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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20240826BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
F16J15/34 G
F16C17/04 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022521825
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2021016916
(87)【国際公開番号】W WO2021230081
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2020083388
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】井村 忠継
(72)【発明者】
【氏名】谷島 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】王 岩
(72)【発明者】
【氏名】福田 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】内田 健太
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/013233(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/035860(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/024742(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/148048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F16C 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の相対回転する箇所に配置され他の摺動部品と相対摺動する環状の摺動部品であって、
前記摺動部品の摺動面には、外部空間に開口して周方向に延びる凹溝と、前記凹溝に連通する連通部と該連通部よりも相対回転下流の閉塞部とを有する動圧発生溝と、が設けられ、
前記凹溝には、前記連通部の相対回転下流側に延びる第1周面が形成されており、
前記摺動部品には、前記凹溝の相対回転上流側に、前記第1周面よりも前記外部空間側に配置される第2周面が形成されている摺動部品。
【請求項2】
前記第2周面は前記連通部と径方向に重畳する位置まで延びている請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記凹溝は、前記連通部から前記外部空間に向けて深くなるように傾斜する傾斜面を備えている請求項1または2に記載の摺動部品。
【請求項4】
回転機械の相対回転する箇所に配置され他の摺動部品と相対摺動する環状の摺動部品であって、
前記摺動部品の摺動面には、外部空間に連通して径方向に延びる連通溝と、該連通溝に連通する連通部と該連通部よりも相対回転下流の閉塞部とを有する動圧発生溝が設けられ、
前記摺動部品の摺動面には、前記連通の相対回転上流側に、ランドにより画成され、前記外部空間に開口する凹部が形成されている摺動部品。
【請求項5】
前記凹部の側壁は、軸方向視で曲面をなしている請求項4に記載の摺動部品。
【請求項6】
前記凹部の側壁は、前記外部空間側の端部から前記連通側に離れる方向に周方向に傾斜して径方向に延びる傾斜面をなしている請求項4または5に記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する摺動部品に関し、例えば自動車、一般産業機械、あるいはその他のシール分野の回転機械の回転軸を軸封する軸封装置に用いられる摺動部品、または自動車、一般産業機械、あるいはその他の軸受分野の機械の軸受に用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
被密封流体の漏れを防止する軸封装置として例えばメカニカルシールは相対回転し摺動面同士が摺動する一対の環状の摺動部品を備えている。このようなメカニカルシールにおいて、近年においては環境対策等のために摺動により失われるエネルギーの低減が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1に示されるメカニカルシールは、一方の摺動部品の摺動面に動圧発生機構が設けられている。この動圧発生機構は、被密封流体が存在する外空間に連通し径方向に延びる導通溝と、導通溝から周方向に延び終端が閉塞された動圧発生溝と、を有し、導通溝は動圧発生溝に比べて深く形成されている。これによれば、摺動部品の相対回転時には、外空間から導通溝を通じて動圧発生溝に被密封流体が導入され、該被密封流体が動圧発生溝の終端に向かって移動するようになっており、動圧発生溝の終端に正圧が発生して摺動面同士が離間し、摺動面間に被密封流体が介在することで潤滑性が向上するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/046749号(第17頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にあっては、動圧発生溝を設けることで潤滑性を向上させているものの、摺動部品の相対回転時に被密封流体に混入されたコンタミも導通溝から導入された後、動圧発生溝に導入され、最終的に摺動面間に進入してしまい、コンタミが摺動面間に噛み込んでアブレッシブ摩耗を引き起こす虞があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、動圧発生溝内にコンタミが進入することを抑制できる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
回転機械の相対回転する箇所に配置され他の摺動部品と相対摺動する環状の摺動部品であって、
前記摺動部品の摺動面には、外部空間に連通する連通部と該連通部よりも相対回転下流の閉塞部とを有する動圧発生溝が設けられ、
前記摺動部品は、前記連通部の相対回転下流に延びる周面と異なる方向に前記外部空間内の流体を誘導する誘導手段を前記連通部の相対回転方向上流に備えている。
これによれば、摺動部品の相対回転時には、連通部の相対回転方向上流の流体は、誘導手段により、連通部に向かわず連通部の相対回転下流側に流れ、連通部には当該流れに比べ速度の遅い流体が流れ込んでおりその流量も少ない。比重が大きいコンタミは流速の比較的速い当該流れに沿って流れるため、コンタミは連通部の相対回転下流に流れることとなり連通部に到達しにくくなる。このようにして、コンタミが動圧発生溝内に進入することを抑制できる。
【0008】
前記誘導手段は、前記相対回転下流の周面よりも前記外部空間側に配置された前記相対回転上流の周面であってもよい。
これによれば、相対回転上流の周面と相対回転下流の周面とにより径方向に段を有する段差が形成され、連通部よりも相対回転上流の流体を相対回転下流の周面と異なる方向に誘導させ、コンタミが動圧発生溝内に進入することを抑制できる。
【0009】
前記誘導手段は前記連通部と径方向に重畳する位置まで延びていてもよい。
これによれば、コンタミが動圧発生溝内に進入することを確実に抑制できる。
【0010】
前記連通部から前記外部空間に向けて深くなるように傾斜する傾斜面を備えていてもよい。
これによれば、外部空間内の流体が連通部に導入されるときに、比重が大きいコンタミは傾斜面に接触して流体の流れから分離されるので、コンタミが動圧発生溝内に進入することを抑制できる。
【0011】
前記誘導手段は、前記摺動面に設けられ前記外部空間に開口する凹部であってもよい。
これによれば、凹部により外部空間内の流体を連通部の相対回転下流側の周面と異なる方向に誘導できるので、誘導手段を簡素な構造とすることができる。
【0012】
前記凹部の側壁は、軸方向視で曲面をなしていてもよい。
これによれば、側壁に沿って凹部内の流体が円滑に誘導される。
【0013】
前記凹部の側壁は、前記外部空間側の端部から前記連通部側に離れる方向に周方向に傾斜して径方向に延びる傾斜面をなしていてもよい。
これによれば、傾斜面に沿って凹部内の流体が円滑に誘導される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1における摺動部品(メカニカルシール)の一例を示す縦断面図である。
図2】静止密封環の摺動面を軸方向から見た図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4】相対回転時における被密封流体の流れを示す概略図である。
図5】相対回転時における被密封流体の流れを示す縦断面図である。
図6】本発明の実施例2における摺動部品を示す概略図である。
図7】本発明の実施例3における摺動部品を示す概略図である。
図8】本発明の実施例4における摺動部品を示す概略図である。
図9】本発明の実施例5における摺動部品を示す概略図である。
図10】本発明の実施例6における摺動部品を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
実施例1に係る摺動部品につき、図1から図5を参照して説明する。尚、本実施例においては、摺動部品がメカニカルシールである形態を例に挙げ説明する。また、メカニカルシールの内径側の外部空間としての内空間S1に被密封流体Fが存在し、外径側の外部空間としての外空間S2に大気Aが存在している形態を例示して説明する。また、説明の便宜上、図面において、摺動面に形成される溝等にドットを付すこともある。
【0017】
図1に示される一般産業機械用のメカニカルシールは、摺動面の内径側から外径側に向かって漏れようとする被密封流体Fを密封するアウトサイド形のものである。尚、本実施例では、被密封流体Fが高圧の液体であり、大気Aが被密封流体Fよりも低圧の気体である形態を例示する。
【0018】
メカニカルシールは、回転軸1にスリーブ2を介して回転軸1と共に回転可能な状態で設けられた円環状の他の摺動部品としての回転密封環20と、被取付機器のハウジング4に固定されたケース5と、ケース5に対して非回転状態かつ軸方向に移動可能な状態で設けられた摺動部品としての円環状の静止密封環10と、ケース5と静止密封環10との間を密封する二次シール9と、ケース5と静止密封環10との間に配置される付勢手段7と、から主に構成され、付勢手段7によって静止密封環10が軸方向に付勢されることにより、静止密封環10の摺動面11と回転密封環20の摺動面21とが互いに密接摺動するようになっている。尚、回転密封環20の摺動面21は平坦面となっており、この平坦面には溝等の凹み部が設けられていない。
【0019】
静止密封環10及び回転密封環20は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0020】
図2に示されるように、静止密封環10に対して回転密封環20が矢印で示すように時計周りに相対摺動するようになっている。静止密封環10の摺動面11には、内径側に複数(実施例1では8個)の溝機構14が周方向に均等に配設されている。尚、摺動面11の溝機構14以外の部分は上部が平端面を成すランド12となっている。また、摺動面11の外径側には、例えば、ディンプル等の正圧発生機構が形成されていてもよい。
【0021】
次に、溝機構14の概略について図2及び図3に基づいて説明する。尚、以下、説明の便宜上、深溝部17を実際よりも浅く図示している。
【0022】
図2及び図3に示されるように、溝機構14は、内空間S1に連通して周方向に延びる凹溝15と、凹溝15の外径側に設けられる動圧発生溝16と、を備え、動圧発生溝16は凹溝15に連通している。
【0023】
動圧発生溝16は、凹溝15の相対回転上流側の端部から外径方向に延びる深溝部17と、深溝部17の外径端部から相対回転下流に向けて周方向に延びる浅溝部18と、から構成されている。尚、後に詳述するが、深溝部17は、浅溝部18に被密封流体Fを導通させる部位であり、浅溝部18は実質的に動圧を発生させる部位である。
【0024】
深溝部17の内径端部は、凹溝15を通じて内空間S1に連通する連通部17Aとなっている。具体的には、深溝部17は、径方向に亘って平坦かつランド12の平坦面に平行な底面17aと、底面17aの外径端からランド12の平坦面に向けて垂直に延びる壁部17bと、底面17aの周方向の両側縁からランド12の平坦面に向けて垂直に延びる側面17c,17dとから構成されている。
【0025】
この深溝部17は径方向に亘って一定の深さD1を有している。
【0026】
浅溝部18は、軸方向視において静止密封環10の内周面10a縁と平行に周方向に延びており、相対回転上流の始端部18Aが深溝部17に連通し、相対回転下流の終端部18Bが壁部18aにより閉塞されている。すなわち、浅溝部18の終端部18Bは閉塞部として機能している。
【0027】
この浅溝部18は、周方向に亘って一定の深さD2を有しており、深さD2は深さD1よりも浅い(D1>D2)。尚、浅溝部18の深さD2は自由に変更できるが、好ましくは深さD2は深さD1の1/10倍以下であるのがよい。
【0028】
凹溝15は、外径端部から内径端部に向けて深くなるように傾斜する傾斜面としての底面15aと、連通部17Aを除く底面15aの外縁からランド12の平坦面に向けて垂直に延びる周面15bと、底面15aの周方向両端の側面15c,15dとにより区画されている。すなわち、周面15bは、凹溝15と浅溝部18とを径方向に区画するランド12の内周面15bでもある。
【0029】
周面15bは、連通部17Aと同径で該連通部17Aの相対回転下流に延びる曲面である。この周面15bは、静止密封環10の内周面10aよりも外径側に配置されている。内周面10aと、連通部17A及び周面15bとにより径方向に段を有する段差、詳しくは、軸方向視、内周面10aと、側面15cと、連通部17A及び周面15bとによりクランク状の段差が形成されている。
【0030】
また、凹溝15は、その内径端、すなわち、内空間S1に連通する開口部が最も深くなっており、その深さD3は、深さD1よりも深い(D1<D3)。
【0031】
次いで、静止密封環10と回転密封環20との相対回転時における被密封流体Fの流れについて図4及び図5を用いて概略的に説明する。尚、ここでは、説明の便宜上、被密封流体Fに含まれるコンタミC1を実際よりも多量に図示している。
【0032】
まず、回転密封環20が回転していない一般産業機械の非稼動時には、付勢手段7によって静止密封環10が回転密封環20側に付勢されているので摺動面11,21同士は接触状態となっており、被密封流体Fが摺動面11,21間から外空間S2に漏れ出す量はほぼない。
【0033】
図4に示されるように、回転密封環20が静止密封環10に対して相対回転すると、凹溝15、動圧発生溝16の深溝部17及び浅溝部18内の被密封流体Fが摺動面21との摩擦により回転密封環20の回転方向に追随移動する。
【0034】
具体的には、矢印F10に示されるように、浅溝部18内の被密封流体Fが始端部18Aから終端部18Bに向かって移動し、これに伴って、深溝部17内の被密封流体Fが浅溝部18内に流入する。
【0035】
終端部18Bに向かって移動した浅溝部18内の被密封流体Fは、浅溝部18の終端部18Bを構成する壁部18a及びその近傍で圧力が高められる。すなわち壁部18a及びその近傍で正圧が発生し、矢印F11に示されるように被密封流体Fが摺動面11,21間に流出し、摺動面11,21間が離間され潤滑性が向上する。
【0036】
また、回転密封環20と静止密封環10との相対回転時には、摺動面11,21の内径側近傍でも被密封流体Fの流れが生じる。
【0037】
具体的には、内空間S1の被密封流体Fは、凹溝15の相対回転上流に位置する静止密封環10の内周面10aから該凹溝15内を通って該凹溝15の相対回転下流に位置する静止密封環10の内周面10a’に向けて流れる流れF1と、深溝部17に吸い込まれる流れF2と、に大別される。
【0038】
この流れF1は、回転密封環20の摺動面21(図1参照)の回転に伴うせん断力により生じる流れであり、静止密封環10の内周面10aに沿って流れ、凹溝15のある箇所では外径方向に蛇行して流れる。一方、流れF2は、凹溝15よりも容積の小さい浅溝部18内で被密封流体Fの流れ(矢印F10、F11参照)が生じることにより凹溝15から連通部17Aに吸い込まれる流れである。このように、流れF2は、流れF1に比べて速度が遅くなっている。
【0039】
流れF1は、連通部17A及び周面15bよりも内径側に位置する静止密封環10の内周面10aから連通部17Aを越えて周面15bに到達し、相対回転下流側に流れるようになっている。すなわち、静止密封環10の内周面10aは、連通部17A及び周面15bとは異なる方向に被密封流体Fを誘導する誘導手段として機能している。
【0040】
被密封流体Fに含まれる比重の大きいコンタミC1は、流速の比較的速い流れF1に沿って流れるため、コンタミC1の大部分は連通部17Aの相対回転下流の周面15bに流れることとなり連通部17Aに到達しにくくなっている。すなわち、動圧発生溝16内に比重の大きいコンタミC1が進入しにくくなっている。
【0041】
また、図5に示されるように、凹溝15に導入されたコンタミC1は、凹溝15の底面15aに接触して流れF1から分離されるので、コンタミC1が動圧発生溝16内に進入しにくくなっている。
【0042】
また、凹溝15における相対回転上流の側面15c(図4参照)は、深溝部17における相対回転上流の側面17cの延長線上に設けられている。これによれば、静止密封環10の内周面10aの相対回転下流の端部10bを連通部17Aに対して周方向に近付けることができるので、連通部17Aを確実に越える流れF1を形成できる。
【0043】
また、静止密封環10の内周面10aと凹溝15の側面15cとで成す角部がほぼ直角を成すことから、被密封流体Fの流れF1の向きと流れF2の向きとは大きく異なる。比重の大きいコンタミC1には流れF1による慣性が大きく作用するので流れF2に追従しにくく、流れF1に沿って流れやすい。
【0044】
以上説明したように、回転密封環20と静止密封環10との相対回転時には、連通部17Aの相対回転方向上流の被密封流体Fは、静止密封環10の内周面10aにより、連通部17Aに向かわず連通部17Aの相対回転下流側に延びる周面15bに流れ、連通部17Aには流れF1に比べ速度の遅い流れF2が流れ込む。また、流れF2の流量は流れF1の流量よりも少ない。比重が大きいコンタミC1は流速の比較的速い流れF1に沿って流れるため、コンタミC1は連通部17Aの相対回転下流に流れることとなり連通部17Aに到達しにくくなる。このようにして、コンタミC1が動圧発生溝16内に進入することを抑制できるので、コンタミC1が摺動面11,21間に流出してアブレッシブ摩耗を引き起こすことを阻止することができる。
【0045】
また、コンタミC1に比べ比重の小さいコンタミ(図示略)の一部は流れF2に沿って動圧発生溝16内に進入することがあるが、このような比重の小さいコンタミは脆いものや軟らかいものがほとんどであり摺動面11,21間でアブレッシブ摩耗を引き起こす虞がない。
【0046】
尚、本実施例1では、静止密封環10の内周面10aの相対回転下流の端部10bが深溝部17の側面17cの延長線上に設けられる形態を例示したが、これに限られず、静止密封環10の内周面10aの相対回転下流の端部が深溝部17の側面17cよりも相対回転上流に位置していてもよい。すなわち、凹溝15の側面15cが内径側に向かうにつれ相対回転上流に傾くように末広がり形状となっていてもよい。
【0047】
また、本実施例1では、摺動面11の内径端部を切り欠いて凹溝15を形成することで、静止密封環10の内周面10aと、連通部17A及び周面15bとにより径方向に段を有する段差を形成する形態を例示したが、これに限られず、摺動部品の内周面と同径の位置に動圧発生溝の連通部を設けるとともに、摺動部品の内周面よりも内径側に突出する突出部を連通部の相対回転上流に設け、該突出部の内周面と連通部及び摺動部品の内周面とにより径方向に段を有する段差を形成してもよい。この場合、突出部の内周面が誘導手段として機能する。
【実施例2】
【0048】
次に、実施例2に係る摺動部品につき、図6を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0049】
図6に示されるように、静止密封環200の内周面200aにおける相対回転下流の端部200bが深溝部17の側面17cよりも相対回転下流に位置している。具体的には、ランド212は、凹溝15の側面15cの内径端部から連通部17Aを覆うように相対回転下流に延びる庇部212aを有している。すなわち、庇部212aは連通部17Aと径方向に重畳している。
【0050】
これによれば、深溝部17に吸い込まれる被密封流体Fの流れF20は、庇部212aにより流れF1と分断されるので、流れF1に沿って流れるコンタミC1が流れF20に極めて追従しにくくなる。そのため、コンタミC1(図4図5参照)が動圧発生溝16内に進入することを確実に抑制できる。
【実施例3】
【0051】
次に、実施例3に係る摺動部品につき、図7を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。実施例3の摺動部品は時計回り,反時計回りの両方向に対応可能ないわゆる両回転型である。
【0052】
図7に示されるように、静止密封環300には、深溝部17と、深溝部17から時計回りの方向に延びる浅溝部18と、深溝部17から反時計回りの方向に延びる浅溝部18’と、を備える軸方向視T字状を成す動圧発生溝316が設けられている。
【0053】
また、深溝部17の内径側に設けられる凹溝315Aは、深溝部17の周方向の幅と同一幅に切り欠かれて形成されており、凹溝315Aの周方向両側にはランド312が残存している。尚、以下、凹溝315Aの周方向両側に残存するランド312のうち、凹溝315Aの図7における反時計回り方向側をランド312a、凹溝315Aの時計回り方向側をランド312bと称する。
【0054】
凹溝315Aの周方向両側のランド312の周方向にそれぞれ隣接して、周方向に延びる凹溝315B,315B’が形成されている。凹溝315B,315B’は、ランド312a,312bを挟んで連通部17Aと同径で周方向に延びる周面315b,315b’と、周面315b,315b’におけるランド312a,312b側の側面315c,315dと、により区画されている。後述のように、側面315c,315dは誘導手段として機能している。
【0055】
静止密封環300に対して回転密封環20が時計回りに相対回転したときには、浅溝部18で正圧が発生するとともに、浅溝部18’で負圧が発生する。浅溝部18’で発生する負圧により浅溝部18’近傍の被密封流体Fを回収することができるので、外空間S2に被密封流体Fが漏れることを抑制できる。
【0056】
また、このとき、連通部17Aの相対回転上流の被密封流体Fは、凹溝315B’の周面315b’に沿って移動し、側面315cにより内径方向、すなわち内空間S1方向に方向が変えられた後、連通部17Aを越えて相対回転下流に流れる流れF30となる。このように、流れF30は、側面315cにより、連通部17A及び凹溝315Bの周面315bと異なる方向、すなわち内径方向に誘導されるので、連通部17Aに到達しにくい。
【0057】
また、連通部17Aに吸い込まれる流れF31は、ランド312a,312bにより流れF30と周方向に実質的に分断されているため、コンタミC1(図4図5参照)が流れF31に追従しにくい。
【0058】
一方、静止密封環300に対して回転密封環20が反時計回りに相対回転したときには、浅溝部18’で正圧が発生するとともに、浅溝部18で負圧が発生する。浅溝部18で発生する負圧により浅溝部18近傍の被密封流体Fを回収することができるので、外空間S2に被密封流体Fが漏れることを抑制できる。
【0059】
また、図示しないが、このとき、連通部17Aの相対回転上流の被密封流体Fは、凹溝315Bの周面315bに沿って移動し、側面315dにより内径方向、すなわち内空間S1方向に方向が変えられた後、連通部17Aを越えて相対回転下流に流れる流れとなる。このように、当該流れは、側面315dにより、連通部17A及び凹溝315B’の周面315b’と異なる方向、すなわち内径方向に誘導されるので、連通部17Aに到達しにくい。
【0060】
尚、本実施例3では、深溝部17の内径側に凹溝315Aが設けられている形態を例示したが、深溝部17が静止密封環300の内周面300aまで延びていてもよい。
【実施例4】
【0061】
次に、実施例4に係る摺動部品につき、図8を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。尚、ここでは、説明の便宜上、被密封流体Fに含まれるコンタミC1を実際よりも多量に図示している。
【0062】
図8に示されるように、静止密封環400の摺動面411には、深溝部417及び浅溝部418を有する軸方向視L字状の動圧発生溝416と、深溝部417の相対回転上流に離間して設けられる誘導手段としての凹部420と、が設けられている。尚、深溝部417と凹部420との離間幅は自由に変更できる。
【0063】
深溝部417の連通部417Aは静止密封環400の内周面400aと同径に形成されており、内空間S1に連通している。
【0064】
凹部420は、軸方向視で半月状をなしており、内空間S1に連通する連通部420Aを有している。すなわち、凹部420の側壁420aは軸方向視で半円状の曲面を成している。また、連通部420Aは、静止密封環400の内周面400aに沿って形成されている。
【0065】
回転密封環20と静止密封環400との相対回転時には、摺動面411,21の近傍において、凹部420の相対回転上流の内周面400aから凹部420を通って相対回転下流に流れる被密封流体Fの流れF40と、連通部417Aの近傍から連通部417Aに吸い込まれる被密封流体Fの流れF41と、が生じる。この流れF40は、流れF41に比べて速度が速くなっている。
【0066】
流れF40は、凹部420の側壁420aに沿って移動し、側壁420aの相対回転下流の端部から内径方向、すなわち内空間S1に方向が変えられた後、連通部417Aを越えて該連通部417Aの相対回転下流側に延びる周面としての内周面400a’に到達し、相対回転下流側に流れるようになっている。
【0067】
被密封流体Fに含まれる比重の大きいコンタミC1は、流速の比較的速い流れF40に沿って流れるため、コンタミC1の大部分は連通部417Aの相対回転下流の内周面400a’に流れることとなり連通部417Aに到達しにくくなっている。すなわち、動圧発生溝416内に比重の大きいコンタミC1が進入しにくくなっている。
【0068】
このように、凹部420を用いて被密封流体Fを連通部417A及び内周面400a’と異なる方向に誘導できるので、誘導手段を簡素な構造とすることができる。
【0069】
また、凹部420の側壁420aは軸方向視で曲面をなしているので、側壁420aに沿って凹部420内の被密封流体Fを円滑に誘導することができる。
【実施例5】
【0070】
次に、実施例5に係る摺動部品につき、図9を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。尚、ここでは、説明の便宜上、被密封流体Fに含まれるコンタミC1を実際よりも多量に図示している。
【0071】
図9に示されるように、静止密封環500の摺動面511には、前記実施例4と同様の動圧発生溝416と、深溝部417の相対回転上流に離間して設けられる誘導手段としての複数の凹部520と、が設けられている。尚、深溝部417と凹部520との離間幅、及び凹部520同士の離間幅は自由に変更できる。
【0072】
凹部520は、軸方向視で三角形状を成しており、内空間S1に連通する連通部520Aを有している。
【0073】
具体的には、凹部520は、静止密封環500の内周面500aから相対回転下流側に向けて傾斜しながら外径方向に延びる第1側壁520aと、第1側壁520aの外径端部から相対回転下流側に向けて傾斜しながら内径方向に延びる傾斜面としての第2側壁520bと、を備えている。
【0074】
回転密封環20と静止密封環500との相対回転時には、摺動面511,21の近傍において、凹部520の相対回転上流の内周面500aから各凹部520を通って相対回転下流に流れる被密封流体Fの流れF50と、連通部417Aの近傍から連通部417Aに吸い込まれる被密封流体Fの流れF51と、が生じる。この流れF50は、流れF51に比べて速度が速くなっている。
【0075】
流れF50は、凹部520の第2側壁520bに沿って移動し、第2側壁520bの相対回転下流の端部から内径方向、すなわち内空間S1方向に方向が変えられた後、連通部417Aを越えて該連通部417Aの相対回転下流側に延びる周面としての内周面500a’に到達し、相対回転下流側に流れるようになっている。
【0076】
被密封流体Fに含まれる比重の大きいコンタミC1は、流速の比較的速い流れF50に沿って流れるため、コンタミC1の大部分は連通部417Aの相対回転下流の内周面500a’に流れることとなり連通部417Aに到達しにくくなっている。すなわち、動圧発生溝416内に比重の大きいコンタミC1が進入しにくくなっている。
【0077】
凹部520の第2側壁520bは、その内径端部が該第2側壁520bの外径端部よりも相対回転下流側に位置する傾斜面をなしているので、第2側壁520bに沿って凹部520内の被密封流体Fを円滑に誘導することができる。
【0078】
尚、誘導手段は、凹部520に代えて、第2側壁520bが外径側に凸を有する曲面状を成す傾斜面であってもよい。
【実施例6】
【0079】
次に、実施例6に係る摺動部品につき、図10を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0080】
図10に示されるように、静止密封環600の摺動面611には、深溝部617と浅溝部618とから成る動圧発生溝616が設けられている。深溝部617は、内空間S1に連通して周方向に延びており、深溝部617の壁部617c及び壁部617dは、内径端から外径端に向けて相対回転上流に傾斜して互いに略平行に延びている。尚、後述のように、壁部617d及び静止密封環600の内周面600aは、誘導手段として機能している。
【0081】
また、浅溝部618は、深溝部617の相対回転上流の端部から外径方向に延びている。具体的には、浅溝部618の壁部618c及び壁部618dは、内径端から外径端に向けて相対回転下流に傾斜して平行に延びている。尚、浅溝部618の始端部618Aは、深溝部617を通じて内空間S1に連通する連通部として機能している。
【0082】
静止密封環600に対して回転密封環20が相対回転したときには、任意の深溝部617の相対回転上流に隣接する深溝部617’内の被密封流体Fは、深溝部617’の周面617b’に沿って移動し、壁部617d’により内径方向、すなわち内空間S1方向に方向が変えられた後、始端部618Aを越えて相対回転下流、すなわち、周面617bに流れる流れF60aとなる。
【0083】
また、始端部618Aの相対回転上流の静止密封環600の内周面600aに沿って流れる被密封流体Fは、始端部618Aを越え、深溝部617のある箇所では外径方向に蛇行して流れる流れF60bとなる。これら流れF60a,F60bは、流れF61に比べて速度が速くなっている。
【0084】
このように、被密封流体Fに含まれる比重の大きいコンタミC1は、流速の比較的速い流れF60a,F60bに沿って流れるため、コンタミC1の大部分は始端部618Aよりも相対回転下流の周面617bに流れることとなり始端部618Aに到達しにくい。
【0085】
また、静止密封環600の内周面600aにおける相対回転下流の端部600bが浅溝部618の壁部618cの内径端よりも相対回転下流に位置しており、流れF60a,F60bが流れF61と分断されるので、流れF60a,F60bに沿って流れるコンタミC1が流れF61に極めて追従しにくくなる。
【0086】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0087】
例えば、前記各実施例では、内空間との連通部を有する深溝部と、閉塞部を有する浅溝部と、を備えた動圧発生溝を例に挙げ説明したが、動圧発生溝は連通部と閉塞部を有していればよく、例えば、周方向に傾斜して径方向に延び、長手方向に亘って深さが一定なスパイラル溝等であってもよい。
【0088】
また、動圧発生溝の閉塞部が浅溝部の延設方向と直交する壁部である形態を例示したが、動圧発生溝の閉塞部は、動圧を発生させる構成となっていればよく、例えば、動圧発生溝の相対回転下流の端部が延設方向に向かって断面積が漸次小さくなっていてもよい。
【0089】
また、被密封流体は高圧の液体と説明したが、これに限らず気体または低圧の液体であってもよいし、液体と気体が混合したミスト状であってもよい。
【0090】
また、漏れ側の流体は低圧の気体である大気であると説明したが、これに限らず液体または高圧の気体であってもよいし、液体と気体が混合したミスト状であってもよい。
【0091】
また、被密封流体側を高圧側、漏れ側を低圧側として説明してきたが、被密封流体側が低圧側、漏れ側が高圧側となっていてもよいし、被密封流体側と漏れ側とは略同じ圧力であってもよい。
【0092】
また、摺動面の内径側から外径側に向かって漏れようとする被密封流体Fを密封するアウトサイド形のものである形態を例示したが、これに限られず、摺動面の外径側から内径側に向かって漏れようとする被密封流体Fを密封するインサイド形のものであってもよい。
【0093】
また、摺動部品として、一般産業機械用のメカニカルシールを例に説明したが、自動車やウォータポンプ用等の他のメカニカルシールであってもよい。また、メカニカルシールに限られず、すべり軸受などメカニカルシール以外の摺動部品であってもよい。
【0094】
また、動圧発生溝を静止密封環に設ける例について説明したが、動圧発生溝を回転密封環に設けてもよい。
【0095】
また、動圧発生溝は、摺動面に8つ設けられる形態を例示したが、その数量は自由に変更してもよい。また、動圧発生溝の形状も自由に変更してもよい。
【0096】
また、誘導手段として凹溝、凹部はいずれも底面を有するものを例示したが、この限りではなく、摺動部品の径方向に凹み軸方向に亘って形成された凹部、言い換えると底面を有しない凹部であってもよい。
【符号の説明】
【0097】
10 静止密封環(摺動部品)
10a 内周面(誘導手段)
11 摺動面
12 ランド
15 凹溝
15a 底面(傾斜面)
15b 周面
16 動圧発生溝
17A 連通部
18B 終端部(閉塞部)
20 回転密封環(他の摺動部品)
21 摺動面
200 静止密封環(摺動部品)
200a 内周面(誘導手段)
212a 庇部
300 静止密封環(摺動部品)
315b,315b’ 周面
315c,315d 側面
316 動圧発生溝
400 静止密封環(摺動部品)
400a’ 内周面(周面)
416 動圧発生溝
420 凹部(誘導手段)
420a 側壁
500 静止密封環(摺動部品)
500a’ 内周面(周面)
520 凹部(誘導手段)
520b 第2側壁
A 大気
C1 コンタミ
F 被密封流体
S1 内空間(外部空間)
S2 外空間(外部空間)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10