)の非線形フィッティング図である。
図3】1,1-シクロブタンジカルボン酸、カルボプラチン、混合粉末c、凍結乾燥粉末b、カルボプラチン4.0原料薬、凍結乾燥粉末aのDSC測定図である。
図4】4ロットのカルボプラチン4.0原料薬のDSC測定図である。
図5】カルボプラチン4.0原料薬のXRPD図であり、ここで、Aは反射法で測定するXRPD図であり、Bは透過法で測定するXRPD図である。
図6】混合粉末c、凍結乾燥粉末b、カルボプラチン4.0原料薬、凍結乾燥粉末aのXRPD図である。
図7図7図10は、カルボプラチン4.0についてLC-MS分析を行うスペクトル図であり、ここで、図7図8はそれぞれ陽イオンモードにおけるカルボプラチンの全イオンフロークロマトグラフィー図と質量スペクトル図(保持時間RT=0.83min)であり、図9図10はそれぞれ負イオンモードにおける1,1-シクロブタンジカルボン酸の全イオンフロークロマトグラフィー図と質量スペクトル図(保持時間RT=1.7min)である。
図8図7図10は、カルボプラチン4.0についてLC-MS分析を行うスペクトル図であり、ここで、図7図8はそれぞれ陽イオンモードにおけるカルボプラチンの全イオンフロークロマトグラフィー図と質量スペクトル図(保持時間RT=0.83min)であり、図9図10はそれぞれ負イオンモードにおける1,1-シクロブタンジカルボン酸の全イオンフロークロマトグラフィー図と質量スペクトル図(保持時間RT=1.7min)である。
図9図7図10は、カルボプラチン4.0についてLC-MS分析を行うスペクトル図であり、ここで、図7図8はそれぞれ陽イオンモードにおけるカルボプラチンの全イオンフロークロマトグラフィー図と質量スペクトル図(保持時間RT=0.83min)であり、図9図10はそれぞれ負イオンモードにおける1,1-シクロブタンジカルボン酸の全イオンフロークロマトグラフィー図と質量スペクトル図(保持時間RT=1.7min)である。
図10図7図10は、カルボプラチン4.0についてLC-MS分析を行うスペクトル図であり、ここで、図7図8はそれぞれ陽イオンモードにおけるカルボプラチンの全イオンフロークロマトグラフィー図と質量スペクトル図(保持時間RT=0.83min)であり、図9図10はそれぞれ負イオンモードにおける1,1-シクロブタンジカルボン酸の全イオンフロークロマトグラフィー図と質量スペクトル図(保持時間RT=1.7min)である。
図11図11図12は、カルボプラチン4.0について流動注入-質量スペクトル分析を行うスペクトル図であり、ここで、図11は負イオンモードにおけるカルボプラチン4.0サンプルの質量スペクトル図であり、図12は陽イオンモードにおけるカルボプラチン4.0サンプルの質量スペクトル図である。
図12図11図12は、カルボプラチン4.0について流動注入-質量スペクトル分析を行うスペクトル図であり、ここで、図11は負イオンモードにおけるカルボプラチン4.0サンプルの質量スペクトル図であり、図12は陽イオンモードにおけるカルボプラチン4.0サンプルの質量スペクトル図である。
図13】ヘリカーゼが関与するカルボプラチン4.0とカルボプラチンとのDNA結合実験の電気泳動図である。
図14】異なる昇温速度条件でのカルボプラチン4.0原料薬のDSC測定図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、本発明の内容を実施例に関連してより具体的に説明する。理解すべきものとして、本発明の実施は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明に対する任意の形態の変通及び/又は変更が本発明の保護範囲に含まれる。
【0068】
特に説明がない限り、以下の実施例に係るプロセス(温度制御、昇温、計量、収集、試験用検出液調製、検出過程など)は、いずれも本分野の従来の処理形態を用いることができ、例えば従来の機器、方法などを用いて対応する処理を行う。
【0069】
以下の実施例に係る機器及び関連試験条件は以下の通りである。
1)核磁気共鳴滴定法(HNMR)
日本電子ECA-400型超伝導フーリエ変換核磁気共鳴装置は、選択パルスLaminal波形発生器と5mm z-軸勾配パルス多核プローブを備えている。1H動作周波数はそれぞれ400MHzであり、DMSO-d6を溶媒とし、TMSを内部標準とし、実験温度は室温であり、Ф5mmの多核プローブを使用する。1HNMRのスペクトル幅は9.18kHz、データポイントは32768、90°パルス幅は11μs、緩和遅延は1.2sである。
2)示差走査熱量測定分析(DSC)
分析機器は米国TA Q2000、Al盤は参照盤、サンプル盤はアルミニウム盤、昇温速度は10/min、昇温区間は40~240である。
3)X線粉末回折分析(XRPD)
X線粉末回折装置(Bruker D8-advance、反射透過回転試料台付き)、
透過:CuKα放射、集束モノクロメータ、gobel-mirror集束光路、管圧40kV、管流40mA、
スキャン形態:θ/2θスキャン、DS発散スリット1.2mm、ソーラースリット2.5mm、
2θスキャン範囲:6-50°、スキャン速度:0.4s/ステップ、ステップサイズ:0.015°/ステップ。
4)液体クロマトグラフィー-質量スペクトル分析併用法(LC-MS)
機器:島津LCMS-8040
キャピラリー電圧:3KV(又は-2.6KV)
抽出コーンホール電圧:4V(又は-4V)、
サンプルコーンホール電圧:15V(又は-20V)、
ソース温度:300℃、
スキャン範囲:80-1000amu、
クロマトグラフィーカラム:XDB-C18、4.6X50mm、1.8um、
移動相A:0.1%ギ酸水溶液、
移動相B:メタノール、
勾配:0min、99%Aと1%B、1min、99%Aと1%B、3.5min、40%Aと60%B、5.5min、40%Aと60%B、
流速:0.5mL/min
注入体積:2uL。
【0070】
以下の実施例では、カルボプラチンは斉魯製薬株式会社から購入され、1,1-シクロブタンジカルボン酸はドイツMERCK会社の商品である。
【0071】
実施例1、カルボプラチン4.0の自己組立工程及びその水注射剤製造
1、カルボプラチン4.0の自己組立工程
1)純度99%以上のカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸をモル比1:2の割合で混合して過飽和水溶液(各成分濃度ができるだけ高く、結晶析出がないように維持する)を調製し、当該混合調製操作を65℃±5℃で行い、約4時間維持し、自己組立反応を完了させる。
2)反応系を濾過し、濾液を室温(20±5℃)で10日間静置し、結晶形成を見ることができる。
3)濾液を回収し、複合体結晶、即ちカルボプラチン4.0結晶生成物を収集し、XRPD分析法により生成物純度を検出し、生成物におけるカルボプラチン4.0含有量が99%以上に達することが測定される。
【0072】
2、カルボプラチン4.0水注射剤の製造
1)上記カルボプラチン4.0結晶生成物を適量取り(又は再調製し)、粉末に粉砕し、真空乾燥し、結晶水を脱ぎ、カルボプラチン4.0粉末を得る。
2)上記カルボプラチン4.0粉末500gを取り、滅菌水に溶解し、500Lまで定量し、45℃±5℃で均一に攪拌溶解し、室温で1時間以上放置し、母液を調製し、含有量を検出する。
3)上記母液は検査により含有量が基準に達すれば、室温で濾過滅菌し、5mg/5mLの水注射剤に小分け、4℃で光を避けて貯蔵する。
【0073】
3、対照例
1)純度99%以上のカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸をモル比1:1.1の割合で混合して過飽和水溶液を調製し、当該混合調製操作を約40℃で行い、約4時間維持し、反応を完了させる。
2)反応系を濾過し、濾液を室温(20±5℃)で10日間静置し、結晶形成を見ることができる。
3)濾液を回収し、結晶生成物を収集し、XRPD分析法により純度を検出し、生成物におけるカルボプラチン4.0含有量が88%未満であることが測定される。
【0074】
以下、実施例2~3は、カルボプラチン4.0の構造、理化特性を研究し、特に説明がない限り、用いたカルボプラチン4.0原料薬(即ちカルボプラチン4.0結晶生成物)は、いずれも実施例1の自己組立工程に従って調製され、また、用いたカルボプラチン4.0原料薬の水溶後の凍結乾燥粉末(以下、凍結乾燥粉末aと呼ばれ)、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の物理的に混合水溶後の凍結乾燥粉末(以下、凍結乾燥粉末bと呼ばれる)、及び、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の物理的に混合後の粉砕粉末(以下、混合粉末cと呼ばれる)は、いずれも以下の方法で調製される。
【0075】
1)カルボプラチン4.0原料薬100mgを精秤し、脱イオン水5.0mlで溶解し、室温で2h放置した後、-70℃冷蔵庫で4h冷凍し、そして冷凍乾燥機(ドイツChrist冷凍乾燥機Alpha2-4LD PLUS、コールドトラップ温度-69℃、真空10pa)に移し、12h冷凍乾燥し、乳鉢で軽く粉砕し、白色凍結乾燥粉末を製造し、凍結乾燥粉末aを得る。
2)カルボプラチン100mgと1,1-シクロブタンジカルボン酸38mg(モル比約1:1)を含む混合物を精秤し、上記凍結乾燥粉末aの調製手順に従い、凍結乾燥粉末bを調製する。
3)カルボプラチン100mgと1,1-シクロブタンジカルボン酸38mgを精秤し、混合した後、乳鉢で軽く粉末状に粉砕し、混合粉末cを製造する。
【0076】
実施例2、カルボプラチン4.0構造、物理的および化学的性質分析試験
1、HNMR分析試験
一定量の1,1-シクロブタンジカルボン酸とカルボプラチンを取り、重水素化DMSO(DMSO-d6)0.5mlで溶解し、1,1-シクロブタンジカルボン酸とカルボプラチンの混合測定対象液を調製し、一晩放置した後、HNMR検出を行う。
【0077】
上記方法に従って、番号が0~8である9組の上記混合測定対象液を調製し、各組の混合測定対象液における1,1-シクロブタンジカルボン酸とカルボプラチンの濃度を表1(1,1-シクロブタンジカルボン酸の添加量を固定し、カルボプラチンの添加量を変更させる)に示し、9組の混合測定対象液についてそれぞれHNMR検出を行い、結果を表1及び図1図2に示す。
【0078】
その結果、1,1-シクロブタンジカルボン酸分子における2つのカルボキシル水素を除いて、他のすべての水素原子の化学シフトはいずれもカルボプラチン添加量の増加に伴って変化していなく、1,1-シクロブタンジカルボン酸のカルボキシル水素の化学シフトは、カルボプラチン添加量/濃度の増加とともに著しく変化し(図1と表1に示すように、ここで、カルボキシル水素のシフトはカルボプラチン濃度とほぼ次のような関係にある:y=12.69+0.00364x)、高電界から低電界へとシフトし(12.681→13.422ppm)、このことから、1,1-シクロブタンジカルボン酸とカルボプラチンとの間には2つの水素結合作用が存在することが説明される。滴定の過程において、カルボプラチン分子におけるアミノ水素(NH)の化学シフトは意外にも明らかな変化が発生せず、これはカルボプラチン分子におけるアミノ水素(NH)が1,1-シクロブタンジカルボン酸の添加による影響をほとんど受けないことを示し、即ち、カルボプラチン分子におけるアミノ水素(NH)は1,1-シクロブタンジカルボン酸と水素結合を形成していない。
【0079】
図2に示すように、カルボプラチン添加量が異なる場合のカルボキシル水素の化学シフト値に基づいて、非線形フィッティングによりカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸との間の解離定数k1が0.3mmol/Lであると計算され、カルボキシル水素の化学シフト値の逆数とカルボプラチンのモル濃度の逆数に基づいて、1,1-シクロブタンジカルボン酸とカルボプラチンの結合定数が4.22×10L/molであると計算される。カルボプラチン4.0の2つの成分(即ち、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸)の間には確かに2つの水素結合作用が存在するが、両者間の結合力は共有結合に対して弱いことがさらに示される。
【0080】
【表1】
【0081】
2、DSC分析試験
1)DSC分析
(1)カルボプラチン4.0原料薬、凍結乾燥粉末a、凍結乾燥粉末b、混合粉末c、カルボプラチン、1,1-シクロブタンジカルボン酸を適量精秤し、DSC分析機器を用いてその熱重量パラメータ(即ち溶融過程)を測定し、結果を図3に示す。
その結果、カルボプラチン4.0原料薬(図3における曲線5)、凍結乾燥粉末a(図3における曲線4)、凍結乾燥粉末b(図3における曲線6)の3つのサンプルのDSC曲線は比較的に似ており、それぞれ198.94℃、198.68℃、193.06℃で吸熱ピークが現れ始め、相対的に、凍結乾燥粉末aの吸熱過程(又は曲線)はカルボプラチン4.0原料薬とより近いが、凍結乾燥粉末bの吸熱過程とカルボプラチン4.0原料薬の吸熱過程との差がやや大きくし、混合粉末cは198℃で吸熱ピークを有する他、153.05℃でも1つの顕著な吸熱ピーク(図3における曲線3を参照)を有し、当該ピークは1,1-シクロブタンジカルボン酸の吸熱ピーク(図3における曲線1を参照)に近くし、1,1-シクロブタンジカルボン酸の吸熱ピークであると決定することができ、このことから、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の物理混合物は、その構成成分の特徴を示し、カルボプラチンは、153℃と198℃付近に吸熱ピークを示さず、温度が252℃まで上昇すると1つの分解ピークを有する(図3における曲線2を参照)。
(2)198℃付近のピークがカルボプラチン4.0の溶融ピークであるか否かを検証するために、さらに昇温速度を変えてカルボプラチン4.0の融点を調べ、結果を図14に示す。ここで、図14における曲線1~4に対応する昇温速度は、それぞれ3℃/min、5℃/min、10℃/min、20℃/minである。
図14から分かるように、昇温速度の増加に伴って溶融ピークが右にシフトしていることから、カルボプラチン4.0には融点が固定されておらず、DSCが示すピークが溶融分解ピークであることが確認できる。
(3)番号1-4である4ロットのカルボプラチン4.0原料薬を製造し、1~4ロットのカルボプラチン4.0原料薬をそれぞれ適量取り、DSC分析機器を用いてその熱重量パラメータを測定し、結果を図4に示す。4ロットの異なるロットのカルボプラチン4.0原料薬はいずれも198℃付近にのみ吸熱ピークを示し、153℃と252℃付近には吸熱ピークがないことが見られる。
【0082】
2)結果検討
(1)カルボプラチン4.0、凍結乾燥粉末a及び混合粉末cのDSC曲線は大きな差を示し、熱吸収ピーク(又は吸熱ピーク)の位置及びピーク形状が著しく変化するだけでなく、吸収ピークの個数も異なる。
(2)カルボプラチン4.0原料薬と凍結乾燥粉末aは198℃付近に急峻な相転移ピークを示し始め、凍結乾燥粉末bは193℃付近に相転移ピークを示すことから、カルボプラチン4.0の2つの成分(カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸)は結晶状態にあり、凍結乾燥粉末bの2つの成分は半結晶状態又は非晶質状態にあることが示される。
(3)凍結乾燥粉末bと混合粉末cには差があり、凍結乾燥粉末bのDSC曲線はカルボプラチン4.0と類似しており、153℃付近に1,1-シクロブタンジカルボン酸の溶解吸熱ピークが現れず、水溶凍結乾燥後、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸は水素結合作用力によりカルボプラチン4.0の類似物を形成したが、その結晶状態は本実施例の特別な工程によって組み立てられて製造されるカルボプラチン4.0と著しく異なることが示される。
(4)カルボプラチン4.0原料薬と凍結乾燥粉末aのDSC曲線を比較すると、両者のDSC曲線は比較的に類似しており、カルボプラチン4.0は凍結乾燥によって凍結乾燥粉末aを製造した後、吸収ピークが少しシフトしたが、153℃付近に吸熱ピークが現れず、凍結乾燥過程がカルボプラチン4.0の2つの成分間の結合に対する影響は大きくないことが示される。
上記DSC試験の結果、カルボプラチン4.0原料薬(固体)と、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の物理混合物(例えば上記凍結乾燥粉末b、混合粉末c)とは確かに明らかな差があり、カルボプラチン4.0は、水素結合を介して2つの成分によって結合されたものであり、単純な物理混合物ではない。したがって、本発明の自己組立工程により、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸という2つの成分は確かに、水素結合作用力によって新しい化学実体(即ちカルボプラチン4.0)を形成し、比較的温和な条件で安定に存在することができることもさらに示される。
【0083】
3、XRPD分析試験
本試験により、カルボプラチン4.0原料薬が針状結晶であるため、深刻な優先配向が存在し、通常の反射法ではサンプルの構造情報を忠実に反映できないが、透過法で優先配向を弱め、より真実にサンプルの構造情報を反映でき、定量分析に対してもより精確である(カルボプラチン4.0原料薬の透過と反射結果を図5に示す)ことが分かる。そのため、以下の試験過程において、いずれも透過法を用いてXRPD分析を行う。
【0084】
XRPD分析
カルボプラチン4.0原料薬、凍結乾燥粉末a、凍結乾燥粉末b、混合粉末c、カルボプラチン、1,1-シクロブタンジカルボン酸サンプルをそれぞれ100mg透過サンプルホルダーに入れ、同じ実験条件でXRPD測定を行い、結果を図6に示す。
【0085】
その結果、カルボプラチン4.0原料薬(図6におけるパターン4)、凍結乾燥粉末a(図6におけるパターン3)と凍結乾燥粉末b(図6におけるパターン2)、混合粉末c(図6におけるパターン1)とのXRPDパターンには明らかな差があることが示され、具体的には以下の通りである。
【0086】
(1)凍結乾燥粉末b、混合粉末cはいずれも2θ角が約11.55±0.2°で回折ピークがあり、当該ピークはカルボプラチンの特徴的なピークである。カルボプラチン4.0原料薬と凍結乾燥粉末aという両者のXRPDパターンは類似し、その主要な特徴的なピークは2θが約7.55°、10.51°、14.63°、15.10°、15.66°、16.78°、18.55°、20.83°、22.86°、23.67°、24.02°などのところにあるが、2θ角が約11.55±0.2°で回折ピークがない。カルボプラチン4.0原料薬、凍結乾燥粉末aは、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の物理混合物(即ち凍結乾燥粉末b、混合粉末c)と異なることが示され、本発明の自己組立工程により、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸という2つの成分は確かに、水素結合作用力によって新しい化学実体(即ちカルボプラチン4.0)を形成し、比較的温和な条件で安定に存在することができることがさらに示される。
【0087】
上記比較分析を組み合わせると、約11.55±0.2°での特徴回折ピークをカルボプラチン4.0の品質制御ピークとすることができ、即ち、XRPD分析法をカルボプラチン4.0原料薬の純度の品質制御方法として用いることができ、さらにカルボプラチン4.0原料薬におけるカルボプラチン4.0の含有量測定方法とすることができることが示される。
【0088】
4、LC-MS分析試験
1)LC-MS分析
本実施例のカルボプラチン4.0結晶生成物について、従来の操作方法に従ってLC-MS分析を行う。
カルボプラチン4.0に対してLC-MS分析を行い、それぞれ陽イオンと負イオンモードで解離したカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸が検出され(図7図10参照)、ここで、m/z372.0514はカルボプラチンの分子イオンピーク[M+H]であり、m/z143.0341は1,1-シクロブタンジカルボン酸の分子イオンピーク[M-H]-であり、カルボプラチン4.0が液体クロマトグラフィー分離条件でカルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸に解離されることが示される。
2)流動注入-質量スペクトル分析
液体クロマトグラフィー分離は、カルボプラチン4.0分子内水素結合を破壊することを考慮して、サンプルを流動注入し、カルボプラチン4.0水溶液サンプルを直接分析する。負イオンモードでカルボプラチン4.0[m/z514.0917]及び1,1-シクロブタンジカルボン酸[m/z143.0375]の分子イオンピークが観察され(図11)、陽イオンモードでカルボプラチンの分子イオンピーク[m/z372.0543]のみが観察される(図12)。
3)カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸(モル比1:1)の物理混合サンプルについて、上記流動注入-質量スペクトル分析を行ったところ、負イオンモードでもカルボプラチン4.0と同じイオンが生成することを発見した。
【0089】
上記分析の結果、クロマトグラフィー分離はカルボプラチン4.0の水素結合を破壊するため、液体クロマトグラフィー-質量スペクトル分析併用法はカルボプラチン4.0の品質標準研究に適用できないことが明らかになった。一方、サンプルを流動注入して直接質量スペクトル分析を行うことは、負イオンモードでカルボプラチン4.0の正確な分子量を取得することができるが、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の物理混合サンプルはこのモードでもカルボプラチン4.0と同じイオンを生成するので、質量スペクトル分析は、カルボプラチン4.0と、カルボプラチンと1,1-シクロブタンジカルボン酸の物理混合物とを区別することができず、カルボプラチン4.0の正確な分子量の測定にのみ使用されることができる。
【0090】
実施例3、ヘリカーゼ検証方法
本試験は、ヘリカーゼが参与するDNA結合実験を通じて、ヘリカーゼのカルボプラチン4.0に対する作用を検証し、スーパーコイルと線状プラスミドDNA(Hr.pcDNA、通常の形態で抽出することができる)をテンプレートとし、異なるプラチナ系抗がん剤と結合反応することによってDNAコンフォメーションを変化させ、さらにゲル電気泳動パターンの違いによって異なるプラチナ系薬物を区別する。
【0091】
プラチナ系薬物とプラスミドDNAとの結合は、薬物濃度(カルボプラチン又はカルボプラチン4.0の濃度)、反応時間、プラスミドサイズ、溶液におけるClイオン、EDTA、酸塩基性(pH)、温度などの様々な要因によって影響を受け、発明者は大量の比較試験を通じて最後に、薬物濃度0.05~0.2mmol/L、プラスミドサイズ6000bp程度、反応時間1時間、pH6.5~7.3、緩衝液にはEDTAとClイオンがなく、温度37℃の条件を選択し、カルボプラチンとカルボプラチン4.0の結合DNAの差は明らかである(図13参照)。
【0092】
具体的には以下の通りである。
本実験に用いるのは、クローニン(Cloning)生物科学技術有限会社から輸入したT4 GP41 DNAヘリカーゼ(以下、T4と略称する)である。
試験条件:0.8%アガロース(Promega社輸入小分け)ゲル電気泳動、pH6.5~7.3、37℃、反応時間1時間、薬物濃度0.1mmol/L、5V 1 Hr. pcDNA :6000bpで、1mmol/L ATP(Promega社輸入小分け)を加える。
【0093】
上記試験条件で以下のサンプル(試験番号1~5、M)を分析し、各サンプルにおけるpcDNA、薬物、ヘリカーゼの添加状況は以下の通りである。
試験1:pcDNA+カルボプラチン+T4、
試験2:pcDNA+カルボプラチン4.0+T4
試験3:pcDNA+カルボプラチン4.0
試験4:pcDNA+カルボプラチン
試験5:pcDNA
試験M:marker(標準参照)
【0094】
試験結果を図13に示す。ここで、図13における符号1~5、Mは、それぞれ上記試験番号に対応する。
【0095】
その結果、試験1と試験4のプラスミドの電気泳動状況はほぼ同じで、ヘリカーゼがカルボプラチンに対してほとんど明らかな影響がないことが示される。しかし、カルボプラチン4.0は全く異なり、試験3と試験5のプラスミドの電気泳動状況は基本的に一致し、カルボプラチン4.0自身はスーパーコイルプラスミド(pcDNA)と基本的に結合しないことが示される。一方、試験2のプラスミドの電気泳動速度は最も遅く、ヘリカーゼがカルボプラチン4.0の水素結合を開き、カルボプラチンを放出し、カルボプラチンはさらにプラスミドと結合してDNA付加物を形成し、付加物により電気泳動速度を引き下げることが示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14